JP2021187121A - 素子基板、液体吐出ヘッド、及び記録装置 - Google Patents

素子基板、液体吐出ヘッド、及び記録装置 Download PDF

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Abstract

【課題】保護膜の膜厚を低減し、さらに、偶発的な故障時の高い信頼性を確保することが可能な素子基板を提供することである。【解決手段】多層構造の素子基板は、次の構成を備える。即ち、第1の層には電気熱変換素子を形成し、さらにその電気熱変換素子を保護膜で覆い、その保護膜の上には電気熱変換素子を衝撃から保護するための耐キャビテーション膜を形成する。また、耐キャビテーション膜と同じ層に形成され、電気熱変換素子の少なくとも1つの端部と接続される第1の電気配線と、電気熱変換素子に関し保護膜とは反対側であって、第1の層とは異なる第2の層には第2の電気配線を形成する。さらに、第1の層から第2の層に至り、第1の電気配線と第2の電気配線とを接続する第1の接続部材を備える。【選択図】 図6

Description

本発明は素子基板、液体吐出ヘッド、及び記録装置に関し、特に、例えば、インクによる溶解を抑制した素子基板を組み込んだ液体吐出ヘッドをインクジェット方式に従って記録を行うために記録ヘッドとして適用した記録装置に関する。
ワードプロセッサ、パーソナルコンピュータ、ファクシミリ等における情報出力装置として、所望される文字や画像等の情報を用紙やフィルム等、シート状の記録媒体に記録を行う記録装置が一般的に広く用いられている。特許文献1には、電気熱変換素子を用いた記録ヘッドが開示されている。その文献によれば、素子基板上に設けられた電気熱変換素子に一対の電気配線が接続されており、一対の電気配線の端部で挟まれた部分が実質的な電気熱変換素子の領域を画定している。電気配線は素子基板を平面的に見て電気熱変換素子の裏面、即ち、電気熱変換素子の吐出口側の面に設けられている。その電気配線の端部はテーパ状の形状をしている。電気配線と電気熱変換素子を液体(インク)から保護するため、電気配線と電気熱変換素子は保護膜で覆われている。
このような構成で、電気配線から電気熱変換素子に電圧を印加して電流を供給し、その電気熱変換素子を発熱させることで、インク等の液体に膜沸騰を生じさせる。このときに生じた気泡によって液体が吐出口から吐出し、記録が行われる。このような記録ヘッドは多数の吐出口、電気熱変換素子を高密度に配置することが容易であり、これにより高精細な記録画像を得ることができる。
一方、近年の吐出口の数の増加や記録速度の高速化により、記録ヘッドの消費電力が増加している。その消費電力を抑制するためには電気熱変換素子から発生する熱を効率良く液体に伝達することが重要である。そのためには電気熱変換素子を覆う保護膜の厚さを薄くすることが有効である。しかしながら、保護膜の電気配線と電気熱変換素子に対する保護性能を確保するためには一定の膜厚が必要となる。電気配線は電気熱変換素子と比べて膜厚が大きいため、特に、電気配線と電気熱変換素子の境界部の段差を確実に覆うために大きな膜厚が必要となる。
このような要求に応えるため、例えば、特許文献2は、電気熱変換素子へ電力を供給するために、吐出口方向から見て電気熱変換素子の裏面にプラグ構造の接続部材を配置する構成を提案している。そのような構成を用いることで、電気熱変換素子を含む表面を極力平坦化し、保護膜の厚さを低減している。
特開平4−320849号公報 特開2016−137705号公報
さて、従来より保護膜の厚さを小さくするために電気熱変換素子の成膜面を平坦化する場合、通常は、例えば、タングステンなどの金属材料を用いたプラグ型の接続層を用いている。このような構成を用いた場合、通常は安定した記録が可能であり耐久性能についても従来の構造と変わらない。
しかしながら、記録ヘッドに異常な駆動パルスが投入されたりインク中を浮遊する小さなゴミ等の影響によって、ある小さな確率で電気熱変換素子に偶発的な断線が発生することがある。上記のようなプラグ型接続層を用いる構成の場合、電気熱変換素子の断線時に大電流が接続層を流れるため、プラグ材料の溶融や衝撃による接続層の消失が断線時の多くの場合で発生することが知られている。接続層に上述のような異常が発生すると、電気熱変換素子上に存在したインクが、空洞となった接続層部分を介して下層の配線層に侵入する。特に、高電圧が印加されている電気配線にインクが触れると電気化学反応による配線の腐食が進行し、近傍の電気熱変換素子の配線をも腐食させてしまう懸念がある。
