JP2021147481A - フェノール系成形材料の製造方法、フェノール系成形材料、及び成形体 - Google Patents

フェノール系成形材料の製造方法、フェノール系成形材料、及び成形体 Download PDF

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達也 高橋
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Abstract

【課題】成形材料を作製するための混合物が優れた溶融性及び混練安定性を有することができ、かつフェノール系成形材料の硬化物が高い強度を有しうるフェノール系成形材料の製造方法を提供する。【解決手段】フェノール系成形材料の製造方法は、フェノール系樹脂(A)と、シリカ(B)と、ガラス繊維(C)とカップリング剤(D)と、沸点90℃以上110℃以下の有機溶剤(S)とを混合して混練することを含む。フェノール系成形材料の固形分全量に対するシリカ(B)の質量割合は、30質量%以上60質量%以下である。フェノール系成形材料の固形分全量に対するガラス繊維(C)の質量割合は、20質量%以上40質量%以下である。【選択図】なし

Description

本開示は、フェノール系成形材料の製造方法、フェノール系成形材料、及び成形体に関し、詳しくは、フェノール系樹脂を含有するフェノール系成形材料の製造方法、この製造方法で作製されるフェノール系成形材料、このフェノール系成形材料の硬化物を含む成形体に関する。
従来、電気・電子部品及び自動車部品に使用されている金属やセラミックス部品の代替材料として、エンジニアリングプラスチック、エポキシ樹脂材料及びフェノール樹脂材料が使用されている。
例えば、特許文献1では、フェノール樹脂、硬化剤、及び硬化助剤を含有するフェノール樹脂組成物、このフェノール樹脂組成物と補強材とを含有するフェノール樹脂成形材料を開示している。補強材として、フェノール樹脂100質量部に対して40〜60質量%のガラス繊維を添加することが提案され、これにより、フェノール樹脂成形材料から作製される成形品の強度が向上できることが開示されている。
特開2012−149128号公報
しかしながら、特許文献1のフェノール樹脂成形材料は、成形性がよく、かつこの成形材料から作製される成形品は高い強度を有するものの、成形品を作製するための成形材料を得るにあたり、フェノール樹脂組成物に含有される樹脂成分などの原料を混練する際の混練性又は混練安定性は必ずしも十分ではなかった。すなわち、成形材料を成形加工する際の成形性については考慮されているものの、成形材料を作製するための樹脂成分を含有する混合物を、加熱及び加圧をして溶融させ、混練する際の安定性については考慮されていない。そのため、例えばロール混練により樹脂成分を含有する混合物から成形材料を作製する際に、混練時の混合物の溶融性が悪かったり、作製されるシートが劣化してロールから剥がれてしまったりするという問題があった。
本開示の目的は、成形材料を作製するための混合物が優れた溶融性を有することができ、かつフェノール系成形材料の硬化物が高い強度を有しうるフェノール系成形材料の製造方法を提供することにある。
また、本開示の他の目的は、成形材料を作製するための混合物が優れた溶融性を有し、かつ硬化物に高い強度を付与できるフェノール系成形材料、及びこのフェノール系成形材料の硬化物を含む成形体を提供することにある。
本開示の一態様に係るフェノール系成形材料の製造方法は、フェノール系樹脂(A)と、シリカ(B)と、ガラス繊維(C)とカップリング剤(D)と、沸点90℃以上110℃以下の有機溶剤(S)とを混合して混練することを含む。前記フェノール系成形材料の固形分全量に対する前記シリカ(B)の質量割合は、30質量%以上60質量%以下である。前記フェノール系成形材料の固形分全量に対する前記ガラス繊維(C)の質量割合は、20質量%以上40質量%以下である。
本開示の一態様に係るフェノール系成形材料は、フェノール系樹脂(A)と、シリカ(B)と、ガラス繊維(C)とを混合した第一の混合物と、沸点90℃以上110℃以下の有機溶剤(S)とカップリング剤(D)とを混合した第二の混合物とを混練して成形した成形物を含む。
本開示の一態様に係る成形体は、前記成形材料の製造方法で製造されたフェノール系成形材料の硬化物、又は前記成形材料の硬化物を含む。
本開示の一態様によれば、成形材料を作製するための混合物が優れた溶融性、及び混練安定性を有することができ、かつフェノール系成形材料の硬化物が高い強度を有しうる、という利点がある。
1.概要
まず、本実施形態に係るフェノール系成形材料、このフェノール系成形材料の製造方法、及びこのフェノール系成形材料から作製される成形体の概要について説明する。
本実施形態に係るフェノール系成形材料の製造方法は、フェノール系樹脂(A)と、シリカ(B)と、ガラス繊維(C)とカップリング剤(D)と、沸点90℃以上110℃以下の有機溶剤(S)とを混合して混練することを含む。すなわち、本実施形態のフェノール系成形材料は、フェノール系樹脂(A)とシリカ(B)とガラス繊維(C)とカップリング剤(D)と有機溶剤(S)とを混合した混合物を混練することにより作製される。本実施形態のフェノール系成形材料は、例えば、次のようにして得ることができる。
上記の成分(フェノール系樹脂(A)、シリカ(B)、ガラス繊維(C)、カップリング剤(D)、及び有機溶剤(S))を混合した混合物(以下、混練前混合物(M)ともいう)を、例えばロール混練機などの装置により、加熱及び加圧しながら溶融させる。続いて、混練前混合物(M)を溶融させた混合物(以下、「溶融混合物(Mx)」ともいう)をロール混練機の前ロールと後ロールとにより、シート状にすることで、溶融状態のシート(「溶融シート」ともいう)を作製する。例えば、前ロールと後ロールとを備えるロール混練機で混練すると、溶融シートは、溶融混合物(Mx)がロールにおける熱と圧力とにより、前ロールに巻き付いた状態で得られる。混練時のロールの温度、及び回転数は適宜調整される。溶融混合物(Mx)は、加熱及び加圧によって混練される際に、溶融混合物(Mx)中の樹脂成分の一部が反応して粘度が上昇しうる。さらに、溶融シートを、ロールに上記のとおり、巻き付かせた状態で、加熱及び加圧を維持したまま、混練することにより、溶融シートが所定の溶融粘度となるように、溶融シート中の樹脂成分の反応を進行させる。
