JP2021155468A - 接着剤組成物 - Google Patents

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Abstract

【課題】耐熱性に優れつつ、かつ、接着強度に優れる技術を提供する。【解決手段】接着剤組成物は、微細繊維状セルロースと、マトリクス樹脂と、を含有し、前記微細繊維状セルロースは、(A)数平均繊維径が2nm以上500nm以下であり、(B)平均アスペクト比が10以上1000以下であり、(C)セルロースI型結晶構造を有し、(D)アニオン性官能基を有し、(E)前記(D)記載のアニオン性官能基の一部、または全てに、所定の有機オニウムイオンが結合している。【選択図】なし

Description

本発明は、接着剤組成物に関する。
従来から、接着剤に微細繊維状セルロースを用いることが知られている(例えば、特許文献1)。特許文献1では、微細繊維状セルロースと、ポリエーテルアミンとを含む接着剤組成物が開示されている。
特開2018−44097号公報
しかしながら、特許文献1に記載の接着剤組成物は、耐熱性に優れるが、接着強度については改善の余地があった。このため、耐熱性に優れつつ、接着強度に優れる接着剤組成物の開発が望まれていた。
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することができる。
(1)本発明の一形態によれば、微細繊維状セルロースと、マトリクス樹脂と、を含有する接着剤組成物が提供される。この接着剤組成物において、前記微細繊維状セルロースは、以下の(A)から(E)の条件を満たすことを特徴とする。
(A)数平均繊維径が2nm以上500nm以下
(B)平均アスペクト比が10以上1000以下
(C)セルロースI型結晶構造を有する
(D)アニオン性官能基を有する
(E)前記(D)記載のアニオン性官能基の一部、または全てに、下記式(1)で示す有機オニウムイオンが結合している
Figure 2021155468
〔前記式(1)中、Mは窒素原子又はリン原子を示し、R、R、R、Rは、炭素数1以上20以下の直鎖もしくは分岐のアルキル基、アレーン基、又はアリル基を示す。〕
この形態の接着剤組成物によれば、耐熱性に優れつつ、接着強度に優れる。
(2)上記形態の接着剤組成物において、前記式(1)中、R、R、R、Rの少なくとも一つは、炭素数が6以上であってもよい。
この形態の接着剤組成物によれば、耐熱性に優れつつ、より接着強度に優れる。
(3)上記形態の接着剤組成物において、前記アニオン性官能基は、カルボキシ基であってもよい。
この形態の接着剤組成物によれば、微細繊維状セルロースへのアニオン性官能基の導入が容易である。
(4)上記形態の接着剤組成物において、前記マトリクス樹脂は、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、酸ビニル樹脂、及び炭化水素樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一つを含有してもよい。
この形態の接着剤組成物によれば、より耐熱性に優れつつ、より接着強度に優れる。
(5)上記形態の接着剤組成物において、前記マトリクス樹脂は、エポキシ樹脂と、ウレタン樹脂との少なくとも一つを含有してもよい。
この形態の接着剤組成物によれば、微細繊維状セルロースとの相溶性に優れる。
(6)上記形態の接着剤組成物において、前記マトリクス樹脂と前記微細繊維状セルロースの固形分の合計量に対し、前記微細繊維状セルロースの固形分濃度は、0.05質量%以上3.0質量%以下であってもよい。
この形態の接着剤組成物によれば、ハンドリング性と増粘性とに優れる。
(7)上記形態の接着剤組成物において、前記微細繊維状セルロースの含有量に対する前記アニオン性官能基の含有量(アニオン性官能基の含有量[mmol]/微細繊維状セルロースの含有量[g])は、1.0mmol/g以上3.0mmol/g以下であってもよい。
この形態の接着剤組成物によれば、特に接着強度に優れる。
なお、本発明は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、接着剤組成物を用いた筆記具や、接着剤組成物の製造方法等の態様で実現することができる。
繊維径の測定方法を説明する図。
A.接着剤組成物
本発明の一実施形態である接着剤組成物は、微細繊維状セルロースと、マトリクス樹脂と、を含有する接着剤組成物であって、微細繊維状セルロースは、以下の(A)から(E)の条件を満たすことを特徴とする。
(A)数平均繊維径が2nm以上500nm以下
(B)平均アスペクト比が10以上1000以下
(C)セルロースI型結晶構造を有する
(D)アニオン性官能基を有する
(E)(D)記載のアニオン性官能基の一部、または全てに、下記式(1)で示す有機オニウムイオンが結合している
Figure 2021155468
〔式(1)中、Mは窒素原子又はリン原子を示し、R、R、R、Rは、炭素数1以上20以下の直鎖もしくは分岐のアルキル基、アレーン基、又はアリル基を示す。〕
本明細書において、上記(1)式に記載の有機オニウムイオンを、単に「有機オニウムイオン」とも呼ぶ。
本実施形態の接着剤組成物は、耐熱性に優れつつ、かつ、接着強度に優れる。本明細書において、接着とは、物質同士が接触している面を接着剤が媒介して結合する現象を意味する。接着が破壊される要因として、例えば、接着剤の破断がある。しかし、固化後の接着剤の強度を上げることによって、接着剤の破断を抑制し、この結果として、接着力が向上する。本実施形態の接着剤組成物では、有機オニウムイオンで疎水化された微細繊維状セルロースが接着剤組成物中においてフィラーとして働き、この結果として、接着剤の強度を向上することによって、接着強度が向上したと考えられる。一方、ポリエーテルアミンで疎水化された微細繊維状セルロースを使用した場合、ポリエーテルアミンは分子量が大きいために可塑性が高いため、ポリエーテルアミンが微細繊維状セルロースのフィラーとしての効果を打ち消すため、期待するほどの接着強度が得られないと考えられる。
[微細繊維状セルロース]
微細繊維状セルロースは、下記の条件を満たすものである。
<数平均繊維径>
上記微細繊維状セルロースの数平均繊維径は2nm以上500nm以下であるが、好ましくは2nm以上150nm以下であり、より好ましくは2nm以上100nm以下であり、特に好ましくは3nm以上80nm以下である。上記数平均繊維径が2nm未満であると、微細繊維状セルロースが溶解することにより、溶剤中で微細繊維状セルロースの3次元的ネットワークが形成されなくなり、接着強度を確保できなくなる虞がある。一方、上記数平均繊維径が500nmを超える場合も微細繊維状セルロースが沈降する虞がある。また最大繊維径は、接着強度に優れる点で、1000nm以下であることが好ましく、特に好ましくは500nm以下である。
上記微細繊維状セルロースの数平均繊維径および数平均繊維長は、例えば、以下の方法により測定することができる。すなわち、固形分率で0.05〜0.1質量%の微細セルロースの水分散体を調製した後、その分散体を、親水化処理済みのカーボン膜被覆グリッド上にキャストして、透過型電子顕微鏡(TEM)の観察用試料とする。
図1は、繊維径の測定方法を説明する図である。繊維径は、1本の繊維Fの長手方向に直交する線と繊維の外周との2つの交点間の距離を測定することで求めることができる。つまり、図1で示す点P1と点P2との間の距離を測定することで求めることができる。繊維長は、繊維の全体が観察画像中に写っている繊維の長さを測定して求める。繊維の長さを測定する際、繊維に折れ曲がりがある場合は、例えば、折れ曲がり点が1点であれば、一端から折れ曲がり点までの長さと、この折れ曲がり点から他端までの長さの合計値を繊維長とする。なお、繊維径及び繊維長は少なくとも25本以上の繊維を観察する。また、大きな繊維径の繊維を含む場合には、ガラス上へキャストした表面の走査型電子顕微鏡(SEM)像を観察してもよい。そして、構成する繊維の大きさに応じて5000倍、10000倍あるいは50000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡画像による観察を行ってもよい。このようにして得られた繊維径及び繊維長のデータにより、数平均繊維長および数平均繊維径を算出する。