本発明は上記従来例に鑑みてなされたもので、保護膜の膜厚を低減し、さらに、偶発的な故障時にも高い信頼性を確保することが可能な素子基板、液体吐出ヘッド、及び記録装置を提供することを目的とする。
上記目的を達成するために本発明の素子基板は次のような構成からなる。
即ち、多層構造の素子基板であって、第1の層に形成される電気熱変換素子と、前記電気熱変換素子を覆う保護膜と、前記保護膜の上に形成され、前記電気熱変換素子を衝撃から保護するための耐キャビテーション膜と、前記耐キャビテーション膜と同じ層に形成され、かつ前記電気熱変換素子から離して配置され、前記電気熱変換素子の少なくとも1つの端部と電気接続される第1の電気配線と、前記電気熱変換素子に関し前記保護膜とは反対側であって、前記第1の層とは異なる第2の層に形成される第2の電気配線と、前記第1の層と前記第2の層との間を延び、前記第1の電気配線と前記第2の電気配線とを電気接続する第1の接続部材とを有することを特徴とする。
また本発明を別の側面から見れば、上記構成の素子基板を用いた液体吐出ヘッドであって、複数の電気熱変換素子に対応して、液体を吐出する複数の吐出口を有し、複数の前記電気熱変換素子は、前記耐キャビテーション膜を介して前記液体と接することを特徴とする液体吐出ヘッドである。
さらに本発明を別の側面から見れば、前記液体をインクとし、該インクを吐出する記録ヘッドとして用い、記録媒体に記録を行う記録装置であって、複数の前記電気熱変換素子は前記インクに接し、複数の前記電気熱変換素子を駆動することで、吐出口よりインクを吐出することを特徴とする記録装置である。
本発明によれば、高品位な記録と保護膜機能を確保しつつ、保護膜の膜厚を低減がすること可能であり、さらに、偶発的な故障時にも全体としての高い信頼性を確保することができるという効果がある。
本発明の代表的な実施例である記録ヘッドを備えた記録装置の構成概略を示す斜視図である。 図1に示した記録装置の制御構成を示すブロック図である。 記録ヘッドに実装される素子基板(ヘッド基板)のレイアウト構成を示す図である。 ヘッド基板上の電気熱変換素子の配置を示す上面図である。 1つの電気熱変換素子を駆動する駆動回路の等価回路を示す図である。 実施例1に従う素子基板における1つの電気熱変換素子の近傍の平面図と断面図である。 実施例2に従う素子基板における1つの電気熱変換素子の近傍の平面図と断面図である。 実施例3に従う素子基板における1つの電気熱変換素子の近傍の平面図と断面図である。
以下添付図面を参照して本発明の好適な実施例について、さらに具体的かつ詳細に説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には、複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられても良い。さらに添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
なお、この明細書において、「記録」(「プリント」という場合もある)とは、文字、図形等有意の情報を形成する場合のみならず、有意無意を問わない。また人間が視覚で知覚し得るように顕在化したものであるか否かを問わず、広く記録媒体上に画像、模様、パターン等を形成する、または媒体の加工を行う場合も表すものとする。
また、「記録媒体」とは、一般的な記録装置で用いられる紙のみならず、広く、布、プラスチック・フィルム、金属板、ガラス、セラミックス、木材、皮革等、インクを受容可能なものも表すものとする。
さらに、「インク」(「液体」と言う場合もある)とは、上記「記録(プリント)」の定義と同様広く解釈されるべきものである。従って、記録媒体上に付与されることによって、画像、模様、パターン等の形成または記録媒体の加工、或いはインクの処理(例えば記録媒体に付与されるインク中の色剤の凝固または不溶化)に供され得る液体を表すものとする。
またさらに、「ノズル」とは、特にことわらない限り吐出口ないしこれに連通する液路およびインク吐出に利用されるエネルギーを発生する素子を総括して言うものとする。
以下に用いる記録ヘッド用の素子基板(ヘッド基板)とは、シリコン半導体からなる単なる基体を指し示すものではなく、各素子や配線等が設けられた構成を差し示すものである。
さらに、基板上とは、単に素子基板の上を指し示すだけでなく、素子基板の表面、表面近傍の素子基板内部側をも示すものである。また、本発明でいう「作り込み(built-in)」とは、別体の各素子を単に基体表面上に別体として配置することを指し示している言葉ではなく、各素子を半導体回路の製造工程等によって素子板上に一体的に形成、製造することを示すものである。
<記録装置の概要説明(図1〜図2)>
