JP2021165410A - 軌道輪、転がり軸受および軌道輪の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】軌道面における転動疲労特性を改善しつつ、反軌道面における耐クリープ性を改善することができる転がり軸受の軌道輪を提供する。【解決手段】軌道輪は、焼入れが行われた鋼からなり、環状に設けられた軌道輪である。軌道輪は、周方向に沿って延在する軌道面と、径方向において軌道面とは反対側に位置する反軌道面とを有している。軌道面の残留オーステナイト量は反軌道面の残留オーステナイト量よりも多い。軌道面の残留オーステナイト量と反軌道面の残留オーステナイト量との差が3体積%以上である。軌道面における旧オーステナイト結晶粒の平均粒径は、8μm以下である。軌道面における圧縮残留応力は、100MPa以上である。【選択図】図1
Description
本発明は、軌道輪、転がり軸受および軌道輪の製造方法に関する。
特開2017−187104号公報(特許文献1)には、転がり軸受の内輪が記載されている。特許文献1に記載の内輪は、焼入れの行われた鋼製であり、内輪の内部にある内層部と、内部層の周囲全体を取り囲んでおり、かつ焼戻しマルテンサイトからなる表層部とを有している。表層部は、軌道面を含む外周面側のみならず、内周面側(反軌道面側)にも存在している。表層部における鋼中の残留オーステナイト量は、内層部における鋼中の残留オーステナイト量よりも多い。
特許文献1に記載の内輪では、表層部が外周面側のみならず内周面側にも存在しているため、経時的な寸法変化により、内径が拡大して軸との嵌め合いが緩まり、クリープが生じるおそれがある。また、特許文献1に記載の内輪では、軌道面における圧縮残留応力が付与される代わりに内部層に引張応力が生じ内部層の強度が低下するため、軸受機能に改善の余地がある。
本発明の主たる目的は、軌道面における転動疲労特性を改善しつつ、反軌道面における耐クリープ性を改善することができる転がり軸受の軌道輪を提供することである。
本発明に係る軌道輪は、焼入れが行われた鋼からなり、環状に設けられた軌道輪であって、周方向に沿って延在する軌道面と、径方向において軌道面とは反対側に位置する反軌道面とを有している。軌道面の残留オーステナイト量は反軌道面の残留オーステナイト量よりも多い。軌道面の残留オーステナイト量と反軌道面の残留オーステナイト量との差が3体積%以上である。軌道面における旧オーステナイト結晶粒の平均粒径は、8μm以下である。軌道面における圧縮残留応力は、100MPa以上である。
上記軌道輪において、反軌道面には、炭化物、窒化物、および炭窒化物の少なくともいずれかからなる化合物粒が存在している。反軌道面における化合物粒の平均粒径は、2μm以下である。反軌道面における化合物粒の面積率は、0.3%以上である。
上記軌道輪において、軌道面および反軌道面には、浸窒層が形成されている。軌道面の残留オーステナイト量と反軌道面の残留オーステナイト量との差が10体積%以上である。
上記軌道輪において、反軌道面の硬さが650Hv以上である。
本発明に係る転がり軸受は、内輪軌道面と、内輪軌道面とは反対側に位置する内径面とを有する内輪と、内輪軌道面と対向する外輪軌道面を有する外輪と、内輪軌道面と外輪軌道面と接触する複数の転動体とを備える。内輪が上記軌道輪である。内輪の内径面が反軌道面である。
本発明に係る軌道輪の製造方法は、周方向に沿って延在する軌道面と、径方向において軌道面とは反対側に位置する反軌道面とを有する軌道輪を製造する方法である。上記軌道輪の製造方法は、鋼からなり、周方向に沿って延在する第1の面と、径方向において第1の面と反対側に位置する第2の面とを有する成形体を準備する工程と、成形体を焼き入れる工程と、焼き入れる工程後に、成形体を焼き戻す工程とを備える。上記焼き入れる工程は、成形体を、浸炭浸窒雰囲気中で鋼のA1変態点以上の浸炭浸窒処理温度に加熱することにより、成形体を浸炭浸窒する工程と、浸炭浸窒する工程後に、成形体をA1変態点未満の温度に冷却する工程と、冷却する工程後に、成形体をA1変態点以上かつ浸炭浸窒処理温度未満の温度に再加熱する工程とを含む。上記焼き入れる工程は、第1の面における旧オーステナイト結晶粒の平均粒径が8μm以下となるように行われる。上記焼き戻す工程では、第1の面が局所的に冷却されながら第2の面が局所的に加熱される。