ここで、ロールに巻き付かせた溶融シートをロール上で維持するため、溶融混合物(Mx)には、適度な粘度が要求される。例えば、溶融粘度が過度に低い場合、又は過度に高い場合、溶融シートを安定して混練することが難しい。具体的には、溶融混合物(Mx)から溶融シートを作製するにあたり、溶融混合物(Mx)は、加熱及び加圧により溶融しうるが、溶融混合物(Mx)の溶融粘度が低すぎる場合、溶融シートにすること、及びロールに巻き付いた状態で溶融シートを維持することが難しい。また、溶融シートにおいて、反応が進行しすぎたり、揮発成分が少なくなったりすると、溶融シートの溶融粘度が高くなることがあり、溶融シートから作製される固形シートを取り出すにあたり、シートの形状を維持したまま固形シートを作製することが難しい。その結果、固形シートから成形用の材料による成形品を作製しても成形品に高い強度を付与することができないことがある。このため、混練前混合物(M)、溶融混合物(Mx)及び溶融シートといった成形用材料を作製するための材料には、溶融性と混練安定性とが要求される。
本実施形態では、沸点90℃以上110℃以下の有機溶剤(S)を含有することで、フェノール系樹脂(A)と、シリカ(B)と、ガラス繊維(C)と、カップリング剤(D)とを混合しても、混練前混合物(M)から得られる溶融混合物(Mx)の粘性を過度に上昇しにくくしながら、かつ混練前混合物(M)を溶融させて混練させる際の流動性を良好にすることができる。つまり、本実施形態において、有機溶剤(S)は、フェノール系成形材料を作製するための溶融混合物(Mx)に溶融性を付与しうる。また、溶融混合物(Mx)を作製するための混練前混合物(M)が有機溶剤(S)を含有することで、溶融混合物(Mx)から溶融シートを作製するにあたり、溶融シートに混練安定性を付与しうる。
続いて、溶融シートは、加熱及び加圧されることでロール状に巻かれた状態で所定の溶融粘度まで混練された後、ロール表面から剥がすことにより取り出される。取り出された溶融シートは、例えば板状、又は帯状等の形状を有する。そして、溶融シートは、冷却され固化しうる。さらに、固化したシート(固形シート)を、適宜の粉砕装置により粉砕することで、例えばグラニュール状のフェノール系成形材料が得られる。
このように、本実施形態の製造方法では、フェノール系樹脂(A)、シリカ(B)、ガラス繊維(C)、カップリング剤(D)、及び有機溶剤(S)を含有する混合物(すなわち混練前混合物(M))を、ロールにより溶融させて容易にシート状の溶融混合物(Mx)にすることができる。また、混練前混合物(M)を加熱及び加圧することで得られる溶融混合物(Mx)に溶融性を付与できる。これにより、本実施形態では、溶融混合物(Mx)を溶融シートにするにあたり、良好にシート状にできる。また、作製される溶融シートは、安定してシート状を維持したまま混練することができる。このため、本実施形態の溶融混合物(Mx)は、溶融シートのロール混練時のロールへの優れた巻き付き性を付与しうる。
このため、本実施形態の製造方法では、溶融混合物(Mx)において、溶融状態のシート状にする際の安定した溶融性と、シート状にしてから混練する際の高い混練安定性との両方を実現可能である。なお、本開示において、「溶融性」とは、溶融状態のシートを作製する際の樹脂成分を含有する混合物の溶融のしやすさをいう。また、「混練安定性」とは、ロール状に巻き付けたシートの混練のしやすさをいう。
また、本実施形態の製造方法で製造したフェノール系成形材料は、シリカ(B)、及びガラス繊維(C)を含むため、フェノール系成形材料から作製される硬化物は高い強度を有することができる。また、フェノール系成形材料を作製するための溶融混合物(Mx)に良好な溶融粘度を付与できる。特に、フェノール系成形材料の固形分全量に対する前記シリカ(B)の質量割合は、30質量%以上60質量%以下であることで、溶融シートのロールへの巻き付き性を良好に維持しながら、溶融シートの混練安定性を低下させにくくできる。また、フェノール系成形材料の固形分全量に対する前記ガラス繊維(C)の質量割合は、20質量%以上40質量%以下であることで、混合物に溶融性、溶融シートに混練安定性を付与しながら、得られるフェノール系成形材料の硬化物の強度を向上させることに寄与できる。そのため、本実施形態によれば、フェノール系成形材料から成形体を作製すると、成形体が高い剛性を有しながら、強度を有することができる。
したがって、本実施形態の製造方法で製造されるフェノール系成形材料は、混合物の溶融性に優れる。また、シート状の溶融混合物(Mx)、すなわち溶融シートの混練安定性が高く、安定してロールからシートを取り出すことができる。そして、上記で製造したフェノール系材料は、加熱により硬化させることで硬化物とすることができ、フェノール系成形材料の硬化物は、高い強度を有する。
2.詳細
本実施形態のフェノール系成形材料の製造方法の好ましい形態について、より具体的に説明する。なお、本明細書において、「A及び/又はB」との表現は、「A」、「B」、又は「A及びB」のいずれかを意味する。
まず、フェノール系成形材料に含まれうる成分、及び有機溶剤(S)を用意する。フェノール系成形材料は、例えばフェノール系樹脂(A)、シリカ(B)、ガラス繊維(C)、及びカップリング剤(D)を含みうる。有機溶剤(S)は、沸点が90℃以上110℃以下である。なお、有機溶剤(S)は、フェノール系成形材料を調製する際に、混練時の混合物の性状を調製するために用いられる成分である。また、有機溶剤(S)は、混練後には一部又は全部が揮発しうる成分である。このため、フェノール系成形材料において、有機溶剤(S)は含有量が低減されているか、又は含有量がゼロとなっていてもよい。各成分の詳細については後述する。
