以下、エンジンシステムの実施形態について、図面を参照しながら説明する。ここで説明するエンジン、及び、エンジンシステムは例示である。
図1は、エンジンシステムを例示する図である。図2は、エンジンの燃焼室の構造を例示する図である。図1における吸気側と排気側との位置と、図2における吸気側と排気側との位置とは、入れ替わっている。図3は、エンジンの制御装置を例示するブロック図である。
エンジンシステムは、エンジン1を有している。エンジン1は、シリンダー11を有している。シリンダー11の中で、吸気行程、圧縮行程、膨張行程及び排気行程が繰り返される。エンジン1は、4ストロークエンジンである。エンジン1は、四輪の自動車に搭載されている。エンジン1が運転することによって自動車は走行する。エンジン1の燃料は、この構成例においてはガソリンである。
(エンジンの構成)
エンジン1は、シリンダーブロック12と、シリンダーヘッド13とを備えている。シリンダーヘッド13は、シリンダーブロック12の上に載置される。シリンダーブロック12に、複数のシリンダー11が形成されている。エンジン1は、多気筒エンジンである。図1では、一つのシリンダー11のみを示す。
各シリンダー11には、ピストン3が内挿されている。ピストン3は、コネクティングロッド14を介してクランクシャフト15に連結されている。ピストン3は、シリンダー11の内部を往復動する。ピストン3、シリンダー11及びシリンダーヘッド13は、燃焼室17を形成する。
シリンダーヘッド13の下面、つまり、シリンダー11の天井部は、図2の下図に示すように、傾斜面1311と、傾斜面1312とによって構成されている。傾斜面1311は、後述する吸気バルブ21側の傾斜面1311であり、シリンダー11の中央部に向かって上り勾配となっている。傾斜面1312は、排気バルブ22側の傾斜面1312であり、シリンダー11の中央部に向かって上り勾配となっている。シリンダー11の天井部は、いわゆるペントルーフ型である。
シリンダーヘッド13には、シリンダー11毎に、吸気ポート18が形成されている。吸気ポート18は、シリンダー11内に連通している。吸気ポート18は、詳細な図示は省略するが、いわゆるタンブルポートである。つまり、吸気ポート18は、シリンダー11の中に縦渦が発生するような形状を有している。ペントルーフ型のシリンダー11の天井部と、タンブルポートとは、シリンダー11の中に縦渦を発生させる。
吸気ポート18には、吸気バルブ21が配設されている。吸気バルブ21は、吸気ポート18を開閉する。動弁機構は、吸気バルブ21を所定のタイミングで開閉する。動弁機構は、バルブタイミング及び/又はバルブリフトを可変にする可変動弁機構としてもよい。図3に示すように、動弁機構は、吸気S-VT(Sequential-Valve Timing)23を有している。吸気S-VT23は、電動式又は油圧式である。吸気S-VT23は、吸気カムシャフトの回転位相を所定の角度範囲内で連続的に変更する。吸気バルブ21の開弁期間は変化しない。
シリンダーヘッド13には、シリンダー11毎に、排気ポート19が形成されている。排気ポート19は、燃焼室17に連通している。
排気ポート19には、排気バルブ22が配設されている。排気バルブ22は、排気ポート19を開閉する。動弁機構は、排気バルブ22を所定のタイミングで開閉する。動弁機構は、バルブタイミング及び/又はバルブリフトを可変にする可変動弁機構としてもよい。図3に示すように、動弁機構は、排気S-VT24を有している。排気S-VT24は、電動式又は油圧式である。排気S-VT24は、排気カムシャフトの回転位相を所定の角度範囲内で連続的に変更する。排気バルブ22の開弁期間は変化しない。
シリンダーヘッド13には、シリンダー11毎に、インジェクタ6が取り付けられている。図2に示すように、インジェクタ6は、シリンダー11の中央部に配設されている。より詳細に、インジェクタ6は、傾斜面1311と傾斜面1312とが交差するペントルーフの谷部に配設されている。
インジェクタ6は、シリンダー11の中に燃料を直接噴射する。インジェクタ6は、燃料噴射弁の一例である。インジェクタ6は、詳細な図示は省略するが、複数の噴口を有する多噴口型である。インジェクタ6は、図2に二点鎖線で示すように、シリンダー11の中央部から周辺部に向かって、放射状に広がるように燃料を噴射する。インジェクタ6は、図例では、周方向に等角度に配置された十個の噴孔を有しているが、噴孔の数、及び、配置は特に制限されない。
インジェクタ6には、燃料供給システム61が接続されている。燃料供給システム61は、燃料を貯留するよう構成された燃料タンク63と、燃料タンク63とインジェクタ6とを互いに連結する燃料供給路62とを備えている。燃料供給路62には、燃料ポンプ65とコモンレール64とが介設している。燃料ポンプ65は、コモンレール64に燃料を圧送する。燃料ポンプ65は、この構成例においては、クランクシャフト15によって駆動されるプランジャー式のポンプである。コモンレール64は、燃料ポンプ65から圧送された燃料を、高い燃料圧力で蓄える。インジェクタ6が開弁すると、コモンレール64に蓄えられていた燃料が、インジェクタ6の噴口からシリンダー11の中に噴射される。インジェクタ6に供給する燃料の圧力は、エンジン1の運転状態に応じて変更してもよい。尚、燃料供給システム61の構成は、前記の構成に限定されない。
シリンダーヘッド13には、シリンダー11毎に、点火プラグ25が取り付けられている。点火プラグ25は、シリンダー11の中の混合気に強制的に点火をする。点火プラグ25の中心電極及び接地電極は、詳細な図示は省略するが、シリンダー11の中央部において、シリンダー11の天井部の付近に位置している。
図1又は図3に示すように、点火プラグ25は、点火装置7に対して電気的に接続されている。点火装置7は、点火プラグ25の電極間に電圧を印加することによって放電(アーク放電)を実行させて、シリンダー11内の混合気に点火する。点火装置7は、詳細は後述するが、混合気が着火しない時期に、点火プラグ25に放電を実行させ、その時に電極間に生じた放電経路の電流値に関するパラメータを検出する。検出したパラメータは、シリンダー11内の流動状態の推定に用いられる。点火装置7の構成は後述する。
エンジン1の一側面には吸気通路40が接続されている。吸気通路40は、各シリンダー11の吸気ポート18に連通している。シリンダー11に導入される吸気は、吸気通路40を流れる。吸気通路40の上流端部には、エアクリーナー41が配設されている。エアクリーナー41は、吸気を濾過する。吸気通路40の下流端近傍には、サージタンク42が配設されている。サージタンク42よりも下流の吸気通路40は、シリンダー11毎に分岐する独立通路を構成している。独立通路の下流端が、各シリンダー11の吸気ポート18に接続されている。
吸気通路40におけるエアクリーナー41とサージタンク42との間には、スロットルバルブ43が配設されている。スロットルバルブ43は、バルブの開度を調整することによって、シリンダー11の中への新気の導入量を調節する。
