以下、図面を参照して実施形態について説明する。
[軸受の概要]
まず、図1を参照して、本実施形態に係る軸受1の概要について説明する。
図1は、本実施形態に係る軸受1の構成の一例を示す図である。具体的には、軸受1の後述の油溝13が設けられる部分(中央部)とは異なる軸方向の位置での正面断面図である。
図1に示すように、軸受1は、いわゆるすべり軸受であり、アッパ部材10及びロア部材20を組み合わせる半割型である。軸受1は、軸100を内嵌合し内部に供給される潤滑油との間の油膜によって支持する。
軸受1は、例えば、エンジンベアリングであり、エンジンのクランクシャフトのメインジャーナルやコンロッドジャーナル、カムシャフトのカムシャフトジャーナル等に採用される。
本例では、軸100は、クランクシャフトのメインジャーナルに相当する。軸100の上下方向及び左右方向の位置は、軸受1の内部において、エンジンの稼働状況やエンジンに対する外力の作用等によって変化する。図1にて、軸100は、軸受1の軸方向に鉛直な断面の中央部(即ち、図心に相当する位置)にある状態(以下、「基準状態」)で描画されている。以下、後述の図2、図4〜図10についても同様であり、軸100が当該位置にある場合を基準にして説明を行う。
軸受1は、エンジンのシリンダブロック200及びクランクケース300の結合面を上下に跨ぐように設けられる貫通孔に組み付けられる。以下、前、後、上、下、左、及び右の方向は、軸受1が搭載されるエンジンの前、後、上、下、左、及び右に対応する。
アッパ部材10は、軸受1が設置される貫通孔のうちの上半分、即ち、シリンダブロック200に設けられる半円形状の正面断面を有する切り欠き部に組み付けられる。アッパ部材10は、例えば、銅合金やアルミ合金等を用いる金属製である。アッパ部材10は、外周面11と、内周面12と、油溝13と、油孔14とを含む。
外周面11は、軸方向(前後方向)で略半円形状の断面を有し、シリンダブロック200に設けられる半円形状の正面断面を有する切り欠き部に接している。
内周面12は、アッパ部材10の肉厚、即ち、外周面11と内周面12との間の厚みが周方向で変化するように構成される。具体的には、内周面12は、前から見て、軸100(軸心AX)を基準に左右非対称の形状を有し、軸100の回転方向(エンジンを前から見て右回り)に沿って上流側よりも下流側で軸100との隙間が小さくなるように構成される。これにより、油孔14から供給される潤滑油がくさび作用によって相対的に高い油膜圧力を発生させることができる。そのため、軸受1は、この相対的に高い油膜圧力によって安定的に軸100を支持することができる。
また、内周面12には、マイクログルーブ(微小溝)加工が施されてもよい。これにより、微小溝により内周面12が変形しやすくなり、軸100と内周面12との間の接触面圧を相対的に低下させ、焼付きの発生等を抑制することができる。
また、内周面12には、樹脂コーティング等が施されてもよい。これにより、変形しやすい樹脂の作用で、軸100と内周面12との間の接触面圧を相対的に低下させ、焼付きの発生等を抑制することができる。
内周面12の具体的な態様は、後述する(図2、図6〜図9参照)。
油溝13は、内周面12の軸方向の中央付近において、周方向に延びるように設けられる。油溝13に供給される潤滑油は、油溝13を周方向に移動しながら油溝13から軸方向に溢れ出るように内周面12に供給される。油溝13の具体的な態様は、後述する(図10参照)。
油孔14は、アッパ部材10の上端部、即ち、周方向でアッパ部材10の中央部に設けられ、外周面11と油溝13との間を連通する。油孔14は、シリンダブロック200に設けられる油路と接続されており、潤滑油を軸受1の内周側(油溝13)に供給する。
尚、潤滑油は、軸100から供給される態様であってもよい。この場合、油孔14は、省略されてよい。
ロア部材20は、軸受1が設置される貫通孔のうちの下半分、即ち、クランクケース300に設けられる半円形状の正面断面を有する切り欠き部に組み付けられる。ロア部材20は、アッパ部材10と同様、例えば、銅合金やアルミ合金等を用いる金属製である。ロア部材20は、外周面21と、内周面22とを含む。
外周面21は、軸方向(前後方向)で略半円形状の断面を有し、クランクケース300に設けられる、半円形状の正面断面を有する切り欠き部に接している。
内周面22は、内周面12と同様、ロア部材20の肉厚、即ち、外周面21と内周面22との間の厚みが周方向で変化するように構成される。具体的には、内周面22は、前から見て、軸100(軸心AX)を基準に左右非対称の形状を有し、軸100の回転方向に沿って上流側よりも下流側で軸100との隙間が小さくなるように構成される。これにより、内周面12の場合と同様の効果を奏する。内周面12と内周面22とは、軸100(軸心AX)を基準として、軸対称の形状を有している。軸100の外周面は、内周面12に沿って右から左に移動する一方、内周面22に沿って左から右に移動するからである。
[内周面の形状]
次に、図2〜図9を参照して、内周面12,22の形状の具体的な態様について説明する。以下、内周面12,22は、上述の如く、軸100(軸心AX)を基準に軸対称の形状を有しているため、内周面12の形状を中心に説明し、内周面22の形状に関する説明を省略する場合がある。
<内周面の形状の第1例>
図2は、軸受1の内周面12,22の形状の第1例を示す図である。具体的には、図2は、図1の場合と同様、本例に係る軸受1の正面断面図である。
図2に示すように、アッパ部材10の内周面12は、ベース部121と、オイルリリーフ部122と、クラッシュリリーフ部123と、オイルリリーフ部124と、クラッシュリリーフ部125とを含む。
