JP2021525089A - 褐色脂肪細胞の産生 - Google Patents

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Abstract

インビトロで褐色脂肪細胞の集団を産生するための、トランスフォーミング増殖因子ベータ(TGF−β)シグナル伝達阻害剤の使用。【選択図】なし

Description

本発明は、褐色脂肪細胞の産生に関する。より具体的には、本発明は、ヒト多能性幹細胞などの細胞を褐色脂肪細胞に分化させる、改良された方法に関する。
真性糖尿病(一般に糖尿病と呼ばれる)は、長期間にわたり患者の血糖濃度が高いことを特徴とする代謝性疾患群である。糖尿病の世界的な有病数は3億8千7百万人に達し、2030年までに4億3千5百万人まで増加する見通しである。実際に、世界の人口の65%は、栄養不足よりも肥満が死因となることが多い国で生活している(WHO−2010)。
糖尿病には主として2つのタイプ(1型及び2型)があり、これらは原因及び治療方法が異なる。1型糖尿病は、膵臓においてインスリンを産生するベータ細胞が、多くの場合自己免疫機序により破壊されることを原因とする。2型糖尿病は、末梢組織におけるインスリン抵抗性を原因とするものであり、この抵抗性は膵臓ベータ細胞の機能不全、体重過多、身体活動の不足、及び遺伝的素因に結び付けられ得る。糖尿病症例の約10%は、1型に相当する。しかし、患者の大部分(85〜90%)は、2型糖尿病を示す。米国内で2012年に診断された糖尿病による経済的コストの推定総額は、2007年以前の推定額と比較して41%増加し、2450億ドルに達した。これには糖尿病が社会に大きな負担を課していることが顕著に表れている。
1型糖尿病を管理するには、患者の生涯にわたり定期的にインスリンを注射する必要がある。対照的に、2型糖尿病は、食事、体重、及び身体運動の管理により制御することができるが、長期治療では、場合によりインスリン注射と投薬(例えばメトホルミン又はスルホニル尿素)の併用が必要なことがある。
患者は、1型糖尿病及び2型糖尿病の両方を既存の治療法で管理できる場合があるが、現時点では治癒は存在せず、糖尿病は死亡リスクを有意に増加させる。
肥満の発症を予防するためのエネルギー収支は、エネルギー消費次第である。身体活動は、過剰なエネルギーを消散させる上で主要な機序であるが、エネルギーはまた、身体が低体温にならないように発達した熱産生のシステムを通じて放散される場合もある。熱産生は、褐色脂肪細胞における、ミトコンドリアの脱共役タンパク質(UCP1)による酸化的リン酸化反応の脱共役に基づく。褐色脂肪組織(BAT)は、エネルギー放散及びグルコース消失を介在する代謝活性の高い臓器であり、したがって、適切なエネルギーバランス及び炭水化物恒常性を維持するのに寄与する。
遺伝子操作又は薬剤によるUCP1の上方調節により、肥満を低減し、インスリン感受性を改善できることが示されている。その逆に、げっ歯類においては、BATの機能不全により肥満が促進され、炭水化物の代謝が障害され、最終的にはベータ細胞に対する機能上の要求が増加するという証拠が存在する。成人における機能性BATの発見以来、老化、2型糖尿病、並びにBAT貯蔵の量及び活性の間の逆相関が報告されている。活性化の際、BATにより、遊離脂肪酸及びグルコース酸化のエネルギーは、UCP1を介して熱に変換される。近年、BATによりトリグリセリドの取り込み及びインスリン感受性が増加することが実証されている。
ヒト褐色脂肪組織の特徴及び機能に関する研究は、褐色脂肪細胞そのものの入手性によって妨げられてきた。
過去に、ヒト胚性幹細胞又は間葉系幹細胞、並びにヒト人工誘導多能性幹細胞のいずれかに由来する褐色脂肪細胞のモデルを開発するために、数多くの技術が用いられてきた。かかるプロトコルのあるものは、PPARg及びPGC1aなどの、特定の褐色転写因子を発現させる遺伝子工学を応用していた(Ahfeldt,T.et al.(2012)Nat.Cell Biol.14:209−219)。しかしながら、このような技術は、遺伝子の変化を生じることがあり、この変化が、生成された褐色脂肪細胞の機能に影響する恐れがあるという欠点を有する。別のアプローチでは、サイトカインカクテルを使用して、hiPSCを褐色脂肪様細胞に分化させた(Nishio,M.(2012)Cell Metab.16:394−406)。しかしながら、このアプローチは、十分に特異的なものでも堅牢なものでもなく、したがって、ヒト褐色脂肪組織の供給源を生成するのに用いることができない。
以上から、研究室においてこれらの細胞を確実に研究できるように、またそれだけでなくこれらの細胞の、医療及び美容目的のための移植(例えば、再建形成手術又は美容形成手術)などといった更なる応用も可能にするために、褐色脂肪細胞の入手方法を提供することが、当該技術分野において必要とされている。
本発明者らは、制御された方法で特定の増殖因子を使用して、褐色脂肪細胞の分化誘導及び分化の指定のための発生経路を再現する、プロトコルを開発した。
このプロトコルを適用することにより、本発明者らは、高効率(例えば80%)で高度に濃縮されたヒト褐色脂肪細胞の集団を得ることが可能となった。
このことから、一態様として本発明は、インビトロで褐色脂肪細胞の集団を産生するための、トランスフォーミング増殖因子ベータ(TGF−β)阻害剤の使用を提供する。
一実施形態では、TGF−β阻害剤は、SMAD2及びSMAD3阻害剤である。一実施形態では、TGF−β阻害剤は、アクチビンA阻害剤である。
一実施形態では、TGF−β阻害剤は、
Figure 2021525089

又はその塩若しくは誘導体である。
一実施形態では、褐色脂肪細胞の集団は、幹細胞の集団及び/又は中胚葉細胞の集団からインビトロで産生される。好ましい実施形態では、幹細胞は、人工多能性幹細胞である。好ましい実施形態では、中胚葉細胞は、沿軸中胚葉細胞である。
一実施形態では、褐色脂肪細胞の集団は、FOXC1、FOXC2、MRF4、MSGN1、MYF5、PAX3、PAX7、PRRX1、SIX1、及び/又はTBX6のうちのいずれか1つを発現する細胞の集団からインビトロで産生される。
好ましい実施形態では、褐色脂肪細胞の集団は、少なくとも分化の6日目までに、FOXC1、FOXC2、MRF4、MSGN1、MYF5、PAX3、PAX7、PRRX1、SIX1、及び/又はTBX6のうちのいずれか1つを発現する。
一実施形態では、褐色脂肪細胞は、UCP1、並びに望ましくはPGC1−α、PPARγ、ADIPOQ、PRDM16、ENDRB、CIDEA、DIO2、及び/又はEBF2を発現する。
好ましい実施形態では、褐色脂肪細胞は、UCP1を発現する。別の好ましい実施形態では、フォルスコリンを褐色脂肪細胞に添加して、UCP1の発現を増加させることができる。
更に別の好ましい実施形態では、褐色脂肪細胞の集団は、これらのマーカー、すなわちUCP1、PGC1−α、PPARγ、ADIPOQ、PRDM16、ENDRB、CIDEA、DIO2、及び/又はEBF2のうちのいずれか1つを発現する。
一実施形態では、褐色脂肪細胞の集団は、分化の少なくとも36日目までに、UCP1、PGC1−α、PPARγ、ADIPOQ、PRDM16、ENDRB、CIDEA、DIO2、及び/又はEBF2のうちのいずれか1つを発現する。
一実施形態では、細胞の集団のうち少なくとも70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%が、UCP1を発現する。
別の実施形態では、褐色脂肪細胞は、白色脂肪細胞及び/又は沿軸中胚葉細胞と比較して、脱共役した呼吸及び/又は最大呼吸をより多く示す。
別の実施形態では、褐色脂肪細胞は、フォルスコリンで刺激されたときに、脱共役した呼吸及び/又は最大呼吸をより多く示す。
一実施形態では、褐色脂肪細胞は、2つ以上の脂肪滴、例えば少なくとも3、4、5、10、15、20、又は25個の脂肪滴を含有する。
別の態様では、本発明は、細胞の集団をトランスフォーミング増殖因子ベータ(TGF−β)阻害剤と接触させる工程を含む、褐色脂肪細胞の集団を産生する方法を提供する。
一実施形態では、本方法は、インビトロでの方法である。
一実施形態では、TGF−β阻害剤は、SMAD2及びSMAD3阻害剤である。一実施形態では、TGF−βシグナル伝達阻害剤は、アクチビンAシグナル伝達阻害剤である。
一実施形態では、TGF−β阻害剤は、
Figure 2021525089

又はその塩若しくは誘導体である。
一実施形態では、TGF−βシグナル伝達阻害剤と接触させる細胞の集団は、中胚葉細胞の集団である。好ましい実施形態では、中胚葉細胞は、沿軸中胚葉細胞である。
一実施形態では、TGF−βシグナル伝達阻害剤と接触させる細胞の集団は、FOXC1、FOXC2、MRF4、MSGN1、MYF5、PAX3、PAX7、PRRX1、SIX1、及び/又はTBX6のうちのいずれか1つを発現する細胞の集団である。好ましい実施形態では、褐色脂肪細胞の集団は、少なくとも分化の6日目までに、FOXC1、FOXC2、MRF4、MSGN1、MYF5、PAX3、PAX7、PRRX1、SIX1、及び/又はTBX6のうちのいずれか1つを発現する。
一実施形態では、TGF−βシグナル伝達阻害剤と接触させる細胞の集団は、幹細胞の集団から、好ましくはインビトロで、産生される。好ましい実施形態では、TGF−βシグナル伝達阻害剤と接触させる細胞の集団は、3D細胞培養を用いて産生される。好ましい実施形態では、幹細胞は、人工多能性幹細胞である。
一実施形態では、UCP−1活性化因子を添加して、褐色脂肪細胞のマーカーであるUCP−1の発現を増加させる。
一実施形態では、UCP−1活性化因子は、フォルスコリン(FSK):
Figure 2021525089