図1は本発明の代表的な実施例であるインクジェット記録ヘッド(以下、記録ヘッド)を用いて記録を行なう記録装置の構成の概要を示す外観斜視図である。
図1に示すように、インクジェット記録装置(以下、記録装置)1はインクジェット方式に従ってインクを吐出して記録を行なうインクジェット記録ヘッド(以下、記録ヘッド)3をキャリッジ2に搭載している。そして、キャリッジ2を矢印A方向に往復移動させて記録を行う。記録紙などの記録媒体Pを、給紙機構5を介して給紙し、記録位置まで搬送し、その記録位置において記録ヘッド3から記録媒体Pにインクを吐出することで記録を行なう。
記録装置1のキャリッジ2には記録ヘッド3を搭載するのみならず、記録ヘッド3に供給するインクを貯留するインクタンク6を装着する。インクタンク6はキャリッジ2に対して着脱自在になっている。
図1に示した記録装置1はカラー記録が可能であり、そのためにキャリッジ2にはマゼンタ(M)、シアン(C)、イエロ(Y)、ブラック(K)のインクを夫々、収容した4つのインクカートリッジを搭載している。これら4つのインクカートリッジは夫々独立に着脱可能である。
この実施例の記録ヘッド3は、熱エネルギーを利用してインクを吐出するインクジェット方式を採用している。このため、電気熱変換素子(ヒータ)を備えている。この電気熱変換素子は各吐出口のそれぞれに対応して設けられ、記録信号に応じて対応する電気熱変換素子にパルス電圧を印加することによって対応する吐出口からインクを吐出する。なお、記録装置は、上述したシリアルタイプの記録装置に限定するものではなく、記録媒体の幅方向に吐出口を配列した記録ヘッド(ラインヘッド)を記録媒体の搬送方向に配置するいわゆるフルラインタイプの記録装置にも適用できる。
図2は図1に示した記録装置の制御構成を示すブロック図である。
図2に示すように、コントローラ600は、MPU601、ROM602、特殊用途集積回路(ASIC)603、RAM604、システムバス605、A/D変換器606などで構成される。ここで、ROM602は後述する制御シーケンスに対応したプログラム、所要のテーブル、その他の固定データを格納する。ASIC603は、キャリッジモータM1の制御、搬送モータM2の制御、及び、記録ヘッド3の制御のための制御信号を生成する。RAM604は、画像データの展開領域やプログラム実行のための作業用領域等として用いられる。システムバス605は、MPU601、ASIC603、RAM604を相互に接続してデータの授受を行う。A/D変換器606は以下に説明するセンサ群からのアナログ信号を入力してA/D変換し、デジタル信号をMPU601に供給する。
また、図2において、610は画像データの供給源となる図1に示したホストやMFPに対応するホスト装置である。ホスト装置610と記録装置1との間ではインタフェース(I/F)611を介して画像データ、コマンド、ステータス等をパケット通信により送受信する。なお、インタフェース611としてUSBインタフェースをネットワークインタフェースとは別にさらに備え、ホストからシリアル転送されるビットデータやラスタデータを受信できるようにしても良い。
さらに、620はスイッチ群であり、電源スイッチ621、プリントスイッチ622、回復スイッチ623などから構成される。
630は装置状態を検出するためのセンサ群であり、位置センサ631、温度センサ632等から構成される。
さらに、640はキャリッジ2を矢印A方向に往復走査させるためのキャリッジモータM1を駆動させるキャリッジモータドライバ、642は記録媒体Pを搬送するための搬送モータM2を駆動させる搬送モータドライバである。
ASIC603は、記録ヘッド3による記録走査の際に、RAM604の記憶領域に直接アクセスしながら記録ヘッドに対して発熱素子(インク吐出用のヒータ)を駆動するためのデータを転送する。加えて、この記録装置には、ユーザインタフェースとしてLCDやLEDで構成される表示部が備えられている。
図3は記録ヘッド3に実装される多層構造の素子基板100のレイアウト構成を示した平面図である。なお、図3において、吐出口(オリフィス)を形成する部材に関する図示は省略している。
図3に示すように、素子基板100の中央部には長手方向に延在するインク供給口202が設けられ、インク供給口202の両側に複数の電気熱変換素子(ヒータ)101がそれぞれ列状に配列されている。電気熱変換素子101はTaSiNなどのTa化合物から形成されている。電気熱変換素子101の膜厚は0.01〜0.05μm程度であり、後述する電気配線の膜厚と比べてはるかに小さい。
