JP2022074692A - 生体適合性材料及びその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】比較的短期間でその周囲に骨形成を実現する膜を有する生体適合性材料の提供。【解決手段】マグネシウム及び任意にカルシウムを有してなる膜を有する生体適合性材料であって、前記膜は、マグネシウムとカルシウムとの合計の重量を100重量%とすると、カルシウムが0~40重量%有し、前記膜の面粗さの算術平均表面高さSa1が2μm以下である、上記生体適合性材料により、上記課題を解決する。【選択図】図1

Description

本発明は、マグネシウム及び任意にカルシウムを有してなる膜を有する生体適合性材料に関する。特に、本発明は、所定の表面粗さ、所定の密着性、及び/又は所定の硬度を有する、マグネシウム及び任意にカルシウムを有してなる膜を有する生体適合性材料に関する。
また、本発明は、該生体適合性材料の製造方法に関する。
インプラントによる歯の治療は、若年者から高齢者に至るまで、歯の喪失の治療方法の一種として注目されている。
歯根用インプラントの材料としては、比較的生体に悪影響を与えない金属チタン、チタン合金、またはセラミックスのジルコニアが使われている。
歯根用インプラントを埋入してから歯根が機能して患者が噛むことが可能になるまでの期間、すなわち、歯根用インプラントの周囲に骨細胞が形成される二次固定までの時間を短縮することが求められている。上記チタンなどの歯根用インプラント材料だけでは、二次固定までの時間を短縮する要望に応えられておらず、その改善が求められている。
例えば、非特許文献1、非特許文献2は、歯根用インプラントの表面にアパタイトを形成することが周囲の骨の形成に有効であることを示し、埋入前に歯根用インプラントの表面にアパタイトを溶射して成膜すること、あるいはアパタイトをスパッタで成膜することを開示している。
特許文献1及び特許文献2は、同じくチタン製インプラントの上にアパタイトを形成するが、インプラント上にカルシウムを含んだ膜を化学的に形成することや、カルシウムを含んだ膜を中間層としてその上にアパタイトを形成させることで密着性を高めることを開示している。
非特許文献3は、二次固定を促進するためには、歯根用インプラントと歯槽骨との間に適切な圧力を生むことが効果的であることを開示する。そのために、非特許文献3は、初期固定の際の締め込み時に適切なトルクで歯根用インプラントを締めこむ必要があることを開示する。しかし、上述した非特許文献1、非特許文献2、特許文献1及び特許文献2に記載される、埋入前に成膜されたアパタイト膜は、自身の硬さが低いか、及び/又は、密着性が不十分であるため、締め付け埋入時に容易に剥離し、その機能を十分に果たすことができなかった。
特許文献3は、インプラントの強度維持と骨との結合機能の向上を同時に実現するために、インプラントの芯体(基体)に金属を使用し、アパタイトに代えて表面にシリコン、ナトリウム、マグネシウム、カルシウム、カリウムの酸化物を含む生体活性ガラスの膜を形成させることを開示する。ただし、この膜は、無機ガラスあるいは無機化合物からなるため、硬さはあるものの脆いという欠点があった。
特許文献4は、ジルコニア等のセラミックスの歯根用インプラントに関して、表面を適度に荒らすことで骨形成を促進することを試みている。しかしながら、この場合、膜の剥離とは無関係に締め付けることができるが、骨形成は十分とはいえない。
特許文献5は、歯根用インプラントにおいて、基材の活性面を活かすために、プロテクト膜でインプラントを覆って保護することを開示している。このプロテクト膜は、審美性を保つ目的で埋入後に消失するように作られているが、この膜自身に骨形成を促進する成分や機能はない。
特許文献6は、特許文献3と同様に歯根用インプラント基材の活性面を保護する目的で表面にプロテクト膜を形成し、その膜の成分がナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムのカチオンを生成する塩からなることを開示する。しかしながら、塩においては、埋入時に必要となる膜の強度や密着性は十分ではない。
非特許文献4は、アパタイトの替わりに、表面に金属の純マグネシウム膜をイオンプレーティング法で成膜した整形外科用インプラントを開示する。ここではマグネシウムイオンの骨形成に対する効果は示せてはいるもののアパタイトの主成分であるカルシウムが存在しないため、アパタイトの形成能は十分とは言えない。また、ここで使われているアークイオンプレーティングでは、膜になる粒子が大きいために、表面粗さが大きく、その粗さを制御することは難しい。さらに、この方法は、ターゲットとしてカルシウムをさらに用いて合金化したとしても、クラスターとして膜形成されるため、膜中になどの金属間化合物が形成され脆くなる。
非特許文献5は、Mg-Ca-Znの3元系の合金が生体吸収材料(biodegrading)としてインプラントの芯体(基体)として有用であることを提案している。Mgを主合金と考えたとき、Caを添加して合金を作るとその固溶限度は1%以下であり、それ以上の添加ではMgCaなどの金属間化合物が形成される。よって、こうした合金のCaはせいぜい5%以下であり、Mgイオン、Caイオンの他に金属間化合物が体内に残存する可能性がある。
非特許文献6は、Caを15%まで添加したMg-Ca-Znが、高温から高速回転式急冷法(spinning法)によりアモルファスリボンとして製造されることを開示する。しかしながら、7%程度の金属間化合物が形成されており、均一なアモルファスを製作することは容易でなく、形状も大きさも限定されていた。また、Caの効果を高めるため、Caを主金属にしたCa-Mg-Zn合金において同様な方法で作製が試みられているものの均一なアモルファス形成には至っていないことが非特許文献7により示されている。
非特許文献8及び非特許文献9は、Caを4重量%から24重量%まで添加したMg-Ca-Zn3元系がスパッタによってアモルファス状態の薄膜として製造されることを開示する。これらの薄膜にはアモルファス状態を作りやすくするためZnが少なくとも30重量%以上含まれているが、Znイオンは細胞毒性を示し、Znの量が多ければ多いほどより強い細胞毒性が示されることが非特許文献9により示されている。
アモルファス金属を安定的に製造するためには、液相温度を低くすることが可能となる多成分系(3元素以上の成分を有する)の合金が一般に求められる。従来、本質的にMg-Caの2成分からなるアモルファス金属は、製造できなかった。
京セラ株式会社 POIEX/HACEXカタログ。 上田恭介 まてりあ 第51巻 第9号(2012)。 インプラントジャーナル 2017 秋号 p.8。 X.Li et al., Scientific Reports, 7:40755 (2017). J. Hofsteter et al., JOM, Vol. 68, No. 4 (2014), p. 566-572. S.Paul al.,S25 Materialia (2020). K. Saksl et al., J. Alloys and Compounds 801 (2019) p.651-657. J. Liu et al., J. Alloys and Compounds 742 (2018) p. 524-535. J. Li et al., Chemical Communications 53 (2017) p.8288-8291
WO2009/147819公報。 JP4425198公報。 特公平3-2540公報。 WO2016/189099A1。 WO2020/099334A2。 EP1847278A1。
そこで、本発明の目的は、比較的短期間でその周囲に骨形成を実現する膜を有する生体適合性材料を提供することにある。
また、本発明の目的は、上記目的の他に、又は上記目的に加えて、適切な埋入トルクでの埋入又は締め込みに適する、比較的滑らかな表面粗さを有する膜を有する生体適合性材料を提供することにある。
さらに、本発明の目的は、上記目的の他に、又は上記目的に加えて、適切な埋入トルクでの埋入又は締め込みに耐えうる密着性及び/又は硬度を有する膜を有する生体適合性材料を提供することにある。
また、本発明の目的は、上記目的の他に、又は上記目的に加えて、上記生体適合性材料の製造方法を提供することにある。
本発明者らは、以下の発明を見出した。