エンジン1は、シリンダー11内にスワール流を発生させるスワール発生部を有している。スワール発生部は、詳細な図示は省略するが、吸気通路40に取り付けられたスワールコントロールバルブ56を有している。スワールコントロールバルブ56は、サージタンク42よりも下流において、互いに平行な第1吸気通路18a及び第2吸気通路18b(図2参照)のうちの、第2吸気通路18bに配設されている。スワールコントロールバルブ56は、第2吸気通路18bの断面を絞ることができる開度調節バルブである。スワールコントロールバルブ56の開度が小さいと、図2に示す第1吸気通路18aからシリンダー11に流入する吸気流量が相対的に多くかつ、第2吸気通路18bからシリンダー11に流入する吸気流量が相対的に少ないから、シリンダー11内のスワール流が強くなる。スワールコントロールバルブ56の開度が大きいと、第1吸気通路18a及び第2吸気通路18bのそれぞれからシリンダー11に流入する吸気流量が、略均等になるから、シリンダー11内のスワール流が弱くなる。スワールコントロールバルブ56を全開にすると、スワール流が発生しない。尚、スワール流は、白抜きの矢印で示すように、図2における反時計回り方向に周回する。
尚、スワールコントロールバルブ56によってスワール流を発生させる代わりに、エンジン1の吸気ポート18を、スワール流を生成可能なヘリカルポートに構成してもよい。
エンジン1の他側面には、排気通路50が接続されている。排気通路50は、各シリンダー11の排気ポート19に連通している。排気通路50は、シリンダー11から排出された排気ガスが流れる通路である。排気通路50の上流部分は、詳細な図示は省略するが、シリンダー11毎に分岐する独立通路を構成している。独立通路の上流端が、各シリンダー11の排気ポート19に接続されている。
排気通路50には、複数の触媒コンバーターを有する排気ガス浄化システムが配設されている。上流の触媒コンバーターは、例えば三元触媒511と、GPF(Gasoline Particulate Filter)512とを有している。下流の触媒コンバーターは、三元触媒513を有している。尚、排気ガス浄化システムは、図例の構成に限定されない。例えば、GPFは省略してもよい。また、触媒コンバーターは、三元触媒を有するものに限定されない。さらに、三元触媒及びGPFの並び順は、適宜変更してもよい。
吸気通路40と排気通路50との間には、EGR通路52が接続されている。EGR通路52は、排気ガスの一部を吸気通路40に還流させるための通路である。EGR通路52の上流端は、排気通路50における上流の触媒コンバーターと下流の触媒コンバーターとの間に接続されている。EGR通路52の下流端は、吸気通路40におけるスロットルバルブ43の下流部に接続されている。
EGR通路52には、水冷式のEGRクーラー53が配設されている。EGRクーラー53は、排気ガスを冷却する。EGR通路52にはまた、EGRバルブ54が配設されている。EGRバルブ54は、EGR通路52を流れる排気ガスの流量を調節する。EGRバルブ54の開度を調節することによって、冷却した排気ガスの還流量を調節することができる。
(エンジンの制御装置の構成)
エンジン1の制御装置は、図3に示すように、エンジン1を運転するためのECU(Engine Control Unit)10を備えている。ECU10は、周知のマイクロコンピュータをベースとするコントローラーであって、プログラムを実行する中央演算処理装置(Central Processing Unit:CPU)101と、例えばRAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)により構成されてプログラム及びデータを格納するメモリ102と、電気信号の入出力をするI/F回路103と、を備えている。ECU10は、制御器の一例である。
ECU10には、図1及び図3に示すように、各種のセンサSW1~SW9が接続されている。センサSW1~SW9は、信号をECU10に出力する。センサには、以下のセンサが含まれる。
エアフローセンサSW1は、吸気通路40におけるエアクリーナー41の下流に配置されかつ、吸気通路40を流れる新気の流量を計測する、
吸気温度センサSW2は、吸気通路40におけるエアクリーナー41の下流に配置されかつ、吸気通路40を流れる新気の温度を計測する、
吸気圧センサSW3は、サージタンク42に取り付けられかつ、シリンダー11に導入される吸気の圧力を計測する、
筒内圧センサSW4は各シリンダー11に対応してシリンダーヘッド13に取り付けられかつ、各シリンダー11内の圧力を計測する、
水温センサSW5は、エンジン1に取り付けられかつ、冷却水の温度を計測する、
クランク角センサSW6は、エンジン1に取り付けられかつ、クランクシャフト15の回転角を計測する、
アクセル開度センサSW7は、アクセルペダル機構に取り付けられかつ、アクセルペダルの操作量に対応したアクセル開度を計測する、
吸気カム角センサSW8は、エンジン1に取り付けられかつ、吸気カムシャフトの回転角を計測する、
排気カム角センサSW9は、エンジン1に取り付けられかつ、排気カムシャフトの回転角を計測する。
ECU10は、これらのセンサSW1~SW9の信号に基づいて、エンジン1の運転状態を判断すると共に、予め定められている制御ロジックに従って、各デバイスの制御量を演算する。制御ロジックは、メモリ102に記憶されている。制御ロジックは、メモリ102に記憶しているマップを用いて、目標量及び/又は制御量を演算することを含む。
ECU100は、演算をした制御量に係る電気信号を、インジェクタ6、点火プラグ25、吸気S-VT23、排気S-VT24、燃料供給システム61、スロットルバルブ43、EGRバルブ54、及び、スワールコントロールバルブ56に出力する。
(点火装置の構成)
図4は、点火装置7の構成を例示している。点火装置7は、点火プラグ25の中心電極251と接地電極252との間に電圧を印加し、シリンダー11内において放電させる。点火装置7は点火コイル70を有している。点火コイル70は、1次コイル70a、2次コイル70c、及び、鉄芯70bを有している。点火装置7はまた、コンデンサ72と、トランジスタ73と、エネルギ発生装置74と、点火制御器75と、を備えている。
中心電極251は、点火コイル70の2次コイル70cに接続されている。接地電極252は、接地されている。2次コイル70cによって、電極間に印加された2次電圧が、絶縁破壊に要求される電圧に達すると、中心電極251と接地電極252との間にある空隙に放電が生じる。
1次コイル70aの一端はコンデンサ72に接続されている。コンデンサ72は、1次コイル70aに1次電流を流すため電気エネルギを蓄える。エネルギ発生装置74は、電源を含んでいる。エネルギ発生装置74は、コンデンサ72を充電する。
