JP2022067924A - 潤滑剤組成物、その製造方法及び機械装置 - Google Patents

潤滑剤組成物、その製造方法及び機械装置 Download PDF

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Abstract

【課題】潤滑性能を向上させたシリコーン油の潤滑剤組成物、それらの製造方法並びに機械装置の提供。【解決手段】シリコーン油を基油とし、下記一般式のフラーレン誘導体TIFF2022067924000005.tif63165(上記一般式(1)中、R1及びR2はアルコキシ基を表わし、FLNはフラーレン骨格を表し、nは1以上の整数を表わす。)を含む潤滑剤組成物を用いる。【選択図】なし

Description

本発明は、潤滑剤組成物、その製造方法及び機械装置に関する。
シリコーン油は、耐熱耐酸化性や耐薬品性、低温特性、粘度温度特性、剪断抵抗性、電気特性、高真空性等に優れるため、非常に有用なオイルとして種々の分野で利用されている。
特許文献1には、シリコーン油にフラーレンの1種または2種以上を0.001~5重量%の割合で溶解または分散してなり、250℃での24時間加速試験における粘度増加の割合が60%以下であることを特徴とする耐熱性シリコーン組成物が開示されている。
特許文献2には、耐摩耗性を低下することなく、増ちょう剤、基油としてシリコーン油、添加剤として摩擦調整剤を含み、摩擦調整剤が硫黄-窒素系添加剤を含む高摩擦性を向上させたシリコーングリース組成物が開示されている。
特許文献3には、芳香核を含有するシリコーン油と含フッ素芳香族化合物とからなる潤滑剤組成物が提案されている。
また、シリコーン油は使用されていないが、フラーレンが利用された例として特許文献4および5が挙げられる。
特許文献4には、潤滑基油に、鉱物油、ポリαオレフィン油、フェニルエーテル油、エステル油を用いて、フラーレンとしてC60及び/又はC70を用いて、有機溶媒、粘度指数向上剤、摩擦調整剤、清浄分散剤を配合したことを特徴とするエンジンオイル用添加剤組成物が提案されている。
特許文献5には、液状媒体中にナノカーボン材料と界面活性が含有する離型剤組成物が提案されている。
特許文献6には、フラーレン誘導体としてマロン酸ジ-tert-ブチル多付加体等のメタノフラーレンの製造方法が開示されている。
特許文献7には、フラーレン誘導体としてマロン酸ジエチル多付加体及びマロン酸-ジ-tert-ブチル多付加体が開示され、用途としてレジスト下層膜形成組成物が提案されている。
特開2005-206761号公報 特開2018-16725号公報 特開平10-168471号公報 特開2008-266501号公報 特許第5635999号公報 特許第4916117号公報 特許第5757286号公報
しかしながら、シリコーン油は前述の優れた特性があるものの潤滑性が悪いため、潤滑油としての用途は限定されていた。さらに、シリコーン油では、極圧添加剤や摩耗防止剤などの潤滑性改良剤が効きにくいため、潤滑性の改良が困難であった。また、フラーレンはシリコーン油に溶解しないため、フラーレンのシリコーン油への適用は困難であった。
本発明の目的は、潤滑性能を向上させたシリコーン油の潤滑剤組成物、それらの製造方法並びに機械装置を提供することである。
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
[1] 基油とフラーレン誘導体とを含み、
前記基油はシリコーン油であり、
前記フラーレン誘導体は下記一般式(1)
Figure 2022067924000001
(上記一般式(1)中、R及びRはアルコキシ基を表わし、FLNはフラーレン骨格を表し、nは1以上の整数を表わす。)
で表される化合物である、
潤滑剤組成物。
[2] 前記nは、1~5である前項[1]に記載の潤滑剤組成物。
[3] 前記R及びRは、tert-ブトキシ基である前項[1]または[2]に記載の潤滑剤組成物。
[4] 前記基油を構成する分子構造の一部を有する付加基が前記フラーレン誘導体に付加した付加体を更に含む前項[1]~[3]のいずれかに記載の潤滑剤組成物。
[5] さらに、増ちょう剤を含むグリース組成物である前項[1]~[4]のいずれかに記載の潤滑剤組成物。
[6] 前記増ちょう剤がリチウム石けんである前項[5]に記載の潤滑剤組成物。
[7] 基油にフラーレン誘導体を溶解する溶解工程を有し、
前記基油はシリコーン油であり、
前記フラーレン誘導体は前記式(1)で表される化合物である、
潤滑剤組成物の製造方法。
[8] 非酸化性雰囲気下、溶解工程で得られたフラーレン誘導体の溶液中で、前記基油を構成する分子構造の一部を有する付加基を、前記フラーレン誘導体に付加する付加反応工程を更に含む前項[7]に記載の潤滑剤組成物の製造方法。
[9] 前記非酸化性雰囲気中の酸素分圧が、10パスカル以下である前項[8]に記載の潤滑剤組成物の製造方法。
[10] 付加反応工程は、前記溶液中のフラーレン誘導体の濃度が、付加反応工程前のフラーレン誘導体の濃度に対して0.1~0.7倍となるまで行なわれる前項[8]または[9]に記載の潤滑剤組成物の製造方法。
[11] 付加反応工程の処理時間が、5分以上24時間以下である前項[8]~[10]のいずれかに記載の潤滑剤組成物の製造方法。
[12] 付加反応工程が、溶解工程で得られたフラーレン誘導体の溶液を熱処理する工程である前項[8]~[11]のいずれかに記載の潤滑剤組成物の製造方法。
[13] 熱処理の温度が、前記基油の使用上限温度を超え、且つ前記使用上限温度+250℃以下の範囲、または、200~350℃の範囲である前項[12]に記載の潤滑剤組成物の製造方法。
[14] 付加反応工程が、溶解工程で得られたフラーレン誘導体の溶液に放射線照射を行う工程であり、前記放射線が紫外線又は電離放射線である前項[8]~[11]のいずれかに記載の潤滑剤組成物の製造方法。