<1> マグネシウム及び任意にカルシウムを有してなる膜を有する生体適合性材料であって、前記膜は、マグネシウムとカルシウムとの合計の重量を100重量%とすると、カルシウムが0~40重量%有し、前記膜の面粗さの算術平均高さSa1が2μm以下、好ましくは1μm以下である、上記生体適合性材料。
<2> マグネシウム及び任意にカルシウムを有してなる膜を有する生体適合性材料であって、前記膜は、マグネシウムとカルシウムとの合計の重量を100重量%とすると、カルシウムが0~40重量%有し、前記膜の面粗さの算術平均高さSa1と前記膜を有しない表面の面粗さの算術平均高さSa2との差分が300nm以下、好ましくは200nm以下、より好ましくは150nm以下である、上記生体適合性材料。
<3> 上記<2>において、前記膜の面粗さの算術平均高さSa1が2μm以下、好ましくは1μm以下であるのがよい。
<4> マグネシウム及び任意にカルシウムを有してなる膜を有する生体適合性材料であって、 前記膜は、マグネシウムとカルシウムとの合計の重量を100重量%とすると、カルシウムが0~40重量%有し、前記膜が、下記i)~iii)のうちいずれか一つ、又は二つ、又は全て、の特性を有する、上記生体適合性材料:
i)インデンテーション試験により得られる硬度が0.4GPa以上、好ましくは0.9GPa以上、より好ましくは1.2GPa以上である。
ii)臨界荷重Wc(N)と膜厚t(μm)との関係Wc/tが、1N/μm以上、より好ましくは2N/μm以上である。
iii)膜と基体の界面の臨界せん断応力が80MPa以上、好ましくは160MPa以上である。
<5> 上記<4>において、
a)前記膜の面粗さの算術平均高さSa1が2μm以下、好ましくは1μm以下であるか、及び/又は
b)前記膜の面粗さの算術平均高さSa1と前記膜を有しない表面の面粗さの算術平均高さSa2との差分が300nm以下、好ましくは200nm以下、より好ましくは150nm以下である、
のがよい。
<6> 上記<1>~<5>のいずれかにおいて、前記膜の平均厚さが0.10~30μmであるのがよい。特に、骨との接触部およびその近傍に相当する前記膜の平均厚さが0.10~30μm、好ましくは0.20~20μm、より好ましくは0.40~15μmであるのがよい。
<7> 上記<1>~<6>において、前記膜が、マグネシウムのみから本質的になるのがよい。
<8> 上記<1>~<6>において、前記膜が、マグネシウムのみからなるのがよい。
<9> 上記<1>~<6>において、前記膜が、マグネシウム及びカルシウムを有してなり、前記膜は、マグネシウムとカルシウムとの合計の重量を100重量%とすると、カルシウムが0重量%を越えて40重量%以下、好ましくは0.8~35重量%、より好ましくは5~30重量%、最も好ましくは15~25重量%有するのがよい。
<10> 上記<9>において、前記膜が、マグネシウム及びカルシウムのみから本質的になるのがよい。
<11> 上記<9>において、前記膜が、マグネシウム及びカルシウムのみからなるのがよい。
<12> 上記<9>~<11>のいずれかにおいて、前記膜がMgCaフリーであるのがよい。
<13> 上記<9>~<12>のいずれかにおいて、前記膜が非晶質部分を有するのがよい。
<14> 上記<9>~<12>のいずれかにおいて、前記膜が非晶質から本質的になるのがよく、好ましくは非晶質のみからなるのがよい。
<15> 上記<1>~<14>のいずれかにおいて、前記生体適合性材料が生体適合性基体を有し、該生体適合性基体が、純チタニウム、ジルコニア、コバルトクロム合金、ステンレス鋼及びチタン合金からなる群から選ばれる少なくとも1種であるのがよい。
<16> 上記<1>~<15>のいずれかにおいて、前記生体適合性材料が、人工骨材料、骨内固定器具材料、歯科用インプラント材料、歯科矯正用アンカースクリュー材料、髄内釘材料、及び椎体間固定材料からなる群から選ばれる1種であるのがよい。例えば、人工骨、ピン、ワイヤー、ボルト、スクリュー、ワッシャー、髄内釘、椎体スペーサー等であるのがよい。
<17> 上記<1>~<16>のいずれかにおいて、前記生体適合性材料の形状が、円筒状、円錐台状及び円錐状、並びに該形状の一部にスクリュー状のねじ部を備えた形状、直方体及び立方体、並びに一部傾斜面を有する直方体及び立方体等のブロック形状、及びくさび形状からなる群から選ばれる1種であるのがよい。
<18> (A)生体適合性基体を準備する工程;
(B)マグネシウム及び任意にカルシウムを有してなるスパッタターゲットを準備する工程;
(C)前記生体適合性基体の表面を真空中でクリーニングする工程;及び
(D)前記スパッタターゲットを用いて、前記(C)工程で得られた生体適合性基体の温度を130℃以下、好ましくは90℃以下、より好ましくは60℃以下として、スパッタリングにより前記生体適合性基体にマグネシウム及び任意にカルシウムを有してなる膜を形成する工程;
を有することにより、マグネシウム及び任意にカルシウムを有してなる膜を有する生体適合性材料であって、前記膜は、マグネシウムとカルシウムとの合計の重量を100重量%とすると、カルシウムが0~40重量%有する生体適合性材料を得る、生体適合性材料の製造方法。
<19> 上記<18>において、
a)前記膜の面粗さの算術平均高さSa1が2μm以下、好ましくは1μm以下、であるか、及び/又は
b)前記膜の面粗さの算術平均高さSa1と前記膜を有しない表面の面粗さの算術平均高さSa2との差分が300nm以下、好ましくは200nm以下、より好ましくは150nm以下である、のがよい。
<20> 上記<18>又は<19>において、前記膜は、下記i)~iii)のうちいずれか一つ、又は二つ、又は全て、の特性を有するのがよい:
i)インデンテーション試験により得られる硬度が0.4GPa以上、好ましくは0.9GPa以上、より好ましくは1.2GPa以上である。
ii)臨界荷重Wc(N)と膜厚t(μm)との関係Wc/tが、1N/μm以上、より好ましくは2N/μm以上である。
iii)膜と基体の界面の臨界せん断応力が80MPa以上、好ましくは160MPa以上である。
<21> 上記<18>~<20のいずれかにおいて、前記膜の平均厚さが0.10~30μm、好ましくは0.20~20μm、より好ましくは0.40~15μmであるのがよい。
本発明により、比較的短期間でその周囲に骨形成を実現する膜を有する生体適合性材料を提供することができる。
また、本発明により、上記効果の他に、又は上記効果に加えて、適切な埋入トルクでの埋入又は締め込みに適する、比較的滑らかな表面粗さを有する膜を有する生体適合性材料を提供することができる。
さらに、本発明により、上記効果の他に、又は上記効果に加えて、適切な埋入トルクでの埋入又は締め込みに耐えうる密着性及び/又は硬度を有する膜を有する生体適合性材料を提供することができる。
また、本発明により、上記効果の他に、又は上記効果に加えて、上記生体適合性材料の製造方法を提供することができる。
チタンを用いたプレート状基体を用いて成膜したA1-C0、A1-C10、A1-C20及びA1-C30についての算術平均表面粗さの測定結果を示す図(斜線ありがSa1の値、斜線なしがSa2の値)である。 ジルコニアを用いたプレート状基体を用いて成膜したA2-C0、A2-C10、A2-C20及びA2-C30についての算術平均表面粗さの測定結果を示す図(斜線ありがSa1の値、斜線なしがSa2の値)である。 ガラス基体を用いて成膜したAC1-C0、AC1-C10、AC1-C20及びAC1-C30についての、膜の断面方向の走査型電子顕微鏡像(SEM像)を示す。 チタンを用いたプレート状基体を用いて成膜したA1-C0、A1-C10、A1-C20及びA1-C30についての、膜を有する面の走査型電子顕微鏡像を示す。 ジルコニアを用いたプレート状基体を用いて成膜したA2-C0、A2-C10、A2-C20及びA2-C30についての、膜を有する面の走査型電子顕微鏡像を示す。 ガラス基体を用いて成膜したAC1-C0、AC1-C10、AC1-C20及びAC1-C30の膜についてのX線回折分析の結果を示す図である。 チタンを用いたプレート状基体を用いて成膜したA1-C0、A1-C10、A1-C20及びA1-C30の膜についてのX線回折分析の結果を示す図である。 ジルコニアを用いたプレート状基体を用いて成膜したA2-C0、A2-C10、A2-C20及びA2-C30についてのX線回折分析の結果を示す図である。 