また、ロア部材20の内周面22は、ベース部221と、オイルリリーフ部222と、クラッシュリリーフ部223と、オイルリリーフ部224と、クラッシュリリーフ部225とを含む。ベース部221、オイルリリーフ部222、クラッシュリリーフ部223、オイルリリーフ部224、及びクラッシュリリーフ部225は、それぞれ、ベース部121、オイルリリーフ部122、クラッシュリリーフ部123、オイルリリーフ部124、及びクラッシュリリーフ部125に対応する。
以下、内周面12(ベース部121、オイルリリーフ部122、クラッシュリリーフ部123、オイルリリーフ部124、及びクラッシュリリーフ部125)の説明を中心に行う。
ベース部121(第1の部分の一例)は、内周面12のうちの周方向で中央部に設けられる。
ベース部121は、例えば、基準状態の軸100との間に所定の隙間が確保される態様の軸100と略同心の円弧面で構成される。
尚、図2では、ベース部121,221の曲面(本例では、円弧面)を軸100の回転方向の上流側及び下流側まで延長した破線が描画されている。以下、図6〜図9についても同様である。
オイルリリーフ部122(第1の部分の一例)は、ベース部121に対して、周方向で軸100の回転方向と逆方向(即ち、回転方向の上流側)に隣接して配置され、ベース部121の端部と接続される。ベース部121及びオイルリリーフ部122は、接続される端部同士の位置が連続(一致)している。また、ベース部121及びオイルリリーフ部122は、接続されるそれぞれの端部で接線(接面)や曲率が連続(一致)し、折れのないより滑らかな曲面で接続されてもよい。
オイルリリーフ部122は、軸100との隙間がベース部121よりも大きくなるような曲面(例えば、円弧面)で構成される。具体的には、オイルリリーフ部122は、軸100との隙間が軸100の回転方向に沿って小さくなるように、換言すれば、軸100の回転方向と逆方向に(即ち、回転方向の上流側に向かって)大きくなるようにその曲面が構成される。これにより、内周面12は、オイルリリーフ部122からベース部121に亘って、軸100との隙間が軸100の回転方向の上流側よりも下流側で小さくなるように構成される。そのため、オイルリリーフ部122からベース部121に亘って、油孔14及び油溝13を経て供給される潤滑油によりくさび効果の油膜形成が促進され、相対的に高い油膜圧力を発生させることができる。また、オイルリリーフ部122は、潤滑油の油量を相対的に多く確保することができる。そのため、軸受1や軸100の冷却性能を向上させることができる。
尚、図2では、オイルリリーフ部122,222の曲面(円弧面)を軸100の回転方向の上流側まで延長した点線が描画されている。以下、図6〜図9についても同様である。
クラッシュリリーフ部123は、内周面12において、周方向で軸100の回転方向と逆方向の端部に配置される。具体的には、クラッシュリリーフ部123は、オイルリリーフ部122に対して、周方向で軸100の回転方向と逆方向(即ち、回転方向の上流側)に隣接して配置され、オイルリリーフ部122と接続される。オイルリリーフ部122及びクラッシュリリーフ部123は、接続される端部同士の位置が連続(一致)している。また、オイルリリーフ部122及びクラッシュリリーフ部123は、接続されるそれぞれの端部で接線(接面)や曲率が連続(一致)せず、折れ形状により接続される。また、クラッシュリリーフ部123は、ロア部材20のクラッシュリリーフ部225の周方向の端部と接続される。クラッシュリリーフ部123及びクラッシュリリーフ部225は、接続される端部同士の位置が連続(一致)している。また、クラッシュリリーフ部123及びクラッシュリリーフ部225は、接続されるそれぞれの端部での接線(接面)や曲率が連続(一致)していてもよい。
クラッシュリリーフ部123は、軸100との隙間がオイルリリーフ部122より大きくなるような曲面(例えば、円弧面)で構成される。また、クラッシュリリーフ部123は、軸100との隙間が周方向で軸100の回転方向に沿って小さくなるように、換言すれば、軸100の回転方向と逆方向に沿って(即ち、回転方向の上流側に向かって)大きくなるようにその曲面が構成される。
オイルリリーフ部124(第2の部分の一例)は、周方向において、ベース部121に対して軸100の回転方向に隣接して配置され、ベース部121の端部と接続される。ベース部121及びオイルリリーフ部124は、接続される端部同士の位置が連続(一致)している。また、ベース部121及びオイルリリーフ部124は、接続されるそれぞれの端部で接線(接面)や曲率が連続(一致)し、折れのないより滑らかな曲面で接続されてもよい。
オイルリリーフ部124は、軸100との隙間がベース部121よりも大きくなるような曲面(例えば、円弧面)構成される。具体的には、オイルリリーフ部122は、軸100との隙間が軸100の回転方向に沿って大きくなるようにその曲面が構成される。これにより、オイルリリーフ部124は、潤滑油の油量を相対的に多く確保することができる。そのため、軸受1や軸100の冷却性能を向上させることができる。
また、オイルリリーフ部124は、周方向での軸100との隙間の変化率がオイルリリーフ部122より相対的に小さくなるように構成される。周方向での軸100との隙間の変化率には、例えば、周方向での隣接する他の部分(ベース部121やクラッシュリリーフ部125)との端部同士の間の変化率が含まれる。これにより、軸100の回転方向に沿って内周面12(オイルリリーフ部124)と軸100との隙間が広がることで生じる油膜圧力の低下を抑制することができる。