<平均アスペクト比>
上記微細繊維状セルロースの平均アスペクト比は10以上1000以下であるが、好ま
しくは100以上、より好ましくは200以上である。平均アスペクト比が10未満であ
ると表面電荷が少なくなり、接着強度を確保できないという問題が生じる。
上記微細繊維状セルロースの平均アスペクト比は、先に述べた方法に従って得られた数平均繊維径および数平均繊維長を用いて、下記の式により算出される。
平均アスペクト比=数平均繊維長[nm]/数平均繊維径[nm]
<セルロースI型結晶構造>
上記微細繊維状セルロースは、I型結晶構造を有する天然由来のセルロース原料を微細化した繊維である。すなわち、天然セルロースの生合成の過程においては、まず、ほぼ例外なくミクロフィブリルと呼ばれるナノファイバーが形成されており、ミクロフィブリルが多束化することによって高次な固体構造を構成する。
上記微細繊維状セルロースを構成するセルロースがI型結晶構造を有することは、例えば、広角X線回折像測定により得られる回折プロファイルにおいて、2シータ=14〜17°付近と、2シータ=22〜23°付近の2つの位置に典型的なピークをもつことから同定することができる。
<アニオン性官能基>
上記微細繊維状セルロースはアニオン性官能基を有する。本明細書において、アニオン性官能基とは、pH7の水中において半数以上の水素イオンが乖離する官能基を示す。アニオン性官能基としては、特に制限されないが、例えば、カルボキシ基、リン酸基、硫酸基等が挙げられる。アニオン性官能基としては、微細繊維状セルロースへのアニオン性官能基の導入が容易であるため、カルボキシ基が好ましい。
微細繊維状セルロースにカルボキシ基を導入する方法としては、特に制限されないが、例えば、(i)カルボキシ基を有する化合物、カルボキシ基を有する化合物の酸無水物、及びそれらの誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種を、微細繊維状セルロースの水酸基に反応させる方法や、(ii)微細繊維状セルロースの水酸基を酸化する事によってカルボキシ基に変換する方法等が挙げられる。
上記カルボキシ基を有する化合物としては、特に限定されないが、例えば、ハロゲン化酢酸が挙げられる。ハロゲン化酢酸としては、例えば、クロロ酢酸、ブロモ酢酸、ヨード酢酸等が挙げられる。
上記カルボキシ基を有する化合物の酸無水物としては、特に限定されないが、例えば、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸、無水グルタル酸、無水アジピン酸、無水イタコン酸等のジカルボン酸化合物の酸無水物が挙げられる。
上記カルボキシ基を有する化合物の誘導体としては、特に限定されないが、例えば、カルボキシ基を有する化合物の酸無水物のイミド化物、カルボキシ基を有する化合物の酸無水物の誘導体等が挙げられる。
カルボキシ基を有する化合物の酸無水物のイミド化物としては、特に限定されないが、例えば、マレイミド、コハク酸イミド、フタル酸イミド等のジカルボン酸化合物のイミド化物が挙げられる。
カルボキシ基を有する化合物の酸無水物の誘導体としては、特に限定されないが、例えば、カルボキシ基を有する化合物の酸無水物の少なくとも一部の水素原子が置換基(例えば、アルキル基、フェニル基等)で置換されたものが挙げられる。カルボキシ基を有する化合物の酸無水物としては、特に限定されないが、例えば、ジメチルマレイン酸無水物、ジエチルマレイン酸無水物、ジフェニルマレイン酸無水物等が挙げられる。
微細繊維状セルロースの水酸基を酸化する方法としては、特に限定されないが、例えば、N−オキシル化合物を酸化触媒とし、共酸化剤を作用させる方法が挙げられる。
微細繊維状セルロースにカルボキシ基を導入する方法としては、繊維表面の水酸基の選択性に優れており、反応条件も穏やかであることから、セルロースの水酸基を酸化する方法が好ましい。以下、水酸基の酸化によりカルボキシ基が導入された微細繊維状セルロースを、「酸化セルロース」とも呼ぶ。
また、微細繊維状セルロースにリン酸基を導入する方法としては、特に限定されないが、例えば、以下の方法が挙げられる。すなわち、(i)乾燥した、あるいは湿潤状態のセルロース繊維原料に、リン酸またはリン酸誘導体の粉末や水溶液を混合する方法、(ii)セルロース繊維原料の分散液に、リン酸またはリン酸誘導体の水溶液を添加する方法等が挙げられる。これら方法においては、一般に、リン酸またはリン酸誘導体の粉末や水溶液を混合または添加した後に、脱水処理、加熱処理等を行う。このようにすることにより、セルロースを構成するグルコースユニットの水酸基にリン酸基を含む化合物またはその塩が脱水反応することによってリン酸エステルが形成されることにより、セルロースを構成するグルコースユニットの水酸基にリン酸基又はその塩が導入される。ここで、リン酸またはリン酸誘導体としては、特に限定されないが、例えば、リン原子を含有するオキソ酸、ポリオキソ酸あるいはそれらの誘導体から選ばれる少なくとも1種の化合物が挙げられる。
微細繊維状セルロースの含有量に対するアニオン性官能基の含有量(アニオン性官能基の含有量[mmol]/微細繊維状セルロースの含有量[g])は、特に限定されないが、接着強度に優れる点から、1.0mmol/g以上3.0mmol/g以下であることが好ましく、0.5mmol/g以上2.5mmol/g以下であることがより好ましく、さらに好ましくは1.5mmol/g以上2.0mmol/g以下である。
アニオン性官能基量は、以下のように測定できる。
例えば、アニオン性官能基がカルボキシ基の場合における測定法を以下に示す。すなわち、乾燥質量を精秤した微細繊維状セルロースから0.5〜1質量%スラリーを60ml調製した後、0.1Mの塩酸水溶液によってpHを約2.5とする。その後、0.05Mの水酸化ナトリウム水溶液を滴下することにより、電気伝導度測定を行う。測定はpHが約11になるまで続ける。電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(V[ml])から、下記の式に従いカルボキシ基量Cを求めることができる。
C[mmol/g]=V[ml]×(0.05/セルロース質量[g])
アニオン性官能基がカルボキシメチル基の場合における測定法を以下に示す。すなわち、乾燥質量を精秤した微細繊維状セルロースから0.6質量%スラリーに調製した後、0.1M塩酸水溶液を加えてpH2.4とする。その後、0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下することによりpHが11になるまで電気伝導度を測定する。電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量から、上記の数式に従いカルボキシ基量Cを求める。その後、下記の式に従い、カルボキシメチル基量Cmを求めることができる。
Cm[mmol/g]=(162×C)/(1−58×C)×1000
[有機オニウムイオン]
本実施形態の有機オニウムイオンは、上述の式(1)に示されるオニウムイオンである。有機オニウムイオンとしては、特に限定されない。