また、図3に示すように、インク供給口202を挟んだ両側には電気熱変換素子101を駆動するための駆動素子203が設けられている。駆動素子203は素子基板100の長手方向における両端に設けられた電極パッド201に接続され、電極パッド201を介して記録ヘッド3の外部(記録装置の本体部)から供給される記録信号に応じて電気熱変換素子101の駆動電流を生成する。後述する電気配線を介して、駆動素子203と電気熱変換素子101とは電気的に接続される。その電気配線はアルミニウムからなり、その膜厚は0.2〜1.2μm程度である。供給された電流によって電気熱変換素子101が発熱し、高温となった電気熱変換素子101は圧力室(後述)内のインクを加熱して気泡を発生させる。この気泡によって吐出口(オリフィス)の近傍のインクが吐出口から吐出され、記録が行われる。
図4は5つの電気熱変換素子の周辺の構成を拡大して示した素子基板の部分平面図である。図4では、電気熱変換素子の配列方向をY方向として示し、その配列方向に直交する方向をX方向として示している。
電気熱変換素子101は後述するようにSiNからなる保護膜で覆われており、その保護膜の膜厚は0.15〜0.3μm程度である。なお、保護膜はSiOやSiC、SiOCあるいはSiCNで形成してもよい。図4に示すように、保護膜の発熱部直上は耐キャビテーション膜106aで覆われている。耐キャビテーション膜106aはTa上にIrを積層した材料からなり膜厚は0.05〜0.3μm程度であって、電気配線106b(第1の電気配線)と同じ層に形成されているが、耐キャビテーション膜106aと電気配線106bは電気的に分断されている。
図5は素子基板における1つの電気熱変換素子(ヒータ)を駆動する駆動回路の等価回路を示す図である。
図5に示すように、電気熱変換素子(ヒータ)101の片側の接続部341は電圧を供給するためのVH共通配線131と電気的に接続される。さらに、ヒータ101のもう一方の接続部342はヒータ101の駆動オンオフを切り替えるためのスイッチング素子203(ドライバ)を介してGND共通配線141に電気的に接続されている。スイッチング素子203は、この実施例ではMOSFETであり、そのMOSFETのゲートに外部からの駆動電圧を印加してオンオフを切り替え、ヒータ101を駆動する。
次に、以上の構成の記録装置の記録ヘッドに実装される素子基板の実施例について説明する。
図6は図4に示した素子基板に実装される1つの電気熱変換素子の周辺領域に関して拡大した模式図である。図6において、(a)は電気熱変換素子の近傍の平面図、(b)は図6(a)のb−b’線に沿った断面図である。
以下の説明では電気熱変換素子に電流が流れる方向を第1の方向XまたはX方向、電気熱変換素子の第1の方向Xと直交する方向を第2の方向YまたはY方向とする。Y方向は電気熱変換素子や吐出口が配列する方向に沿っている。X方向及びY方向と直交する方向をZ方向とする。Z方向は吐出口の形成面と直交する方向であり、インクが吐出する方向に沿っている。
多層構造の素子基板100は、基板114と吐出口形成部材108とを含む。基板114は、Siにより形成される基材113と、基材113上に形成される絶縁膜104とを含む。基板114上にはインクを吐出するための熱エネルギーを発生する電気熱変換素子101、保護膜105、耐キャビテーション膜106a、及び、密着層107が設けられる。絶縁膜104はSiOなどの絶縁体で形成される。
基板114の電気熱変換素子101が形成された面に吐出口形成部材108が設けられている。吐出口形成部材108は各電気熱変換素子101に対応した吐出口109を有し、基板114とともに吐出口109毎の圧力室309を形成している。圧力室309はインク供給口202と連通しており、インク供給口202から供給されるインクが圧力室309に導入される。
基板114に設けられた絶縁膜104内には、電気熱変換素子101に電流を供給するための電気配線103(第2の電気配線)が延びている。電気配線103は絶縁膜104に埋め込まれるように設けられている。電気配線103は後述の接続部材102a、102b及び電気配線106bを介して、駆動素子203と電気熱変換素子101とを電気的に接続している。
電気熱変換素子101は保護膜105で覆われている。保護膜105はSiNからなり、膜厚は0.15〜0.3μm程度である。保護膜105の発熱部直上は耐キャビテーション膜106aで覆われている。耐キャビテーション膜106aはTa上にIrを積層した材料からなり、膜厚は0.05〜0.3μm程度であって、電気配線106bと同じ層で形成されているが、耐キャビテーション膜106aと電気配線106bは電気的に分断されている。