用意したフェノール系成形材料に含まれうる成分であるフェノール系樹脂(A)、シリカ(B)、ガラス繊維(C)、カップリング剤(D)、及び有機溶剤(S)を混合して混合物を作製する。本開示において、フェノール系樹脂(A)、シリカ(B)、ガラス繊維(C)、カップリング剤(D)、及び有機溶剤(S)を混合して得られた、混練される前の混合物を、混練前混合物(M)ともいう。なお、混練前混合物(M)には、上記以外の成分を配合してもよい。
フェノール系成形材料の製造方法において、フェノール系樹脂(A)、シリカ(B)、及びガラス繊維(C)を含む第一の混合物(M1)と、カップリング剤(D)、及び有機溶剤(S)を含む第二の混合物(M2)とを各々調製することが好ましい。本実施形態では、第一の混合物(M1)と第二の混合物(M2)とを混合することで混練前混合物(M)が得られる。
第一の混合物(M1)は、固形状であり、かつ第二の混合物(M2)は、液状であることが好ましい。この場合、フェノール系成形材料を作製するための溶融混合物(Mx)に、より優れた溶融性を付与しやすく、また溶融混合物(Mx)をロールに巻き付けて溶融シートを作製する際の溶融粘度を過度に上昇することを抑制しやすい。本開示において固形状には、粉体状、粒子状が含まれる。第一の混合物(M1)が固形状である場合、例えば第一の混合物(M1)に含有されうる成分の各々が、常温常圧(25℃、0.1MPa)において固体であってよい。また、本開示において、液状であるとは、流動性を有するこという。第二の混合物(M2)が液状である場合、第二の混合物(M2)に含まれうる成分の各々が液体であってもよく、一部の成分が固体である場合には他の成分に溶解して流動性を有していればよい。
第一の混合物(M1)は、上記のとおりフェノール系樹脂(A)とシリカ(B)とガラス繊維(C)とを含む。第一の混合物(M1)は、例えばヘンシェルミキサー等の撹拌混合機(粉体混合装置)における撹拌容器内に、フェノール系樹脂(A)とシリカ(B)とガラス繊維(C)とを加え、撹拌混合装置における攪拌羽根を回転させ混合することで得られる。第一の混合物(M1)を混合する際の条件は、特に制限されないが、例えば容器内の温度は室温(約25℃)、圧力は0.1MPaの標準状態であってよい。攪拌羽根の撹拌の回転速度は、例えば撹拌羽根の先端の周速が4m/s以上10m/s以下であることが好ましい。この範囲内であれば、ガラス繊維(C)を過度に解繊させることなく(すなわち細かくし過ぎることなく)第一の混合物(M1)を調製できる。また、撹拌時間は、例えば20秒以上2分以内であればよい。この範囲内であれば、ガラス繊維(C)を過度に解繊させることなく第一の混合物(M1)を調製できる。
第二の混合物(M2)は、上記のとおり、カップリング剤(D)と有機溶剤(S)とを含む。また、第二の混合物(M2)は、本実施形態では、第一の混合物(M1)と混合して混練する前に、調製される混合物である。第二の混合物(M2)が有機溶剤(S)を含有するため、混練前混合物(M)を溶融させることで作製される溶融混合物(Mx)の溶融粘度を低めうる。例えば、有機溶剤(S)は、混練前混合物(M)において、フェノール系樹脂(A)の溶融性を向上させうる。このため、混練前混合物(M)を溶融させて作製した溶融混合物(Mx)を溶融シートにし、さらにこの溶融シートを混練することができる。すなわち、第二の混合物(M2)は、溶融シートの混練安定性をより向上させることに寄与しうる。
次に、フェノール系成形材料を製造するために使用される成分について具体的に説明する。
(フェノール系樹脂(A))
フェノール系樹脂(A)は、成形材料において、熱硬化性を付与することができる。フェノール系樹脂(A)は、適宜の樹脂を含有できる。フェノール系樹脂(A)は、例えばノボラック型フェノール樹脂、及びレゾール型フェノール樹脂からなる群から選択される少なくとも一種の成分であってよい。
フェノール系成形材料の固形分全量に対するフェノール系樹脂(A)の質量割合は、10質量%以上30質量%以下であることが好ましい。
(シリカ(B))
シリカ(B)は、フェノール系成形材料から作製される硬化物の強度、及び靭性を向上させるのに寄与しうる。
シリカ(B)は、表面処理されていてもよい。この場合、シリカ(B)は、フェノール系成形材料から作製される硬化物の強度を更に向上できる。また、シリカ(B)が表面処理されていると、溶融混合物(Mx)から作製される溶融シートをロール混練機などのロールにより混練することで、溶融シートのロールへの巻き付き性を更に向上させうる。このため、溶融シートの混練安定性を向上させやすい。なお、シリカ(B)は、混練前混合物(M)を調製する前に、第一の混合物(M1)において、予め表面処理されていてもよい。ただし、シリカ(B)の凝集を抑制する観点から、第一の混合物(M1)を調製する際には、シリカ(B)は表面処理されていないことが好ましい。
シリカ(B)の平均粒径は3μm以上10μm以下であることが好ましい。本開示におけるシリカの「平均粒径」は、動的光散乱法により得られる粒度分布から算出されるメディアン径(D50)である。シリカ(B)は、平均粒径の異なる2種以上の粒子群を含んでもよい。例えば、シリカ(B)は、平均粒径が3μm以上5μm以下である第一の粒子群と、平均粒径が6μm以上8μm以下である第二の粒子群とを含有してもよい。第一の粒子群と第二の粒子群との体積比は例えば90:10から10:90の範囲内とすることができる。もちろん、シリカ(B)は、第一の粒子群及び第二の粒子群とは異なる平均粒径を有する第三の粒子群を含有してもよい。
シリカ(B)の性状は、特に制限されないが、例えば溶融球状シリカ、溶融シリカ微粒子、溶融シリカパウダー、及び結晶シリカパウダーからなる群から選択される少なくとも一種であってよい。
フェノール系成形材料の固形分全量に対するシリカ(B)の質量割合は、30質量%以上60質量%以下である。これにより、フェノール系成形材料成形材料から作製される硬化物は、靭性を有しながら、より高い強度を有することができる。シリカ(B)の質量割合は、35質量%以上55質量%以下であればより好ましく、シリカ(B)の質量割合は、45質量%以上55質量%以下であることが更に好ましい。
