JP2021155592A - 耐熱性難燃架橋フッ素ゴム成形体及びその製造方法、並びに耐熱性製品 - Google Patents
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Abstract
Description
<1>下記架橋性フッ素ゴム組成物を架橋反応処理してなる耐熱性難燃架橋フッ素ゴム成形体。
[架橋性フッ素ゴム組成物]
フッ素ゴム60〜97質量%及びエチレン共重合体3〜40質量%を含有するベースゴム100質量部に対して、三酸化アンチモン1〜20質量部と、前記三酸化アンチモンに付着する付着部位を有するシランカップリング剤2〜15質量部とを含有し、前記エチレン共重合体が、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体及びエチレン−(メタ)アクリル酸共重合体からなる群より選択される少なくとも1種を含む、架橋性フッ素ゴム組成物
<2>前記架橋性フッ素ゴム組成物が、前記ベースゴム100質量部に対して、臭素系難燃剤0.5〜20質量部及び/又は無機フィラー0.5〜200質量部を含有する<1>に記載の耐熱性難燃架橋フッ素ゴム成形体。
<3>前記フッ素ゴムがテトラフルオロエチレン−プロピレン共重合体ゴムを含む、<1>又は<2>に記載の耐熱性難燃架橋フッ素ゴム成形体。
<4>前記エチレン共重合体の一部又は全部が不飽和カルボン酸で変性されている、<1>〜<3>のいずれか1項に記載の耐熱性難燃架橋フッ素ゴム成形体。
<5>前記シランカップリング剤がビニルトリメトキシシラン又はビニルトリエトキシシランである、<1>〜<4>のいずれか1項に記載の耐熱性難燃架橋フッ素ゴム成形体。
<6>前記臭素系難燃剤がエチレンビス(ペンタブロモフェニル)である、<2>〜<5>のいずれか1項に記載の耐熱性難燃架橋フッ素ゴム成形体。
<7>前記無機フィラーが、シリカ、炭酸カルシウム、酸化亜鉛、焼成クレー及びタルクからなる群より選択される少なくとも1種を含む、<2>〜<6>のいずれか1項に記載の耐熱性難燃架橋フッ素ゴム成形体。
<8>下記工程(A)、工程(B)及び工程(C)を有する耐熱性難燃架橋フッ素ゴム成形体の製造方法であって、
工程(A):フッ素ゴム60〜97質量%及びエチレン共重合体3〜40質量%を含
有するベースゴム100質量部に対して、三酸化アンチモン1〜20質
量部と、前記ベースゴムにグラフト化反応しうるグラフト化反応部位及
び前記三酸化アンチモンに付着する付着部位を有するシランカップリン
グ剤2〜15質量部と、有機過酸化物0.003〜0.5質量部と、シ
ラノール縮合触媒とを混合して架橋性フッ素ゴム組成物を得る工程、
工程(B):工程(A)で得られた架橋性フッ素ゴム組成物を成形して成形体を得る
工程
工程(C):工程(B)で得られた成形体と水とを接触させて耐熱性難燃架橋フッ素
ゴム成形体を得る工程
前記エチレン共重合体が、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体及びエチレン−(メタ)アクリル酸共重合体からなる群より選択される少なくとも1種を含み、
工程(A)の混合を行うに際して、前記三酸化アンチモンと前記シランカップリング剤とを予め混合する、製造方法。
<9>前記工程(A)が、工程(A−1)でベースゴムの全部を用いる場合、下記工程(A−1)、工程(A−2)及び工程(A−4)を有し、工程(A−1)でベースゴムの一部を用いる場合、下記工程(A−1)〜工程(A−4)を有する、<8>に記載の製造方法。
工程(A−1):三酸化アンチモン及びシランカップリング剤を混合する工程
工程(A−2):工程(A−1)で得られた混合物とベースゴムの全部又は一部とを
有機過酸化物の存在下で有機過酸化物の分解温度以上の温度で溶融
混合して、前記ベース樹脂と前記シランカップリング剤とをグラフ
ト化反応させる工程
工程(A−3):シラノール縮合触媒とキャリアゴムとしてベースゴムの残部とを混
合する工程
工程(A−4):工程(A−2)で得られた溶融混合物と、シラノール縮合触媒又は
工程(A−3)で得られた混合物とを混合する工程
<10>前記工程(A−1)又は工程(A−2)において、臭素系難燃剤0.5〜20質量部及び/又は無機フィラー0.5〜200質量部を混合する、<9>に記載の製造方法。
<11>前記工程(A−2)の溶融混合が密閉型ミキサーを用いて行われる、<9>又は<10>に記載の製造方法。
<12>上記<8>〜<11>のいずれか1項に記載の製造方法により製造された耐熱性難燃架橋フッ素ゴム成形体。
<13>上記<1>〜<7>及び<12>のいずれか1項に記載の耐熱性難燃架橋フッ素ゴム成形体を含む耐熱性製品。
<14>前記耐熱性難燃架橋フッ素ゴム成形体からなる被覆層を導体の外周面に有する<13>に記載の耐熱性製品。
本発明の耐熱性難燃架橋フッ素ゴム成形体(以下、単に架橋成形体ということがある。)は、後述する架橋性フッ素ゴム組成物を架橋反応処理して得られる架橋成形体(架橋性フッ素ゴム組成物の架橋物)である。
本発明の架橋成形体は、少なくともベースゴムが直接又は架橋剤等を介して架橋した架橋構造を有しており、機械特性、耐熱性、難燃性及び耐摩耗性を高い水準でバランスよく発揮する。架橋構造は、架橋性フッ素ゴム組成物を架橋させる架橋反応(架橋法)の種類によって異なり、明確かつ一概に規定できるものではない。
本発明において、有機過酸化物架橋法とは、化学架橋法の1つであり、架橋触媒として有機過酸化物を含有する架橋性フッ素ゴム組成物を有機過酸化物の分解温度以上の温度に加熱して有機過酸化物から生じるラジカルによってベースゴム同士を直接架橋反応させる方法をいう。また、有機過酸化物架橋法とは別の化学架橋法であるシラン架橋法とは、架橋触媒として有機過酸化物を含有する架橋性フッ素ゴム組成物において、有機過酸化物の分解温度以上の温度に加熱して有機過酸化物から生じるラジカルによって架橋剤としてのシランカップリング剤をベースゴムにグラフト化反応させてシラングラフトゴムを得た後に、好ましくはシラノール縮合触媒の存在下で、シラングラフトゴムと水分とを接触させてシランカップリング剤をシラノール縮合反応させる方法をいう。