絶縁膜104内には、電気配線103と電気配線106bとを接続するための複数の接続部材102b(第1の接続部材)が設けられている。膜厚方向(Z方向)に延在する複数の接続部材102bは、第2の方向Yに沿って互いに間隔をおいて位置している。
この実施例では、接続部材102bと電気配線106bとの間に接続部材102aを配置している。接続部材102bは電気熱変換素子101が設けられる面に直交する方向からみて、接続部材102aに覆われている。接続部材102aはアルミニウムなどの低抵抗な金属で形成されており、電気配線106bと接続部材102bの電気接続、および電気配線106bと電気熱変換素子101との電気接続を、より信頼性の高い接続にするために配置されている。接続部材102bは、電気熱変換素子101のX方向における両側端部の近傍で、接続部材102aと電気配線106bとを介して電気熱変換素子101と接続している。従って、電流は電気熱変換素子101を第1の方向Xに沿って流れる。電気熱変換素子101のX方向における両側端部の近傍にはそれぞれ複数の接続部材102bが設けられている。
電気熱変換素子101はその両端夫々に、接続部材102a、電気配線106bを介して複数の接続部材102bが接続される接続領域110を有している。接続部材102bは電気配線103の端部付近からZ方向に延びるプラグである。接続部材102bはこの実施例では概ね正方形の断面を有しているが、角部が丸められていてもよく、正方形に限らず長方形、円形、楕円形など他の形状をとることもできる。接続部材102bはタングステンで形成されているが、チタン、白金、コバルト、ニッケル、モリブデン、タンタル、ケイ素のいずれか、またはこれらの化合物で形成することができる。接続部材102bは電気配線103と一体形成されてもよい。即ち、電気配線103の一部を厚さ方向に切り欠くことで電気配線103と一体化された接続部材102bを形成してもよい。
接続領域110は、全ての接続部材102bを含みかつその長辺が電気熱変換素子101のY方向を少なくとも包含する領域である。接続領域110は第1の方向Xと直交する第2の方向Yに沿って延びているが、第2の方向は第1の方向Xと直交していなくてもよい。即ち、接続領域110は第1の方向Xと斜め方向に交差する第2の方向に沿って延びていてもよい。電気熱変換素子101において実際にインクの発泡に寄与する領域、即ち、インクが発泡する領域を発泡領域111と呼ぶ。発泡領域111は電気熱変換素子101の外周よりも内側にあり、発泡領域111と電気熱変換素子101の外周との間の領域はインクの発泡に寄与しない領域(以下、額縁領域112)となっている。
額縁領域112においても通電により発熱はするが周囲への放熱量が多く、インクが発泡しない。そのため、キャビテーションが額縁領域112上に発生することはなく、耐キャビテーション膜106aは発泡領域111を包含できれば十分である。発泡領域111のX方向及びY方向の寸法は電気熱変換素子101の周囲の構造や電気熱変換素子101の熱伝導率等によって決まる。接続領域110は額縁領域112を挟んで、第1の方向Xに発泡領域111と隣接しており、第2の方向Yにおいて発泡領域111の全長を含む範囲に延びている。
即ち、第1の方向Xに見たときに、接続領域110のY方向に関する両側端部110a,110bは、発泡領域111のY方向に関する両側周縁部111a、111bよりも電気熱変換素子101のY方向に関する両側周縁部101a、101bに近接している。このため、発泡領域111の全域において電流密度が均一化される。また、インクと電気配線103との間の電気的な絶縁が必要な場合には絶縁性を有する膜で電気配線106b及び接続部材102aを覆う必要がある。この実施例では、吐出口形成部材108と基板114との間に設けられた密着層107を絶縁膜として用いている。密着層107にはSiOやSiN、あるいはSiCN等の材料を用いることができる。
なお、図6(b)において、122はX方向に関する耐キャビテーション膜106aの長さを表している。
図6(b)に示すように、電気配線103は絶縁膜104中に設けられており、接続部材102a、102bを介して電気熱変換素子101に接続されている。このように電気熱変換素子101に対して裏面側(インクと接する側とは反対側)から電気接続を行うため、電気熱変換素子101の表面側(インクと接する側)を覆う電気配線の面積を小さくすることができる。電気配線が電気熱変換素子101の表面側に接続される従来例の構成では、電気熱変換素子101の上に膜厚約0.6〜1.2μmの電気配線が積層されており、基板表面上の多くの領域に段差が存在する。このため、約0.6〜1.2μmの段差が多くの領域を有する表面に対するカバレッジ性を確保するために比較的厚い膜厚の保護膜を設ける必要がある。
