JP2022076466A - 空間遮へい構造 - Google Patents
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Abstract
【課題】簡易な構成で空間を遮へいする。【解決手段】空間遮へい構造1は、上昇気流を発生させる発熱部3を有する。発熱部3は、少なくとも一人の人間が留まるようにされた第1の空間S1と、少なくとも一人の別の人間が上記少なくとも一人の人間と対向して留まるようにされた第2の空間S2との境界Bに沿って設けられる。【選択図】図1
Description
本発明は空間遮へい構造に関し、特に上昇気流を利用した空間遮へい構造に関する。
気流を利用して空間を仕切る空間遮へい構造として、エアカーテンが一般的に利用されている。エアカーテンは通常、空気の下降流によって空間を仕切るが、空気の上昇流によって空間を仕切るものも知られている。特許文献1には、上向きの吹出口を設けた送風機を床に埋設したエアカーテン装置が開示されている。特許文献2には、汚染源を取り囲む上昇気流を形成する上昇気流放出口と、上昇気流放出口の上方に設けた排気用の天蓋フードと、を有する作業環境清浄化装置が開示されている。
近年、感染症対策の一環として、様々な施設において人の呼気が他の人に直接かからない方策を講じることが望まれている。上昇気流を利用する方策は一つの解決策となり得るが、ファンと帯状の送風口を必要とするため、設備が大掛かりになり、特に既設の建物への導入は現実的でない。また、送風口から吐き出された気流は上方に行くほど弱まり、乱れる(拡散する)ため、安定した上昇気流を形成しにくい場合がある。
本発明は、簡易な構成で空間を遮へいすることのできる空間遮へい構造を提供することを目的とする。
本発明の空間遮へい構造は、上昇気流を発生させる発熱部を有する。発熱部は、少なくとも一人の人間が留まるようにされた第1の空間と、少なくとも一人の別の人間が上記少なくとも一人の人間と対向して留まるようにされた第2の空間との境界に沿って設けられる。
本発明によれば、簡易な構成で空間を遮へいすることのできる空間遮へい構造を提供することができる。
以下、本発明の空間遮へい構造のいくつかの実施形態について説明する。本発明が対象とする空間は、人間が対面した状態で一定時間過ごすようにされた任意の空間であり、特に細菌やウイルスが伝染する可能性のある空間である。「一定時間」は、空間内の人間の密集度、換気状態、対象とする細菌やウイルスの伝染力などによって適宜決められるもので、本発明では限定されない。本発明が対象とする空間の例としては、オフィス、飲食店、喫茶店、図書館の閲覧室など、比較的長時間人間が滞在する空間が典型例であるが、商業施設におけるレジ、駅、銀行、映画館等の窓口、医療機関、会議室なども含まれる。また、対面状態が一定時間継続する可能性のある空間であれば、一対一または少人数対少人数の対面状態が想定される空間だけでなく、劇場、ホール、学校の教室などのように、一人または複数の人間が、多人数と対面する空間にも、本発明は適用可能である。空間としては、室内などの閉じた空間が典型的であるが、屋根の付いた半屋外空間、完全な屋外空間であってもよい。
図1は、本発明の第1の実施形態に係る空間遮へい構造1の概要図である。空間遮へい構造1は、人間が滞在可能な空間を上昇気流によって仕切り、仕切られた一方の空間と他方の空間との間で、それぞれの空間に含まれる微粒子、飛沫などが相互に移動することを抑制する。以下の説明では、一方の空間を第1の空間S1といい、他方の空間を第2の空間S2という。第1の空間S1と第2の空間S2は境界Bを介して隣接している。第1の空間S1には少なくとも一人の人間が留まるようにされ、第2の空間S2には少なくとも一人の別の人間が、第1の空間S1に滞在する人間と対向して留まるようにされている。
本実施形態では、第1の空間S1に第1の机D1が設けられ、第2の空間S2に、第1の机D1と対向する第2の机D2が設けられている。従って、第1の机D1を使用する人間と第2の机D2を使用する人間は対向して座ることになる。第1の空間S1と第2の空間S2の境界B、すなわち、第1の机D1と第2の机D2の境界にはパーティション2が設けられている。パーティション2は第1の空間S1と第2の空間S2の境界Bに沿って設けられ、第1の机D1と第2の机D2を仕切る板状体である。パーティション2の種類は限定されず、既存のパーティションを利用することもできる。
