JP2022032289A - 増殖方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】ワクチンの材料となるインフルエンザウイルスを、宿主中で効率よく増殖させる方法を提供する。【解決手段】宿主においてインフルエンザウイルスを増殖する方法であって、Bax阻害剤を前記宿主に添加する工程を含む、方法。【選択図】なし

Description

特許法第30条第2項適用申請有り (1)令和2年3月5日 https://confit.atlas.jp/guide/event-img/pharm140/4M01-13-04/public/pdf?type=in (2)令和2年3月28日 「日本薬学会第140年会」 (国立京都国際会館)にて公開
本発明は宿主におけるインフルエンザウイルスの増殖方法に関する。
インフルエンザは、インフルエンザウイルスによって引き起こされる感染症であり、飛沫感染や接触感染等により感染し、高熱、頭痛、筋肉痛、関節痛等の強い全身症状を伴う呼吸器感染症である。インフルエンザワクチンの接種はインフルエンザの重症化の防御に最良の手段となっている。
インフルエンザワクチンは、ワクチン製造用のインフルエンザウイルスを発育鶏卵の尿膜腔内に接種して培養増殖させ、漿尿液から遠心にて濃縮精製し、ウイルス粒子を界面活性剤等で処理し、ホルマリンで不活化した全粒子ワクチン又はウイルス粒子をエーテルや界面活性剤で破砕後更に精製を行ったスプリットワクチン又はサブユニットワクチンである。しかしながらインフルエンザワクチンを、宿主として胚を有する鶏卵を用いて製造する場合、時間、労働及び費用を要し、急な大量生産ができないという供給安定性の面で問題がある。
これに替わるウイルス生産方法として、インフルエンザウイルスの宿主として培養細胞を用いて複製する手法が研究され、MDCK細胞がインフルエンザウイルスのin vitroでの複製のための適切な細胞であることが報告されている(非特許文献1)。また、特許文献1には、MDCK細胞の培養液中に分泌されるトリプシンインヒビターを除去又は低減した後に、細胞にインフルエンザウイルスを接種して、インフルエンザウイルス接種細胞を培養することによりウイルス生産量を増加できることが開示されている。
また、非特許文献2には、トリインフルエンザウイルス(A/Bratislava/79(H7N7))が、生体防御機能(アポトーシス)を利用して核外へ輸送され、効率的に増えることが開示され、インフルエンザウイルスの増殖には、培養細胞のアポトーシスが関与することが示唆されている。
国際公開第2007/132763号
Med Microbiol Immunol (1975)162,9-14 THE EMBO Journal(2003)22,2717-2728
本発明はワクチンの材料となるインフルエンザウイルスを、宿主中でより効率よく増殖させる方法を提供することに関する。
本発明者等は、鋭意研究を重ねた結果、特定のBax阻害剤をインフルエンザウイルスを感染させる宿主に添加した場合に、ウイルスの増殖性が向上し、ウイルスの産生量が増加することを見出した。
すなわち、本発明は、以下の1)~4)に係るものである。
1)宿主においてインフルエンザウイルスを増殖する方法であって、下記(a)~(s)で示される化合物から選ばれるBax阻害剤を前記宿主に添加する工程を含む、方法。
2)1)の方法によってインフルエンザウイルスを増殖させ、宿主からウイルス粒子を回収する、インフルエンザウイルス粒子の調製方法。
3)2)の方法によって調製されたインフルエンザウイルス粒子を用いてワクチンを製造する、インフルエンザワクチンの製造方法。
4)下記(a)~(s)で示される化合物から選ばれるBax阻害剤を有効成分とするインフルエンザウイルス増殖促進剤。
Figure 2022032289000001
Figure 2022032289000002
本発明の方法によれば、インフルエンザウイルスを効率よく増殖でき、ワクチン調製のためのインフルエンザウイルスを大量生産することができる。
様々なBax阻害剤濃度条件におけるインフルエンザウイルスHA価。 Bax阻害条件におけるインフルエンザウイルス増殖性亢進効果。
