JP2022076828A - エンジンシステム - Google Patents

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Muneyuki Oota
芳尚 乃生
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Abstract

【課題】気筒内の流動状態を推定し、流動状態に応じて燃料噴射を行うことにより、燃焼変動を抑制させる。【解決手段】エンジンシステムは、検査点火により生じた放電経路のパラメータに基づいて推定される推定流速が第1設定値Vp1未満であるか又は該第1設定値Vp1よりも高い第2設定値Vp2よりも高いときに、主点火によって混合気を着火する時期よりも進角側で補助的な点火である補助点火を行うように点火装置7を制御する補助点火制御部84を備える。第1設定値Vp1及び第2設定値Vp2は、運転状態検出器(クランク角センサSW6)が検出するエンジン回転数が高いほど推定流速が高い側に位置する。【選択図】図16

Description

ここに開示された技術は、エンジンシステムに関する技術分野に属する。
従来より、エンジンの燃費を向上させるために、燃焼速度を高めることが知られている。点火プラグを備えるエンジンでは、点火プラグが燃焼室内の混合気に点火することで点火プラグ周りに火炎が生成されて、この火炎が未燃混合気を反応させながら気筒内の全体に伝播することで1サイクルの燃焼が完了する。したがって、該火炎が未燃混合気を素早く反応させて燃焼速度を高めるためには、火炎と未燃混合気との火炎接触面積が大きい方が有利である。このために気筒内で多くの乱流を生成することが好ましい。
未燃混合気の乱流は、圧縮行程中、ピストンが上死点に到達するまでに吸気流動が潰れて生成されることが知られている。しかし、吸気流動の状態はサイクル毎に変化する可能性がある。このため、従来から吸気流動を推定する手法が検討されている。
例えば特許文献1には、燃焼室に配設された点火プラグで、点火時期よりも前の時期に複数回点火して点火プラグの放電経路の電流値を検出し、各電流値に応じて混合気の流動状態を推定して、該推定結果に基づいて点火時期を制御する技術が記載されている。
特開2014-145306号公報
ここで、本願発明者らは、特許文献1に記載されたような放電経路の電流値に基づく吸気流動に応じた燃焼の改善について鋭意研究した結果、吸気流動によって気筒内に形成された渦中心の位置によって、圧縮行程の後半の気筒内の流動状態に差が生じ、火炎が気筒内の全体に均一に伝播しなくなって、燃焼変動の一要因となることが分かった。
具体的には、吸気流動は縦渦成分と横渦成分とが合成されて、気筒内において斜め流動になる。気筒の筒軸方向及び筒軸に直交する方向から見て(以下、それぞれ平面視及び側面視という)、吸気流動の渦中心の位置が気筒中央付近に存在する場合は圧縮行程の後半でも旋回流が維持される結果、乱流度合いが気筒内全体において均一又は略均一となる。この場合、火炎は、気筒内の中央付近から周辺部へ均等又は略均等に伝播する。
しかし、縦渦成分の渦中心の位置が、側面視でピストン側にずれて存在する場合は、圧縮行程の後半で渦中心がピストンの頂面に接触することにより縦渦の下半分が潰れて、気筒内の流動が、吸気側から排気側に向かう正一方向流動となることを、本願発明者らは見出した。気筒内の流動が前記正一方向流動になると、気筒内において排気側の領域は乱流度合いが強いが、吸気側の領域は乱流度合いが弱くなる。この場合には、火炎は、排気側の領域へは伝播しやすい一方で、吸気側の領域へは伝播しにくくなる。
また、縦渦成分の渦中心の位置が、側面視でシリンダーの天井部側にずれて存在する場合は、圧縮行程の後半で、渦中心が天井部に接触することにより縦渦の上半分が潰れて、気筒内の流動が、排気側から吸気側に向かう反一方向流動となる。気筒内の流動が反一方向流動になると、気筒内において吸気側の領域は乱流度合いが強いが、排気側の領域は乱流度合いが弱くなる。この場合には、火炎は、吸気側の領域へは伝播しやすい一方で、排気側の領域へは伝播しにくくなる。
一方で、横渦成分の渦中心の位置が、平面視で気筒外方側にずれて存在する場合は、気筒内の中心部から周縁部に向かって伝播しようとする火炎の一部が、気筒の中心からずれた横渦の流れによって、その伝播が妨げられる結果、火炎が、特定の領域へは伝播しにくいことを、本願発明者らは見出した。
気筒内の一部の領域への火炎伝播が阻害されることは、燃焼速度を低下させて、燃焼変動を生じさせる要因である。従って、エンジンの燃焼変動を抑制するためには、この一部の領域への火炎伝播を促進する必要がある。エンジンの燃焼変動を抑制することは、エンジンの燃費の向上に有利になる。
ここに開示された技術は斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、気筒内の流動状態を推定し、該流動状態に応じて補助点火を行うことにより、燃焼変動を抑制することにある。
本願発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、吸気行程又は圧縮行程で点火プラグの放電経路の電気的パラメータを検出することで、シリンダー内の渦中心の位置が推定でき、圧縮行程後半での吸気流動及び乱流度合いを推定できることを見出した。
そこで、ここに開示された技術では、ペントルーフ型の天井部を有するシリンダーと、該シリンダーの中央部に配置された点火プラグを含む点火装置と、前記シリンダーの中央部に配置された燃料噴射弁とを有するエンジンを備えたエンジンシステムを対象として、前記エンジンの運転状態を検出する運転状態検出器と、前記点火装置、前記燃料噴射弁、及び前記運転状態検出器に電気的に接続された制御器と、を更に備え、前記制御器は、前記運転状態検出器が検出するエンジン負荷に基づいて、主燃料の噴射量とその噴射時期である主燃料噴射時期を設定して、該主燃料噴射時期に設定した量の前記主燃料を噴射するように前記燃料噴射弁を制御する主燃料噴射部と、混合気が着火しない時期に、前記点火プラグの電極間に電圧を負荷しかつ該電極間に生じた放電経路の電流値に関するパラメータを検出するように前記点火装置を制御して、前記パラメータから前記シリンダー内における吸気の流速の高低を推定する流速推定部と、前記流速推定部により推定された推定流速が、予め設定された第1設定値未満であるか又は該第1設定値よりも高い第2設定値よりも高いときに、主点火によって混合気を着火する時期よりも進角側で前記点火装置を制御することによって補助点火を実行し、前記シリンダーの中に点火によるエネルギーを付与する補助点火制御部と、を有し、前記第1設定値及び前記第2設定値は、前記運転状態検出器が検出するエンジン回転数が高いほど前記推定流速が高い側に位置する、という構成とした。
本願明細書では、便宜上、正一方向流動は吸気側から排気側に向かう吸気流動を示し、反一方向流動は排気側から吸気側に向かう吸気流動を示すが、これらを逆にしてもよい。
前記の構成によると、エンジンは、ペントルーフ型の天井部の燃焼室を有するため、気筒内に導入された吸気は縦渦を形成しつつ横渦も形成する。気筒内の流動は、気筒軸に対して傾いた斜め流動となる。
燃料噴射弁から主燃料噴射を実行すると気筒内に混合気が形成される。この混合気が着火しない時期に、点火プラグに電圧を印加して放電経路を発生させる(検査放電)。点火プラグに生じた放電経路は、点火プラグ周りの吸気流動が強いほど伸びる。放電経路が伸長すると、電極間の抵抗が増大して、電極間に生じた電圧降下が増加する。この結果、点火プラグに付与したエネルギーが消費される時間、すなわち放電時間が短くなる。
このことから、本願発明者らは、電流の放電時間を検出することによって、点火プラグ周りの吸気流動の流速を推定でき、その推定流速に基づいて、気筒内における渦中心の位置を推定できることを見出した。尚、パラメータから推定される「推定流速」は、流速の高低が推定できる値であればよく、流速値そのものである必要はない。
例えば、「推定流速」として放電時間の逆数を採用することができる。また、流速を推定するパラメータとしては、流速の高低が推定できるのであれば、放電時間の他に、電流値、電圧値、放電時の電流値の傾き、放電時の電圧値の傾き等を採用してもよい。
具体的には、吸気流動の縦渦の中心が気筒中央付近に位置するときは、点火プラグ付近の吸気流動の強さが中程度になって、パラメータから推定される推定流速が、第1設定値から第2設定値までの範囲内に収まる。縦渦の中心がシリンダーの天井部側にずれると、点火プラグ付近の吸気流動の強さが弱くなって、推定流速が、第1設定値未満になる。
縦渦の中心がピストン側にずれると、点火プラグ付近の吸気流動の強さが強くなって、推定流速が、第2設定値よりも高くなる。そこで、推定流速が第1設定値よりも高いか、第2設定値よりも低いか比較することで、気筒内の混合気を点火する前に、吸気流動が正一方向流動か、反一方向流動か推定でき、乱流度合いの弱い領域を推定できる。
また、吸気流動の横渦の中心が気筒中央付近に位置するときは、点火プラグ付近の吸気流動の強さが中程度になって、推定流速が、第1設定値から第2設定値までの範囲内に収まる。横渦の中心が気筒中央からずれると、点火プラグ付近の吸気流動の強さが弱くなって、推定流速が第1設定値よりも低くなったり、点火プラグ付近の吸気流動の強さが強くなって、推定流速が第2設定値よりも高くなったりする。そこで、推定流速が、第1設定値未満か、第2設定値よりも高いか比較することで、気筒内の混合気を点火する前に、火炎伝播が妨げられる領域を推定できる。
そして、推定流速が、第1設定値未満か又は第2設定値よりも高いと判定された場合、換言すれば、縦渦において、正一方向流動か、反一方向流動と推定された場合、または、横渦において、渦中心の偏りが推定された場合に、主点火によって混合気を着火する時期よりも進角側で補助点火を実行する。補助点火は、乱流度合いが弱い領域、又は、火炎が伝播しにくい領域にプラズマの多い混合気を形成する。
このことにより、圧縮行程の後半では、火炎が伝播する領域には通常の混合気を配置し、火炎が伝播しにくい領域には相対的に温度の高い混合気を配置することができる。この補助点火の後に、点火装置が、点火プラグを用いて、混合気に主点火することで、火炎が伝播しにくい領域への火炎伝播が促進され、シリンダー内の全体に火炎が、均等又は略均等に伝播する。その結果、火炎が伝播しにくい領域における燃焼速度が速くなる。各サイクルにおいて、必要な場合は補助点火を実行することにより、サイクル毎の燃焼速度が一定または略一定になって、燃焼変動が抑制できる。