アルキル基を含む有機オニウムイオンとしては、例えば、テトラメチルアンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオン、テトラブチルアンモニウムイオン、テトラヘキシルアンモニウムイオン、テトラオクチルアンモニウムイオン、テトラデシルアンモニウムイオン、テトラドデシルアンモニウムイオン等が挙げられる。また、アルキル基を含む有機オニウムイオンとしては、例えば、トリメチルドデシルアンモニウムイオン、トリメチルテトラデシルアンモニウムイオン、トリメチルオクダデシルアンモニウムイオン、トリブチルドデシルアンモニウムイオン、トリオクチルメチルアンモニウムアンモニウムイオン等が挙げられる。また、アルキル基を含む有機オニウムイオンとしては、例えば、オクチルジメチルエチルアンモニウムイオン、ドデシルジメチルエチルアンモニウムイオン、ジデシルジメチルアンモニウムイオン等が挙げられる。また、アルキル基を含む有機オニウムイオンとしては、例えば、テトラエチルホスホニウムイオン、テトラブチルホスホニウムイオン、テトラオクチルホスホニウムイオン等が挙げられる。また、アルキル基を含む有機オニウムイオンとしては、例えば、トリブチルメチルホスホニウムイオン、トリブチルドデシルホスホニウムイオン、トリブチルテトラデシルホスホニウムイオン、トリブチルヘキサデシルホスホニウムイオン、トリヘキシルテトラデシルホスホニウムイオン等が挙げられる。
アレーン基を含む有機オニウムイオンとしては、例えば、ベンジルトリメチルアンモニウムイオン、ベンジルトリブチルアンモニウムイオン、ベンジルジメチルドデシルアンモニウムイオン、ベンジルジメチルテトラデシルアンモニウムイオン、ベンジルジメチルオクタデシルアンモニウムイオン等が挙げられる。また、アレーン基を含む有機オニウムイオンとしては、例えば、ベンジルジメチルフェニルアンモニウムイオン、トリエチルフェニルアンモニウムイオン、ジメチルフェニルアンモニウムイオン等が挙げられる。また、アレーン基を含む有機オニウムイオンとしては、例えば、テトラフェニルホスホニウムイオン、ベンジルトリフェニルホスホニウムイオン、メチルトリフェニルホスホニウムイオン、エチルトリフェニルホスホニウムイオン、ブチルトリフェニルホスホニウムイオン、テトラデシルトリフェニルホスホニウムイオン等が挙げられる。
アリル基を含む有機オニウムイオンとしては、例えば、ジアリルジメチルアンモニウムイオン、アリルトリフェニルホスホニウムイオン等が挙げられる。
有機オニウムイオンにおいて、より優れた接着強度を実現する観点から、R、R、R、Rの少なくとも一つは、炭素数が6以上であることが好ましい。また、有機オニウムイオンにおいて、より優れた接着強度を実現する観点から、R、R、R、Rは、全て、炭素数が6以上であることが好ましい。また、有機オニウムイオンは、R、R、R、Rにおいて、全て、炭素数が7以上10以下のアルキル基であることがさらに好ましい。具体的には、有機オニウムイオンは、テトラオクチルアンモニウムイオンと、テトラオクチルホスホニウムイオンとの少なくとも一方を含むことが好ましい。また、より優れた接着強度を実現する観点から、R、R、R、Rの炭素数の和は、50以下であることが好ましく、45以下であることがより好ましく、40以下であることがさらに好ましい。
また、微細繊維状セルロース1gあたりの有機オニウムイオンの配合量については、特に限定されないが、微細繊維状セルロース1gに対して、有機オニウムイオンが、1.0mmol以上が好ましく、1.5mmol以上がより好ましく、1.8mmol以上がさらに好ましい。このようにすることにより、微細繊維状セルロースが溶剤中において凝集することが抑制できるため、保存安定性が向上する。また、微細繊維状セルロース1gに対して、有機オニウムイオンが、3.0mmol以下が好ましく、2.5mmol以下がより好ましく、2.2mmol以下がさらに好ましい。このようにすることにより、有機オニウムイオンが可塑剤として働くことを抑制できるため、高い接着強度を実現することができる。
[マトリクス樹脂]
本実施形態の接着剤組成物は、マトリクス樹脂を含む。マトリクス樹脂としては、接着剤として使用できるものであれば特に制限されず、モノマーであってもオリゴマーであってもポリマーであってもよく、ポリマーはホモポリマーであってもコポリマーであってもよい。また、これらは一種類でも複数種類を組み合わせてもよい。
上記マトリクス樹脂としては、特に限定されないが、例えば、重縮合樹脂、重付加重合樹脂、付加縮合樹脂、付加重合樹脂が挙げられ、これらのうち微細繊維状セルロースとの相溶性の点から、重付加重合樹脂、付加重合樹脂が好ましい。
上記重付加重合樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アルデヒド樹脂、ケトン樹脂等が挙げられる。
上記付加重合樹脂としては、特に限定されないが、例えば、アクリル樹脂、酸ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂や炭化水素樹脂、およびこれらの共重合体等が挙げられる。アクリル樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル等のアクリル樹脂、およびその共重合体等が挙げられる。酸ビニル樹脂としては、特に限定されないが、例えば、アクリル−スチレン共重合体、アクリル−酢酸ビニル共重合体、アクリル−塩化ビニル共重合体、アクリル−エチレン共重合体、ポリ酢酸ビニル、酢酸ビニル−塩ビ共重合体、酢酸ビニル−エチレン共重合体、酢酸ビニル−スチレン共重合体等が挙げられる。塩化ビニル樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ポリ塩化ビニル、塩ビ−アクリル共重合体、塩ビ−エチレン共重合体、塩ビ−スチレン共重合体等が挙げられる。炭化水素樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、クロロプレン、ポリスチレン、ポリイソブチレン、スチレンーブタジエン共重合体、ポリアクリロニトリル、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、フッ素樹脂、シリコーン樹脂等が挙げられる。これらの他に無機成分で変性した合成樹脂を使用してもよく、例えば、セラミック変性フッ素樹脂、セラミック変性ウレタン樹脂、セラミック変性アクリル樹脂等が挙げられる。また、2種以上の異種ポリマーを粒子内に含む複合樹脂を使用してもよく、例えば、ウレタン/アクリル、エポキシ/アクリル、シリコーン/アクリル、ポリエステル/アクリル、フッ素樹脂/アクリル、コロイダルシリカ/アクリル、ニトロセルロース/アクリル、メラミン樹脂/アクリル等が挙げられる。
また上記重縮合樹脂としては、特に限定されないが、例えば、アミド樹脂、イミド樹脂、アルキド樹脂、フタル酸樹脂、脂肪酸変性フタル酸樹脂、フェノール変性フタル酸樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリカーボネート等が挙げられる。
上記付加縮合樹脂としては、特に限定されないが、例えば、フェノール樹脂、尿素樹脂、尿素メラミン樹脂等が挙げられる。
本実施形態のマトリクス樹脂は、微細繊維状セルロースとの相溶性の点から、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、酸ビニル樹脂、及び炭化水素樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1つを含有することが好ましく、エポキシ樹脂とウレタン樹脂との少なくとも一つを含有することが特に好ましい。
本実形態の接着剤組成物における、微細繊維状セルロースの固形分濃度は、マトリクス樹脂と微細繊維状セルロースの固形分の合計量に対し、ハンドリング性と増粘性の点から、0.05質量%以上3.0質量%以下が好ましく、1.0質量%以上2.0質量%以下の範囲がより好ましい。
