JP2021158939A - ビサクロン及びαヒドロキシサンショオールから選択される1以上の化合物を含む組成物の製造方法 - Google Patents

ビサクロン及びαヒドロキシサンショオールから選択される1以上の化合物を含む組成物の製造方法 Download PDF

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善丈 平山
Yoshitake Hirayama
亮介 石田
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Abstract

【課題】ビサクロン及びαヒドロキシサンショオールから選択される1以上の化合物を安定した状態で含む組成物の製造方法、及び、前記の1以上の化合物の、酸性水溶液中での経時的減少を抑制する方法の提供。【解決手段】ビサクロン及びαヒドロキシサンショオールから選択される1以上の化合物とカードランとを水中に含む混合物を加熱して凝固させること、及び加熱後の前記混合物を乾燥させて固体組成物を得る製造方法。前記化合物とカードランとを水中に含む混合物を加熱して凝固させること、加熱後の前記混合物を乾燥させて固体組成物を得ること、及び前記固体組成物を酸性水溶液と混合することを含む、酸性水溶液中での経時的減少を抑制する方法。【選択図】なし

Description

本発明は、ビサクロン及びαヒドロキシサンショオールから選択される1以上の化合物を含む組成物の製造方法に関する。
本発明はまた、酸性水溶液中での、ビサクロン及びαヒドロキシサンショオールから選択される1以上の化合物の経時的減少を抑制する方法に関する。
ウコンは東南アジアを中心に、世界中の熱帯・亜熱帯地域で栽培されるショウガ科ウコン属の植物である。独特な香気と風味を有することから香辛料として、また生薬として古くから用いられている。最近では、根茎に含まれるクルクミンに抗炎症、抗腫瘍、肝機能改善、悪酔いの防止等のさまざまな効果があることが報告され、ウコンは、健康食品としても注目されている。
今日、ウコンの有用性に着目し、ウコン成分を配合した様々な飲食品が開発されており、中でも、ウコン成分を配合した酸性飲料はウコン独特の土臭さや苦味が抑えられ、飲みやすく、人気が高い。
本出願人は、これまでに、ウコンがもたらす効果の有効成分の一つとしてビサクロンを同定し、ビサクロンが、血中エタノール濃度を低下させる効果、及び二日酔いの症状を抑制する効果を有することを確認している。
一方、サンショウに含まれるαヒドロキシサンショオールは、サンショウの刺激成分の1つであり、消化管運動改善作用等の生理活性を有することが知られている。
特許文献1では、ビサクロンがpH4.0以下の酸性水溶液中で不安定であること、並びに、サイクロデキストリン等のpH4.0以下の条件下でカチオン性を示す高分子化合物を配合することによりビサクロンがpH4.0以下の酸性水溶液中で安定化されることが記載されている。
特許文献2では、香辛料含有飲料にカードランなどの粘性物質を含めることにより、辛味を緩和するとともに風味を改善することが記載されている。香辛料としてターメリック、サンショウ等の抽出物が記載されている。
特許文献3では、香味料を乳化剤(ゼラチン除く)により乳化し、乳化液に増粘安定剤を添加後、乾燥して得られたことを特徴とする粉末香味料が記載されており、得られた粉末香味料が優れた香味発現性を示すことが記載されている。特許文献3では、香味料としてウコン、サンショウ等の抽出物が記載されており、増粘安定剤としてカードランが記載されている。
特許文献4では、カードランの凝固膜により表面を被覆した保存食品が記載されている。
特許文献5では、ヒドロキシ−α−サンショオール及び/又は2−フェニルブテナールを含む組成物が記載されており、その表面はカードランにより被覆されていてもよいことが記載されている。
特開2019−62814号公報 WO00/41579 特開2004−35802号公報 特開平3−61454号公報 特開2015−43769号公報