上記軌道輪の製造方法において、上記焼き戻す工程では、成形体が第1の面を局所的に冷却する冷却部および第2の面を局所的に加熱する加熱部に対して周方向に相対的に回転している状態で、第1の面が局所的に冷却されながら第2の面が局所的に加熱される。
上記軌道輪の製造方法において、上記焼き戻す工程では、第1の面に冷却液を噴射することにより、第1の面が局所的に冷却される。
上記軌道輪の製造方法において、上記焼き戻す工程では、第2の面を誘導加熱することにより、第2の面が局所的に加熱される。
上記軌道輪の製造方法において、上記焼き戻す工程では、第2の面が300℃以上に加熱される。
本発明によれば、軌道面における転動疲労特性を改善しつつ、反軌道面における耐クリープ性を改善することができる転がり軸受の軌道輪を提供できる。
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。以下の図面においては、同一又は相当する部分に同一の参照符号を付し、重複する説明は繰り返さない。
(軌道輪の構成)
実施形態に係る転がり軸受の軌道輪は、例えば、深溝玉軸受の内輪(以下においては、「内輪10」とする)である。但し、実施形態に係る転がり軸受の軌道輪は、これに限られるものではない。実施形態に係る転がり軸受の軌道輪は、深溝玉軸受の外輪であってもよく、深溝玉軸受以外の転がり軸受の軌道輪であってもよい。
実施形態に係る転がり軸受の軌道輪は、例えば、深溝玉軸受の内輪(以下においては、「内輪10」とする)である。但し、実施形態に係る転がり軸受の軌道輪は、これに限られるものではない。実施形態に係る転がり軸受の軌道輪は、深溝玉軸受の外輪であってもよく、深溝玉軸受以外の転がり軸受の軌道輪であってもよい。
内輪10は、焼入れが行われた鋼製である。すなわち、この鋼は、マルテンサイト結晶粒と、残留オーステナイト結晶粒とを含んでいる。この鋼は、マルテンサイト結晶粒及び残留オーステナイト結晶粒以外(例えば、フェライト結晶粒や炭化物粒)を含んでいてもよい。この鋼は、例えば、JIS規格(JIS G 4805:2008)に定められた高炭素クロム軸受鋼であるSUJ2である。
図1及び図2に示されるように、内輪10は、環状の形状を有している。内輪10は、中心軸Aを有している。
内輪10は、第1端面10a及び第2端面10bと、内周面10cと、外周面10dとを有している。第1端面10a、第2端面10b、内周面10c及び外周面10dを合わせて、内輪10の表面ということがある。
第1端面10a及び第2端面10bは、中心軸Aに沿う方向(以下においては、「軸方向」という)における端面を構成している。第2端面10bは、軸方向における第1端面10aの反対面である。
内周面10cは、中心軸Aを中心とする円周に沿う方向(以下においては、「周方向」という)に延在している。内周面10cは、中心軸A側を向いている。内周面10cは、第1端面10a及び第2端面10bに連なっている。内輪10は、内周面10cにおいて軸(図示せず)に嵌め合わされる。
外周面10dは、周方向に延在している。外周面10dは、中心軸Aとは反対側を向いている。すなわち、外周面10dは、中心軸Aに直交し、かつ中心軸Aを通る方向(以下において、「径方向」という)における内周面10cの反対面である。
外周面10dは、軌道面10daを有している。外周面10dは、軌道面10daにおいて、内周面10c側に窪んでいる。軌道面10daは、中心軸Aを通る断面視において円弧形状を有している。軌道面10daは、転動体(図示せず)に接触する面である。反軌道面とは、径方向において軌道面10daの反対側にある面である。内輪10においては、内周面10cが反軌道面になっている。
図2に示されるように、内周面10cおよび軌道面10daを含む内輪10の上記表面には、窒素富化層10eが形成されている。窒素富化層10eは、少なくとも窒素の濃度が、内輪10において窒素富化層10e以外に位置する鋼中の窒素の濃度よりも高くなっている部分である。
窒素富化層10eは、例えば浸炭浸窒処理により形成された浸炭浸窒層である。この場合、窒素富化層10eの窒素及び炭素の濃度は、内輪10において窒素富化層10e以外に位置する鋼中の窒素及び炭素の濃度よりも高くなっている。窒素富化層10eの深さは、例えば0.3mm以上1.5mm以下である。なお、鋼中の窒素濃度は、EPMA(Electron Probe Micro Analyzer)により測定される。