圧子:バーコビッチ圧子;押込み荷重;20mN;保持時間:0秒;の条件下、装置(エリオニクス社超微小押込み硬さ試験機「ENT-1100A」)を用いた、ナノインデンテーション法による硬さ試験の結果を示す図である。 チタンを用いたプレート状基体を用いて成膜したA1-C0、A1-C10、A1-C20及びA1-C30についての、研削痕に平行方向のスクラッチ試験後の臨界荷重付近外観のSEM像を示す図である。 ジルコニアを用いたプレート状基体を用いて成膜したA2-C0、A2-C10、A2-C20及びA2-C30についての、研削痕に平行方向のスクラッチ試験後の臨界荷重付近外観のSEM像を示す図である。 チタンを用いたプレート状基体を用いて成膜したA1-C0、A1-C10、A1-C20及びA1-C30の研削痕に平行あるいは垂直方向のスクラッチ試験において、圧子がほぼ基体まで到達したときの荷重、すなわち膜の臨界荷重を見出すための測定結果を示す図である。 ジルコニアを用いたプレート状基体を用いて成膜したA2-C0、A2-C10、A2-C20及びA2-C30の研削痕に平行あるいは垂直方向のスクラッチ試験において、圧子がほぼ基体まで到達したときの荷重、すなわち膜の臨界荷重を見出すための測定結果である。 図14は、A1-C0~C30及びA2-C0~C30の膜の硬さから換算された、A1-C0~C30及びA2-C0~C30の降伏せん断応力を示す図である。 基体が円筒形状である場合のスクラッチ試験における臨界荷重を求める手法についての概略図を示す。 チタンを用いたプレート状基体を用いて成膜したA1-C0、A1-C10、A1-C20及びA1-C30をHBSSに一週間浸漬し基体上に新たに形成された膜のSEM像を示す図である。 ジルコニアを用いたプレート状基体を用いて成膜したA2-C0、A2-C10、A2-C20及びA2-C30をHBSSに一週間浸漬し基体上に新たに形成された膜のSEM像を示す図である。 チタンを用いたプレート状基体A1及び該基体を用いて成膜したA1-C0、A1-C10、A1-C20及びA1-C30についての薄膜法によるX線回折(XRD)分析の結果を示す図である。 ジルコニアを用いたプレート状基体A2及び該基体を用いて成膜したA2-C0、A2-C10、A2-C20及びA2-C30についての薄膜法によるX線回折(XRD)分析の結果を示す図である。 ガラス基体を用いてアークイオンプレーティングで純マグネシウムを成膜した試料AIPC1-C0とガラス基体を用いてスパッタリングで成膜したAC1-C0、AC1-C10、AC1-C20及びAC1-C30の線粗さの算術平均高さRa1の比較を示す図である。 ジルコニアを用いたプレート状基体を用いて成膜したA2-C20と、それに熱処理を施したA2-C20-HのXRDおよびスクラッチ試験の結果比較を示す図である。
以下、本願に記載する発明(以降、「本発明」と略記する場合がある)について説明する。
本願は、マグネシウム及び任意にカルシウムを有してなる膜を有する生体適合性材料であって、該膜は、マグネシウムとカルシウムとの合計の重量を100重量%とすると、カルシウムが0~40重量%、カルシウムを有する場合には、該カルシウムの量が0重量%を越えて40重量%以下、好ましくは0.8~35重量%、より好ましくは5~30重量%、最も好ましくは15~25重量%有する生体適合性材料を提供する。
本発明は、ある面において、a)該膜の面粗さの算術平均高さSa1が2μm以下、好ましくは1μm以下である生体適合性材料を提供する。
また、本発明は、他の面において、b)該膜の面粗さの算術平均高さSa1と該膜を有しない表面の面粗さの算術平均高さSa2との差分が300nm以下、好ましくは200nm以下、より好ましくは150nm以下である生体適合性材料を提供する。
さらに、本発明は、さらなる面において、該膜は、下記i)~iii)のうちいずれか一つ、又は二つ、又は全て、の特性を有するのがよい:
i)インデンテーション試験により得られる硬度が0.4GPa以上、好ましくは0.9GPa以上、より好ましくは1.2GPa以上である。
ii)臨界荷重Wc(N)と膜厚t(μm)との関係Wc/tが、1N/μm以上、より好ましくは2N/μm以上である。
iii)膜と基体の界面の臨界せん断応力が80MPa以上、好ましくは160MPa以上である。
本発明の「生体適合性材料」における「生体適合性」とは、生体内に保持して生体安全上問題ないとされている特性をいう。
<膜>
本発明の生体適合性材料は、上述の特性、具体的には所定の面粗さの算術平均高さSa1、面粗さの算術平均高さSa1とSa2との所定の差分、所定の密着性の指標である所定の臨界荷重、所定の硬度、及び/又は膜と基体の界面の所定の臨界せん断応力を有するのがよい。
<<膜を有する面の面粗さの算術平均表面粗さSa1>>
本発明の生体適合性材料の膜の面粗さの算術平均高さSa1は、2μm以下、好ましくは1μm以下であるのがよい。
ここで、膜を有する面、すなわち膜の面粗さの算術平均高さSa1は、ISO25178に準拠して測定することができる。
レーザー光で面粗さを測定する場合には、測定範囲100μm×100μmとして10000点以上の測定点を取得することができる。算術平均高さは、最小二乗法によるレベリングした校正表面に対して、2次多項式による形状除去を施し、輪郭曲線の波長成分を分離するためのフィルタを使用せずに、算出することができる。また、一方向の測定距離をトータルしてJIS0633/ISO4288に準拠した評価長さになる回数以上測定して平均値を求めるのがよい。
なお、本願の生体適合性材料における生体適合性基体は、その表面をある方向に研削する場合や全体を研磨する場合がある。全体に研磨する場合には、その表面の粗さは、ほぼ一様になる一方、ある方向に研削する場合、方向性のある粗さに沿ってプローブ光を走査させると測定エラーが発生しやすく、その方向に沿う算術平均表面と該方向と垂直な方向の面粗さの算術平均高さとでは、その値が異なる場合がある。本願において、膜の面粗さの算術平均高さとは、前記生体適合性材料の形状の中心線に対して平行、垂直、斜め約45°の3方向にプローブ光を走査させて面粗さの算術平均表面粗さを測定し、その中で最も粗さが低い方向を測定した場合の値を指す。
<<膜を有しない面の面粗さの算術平均高さSa2>>
本願において、「膜を有しない面の面粗さの算術平均高さSa2」の「膜を有しない面」とは、成膜する前の基体の表面、又は成膜後に該膜を除去したときの基体の表面をいう。
本願の膜は、上述するとおり、マグネシウム及び任意にカルシウムを有してなる。該膜は一般に、弱酸性水溶液あるいは水中に浸漬することにより略完全に除去することができる。なお、本願の生体適合性材料における生体適合性基体は、膜を除去するために用いられる弱酸性水溶液によっては浸食されることはない。
したがって、成膜する前の基体の表面の面粗さの算術平均高さSa2と、成膜後に該膜を除去したときの基体の表面の算術平均高さSa2’とは、略同一となる。
Sa2’も、Sa1と同様に、ISO25178に準拠して測定することができる。
本願は、ある面において、膜の面粗さの算術平均高さSa1と該膜を有しない表面の面粗さの算術平均高さSa2との差分が300nm以下、好ましくは200nm以下、より好ましくは150nm以下であるのがよい。
本願は、ある面において、前記膜が、下記i)~iii)のうちいずれか一つ、又は二つ、又は全て、の特性を有するのがよい。
i)インデンテーション試験により得られる硬度が0.4GPa以上、好ましくは0.9GPa以上、より好ましくは1.2GPa以上である。
ii)臨界荷重Wc(N)と膜厚t(μm)との関係Wc/tが、1N/μm以上、より好ましくは2N/μm以上である。
iii)膜と基体の界面の臨界せん断応力が80MPa以上、好ましくは160MPa以上である。
<<インデンテーション試験により得られる硬度>>
本願は、ある面において、前記膜のインデンテーション試験により得られる硬度が0.4GPa以上、好ましくは0.9GPa以上、より好ましくは1.2GPa以上であるのがよい。
ここで、ナノインデンテーション法の硬さ試験は、押込み深さが膜厚の5分の1以下、好ましくは10分の1以下になるように押込み荷重を設定するのがよい。1サンプルにつき20回以上、好ましくは30回以上測定して平均値を求めるのがよい。例えば、圧子:バーコビッチ圧子;押込み荷重:20mN;保持時間:0秒;の条件下で行うことができる。
<<スクラッチ試験により得られる臨界荷重>>