また、本発明の架橋成形体がシラン架橋法による架橋物である場合、シランカップリング剤は、後述するように、三酸化アンチモン等に付着した状態若しくは付着していない状態でベースゴムにグラフト化反応しており、更に少なくとも一部のシランカップリング剤同士がシラノール縮合反応していることが好ましい。このようなシラン架橋法による架橋物は三酸化アンチモン等を巻き込んだシラン架橋構造を有し、機械特性、耐熱性、難燃性及び耐摩耗性を高い水準でバランスよく発揮する。
本発明に用いる架橋性フッ素ゴム組成物は、フッ素ゴム60〜97質量%及びエチレン共重合体3〜40質量%を含有するベースゴム100質量部に対して、三酸化アンチモン1〜20質量部と、シランカップリング剤2〜15質量部とを含有し、適用する架橋法に応じて必須の又は好適な後述する成分を更に含有してもよい組成物である。
架橋性フッ素ゴム組成物において、シランカップリング剤は、三酸化アンチモン等に付着せずに単独で存在していてもよいが、三酸化アンチモン等に付着して存在していることが好ましい。シランカップリング剤が付着した三酸化アンチモンは架橋性フッ素ゴム組成物中で凝集しにくく高度(均一)に分散することができ、架橋成形体に高い難燃性を付与しながらも耐摩耗性の低下を効果的に抑制できる。シラン架橋法に好適に適用可能な架橋性フッ素ゴム組成物において、シランカップリング剤はベースゴムにグラフト化反応していてもいなくてもよく、使用形態等に応じて適宜に選択される。
この架橋性フッ素ゴム組成物は、後述する架橋反応処理により、少なくともベースゴムが架橋しうる組成物であればよく、適用する架橋反応の種類等により、上記成分に加えて更に架橋剤、架橋助剤、架橋触媒、架橋促進剤等を適宜含有することが好ましい。
本発明において、電子線架橋法、有機過酸化物架橋法又はシラン架橋法に好適に適用可能な架橋性フッ素ゴム組成物を、それぞれ、電子線架橋性フッ素ゴム組成物、有機過酸化物架橋性フッ素ゴム組成物又はシラン架橋性フッ素ゴム組が成物をいうことがある。
<ベースゴム>
ベースゴムは、フッ素ゴムとエチレン共重合体とを必須成分として含有する。ベースゴムがフッ素ゴムを含有すると、得られる架橋成形体に、耐熱性、とりわけ200℃以上の高温環境下においても例えば機械特性等が劣化しない高い耐熱性、更には難燃性を付与することができる。また、優れた、柔軟性、耐油性等をも付与することもできる。一方、ベースゴムがエチレン共重合体を含有すると、得られる架橋成形体に、優れた、機械特性、耐摩耗性等を付与することができる。
フッ素ゴムとしては、特に限定されるものではなく、従来、耐熱性ゴム成形体に使用されている通常のものを使用することができる。このようなフッ素ゴムとしては、架橋反応可能な部位を主鎖中又はその末端に有するゴムが好ましく挙げられる。例えば、シラン架橋法の場合、シランカップリング剤のグラフト化反応部位と有機過酸化物の存在下でグラフト化反応可能な部位を有するゴム、電子線架橋又は有機過酸化物架橋の場合、電子線の照射又は有機過酸化物から発生するラジカルの存在により、架橋反応可能な部位を有するゴム等が挙げられる。このような架橋反応可能な部位及びグラフト化反応可能な部位としては、特に制限されないが、例えば、炭素鎖中の不飽和結合部位、水素原子を有する炭素原子が挙げられる。
このようなフッ素ゴムとしては、特に限定されるものではないが、テトラフルオロエチレン及びヘキサフルオロプロピレン等のパーフルオロ炭化水素、及び、フッ化ビニリデン等の部分フッ素炭化水素等の含フッ素モノマー同士の共重合体ゴム、更にはこれらの含フッ素モノマーとエチレン及び/又はプロピレン等の炭化水素の共重合体ゴムが挙げられる。具体的には、テトラフルオロエチレン−プロピレン共重合体ゴム(FEPM)、テトラフルオロエチレン−フッ化(例えばヘキサフルオロ)プロピレン共重合体ゴム、テトラフルオロエチレン−パーフルオロビニルエーテル共重合体ゴム(FFKM)、フッ化ビニリデンゴム(FKM、例えば、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体ゴム)等が挙げられる。更には、上述の含フッ素モノマーとクロロプレン及び/又はクロロスルホン化ポリエチレンとの共重合体ゴムも挙げられる。
これらのフッ素ゴムの中でも、テトラフルオロエチレン−プロピレン共重合体ゴム、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体ゴムが好ましく、テトラフルオロエチレン−プロピレン共重合体ゴムがより好ましい。
本発明において、フッ素含有量は合成時の計算値、又は、炭酸カリウム加熱分解法によって求められる。炭酸カリウム加熱分解法としては、能代誠ら、日化、6、1236(1973)に記載の方法が挙げられる。
例えば、テトラフルオロエチレン−プロピレン共重合体ゴムとしては、アフラス(商品名、AGC社製)が挙げられる。テトラフルオロエチレン−パーフルオロビニルエーテル共重合体ゴムとしては、カルレッツ(商品名、デュポン社製)が挙げられる。フッ化ビニリデンゴムとしては、バイトン(商品名、デュポン社製)、ダイエル(商品名、ダイキン工業社製)、ダイニオン(商品名、3M社製)、テクノフロン(商品名、ソルベー社製)等が挙げられる。
エチレン共重合体としては、上述の架橋反応可能な部位を主鎖中又はその末端に有する共重合体が好ましく挙げられ、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体等が挙げられ、エチレン−酢酸ビニル共重合体がより好ましい。(メタ)アクリル酸エステルとしては、特に制限されないが、(メタ)アクリル酸アルキル(好ましくは炭素数1〜12)エステルが好ましく、例えば、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−アクリル酸ブチル共重合体が挙げられる。
このエチレン共重合体は、共重合体からなる、樹脂、エラストマー又はゴムのいずれでもよい。エチレン共重合体における共重合比等は、特に制限されず、適宜に設定できる。
