JP2022000631A - 水溶性有機酸の定量分析方法、エステル化試薬及び分析キット - Google Patents
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Abstract
Description
清酒に含まれる水溶性有機酸を定量分析する方法としては、例えば、滴定法を挙げることができる。
しかしながら、滴定法では、水溶性有機酸の総含有量は定量できるものの、各水溶性有機酸の含有量を個別に定量分析することはできない。
そこで、アニオン交換樹脂等によって清酒から水溶性有機酸を抽出し、抽出した水溶性有機酸をさらにHPLCによって個別に分離検出する方法も考えられるが、このような分析には高価な分離カラムや分析機器が必要であるだけでなく、作業が煩雑で難しいという問題がある。
そこで、より簡便に清酒に含まれる各水溶性有機酸の含有量を定量分析する方法として、例えば、非特許文献1に記載されているように、水溶性有機酸とアルコールとを、塩酸を酸触媒として用いてエステル化させ、得られたエステル化合物を定量分析する方法が提案されている。
本発明に係るエステル化工程では、前記水溶液試料よりも前記アルコールへの溶解度が高い酸触媒を使用しているので、エステル化反応がアルコール相と水相との界面付近で起こると考えられる。
このようにエステル化反応が界面付近で起こると、生成されたエステル化合物がすぐにアルコール相に移動する。
その結果、反応系中の水溶液試料の含有量に関わらず、生成したエステル化合物の水による加水分解が抑えられて、水溶性有機酸のエステル化効率の低下を抑止できるのではないかと考えられる。
また、親水性の塩酸を酸触媒として用いると、塩酸が水溶液試料に主に溶解するため、水溶液試料の量が多くなると塩酸濃度が低くなり、水溶性有機酸のエステル化効率の低下が起こるのではないかと考えられる。
具体的には、前記酸触媒として、置換基を有するスルホン酸、アルキルスルホンイミド、及びスルホン酸基を有するホスホニウム塩を含有するイオン液体からなる群より選ばれるいずれか一種以上を含むものを使用することが好ましい。
このように使用する水溶液試料の量を増やすことができれば、従来の分析方法では、反応前に予めサンプルを濃縮しなければ定量分析することが出来なかった微量の水溶性有機酸についても、水溶液試料を前もって濃縮することなく、そのまま定量分析することができる。すなわち、エステル化処理と同時に生成したエステル化合物をアルコール相(有機溶媒相)に濃縮することで、より微量の水溶性有機酸を簡便かつ高感度で定量分析することが可能となる。
本実施形態に係る水溶性有機酸の分析方法は、例えば、清酒等の飲食料に含まれる水溶性有機酸を定量分析する方法である。
水溶性有機酸の定量分析の手順は、例えば、図1又は図2に示すようなものである。
次に、例えば、試験管Tに清酒などの水溶液試料2と前記エステル化試薬1とを入れて混合する(S1)。この試験管Tを密栓し、例えば、恒温槽W等に浸して所定温度で所定時間、反応させる(S2)。
この時反応液3中では、以下の化1のようなエステル化反応が起きている。
反応液3から、アルコール相をバイアル等に分取して、生成されたエステルを、例えば、ガスクロマトグラフィーで定量分析する(S4)。
水溶性有機酸に由来するエステル成分を定量分析した結果から、水溶液試料2に含まれている水溶性有機酸の濃度や含有量等を算出する(S5)。
水溶性有機酸量の算出は、例えば、濃度が既知の水溶性有機酸の標準溶液の分析結果から導き出した検量線などを用いて算出するようにしても良い。
然して、本実施形態に係る水溶性有機酸の定量分析方法は、前記アルコールとして、前記水溶性有機酸を含有する水溶液試料2と相分離するアルコールを使用し、前記水溶液試料2に対する溶解度よりも前記アルコールに対する溶解度の方が高い、すなわち疎水性の酸触媒の存在下でエステル化反応させることを特徴とするものである。
より具体的に説明すると、本実施形態に係る水溶性有機酸の定量分析方法においては、例えば、前記エステル化試薬1として、水溶性有機酸を含有する水溶液試料2と相分離するアルコールと、前記水溶液試料2に対する溶解度よりも前記アルコールに対する溶解度の方が高い、すなわち疎水性の酸触媒とを含有するものを使用している。
エステル化反応後の試験管T内の反応液3は、前記水溶液試料2を含む水溶液相と前記エステル化試薬1を含むアルコール相(有機溶媒相)とに相分離している。