本願において、臨界荷重Wcとは、膜が延性を示すことなく脆性的なクラックが生じた際の荷重、又は部分的に膜が剥がれた際の荷重、又は膜が削れて基体が露出した際の荷重をいう。
本願は、ある面において、前記膜のWc/t(式中、Wcは臨界荷重(N)であり、tは膜厚(μm)である)が、1N/μm以上、より好ましくは2N/μm以上であるのがよい。例えば、膜厚が5μmの時は、臨界荷重が5N以上、好ましくは10N以上を有することを特徴とする膜であるのがよい。
ここで、スクラッチ試験は、スクラッチ試験に通常用いられる装置を用いて、径0.8mmのロックウェル圧子を使用して、基体が露出する荷重の2倍を最大とする範囲、又は膜が部分的に剥がれる荷重の2倍を最大とする範囲、又は膜に延性を示すことなく脆性的なクラックが生じる荷重の2倍を最大とする範囲まで、例えば荷重を0~8kg重の範囲で与えて行うことができる。
この際、SEM/EDXでスクラッチ試験後の試料を観察し、スクラッチ試験の初期位置から、膜が延性を示すことなく脆性的なクラックが生じた位置まで、部分的に膜が剥がれた位置まで、基体が露出する位置までのいずれか短い距離を測定して臨界荷重を求めることができる。
臨界荷重は、膜と基体との密着性に相当し、本発明の生体適合性材料の膜は、上記範囲の臨界荷重であるのがよい。
<<スクラッチ試験後の膜の外観>>
SEM/EDXでスクラッチ試験後の試料を観察した際、膜が延性を示すことなく脆性的なクラックが生じず、部分的に膜が剥がれず、基体が露出するまで延性的に削られた様子が観察されるのがよい。
<<界面の臨界せん断応力>>
インプラントスクリューの埋入時に要求されるトルクから、スクリュー表面に生じるせん断応力を以下のように計算することができる。
スクリューの表面に生じるせん断力τは式1のように計算することができる。すなわち、インプラントスクリューの半径(外周の直径の2分の1)をr、スクリューが歯槽骨と接する面積をA、埋入するときのトルクをTとして、概ね式1のように表すことができる。
Figure 2022074692000002
埋入時にスクリュー表面に生じる圧力とせん断応力は、スクリューのねじ山の先端付近に集中する。また、スクリューを埋入するときは、主に硬い皮質骨の領域で高い圧力とせん断力を生じる。皮質骨の平均的な厚さは1.0~1.5mm程度であり、ねじのピッチが1~2mmであることから、ねじ山のほぼ一周分にせん断力が集中した状態で、スクリューがねじ込まれることになる。ねじ山の先端の幅をhとすると、せん断応力が最も高くなるねじ山の先端の面積Aは、式2のようになる。
Figure 2022074692000003
骨形成を促進させるための最低埋入トルクTを40Ncm(非特許文献3)、インプラントスクリューの半径rを2mm、スクリューのねじ山の先端の幅を0.2mmとして、式1および式2に代入して計算すると、表面に生じるせん断応力τとして約80MPaを得る。スクリューの山の先端がさらに鋭く、ねじ山の幅が0.1mmの時には、同様にして表面に生じるせん断応力τは約160MPaとなる。このようにねじ山の先端の形状により、80~160MPaとなり、ねじ山の先端が鋭くなるにつれせん断力は大きくなる。
膜がはがれないためには、式3に示すように、膜と基体の界面の密着力(界面のせん断応力τ)が、この表面のせん断力τよりも大きいのがよい。
埋入トルクを満たすための膜と基体の間の界面のせん断応力τは、80MPa以上、好ましくは160MPa以上を有することが好ましい。
Figure 2022074692000004
<<膜厚>>
本願の生体適合性材料の膜の厚さは、上記特性i)~iii)のいずれか1つ、又は2つ、又は全て、もしくは上記表面粗さ又はその差分を有すれば特に限定されないが、例えば平均厚さが0.10~30μmであるのがよい。特に、骨との接触部およびその近傍に相当する前記膜の平均厚さが0.10~30μm、好ましくは0.20~20μm、より好ましくは0.40~15μmであるのがよい。
本発明の生体適合性材料は、ある面において、前期膜がマグネシウムのみから本質的になるのがよい。
また、ある面において、前記膜が、マグネシウムのみからなるのがよい。
さらに、本願は、ある面において、前記膜がマグネシウム及びカルシウムを有してなり、前記膜は、マグネシウムとカルシウムとの合計の重量を100重量%とすると、カルシウムが0重量%を越えて40重量%以下、好ましくは0.8~35重量%、より好ましくは5~30重量%、最も好ましくは15~25重量%有するのがよい。
この場合、膜は、マグネシウム及びカルシウム以外に、生体適合性材料を含むのがよい。生体適合性材料として、例えば、亜鉛、リン、などを含むことができるがこれらに限定されない。
なお、亜鉛を含み、マグネシウム及びカルシウムとの三元系のみからなる場合、亜鉛の量は、マグネシウムとカルシウムと亜鉛との全ての重量を100重量%とすると、埋入後に膜を消失させるために10重量%以下であるのがよい。
本願は、ある面において、前記膜がマグネシウム及びカルシウムを有してなる場合、前記膜がMgCaフリーであるのがよい。ここで、「MgCaフリー」とは、X線回折分析において、MgCaに基づくピークが観察されない程度であることを意味し、好ましくは基体とMg2Caとの結晶それぞれから生じる回折ピークが重ならない(コバルト(Co)管球を用いたX線分析でそれぞれの回折ピークが1°以上離れている)回折角でMgCaに基づくピークが観察されない、例えば、Co管球を用いたX線分析で36~37°の範囲にピークが観察されないのが良い。
本願は、ある面において、前記膜が非晶質部分を有するのがよい。
また、本願は、ある面において、前記膜が非晶質から本質的になるのがよく、好ましくは非晶質のみからなるのがよい。
ここで、「非晶質」とは、X線回折分析において、シャープなピークが観察されないことをいう。
また、本願は、ある面において、前記膜が、マグネシウム及びカルシウムのみから本質的になるのがよい。
さらに、本願は、ある面において、前記膜が、マグネシウム及びカルシウムのみからなるのがよい。
<生体適合性材料>
本発明の生体適合性材料は、上記特性を有する膜以外に生体適合性基体を有するのがよい。
生体適合性基体は、上記「生体適合性」を有すれば、特に限定されないが、例えば、純チタン、チタン合金、コバルトクロム合金、ステンレス鋼、ジルコニアなどを挙げることができるが、これらに限定されない。
また、本発明の生体適合性材料は、上述の生体適合性基体及び上述の膜以外に、他の層を有してもよい。例えば、生体適合性基体と膜との間に1つ又は複数の層を有してもよい。また、上述の膜の上部、すなわち基体とは反対側に1つ又は複数の層を有してもよい。
本発明の生体適合性材料は、その形状は特に限定されないが、例えば、円柱状、円筒状、円錐台状及び円錐状、並びに該形状の一部にスクリュー状のねじ部を備えた形状、直方体及び立方体、並びに一部傾斜面を有する直方体及び立方体等のブロック形状、及びくさび形状からなる群から選ばれる1種であるのがよい。
本発明の生体適合性材料は、その応用分野は特に限定されないが、例えば、人工骨材料、骨内固定器具材料、歯科用インプラント材料、歯列矯正用アンカースクリュー材料、髄内釘材料、及び椎体間固定材料からなる群から選ばれる1種であるのがよい。例えば、人工骨、ピン、ワイヤー、ボルト、スクリュー、ワッシャー、髄内釘、椎体スペーサー等を挙げることができるがこれらに限定されない。
<生体適合性材料の製造方法>
本発明の生体適合性材料は、例えば次のような方法により製造することができる。
すなわち、
(A)生体適合性基体を準備する工程;
(B)マグネシウム及び任意にカルシウムを有してなるスパッタターゲットを準備する工程;
(C)前記生体適合性基体の表面を真空中でクリーニングする工程;
(D)前記スパッタターゲットを用いて、前記(C)工程で得られた生体適合性基体の温度を130℃以下、好ましくは90℃以下、より好ましくは60℃以下として、スパッタリングにより前記生体適合性基体の表面にマグネシウム及び任意にカルシウムを有してなる膜を形成する工程;
を有することにより、上記生体適合性材料を得ることができる。
なお、ここで、「生体適合性基体」は上述したものを用いることができる。
また、「膜」は、上述したものと同じである。
工程(A)は、生体適合性基体を準備する工程である。上述した「生体適合性基体」を市販購入しても、市販購入したものを所望の形状にしてもよい。なお、購入品又は得られた形状の表面を研削及び/又は研磨する工程を有してもよい。ここで、研削法、研磨法は、従来公知のものを用いることができる。