尚、図2では、オイルリリーフ部124,224の曲面(円弧面)を軸100の回転方向の下流側まで延長した点線が描画されている。以下、図6〜図9についても同様である。
クラッシュリリーフ部125(第3の部分の一例)は、内周面12において、周方向で軸100の回転方向の端部に配置される。具体的には、クラッシュリリーフ部125は、オイルリリーフ部124に対して軸100の回転方向(即ち、回転方向の下流側)に隣接して配置され、オイルリリーフ部124の端部と接続される。オイルリリーフ部124及びクラッシュリリーフ部125は、接続される端部同士の位置が連続(一致)している。また、オイルリリーフ部124及びクラッシュリリーフ部125は、接続されるそれぞれの端部で接線(接面)や曲率が連続(一致)せず、折れ形状により接続される。また、クラッシュリリーフ部125は、ロア部材20のクラッシュリリーフ部223の周方向の端部と接続される。クラッシュリリーフ部125及びクラッシュリリーフ部223は、接続される端部同士の位置が連続している。そのため、クラッシュリリーフ部125の量(左右方向或いは径方向の寸法)は、クラッシュリリーフ部223(即ち、クラッシュリリーフ部123)よりも相対的に大きく設定される。また、クラッシュリリーフ部125及びクラッシュリリーフ部223は、接続されるそれぞれの端部での接線(接面)や曲率が連続(一致)していてもよい。
クラッシュリリーフ部125は、軸100との隙間がオイルリリーフ部124より大きくなるように構成される。具体的には、クラッシュリリーフ部125は、軸100との隙間が周方向で軸100の回転方向に沿って(即ち、回転方向の下流側に向かって)、大きくなるような曲面(例えば、円弧面)で構成される。また、クラッシュリリーフ部125は、周方向での軸100との隙間の変化率がオイルリリーフ部124より大きくなるようにその曲面が構成される。
このように、本例では、軸受1は、内周面12における軸100の回転方向の端部において、内周面12と軸100との隙間をオイルリリーフ部124からクラッシュリリーフ部125に亘り、相対的に緩やかな変化率で段階的に広げることができる。そのため、アッパ部材10は、軸100の回転方向の端部において、軸100の回転方向に沿った周方向での内周面12と軸100との隙間の急激な変化を抑制し、内周面12と軸100との間の油膜圧力の急激な低下を抑制することができる。よって、内周面12と軸100との間の接触による焼付き等を抑制することができる。
また、本例では、アッパ部材10及びロア部材20は、軸100(軸心AX)を基準として、周方向で軸100の回転方向に沿って軸100との隙間が減少するように構成される、左右非対称の内周面12,内周面22を有する。
例えば、シリンダブロック200やクランクケース300に熱膨張係数が相対的に高い材料が使用されると、温度の低下に応じて、シリンダブロック200やクランクケース300が相対的に大きく収縮してしまう可能性がある。すると、極低温状態(例えば、摂氏マイナス20度以下の状態)において、軸受1は、シリンダブロック200やクランクケース300の収縮に合わせて、径方向で内側に収縮され、軸100と内周面12,22との隙間が大きく減少する。そのため、極低温状態では、軸100と軸受1との間にしまりばめに相当する状態が生じてしまう可能性がある。
一方、極低温状態でのしまりばめに相当する状態を回避可能なように、軸100と内周面12,22との隙間を確保することも可能である。しかし、この場合、高温状態(例えば、摂氏80度以上の状態)では、軸100と内周面12,22との隙間が相対的に大きくなってしまう可能性がある。すると、高温状態において、軸100と内周面12,22との間の油膜圧力の低下やクランクシャフトの回転に伴う軸100と内周面12,22との間の打音の発生を促進してしまう可能性がある。
これに対して、本例では、軸100の回転方向の上流側のオイルリリーフ部122と軸100との隙間を相対的に大きく確保する一方、下流側のオイルリリーフ部124の軸100との隙間を極力小さくしている。これにより、油溝13から内周面12,22と軸100との間に流入する潤滑油の油量を相対的に少なくすることができる。油溝13の潤滑油は、相対的に油膜圧力が低下するオイルリリーフ部124で内周面12,22と軸100との間に流入する場合が多いからである。そのため、高温状態において、内周面12,22と軸100との隙間が相対的に大きくなっていても、潤滑油の油量自体が相対的に少ないことから、油膜圧力の低下幅を抑制することができる。併せて、極低温状態では、潤滑油の油量が相対的に少ないことから、潤滑油による軸受1や軸100の冷却性能を相対的に低下させ、逆に、保温性能を向上させることができる。そのため、極低温状態において、内周面12,22と軸100との間のフリクション(摩擦抵抗)を相対的に低減させることができる。また、オイルリリーフ部124による油膜圧力の低下が抑制されることから、内周面12,22と軸100との間の油膜厚さを相対的に大きく確保することができる。そのため、高温状態において、内周面12,22と軸100との隙間が相対的に大きくなっても、内周面12,22と軸100との間の接触を抑制し、打音の発生を抑制することができる。
また、例えば、シリンダブロック200及びクランクケース300が互いに異なる材料で構成されている場合がある(図3参照)。