[15] 前記放射線が、波長190nm~365nmの紫外線である前項[14]に記載の潤滑剤組成物の製造方法。
[16] 付加反応工程で照射される放射線のエネルギーが、前記フラーレン誘導体の溶液1mLあたり1J~100Jである前項[14]または[15]に記載の潤滑剤組成物の製造方法。
[17] フラーレン誘導体を含む溶液から不溶成分を除去する不溶成分除去工程を更に有する前項[8]~[16]のいずれかに記載の潤滑剤組成物の製造方法。
[18] 前項[1]~[6]のいずれかに記載の潤滑剤組成物を摺動部に使用した機械装置。
[19] 前記摺動部が真空下で摺動する前項[18]に記載の機械装置。
[20] 前項[5]または[6]に記載の潤滑剤組成物を摺動部に使用した機械装置。
[21] 前記摺動部が摩擦板である前項[20]に記載の機械装置。
シリコーン油を基油とする潤滑特性が優れた潤滑剤組成物、その製造方法及びそれらを使用した機械装置が提供される。
以下、本発明の実施形態に係る潤滑剤組成物、それらの製造方法及び機械装置について説明する。なお、本実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、変更、付加、省略、置換等が可能である。
(潤滑剤組成物)
本実施形態に係る潤滑剤組成物は、基油とフラーレン誘導体とを含み、前記基油はシリコーン油であり、前記フラーレン誘導体は前記式(1)で表される化合物である。このような潤滑剤組成物は、一般に、潤滑油組成物と称されるが、後述する添加剤として増ちょう剤を含む場合はグリース組成物と称される。
(基油)
本実施形態の潤滑剤組成物に含まれる基油は、シリコーン油である。基油には、揮発成分が含まれていないことが、真空または減圧環境下で使用する場合および長期安定性の観点から好ましい。基油の蒸気圧は、具体的には、25℃の蒸気圧が1パスカル以下であることが好ましく、0.1パスカル以下であることがさらに好ましく、特に好ましくは、0.01パスカル以下であることが好ましい。
シリコーン油としては、例えば、ジメチルシリコーン油、メチルフェニルシリコーン油(フェニル変性シリコーン油)、メチルハイドロジェンシリコーン油、ポリエーテル変性シリコーン油、アラルキル変性シリコーン油、フロロアルキル変性シリコーン油、アルキル変性シリコーン油、脂肪酸エステル変性シリコーン油等が挙げられる。好ましくはジメチルシリコーン油、メチルフェニルシリコーン油などが好ましく挙げられる。さらに、これらを複数混合したシリコーン油でも良い。
(フラーレン誘導体)
本実施形態の潤滑剤組成物に含まれるフラーレン誘導体は、前述の式(1)で表される化合物である。
フラーレン誘導体中のフラーレン骨格の種類としては、例えば、C60やC70、さらに高次のフラーレンでもよい。原料となるフラーレンの入手性の観点から、フラーレン骨格部分が、C60やC70の誘導体が好ましく、C60の誘導体がより好ましい。また、フラーレン誘導体はこれらフラーレン骨格部分が異なる混合物であってもよい。この場合、フラーレン骨格部分がC60の誘導体が主成分であることが好ましい。このフラーレン誘導体としては、市販品を用いてもよいが、特許文献6または7の方法あるいは後述する実施例の方法で得てもよい。
前記式(1)中のnは、1以上の整数であり、フラーレン誘導体の基油への溶解性の観点から2以上が好ましい。また、nは、フラーレン骨格の大きさが大きいほど大きくできるが、フラーレン骨格の安定性の観点から5以下とすることが好ましい。
前記式(1)中のアルコキシ基は、フラーレン誘導体の基油へ溶解性の観点から炭素数2~24であり、炭素数3~8がより好ましい。なお、前記式(1)中のR及びRは、それぞれ異なるアルコキシ基であってもよく同じであってもよいが、製造のしやすさの観点から同じであることが好ましい。
潤滑剤組成物中のフラーレン誘導体濃度は、基油への飽和溶解度未満であれば任意に選択できる。前記濃度は、基油に対して潤滑特性を改善する観点から0.001μmol/g以上が好ましく、宇宙線や真空中でも残存する酸素分子などでフラーレン誘導体が消費される過酷な環境下で長期間使用する観点から0.01μmol/g以上がより好ましく、0.1μmol/g以上がさらに好ましい。また、前記濃度は、フラーレン誘導体の析出を防ぐ観点から、使用環境下で飽和溶解度未満であることが好ましく、経済的観点から1μmol/g以下がより好ましく、0.1μmol/g以下がさらに好ましい。これら上限及び下限は目的に応じて任意に組み合わせることができる。なお、前記各濃度は、後述する付加体が存在する場合は、フラーレン誘導体と付加体との合計濃度を表す。
(付加体)
本実施形態の潤滑剤組成物は、前記基油を構成する分子構造の一部が前記フラーレン誘導体に付加した付加体(本実施形態では、単に「付加体」と言うことがある。)を含んでもよい。付加体は、フラーレン誘導体の溶液に、後述の熱処理または放射線照射を行うことにより、基油を構成する分子構造の一部が開裂し、その結果、反応性の高い分子(以下、「開裂分子」という。)が生成し、これがフラーレン誘導体に付加したものである。付加体は、付加体となっていないフラーレン誘導体(本実施形態では、単に「フラーレン誘導体」ということがある。)に比べ、後述する実施例で示す通り潤滑特性が改善され、また、基油に対する溶解度が高くなるのでより様々な環境下で析出の心配なく使用できるようになる。そのため、前記式(1)のnを大きくしなくても付加体とすれば、溶解性も改善できる。
(添加剤)
本実施形態の潤滑剤組成物は、潤滑剤組成物としての効果を損なわない範囲で添加剤を含有することができる。添加剤としては、例えば、市販の酸化防止剤、粘度指数向上剤、極圧添加剤、清浄分散剤、流動点降下剤、腐食防止剤、固体潤滑剤、油性向上剤、防錆剤、抗乳化剤、消泡剤、加水分解抑制剤、増ちょう剤等が挙げられる。これらの添加剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