本実形態の接着剤組成物における、マトリクス樹脂と微細繊維状セルロースの固形分の合計量は、特に限定されないが、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、100質量%でもよい。
[その他添加剤]
本実施形態の接着剤組成物は、必要に応じて、本発明の効果を妨げない範囲で、任意成分を含んでもよい。本実施形態の接着剤組成物には、例えば、加水分解防止剤、着色剤、難燃剤、酸化防止剤、重合開始剤、重合禁止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、離型剤、消泡剤、レベリング剤、光安定剤(例えば、ヒンダードアミン等)、酸化防止剤、導電性付与剤、摺動性付与剤、界面活性剤、触媒、硬化促進剤、無機フィラー、有機フィラー等を挙げることができる。これらの添加剤は、後述の工程(2)ないし(4)で添加することもできるが、後述する接着剤組成物の調製後に添加する方が、接着剤として必要な用途に応じて調整ができるために好ましい。
また、本実施形態の接着剤組成物には、必要に応じて非反応性溶剤を添加してもよい。上記非反応性溶剤としては、特に限定されないが、例えば、ヘキサン、ミネラルスピリット等脂肪族炭化水素溶剤;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶剤;酢酸ブチル等のエステル溶剤;メタノール、ブタノール等のアルコール溶剤;ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン等の非プロトン性極性溶剤等が挙げられる。これらの溶剤は、単独で使用しても、複数種類併用しても構わない。
[接着剤組成物の調製方法]
本実施形態の接着剤組成物は、上記微細繊維状セルロース、マトリクス樹脂、および必要に応じて各種添加剤成分を均質に混練することにより、調製することができる。この際に用いられる混練機としては、ディスパー、プラネタリーミキサー、ニーダー、ヘンシェルミキサー、ロール、押出機等を挙げることができる。また、作製した接着剤組成物は、通常の方法、例えばスプレー、シーラーガン、刷毛塗り等の方法で被接着基板に塗布することができる。
[微細繊維状セルロースの製造方法]
本実施形態の微細繊維状セルロースの製造方法は、特に限定されないが、下記工程(1)〜(4)を有する製造方法によれば、より効率的に製造できるため好ましい。
工程(1):セルロースI型結晶構造を有するセルロース繊維を水に分散させた後、そのセルロース繊維の水酸基を、カルボキシ基を有する置換基に変換する工程
工程(2):上記セルロース繊維の分散媒である水を有機溶剤に置換する工程
工程(3):上記置換後のセルロース繊維に有機オニウムイオンを添加する工程
工程(4):上記有機オニウムイオンが結合したセルロース繊維を上記有機溶媒中でナノ解繊する工程
<工程(1)>
工程(1)は、セルロースI型結晶構造を有するセルロースの水酸基を、酸化等によりカルボキシ基を有する置換基に変換させる工程である。ここで、カルボキシ基を有する置換基としては例えば、カルボキシ基、カルボキシ塩基、カルボキシアルキル基等が挙げられる。
セルロースI型結晶構造を有するセルロースとしては、一般に、天然セルロースが用いられる。ここで、天然セルロースとは、植物,動物,バクテリア産生ゲル等のセルロースの生合成系から単離した精製セルロースを意味する。天然セルロースとしては、より具体的に、針葉樹系パルプ、広葉樹系パルプ、コットンリンター,コットンリント等の綿系パルプ、麦わらパルプ,バガスパルプ等の非木材系パルプ、バクテリアセルロース(BC)、ホヤから単離されるセルロース、海草から単離されるセルロース等が挙げられる。天然セルロースのなかでも、針葉樹系パルプ、広葉樹系パルプ、コットンリンター、コットンリント等の綿系パルプ、麦わらパルプ,バガスパルプ等の非木材系パルプが好ましい。上記天然セルロースは、叩解等の表面積を高める処理を施すと、反応効率を高めることができ、生産性を高めることができるため好ましい。
上記セルロース繊維表面の水酸基がカルボキシ基を有する置換基に変換されたセルロースとしては、例えば、酸化セルロース、カルボキシメチルセルロース、多価カルボキシメチルセルロース、及び、それら塩等が挙げられる。これらのなかでも、繊維表面の水酸基の選択性に優れており、反応条件も穏やかである、N−オキシル化合物を酸化剤として用いた酸化セルロースが好ましい。以下において、N−オキシル化合物を酸化剤として用いた酸化セルロースを得る方法について、詳述する。
(酸化処理工程)
上記酸化セルロースは上記天然セルロースと、N−オキシル化合物と、共酸化剤の存在下で酸化処理をすることにより、カルボキシ基を含有するセルロース繊維が得られる。
上記酸化反応におけるセルロースの分散媒体は水であり、反応水溶液中のセルロース濃度は、セルロースの充分な拡散が可能な濃度であれば任意である。一般に、反応水溶液の約5質量%以下であるが、機械的撹拌力の強い装置を使用することにより反応濃度を上げることができる。
上記N−オキシル化合物としては、例えば、一般に酸化触媒として用いられるニトロキシラジカルを有する化合物があげられる。上記N−オキシル化合物は、水溶性の化合物が好ましく、なかでもピペリジンニトロキシオキシラジカルがより好ましく、2,2,6,6−テトラメチルピペリジノオキシラジカル、4−アセトアミド−2,2,6,6−テトラメチルピペリジノオキシラジカルが特に好ましい。上記N−オキシル化合物の添加は、触媒量と同等量を例示でき、好ましくは0.1〜4mmol/l、より好ましくは0.2〜2mmol/lの範囲で反応水溶液に添加する。
上記共酸化剤とは、直接的にセルロースの水酸基を酸化する物質ではなく、酸化触媒として用いられるN−オキシル化合物を酸化する物質のことである。例えば、次亜ハロゲン酸またはその塩、亜ハロゲン酸またはその塩、過ハロゲン酸またはその塩、過酸化水素、過有機酸等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、二種を併用してもよい。これらのなかでも、次亜塩素酸ナトリウム、次亜臭素酸ナトリウム等のアルカリ金属次亜ハロゲン酸塩が好ましい。そして、上記次亜塩素酸ナトリウムを使用する場合は、臭化ナトリウム等の臭化アルカリ金属の存在下で反応を進めることが、反応速度の点において好ましい。上記臭化アルカリ金属の添加量は、上記N−オキシル化合物に対して約1〜40倍モル量、好ましくは約10〜20倍モル量である。
上記反応水溶液のpHは約8〜11の範囲で維持されることが好ましい。水溶液の温度は約4〜40℃において任意であるが、反応は室温(25℃)で行うことが可能であり、特に温度の制御は必要としない。
一般に、目的とするカルボキシ基量等を得るために、酸化の程度を共酸化剤の添加量と反応時間により制御する。
(還元処理工程)
上記酸化処理後のセルロース繊維は、還元剤により還元させることが好ましい。これにより、アルデヒド基およびケトン基の一部ないし全部が還元され、水酸基に戻る。なお、カルボキシ基は還元されない。そして、上記還元による、上記酸化セルロースのカルボニル基(アルデヒド基とケトン基)の合計含量は、0.3mmol/g以下とすることが好ましく、特に好ましくは0.1mmol/g以下である。これにより、微細繊維状セルロースの分子量低下が抑制され、溶剤中での増粘効果を長期間維持することができる。ここで、カルボニル基(アルデヒド基とケトン基)の合計含量は、後述するセミカルバジド法によって算出される。なお、カルボニル基を0.5mmol/g以下とすることにより、長期保存による凝集物の発生を抑制でき、粘度が時間経過と共に著しく低下することを抑制できる。なお、上記還元反応に使用する還元剤としては、一般的なものを使用することが可能であるが、好ましくは、LiBH、NaBHCN、NaBHが挙げられる。これらのなかでも、NaBHは、コスト及び利用可能性という観点から特に好ましい。