図3は、温度状態の変化に伴うシリンダブロック200及びクランクケース300の変形態様の具体例を示す図である。具体的には、図3Aは、常温状態(例えば、摂氏20度の状態)でのシリンダブロック200及びクランクケース300を表し、図3Bは、極低温状態でのシリンダブロック200及びクランクケース300を表す。
図3に示すように、シリンダブロック200は、アルミニウム合金製であり、クランクケース300は、鋳鉄製である。そのため、シリンダブロック200は、相対的に熱膨張係数が大きく、クランクケース300は、相対的に熱膨張係数が小さい。シリンダブロック200及びクランクケース300は、クランクキャップボルト400により上下方向で締結されている。
図3に示すように、極低温状態では、クランクケース300よりもシリンダブロック200の方が常温状態に対して大きく収縮する。
仮に、シリンダブロック200及びクランクケース300がクランクキャップボルト400により締結されていない場合、シリンダブロック200及びクランクケース300は、全方向に均等に収縮変形することが可能である(図3Bの点線参照)。しかし、実際は、シリンダブロック200及びクランクケース300は、クランクキャップボルト400により上下方向で締結されている。そのため、シリンダブロック200及びクランクケース300は、左右方向において、クランクキャップボルト400が上下方向に挿通される両端部が内傾するよう変形し、且つ、中央部、即ち、クランク軸(軸100)の位置に相当する部分が下方に変形する。よって、シリンダブロック200は、クランクキャップボルト400でクランクケース300と締結されていない場合に比して、左右方向の中央部の下方への変形量が増加する。また、クランクケース300は、クランクキャップボルト400でシリンダブロック200と締結されていない場合に比して、左右方向の両端部の内側への変形量が増加すると共に、左右方向の中央部の下方への変形量が増加する。
ここで、図4は、比較例に係る軸受1cの温度状態の変化に伴う内周面12c,22cの形状の変化の具体例を示す図である。具体的には、シリンダブロック200及びクランクケース300がそれぞれアルミ合金製及び鋳鉄製の前提下で、図4Aは、常温状態での比較例に係る軸受1cを表す正面断面図であり、図4Bは、極低温状態での比較例に係る軸受1cを表す正面断面図である。
比較例に係る軸受1cは、本例に係る軸受1と同様、アッパ部材10c及びロア部材20cを組み合わせる半割型である。アッパ部材10cは、外周面11cがシリンダブロック200の下端の左右方向の中央部に形成される切り欠き部に接する形で取り付けられ、ロア部材20cは、外周面21cがクランクケース300の上端の左右方向の中央部に形成される切り欠き部に接する形で取り付けられる。
一方、比較例に係る軸受1cは、本例に係る軸受1と異なり、アッパ部材10cの内周面12c及びロア部材20cの内周面22cは、共に、軸100を基準として左右対称の形状を有する。
上述の如く、シリンダブロック200がアルミ合金製で、クランクケース300が鋳鉄製である場合、極低温状態において、シリンダブロック200の左右方向の中央部付近が下方に相対的に大きく収縮変形する。そのため、図4に示すように、極低温状態では、アッパ部材10cの内周面12cは、左右方向の中央部、即ち、周方向の中央部付近の1箇所が常温状態に対して下方に大きく変形し、周方向の中央部付近と軸100との隙間が常温状態に対して大きく減少する。よって、内周面12cの周方向の中央部と軸100との間の接触が促進される(図4B中の上側の下向き矢印参照)。
同様に、シリンダブロック200がアルミ合金製で、クランクケース300が鋳鉄製である場合、極低温状態において、クランクケース300の左右方向の端部が内側に相対的に大きく変形し、且つ、左右方向の中央部が下方に相対的に大きく変形する。そのため、図4に示すように、極低温状態では、内周面22cは、周方向の両端部のそれぞれと中央部との間の2箇所が常温状態に対して左右方向の内側に相対的に大きく変形し、当該2箇所と軸100との隙間が常温状態に対して大きく減少する。よって、内周面22cの周方向の両端部のそれぞれと中央部との間の2箇所と軸100との間の接触が促進される(図4B中の下側の上向き矢印参照)。
即ち、比較例に係る軸受1cのように、軸100を基準として、内周面12c、22cが左右対称の形状を有する場合、極低温状態において、内周面12cの1箇所、及び内周面22cの2箇所の合計3箇所で、軸100との間の接触が促進される。そのため、フリクションが相対的に大きくなる可能性がある。
これに対して、図5は、本実施形態に係る軸受1の温度状態の変化に伴う内周面12,22の形状の変化の具体例を示す図である。具体的には、シリンダブロック200及びクランクケース300がそれぞれアルミ合金製及び鋳鉄製の前提下で、図5Aは、常温状態での本実施形態に係る軸受1を表す正面断面図であり、図5Bは、極低温状態での本実施形態に係る軸受1を表す正面断面図である。
図5に示すように、本例では、内周面12は、上述の如く、周方向で軸100の回転方向の上流側よりも下流側で軸100との隙間が小さくなるように、軸100を基準として左右非対称の形状を有する。これにより、内周面12は、周方向の中央部よりも軸100の回転方向の下流側の箇所の方が軸100との隙間が小さくなる場合がある。そのため、極低温状態では、内周面12は、当該箇所が常温状態に対して下方に大きく変形し、当該箇所と軸100との隙間が常温状態に対して大きく減少する。よって、内周面12の当該箇所と軸100との間の接触が促進される(図5B中の上側の下向き矢印参照)。