酸化防止剤としては、例えば、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、ジアルキルジフェニルアミン等が挙げられる。
粘度指数向上剤としては、例えば、ポリアルキルスチレン、スチレン-ジエンコポリマーの水素化物添加剤等が挙げられる。
極圧添加剤としては、例えば、ジベンジルジサルファイド、アリルリン酸エステル、アリル亜リン酸エステル、アリルリン酸エステルのアミン塩、アリルチオリン酸エステル、アリルチオリン酸エステルのアミン塩等が挙げられる。
清浄分散剤としては、例えば、ベンジルアミンコハク酸誘導体、アルキルフェノールアミン類等が挙げられる。
流動点降下剤としては、塩素化パラフィン-ナフタレン縮合物、塩素化パラフィン-フェノール縮合物、ポリアルキルスチレン系等が挙げられる。
抗乳化剤としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸塩等が挙げられる。
腐食防止剤としては、例えば、ジアルキルナフタレンスルホン酸塩等が挙げられる。
増ちょう剤としては、例えば、リチウム石けんや複合リチウム石けんに代表される石けん系増ちょう剤、ジウレアに代表されるウレア系増ちょう剤、有機化クレイやシリカに代表される無機系増ちょう剤、ポリテトラフルオロエチレン及びメラミンシアヌレートに代表される有機系増ちょう剤等が挙げられる。これらの中でも、シリカ、リチウム石けん、複合リチウム石けん及びウレア化合物が好ましく、リチウム石けんがより好ましい。リチウム石けんとしては、ステアリン酸リチウム又は12-ヒドロキシステアリン酸リチウムが好ましく、ステアリン酸リチウムがさらに好ましい。
(潤滑剤組成物の製造方法)
本実施形態の潤滑剤組成物の製造方法は、上記基油に上記フラーレン誘導体を溶解し、フラーレン誘導体の溶液を得る溶解工程を有する。さらに、溶解工程の前に、例えば、フラーレン誘導体を100℃で10パスカル以下の環境に放置しておくなどして、フラーレン誘導体から揮発成分を除去する工程を設けることが好ましい。
前記溶解工程における溶解は任意に選択する方法で行うことができ、例えば、機械攪拌や超音波照射などで行うことが好ましい。基油が室温で低粘性の液体である場合は、室温で攪拌してよい。一方、基油が室温で高粘性の液体あるいは固体の場合は、加温し、低粘度な液体状態にして攪拌して溶解することが好ましい。
フラーレン誘導体の濃度は、溶解工程でのフラーレン誘導体の溶解量で調整することができる。あるいは、溶解工程では所望するより濃い濃度(ただし、飽和溶解度未満)に調整し、後の工程のいずれかで、基油で希釈して所望する濃度に調整することが、扱う溶液量を減らせる観点から好ましい。後述する除去工程を行う場合は、前記希釈を除去工程の後に行うことが、より正確な濃度に調整しやすく好ましい。なお、フラーレン誘導体の濃度は、実施例に記載の紫外線吸収スペクトルや高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いた手法により測定することができる。
(除去工程)
溶解工程で得られたフラーレン誘導体の溶液には、不溶性の成分が含まれることがある。その場合、これら不溶成分を除去することが好ましい。すなわち、上記潤滑剤組成物の製造方法は、上記溶解工程の後に、上記フラーレン誘導体の溶液から不溶成分を除去する除去工程を更に有していてもよい。不溶成分を除去する方法としては任意に選択できるが、例えば、メンブランフィルターを用いて濾過する方法、遠心分離器を用いて沈降除去する方法、及びそれら方法の両方を組み合わせて用いる方法等が挙げられる。
溶解工程で得られたフラーレン誘導体の溶液をそのまま潤滑剤組成物としてもよいが、後述する付加反応工程を行い、このフラーレン誘導体の溶液をさらに加工したものを潤滑剤組成物とすることが好ましい。
(付加反応工程)
付加体は、前記フラーレン誘導体の溶液を、酸素分圧を下げるなどした非酸化性雰囲気下で熱処理または放射線照射を行うことにより得られる。すなわち、前記潤滑剤組成物の製造方法は、前記溶解工程の後に、前記フラーレン誘導体の溶液を非酸化性雰囲気下で熱処理し、前記付加体を生成させる付加反応工程を更に有していてもよい。また、前記溶解工程の後に、前記フラーレン誘導体の溶液を非酸化性雰囲気下で、放射線の照射を行って前記付加体を生成する付加反応工程を更に有していてもよい。
なお、熱処理及び放射線照射の一方または両方を行って付加体を得てもよく、あるいは、両方を同時に行って付加体を得てもよい。
本工程によって得られる付加体は、前記基油を構成する分子構造の一部を有する付加基が上記フラーレン誘導体に付加した構造を有する。
フラーレン誘導体が付加体に変化したことは、処理前後のフラーレン誘導体の溶液について質量スペクトル測定を行うことで確認することができる。例えば、フラーレン骨格がC60の誘導体を用いた場合、熱処理または放射線処理を行う前のフラーレン誘導体の溶液では、前記nが2、3、4、5のフラーレン誘導体に相当するm/z=1148、1362,1576,1790のピークが確認される。これに対して、処理後の潤滑剤組成物では、1148、1362,1576,1790のピークが減少し、付加体のピークが複数出現する。主なピークとしては、フラーレン誘導体に鎖長が異なる複数のアルキル基が付加したものに相当するピーク1148+N、1148+2N、1362+N、1362+2N,1576+N,1576+2N,1790+N,1790+2Nなどが確認できる。Nは基油を構成する分子の分子量以下の自然数である。これは、基油の開裂で生じたアルキルラジカルの分子2個がフラーレン誘導体に付加したものと考えられる。
なお、上記基油の分子は必ずしも特定の箇所で開裂しないため、通常、付加体は、単一種の分子にならず、その分析は難しくなる。そのため、付加体が生成する反応の進行状況は、残存するフラーレン誘導体の濃度を測定し、下記式で表される残存率を目安にするとよい。