1次コイル70aの一端はトランジスタ73のコレクタに接続されている。トランジスタ73は、点火コイル70の1次電流を断続する。
2次コイル70cの一端は、前述したように、中心電極251に接続されており、他端は、点火制御器75に接続されている。
点火制御器75は、エネルギ発生装置74及びトランジスタ73を制御し、所定のタイミングで、点火プラグ25を用いて、シリンダー11内の混合気に点火する。
点火制御器75はまた、2次コイル70cが点火プラグ25の電極間に印加する2次電圧と、2次コイル70cから点火プラグ25に流れる2次電流とを計測できる。前述の通り、点火装置7は、混合気が着火しない時期に、点火プラグ25に放電を実行させ、その時に電流値に関するパラメータを検出する。
(エンジンの運転制御)
次に、ECU10によるエンジン1の運転制御について説明する。このエンジン1は、火花点火式のエンジンである。インジェクタ6は、エンジン1の運転状態に対応する量の燃料を、吸気行程又は圧縮行程中に、シリンダー11内に噴射する。シリンダー11の中に、混合気が設けられる。点火プラグ25は、圧縮上死点付近の所定のタイミングで、混合気に点火し、混合気が燃焼する。
燃費を向上させるために、このエンジン1は、シリンダー11内に乱流を発生させる。シリンダー11内に乱流が発生すると、燃焼速度が高まる。具体的にエンジン1は、シリンダー11の天井部がペントルーフ型であると共に、吸気ポート18がタンブルポートである。シリンダー11の中に導入された吸気は、縦渦を生成する。エンジン1はまた、スワールコントロールバルブ56を有している。スワールコントロールバルブ56を閉じることによって、シリンダー11の中に導入された吸気は、横渦を生成する。縦渦と横渦とが組み合わさることで、シリンダー11内には、縦渦と横渦とが合成された斜め流動が形成される。
ここで、シリンダー11内の吸気流動の状態は、毎サイクルで同じではなく、様々な要因によってサイクル毎に変わる可能性がある。シリンダー11内の吸気流動の状態が変わると、燃焼速度が変わる場合がある。燃焼速度がサイクル毎に変わってしまうと、エンジン1の燃焼変動を招いてしまう。ここに開示するエンジンシステム、及び、エンジン1の制御方法は、サイクル毎に燃焼速度が変わることを抑制することにより、エンジン1の燃焼変動を抑制する。
より具体的に、このエンジンシステムは、サイクル毎に、シリンダー11内の流動の状態を推定すると共に、推定した流動の状態に基づいて、必要に応じて、補助点火を行う。
図5は、燃焼変動の抑制制御を実行するエンジン1の制御装置の構成を例示するブロック図である。図5は、ECU10が有する機能ブロックを図示している。ECU10は、機能ブロックとして、主燃料噴射部81、及び、主点火制御部82を有している。主燃料噴射部81は、エンジン1の要求トルク(エンジン負荷)に基づいて、主となる燃料噴射の時期である主燃料噴射の噴射量及び噴射時期を設定するとともに、インジェクタ6に、設定した噴射時期に主燃料噴射を実行させる機能ブロックである。主点火制御部82は、主燃料噴射の後に、点火プラグ25を用いて、シリンダー11内に設けられた混合気に、所定のタイミングで点火させる機能ブロックである。
ECU10は、流速推定部83、及び、補助点火制御部84を有している。流速推定部83は、シリンダー11内の流動状態を検査するために、混合気が着火しない時期に、点火プラグ25に検査用の放電(以下、検査放電という)を実行させる機能ブロックである。また、流速推定部83は、前記検査放電において、点火装置7及び点火プラグ25を用いて検出した電気的なパラメータに基づいて、シリンダー11内の流動状態、特に点火プラグ25周りの吸気の流速の高低を推定する機能ブロックである。補助点火制御部84は、流速推定部83が推定したシリンダー11内の流動状態に基づき、点火プラグ25の放電により混合気が着火する前に、必要に応じて補助点火を行って、点火エネルギを付与する機能ブロックである。詳しくは後述するが、「補助点火による点火エネルギを付与する」とは、補助点火によりプラズマを生成することを意味する。
以下、図5に例示するエンジンシステムが実行する、シリンダー11内の吸気流動の状態推定を説明し、その後、推定した吸気流動の状態に応じた、補助点火制御を説明する。
(吸気流動の状態推定)
図6は、圧縮行程の前半における縦渦の中心位置と、圧縮行程の後半におけるシリンダー11内の流動状態とを示す図である。図6のチャート601は、圧縮行程の前半において縦渦の中心の位置が、シリンダー11内のピストン3に近い位置である場合の、シリンダー11内の流動状態を例示し、チャート604は、チャート601の状態からクランク角が進行した圧縮行程の後半での、シリンダー11内の流動状態を例示している。
同様に、チャート602は、圧縮行程の前半において縦渦の中心の位置が、シリンダー11内のピストン3と天井部との中間位置である場合の、シリンダー11内の流動状態を例示し、チャート605は、チャート602の状態からクランク角が進行した圧縮行程の後半での、シリンダー11内の流動状態を例示している。
また、チャート603は、圧縮行程の前半において縦渦の中心の位置が、シリンダー11内の天井部に近い位置である場合の、シリンダー11内の流動状態を例示し、チャート606は、チャート603の状態からクランク角が進行した圧縮行程の後半での、シリンダー11内の流動状態を例示している。
尚、圧縮行程の前半とは、圧縮行程を前半と後半とに二等分した場合の前半であり、圧縮行程の後半とは、圧縮行程を前半と後半とに二等分した場合の後半である。
先ず、チャート602に示すように、シリンダー11内の縦渦の中心が、シリンダー11の中央付近に存在する場合は、チャート605に示すように、圧縮行程の後半でも旋回流が維持される。その結果、乱流度合いが、シリンダー11内の全体において均等又は略均等となる。この場合、火炎は、シリンダー11内の中央付近から周辺部へ、均等又は略均等に伝播する。火炎の伝播はシリンダー11内の乱流によって促進されるから、燃焼速度は比較的速い。
チャート601に示すように、縦渦の中心の位置が、ピストン3側(ここではシリンダー11の下方側)付近にずれて存在する場合は、チャート604に示すように、圧縮行程の後半で、渦中心がピストン3の頂面に接触することにより縦渦の下半分が潰れる。これにより、チャート604に矢印で示すように、シリンダー11内の流動が、吸気バルブ21から排気バルブ22に向かう方向に流れる一方向の流動(以下、正一方向流動という)になる。シリンダー11内の流動が正一方向流動となると、シリンダー11内の乱流度合いが不均等になる。具体的には、シリンダー11内において、排気バルブ22側の領域の乱流度合いは強いが、吸気バルブ21側の領域の乱流度合いは弱くなる(同図の一点鎖線で囲んだ領域を参照)。このときには、シリンダー11の中央部において混合気に着火したことにより発生した火炎は、排気バルブ22側の領域へは伝播しやすい一方、吸気バルブ21側の領域へは伝播しにくい。チャート604の場合、チャート605の場合と比べて燃焼速度が遅くなる。