図2(a)はパーティション2の斜視図、図2(b)は図2(a)のA-A線に沿った断面図である。発熱部3が矩形のパーティション2に取り付けられている。パーティション2は第1の机D1または第2の机D2に直接固定されており、パーティション2と第1及び第2の机D1,D2との間には高さ方向のギャップが設けられていない。これによって、パーティション2自体の空間遮へい効果が得られる。発熱部3は、パーティション2の両面に、すなわち第1の空間S1と第2の空間S2の境界Bに沿って設けられている。発熱部3は帯状の発熱体であり、市販のリボンヒータを用いることができる。発熱部3はパーティション2の下辺に沿って、概ね長手方向が水平方向を向く向きで設けられている。これによって、パーティション2の側面に上昇気流を形成し、パーティション2に達した呼気をパーティション2の側面に沿って上昇させることができる。
発熱部3は両面テープ、接着剤、クランプなどの任意の固定手段4によってパーティション2に固定されている。発熱部3はパーティション2の少なくとも片面に設けられればよい。パーティション2の片面だけに設ける場合、発熱部3の設置の手間が低減でき、コストも低減できる。パーティション2の両面に設ける場合、必要な熱量の確保が容易である。発熱部3は電気式のヒータであるため、コンセントが近くにあれば、接続のための追加設備を要しない。従って、電気式のヒータを用いる空間遮へい構造1は、ファンなどで上昇気流を発生させる設備と比べてコストダウンが可能である。発熱部3は温水または熱水の通る配管でもよい。図2(c)に示すように、パーティション2の両側側面(または、片側側面)に加えて、上面に発熱部3を設けることもできる。ヒータの出力が不足する場合、上面に発熱部3を設けることで必要な熱量を得ることができる。発熱部3のオンオフ、発熱量などは制御装置(図示せず)によって制御可能であることが好ましい。また、人感センサ、温度センサ、タイマ等でオンオフや発熱量を制御することも好ましい。
図3は発熱部3を設けない場合の呼気の流れを示す概念図である。図3(a)に示すようにパーティション2も発熱部3も設けない場合、人間の呼気は対面する人間に容易に到達し、空間遮へい効果は全く期待できない。図3(b)に示すようにパーティション2を設ける場合、パーティション2の遮へい効果によって、対面する人間に到達する呼気の量は低減する。しかし、後述する実施例で述べるように、パーティション2で呼気がはね返され、後方に呼気が拡散しやすくなる。このため、オフィスなど多くの人間が滞在する空間では、十分な空間遮へい効果が得られない。
これに対して、本実施形態では、図1に示すように、発熱部3が上昇気流を発生させる。上昇気流に随伴して呼気が上昇するため、対面する人間に到達する呼気の量が減るだけでなく、後方に拡散する呼気の量も低減する。なお、本発明において重要なのは、空気を加熱することで上昇気流を発生させることであり、パーティション2は必須の構成要素ではない。後述する実施例で述べるように、パーティション2を設けなくても上昇気流による空間遮へい効果が得られる。発熱部3の発熱量は少なくとも10W/mあることが好ましい。
発熱部3の表面の放射率は0.1以下であることが好ましい。発熱部3として市販のリボンヒータを用いる場合、例えば放射率が0.1以下の材料で作成されたカバーでリボンヒータを覆うことができる。放射率が0.1以下の材料としてはアルミニウム、鉄、銅、ニッケル(いずれも表面を研磨したもの)などが挙げられる。放射(輻射)が制限されるために、熱の多くが空気の加熱に利用される結果、対流熱伝達が促進され、空気の上昇気流が効率的に形成される。また、人間が受ける放射熱が制限されるため、体感的な暑さを和らげることができる。
図2(b),2(c)に示すように、発熱部3は通気性のカバー5で覆うことができる。カバー5は例えば金属製または樹脂製の網状体や格子、穴の開いたパイプで形成することができる。人が直接発熱部3に触れることが防止されるため、火傷などを起こす可能性が低減する。発熱部3の温度が低い場合、または発熱部3への接近を防止する手段が別途設けられる場合は、カバー5を省略することもできる。
図1に示すように、第1の空間S1と第2の空間S2を含む空間を置換空調してもよい。置換空調では床面またはその近傍から給気6が行われ、天井面の排気口から排気7が行われる。空調による上昇気流が形成されるため、発熱部3で形成される加温空気がより確実に上昇し、人間の呼気を効率的に排気することができる。