本発明において、インフルエンザウイルスとしては、A型、B型、C型、及びD型のいずれでも良いが、A型及びB型を好適に例示することができる。
また、インフルエンザウイルスのヘマグルチニン(赤血球凝集素 HA:haemagglutinin)の型(HA型)とノイラミニダーゼの型(NA型)も特に制限されない。例えば、H1N1株、H2N2株、H3N2株、H4N2株、H4N6株、H5N1株、H5N2株、H7N7株、H7N9株、H9N2株等の現在知られている亜型の他、将来単離・同定される亜型も包含される。
また対象となるウイルスは、ヒトに感染できるものであればよく、他にブタやトリ、ウマ、ウシへの感染能力を有するウイルスでもよい。
また、本発明のインフルエンザウイルスは、感染動物や患者等の感染個体から単離された株であってもよく、遺伝子工学的に培養細胞で樹立された組換えウイルスであってもよい。
本発明において、「Bax」とは、Bcl-2ファミリーに属するアポトーシス促進タンパク質を指す。Bcl-2ファミリーに属するタンパク質はBH(Bcl-2 homology)ドメインと呼ばれるアミノ酸配列を1つ以上有している。また、C末端側に疎水性の高いTM(transmembrane)領域を有しているため、ミトコンドリア膜上に移行し、アポトーシスを制御することが可能となる。
Bcl-2ファミリータンパク質の主要機能は、ミトコンドリアの透過性を調節することによるアポトーシスの制御である。抗アポトーシスタンパク質であるBcl-2とBcl-xLはミトコンドリアの外壁に存在し、シトクロムcの放出を阻害する。アポトーシス促進性のタンパク質であるBad、Bid、Bax及びBimは細胞質に存在し、細胞死のシグナルによりミトコンドリア内膜へと移動し、そこでシトクロムcの放出を促進する。Bidは、Caspase-9によって切断されて活性化体tBitとなり、これがBaxと結合することにより、Baxのミトコンドリア内膜への貫通を誘導する。細胞外へ流出したシトクロムcはApaf-1と複合体を形成し、カスパーゼ9を活性化、さらにカスパーゼ3、6、7を活性化することでアポトーシスが起こると考えられている(Annu Rev Genet (2009)43:95-118)。
「Bax阻害剤」とは、Baxと相互作用してBaxのミトコンドリア移行を抑制する分子およびBaxのミトコンドリア移行を促進するBax以外の分子を阻害する分子を意味するが、後述する実施例に示すとおり、宿主にBax阻害剤を添加することにより、インフルエンザウイルスを効率よく増殖できる。したがって、Bax阻害剤は、宿主の培養によってインフルエンザウイルスを増殖させるためのインフルエンザウイルス増殖促進剤であると云え、宿主の培養によってインフルエンザウイルスを増殖させるために使用できる。また、Bax阻害剤はインフルエンザウイルス増殖促進剤を製造するために使用することができるとも云える。
本発明におけるBax阻害剤としては、Baxのミトコンドリア内膜への移行に必要なtruncated Bidタンパク質(tBit:Bitタンパク質がCaspase-9によって切断された活性化体)とBaxとの結合を阻害する化合物(Bax-tBit結合阻害剤)が挙げられ、例えばBiochem J. (2009)423:381-387、J. Med Chem. (2003)46:4365-4368、Cell Chem Biol. (2017)24:493-506に記載の化合物が挙げられる。
具体的には、下記(a)~(s)で示される化合物が挙げられる。
Figure 2022032289000003
Figure 2022032289000004
化合物(a):(±)-1-(3,6-Dibromocarbazol-9-yl)-3-piperazin-1-ylpropan-2-ol (CAS No. 335165-68-9; Bax channel blocker, BAI1,iMAC1)、<Biochem J. (2009)423:381-387>
化合物(b):(±)-3,6-Dibromo-9-(2-fluoro-3-piperazin-1-yl-propyl)-carbazole(CAS No. 335166-36-4;iMAC2) <Biochem J. (2009)423:381-387>