チャート603に示すように、縦渦の渦中心の位置が、側面視で天井部側(ここではシリンダー11の上方側)付近にずれて存在する場合は、チャート606に示すように、圧縮行程の後半で、渦中心がシリンダー11の天井部に接触することにより縦渦の上半分が潰れる。これにより、チャート606に矢印で示すように、シリンダー11内の流動が、排気バルブ22から吸気バルブ21へ向かう方向に流れる一方向の流動(以下、反一方向流動という)になる。シリンダー11内の流動が反一方向流動となると、シリンダー11内の乱流度合いが不均等になる。具体的には、シリンダー11内において、吸気バルブ21側の領域の乱流度合いは強いが、排気バルブ22側の領域の乱流度合いが弱くなる(同図の一点鎖線で囲んだ領域を参照)。この場合、火炎は、吸気バルブ21側の領域へは伝播しやすい一方、排気バルブ22側の領域へは伝播しにくい。チャート606の場合、チャート605の場合と比べて燃焼速度が遅くなる。
エンジンシステムにおいて、シリンダー11内の流動状態は、点火装置7を用いて検出される。具体的には、点火装置7は、流速推定部83からの制御信号により、混合気が着火しない時期に、シリンダー11内において放電を行い、そのときの放電時間を検出する。流速推定部83は、検出された放電時間に基づいて、点火プラグ25付近の流速を推定するとともに、推定した流速に基づいて縦渦の中心位置を判断する。
図7は、点火プラグ25付近の流動の強さが異なる場合における、点火プラグ25の電極間における電圧の時間変化701、及び、電流の時間変化702を例示している。点火プラグ25にエネルギを付与することによって、その電極間に電圧を印加すれば、中心電極251と接地電極252との間に放電経路が形成される。放電経路は、点火プラグ25付近の流動が強いほど、その流動に流されて伸びる。放電経路が伸長することで、電極間の抵抗が増大し、電極間に印加した電圧の降下が促進する。点火プラグ25付近の流動が強くなるほど、点火プラグ25に付与したエネルギが消費される時間、つまり放電時間が短くなる。
より詳細に、図7に実線で示すように、点火プラグ25付近の流動がない場合、放電経路はあまり伸長しないので、放電時間は長い。点火プラグ25付近の流動が強くなるほど、放電経路は伸長するので(チャート704参照)、チャート701、702に破線で示すように、放電時間が短くなる。つまり、点火プラグ25の電極間における電流の放電時間と、点火プラグ25付近の流動の強さとは、比例する。点火装置7が放電時間を検出すれば、流速推定部83は、点火プラグ25付近の流動の強さ(つまり、流速)を推定できる。
図8は、点火装置7が検出する放電時間と、シリンダー11内における縦渦の中心位置との関係を示している。図8は、放電時間と、点火プラグ25付近の流速との関係を示している。前述したように、放電時間と流速とは比例関係を有しており、放電時間が短いほど流速が速く、放電時間が長いほど流速が遅い。
図8のチャート802に示すように、縦渦の中心位置が、圧縮行程の前半において、シリンダー11内のピストン3と天井部との中間位置である場合、点火プラグ25と渦の中心位置とが、ある程度離れるため、点火プラグ25付近の流速は、V1とV2との間になる。
一方、チャート801に示すように、縦渦の中心位置が、圧縮行程の前半において、ピストン3に近い位置である場合、点火プラグ25と渦の中心とが大きく離れるため、点火プラグ25付近の流速は、V1よりも速くなる。
また、チャート803に示すように、縦渦の中心位置が、圧縮行程の前半において、天井部に近い位置である場合、点火プラグ25と渦の中心とが近いため、点火プラグ25付近の流速は、V2よりも遅くなる。
主としてタンブル流によりシリンダー11内に形成される縦渦は、吸気バルブ21が閉じた後の圧縮行程において安定になり、その中心位置が定まる。従って、圧縮行程の前半において、点火プラグ25が放電を行いかつ、点火装置7が検出した放電時間から推定される推定流速が、速度V1に対応する第2所定値Vp2よりも高い場合(図8では、放電時間が第1閾値よりも短い場合)は、縦渦の中心位置が、ピストン3に近い位置であると推定でき、推定流速が速度V2に対応する第1所定値Vp1よりも低い場合(図8では、放電時間が第2閾値よりも長い場合)は、縦渦の中心位置が、天井部に近い位置であると推定できる。推定流速が第1所定値Vp1と第2所定値Vp2との間の場合は、縦渦の中心位置が、シリンダー11の中間位置であると推定できる。
尚、ここでいう「推定流速」は、吸気の流速の高低を推定できるものであればよく、流速そのものである必要はない。例えば、放電時間の逆数を推定流速として採用してもよい。
(補助点火時期の設定)
図9は、インジェクタ6による燃料噴射、及び、点火プラグ25による、放電及び点火のタイミングを例示するタイミングチャートである。図9の左から右にクランク角は進む。
前述したように、吸気流動のばらつきによって、縦渦、及び/又は、横渦の中心位置がずれると、シリンダー11内において、乱流度合いが弱くなる領域、及び/又は、火炎が伝播しにくい領域(以下、特定領域という)が発生する。補助点火は、こうした特定領域に、局所的にプラズマを配置することで混合気の温度を上昇させ、それによって、当該特定領域への火炎伝播を促進させる。
先ず、主燃料噴射部81は、吸気バルブ21が開弁した後、吸気バルブ21が閉弁するまでの吸気行程の期間において主燃料噴射を実行して、インジェクタ6を通じてシリンダー11内に燃料(図11の主燃料噴射1104参照)を噴射させる。噴射された燃料は、流動によってシリンダー11内に拡散し、シリンダー11内に混合気を形成する。
流速推定部83は、点火装置7及び点火プラグ25に、吸気バルブ21が閉弁したのちの、圧縮行程における、例えば前半に検査放電1106を実行させる。検査放電1106は、主燃料噴射の後で、混合気が着火しない期間に行われる放電である。点火装置7は、検査放電1106の放電時間を検出する。流速推定部83は、検査放電1106の際に検出された放電時間から、点火プラグ25周りの縦渦の流速を推定して、縦渦の中心位置を推定する。
点火装置7が検出した放電時間が、第1閾値と第2閾値との間である場合(つまり、流速推定部83により推定された流速が第1所定値Vp1と第2所定値Vp2との間である場合)、縦渦の中心位置がシリンダー11におけるピストン3と天井部との中間に位置している。この場合、補助点火が不要である。図9のチャート1102に示すように、補助点火制御部84は、補助点火を中止し、主点火制御部82は、点火プラグ25を用いて、圧縮行程の後半における、圧縮上死点付近における所定のタイミングで、混合気に点火する(図9の主点火1107参照)。この場合、縦渦の中心位置が、シリンダー11の中央部に位置しているから、乱流度合いは、シリンダー11内の全体において均等又は略均等である。火炎は、シリンダー11の中央部から周辺部に向かって均等又は略均等に伝播する。燃焼速度は比較的速い。