又はその塩若しくは誘導体である。
一実施形態では、フォルスコリン(FSK)を添加して細胞を刺激し、UCP1の発現を増加させ、細胞の機能を評価する。好ましい実施形態では、1〜50μMのフォルスコリン(FSK)を、1〜24時間添加する。
好ましい実施形態では、方法は、
(a)細胞の集団、好ましくは中胚葉細胞の集団を、TGB−βシグナル伝達阻害剤の存在下で第1の期間にわたって培養する工程と、
(b)工程(a)によって提供された細胞の集団を、TGB−βシグナル伝達阻害剤の非存在下で第2の期間にわたって培養する工程と、を含む。
一実施形態では、第1の期間は、約1〜15日、2〜15日、3〜15日、4〜15日、5〜15日、6〜15日、7〜15日、8〜15日、1〜14日、2〜14日、3〜14日、4〜14日、5〜14日、6〜14日、7〜14日、8〜14日、1〜13日、2〜13日、3〜13日、4〜13日、5〜13日、6〜13日、7〜13日、8〜13日、1〜12日、2〜12日、3〜12日、4〜12日、5〜12日、6〜12日、7〜12日、8〜12日、1〜11日、2〜11日、3〜11日、4〜11日、5〜11日、6〜11日、7〜11日、8〜11日、1〜10日、2〜10日、3〜10日、4〜10日、5〜10日、6〜10日、7〜10日、又は8〜10日、好ましくは約6〜10日である。
一実施形態では、第2の期間は、約15〜30日、16〜30日、17〜30日、18〜30日、19〜30日、20〜30日、15〜29日、16〜29日、17〜29日、18〜29日、19〜29日、20〜29日、15〜28日、16〜28日、17〜28日、18〜28日、19〜28日、20〜28日、15〜27日、16〜27日、17〜27日、18〜27日、19〜27日、20〜27日、15〜26日、16〜26日、17〜26日、18〜26日、19〜26日、20〜26日、15〜25日、16〜25日、17〜25日、18〜25日、19〜25日、20〜25日、15〜24日、16〜24日、17〜24日、18〜24日、19〜24日、又は20〜24日、好ましくは約15〜30日である。
特に好ましい実施形態では、方法は、
(a)細胞の集団、好ましくは中胚葉細胞の集団を、TGB−βシグナル伝達阻害剤の存在下で約1〜15日、好ましくは約6〜10日、培養する工程と、
(b)工程(a)によって提供された細胞の集団を、TGB−βシグナル伝達阻害剤の非存在下で約20〜50日、好ましくは約15〜30日、培養する工程と、を含む。
特に好ましい実施形態では、方法は、
(a)細胞の集団、好ましくは中胚葉細胞の集団を、TGB−βシグナル伝達阻害剤の存在下で約1〜15日、好ましくは約6〜10日、培養する工程と、
(b)工程(a)によって提供された細胞の集団を、TGB−βシグナル伝達阻害剤の非存在下で約20〜50日、好ましくは約15〜30日、培養する工程と、を含む。
一実施形態では、工程(a)及び(b)の培養は、接着培養である。
一実施形態では、方法は、更なる工程として、
(c)工程(b)によって提供された細胞の集団を、凝集褐色脂肪細胞の形成に好適な条件下で培養する工程であって、好ましくは、培養が、回転浮遊培養である、培養する工程、を含む。
好ましくは、本発明の細胞は、哺乳動物細胞、好ましくはヒト細胞である。
別の態様では、本発明は、褐色脂肪細胞を分析する方法であって、
(a)褐色脂肪細胞の集団を、本発明の方法を用いて準備する工程と、
(b)褐色脂肪細胞の集団をインビトロで分析する工程、又は褐色脂肪細胞の集団を動物モデルに移植する工程と、を含む、方法を提供する。
別の態様では、本発明は、トランスフォーミング増殖因子ベータ(TGF−β)シグナル伝達阻害剤を使用してインビトロで得ることができる、褐色脂肪細胞の集団を提供する。
別の態様では、本発明は、本発明の方法によって産生された、褐色脂肪細胞の集団を提供する。
別の態様では、本発明は、手術及び/又は治療における使用のための、本発明の方法によって産生された褐色脂肪細胞の集団を提供する。
一実施形態では、使用は、糖尿病の治療又は予防である。
別の態様では、本発明は、糖尿病の治療又は予防のための薬剤の製造のための、本発明の褐色脂肪細胞の集団の使用を提供する。
別の態様では、本発明は、褐色脂肪細胞を対象に移植する方法であって、
(a)褐色脂肪細胞の集団を、本発明の方法を用いて準備する工程と、
(b)褐色脂肪細胞の集団を対象に移植する工程と、を含む、方法を提供する。
一実施形態では、本方法は、美容手術の方法である。
別の実施形態では、本方法は、再建形成手術の方法である。
別の態様では、本発明は、アディポカイン又は分泌因子の産生のための、本発明の褐色脂肪細胞の集団の使用を提供する。好ましくは、産生は、インビトロのものである。
別の態様では、本発明は、糖尿病を治療又は予防する方法であって、本発明の褐色脂肪細胞の集団を、当該治療又は予防を必要とする対象に移植する工程を含む、方法を提供する。
別の態様では、本発明は、治療薬のスクリーニング方法であって、本発明の褐色脂肪細胞の集団を、候補剤と接触させる工程を含む、方法を提供する。好ましくは、候補剤は、候補剤のライブラリー内に含まれている。スクリーニング方法は、例えば、インビトロで行われてもインビボで行われても(例えば、本発明の褐色脂肪細胞の集団を移植したモデル動物を用いて)よい。好ましくは、スクリーニング方法は、インビトロで行われる。
方法の概略図。 単層の多能性幹細胞(PSC)から始め、スフィア培養(Sph)に、原条(PS)に、沿軸中胚葉(PM)に進める。次いで、細胞を分散し、アクチビン阻害剤であるTGFβシグナル伝達阻害剤、SB431542を含有する特定のBAD1培地にて、2Dで培養する。この段階でSB431542を含めることにより、側板中胚葉の汚染によって血管内皮及び心筋細胞の発達の出現が低減される。第2の工程では、細胞をBAD2培地内で培養し、SB431542の除去によりTGFβシグナル伝達を活性化させる。SB431542の継続的使用により、適切な反応速度が遅延し、適切なUCP1誘導及び発現が混乱する。 hiPSCから沿軸中胚葉(PM)分化細胞までの遺伝子発現分析。 PM分化のqPCR時間経過:−2日目=iPSC培地+ROCK阻害剤、0日目=分化開始。X軸は、日数であり、0日目が分化の開始である hiPSCから沿軸中胚葉(PM)分化細胞までの遺伝子発現分析。 PM分化のqPCR時間経過:−2日目=iPSC培地+ROCK阻害剤、0日目=分化開始。X軸は、日数であり、0日目が分化の開始である。 褐色脂肪細胞に関し選択された遺伝子の、時間経過に伴う発現についての分析。 沿軸中胚葉(PM)から、褐色脂肪細胞(BA)への分化の36日目までの、選択された遺伝子のqPCRデータ。「+」は、10μMのフォルスコリンへの4時間の曝露を示す。全てのサンプルを、PM 18S rRNA発現に対して表示する。 褐色脂肪細胞に関し選択された遺伝子の、時間経過に伴う発現についての分析。 沿軸中胚葉(PM)から、褐色脂肪細胞(BA)への分化の36日目までの、選択された遺伝子のqPCRデータ。「+」は、10μMのフォルスコリンへの4時間の曝露を示す。全てのサンプルを、PM 18S rRNA発現に対して表示する。 TGFβ阻害及びTGFベータシグナル伝達の回復がBA分化に対し示す影響。 長期(+SB)又は短期(−SB)のSB431542曝露の間のUCP1発現分析。長期SB曝露では、分散させた沿軸中胚葉細胞を蒔いた直後に始まる全BA分化の間、培地中にSB431542を含む。短期SB曝露では、分散させた沿軸中胚葉細胞を蒔いた直後から最初の8日のみの間、培地にSB431542を含む。「+FSK」と表記されたサンプルは、10μMのフォルスコリンを4時間含んだ。日数は、沿軸中胚葉分化後の日数である。内在性コントロールとして18S rRNAを使用して、全てのサンプルをiPSCに対して表示する 脂肪分解機能。 このアッセイでは、細胞により脂肪分解によって培地に放出された遊離グリセロールを測定する。脂肪分解が活性化された細胞によって、より多量の遊離グリセロールが培地に放出される。この遊離グリセロールの量は、既知の標準である遊離グリセロール試薬番号6428(Sigma)、グリセロール標準番号G7793(Sigma)に対する比色分析的な比較(540nmでの吸収)によって定量される。 褐色及び白色脂肪細胞の酸素消費プロファイル。 分化した褐色及び白色脂肪細胞を、コンフルエントまでXF24プレートにて3週間増殖させ、フォルスコリン(FSK)の存在下(+)又は非存在下(−)で終夜培養した。図8(A)では、BA刺激(黒色線、円形状)、BA未刺激(黒色線、円形状)、WA刺激(灰色線、三角形形状)、及びWA未刺激(灰色線、正方形状)プロファイルが示されている。ヒストグラムでは、図8(B)が各サンプルの平均基礎呼吸、図8(C)が各サンプルの脱共役能を表している。 BA細胞の電子顕微鏡イメージング。 分化の60日目でのヒトiPSC由来BA細胞の走査型電子顕微鏡画像化により、嚢に充填された多小胞性脂肪滴が示されている。Zeiss 1450EP SEMでイメージングした。(A)縮尺バー:20μm。(B)縮尺バー:10μm。 NE刺激後にヒトBA細胞を移植した後の、in vivo熱量測定/呼吸測定。 ノルエピネフリン(NE)で1時間処理したヒトBA細胞(iBAT)又は空のデバイス(EMPTY)を移植したマウスの呼吸商(デルタVO2)の測定。マウスは、内在性マウスBA組織について外科的に枯渇されている(BATr)か、又は熱的に中立な状態にて処置され内在性マウスBA組織が不活性化されている(Therm)かのいずれかである。
本明細書で使用する場合、用語「含む(comprising)」、「含む(comprises)」、及び「から構成される(comprised of)」は、「含む(including)」又は「含む(includes)」又は「含有する(containing)」又は「含有する(contains)」と同義であり、包括的、すなわちオープンエンドであり、かつ追加の、列挙されていない構成、要素、又は工程を除外しない。用語「含む(comprising)」、「含む(comprises)」、及び「から構成される(comprised of)」はまた、用語「からなる(consisting of)」を含む。
褐色脂肪細胞の集団の「産生」は、幹細胞から褐色脂肪細胞(例えば、中胚葉細胞、好ましくは沿軸中胚葉細胞)までの分化経路における、あまり成熟していない前駆細胞、例えば幹細胞又は細胞型の制御された分化による、産生を指す。本発明の褐色脂肪細胞の集団を提供する分化は、前駆細胞の集団を、それらの細胞の分化を指向する好適な条件下で、所望の方法にて、すなわち褐色脂肪細胞になるように、培養することによって行うことができる。
褐色脂肪細胞
褐色脂肪としても知られる褐色脂肪組織(BAT)は、白色脂肪組織(白色脂肪)とともに臓器としての脂肪を形成する。BATは、特に、新生児及び冬眠する哺乳動物において広く見られる。BATは成人のヒトにも存在し、代謝的に活性であるが、その保有率はヒトが老化するにつれて減少する。
BATの主要機能は体温調節である。筋肉を震わせることによって生成された熱とは対照的に、BATでは、非ふるえ熱産生によって熱が生成する。
褐色脂肪細胞は、UCP1、PGC1−α、PPARγ、ADIPOQ、PRDM16、ENDRB、CIDEA、DIO2、及び/又はEBF2の発現により評価できる。
好ましい実施形態では、褐色脂肪細胞は、UCP1を発現する。
別の好ましい実施形態では、褐色脂肪細胞は、分化の少なくとも36日目までに、UCP1、PGC1−α、PPARγ、ADIPOQ、PRDM16、ENDRB、CIDEA、DIO2、及び/又はEBF2を発現する。
別の実施形態では、褐色脂肪細胞は、白色脂肪細胞及び/又は沿軸中胚葉細胞と比較して、脱共役した呼吸及び/又は最大呼吸をより多く示す。
別の実施形態では、褐色脂肪細胞は、FSKで刺激されたときに、脱共役した呼吸及び/又は最大呼吸をより多く示す。
褐色脂肪細胞はまた、当該細胞が数多くの(例えば、2つ以上の)脂肪滴を含有することも特徴とし得る。これにより、褐色脂肪細胞は、単一の脂肪滴を含有する白色脂肪細胞から区別され得る。
ミトコンドリア脱共役タンパク質(UCP1)
サーモゲニンとしても知られるミトコンドリア脱共役タンパク質(UCP1)は、BATのミトコンドリアにて見られる脱共役タンパク質である。
UCP1は、褐色脂肪細胞において酸化的リン酸化を脱共役させるように機能し、非ふるえ熱産生による熱の生成を可能にする。
UCP1は、褐色脂肪細胞のマーカーである。
ヒトUCP1のアミノ酸配列の例は、NCBIアクセッション番号NP068605.1で寄託された配列である。
ヒトUCP1のアミノ酸配列の例は、以下である。
MGGLTASDVHPTLGVQLFSAGIAACLADVITFPLDTAKVRLQVQGECPTSSVIRYKGVLGTITAVVKTEGRMKLYSGLPAGLQRQISSASLRIGLYDTVQEFLTAGKETAPSLGSKILAGLTTGGVAVFIGQPTEVVKVRLQAQSHLHGIKPRYTGTYNAYRIIATTEGLTGLWKGTTPNLMRSVIINCTELVTYDLMKEAFVKNNILADDVPCHLVSALIAGFCATAMSSPVDVVKTRFINSPPGQYKSVPNCAMKVFTNEGPTAFFKGLVPSFLRLGSWNVIMFVCFEQLKRELSKSRQTMDCAT
(配列番号1)。
中胚葉細胞
中胚葉は、全ての左右相称動物における初期胚に見られる3つの一次胚葉のうちの1つ(外胚葉及び内胚葉に加えて)である。中胚葉は、外胚葉と内胚葉との間に形成される中間層である。
中胚葉は、間葉、中皮、非上皮血液細胞、及び体腔細胞を形成する。中胚葉はまた、筋肉、及び生殖腺の一部も形成する。
未分節又は体節中胚葉としても知られる沿軸中胚葉は、神経管と同時に形成される神経管形成胚内の中胚葉の一部である。この領域の細胞は、神経管の両側のあたりに見られる組織領域である体節を生じさせ、筋肉、及び背の組織を形成する。
沿軸中胚葉細胞は、FOXC1、FOXC2、MRF4、MSGN1、MYF5、PAX3、PAX7、PRRX1、SIX1、及び/又はTBX6のうちのいずれか1つの発現を特徴とし得る。
トランスフォーミング増殖因子ベータ(TGF−β)
トランスフォーミング増殖因子ベータ1(TGF−β1)は、サイトカインのトランスフォーミング増殖因子ベータスーパーファミリーの一員であり、細胞成長、細胞増殖、細胞分化、及びアポトーシスの制御を含む、多数の機能を果たす分泌タンパク質である。
一実施形態では、TGF−βシグナル伝達阻害剤は、SMAD2及びSMAD3阻害剤である。
一実施形態では、TGF−βシグナル伝達阻害剤は、アクチビンA阻害剤である。
好ましい実施形態では、TGF−βシグナル伝達阻害剤は、SB−431542である。
好ましい実施形態では、TGF−βシグナル伝達阻害剤は、
Figure 2021525089