酸変性に用いる不飽和カルボン酸としては、樹脂等の酸変性に通常用いられる不飽和カルボン酸であれば特に制限されず、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、(無水)マレイン酸、(無水)イタコン酸、(無水)フマル酸が挙げられる。エチレン共重合体における不飽和カルボン酸による変性量は、特に制限されず、適宜に設定できる。
架橋性フッ素ゴム組成物に用いるエチレン共重合体は、その一部が不飽和カルボン酸で変性されていることが好ましく、全部が不飽和カルボン酸で変性されていてもよい。
本発明において、ベースゴムは、フッ素ゴム及びエチレン共重合体に加えて、他の重合体(樹脂、エラストマー、ゴム)、オイル成分等を含有していてもよい。
他の重合体としては、特に制限されないが、上述の架橋反応可能な部位を主鎖中又はその末端に有する共重合体が好ましく挙げられ、配線材の被覆層等の各種成形体に使用される通常のものを使用することができる。例えばポリオレフィン樹脂、塩素含有樹脂(JIS K 7229−1995に規定する樹脂)が挙げられる。
オイル成分は、特に限定されないが、有機油又は鉱物油が好ましく挙げられ、具体的には、パラフィンオイル、ナフテンオイル等が挙げられる。
ベースゴムは、上記各成分の総含有率が100質量%となるように、各成分の含有率が下記範囲内から適宜に決定される。
ベースゴム100質量%中において、上記フッ素ゴムの含有率は60〜97質量%であり、上記エチレン共重合体の含有率は3〜40質量%である。ベースゴムがこのような組成を有することにより、三酸化アンチモン及びシランカップリング剤の作用と相まって、架橋成形体に、機械特性、耐熱性、難燃性及び耐摩耗性を付与できる。上記フッ素ゴムの含有率は70〜90質量%が好ましく、上記エチレン共重合体の含有率は5〜35質量%が好ましく、10〜30質量%がより好ましい。フッ素ゴム及びエチレン共重合体の含有率がそれぞれ上記範囲内にあると、耐摩耗性を維持しながらも、機械特性、難燃性及び/又は耐熱性を更に改善できる。
他の重合体の、ベースゴム100質量%中の含有率は、特に制限されず、適宜に決定される。
オイル成分の、ベースゴム100質量%中の含有率は、特に制限されないが、0〜20質量%が好ましく、0〜10質量%がより好ましい。オイルの含有率が上記範囲内にあると、オイル成分のブリード、更には架橋成形体の強度低下を抑制できる。
本発明においては、難燃剤として三酸化アンチモンを用いる。架橋性フッ素ゴム組成物が三酸化アンチモンを含有すると、シランカップリング剤の作用等により耐摩耗性の低下、更には耐熱性、機械特性の低下を抑制しながらも、架橋成形体に優れた難燃性を付与できる。三酸化アンチモンは、通常用いられるものであれば特に制限されないが、後述するシランカップリング剤と相互作用を示す部位を有していることが好ましい。相互作用を示す部位としては、シランカップリング剤が有する後述する付着部位に応じて適宜に決定されるが、通常、表面に有している水酸基等が挙げられる。
三酸化アンチモンとしては、適宜に合成してもよく、市販品を使用してもよい。市販品としては、例えば、PATOX−C、PATOX−M、PATOX−K(いずれも商品名、日本精鉱社製)、AT3、AT−3CN、AT−3TL(いずれも商品名、鈴裕化学社製)、三酸化アンチモン(豊田通商社製)が挙げられる。
架橋性フッ素ゴム組成物が含有する三酸化アンチモンは、1種でも2種以上でもよい。
三酸化アンチモンは、ハロゲン系難燃剤と併用することができ、この場合、ハロゲン系難燃剤の難燃助剤としても機能する。ハロゲン系難燃剤と併用することにより、架橋成形体の難燃性を更に向上させることができる。
本発明に用いるシランカップリング剤は、三酸化アンチモン、好ましくは三酸化アンチモンの上記相互作用を示す部位に対して、付着する付着部位を有するものであれば特に制限されない。付着部位は、三酸化アンチモンの水酸基等に化学的又は物理的に付着する部位であればよく、付着には化学結合によるもの、吸着によるもの等、互いに相互作用を示すものを包含する。
本発明において、架橋性フッ素ゴム組成物をシラン架橋法により架橋させる場合、シランカップリング剤は、三酸化アンチモンに付着する付着部位に加えて、電子線の照射または有機過酸化物の分解により生じたラジカルの存在下でベースゴムにグラフト化反応しうるグラフト化反応部位(基又は原子)を有しており、更に、後述する無機フィラーの化学結合しうる部位と反応し、シラノール縮合可能な反応部位(加水分解して生成する部位を含む、例えばシリルエステル基等)を有していることが好ましい。
シランカップリング剤が有する付着部位は、シラノール縮合可能な反応部位と同じであることが好ましく、シラノール縮合可能な反応部位を兼ねることがより好ましく、例えば、後述する加水分解しうる有機基が挙げられる。グラフト化反応部位としては後述するエチレン性不飽和基を含有する基等が好ましく挙げられる。
Rb11は、脂肪族炭化水素基、水素原子又は後述のY13を示す。脂肪族炭化水素基としては、脂肪族不飽和炭化水素基を除く炭素数1〜8の1価の脂肪族炭化水素基が挙げられる。Rb11は好ましくは後述のY13である。
Y11、Y12及びY13は、シラノール縮合可能な反応部位(加水分解しうる有機基)を示す。例えば、炭素数1〜6のアルコキシ基、炭素数6〜10のアリールオキシ基、炭素数1〜4のアシルオキシ基が挙げられ、アルコキシ基が好ましい。加水分解しうる有機基としては、具体的には例えば、メトキシ、エトキシ、ブトキシ、アシルオキシ等を挙げることができる。この中でも、シランカップリング剤の反応性の点から、メトキシ又はエトキシが更に好ましい。
シランカップリング剤としては、具体的には、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、ビニルジメトキシエトキシシラン、ビニルジメトキシブトキシシラン、ビニルジエトキシブトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン等のビニルシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等の(メタ)アクリロキシシランを挙げることができる。