次に、点火装置7が検出した放電時間が第1閾値よりも短い場合(すなわち、流速推定部83で推定される流速が第2所定値Vp2よりも高い場合)について説明する。この場合、縦渦の中心位置は、シリンダー11におけるピストン3に近い位置であり、圧縮行程の後半には、シリンダー11内に正一方向流動が生じる。図9のチャート1101に示すように、補助点火制御部84は、第1補助点火1108を実行するように、点火装置7を制御する。点火装置7は、例えば圧縮行程の前半又は圧縮行程の後半の第2噴射時期において、第1補助点火1108を実行する。
図10に示すように補助点火を行うと、点火プラグ25の電極251,252間にプラズマが発生する。発生したプラズマは、吸気流動により流れる。プラズマが滞留した領域の混合気の温度は、該プラズマにより上昇する。プラズマにより温められた混合気は、反応が促進されるため火炎伝播しやすくなる。補助点火による点火エネルギを増大させて、補助点火の点火時間を長くしたり、補助点火の電圧を大きくしたりすると、プラズマの量が増大する。プラズマの量が増大すると、広い範囲の混合気の温度を上昇させることができる。
図11は、縦渦の中心位置が、シリンダー11におけるピストン3に近い位置にある場合における、シリンダー11内の流動の変化と第1補助点火1108で生成されたプラズマの分布とを説明する図である。前述したように、縦渦の中心位置がピストン3の付近に位置している場合、P1201、P1202、P1203、P1204とピストン3が上昇するに従い、渦の中心がピストン3の頂面に当たることにより縦渦の下半分が潰れ、P1205に黒色矢印で示すように、圧縮行程の後半におけるシリンダー11内の流動が、吸気バルブ21から排気バルブ22に向かう方向の正一方向流動となる。
圧縮行程の相対的に早いタイミング(P1203)でシリンダー11内に生成されたプラズマは、シリンダー11内の圧力がそれほど高くないため、渦が潰れる前に、縦渦に乗って、排気バルブ22側から吸気バルブ21側へと運ばれる(P1204、P1205のハッチングを付した箇所を参照)。その結果、吸気バルブ21付近の混合気の温度を上昇させることができる。
第1補助点火1108の後、主点火制御部82は、点火プラグ25を用いて、圧縮行程の後半における、圧縮上死点付近における所定のタイミングで、混合気に点火する(チャート1101の主点火1107参照)。正一方向流動によって、火炎は、吸気バルブ21側へ伝播しにくいが、吸気バルブ21側の混合気の温度が高いため、吸気バルブ21側への火炎伝播が促進される。その分、燃焼速度が高くなり、燃焼速度は、放電時間が第1閾値と第2閾値との間である場合(推定流速が第1所定値Vp1と第2所定値Vp2との間である場合)と同程度に高まる。よって、エンジン1の燃焼変動が抑制される。
次に、点火装置7が検出した第2放電時間が第2閾値よりも長い場合(すなわち、流速推定部83により推定された流速が第1所定値Vp1未満である場合)について説明する。この場合、縦渦の中心位置は、シリンダー11における天井部に近い位置であり、圧縮行程の後半には、シリンダー11内に反一方向流動が生じる。図9のチャート1103に示すように、補助点火制御部84は、第2補助点火1109を実行させるように、点火装置7を制御する。点火装置7は、圧縮行程の後半の第2点火時期において、第2補助点火1109を実行する。
図12は、縦渦の中心位置が、シリンダー11における天井部に近い位置にある場合における、シリンダー11内の流動の変化と第2補助点火1109で発生したプラズマの分布とを説明する図である。前述したように、縦渦の中心位置が天井部付近に位置している場合、P1301、P1302、P1303、P1304とピストン3が上昇するに従い、渦の中心が天井部に当たることにより縦渦の上半分が潰れ、P1305に黒色の矢印で示すように、圧縮行程の後半におけるシリンダー11内の流動が、排気バルブ22から吸気バルブ21に向かう方向の反一方向流動となる。
インジェクタ6は、圧縮行程の後半に第2補助点火を実行する(P1304参照)。圧縮行程の後半はシリンダー11内の圧力が高いため、シリンダー11内に生成されたプラズマは、その強い圧縮圧を受けて、シリンダー11内の中央部に留まるとともに、相対的に流動が弱い排気バルブ側へ流れる(P1304、P1305のハッチングを付した箇所を参照)。その結果、排気バルブ22付近の混合気の温度を上昇させることができる。
第2補助点火1109の後、主点火制御部82は、点火プラグ25を用いて、圧縮行程の後半における、圧縮上死点付近における所定のタイミングで、混合気に点火する(チャート1103の主点火1107参照)。反一方向流動によって、火炎は、排気バルブ22側へ伝播しにくいが、排気バルブ22側の混合気の温度が高いため、排気バルブ22側への火炎伝播が促進される。その分、燃焼速度が高くなり、燃焼速度は、放電時間が第1閾値と第2閾値との間である場合(推定流速が第1所定値Vp1と第2所定値Vp2との間である場合)と同程度に高まる。よって、エンジン1の燃焼変動が抑制される。
従って、シリンダー11内における流動状態に応じて、補助点火を行うことにより、吸気流動の状態がサイクル毎にばらついて、縦渦の中心位置がばらついても、ECU10は、燃焼速度を同じ、又は、略同じにすることができるから、燃焼変動が抑制できる。
(補助点火の期間の設定)
前述のように、本実施形態では、ECU10は、吸気行程において検査放電を実行し、検査放電の放電経路の電気的パラメータに応じて混合気の流速を推定して、プラズマを乱流度合いの低い箇所に偏在させる。
ここで、推定流速が低いとき、すなわち、縦渦の渦中心がシリンダー11の天井部側に位置しているときには、圧縮行程の後半でも、燃焼室17内の吸気の流速が低い。さらに、エンジン負荷が低いときには更に吸気流量及び主燃料噴射の噴射が少ない。このため、縦渦の渦中心がシリンダー11の天井部側に位置しているときには、圧縮行程の後半において、混合気の流れとは逆側に位置する排気バルブ22側は、乱流度合いが弱く、かなり火炎伝播しにくくなる。この結果、燃焼速度が不安定になってしまう。そこで、本実施形態では、ECU10(厳密には、補助点火制御部84)を、補助点火制御において、推定流速とエンジン負荷に応じて、補助点火により付与する点火エネルギ(以下、補助点火エネルギという)の量を調整するように構成した。具体的には、補助点火の期間を調整して、補助点火エネルギの量を調整するようにした。
図13は、推定電流と判定負荷とに基づいて、補助点火の点火期間を設定するためのマップである。縦軸は推定流速であり、横軸はエンジン負荷である。この図13のマップは、ECU10のメモリ102に記憶されている。尚、ここでは、推定流速の値として放電時間の逆数を採用している。前述したように、放電時間が短いほど、点火プラグ25周りの混合気の流速は高いため、図13の縦軸はシリンダー11内における吸気の流速の高低を反映しているといえる。尚、推定流速の値として、図7の上図700に示すようなグラフに基づいて放電時間等から算出した流速値を用いたりしてもよい。