これに対して、この実施例では、電気熱変換素子101の表面側に設ける電気配線が非常に少ない領域となる。また、接続部材102aの厚さは電気接続を確実に取ることができればよく、約0.1〜0.3μmであることが好ましい。電気熱変換素子101の膜厚は0.01〜0.05μmに近い値の程度であるため従来例の構成に比べて段差の存在領域および高低差が格段に小さくなる。
従って、この実施例に従えば、膜厚0.15〜0.3μm程度の保護膜105で十分なカバレッジ性を確保することができるので保護膜105を薄くすることが可能となり、インクへの熱伝達効率が格段に向上する。これは、消費電力の低減に貢献するのみならず、発泡の安定化による記録画像の高画質化にも貢献することができる。加えて、耐キャビテーション膜106aのパターニング精度と信頼性の向上、吐出口形成部材108の基板114への密着性と加工精度の向上なども見込むことができ、高画質化だけではなく製造面での利点もある。
さらに、接続部材102bを直接に電気熱変換素子101と接続する従来例の構成の場合、偶発的な異常パルス等の影響で電気熱変換素子101が断線すると、高温状態の保護膜105に絶縁破壊が生じ、耐キャビテーション膜106aの方向に大電流が流れる。その際、接続部材102bにも大電流が流れることで局所的に高温になり、瞬間的に接続部材102bが溶融あるいはその衝撃により消失し、接続部材102bの領域が空洞になる場合がある。その場合、インク(液体)がその空洞を通って電気配線103に到達し、電気化学反応による配線腐食を誘発し、隣接する電気熱変換素子への電力供給に影響を及ぼす場合がある。
しかしながら上述した実施例によれば、仮に上記のような偶発断線が生じても接続部材102bが溶融あるいは消失することはなく、電気配線103へインク(液体)が到達することもない。これは、接続部材102bが発熱領域111から離れており、保護膜105に絶縁破壊を生じる領域からも離れているために、接続部材102bが高温にならず、破壊の衝撃が到達しないためである。その結果、配線腐食も防止することができ、偶発断線を当該セグメントのみに局所化することが可能となる。また、接続部材102bと電気熱変換素子とを電気接続するための電気配線106bを耐キャビテーション膜106aと同じ層(同じ製造工程)で形成することで、製造負荷の増大を抑えることができる。
また、電気熱変換素子の直下に、例えば、吐出状態検知のための温度センサ等を配置した素子基板の場合、接続部材102bの配置が回路設計の制約となりえる。しかしながら、この実施例では、接続部材102bを電気熱変換素子の直下から遠ざけられるので、設計自由度も向上する。
さて、複数の吐出口にわたってより均一なインク吐出特性を得るために、発泡ばらつきや抵抗値ばらつきに対しても高精度な制御が必要であるため、電気熱変換素子101の下地(下部領域)は平坦であることが好ましい。従来は電気熱変換素子の直下およびその周辺には段差が生じないように配線パターン等を配置することが困難であった。
この実施例に従う構成では、素子基板各層に形成された電気配線103および電気熱変換素子101の下地部はCMP等の処理により平坦化している。このように、電気熱変換素子の形成層の下地(下部領域)を平坦化することで電気熱変換素子101の直下の絶縁膜104やその周辺に信号配線や電源配線等のパターンの電気配線103を通すことが可能となる。さらにはその領域にトランジスタを配置することも可能となるため、素子基板100の面積を小さくすることが可能になり、記録ヘッドの低価格化、吐出口109の高密度化が可能となる。この実施例では、図6(b)に示すようにSiにより形成される基材113の絶縁膜104との界面領域に駆動素子(スイッチング素子)203およびフィールド酸化膜132が形成されている。
上記構成によって電気熱変換素子101の特性への影響を抑制しつつ電気配線103を多層化することが可能となる。このように電気配線103に複数の配線層を割り当てることで電源配線抵抗を大幅に削減することが可能となり、省電力化や電気熱変換素子101への投入エネルギーの均一化を実現することが可能となる。
図6(b)に示すように、電気配線103は電気熱変換素子101の形成層からの距離が互いに異なる4層103a〜103dの構成になっている。そして、下層側の電気配線層103a、103bを、電気熱変換素子101を駆動するための信号配線層やロジック電源配線層に割り当てている。また、上層側(絶縁膜側)の電気配線層103c、103dを、電気熱変換素子101に電流を供給するための配線層に割り当てている。