さらに、この構成では、第1及び第2設定値をエンジン回転数が高いほど推定流速が高い側に位置するようにする。エンジン回転数が高いときには、吸気流動の慣性力が大きい状態のまま圧縮される。このため、渦の中心がシリンダーの筒軸近傍に位置していたとしても、検査放電時の吸気の流速は、エンジン回転数が低いときと比べると、エンジン回転数が高いときの方が高い。
よって、エンジン回転数に応じて、補助点火を実行する設定値を適切に変更することで、燃焼を適切に促進させることができる。この結果、燃焼速度を安定させることができ、燃焼変動を抑制することができる。
前記エンジンシステムにおいて、前記補助点火制御部は、前記推定流速が、前記第1設定値よりも低い領域に設定された第3設定値未満であるときには、前記推定流速が前記第3設定値よりも高くかつ前記第1設定値未満であるときと比較して、前記補助点火のエネルギーを増大させるように構成されており、前記第3設定値は、前記推定流速が低いほどエンジン回転数が低い側に位置する、という構成でもよい。
すなわち、エンジン回転数が高いときには、吸気行程から圧縮行程までの時間が短いため、圧縮行程でも吸気流動の慣性力が大きい。吸気流動の慣性力が大きいと混合気がシリンダー壁に押し付けられやすい。つまり、エンジン回転数が低いときと比較すると、エンジン回転数が高いときの方が着火時における混合気の偏りが大きくなる。推定流速が第1設定値から低い側に離れるほど、反一方向流動が強く形成されるため、このエンジン回転数の影響が大きくなる。
そこで、推定流速が第3設定値未満であるときには、補助点火のエネルギーを増大させる。また、第3設定値をエンジン回転数が高いほど推定流速が高い側に位置するようにして、エンジン回転数が高いほど補助点火のエネルギーを増大させる条件を拡大する。これにより、シリンダー全体に火炎伝播しやすくなって、燃焼速度を安定させることができる。この結果、燃焼変動をより効果的に抑制することができる。
前記エンジンシステムにおいて、前記補助点火制御部は、前記推定流速が、前記第2設定値よりも高い領域に設定された第4設定値より高いときには、前記推定流速が前記第4設定値未満でかつ前記第2設定値よりも高いときと比較して、前記補助点火のエネルギーを増大させるように構成され、前記第4設定値は、エンジン回転数が高いほど前記推定流速が低い側に位置する、という構成でもよい。
前述したように、エンジン回転数が高いときには、圧縮行程でも吸気流動の慣性力が大きいため、着火時における混合気の偏りが大きくなる。また、推定流速が第2設定値から高い側に離れるほど、縦渦では正一方向流動が強く形成され、横渦では渦中心の偏りが更に強くなるため、このエンジン回転数の影響が大きくなる。
そこで、推定流速が第4設定値よりも高いときには、補助点火のエネルギーを増大させる。また、第4設定値をエンジン回転数が高いほど推定流速が低い側に位置するようにして、エンジン回転数が高いほど補助点火のエネルギーを増大させる条件を拡大する。これにより、シリンダー全体に火炎伝播しやすくなって、燃焼速度を安定させることができる。この結果、燃焼変動をより効果的に抑制することができる。
以上説明したように、ここに開示された技術によると、エンジン回転数に応じて、補助点火を実行することにより、エンジンの燃焼速度を安定させることができる。これにより、エンジンの燃焼変動を抑制することができる。
図1は、エンジンシステムを例示する図である。 図2の上図は、エンジンの燃焼室の構造を例示する平面図であり、下図は、上図のII-II断面図である。 図3は、エンジンシステムのブロック図である。 図4は、点火装置を例示する図である。 図5は、エンジンの制御に係る機能ブロックを示すブロック図である。 図6は、縦渦の中心位置と、圧縮行程の後半におけるシリンダー内の流動状態との関係を説明する図である。 図7は、点火プラグ付近の流動の強さが異なる場合における、点火プラグの電極間における電圧及び電流の変化を例示する図である。 図8は、点火プラグが検出する放電時間と、縦渦の中心位置との関係を示す図である。 図9は、横渦の中心位置と、シリンダー内の火炎の伝播状態との関係を説明する図である。 図10は、点火プラグが検出する放電時間と、横渦の中心位置との関係を示す図である。 図11は、主燃料噴射の噴射時期、検査放電のタイミング、補助点火のタイミング、及び、主点火のタイミングを例示するタイミングチャートである。 図12は、点火プラグの補助点火によってプラズマが生じる様子を模式的に示す図である。 図13は、縦渦の中心位置がピストンに近い場合における、シリンダー内の流動の変化とプラズマの分布とを説明する図である。 図14は、、縦渦の中心位置が天井部に近い場合における、シリンダー内の流動の変化とプラズマの分布とを説明する図である。 図15は、横渦の中心位置が排気側に傾いた場合、及び、横渦の中心位置が吸気側に傾いた場合のそれぞれにおける、シリンダー内の流動の変化とプラズマの分布とを説明する図である。 図16は、推定流速とエンジン負荷とで形成される補助点火期間を設定するためのマップである。 図17は、エンジン負荷が一定のときに、推定流速と補助点火期間との関係を示すグラフである。 図18は、推定流速が一定のときに、補助点火期間とエンジン負荷との関係を示すグラフである。 図19は、補助点火をするタイミングをエンジン回転数毎に分けて示すタイミングチャートである。 図20は、補助点火制御のフローチャートの一部である。 図21は、補助点火制御のフローチャートの残部である。
以下、エンジンシステムの実施形態について、図面を参照しながら説明する。ここで説明するエンジン、及び、エンジンシステムは例示である。
図1は、エンジンシステムを例示する図である。図2は、エンジンの燃焼室の構造を例示する図である。図1における吸気側と排気側との位置と、図2における吸気側と排気側との位置とは、入れ替わっている。図3は、エンジンの制御装置を例示するブロック図である。
エンジンシステムは、エンジン1を有している。エンジン1は、シリンダー11を有している。シリンダー11の中で、吸気行程、圧縮行程、膨張行程及び排気行程が繰り返される。エンジン1は、4ストロークエンジンである。エンジン1は、四輪の自動車に搭載されている。エンジン1が運転することによって自動車は走行する。エンジン1の燃料は、この構成例においてはガソリンである。
(エンジンの構成)
エンジン1は、シリンダーブロック12と、シリンダーヘッド13とを備えている。シリンダーヘッド13は、シリンダーブロック12の上に載置される。シリンダーブロック12に、複数のシリンダー11が形成されている。エンジン1は、多気筒エンジンである。図1では、一つのシリンダー11のみを示す。
各シリンダー11には、ピストン3が内挿されている。ピストン3は、コネクティングロッド14を介してクランクシャフト15に連結されている。ピストン3は、シリンダー11の内部を往復動する。ピストン3、シリンダー11及びシリンダーヘッド13は、燃焼室17を形成する。
シリンダーヘッド13の下面、つまり、シリンダー11の天井部は、図2の下図に示すように、傾斜面1311と、傾斜面1312とによって構成されている。傾斜面1311は、後述する吸気バルブ21側の傾斜面1311であり、シリンダー11の中央部に向かって上り勾配となっている。傾斜面1312は、排気バルブ22側の傾斜面1312であり、シリンダー11の中央部に向かって上り勾配となっている。シリンダー11の天井部は、いわゆるペントルーフ型である。
シリンダーヘッド13には、シリンダー11毎に、吸気ポート18が形成されている。吸気ポート18は、シリンダー11内に連通している。吸気ポート18は、詳細な図示は省略するが、いわゆるタンブルポートである。つまり、吸気ポート18は、シリンダー11の中にタンブル流が発生するような形状を有している。ペントルーフ型のシリンダー11の天井部と、タンブルポートとは、シリンダー11の中に縦渦を発生させる。
吸気ポート18には、吸気バルブ21が配設されている。吸気バルブ21は、吸気ポート18を開閉する。動バルブ機構は、吸気バルブ21を所定のタイミングで開閉する。動バルブ機構は、バルブタイミング及び/又はバルブリフトを可変にする可変動バルブ機構としてもよい。図3に示すように、動バルブ機構は、吸気S-VT(Sequential-Valve Timing)23を有している。吸気S-VT23は、吸気カムシャフトの回転位相を所定の角度範囲内で連続的に変更する。吸気バルブ21の開弁角は変化しない。吸気S-VT23は、電動式又は油圧式である。
シリンダーヘッド13には、シリンダー11毎に、排気ポート19が形成されている。排気ポート19は、燃焼室17に連通している。
排気ポート19には、排気バルブ22が配設されている。排気バルブ22は、排気ポート19を開閉する。動バルブ機構は、排気バルブ22を所定のタイミングで開閉する。動バルブ機構は、バルブタイミング及び/又はバルブリフトを可変にする可変動バルブ機構としてもよい。図3に示すように、動バルブ機構は、排気S-VT24を有している。排気S-VT24は、排気カムシャフトの回転位相を所定の角度範囲内で連続的に変更する。排気バルブ22の開弁角は変化しない。排気S-VT24は、電動式又は油圧式である。
シリンダーヘッド13には、シリンダー11毎に、インジェクタ6が取り付けられている。インジェクタ6は、シリンダー11の中に燃料を直接噴射する。インジェクタ6は、燃料噴射弁の一例である。インジェクタ6は、傾斜面1311と傾斜面1312とが交差するペントルーフの谷部に配設されている。図2に示すように、インジェクタ6は、シリンダー11の中央部に配設されている。
インジェクタ6は、詳細な図示は省略するが、複数の噴口を有する多噴口型である。インジェクタ6は、図2に二点鎖線で示すように、シリンダー11の中央部から周縁部に向かって、放射状に広がるように燃料を噴射する。インジェクタ6は、図例では、周方向に等角度に配置された十個の噴孔を有しているが、噴孔の数、及び、配置は特に制限されない。