(ガラス繊維(C))
ガラス繊維(C)は、成形材料から作製される硬化物に強度及び靭性を付与することができる。
ガラス繊維(C)の性状は、例えばファイバー状である。ガラス繊維(C)の平均繊維長は、例えば1mm以上6mm以下であることが好ましい。ガラス繊維(C)の平均繊維径は、例えば10μm以上15μm以下であることが好ましい。ガラス繊維(C)の平均繊維径及び平均繊維長は、例えばマイクロスコープで測定することで得られる。なお、ガラス繊維(C)の前記の平均繊維径及び平均繊維長は、混合される前、及び混練される前の平均繊維径及び平均繊維長である。
ガラス繊維(C)は、見かけ密度(かさ密度)が例えば0.6g/cm3以上であることが好ましい。ガラス繊維(C)の見かけ密度は、次のようにして測定可能である。有底円筒状の容器(内径40mm、高さ60mm)を用意し、容器に、試料(ガラス繊維(C))を振り入れて山盛りとし、卓上バイブレーターで振動させることで、試料の嵩を安定化させてから、有底円筒状の容器の上部(底部とは反対側)の山盛り部を棒などによりすりきる。そして、容器内の試料の質量を秤量し、得られた質量と、容器の体積とから試料の見かけ密度(かさ密度)を算出できる。第一の混合物(M1)を調製する場合において、第一の混合物(M1)におけるガラス繊維(C)の見かけ密度が0.7g/cm3以上であることが好ましい。ただし、ガラス繊維(C)の見かけ密度は前記範囲に限られない。
フェノール系成形材料の固形分全量に対するガラス繊維(C)の質量割合は、20質量%以上40質量%以下である。これにより、フェノール系成形材料から作製される硬化物は、より優れた靭性を有しながら、より高い強度を有することができる。ガラス繊維(C)の質量割合は、25質量%以上35質量%以下であればより好ましく、25質量%以上30質量%以下であれば更に好ましい。
フェノール系成形材料の固形分全量に対するシリカ(B)とガラス繊維(C)との合計の質量割合は、70質量%以上85質量%以下であることが好ましい。この場合、フェノール系成形材料成形材料から作製される硬化物は、より優れた靭性を有しながら、更に高い強度を有することができる。シリカ(B)とガラス繊維(C)との合計の質量割合は、75質量%以上82質量%以下であればより好ましく、77質量%以上82質量%以下であれば更に好ましい。
(カップリング剤(D))
カップリング剤(D)は、混合物中、及び成形材料中における成分の相溶性を向上させうる。本実施形態では、カップリング剤(D)は、第一の混合物(M1)と第二の混合物(M2)とを混合させて混練前混合物(M)を調製するにあたり、フェノール系樹脂(A)とシリカ(B)等の無機成分との結合性が向上しうる。このため、本実施形態では、フェノール系成形材料を作製するにあたって、混練前混合物(M)が高い結合性を有することができ、強度が向上しうる。なお、本開示でいう「結合性」には、異種物質間における親和性及び密着性が含まれる。
カップリング剤(D)は、シランカップリング剤、アルミナカップリング剤、ジルコニウムカップリング剤及びチタニウムカップリング剤からなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含有してもよい。カップリング剤(D)は、シランカップリング剤を含有することが好ましい。シランカップリング剤は、混練前混合物(M)におけるフェノール系樹脂(A)と、無機成分(シリカ(B)、ガラス繊維(C)及びカップリング剤(D)等)との結合性をより向上でき、これにより成形品の強度を更に高めることができる。
シランカップリング剤は、ケイ素原子と適宜のアルコキシ基とを有するカップリング剤を含みうるが、具体的にはシランカップリング剤としては、例えば3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、テトラエトキシシラン、ビニルエトキシシラン、及び3−メルカプトプロピルトリメトキシシランからなる群から選択される少なくとも一種が挙げられる。
フェノール系成形材料の固形分全量に対するカップリング剤(D)の質量割合は、0.5質量%以上1.5質量%以下であることが好ましい。この場合、フェノール系成形材料を混練して作製するにあたり、混練前混合物(M)における結合性をより向上させることができる。カップリング剤(D)の質量割合は、0.5質量%以上1.5質量%以下であればより好ましく、0.8質量%以上 1.3質量%以下であれば更に好ましい。
(有機溶剤(S))
有機溶剤(S)は、混練前混合物(M)を溶融させて作製される溶融混合物(Mx)、及び溶融シートの溶融粘度を低めることができる。すなわち、有機溶剤(S)は、フェノール系成形材料を作製するにあたって、溶融混合物(Mx)及び溶融シートにおける可塑剤としての機能を有するともいえる。本実施形態では、フェノール系成形材料を製造するにあたって、混練前混合物(M)が有機溶剤(S)を含有することで、混練前混合物(M)から溶融混合物(Mx)を得る際の溶融性を向上させることができる。また、混練前混合物(M)が液状成分として水を含有しない場合には、後述するカップリング剤(D)の加水分解を生じさせにくくでき、混練前混合物(M)の性状が良好になるように調製することができる。
本実施形態のフェノール系成形材料の製造方法では、有機溶剤(S)は、カップリング剤(D)と予め混合されて第二の混合物(M2)が調製される。特に本実施形態では、混練前混合物(M)において、ロール上で混練前混合物(M)を加熱することにより溶融させることで溶融混合物(Mx)を得、この溶融混合物(Mx)からロール表面に溶融シートを作製しやすい。さらに、溶融シートを混練するにあたり、沸点が90℃以上110℃以下の有機溶剤(S)を含有することで、適度な速度で揮発するため、溶融混合物(Mx)から作製される溶融シートの溶融粘度の増加をコントロールしやすい。これにより、溶融シートが劣化しにくくでき、また混練時の溶融シートをロールから剥がれ落ちにくくでき、十分に混練された状態の溶融シートを取り出しやすい。