カルボキシ基を有する置換基に変換されたセルロースを還元剤の量は、基準として、0.1〜20質量%が好ましく、特に好ましくは3〜10質量%である。反応条件は室温(25℃)または室温より若干高い温度で、10分〜10時間、好ましくは30分〜2時間行なわれる。
セミカルバジド法による、カルボニル基(アルデヒド基とケトン基)の合計含量の測定は、例えば、次のようにして行われる。すなわち、まず、乾燥させた試料に、リン酸緩衝液によりpH=5に調整したセミカルバジド塩酸塩3g/l水溶液を正確に50ml加えた後、密栓し、その後、二日間振とうする。ついで、この溶液10mlを正確に100mlビーカーに採取した後、5N硫酸を25ml、0.05Nヨウ素酸カリウム水溶液5mlを加え、その後、10分間撹拌する。そして、5質量%ヨウ化カリウム水溶液10mlを加えた後、直ちに自動滴定装置を用いて、0.1Nチオ硫酸ナトリウム溶液にて滴定する。その滴定量等から、下記の式に従い、試料中のカルボニル基量を求めることができる。なお、セミカルバジドは、アルデヒド基やケトン基と反応してシッフ塩基(イミン)を形成するが、カルボキシ基とは反応しないことから、上記測定により、カルボニル基量のみを定量できると考えられる。
カルボニル基量[mmol/g]=(D−B)×f×(0.125/w)
D:サンプルの滴定量[ml]
B:空試験の滴定量[ml]
f:0.1Nチオ硫酸ナトリウム溶液のファクター
w:試料量[g]
<工程(2)>
工程(2)として、まず、上記処理後のセルロース繊維を酸で洗浄することにより、工程(1)で導入したカルボキシ基を酸型にする。その後、適宜、ろ過と水洗とを繰り返すことにより精製した後、遠心分離機等により固液分離を行う。その後、有機溶剤によるセルロースの洗浄を繰り返し行った後、水から有機溶剤へと溶媒置換を行う。
(酸)
上記酸は、セルロース繊維水分散液を酸性に維持するものであり、酸の種類は特に限定されない。酸としては、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、酢酸、過酸化水素等の無機酸、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、アジピン酸、セバシン酸、セバシン酸ソーダ、ステアリン酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、フマル酸、グルコン酸等の有機酸等が挙げられる。酸によるセルロース繊維の変質や損傷を回避でき、かつ、廃液処理が容易であるため、酸としては、塩酸を用いることが好ましい。
<工程(3)>
工程(3)は、上記分散媒置換後の酸化セルロースに対し、上述の式(1)で示す有機オニウムイオンを添加する工程である。これにより、上記酸化セルロースのカルボキシ基に、上記式(1)に示される有機オニウムイオンが結合し、セルロースの親油化が行われる。なお、上記反応は、有機溶媒中で行われる。
<工程(4)>
工程(4)は、上記親油化後のセルロース繊維を有機溶剤中でナノ解繊する工程である。上記ナノ解繊に使用する分散機としては、例えば、高速回転下でのホモミキサー、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、超音波分散処理、ビーター、ディスク型レファイナー、コニカル型レファイナー、ダブルディスク型レファイナー、グラインダー等が挙げられる。これらの強力な叩解能力がある装置を使用することにより、より微細化することが可能となるため、より効率的かつ高度なダウンサイジングが可能となる。なお、上記分散機としては、例えば、スクリュー型ミキサー、パドルミキサー、ディスパー型ミキサー、タービン型ミキサー等を用いてもよい。
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、例中、「%」とあるのは、特に限定のない限り質量基準を意味する。
まず、実施例および比較例の作製に先立ち、実施例用のセルロース繊維A1〜A4および比較例用のセルロース繊維A5,A6を、以下の製造例1〜6に従って調製した。
〔製造例1:セルロース繊維A1(実施例用)の調製〕
針葉樹パルプ2gに、水150ml、臭化ナトリウム0.25g、TEMPO(2,2,6,6−テトラメチルピペリジノオキシラジカル)0.025gを加えた後、充分撹拌して分散させた。その後、13%次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、針葉樹パルプ1.0gに対して次亜塩素酸ナトリウム量が5.2mmol/gとなるように加えることにより、反応を開始した。反応の進行に伴いpHが低下するため、pHを10〜11に保持するように0.5N水酸化ナトリウム水溶液を滴下しながら、pHの変化が見られなくなるまで反応させた。この反応時間は120分だった。反応終了後、0.1N塩酸を添加することにより中和した後、遠心分離機で固液分離し、その後、純水を加えることにより、固形分濃度4%に調整した。その後、24%水酸化ナトリウム水溶液にてスラリーのpHを10に調整した。スラリーの温度を30℃とした後、水素化ホウ素ナトリウムをセルロース繊維に対して0.2mmol/g加えることによって、2時間反応させることにより、還元処理した。反応後、0.1N塩酸を添加することによりpH2以下に調整した後、ろ過と水洗とを繰り返して精製することにより、セルロース繊維A1を得た。
〔製造例2:セルロース繊維A2(実施例用)の調製〕
次亜塩素酸ナトリウム水溶液の添加量を、針葉樹パルプ1.0gに対して12.0mmol/gとした以外は、セルロース繊維A1の調製法と同様の方法にて、セルロース繊維A2を得た。
〔製造例3:セルロース繊維A3(実施例用)の調製〕
イソプロパノール(IPA)435gと水65gと水酸化ナトリウム9.9gとの混合液中に、針葉樹パルプ100gを入れた後、30℃で1時間撹拌した。このスラリーに50%モノクロル酢酸のIPA溶液23.0gを加えた後、70℃まで昇温した後、1.5時間反応させた。得られた反応物を80%メタノールで洗浄し、その後、メタノールで置換した後、乾燥させることによって、セルロース繊維A3を得た。
〔製造例4:セルロース繊維A4(実施例用)の調製〕
尿素20g、リン酸二水素ナトリウム二水和物12g、リン酸水素二ナトリウム8gを20gの水に溶解させることにより、リン酸化剤を作製した。その後、家庭用ミキサーで粉砕した針葉樹パルプ(NBKP)20gを、リン酸化剤にニーダーで攪拌しながらスプレー噴霧することにより、リン酸化剤含浸パルプを得た。次いで、リン酸化剤含浸パルプを140℃に加熱したダンパー付きの送風乾燥機内で60分間、加熱処理することにより、リン酸化パルプを得た。得られたリン酸化パルプに水を加えて固形分濃度2%とした後、攪拌混合して均一に分散させた後、濾過と脱水との操作を2回繰り返した。次いで、得られた回収パルプに水を加えることにより、固形分濃度2%とした。その後、攪拌しながら、1N水酸化ナトリウム水溶液を少しずつ添加することにより、pH12〜13のパルプスラリーを得た。続いて、このパルプスラリーを濾過後、脱水した後、更に水を加えて濾過と脱水との操作を2回繰り返した。その後、メタノールで置換後に乾燥させることにより、セルロース繊維A4を得た。
〔製造例5:セルロース繊維A5(比較例用)の調製〕
針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)50gを水4,950gに分散させることにより、パルプ濃度2%の分散液を調製した。この分散液をセレンディピターMKCA6−3(増幸産業社製)で30回処理することにより、セルロース繊維A5を得た。
〔製造例6:セルロース繊維A6(比較例用)の調製〕