(残存率)=[処理後のフラーレン誘導体濃度]/[処理前のフラーレン誘導体濃度]
上記式中、処理とは、熱処理及び放射線照射の一方又は双方を示す。なお、処理中の残存率を求める場合は、上記「処理後のフラーレン誘導体濃度」を「処理中のフラーレン誘導体濃度」に読み変えればよい。
なお、生成される付加体の濃度は下記式で推定してもよい。
[付加体濃度]=[処理前のフラーレン誘導体濃度]-[処理後のフラーレン誘導体濃度]
前述の式で求めた残存率は、0.1~0.7であることが好ましく、0.2~0.5であることがより好ましい。前記残存率が、0.1~0.7であると、潤滑剤組成物の潤滑性が使用初期からより安定に発現し、機械装置の摺動部の摩擦摩耗が抑制し、基油劣化に伴う揮発成分の発生を抑制しやすい。
よって本実施形態では、付加反応工程中、フラーレン誘導体の溶液のフラーレン誘導体濃度をモニタリングし、フラーレン誘導体の濃度が、上記熱処理前又は前記放射線照射処理前のフラーレン誘導体の濃度に対して0.1以上0.7以下となるまで行うことが好ましい。また、前記熱処理又は放射線照射処理の処理時間は5分以上24時間以下となるようにするのが好ましく、これにより熱処理あるいは放射線処理の操作が行いやすくなる。処理時間の調整として、例えば、熱処理温度を上げるか、放射線照射強度を上げると、処理時間を短くでき、逆に、熱処理温度を下げるか、放射線照射強度を下げると、処理時間を長くすることができる。また、放射線照射では、例えば、放射線をある程度高い放射線強度で短時間(0.1秒以上3分以下程度)照射することを2~10回程度繰り返すなど、照射回数を調整することにより、前記フラーレン誘導体濃度の範囲とする方法も操作しやすく好ましい。
通常、フラーレン誘導体の溶液は大気中で扱われる。このため、同溶液中の酸素ガス濃度は大気中の酸素ガスと平衡状態になっている。また、酸素分子は、開裂分子と反応してしまい、付加体の生成を抑制する。そのため、可能な限りフラーレン誘導体の溶液中の酸素分子を除去し、非酸化性雰囲気下で、熱処理または放射線処理を行うことが好ましい。熱処理工程または放射線照射における前記非酸化性雰囲気としては、フラーレン誘導体の溶液と平衡にある気相で、前記非酸化性雰囲気中の酸素分圧が10パスカル以下であることが好ましく、5パスカル以下であることがより好ましく、2パスカル以下であることがさらに好ましい。1パスカル以下や、0.1パスカル以下であっても良い。また非酸化性雰囲気の例としては、下記に述べるような不活性ガス雰囲気が好ましく挙げられる。熱処理の具体例として、下記の2つの方法、放射線照射の具体例として、下記の1つの方法が挙げられる。
・熱処理
前記熱処理の温度は、基油の使用温度の上限を超える温度で行うことが好ましい。基油の使用上限温度を超えることにより、開裂分子が発生しやすくなる。さらに、温度が高くなると、開裂分子がより多く発生し、その結果、熱処理時間は短くて済む。操作のしやすい熱処理時間の観点から、本熱処理における熱処理の温度は、基油の使用上限温度を超え、且つ基油の使用上限温度+250℃以下の範囲であることが好ましい。なお基油の使用上限温度とは、基油の製造会社のカタログなどから知ることができる。基油の使用上限温度が不明な場合は、目安として、熱処理温度は200℃以上350℃以下が好ましく、250℃以上300℃以下がより好ましい。熱処理の時間は、操作性の観点から5分~24時間であることが好ましく、扱える設備等の事情によっては前記観点から、5分から30分や、30分から1時間や、1時間から5時間や、5時間から24時間などであってよい。
非酸化性雰囲気とする方法としては、任意に選択できるが、例えば、気密可能なステンレス等の金属製容器内に、フラーレン誘導体の溶液を収容した後、容器を密閉する。次いで、窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガスで容器内を置換するか、さらに容器内のフラーレン誘導体の溶液を不活性ガスでバブリングする。このようにして、フラーレン誘導体の溶液を不活性ガスと平衡状態にし、前記酸素分圧を10パスカル以下とする。
あるいは、非酸化性雰囲気とする方法として、気密可能な容器内を減圧する方法も挙げられる。例えば、容器内を10パスカル以下に減圧すれば、気相の酸素分圧を10パスカル以下、通常2パスカル以下とすることができる。このように容器内を減圧によって非酸化性雰囲気とし、その状態を保ったまま容器を加熱することにより、フラーレン誘導体の溶液を熱処理することができる。
フラーレン誘導体の溶液の加熱は、任意に選択される方法で行うことができる。例えば、外部から油浴などで加温するか、赤外線を照射するか、あるいはマイクロウェーブを照射する方法、などで行うことができる。
・放射線照射処理
前記放射線照射処理に用いる放射線は、開裂分子を生成させるエネルギーを有する放射線である。具体的には紫外線又は電離放射線であり、好ましくは紫外線である。より好ましくは波長190nm以上365nm以下の紫外線であり、さらに好ましくは波長250mn以上360nm以下の紫外線であり、特に好ましくは波長330mn以上350nm以下の紫外線である。例えば、C-C単結合は、波長341nm以下の紫外線で開裂する。また、常温で放射線照射処理を行う場合、熱振動が重畳されるため、C-C単結合は、341nmよりも多少長い波長を有する紫外線でも開裂する。よって、波長190nm以上365nm以下の紫外線を照射することで、開裂分子を十分に生成させることができる。また、開裂分子を生成させられる限り、低エネルギーの放射線の方が、基油分子中で開裂する結合個所が限られる。そのため、比較的元の基油の分子の部分形状を保った大きな開裂分子となりやすく、得られる付加体の基油との親和性が向上すると考えられる。