工程(B)は、マグネシウム及び任意にカルシウムを有してなるスパッタターゲットを準備する工程である。
所望の組成を有する膜に応じて、スパッタターゲットを準備するのがよい。例えば、所定の金属を所定の割合で溶解して製造してもよい。
工程(C)は、スパッタリングの前に、真空中、具体的には真空チャンバー中で、バイアスを適当に調整して、基体の表面にアルゴンイオンなどを衝突させて、表面の不純物を原子レベルで除去して洗浄する工程である。これを適切に行うことにより、膜の密着性を安定化させ、且つ、基体の表面を活性化することができる。
工程(D)は、スパッタターゲットを用いて、前記生体適合性基体の温度を130℃以下、好ましくは90℃以下、より好ましくは60℃以下として、スパッタリングにより前記生体適合性基体の表面にマグネシウム及び任意にカルシウムを有してなる膜を形成する工程である。
スパッタリング装置は、マグネトロンスパッタ装置を用いるのがよい。
マグネトロンスパッタ装置は、ターゲットの後方に強力な磁石(マグネトロン)を配置し、アルゴンイオンをターゲットに衝突さえることで発生させたスパッタ粒子(金属粒子)を、磁場を利用して基体に効率よく堆積させることができる。このとき、スパッタ電圧、基体のバイアス、装置内の圧力、さらに基体材の温度を調整することで、目的とする膜を一定の成膜速度で形成することができる。
マグネシウムをベースとした金属膜は、基体となるジルコニウム、チタンおよびチタン合金よりも線膨張係数が3倍以上大きいため、スパッタリング温度が高いと、インプラントを使用する室温付近との温度差が大きくなり、膜側の界面に引張りの応力(熱応力)が生じて膜がはがれやすくなる。そこで、成膜後に膜が剥離することなく、また、インプラントの埋入時に有害な応力を残留させないために、スパッタリングにおける基体の温度を一定温度以下、すなわち130℃以下、好ましくは90℃以下、より好ましくは60℃以下に制御することで、密着性の高い膜を形成することができる。
上記の温度は、以下のように熱応力を計算することで見積もることができる。すなわち、スパッタリング温度から室温まで温度を低下させた際に生じる界面の応力(熱応力)は、およそ式4のように表すことができる。なお、式4においてそれぞれ、ΔT:スパッタリング時の基体温度Tdと室温Trの温度差、α:温度Tr~Tdの間の基体の平均線膨張係数、α:温度Tr~Tdの間のコーティング膜の平均線膨張係数、E:温度Tr~Tdの間の基体の平均弾性率、及びE:温度Tr~Tdの間の膜の平均弾性率、を表す。
Figure 2022074692000005
例えば、基体をジルコニア、コーティング膜を純マグネシウムとして、線膨張係数を8×10-6および25×10-6、弾性率を210GPaおよび40GPaをそれぞれ与えて計算する。
純マグネシウムの耐力は、一般に約90~100MPaといわれているので、せん断降伏強さはおよそ50MPaとなる。少なくともこの値以下に上記の熱応力を抑えるためには、温度差を100度以下にするのがよい。例えば使用温度を体温として36℃とすると、成膜温度は130℃以下で行うのがよく、2倍の安全率90℃以下、また約3倍の安全率を考慮すると60℃以下で成膜することが好ましい。
本発明の製造方法は、上記(A)~(D)以外の工程を有してもよい。例えば、上述したように、(A)工程後(B)工程前に、「生体適合性基体」を所望の形状にする工程、形状の表面を研削及び/又は研磨する工程を有してもよい。
例えば、基体と膜との間に層を設ける場合、該層を設ける工程を(A)工程後(D)工程前に設けるのがよい。
以下、本発明について、実施例を用いて具体的に説明するが、本発明は該実施例によってのみ限定されるものではない。
<基体材料>
インプラントを想定した基体材料として、厚さ3mmで10×10mmに切り出し、片平面において所定方向に一般的な研削加工を施した、プレート状の純チタンA1、並びにジルコニアA2を用いた。なお、形成された膜の特性の詳細を調べるために厚さ1.2mmで26×76mmのガラス基体AC1も用いた。
また、実際の歯根用インプラントの形状に近い円柱状(φ4mm、長さ10mm)の純チタンB1、及びジルコニアB2を用いた。
なお、いずれの基体についても、形成される膜の厚さを測定するために、一部の表面にマスキングを施した。
<スパッタリング装置及びスパッタリング方法>
スパッタリング装置として、マグネトロンスパッタ装置を使用した。
スパッタターゲットには、純マグネシウム、および純マグネシウムと純カルシウムを所定の割合で溶解して製造した4種類のインゴットを、機械加工して直径が約120mmのディスク形状に加工したものを用いた。インゴットの4種類は、カルシウム量を0%、10%、20%又は30%としたものであり、残りの量はマグネシウムであった。ここで、カルシウム量の%は、カルシウム重量とマグネシウム重量との合計を100重量%としたときのカルシウム重量の割合であり、以下の重量%で表される。
カルシウム重量%=カルシウム重量/(マグネシウム重量+カルシウム重量)×100
基体を、スパッタリング装置のステージ上に、スパッタターゲットと対向するように配置した。なお、円柱状基体は、円柱底面が上下になるように配置し、プレート状基体は、研削加工した面が上面になるように配置した。
成膜のプロセスは、まず、所定の値まで減圧し、チャンバー内の有害ガスを取り除いた後、アルゴンガスを封入した。
放電に必要な電圧および基体バイアスを適度に調整することによって、スパッタ用ターゲットおよび基体の表面をイオンクリーニングすることで、表面の酸化物や有害な化合物層を除去して、基体と膜の界面において密着性を低下させる不純物を取り除くとともに、骨形成に有利な活性な面を形成した。
基体の温度を室温のままとし、アルゴンの圧力は1~10 mTorrで行い、スパッタ電圧及び基体のバイアスを調整して、12時間の成膜プロセス(デポジション)を行った。
得られた膜の厚さは、次のように測定した。すなわち、基体上の成膜した部分と上述のマスキングを施して成膜させない部分との段差を、触針法により実測することにより膜の厚さを測定した。
また、各膜の成分をエネルギー分散型X線分析装置(EDX)で測定した。
ターゲットのカルシウム重量%、基体の種類、EDXの結果によるCa量(重量%)、及び触針法により得た膜厚(μm)を表1に示す。なお、円柱状試料についてのEDXの結果によるCa量(重量%)は、プレート状のものと同等と考えられるため測定しなかった。
Figure 2022074692000006
表1から、ターゲット中のカルシウム重量%と形成された膜のカルシウム量(重量%)がほぼ一致していることがわかる。このことから、ターゲットおよびスパッタリングに問題がなかったことがわかる。なお、図示しないが、膜厚は、成膜プロセス(デポジション)の時間に比例して厚くなることを確認し、成膜時間で膜厚をコントロールできることがわかった。また、表1の「10%Ca」の「B1」及び「B2」の膜厚は、正確には測定していないが、他の「B1」及び「B2」の膜厚と同程度であることを確認した。
<面粗さの算術平均表面高さ>
チタンを用いたプレート状基体を用いて成膜したA1-C0、A1-C10、A1-C20及びA1-C30について、及びジルコニアを用いたプレート状基体を用いて成膜したA2-C0、A2-C10、A2-C20及びA2-C30について、その表面の面粗さの算術平均高さSa1を測定した。
また、A1-C0、A1-C10、A1-C20及びA1-C30について、及びジルコニアを用いたプレート状基体を用いて成膜したA2-C0、A2-C10、A2-C20及びA2-C30について、成膜前の表面の面粗さの算術平均高さSa2を測定した。
さらに、A1-C0、A1-C10、A1-C20及びA1-C30について、及びジルコニアを用いたプレート状基体を用いて成膜したA2-C0、A2-C10、A2-C20及びA2-C30について、成膜後の膜を5%塩酸水溶液に10秒程度浸漬することにより除去した。得られた試料の膜を除去した面の面粗さの算術平均高さSa2’を測定した。なお、後述のように、Sa2とSa2’とはほぼ同じであることを確認した。