上記シランカップリング剤の中でも、末端にビニル基とアルコキシ基を有するシランカップリング剤が更に好ましく、ビニルトリメトキシシラン又はビニルトリエトキシシランが特に好ましい。
架橋性フッ素ゴム組成物が含有するシランカップリング剤は1種でも2種以上でもよい。シランカップリング剤はそのまま用いても溶媒等で希釈して用いてもよい。
シランカップリング剤の含有量は、機械特性、耐熱性及び難燃性を損なうことなく、耐摩耗性を更に改善できる点で、ベースゴム100質量部に対して、3〜12質量部が好ましく、4〜12質量部がより好ましい。
架橋性フッ素ゴム組成物は、三酸化アンチモンに加えて、ハロゲン系難燃剤の1種として臭素系難燃剤を含有することが好ましい。
臭素系難燃剤は、ポリブロモフェニルエーテル及びポリブロモフェニルを除くものであれば、特に限定されず、難燃性樹脂組成物に通常用いられるものが挙げられる。例えば、臭素化エチレンビスフタルイミド化合物、ビス臭素化フェニルテレフタルアミド化合物、臭素化ビスフェノール化合物、エチレンビス(ペンタブロモフェニル)、又は1,2−ビス(ブロモフェニル)エタン化合物等の有機系臭素含有難燃剤が挙げられる。中でも、エチレンビス(ペンタブロモフェニル)又は1,2−ビス(ブロモフェニル)エタンが好ましく、エチレンビス(ペンタブロモフェニル)が更に好ましい。臭素系難燃剤の市販品としては、例えば、サイテックス(商品名、アルベマール社製)、ファイヤーマスター(商品名、ケムチュラ・ジャパン社製)が挙げられる。
臭素系難燃剤は、臭素原子の含有量が多いもの(例えば、難燃剤中、好ましくは65質量%以上、より好ましくは80質量%以上)が好ましく、この含有量が多いほど、優れた難燃性を架橋成形体に付与できる。臭素原子の含有量の測定方法は、例えばエネルギー分散型蛍光X線(EDX)、燃焼イオンクロマトグラフ等で測定できる。
架橋性フッ素ゴム組成物が含有する臭素系難燃剤は1種でも2種以上でもよい。
架橋性フッ素ゴム組成物中において、三酸化アンチモンと臭素系難燃剤の合計含有量は、特に制限されず、各成分の含有量を満たす範囲で適宜に設定される。
架橋性フッ素ゴム組成物は、無機フィラーを含有することが好ましい。
無機フィラーとしては、特に限定されないが、架橋性フッ素ゴム組成物をシラン架橋法により架橋させる場合、その表面に、シランカップリング剤のシラノール縮合可能な反応部位と水素結合若しくは共有結合等、又は分子間結合により、化学結合しうる部位を有するものが好ましい。シランカップリング剤の反応部位と化学結合しうる部位としては、特に制限されないが、OH基(水酸基、含水若しくは結晶水の水分子、カルボキシ基等のOH基)、アミノ基、SH基等が挙げられる。
無機フィラーは、シリカ、炭酸カルシウム、酸化亜鉛、焼成クレー及びタルクからなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
無機フィラーの、架橋性フッ素ゴム組成物中の含有量は、ベースゴム100質量部に対して、0.5〜200質量部が好ましく、5〜160質量部がより好ましく、10〜100質量部が更に好ましい。無機フィラーの含有量が上記範囲内にあると、機械特性、耐摩耗性を更に高めることができる。
架橋性フッ素ゴム組成物は、電線、電気ケーブル、電気コード、シート、発泡体、チューブ、パイプにおいて、一般的に使用されている各種の添加剤を本発明の効果を損なわない範囲で含有してもよい。このような添加剤として、例えば、酸化防止剤、滑剤、金属不活性剤等が挙げられる。
酸化防止剤としては、特に限定されないが、例えば、アミン酸化防止剤、フェノール酸化防止剤又は硫黄酸化防止剤等が挙げられ、架橋性フッ素ゴム組成物中の含有量としては、例えば、ベースゴム100質量部に対して、0.1〜15質量部が好ましく、0.1〜10質量部がより好ましい。
架橋性フッ素ゴム組成物を電子線架橋法により架橋させる場合、架橋性フッ素ゴム組成物は架橋助剤を含有してもよい。架橋助剤としては、電子線架橋法に通常用いられるものを特に制限されることなく用いることができる。通常、多官能性化合物が挙げられ、例えば、ポリプロピレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート等の(メタ)アタクリレート系化合物、トリアリルシアヌレート等のアリル系化合物、マレイミド系化合物、ジビニル系化合物が挙げられる。架橋助剤の、架橋性フッ素ゴム組成物中の含有量は、適宜に設定され、例えば、架橋助剤は2〜8質量%に設定することができる。
架橋性フッ素ゴム組成物を有機過酸化物架橋法又はシラン架橋法により架橋させる場合、架橋性フッ素ゴム組成物は有機過酸化物を含有する。
有機過酸化物は、少なくとも熱分解によりラジカルを発生して、触媒として、ベースゴム同士の架橋反応、又はシランカップリング剤のベースゴムへのラジカル反応によるグラフト化反応を生起させる働きをする。特にシランカップリング剤の反応部位が例えばエチレン性不飽和基を含む基である場合、エチレン性不飽和基とベースゴムとのラジカル反応(ベースゴム成分からの水素ラジカルの引き抜き反応を含む)によるグラフト化反応を生起させる働きをする。
有機過酸化物は、1種を用いても、2種以上を用いてもよい。
有機過酸化物の、架橋性フッ素ゴム組成物中の含有量は、特に制限されず、架橋法に応じて適宜に決定することができる。例えば、ベースゴム100質量部に対して、0.003〜0.5質量部が好ましい。これにより、適切な範囲で架橋反応又はグラフト化反応を行うことができ、架橋性フッ素ゴム組成物の成形性を高め、更に高い機械特性を架橋成形体に付与できる。有機過酸化物の含有量は、0.005〜0.5質量部がより好ましく、0.005〜0.2質量部が更に好ましい。有機過酸化物の含有量を上記範囲内にすることにより、更に高い耐熱性を架橋成形体に付与でき、ゲル状のブツ(凝集塊)の発生を抑えることもできる。
架橋性フッ素ゴム組成物をシラン架橋法により架橋させる場合、シラン架橋性フッ素ゴム組成物はシラノール縮合触媒を含有することが好ましい。
シラノール縮合触媒は、ベースゴムにグラフトされたシランカップリング剤を水分の存在下で縮合反応させる働きがある。このシラノール縮合触媒の働きに基づき、シランカップリング剤を介して、ベースゴム同士が架橋される。その結果、優れた耐熱性を架橋成形体に付与できる。