又はその塩若しくは誘導体である。
本発明の使用及び方法ではまた、前駆細胞からの褐色脂肪細胞の産生中に実質的に同等の機能をもたらす、化合物(I)の誘導体を使用することもできる。
本発明の使用及び方法ではまた、前駆細胞からの褐色脂肪細胞の産生中に実質的に同等の機能をもたらす、他のTGF−βシグナル伝達阻害剤を使用することもできる。例えば、実質的に同等の機能をもたらす、他のTGF−βシグナル伝達阻害剤としては、SB525334、Galunisertib(LY2157299)、GW788388、LY2109761、RepSox、LY364947、及びSD208が挙げられる。
一実施形態では、阻害剤は、約1〜50μM、1〜40μM、1〜30μM、又は1〜20μMの濃度で、本発明に使用される。別の実施形態では、阻害剤は、約1〜20μMの濃度で、本発明に使用される。
別の実施形態では、阻害剤は、約5〜15μM、6〜14μM、7〜13μM、8〜12μM、又は9〜11μMの濃度で、本発明に使用される。別の実施形態では、阻害剤は、約5〜10μMの濃度で、本発明に使用される。
別の実施形態では、阻害剤は、約1〜5μM、6〜10μM、11〜15μM、16〜20μM、21〜25μM、26〜30μM、31〜35μM、36〜40μM、41〜45μM、又は46〜50μMの濃度で、本発明に使用される。好ましくは、阻害剤は、約1〜50μM、最も好ましくは約10μMの濃度で、本発明に使用される。
UCP−1活性化因子
UCP−1活性化因子を使用して、褐色脂肪細胞の機能を試験することができる。
一実施形態では、UCP−1活性化因子を添加して、褐色脂肪細胞のマーカーであるUCP−1の発現を増加させる。
一実施形態では、UCP−1活性化因子は、フォルスコリン(FSK):
Figure 2021525089

又はその塩若しくは誘導体である。
一実施形態では、フォルスコリン(FSK)を添加して、細胞を刺激し、UCP1発現を増加させる。好ましい実施形態では、1〜50μMのフォルスコリン(FSK)を、6〜24時間かけて添加する。