本発明の第一の実施形態は、ビサクロン及びαヒドロキシサンショオールから選択される1以上の化合物を安定化した状態で含む組成物を提供することを目的とする。
本発明の第二の実施形態は、酸性水溶液中での前記化合物の経時的減少を抑制することを目的とする。
本発明者らは、ビサクロン及びαヒドロキシサンショオールから選択される1以上の化合物とカードランとを水中に含む混合物を加熱して増凝固させた後、前記混合物を乾燥させて得られる固体組成物中では前記化合物が安定化されており、前記固体組成物を他の液状成分、例えば酸性水溶液、と混合して得られる液状組成物では、前記化合物の経時的減少を抑制することができることを見出し、以下の本発明を完成するに至った。
(1)ビサクロン及びαヒドロキシサンショオールから選択される1以上の化合物を含む組成物の製造方法であって、
前記化合物とカードランとを水中に含む混合物を加熱して凝固させること、及び
加熱後の前記混合物を乾燥させて固体組成物を得ることを含む方法。
(2)前記固体組成物を液体成分と混合して液体組成物を得ることを更に含む、(1)に記載の方法。
(3)酸性水溶液中での、ビサクロン及びαヒドロキシサンショオールから選択される1以上の化合物の経時的減少を抑制する方法であって、
前記化合物とカードランとを水中に含む混合物を加熱して凝固させること、
加熱後の前記混合物を乾燥させて固体組成物を得ること、及び
前記固体組成物を酸性水溶液と混合することを含む方法。
本発明の一以上の実施形態によれば、ビサクロン及びαヒドロキシサンショオールから選択される1以上の化合物を安定した状態で含む組成物を製造することができる。
本発明の別の一以上の実施形態によれば、酸性水溶液中での、ビサクロン及びαヒドロキシサンショオールから選択される1以上の化合物の経時的減少を抑制することができる。
<ビサクロン>
ビサクロンは、以下の平面構造を有する化合物である。ビサクロンは平面構造式中*印で示した位置に不斉炭素を有し、複数の光学異性体を含み得るが、本明細書においてビサクロンはいずれの光学異性体であってもよく、2種以上の光学異性体の混合物であってもよい。
Figure 2021158939
ビサクロンは植物原料から抽出又は精製したものであってもよいし、人為的に合成されたものであってもよいが、安全性の観点から植物原料又はその抽出物に含まれる形態のビサクロン、或いは、植物原料又はその抽出物から分離/精製したビサクロンを利用することが好ましい。
前記植物原料としては、ショウガ科植物が好ましく、特にショウガ科ウコン属に属する植物が好ましく、具体的にはCurcuma longa(ウコン)、Curcuma aromatica、Curcuma zedoaria、Curcuma phaeocaulis、Curcuma kwangsiensis、Curcuma wenyujin、Curcuma xanthorrhizaが好ましい。植物原料の根茎等の適当な部位を原型のまま、あるいは適当な寸法又は形状にカットした形態で、或いは粉砕物の形態で、ビサクロンとして、或いはビサクロンの抽出のための原料として使用することができる。これらの原料は適宜乾燥されたものであってよい。
植物原料からのビサクロンの抽出方法は特に限定されない。例えば、溶媒抽出法、水蒸気蒸留抽出法、及び超臨界又は亜臨界抽出法等を採用できる。前記溶媒抽出法に用いる溶媒としては、特に限定されないが、例えば、水、エタノール、メタノール、イソプロパノール、プロピレングリコール、ジエチルエーテル、石油エーテル、ヘキサン、アセトン、アセトニトリル、酢酸エチル、動植物油脂、又はそれらの溶媒の2種以上の混合物等の、ビサクロンを溶解可能な溶媒を用いることができる。抽出溶媒としては、水及び/又は親水性抽出溶媒、具体的には水又はアルコールが好ましい。アルコールとしてはエタノールが好ましい。アルコールと水を混合して用いる場合の混合比は特に限定されないが、例えば重量比で10:90〜90:10の範囲が好ましく、20:80〜50:50の範囲がより好ましい。