化合物(c):9H-Carbazole-9-ethanol, 3,6-dibromo-α-[[4-(3-phenylpropyl)-1-piperazinyl]methyl] (CAS No. 335166-34-2; iMAC3)<Biochem J. (2009)423:381-387>
化合物(d):9H-Carbazole-9-ethanol, 3,6-dibromo-α-[[4-[2-(4-morpholinyl)ethyl]-1-piperazinyl]methyl] (CAS No. 607393-53-3; iMAC4)<Biochem J. (2009)423:381-387>
化合物(e):9H-Carbazole-9-ethanol, 3,6-dichloro-α-[[4-[2-(4-morpholinyl)ethyl]-1-piperazinyl]methyl] (CAS No. 1198394-60-3; iMAC5<Biochem J. (2009)423:381-387>
化合物(f):9H-Carbazole-9-ethanol, 3,6-dibromo-α-[[4-[(4-methoxyphenyl)methyl]-1-piperazinyl]methyl] (CAS No. 758683-33-9)<J. Med Chem. (2003)46:4365-4368>
化合物(g):1-Piperazinecarboxamide, 4-[3-(3,6-dibromo-9H-carbazol-9-yl)-2-hydroxypropyl]-N-(4-fluorophenyl) (CAS No. 607393-52-2)<J. Med Chem. (2003)46:4365-4368>
化合物(h):9H-Carbazole-9-ethanol, 3,6-dibromo-α-[[4-[(4-fluorophenyl)methyl]-1-piperazinyl]methyl] (CAS No. 335166-30-8)<J. Med Chem. (2003)46:4365-4368>
化合物(i):9H-Carbazole-9-ethanol, 3,6-dibromo-α-[[4-(4-fluorophenyl)-1-piperazinyl]methyl] (CAS No. 607393-54-4)<J. Med Chem. (2003)46:4365-4368>
化合物(j):2-Propanone, 1-(3,6-dibromo-9H-carbazol-9-yl)-3-(1-piperazinyl) (CAS No. 335166-13-7)<J. Med Chem. (2003)46:4365-4368>
化合物(k):9H-Carbazole-9-ethanamine, 3,6-dibromo-α-(1-piperazinylmethyl) (CAS No. 607393-56-6)<J. Med Chem. (2003)46:4365-4368>
化合物(l):9H-Carbazole, 3,6-dibromo-9-[2,2-difluoro-3-(1-piperazinyl)propyl] (CAS No. 607393-55-5)<J. Med Chem. (2003)46:4365-4368>
化合物(m):2-Piperidinecarboxamide, N-(6-aminohexyl)-1-(1-oxotridecyl) (CAS No. 355138-94-2, 355138-95-3) Bci1<Biochem J. (2009)423:381-387>
化合物(n):2-Pyrrolidinecarboxamide, N-(5-aminopentyl)-1-(1-oxotridecyl) (CAS No. 355139-25-2)Bci2<Biochem J. (2009)423:381-387>