本発明に用いられるシラノール縮合触媒としては、有機スズ化合物、金属石けん、白金化合物等が挙げられる。有機スズ化合物が好ましく、例えば、ジブチルスズジラウレート、ジオクチルスズジラウレート、ジブチルスズジオクチエート、ジブチルスズジアセテートが挙げられる。
シラノール縮合触媒は、単独で用いてもよいが、ゴムと混合して用いることが好ましい。このようなゴム(キャリアゴムともいう)としては、特に限定されないが、上記ベースゴムで説明したフッ素ゴム、各種共重合体が挙げられ、上記ベースゴムの一部を用いることが好ましい。
架橋性フッ素ゴム組成物は、通常、上記成分を混合して調製することができる。
混合時に、シランカップリング剤が三酸化アンチモンの表面に付着して凝集抑制剤として機能することにより、ベースゴム中での三酸化アンチモンの分散を高め、架橋成形体に、優れた難燃性を付与しつつも、機械特性、耐熱性及び耐摩耗性を付与できる。各成分の混合順は、特に制限されないが、三酸化アンチモンとシランカップリング剤とを予め混合することが、三酸化アンチモンの分散を更に高めて、難燃性、機械特性、耐熱性及び耐摩耗性を更に高い水準で発現させることができる点で、好ましい。
シラン架橋性フッ素ゴム組成物は、上記各成分を一度に(溶融)混合して調製することもできる。溶融混合する場合の条件は、特に限定されないが、後述する工程(A−2)の条件を採用できる。シラン架橋性フッ素ゴム組成物は、後述する耐熱性難燃架橋フッ素ゴム成形体の製造方法における工程(A)により調製することが好ましい。上記各成分の溶融混合、又は工程(A)により調製したシラン架橋性フッ素ゴム組成物は、後述するように、シランカップリング剤がベースゴムにグラフト化反応したシラン架橋性ゴムを含有し、更には有機過酸化物の分解物を含有していてもよい。
本発明の耐熱性難燃架橋フッ素ゴム成形体は、上述の架橋性フッ素ゴム組成物を架橋反応処理して製造することができる。架橋反応(架橋法)は、上述した通りである。
シラン架橋法による架橋成形体の製造方法としては、下記工程(A)、工程(B)及び工程(C)を有する製造方法(本発明の製造方法ということがある。)が好ましい。
本発明において、混合するとは、均一な混合物を得ることをいう。
工程(A):フッ素ゴム60〜97質量%及びエチレン共重合体3〜40質量%を含
有するベースゴム100質量部に対して、三酸化アンチモン1〜20質
量部と、上記ベースゴムにグラフト化反応しうるグラフト化反応部位及
び上記三酸化アンチモンに付着する付着部位を有するシランカップリン
グ剤2〜15質量部と、有機過酸化物0.003〜0.5質量部と、シ
ラノール縮合触媒とを混合して架橋性フッ素ゴム組成物を得る工程、
工程(B):工程(A)で得られた架橋性フッ素ゴム組成物を成形して成形体を得る
工程
工程(C):工程(B)で得られた成形体と水とを接触させて耐熱性難燃架橋フッ素
ゴム成形体を得る工程
工程(A)において有機過酸化物の配合量を上記含有量の範囲にすると、上記理由に加えて、ベースゴムにシランカップリング剤を効果的にグラフト化反応させることができ、未反応のシランカップリング剤同士の縮合反応及び未反応のシランカップリング剤の揮発を抑制できる。また、ベースゴム同士の架橋反応を抑制することもできる。その結果、上述のように、架橋成形体に高い耐熱性を付与しながらも、ブツの発生を抑えることができる。
すなわち、本発明においては、工程(A)を行うに際して、下記工程(A−1)でベースゴムの全部を用いる場合、下記工程(A−1)、工程(A−2)及び工程(A−4)を行い、下記工程(A−1)でベースゴムの一部を用いる場合、下記工程(A−1)〜工程(A−4)を行うことがより好ましい。
工程(A−1):三酸化アンチモン及びシランカップリング剤を混合する工程
工程(A−2):工程(A−1)で得られた混合物とベースゴムの全部又は一部とを
有機過酸化物の存在下で有機過酸化物の分解温度以上の温度で溶融
混合して、上記ベース樹脂と上記シランカップリング剤とをグラフ
ト化反応させる工程
工程(A−3):シラノール縮合触媒とキャリアゴムとしてベースゴムの残部とを混
合する工程
工程(A−4):工程(A−2)で得られた溶融混合物と、シラノール縮合触媒又は
工程(A−3)で得られた混合物とを混合する工程
本発明において、「ベースゴムの一部」とは、ベースゴムのうち工程(A−2)で使用するベースゴムであって、ベースゴムそのものの一部(ベースゴムと同一組成を有する)、ベースゴムを構成する成分の一部、ベースゴムを構成する一部の成分(例えば、複数の成分のうちの特定の成分全量)をいう。
また、「ベースゴムの残部」とは、ベースゴムのうち工程(A−2)で使用する一部を除いた残りのベースゴムであって、具体的には、ベースゴムそのものの残部、ベースゴムを構成する成分の残部、ベースゴムを構成する残りの成分をいう。
工程(A−2)でベースゴムの一部を配合する場合、工程(A)におけるベースゴムの配合量100質量部は、工程(A−1)〜工程(A−4)、好ましくは工程(A−2)及び工程(A−3)で混合されるベースゴムの合計量である。
ここで、工程(A−3)でベースゴムの残部が配合される場合、ベースゴムは、工程(A−2)において、好ましくは80〜99質量%、より好ましくは85〜95質量%が配合され、工程(A−3)において、好ましくは1〜20質量%、より好ましくは5〜15質量%が配合される。
混合方法としては、ゴム、プラスチック等で通常用いられる方法であれば、特に限定されない。混練装置としては、一軸押出機、二軸押出機、ロール、バンバリーミキサー又は各種のニーダー等が用いられる。ベースゴム成分の分散性、及び架橋反応の安定性の面で、バンバリーミキサー又は各種のニーダー等の密閉型ミキサーが好ましい。
混合は、均一に混合できる方法であればよく、ベースゴムの溶融下で行う混合(溶融混合)が挙げられる。溶融混合は上記工程(A−2)の溶融混合と同様に行うことができる。例えば、混合温度は、80〜250℃、より好ましくは100〜240℃で行うことができる。その他の条件、例えば混合時間は適宜設定することができる。