得られた植物原料の抽出物を必要に応じてさらに、溶媒分画、クロマトグラフィー(カラムクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等)及び/又は再結晶等の精製手段に付して、ビサクロンを分離又は精製してもよい。例えば、ビサクロンはウコンを植物原料とするメタノール抽出物を得て、当該抽出物をシリカゲルカラムでメタノール及びクロロホルムを用いて溶出させ、クルクミノイド(クルクミン、デメトキシクルクミン、ビスデメトキシクルクミンの混合物)よりも高極性の画分より分取用HPLCカラムを用いて分離又は精製することができる。
<αヒドロキシサンショオール>
αヒドロキシサンショオール(ヒドロキシ−α−サンショオールとも呼ばれる)は、以下の構造を有する化合物である。
Figure 2021158939
αヒドロキシサンショオールは植物原料から抽出又は精製したものであってもよいし、人為的に合成されたものであってもよいが、安全性の観点から植物原料又はその抽出物に含まれる形態のαヒドロキシサンショオール、或いは、植物原料又はその抽出物から分離/精製したαヒドロキシサンショオールを利用することが好ましい。
前記植物原料としては、ミカン科植物が好ましく、特にミカン科サンショウ属に属する植物が好ましく、具体的にはZanthoxylum piperitum DC(サンショウ)、Z.piperitum DC.forma inerme Makino(アサクラザンショウ)及びそれから派生したとされるブドウサンショウ、Z.piperitum DC.forma brevispinosum Makino(ヤマアサクラザンショウ)、Z.schinifolium(イヌザンショウ)、並びにZ.bungeanum(花椒)が好ましい。植物原料の果実、種皮、葉、茎等の適当な部位を原型のまま、あるいは適当な寸法又は形状にカットした形態で、或いは粉砕物の形態で、αヒドロキシサンショオールとして、或いはαヒドロキシサンショオールの抽出のための原料として使用することができる。これらの原料は適宜乾燥されたものであってよい。
植物原料からのαヒドロキシサンショオールの抽出方法は特に限定されない。例えば、溶媒抽出法、水蒸気蒸留抽出法、及び超臨界又は亜臨界抽出法等を採用できる。前記溶媒抽出法に用いる溶媒としては、特に限定されないが、例えば、水、エタノール、メタノール等のアルコール類、酢酸エチル、蟻酸メチル等のエステル類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、クロロホルム、塩化メチレン等のハロゲン化炭化水素類、アセトニトリル等のニトリル類、並びに、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類等を使用してもよく、これらの2種以上を混合して使用してもよい。前記植物原料からの抽出物としては特に、熱水抽出物又はエタノール抽出物が好ましい。
得られた植物原料の抽出物を必要に応じてさらに、溶媒分画、クロマトグラフィー(カラムクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等)及び/又は再結晶等の精製手段に付して、αヒドロキシサンショオールを分離又は精製してもよい。
<カードラン>
カードランは、一般に、β−1,3−グルコシド結合を主体とする加熱凝固性多糖類として知られている。本明細書ではカードランとして、例えば、アルカリゲネス属菌又はアクロバクテリウム属菌等の微生物が生産するものとして知られている通常のカードランの粉末、顆粒製品等を使用することができる。
<ビサクロン及びαヒドロキシサンショオールから選択される1以上の化合物を含む組成物の製造方法>
本明細書に開示する、ビサクロン及びαヒドロキシサンショオールから選択される1以上の化合物を含む組成物の製造方法は、
前記化合物とカードランとを水中に含む混合物を加熱して凝固させること(以下「第1工程」と称する)、及び
加熱後の前記混合物を乾燥させて固体組成物を得ること(以下「第2工程」と称する)を含むことを特徴とする。