面粗さの算術平均高さを、研削痕の垂直な方向に測定プローブを走査させて測定した。測定はISO25178に準拠し、レーザープローブ式非接触3次元測定装置(NH-3SP、三鷹光器社製)で行った。プローブ径1μmのレーザーを用いて、測定ピッチ1μmで100μm×100μmの範囲を測定した。面粗さの算術平均高さは、解析ソフトウェアTalyMapGold(バージョン7、TaylorHobson社製)を用いて行った。算術平均高さは、最小二乗法によるレベリングした校正表面に対して、2次多項式による形状除去を施した後、輪郭曲線の波長成分を分離するためのフィルタを使用せずに、算出した。
各試料について、膜を有する表面の面粗さの算術平均高さSa1、膜を有しない表面の面粗さの算術平均高さSa2(=Sa2’)の結果を図1及び図2に示す。
なお、膜を有しない表面の算術平均粗さは、a)成膜前の測定値Sa2とb)成膜後に除去した面の測定値Sa2’とについて測定した。その結果、図示しないが、ほぼ同じ結果であることを確認した。この結果から、b)成膜後の除去方法が適切であることを確認した。
図1は、チタンを用いたプレート状基体を用いて成膜したA1-C0、A1-C10、A1-C20及びA1-C30についての算術平均表面粗さの測定結果を示す図である。図中、斜線ありがSa1の値、斜線なしがSa2の値である。
また、図2は、図1での「チタン」に代えて「ジルコニア」を用いたプレート状基体を用いて成膜した試料の結果であり、図1と同様に、斜線ありがSa1の値、斜線なしがSa2の値である。
さらに、表2は、各試料について、Sa1の値(図1及び図2における、斜線ありの値)をまとめたものである。
また、表3は、各試料について、Sa1の値(図1及び図2における、斜線ありの値)とSa2の値(図1及び図2における、斜線なしの値)との差分をまとめたものである。
Figure 2022074692000007
図1及び図2、並びに表2及び表3から、次のことがわかる。
すなわち、例えば歯根用インプラント材料などの埋入において、比較的滑らかな表面粗さを有することが患者の負担軽減及び適切な埋入及び締め込みにおいて重要であるが、それは試料の面粗さの算術平均表面高さの最大値に依存する。上記表2から、本実施例では、面粗さの算術平均表面高さの最大値は、1μm以下であるため、本実施例で得られた試料は、埋入をスムーズに行うことができる。本実施例では、一般的な研削加工を施した基体を用いたが、比較例で後述するように、より滑らかな基体を適用することによって、さらに滑らかな表面粗さにすることも可能である。このような基体は、抜去を前提としたスクリュー(骨ねじやアンカースクリュー)において、埋入後は2次固定までの期間を短縮し、抜去時には基体の表面の凹凸による物理的なかみ合いを抑えて抜去をスムーズに行うことを可能とする。
また、スパッタリングを用いて実施例の膜を形成することにより、各試料のSa1とSa2との差分値(Sa1-Sa2)(nm)を比較的小さな値とすることができる。すなわち、比較例で後述するように、膜自体の表面粗さは最大値が30nm以下であることから、膜を形成することによって表面粗さが増加することはほとんどない。
また、差分を小さくすることは、膜が局所的に形成されず、均等に基体の表面を覆って成膜されていることを示すものであり、膜の効果が基体の隅々まで安定して発揮されることが期待できる。
<走査型電子顕微鏡像>
得られた試料について、膜の断面方向と膜を有する面について、走査型電子顕微鏡(SEM)で確認した。
図3は、ガラス基体を用いて成膜したAC1-C0、AC1-C10、AC1-C20及びAC1-C30についての、膜の断面方向の走査型電子顕微鏡像(SEM像)を示す。
図4は、チタンを用いたプレート状基体を用いて成膜したA1-C0、A1-C10、A1-C20及びA1-C30についての、膜を有する面の走査型電子顕微鏡像を示す。
図5はジルコニアを用いたプレート状基体を用いて成膜したA2-C0、A2-C10、A2-C20及びA2-C30についての、膜を有する面の走査型電子顕微鏡像を示す。
図3から、カルシウム0%(AC1-C0)の場合、基体の界面から垂直方向にマグネシウムの柱状結晶が、緻密に配向性をもって並んでいることが分かる。これに対し、10%カルシウムの膜(AC1-C10)は、柱状の配向は見られず、微細な粒が無秩序な方向に分散しているのがわかる。また、20%カルシウム(AC1-C20)および30%カルシウム(AC1-C30)においては、微細粒も確認できなくなり、表面が非常に滑らかになっていることがわかる。
また、図4及び図5の上面の外観からも、マグネシウムのみのもの(A1-C0及びA2-C0)は、表面は比較的滑らかではあるが、一部に六角形の柱状の断面が見られる。これはマグネシウム結晶格子である六方稠密構造(HCP)の(0001)面に相当するもので、この方向に結晶が配向していることが分かった。10%カルシウム(A1-C10及びA2-C10)では、方向性のない細かい粒が分散していることがわかる。また、20%カルシウム(A1-C20及びA2-C20)、および30%カルシウム(A1-C30及びA2-C30)ではいずれの場合も、断面と同様に滑らかな面を呈していることがわかる。
<X線回折分析>
得られた試料、ガラス基体を用いて成膜したAC1-C0、AC1-C10、AC1-C20及びAC1-C30の膜、チタンを用いたプレート状基体を用いて成膜したA1-C0、A1-C10、A1-C20及びA1-C30、並びにジルコニアを用いたプレート状基体を用いて成膜したA2-C0、A2-C10、A2-C20及びA2-C30について、X線回折分析を行った。
具体的には、X線回折装置(D8ADVANCE、BRUKER社製)を用いて、検出器:2次元検出器、管球:Co、管球電圧:30kV、管球電流:40mA、スリット:Φ1.0mm、コリメーター:Φ1.0mmという条件でX線回折分析を行った。その結果を図6、図7、図8に示す。
図6から、いずれの膜も2θ=40度付近にピークが見られる。0%カルシウムの場合(AC1-C0)は回折強度が非常に高くシャープであり、マグネシウム中のカルシウムが増えていくにしたがってピークが小さくなり、30%(AC1-C30)ではブロードになってピークが明確に見られなくなる。また、20%カルシウム(AC1-C20)では低いピークは見られるものの、ピークの位置が低角側にシフトしてブロードになってきており、格子間隔が広がって歪んでいることが分かる。図7、図8から、チタンを用いたプレート状基体及びジルコニアを用いたプレート状基体にいずれの膜を成膜した場合においても、同様の結果になることがわかる。
これらの結果より、10%カルシウムまでは結晶性を有しているが、20%を超えるとほぼ非晶質となることが、X線回折の結果(図6、図7、図8)、及びSEM像(図3、図4、図5)からわかる。
なお、0%カルシウムの膜において、40度付近の(00-2)ピークの強度が著しく高いのは、SEM像(図3、図4、図5)の外観にもみられた結晶の配向性によるものと考えられる。チタンを用いたプレート状基体及びジルコニアを用いたプレート状基体の10%カルシウムの膜において、(00-2)のピークだけでなく、(-10-1)のピークも見られることから、ランダムな配向性をもつ微細結晶であると考えられる。
カルシウムの割合(%)が増えるほど、緻密な柱状組織から、微細結晶、非晶質と変化していくことがわかったが、このことは、表4に示す結晶子サイズにも表れ、カルシウムの割合が増えるとともに、結晶子サイズが小さくなり、より非晶質に近づいていることが分かる。ここで、結晶子サイズは、ガラス基体に成膜した2θ=40度付近(00-2)のピークの積分幅からシェラー法を用いて算出した。
この構造の変化は、前述した算術平均表面粗さの特徴にも表れている。すなわち、表面粗さは、いずれの試料であっても小さく滑らかである。
Figure 2022074692000008
<硬さ試験>
チタンを用いたプレート状基体を用いて成膜したA1-C0、A1-C10、A1-C20及びA1-C30について、及びジルコニアを用いたプレート状基体を用いて成膜したA2-C0、A2-C10、A2-C20及びA2-C30について、ナノインデンテーション法により、硬さ試験を行った。
圧子:バーコビッチ圧子;押込み荷重;20mN;保持時間:0秒;の条件下、装置(エリオニクス社超微小押込み硬さ試験機「ENT-1100A」)を用いて、ナノインデンテーション法の硬さ試験を行った。
硬さ試験の結果を図9に示す。
図9から、いずれの膜も、骨の硬さ0.4~0.9GPaを上回り、骨に対して十分な「耐摩耗性」を有していることがわかった。
<スクラッチ試験による膜の密着性>