原料の針葉樹パルプに代えて再生セルロースを使用するとともに、次亜塩素酸ナトリウム水溶液の添加量を、再生セルロース1.0gに対して27.0mmol/gとした以外は、セルロース繊維A1の調製法と同様の方法にて、セルロース繊維A6を調製した。
上記セルロース繊維を用いて、下記評価方法に従い、各特性の評価を行った。
<結晶構造>
X線回折装置(リガク社製、RINT−Ultima3)を用いて、セルロース繊維の回折プロファイルを測定した。2シータ=14〜17°付近と、2シータ=22〜23°付近の2つの位置に典型的なピークが見られる場合は結晶構造(I型結晶構造)が「あり」と評価し、これらのピークの少なくとも一方が見られない場合は「なし」と評価した。
<カルボキシ基量の測定>
上記セルロース繊維0.25gを水に分散させたセルロース水分散体60mlを調製した後、0.1Nの塩酸水溶液によってpHを約2.5とした。その後、0.05Mの水酸化ナトリウム水溶液を滴下することにより、電気伝導度測定を行った。測定は、pHが11になるまで続けた。電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において、消費された水酸化ナトリウム量(V)を用いて、下記式に基づいてカルボキシ基量を求めた。
カルボキシ基量[mmol/g]=V[ml]×(0.05/セルロース質量[g])
<カルボキシメチル基量の測定>
上記セルロース繊維を0.6質量%スラリーに調製した後、0.1M塩酸水溶液を加えてpH2.4とした。その後、0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下することにより、電気伝導度測定を行った。測定は、pHが11になるまで続けた。電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において、消費された水酸化ナトリウム量からカルボキシ基量を測定した後、カルボキシメチル基量は、下記式に基づいて算出することが出来る。
カルボキシメチル基量[mmol/g]=(162×C)/(1−58×C)×1000
C:カルボキシ基量[mmol/g]
<リン酸基量の測定>
上記セルロース繊維をイオン交換水で固形分濃度0.2質量%となるように希釈した後、イオン交換樹脂による処理を行った後、アルカリを用いた滴定によってリン酸基量を測定した。イオン交換樹脂による処理では、0.2%微細セルロース繊維含有スラリーに体積あたり1/10の強酸性イオン交換樹脂(オルガノ社製、アンバージェット1024)を加えた後、1時間振とう処理を行った。その後、この懸濁液を目開き90μmのメッシュ上に注ぐことにより、樹脂とスラリーとを分離した。アルカリを用いた滴定では、イオン交換後の微細セルロース繊維水分散体に、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を加えながら、水分散体が示す電気伝導度の値の変化を計測した。すなわち、電気伝導度の値が最も小さくなるまでに加えたアルカリ量[mmol]を、滴定対象スラリー中の固形分[g]で除した値を、リン酸基量[mmol/g]とした。
<カルボニル基量の測定>
上記セルロース繊維を約0.2g精秤し、これに、リン酸緩衝液によりpH=5に調整したセミカルバジド塩酸塩3g/l水溶液を正確に50ml加え、密栓し、二日間振とうした。つぎに、この溶液10mlを正確に100mlビーカーに採取し、5N硫酸25ml、0.05Nヨウ素酸カリウム水溶液5mlを加え、10分間撹拌した。その後、5質量%ヨウ化カリウム水溶液10mlを加え、直ちに自動滴定装置を用いて、0.1Nチオ硫酸ナトリウム溶液にて滴定し、その滴定量等から、下記式に従い、試料中のカルボニル基量(アルデヒド基とケトン基との合計含量)を求めた。
カルボニル基量[mmol/g]=(D−B)×f×(0.125/w)
D:サンプルの滴定量[ml]
B:空試験の滴定量[ml]
f:0.1Nチオ硫酸ナトリウム溶液のファクター
w:試料量[g]
上記複数のセルロース繊維の評価結果を以下に示す。
Figure 2021155468
〔実施例1〕
(修飾剤の調製)
テトラオクチルアンモニウムブロマイド(東京化成社製)を0.1Nになるようにエタノールへ溶解させた後、テトラオクチルアンモニウムブロマイドの5倍量のイオン交換樹脂(東京化成社製、アンバーライトIRN78)を加えた後、一晩振盪機にて攪拌した。その後、ろ過によってイオン交換樹脂を取り除くことにより、0.1Nテトラオクチルアンモニウムヒドロキシドエタノール溶液を得た。
(接着剤組成物の調製)
上記セルロース繊維A1にメタノールを加えてろ過するメタノール洗浄を繰り返した後、さらにメチルエチルケトン(Methyl ethyl ketone:MEK)洗浄を繰り返すことにより、上記セルロース繊維に含まれる水をMEKに置換した。その後、MEKで置換したセルロース繊維A1に、MEKとセルロース繊維のカルボキシ基量と等量の0.1Nテトラオクチルアンモニウムヒドロキシドエタノール溶液を加えた後、セルロース濃度が1%になるように希釈した。その後、高圧ホモジナイザー(スギノマシン社製、スターバースト)を用いて圧力100MPaで4回処理することにより、微細繊維状セルロースMEK分散液を得た。上記微細繊維状セルロースMEK分散液にビスフェノールA(DIC社製、EPICLON 850S)を加えた後、ロータリーエバポレーター(東京理化機器社製)によりMEKとエタノールとを留去することにより、溶剤をビスフェノールAへと置換した。さらに、ビスフェノールAと、硬化剤としてのジシアンジアミド(味の素社製、アミキュア AH−154)と、を加えた後、T.K.ホモミクサー(PRIMIX社製)を用いて8000rpm×10分間撹拌することにより、セルロース濃度、修飾剤濃度、マトリクス樹脂濃度及び硬化剤濃度が以下の表に示す値となるように調製した接着剤組成物を得た。また、厚み1.6mm、幅25mm、長さ100mmの冷間圧延鋼板を被着材として使用し、150℃、1時間加熱して上記接着剤組成物を硬化させることにより、試験片を得た。
〔実施例2、5〜11、15、16、比較例4〜6〕
下記の表に示すように配合量や組成等を変更した以外は、実施例1と同様の手法で微細繊維状セルロースMEK分散液、接着剤組成物、及び試験片を作製した。
〔実施例3〕
セルロース繊維A3に水を加え、固形分1%に希釈した後、T.K.ホモミクサー(PRIMIX社製)を用いて8000rpm×10分間撹拌しながら、溶液のpHが2になるまで1N塩酸を加えた。その後、濾過を行い、水で十分洗浄した。次に、メタノールで繰り返して洗浄した後、さらにMEKで洗浄することにより、MEKに溶剤置換した酸型セルロース繊維A3を作製した。この酸型セルロース繊維A3に、MEKと、セルロース繊維のカルボキシ基量と等量の0.1Nテトラオクチルアンモニウムヒドロキシドエタノール溶液とを加え、セルロース濃度が1%になるように希釈した。その後、高圧ホモジナイザー(スギノマシン社製、スターバースト)を用いて圧力100MPaで4回処理することにより、微細繊維状セルロースMEK分散液を得た。
この微細繊維状セルロースMEK分散液にビスフェノールA(DIC社製、EPICLON 850S)を加えた後、ロータリーエバポレーター(東京理化機器社製)によりMEKとエタノールとを留去することにより、溶剤をビスフェノールAへと置換した。さらに、ビスフェノールAと、硬化剤としてのジシアンジアミド(味の素社製、アミキュア AH−154)とを加えた後、T.K.ホモミクサー(PRIMIX社製)を用いて8000rpm×10分間撹拌することにより、セルロース濃度、修飾剤濃度、マトリクス樹脂濃度及び硬化剤濃度が以下の表に示す値となるように調製した接着剤組成物を得た。また、厚み1.6mm、幅25mm、長さ100mmの冷間圧延鋼板を被着材として使用し、150℃で1時間加熱して上記接着剤組成物を硬化させることにより、試験片を得た。