同様に、内周面22は、上述の如く、周方向で軸100の回転方向の上流側よりも下流側で軸100との隙間が小さくなるように、軸100を基準として左右非対称の形状を有する。これにより、内周面22は、周方向の中央部よりも軸100の回転方向の下流側の箇所の方が軸100との隙間が小さくなる場合がある。そのため、極低温状態では、内周面22は、当該箇所が常温状態に対して左右方向の内側に相対的に大きく変形し、当該箇所と軸100との隙間が常温状態に対して大きく減少する。よって、内周面22の当該箇所と軸100との間の接触が促進される(図5B中の下側の下向き矢印参照)。
このように、本例では、極低温状態において、内周面12の1箇所、及び内周面22の1箇所の合計2箇所で、軸100との間の接触が促進される。そのため、軸受1は、極低温状態において、比較例に係る軸受1cの場合よりも、内周面12,22と軸100との間の接触箇所を減少させ、軸100との間のフリクションを相対的に低減させることができる。
<内周面の形状の第2例>
図6は、軸受1の内周面12,22の形状の第2例を示す図である。具体的には、図6は、図1の場合と同様、本例に係る軸受1の正面断面図である。以下、上述の第1例と異なる部分を中心に説明し、上述の第1例と同じ或いは対応する内容(構成や作用・効果等)の説明を省略する場合がある。
図6に示すように、本例では、アッパ部材10の内周面12は、ベース部121と、オイルリリーフ部122と、クラッシュリリーフ部123と、オイルリリーフ部124と、クラッシュリリーフ部125と、クラッシュリリーフ部126とを含む。つまり、本例では、アッパ部材10の内周面12には、上述の第1例と異なり、クラッシュリリーフ部126が追加される。
また、ロア部材20の内周面22は、ベース部221と、オイルリリーフ部222と、クラッシュリリーフ部223と、オイルリリーフ部224と、クラッシュリリーフ部225と、クラッシュリリーフ部226とを含む。つまり、本例では、ロア部材20の内周面22には、上述の第1例と異なり、クラッシュリリーフ部226が追加される。
ベース部221、オイルリリーフ部222、クラッシュリリーフ部223、オイルリリーフ部224、クラッシュリリーフ部225、及びクラッシュリリーフ部226は、それぞれ、ベース部121、オイルリリーフ部122、クラッシュリリーフ部123、オイルリリーフ部124、クラッシュリリーフ部125、及びクラッシュリリーフ部126に対応する。
以下、内周面12を中心に説明を行う。
オイルリリーフ部124は、周方向の寸法(角度範囲)が上述の第1例の場合よりも小さく設定される。具体的には、オイルリリーフ部124は、軸100の回転方向の端部が上述の第1例の場合よりも軸100の回転方向と逆方向に移動している。即ち、オイルリリーフ部124は、軸100の回転方向と逆方向の端部を基準として、その周方向の寸法が上述の第1例の場合より短く設定される。オイルリリーフ部124は、軸100の回転方向の端部でクラッシュリリーフ部126と接続される。
クラッシュリリーフ部125は、上述の第1例の場合と同様の周方向の寸法や径方向の寸法を有する。クラッシュリリーフ部125は、軸100の回転方向と逆方向の端部でクラッシュリリーフ部126と接続される。
クラッシュリリーフ部126は、周方向において、オイルリリーフ部124とクラッシュリリーフ部125との間に隣接して配置される。オイルリリーフ部124及びクラッシュリリーフ部126は、接続される端部同士の位置が連続(一致)している。また、オイルリリーフ部124及びクラッシュリリーフ部126は、接続されるそれぞれの端部で接線(接面)や曲率が連続(一致)せず、折れ形状により接続される。クラッシュリリーフ部126及びクラッシュリリーフ部125は、接続される端部同士の位置が連続している。また、クラッシュリリーフ部126及びクラッシュリリーフ部125は、接続されるそれぞれの端部で接線(接面)や曲率が連続(一致)せず、折れ形状により接続される。
クラッシュリリーフ部126は、軸100との隙間がオイルリリーフ部124より小さく、且つ、クラッシュリリーフ部125より大きくなるように構成される。具体的には、クラッシュリリーフ部126は、軸100との隙間が周方向で軸100の回転方向に沿って(即ち、回転方向の下流側に向かって)、大きくなるような曲面(例えば、円弧面)で構成される。また、クラッシュリリーフ部126は、周方向での軸100との隙間の変化率がオイルリリーフ部124より大きくなるようにその曲面が構成される。また、クラッシュリリーフ部126は、周方向での軸100との隙間の変化率がクラッシュリリーフ部125より小さくなるようにその曲面が構成されてもよい。
このように、本例では、オイルリリーフ部124の周方向の寸法が軸100の回転方向と逆方向の端部を基準に相対的に短く設定され、オイルリリーフ部124とクラッシュリリーフ部125との間にクラッシュリリーフ部126が追加される。同様に、オイルリリーフ部224の周方向の寸法が軸100の回転方向と逆方向の端部を基準に短く設定され、オイルリリーフ部224とクラッシュリリーフ部225との間に、クラッシュリリーフ部226が追加される。即ち、本例では、クラッシュリリーフ部125,126の合計の長さ(周方向或いは上下方向の寸法)及びクラッシュリリーフ部225,226の合計の長さが相対的に大きく確保される。これにより、オイルリリーフ部124とクラッシュリリーフ部125,126との間での軸100との隙間の変化を相対的に小さく抑制することができる。そのため、軸受1は、内周面12,22における軸100の回転方向の端部において、内周面12と軸100との隙間を更に緩やかに広げることができる。そのため、クラッシュリリーフ部126,226の追加の作用によって、アッパ部材10及びロア部材20は、軸100の回転方向の端部において、軸100の回転方向に沿った周方向での内周面12,22と軸100との隙間の急激な変化を更に抑制し、内周面12,22と軸100との間の油膜圧力の急激な低下を更に抑制することができる。よって、内周面12,22と軸100との間の接触による焼付き等を更に抑制することができる。