反軌道面である内周面10cにおける残留オーステナイト量は、軌道面10daにおける残留オーステナイト量よりも少ない。内周面10cにおける残留オーステナイト量と軌道面10daにおける残留オーステナイト量との差は、3体積パーセント以上である。内周面10cにおける残留オーステナイト量と軌道面10daにおける残留オーステナイト量との差は、20体積パーセント以下であることが好ましい。内輪10を構成している鋼中における残留オーステナイト量は、X線回折法により測定される。より具体的には、残留オーステナイト量は、X線を照射することにより得られた各相の回折ピークの強度を比較することにより得られる。
軌道面10daにおける旧オーステナイト結晶粒の平均粒径は、8μm以下である。旧オーステナイト結晶粒は、焼き入れにおける冷却前に存在していたオーステナイトの結晶粒界により取り囲まれている部分である。旧オーステナイト結晶粒の平均粒径は、JIS規格(JIS G 0551:2005)に規定されている方法にしたがって行われる。軌道面10daにおける旧オーステナイト結晶粒の平均粒径は、3μm以上であることが好ましい。
軌道面10daにおける圧縮残留応力の最小値は、100MPa以上である。軌道面10daからの距離が0.2mm以下となる領域において、圧縮残留応力が100MPa以下となっていてもよい。軌道面10daにおける残留応力は、X線回折法により測定される。より具体的には、軌道面10daにX線を照射した際の回折ピーク角の変化に基づいて、軌道面10daにおける残留応力が測定される。
窒素富化層10eは、鉄(Fe)の炭化物、窒化物、および炭窒化物の少なくともいずれかからなる化合物粒を含有している。化合物粒は、セメンタイト(Fe3C)の鉄サイトの一部がクロムによって置換されており、かつ炭素(C)サイトの一部が窒素(N)により置換されている化合物(すなわち、(Fe,Cr)3(C,N)により示される化合物)の結晶粒を含む。
反軌道面である内周面10cに形成された窒素富化層10e中における化合物粒の平均粒径は、2.0μm以下であることが好ましい。内周面10cに形成された窒素富化層10e中における化合物粒の面積比率は、0.3%以上であることが好ましい。内周面10cに形成された窒素富化層10e中における化合物粒の平均粒径は、例えば0.1μm以上である。内周面10cに形成された窒素富化層10e中における化合物粒の面積比率は、例えば15パーセント以下である。
窒素富化層10e中における化合物粒の平均粒径及び面積比率は、以下の方法で測定される。第1に、窒素富化層10eの断面研磨が行われる。第2に、研磨面の腐食が行われる。第3に、腐食が行われた研磨面に対して、SEM(Scanning Electron Microscopy)撮影が行われる(以下においては、SEM撮影によって得られた画像を、「SEM画像」という)。なお、SEM画像は、十分な数(20個以上)の化合物粒が含まれるように撮影される。第4に、得られたSEM画像に対して画像処理を行うことにより、当該SEM画像中における各々の化合物粒の面積及び化合物粒の総面積が算出される。
化合物粒の円相当径と化合物粒の面積との間には、π×(化合物粒の円相当径)2/4=化合物粒の面積との関係が成立する。そのため、当該SEM画像中に表示されている各々の化合物粒の面積を4/πで除した値の平方根を計算することにより、当該SEM画像中に表示されている各々の化合物粒の円相当径が算出される。当該SEM画像中に表示されている各々の化合物粒の円相当径の合計を当該SEM画像中に表示されている化合物粒の数で除した値が、窒素富化層10e中における化合物粒の平均粒径とされる。当該SEM画像中に表示されている化合物粒の総面積を当該SEM画像の面積で除した値の百分率が、窒素富化層10e中における化合物粒の面積比率とされる。
軌道面10daにおける硬さは、内周面10cにおける硬さよりも高い。軌道面10daにおける硬さは、650Hv以上となっていることが好ましい。内周面10cにおける硬さは、600Hv以上であることが好ましい。なお、軌道面10daにおける硬さ及び内周面10cにおける硬さは、JIS規格(JIS Z 2244:2009)に定められたビッカース硬さ試験法にしたがって測定される。