化合物(o):2-Benzofurancarboxylic acid, 3-[[(4-bromophenyl)methyl]amino]-2,3-dihydro-6-hydroxy-, ethyl ester, (2S,3S) (CAS No. 2251048-54-9; BJ-1)<Cell Chem Biol. (2017)24:493-506>
化合物(p):2-Benzofurancarboxylic acid, 6-hydroxy-, ethyl ester (CAS No. 906448-92-8; BJ-1-BP) <Cell Chem Biol. (2017)24:493-506>
化合物(q):(S)-N-{1-[(3-Amino-propyl)-(4-bromo-benzyl)-carbamoyl]-2-phenyl-ethyl}-benzamide (DAN004) <Cell Chem Biol. (2017)24:493-506>
化合物(r):N-{1(S)-[[3(S)-Amino-6-(2-methoxy-ethoxymethoxy )-2,3-dihydro-benzofuran-2(R)-ylmethyl]-(4-bromo-benzyl)-carbamoyl]-2-phenyl-ethyl}-benzamide(CAS No. 1592908-75-2; MSN-50)<Cell Chem Biol. (2017)24:493-506>
化合物(s)N-{1(S)-[[2(R)-Aminomethyl-6-(2-methoxy-ethoxymethoxy)-2,3-dihydro-benzofuran-3(S)-yl]-(4-bromo-benzyl)-carbamoyl]-2-phenyl-ethyl}-benzamide(CAS No. 1592908-16-1;MSN-125)<Cell Chem Biol. (2017)24:493-506>等が挙げられる。
斯かるBax阻害剤におけるBax阻害効果は、例えば、BaxとtBitタンパク質との結合阻害活性を測定することにより評価できる。また、Bax阻害剤を添加した条件において、当該細胞へアポトーシスを誘導し、そのアポトーシス細胞の割合を評価することや、ミトコンドリアの膜電位およびCytochrome cの放出量を測定することにより評価できる。
Bax阻害剤は、インフルエンザウイルス(A型、B型、C型、D型)を増殖させるための宿主に対して、濃度0.01μM以上、好ましくは0.1μM以上、より好ましくは1μM以上で、且つ100μM以下、好ましくは50μM以下、より好ましくは20μM以下、また、0.01~100μM、好ましくは0.1~50μM、より好ましくは1~20μMで使用される。
本発明のインフルエンザウイルスの増殖方法においては、本発明のBax-tBit結合阻害剤に、Baxに結合してBaxをミトコンドリア外膜付近へ誘導するKu70タンパク質とBaxとの結合を阻害するペプチドや化合物を併用することも可能である。
Ku70タンパク質とBaxとの結合を阻害するペプチドとしては、例えばBiochem Biophys Res Commun (2004)321:961-966)やNat Cell Biol (2003)5:352-357)に記載のペプチド等が挙げられる。具体的には、Val-Pro-Met-Leu-Lys(配列番号1)、Pro-Met-Leu-Lys-Glu(配列番号2)、Val-Pro-Thr-Leu-Lys(配列番号3)、及びVal-Pro-Ala-Leu-Arg(配列番号4)が挙げられるが、この他にもVal-Pro-Ala-Leu-Lys(配列番号5)、Pro-Ala-Leu-Lys-Asp(配列番号6)、Val-Ser-Ala-Leu-Lys(配列番号7)、及びSer-Ala-Leu-Lys-Asp(配列番号8)等が挙げられる。
インフルエンザウイルスの増殖は、具体的には、宿主中にインフルエンザウイルスを感染させる工程、及び当該感染宿主をウイルスが複製可能な条件下で培養する工程により行われるが、本発明においては、Bax阻害剤を宿主に添加する工程が、例えばウイルス感染前、ウイルス感染後、又はウイルス感染と同時に行われる。好適には、Bax阻害剤を、ウイルス感染後3時間以内に宿主に添加することが挙げられる。