本実施形態における有機溶剤(S)は、沸点90℃以上110℃以下である。具体的には、有機溶剤(S)は、1−プロパノール(沸点97℃)、2−ブタノール(沸点99.5℃)、2−メチル−2−ブタノール(沸点102℃)、2−メチル−2−プロピルアセテート(沸点101.6℃)、1,4−ジオキサン(沸点101.3℃)及びギ酸(100.8℃)からなる群から選択される少なくとも一種の溶剤を含むことが好ましい。
フェノール系成形材料の固形分全量に対する有機溶剤(S)の質量割合は、0.5質量%以上1.5質量%以下であることが好ましい。この場合、フェノール系成形材料を作製するにあたり、ロール上で混練前混合物(M)を加熱することにより溶融させることで溶融混合物(Mx)を得、この溶融混合物(Mx)から溶融シートを作製しやすい。さらに、有機溶剤(S)が適度な速度で揮発するため溶融シートの粘度の増加をコントロールしやすくなり、シートが劣化してロールから剥がれ落ちにくく、かつ溶融状態のシートをより取出しやすくなる。有機溶剤(S)の質量割合は、1質量%以上3質量%以下であることがより好ましく、1.5質量%以上2.5質量%以下であると更に好ましい。
フェノール系成形材料を作製するにあたり、混練前混合物(M)には、沸点90℃以上110℃以下の有機溶剤(S)以外の有機溶剤を含有してもよい。沸点90℃以上110℃以下の有機溶剤(S)以外の有機溶剤としては、例えばメタノール、エタノール、及び1−ブタノールからなる群から選択される少なくとも一種を挙げることができる。特に、有機溶剤(S)以外の有機溶剤としてメタノールを含有する場合、混練前混合物(M)をロール上で溶融させて得られる溶融混合物(Mx)から溶融シートを混練しやすい。
(その他の添加剤)
第一の混合物(M1)及び第二の混合物(M2)各々は、本開示の効果を阻害しない限りにおいて、上記で説明した成分以外の成分を含有してもよい。上記で説明した成分以外の成分は、例えば硬化剤、硬化促進剤、粘度調整剤、消泡剤、低応力材、ワックス及び顔料、並びにシリカ(B)及びガラス繊維(C)以外の無機充填材等を挙げることができる。シリカ(B)及びガラス繊維(C)以外の無機充填材の例としては、例えばタルク、ウォラストナイト、マイカ、ガラスパウダー、及び炭酸カルシウムから選択される少なくとも一種を挙げることができる。硬化剤の例としては、例えばヘキサメチレンテトラミン等を挙げることができる。
フェノール系成形材料を作製するための、混合物(混練前混合物(M))を得るには、調製した第一の混合物(M1)と第二の混合物(M2)とを混合する。混練前混合物(M)は、例えば調製した第一の混合物(M1)の容器内に、別の容器で調製した第二の混合物(M2)を添加する。混練前混合物(M)は、第一の混合物(M1)を撹拌しながら、第二の混合物(M2)を添加して調製されることが好ましい。混練前混合物(M)を撹拌混合する時間は、例えば10秒以上60秒以下である。この範囲内であれば、混練前混合物(M)におけるフェノール系樹脂(A)と、無機成分(シリカ(B)、ガラス繊維(C)及びカップリング剤(D)等)との結合性を良好に維持することができる。なお、撹拌は、第一の混合物(M1)に第二の混合物(M2)に添加してから行ってもよい。第二の混合物(M2)の第一の混合物(M1)への添加は、特に制限されないが、例えば滴下することにより行うことが好ましい。
混練前混合物(M)は、第一の混合物(M1)と第二の混合物(M2)とを混合してからなるべく早くロール混練することが好ましい。具体的には、混練前混合物(M)を混練する時間が例えば1時間以内であればカップリング剤(D)の自己縮合を進行させにくくできる。
本実施形態の好ましい形態は、既に述べたように第一の混合物(M1)と第二の混合物(M2)とを各々調製してから混合することを含むが、これに制限されず、第一の混合物(M1)に、第二の混合物(M2)に含まれうる成分を独立に配合してもよい。すなわち、混練前混合物(M)を調製する方法は、前記に限られない。例えば、第一の混合物(M1)を調製してから、撹拌中の第一の混合物(M1)に第二の混合物(M2)におけるカップリング剤(D)の一部又は全部を添加し、続けて有機溶剤(S)を添加し、混練前混合物(M)を作製してもよい。
混練前混合物(M)は水を含有しないことが好ましい。混練前混合物(M)が水を含有する場合は0.2質量%以下であることが好ましい。混練前混合物(M)における水は、不可避的に混入する水のみを含有することが特に好ましい。水は混合物(M)の溶融性を向上させたりシートの溶融粘度のコントロールを容易にしたりしうるが、本実施形態では、水が配合されていなくても、有機溶剤(S)によって、溶融混合物(Mx)の溶融性の向上、及びシートの溶融粘度のコントロールができうる。すなわち、混練前混合物(M)に有機溶剤(S)が配合されていることによって、混練前混合物(M)から得られる溶融混合物(Mx)の溶融性を向上、及び溶融混合物(Mx)から作製される溶融シートの混練安定性の向上が実現できる。
混練前混合物(M)を調製する際、水を混練前混合物(M)中に配合しないことが好ましい。そのためには第一の混合物(M1)と第二の混合物(M2)とのいずれにも水を配合しないことが好ましい。本実施形態では、水を配合しなくてもフェノール系樹脂(A)と無機成分(シリカ(B)、ガラス繊維(C)及びカップリング剤(D)等)との結合性が十分に得られる。これは、大気中の水分でシラノール基の生成が十分に促進されるためであると推察される。すなわち、水は、シランカップリング剤におけるシラノール基の生成を促進することでシランカップリング剤の活性を高めることができるが、一方、水とシラノール基との加水分解反応が進行しうることによってシランカップリング剤が失活するおそれもある。この場合、樹脂材料(例えばフェノール系樹脂(A))との相互作用が低下することがあり、結合性を向上させることは難しく、成形材料の強度を向上させることは困難となる。これに対し、混練前混合物(M)には、水を配合しないことで、カップリング剤(D)の活性を低下させにくくでき、かつ混練前混合物(M)においてはフェノール系樹脂(A)と無機成分(シリカ(B)、ガラス繊維(C)及びカップリング剤(D)等)との結合性を向上させることができる。混練前混合物(M)が大気中の水分を吸湿しうることで、その水分によりカップリング剤(D)が活性化され、混練前混合物(M)におけるフェノール系樹脂(A)と無機成分(シリカ(B)、ガラス繊維(C)及びカップリング剤(D)等)との結合性を向上できる、と考えられる。このため、本実施形態に係るフェノール系成形材料の製造方法では、水を含有しなくても、高い結合性を実現できる。