インジェクタ6には、燃料供給システム61が接続されている。燃料供給システム61は、燃料を貯留するよう構成された燃料タンク63と、燃料タンク63とインジェクタ6とを互いに連結する燃料供給路62とを備えている。燃料供給路62には、燃料ポンプ65とコモンレール64とが介設している。燃料ポンプ65は、コモンレール64に燃料を圧送する。燃料ポンプ65は、この構成例においては、クランクシャフト15によって駆動されるプランジャー式のポンプである。コモンレール64は、燃料ポンプ65から圧送された燃料を、高い燃料圧力で蓄える。インジェクタ6が開弁すると、コモンレール64に蓄えられていた燃料が、インジェクタ6の噴口からシリンダー11の中に噴射される。インジェクタ6に供給する燃料の圧力は、エンジン1の運転状態に応じて変更してもよい。尚、燃料供給システム61の構成は、前記の構成に限定されない。
シリンダーヘッド13には、シリンダー11毎に、点火プラグ25が取り付けられている。点火プラグ25は、シリンダー11の中の混合気に強制的に点火をする。点火プラグ25の中心電極及び接地電極は、詳細な図示は省略するが、シリンダー11の中央部において、シリンダー11の天井部の付近に位置している。
図1又は図3に示すように、点火プラグ25は、点火装置7に対して電気的に接続されている。点火装置7は、点火プラグ25の電極間に電圧を印加することによって放電を実行させて、シリンダー11内の混合気に点火する。点火装置7は、詳細は後述するが、混合気が着火しない時期に、点火プラグ25に放電を実行させ、その時に電極間に生じた放電経路の電流値に関するパラメータを検出する。検出したパラメータに基づいて、シリンダー11内の流動状態を推定できる。点火装置7の構成は、後述する。
エンジン1の一側面には吸気通路40が接続されている。吸気通路40は、各シリンダー11の吸気ポート18に連通している。シリンダー11に導入する吸気は、吸気通路40を流れる。吸気通路40の上流端部には、エアクリーナー41が配設されている。エアクリーナー41は、吸気を濾過する。吸気通路40の下流端近傍には、サージタンク42が配設されている。サージタンク42よりも下流の吸気通路40は、シリンダー11毎に分岐する独立通路を構成している。独立通路の下流端が、各シリンダー11の吸気ポート18に接続されている。
吸気通路40におけるエアクリーナー41とサージタンク42との間には、スロットルバルブ43が配設されている。スロットルバルブ43は、バルブの開度を調整することによって、シリンダー11の中への新気の導入量を調節する。
エンジン1は、シリンダー11内にスワール流を発生させるスワール発生部を有している。スワール発生部は、詳細な図示は省略するが、吸気通路40に取り付けられたスワールコントロールバルブ56を有している。スワールコントロールバルブ56は、互いに平行な第1吸気通路及び第2吸気通路のうちの、第2吸気通路に配設されている。スワールコントロールバルブ56は、第2吸気通路の断面を絞ることができる開度調節バルブである。
スワールコントロールバルブ56の開度が小さいと、図2に示す第1吸気ポート21aからシリンダー11に流入する吸気流量が相対的に多くかつ、第2吸気ポート21bからシリンダー11に流入する吸気流量が相対的に少ないから、シリンダー11内のスワール流が強くなる。スワールコントロールバルブ56の開度が大きいと、第1吸気ポート21a及び第2吸気ポート21bのそれぞれからシリンダー11に流入する吸気流量が、略均等になるから、シリンダー11内のスワール流が弱くなる。スワールコントロールバルブ56を全開にすると、スワール流が発生しない。尚、スワール流は、図2に白抜きの矢印で示すように、図2における反時計回り方向に周回する。
エンジン1の他側面には、排気通路50が接続されている。排気通路50は、各シリンダー11の排気ポート19に連通している。排気通路50は、シリンダー11から排出された排気ガスが流れる通路である。排気通路50の上流部分は、詳細な図示は省略するが、シリンダー11毎に分岐する独立通路を構成している。独立通路の上流端が、各シリンダー11の排気ポート19に接続されている。
排気通路50には、複数の触媒コンバーターを有する排気ガス浄化システムが配設されている。上流の触媒コンバーターは、例えば三元触媒511と、GPF(Gasoline Particulate Filter)512とを有している。下流の触媒コンバーターは、三元触媒513を有している。尚、排気ガス浄化システムは、図例の構成に限定されない。例えば、GPFは省略してもよい。また、触媒コンバーターは、三元触媒を有するものに限定されない。さらに、三元触媒及びGPFの並び順は、適宜変更してもよい。
吸気通路40と排気通路50との間には、外部EGRシステムを構成するEGR通路52が接続されている。EGR通路52は、排気ガスの一部を吸気通路40に還流させるための通路である。EGR通路52の上流端は、排気通路50における上流の触媒コンバーターと下流の触媒コンバーターとの間に接続されている。EGR通路52の下流端は、吸気通路40におけるスロットルバルブ43の下流部に接続されている。
EGR通路52には、水冷式のEGRクーラー53が配設されている。EGRクーラー53は、排気ガスを冷却する。EGR通路52にはまた、EGRバルブ54が配設されている。EGRバルブ54は、EGR通路52を流れる排気ガスの流量を調節する。EGRバルブ54の開度を調節することによって、冷却した排気ガスの還流量を調節することができる。
(エンジンの制御装置の構成)
エンジン1の制御装置は、図3に示すように、エンジン1を運転するためのECU(Engine Control Unit)10を備えている。ECU10は、周知のマイクロコンピュータをベースとするコントローラーであって、プログラムを実行する中央演算処理装置(Central Processing Unit:CPU)101と、例えばRAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)により構成されてプログラム及びデータを格納するメモリ102と、電気信号の入出力をする入出力バス103と、を備えている。ECU10は、制御器の一例である。
ECU10には、図1及び図3に示すように、各種のセンサSW1~SW9が接続されている。センサSW1~SW9は、信号をECU10に出力する。センサには、以下のセンサが含まれる。
エアフローセンサSW1は、吸気通路40におけるエアクリーナー41の下流に配置されかつ、吸気通路40を流れる新気の流量を計測する、
吸気温度センサSW2は、吸気通路40におけるエアクリーナー41の下流に配置されかつ、吸気通路40を流れる新気の温度を計測する、
吸気圧センサSW3は、サージタンク42に取り付けられかつ、シリンダー11に導入される吸気の圧力を計測する、
筒内圧センサSW4は各シリンダー11に対応してシリンダーヘッド13に取り付けられかつ、各シリンダー11内の圧力を計測する、
水温センサSW5は、エンジン1に取り付けられかつ、冷却水の温度を計測する、
クランク角センサSW6は、エンジン1に取り付けられかつ、クランクシャフト15の回転角を計測する、
アクセル開度センサSW7は、アクセルペダル機構に取り付けられかつ、アクセルペダルの操作量に対応したアクセル開度を計測する、
吸気カム角センサSW8は、エンジン1に取り付けられかつ、吸気カムシャフトの回転角を計測する、
排気カム角センサSW9は、エンジン1に取り付けられかつ、排気カムシャフトの回転角を計測する。
ECU10は、これらのセンサSW1~SW9の信号に基づいて、エンジン1の運転状態を判断すると共に、予め定められている制御ロジックに従って、各デバイスの制御量を演算する。制御ロジックは、メモリ102に記憶されている。制御ロジックは、メモリ102に記憶しているマップを用いて、目標量及び/又は制御量を演算することを含む。
ECU100は、演算をした制御量に係る電気信号を、インジェクタ6、点火プラグ25、吸気S-VT23、排気S-VT24、燃料供給システム61、スロットルバルブ43、EGRバルブ54、及び、スワールコントロールバルブ56に出力する。
(点火装置の構成)
点火装置7は、点火プラグ25の中心電極251と接地電極252との間に電圧を印加し、シリンダー11内において放電させる。点火装置7は点火コイル70を有している。中心電極251は、点火コイル70の2次コイル70cに接続されている。接地電極252は、接地されている。2次コイル70cによって、電極間に印加された2次電圧が、絶縁破壊に要求される電圧に達すると、中心電極251と接地電極252との間にある空隙に放電が生じる。
点火コイル70は、1次コイル70a、2次コイル70c、及び、鉄芯70bを有している。1次コイル70aの一端はコンデンサ72に接続されており、他端はトランジスタ73のコレクタに接続されている。2次コイル70cの一端は、前述したように、中心電極251に接続されており、他端は、点火制御器75に接続されている。点火制御器75は、2次コイル70cが点火プラグ25の電極間に印加する2次電圧と、2次コイル70cから点火プラグ25に流れる2次電流とを計測することができる。
また、点火装置7には、点火コイル70の1次コイル70aに1次電流を流すため電気エネルギーを蓄えるコンデンサ72と、コンデンサ72を充電するエネルギー発生装置74と、点火コイル70の1次電流を断続するトランジスタ73と、を備えている。エネルギー発生装置74は、電源を含んでいる。点火制御器75は、エネルギー発生装置74及びトランジスタ73を制御し、所定のタイミングで、点火プラグ25を用いて、シリンダー11内の混合気に点火(主点火)を実行させる。
また、前述の通り、点火装置7は、混合気が着火しない時期に、点火プラグ25に放電を実行させ、その時に検出した電気的なパラメータに基づいて、シリンダー11内の流動状態を推定する。
(エンジンの運転制御)
次に、ECU10によるエンジン1の運転制御について説明する。このエンジン1は、燃費を向上させるために、シリンダー11内に乱流を発生することによって、燃焼速度を高める。具体的にエンジン1は、吸気ポート18がタンブルポートであって、シリンダー11の中に縦渦が発生する。
ここで、吸気流動の状態は毎サイクル変わる可能性があり、シリンダー11内の吸気流動の状態が変わると、燃焼速度がサイクル毎に変わる。その結果、燃焼変動を招いてしまう。ここに開示するエンジンシステムは、サイクル毎に燃焼速度が変わることを抑制し、それによって、燃焼変動を抑制する。