本発明の剤は、塩、特に薬学的に許容される塩又はエステルとして存在することができる。
本発明の剤の薬学的に許容される塩としては、その好適な酸付加塩又は塩基塩が挙げられる。好適な薬学的塩の総説は、Berge.et al.(1977)J.Pharm.Sci.66:1−19に見出すことができる。塩は、例えば、強い無機酸、例えば鉱酸、例えば硫酸、リン酸、若しくはハロゲン化水素酸によって形成され;強い有機カルボン酸、例えば炭素数1〜4の、非置換でも置換されていてもよいアルカンカルボン酸、例えば酢酸によって形成され;飽和若しくは不飽和ジカルボン酸、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸、若しくはテトラフタル酸によって形成され;ヒドロキシカルボン酸、例えば、アスコルビン酸、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、若しくはクエン酸によって形成され;アミノ酸、例えば、アスパラギン酸、若しくはグルタミン酸によって形成され;安息香酸によって形成され;又は、有機スルホン酸、例えば非置換でも置換(例えばハロゲンによって置換)されていてもよい(C〜C)−アルキル−若しくはアリールスルホン酸、例えばメタン−スルホン酸若しくはp−トルエンスルホン酸によって形成される。
エナンチオマー/互変異性体
本発明はまた、適宜、剤の全てのエナンチオマー及び互変異性体を含む。対応するエナンチオマー及び/又は互変異性体は、当該技術分野において既知の方法によって単離/調製することができる。
立体異性体及び幾何異性体
本発明の剤のうちのいくつかは、立体異性体及び/又は幾何異性体として存在することができる。例えば、それらは、1つ以上の不斉中心及び/又は幾何学的中心を有することができるので、2つ以上の立体異性体及び/又は幾何学的形態で存在し得る。本発明は、これらの剤の全ての個々の立体異性体及び幾何異性体、並びにこれらの混合物の使用を企図する。特許請求の範囲において使用される用語は、適切な機能的活性を保持する(ただし、必ずしも同じ程度ではない)のであれば、これらの形態を包含する。
本発明はまた、剤又はその薬学的に許容される塩の、全ての好適な同位体バリエーションを含む。本発明の剤又はその薬学的に許容される塩の同位体のバリエーションは、少なくとも1個の原子が、同じ原子番号を有するが天然において通常見られる原子質量とは異なる原子質量である原子で置換されているものとして定義される。剤及びその薬学的に許容される塩に組み込むことができる同位体の例としては、水素、炭素、窒素、酸素、リン、硫黄、フッ素、及び塩素の同位体、例えば、それぞれ、H、H、13C、14C、15N、17O、18O、31P、32P、35S、18F、及び36Clが挙げられる。剤及びその薬学的に許容される塩の特定の同位体バリエーション、例えば、H又は14Cなどの放射性同位体が組み込まれているものは、薬物及び/又は基質の組織分布試験において有用である。トリチウム化、すなわちH、及び炭素14、すなわち14C同位体は、調製しやすく、かつ検出しやすいことから特に好ましい。更に、同位体、例えば重水素、すなわちHによる置換は、代謝安定性の向上、例えば、インビボ半減期の延長又は投与量の低減により得られるある種の治療上の利点をもたらすことができるため、いくつかの状況で好ましい場合がある。本発明の剤及び本発明のその薬学的に許容される塩の同位体バリエーションは、概して、好適な試薬の適切な同位体バリエーションを使用して、従来の手順によって調製することができる。
溶媒和物
本発明はまた、本発明の剤の溶媒和物形態を含む。特許請求の範囲において使用される用語は、これらの形態を包含する。
多形
本発明はまた、様々な結晶形態、多形形態、及び(無水)水和形態の本発明の剤にも関する。このような化合物の合成による調製において用いられる溶媒の精製及び/又は単離方法をわずかに変更することによって、化学的化合物をこのような形態のいずれかで単離することができ、これは医薬業界において十分に確立されている。
産生方法
本発明の褐色脂肪細胞は、前駆細胞、例えば幹細胞及び/又は中胚葉細胞から産生することができる。
一態様では、本発明は、インビトロで褐色脂肪細胞の集団を産生するための、トランスフォーミング増殖因子ベータ(TGF−β)シグナル伝達阻害剤の使用を提供する。
別の態様では、本発明は、細胞の集団をトランスフォーミング増殖因子ベータ(TGF−β)シグナル伝達阻害剤と接触させる工程を含む、褐色脂肪細胞の集団を産生する方法を提供する。
トランスフォーミング増殖因子ベータ(TGF−β)シグナル伝達阻害剤と接触させる細胞の集団は、好適な条件下で培養されたときに褐色脂肪細胞に分化する能力を有する、前駆細胞の集団である。
一実施形態では、TGF−βシグナル伝達阻害剤と接触させる細胞の集団は、幹細胞の集団から、好ましくはインビトロで、産生される。好ましい実施形態では、TGF−βシグナル伝達阻害剤と接触させる細胞の集団は、3D細胞培養を用いて産生される。好ましい実施形態では、幹細胞は、人工多能性幹細胞である。
3D細胞培養は、細胞が三次元的に成長し、又は周囲と相互作用することができる、人工的に作製された環境である。かかる培養では、細胞は典型的には、「スフェロイド」と呼称され得る3Dコロニーを形成する。3D培養アプローチは、細胞のインビボ成長及び挙動をより正確にモデルリングすることができる。
当業者は、例えば様々な市販の培養ツールのいずれかを活用することにより、3D細胞培養を容易に実施することができる。例えば、3D培養は、スキャフォールドによる手法又はスキャフォールドフリーの手法を用いて実施することができる。
スキャフォールドベースの手法は、細胞による3D培養物の形成を可能にするため、固体スキャフォールド及びハイドロゲルなどの支持体を用いる。かかるスキャフォールドは、インビボで存在する天然の細胞外マトリックス(ECM)を模倣することを目的とするものであってもよい。
スキャフォールドフリー技術では、細胞を成長させるスキャフォールドを用いた分配が行われる。代わりに、3Dスフェロイドは、例えば、低接着プレート、懸滴プレート、マイクロパターン化表面、回転バイオリアクター、磁気浮上、及び磁気3Dバイオプリンティングの使用により作製することができる。
例えば、幹細胞共凝集体3Dスフェロイドの構築は、例えば、超低接着プレートでの培養によって、及び/又は約80〜120RPM若しくは90〜110RPM、好ましくは約100RPMでシェーカープラットフォームを用いる培養によって、達成することができる。最初の共凝集体の作製は、例えば約6〜18時間又は9〜15時間、好ましくは約12時間のインキュベート後に行うことができる。
好ましい実施形態では、当該方法は、
(a)細胞の集団、好ましくは中胚葉細胞の集団を、TGB−βシグナル伝達阻害剤の存在下で第1の期間にわたって培養する工程と、
(b)工程(a)によって提供された細胞の集団を、TGB−βシグナル伝達阻害剤の非存在下で第2の期間にわたって培養する工程と、を含む。
一実施形態では、第1の期間は、約1〜15日、2〜15日、3〜15日、4〜15日、5〜15日、6〜15日、7〜15日、8〜15日、1〜14日、2〜14日、3〜14日、4〜14日、5〜14日、6〜14日、7〜14日、8〜14日、1〜13日、2〜13日、3〜13日、4〜13日、5〜13日、6〜13日、7〜13日、8〜13日、1〜12日、2〜12日、3〜12日、4〜12日、5〜12日、6〜12日、7〜12日、8〜12日、1〜11日、2〜11日、3〜11日、4〜11日、5〜11日、6〜11日、7〜11日、8〜11日、1〜10日、2〜10日、3〜10日、4〜10日、5〜10日、6〜10日、7〜10日、又は8〜10日、好ましくは約6〜10日である。
一実施形態では、第2の期間は、約15〜30日、16〜30日、17〜30日、18〜30日、19〜30日、20〜30日、15〜29日、16〜29日、17〜29日、18〜29日、19〜29日、20〜29日、15〜28日、16〜28日、17〜28日、18〜28日、19〜28日、20〜28日、15〜27日、16〜27日、17〜27日、18〜27日、19〜27日、20〜27日、15〜26日、16〜26日、17〜26日、18〜26日、19〜26日、20〜26日、15〜25日、16〜25日、17〜25日、18〜25日、19〜25日、20〜25日、15〜24日、16〜24日、17〜24日、18〜24日、19〜24日、又は20〜24日、好ましくは約15〜30日である。
特に好ましい実施形態では、方法は、
(a)細胞の集団、好ましくは中胚葉細胞の集団を、TGB−βシグナル伝達阻害剤の存在下で約1〜15日、好ましくは約6〜10日、培養する工程と、
(b)工程(a)によって提供された細胞の集団を、TGB−βシグナル伝達阻害剤の非存在下で約20〜50日、好ましくは約15〜30日、培養する工程と、を含む。
一実施形態では、工程(a)及び(b)の培養は、接着培養である。
一実施形態では、方法は、更なる工程として、
(c)工程(b)によって提供された細胞の集団を、凝集褐色脂肪細胞の形成に好適な条件下で培養する工程であって、好ましくは、培養が、回転浮遊培養である、培養する工程、を含む。
本発明の方法において、細胞培養は、任意の好適な細胞培養培地を使用して行うことができる。
例えば、培養は、グルタミン不含有であり、2%のプロブミンProbumin(例えば、EMD Milipore(Billerica,MA)製)、1×抗生物質−抗真菌物質(例えば、Corning(Corning,NY)製)、1×MEM非必須アミノ酸(例えば、Corning(Corning,NY)製)、1×Trace Elements A(例えば、Corning(Corning,NY)製)、1×Trace Elements B(例えば、Corning(Corning,NY)製)、1×Trace Elements C(例えば、Corning(Corning,NY)製)、50μg/mLのアスコルビン酸(例えば、Sigma−Aldrich(St.Louis,MO)製)、10μg/mLのトランスフェリン(例えば、Athens Research and Technology(Athens,GA)製)、0.1mMの2−メルカプトエタノール(例えば、Thermo−Fisher(Waltham,MA)製)、及び1×Glutagro(例えば、Corning(Corning,NY)製)を添加されたDMEM/F−12から構成される化学的に規定された基本培地(chemically−defined base medium,DBM)内で行うことができる。この培地に、以下の最終濃度で、要素、すなわち、8ng/mLのbFGF(例えば、R&D Systems(Minneapolis,MN)製)、100ng/mLのBMP7(例えば、R&D Systems(Minneapolis,MN)製)、200ng/mLのLONG(登録商標)R3 IGF−I(例えば、Sigma−Aldrich(St.Louis,MO)製)、10μMのY−27632二塩酸塩(例えば、Tocris(Minneapolis,MN)製)、2μMのロシグリタゾン(例えば、Tocris(Minneapolis,MN)製)、1μMのデキサメタゾン(例えば、Tocris(Minneapolis,MN)製)、1nMのLT−3(3,3’,5−トリヨード−L−サイロニンナトリウム塩)(例えば、Sigma−Aldrich(St.Louis,MO)製)、及び500μMのIBMX(3−イソブチル−1−メチルキサンチン)(例えば、Sigma−Aldrich(St.Louis,MO)製)を更に添加することができる。
培養培地に、好適な濃度のTGF−βシグナル伝達阻害剤を添加することができる。TGF−βシグナル伝達阻害剤の非存在下で培養するために、培地に、例えば、1:500の化学的に規定された脂質濃縮物(例えば、ThermoFisher(Waltham,MA)製)を添加することができる。
本発明の方法において用いる好適な培養条件は、例えば、
(a)約36〜38℃又は36.5〜37.5℃、好ましくは約37℃で培養する工程、
(b)約4〜6%又は4.5〜5.5%のCO、好ましくは約5%のCOで培養する工程、及び/又は
(c)少なくとも約95%、96%、97%、98%、又は99%の湿度、好ましくは約100%の湿度で培養する工程を含む。
幹細胞
本発明の褐色脂肪細胞を、幹細胞から(例えば、インビトロで)産生することができる。
幹細胞は、より専門化された細胞に分化する能力を有する細胞であり、分裂してより多くの幹細胞を産生することもできる。
本発明の方法は、前駆細胞の集団(例えば、中胚葉細胞の集団、好ましくは沿軸中胚葉細胞の集団)を、トランスフォーミング増殖因子ベータ(TGF−β)シグナル伝達阻害剤と接触させる工程を含んでよく、当該前駆細胞の集団は、幹細胞の集団の分化によって産生された(例えば、インビトロで)当該前駆細胞を有する。
したがって、本発明の方法は、幹細胞の集団から細胞の集団を(例えば、インビトロで)産生する工程を含んでもよい。
好ましくは、本発明の幹細胞は多能性幹細胞である。
多能性幹細胞は、際限なく増殖し、人体の全ての細胞型に分化できる幹細胞である。これらの幹細胞は、損傷又は疾患によって影響を受けた細胞と置き換えることができる単一の細胞源を提供することが期待できる。
多能性幹細胞は、多数の手法によって生成することができる。好ましくは、本発明の幹細胞は、人工多能性幹細胞(iPSC)である。
iPSCは、成体細胞から直接作製することができる多能性幹細胞の一種である。当業者は、例えば、特定の転写因子を成体細胞に導入することによって、又は成体細胞を特定のタンパク質の組み合わせと接触させることによって、iPSCを容易に調製することができる。
iPSCは、胚由来の材料を使用する必要がないという点において、またiPSC(又はiPSCから産生された細胞)は、後に再導入を受ける対象から調製可能であるという点において、胚性幹細胞よりも有益である。かかる自家細胞移植は、移植される材料が免疫拒絶を受けるリスクを克服することができる。
本発明の幹細胞は、特に、胚を破壊することなく産生することができる。
多能性幹細胞を、胚を破壊することなく産生する方法は、当該技術分野において既知である。特に、マウス及びヒトの胚性幹細胞は、胚をそのまま残存させたまま、単一の割球から産生され得ることが示されている。例えば、Chung,Y.et al.(2006)Nature 439:216−219は、単一の割球からマウス胚性幹細胞を作製するための方法を記載している。この手順のその後の進歩により、割球細胞株を他のESCと共培養する必要がない方法が提供された(Chung,Y.et al.(2008)Cell Stem Cell 2:113−117)。
好ましくは、本発明の幹細胞は、哺乳動物幹細胞、好ましくはヒト幹細胞である。
疾患
本発明の褐色脂肪細胞は、長期間にわたり血糖濃度が高いことを特徴とする疾患の治療又は予防に使用することができる。このような病態としては、インスリン抵抗性、境界型糖尿病、1型又は2型糖尿病、代謝症候群、及び肥満関連の病態が挙げられる。
インスリン抵抗性とは、身体がインスリンを産生するものの、インスリンを有効に利用しない病態である。対象がインスリン抵抗性を有するとき、グルコースは細胞によって吸収されずに血液中に蓄積し、2型糖尿病又は境界型糖尿病に至る。インスリン抵抗性とは、曝露されるインスリン濃度に対する標的細胞又は全器官の応答性の低下と定義することができる。この定義は、一般に、インスリンが介在するグルコース処理に対する感受性の障害を指すために使用される。
境界型糖尿病は、糖尿病患者を診断するために必要な症状の全てが存在するわけではないが、血糖値が異常に高い医学的段階である。境界型糖尿病は、通常は、インスリン抵抗性を既に有する対象において起こる。インスリン抵抗性のみによって2型糖尿病が発症するわけではないが、多くの場合インスリン産生ベータ細胞に対する要求の高さによって、疾患のステージを設定する。境界型糖尿病では、ベータ細胞が、インスリン抵抗性を克服するのに十分なインスリンを産生することができないことから、血糖濃度が正常範囲を超えて上昇する。
真性糖尿病(一般に糖尿病と称する)は、長期間にわたり患者血糖濃度が高いことを特徴とする代謝性疾患の群である。糖尿病の主要な2タイプ(1型及び2型)は原因が異なり、治療方法も異なる。
1型糖尿病は、通常は自己免疫機序による膵臓におけるインスリン産生ベータ細胞の破壊が原因である。
2型糖尿病は、末梢組織におけるインスリン抵抗性が原因であり、膵臓ベータ細胞の機能不全を合併している場合がある。
2型糖尿病は、世界的に有病率が上昇している慢性代謝性障害である。世界のいくつかの国では、老齢人口の増加により、次の10年で影響を受ける対象数が倍増すると予測されている。
2型糖尿病は、インスリン抵抗性、インスリン産生の低下、及び最終的な膵臓ベータ細胞不全によってもたらされる、インスリン非感受性を特徴とする。この非感受性により、肝臓、筋細胞、及び脂肪細胞へのグルコース輸送が減少する。高血糖に関連した脂肪の分解が増加する。
この機能不全の結果、空腹時に上昇するグルカゴンの量及び肝臓のグルコースの量が、食事によって抑制されない。インスリンの不適当な量及びインスリン抵抗性の上昇により、高血糖が生じる。
2型糖尿病の対象は、糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)、高浸透圧性高血糖状態(HHS)、網膜症、心疾患、腎症、及び神経障害を含む、様々な短期及び長期両方の合併症にかかりやすい。このような合併症により、早期に死亡する場合がある。
メタボリックシンドロームは、次の医学的状態、すなわち、腹部(中心性)肥満、高血圧、空腹時血漿グルコースが高レベルであること、血清トリグリセリドが高レベルであること、及び高密度リポタンパク質(HDL)レベルが低いこと、の5つのうちの少なくとも3つがまとめて発症することである。メタボリックシンドロームは、心血管疾患及び糖尿病の発症リスクと関連がある。
肥満は、ヒトの体重を人の身長の二乗で割ることによって計算されるBMIが30kg/m超であることによって概ね評価される医学的病態である。肥満により、様々な疾患又は病態、特に心血管疾患、2型糖尿病、特定の型の癌、変形性関節症、及び抑うつの可能性が高まる。