水溶性有機酸に由来するエステルは前記アルコール相に溶解しているので、このアルコール相をバイアル等に分取することによって、生成したエステルを抽出することができる。
前記置換基を有するスルホン酸の置換基は、アルキル基、アルキレン基、アルキニル基、又はベンジルアルキル基であることが好ましく、前記アルキル基、前記アルキレン基、前記アルキニル基は分岐又は非分岐の炭素数1以上12以下ものであることが好ましく、ヘテロ原子を含んでいても良い。
前記アルキルスルホンイミドに含まれるアルキル基の炭素数は1以上12以下であることが好ましい。なお、アルキルスルホンイミドが有する両端のアルキル基は、互いに同じものであっても良いし、異なっていても良い。
前記ホスホニウム塩に含まれるR1、R2、R3及びR‘は互いに同じ置換基であってもよいし、互いに異なる置換基であっても良く、炭素数は1以上16以下であることが好ましい。また、アニオンである[X−]は、特に限定されない。
前記酸触媒の具体的な例としては、例えば、図3に化学構造式を挙げた、メタンスルホン酸(C1)〜ドデシルスルホン酸(C12)、パラトルエンスルホン酸(C1)〜ドデシルベンゼンスルホン酸(C12)、トリフルオロメタンスルホン酸(C1)〜 ヘプタデカオクタンスルホン酸(C8)、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(C2)〜 ビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド(C8)、(4-スルホブチル)トリオクチルホスホニウム トリフルオロメタンスルホネート又は(4-スルホブチル)トリオクチルホスホニウム トリフルオロメタンスルホネート等のうち、前記水溶液試料2に対する溶解度よりも前記アルコールに対する溶解度の方が高い、すなわち疎水性のものを挙げることができる。前記酸触媒は、1種のみを使用しても良いし、2種以上を併用しても良い。
本実施形態の場合には、例えば、エステル化工程に使用する前記水溶液試料2の体積が500μlである場合、前記アルコールを前記エステル化試薬1の溶媒として反応液3中に250μl以上10000μl以下の範囲で含有されるように添加している。
前記中和剤は、前記酸触媒を中和する量を添加すればよく、添加量については、使用する酸触媒の種類や量に応じて適宜調製することができる。
また水に懸濁するカプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸などの中長鎖遊離脂肪酸、ヤシ油などのトリアシルグリセロールもエステル化して定量分析することができる。
水溶液試料が、これら水溶性有機酸を複数種類含有するものである場合には、ガスクロマトグラフィー等の気化分析によって一斉分析することによる利点がより顕著になる。
この有機溶剤は、アルコール相に溶解するので、有機溶剤を添加することによって、アルコール相中に含有されている水分量が大きく低下することが実験によって確かめられた。アルコール相中の水分量が減ると、アルコール相に分配したエステルがアルコール相中に含有されている水分によって加水分解されることをさらに抑えられると考えられる。
前記有機溶剤としては、アルコールを除く、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、エーテル、エステル、ハロゲン化炭化水素等が挙げられ、具体例としては、ヘキサン、2,2,4−トリメチルペンタン、トルエン、2−メトキシ−2メチルプロパン、クロロホルム、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソブチルが挙げられる。前記有機溶剤は、1種だけを使用しても良いし、2種以上を併用しても良い。
本実施形態に係る水溶性有機酸の定量分析をより簡便に行うために、前述したエステル化試薬1を含む分析キットを使用するようにしても良い。
例えば、前記エステル化試薬1を希釈することなく、そのまま水溶液試料2と混合して使えるように、酸触媒の濃度を予め調製しておいても良い。
このように構成した水溶性有機酸の定量分析方法によれば、水と相分離するアルコールに溶解する酸触媒を使用しているので、エステル化反応がアルコール相と水相の界面付近で起こり、生成されたエステルがすぐに水分量の少ないアルコール相に移動しやすい。
その結果、エステルの加水分解を抑えることができ、使用するサンプルの量を増やした場合の水溶性有機酸のエステル化効率を向上させることができる。