具体的には、このエンジンシステムは、シリンダー11内の吸気流動の状態を推定し、推定した吸気流動の状態に応じて、補助点火を実行し、シリンダー11内に点火によるエネルギーを付与する。
図5は、燃焼変動の抑制制御を実行するエンジン1の制御装置の構成を例示するブロック図である。図5は、ECU10が有する機能ブロックを図示している。ECU10は、機能ブロックとして、主燃料噴射部81、主点火制御部82、流速推定部83、及び補助点火制御部84を有している。主燃料噴射部81は、エンジン1の要求トルク(エンジン負荷)に基づいて、主となる燃料噴射の時期である主燃料噴射の噴射量及び噴射時期を設定するとともに、インジェクタ6に、設定した噴射時期に主燃料噴射を実行させる機能ブロックである。主点火制御部82は、主燃料噴射の後に、点火プラグ25を用いて、シリンダー11内に設けられた混合気が着火するように、所定のタイミングで点火(つまり主点火)させる機能ブロックである。
流速推定部83は、シリンダー11内の流動状態を検査するために、混合気が着火しない時期に、点火プラグ25に放電を実行、つまり検査放電を実行させる機能ブロックである。流速推定部83はまた、その検査放電において、点火装置7及び点火プラグ25を用いて検出したパラメータに基づいて、シリンダー11内の流動状態、特に点火プラグ25周りの吸気の流速の高低を推定する機能ブロックである。補助点火制御部84は、流速推定部83が推定したシリンダー11内の流動状態に基づき、主点火より前の、混合気が着火しないタイミングで、必要に応じて補助点火を実行する機能ブロックである。
以下、図5に例示するエンジンシステムが実行する、シリンダー11内の吸気流動の状態推定を説明し、その後、推定した吸気流動の状態に応じた、補助点火制御を説明する。
(吸気流動の状態推定)
図6は、圧縮行程前半における縦渦の中心位置と、圧縮行程後半におけるシリンダー11内の流動状態とを示す図である。図6のチャート601は、圧縮行程の前半において縦渦の中心の位置が、シリンダー11内のピストン3に近い位置である場合の、シリンダー11内の流動状態を例示し、チャート604は、チャート601の状態からクランク角が進行した圧縮行程の後半での、シリンダー11内の流動状態を例示している。
同様に、チャート602は、圧縮行程の前半において縦渦の中心の位置が、シリンダー11内のピストン3と天井部との中間位置である場合の、シリンダー11内の流動状態を例示し、チャート605は、チャート602の状態からクランク角が進行した圧縮行程の後半での、シリンダー11内の流動状態を例示している。
また、チャート603は、圧縮行程の前半において縦渦の中心の位置が、シリンダー11内の天井部に近い位置である場合の、シリンダー11内の流動状態を例示し、チャート606は、チャート603の状態からクランク角が進行した圧縮行程の後半での、シリンダー11内の流動状態を例示している。
尚、圧縮行程の前半とは、圧縮行程を前半と後半とに二等分した場合の前半であり、圧縮行程の後半とは、圧縮行程を前半と後半とに二等分した場合の後半である。
先ず、チャート602に示すように、シリンダー11内の縦渦の中心が、シリンダー11の中央付近に存在する場合は、チャート605に示すように、圧縮行程の後半でも旋回流が維持される。その結果、乱流度合いが、シリンダー11内の全体において均等又は略均等となる。この場合、火炎は、シリンダー11内の中央付近から周辺部へ、均等又は略均等に伝播する。火炎の伝播はシリンダー11内の乱流によって促進されるから、燃焼速度は比較的速い。
チャート601に示すように、縦渦の中心の位置が、ピストン3側(ここではシリンダー11の下方側)付近にずれて存在する場合は、チャート604に示すように、圧縮行程の後半で、渦中心がピストン3の頂面に接触することにより縦渦の下半分が潰れる。これにより、チャート604に矢印で示すように、シリンダー11内の流動が、吸気バルブ21から排気バルブ22に向かう方向に流れる一方向の流動(以下、正一方向流動という)になる。シリンダー11内の流動が正一方向流動となると、シリンダー11内の乱流度合いが不均等になる。具体的には、シリンダー11内において、排気バルブ22側の領域の乱流度合いは強いが、吸気バルブ21側の領域の乱流度合いは弱くなる(同図の一点鎖線で囲んだ領域を参照)。このときには、シリンダー11の中央部において混合気に着火したことにより発生した火炎は、排気バルブ22側の領域へは伝播しやすい一方、吸気バルブ21側の領域へは伝播しにくい。チャート604の場合、チャート605の場合と比べて燃焼速度が遅くなる。
チャート603に示すように、縦渦の渦中心の位置が、側面視で天井部側(ここでは気筒上方側)付近にずれて存在する場合は、チャート606に示すように、圧縮行程の後半で、渦中心がシリンダー11の天井部に接触することにより縦渦の上半分が潰れる。これにより、チャート606に矢印で示すように、シリンダー11内の流動が、排気バルブ22から吸気バルブ21へ向かう方向に流れる一方向の流動(以下、反一方向流動という)になる。シリンダー11内の流動が反一方向流動となると、シリンダー11内の乱流度合いが不均等になる。具体的には、シリンダー11内において、吸気バルブ21側の領域の乱流度合いは強いが、排気バルブ22側の領域の乱流度合いが弱くなる(同図の一点鎖線で囲んだ領域を参照)。この場合、火炎は、吸気バルブ21側の領域へは伝播しやすい一方、排気バルブ22側の領域へは伝播しにくい。チャート606の場合、チャート605の場合と比べて燃焼速度が遅くなる。
エンジンシステムにおいて、シリンダー11内の流動状態は、点火装置7によって検出される。具体的には、点火装置7は、流量推定部83からの制御信号により、混合気が着火しない時期に、シリンダー11内において放電(検査放電)を行い、そのときの放電時間を検出する。流速推定部83は、検出された放電時間に基づいて、点火プラグ25付近の流速を推定するとともに、推定した流速に基づいて縦渦の中心位置を判断する。
図7は、点火プラグ25付近の流動の強さが異なる場合における、点火プラグ25の電極間における電圧の時間変化701、及び、電流の時間変化702を例示している。点火プラグ25にエネルギーを付与することによって、その電極間に電圧を印加すれば、中心電極251と接地電極252との間に放電経路が形成される。放電経路は、点火プラグ25付近の流動が強いほど、その流動に流されて伸びる。放電経路が伸長することで、電極間の抵抗が増大し、電極間に印加した電圧の降下が促進する。点火プラグ25付近の流動の強さが強くなるほど、点火プラグ25に付与したエネルギーが消費される時間、つまり放電時間が短くなる。
より詳細に、図7に実線で示すように、点火プラグ25付近の流動がない場合、放電時間は長い。点火プラグ25付近の流動が強くなるほど、図7に破線、及び、点線で示すように、放電時間が短くなる。つまり、点火プラグ25の電極間における電流の放電時間と、点火プラグ25付近の流動の強さとは、比例する。点火装置7が放電時間を検出すれば、流速推定部83は、点火プラグ25付近の流動の強さ(つまり、流速)を推定できる。
図8は、点火装置7が検出する放電時間と、シリンダー11内における縦渦の中心位置との関係を示している。図8は、放電時間と、点火プラグ25付近の流速との関係を示している。前述したように、放電時間と流速とは比例関係を有しており、放電時間が短いほど流速が速く、放電時間が長いほど流速が遅い。
図8のチャート802に示すように、縦渦の中心位置が、圧縮行程の前半において、シリンダー11内のピストン3と天井部との中間位置である場合、点火プラグ25と渦の中心位置とが、ある程度離れるため、点火プラグ25付近の流速は、V1とV2との間になる。
一方、チャート801に示すように、縦渦の中心位置が、圧縮行程の前半において、ピストン3に近い位置である場合、点火プラグ25と渦の中心とが大きく離れるため、点火プラグ25付近の流速は、V1よりも速くなる。
また、チャート803に示すように、縦渦の中心位置が、圧縮行程の前半において、天井部に近い位置である場合、点火プラグ25と渦の中心とが近いため、点火プラグ25付近の流速は、V2よりも遅くなる。
主としてタンブル流によりシリンダー11内に形成される縦渦は、吸気バルブ21が閉じた後の圧縮行程において安定になり、その中心位置が定まる。従って、圧縮行程の前半において、点火プラグ25が放電(後述する第2放電)を行いかつ、点火装置7が検出した放電時間(後述する第2放電時間)から推定される推定流速が、速度V1に対応する第2設定値Vp2よりも高い場合(図8では、放電時間が第1閾値よりも短い場合)は、縦渦の中心位置が、ピストン3に近い位置であると推定でき、推定流速が速度V2に対応する第1設定値Vp1よりも低い場合(図8では、放電時間が第2閾値よりも長い場合)は、縦渦の中心位置が、天井部に近い位置であると推定できる。推定流速が第1設定値Vp1と第2設定値Vp2との間の場合(図8では、放電時間が第1閾値と第2閾値との間にある場合)は、縦渦の中心位置が、シリンダー11の中間位置であると推定できる。
尚、ここでいう「推定流速」は、吸気の流速の高低を推定できるものであればよく、流速そのものである必要はない。例えば、放電時間の逆数を推定流速として採用してもよい。
図9は、吸気行程における横渦の中心位置と、圧縮行程の後半のシリンダー11内の流動状態との関係を示す図である。図9のチャート901は、吸気行程において横渦の中心の位置が、シリンダー11内の排気バルブ22側に傾いた場合の、シリンダー11内の流動状態を例示する。チャート904は、チャート901の状態からクランク角が進行した圧縮行程の後半での、シリンダー11内の流動状態を例示している。
同様に、チャート902は、吸気行程において横渦の中心の位置が、シリンダー11内の中央部において、シリンダー11の軸にほぼ沿っている場合の、シリンダー11内の流動状態を例示する。チャート905は、チャート902の状態からクランク角が進行した圧縮行程の後半での、シリンダー11内の流動状態を例示している。
また、チャート903は、吸気行程において横渦の中心の位置が、シリンダー11内の吸気バルブ21側に傾いた場合の、シリンダー11内の流動状態を例示する。チャート906は、チャート903の状態からクランク角が進行した圧縮行程の後半での、シリンダー11内の流動状態を例示している。