図13に示すように、補助点火は、推定流速が第1所定値Vp1未満の領域と、推定流速が第1所定値Vp1よりも高い第2所定値Vp2よりも高い領域とのそれぞれで実行される。ここでは、第1所定値Vp1は、速度V1に相当する放電時間の逆数であり、第2所定値Vp2は、速度V2に相当する放電時間の逆数である。
推定流速が第1所定値Vp1未満の領域、すなわち、縦渦の中心がシリンダー11の天井部に偏る領域は、第1比較値B1により、第1領域R1と第2領域R2との2つの領域に分けられている。第1領域R1は、推定流速が第1比較値B1以下の領域であり、第2領域R2は、推定流速が第1所定値Vp1未満でかつ第1比較値B1よりも高い領域である。第1比較値B1は、エンジン負荷が低いほど第1所定値Vp1に近い値を有する。これにより、第1領域R1は、相対的にエンジン負荷の低い範囲が多い領域となり、第2領域R2は、相対的にエンジン負荷が高い範囲が多い領域となっている。
図13に示すように、推定流速が第2所定値Vp2よりも高い領域、すなわち、縦渦の中心がピストン3側に偏る領域は、第2比較値B2と第3比較値B3とにより、第3領域R3、第4領域R4、及び第5領域R5の3つの領域に分けられている。第3領域R3は、推定流速が第2所定値Vp2よりも高くかつ第2比較値B2以下の領域であり、第4領域R4は、推定流速が第2比較値B2よりも高くかつ第3比較値B3以下の領域であり、第5領域R5は、推定流速が第3比較値B3よりも高い領域である。第2比較値B2は、エンジン負荷が高いほど第2所定値Vp2に近い値を有する。一方で、第3比較値B3は、エンジン負荷が高いほど僅かに推定流速が低い値を有している。これにより、第3領域R3は、相対的にエンジン負荷の低い範囲が多い領域となり、第4領域R4は、相対的にエンジン負荷が高い範囲が多い領域となっている。第5領域R5は、エンジン負荷が低い領域から高い領域まで全体的に広がっている。
推定流速が第1所定値Vp1未満の領域では、補助点火の期間は、第1領域R1における点火期間を第1点火期間とし、第2領域R2における点火期間を第2点火期間としたときに、第1点火期間の方が第2点火期間よりも長い。すなわち、エンジン負荷が低いときには、吸気流量及び主燃料噴射の噴射量が少なく、乱流度合いの弱い排気側はかなり火炎伝播しにくくなる。一方で、エンジン負荷が高いときには、吸気流量及び主燃料噴射の噴射量が多く、乱流度合いの弱い排気側にもある程度の燃料濃度の混合気が存在するため、排気側への火炎伝播に対する影響が小さい。このため、エンジン負荷が低くかつ推定流速が低いときには、エンジン負荷が高いときと比較して、補助点火の期間を長くして、シリンダー11内の排気バルブ22側にプラズマを広く分布させる。
図13に示すように、第1領域R1、すなわち、補助点火の点火期間を増大させる領域は、推定流速が低いほど高負荷側に広がっている。推定流速が低いほど、縦渦の渦中心はシリンダー11の天井部に偏っていることを表す。このため、推定流速が低いほど、排気バルブ22側から吸気バルブ21側への反一方向流動が早く生じる。排気バルブ22側から吸気バルブ21側への反一方向流動が早期に生じると、混合気が吸気バルブ21側に長い期間押し付けられるようになる。このため、推定流速が低いときには、エンジン負荷が高いときでも排気バルブ22側の燃料の濃度が低くなりやすい。したがって、推定流速が低いときには、エンジン負荷が高いときでも補助点火の点火期間を長くして、シリンダー11内に付与する補助点火エネルギを増大させるようにしている。
一方で、推定流速が第2所定値Vp2よりも高い領域では、補助点火の点火期間は、第3領域R3における点火期間を第3点火期間とし、第4領域R4における点火期間を第4点火期間としたときに、第4点火期間の方が第3点火期間よりも長い。吸気の流速が高いときには、縦渦の慣性力及び遠心力が大きくなる。前述したように、吸気の流速が高いとき、すなわち、縦渦の渦中心がピストン側に偏っているときには、圧縮行程の後半における吸気の流れは、吸気バルブ21側から排気バルブ22側への正一方向流動になる。このため、吸気バルブ21側は火炎伝播しにくくなる。エンジン負荷が高いときには、吸気流量及び主燃料噴射の噴射量が多く、縦渦の慣性力及び遠心力が大きいため、圧縮行程の後半には混合気が排気バルブ22側に大きく偏る。一方で、エンジン負荷が低いときには、縦渦の慣性力及び遠心力が小さいため、圧縮行程の後半における混合気の偏りが小さくなる。したがって、推定流速が高いときには、エンジン負荷が高いときの方が、エンジン負荷が低いときよりも吸気バルブ21側の広い範囲にプラズマが形成されるように、第4点火期間を第3点火期間よりも多くしている。
図12に示すように、第3領域R3、すなわち、補助点火の点火期間が相対的に短い領域は推定流速が低いほど高負荷側に広がっている。推定流速が高いほど、縦渦の渦中心はピストン3側に偏っていることを表す。このため、推定流速が第2所定値Vp2に近いほど、吸気バルブ21側から排気バルブ22側への正一方向流動が生じるまでに時間がかかる。このため、推定流速が第2所定値Vp2に近いときには、エンジン負荷が高いときでも混合気の偏りが小さくなる。したがって、推定流速が第2所定値Vp2にときには、エンジン負荷が高いときでも補助点火エネルギの量が少なくてもよく、補助点火の噴射量が短くてもよいようになる。
第5領域R5における補助点火の点火期間である第5点火期間については後述する。
尚、図13のマップは、推定流速として用いる値によって、各比較値B1~B3の形状が多少変形するが、各領域R1~R5における補助点火の点火期間の関係は変化しない。
図14は、エンジン負荷が図13に示すエンジン負荷Tq1のときにおける、推定流速に対する補助点火の点火期間を示している。つまり、図14は、エンジン負荷が一定のときにおける、補助点火エネルギの量と推定速度との関係を示す。図14に示すように、第1領域R1では、推定流速が低いほど第1点火期間を長くする。また、第2領域R2でも、第1領域R1と同様に、推定流速が低いほど第2点火期間を多くする。推定流速が低いほど、縦渦の渦中心は天井部側に偏っている。このため、排気バルブ22側から吸気バルブ21側への反一方向流動が早期に生じて、排気バルブ22側に火炎伝播しにくくなる。したがって、推定流速が低いほど、補助点火の点火期間を長くして、プラズマを多く生成することで、排気バルブ22側の広い範囲にプラズマを分布させる。また、第1点火期間と第2点火期間とは、第1比較値B1を境に大きく変化し、不連続になっている。尚、推定流速に対する第1点火期間の傾きと、推定流速に対する第2点火期間の傾きとは、同じでもよく、異なっていてもよい。
図14に示すように、推定流速が第1所定値Vp1と第2所定値Vp2との間にあるときには、補助点火を実行しないため、点火期間は0となる。