本実施形態において、混練前混合物(M)は、固形状である。混練前混合物(M)は、加熱されることで、溶融状態になりうる。特に本実施形態では、第一の混合物(M1)と第二の混合物(M2)との混練前混合物(M)を加熱、必要により加圧することで溶融する。混練前混合物(M)を溶融させることで、溶融混合物(Mx)が得られる。溶融混合物(Mx)は、さらに加熱及び加圧されることで、溶融シートとすることが可能である。
溶融混合物(Mx)の溶融時、及び/又は溶融シートの混練時に、有機溶剤(S)を揮発させることで、溶融混合物(Mx)中及び溶融シート中の有機溶剤(S)の含有量を、混練前混合物(M)よりも低減し、又はフェノール系成形材料が有機溶剤(S)を含有しないようにすることが、好ましい。有機溶剤(S)の沸点は90℃以上110℃以下であるので、混練時の加熱により揮発させることが容易であり、かつ急激に揮発しにくいため、有機溶剤(S)は混練時の溶融混合物(Mx)の好ましい性状を十分に維持できる。
混練前混合物(M)を混練するには、既に述べたとおり、例えば混練前混合物(M)をロール混練機に投入し、ロールを回転させることで、ロールとロールとの間で溶融させながら混練させることにより可能である。ロール混練機は、例えば前ロールと後ロールとを備える2ロールタイプであることが好ましい。なお、ロール混練機は、3ロール以上のロールを備える混練機であってもよく、また、混練可能であれば、加圧ニーダー、二軸混練押出機、及び二軸スクリュー押出機等であってもよい。
溶融混合物(Mx)は、加熱条件下で混練されることが好ましい。この場合、混練前混合物(M)における有機溶剤(S)、及び調製時に吸湿されうる微量の水は、混練の過程で揮発しうるため、溶融混合物(Mx)から作製される溶融状態のシートに有機溶剤(S)及び水を含有しにくくできる。また、この場合、溶融混合物(Mx)からフェノール系成形材料を作製し、フェノール系成形材料から成形体を作製しても成形体の表面にボイドを生じにくくできる。
加熱温度は、60℃以上160℃以下であることが好ましい。この範囲内であれば、溶融混合物(Mx)における有機溶剤(S)及び水の含有率を低下させることができる。これにより、溶融混合物(Mx)から溶融シートを得、溶融シートを固化させた固形シートからフェノール系成形材料を作製し、更にフェノール系成形材料から成形体を作製しても、成形体の表面によりボイドを生じにくくできる。さらに、この温度範囲内であれば、有機溶剤(S)の揮発速度を適度に緩めることができ、これにより溶融シートの混練開始から混練終了に亘って可塑性を適度に高めることができる。なお、本実施形態において、フェノール系成形材料は、溶融混合物(Mx)の溶融シートから作製されるシート状成形物である固形シートを含む。また、フェノール系成形材料は、固形シートを更に粉砕した粒状成形物であってもよい。
以下では、前ロールと後ロールとを備える2ロールタイプの混練機でフェノール系成形材料を作製する場合を例に挙げて、具体的に説明する。ただし、溶融及び混練の方法はこれに限られない。
ロール混練機は、円柱状の前ロールと、前ロールに対して僅かに間隔(隙間)を空けて配置される円柱状の後ロールとを備え、前ロールと後ロールとの各々は、隙間のある方向に向けて互いに反対方向に回転する。なお、前ロールと後ロールとの寸法は、例えば直径120mm以上500mm以下、ロール長さが、例えば800mm以上2500mm以下とすることができる。前ロールと後ロールとの寸法は、同じであってもよく、異なっていてもよい。また、前ロールと後ロールとの間の隙間(間隔)は、例えば0.2mm以上2.0mm以下である。そして、前ロールの上方から混練前混合物(M)を落下させることで、前ロールと後ロールとの隙間付近まで到達した混練前混合物(M)が前ロールと後ロールとの圧力及び温度で溶融し溶融混合物(Mx)とできる。また、溶融混合物(Mx)が前ロールに巻き付くことでシート状態の溶融シートとなり隙間付近の空間部分(前ロールと後ロールとの円弧で形成される空間)で混練される。そのため、溶融して流動する溶融混合物(Mx)の全てが前ロールと後ロールとの隙間を通って下方に流れ落ちることはなく、大部分が前ロールと後ロールとの円弧で形成される空間で混練される。
前ロール及び後ロールは、適宜加熱可能に構成されている。前ロールの加熱温度は、混練前混合物(M)に含まれうる成分に応じて適宜調整すればよく、例えば60℃以上160℃以下であることが好ましい。後ロールの加熱温度は、例えば40℃以上90℃以下であることが好ましい。ここでいう、前ロールの温度、及び後ロールの温度とは、各々のロールの表面温度である。また、後ロールの加熱温度は、前ロールの加熱温度より低いことも好ましい。例えば、フェノール系樹脂(A)がノボラック型フェノール樹脂を含有する場合、前ロールの温度は90℃以上160℃以下、かつ後ロールの温度は、60℃以上80℃以下であることが好ましい。また、フェノール系樹脂(A)がレゾール型フェノール樹脂を含有する場合、前ロールの温度は60℃以上80℃以下、かつ後ロールの温度は、40℃以上60℃以下であることが好ましい。