インフルエンザウイルスの増殖に用いられる宿主としては、培養細胞又は発育鶏卵の何れでもよいが、供給安定性の面から培養細胞を用いるのが好ましい。
培養細胞としては、インフルエンザウイルスに感受性であれば如何なる細胞も使用できる。このような細胞として、例えば、MDCK細胞(イヌ腎臓由来の株化細胞)、Vero細胞(アフリカミドリザル腎臓由来の株化細胞)、PER.C6(ヒト網膜細胞由来の株化細胞)、SK-NEP-1細胞(ヒト腎臓由来の株化細胞)、A549(ヒト肺胞基底上皮腺癌細胞)、Duck embryo細胞(アヒル胚細胞)が挙げられる。これらの細胞は、ATCC(American Type Culture Collection)に、それぞれCCL-34、CCL-81、CCL-107、HTB-48、CCL-185、CCL-141等として登録されており、また、市販で購入することができる。また、インフルエンザウイルスに感受性を示すニワトリ由来の細胞として、CEF細胞(Chicken embryonic fibroblast cell:ニワトリ胚由来線維芽細胞)が使用できる。なお、CEF細胞には単離された細胞以外に発育鶏卵中に存在する細胞も含まれる。この他、インフルエンザウイルスの増殖には、インフルエンザウイルスを効率的に増殖させるために開発された細胞株を用いることもできる。斯かる細胞株としては、例えばEB66(登録商標)、DuckCelt-T17(登録商標)、EBx(登録商標)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
宿主として培養細胞を用いる場合、細胞を培養するための培地としては、通常細胞培養に用いられる培地、例えば、ウシ胎児血清(FBS)含有MEM培地(Wako社製)、無血清培地(Serum-Free Medium)(ThermoFisher社製)等が挙げられるが何れを使用しても良い。
当該培地には、細胞の増殖効率を上げるために、非必須アミノ酸やL-グルタミンを添加することができる。また、インフルエンザウイルスの培養においては、ヘマグルチニンの開裂を促す目的でトリプシンやアセチル化トリプシン等のプロテアーゼを添加することができる。また、微生物のコンタミネーションを避けるために、ペニシリンやストレプトマイシン、ゲンタマイシン等の細胞培養に一般的に使用される抗生物質を添加してもよい。培地のpHは、適当な緩衝液(例えば、炭酸水素ナトリウム、HEPES)で動物細胞の増殖に適した6.5~8、好ましくは、6.8~7.3に調整される。
細胞培養の方法としては、培養器の底に細胞を付着させた静止培養、細胞を培地中に浮遊させて培養する浮遊培養が挙げられるが、工業生産レベルで行なうときは、浮遊培養が好ましい。浮遊培養の方法としては、マイクロキャリアなどの担体に細胞を付着させてこれを浮遊させて培養する方法又は担体を用いずに細胞を浮遊させて培養する方法等が挙げられるが、何れの方法を用いても良い。
細胞培養物(培養した細胞と培地の混液)は、そのままインフルエンザウイルスの接種に使用することできるが、インフルエンザウイルスの接種に際しては、新鮮な培地又は適当な緩衝液、例えば、PBS、トリス緩衝液により細胞の洗浄が行なわれることが好ましい。
具体的には、スピナ-フラスコ等で培養増殖した細胞を低速遠心又は膜ろ過し、細胞と培養上清に分離し、遠心沈渣又は膜ろ過濃縮液の細胞に新鮮培地を加え、細胞を懸濁することにより培地交換が行われる。
斯くして得られる細胞培養物に、インフルエンザウイルス液が添加され、一定条件下で培養が行なわれる。ウイルス培養開始時の初期細胞密度は0.001~100×10 cells/mLを用いることができるが、好ましくは0.01~10×10 cells/mL、より好ましくは0.1~10×10 cells/mLである。なお、細胞密度の測定は、血球計算盤等による一般的な方法に従って行えばよい。細胞培養物に添加されるインフルエンザウイルス液は、感染価MOI(Multiplicity of infection)が0.00001~10となるように添加できるが、好ましくは0.0001~0.1、より好ましくは0.0001~0.01で添加することができる。