図14に示すように、第3領域R3及び第4領域R4では、推定流速が高いほど第3及び第4点火期間を長くする。推定流速が高いほど、すなわち、点火プラグ25周りにおける吸気の流速が高いほど、圧縮行程の後半における縦渦の慣性力及び遠心力が高くなって、混合気が排気バルブ22側に偏りやすくなる。そこで、点火プラグ25周りの縦渦の流速が高いほど、すなわち、推定流速が高いほど、補助点火の点火期間を長くして、シリンダー11の吸気バルブ21側にプラズマを適切に分布させる。また、第3点火期間と第4点火期間は、第2比較値B2を境に大きく変化し、不連続になっている。尚、推定流速に対する第3点火期間の傾きと、推定流速に対する第4点火期間の傾きとは、同じでもよく、異なっていてもよい。
図14に示すように、第5点火期間は、推定流速にかかわらず一定である。第5点火期間は、同じエンジン負荷における第4点火期間の最大期間と同じである。すなわち、第5領域R5は、吸気の流速が非常に高い領域であり、縦渦の遠心力がかなり大きく、混合気が燃焼室17の壁面側(ライナー壁側や天井部側)に偏りやすい。このため、補助点火の点火期間を長くして、プラズマを多く生成してしまうと、吸気バルブ21側の壁面付近における混合気の温度が上昇する。混合気の温度が過剰に上昇すると、主点火の前に混合気が着火してしまうおそれがある。したがって、第5領域R5における第5点火期間は、一定の値になっている。第3比較値B3が、エンジン負荷が高いほど推定流速が低い側に位置しているのは、エンジン負荷が高いときには、燃料の噴射量が大きく、着火しやすいためである。
一方で、図15は、推定流速が図13に示す推定値VAのときにおける、エンジン負荷に対する補助点火の点火期間を示している。図8に示すように、推定流速が一定の場合には、第1点火期間及び第2点火期間ともに、エンジン負荷にかかわらず一定である。尚、図示は省略しているが、第3点火期間及び第4点火期間も、推定流速が一定である場合には、エンジン負荷にかかわらず一定である。
このように、前記検査放電における放電経路のパラメータから推定される推定流速と、エンジン負荷とに基づいて、補助点火の点火期間を調整することで、シリンダー11内における火炎伝播がしにくい領域に適切にプラズマを分布させて、当該領域の混合気を温めることができる。この結果、シリンダー11全体に火炎伝播しやすくなり、燃焼速度を安定させることができる。
図16は、インジェクタ6による燃料噴射及び点火プラグ25による点火のタイミングを示す。図16(a)はエンジン1の状態が第1領域R1に属するときの各タイミングであり、(b)はエンジン1の状態が第2領域R2に属するときの各タイミングである。尚、図16では、推定流速が同じ場合を示している。
図16に示すように、エンジン1の状態が第1領域R1及び第2領域R2のいずれに属しているときでも、インジェクタ6により吸気行程において主燃料噴射が実行される。このときの噴射量は、相対的にエンジン負荷の高い第2領域R2に属しているときの方が多い。主燃料噴射部81は、インジェクタ6の開弁期間を長くすることで、主燃料噴射の噴射量を多くする。
主燃料噴射の後、点火プラグ25により検査放電が実行される。この検査放電は、吸気バルブ21が閉弁した後、特に圧縮行程の前半に実行される。
検査放電の後、圧縮行程の後半において、混合気に着火させる前に、点火プラグ25により補助点火が実行される。前述したように、第1点火期間の方が第2点火期間よりも多く設定されている。このため、補助点火制御部84が、エンジン1の状態が第1領域R1のときの方が、第2領域R2のときよりも、補助点火の点火期間を長くする。
そして、補助点火の後、ピストン3が圧縮上死点に至る前に、主点火制御部82により点火プラグ25が再度作動されて、シリンダー11内の混合気に着火される。このときには、補助点火により、シリンダー11内の乱流度合いの低い部分は、プラズマが分布されて温められているため、シリンダー11全体に火炎が速やかに伝播する。
(フローチャート)
次に、図17及び図18を参照しながら、ECU10の補助点火制御の処理動作について説明する。
まず、ステップS1において、ECU10は、各センサSW1~SW9からの情報を取得する。
次に、ステップS2において、ECU10は、要求トルクを算出する。ECU10は、アクセル開度センサSWO7検出結果に基づいて要求トルクを算出する。このステップS2で算出される要求トルクは、補助点火の点火期間を算出する際の判定負荷に相当する。
次いで、ステップS3において、ECU10は、燃料の噴射量と噴射時期とを設定する。
続いて、ステップS4において、ECU10は、主点火時期を設定する。この主点火時期は、混合気に実際に着火させるための点火時期である。
次に、ステップS5において、ECU10は、検査放電の時期を設定する。ECU10は、検査放電の時期を、吸気バルブ21が閉じた後の時期であって、シリンダー11内の混合気が着火しない時期に設定する。
次いで、ステップS6において、ECU10は、前記ステップS5で設定した時期に検査放電を実行する。ECU10は、点火装置7から、検査放電において点火プラグ25に発生した放電経路の放電時間を取得する。尚、フローチャートには示していないが、検査放電を実行する前に、前記ステップS3で設定した噴射時期に主噴射が実行されている。
続いて、ステップS7において、ECU10は、シリンダー11内の吸気の流速を推定する。ここでは、ECU10は、前記ステップS6の検査放電の放電時間の逆数を推定流速として算出する。
続いて、ステップS8において、ECU10は、前記ステップS7で算出した推定流速が第1所定値Vp1未満であるか否かを判定する。ECU10は、推定流速が第1所定値Vp1未満であるYESのときには、ステップS8に進む。一方で、ECU10は、推定流速が第1所定値Vp1より高いNOのときには、ステップS12に進む。
前記ステップS9では、ECU10は、前記ステップS2において算出されたエンジン負荷と、前記ステップS7において算出された推定流速とから、エンジン1の状態が第1領域R1に属しているか否か、すなわち第1比較値B1以下の領域に属するか否かを判定する。ECU10は、図13に示したマップを読み込んで判定を行う。ECU10は、エンジン1の状態が第1領域R1に属しているYESのときには、ステップS10に進む。一方で、ECU10は、エンジン1の状態が第2領域R2に属しているNOのときには、ステップS11に進む。
前記ステップS10では、ECU10は、補助点火の点火期間を第1点火期間に設定する。ステップS10の後は前記ステップS19に進む。
前記ステップS11では、ECU10は、補助点火の点火期間を第2点火期間に設定する。ステップS11の後は前記ステップS19に進む。