先ず、チャート902に示すように、シリンダー11内の横渦の中心が、シリンダー11の中央部において、シリンダー11の軸に沿って存在する場合は、チャート905に示すように、圧縮行程の後半でも横渦の中心が軸付近に位置する。シリンダー11内における乱流度合いも、シリンダー11内の全体において均等又は略均等である。シリンダー11の中央部において、点火プラグ25が混合気に点火すると、火炎は、同図に破線の矢印で示すように、横渦によって周方向に曲げられながら、シリンダー11内の中央部から周辺部へと伝播する。火炎は、シリンダー11内の中央付近から周辺部へ、均等又は略均等に伝播する。火炎の伝播は、シリンダー11内の乱流によって促進されるから、燃焼速度は比較的速い。
チャート901に示すように、横渦の中心の位置が、排気バルブ22側に傾いている場合は、横渦の中心とシリンダー11の中心とがずれる。シリンダー11内における乱流度合いは、シリンダー11内の全体において不均等になる。また、圧縮行程の後半において、シリンダー11の中央部において、点火プラグ25が混合気に点火すると、火炎は、チャート904に破線の矢印で示すように、横渦によって周方向に曲げられながら、シリンダー11内の中央部から周辺部へと伝播する。このとき、横渦の中心から離れるほど、横渦の流速が速くなる(チャート904の同心円参照)。つまり、横渦の中心から遠い吸気バルブ21側は相対的に横渦の流速が速い。シリンダー11の中央部から排気バルブ22側へと伝播する火炎は、周方向に曲げられながら径方向の外方へ伝播する一方、シリンダー11の中央部から吸気バルブ21側へと伝播する火炎は、横渦の速い流速によって強く曲げられる結果、径方向の外方へ伝播しにくくなる。その結果、チャート904に一点鎖線で示すように、吸気バルブ21側の領域が、火炎伝播しにくい領域となる。この場合は、チャート905の場合と比較して、燃焼速度が遅くなる。
チャート903に示すように、横渦の中心の位置が、吸気バルブ21側に傾いている場合も、横渦の中心と、シリンダー11の中心とがずれる。シリンダー11内における乱流度合いは、シリンダー11内の全体において不均等になる。また、圧縮行程の後半において、シリンダー11の中央部において、点火プラグ25が混合気に点火すると、火炎は、チャート906に破線の矢印で示すように、横渦によって周方向に曲げられながら、シリンダー11内の中央部から周辺部へと伝播する。このとき、実線の矢印で示すように、シリンダー11の中央部から吸気バルブ側に向かう方向は、反時計回りの横渦の流れに対向する方向となる。その結果、シリンダー11の中央部から排気バルブ側へと伝播する火炎は、周方向に曲げられながら径方向の外方へ伝播する一方、シリンダー11の中央部から吸気バルブ側へと伝播する火炎は、横渦の流れに押し戻される結果、径方向の外方へ伝播しにくくなる。チャート906に一点鎖線で示すように、吸気バルブ側の領域が、火炎伝播しにくい領域となる。この場合も、チャート905の場合と比較して、燃焼速度が遅くなる。
図10は、点火装置7が検出する放電時間と、シリンダー11内における横渦の中心位置との関係を示している。図10のチャート1000は、放電時間と、点火プラグ25付近の流速との関係を示している。
図10のチャート1002に示すように、主に第1吸気通路18aから流入する吸気によって、吸気行程におけるシリンダー11内には流速分布が生じる。吸気行程における速度分布が、シリンダー11の中央部とライナーとの間の所定の径方向位置において流速最大となり、そこから中央部に向かうに従い流速が低下しかつ、ライナーに向かうに従い流速が低下するような分布であれば、横渦の中心はシリンダー11の中央部付近において、軸に沿うようになる。この場合、点火プラグ25付近の流速は、V3とV4との間になる。
一方、チャート1001に示すように、吸気行程において、ライナー付近の流速が極端に高い流速分布になると、横渦の中心は、排気バルブ22側へ傾く。この場合、点火プラグ25付近の流速は、V4よりも低くなる。
また、チャート1003に示すように、吸気行程における流速分布が径方向に平均化されている場合、横渦の中心は、吸気バルブ21側へ傾く。この場合、点火プラグ25付近の流速は、V3よりも高くなる。
主としてスワール流によりシリンダー11内に形成される横渦は、吸気バルブ21が開弁したのち、閉弁するまでの吸気行程において安定化する。点火装置7は、吸気行程において、点火プラグ25に放電(後述する第1放電)させ、その放電時間(後述する第1放電時間)を検出する。より詳細には、吸気バルブ21が開弁した瞬間から所定期間は、吸気の流動がばらつきやすい。吸気バルブ21の開弁から所定時間が経過したのち、吸気バルブ21が開弁するまでにおいて、横渦は安定化する。点火装置7は、吸気バルブ21の開弁から所定時間が経過したのち、点火プラグ25に放電させ、その放電時間を検出する。
流速推定部83は、推定流速が、速度V3に対応する第2設定値Vp2よりも高い場合(図10では、放電時間が第1閾値よりも短い場合)は、横渦の中心位置が吸気バルブ21側へ傾いていると推定でき、推定流速が、速度V4に対応する第1設定値Vp1よりも長い場合(図10では、放電時間が第2閾値よりも長い場合)は、横渦の中心位置が排気バルブ22側へ傾いていると推定できる。推定流速が第1設定値Vp1と第2設定値Vp2との間の場合(図10では、放電時間が第1閾値と第2閾値との間である場合)は、横渦の中心位置が、シリンダー11の中央部において、シリンダー11の軸に沿っていると推定できる。尚、それぞれ第1設定値Vp1に対応する速度V4と速度V2とは同じとは限らない。同様に、それぞれ第2設定値Vp2に対応する速度V3と速度V1とは同じとは限らない。
(補助点火制御)
図11は、インジェクタ6による燃料噴射、及び、点火プラグ25による、放電(検査放電)、補助点火、及び主点火のタイミングを例示するタイミングチャートである。図11の左から右にクランク角は進む。
前述したように、吸気流動のばらつきによって、縦渦、及び/又は、横渦の中心位置がずれると、シリンダー11内において、乱流度合いが弱くなる領域、及び/又は、火炎が伝播しにくい領域が発生する。補助燃料は、こうした乱流度合いが弱くなる領域、及び/又は、火炎が伝播しにくい領域に、プラズマを多く含む高エネルギーな混合気を配置し、それによって、当該領域への火炎伝播を促進させる。
先ず、主燃料噴射部81は、吸気バルブ21が開弁した後、吸気バルブ21が閉弁するまでの吸気行程の期間において主燃料噴射を実行して、インジェクタ6を通じてシリンダー11内に燃料を噴射させる(主燃料噴射1104参照)。噴射された燃料は、流動によってシリンダー11内に拡散し、シリンダー11内に混合気を形成する。
チャート1102に示すように、流量推定部83は、点火装置7及び点火プラグ25に、吸気バルブ21が開弁してから、所定の時定数Δtが経過した後の吸気行程期間において、第1放電1105を実行させる。第1放電1105は、混合気が着火しない期間に行われる検査用の放電(つまり検査放電)である。点火装置7は、第1放電に対応する第1放電時間を検出する。流速推定部83は、第1放電1105の際に検出された第1放電時間から、点火プラグ25付近の横渦の流速を推定して、横渦の中心位置を推定する。
流量推定部83はまた、点火装置7及び点火プラグ25に、吸気バルブ21が閉弁したのちの、圧縮行程における、例えば前半に第2放電1106を実行させる。第2放電1106も、混合気が着火しない期間に行われる検査用の放電である。点火装置7は、第2放電に対応する第2放電時間を検出する。流速推定部83は、第2放電1106の際に検出された第2放電時間から、点火プラグ25付近の縦渦の流速を推定して、縦渦の中心位置を推定する。
点火装置7が検出した第1放電時間、及び、第2放電時間が共に、第1閾値と第2閾値との間である場合(つまり、流速推定部83により推定された流速が第1設定値Vp1と第2設定値Vp2との間である場合)、縦渦の中心位置がシリンダー11におけるピストン3と天井部との中間に位置しかつ、横渦の中心位置がシリンダー11の中央部において、シリンダー11の軸に沿っている。この場合、補助点火は不要である。図11のチャート1102に示すように、補助点火制御部84は、補助点火の実行を中止し、主点火制御部82は、点火プラグ25を用いて、圧縮行程後半の、圧縮上死点付近における所定のタイミングで、混合気に点火する(図11の主点火1107参照)。この場合、横渦及び縦渦の中心位置が、シリンダー11の中央部に位置しているから、乱流度合いは、シリンダー11内の全体において均等又は略均等である。火炎は、シリンダー11の中央部から周辺部に向かって均等又は略均等に伝播する。燃焼速度は比較的速い。
次に、点火装置7が検出した第2放電時間が第1閾値よりも短い場合(すなわち、流速推定部83で推定される流速が第2設定値Vp2よりも高い場合)について説明する。この場合、縦渦の中心位置は、シリンダー11におけるピストン3に近い位置であり、圧縮行程の後半には、シリンダー11内に正一方向流動が生じる。図11のチャート1101に示すように、補助点火制御部84は、第1補助点火を実行するように、点火装置7を制御する。点火プラグ25は、例えば圧縮行程の前半又は圧縮行程の後半の第1作動時期において、第1補助点火1108を実行する。
図12に示すように、点火装置7が点火プラグ25にエネルギーを付与することにより、点火プラグ25の中心電極251及び接地電極252との間には、アーク放電が発生する(つまり、補助点火)。これによりシリンダー11内に生じたプラズマは、シリンダー11内の流動に乗って運ばれる。
図13は、縦渦の中心位置が、シリンダー11におけるピストン3に近い位置にある場合における、シリンダー11内の流動の変化とプラズマの分布とを説明する図である。前述したように、縦渦の中心位置がピストン3の付近に位置している場合、P1301、P1302、P1303、P1304とピストン3が上昇するに従い、渦の中心がピストン3の頂面に当たることにより縦渦の下半分が潰れ、P1305に黒色矢印で示すように、圧縮行程の後半におけるシリンダー11内の流動が、吸気バルブ21から排気バルブ22に向かう方向の正一方向流動となる。
圧縮行程の相対的に早いタイミング(P3203)で、点火プラグ25が第1補助点火を行うことにより、シリンダー11内に生成されたプラズマは、シリンダー11内の圧力がそれほど高くないため、渦が潰れる前に、縦渦に乗って、排気バルブ22側から吸気バルブ21側へと運ばれる(P1304、P1305のハッチングを付した箇所を参照)。その結果、吸気バルブ21付近の混合気の温度を高くすることができる。