放射線照射処理は、前記熱処理と同様に、非酸化性雰囲気下で処理を行うことが好ましい。ただし、放射線照射する時には、容器内に紫外線ランプ等の放射線源を挿入するか、又は、容器の外部から照射する為に、容器の少なくとも一部が、使用する放射線が透過する材料で構成されているものを用いる。例えば、紫外線照射をする場合、前記ステンレス容器の全体あるいは一部を、石英ガラス等の紫外線が透過する材料のものに置き換える。
放射線照射処理で照射される放射線のエネルギー量は、フラーレン誘導体の溶液1mLあたり、1J以上100J以下が好ましく、1.5J以上60J以下がより好ましく、2J以上20J以下がさらに好ましい。この範囲であれば、前述の式から得られる処理後のフラーレン誘導体の濃度の範囲を、すなわち残存率を、0.1以上0.7以下に調整しやすい。上述したように、照射は例えば、1回の照射のみを行っても良いし、照射を2回以上に分けて複数回行っても良い。照射を複数回に分ける場合、各回の照射条件は同じであっても異なってもよいが、照射した放射線の総エネルギー量が上記範囲内にあることが好ましい。照射回数は、例えば、1~10回の範囲や、2~5回の範囲であってもよい。また、照射を行う毎に残存率を確認し、目的の残存率が得られるまで、照射を1回以上繰り返すことも好ましい。
紫外線照射の場合は、通常の低圧水銀ランプ、UVオゾンランプ、紫外LED、エキシマランプ、キセノンランプなど用いることができる。紫外線の照射量としては、あらかじめ紫外線光度計を用いて、紫外線の照射光のエネルギー密度(mW/cm)を測定しておき、次に照射時間(秒)と照射範囲(cm)を規定する。これらのことにより、照射する紫外線のエネルギー量(J)を決定することができる。照射時間は、取扱いがしやすい範囲で選択すればよく、例えば、5分以上24時間以下が好ましい。あるいは、LEDのようの明滅が容易なランプやシャッター設備を用いることができる場合などでは、0.1秒~1時間や、0.2秒~30分や、0.3秒~3分や、0.5秒から60秒や、1秒から30秒であってもよい。
(添加剤の添加)
前記添加剤の添加は、上記いずれの工程で行ってもよい。ただし、除去工程を行う場合、フラーレン誘導体の溶液の取扱いのしやすさの観点から、増ちょう剤のように不要成分を含む添加剤や増粘効果のある添加剤の添加は、除去工程後に行うことが好ましく、出来るだけ後工程で行うことが好ましい。また、付加反応工程を行う場合、添加剤への熱や放射線の影響を避ける観点から、付加反応工程後に添加剤を添加することが好ましい。
なお、添加剤の添加量は、所望する添加剤の効果に合わせて添加量を加減すればよい。例えば、増ちょう剤の添加量は、得られるグリース組成物に対して5~20質量%程度が好ましいが、グリース組成物のちょう度を指標に添加量を加減することがより好ましい。
本実施形態の潤滑剤組成物によれば、摩擦抵抗低減や耐摩耗性等の潤滑特性に優れるだけでなく、低蒸気圧を有することができ、更には、基油劣化に伴う揮発成分の発生が抑制されて、潤滑剤組成物の蒸気圧上昇を抑制することができる。
本実施形態の潤滑剤組成物は、各種用途に使用することができるが、特に、潤滑剤組成物を真空下で摺動する摺動部に使用した機械装置に好ましく適用できる。このような機械装置は真空容器内や宇宙空間での使用に適している。
また、本実施形態のグリース組成物(増ちょう剤を含む潤滑剤組成物)を用いると、後述する実施例で示すように高温(140℃)でも摩擦係数が低下しにくいので、例えば、クラッチ、ブレーキまたはトルクリミッタ等の装置の摩擦板にも好ましく適用できる。
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
[合成例]
反応容器に窒素気流下マロン酸-ジ-t-ブチル(東京化成工業社製)9.80gを入れ、さらに1,2,4-トリメチルベンゼン150mlとジアザビシクロ-7-ウンデセン6.50gを加えて攪拌しながら温度を4℃で、保持した。さらに、この溶液に、ヨウ素(東京化成工業社製)10.9gを130mlの1,2,4-トリメチルベンゼンに溶解した溶液を滴下して、11℃に保持するように滴下した。滴下後、室温に戻した。その後、フラーレン(フロンティアカーボン社製、nanom(登録商標) mix ST。C60を主成分とするフラーレン混合物である。)5.00gを1,2,4-トリメチルベンゼン350mlに溶解した溶液を攪拌しながら加えた。その後、反応液にジアザビシクロ-7-ウンデセン6.90gを5mlの1,2,4-トリメチルベンゼンで希釈した溶液を攪拌しながらゆっくり滴下し、滴下後、室温で7時間攪拌反応した。得られた反応液に、飽和亜硫酸ナトリウム水溶液で、4回洗浄する。有機層を希硫酸(1N)100mlで2回洗浄し、純水200mlで3回洗浄し、有機層を減圧下で留去して、9.4gの赤褐色の固体が得られた。さらに、シリカゲルカラムクロマトグラフでヘキサンと酢酸エチルの混合溶媒で、分離精製して、高真空下100℃で乾燥することで、フラーレン誘導体(マロン酸-ジ-t-ブチルエステルがフラーレンに1~5個付加した化合物の混合物)を得た。
[実施例1]
(潤滑剤組成物の調製)
合成例で得られたフラーレン誘導体0.001gと、基油としてシリコーン油(信越化学工業社製、KF-96-100。以下、「シリコーン油A」と言うことがある。)10gとを混合した。得られた混合物を、室温でスターラーを用いて36時間撹拌した。次に、これを孔径0.1μmのメンブランフィルターで濾過して、フラーレン誘導体の溶液を得た。得られたフラーレン誘導体の溶液のフラーレン誘導体濃度を測定した結果、0.1μmol/gであった。得られたフラーレン誘導体の溶液を潤滑剤組成物とした。
なお、上記フラーレン誘導体の濃度の測定は、紫外線吸収スペクトルグラフ(島津製作所社製 UV2400PCシリーズ)を用いた。具体的には、この装置において、石製セルで、吸光度(波長295nm)で測定することにより、潤滑剤組成物等の試料中のフラーレン誘導体の量を定量した。また、検量線は、上記のフラーレン誘導体により作成した。