<変形例>
窒素富化層10eは、例えば浸炭浸窒処理により形成された浸炭浸窒層であってもよい。この場合、窒素富化層10eの窒素の濃度が、内輪10において窒素富化層10e以外に位置する鋼中の窒素の濃度よりも高くなっている。この場合、内周面10cにおける残留オーステナイト量と軌道面10daにおける残留オーステナイト量との差は、10体積パーセント以上である。
窒素富化層10eは、例えば浸炭浸窒処理により形成された浸炭浸窒層であってもよい。この場合、窒素富化層10eの窒素の濃度が、内輪10において窒素富化層10e以外に位置する鋼中の窒素の濃度よりも高くなっている。この場合、内周面10cにおける残留オーステナイト量と軌道面10daにおける残留オーステナイト量との差は、10体積パーセント以上である。
(実施形態に係る転がり軸受の軌道輪の製造方法)
図3に示されるように、内輪10の製造方法は、準備工程(S1)と、第1焼き入れ工程(S2)と、第2焼き入れ工程(S3)と、焼き戻し工程(S4)と、後処理工程(S5)とを備えている。
図3に示されるように、内輪10の製造方法は、準備工程(S1)と、第1焼き入れ工程(S2)と、第2焼き入れ工程(S3)と、焼き戻し工程(S4)と、後処理工程(S5)とを備えている。
準備工程(S1)では、図4に示される成形体20が準備される。成形体20は、鋼からなる。成形体20を構成している鋼は、例えば、JIS規格に定める高炭素クロム軸受鋼であるSUJ2である。成形体20は、環状の形状を有している。成形体20は、周方向に沿って延在する第1の面としての外周面20dと、径方向において第1の面とは反対側に位置する第2の面としての内周面20cとを有している。
第1焼き入れ工程(S2)は、内周面20cおよび外周面20dを含む成形体20の表面に対する浸炭浸窒処理と、浸炭浸窒処理後に成形体20を冷却する処理とを含む。浸炭浸窒処理は、窒素及び炭素を含む雰囲気ガス(例えば、吸熱型変成ガス(RXガス)及びアンモニア(NH3)ガスを含む雰囲気ガス)中において成形体20を第1温度以上に所定時間(第1時間)保持することにより行われる。第1温度は、加工対象部材を構成する鋼のA1変態点以上の温度である。第1温度は、例えば830℃以上850℃以下である。第1時間は、例えば60分以上300分以下である。これにより、成形体20の表面にある鋼中に、炭素及び窒素が固溶される。冷却処理は、加工対象部材の温度がMs変態点以下となるように行われる。成形体20の冷却は、例えば油冷により行われる。
第2焼き入れ工程(S3)は、第1焼き入れ工程(S2)の後に行われる。第2焼き入れ工程(S3)は、A1変態点以上かつ第1温度未満の第2温度に成形体20を再加熱しかつ所定時間(第2時間)保持する処理と、当該再加熱処理後に成形体20を冷却する処理とを含む。第2温度は、例えば780℃以上830℃以下である。好ましくは、第2温度は、780℃以上800℃以下である。第2時間は、例えば60分以上300分以下である。冷却処理は、加工対象部材の温度がMs変態点以下となるように行われる。成形体20の冷却は、例えば油冷により行われる。
第2焼き入れ工程(S3)の加熱保持の際のオーステナイト結晶粒の成長は、第1焼き入れ工程(S2)及び第2焼き入れ工程(S3)の加熱保持の際に析出した化合物粒のピン止め効果により抑制されている。
第1焼き入れ工程(S3)及び第2焼き入れ工程(S3)が行われることにより、成形体20を構成する鋼中に、マルテンサイトと、残留オーステナイトとが形成されるとともに、旧オーステナイト結晶粒の平均粒径が8μm以下になる。成形体20を構成する鋼中の旧オーステナイト結晶粒の平均粒径は、特に第2温度に依存する。例えば第2温度が830℃以下であった場合、成形体20を構成する鋼中の旧オーステナイト結晶粒の平均粒径は8μm程度となる。第2温度が780℃以上800℃以下であれば、成形体20を構成する鋼中の旧オーステナイト結晶粒の平均粒径は4μm以上7μm以下となる。また、第1焼き入れ工程(S3)及び第2焼き入れ工程(S3)が行われることにより、成形体20を構成する鋼中に微細な化合物粒が析出し、分散する。