<内周面の形状の第3例>
図7は、軸受1の内周面12,22の形状の第3例を示す図である。具体的には、図7は、図1の場合と同様、本例に係る軸受1の正面断面図である。以下、上述の第1例と異なる部分を中心に説明し、上述の第1例と同じ或いは対応する内容(構成や作用・効果等)の説明を省略する場合がある。
図7に示すように、本例では、内周面12のクラッシュリリーフ部125及び内周面22のクラッシュリリーフ部225は、上述の第1例の場合よりもその長さ(上下方向或いは周方向の寸法)が相対的に大きく確保されている。
以下、内周面12の説明を中心に行う。
オイルリリーフ部124は、上述の第2例の場合と同様、周方向の寸法(角度範囲)が上述の第1例の場合よりも小さく設定される。具体的には、オイルリリーフ部124は、軸100の回転方向の端部が上述の第1例の場合よりも軸100の回転方向と逆方向に移動している。オイルリリーフ部124は、軸100の回転方向の端部でクラッシュリリーフ部125と接続される。
クラッシュリリーフ部125は、上述の如く、その長さ(周方向或いは上下方向の寸法)が上述の第1例の場合よりも相対的に大きく設定される。具体的には、クラッシュリリーフ部125は、上述の第2例のクラッシュリリーフ部125,126の合計と同程度の長さを有する。また、クラッシュリリーフ部125は、上述の第2例のクラッシュリリーフ部(クラッシュリリーフ部125,126の組み合わせ)の場合と異なり、周方向に延びる相対的に滑らかな曲面(例えば、円弧面)で構成される。
このように、本例では、オイルリリーフ部124の周方向の寸法が軸100の回転方向と逆方向の端部を基準に相対的に短く設定され、クラッシュリリーフ部125の長さ(周方向或いは上下方向の寸法)が相対的に大きく確保される。同様に、オイルリリーフ部224の周方向の寸法が軸100の回転方向と逆方向の端部を基準に短く設定され、クラッシュリリーフ部225の長さ(周方向或いは上下方向の寸法)が相対的に大きく確保される。これにより、オイルリリーフ部124とクラッシュリリーフ部125との間での軸100との隙間の変化を相対的に小さく抑制することができる。また、相対的に長く設定されるクラッシュリリーフ部125,225は、滑らかな曲面で構成されることで、軸100の回転方向に沿った周方向での軸100との隙間を滑らかに変化させることができる。そのため、軸受1は、内周面12,22における軸100の回転方向の端部において、内周面12,22と軸100との隙間を更に緩やかに広げることができる。そのため、アッパ部材10及びロア部材20は、軸100の回転方向の端部において、軸100の回転方向に沿った周方向での内周面12,22と軸100との隙間の急激な変化を更に抑制し、内周面12,22と軸100との間の油膜圧力の急激な低下を更に抑制することができる。よって、内周面12,22と軸100との間の接触による焼付き等を更に抑制することができる。
<内周面の形状の第4例>
図8は、軸受1の内周面12,22の形状の第4例を示す図である。具体的には、図8は、図1の場合と同様、本例に係る軸受1の正面断面図である。以下、上述の第1例と異なる部分を中心に説明し、上述の第1例と同じ或いは対応する内容(構成や作用・効果等)の説明を省略する場合がある。
図8に示すように、本例では、内周面12のクラッシュリリーフ部125及び内周面22のクラッシュリリーフ部225の量(左右方向或いは径方向の寸法)が上述の第1例の場合よりも小さく設定されている。
具体的には、クラッシュリリーフ部125,225は、クラッシュリリーフ部123,223と同程度の量を有する。そのため、クラッシュリリーフ部125及びクラッシュリリーフ部223は、その相対する端部の位置が連続(一致)せず、段差が生じる。同様に、クラッシュリリーフ部123及びクラッシュリリーフ部225は、その相対する端部の位置が連続(一致)せず、段差が生じる。よって、軸受1の内部には、アッパ部材10及びロア部材20の間の合わせ面が露出する。
このように、軸受1は、クラッシュリリーフ部125,225が相対的に小さく設定されることで、アッパ部材10及びロア部材20の相対する端部において、位置の不連続(段差)が生じていてもよい。即ち、軸受1は、アッパ部材10及びロア部材20が相対する端部において、その合わせ面が内部に露出し態様であってもよい。段差部分は、クラッシュリリーフ部125及びクラッシュリリーフ部223、並びにクラッシュリリーフ部123及びクラッシュリリーフ部225の奥にあり、軸100に直接接触することがないからである。
<内周面の形状の第5例>
図9は、軸受1の内周面12,22の形状の第5例を示す図である。具体的には、図9は、図1の場合と同様、本例に係る軸受1の正面断面図である。以下、上述の第1例と異なる部分を中心に説明し、上述の第1例と同じ或いは対応する内容(構成や作用・効果等)の説明を省略する場合がある。
図9に示すように、本例では、クラッシュリリーフ部123,223の量が非常に小さい。また、クラッシュリリーフ部123,223は、その量がゼロ、即ち、省略されてもよい。