第1補助点火1108の実行後、主点火制御部82は、点火プラグ25を用いて、圧縮行程後半の、圧縮上死点付近における所定のタイミングで、混合気に点火する(チャート1101の主点火1107参照)。正一方向流動によって、火炎は、吸気バルブ21側へ伝播しにくいが、吸気バルブ21側の混合気の温度が高いため、吸気バルブ21側への火炎伝播が促進される。その分、燃焼速度が高くなり、燃焼速度は、放電時間が第1閾値と第2閾値との間である場合(推定流速が第1設定値Vp1と第2設定値Vp2との間である場合)と同程度に高まる。よって、エンジン1の燃焼変動が抑制される。
次に、点火装置7が検出した第2放電時間が第2閾値よりも長い場合(すなわち、流速推定部83により推定された流速が第1設定値Vp1未満である場合)について説明する。この場合、縦渦の中心位置は、シリンダー11における天井部に近い位置であり、圧縮行程の後半には、シリンダー11内に反一方向流動が生じる。図11のチャート1103に示すように、補助点火制御部84は、第2補助点火を実行するように、点火装置7を制御する。点火プラグ25は、圧縮行程の後半の第2噴射時期において、第2補助点火1109を実行する。第2補助点火1109の実行時期は、第1補助点火1108の実行時期よりも遅い。
図14は、縦渦の中心位置が、シリンダー11における天井部に近い位置にある場合における、シリンダー11内の流動の変化とプラズマの分布とを説明する図である。前述したように、縦渦の中心位置が天井部付近に位置している場合、P1401、P1402、P1403、P1404とピストン3が上昇するに従い、渦の中心が天井部に当たることにより縦渦の上半分が潰れ、P1405に黒色の矢印で示すように、圧縮行程の後半におけるシリンダー11内の流動が、排気バルブ22から吸気バルブ21に向かう方向の反一方向流動となる。
点火プラグ25は、圧縮行程の後半に第2補助点火1109を実行する(P1404参照)。圧縮行程の後半はシリンダー11内の圧力が高いため、シリンダー11内に生成されたプラズマは、その強い圧縮圧を受けて、シリンダー11内の中央部に留まると共に、相対的に流動が弱い排気バルブ22側へ流れる(P1404、P1405のハッチングを付した箇所を参照)。その結果、排気バルブ22付近に、温度の高い混合気を配置することができる。
第2補助点火1109の実行後、主点火制御部82は、点火プラグ25を用いて、圧縮行程後半の、圧縮上死点付近における所定のタイミングで、混合気に点火する(チャート1103の主点火1107参照)。反一方向流動によって、火炎は、排気バルブ22側へ伝播しにくいが、排気バルブ22側の混合気の温度が高いため、排気バルブ22側への火炎伝播が促進される。その分、燃焼速度が高くなり、燃焼速度は、放電時間が第1閾値と第2閾値との間である場合(推定流速が第1設定値Vp1と第2設定値Vp2との間である場合)と同程度に高まる。よって、エンジン1の燃焼変動が抑制される。
従って、シリンダー11内における流動状態に応じて、補助点火を行うことにより、吸気流動の状態がサイクル毎にばらついて、縦渦の中心位置がばらついても、ECU10は、燃焼速度を同じ、又は、略同じにすることができるから、燃焼変動が抑制できる。
次に、点火装置7が検出した第1放電時間が第1閾値よりも短い場合(すなわち、流速推定部83で推定される流速が第2設定値Vp2よりも高い場合)について説明する。この場合、横渦の中心位置は、シリンダー11における吸気バルブ側に傾いている。図11のチャート1101に示すように、補助点火制御部84は、第1補助点火を実行するように、点火装置7を制御する。点火プラグ25は、例えば圧縮行程の前半又は圧縮行程の後半の第1作動時期において、第1補助点火1108を実行する。
図15のP1501及びP1502は、横渦の中心位置が吸気バルブ21側に傾いている場合における、シリンダー11内の流動の変化と、プラズマの分布とを説明する図である。横渦の中心が吸気バルブ21側に傾いている場合、P1501に例示するように、圧縮行程におけるシリンダー11内の速度分布は、流速分布の尖度が低いため、極端に速い流速の箇所は存在しない。
第2放電後の、圧縮行程の前半又は後半において、シリンダー11内の中央部の点火プラグ25において生成されたプラズマは、図15の実線の矢印で示す流れに乗って、径方向の外方へ搬送されると共に、ライナーに沿うように、周方向に搬送される(図15の破線の矢印参照)。補助噴射のタイミングが相対的に進角しているため、プラズマは、点火タイミングまでの長い時間を利用して、吸気バルブ21側まで運ばれる。その結果、点火タイミング(P1502)において、吸気バルブ21側の混合気の温度が高まる。
第1補助点火の実行後、主点火制御部82は、点火プラグ25を用いて、圧縮行程後半の、圧縮上死点付近における所定のタイミングで、混合気に点火する(チャート1101の主点火1107参照)。前述したように、火炎は、中心位置がずれた横渦によって、径方向の外方への伝播が妨げられる結果、吸気バルブ21側へ伝播しにくいが、吸気バルブ21側の混合気の温度が高いため、吸気バルブ21側への火炎伝播が促進される。その分、燃焼速度が高くなり、燃焼速度は、放電時間が第1閾値と第2閾値との間である場合(推定流速が第1設定値Vp1と第2設定値Vp2との間である場合)と同程度に高まる。エンジン1の燃焼変動が抑制される。
次に、点火装置7が検出した第1放電時間が第2閾値よりも長い場合すなわち、流速推定部83で推定される流速が第1設定値Vp1よりも低い場合)について説明する。この場合、横渦の中心位置は、シリンダー11における排気バルブ22側に傾いている。図11のチャート1103に示すように、補助点火制御部84は、第2補助点火1109を実行するように、点火装置7を制御する。点火プラグ25は、圧縮行程の後半の第2作動時期において、第2補助点火1109を実行する。第2補助点火1109の実行時期は、第1補助点火1108の実行時期よりも遅い。
図15のP1503及びP1504は、横渦の中心位置が排気バルブ22側に傾いている場合における、シリンダー11内の流動の変化と、プラズマの分布とを説明する図である。横渦の中心が排気バルブ22側に傾いている場合、P1503に例示するように、圧縮行程後半におけるシリンダー11内の速度分布は、ライナー付近において極端に速い流速が存在する。
圧縮行程の後半の遅いタイミングにおいて、シリンダー11内の中央部の点火プラグ25において生成されたプラズマは、径方向の外方へ搬送されると共に、周方向の速い流速の流れに乗ることで、ライナーに沿って周方向に、速やかに吸気バルブ21側まで運ばれる。その結果、点火タイミング(P1504)において、補助燃料の噴霧が重なり合い、吸気バルブ21側の混合気の温度が高まる。
第2補助点火1109の実行後、主点火制御部82は、点火プラグ25を用いて、圧縮行程後半の、圧縮上死点付近における所定のタイミングで、混合気に点火する(チャート1103の主点火1107参照)。前述したように、火炎は、中心位置がずれた横渦によって伝播方向が曲げられる結果、吸気バルブ側へ伝播しにくいが、吸気バルブ側の混合気の温度が高いため、吸気バルブ側への火炎伝播が促進される。その分、燃焼速度が高くなり、燃焼速度は放電時間が第1閾値と第2閾値との間である場合(推定流速が第1設定値Vp1と第2設定値Vp2との間である場合)と同程度に高まる。よって、エンジン1の燃焼変動が抑制される。
従って、シリンダー11内における流動状態に応じて、補助点火を行うことにより、吸気流動の状態がサイクル毎にばらついて、横渦の中心位置がばらついても、ECU10は、燃焼速度を同じ、又は、略同じにすることができるから、エンジン1の燃焼変動が抑制できる。
尚、第1放電、第2放電、第1補助点火、第2補助点火、及び、主点火のそれぞれにおいて、点火プラグ25に付与されるエネルギーは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。また、第1補助点火及び第2補助点火においては、点火プラグ25に対して、例えば短パルスの電圧を繰り返し印加することにより、シリンダー11内に低温プラズマが発生するようにしてもよい。低温プラズマも、火炎伝播を促進し、燃焼速度の向上に寄与できる。
(補助点火のエネルギー量の設定)
前述のように、本実施形態では、ECU10は、吸気行程及び圧縮行程において検査放電(前述の第1及び第2放電)を実行し、検査放電の放電経路の電気的なパラメータから吸気の流速を推定して、該推定流速に応じて補助点火(第1及び第2補助点火)を行う。尚、以下では、前述の第1補助点火と第2補助点火とを区別せずに、単に補助点火ということがある。
図16は、推定流速とエンジン回転数とに基づいて、補助点火のエネルギー量を設定するためのマップである。補助点火のエネルギー量は、補助点火を実行する期間(補助点火期間)の長さによって設定されている。ただし、補助点火のエネルギー量の設定は、補助点火期間の長さに限らず、点火プラグに通電する電流量等によって行ってもよい。また、これらを組み合わせて行ってもよい。縦軸は推定流速であり、横軸はエンジン回転数である。この図16のマップは、ECU10のメモリ102に記憶されている。尚、ここでは、推定流速の値として放電時間の逆数を採用している。前述したように、放電時間が長いほど、点火プラグ25周りの混合気の流速は高いため、図16の縦軸は混合気の流速を反映しているといえる。推定流速として、電圧の傾きを採用したり、図8に示すようなグラフに基づいて放電時間等から算出した流速値を用いたりしてもよい。また、ここでいう推定流速は、第1放電のパラメータから推定される横渦の流速と、第2放電のパラメータから推定される縦渦の流速の両方を含む。
図16に示すように、補助点火は、推定流速が第1設定値Vp1未満の領域と、推定流速が第1設定値Vp1よりも高い第2設定値Vp2よりも高い領域とのそれぞれで実行される。この図16に示す第1設定値Vp1及び第2設定値Vp2は、前述した第1設定値Vp1及び第2設定値Vp2である。
推定流速が第1設定値Vp1未満の領域は、第3設定値Vp3により、第1領域R1と第2領域R2との2つの領域に分けられている。第1領域R1は、推定流速が第3設定値Vp3以下の領域であり、第2領域R2は、推定流速が第3設定値Vp3よりも高くかつ第1設定値Vp1以下の領域である。