キャリアゴムとしての上記ベースゴムの残部とシラノール縮合触媒との混合割合は、特に限定されないが、好ましくはシラン架橋性フッ素ゴム組成物中の上記含有量を満たすように、設定される。
工程(A−4)において、シラノール縮合触媒を混合する場合、シラノール縮合触媒単独で、又はシラノール縮合触媒と他の樹脂又はゴムとの混合物として、混合することができる。
混合方法は、特に制限されないが、工程(A−2)の溶融混合と基本的に同様であり、少なくともベースゴムが溶融する温度で混合する。混合温度は、ベースゴムに応じて適宜に選択され、例えば、好ましくは80〜250℃、より好ましくは100〜240℃である。その他の条件、例えば混合(混練)時間は適宜設定することができる。
工程(A−4)においては、シラノール縮合反応を避けるため、シランMBとシラノール縮合触媒が混合された状態で高温状態に長時間保持されないことが好ましい。
この成形工程(B)は、シラン架橋性フッ素ゴム組成物を成形できればよく、上述の、シラン架橋性フッ素ゴム組成物の成形方法を特に制限されることなく適用できる。
この工程(C)の処理自体は、通常の方法によって行うことができる。シランカップリング剤同士の縮合は常温で進行する。したがって、工程(C)において、成形体を水に積極的に接触させる必要はない。この架橋反応を促進させるために、成形体と水分とを接触させることもできる。例えば、高湿度雰囲気への暴露、温水への浸水、湿熱槽への投入、高温の水蒸気への暴露等の積極的に水に接触させる方法を採用できる。また、その際に水分を内部に浸透させるために圧力をかけてもよい。
本発明の製造方法により本発明の架橋成形体で構成した被覆層(絶縁層)を作製して、配線材を製造する場合、例えば、シランMBとシラノール縮合触媒等とのドライブレンド物等の成形材料を押出機(押出被覆装置)内で溶融混合して耐熱性架橋性フッ素ゴム組成物を調製しながら、この耐熱性架橋性フッ素ゴム組成物を導体等の外周面に押し出(共押出成形)して、水と接触させる。耐熱性架橋性フッ素ゴム組成物の成形は、三酸化アンチモンを含有する耐熱性難燃架橋フッ素ゴム組成物を用いること以外は通常の成形方法を特に制限されずに適用できる。
下記工程(a)、工程(b)及び工程(c)を有する耐熱性難燃架橋フッ素ゴム成形体の製造方法であって、
工程(a):フッ素ゴム60〜97質量%及びエチレン共重合体3〜40質量%を含有するベースゴム100質量部に対して、三酸化アンチモン1〜20質量部と、ベースゴムにグラフト化反応しうるグラフト化反応部位及び三酸化アンチモンに付着する付着部位を有するシランカップリング剤2〜15質量部と、有機過酸化物0.003〜0.5質量部とを、上記有機過酸化物の分解温度以上の温度で溶融混合し、ベースゴムとシランカップリング剤とをグラフト化反応させて、シランマスターバッチを調製する工程
工程(b):工程(a)で得られたシランバスターバッチとシラノール縮合触媒とを混合した後に成形する工程
工程(c):工程(b)で得られた成形物と水分とを接触させて架橋させる工程
エチレン共重合体が、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体及びエチレン−(メタ)アクリル酸共重合体からなる群より選択される少なくとも1種を含む、製造方法。
上記方法において、工程(a)及び工程(b)の混合工程は上記工程(A)に対応し、工程(b)の形成工程は上記工程(B)に対応し、工程(c)は上記工程(C)に対応する。
架橋フッ素ゴムを含む架橋成形体に難燃性を付与する場合、最も頻繁に使用される難燃剤の一つとして、三酸化アンチモンの使用が挙げられる。一般に三酸化アンチモンは、ハロゲンと反応してハロゲン化アンチモンを形成することで、より高い難燃性を発揮することが知られている。架橋フッ素ゴムを含む材料に三酸化アンチモンを配合すると、燃焼の際に、架橋フッ素ゴムに含まれるハロゲンであるフッ素原子と三酸化アンチモンとが反応してフッ化アンチモンを形成し、より高い難燃性を発揮することができる。しかし、架橋フッ素ゴムを含む架橋成形体に三酸化アンチモンを含有させると、得られる架橋成形体に難燃性を付与できても耐摩耗性を低下させる。これは、架橋成形体中で三酸化アンチモンが偏在した状態になるためと考えられる。
しかも、シラン架橋法では、上述の工程(A−2)においては、三酸化アンチモンに付着若しくは結合したシランカップリング剤は、三酸化アンチモンとの付着若しくは結合を維持したまま、又は三酸化アンチモンから脱離してグラフト化反応部位がベースゴムにグラフト化反応する。これにより、機械特性、耐熱性及び耐摩耗性をバランスよく改善できる。すなわち、三酸化アンチモンとの付着若しくは結合を維持したままシランカップリング剤がグラフト化反応すると、ベースゴム全体にシランカップリング剤で覆われた三酸化アンチモンが分散し、三酸化アンチモンを単独で配合したときと比較して耐摩耗性を大幅に向上させることができる。一方、三酸化アンチモンから脱離したシランカップリング剤がベースゴムにグラフト化反応すると、工程(C)でシランカップリング剤の付着部位がシラノール縮合反応してシラン架橋構造を形成して、架橋密度が向上し、優れた機械特性と高い耐熱性を発現させ、更には耐摩耗性を補強できる。更に、無機フィラーを併用する場合、シランカップリング剤は無機フィラーにも結合することができ、三酸化アンチモンの場合と同様に、無機フィラーとの結合を維持したまま、又は脱離してグラフト化反応が進行して、機械特性、耐熱性及び耐摩耗性のバランスよい改善に貢献する。
本発明の耐熱性製品として、例えば、耐熱性難燃絶縁電線等の絶縁電線、ケーブル又は光ファイバーケーブルの被覆材料、ゴム代替電線・ケーブルの材料、その他、電子レンジ又はガスレンジ用耐熱部品、耐熱難燃電線部品、難燃耐熱シート、難燃耐熱フィルム等が挙げられる。また、電源プラグ、コネクター、スリーブ、ボックス、テープ基材、チューブ、シート、パッキン、クッション材、防震材、電気・電子機器の内部配線及び外部配線に使用される配線材、特に電線や光ファイバーケーブルが挙げられる。
表1及び表2において、各例の配合量に関する数値は特に断らない限り質量基準である。
<ベースゴム>