本明細書の開示に係る方法で製造される組成物は、ビサクロン及びαヒドロキシサンショオールから選択される1以上の化合物を安定な形態で含有しており、前記組成物が酸性水溶液である場合でも、前記化合物の経時的な減少が抑制されている。
本明細書において「ビサクロン及びαヒドロキシサンショオールから選択される1以上の化合物を含む組成物」は、前記第2工程で得られる前記固体組成物自体であってもよいし、前記第2工程の後に更に、前記固体組成物を1以上の他の成分と混合して得られる組成物であってもよい。ここで「1以上の他の成分」は、液体成分であっても、固体成分であってもよい。「1以上の他の成分」が液体成分である場合、水又は水溶液であることが好ましく、酸性水溶液であることがより好ましい。酸性水溶液のpH及び酸性水溶液に前記固体組成物を添加後の液体組成物のpHは通常はpH5.0以下、pH4.0以下、又は、pH4.0未満である。pHがこの範囲の組成物では微生物が繁殖し難く品質を保持し易い。またこのpH範囲とすることで、殺菌工程による負荷を小さくし、殺菌工程における前記化合物の分解を小さくすることができるため好ましい。前記化合物をより安定的に保持するためには、酸性水溶液のpH及び酸性水溶液に前記固体組成物を添加後の液体組成物のpHは、3.1以上、好ましくは3.2以上、より好ましくは3.5以上、さらに好ましくは3.7以上の範囲とすることが好ましい。本明細書においてpH値は品温20℃で測定された値を指す。酸性水溶液はそれ自体が飲料組成物であってもよい。
前記「1以上の他の成分」はまた、ウコン色素、甘味料、増粘剤、香料、酸化防止剤、ビタミン類、他の食品素材等であってもよい。
ウコン色素は、ウコンの根茎部分より、温時エタノールで、熱時油脂若しくはプロピレングリコールで、又は室温時〜熱時ヘキサン若しくはアセトンで抽出して得られるものであり、このようにして得られたウコン色素は主にクルクミンを含む。
甘味料としては、果糖、ブドウ糖、液糖等の糖類、はちみつ、スクラロース、アセスルファムカリウム、ソーマチン、アスパルテーム等の高甘味度甘味料が挙げられる。
増粘剤としては、ジェランガム、キサンタンガム、ペクチン、グアーガム等の増粘多糖類が挙げられる。
酸化防止剤としては、ビタミンC、酵素処理ルチン、トコフェロール(ビタミンE)、カテキン等が挙げられる。
ビタミン類としては、ビタミンA、ビタミンC、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンE、ナイアシン、イノシトール等が挙げられる。
本明細書において「ビサクロン及びαヒドロキシサンショオールから選択される1以上の化合物を含む組成物」は、食品組成物又は医薬品組成物の形態であることができる。食品組成物には飲料、食品添加物等も包含される。
前記第1工程では、前記化合物とカードランとを水中に含む混合物を加熱して凝固させる。第1工程での加熱温度は、前記化合物とカードランが水中で溶解し、カードランが加熱凝固する温度であればよく、好ましくは80℃以上である。加熱温度の上限は特に限定されないが通常は100℃以下である。
前記第1工程において、前記化合物とカードランとの配合比は限定されないが、前記化合物の合計重量よりもカードランの重量が多いことが好ましい。例えば、前記化合物がビサクロンを含む場合、ビサクロン1重量部に対してカードランの重量が好ましくは5重量部以上、より好ましくは10重量部以上、より好ましくは20重量部以上であり、好ましくは1000重量部以下、より好ましくは500重量部以下であることができる。前記化合物がαヒドロキシサンショオールを含む場合、αヒドロキシサンショオール1重量部に対して、対してカードランの重量が好ましくは10重量部以上、より好ましくは100重量部以上、より好ましくは1000重量部以上であり、好ましくは10000重量部以下、より好ましくは5000重量部以下であることができる。