前ロール及び後ロールの回転速度は、ロールの外周部分の周速が15m/min以上50m/min以下であることが好ましい。15m/min以上であれば、溶融を良好にシート状の溶融シートにでき、溶融シートを良好にロールに巻き付かせることができる。50m/min以下であれば、フェノール系樹脂(A)の硬化を過度に進行させにくく、硬化反応に伴う発熱を生じにくい。この場合、溶融混合物(Mx)から溶融シートを作製するにあたっても、溶融シートを劣化させにくく、例えば混練時に溶融シートにひび等が入り、ぼろぼろとなってロールから剥がれ落ちるような事態を生じにくくすることができる。前ロール及び後ロールの回転速度は、同じであってもよく、異なっていてもよいが、前ロールと後ロールとの回転数の比は、100:95から100:70の範囲内であることが好ましい。この場合、後ロールよりも前ロールの方が早いため、溶融シートに与える圧力を高くすることができる。これにより、溶融混合物(Mx)の分散性を向上できる。また、回転数比が小さいことで、溶融シートのロールへの巻付き性を悪化させにくくでき、ロールからの溶融シートの剥がれ落ちにくくできる。
溶融混合物(Mx)から作製される溶融シートは、混練された後、必要によりロールから剥ぎ取ることで、ロールからシート状に排出できる。シートの形状は、例えば板状、又は帯状等である。ロールから排出したシートを冷却後に固化させることで固形シートが得られる。これにより、フェノール系成形材料が作製できる。なお、固形シートを粉砕することで粒状(例えばグラニュール状)にすることでフェノール系成形材料としてもよい。すなわち、フェノール系成形材料の形状は、板状、帯状等のシートに限らず、粒状であってもよい。冷却後の固形シートを粉砕するには、適宜の粉砕機を用いて粉砕可能であり、また粉砕後の粉砕物を篩等に掛けることで微粒子状の粉体を除去してもよい。
フェノール系成形材料は、有機溶剤(S)を含有しないことが好ましい。また、フェノール系成形材料における含水率は、例えば2質量%以下であることが好ましい。本実施形態ではフェノール系成形材料において含水率は、約1質量%である。これは混練前混合物(M)、溶融混合物(Mx)、及び/又は溶融シートに大気中の水分が吸湿されたもの、並びにフェノール系樹脂(A)の縮合重合反応により発生した水が残存するため、と考えられる。
上記のとおり、本実施形態の製造方法で製造されたフェノール系成形材料は、硬化させて成形することにより成形体を作製できる。成形体は、例えば自動車等の車両用部品、電子・電気機器の部品、日用品、食器等、適宜の目的に応じて適用することができる。より具体的には、成形体は、自動車用部品において、耐熱性及び耐圧性が要求されるポンプ及びシリンダー等の高圧制御部品に好適に用いることができる。
成形体は、上記で作製したフェノール系成形材料を、例えば射出成型機の金型に注入し、加熱しながら溶融させ、射出口から溶融したフェノール系成形材料を、適宜の形状に応じて射出成形することで、適宜の形状に成形され、続いて、加熱によりフェノール系成形材料が硬化し、フェノール系成形材料の硬化物を含む成形体が得られる。フェノール系成形材料を硬化させる際の加熱条件は、フェノール系成形材料に含まれうる成分に応じて適宜調整できるが、加熱温度は例えば150℃以上180℃以下である。なお、成形体を作製する方法は、これに限定されるものではない。
以下、本開示の具体的な実施例を提示する。ただし、本開示は実施例のみに制限されない。
1.成形材料の調製
後掲の表1中に示す、「フェノール系樹脂」、「硬化剤」、「シリカ」、「ガラス繊維」、「充填材」、「硬化促進剤」、「ワックス」及び「顔料」の欄に記載の成分を、表1に示す配合割合(質量部)で、ヘンシェルミキサー(日本コークス株式会社製 型番FM150L)の本体容器内に投入し、25℃、攪拌羽根の外周速7m/sの条件でヘンシェルミキサーの撹拌羽根を回転させ、約20秒間撹拌することで、第一の混合物を得た。
続いて、後掲の表1に示す「シランカップリング剤」及び「溶剤」の欄に記載の成分を、表1に示す割合(質量部)で容器に加えて混合した第二の混合物を、上記の第一の混合物を再度撹拌しながら、第一の混合物の容器内に約10秒間かけて滴下した。滴下終了後、約10秒間更に撹拌してから、撹拌を停止し、直径5mm以上の塊が無いことを確認した。これにより、混練前混合物を調製した。
なお、表1に示す、成分の詳細は、以下のとおりである。
<フェノール系樹脂>
・ノボラック型フェノール樹脂:パナソニック株式会社製 品番 PAR(ストレートノボラック系フェノール樹脂。数平均分子量4000)。
・レゾール型フェノール樹脂:アイカ工業 品番 BRP−406(レゾール型フェノール樹脂。)
<硬化剤>
・ヘキサメチレンテトラミン:東海クレー工業株式会社 品番 ヘキサミン。
<シリカ>
・溶融シリカパウダー:フミテック株式会社製 品番 F205(平均粒径5.5μm)。
<ガラス繊維>
・チョップドガラス繊維:オーウェンスコーニングジャパン株式会社製 品番 BM57JP(平均繊維径10μm。カップリング剤としてアミノシランを使用。)。
<充填材(シリカ及びガラス繊維以外の充填材)>
・ウォラストナイト:キンセイマテック株式会社製 品番FPW#400(平均粒径8μm)。
・タルク:竹原化学工業株式会社製 品番TTタルク(平均粒径9μm)。
・消石灰:日比野工業株式会社製 品番 特号消石灰。
<ワックス>
・ワックス1:大日化学工業株式会社製 品番 F−2(カルナバワックス)。
・ワックス2:大日化学工業株式会社製 品番 ZP(ステアリン酸亜鉛)。
・ワックス3:大日化学工業株式会社製 品番 M−5(カルナバワックス及びステアリン酸マグネシウムの混合物)。
・ワックス4:大日化学工業株式会社製 品番 MT−2(ステアリン酸亜鉛)。
<顔料>
・黒鉛:伊藤黒鉛工業株式会社製 品番 AG.B(人造黒鉛。平均粒径10μm)。
<カップリング剤>
・シランカップリング剤:信越化学工業株式会社製 品番 JH−A110(3−アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES))。
<溶剤>
・1−プロパノール:沸点97℃。
・メタノール:沸点65℃。
・エタノール:沸点78℃。
・1−ブタノール:沸点117℃。
・HO:工業用水、沸点100℃。