分析方法
一態様では、本発明は、褐色脂肪細胞を分析する方法を提供する。
本発明は、従来では可能ではなかった、褐色脂肪細胞の集団の入手方法を提供することにより、当該細胞集団に対し研究を行い当該細胞の機能及び挙動を更に評価することを可能にする。
好ましくは、当該分析方法は、インビトロで行われる。しかし、本発明の褐色脂肪細胞はまた、褐色脂肪細胞の集団を、動物モデル、例えばマウスモデルに移植することによって分析することもできる。
好適な分析方法としては、当該技術分野において周知の技術である、フローサイトメトリー、イムノアッセイ、及び細胞画像ベースの研究(例えば、蛍光顕微鏡法)が挙げられるが、これらに限定されない。
治療方法
一態様では、本発明は、手術及び/又は治療における使用のための、例えば糖尿病の治療又は予防における使用のための、本発明の褐色脂肪細胞の集団を提供する。
治療又は予防は、本発明の褐色脂肪細胞の集団を、当該細胞集団を必要とする対象に移植すること、を含んでもよい。したがって、本発明は、糖尿病を治療又は予防する方法であって、本発明の褐色脂肪細胞の集団を、当該細胞集団を必要とする対象に移植する工程を含む、方法を提供する。
治療又は予防されるべき糖尿病は、例えば、1型又は2型糖尿病であり得る。
本明細書において「治療/処置」についてなされる全ての言及は、治癒的、緩和的、及び予防的な治療/処置を含むが、本発明の文脈においては、予防についての言及は、より一般的には予防的治療/処置と関係していることについて理解されたい。哺乳動物、特にヒトの治療が、好ましい。ヒト及び動物の両方の治療が、本発明の範囲内にある。
移植
用語「移植(transplant)」及び「移植(implant)」は、本明細書において互換的に用いられる。
本発明の褐色脂肪細胞の集団は、例えば、自家細胞移植手順の一部として、又は同種異系細胞移植手順の一部として、対象に投与ことができる。
用語「自家細胞移植手順」は、前駆細胞(この細胞から本発明の褐色脂肪細胞の集団を産生する)を、本発明の褐色脂肪細胞の集団を投与するのと同じ対象から得る、手順を指す。
自家移植手順は、免疫学的不適合と関連する問題を回避し、遺伝的に適合するドナーの利用可能性とは無関係に、対象にとって利用可能であることから、有益である。
用語「同種異系細胞移植手順」は、前駆細胞(この細胞から本発明の褐色脂肪細胞の集団が産生される)を、本発明の褐色脂肪細胞の集団を投与する対象とは異なる対象から得る、手順を指す。好ましくは、ドナーは、褐色脂肪細胞の集団を投与する対象と遺伝的に合致するものとし、免疫学的不適合のリスクを最小にする。
本発明の褐色脂肪細胞の集団の好適な用量は、治療的及び/又は予防的に有効であるようなものである。投与すべき用量は、治療される対象及び病態によって異なり、当業者は容易に決定することができる。
褐色脂肪細胞の集団を、美容手術手順の一部として、対象に移植することができる。
褐色脂肪細胞の集団を、形成手術手順、例えば、再建形成手術、例えば事故又は熱傷後に行うことがある手術の一部として、対象に移植することができる。
医薬組成物
本発明の細胞は、薬学的に許容可能な担体、希釈剤、又は賦形剤とともに対象に投与するために配合することができる。好適な担体及び希釈剤は、等張生理食塩水、例えばリン酸緩衝生理食塩水を含み、場合によりヒト血清アルブミンを含有する。
当業者は、開示される本発明の範囲から逸脱することなく、本明細書に開示される本発明の全ての特徴を組み合わせることができることを理解されたい。
本発明の好ましい特徴及び実施形態を、非限定的な例によってこれより記述する。
本発明の実施では、特に指示がない限り、当業者の能力の範囲内のものである、化学、生化学、分子生物学、微生物学、及び免疫学の従来技術を用いる。かかる技術は文献で説明されている。例えば、Sambrook,J.,Fritsch,E.F.and Maniatis,T.(1989)Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press;Ausubel,F.M.et al.(1995 and periodic supplements)Current Protocols in Molecular Biology,Ch.9,13 and 16,John Wiley & Sons;Roe,B.,Crabtree,J.and Kahn,A.(1996)DNA Isolation and Sequencing:Essential Techniques,John Wiley & Sons;Polak,J.M.and McGee,J.O’D.(1990)In Situ Hybridization:Principles and Practice,Oxford University Press;Gait,M.J.(1984)Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach,IRL Press、並びに、Lilley,D.M.and Dahlberg,J.E.(1992)Methods in Enzymology:DNA Structures Part A:Synthesis and Physical Analysis of DNA,Academic Pressを参照されたい。これらの一般的なテキストの各々は、本明細書に参照により組み込まれる。
実施例1.
材料及び方法
細胞培養及び分化
グルタミン不含有のDMEM/F−12(Corning(Corning,NY))に1:200希釈したGeltrex LDEV−Free hESC qualified reduced growth factor basement membrane matrix(Thermo−Fisher(Waltham,MA))でコーティングしたポリスチレン培養プレート(Thermo−Fisher(Waltham,MA))上に、ヒト多能性幹細胞(PSC)を50,000個/cm播種した。PSCの維持、スフィア形成、沿軸中胚葉、及び褐色脂肪細胞分化のための培地は、化学的に規定した基本培地(DBM)に特定の要素を添加して作製した。DBMは、グルタミン不含有のDMEM/F−12に、2%のプロブミンProbumin(EMD Milipore(Billerica,MA))、1×抗生物質−抗真菌物質(Corning(Corning,NY))、1×MEM非必須アミノ酸(Corning(Corning,NY))、1× Trace Elements A(Corning(Corning,NY))、1× Trace Elements B(Corning(Corning,NY))、1× Trace Elements C(Corning(Corning,NY))、50μg/mLのアスコルビン酸(Sigma−Aldrich(St.Louis,MO))、10μg/mLのトランスフェリン(Athens Research and Technology(Athens,GA))、0.1mMの2−メルカプトエタノール(Thermo−Fisher(Waltham,MA))、及び1×Glutagro(Corning(Corning,NY))を添加したものからなった。PSC維持培地(MM)は、完全に規定された培地(CDM)を構成するよう、8ng/mLのヒト塩基性FGF(R&D Systems(Minneapolis,MN))、200ng/mLのLONG(登録商標)R3ヒトIGF−I(Sigma−Aldrich(St.Louis,MO))、10ng/mLのアクチビンA(R&D Systems(Minneapolis,MN))、及び10ng/mLのヒトヘレグリンβ−1(Peprotech(Rocky Hill,NJ))を添加したDBMからなった。24時間毎に培地を交換し、最大90%コンフルエントとして、4日間、37℃のインキュベータ内で5%のCOにて、ヒトPSCをCDMで培養した。継代のため、Accutase(登録商標)(Innovative Cell Technologies(San Diego,CA))を使用して室温(RT)で5〜10分間、ヒトPSCを培養プレートか剥がした。1000rpmで室温にて4分間遠心分離した後、Accutaseを吸引し、細胞ペレットをCDMに再懸濁し、次いで血球計数器を用いて細胞数を定量した。上記のようにgeltrexをコーティングしたプレート上に細胞を再播種した。定量的ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)によりOCT3/4、SOX2、及びNANOGの発現が陽性であったこと並びに免疫蛍光法から、細胞同一性を確認した。
沿軸中胚葉(PM)分化
回転浮遊培養を用い、3ステッププロセスにおいて、沿軸中胚葉(PM)細胞を生成した。最初に、1×10個/mLのhPSCを含む単細胞懸濁液を、5.5mLのスフィア形成培地(SFM)体積にて、6ウェル懸濁プレート(Greiner Bio−One(Monroe,NC))に播種した。次いでこのプレートを、5%のCO、37℃のインキュベータ内の、97RPMに設定したInnova2000プラットフォームシェーカー(New Brunswick Scientific(Edison,NJ))上に置いた。スフィア形成培地を、10μMのY−27632二塩酸塩(Tocris,Minneapolis(MN))を24時間かけて添加したhPSC MMで構成した。スフィア及び培地をピペットによりコニカルチューブに移し、スフィアを最大10分間重力沈降させることにより使用済み培地を除去した。使用済み培地は、慎重に、沈降したスフィアを乱さないように吸引した。SFMにて24時間後、更に24時間培地をhPSC MMのみのものに交換して、スフィアを懸濁プレートに戻し、オービタルシェーカーに戻した。MMにて24時間後、培地を、上記の培地交換法により沿軸中胚葉培地1(PMM1)と交換した。PMM1は、以下の最終濃度で、要素、すなわち、10ng/mLのBMP4(R&D Systems(Minneapolis,MN))、20ng/mLのbFGF(R&D Systems(Minneapolis,MN))、200ng/mLのLONG(登録商標)R3 IGF−I(Sigma−Aldrich(St.Louis,MO))、及び250nMのラパマイシン(Tocris(Minneapolis,MN))を添加したDBMから構成された。24時間後、新たなPMM1を、使用済みPMM1と更に24時間交換した。PMM1にて合計48時間後、培地をDBMと交換して、細胞を洗浄した。細胞を再沈降させ、DBMを吸引し、スフィアをPMM2に更に96時間再懸濁し、上記のように24時間毎に培地交換した。前述のように、スフィアを、プラットフォームシェーカー上の懸濁プレートに保持した。PMM2は、以下の最終濃度で、要素、すなわち、20ng/mLのbFGF(R&D Systems(Minneapolis,MN))、200ng/mLのLONG(登録商標)R3 IGF−I(Sigma−Aldrich(St.Louis,MO))、250nMのラパマイシン(Tocris(Minneapolis,MN))、25ng/mLのWnt3a、50ng/mLのNoggin(R&D Systems(Minneapolis,MN))、2μMのBIO(Tocris(Minneapolis,MN))、及び5μMのフォルスコリン(Tocris(Minneapolis,MN))を添加したDBMで構成された。
褐色脂肪細胞(BA)の分化
BAD1及びBAD2と表記される一連の2つの培地配合物を使用して、褐色脂肪細胞(BA)の分化を実施した。最初にPMスフィアを単細胞懸濁液に分散させることによって、BAを誘導した。簡潔に述べると、PMスフィアを懸濁プレートから取り出し、コニカルチューブ内で重力沈降させた。培地を慎重に吸引し、カルシウムもマグネシウムも不含有の過剰量のDPBSで、スフィアを穏やかに1回洗浄した。スフィアを沈降させ、DPBSを吸引した。スフィアを、5mLのRT Accumax(登録商標)(Innovative Cell Technologies(San Diego,CA))に再懸濁し、単細胞懸濁液が得られるまで、シングルの高速回転ミキサー上に20〜30分間置いた。続いて、細胞を、100μmのフィルタ(ThermoFisher(Waltham,MA))を通して50mLのコニカルチューブに濾過し、DPBSで洗浄し、200×gにて4分間、室温で遠心分離し、得られた上清を吸引し、血球計数器による計数のため細胞をBAD1培地に再懸濁した。BAD1を、以下の最終濃度で、要素、すなわち、8ng/mLのbFGF(R&D Systems(Minneapolis,MN))、100ng/mLのBMP7(R&D Systems(Minneapolis,MN))、200ng/mLのLONG(登録商標)R3 IGF−I(Sigma−Aldrich(St.Louis,MO))、10μMのY−27632二塩酸塩(Tocris(Minneapolis,MN))、2μMのロシグリタゾン(Tocris(Minneapolis,MN))、1μMのデキサメタゾン(Tocris(Minneapolis,MN))、1nMのLT−3(3,3’,5−トリヨード−L−サイロニンナトリウム塩)(Sigma−Aldrich(St.Louis,MO))、500μMのIBMX(3−イソブチル−1−メチルキサンチン)(Sigma−Aldrich(St.Louis,MO))、及び10μMのSB431542を添加した、DBMで構成した。次いで、グルタミン(Corning(Corning,NY))不含有のDMEM/F−12に1:200希釈したGeltrex LDEV−Free hESC qualified reduced growth factor basement membrane matrix(Thermo−Fisher(Waltham,MA))でコーティングしたポリスチレン培養プレート(Thermo−Fisher(Waltham,MA))上に、細胞を90,000個/cmの密度で播種した。細胞を、BAD1で100%コンフルエントまで(8〜10日間)培養し、培地を24時間毎に交換した。8〜10日後、BAD1をBAD2に切り替えた。BAD2を、SB431542を除いてBAD1と同じように配合し、1:500のChemically Defined Lipid Concentrate(Thermo−Fisher(Waltham,MA))を添加した。更なる使用(例えば、移植又は更にインビトロ分析)のためにアッセイ又は再凝集するまで、細胞をBAD2で維持した。BAD2培地は毎日交換した。最初に使用済みBAD2培地を吸引し、BAプレートをDBPSで洗浄することによって、再凝集をもたらし、この細胞を、コラゲナーゼI、II、III、及びIV(Thermo−Fisher(Waltham,MA))を各々400ユニット含有するコラゲナーゼ混合物を使用して分離させ、カルシウム及びマグネシウム不含有のHBSS(Corning(Corning NY))に希釈した。コラゲナーゼ混合物に、0.5mMのCaCl (Sigma−Aldrich(St.Louis,MO))を添加し、酵素活性を高めた。ほぼシート状のBA細胞の、プレートへの接着がゆるくなるまで(約20〜30分間)、当該細胞を37℃にてコラゲナーゼ混合物中でインキュベートした。細胞及びコラゲナーゼを含有するプレートを、同等の体積のEDTA分散溶液(Beers et al,2012)ですすぎ、コニカルチューブに移し、200×gにてRTで4分間、遠心分離した。上清を除去し、次いで、細胞を5mLのAccumax(登録商標)(Innovative Cell Technologies(San Diego,CA))に再懸濁し、単細胞懸濁液が得られるまで、シングルの高速章動ミキサー上に20〜30分間置いた。続いて、細胞を、100μmのフィルタ(ThermoFisher(Waltham,MA))を通して50mLのコニカルチューブに濾過し、DPBSで洗浄し、200×gにて4分間、室温で遠心分離し、得られた上清を吸引し、細胞をBAD2培地に再懸濁し、6ウェル懸濁プレート(Greiner Bio−One(Monroe,NC))に5.5mL/ウェルの体積で入れた。概して、分散、濾過、洗浄、及び細胞死の間で数が減るので、10cmのBAプレート1枚からは、再凝集に際し、6ウェルプレートのうちの2つのウェルに対して十分な細胞が得られることになる。懸濁プレートを、5%のCO2、37℃のインキュベータ内の、97RPMに設定したInnova2000プラットフォームシェーカー(New Brunswick Scientific(Edison,NJ))上に置き、BAD2を、上記の重力沈降培地交換法によって1日おきに交換した。
脂肪細胞由来幹細胞(ADSC)は、ThermoFisherから購入したものであり、MesenPRO(商標)RS培地(Thermo−Fisher(Waltham,MA))にて70%コンフルエントに達するまで、5,000個/cmの密度で培養した。細胞を、1×Tryple(Thermo−Fisher(Waltham,MA))で分散させ、10,000個/cmの密度でMesenPRO(商標)RS培地に4日間播種した。4日後、細胞はコンフルエントになっていた。培地をStemPRO(登録商標)脂肪生成分化培地(Thermo−Fisher(Waltham,MA))に切り替えて、細胞が白色脂肪細胞に分化するよう操作した。細胞を21日間培養した後、アッセイした。
qRT−PCR
DBPS洗浄後に、2−メルカプトエタノールを添加したTRK溶解緩衝液(Omega Bio−Tek(Norcross,GA))を使用して、細胞をディッシュ内で直接溶解し、氷上で採取した。E.Z.N.A RNA単離キット(Omega Bio−Tek(Norcross,GA))を用いて、製造元のプロトコルにしたがってRNAを単離し、Biotek Synergy2プレートリーダーでRNAを定量した。1μgのRNAを使用し、製造元のプロトコルにしたがって、Iscript cDNA合成キット(Bio−Rad(Hercules,CA))によりcDNAを合成した。次いで、cRNAを、分子グレードの水で最終体積500μLまで希釈した。ViiA7リアルタイムPCRシステム(Life Technologies(Carlsbad,California))を用い、384ウェルプレートにて、5μLのTaqMan Universal PCR Master Mix No AmpErase UNG(appliedbiosystems)、0.5μLのTaqManプライマー(Life Technologies)、0.5μLの分子グレードの水、及び用いたTaqman(登録商標)プローブのための4μLのcDNA、を反応させて、ΔΔCt qRT−PCR分析を行った。各転写産物の発現を、18Sリボソームに対し正規化し、3回行って平均±標準誤差としてプロットした。