前記第1工程において「凝固」は、前記化合物とカードランとを水中に含む混合物が固形のゲルとなる場合には限定されず、粘性液体となる場合も包含する。加熱後の前記混合物が固形となるか粘性液体となるかはカードランに対する水の量に応じて異なる。前記混合物中での水の量は、カードランが加熱凝固できる水の量であればよく、例えば、カードラン100重量部に対して、好ましくは500重量部以上、好ましくは1000重量部以上が挙げられ、好ましくは5000重量部以下、より好ましくは3000重量部以下が挙げられる。
前記第1工程において加熱凝固した前記混合物は、好ましくは常温に放冷した後に前記第2工程に用いる。
前記第2工程の乾燥は一般的な方法で行うことができる。例えば、凍結乾燥、噴霧乾燥、熱風乾燥、流動層乾燥等の乾燥方法を用いることができる。
前記第1工程及び第2工程によりビサクロン又はαヒドロキシサンショオールが安定化された組成物が得られる。その機構は必ずしも明らかではないが以下の機構が推定できる。
ビサクロン及びαヒドロキシサンショオールは、水に難溶であり且つヒドロキシ基とカルボニル基の両方が存在する化合物であるという点が共通している。
前記第1工程でビサクロン又はαヒドロキシサンショオールとカードランとを水中に含む混合物を加熱するとき、カードランが形成する立体的な網目構造のなかにビサクロン又はαヒドロキシサンショオールが取り込まれ、カードランが凝固することにより、それらは保持されると考えられる。続いて前記第2工程で乾燥されるときに水が消失するため、前記第2工程で得られる固体組成物中では、カードランの水酸基と、ビサクロン又はαヒドロキシサンショオールのヒドロキシ基及びカルボニル基との間で水素結合が形成すると考えられる。
酸性溶液中でのビサクロン又はαヒドロキシサンショオールの分解は、プロトンの攻撃によるものである。前記第2工程で得られる固体組成物中では、上記の通りビサクロン又はαヒドロキシサンショオールはカードランに取り込まれカードランと水素結合により結合しているため、酸性水溶液中でのプロトンによる攻撃を受けにくい状態にあると考えられる。更にビサクロン及びαヒドロキシサンショオールは疎水性であるため、カードランの立体構造に取り込まれたこれらの化合物の周りに、プロトンの移動経路となる水分子は引き寄せられにくいことも、プロトンによる攻撃を受けにくい原因であると考えられる。
特許文献1では、ビサクロンの周囲を電気的に結合したタンパク質で覆うことにより、ビサクロンに対するプロトンによる攻撃から守られ、ビサクロンが酸性溶液中での安定化されると記載されている。ビサクロン又はαヒドロキシサンショオールとカードランとは、電気的結合よりも強固な水素結合により結合されているため、カードランがこれらの化合物を保護する作用は、電気的結合により結合されるタンパク質よりも高いものと考えられる。
<酸性水溶液中での、ビサクロン及びαヒドロキシサンショオールから選択される1以上の化合物の経時的減少を抑制する方法>
本明細書に開示する、酸性水溶液中での、ビサクロン及びαヒドロキシサンショオールから選択される1以上の化合物の経時的減少を抑制する方法は、
前記化合物とカードランとを水中に含む混合物を加熱して凝固させること(前記第1工程と同じ)、
加熱後の前記混合物を乾燥させて固体組成物を得ること(前記第2工程と同じ)、及び
前記固体組成物を酸性水溶液と混合すること(以下「第3工程」と称する)を含むことを特徴とする。
ここで前記第1工程及び前記第2工程の好ましい実施形態は既述の通りである。
前記第3工程では、前記第2工程で得られた固体組成物を酸性水溶液と混合することを含む。前記第2工程での乾燥により安定化された前記化合物は、酸性水溶液に混合した場合でも分解され難く、経時的減少が緩やかである。
酸性水溶液のpH及び酸性水溶液に前記固体組成物を添加後の液体組成物のpHは通常はpH5.0以下、pH4.0以下、又は、pH4.0未満である。pHがこの範囲の組成物では微生物が繁殖し難く品質を保持し易い。またこのpH範囲とすることで、殺菌工程による負荷を小さくし、殺菌工程における前記化合物の分解を小さくすることができるため好ましい。前記化合物をより安定的に保持するためには、酸性水溶液のpH及び酸性水溶液に前記固体組成物を添加後の液体組成物のpHは、3.1以上、好ましくは3.2以上、より好ましくは3.5以上、さらに好ましくは3.7以上の範囲とすることが好ましい。酸性水溶液はそれ自体が飲料組成物であってもよい。