〔実施例4〕
セルロース繊維A3の代わりにセルロース繊維A4を用いた以外は実施例3と同様の手法で上記微細繊維状セルロースMEK分散液、接着剤組成物、及び試験片を作製した。
〔実施例12〕
上記セルロース繊維A2にメタノールを加えてろ過するメタノール洗浄を繰り返した後、さらにメチルエチルケトン(MEK)洗浄を繰り返すことにより、上記セルロース繊維に含まれる水をMEKに置換した。その後、MEKで置換したセルロース繊維A2に、MEKとセルロース繊維のカルボキシ基量と等量の0.1Nテトラオクチルアンモニウムヒドロキシドエタノール溶液を加えた後、セルロース濃度が1%になるように希釈した。その後、高圧ホモジナイザー(スギノマシン社製、スターバースト)を用いて圧力100MPaで4回処理することにより、微細繊維状セルロースMEK分散液を得た。上記微細繊維状セルロースMEK分散液にトルエンを加えた後、ロータリーエバポレーター(東京理化機器社製)によりMEKとエタノールとを留去することにより、溶剤をトルエンへと置換した。さらに、トルエンと、マトリクス樹脂としてのポリ酢酸ビニル(電気化学工業社製、デンカサクノール SN−10)と、を加えた後、T.K.ホモミクサー(PRIMIX社製)を用いて8000rpm×10分間撹拌することにより、セルロース濃度、修飾剤濃度、及びマトリクス樹脂濃度が以下の表に示す値となるように調製した接着剤組成物を得た。また、厚み1.6mm、幅25mm、長さ100mmの冷間圧延鋼板を被着材として使用し、150℃で1時間加熱して上記接着剤組成物を硬化させることにより、試験片を得た。
〔実施例13〕
上記セルロース繊維A2にメタノールを加えてろ過するメタノール洗浄を繰り返した後、さらにメチルエチルケトン(MEK)洗浄を繰り返すことにより、上記セルロース繊維に含まれる水をMEKに置換した。その後、MEKで置換したセルロース繊維A2に、MEKとセルロース繊維のカルボキシ基量と等量の0.1Nテトラオクチルアンモニウムヒドロキシドエタノール溶液を加えた後、セルロース濃度が1%になるように希釈した。その後、高圧ホモジナイザー(スギノマシン社製、スターバースト)を用いて圧力100MPaで4回処理することにより、微細繊維状セルロースMEK分散液を得た。上記微細繊維状セルロースMEK分散液にアクリル系モノマー(セメダイン社製、メタルロックY610A)を加えた後、ロータリーエバポレーター(東京理化機器社製)によりMEKとエタノールとを留去することにより、溶剤をアクリル系モノマーへと置換した。さらに、アクリル系モノマーと、アクリル系硬化剤(セメダイン社製、メタルロックY610B)と、を加えた後、T.K.ホモミクサー(PRIMIX社製)を用いて8000rpm×10分間撹拌することにより、セルロース濃度、修飾剤濃度、マトリクス樹脂濃度及び硬化剤濃度が以下の表に示す値となるように調製した接着剤組成物を得た。また、厚み1.6mm、幅25mm、長さ100mmの冷間圧延鋼板を被着材として使用し、室温(25℃)で1時間静置して上記接着剤組成物を硬化させることにより、試験片を得た。
〔実施例14〕
上記セルロース繊維A2にメタノールを加えてろ過するメタノール洗浄を繰り返した後、さらにメチルエチルケトン(MEK)洗浄を繰り返すことにより、上記セルロース繊維に含まれる水をMEKに置換した。その後、MEKで置換したセルロース繊維A2に、MEKとセルロース繊維のカルボキシ基量と等量の0.1Nテトラオクチルアンモニウムヒドロキシドエタノール溶液を加えた後、セルロース濃度が1%になるように希釈した。その後、高圧ホモジナイザー(スギノマシン社製、スターバースト)を用いて圧力100MPaで4回処理することにより、微細繊維状セルロースMEK分散液を得た。上記微細繊維状セルロースMEK分散液にポリオール(第一工業製薬社製、エイムフレックス 318A)を加えた後、ロータリーエバポレーター(東京理化機器社製)によりMEKとエタノールとを留去することにより、溶剤をポリオールへと置換した。さらに、ポリオールと、硬化剤としてのポリイソシアネート(第一工業製薬社製、エイムフレックス 318B)と、を加えた後、T.K.ホモミクサー(PRIMIX社製)を用いて8000rpm×10分間撹拌することにより、セルロース濃度、修飾剤濃度、マトリクス樹脂濃度及び硬化剤濃度が以下の表に示す値となるように調製した接着剤組成物を得た。また、厚み1.6mm、幅25mm、長さ100mmの冷間圧延鋼板を被着材として使用し、80℃で2時間加熱して上記接着剤組成物を硬化させることにより、試験片を得た。
〔比較例1〕
セルロース繊維A2に、水と、セルロース繊維のカルボキシ基量と等量になるように24%水酸化ナトリウム水溶液と、を加え、セルロース濃度が1%になるように希釈した後、高圧ホモジナイザー(スギノマシン社製、スターバースト)を用いて圧力100MPaで1回処理することにより、微細繊維状セルロース水分散液を得た。この微細繊維状セルロース水分散液を凍結乾燥によって乾燥することにより水を留去した後、MEKで固形分が1%になるように希釈した。その後、高圧ホモジナイザー(スギノマシン社製、スターバースト)を用いて圧力100MPaで4回処理した。しかしながら、MEK中においてセルロース繊維が沈降してしまうため、微細繊維状セルロースMEK分散液の調製には至らなかった。
〔比較例2〕
セルロース繊維A5にメタノールを加えた後、ろ過した。そして、メタノール洗浄を繰り返した後、さらにMEK洗浄を繰り返し、その後、MEKで固形分が1%になるように希釈した。その後、高圧ホモジナイザー(スギノマシン社製、スターバースト)を用いて圧力100MPaで4回処理した。しかしながら、MEK中においてセルロース繊維が沈降してしまうため、微細繊維状セルロースMEK分散液の調製には至らなかった。
〔比較例3〕
セルロース繊維A6を凍結乾燥によって乾燥することにより水を留去した後、MEKと、セルロース繊維のカルボキシ基量と等量の0.1Nテトラオクチルアンモニウムヒドロキシドエタノール溶液と、を加え、セルロース濃度が1%になるように希釈した。その後、高圧ホモジナイザー(スギノマシン社製、スターバースト)を用いて圧力100MPaで4回処理することにより、微細繊維状セルロースMEK分散液を得た。この微細繊維状セルロースMEK分散液にビスフェノールA(DIC社製、EPICLON 850S)を加えた後、ロータリーエバポレーター(東京理化機器社製)によってMEKとエタノールとを留去することにより、溶剤をビスフェノールAへと置換した。さらに、ビスフェノールAと、硬化剤としてのジシアンジアミド(味の素社製、アミキュア AH−154)と、を加え、T.K.ホモミクサー(PRIMIX社製)を用いて8000rpm×10分間撹拌することにより、セルロース濃度、修飾剤濃度、マトリクス樹脂濃度及び硬化剤濃度が以下の表に示す値となるように調製した接着剤組成物を得た。また、厚み1.6mm、幅25mm、長さ100mmの冷間圧延鋼板を被着材として使用し、150℃で1時間加熱して上記接着剤組成物を硬化させることにより、試験片を得た。
〔比較例7〕
ポリ酢酸ビニルをトルエンに加えることにより、樹脂濃度が20%となるように調製した接着剤組成物を得た。また、厚み1.6mm、幅25mm、長さ100mmの冷間圧延鋼板を被着材として使用し、150℃で1時間加熱して上記接着剤組成物を硬化させることにより、試験片を得た。
〔比較例8〕
アクリル系モノマー(セメダイン社製、メタルロックY610A)の濃度が50%、アクリル系硬化剤(セメダイン社製、メタルロックY610B)の濃度が50%となるように調製した接着剤組成物を得た。また、厚み1.6mm、幅25mm、長さ100mmの冷間圧延鋼板を被着材として使用し、室温(25℃)で1時間静置して上記接着剤組成物を硬化させることにより、試験片を得た。
〔比較例9〕