この実施例では、電気配線層103dをグランド(GNDH)配線層(第1の電気配線層103d)、電気配線層103cを電源(VH)配線層(第2の電気配線層103c)とし、電気配線層103c、103dともに所謂ベタ配線としている。このように電源系の第1の電気配線層と第2の電気配線層を異なる層に形成する多層配線とし、これらの電気配線層を、素子基板の全面に設ける構成(ベタ配線)とすることで、素子基板100の大型化を抑制しつつ、配線抵抗を非常に小さくすることができる。
この実施例では、絶縁膜104に電気熱変換素子101に電流供給するための電気配線層103c、103dと、電気熱変換素子101を駆動するための信号配線層やロジック電源配線層のための電気配線層103a、103bの4層の電気配線層を備えている。電気配線層103c、103dは電気配線層103a、103bに対して電気熱変換素子101に近い側に配されており、電気配線層103c、103dの膜厚は相対的に厚い方が効率を考慮すると好ましい。逆に、電気配線層103a、103bは電気配線層103c、103dに対して駆動素子203に近い側に配されており、電気配線層103a、103bの膜厚は相対的に薄い方が好ましい。
ここでは、図面を参照して、この実施例に従う素子基板について、実施例1に従う素子基板との違いについて説明する。
図7は図3で説明した素子基板100の1つの電気熱変換素子の周辺領域に関して拡大した模式図である。図7において、(a)は電気熱変換素子の近傍の平面図、(b)は図7(a)のb−b’線に沿った断面図である。なお、図7において、既に図6を参照して説明したのと同じ構成要素には同じ参照番号を付し、その説明は省略する。
図7によれば、図6において示した接続部材102bに相当する領域に電気熱変換素子101と同じ層に形成された接続部材102cを配置した。ここで、電気配線106bはその一部が保護膜105の形成層を貫通して接続部材102cと接続される。
このような構成においても、実施例1と同等の効果を得ることができるのみならず、電気熱変換素子101の表面の段差について実施例1におけるものよりもさらに小さくできる。
ここでは、図面を参照して、この実施例に従う素子基板について、実施例1に従う素子基板との違いについて説明する。
図8は図3で説明した素子基板100の1つの電気熱変換素子の周辺領域に関して拡大した模式図である。図8において、(a)は電気熱変換素子の近傍の平面図、(b)は図8(a)のb−b線に沿った断面図である。なお、図8において、既に図6を参照して説明したのと同じ構成要素には同じ参照番号を付し、その説明は省略する。
図8によれば、図6において示した接続部材102aに相当する領域に関して、高電位が印加される側の接続領域のみを電気配線106bを介して電気熱変換素子101と電気配線103とを接続する構成としている。一方、低電位側については電気熱変換素子101を直接、接続部材102bと接続する構成としている。
電気熱変換素子101が偶発的に断線する場合、瞬間的に高電位側の電極のみが破壊される可能性が非常に大きい。従って、この実施例のように高電位側の接続領域のみに電気配線106bを配置する構成を用いることでも接続部の破壊によるインクの侵入の可能性を低減することができる。
このように、この実施例でも実施例1と同等の効果を得ることができるのみならず、低電位側の接続部に対する設計自由度の向上を図ることができ、電気熱変換素子101の大きさや配置などの自由度が向上するという利点がある。
以上説明した実施例1〜3のいずれにおいても、電気熱変換素子と電気配線との接続部に関し素子基板のインクと接触する側に配置する部分を少なくすることができる。これにより、万が一、断線が発生したとしてもインクが素子基板の内部に侵入する可能性を低く抑え、断線による影響が他の部分に及ぶことを防止できる。加えて、電気熱変換素子の保護膜の層厚を薄くすることができるので、電気熱変換素子で発生した熱エネルギーを効率的にインクに伝えることができ、記録動作に係る消費電力の低減にも資する。
なお、以上説明した実施例では、インクを吐出する記録ヘッドとその記録装置を例として説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、プリンタ、複写機、通信システムを有するファクシミリ、プリンタ部を有するワードプロセッサなどの装置、さらには各種処理装置と複合的に組み合わせた産業記録装置に適用可能である。また本発明は、例えば、バイオチップ作製や電子回路印刷やカラーフィルタ製造などの用途としても用いることができる。