また、宿主として発育鶏卵を用いる場合、33℃~38℃、好ましくは35~37℃、湿度条件は40~60%、好ましくは45~55%の条件で孵卵し、1日に1~24回、好ましくは4~12回の転卵を行うことで発育させた鶏卵を用いることができる。発育8~13日目の鶏卵を用いインフルエンザウイルスを感染させることができるが、好ましくは10~12日目の鶏卵に感染させることができる。感染させるウイルス量は、50%鶏卵感染用量(50%Egg Infection Dose; EID50)で1~1×10 EID50/Eggを感染させることができるが、好ましくは1×10~1×10EID50/Egg、より好ましくは1×10~1×10 EID50/Eggを感染させることができる。感染部位は鶏卵の漿尿膜内(尿膜腔液中)が望まれるが、羊膜内(羊水中)であっても良く、鶏卵中でインフルエンザウイルスが増殖する部位であれば限定されない。Bax阻害剤の添加部位はウイルス感染部位と一致させることが望まれるが、漿尿膜内(尿膜腔液中)、羊膜内(羊水中)および鶏卵中でインフルエンザウイルスが増殖する部位であれば限定されない。なお、前述のとおり、Bax阻害剤の添加はウイルス感染前、ウイルス感染後、又はウイルス感染と同時に宿主に添加することができるが、好適にはウイルス感染と同時にウイルスと混合した状態で使用することが望ましい。
培養条件は、宿主内でインフルエンザウイルスが増殖可能な条件であればいかなる条件であってもよい。細胞の種類、ウイルス接種量及び培養スケール・方法等の組み合わせにより適切に調節される。例えば、宿主として培養細胞を用いる場合、培養温度は、33℃~39℃、好ましくは34~38℃、培養期間は、1~10日間、好ましくは3~7日間、炭酸ガス濃度は3~8%、好ましくは4~5%、酸素濃度は、17~25%、好ましくは20~22%が使用される。
また、宿主として発育鶏卵を用いる場合、感染後は33℃~38℃、好ましくは34~36℃、培養期間は1~5日間、好ましくは2~4日間、湿度条件は40~60%、好ましくは45~55%の条件で培養されが、ウイルス株によって増殖性が最も高まる条件は異なるため、培養期間、培養温度、湿度等は適切に組み合わせることができる。
本発明の方法によれば、インフルエンザウイルスを効率的に増殖させることができる。なお、宿主中のウイルス含量は、モルモット等の赤血球を用いた赤血球凝集法(希釈倍数)やヘマグルチニンに対する抗体を用いたELISA法(μg/mL)、ウイルス感染価を測定するプラークアッセイやTCID50、ウイルスRNA量を測定できるリアルタイムPCR等により測定することができる。
インフルエンザウイルスは、宿主が発育鶏卵の場合は尿膜腔液(漿尿液)または羊水中に含まれており、宿主が培養細胞の場合は培養上清に含まれる。培養終了後、宿主中のウイルス浮遊液からウイルス粒子が回収され、濃縮、精製及び不活化することにより、不活化全粒ワクチンや不活化スプリットワクチン用のウイルス粒子を調製することができる。生ワクチンや弱毒化生ワクチンとして用いる場合は、濃縮及び精製後にインフルエンザワクチン用のウイルス粒子として調製することができる。
ウイルス粒子の回収は、ウイルス浮遊液を清澄化すること、具体的には遠心分離又は濾過することにより行われ、次いで、濃縮のために、限外濾過が行われる。ウイルスの精製は、ショ糖密度勾配遠心分離等の超遠心分離やサイズ排除クロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー等の手段を用いて行うことができる。精製ウイルス液は、不活化全粒ワクチンや不活化スプリットワクチンの場合、ホルマリン処理、紫外線照射、ベータプロピオラクトン、バイナリーエチレンイミン等により、不活化処理される。生ワクチンや弱毒化生ワクチンとして用いる場合は、上記精製ウイルス液をインフルエンザワクチン用のウイルス粒子として調製される。
斯かるインフルエンザウイルス粒子に、適宜医薬として許容され得る担体(緩衝剤、乳化剤、保存剤(例えば、チメロサール)、等張化剤、pH調整剤、アジュバント(例えば、水酸化アルミニウムゲル)等を添加し、各種剤型のワクチンを製造することができる。
上述した実施形態に関し、本発明においてはさらに以下の態様が開示される。