チタンを用いたプレート状基体を用いて成膜したA1-C0、A1-C10、A1-C20及びA1-C30について、及びジルコニアを用いたプレート状基体を用いて成膜したA2-C0、A2-C10、A2-C20及びA2-C30について、スクラッチ試験を行った。
スクラッチ試験装置は、Scrach tester CSR1000(株式会社レスカ製)を用い、径0.8mmのロックウェル圧子を使用して、荷重を0~8kg重の範囲で与えた。SEM/EDXでスクラッチ試験後の試料を観察し、スクラッチ試験の初期位置から基体が露出した位置までの距離を測定して臨界荷重を求めた。
図10は、チタンを用いたプレート状基体を用いて成膜したA1-C0、A1-C10、A1-C20及びA1-C30についての、研削痕に平行方向のスクラッチ試験後の臨界荷重付近外観のSEM像である。図11は、ジルコニアを用いたプレート状基体を用いて成膜したA2-C0、A2-C10、A2-C20及びA2-C30についての、研削痕に平行方向のスクラッチ試験後の臨界荷重付近外観のSEM像である。
図10、図11から、すべての膜において、膜の部分的な剥離は見られず「密着性」が良好であることが分かった。これにより、表面に力が加わったときに、膜の耐摩耗性が十分に発揮できることがわかった。
また、図10、図11の結果は、試験を行ったすべての膜において、フレーク状の破壊や、変形中のき裂が観察されず、膜は十分な「延性」を呈しており、脆くないことがわかった。
図12は、チタンを用いたプレート状基体を用いて成膜したA1-C0、A1-C10、A1-C20及びA1-C30の研削痕に平行あるいは垂直方向のスクラッチ試験において、圧子がほぼ基体まで到達したときの荷重、すなわち膜の臨界荷重を見出すための測定結果である。
図13は、ジルコニアを用いたプレート状基体を用いて成膜したA2-C0、A2-C10、A2-C20及びA2-C30の研削痕に平行あるいは垂直方向のスクラッチ試験において、圧子がほぼ基体まで到達したときの荷重、すなわち膜の臨界荷重を見出すための測定結果である。なお、臨界荷重は、膜の密着性の度合いも示す。
図12、図13から、次のことがわかる。
チタンを用いたプレート状基体を用いて成膜したA1-C0、A1-C10、A1-C20及びA1-C30、ジルコニアを用いたプレート状基体を用いて成膜したA2-C0、A2-C10、A2-C20及びA2-C30のうち、研削痕に平行方向のスクラッチ試験におけるA1-C10、研削痕に垂直方向のスクラッチ試験におけるA1-C10、A1-C20、A1-C30が臨界荷重78.4N以上であり優れていることがわかる。
臨界荷重が最も小さいA2-C0であっても、約10Nであり、臨界荷重が10N以上を満足している。臨界荷重約10Nは、スクリューの半径を2mm、ねじ山の先端の幅を0.2mmのインプラントスクリューにおいて、膜が剥離することなく埋入可能な埋入トルクが150Ncmに相当する。該150Ncmは、インプラントに要求される埋入トルク35~45Ncmに対し、約4倍の安全率の強度を有し、本実施例の膜が所望の密着性を有することがわかる。
<界面の臨界せん断応力>
界面の臨界せん断応力は、スクラッチ試験の結果を用いて求めることができる。
スクラッチ試験では、膜の表面に圧子を通して荷重Wを与え、この圧子先端を膜に平行に引き摺る(スキッドさせる)ことにより、膜が剥がされて基体表面が露出するまでの長さを測る。圧子の荷重は、引き摺り長さと比例関係になるように設定されているので、この長さから、膜が剥がされた時の臨界荷重Wcが分かる。この時、膜の破壊あるいは変形の外観を観察することにより、膜の脆さや延性もわかる。ここでは、一般に使われているBenjamine-Weaverの式をもちいて求める。
すなわち、膜が壊れた時の荷重を臨界荷重Wcとし、ダイヤモンド製圧子の先端の半径をRとし、基体のブリネルの硬さをHとすると、このときの界面のせん断応力τ(臨界せん断応力)は式5のようにあらわされる。
Figure 2022074692000009
ダイヤモンド圧子の先端Rを0.8mmとし、チタン基体とジルコニア基体のブリネル硬さを、それぞれ2.3GPa、12.0GPaとし、臨界荷重を図12および図13のスクラッチ試験の値を用いて計算した。なお、ブリネルの硬さは10GPa以上が換算表にしめされていないので、ジルコニアについては、ブリネルとほぼ同じ値を示し、ダイヤモンドを圧子として用いるビッカースの硬さの値を用いた。また、臨界荷重については、小さい値をとる方向(研削痕に平行な方向)のスクラッチ試験の結果を用いた。
図14に示すように、A1-C0~C3、A2-C0~C3のすべての膜と基体の組合せにおいて、界面のせん断応力τは80MPaを大きく上回り、また、160MPaを超えていた。これにより、本発明で作られた膜の界面のせん断応力は式3を満たし、埋入時に外周部に生じるせん断応力よりも十分に密着性が強く、埋入時に剥離することがないことがわかった。
図14は、A1-C0~C30及びA2-C0~C30の膜の硬さから換算された、A1-C0~C30及びA2-C0~C30の降伏せん断応力を示す。なお、降伏せん断応力の計算方法は、例えばG. E. Dieter: Mechanical metallurgy, McGraw-Hill, 1988に見いだすことができる。
膜の降伏応力は膜の界面のせん断応力よりも小さく、表面にせん断力が加わったときに、界面より先に膜の方が延性的に変形して、膜の界面から剥離することがないことがわかる。このことは、図10、図11のスクラッチ試験の外観に現れていた。
スクラッチ試験において、スクリューのように基体が円筒形状である場合は、図15のように、円筒の軸に垂直方向に圧子を表面にセットし、円筒の半径方向に荷重Wを負荷した状態で、円筒を軸中心に回転させることにより圧子を周方向に沿って引き摺ることで、平面の場合と同様な測定が可能となり、臨界荷重をもとめることができる。ただし、この測定では、基体が円筒になるので、ヘルツの理論式(K. L. Johnson: Contact mechanics, Cambridge university press, 1985を参照のこと)に沿ってWの値に補正をあたえる。例えば、Φ4mmの円筒では、Wは約1.96倍、Φ5mmの円筒では約1.74倍にする。
インプラントスクリュー上に形成された本発明の膜は、<硬さ試験>および<スクラッチ試験>の結果より、十分な耐摩耗性、密着性と延性を有し、インプラントスクリューの膜として、これまでにない優れた膜の特性を有することがわかった。
<擬似体液を用いたin vitro生体反応試験>
チタンを用いたプレート状基体を用いて成膜したA1-C0、A1-C10、A1-C20及びA1-C30について、及びジルコニアを用いたプレート状基体を用いて成膜したA2-C0、A2-C10、A2-C20及びA2-C30について、擬似体液をもちいたin vitroの生体反応試験を行った。
擬似体液には、カルシウムおよびマグネシウムの含有されたハンクス平衡塩溶液(HBSS(+)溶液)を用いた。
擬似体液浸漬試験として、擬似体液400mlに各試料を浸漬させ、37℃の恒温槽中で1週間保持した後、サンプルを溶液から取り出した。
また、溶液中の平衡pHを生体内環境に近づけるため、スパッタリング膜溶出後の平衡pHが8.0以下となるようにHBSS(+)の溶液量を調整した。比較のために膜のないそれぞれの基体についても試験をおこなった。
成膜された表面の状態を時間の変化とともに観察した結果、成膜された膜のほとんどすべてが液中に溶出した後、表面に新たな膜が形成されることがわかった。
また、図示しないが、スパッタリング膜を成膜しなかったチタンおよびジルコニアの基体では、HBSS中で新たな膜は形成されなかったが、スパッタリングにより成膜した0%カルシウム(純マグネシウム)から30%カルシウムまでの基体では、新たな膜の形成が認められた。また、カルシウムを10%以上含む膜は、新しい膜の付着量が多いことが観察された。
図16に、チタンを用いたプレート状基体を用いて成膜したA1-C0、A1-C10、A1-C20及びA1-C30をHBSSに一週間浸漬し基体上に新たに形成された膜のSEM像を示す。
図17に、ジルコニアを用いたプレート状基体を用いて成膜したA2-C0、A2-C10、A2-C20及びA2-C30をHBSSに一週間浸漬し基体上に新たに形成された膜のSEM像を示す。
また、SEM像におけるほぼ中心(詳細には、SEM像中の「+」の位置)における、蛍光X線により行った成分分析の結果を表5に示す。