図4,5は発熱部3の様々な設置方法を示す概念図である。図4(a)に示す例では、パーティション2と第1及び第2の机D1,D2の間に、ギャップGが設けられている。すなわち、パーティション2は第1及び第2の机D1,D2から持ち上げられた位置に配置されている。パーティション2は複数の支持脚9で支持されている。支持脚9は板材やテープからなるベース15に固定され、ベース15は第1及び第2の机D1,D2に設置されている。ギャップGは第1の空間S1と第2の空間S2を連通させる。ギャップGを設けることによって、対向して座る人間同士の声が通りやすくなるため、円滑なコミュニケーションが可能となる。ギャップGは第1及び第2の机D1,D2の幅方向全域に一定の高さで設けられているが、幅方向の一部だけに設けてもよい。あるいは、図2に示すギャップGのないパーティション2に、パーティション2を貫通する複数の開口やスリットを設けてもよい。図示は省略するが、パーティション2は上下方向に可動でもよく、ギャップGの高さが可変でもよい。
図4(b)に示す例では、発熱部3はパーティション2の下辺に沿って設けられ、パーティション2には、さらに金属製の複数の帯状体10が設けられている。帯状体10は発熱部3に接続され、発熱部3に対して上方に延びている。帯状体10は金属プレート、金属箔などであってよい。熱が帯状体10を伝達することで、発熱部3が実質的に2次元状に構成され、上昇気流を効率的に形成することができる。
図4(c)に示す例では、発熱部3はベース15を介して第1または第2の机D1,D2の机上に設けられている。パーティション2は設けられておらず、発熱部3の発熱面は側方を向いている。発熱部3は両面から発熱するため一つ設ければよいが、発熱部3を保持する板状の基板(図示せず)を介して2枚の発熱部3を設けてもよい。図4(d)に示す例では、発熱部3は発熱面が上方を向いて、ベース15を介して第1または第2の机D2の机上に設けられている。図4(e)に示す例では、棒状の基板11の両側側面と上面に合計3つの発熱部3が設けられている。ヒータの出力が不足する場合、このようにして発熱部3の数を増やすことで必要な熱量を得ることができる。
図5に示す例では、発熱部3は架空状態で設けられている。図5(a)に示す例では、発熱部3は下方から複数の支持脚9で支持されている。支持脚9は板材やテープからなるベース15に固定され、ベース15は第1及び第2の机D1,D2に設置されている。図5(b)に示す例では、図5(a)に示す発熱部3が上下方向に複数段設けられている。発熱部3が2次元状に構成されるため、上昇気流を効率的に形成することができる。図5(c)に示す例では、発熱部3は上方から支持構造体12で懸架されている。発熱部3はニクロム線など発熱性の高い材料で形成された線状体である。図5(d)に示す例では、図5(c)に示す発熱部3が上下方向に間隔をおいて複数段設けられている。発熱部3が2次元状に構成されるため、図5(b)に示す例と同様、上昇気流を効率的に形成することができる。図5(a),(b)に示す例で線状体を用いてもよく、図5(c),(d)に示す帯状体を用いてもよい。発熱部3が架空状態で設けられる場合も、図5(e)に示すようにカバー5を設けることができる(同図は線状体の例を示しているが、帯状体の場合も同様である)。発熱部3が剛性の小さな線状体である場合、カバー5は線状体を収容保持する「さや」として用いることができ、支持脚9または支持構造体12はカバー5に取り付けることができる。図5(f)に示すように、図4(e)と同様、基材11の両側側面と上面に合計3つの帯状の発熱部3を取り付けて、架空設置してもよい。図5に示す例ではパーティションが設けられていないため、特に飲食店、会議室などコミュニケーションが求められる場所に好適に使用することができる。
図6は本発明の第2の実施形態に係る空間遮へい構造1の概要図である。図6(a)は空間遮へい構造1の正面図、図6(b)は斜視図、図6(c)は図6(b)のA―A線に沿った断面図である。発熱部3は段差に設けられている。具体的には、第1の空間S1の床面F1と第2の空間S2の床面F2との間に段差が設けられ、発熱部3は第1の空間S1の床面と第2の空間S2の床面とをつなぐ側面13に設けられている。本実施形態は、例えばステージのように、第1の空間S1が第2の空間S2より上方にある場合に適用することができる。図6(c)に示すように、発熱部3と段差の側面13との間に断熱材14を設けてもよい。これによって発熱部3の発熱が側面13に伝達することが防止または抑制され、発熱部3の発熱を空気の加熱に効率的に利用することができる。断熱材14は側面13を構成する材料より熱伝導率の低い材料である限り限定されない。前述の実施形態と同様、発熱部3は通気性のカバー5で覆うことができる。図6(b)に破線で示すように、第1の空間S1と第2の空間S2との間にパーティション2を設置してもよく、その場合、発熱部3はパーティション2に設けてもよい。
(実施例)