ポリオール濃度が59%、ポリイソシアネート濃度が41%となるように調製した接着剤組成物を得た。また、厚み1.6mm、幅25mm、長さ100mmの冷間圧延鋼板を被着材として使用し、80℃で2時間加熱して上記接着剤組成物を硬化させることにより、試験片を得た。
上記接着剤組成物等を用いて、下記評価方法に従い、各特性の評価を行った。
<数平均繊維径、アスペクト比の測定>
上記微細繊維状セルロースMEK分散液中のセルロース繊維の数平均繊維径、および繊維長を、透過型電子顕微鏡(TEM、日本電子社製JEM−1400)を用いて観察した。すなわち、各セルロース繊維を親水化処理済みのカーボン膜被覆グリッド上にキャストした後、2質量%ウラニルアセテートでネガティブ染色したTEM像(倍率:10000倍)を用いて、上述した方法により、数平均繊維径、および数平均繊維長を算出した。さらに、これらの値を用いてアスペクト比を下記式に従い、算出した。
アスペクト比=数平均繊維長[nm]/数平均繊維径[nm]
<分散安定性の測定>
上記微細繊維状セルロースMEK分散液を試験管に移しとり、一晩静置した後、試験管中におけるセルロース繊維の分散状態を目視で観察した後、下記評価基準で評価した。
○:微細繊維状セルロースMEK分散液中にセルロース繊維が均一に分散していた。
×:微細繊維状セルロースMEK分散液中でセルロース繊維が沈降していた。
<接着強度の評価>
万能試験機(インストロンジャパン社製、5581型)を用いて、23℃の雰囲気下にて、上記試験片を2.5mm/min.の条件にて引張せん断接着強さ(S23)を測定した。微細繊維状セルロ―スが複合された樹脂の引張せん断接着強さ(S23)とマトリクス樹脂単体の引張せん断接着強さ(SBlank23)から、下記式を用いて、引張せん断接着強さ向上率[%]を算出した。算出された引張せん断接着強さ向上率から、下記基準に基づき評価した。
引張せん断接着強さ向上率[%]=(S23/SBlank23×100)−100
◎:40%以上
○:40%未満30%以上
△:30%未満20%以上
×:20未満
<耐熱性の評価>
万能試験機(インストロンジャパン社製、5581型)を用いて、23℃の雰囲気下にて、上記試験片を2.5mm/min.の条件にて引張せん断接着強さを測定した。23℃の測定で得られた引張せん断接着強さ(S23)と80℃の測定で得られた引張せん断接着強さ(S80)から、下記式を用いて、引張せん断接着強さ維持率[%]を算出した。算出された引張せん断接着強さ維持率から、下記基準に基づき評価した。
引張せん断接着強さ維持率[%]=100−[{(S23)−(S80)}/(S23)×100]
◎:95%以上
○:95%未満90%以上
△:90%未満80%以上
×:80未満
以下に、試験結果を示す。
Figure 2021155468
Figure 2021155468
Figure 2021155468
※1 HUNTSMAN社製、JEFFAMINE M−2005、分子量:2000
※2 HUNTSMAN社製、JEFFAMINE M−2070、分子量:2000
※3 MEK分散物を調整できないので、測定不可
※4 MEKに溶解しているため、測定不可
上述の結果から以下のことが分かった。つまり、実施例1〜16は、比較例1〜9と比較して、微細繊維状セルロースを配合することによって接着強度が向上するとともに、高熱下においても接着強度の維持率が高いことが分かった。比較例1は、修飾剤の疎水性が足りないために、分散性が低く、この結果、MEK分散液が調製できなかったと考えられる。比較例2は、修飾剤がないために微細繊維状セルロースが凝集し、この結果、MEK分散液が調製できなかったと考えられる。比較例3は、セルロース繊維については凝集することなく溶剤中に分散した。しかし、比較例3は、セルロース繊維が結晶構造を有さないために、接着強度が向上せず、高熱下においても接着強度の維持率が低かった。
また、比較例4,5は、接着剤組成物を調製可能であったが、修飾剤であるポリエーテルアミンの分子量が非常に大きい。このため、ポリエーテルアミンが可塑剤として働くため、比較例4,5は期待するような接着強度の向上は見られなかった。
ここで、実施例1から実施例4は、互いに異なるセルロース繊維を用いた結果である。実施例2,5〜11は、互いに異なる修飾剤を用いた結果である。実施例2,12〜14は、互いに異なるマトリクス樹脂を用いた結果である。実施例2,15〜16は、セルロース繊維濃度が互いに異なる結果である。
本発明の接着剤組成物は、優れた耐熱性及び接着強度を有しているため、例えば、航空航空宇宙分野、エレクトロニクス、土木、建築等の技術分野での接着剤への使用や、自動車、車載装置での接着剤への使用に好適である。
本発明は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態、実施例中の技術的特徴は、上述の課題の一部または全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部または全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
P1…点
P2…点
F…繊維

Claims (7)

  1. 微細繊維状セルロースと、マトリクス樹脂と、を含有する接着剤組成物であって、
    前記微細繊維状セルロースは、以下の(A)から(E)の条件を満たすことを特徴とする、接着剤組成物。
    (A)数平均繊維径が2nm以上500nm以下
    (B)平均アスペクト比が10以上1000以下
    (C)セルロースI型結晶構造を有する
    (D)アニオン性官能基を有する
    (E)前記(D)記載のアニオン性官能基の一部、または全てに、下記式(1)で示す有機オニウムイオンが結合している
    Figure 2021155468
    〔前記式(1)中、Mは窒素原子又はリン原子を示し、R、R、R、Rは、炭素数1以上20以下の直鎖もしくは分岐のアルキル基、アレーン基、又はアリル基を示す。〕
  2. 前記式(1)中、R、R、R、Rの少なくとも一つは、炭素数が6以上であることを特徴とする、請求項1に記載の接着剤組成物。
  3. 前記アニオン性官能基は、カルボキシ基であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の接着剤組成物。
  4. 前記マトリクス樹脂は、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、酸ビニル樹脂、及び炭化水素樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一つを含有することを特徴とする、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
  5. 前記マトリクス樹脂は、エポキシ樹脂と、ウレタン樹脂との少なくとも一つを含有することを特徴とする、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
  6. 前記マトリクス樹脂と前記微細繊維状セルロースの固形分の合計量に対し、前記微細繊維状セルロースの固形分濃度は、0.05質量%以上3.0質量%以下であることを特徴とする、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
  7. 前記微細繊維状セルロースの含有量に対する前記アニオン性官能基の含有量(アニオン性官能基の含有量[mmol]/微細繊維状セルロースの含有量[g])は、1.0mmol/g以上3.0mmol/g以下であることを特徴とする、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
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