(摩擦抵抗および耐摩耗性の評価)
得られた潤滑剤組成物について、摩擦摩耗試験機(Anton Paar社製、ボールオンディスクトライボメーター)を用いて、平均摩擦抵抗および耐摩耗性を評価した。
先ず、基板およびボールを用意し、これらの材質は、高炭素クロム軸受鋼鋼材SUJ2とした。ボールの直径は6mmとした。基板の一主面に潤滑剤組成物を塗布し、基板を25℃にした。次に、潤滑剤組成物を介して、基板の一主面上にて、ボールが基板上で円状の軌道を描くように、基板を回転させて、固定されたボールを摺動させた。基板の一主面上におけるボールの速度を0.55cm/秒、ボールによる基板の一主面に対する荷重を5Nとした。基板の前記一主面上におけるボールの摺動時間が30分の時のボール面の擦り面(円形)を光学顕微鏡で観察した。ボールに形成された擦り面の直径を測定し、この数値を耐摩耗性とした。擦り面の直径が小さいほど、耐摩耗性が優れるといえる。平均摩擦抵抗および耐摩耗性の評価結果を表1に示す。
(耐焼き付き性の評価)
得られた潤滑剤組成物について、摩擦摩耗試験機(Anton Paar社製、ボールオンディスクトライボメーター)を用いて、耐焼き付き性を評価した。
先ず、基板およびボールを用意し、これらの材質は、高炭素クロム軸受鋼鋼材SUJ2とした。ボールの直径は6mmとした。基板の一主面に潤滑剤組成物を塗布し、基板を30℃に一定とした。次に、潤滑剤組成物を介して、基板の一主面上にて、ボールが基板上で円状の軌道を描くように、基板を回転させて、固定されたボールを摺動させた。基板の一主面上におけるボールの速度を0.55cm/秒、ボールによる基板の一主面に対し表1に記載の荷重をかけて、ボールの摺動時間が30分まで稼働したときは耐焼き付き性が良好と判断し、そうでないときは不良と判断した。結果を表1に示す。
(安定性の評価)
昇温脱離ガス分析装置(リガク社製、TPDtype V)を用いて、高真空下での潤滑剤組成物から揮発する成分の有無を測定した。潤滑剤組成物0.01gについて、気圧10-5パスカルでの脱離ガス度を測定した。脱離ガス度は、炭酸ガス(分子量44)よりも分子量の小さい分子の影響を排除するため、分子量46以上200以下のピークの積算値とした。比較品として、シリコーン油Aに揮発成分としてトリメチルベンゼン(TMB)(東京化成社製)を1質量ppm添加したものを用いて、同様の測定をした。TMBを添加したMAC油では、TMBに起因するピークが検出された。このピークの積算値を1(基準値)とした。この基準値に対する、計測された潤滑剤組成物の脱離ガスに起因するピークの積算値の割合を脱離ガス度とした。脱離ガス度が小さいほど、高真空下での安定性が優れるといえる。
脱離ガス度は、耐摩耗性試験前と耐摩耗性試験後との2点を測定した。前記耐摩耗性の試験では、金属が直接接触し、また発熱し、これにより基油の分子鎖が切断され、劣化する。劣化の結果、切断された分子の一部は揮発成分として先の方法で検出される。つまり、耐摩耗性に劣る潤滑油では、基油の劣化が進行するために、脱離ガス成分の量が大きくなり、好ましくない。結果を表1に示す。
[比較例1]
フラーレン誘導体に代えて、フラーレン(フロンティアカーボン社製、nanom(登録商標) mix ST)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして潤滑剤組成物を得ようとしたが、シリコーン油Aにフラーレンは溶解せず、フラーレンを含む潤滑剤組成物は得られなかった。
[比較例2]
シリコーン油Aにフラーレン誘導体を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして潤滑剤組成物を得た。得られた潤滑剤組成物について実施例1と同様に測定および評価を行った。結果を、表1に示す。
表1より、実施例1の潤滑剤組成物は、比較例2のものと比べると平均摩擦抵抗、耐焼き付き性および耐摩耗性のいずれにも優れ、また、耐摩耗性試験後における脱離ガス度が低く高真空下での安定性に優れることが分かった。
[実施例2]
実施例1で得られたフラーレン誘導体の溶液(実施例1の潤滑剤組成物)に、紫外線照射を行い、潤滑剤組成物を得た。得られた潤滑剤組成物について実施例1と同様に測定および評価を行った。結果を、表1に示す。
実施例2での紫外線照射は、次の手順で行った。先ず、セプタムキャップ付き石英セル(東京硝子器械社製、S15-UV-10)に上記フラーレン誘導体の溶液3mlを入れた。
次に、石英セルのセプタムキャップに注射針を2本差し込み、一方から純度99.99体積%以上の窒素ガス(常圧での窒素以外のガス分圧は10パスカル以下)を毎分60mLで10分間流した。次に、石英セルに入れたフラーレン誘導体の溶液に間欠に紫外照射を行った。
紫外線照射には、紫外照射装置(サンエイテック社製、オムニキュアS2000)を用いた。具体的には、フィルターを近紫外線域の250nm-450nmとし、照射範囲2cmとし、紫外線照度計(波長230nm-390nm)を用いて計測しながら、出力を1W/cmに調整し、照射タイマーを1秒に設定し、一回の照射で2J(フラーレン誘導体の溶液1mLあたり0.7J)のエネルギーを照射することができるように設定した。
次に、紫外線照射後ごとに、注射器を用いて、石英セル内部からフラーレン誘導体の溶液約0.1mlを抜き取り、UVスペクトルを用いてフラーレン誘導体濃度を測定し、残存率を決定した。8回の紫外線照射(フラーレン誘導体の溶液1mLあたり5.3J)で残存率が0.25となった。このために、紫外線照射を中止し、石英セルから内容物を取り出し、潤滑剤組成物を得た。この潤滑剤組成物のフラーレン誘導体濃度を測定した結果、0.030μmol/gであり、残存率は0.30であった。結果を表1に記した。