次に、シミュレーションによって、さまざまな形態の空間遮へい構造1の特性を評価した。シミュレーションは図7に示す解析空間を対象に、熱流体解析ソフトFlow Designer 2020を使って行った。シミュレーションにおけるパーティション2と発熱部3の寸法を図8に示す。図8(a)は斜視図、図8(b)は図8(a)のA―A線に沿った断面図である。図9は比較例と参考例と実施例の概要を示している。解析条件を以下に示す。評価項目として、図7に示す対面人物顔面汚染度(以下、顔面汚染度という)、後方汚染度、前方汚染度(単位:個/CFT)を評価した。なお、CFTはキュービックフィートの略で、30.48cm立方、約0.028m3である)。呼気の風量は通常の呼気(風量0.36m3/h)の2倍であり、くしゃみまたは軽い咳に相当する。机の幅と発熱体の長さは等しく、これらの長さLは1.2mとした。
次に、シミュレーションによって、さまざまな形態の空間遮へい構造1の特性を評価した。シミュレーションは図7に示す解析空間を対象に、熱流体解析ソフトFlow Designer 2020を使って行った。シミュレーションにおけるパーティション2と発熱部3の寸法を図8に示す。図8(a)は斜視図、図8(b)は図8(a)のA―A線に沿った断面図である。図9は比較例と参考例と実施例の概要を示している。解析条件を以下に示す。評価項目として、図7に示す対面人物顔面汚染度(以下、顔面汚染度という)、後方汚染度、前方汚染度(単位:個/CFT)を評価した。なお、CFTはキュービックフィートの略で、30.48cm立方、約0.028m3である)。呼気の風量は通常の呼気(風量0.36m3/h)の2倍であり、くしゃみまたは軽い咳に相当する。机の幅と発熱体の長さは等しく、これらの長さLは1.2mとした。
(比較例、参考例1~3、実施例1~4)
比較例は、パーティション、ヒータ、ファンのいずれも設けていない。参考例1はパーティションのみを設けている。参考例2,3はパーティションの両側に送風口を設けている。送風口はファンに接続され、パーティションの下辺に沿って上向きに机上に設置した。参考例2と3は送風口から吐出される空気の風速が異なる。実施例1~3はパーティションの下辺にヒータを設けている。実施例4はヒータをパーティションの下辺に沿って机上に設けている。実施例1~4におけるヒータ幅は1cmである(なお、実施例5~7についても、特記ない場合ヒータ幅は1cmである)。
比較例は、パーティション、ヒータ、ファンのいずれも設けていない。参考例1はパーティションのみを設けている。参考例2,3はパーティションの両側に送風口を設けている。送風口はファンに接続され、パーティションの下辺に沿って上向きに机上に設置した。参考例2と3は送風口から吐出される空気の風速が異なる。実施例1~3はパーティションの下辺にヒータを設けている。実施例4はヒータをパーティションの下辺に沿って机上に設けている。実施例1~4におけるヒータ幅は1cmである(なお、実施例5~7についても、特記ない場合ヒータ幅は1cmである)。
表2に結果を示す。図10(a),10(b)には比較例における風速と汚染度の分布を、図11(a),11(b)には参考例1の風速と汚染度の分布を、図12(a),12(b)には参考例3の風速と汚染度の分布を示している。色が濃い部分は風速と汚染度の高い領域を示している。図中の数字は風速(m/s)と汚染度を示している。比較例は顔面汚染度が高く、前方汚染度も高い。パーティションを設けることによって(参考例1)顔面汚染度と前方汚染度は大幅に低下するが、後方汚染度が増加する。これは図11(b)からわかるように、気流がパーティションで後方にはね返されるためである。これより、パーティションだけでは後方への気流の拡散を有効に防止できないことがわかる。ファンを設ける場合(参考例2,3)、風速による差異が大きい。風速0.2m/s(参考例2)ではほとんど効果が無いが、風速1.0m/s(参考例3)では、顔面汚染度、前方汚染度、後方汚染度とも比較例より大幅に改善される。
実施例1では、パーティションの片側の下辺に沿って、出力100Wの帯状ヒータを設け、実施例2ではパーティションの片側の下辺に沿って、出力50Wの帯状ヒータを設けた。実施例3では、パーティションの両側の下辺に沿って、それぞれ出力50W、合計100Wの帯状ヒータを設けた。実施例4では、パーティションを設けず、机上に直接出力100Wの帯状ヒータを設けた。実施例1~4のなかではパーティションの側面に合計100Wのヒータを設けた実施例1,3が顔面汚染度、前方汚染度、後方汚染度とも比較例に対して大幅に改善されており、参考例3と同等の結果が得られた。実施例1と3はほぼ同等の空間遮へい効果を有するが、片側だけにヒータを付けたほう(実施例1)が、前方汚染度が低下している。実施例2はヒータの出力が低いため実施例1と比べて前方汚染度は増加しているが、比較例よりは良好である。また、参考例1と比べても前方汚染度を除き良好な結果が得られた。実施例4から、パーティションを設けなくても一定の効果があることがわかる。