例えば、前記飲食料としては、清酒の他、焼酎、ワイン、ウイスキーなどの酒類、果汁やジュースなどの清涼飲料水、醤油や味噌などの調味料でも良い。さらに飲食料に限らず、水溶性有機酸を含有する水溶液試料であれば、広くどのような分野のものであっても分析対象とすることができる。
さらに、前記実施形態では、ガスクロマトグラフィーを使用する分析方法を説明したが、例えば、ガスクロマトグラフィー以外の質量分析による気化分析方法であっても良いし、液体クロマトグラフィー等、気化分析以外の方法を用いても良い。
また、前記エステル化試薬が、前記有機溶剤を予め含有するものとしても良い。
さらに、前記反応液には、前述した疎水性の酸触媒の他に、例えば、塩酸などの前記アルコールへの溶解度よりも前記水溶液試料への溶解度の方が高い、すなわち親水性の酸触媒がさらに添加されているものとしても良い。
その他、本発明の趣旨に反しない範囲で種々の組み合わせや変更等が可能である。
この実施例1では、水への溶解度よりも水と相分離するアルコール相への溶解度が高い酸触媒を使用して、水溶性有機酸のエステル化の反応効率を調べた。
この実験では、ガスクロマトグラフィーにより定量されたアルコール相中のエステルの量からエステル化した水溶性有機酸の量を算出し、後述する比較例1〜4の結果と比べた。以下に実験手順を示す。
エステル化試薬として、酸触媒であるビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを10質量%となるようにイソブチルアルコール(アルコール)に溶解したものを準備した。
試験管を10秒間ボルテックスミキサーで攪拌して混合し、100℃の恒温槽に浸した状態で、1時間静置して前記水溶性有機酸をエステル化させた。
試験管を静置して相分離させ、試験管から有機溶媒相を別のバイアルに分取し、ガスクロマトグラフィーに供した。
ガスクロマトグラフィーで検出されたピーク面積から前記水溶性有機酸とイソブチルアルコールとがエステル結合したエステル化合物を定量分析した。
装置:島津製作所 GC−2010
プレカラム:不活性フューズドシリカチューブ 5m×0.25mm(内径)
メインカラム:ULBON HR−20M 25m×0.25mm(内径)、膜厚=0.25μm
温度:80℃(10minホールド)→毎分28℃ずつ昇温→220℃(9minホールド)→毎分40℃ずつ昇温→240℃、計28min
注入口:240℃
検出器:240℃ FID
キャリアガス:30cm/sec He
スプリット比:2:1
注入量:2.5μl
なお、図4の横軸は、エステル反応に使用した水溶液試料の量(μl)を、縦軸は検出されたエステルのピーク面積(aubitary unit)を表している。この横軸縦軸は、図5〜8にも共通するものである。
水溶性有機酸として、乳酸を用いた以外は実施例1と同じ手順で水溶性有機酸のエステル化した量を算出した。その結果を図5に示す。
水溶性有機酸として、コハク酸を用いた以外は実施例1と同じ手順で水溶性有機酸のエステル化した量を算出した。その結果を図6に示す。
水溶性有機酸として、リンゴ酸を用いた以外は実施例1と同じ手順で水溶性有機酸のエステル化した量を算出した。その結果を図7に示す。
(実施例5)
水溶性有機酸として、酪酸を用いた以外は実施例1と同じ手順で水溶性有機酸のエステル化した量を算出した。その結果を図8に示す。
酸触媒として塩酸を用いる以外は実施例1と同じ手順で水溶性有機酸のエステル化した量を算出した。その結果を図4に示す。図中のグレーの実線は、エステル化反応の前に抽出溶媒として2,2,4−トリメチルペンタンを500μl添加した場合の結果を、図中のグレーの破線は、エステル化反応の後に抽出溶媒として2,2,4−トリメチルペンタンを500μl添加した場合の結果を、それぞれ示している。
水溶性有機酸として乳酸を用いる以外は、比較例1と同じ手順で水溶性有機酸のエステル化した量を算出した。その結果を図5に示す。
水溶性有機酸としてコハク酸を用いる以外は、比較例1と同じ手順で水溶性有機酸のエステル化した量を算出した。その結果を図6に示す。
水溶性有機酸としてリンゴ酸を用いる以外は、比較例1と同じ手順で水溶性有機酸のエステル化した量を算出した。その結果を図7に示す。
(比較例5)
水溶性有機酸として酪酸を用いる以外は、比較例1と同じ手順で水溶性有機酸のエステル化した量を算出した。その結果を図8に示す。