前記酸性水溶液には、ウコン色素、甘味料、増粘剤、香料、酸化防止剤、ビタミン類、他の食品素材等が含まれていてもよい。
前記第3工程において、前記固体組成物と前記酸性水溶液との混合比は特に限定されないが、前記固体組成物が前記酸性水溶液に十分に分散又は溶解できるよう、前記固体組成物1重量部に対して前記酸性水溶液を好ましくは100重量部以上、より好ましくは250重量部以上、より好ましくは400重量部以上混合する。また、前記酸性水溶液の配合量の上限は特に限定されないが、前記固体組成物1重量部に対して前記酸性水溶液を好ましくは5000重量部以下、より好ましくは2000重量部以下、より好ましくは1000重量部以下となるように混合することができる。
<1.実験1>
1.1.ウコン水抽出物
ウコン水抽出物として、ウコン(Curcuma longa)の根茎部分の水抽出物の乾燥粉末であって、ビサクロン含有量が19mg/gのものを用いた。
1.2.カードランによるビサクロン安定化確認試験
下記の組成の試料A−1、A−2、A−3の原料を混合し、混合物の約10倍量の水に溶解させた。この溶液を100℃まで加熱しカードランを凝固させた後、放冷した。その後、凍結乾燥(FD)させて粉末化した。
Figure 2021158939
FD後の各試料A−1、A−2、A−3の粉末0.1gを、pH3.7のクエン酸緩衝溶液50mlに分散させ、溶液を調製した。この溶液を50℃7日間保存し、保存前後の溶液中のビサクロンを定量し、保存前を100%とした場合の、保存後のビサクロンの残存率(%)を求めた。ビサクロンの定量は、波長240nmのUV吸収を検出するHPLCにより行った。
試料A−1、A−2、A−3のビサクロン残存率を上記表に示す。
カードランを配合したA−2の残存率(83.51%)は、A−2の残存率(25.22%)よりも顕著に高いことが確認された。
乾燥卵白粉末は、特開2019−62814号公報において、酸性溶液中のビサクロンの安定化に有効であると記載されている。乾燥卵白粉末を配合した試料A−3のビサクロン残存率は、試料A−1よりも高く、ビサクロンの安定化は確かに認められた。試料A−2のビサクロン残存率は、試料A−3よりも更に高いことが確認された。
<2.実験2>
2.1.ウコン水抽出物
ウコン水抽出物として、ウコン(Curcuma longa)の根茎部分の水抽出物の乾燥粉末であって、実験1で用いたビサクロン含有量が19mg/gのもの(ウコン水抽出物1)と、ビサクロン含有量が190mg/gのもの(ウコン水抽出物2)を用いた。
2.2.カードランによるビサクロン安定化確認試験
下記の組成の試料B−1〜B−6の原料を混合し、混合物の約10倍量の水に溶解させた。この溶液を100℃まで加熱してカードランを凝固させた後、放冷した。その後、凍結乾燥(FD)させて粉末化した。
Figure 2021158939
FD後の各試料B−1〜B−6の粉末0.1gを、飲料組成物50mlに分散させ、溶液を調製した。この溶液を50℃、7日間又は14日間保存し、保存前と、保存7日後、14日後の溶液中のビサクロンを定量し、保存前を100%とした場合の、保存後のビサクロンの残存率(%)を求めた。ビサクロンの定量は、波長240nmのUV吸収を検出するHPLCにより行った。
ウコン水抽出物のみのB−1でのビサクロン残存率よりも、カードランを配合したB−2、B−3、B−4でのビサクロン残存率は高く、カードランの配合によりビサクロンが安定化されることが示された。
また、B−2、B−3、B−4の比較から、ウコン水抽出物に対するカードランの量が高いほどビサクロン残存率が向上することが示された。
B−3とB−5、B−4とB−6は、それぞれカードラン/ウコン水抽出物比が同等であるが、B−3、B−4よりもB−5、B−6のビサクロン残存率が低いことから、デキストリンが共存するとカードランによるビサクロン安定化作用が弱められることが確認された。