免疫蛍光顕微鏡法
ヒト多能性幹細胞を、50,000個/cmの密度でLabtek4ウェルチャンバスライド(Thermo−Fisher(Waltham,MA))にて培養した。脂肪細胞由来幹細胞を、10,000個/cmで播種した。8つのLabtekスライドに、褐色脂肪細胞の再凝集体として、再凝集体15個/cm、又は6ウェル懸濁プレートのうちのおよそ1ウェルを播種した。重力沈降(10分)を用いて、沿軸中胚葉スフィアを15mLのファルコンチューブに回収し、使用済みの培地を吸引し、スフィアを、Ca2+もMg2+も不含有の過剰量の1×DPBSで1回洗浄し、再度沈降させ、上清を吸引し、次いで固定した。Mito Tracker(登録商標)染料を含めるには、生細胞が適切なミトコンドリア膜電位を有していることが必要とされる。したがって、含める場合、Mito Tracker Deep Red染料を、増殖培地に200nMで30〜45分間添加した後、固定した。全ての細胞を、室温にて4%のパラホルムアルデヒド(Electron Microscopy Sciences(Hatfield,PA))で30分間固定した。固定したスフィアを、Ca2+もMg2+も不含有の過剰量の1×DPBSで1回洗浄し、沈降させた。洗浄液を除去し、スフィアを覆うのに十分な体積まで15%スクロースの溶液を添加した。次いで、凍結防止剤として、このスクロース及びスフィアの全量を、2mLの体積の30%スクロース溶液の表面に、4℃で終夜載せた。スクロースで終夜脱水した後、スフィアを、200μLのピペットチップの広い穴を介して取り出し、Tissue−Tek(登録商標)O.C.T.Compound(Sakura Finetek(USA))で充填したクリオモルドに移した。次いで、クリオモルドを、5分間の瞬間凍結のために、液体窒素ガス相に移した。凍結したクリオモルドを−80℃で保管した後、Lecia CM3050Sクリオコート(Leica Biosystems(Buffalo Grove,IL))を用いて、顕微鏡スライド上に7μmの厚さの切片を作製し、−80℃で保管した。
ヒトPSCを、80%コンフルエントまで培養した後、固定した。ヒトADSCを、StemPRO(登録商標)脂肪生成分化培地で21日間培養した。褐色脂肪細胞を、再凝集体の播種後14〜30日間培養した。全てのサンプル、固定した細胞、及び切片を、Ca2+もMg2+も不含有の1×DPBSで5分間洗浄した。hPSC及びPMの場合には、洗浄液を除去し、PBST(1×PBS及び0.2%のTriton X−100)(ThermoFisher(Waltham,MA))、10%のロバ血清(Equitech−Bio)、0.3Mのグリシン(Sigma−Aldrich(St.Louis,MO))を含有する透過処理及びブロッキング用のバッファーで室温で1時間交換した。BA細胞の場合には、洗浄液を除去し、PBSS(1×PBS及び0.1%のSpaponin)(Millipore(Billerica,MA))、10%のロバ血清、0.3Mのグリシンを含有する透過処理及びブロッキング用のバッファーにより、室温で1時間交換した。全ての場合で、透過処理及びブロッキング用バッファーを除去し、スライドを、PBST又はPBSSと10%のロバ血清とを含有する一次抗体インキュベーション緩衝液で1回すすぎ洗いした。洗浄液を除去した後で、一次抗体インキュベーション緩衝液で一次抗体(表1参照)を調製し、サンプルに添加し、4℃で終夜インキュベートした。一次抗体と終夜インキュベートした後、サンプルを、インキュベーション緩衝液のみで3回洗浄した。二次抗体を、2.5%のロバ血清、0.2MのPBST/S溶液に希釈し、暗所にて1時間、室温でインキュベートした。二次抗体の除去後、細胞をDPBSで2回、各5分間洗浄した。含める場合、LipidTox Green/Red染料を、DPBSに1:200希釈して30分間添加した。LipidTox染料の後で、DPBS中1μg/mLの4’,6’−ジアミジノ−2−フェニルインドール二塩酸塩(Sigma−Aldrich(St.Louis,MO))を、細胞に5分間添加した。DPBSで3回洗浄した後、ProLong Gold Antifade(ThermoFisher(Waltham,MA))とともにカバーグラスをスライドに載せた。Leica DM6000B顕微鏡及びZesis LSM710共焦点顕微鏡を用いて、画像を得た。画像を、Slidebook6(Intelligent Imaging Solutions(Edmonton,Alberta))により加工した。
フローサイトメトリー
それぞれの種類の細胞の正常な分散のために、上記の方法を用いて細胞を分散させ、滅菌DPBSで洗浄し、200×gで4分間かけてペレット化した。細胞を、0.5mLのフローサイトメトリー固定緩衝液(R&D Systems(Minneapolis,MN))に再懸濁し、室温で15分間、インキュベートした。固定後、細胞をDPBSで2回洗浄し、ペレット化し、200μLのフローサイトメトリー透過処理/洗浄緩衝液(R&D Systems(Minneapolis,MN))に再懸濁した。固定した細胞と一次抗体(表2)を、4℃で1時間インキュベートした。次いで、細胞を洗浄し、必要に応じて、二次抗体とともに4℃で30分間インキュベートした。含める場合、二次抗体添加後に、DPBSに1:200希釈したLipidTox Green/Red染料を30分間添加した。分析はBeckmann Coulter CyAnで行い、結果を分析してFlowJo v10を用いてプロットした。
Seahorse細胞外フラックス分析
沿軸中胚葉、BA、及び白色脂肪細胞(WA)を、通常の培養条件にてSeahorse XFe24細胞培養マイクロプレート(Agilent(Santa Clara,CA))に蒔いた。簡潔に述べると、Y−27632二塩酸塩(Tocris(Minneapolis,MN))を添加したPMM2培地に、PM細胞を120,000個/cmの密度で24時間蒔き、次いで、更に48時間PMM2単独に切り替えた後、フラックス分析を行った。褐色脂肪細胞を、凝集体15個/cmの密度で再凝集体として蒔き、BAD2で21日間培養した。白色脂肪細胞フラックス分析の場合、hADSCを10,000個/cmの密度でMesenPRO(商標)RS(ThermoFisher(Waltham,MA))培地に4日間蒔き、次いで、StemPRO(登録商標)脂肪生成分化培地(ThermoFisher(Waltham,MA))に21日間切り替えた。BA細胞の場合、培地を1日おきに交換した。hADSCの場合、蒔いた初日に新鮮なMesenPROを添加し、交換しなかった。WA分化中、StemPRO(登録商標)脂肪生成分化培地を、3日毎に交換した。
Mitoストレス試験キット(Agilent(Santa Clara,CA))を利用し、ミトコンドリア機能を分析した。褐色脂肪細胞に対する効果を最大にするため、薬物、オリゴマイシン、FCCP、及びロテノン/アンチマイシンAの用量を設定した後、PM細胞及びWA細胞のフラックス分析プロトコルを確立した。薬物濃度は、全ての細胞外フラックスアッセイを通して変化なしとした。オリゴマイシンを2μMで使用し、FCCPを2μMで使用し、ロテノン/アンチマイシンAを5μMで使用した。
ノルエピネフリン刺激分析の場合、細胞を、アッセイ直前までそれぞれの分化培地に保持した。イソプロテレノール刺激アッセイの場合、PM細胞には、アッセイの18時間前に、フォルスコリン不含有でかつ100μMのイソプロテレノールを含有するPMM2培地を与えた。BA細胞には、IBMX不含有でかつ100μMのイソプロテレノールを含有するBAD2培地をアッセイ前に18時間与えた。白色脂肪細胞は血清培地で分化させたことから、フォルスコリン刺激アッセイに際し、両方の細胞を同じ培地に48時間曝露することにより、血清がBA細胞に対し示し得る影響の正規化を試みた。BA細胞及びWA細胞の両方に、グルタミン不含有のDMEMF−12(Corning(Corning NY))、2%のESC適格FBS(Atlanta Biological(Flowery Branch,GA))、2mMのglutagro(商標)(Corning(Corning NY))、1×MEM非必須アミノ酸(Corning(Corning NY))、200ng/mLのLONG(登録商標)R3 IGF−I(Sigma−Aldrich(St.Louis,MO))、及び1μMのデキサメタゾン(Tocris(Minneapolis,MN))で構成される最少培地を与えた。アッセイの24時間前に、この最少培地に、10μMのフォルスコリンを添加した。脂肪酸酸化アッセイの場合、フラックスアッセイの24時間前に、BA細胞及びWA細胞の両方に基質制限培地を与えた。この基質制限培地は、0.5mMのグルコース(Corning(Corning NY))、1mMのglutagro(商標)(Corning(Corning NY))、0.5mMのカルニチン(Sigma−Aldrich(St.Louis,MO))、及び2%のESC適格FBS(Atlanta Biological(Flowery Branch,GA))を添加した、グルコースもグルタミンもピルビン酸ナトリウムも不含有のDMEM(Corning(Corning NY))で構成された。
アッセイの前に、新たに調製したXFアッセイ培地を細胞に与えた。この培地は、XF基本培地(Agilent(Santa Clara,CA))と、基質として所望の濃度の、グルコース、グルタミン、及びピルビン酸ナトリウムとから構成された。刺激アッセイの場合、XFアッセイ培地は、25mMのグルコース(Corning(Corning NY))、2mMのglutagro(商標)(Corning(Corning NY))、及び1mMのピルビン酸ナトリウムを添加した基本培地を含有した。培地を37℃まで加温し、水酸化ナトリウムを使用してpHを7.4に調整し、0.2μmのStericup(登録商標)フィルタ(Millipore(Billerica,MA))を通して濾過した。フラックスアッセイの開始の少なくとも1時間前に、XF24プレートから増殖培地を除去し、製造業者のプロトコルにしたがって、XFアッセイ培地を使用して細胞を3回洗浄し、並びに細胞を37℃のnon−COインキュベータに入れた。フラックス分析中に利用した全ての薬物は、同様にストック品をXFアッセイ培地に希釈した後、アッセイカートリッジのポートに充填した。脂肪酸酸化アッセイの場合、XFアッセイ培地は、5.5mMのグルコース及び0.5mMのカルニチンを添加した、XF基本培地を含有した。
1.5mMのコンジュゲートしたパルミテート−BSA溶液を、2ステッププロセスで逐次調製した。最初に、1mMのパルミチン酸ナトリウム(Sigma−Aldrich(St.Louis,MO))を添加した150mMのNaCl溶液を作製し、続いて0.34mMの脂肪酸フリーBSA(Santa Cruz Biotechnology(Dallas,TX))を添加した150mMのNaCl溶液を作製した。パルミチン酸ナトリウム溶液を、加熱した撹拌プレート上の水浴内にて、溶液が透明になるまで37℃から70℃まで加熱した。他方、BSA溶液を、加熱した撹拌プレート上の水浴内にて、完全に溶解するまで37℃で加熱し、次いで、0.2μmのStericup(登録商標)フィルタ(Millipore(Billerica,MA))で濾過滅菌した。濾過したBSA溶液をコニカルチューブに移し、混合の準備が整うまで37℃の水浴内に保持した。BSAのみの対照の場合、最終濃度が0.17mMのBSAになるよう、0.34mMのBSA−NaCl溶液の半分を、同体積の150mMのNaCl溶液で更に希釈した。この溶液を小分けし、−20℃で保存した。パルミテートのコンジュゲーションを完了させるために、熱した同体積のパルミテートを、残りの温めた0.34mMのBSA溶液に5mL刻みで添加した(パルミテートとBSAとのモル比=6:1)。この溶液を、37℃で1時間撹拌した。pHを7.4に調整し、最終的な溶液を4mLのガラスバイアル瓶に小分けし、−20℃で保存した。
フラックス分析の後で、細胞を溶解させて、タンパク質含有量をBradfordアッセイにより測定した。簡潔に述べると、フラックスアッセイの完了時に、プレートを取り出し、培地を吸引し、ウェルを、氷冷DPBSで穏やかにすすいだ。洗浄液を吸引し、次いでプレートを液体窒素ガス相に入れ、その間新たな溶解緩衝液を調製した。溶解緩衝液は、10mMのTrisで構成し、0.1%のTriton X−100によりpH7.4とした。凍結したプレートを取り出し、室温の溶解緩衝液を直ちに添加した。凍結、及び比較的温かい溶解緩衝液の添加により、脂肪細胞の溶解を助けた。溶解した細胞に対し、450μLのBradford試薬(Bio−Rad(Hercules,CA))を各ウェルに添加した。100μLの溶解細胞−Bradford試薬混合物を使用して、タンパク質濃度を、Biotek Synergy2にて595nmで測定した。フラックスデータを、Waveソフトウェア(Agilent(Santa Clara,CA))により加工し、タンパク質含有量に対し正規化した。
脂肪分解
ヒト多能性幹細胞(PSC)、褐色脂肪(BA)細胞、及び多能性ヒト脂肪由来間質/幹細胞(hDSC)を、12ウェルファルコンプレート(Fisher Scientific(Hampton,NH))に蒔いた。ヒトPSCを50,000個/cmで播種し、MMにて4日間、コンフルエントになるまで培養した。ヒトADSCを10,000個/cmで播種し、最初にMesenPRO(商標)RS(Thermo−Fisher(Waltham,MA))にて4日間、コンフルエントになるまで培養した。次いで、培地を、StemPRO(登録商標)脂肪生成分化培地(Thermo−Fisher(Waltham,MA))に、21日間切り替えた。褐色脂肪細胞凝集体を、凝集体15個/cmで12ウェルファルコンプレート(Fisher Scientific(Hampton,NH))に蒔き、BAD2培地にて21日間培養した。製造元の使用説明書にしたがって遊離グリセロール試薬(Sigma−Aldrich(St.Louis,MO))を使用し、細胞培養培地へのグリセロール放出によって脂肪分解を測定した。アッセイの前に、それぞれの種類の細胞から増殖培地を除去し、細胞を、2%のFAフリーBSA(Santa Cruz Biotechnology(Dallas,TX))を添加した脂肪分解性基本培地[DMEM(Corning(Corning,NY))により3回洗浄して、残留脂肪酸をウェルから除去した。「ゼロ」時の時点で、10μMのフォルスコリン(Tocris,Minneapolis(MN))を脂肪分解基本培地に添加にして脂肪分解を刺激し、4時間及び8時間の時点でサンプリングした。トリアクシンC(5μM)を基本培地に添加して、アシル−CoAシンセターゼを阻害し、続いて、グリセロール及び遊離脂肪酸の再エステル化を阻害した。脂肪分解のデータを、タンパク質含有量に対して正規化した。
Figure 2021525089
実施例2.マウスにおけるヒトiPSC−BA移植
2群のマウスの皮下に、本発明の方法により産生し、デバイスに封入したヒト褐色脂肪細胞(hiPSC由来BA細胞)を移植した。一方の群では、マウスにフォルスコリン(FSK)を注入して、褐色脂肪細胞を刺激した。他方の群では、褐色脂肪細胞を移植したマウスにFSKによる刺激を行わなかった。マウスの対照群には、空のデバイスを移植した。全ての群について、移植の3週間後に、インビボでのPET−SCANイメージング及び移植したデバイスのエクスビボでのPET−SCANイメージングについて評価した。エクスビボでのPET−SCANイメージングによって分析したとき、FSKによって刺激した褐色脂肪細胞を移植した群では、褐色脂肪細胞は移植したがFSKによる刺激は行わなかった群よりも標識されたグルコースのシグナルが増加した。空のデバイスを移植したマウスでは、シグナルは示されなかった。
封入されたヒト褐色脂肪細胞又は空のデバイスを移植したマウスの群に対して熱量分析を行った。マウスの一方の群では、外科的に内在性マウスBA組織を枯渇させ、別の群では、内在性マウスBA組織を不活性化させるために、熱的に中立な状態に維持した。2つの群に、ヒトBA細胞((hiPSC由来褐色脂肪細胞)又は空のデバイスのいずれかを移植した。移植の1週間後に、マウスの各群を、ノルエピネフリン(NE)で刺激(BA刺激)して、脱共役した呼吸の増加を評価した。熱量測定のため、4つに分けた群を分析し、ヒト褐色脂肪細胞によって誘導した呼吸指数の読み出しとした。内在性マウスBA細胞を外科的に枯渇させたマウスでは、空のデバイスを移植したマウスと比較して、NEにより呼吸指数の有意な増加が誘導された。熱的に中立に処置されたマウスの群では、ヒトBA細胞を移植したマウスの群において、空のデバイスを移植した群と比較して呼吸指数のNE依存的な誘導がわずかに改善されたものの、有意な改善ではなかった。
上記明細書で言及した全ての刊行物は、本明細書に参照により組み込まれる。本発明の開示された細胞集団、使用、及び方法の様々な修正及び変更は、本発明の範囲及び趣旨から逸脱することなく、当業者には明白であろう。本発明は、特定の好ましい実施形態に関連して開示されているが、特許請求される本発明は、このような特定の実施形態に過度に限定されるべきではないことを理解されたい。実際、当業者には自明であり、本発明を実施するために開示された様式の種々の改変は以下の特許請求の範囲の範囲内であることを意図している。