図13(a),13(b)には実施例4の風速と汚染度の分布を示している。ヒータの上方における風速が小さく、それによって汚染物質の前方への拡散が抑えられている。ヒータ出力が同じである実施例1,3,4を比べると、すべての評価項目で実施例1,3のほうが実施例4よりも優れた結果が得られた。図13と図15(後述)との対比より、ヒータの発熱面が側方を向いている場合、上昇気流の断面積が絞られ、安定した気流が形成される(エアカーテンが面状に形成される)のに対し、ヒータの発熱面が上方を向いている場合、上昇気流の断面積が増加し、上昇気流が拡散しやすくなる(エアカーテンが奥行き方向に広がる)ことが一因であると考えられる。すなわち、帯状の発熱面を有するヒータ(発熱体)の場合、発熱面から引いた垂線が水平方向を向いているほうが有利である。ただし、空間遮へい効果より設置の容易性を重視する場合、実施例4も選択肢となり得る。
(実施例5)
表3と図14にはパーティション頂部高さH1をパラメータとしたときの評価結果を示す。比較のため、比較例、参考例1~3、実施例1の評価結果も併せて示す。横軸はパーティション頂部高さH1、縦軸は各評価項目を示す。顔面汚染度は概ねパーティション頂部高さH1と反比例している。後方汚染度と前方汚染度はパーティション頂部高さH1が30cm程度未満の範囲ではばらつきがみられるが、30cm以上では大きな変動はない。図15には実施例5-11(パーティション頂部高さH1=60cm)の風速と汚染度の分布を示す。風速の高い領域が発熱部3の上方にほぼ鉛直に延びており、前方への汚染物質の拡散が効果的に防止されている。図12に示す参考例3(パーティション+ファン。風速1m/s)と比較すると、参考例3では風速の高い領域が上方にほとんど見られないことがわかる。ファンの場合、空気を上方に持ち上げる駆動力は吹き出し口での風速ないし風量である。このため、上方に行くに従い、周囲の空気の空気抵抗によって風速が低下し、気流が周囲に拡散し弱まったと考えられる。これに対し、本実施例の場合は、空気を上方に持ち上げる駆動力は周囲の空気との温度差、すなわち密度差である。空気の高い断熱性のために温度の高い空気塊は周囲の空気とほとんど混合することなく上昇するため、上方に行っても駆動力の低下が抑えられる。従って、発熱部3を利用した空間遮へい構造1は、ファンを利用した空間遮へい構造1と比べて、空気を弱めたり乱したり(拡散したり)することなく押し上げる効果が原理的に高いと考えられる。この結果、対面する人だけでなく、呼気の周囲への拡散を抑えることが可能となり、呼気にウイルスが含まれる場合には、ウイルスの他者への感染を防止することができる。
表3と図14にはパーティション頂部高さH1をパラメータとしたときの評価結果を示す。比較のため、比較例、参考例1~3、実施例1の評価結果も併せて示す。横軸はパーティション頂部高さH1、縦軸は各評価項目を示す。顔面汚染度は概ねパーティション頂部高さH1と反比例している。後方汚染度と前方汚染度はパーティション頂部高さH1が30cm程度未満の範囲ではばらつきがみられるが、30cm以上では大きな変動はない。図15には実施例5-11(パーティション頂部高さH1=60cm)の風速と汚染度の分布を示す。風速の高い領域が発熱部3の上方にほぼ鉛直に延びており、前方への汚染物質の拡散が効果的に防止されている。図12に示す参考例3(パーティション+ファン。風速1m/s)と比較すると、参考例3では風速の高い領域が上方にほとんど見られないことがわかる。ファンの場合、空気を上方に持ち上げる駆動力は吹き出し口での風速ないし風量である。このため、上方に行くに従い、周囲の空気の空気抵抗によって風速が低下し、気流が周囲に拡散し弱まったと考えられる。これに対し、本実施例の場合は、空気を上方に持ち上げる駆動力は周囲の空気との温度差、すなわち密度差である。空気の高い断熱性のために温度の高い空気塊は周囲の空気とほとんど混合することなく上昇するため、上方に行っても駆動力の低下が抑えられる。従って、発熱部3を利用した空間遮へい構造1は、ファンを利用した空間遮へい構造1と比べて、空気を弱めたり乱したり(拡散したり)することなく押し上げる効果が原理的に高いと考えられる。この結果、対面する人だけでなく、呼気の周囲への拡散を抑えることが可能となり、呼気にウイルスが含まれる場合には、ウイルスの他者への感染を防止することができる。
(実施例6)