<1>宿主においてインフルエンザウイルスを増殖する方法であって、下記(a)~(s)で示される化合物から選ばれるBax阻害剤を前記宿主に添加する工程を含む、方法。
<2>宿主が培養細胞又は発育鶏卵である、<1>の方法。
<3>細胞がMDCK細胞(イヌ腎臓由来の株化細胞)、Vero細胞(アフリカミドリザル腎臓由来の株化細胞)、PER.C6(ヒト網膜細胞由来の株化細胞)、SK-NEP-1細胞(ヒト腎臓由来の株化細胞)、A549(ヒト肺胞基底上皮腺癌細胞)、Duck embryo細胞(アヒル胚細胞)、又はニワトリ胚由来線維芽細胞である、<2>の方法。
<4>Bax阻害剤を、インフルエンザウイルス(A型、B型、C型、D型)を増殖させるための宿主に対して、濃度0.01μM以上、好ましくは0.1μM以上、より好ましくは1μM以上で、且つ100μM以下、好ましくは50μM以下、より好ましくは20μM以下、また、0.01~100μM、好ましくは0.1~50μM、より好ましくは1~20μMで使用する、<1>~<3>のいずれかの方法。
<5><1>~<4>のいずれかの方法によってインフルエンザウイルスを増殖させ、宿主からウイルス粒子を回収する、インフルエンザウイルス粒子の調製方法。
<6>前記ウイルス粒子が、インフルエンザワクチン調製に用いられるものである、<5>の方法。
<7><5>又は<6>の方法によって調製されたインフルエンザウイルス粒子を用いてワクチンを製造する、インフルエンザワクチンの製造方法。
<8>下記(a)~(s)で示される化合物から選ばれるBax阻害剤を有効成分とするインフルエンザウイルス増殖促進剤。
Figure 2022032289000005
Figure 2022032289000006
実施例1 様々なBax阻害剤濃度条件におけるインフルエンザウイルスHA価。
(1)MDCK細胞(イヌ腎臓尿細管上皮細胞由来細胞株、DSファーマバイオケミカル社より入手)を5%ウシ胎児血清(FBS)含有MEM培地(Wako社製)にて37℃、5%CO存在下で培養した。上記MDCK細胞を24ウェルプレートに播種し、コンフルエントの状態で試験に用いた。上述の24ウェルプレートに播種したMDCK細胞をPBSで洗浄後、Serum free medium(SFM;Gibco社製)を400μL/ウェルで添加し、1時間馴化させた。
(2)上記細胞にA型インフルエンザウイルスであるH1N1インフルエンザウイルス株(A/Puerto Rico/8/1934:ATCC VR-1469)を感染価MOI(Multiplicity of infection)=0.001となるように感染させ、1時間インキュベートした。その後、SFMによる洗浄操作を行い、Bax阻害剤(iMAC2またはBAI1;TOCRIS bioscience社製))を0~12.5μM濃度で添加した2.0μg/mL-アセチル化トリプシン(Sigma社製)含有SFM培養培地を500μL/ウェル量加え、23時間培養した。感染24時間後に培養上清を回収し、後述のHAアッセイにより、インフルエンザウイルスのHA価を測定した(図1)。なお、以降の実験においてインフルエンザウイルスの増殖性を評価する試験では、2.0μg/mL-アセチル化トリプシン含有SFM培養培地をインフルエンザウイルスの培養に用いた。
(3)HAアッセイ
U底96ウェルプレートを用い、インフルエンザウイルス培養上清50μLを2~1024倍まで2倍ずつ、希釈系列を作製した。そこへ、0.7v/v%モルモット赤血球含有PBS 50μLを加え、4℃で2時間静置した。その後、赤血球の凝集を確認し、凝集が認められない希釈濃度をHA価とした。
(4)本検討の結果、Bax阻害剤の添加は、H1N1インフルエンザウイルス株のHA価を増加させることが明らかとなった。
(5)また、感染後24時間の培養上清を用い、培養液中のインフルエンザウイルス量を、後述するフォーカスアッセイにより定量した(図2)。
1)フォーカスアッセイ