B−5、B−6では、カードランが形成する網目構造のなかにビサクロンとデキストリンとが保持されていると考えられる。このため水と親和性の高いデキストリンに水分子が引き寄せられ易く、その結果、ビサクロンに対してプロトンが攻撃し易い状態となっている可能性がある。また、B−5、B−6では、デキストリンがカードランと水素結合を形成するために、カードランとビサクロンとの水素結合が阻害された状態となっていることとも、ビサクロンの安定性が低下したことの原因として考えられる。
<3.実験3>
3.1.サンショウ水抽出物
サンショウ水抽出物として、サンショウの果皮の水抽出物の乾燥粉末を用いた。
サンショウ水抽出物は、αヒドロキシサンショオールを約350ppm、αサンショオールを約50ppm、γサンショオールを約40ppm含有する。
3.2.カードランによるαヒドロキシサンショオール安定化確認試験
下記の組成の試料C−1及びC−2の原料を混合し、混合物の約10倍量の水に溶解させた。この溶液を100℃まで加熱しカードランを凝固させた後、放冷した。その後、凍結乾燥(FD)させて粉末化した。
Figure 2021158939
FD後の各試料C−1、C−2の粉末0.1gを、pH3.7のクエン酸緩衝溶液50mlに分散させ、溶液を調製した。この溶液を50℃7日間保存し、保存前後の溶液中のαヒドロキシサンショオール、αサンショオール、γサンショオールを定量し、保存前を100%とした場合の、保存後の各成分の残存率(%)を求めた。各成分の定量は、波長270nmのUV吸収を検出するHPLCにより行った。
試料C−1、C−2のαヒドロキシサンショオール、αサンショオール、γサンショオールの残存率を上記表に示す。
αヒドロキシサンショオールについては、カードランを配合したC−2の残存率(86.63%)は、C−1の残存率(42.82%)よりも顕著に高いことが確認された。一方、αサンショオール及びγサンショオールについては、カードランの配合の有無にかかわらず保存中に消失した。
<4.実験4>
ウコン水抽出物として、ウコン(Curcuma longa)の根茎部分の水抽出物の乾燥粉末であって、実験1で用いたビサクロン含有量が19mg/gのウコン水抽出物を用いた。
下記の組成の試料D−1及びD−2の原料を常温で終夜撹拌して混合した(加熱していないためカードランは凝固しない)。その後、凍結乾燥(FD)させて粉末化した。
Figure 2021158939
FD後の試料D−1及びD−2の粉末0.1gを、pH3.7のクエン酸緩衝溶液50mlに分散させ、溶液を調製した。この溶液を50℃7日間保存し、保存前後の溶液中のビサクロンを定量し、保存前を100%とした場合の、保存後のビサクロンの残存率(%)を求めた。ビサクロンの定量は、波長240nmのUV吸収を検出するHPLCにより行った。
試料D−1及びD−2のビサクロン残存率を上記表に示す。カードランを配合していないD−1とカードランを配合したD−2とでビサクロン残存率に差は見られなかった。このことから、カードランによるビサクロン安定化の作用の発現のためには、カードランとビサクロンを水中で加熱してカードランのゲルを形成した後に乾燥させることが必要であることが示唆された。

Claims (3)

  1. ビサクロン及びαヒドロキシサンショオールから選択される1以上の化合物を含む組成物の製造方法であって、
    前記化合物とカードランとを水中に含む混合物を加熱して凝固させること、及び
    加熱後の前記混合物を乾燥させて固体組成物を得ることを含む方法。
  2. 前記固体組成物を液体成分と混合して液体組成物を得ることを更に含む、請求項1に記載の方法。
  3. 酸性水溶液中での、ビサクロン及びαヒドロキシサンショオールから選択される1以上の化合物の経時的減少を抑制する方法であって、
    前記化合物とカードランとを水中に含む混合物を加熱して凝固させること、
    加熱後の前記混合物を乾燥させて固体組成物を得ること、及び
    前記固体組成物を酸性水溶液と混合することを含む方法。
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