表4と図16には、机との間に10cmのギャップを設け、パーティション頂部高さH1をパラメータとしたときの評価結果を示す。顔面汚染度はパーティション頂部高さH1が増えるに従い増加する傾向があり、後方汚染度と前方汚染度はパーティション頂部高さH1が増えるに従い減少する傾向がある。図17には実施例6-1の、図18には実施例6-4の風速と汚染度の分布を示す。実施例6-4ではパーティション高さH2が実施例6-1より大きいにも拘わらず、顔面汚染度が悪くなっている。これはパーティションがあることで呼気がパーティションの前面に滞留し、呼気の一部がパーティション下のギャップからパーティションの裏側に回り込んだためと考えられる。実施例6-1では、パーティション頂部高さH1は低いが、パーティションの上方に上昇気流が形成されている。つまり、実施例6-1では、実施例6-4におけるパーティションのある位置にパーティションはなく、上昇気流が存在している。このため、呼気がパーティションの前面に滞留することなく、上部に排出されたものと考えられる。ギャップを設ける場合、顔面汚染度に関する限り、パーティション高さH2は小さいほうが有利で、パーティション高さH2は少なくともギャップの高さより小さいほうが好ましい。また、実施例6は、ギャップを設けない実施例5と比べると、パーティション頂部高さH1=30cm程度までの範囲では同等となっており、ギャップを設けることによるコミュニケーション性の改善が可能となる。
表4と図16には、机との間に10cmのギャップを設け、パーティション頂部高さH1をパラメータとしたときの評価結果を示す。顔面汚染度はパーティション頂部高さH1が増えるに従い増加する傾向があり、後方汚染度と前方汚染度はパーティション頂部高さH1が増えるに従い減少する傾向がある。図17には実施例6-1の、図18には実施例6-4の風速と汚染度の分布を示す。実施例6-4ではパーティション高さH2が実施例6-1より大きいにも拘わらず、顔面汚染度が悪くなっている。これはパーティションがあることで呼気がパーティションの前面に滞留し、呼気の一部がパーティション下のギャップからパーティションの裏側に回り込んだためと考えられる。実施例6-1では、パーティション頂部高さH1は低いが、パーティションの上方に上昇気流が形成されている。つまり、実施例6-1では、実施例6-4におけるパーティションのある位置にパーティションはなく、上昇気流が存在している。このため、呼気がパーティションの前面に滞留することなく、上部に排出されたものと考えられる。ギャップを設ける場合、顔面汚染度に関する限り、パーティション高さH2は小さいほうが有利で、パーティション高さH2は少なくともギャップの高さより小さいほうが好ましい。また、実施例6は、ギャップを設けない実施例5と比べると、パーティション頂部高さH1=30cm程度までの範囲では同等となっており、ギャップを設けることによるコミュニケーション性の改善が可能となる。
(実施例7)
表5と図19には、ヒータを架空状態で設け、パーティション頂部高さH1をパラメータとしたときの評価結果を示す。本実施例のヒータは図5(f)に示すものと同じであり、パーティション頂部高さH1はヒータの設置高さを意味する。ヒータはパーティションの側方2面と上面の合計3面に設けた。顔面汚染度はヒータの高さが20~40cm程度の範囲で最小となり、前方汚染度はヒータの高さが10~30cm程度の範囲で最小となる。すなわち、ヒータの高さには適正な範囲があり、それより大きくても小さくても顔面汚染度及び前方汚染度は増加する。図20には実施例7-2の、図21には実施例7-6の風速と汚染度の分布を示す。ヒータの高さが低い場合(実施例7-2)、上方で上昇気流が崩れ、呼気のX方向への進行を十分に阻止することができないと考えられる。架空ヒータは、少なくとも机面(机の上面)から10cm以上上方の位置に設けることが好ましい。ヒータの高さが高い場合(実施例7-6)、ヒータの下方から回り込む呼気を十分に阻止することができないと考えられる。従って、架空ヒータは、口から呼気の方向に引いた直線より下方の位置に設けることが好ましい。また、本実施例はギャップを設けない実施例5と比べると、パーティション頂部高さH1=30cm程度までの範囲では同等となっており、ギャップを設けることによるコミュニケーション性の改善が可能となる。