(フッ素ゴム)
「アフラス400E」(商品名、AGC社製、テトラフルオロエチレン−プロピレン共重合体ゴム、フッ素含有量57質量%)
「アフラス150P」(商品名、AGC社製、テトラフルオロエチレン−プロピレン共重合体ゴム、フッ素含有量57質量%)
「バイトンA500」商品名、デュポンエラストマー社製、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体ゴム、フッ素含有量66質量%)
フッ素ゴムのフッ素含有量は、上記の「炭酸カリウム加熱分解法」による値である。
(エチレン共重合体)
「VF120T」(商品名、宇部興産社製、エチレン−酢酸ビニル共重合体の樹脂)
「フサボンドC250」(商品名、デュポン社製、無水マレイン酸変性エチレン−酢酸ビニル共重合体)
「AT−3TL」(商品名、鈴裕化学社製、三酸化アンチモン)
<臭素系難燃剤>
「サイテックス 8010」(商品名、アルベマール日本社製、エチレンビス(ペンタブロモフェニル)、臭素含有量82質量%)
「亜鉛華1号」(商品名、三井金属社製、酸化亜鉛)
「ソフトン1200」(商品名、備北粉化工業社製、炭酸カルシウム)
「アエロジル200」(商品名、日本アエロジル社製、親水性フュームドシリカ、非結晶性シリカ)
「クリスタライト5X」(商品名、龍森社製、結晶性シリカ)
「サティトンSP−33」(商品名、エンゲルハード社製、焼成クレー)
「MVタルク」(商品名、日本ミストロン株式会社製、タルク)
「キョーワマグ30」(商品名、協和化学工業社製、酸化マグネシウム)
「ステアリン酸バリウム」(川村化成工業社製)
「KBM−1003」(商品名、信越化学工業社製、ビニルトリメトキシシラン)
「KBE−1003」(商品名、信越化学工業社製、ビニルトリエトキシシラン)
「TAIC」(商品名、三菱ケミカル社製、トリアリルイソシアヌレート)
「イルガノックス1010」(商品名、BASF社製、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ヒンダードフェノール酸化防止剤)
「パーヘキサ25B」(商品名、日本油脂社製、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン、分解温度154℃)
「アデカスタブOT−1」(商品名、ADEKA社製、ジオクチルスズジラウレート)
本実施例及び比較例においては、電子線架橋性フッ素ゴム組成物を調製し、これを導体の外周面上に押出成形した後に電子線架橋法により架橋反応処理して形成した被覆層を有する絶縁電線を製造した。
まず、表1の「電子線架橋性フッ素ゴム組成物」欄に示す各成分のうち三酸化アンチモンとシランカップリング剤とを表1に示す割合(質量部)で東洋精機製10Lヘンシェルミキサーに投入し、室温(25℃)で1時間混合して、粉体混合物を得た。次いで、得られた粉体混合物と、表1に示す残りの成分とを、表1に示す割合(質量部)で、バンバリーミキサーを用いて溶融混合(混練温度200℃、混練時間10分)した後、ペレット化して、コンパウンド(電子線架橋性フッ素ゴム組成物)をそれぞれ得た。
このようにして、導体の外周面上に耐熱性難燃架橋フッ素ゴム成形体で構成された被覆層を有する絶縁電線をそれぞれ製造した。
本実施例及び比較例においては、シラン架橋性フッ素ゴム組成物を調製し、これを導体の外周面上に押出成形(押出被覆)した後にシラノール縮合反応させて形成した被覆層を有する絶縁電線を製造した。
実施例18〜35及び比較例8〜14において、ベースゴムの10質量%(フッ素ゴム)を触媒MBのキャリアゴムとして用いた。
次いで、得られたドライブレンド物を、L/D=24、スクリュー直径30mmのスクリューを備えた押出機(圧縮部スクリュー温度170℃、ヘッド温度200℃)に導入した。この押出機内でドライブレンド物を溶融混合しながら(工程(A−4))、1/0.8TA導体の外周面上に肉厚0.8mmで被覆し、外径2.4mmの被覆導体を得た(工程(B))。この被覆導体を温度40℃、湿度95%の雰囲気に1週間放置して、水と接触させた(工程(C))。
このようにして、上記導体の外周面上に、耐熱性難燃架橋フッ素ゴム成形体で構成された被覆層を有する絶縁電線をそれぞれ製造した。
各絶縁電線から導体を抜き取って作製した管状試験片をJIS C 3005に基づき、標線間20mm、及び引張速度200mm/分の条件で、引張強さ(MPa)及び引張伸び(%)を測定した。
引張強さの評価は、14MPa以上であるものを極めて優れているもの「A」、11MPa以上14MPa未満であるものを優れているもの「B」、8.5MPa以上11MPa未満であるものを良好なもの「C」、8.5MPa未満であるものを不合格「D」とした。
引張伸びの評価は、200%以上であるものを極めて優れているもの「A」、150%以上200%未満であるものを優れているもの「B」、125%以上150%未満であるものを良好なもの「C」、125%未満であるものを不合格「D」とした。
本試験は、200℃程度の高温環境下における配設(使用)状態(配線材の温度が一時的に230℃程度まで上昇しうる)を想定した高耐熱性を評価する試験であり、上記引張試験で作製した管状試験片を加熱温度236℃に168時間保持して、行った。具体的には、保持後の管状試験片を用いて、JIS C 3005に基づき、標線間20mm、及び引張速度200mm/分の条件で、保持後の引張強さ(MPa)及び保持後の引張伸び(%)を測定した。
保持後の引張強さを保持前の引張強さ(上記引張試験で得られた引張強さ)で除して、引張強さの残率(%)を算出した。同様にして、引張伸びの残率(%)を算出した。
引張強さ残率及び引張伸び残率の評価は、それぞれ、90%以上であるものを極めて優れているもの「A」、80%以上90%未満であるものを優れているもの「B」、80%未満であるものを不合格「D」とした。
難燃性の評価は、UL 2256に記載の垂直燃焼試験(VW−1)に準拠した方法で実施した。
製造した各絶縁電線を、たるみのない状態で垂直に張った後、この絶縁電線上部に指示旗、絶縁電線の下方に綿を設置(敷設)した。フードを外した状態で15秒の着火(接炎)と60秒の離火を5回繰り返した。