なお、第2焼き入れ工程(S3)が行われた後であって焼き戻し工程(S4)が行われる前の段階においては、内周面20cにおける残留オーステナイトの体積比率と外周面20dにおける残留オーステナイトの体積比率との間に、顕著な違いはない(内周面20cにおける残留オーステナイトの体積比率と外周面20dにおける残留オーステナイトの体積比率との差は、3体積パーセント未満である)。
焼き戻し工程(S4)は、第2焼き入れ工程(S3)の後に行われる。焼き戻し工程(S4)では、成形体20に対する焼き戻しが行われる。
図5及び図6に示されるように、焼き戻し工程(S4)における加熱は、例えば、誘導加熱により行われる。より具体的には、加熱コイル30を内周面20cに沿って周方向に回転させて内周面20cを誘導加熱することにより行われる。加熱コイル30により内周面20cの加熱が行われている際、外周面20dは、噴射部31から噴射される水等の冷却液により冷却されている。なお、外周面20dに対する冷却処理は、噴射部31に代えて、図示しない冷却ジャケットを用いて行われてもよい。この場合、外周面20dは、水等の冷却液が内部を流れる冷却ジャケットと接触することにより冷却される。冷却液の流量は、例えば5L/分以上40L/分以下である。
図7は、加熱コイル30による加熱時間と内周面20c及び外周面20dにおける温度との関係についてのシミュレーション結果を示すグラフである。なお、図7中において、横軸は、加熱コイル30による加熱時間(単位:秒)であり、縦軸は、内周面20c及び外周面20dにおける温度(単位:℃)である。図7のシミュレーションは、内周面20cの加熱温度が420℃、外周面20dを水冷、内周面20cと外周面20dとの間の距離が3mmとの条件の下で行われた。図7に示されるように、焼き戻し工程(S4)においては、外周面20dの加熱温度は、内周面20cの加熱温度よりも低くなる。
図8は、内周面20cの加熱温度を変化させた際の外周面20dの加熱温度のシミュレーション結果を示すグラフである。なお、図8中において、横軸は、内周面20cの加熱温度(単位:℃)、縦軸は、外周面20dの加熱温度(単位:℃)である。図8のシミュレーションは、内周面20cの加熱温度を変化させたことを除き、図7のシミュレーションと同様の条件で行われた。図8に示されるように、外周面20dの加熱温度は、内周面20cの加熱温度の一次式となる。内周面20cの加熱温度をx、外周面20dの加熱温度をyとすると、y=a×x+b(aは1未満の正の数、bは正の数)となる。
例えば、特開平10−102137号公報に記載されているように、焼き戻し工程(S4)が行われた後における成形体20を構成する鋼中の残留オーステナイトの体積比率(M1)は、焼き戻し工程S4が行われる前における成形体20を構成する鋼中の残留オーステナイトの体積比率(M0)、加熱温度(T)及び加熱時間(t)を用いて、M1=M0×{A×exp(−Q/RT)×tn}(A、Q及びnは定数、Rはガス定数)となる。
そのため、加熱コイル30による内周面20cの加熱温度及び加熱時間を適宜調整することにより、外周面20dの加熱温度を適宜調整することができ、それに伴い、内周面20cにおける残留オーステナイトの体積比率及び外周面20dにおける残留オーステナイトの体積比率を適宜調整することができる。
例えば参考文献(井上毅,「新しい焼き戻しパラメータとその連続昇温曲線に沿った焼き戻し積算法への応用」,鉄と鋼,66,10(1980),1533)に記載されているように、焼き戻し工程(S4)が行われた後における成形体20を構成する鋼の硬さ(Hv)は、加熱時間(t)及び加熱温度(T)を用いて、Hv=c×logt+d/T+e(c、d及びeは定数)となる。そのため、加熱コイル30による内周面20cの加熱温度及び加熱時間を適宜調整することにより、内周面20cにおける硬さを適宜調整することができる。
後処理工程(S5)では、成形体20に対する後処理が行われる。この後処理には、成形体20に対する研削加工、成形体20に対する洗浄等が含まれている。以上により、内輪10の製造工程が完了する。
(内輪10の効果)