続いて、前ロール(ロール径φ160mm、長さ800mm、)の温度を100℃、後ロール(ロール径φ160mm、長さ800mm、)の温度を70℃に設定したロール混練機(日本コークス株式会社製 型番MOS160)を前ロール外周速度30m/min、後ロール25m/minの条件で回転させながら、上記で調製した混練前混合物を前ロール側上方から流し込み、ロール間の隙間(幅1.0mm)上のロール間の隙間と両ロールの円弧で形成される空間部分で、混練前混合物を溶融させ、ロール表面上でシート状に巻き付かせた。ロールに巻き付かせたままシート状の溶融混練物を更に加圧及び加熱を維持して混練させた。そして、前ロールの下方にスクレーパーを押し当てることにより、ロールからシートを剥がした。
続いて、剥がしたシートを室温まで冷却して固化させ、固化した固形シートを粉砕機に投入して粉砕し、粉砕物を振動ふるい(網目40メッシュ)にかけることで、微粉末を取り除いた。これにより、グラニュール状のフェノール系成形材料を得た。
2.成形材料の評価試験
上記の、第一の混合物と第二の混合物との混練前混合物から得られた溶融混合物から作製した溶融シート及び溶融シートから作製したフェノール系成形材料について、以下の評価試験を行なった。なお、比較例2及び3については、混練してロールで成形するにあたり、溶融シートの取出しが困難であり、成形材料とすることが困難であったため(下記2.3参照)、下記2.1の曲げ強度の評価を行なっていない。
2.1.ロール巻付き性
上記1.で調製した溶融混合物から溶融シートを作製する際の、ロール混練機へのシートの巻付き性を、以下の基準で評価した。
A:ロール混練機の前ロールに対し、混練物が溶融して良好に巻付き、ロールに沿ってシートが形成される。また、溶融せずに粉体のままロール下に落下した混合物(M)の質量が投入量の5%以下である。
B:ロール混練機の前ロールに対し、混練前混合物の一部が溶融するが、一部がロールに沿っておらず、混練が不十分な状態のシートが形成される。また、溶融せずに粉体のままロール下に落下した混合物(M)の質量が投入量の6質量%以上10%質量%以下である。
C:ロール混練機の前ロールに対して、混練前混合物が溶融しても溶融混合物がロールに巻付かず、一部又は全部が剥離した状態となり、シートの形成が困難である。
2.2.曲げ強度
上記1.で調製した溶融混合物から作製したシートをロールから剥ぎ取り、室温で冷却した後に粉砕し、粉末状のフェノール系成形材料を得た。このフェノール系成形材料を篩い取って得られた成形材料を射出成形してテストピースを得、ISO178(Plastics - Determination of flexural properties)に準拠して、オートグラフ(株式会社島津製作所製 型番AG5000D)により、曲げ強度を測定した。得られた測定値を表1に示した。
2.3.シートの安定性
上記1.で調製した溶融混合物から作製したシートについて、以下の判定基準で評価し、表1にその結果を示した。
A:ロールからシートを剥ぎ取る時点でシートに湿り気が残っている。スクレーパーをロールに押し当ててシートを剥ぎ取る際にシートがひび割れること無く繋がった状態で取り出すことができる。
B:ロールからシートを剥ぎ取る時点でシートに湿り気が残っていない。シートの粘度が高くなりシートにひびが入る。スクレーパーをロールに押し当ててシートを剥ぎ取る際にシートがひび割れてしまうが、取り出すことができる。
C:ロールからシートを剥ぎ取る前にシートがひび割れて、前ロールと後ロールの隙間より一部又は全部が落下する。ロール間の隙間に落下したシートは湿り気が無く、粉末が混ざっており、シート状で取り出すことが困難である。
2.4.成形時の膨れ性
上記1.で作製したシート状の成形材料について、JIS K7139 多目的A1ダンベル試験片(長さ170mm、幅4mm)を作製し、試験片における表面に発生したボイド(直径2mm以下の膨れ)の数を目視により確認した。以下の判定基準に基づき評価し、表1にその結果を示した。
A:ボイドの数は、0個である。
B:ボイドの数は、1〜3個である。
C:ボイドの数は、4個以上である。
Figure 2021147481
Figure 2021147481

Claims (6)

  1. フェノール系樹脂(A)と、シリカ(B)と、ガラス繊維(C)とカップリング剤(D)と、沸点90℃以上110℃以下の有機溶剤(S)とを混合して混練することを含み、
    前記フェノール系成形材料の固形分全量に対する前記シリカ(B)の質量割合は、30質量%以上60質量%以下であり、
    前記フェノール系成形材料の固形分全量に対する前記ガラス繊維(C)の質量割合は、20質量%以上40質量%以下である、
    フェノール系成形材料の製造方法。
  2. 前記フェノール系成形材料の固形分全量に対する前記有機溶剤(S)の質量割合は、0.5質量%以上1.5質量%以下である
    請求項1に記載のフェノール系成形材料の製造方法。
  3. 前記フェノール系成形材料の固形分全量に対する前記シリカ(B)と前記ガラス繊維(C)との合計の質量割合は、70質量%以上85質量%以下である、
    請求項1又は2に記載のフェノール系成形材料の製造方法。
  4. 前記フェノール系成形材料の固形分全量に対する前記カップリング剤(D)の質量割合は、0.5質量%以上1.5質量%以下である、
    請求項1から3のいずれか一項に記載のフェノール系成形材料の製造方法。
  5. フェノール系樹脂(A)と、シリカ(B)と、ガラス繊維(C)とを混合した第一の混合物と、沸点90℃以上110℃以下の有機溶剤(S)とカップリング剤(D)とを混合した第二の混合物とを混練して成形した成形物を含む、
    フェノール系成形材料。
  6. 請求項1から4のいずれか一項に記載の成形材料の製造方法で製造されたフェノール系成形材料、又は請求項5に記載のフェノール系成形材料の硬化物を含む、
    成形体。
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