以上の実施例で説明した記録ヘッドは、一般的には、液体吐出ヘッドということもできる。また、そのヘッドから吐出するのはインクに限定されるものではなく、一般的に、液体ということもできる。
本発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から逸脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
100 素子基板、101 電気熱変換素子、102b 接続部材、
103d 電気配線層、104 絶縁膜、105 保護膜、
106a 耐キャビテーション膜、106b 電気配線、107 密着層、
110 接続領域、113 基材

Claims (14)

  1. 多層構造の素子基板であって、
    第1の層に形成される電気熱変換素子と、
    前記電気熱変換素子を覆う保護膜と、
    前記保護膜の上に形成され、前記電気熱変換素子を衝撃から保護するための耐キャビテーション膜と、
    前記耐キャビテーション膜と同じ層に形成され、かつ前記電気熱変換素子から離して配置され、前記電気熱変換素子の少なくとも1つの端部と電気接続される第1の電気配線と、
    前記電気熱変換素子に関し前記保護膜とは反対側であって、前記第1の層とは異なる第2の層に形成される第2の電気配線と、
    前記第1の層と前記第2の層との間を延び、前記第1の電気配線と前記第2の電気配線とを電気接続する第1の接続部材とを有することを特徴とする素子基板。
  2. 前記第1の接続部材と前記第1の電気配線との間に設けられ、前記第1の接続部材と前記第1の電気配線とを接続する第2の接続部材をさらに有し、
    前記第1の電気配線は、前記電気熱変換素子の両端に設けられることを特徴とする請求項1に記載の素子基板。
  3. 前記第2の接続部材は低抵抗な金属で形成され、
    前記金属はアルミニウムであることを特徴とする請求項2に記載の素子基板。
  4. 前記電気熱変換素子の両端それぞれは、前記第1の電気配線と前記第1の接続部材と前記第2の接続部材とを介して前記第2の電気配線に接続されることを特徴とする請求項2又は3に記載の素子基板。
  5. 前記第2の接続部材は、前記第1の層に形成され、
    前記第1の電気配線の一部が前記保護膜を貫通して前記第2の接続部材と接続されることを特徴とする請求項2に記載の素子基板。
  6. 前記第1の電気配線は前記電気熱変換素子の一方の端部に対して接続され、
    前記電気熱変換素子のもう一方の端部は、前記第1の接続部材を介して前記第2の電気配線に接続されることを特徴とする請求項1に記載の素子基板。
  7. 前記電気熱変換素子の一方の端部は、高電位の側であることを特徴とする請求項6に記載の素子基板。
  8. 前記第1の電気配線は絶縁性の膜で覆われることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の素子基板。
  9. 前記耐キャビテーション膜と前記第1の電気配線とは電気的に分断されていることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の素子基板。
  10. 前記第2の層のさらに下の第3の層に前記電気熱変換素子を駆動する駆動素子が形成されることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の素子基板。
  11. 前記電気熱変換素子の膜厚は0.01〜0.05μmであり、
    前記保護膜の膜厚は0.15〜0.3μmであり、
    前記耐キャビテーション膜の膜厚は0.05〜0.3μmであることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載の素子基板。
  12. 前記電気熱変換素子を複数、予め定められた方向に配列したことを特徴とする請求項1乃至11のいずれか1項に記載の素子基板。
  13. 請求項12に記載の素子基板を用いた液体吐出ヘッドであって、
    複数の前記電気熱変換素子に対応して、液体を吐出する複数の吐出口を有し、
    複数の前記電気熱変換素子は、前記耐キャビテーション膜を介して前記液体と接することを特徴とする液体吐出ヘッド。
  14. 請求項13に記載の液体吐出ヘッドを、前記液体をインクとし、該インクを吐出する記録ヘッドとして用い、記録媒体に記録を行う記録装置であって、
    複数の前記電気熱変換素子は前記インクに接し、複数の前記電気熱変換素子を駆動することで、吐出口よりインクを吐出することを特徴とする記録装置。
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