クラッシュリリーフ部123は、ロア部材20のクラッシュリリーフ部225と接続される。クラッシュリリーフ部123及びクラッシュリリーフ部225は、接続される端部の位置が連続(一致)する。また、クラッシュリリーフ部123及びクラッシュリリーフ部225は、接続される端部での接線(接面)や曲率が連続(一致)していてもよい。同様に、クラッシュリリーフ部223は、アッパ部材10のクラッシュリリーフ部125と接続される。クラッシュリリーフ部125及びクラッシュリリーフ部223は、接続される端部の位置が連続(一致)する。また、クラッシュリリーフ部125及びクラッシュリリーフ部223は、接続される端部での接線(接面)や曲率が連続(一致)していてもよい。そのため、クラッシュリリーフ部125,225の量は、クラッシュリリーフ部123,223の量に合わせて、上述の第1例の場合よりも小さく設定されている。
このように、アッパ部材10及びロア部材20のそれぞれについて、軸100の回転方向に対する上流側のクラッシュリリーフ部123,223は、その量が相対的に小さく(具体的には、微小に)設定されたり、省略されたりしてもよい。軸100の回転方向に対する上流側のクラッシュリリーフ部123,223の有無やその量は、内周面12,22と軸100との間の油膜形成に対する影響が小さいからである。
[油溝の構成]
次に、図10を参照して、油溝13の具体的な構成について説明する。
図10は、本実施形態に係る軸受1の油溝13の構成の一例を示す図である。具体的には、本実施形態に係る軸受1の軸方向の中央部における正面断面図である。
図10に示すように、油溝13は、周方向において、軸100の回転方向と逆方向(即ち、回転方向の上流側)の端部がアッパ部材10及びロア部材20の合わせ面から離れている。例えば、油溝13は、周方向において、軸100の回転方向と逆方向(即ち、回転方向の上流側)の端部がオイルリリーフ部122に設けられ、クラッシュリリーフ部123には、油溝13が設けられない構成であってよい。これにより、油溝13によって、油量を相対的に多く確保可能なクラッシュリリーフ部123やアッパ部材10及びロア部材20の合わせ面に潤滑油が直接供給されないようにすることができる。そのため、アッパ部材10及びロア部材20の合わせ面から漏れ出す潤滑油の量を相対的に少なくすることができる。また、油溝13のうち、周方向の中央部よりも軸100の回転方向の上流側の部分の体積は、相対的に小さくなる。これにより、上流側に供給可能な潤滑油の量を相対的に少なくすることができる。そのため、アッパ部材10及びロア部材20の合わせ面から漏れ出す潤滑油の量を相対的に少なくすることができる。よって、潤滑油の流量を相対的に少なくし、軸受1が搭載されるエンジンの燃費を向上させることができる。
一方、油溝13は、周方向において、軸100の回転方向(下流側)の端部がアッパ部材10及びロア部材20の合わせ面に略一致している。即ち、油溝13は、軸100の回転方向に沿ってアッパ部材10の端部を貫通し、油溝13にロア部材20の合わせ面が露出している。これにより、油溝13は、クラッシュリリーフ部125,126やアッパ部材10及びロア部材20の合わせ面まで潤滑油を直接供給することができる。
例えば、周方向において、油溝13の下流側の端部が上流側の端部と同様、オイルリリーフ部124に設けられる場合、油溝13の潤滑油は、オイルリリーフ部124と軸100との間を通じて、アッパ部材10及びロア部材20の合わせ面に到達する。そのため、オイルリリーフ部124と軸100との間の相対的に小さい隙間の影響で、軸受1の内部の異物(例えば、金属の粉等)が適切に軸受1の外部に排出されない可能性がある。
これに対して、本例では、油溝13は、クラッシュリリーフ部125,126やアッパ部材10及びロア部材20の合わせ面まで潤滑油を直接供給する。これにより、軸受1は、その内部の異物を軸100の回転方向の下流側のアッパ部材10及びロア部材20の合わせ面から外部に適切に排出させることができる。また、油溝13のうち、周方向の中央部よりも軸100の回転方向の下流側の部分の体積は、相対的に大きくなる。これにより、下流側に供給可能な潤滑油の量を相対的に多くすることができる。そのため、軸受1は、軸100の回転方向の下流側のアッパ部材10及びロア部材20の合わせ面からより容易に内部の異物を排出させることができる。
尚、油溝13は、周方向において、軸100の回転方向の下流側の端部がクラッシュリリーフ部125やクラッシュリリーフ部126に設けられていてもよい。
このように、本例では、軸受1は、軸100の回転方向の上流側から漏れ出す潤滑油の量を抑制しつつ、軸100の回転方向の下流側から内部の異物を適切に排出させることができる。そのため、軸受1は、潤滑油の油量低減のニーズと、内部の異物排出のニーズとを両立させることができる。
[軸受の組み付け作業の支援に関する構成]
次に、図11〜図14を参照して、軸受1の組み付け作業の支援に関する構成について具体的に説明する。
<軸受の組み付け作業の支援に関する構成の第1例>
図11は、軸受1の組み付け作業の支援に関する構成の第1例を示す図である。
図11に示すように、アッパ部材10及びロア部材20は、それぞれ、マーカ15,25を含む。
マーカ15は、アッパ部材10の前端面に設けられる。周方向の位置は、任意である。例えば、マーカ15は、アッパ部材10の上端部、即ち、周方向の中央部付近に設けられる。
尚、マーカ15は、アッパ部材10の前端面に複数設けられてもよい。
マーカ25は、ロア部材20の前端面に設けられる。周方向の位置は、マーカ15の場合と同様に任意である。例えば、マーカ25は、ロア部材20の下端部、即ち、周方向の中央部付近に設けられる。