表5と図19には、ヒータを架空状態で設け、パーティション頂部高さH1をパラメータとしたときの評価結果を示す。本実施例のヒータは図5(f)に示すものと同じであり、パーティション頂部高さH1はヒータの設置高さを意味する。ヒータはパーティションの側方2面と上面の合計3面に設けた。顔面汚染度はヒータの高さが20~40cm程度の範囲で最小となり、前方汚染度はヒータの高さが10~30cm程度の範囲で最小となる。すなわち、ヒータの高さには適正な範囲があり、それより大きくても小さくても顔面汚染度及び前方汚染度は増加する。図20には実施例7-2の、図21には実施例7-6の風速と汚染度の分布を示す。ヒータの高さが低い場合(実施例7-2)、上方で上昇気流が崩れ、呼気のX方向への進行を十分に阻止することができないと考えられる。架空ヒータは、少なくとも机面(机の上面)から10cm以上上方の位置に設けることが好ましい。ヒータの高さが高い場合(実施例7-6)、ヒータの下方から回り込む呼気を十分に阻止することができないと考えられる。従って、架空ヒータは、口から呼気の方向に引いた直線より下方の位置に設けることが好ましい。また、本実施例はギャップを設けない実施例5と比べると、パーティション頂部高さH1=30cm程度までの範囲では同等となっており、ギャップを設けることによるコミュニケーション性の改善が可能となる。
以上、本発明を実施形態と実施例によって説明したが、本発明はこれらの実施形態と実施例に限定されない。例えば、発熱部ないし発熱部を備えたパーティションは、少なくとも一人の人間が留まるようにされた第1の空間と、少なくとも一人の別の人間が上記少なくとも一人の人間と側方で隣接して留まるようにされた第2の空間との境界に沿って設けることができる。これによって、側方で隣接する人(同じ方向を向いた人)に呼気が飛散することを抑制することが可能である。発熱部ないし発熱部を備えたパーティションは第1の空間の少なくとも一方の側方、好ましくは両側側方に設けることができる。この場合、発熱部ないし発熱部を備えたパーティションは、第1の空間の前方に設けることもできる。換言すれば、発熱部ないし発熱部を備えたパーティションは、第1の空間の前方と側方の3方に設けることも可能である。これによって、例えば前方からパーティションで跳ね返って戻る呼気の拡散を抑制することができる。側方に設ける発熱部ないし発熱部を備えたパーティションを、例えば部屋の端から端まで設置することで、側方からの呼気の回り込みを抑えることができる。勿論、第1の空間の全周を発熱部ないし発熱部を備えたパーティションで囲うことも可能である。
また、発熱部3は蛍光灯、LEDランプ、白熱灯などの照明器具であってもよい。特に、紫外線蛍光灯やLEDブラックライトなどの紫外線を発する照明装置はウイルスなどの殺菌効果も期待でき、本発明に好適に使用できる。LEDランプについては、電源部を長尺な形状として、電源部の発熱を利用してもよい。図22に本発明の一変形例に係る空間遮へい構造1の概要図を示す。照明器具17は、パーティション2の両面に、すなわち第1の空間S1と第2の空間S2の境界Bに沿って設けられている。照明器具17は電源に接続された端子18に取り付けられ、少なくとも鉛直方向上側が開放されている。照明器具17は第1及び第2の机D1,D2に直置きされているが、パーティション2に取り付けてもよい。照明器具17は発熱するため、発熱部3としての効果を奏する。従って、照明器具17はパーティション2の側面に上昇気流を形成し、パーティション2に達した呼気をパーティション2の側面に沿って上昇させることができる。上述のように、照明器具17は10W/m程度の発熱量があれば、一定の程度の効果が期待できる、これは一般的な蛍光灯より小さい。LEDブラックライトでも長さ30cm程度で出力10Wのものが市販されている。照明器具17は人の視線の前方に配置されるため、直視を避けるため遮へい体19を設けることが望ましい。特に、紫外線を発する照明器具17では、紫外線を遮蔽する遮蔽体19を設けることが望ましい。照明器具17は遮へい体19とパーティション2の間に挟まれる。遮へい体19の高さは照明器具17の直視を避けることができることができればよいので、机面から5~15cm程度で十分である。
発熱体3はペルチェ素子でもよい。この場合、ペルチェ素子は発熱側が上を向くように配置する。発熱体3はディスプレイ装置でもよい。ディスプレイ装置のバックライトの発熱を熱源として利用することができる。
1 空間遮へい構造
2 板状体(パーティション)
3 発熱部
5 カバー
10 帯状体
13 段差の側面
14 断熱材
17 照明器具(発熱体)
B 第1の空間と第2の空間の境界
D1 第1の机
D2 第2の机
G ギャップ
S1 第1の空間
S2 第2の空間
2 板状体(パーティション)
3 発熱部
5 カバー
10 帯状体
13 段差の側面
14 断熱材
17 照明器具(発熱体)
B 第1の空間と第2の空間の境界
D1 第1の机
D2 第2の机
G ギャップ
S1 第1の空間
S2 第2の空間
Claims (21)