図4〜8中の細破線で示した直線は、前述の比較例1〜5の水溶液試料50μlを用いた時の水溶性有機酸のエステル化量と原点とを直線で結び、それ以外の水溶液試料の添加量(100μl、250μl、500μl又は1000μl)に外挿した外挿値である。
比較例1〜5に使用している水溶性有機酸の濃度は十分に高いので、従来の塩酸を使用した方法でも、水溶液試料50μlを使用して、ある程度精度よく水溶性有機酸を定量分析できることが確かめられている。
そこで、この値を利用して、定量分析の精度を確かめるための外挿値を求めた。
したがって、実施例1〜5及び比較例1〜5については、分析結果がこの外挿値に近いほど、正確な分析ができていることを示す指標とすることができる。
次に、水溶性有機酸として酪酸を使用した場合を一例として挙げて、酸触媒としてノナフルオロブタンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドをそれぞれ使用した場合の酪酸のエステル化効率を比較した。
この時の反応液の組成や反応温度、反応時間及び酪酸のエステル化の転化率を以下の表1にまとめた。
酪酸のエステル化の転化率は、反応後分取した水相およびアルコール相中に含まれる水溶性有機酸由来のエステル量を1Hおよび19F−NMRによって定量分析し、水溶液試料に含まれていた全水溶性有機酸のうちのエステル化した水溶性有機酸の割合を算出することによって求めた。また、使用した酸触媒のアルコール相への溶解度(分配率)については、反応後分取した水相およびアルコール相中に含まれる酸触媒の量を1Hおよび19F−NMRによって定量分析して算出した。このようにして調べたアルコール相への分配率が50を超えている場合には、前記水溶液試料よりも前記アルコール相への溶解度が高い酸触媒であると定義する。なお、上記の1Hおよび19F−NMR分析では、分取した水相およびアルコール相の質量を分析天秤で正確に測り取り、1H−NMRでは0.1mol/l塩化テトラアルキルアンモニウム―ジメチルスルホキシド―d6溶液を、19F−NMRでは0.1mol/lテトラフルオロホウ酸リチウム―ジメチルスルホキシド―d6溶液を、それぞれ所定量正確に測り取って添加し、内部基準とした。
この実施例で使用しているNMRの装置構成及び分析条件は以下の通りである。
装置:ブルカーAvance400
1H−NMR分析条件
ポイント数:65536
測定周波数幅:12019Hz
パルス幅:14.80μs
積算回数:16
遅延時間:40s
測定温度:303K
19F−NMR分析条件
ポイント数:131072
測定周波数幅:150000Hz
パルス幅:14.80μs
積算回数:16
遅延時間:40s
測定温度:303K
(比較例6)
酸触媒として、従来の塩酸を用いた場合について、実施例6と同様の手順で実験を行った結果についても表1に記載する。
ただし、アルコール相中に含まれる塩酸の量を1Hおよび19F−NMRによって直接定量分析することが難しいので、アルコール相中に含まれる塩酸の量については、中和滴定によって算出している。中和滴定による塩酸量の算出方法は、以下の通りである。まず反応後の水相に中和滴定することによって、水相中の酸の総量を求める。その後、1H−NMRによって水相中の酪酸の量を測定し、酸の総量から酪酸の量を差し引くことによって水相中に含まれる塩酸量を算出した。この水相中の塩酸量を反応液に添加した塩酸の全量から差し引くことによってアルコール相中に存在する塩酸量を求め、このように求めたアルコール相中の塩酸量を反応液に添加した塩酸の全量で除算して百分率表示した。この中和滴定による測定を3回繰り返し、その平均値をとったところ、塩酸のアルコール相への分配率はおよそ14%であることが分かった。
次に、これら酸触媒の濃度を変えて実施例6と同様の実験を行った。
この時の反応液の組成や反応温度、反応時間及び酪酸のエステル化の転化率を以下の表2にまとめた。
実施例8では、使用するアルコールの種類によるエステル化効率への影響を調べた。
この時の反応液の組成や反応温度、反応時間及び酪酸のエステル化の転化率を以下の表3にまとめた。
次に、有機溶剤を添加した場合のエステル化効率への影響を調べる実験を行った。
この実施例には、以下の試薬A〜Eを使用した。
試薬A:水溶液試料(水溶性有機酸の400μg/ml水溶液(エタノール16%含む))
試薬B:エステル化試薬(0.5mol/l ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド−イソブチルアルコール溶液)