一方で、前記ステップS8においてNOのときに進むステップS12では、ECU10は、前記ステップS7で算出された推定流速が第2所定値Vp2よりも高いか否かを判定する。ECU10は、推定流速が第2所定値Vp2よりも高いYESのときには、ステップS14に進む。一方で、ECU10は、推定流速が第2所定値Vp2以下であるNOのときには、ステップS13に進む。
前記ステップS13では、ECU10は、補助点火なしと判断する。ECU10は、ステップS13の後はリターンする。
前記ステップS14では、ECU10は、前記ステップS2において算出されたエンジン負荷と、前記ステップS7において算出された推定流速とから、エンジン1の状態が第3領域R3に属しているか否かを判定する。ECU10は、図13に示したマップを読み込んで判定を行う。ECU10は、エンジン1の状態が第3領域R3に属しているYESのときには、ステップS15に進む。一方で、ECU10は、エンジンの状態が第4領域R4又は第5領域R5に属しているNOのときには、ステップS16に進む。
前記ステップS15では、ECU10は、補助点火の点火期間を第3点火期間に設定する。ECU10は、ステップS15の後は前記ステップS19に進む。
一方で、前記ステップS16では、ECU10は、エンジン1の状態が第4領域R4に属しているか否かを判定する。ECU10は、エンジン1の状態が第4領域R4に属しているYESのときには、ステップS17に進む。一方で、ECU10は、エンジン1の状態が第5領域R5に属しているNOのときには、ステップS18に進む。
前記ステップS17では、ECU10は、補助点火の点火期間を第4点火期間に設定する。ECU10は、ステップS17の後は前記ステップS19に進む。
前記ステップS18では、ECU10は、補助点火の点火期間を第5点火期間に設定する。ECU10は、ステップS18の後は前記ステップS19に進む。
そして、図17に示すように、前記ステップS10,S11,S15,S17,S18の後に進むステップS19では、ECU10は、補助点火の点火時期を設定する。ECU10は、前記ステップS4で設定した主点火時期よりも進角側の時期に、補助点火の点火時期を設定する。ECU10は、前記ステップS7で算出した推定流速が第1所定値Vp1以下であるときには、補助点火の点火時期を圧縮行程の後半の時期に設定する一方で、前記ステップS7で算出した推定流速が第2所定値Vp2よりも高いときには、補助点火の点火時期を圧縮行程の前半又は後半の時期に設定する。ECU10は、ステップS19の後はリターンする。
ECU10は、フローチャートの後、補助点火及び主点火を実行する。これにより、シリンダー11内の縦渦の状態に応じて、乱流度合いの低い領域にプラズマを分布させることができ、シリンダー11の燃焼速度を安定させることができる。
(まとめ)
したがって、本実施形態では、 エンジン1の運転状態を検出する運転状態検出器(センサSW1~SW9)と、点火装置7、インジェクタ6、及び前記運転状態検出器に電気的に接続されたECU10と備える。ECU10は、前記運転状態検出器(特に、アクセル開度センサSW7)で検出されたエンジン負荷に基づいて、主燃料の噴射量とその噴射時期である主燃料噴射時期を設定して、該主燃料噴射時期に設定した量の前記主燃料を噴射するようにインジェクタ6を制御する主燃料噴射部81と、主燃料噴射時期の後、シリンダー11内の混合気を燃焼させるべく、該混合気に着火させるための主点火を実行する主点火制御部82と、混合気が着火しない時期に、点火プラグ25の電極間に電圧を負荷しかつ該電極間に生じた放電経路の電流値に関するパラメータを検出するための放電を実行するように点火装置7を制御して、該放電におけるパラメータからシリンダー11内における吸気の流速の高低を推定する流速推定部83と、流速推定部83により推定された推定流速が所定値未満であるときに、主燃料噴射時期よりも遅角側でかつ主点火の時期に、混合気に補助点火エネルギを付与するための補助点火を実行するように点火装置7を制御する補助点火制御部84とを有する。補助点火制御部84は、推定流速が、第1所定値Vp1よりも低い領域に設定されかつエンジン負荷に応じて変化する第1比較値B1以下であるときには、推定流速が第1比較値B1よりも高いときと比較して、補助点火より付与する点火エネルギを増大させるように点火装置7を制御する。これにより、エンジン負荷に応じて補助点火エネルギの量が調整されて、生成されるプラズマの量が調整される。そして、補助点火により生成されたプラズマによって、火炎伝播しにくい領域の混合気の温度が上昇する。この結果、燃焼速度を安定させることができる。
特に、本実施形態では、第1比較値B1は、エンジン負荷が低いほど第1所定値Vp1に近い値を有する。推定流速が第1所定値Vp1未満のときには、圧縮行程の後半における混合気の流れは排気側から吸気側への反一方向流動になる。また、エンジン負荷が低いときには、吸気量及び主燃料噴射の噴射量が少ない。このため、混合気の流れとは逆側に位置する排気バルブ22側は、かなり火炎が伝播しにくくなる。第1比較値B1が、エンジン負荷が低いほど第1所定値Vp1に近い値を有することで、エンジン負荷が低いときに補助点火エネルギの量を多くすることができる。これにより、燃焼速度をより安定させることができる。
また、本実施形態では、補助点火制御部84は、エンジン負荷が一定であるときにおいて、推定流速が、第1比較値B1以下であるときには、該推定流速が低いほど補助点火エネルギの量を増大させる。すなわち、推定流速が低いほど、排気バルブ22側から吸気バルブ21側への正一方向流動が早い段階から生じる。したがって、推定流速が低いほど、補助点火エネルギの量を増大させて、排気バルブ22側の広い範囲において混合気の温度を上昇させる。これにより、火炎伝播が促進されるため、燃焼速度をより安定させることができる。
(その他の実施形態)
ここに開示された技術は、前述の実施形態に限られるものではなく、請求の範囲の主旨を逸脱しない範囲で代用が可能である。
例えば、前述の実施形態では、エンジン1の吸気バルブ21が閉弁した時期以降にパラメータを検出して、縦渦の渦中心を推定するようにしていた。これに限らず、吸気行程中にもパラメータを検出することで、横渦の渦中心についても推定するようにしてもよい。横渦の渦中心が推定された後は、横渦と縦渦のそれぞれの中心位置に応じて、補助点火の点火時期を設定するようにすればよい。
また、前述の実施形態では、インジェクタ6は、吸気行程中に主燃料噴射を実行していた。これに限らず、インジェクタ6は、圧縮行程中に主燃料噴射を実行してもよい。点火プラグ25は、第1放電を、主燃料噴射よりも後に行ってもよいし、主燃料噴射よりも前に行ってもよい。同様に、点火プラグ25は、第2放電を、主燃料噴射よりも後に行ってもよいし、主燃料噴射よりも前に行ってもよい。
前述の実施形態は単なる例示に過ぎず、本開示の範囲を限定的に解釈してはならない。本開示の範囲は請求の範囲によって定義され、請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本開示の範囲内のものである。