- 上昇気流を発生させる発熱部を有し、前記発熱部は、少なくとも一人の人間が留まるようにされた第1の空間と、少なくとも一人の別の人間が前記少なくとも一人の人間と対向して留まるようにされた第2の空間との境界に沿って設けられる、空間遮へい構造。
- 前記発熱部を備える板状体を有する、請求項1に記載の空間遮へい構造。
- 前記第1の空間に第1の机が、前記第2の空間に前記第1の机と対向する第2の机が設けられ、前記板状体は前記第1の机と前記第2の机を仕切るパーティションである、請求項2に記載の空間遮へい構造。
- 上昇気流を発生させる発熱部を有し、前記発熱部は、少なくとも一人の人間が留まるようにされた第1の空間と、少なくとも一人の別の人間が前記少なくとも一人の人間と側方で隣接して留まるようにされた第2の空間との境界に沿って設けられる、空間遮へい構造。
- 前記発熱部を備える板状体を有する、請求項4に記載の空間遮へい構造。
- 前記第1の空間に第1の机が、前記第2の空間に前記第1の机と側方で隣接する第2の机が設けられ、前記板状体は前記第1の机と前記第2の机を仕切るパーティションである、請求項5に記載の空間遮へい構造。
- 前記パーティションと前記第1及び第2の机との間に、前記第1の空間と前記第2の空間を連通させるギャップが設けられている、請求項3または6に記載の空間遮へい構造。
- 前記発熱部は線状または帯状または面状である、請求項2、3、5から7のいずれか1項に記載の空間遮へい構造。
- 前記発熱部は前記板状体の下辺に沿って設けられている、請求項8に記載の空間遮へい構造。
- 前記板状体は金属製の帯状体を有し、前記帯状体は前記発熱部に接続され、前記発熱部から上方に延びている、請求項9に記載の空間遮へい構造。
- 前記発熱部は線状または帯状であり、架空状態で設けられている、請求項1または4に記載の空間遮へい構造。
- 前記発熱部が上下方向に間隔をおいて複数段配置されている、請求項11に記載の空間遮へい構造。
- 前記第1の空間に第1の机が、前記第2の空間に前記第1の机と対向または隣接する第2の机が設けられ、前記発熱部は、少なくとも前記第1の机と前記第2の机の机面から10cm以上上方の位置に設けられている、請求項11または12に記載の空間遮へい構造。
- 前記発熱部は帯状の発熱面を有し、前記発熱面から引いた垂線が水平方向を向いている、請求項1から13のいずれか1項に記載の空間遮へい構造。
- 前記第1の空間の床面と前記第2の空間の床面との間に段差が設けられ、前記発熱部は前記第1の空間の床面と前記第2の空間の床面とをつなぐ側面に設けられている、請求項1に記載の空間遮へい構造。
- 前記側面と前記発熱部との間に前記側面を構成する材料より熱伝導率の低い断熱材が設けられている、請求項15に記載の空間遮へい構造。
- 前記第1の空間と前記第2の空間を含む空間が置換空調される、請求項1から16のいずれか1項に記載の空間遮へい構造。
- 前記発熱部はヒータである、請求項1から17のいずれか1項に記載の空間遮へい構造。
- 前記発熱部は紫外線を発する照明装置である、請求項1から17のいずれか1項に記載の空間遮へい構造。
- 前記発熱部を覆う通気性のカバーを有している、請求項1から19のいずれか1項に記載の空間遮へい構造。
- 前記発熱部の表面の放射率が0.1以下である、請求項1から20のいずれか1項に記載の空間遮へい構造。
Applications Claiming Priority (2)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
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JP2020186470 | 2020-11-09 | ||
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Family Applications (1)
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JP2021179600A Pending JP2022076466A (ja) | 2020-11-09 | 2021-11-02 | 空間遮へい構造 |
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JP (1) | JP2022076466A (ja) |
-
2021
- 2021-11-02 JP JP2021179600A patent/JP2022076466A/ja active Pending
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