試薬C:疎水性有機溶剤
試薬D:中和剤(1mol/l 炭酸水素ナトリウム水溶液)
試薬E:内部標準液(400μg/ml ラウリン酸エチル−2,2,4−トリメチルペンタン溶液)
これらの試薬を以下に説明する量及び順番で混合して、水溶性有機酸をエステル化し、最終的に得られたエステルの量を実施例1と同様の手順及び条件で、ガスクロマトグラフィーで分析した。
結果は以下の表4〜表9にまとめた。
この実験では、前述した試薬Aを500μl、試薬Bを500μl、試薬Cを(添加する場合のみ)450μl、試薬Dを500μl、試薬Eを50μl使用して実施例1と同様の手順及び条件で水溶性有機酸をエステル化した。なお、この実験では試薬Cは100℃で1時間の反応の前に添加した。
また、有機溶剤(試薬C)として、2,2,4−トリメチルペンタン、ヘキサン、トルエン、酢酸イソブチル、2−メトキシ−2メチルプロパン(ターシャリーブチルメチルエーテル,TBME)のうちのいずれかを1種をそれぞれ使用した。また水溶性有機酸(試薬A)についても、ピルビン酸、乳酸、コハク酸、リンゴ酸、クエン酸のいずれか1種をそれぞれ使用した。
表4では、有機溶剤を添加しなかった場合のエステル化効率を100%とした場合の、有機溶剤を添加した場合のエステル化効率を表している。
この表4の結果から、溶剤添加するとほとんどの場合において、エステル化効率がより向上することが分かり、さらにいろいろな種類の有機溶剤が使用できることが分かった。なお、有機溶剤を添加していない場合であっても、本願発明の効果は十分に発揮され得るものである。
具体的には、試薬Cを添加してから100℃で1時間反応させたもの(先)と、100℃で1時間反応させた後に、試薬Cを添加したもの(後)についてエステル化効率を前述した試薬Cの添加によるエステル化効率の変化を調べた際と同様の手順及び条件で調べた。
結果を以下の表5〜表9に示す。なお、表5は試薬Cとして2,2,4−トリメチルペンタンを使用した場合、表6は試薬Cとしてヘキサンを使用した場合、表7は試薬Cとしてトルエンを使用した場合、表8は試薬Cとして酢酸イソブチルを使用した場合、表9は試薬CとしてTBMEを使用した場合の結果をそれぞれ示している。
また、表中先/後(%)は、反応後に試薬Cを添加した場合を100%とした場合の、反応前に試薬Cを添加した場合のエステル化効率を表している。
次に、本発明に係る酸触媒に加えて従来の酸触媒である塩酸をさらに添加した場合について、水溶性有機酸のエステル化効率を調べた。
まず、0.5mol/lのビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを含有するイソブチルアルコール(X)と、0.5mol/lの塩酸を含有するイソブチルアルコール溶液(Y)とを準備した。
これらXとYとを、体積比がX:Y=500:0、375:125、250:250、125:375、0:500となるようにそれぞれ混合したエステル化試薬を調製した。
このエステル化試薬を用いる点以外は、実施例1と同様の手順でエステル化効率を調べた結果を図9に示す。なお、反応に使用する水溶液試料の量は500μlとし、有機溶剤は反応前に添加した。なお、図9の縦軸は検出されたエステルのピーク面積(aubitary unit)を表している。
また、本発明に係る酸触媒に加えて、従来の酸触媒である塩酸をさらに添加した場合であってもこの効果は維持されることが分かった。さらに、水溶性有機酸の種類によっては、酸触媒として塩酸をさらに添加することにより、エステル化効率が向上するものもあることが分かった。
この実施例11では、有機溶剤の添加によるエステル化効率への影響を調べるための実験を行った。
この実験では、反応液中の酸触媒の濃度は変えずに、エステル化反応前に疎水性有機溶剤である2,2,4−トリメチルペンタンを様々な体積で添加してその時のエステル化効率を調べた。
水溶性有機酸の400μg/ml水溶液(エタノール16%含む)500μlに対して、酸触媒であるビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを0.5mol/lとなるようにイソブチルアルコールに溶解した酸触媒溶液(a)とイソブチルアルコール(b)と2,2,4−トリメチルペンタン(c)とを混合した液1000μlを混合して、実施例1と同様の手順及び条件でエステル化反応を起こさせ、実施例1と同様の手順及び条件で生成したエステルをガスクロマトグラフィーにより検出した。