Claims (22)

  1. インビトロで褐色脂肪細胞の集団を産生するための、TGF−β阻害剤の使用。
  2. 前記TGF−β阻害剤が、SMAD2及びSMAD3阻害剤、並びに/又はアクチビンシグナル伝達阻害剤である、請求項1に記載の使用。
  3. 前記TGF−β阻害剤が、
    Figure 2021525089

    又はその塩若しくは誘導体である、請求項1又は2に記載の使用。
  4. 前記褐色脂肪細胞の集団が、幹細胞の集団及び/若しくは中胚葉細胞の集団からインビトロで産生され、好ましくは前記幹細胞が、人工多能性幹細胞であり、並びに/又は、好ましくは前記中胚葉細胞が、沿軸中胚葉細胞である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の使用。
  5. 前記褐色脂肪細胞の集団が、FOXC1、FOXC2、MRF4、MSGN1、MYF5、PAX3、PAX7、PRRX1、SIX1、及び/又はTBX6を発現する細胞の集団からインビトロで産生される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の使用。
  6. 前記褐色脂肪細胞が、PGC1−α、PPARγ、ADIPOQ、PRDM16、ENDRB、CIDEA、DIO2、及び/又はEBF2を発現する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の使用。
  7. 前記褐色脂肪細胞が、UCP1を発現する、請求項6に記載の使用。
  8. 細胞の集団をTGF−β阻害剤と接触させる工程を含む、褐色脂肪細胞の集団を産生する方法。
  9. 前記TGF−β阻害剤が、SMAD2及びSMAD3阻害剤、並びに/又はアクチビン阻害剤である、請求項8に記載の方法。
  10. 前記TGF−β阻害剤が、
    Figure 2021525089