Figure 2022074692000010
表5において、アパタイトの存在の指標となるカルシウムとリンの比をみると、すべてのスパッタリング膜において1.5から2.0の値を示し、成分的にアパタイトが形成されている可能性が高いことがわかった。
また、上記膜の構造を解析するために、X線入射角を固定して検出器のみをスキャンする薄膜法によるX線回折(XRD)分析を行った。その結果を図18、図19に示す。
チタン基体上、ジルコニア基体上ともにアパタイトの特徴を表す回折角度にピークがスパッタリングされたほとんどの基体に現れた。A2-C0では、アパタイトのピークが確認されなかったが、図17、表5に示したように表面上にアパタイトは存在している。このことから、他のスパッタリング膜を有する試料と比べるとA2-C0に形成されたアパタイト量が少ないことがわかる。
このように成分分析および構造解析より、スパッタリング膜を有するすべての基体上にアパタイトが形成されたことが確認できた。また、スパッタリング膜にカルシウムを含有させることで、形成されるアパタイト量が多くなることが確認できた。
(比較例)
図20に、膜のみの表面粗さを評価するために表面が滑らかなガラス基体を用いてアークイオンプレーティングで純マグネシウムを成膜した試料AIPC1-C0とガラス基体を用いてスパッタリングで成膜したAC1-C0、AC1-C10、AC1-C20及びAC1-C30の線粗さの算術平均高さRa1の比較を示す。アークイオンプレーティングで純マグネシウムを成膜した試料とスパッタリングで成膜した試料の表面粗さを比較すると、成膜前のガラス基体に対してアークイオンプレーティングで純マグネシウムを成膜することで、Raが2.5μm以上増加することがわかる。一方、スパッタリングで純マグネシウムを成膜した場合は、Raが0.03μm以下しか増加しないことがわかる。さらに、カルシウムを含有することで、成膜時の粗さの上昇がより抑えられることがわかる。
図21に、ジルコニアを用いたプレート状基体を用いて成膜したA2-C20と、それに熱処理を施したA2-C20-HのXRDおよびスクラッチ試験の結果比較を示す。熱処理は、真空中で200℃1時間保持後炉冷した。XRD結果からA2-C20は非晶質でMgCaフリーの構造であり、A2-C20-Hはマグネシウムの結晶とMgCaが混在した構造であることがわかる。非晶質でMgCaフリーの構造を有するA2-C20が臨界荷重:約30Nであったのに対して、マグネシウムの結晶とMgCaが混在した構造を有するA2-C20-Hは臨界荷重:約2.7Nであった。また、A2-C20のスクラッチ試験後の写真を見ると、クラック及び部分的な剥離は観察されていない。一方、A2-C20-Hのスクラッチ試験後の写真を見ると、クラックや部分的な剥離が多数観察される。
これらのことから、非晶質かつMgCaフリーの構造によって非脆性な特性を有し、高い臨界荷重を示すことがわかる。一方、MgCaが存在して脆性な場合、臨界荷重が大幅に低いことがわかる。
表6に先行技術の膜と本願の膜の密着強度の比較を示す。
特許文献2にあるチタン酸カルシウム膜の密着強度:4.9MPaであり、非特許文献2にあるリン酸カルシウムコーティング膜の密着強度:80MPaである。これらは、接着材を用いたピン引張試験で得られた引張強度である。
本願の膜の引張強度を同様のピン引張試験で測定したが、接着剤の方が先に破壊するほど引張強度が強すぎて測定不可能であった。ピン引張試験で密着強度を測定できない試料は、より強い密着強度の測定が可能なスクラッチ試験などを用いるのが一般的である。経済産業省が発行した体内埋め込み型材料分野開発ガイドライン2008によると、膜の引張強度及びせん断強度はともに20MPa以上であることが望ましいとされている。そのため、本実施例で算出したせん断応力と先行技術における引張強度は同じ水準で密着強度として比較できる。したがって、本実施例で算出した中で最も低いA2-C20の密着強度:170MPaであっても、先行技術と比較すると極めて高い値であることがわかる。
Figure 2022074692000011

Claims (14)

  1. マグネシウム及び任意にカルシウムを有してなる膜を有する生体適合性材料であって、
    前記膜は、マグネシウムとカルシウムとの合計の重量を100重量%とすると、カルシウムが0~40重量%有し、
    前記膜の面粗さの算術平均表面高さSa1が2μm以下である、上記生体適合性材料。
  2. マグネシウム及び任意にカルシウムを有してなる膜を有する生体適合性材料であって、
    前記膜は、マグネシウムとカルシウムとの合計の重量を100重量%とすると、カルシウムが0~40重量%有し、
    前記膜の面粗さの算術平均表面高さSa1と前記膜を有しない表面の面粗さの算術平均表面高さSa2との差分が300nm以下である、上記生体適合性材料。
  3. 前記膜の面粗さの算術平均表面高さSa1が2μm以下である請求項2に記載の生体適合性材料。
  4. マグネシウム及び任意にカルシウムを有してなる膜を有する生体適合性材料であって、
    前記膜は、マグネシウムとカルシウムとの合計の重量を100重量%とすると、カルシウムが0~40重量%有し、
    前記膜は、下記i)~iii)のうちいずれか一つ、又は二つ、又は全て、の特性を有する、上記生体適合性材料:
    i)インデンテーション試験により得られる硬度が0.4GPa以上である;
    ii)臨界荷重Wc(N)と膜厚t(μm)との関係Wc/tが、1N/μm以上である;
    iii)膜と基体の界面の臨界せん断応力が80MPa以上である。
  5. a)前記膜の面粗さの算術平均表面粗さSa1が2μm以下であるか、及び/又は
    b)前記膜の面粗さの算術平均表面高さSa1と前記膜を有しない表面の面粗さの算術平均表面高さSa2との差分が300nm以下である、
    請求項4に記載の生体適合性材料。
  6. 前記膜の平均厚さが0.10~30μmである請求項1~5のいずれか一項に記載の生体適合性材料。
  7. 前記膜が、マグネシウムのみから本質的になる請求項1~6のいずれか一項に記載の生体適合性材料。
  8. 前記膜が、マグネシウム及びカルシウムを有してなり、前記膜は、マグネシウムとカルシウムとの合計の重量を100重量%とすると、カルシウムが0重量%を越えて40重量%以下有する請求項1~6のいずれか一項に記載の生体適合性材料。
  9. 前記膜がMgCaフリーである請求項8に記載の生体適合性材料
  10. 前記膜が非晶質部分を有する請求項8又は9に記載の生体適合性材料。
  11. 前記生体適合性材料が生体適合性基体を有し、該生体適合性基体が、純チタニウム、ジルコニア、コバルトクロム合金、ステンレス鋼及びチタン合金からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1~10のいずれか一項に記載の生体適合性材料。
  12. 前記生体適合性材料が、人工骨材料、骨内固定器具材料、歯科用インプラント材料、歯科矯正用アンカースクリュー材料、髄内釘材料、及び椎体間固定材料からなる群から選ばれる1種である請求項1~11のいずれか一項に記載の生体適合性材料。
  13. 前記生体適合性材料の形状が、円筒状、円錐台状及び円錐状、並びに該形状の一部にスクリュー状のねじ部を備えた形状、直方体及び立方体、並びに一部傾斜面を有するブロック形状、及びくさび形状からなる群から選ばれる1種である請求項1~12のいずれか一項に記載の生体適合性材料。
  14. (A)生体適合性基体を準備する工程;
    (B)マグネシウム及び任意にカルシウムを有してなるスパッタターゲットを準備する工程;
    (C)前記生体適合性基体の表面を真空中でクリーニングする工程;及び
    (D)前記スパッタターゲットを用いて、前記(C)工程で得られた生体適合性基体の温度を130℃以下として、スパッタリングにより前記生体適合性基体にマグネシウム及び任意にカルシウムを有してなる膜を形成する工程;
    を有することにより、
    マグネシウム及び任意にカルシウムを有してなる膜を有する生体適合性材料であって、前記膜は、マグネシウムとカルシウムとの合計の重量を100重量%とすると、カルシウムが0~40重量%有する生体適合性材料を得る、生体適合性材料の製造方法。
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