各サンプルにおける酸触媒溶液(a)とイソブチルアルコール(b)と2,2,4−トリメチルペンタン(c)との混合割合(体積比)は以下の表10の通りである。なお、この実施例では、酸触媒溶液(a)とイソブチルアルコール(b)を合計した体積がアルコールの体積(B)を表し、2,2,4−トリメチルペンタン(c)の体積が疎水性有機溶剤の体積(C)を表す。
段落0073でも述べたように、2,2,4−トリメチルペンタンを添加しない場合であってもエステル化反応は十分に進行することが確認されているが、この図10の結果から、特にコハク酸、リンゴ酸、クエン酸では、有機溶剤である2,2,4−トリメチルペンタンを反応前に添加することによって、添加しない場合よりもエステル化効率が大きく向上していることが分かった。
また、図10の結果から、疎水性アルコールであるイソブチルアルコールの量を減らしすぎると、エステル化効率が低下することも分かった。
つまり、反応液中の2,2,4−トリメチルペンタン(有機溶剤)の体積(C)を増やすとエステル化効率が向上するが、反応液中の酸触媒濃度を低下させないためにアルコールの添加量を減らしすぎてしまうとエステル化効率が低下してしまうので、これら有機溶剤の体積(C)とアルコールの体積(B)とのバランスもエステル化効率に影響を与える可能性があることが分かった。
また、清酒等の製造工程における、水溶性有機酸の含有量の変化を詳細に追跡することも可能であるので、例えば、発酵食品の発酵状態を監視したり評価したりすることも可能である。
2・・・水溶液試料
Claims (9)
- 水溶性有機酸をエステル化して得たエステル化合物を分析する水溶性有機酸の分析方法であって、
水溶性有機酸を含有する水溶液試料と、前記水溶液試料と相分離するアルコールと、前記水溶液試料への溶解度よりも前記アルコールへの溶解度の方が高い酸触媒とを混合し、前記水溶性有機酸と前記アルコールとを反応させて前記水溶性有機酸をエステル化する工程を含むことを特徴とする水溶性有機酸の定量分析方法。 - 前記アルコールと前記酸触媒とを予め混合してエステル化試薬を調製し、前記工程において、前記エステル化試薬と前記水溶液試料とを混合することを特徴とする請求項1記載の定量分析方法。
- 前記エステル化試薬が、前記水溶液試料と相分離し前記アルコールと混和する有機溶剤をさらに含有することを特徴とする請求項1又は2記載の定量分析方法。
- 前記工程において、前記アルコールへの溶解度よりも前記水溶液試料への溶解度の方が高い酸触媒をさらに混合することを特徴とする請求項1記載の定量分析方法。
- 前記酸触媒が、強酸あるいは超強酸であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の定量分析方法。
- 前記酸触媒が、置換基を有するスルホン酸、アルキルスルホンイミド及びスルホン酸基を有するホスホニウム塩を含有するイオン液体からなる群より選ばれるいずれか一種以上を含むものであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の定量分析方法。
- 前記アルコールが、水と混和しない炭素数4以上のアルコールであることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の定量分析方法。
- 前記工程で生成したエステル化合物を気化分析することを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の定量分析方法。
- 水溶性有機酸をエステル化するためのエステル化試薬又は分析キットであって、
水溶性有機酸を含有している水溶液試料と相分離するアルコールと、前記水溶液試料への溶解度よりも前記アルコールへの溶解度の方が高い酸触媒とを含有する水溶性有機酸のエステル化試薬又は分析キット。
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2021
- 2021-06-15 JP JP2021099656A patent/JP2022000631A/ja active Pending
Patent Citations (2)
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Title |
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