反軌道面10cにおける転がり軸受の使用に伴う寸法の経時変化が大きいと、クリープの発生原因になる。残留オーステナイトの体積比率が小さいほど、転がり軸受の使用に伴う寸法の経時変化は小さい。他方で、残留オーステナイトの体積比率が大きいほど上記焼き戻し工程(S4)での残留オーステナイトの分解に伴うマルテンサイトの分解が進んでいないため、硬さが高くなる。
(内輪10の効果)
反軌道面10cにおける転がり軸受の使用に伴う寸法の経時変化が大きいと、クリープの発生原因になる。残留オーステナイトの体積比率が小さいほど、転がり軸受の使用に伴う寸法の経時変化は小さい。他方で、残留オーステナイトの体積比率が大きいほど上記焼き戻し工程(S4)での残留オーステナイトの分解に伴うマルテンサイトの分解が進んでいないため、硬さが高くなる。
一般的な焼き戻し処理(炉内加熱の焼き戻し処理)が行われる場合、軌道面10daにおける残留オーステナイトの体積比率及び反軌道面10cにおける残留オーステナイトの体積比率は、ともに低下してしまうため、転がり軸受の使用に伴う寸法の経時変化に起因したクリープの発生は抑制されるが、軌道面10daの硬さを維持することはできない。
しかしながら、内輪10の製造方法では上記焼き戻し工程(S4)が行われるため、内輪10においては、反軌道面10cにおける残留オーステナイト量が軌道面10daにおける残留オーステナイト量よりも少なく、軌道面10daにおける残留オーステナイトの体積比率と反軌道面10cにおける残留オーステナイトの体積比率との差が、3体積パーセント以上となっている。そのため、内輪10によると、軌道面10daにおける硬さを維持しながら、クリープの発生に伴う転がり軸受の破損を抑制することができる。
また、上記焼き戻し工程(S4)により、成形体20の内周面20cは外周面20dより高温に加熱されるとともに、内周面20cの残留オーステナイトの減少量は軌道面10daを含む外周面20dにおける残留オーステナイトの減少量よりも多くなる。そのため、上記焼き戻し工程(S4)における冷却過程での内周面20c側の収縮量は、軌道面10da側の収縮量よりも大きい。
この収縮量の違いに起因し、軌道面10daには圧縮残留応力が作用する。内輪10においては、内周面10cにおける残留オーステナイト量と軌道面10daにおける残留オーステナイト量との差が3体積パーセント以上(窒素富化層10eが浸炭浸窒層として形成されているときは、10体積パーセント以上)になっているため、軌道面10daには、100MPa以上の比較的大きな圧縮残留応力が作用する。そのため、内輪10によると、軌道面10daにおける転動疲労特性を改善することができる。
表1は、上記焼き戻し工程(S4)が行われる前後での外周面20dにおける残留応力を示す。表1の例では、上記焼き戻し工程(S4)において、外周面20dを上記冷却ジャケットにより水冷しながら内周面20cを加熱温度300℃で誘導加熱した。水の流量は、30L/分とした。成形体を構成する鋼がSUJ2とされた。表1に示されるように、上記焼き戻し工程(S4)が行われる前では、100MPa未満の圧縮残留応力が外周面20dに作用していた。他方で、上記焼き戻し工程(S4)が行われた後では、100MPa以上の圧縮残留応力が外周面20dに作用していた。より具体的には、外周面20dからの距離が0.3mmまでの位置において、圧縮残留応力が100MPa以上となっていた。
内輪10においては、旧オーステナイト結晶粒の平均粒径が8μm以下に微細化されているため、強度が向上されているとともに、軸と摩耗した際の反軌道面の塑性変形量を小さくし、発生する摩耗粉を小さくすることができる。
上述のように、内輪10を構成する鋼中の旧オーステナイト結晶粒の平均粒径は、特に上記製造方法の第2焼き入れ工程(S3)の第2温度に依存する。例えば第2温度が830℃以下であった場合、成形体20を構成する鋼中の旧オーステナイト結晶粒の平均粒径は8μm程度となる。第2温度が780℃以上800℃以下であれば、成形体20を構成する鋼中の旧オーステナイト結晶粒の平均粒径は4μm以上7μm以下となる。
反軌道面10cにおいて、化合物粒の平均粒径が2μm以下、面積比率が0.3%以上になるように分散している場合、軸と摩耗した際の反軌道面10cの塑性変形量をさらに小さくすることができるとともに、発生する摩耗粉をさらに小さくすることができる。
反軌道面10cにおける硬さが650Hv以上である場合には、軸と摩耗した際の反軌道面10cの塑性変形量をさらに小さくすることができる。