表1に示すように、実施例2の潤滑剤組成物は、実施例1のものよりさらに良好な平均摩擦抵抗、耐摩耗性及び脱離ガス度を示し、特に、耐摩耗性試験前後での脱離ガス度の上昇も少なく高真空下での安定性がより優れることが分かった。
また、紫外線照射前のフラーレン誘導体の溶液、及び紫外線照射後に得られた潤滑剤組成物について、質量分析装置(アジレント・テクノロジー社製、LC/MS、6120)を用いて、分子量720以上5000以下の成分分析を行った。紫外線照射前のフラーレン誘導体の溶液では、主にフラーレン誘導体のピーク934、1054、1148、1268、1362、1484,1576,1696,1790,1910などと、それ以外に基油に起因すると考えられる複数のピークが見られた。前記潤滑剤組成物では、前述のピークが小さくなり、多くのピークが新たに確認された。これらのことから、紫外線照射後のフラーレン誘導体の溶液(潤滑剤組成物)には、フラーレンと生成したフラーレン付加体とが存在することを確認した。なお、他の実施例・比較例でも同様に熱処理又は放射線処理前後のフラーレン誘導体の溶液を分析した。その結果、熱処理又は放射線処理前のフラーレン誘導体の溶液には付加体が確認されなかったが、これら処理後には付加体が確認された。
[実施例3]
紫外線照射の代わりに、石英セルに入れたフラーレン誘導体の溶液を250℃のオイルバスに浸漬して加熱した。紫外線照射の代わりに加熱した以外は、実施例2と同様にして、潤滑剤組成物を得た。得られた潤滑剤組成物について実施例2と同様に測定および評価を行った。結果を、表1に示す。
実施例3の加熱では、注射器を用いて、5分ごとに、石英セル内部からフラーレン誘導体の溶液約0.1mlを抜き取り、UVスペクトルを用いてフラーレン誘導体濃度を測定し、フラーレン残存率を決定した。測定開始から15分でフラーレン残存率が0.2となった。このために、石英セルを油浴から取り合出し、室温にまで冷却し、潤滑剤組成物を得た。潤滑剤組成物のフラーレン誘導体濃度を測定した結果、0.015μmol/gであり、残存率は0.15であった。
表1に示すように、付加反応工程として熱処理を行った実施例3の潤滑剤組成物においても、紫外線照射を行った実施例2のものと同様に優れた平均摩擦抵抗、耐摩耗性及び脱離ガス度を示した。また、これらは耐摩耗性が優れているので、基油の分解が生じにくく、揮発成分の生成量が抑えられたと推察される
[実施例4]
放射線の線源として、低圧水銀UVランプ(セン特殊光源社製、型式UVL20PH-6、光波長成分として遠紫外線域の185nmと近紫外線域の254nmの紫外線を含む)を用いて、20秒間照射を用いたこと以外は実施例2と同様にして、潤滑剤組成物を得た。ここで、照射範囲は5cm、出力は0.2W/cmであった。すなわち、20秒間の照射により、潤滑剤組成物に20J(フラーレン誘導体の溶液1mLあたり7J)の紫外線を照射した。潤滑剤組成物のフラーレン誘導体濃度を測定した結果、0.022μmol/gであり残存率は0.22であった。得られた潤滑剤組成物について実施例2と同様に測定および評価を行った。結果を、表1に示す。
[実施例5]
放射線の線源として、X線照射装置(トーレック社製、RIX-250C-2)を用いて、480秒間X線照射を行ったこと以外は、実施例1と同様にして、潤滑剤組成物を得た。得られた潤滑剤組成物のフラーレン誘導体濃度を測定した結果、0.020μmol/gであり残存率は0.20であった。得られた潤滑剤組成物について実施例2と同様に測定および評価を行った。結果を、表1に示す。
実施例5と実施例4とを比較すると、耐摩耗性及び耐摩耗性試験後の脱離ガス度が実施例5よりも実施例4の方が優れていた。また、実施例4と実施例2とを比較すると、耐摩耗性及び耐摩耗性試験後の脱離ガス度が実施例4よりも実施例2の方が優れていた。
これらのことから、放射線処理では、付加体が生成する程度に低エネルギーの放射線、すなわち近紫外線で処理することが好ましいことが分かった。
[実施例6]
シリコーン油(信越化学工業社製、KF-50-100。以下、「シリコーン油B」と言うことがある。)を基油としたこと以外は、実施例1と同様にして潤滑剤組成物を得た。得られた潤滑剤組成物について実施例1と同様に測定および評価を行った。結果を、表1に示す。
[比較例3]
フラーレン誘導体に代えて、フラーレン(フロンティアカーボン社製、nanom(登録商標) mix ST)を用いたこと以外は、実施例6と同様にして潤滑剤組成物を得ようとしたが、シリコーン油Bにフラーレンは溶解せず、フラーレンを含む潤滑剤組成物は得られなかった。
[比較例4]
シリコーン油Bにフラーレン誘導体を添加しなかったこと以外は、実施例6と同様にして潤滑剤組成物を得た。得られた潤滑剤組成物について実施例1と同様に測定および評価を行った。結果を、表1に示す。
[実施例7]
シリコーン油Bを基油としたこと以外は、実施例3と同様にして潤滑剤組成物を得た。潤滑剤組成物のフラーレン誘導体濃度を測定した結果、0.012μmol/gであり残存率は0.12であった。得られた潤滑剤組成物について実施例2と同様に測定および評価を行った。結果を、表1に示す。
[実施例8]
シリコーン油Bを基油としたこと以外は、実施例4と同様にして潤滑剤組成物を得た。潤滑剤組成物のフラーレン誘導体濃度を測定した結果、0.035μmol/gであり残存率は0.35であった。得られた潤滑剤組成物について実施例2と同様に測定および評価を行った。結果を、表1に示す。
実施例6と比較例4との比較結果は、前述の実施例1と比較例2との比較結果と同様の傾向を示した。さらに、実施例7及び8と実施例6との比較結果は、前述の実施例2及び3と実施例1との比較結果と同様の傾向を示した。
Figure 2022067924000002
[実施例9]