図16に示すように、推定流速が第2設定値Vp2よりも高い領域は、第4設定値Vp4により、第3領域R3と第4領域R4との2つの領域に分けられている。推定流速が第2設定値Vp2より高い領域において、第3領域R3は、推定流速が第2設定値Vp2よりも高くかつ第4設定値Vp4以下の領域であり、第4領域R4は、推定流速が第4設定値Vp4よりも高い領域である。
推定流速が第1設定値Vp1と第2設定値Vp2との間の領域は、第5領域R5となっている。
図16に示すように、第1設定値Vp1と第2設定値Vp2とは、エンジン回転数が高いほど推定流速が高い値を有する。つまり、第5領域R5は、エンジン回転数が高いほど推定流速が高い領域に広がっている。これは、エンジン回転数が高いときには、ピストンが下降して吸気する吸気行程の時間が短く、ピストンの下降する速度が高くなるため、吸気流速が高くなり吸、検査放電時における吸気の流速が高くなる。このため、吸気の渦中心が適切な位置にあったとしても、そのときの推定流速は、エンジン回転数が高いときの方が、エンジン回転数が低いときと比較して高くなる。このことから、第1設定値Vp1と第2設定値Vp2とは、エンジン回転数が高いほど推定流速が高い値を有するようになり、第5領域R5は前述のように広がる。
推定流速が第1設定値Vp1未満の領域では、第1領域R1における補助点火期間を第1点火期間とし、第2領域R2における補助点火期間を第2点火期間としたときに、第1点火期間の方が第2点火期間よりも長い。すなわち、エンジン回転数が高いときの方が、混合気がシリンダー11の壁側に偏りやすいため、補助点火のエネルギーを増大させて、シリンダー11内の乱流度合いの低い部分にプラズマの多い領域を広く形成する。図16に示すように、補助点火期間が切り換わる境界である第3設定値Vp3は、推定流速が低いほどエンジン回転数が低い側に位置している。推定流速が第1設定値Vp1未満の領域では、推定流速が第1設定値Vp1に対して低いほど、シリンダー11内では混合気の偏りが大きい。このため、推定流速が低いときには、エンジン回転数が低いときであっても補助点火のエネルギーを増大させることが好ましい。
一方で、推定流速が第2設定値Vp2よりも高い領域では、補助点火期間は、第3領域R3における補助点火期間を第3点火期間とし、第4領域R4における補助点火期間を第4点火期間としたときに、第4点火期間の方が第3点火期間よりも長い。推定流速が第2設定値Vp2よりも高い領域では、推定流速が第2設定値Vp2に対して高いほど、シリンダー11の側壁に吸気が押し付けられるため、シリンダー11内では混合気の偏りが大きい。
このため、第4領域R4の方が第3領域R3よりも補助点火のエネルギーを増大させることが好ましい。図16に示すように、第4設定値Vp4は、エンジン回転数が高いほど推定流速が低い側に位置する。エンジン回転数が高いときには、圧縮行程でも吸気流動の慣性力が大きいため、主点火時における混合気の偏りが大きくなる。このため、推定流速が第2設定値Vp2よりも高い領域では、エンジン回転数が高いときの方が、推定流速が相対的に低いときから補助点火のエネルギーを増大させることが好ましい。
第5領域R5では、吸気の渦の中心が適切な位置、すなわち、気筒軸の近傍でかつ気筒軸方向の中央の位置に位置するため、補助点火を実行しない。補助点火期間は0である。
尚、図16のマップは、推定流速として用いる値によって、第1設定値Vp1、第2設定値Vp2、第3設定値Vp3、及び第4設定値Vp4の形状が多少変形するが、各領域R1~R5における補助点火期間の関係は変化しない。
図17は、エンジン回転数が図16に示すエンジン回転数Roのときにおける、推定流速に対する補助点火期間の変化を示している。第1領域R1では、推定流速が低いほど第1点火期間を長くする。また、第2領域R2でも、第1領域R1と同様に、推定流速が低いほど第2点火期間を長くする。推定流速が第1設定値Vp1未満の領域では、推定流速が低いほど、シリンダー11内に乱流度合いが低い領域が形成されやすく、広い範囲にプラズマの多い領域を形成する必要があるためである。また、第1点火期間と第2点火期間とは、第3設定値Vp3を境に大きく変化し、不連続になっている。尚、推定流速に対する第1点火期間の傾きと、推定流速に対する第2点火期間の傾きとは、同じでもよく、異なっていてもよい。
推定流速が第1設定値Vp1と第2設定値Vp2との間にある領域R5では、補助点火を実行しないため、上述したように、補助点火期間は0となる。
第3領域R3及び第4領域R4では、推定流速が高いほど第3点火期間及び第4点火期間を長くする。前述したように、推定流速が第2設定値Vp2よりも高い領域では、推定流速が高いほど、シリンダー11内に乱流度合いが低い領域が形成されやすく、広い範囲にプラズマの多い領域を形成する必要がある。
そこで、点火プラグ25周りの推定流速が高いほど補助点火のエネルギー量を大きくして、シリンダー11内の吸気側にプラズマの多い領域を適切に形成する。また、第3点火期間と第4点火期間は、第4設定値Vp4を境に大きく変化し、不連続になっている。尚、推定流速に対する第3点火期間の傾きと、推定流速に対する第4点火期間の傾きとは、同じでもよく、異なっていてもよい。
一方で、図18は、推定流速が図16に示す推定値VAのときにおける、エンジン回転数に対する補助点火期間の変化を示している。推定流速が一定の場合には、第1点火期間及び第2点火期間ともに、エンジン回転数にかかわらず一定である。尚、図示は省略しているが、第3点火期間及び第4点火期間も、推定流速が一定である場合には、エンジン回転数にかかわらず一定である。
このように、検査放電における放電経路のパラメータから推定される推定流速と、エンジン回転数とに基づいて、補助点火のエネルギー(つまり、補助点火期間)を調整することで、シリンダー11内における火炎伝播がしにくい領域にプラズマの多い領域を適切に形成することができる。この結果、シリンダー11全体に火炎伝播しやすくなり、燃焼速度を安定させることができる。
図19は、点火プラグ25による補助点火、および主点火のタイミングを示す。図19(a)はエンジンの状態が第1領域R1に属するときの各タイミングであり、図19(b)はエンジンの状態が第2領域R2に属するときの各タイミングである。尚、図19では、推定流速が同じ場合を示している。
図19に示すように、エンジンの状態が第1領域R1及び第2領域R2のいずれに属しているときでも、インジェクタ6により吸気行程において主燃料噴射が実行される。
主燃料噴射の後、点火プラグ25により第1放電及び第2放電が実行される。第1放電は、吸気行程中に実行され、第2放電は、吸気バルブ21が閉弁した後、特に圧縮行程の前半に実行される。
第1及び第2放電の後、圧縮行程の後半において、主点火によって燃焼が開始される前に、補助点火が実行される。前述したように、第1点火期間の方が第2点火期間よりも長く設定されている。このため、補助点火制御部84は、エンジンの状態が第1領域R1のときの方が、第2領域R2のときよりも、点火プラグ25での放電時間を長くする。
そして、補助点火の後、ピストン3が圧縮上死点に至る前に、主点火制御部82により、再度、点火プラグ25が作動されて、混合気を燃焼させるべく、主点火が実行される。このときには、補助点火により、シリンダー11内の乱流度合いの低い部分に、プラズマの多い高エネルギーな領域が形成されているため、シリンダー11全体に火炎が速やかに伝播する。
(フローチャート)
次に、図20及び図21を参照しながら、ECU10の補助点火制御の処理動作について説明する。
まず、ステップS1において、ECU10は、各センサSW1~SW9からの情報を取得する。
次に、ステップS2において、ECU10は、要求トルクを算出する。ECU10は、アクセル開度センサSWOの検出結果に基づいて要求トルクを算出する。このステップS2で算出される要求トルクは、補助点火期間を算出する際の判定負荷に相当する。
次いで、ステップS3において、ECU10は、主燃料噴射の噴射量と噴射時期とを設定する。
続いて、ステップS4において、ECU10は、点火時期を設定する。この点火時期は、混合気を燃焼させるための主点火の時期である。
次に、ステップS5において、ECU10は、検査放電の時期を設定する。このステップS5において、ECU10は、第1放電の時期と第2放電の時期とをそれぞれ設定する。ECU10は、第1放電の時期を、吸気行程の時期に設定するとともに、第2放電の時期を、吸気バルブ21が閉じた後の圧縮行程の前半に設定する。
次いで、ステップS6において、ECU10は、前記ステップS5で設定した時期に検査放電を実行する。ECU10は、点火装置7から、第1及び第2放電において点火プラグ25に発生した放電経路の放電時間をそれぞれ取得する。
続いて、ステップS7において、ECU10は、シリンダー11内の混合気の流速を推定する。ここでは、ECU10は、前記ステップS6の検査放電の放電時間の逆数を推定流速として算出する。
続いて、ステップS8において、ECU10は、前記ステップS7で算出した推定流速が第1設定Vp1以下であるか否かを判定する。ECU10は、推定流速が第1設定値Vp1未満であるYESのときには、ステップS9に進む。一方で、ECU10は、推定流速が第1設定値Vp1より高いNOのときには、ステップS12に進む。ECU10は、横渦の推定流速及び縦渦の推定流速のうち少なくとも一方が第1設定値Vp1未満であれば、このステップS8においてYESであると判定する。
前記ステップS9では、ECU10は、エンジン回転数と、前記ステップS7において算出された推定流速とから、エンジン1の状態が第1領域R1に属しているか否か、すなわち、推定流速が第3設定値Vp3以下であるか否かを判定する。ECU10は、図16に示したマップを読み込んで判定を行う。ECU10は、エンジン1の状態が第1領域R1に属しているYESのときには、ステップS10に進む。一方で、ECU10は、エンジン1の状態が第2領域R2に属しているNOのときには、ステップS11に進む。
前記ステップS10では、ECU10は、補助点火期間を第1点火期間に設定する。このときECU10は、前記ステップS7において推定した推定流速に応じて、第1点火期間を長短に設定する。ECU10は、ステップS10の後は前記ステップS17に進む。