12ウェルプレートにMDCK細胞をコンフルエントとなるように培養し、PBSで洗浄後、SFMに1時間馴化させた。感染後24時間で回収したインフルエンザウイルス培養上清を100~100000倍に希釈し、上記12ウェルプレートにて培養しているMDCK細胞に0.5mL/ウェルで添加し1時間インキュベートすることで、インフルエンザウイルスを感染させた。本試験は三重測定にて行った。感染後、SFMによる洗浄操作を行い、1.2%-セオラス(旭化成ケミカルズ,RC591)及び2.0μg/mL-アセチル化トリプシン(Sigma社製)含有SFMを2.0mL/ウェルとなるように加え、22時間培養した。培養後、ウェルを4℃に冷やしたPBSで3回洗浄後、-20℃に冷やした100%メタノール(Wako社製)を加え、細胞を固定化した。固定化細胞は一次抗体:Anti-NP antibody及び二次抗体:HRP linked goat Anti-mouse IgG+IgM抗体(Jackson Immuno Research Laboratries社製)にて反応させ、DEPDA反応を用いHRPと反応させ、染色されたフォーカス数をカウントした。
(6)本検討の結果、Bax阻害剤の添加は、H1N1インフルエンザウイルス株のウイルス増殖性亢進効果を示すことが明らかとなった。
実施例2 浮遊培養系におけるBax阻害条件でのインフルエンザウイルス増殖性亢進効果。
(1)MDCK細胞をマイクロキャリアビーズ(Cytodex 1;Sigma社製)に付着させた状態で、250mLスピナーフラスコ(コーニング社製)にて5%FBS含有MEM培地(培養MEM培地)にて37℃、5%CO存在下で培養した。その後、浮遊培養に馴化させ、添加培地(培養MEM培地)を8%濃度のSFMに置換した培養MEM培地から約2ヶ月間かけて99%濃度のSFMまで置換した培養MEM培地に馴化させ、99%SFM培地(1%濃度の培養MEM培地を含有)にて最終的に馴化させた。本浮遊細胞を用いてウイルス増殖性評価試験を実施した。試験に供した細胞は浮遊ビーズ上でコンフルエントの状態であることを顕微鏡下で確認し使用した。評価ウイルスには下記の通りA型インフルエンザウイルス流行株およびB型インフルエンザウイルス株を使用した。H3N2(A/Wisconsin/15/2009株:ATCC VR-1882)及びH1N1pdm(A/California/07/2009:ATCC VR-1894)、B型(B/Lee/40:ATCC VR-1882)インフルエンザウイルス株を感染価MOI=0.01となるように感染させ、1時間インキュベートした後、Bax阻害剤(iMAC2またはBAI1)を表1に記載の濃度で添加し、29~44時間培養した。ウイルス培養培地にはアセチル化トリプシンを終濃度で2.0μg/mLとなるように添加した。感染後に培養上清を回収し、HAアッセイにより、インフルエンザウイルスのHA価を測定した(表1)。
Figure 2022032289000007
2)本検討の結果、Bax阻害剤の添加は、H3N2及びH1N1pdm、B型インフルエンザウイルス株のウイルス増殖性亢進効果を示すことが明らかとなった。特に、B型インフルエンザウイルスの増殖亢進効果が顕著であった。

Claims (6)

  1. 宿主においてインフルエンザウイルスを増殖する方法であって、下記(a)~(s)で示される化合物から選ばれるBax阻害剤を前記宿主に添加する工程を含む、方法。
    Figure 2022032289000008
    Figure 2022032289000009
  2. 宿主が培養細胞又は発育鶏卵である、請求項1記載の方法。
  3. 請求項1又は2記載の方法によってインフルエンザウイルスを増殖させ、宿主からウイルス粒子を回収する、インフルエンザウイルス粒子の調製方法。
  4. 前記ウイルス粒子が、インフルエンザワクチン製造に用いられる、請求項3記載の方法。
  5. 請求項3又は4記載の方法によって調製されたインフルエンザウイルス粒子を用いてワクチンを製造する、インフルエンザワクチンの製造方法。
  6. 下記(a)~(s)で示される化合物から選ばれるBax阻害剤を有効成分とするインフルエンザウイルス増殖促進剤。
    Figure 2022032289000010
    Figure 2022032289000011
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