実施例1の潤滑剤組成物にステアリン酸リチウムを20質量%となるように添加し、加熱溶解して混合後、急冷したものをベースグリースとした。これをミルで処理しながら実施例1の潤滑剤組成物を加え、ちょう度が300となるように調整し、グリース組成物を得た。なお、ちょう度はJISK2220:2013の方法で測定した。得られたグリース組成物について、下記条件で摩擦係数を測定し、摩擦係数比を求めた。結果を表2に示す。
(摩擦係数比の測定)
日本建設機械化協会/建設機械用油圧作動油-摩擦特性試験方法(JCMAS P 047:2004)のマイクロクラッチ試験機による摩擦試験方法(JCMAS P 047 4)にてグリース組成物の摩擦係数の測定を行なった。ただし、試験条件は下記の通りとした。
試験条件:
試料油:実施例9または比較例5で得られたグリース組成物
クラッチディスクフェーシング材質:SD1795-S プレート材質:SS400
試料油温度:40℃,140℃
面圧:392kPa
滑り速度:30mm/s 摩擦時間:5min
上記で得られた、試料油温度140℃で測定した摩擦係数を試料油温度40℃で測定した摩擦係数で除した値を摩擦係数比とした。また、ディスク上の摩耗について、摩耗痕の有無を確認した。
[比較例5]
実施例1の潤滑剤組成物に代えて、フラーレン誘導体を添加していない比較例2の潤滑剤組成物を用いたこと以外は、実施例9と同様にしてグリース組成物を得た。結果を表2に示す。
Figure 2022067924000003
本発明の潤滑剤組成物は、シリコーン油の各種用途に使用することができるが、特に、潤滑剤組成物を真空下で摺動する摺動部に使用した機械装置に好ましく適用できる。このような機械装置は、例えば、真空容器内、高高度領域または宇宙空間で使用される装置、機器類が挙げられ、より具体的には、鍛造や接合などを行う真空冶金装置、化学反応などを行う真空化学装置、蒸着やスパッタリングなどを行う真空薄膜形成・加工装置、電子顕微鏡などの分析装置、曲げ・引張り・圧縮試験などを行う真空試験装置、航空機、ロケット、人工衛星、等が挙げられる。
また、本発明のグリース組成物は、シリコーングリースの各種用途に使用することができるが、上記機械装置にも好ましく適用できる。さらに、湿式クラッチや湿式ブレーキのように摩擦板を用いる機械装置に好ましく適用できる。例えば、湿式クラッチ装置ではAT車のトルコンに搭載されるロックアップクラッチなどが挙げられ、湿式ブレーキ装置では農業機械や建設機械等の旋回装置の回転軸に制動力を付与する多板式ディスクブレーキなどが挙げられる。


Claims (21)

  1. 基油とフラーレン誘導体とを含み、
    前記基油はシリコーン油であり、
    前記フラーレン誘導体は下記一般式(1)
    Figure 2022067924000004
    (上記一般式(1)中、R及びRはアルコキシ基を表わし、FLNはフラーレン骨格を表し、nは1以上の整数を表わす。)
    で表される化合物である、
    潤滑剤組成物。
  2. 前記nは、1~5である請求項1に記載の潤滑剤組成物。
  3. 前記R及びRは、tert-ブトキシ基である請求項1または2に記載の潤滑剤組成物。
  4. 前記基油を構成する分子構造の一部を有する付加基が前記フラーレン誘導体に付加した付加体を更に含む請求項1~3のいずれかに記載の潤滑剤組成物。
  5. さらに、増ちょう剤を含むグリース組成物である請求項1~4のいずれかに記載の潤滑剤組成物。
  6. 前記増ちょう剤がリチウム石けんである請求項5に記載の潤滑剤組成物。
  7. 基油にフラーレン誘導体を溶解する溶解工程を有し、
    前記基油はシリコーン油であり、
    前記フラーレン誘導体は前記式(1)で表される化合物である、
    潤滑剤組成物の製造方法。
  8. 非酸化性雰囲気下、溶解工程で得られたフラーレン誘導体の溶液中で、前記基油を構成する分子構造の一部を有する付加基を、前記フラーレン誘導体に付加する付加反応工程を更に含む請求項7に記載の潤滑剤組成物の製造方法。
  9. 前記非酸化性雰囲気中の酸素分圧が、10パスカル以下である請求項8に記載の潤滑剤組成物の製造方法。
  10. 付加反応工程は、前記溶液中のフラーレン誘導体の濃度が、付加反応工程前のフラーレン誘導体の濃度に対して0.1~0.7倍となるまで行なわれる請求項8または9に記載の潤滑剤組成物の製造方法。
  11. 付加反応工程の処理時間が、5分以上24時間以下である請求項8~10のいずれかに記載の潤滑剤組成物の製造方法。
  12. 付加反応工程が、溶解工程で得られたフラーレン誘導体の溶液を熱処理する工程である請求項8~11のいずれかに記載の潤滑剤組成物の製造方法。
  13. 熱処理の温度が、前記基油の使用上限温度を超え、且つ前記使用上限温度+250℃以下の範囲、または、200~350℃の範囲である請求項12に記載の潤滑剤組成物の製造方法。
  14. 付加反応工程が、溶解工程で得られたフラーレン誘導体の溶液に放射線照射を行う工程であり、前記放射線が紫外線又は電離放射線である請求項8~11のいずれかに記載の潤滑剤組成物の製造方法。
  15. 前記放射線が、波長190nm~365nmの紫外線である請求項14に記載の潤滑剤組成物の製造方法。
  16. 付加反応工程で照射される放射線のエネルギーが、前記フラーレン誘導体の溶液1mLあたり1J~100Jである請求項14または15に記載の潤滑剤組成物の製造方法。
  17. フラーレン誘導体を含む溶液から不溶成分を除去する不溶成分除去工程を更に有する請求項8~16のいずれかに記載の潤滑剤組成物の製造方法。
  18. 請求項1~6のいずれかに記載の潤滑剤組成物を摺動部に使用した機械装置。
  19. 前記摺動部が真空下で摺動する請求項18に記載の機械装置。
  20. 請求項5または6に記載の潤滑剤組成物を摺動部に使用した機械装置。
  21. 前記摺動部が摩擦板である請求項20に記載の機械装置。


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