    又はその塩若しくは誘導体である、請求項8又は9に記載の方法。
  11. 前記TGF−β阻害剤と接触させる前記細胞の集団が、中胚葉細胞の集団であり、好ましくは前記中胚葉細胞が、沿軸中胚葉細胞である、請求項8〜10のいずれか一項に記載の方法。
  12. 前記TGF−β阻害剤と接触させる前記細胞の集団が、FOXC1、FOXC2、MRF4、MSGN1、MYF5、PAX3、PAX7、PRRX1、SIX1、及び/又はTBX6を発現する細胞の集団である、請求項8〜11のいずれか一項に記載の方法。
  13. 前記TGF−β阻害剤と接触させる前記細胞の集団が、幹細胞の集団から、好ましくは3D細胞培養を用いて産生され、並びに/又は、好ましくは前記幹細胞が、人工多能性幹細胞である、請求項8〜12のいずれか一項に記載の方法。
  14. 中胚葉細胞の集団を、前記TGF−β阻害剤の存在下で約1〜15日、好ましくは約6〜10日、培養する工程と、
    工程(a)によって提供された前記細胞の集団を、前記TGF−β阻害剤の非存在下で約20〜50日、好ましくは約15〜30日、培養する工程と、
    を含む、請求項8〜13のいずれか一項に記載の方法。
  15. 工程(a)及び(b)の前記培養が、接着培養である、請求項14に記載の方法。
  16. 工程(b)によって提供された前記細胞の集団を、凝集褐色脂肪細胞の形成に好適な条件下で培養する工程であって、好ましくは、前記培養が回転浮遊培養である、工程を更に含む、請求項14又は15に記載の方法。
  17. 褐色脂肪細胞を分析する方法であって、
    請求項8〜16のいずれか一項に記載の方法を用いて、褐色脂肪細胞の集団を準備する工程と、
    前記褐色脂肪細胞の集団を、インビトロで分析する工程、又は前記褐色脂肪細胞の集団を動物モデルに移植する工程と、
    を含む、方法。
  18. TGF−β阻害剤を使用してインビトロで得ることができる、褐色脂肪細胞の集団。
  19. 請求項8〜17のいずれか一項に記載の方法によって産生された、褐色脂肪細胞の集団。
  20. 手術及び/又は治療における使用のための、請求項8〜17のいずれか一項に記載の方法によって産生された、褐色脂肪細胞の集団。
  21. 糖尿病の治療又は予防における使用のための、請求項20に記載の褐色脂肪細胞の集団。
  22. 褐色脂肪細胞を対象に移植する方法であって、
    請求項8〜17のいずれか一項に記載の方法を用いて、褐色脂肪細胞の集団を準備する工程と、
    前記褐色脂肪細胞の集団を前記対象に移植する工程と、
    を含む、方法。

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