前記ステップS11では、ECU10は、補助点火期間を第2点火期間に設定する。このときECU10は、前記ステップS7において推定した推定流速に応じて、第2点火期間を長短に設定する。ECU10は、ステップS11の後は前記ステップS17に進む。
一方、図21に示すように、前記ステップS8においてNOのときに進むステップS12では、ECU10は、前記ステップS7で算出された推定流速が第2設定値Vp2よりも高いか否かを判定する。ECU10は、推定流速が第2設定値Vp2よりも高いYESのときには、ステップS14に進む。一方で、ECU10は、推定流速が第2設定値Vp2以下であるNOのときには、ステップS13に進む。ECU10は、第1推定流速及び第2推定流速のうち少なくとも一方が第2設定値Vp2よりも高いのであれば、このステップS12においてYESであると判定する。
前記ステップS13では、ECU10は、エンジン1の状態が第5領域R5に属するとして、補助点火は不要と判断する。ECU10は、ステップS13の後はリターンする。
前記ステップS14では、ECU10は、エンジン回転数と、前記ステップS7において算出された推定流速とから、エンジンの状態が第3領域R3に属しているか否か、すなわち、推定流速が第4設定値Vp4以下であるか否かを判定する。ECU10は、図16に示したマップを読み込んで判定を行う。ECU10は、エンジンの状態が第3領域R3に属しているYESのときには、ステップS15に進む。一方で、ECU10は、エンジンの状態が第4領域R4に属しているNOのときには、ステップS16に進む。
前記ステップS15では、ECU10は、補助点火期間を第3点火期間に設定する。このときECU10は、前記ステップS7において推定した推定流速に応じて、第3点火期間を長短に設定する。ECU10は、ステップS15の後は前記ステップS17に進む。
前記ステップS16では、ECU10は、補助点火期間を第4点火期間に設定する。このときECU10は、前記ステップS7において推定した推定流速に応じて、第4点火期間を長短に設定する。ECU10は、ステップS16の後は前記ステップS17に進む。
そして、図20に示すように、前記ステップS10,S11,S15,S16の後に進むステップS17では、ECU10は、補助点火を実行する時期を設定する。ECU10は、前記ステップS7で算出した推定流速が第1設定値Vp1未満であるときには、補助点火の実行時期を圧縮行程の後半の時期に設定する一方で、前記ステップS7で算出した推定流速が第2設定値Vp2よりも高いときには、補助点火の実行時期を圧縮行程の前半又は後半の時期に設定する。ECU10は、ステップS17の後はリターンする。
ECU10は、フローチャートの後、補助点火を実行する。これにより、シリンダー11内の渦の状態に応じて、乱流度合いの低い領域にプラズマの多い高エネルギーな領域を形成することができ、シリンダー11全体の燃焼速度を安定させることができる。
(まとめ)
したがって、本実施形態では、前記エンジンの運転状態を検出する運転状態検出器(センサSW1~Sw9)と、点火装置7、インジェクタ6、及び前記運転状態検出器に電気的に接続されたECU10とを備える。ECU10は、前記運転状態検出器(特に、アクセル開度センサSW7)が検出するエンジン負荷に基づいて、主となる燃料噴射の時期である主燃料噴射時期を設定して、該主燃料噴射時期に主燃料噴射を行うようにインジェクタ6を制御する主燃料噴射部81と、混合気が着火しない時期に、点火プラグ25の電極間に電圧を負荷しかつ該電極間に生じた放電経路の電流値に関するパラメータを検出するための検査放電を実行するように点火装置7を制御して、その検査放電におけるパラメータからシリンダー11内における吸気の流速の高低を推定する流速推定部83と、流速推定部83により推定された推定流速が、第1設定値Vp1未満であるか又は該第1設定値Vp1よりも高い第2設定値Vp2よりも高いときに、主燃料噴射時期よりも遅角側で点火装置7を制御することによって補助点火を実行し、シリンダー11の中に点火によるエネルギーを付与する補助点火制御部84と、を有する。
第1設定値Vp1及び第2設定値Vp2は、前記運転状態検出器(特に、クランク角センサSW6)が検出するエンジン回転数が高いほど推定流速が高い側に位置する。このように、エンジン回転数によるシリンダー11内の吸気流動の違いに応じて、補助点火を実行する設定値を適切に変更することで、乱流状態が弱く、火炎伝播しにくい領域における混合気の燃焼を適切に促進させることができる。この結果、燃焼速度を安定させることができ、燃焼変動を抑制することができる。
特に、本実施形態では、補助点火制御部84は、推定流速が、第1設定値Vp1よりも低い領域に設定された第3設定値Vp3以下であるときには、推定流速が第3設定値Vp3よりも高くかつ第1設定値Vp1未満であるときと比較して、補助点火のエネルギーを増大させるように構成されており、第3設定値Vp3は、推定流速が低いほどエンジン回転数が低い側に位置する。
エンジン回転数が高いときには、ピストン3が下降して吸気する吸気行程の時間が短く、ピストン3の下降する速度が高くなるため、吸気流速が高くなり、圧縮行程でも吸気流動の慣性力が大きい。吸気流動の慣性力が大きいと混合気がシリンダー11の側壁に押し付けられやすい。つまり、エンジン回転数が低いときと比較すると、エンジン回転数が高いときの方が主点火における混合気の偏りが大きくなる。推定流速が第1設定値Vp1から低い側に離れるほど、反一方向流動が強く形成されるため、このエンジン回転数の影響が大きくなる。
このため、推定流速が第3設定値Vp3以下であるときには、補助点火のエネルギーを増大させる。さらに、第3設定値Vp3をエンジン回転数が高いほど推定流速が高い側に位置するようにすることで、エンジン回転数が高いほど補助点火のエネルギーを増大させる条件を拡大させる。これにより、エンジン回転数が高いときであってもシリンダー11全体に火炎伝播しやすくなって、燃焼速度を安定させることができる。この結果、燃焼変動をより効果的に抑制することができる。
また、本実施形態では、補助点火制御部84は、推定流速が、第2設定値Vp2よりも高い領域に設定された第4設定値Vp4より高いときには、推定流速が第4設定値Vp4以下でかつ第2設定値Vp2よりも高いときと比較して、補助点火のエネルギーを増大させるように構成され、第4設定値Vp4は、エンジン回転数が高いほど推定流速が低い側に位置する。推定流速が第2設定値から高い側に離れるほど、正一方向流動が強く形成されるため、エンジン回転数の影響が大きくなる。
そこで、推定流速が第4設定値Vp4よりも高いときには、補助点火のエネルギーを増大させる。また、第4設定値Vp4をエンジン回転数が高いほど推定流速が低い側に位置するようにして、エンジン回転数が高いほど補助点火のエネルギーを増大させる条件を拡大させる。これにより、エンジン回転数が高いときであってもシリンダー11全体に火炎伝播しやすくなって、燃焼速度を安定させることができる。この結果、燃焼変動をより効果的に抑制することができる。
尚、前述の実施形態では、インジェクタ6は、吸気行程中に主燃料噴射を実行していた。これに限らず、インジェクタ6は、圧縮行程中に主燃料噴射を実行してもよい。点火プラグ25は、第1放電を、主燃料噴射よりも後に行ってもよいし、主燃料噴射よりも前に行ってもよい。同様に、点火プラグ25は、第2放電を、主燃料噴射よりも後に行ってもよいし、主燃料噴射よりも前に行ってもよい。
1 エンジン
6 インジェクタ(燃料噴射弁)
7 点火装置
10 ECU(制御器)
11 シリンダー
21 吸気バルブ
25 点火プラグ
81 主燃料噴射部
83 流速推定部
84 補助点火制御部
SW6 クランク角センサ(運転状態検出器)

Claims (3)

  1. ペントルーフ型の天井部を有するシリンダーと、該シリンダーの中央部に配置された点火プラグを含む点火装置と、前記シリンダーの中央部に配置された燃料噴射弁とを有するエンジンを備えたエンジンシステムであって、
    前記エンジンの運転状態を検出する運転状態検出器と、
    前記点火装置、前記燃料噴射弁、及び前記運転状態検出器に電気的に接続された制御器と、を更に備え、
    前記制御器は、
    前記運転状態検出器が検出するエンジン負荷に基づいて、主燃料の噴射量とその噴射時期である主燃料噴射時期を設定して、該主燃料噴射時期に設定した量の前記主燃料を噴射するように前記燃料噴射弁を制御する主燃料噴射部と、
    混合気が着火しない時期に、前記点火プラグの電極間に電圧を負荷しかつ該電極間に生じた放電経路の電流値に関するパラメータを検出するように前記点火装置を制御して、前記パラメータから前記シリンダー内における吸気の流速の高低を推定する流速推定部と、
    前記流速推定部により推定された推定流速が、予め設定された第1設定値未満であるか又は該第1設定値よりも高い第2設定値よりも高いときに、主点火によって混合気を着火する時期よりも進角側で前記点火装置を制御することによって補助点火を実行し、前記シリンダーの中に点火によるエネルギーを付与する補助点火制御部と、
    を有し、
    前記第1設定値及び前記第2設定値は、前記運転状態検出器が検出するエンジン回転数が高いほど前記推定流速が高い側に位置することを特徴とするエンジンシステム。
  2. 請求項1に記載のエンジンシステムにおいて、
    前記補助点火制御部は、前記推定流速が、前記第1設定値よりも低い領域に設定された第3設定値未満であるときには、前記推定流速が前記第3設定値よりも高くかつ前記第1設定値未満であるときと比較して、前記補助点火のエネルギーを増大させるように構成されており、
    前記第3設定値は、前記推定流速が低いほどエンジン回転数が低い側に位置することを特徴とするエンジンシステム。
  3. 請求項1又は2のいずれか1つに記載のエンジンシステムにおいて、
    前記補助点火制御部は、前記推定流速が、前記第2設定値よりも高い領域に設定された第4設定値より高いときには、前記推定流速が前記第4設定値未満でかつ前記第2設定値よりも高いときと比較して、前記補助点火のエネルギーを増大させるように構成され、
    前記第4設定値は、エンジン回転数が高いほど前記推定流速が低い側に位置することを特徴とするエンジンシステム。
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