難燃性の評価は、15秒以上の絶縁電線の燃焼、指示旗の燃焼及び綿の燃焼、炭化物のドリップの全てが観察されなかったものを、極めて優れているもの「A」、30秒以上の絶縁電線の燃焼、指示旗の燃焼及び綿の燃焼、炭化物のドリップの全てが観察されなかったものを、優れているもの「B」、指示旗の燃焼及び綿の燃焼は観察されなかったが、31〜60秒の絶縁電線の燃焼又は炭化物のドリップが観察されたものを良好であるもの「C」、61秒以上の燃焼、指示旗の燃焼又は綿の燃焼が観察されたものを不合格「D」とした。
製造した各絶縁電線を試験サンプルとして用いて、欧州統合規格 EN50305に準拠して耐摩耗性試験を行った。
具体的には、水平に設置したサンプルの上に、10Nの負荷荷重を加えながら、直径0.45mmの鋼ブレードを用いて被覆層を摩耗させた。そのブレードがサンプルの導体に達するまで連続して往復運動させた。摩耗部分は、1つのサンプルについて、周方向に中心角90度、180度、270度及び360度の外周面4か所とする。
試験箇所の往復回数の平均値を算出して耐摩耗性を評価した。評価は、平均値が300回以上であるものを極めて優れているもの「A」、200〜299回であるものを優れているもの「B」、100〜199回であるものを良好なもの「C」、99回以下のものを不合格「D」とした。なお、比較例8は、評価「D」に相当するが、上記往復回数の平均値は43回であった。
Claims (14)
- 下記架橋性フッ素ゴム組成物を架橋反応処理してなる耐熱性難燃架橋フッ素ゴム成形体。
[架橋性フッ素ゴム組成物]
フッ素ゴム60〜97質量%及びエチレン共重合体3〜40質量%を含有するベースゴム100質量部に対して、三酸化アンチモン1〜20質量部と、前記三酸化アンチモンに付着する付着部位を有するシランカップリング剤2〜15質量部とを含有し、前記エチレン共重合体が、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体及びエチレン−(メタ)アクリル酸共重合体からなる群より選択される少なくとも1種を含む、架橋性フッ素ゴム組成物 - 前記架橋性フッ素ゴム組成物が、前記ベースゴム100質量部に対して、臭素系難燃剤0.5〜20質量部及び/又は無機フィラー0.5〜200質量部を含有する請求項1に記載の耐熱性難燃架橋フッ素ゴム成形体。
- 前記フッ素ゴムがテトラフルオロエチレン−プロピレン共重合体ゴムを含む、請求項1又は2に記載の耐熱性難燃架橋フッ素ゴム成形体。
- 前記エチレン共重合体の一部又は全部が不飽和カルボン酸で変性されている、請求項1〜3のいずれか1項に記載の耐熱性難燃架橋フッ素ゴム成形体。
- 前記シランカップリング剤がビニルトリメトキシシラン又はビニルトリエトキシシランである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の耐熱性難燃架橋フッ素ゴム成形体。
- 前記臭素系難燃剤がエチレンビス(ペンタブロモフェニル)である、請求項2〜5のいずれか1項に記載の耐熱性難燃架橋フッ素ゴム成形体。
- 前記無機フィラーが、シリカ、炭酸カルシウム、酸化亜鉛、焼成クレー及びタルクからなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項2〜6のいずれか1項に記載の耐熱性難燃架橋フッ素ゴム成形体。
- 下記工程(A)、工程(B)及び工程(C)を有する耐熱性難燃架橋フッ素ゴム成形体の製造方法であって、
工程(A):フッ素ゴム60〜97質量%及びエチレン共重合体3〜40質量%を含
有するベースゴム100質量部に対して、三酸化アンチモン1〜20質
量部と、前記ベースゴムにグラフト化反応しうるグラフト化反応部位及
び前記三酸化アンチモンに付着する付着部位を有するシランカップリン
グ剤2〜15質量部と、有機過酸化物0.003〜0.5質量部と、シ
ラノール縮合触媒とを混合して架橋性フッ素ゴム組成物を得る工程、
工程(B):工程(A)で得られた架橋性フッ素ゴム組成物を成形して成形体を得る
工程
工程(C):工程(B)で得られた成形体と水とを接触させて耐熱性難燃架橋フッ素
ゴム成形体を得る工程
前記エチレン共重合体が、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体及びエチレン−(メタ)アクリル酸共重合体からなる群より選択される少なくとも1種を含み、
工程(A)の混合を行うに際して、前記三酸化アンチモンと前記シランカップリング剤とを予め混合する、製造方法。 - 前記工程(A)が、工程(A−1)でベースゴムの全部を用いる場合、下記工程(A−1)、工程(A−2)及び工程(A−4)を有し、工程(A−1)でベースゴムの一部を用いる場合、下記工程(A−1)〜工程(A−4)を有する、請求項8に記載の製造方法。
工程(A−1):三酸化アンチモン及びシランカップリング剤を混合する工程
工程(A−2):工程(A−1)で得られた混合物とベースゴムの全部又は一部とを
有機過酸化物の存在下で有機過酸化物の分解温度以上の温度で溶融
混合して、前記ベース樹脂と前記シランカップリング剤とをグラフ
ト化反応させる工程
工程(A−3):シラノール縮合触媒とキャリアゴムとしてベースゴムの残部とを混
合する工程
工程(A−4):工程(A−2)で得られた溶融混合物と、シラノール縮合触媒又は
工程(A−3)で得られた混合物とを混合する工程 - 前記工程(A−1)又は工程(A−2)において、臭素系難燃剤0.5〜20質量部及び/又は無機フィラー0.5〜200質量部を混合する、請求項9に記載の製造方法。
- 前記工程(A−2)の溶融混合が密閉型ミキサーを用いて行われる、請求項9又は10に記載の製造方法。
- 請求項8〜11のいずれか1項に記載の製造方法により製造された耐熱性難燃架橋フッ素ゴム成形体。
- 請求項1〜7及び12のいずれか1項に記載の耐熱性難燃架橋フッ素ゴム成形体を含む耐熱性製品。
- 前記耐熱性難燃架橋フッ素ゴム成形体からなる被覆層を導体の外周面に有する請求項13に記載の耐熱性製品。
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