以上のように本発明の実施形態について説明を行ったが、上述の実施形態を様々に変形することも可能である。また、本発明の範囲は、上述の実施形態に限定されるものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更を含むことが意図される。
10 内輪、10a 第1端面、10b 第2端面、10c,20c 内周面、10d,20d 外周面、10da 軌道面、10e 窒素富化層、10f 反軌道面、20 成形体、30 加熱コイル、31 噴射部。
Claims (10)
- 焼入れが行われた鋼からなり、環状に設けられた軌道輪であって、
周方向に沿って延在する軌道面と、
径方向において前記軌道面とは反対側に位置する反軌道面とを有し、
前記軌道面の残留オーステナイト量は前記反軌道面の残留オーステナイト量よりも多く、
前記軌道面の残留オーステナイト量と前記反軌道面の残留オーステナイト量との差が3体積%以上であり、
前記軌道面における旧オーステナイト結晶粒の平均粒径は、8μm以下であり、
前記軌道面における圧縮残留応力は、100MPa以上である、軌道輪。 - 前記反軌道面には、炭化物、窒化物、および炭窒化物の少なくともいずれかからなる化合物粒が存在しており、
前記反軌道面における前記化合物粒の平均粒径は、2μm以下であり、
前記反軌道面における前記化合物粒の面積率は、0.3%以上である、請求項1に記載の軌道輪。 - 前記軌道面および前記反軌道面には、浸窒層が形成されており、
前記軌道面の残留オーステナイト量と前記反軌道面の残留オーステナイト量との差が10体積%以上である、請求項1または2に記載の軌道輪。 - 前記反軌道面の硬さが650Hv以上である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の軌道輪。
- 内輪軌道面と、前記内輪軌道面とは反対側に位置する内径面とを有する内輪と、
前記内輪軌道面と対向する外輪軌道面を有する外輪と、
前記内輪軌道面と前記外輪軌道面と接触する複数の転動体とを備え、
前記内輪が請求項1〜4のいずれか1項に記載の軌道輪であり、
前記内輪軌道面が前記軌道輪の前記軌道面であり、
前記内径面が前記軌道輪の前記反軌道面である、転がり軸受。 - 周方向に沿って延在する軌道面と、径方向において前記軌道面とは反対側に位置する反軌道面とを有する軌道輪を製造する方法であって、
鋼からなり、前記周方向に沿って延在する第1の面と、前記径方向において前記第1の面と反対側に位置する第2の面とを有する成形体を準備する工程と、
前記成形体を浸炭浸窒雰囲気または浸炭浸窒雰囲気中で前記鋼のA1変態点以上の第1温度に加熱し、その後前記成形体を前記鋼のMs変態点以下の温度に冷却する第1焼き入れ工程と、
前記第1焼き入れ工程後に、前記成形体を前記A1変態点以上かつ前記第1温度未満の第2温度に再加熱し、その後前記成形体を前記鋼のMs変態点以下の温度に冷却する第2焼き入れ工程と、
前記第2焼き入れ工程後に、前記成形体を前記A1変態点未満の温度に保持する焼き戻し工程とを備え、
前記第1焼き入れ工程および前記第2焼き入れ工程は、前記第1の面における旧オーステナイト結晶粒の平均粒径が8μm以下となるように行われ、
前記焼き戻し工程では、前記第1の面が局所的に冷却されながら前記第2の面が局所的に加熱される、軌道輪の製造方法。 - 前記焼き戻し工程では、前記成形体が前記第1の面を局所的に冷却する冷却部および前記第2の面を局所的に加熱する加熱部に対して前記周方向に相対的に回転している状態で、前記第1の面が局所的に冷却されながら前記第2の面が局所的に加熱される、請求項6に記載の軌道輪の製造方法。
- 前記焼き戻し工程では、前記第1の面に冷却液を噴射することにより、前記第1の面が局所的に冷却される、請求項6または7に記載の軌道輪の製造方法。
- 前記焼き戻し工程では、前記第2の面を誘導加熱することにより、前記第2の面が局所的に加熱される、請求項6〜8のいずれか1項に記載の軌道輪の製造方法。
- 前記焼き戻し工程では、前記第2の面が300℃以上に加熱される、請求項6〜9のいずれか1項に記載の軌道輪の製造方法。
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