尚、マーカ25は、ロア部材20の前端面に複数設けられてもよい。
マーカ15,25は、それぞれ、例えば、塗料等の塗布により設けられてよい。また、マーカ15,25は、それぞれ、例えば、所定の刻印等により設けられもよい。これにより、エンジンの製造ライン等で、軸受1を組み付ける作業者は、マーカ15,25を確認することにより、アッパ部材10及びロア部材20の組み付ける向きを確認することができる。そのため、軸受1は、作業者が前後方向で逆に組み付けてしまうような事態を抑制することができる。
尚、マーカ15,25は、アッパ部材10及びロア部材20の前端面に設けられる代わりに、アッパ部材10及びロア部材20の後端面に設けられてもよい。
例えば、アッパ部材10が前後方向で逆に組み付けらえると、アッパ部材10において、軸100の回転方向に対する上流側と下流側とが逆転してしまう。そのため、アッパ部材10の内周面12は、軸100の回転方向に沿って上流側から下流側に軸100との隙間が大きくなるように構成されることになる。また、ロア部材20が前後方向で逆に組み付けられる場合についても同様である。すると、くさび効果による油膜形成の作用が得られず、油膜圧力の低下に伴い軸受1や軸100の焼付きが発生してしまう可能性がある。
これに対して、本例では、マーカ15,25が設定される。これにより、アッパ部材10及びロア部材20が前後方向で逆に組み付けられてしまうような事態を抑制し、軸受1や軸100の焼付き等の発生を抑制することができる。
<軸受の組み付け作業の支援に関する構成の第2例>
図12は、軸受1の組み付け作業の支援に関する構成の第2例を示す図である。
図12に示すように、本例では、アッパ部材10及びロア部材20は、それぞれ、凸部16,26を含む。
凸部16は、アッパ部材10の外周面11に設けられる。凸部16は、外周面11がシリンダブロック200の切り欠き部に取り付けられる際に、シリンダブロック200の対応する凹部に係合される。凸部16は、外周面11において、前後方向の中央、及び左右方向(周方向)の中央の少なくとも一方から外れた位置に設けられる。例えば、凸部16は、外周面11において、右端部(右側の周方向の端部)、且つ、前後方向の中央よりも前寄りの位置に設けられる。これにより、作業者は、アッパ部材10を前後方向で逆に組み付けようとしても、凸部16の位置がシリンダブロック200の対応する凹部の位置と一致せず、誤りに気付くことができる。
凸部26は、ロア部材20の外周面21に設けられる。凸部26は、外周面21がクランクケース300の切り欠き部に取り付けられる際に、クランクケース300の対応する凹部に係合される。凸部26は、外周面21において、前後方向の中央、及び左右方向(周方向)の中央の少なくとも一方から外れた位置に設けられる。例えば、凸部26は、外周面21において、右端部(右側の周方向の端部)、且つ、前後方向の中央よりも前寄りの位置に設けられる。これにより、作業者は、ロア部材20を前後方向で逆に組み付けようとしても、凸部26の位置がクランクケース300の対応する凹部の位置と一致せず、誤りに気付くことができる。
尚、凸部16は、アッパ部材10の外周面11に複数設けられてもよい。同様に、凸部26は、ロア部材20の外周面21に複数設けられてもよい。
このように、本例では、アッパ部材10及びロア部材20のそれぞれに、シリンダブロック200及びクランクケース300の対応する凹部に係合する凸部16,26が設けられる。これにより、アッパ部材10及びロア部材20が前後方向で逆に組み付けられてしまうような事態を抑制し、軸受1や軸100の焼付き等の発生を抑制することができる。
<軸受の組み付け作業の支援に関する構成の第3例>
図13は、軸受1の組み付け作業の支援に関する構成の第3例を示す図である。
図13に示すように、本例では、アッパ部材10及びロア部材20の左右の合わせ面は、左右対称、且つ、軸方向(前後方向)で段違いの二つの水平面及び二つの水平面を接続する垂直面により構成される。これにより、作業者は、アッパ部材10及びロア部材のいずれか一方だけを前後方向で逆に組み付けようとしても、アッパ部材10及びロア部材20の合わせ面が適合せず、誤りに気付くことができる。
この場合、例えば、アッパ部材10及びロア部材20の何れか一方だけに、上述のマーカ15,25が設けられてよい。また、例えば、アッパ部材10及びロア部材20の何れか一方だけに、上述の凸部16,26が設けられる態様であってもよい。これにより、作業者は、アッパ部材10及びロア部材20のうちの何れか一方の向きを基準にして、アッパ部材10及びロア部材20を正しく組み付けることができる。
このように、本例では、アッパ部材10及びロア部材20の左右の合わせ面は、軸受1の前後左右の中央の軸を基準として、非対称の形状を有する。これにより、アッパ部材10及びロア部材20のうちの何れか一方だけが前後方向で逆に組み付けられてしまうような事態を抑制し、軸受1や軸100の焼付き等の発生を抑制することができる。また、本例では、更に、アッパ部材10及びロア部材20の何れか一方だけに、上述のマーカ15,25或いは凸部16,26が設けられる態様であってもよい。これにより、アッパ部材10及びロア部材20が前後方向で逆に組み付けられてしまうような事態を確実に抑制し、軸受1や軸100の焼付き等の発生を確実に抑制することができる。
<軸受の組み付け作業の支援に関する構成の第4例>
図14は、軸受1の組み付け作業の支援に関する構成の第4例を示す図である。
図14に示すように、本例では、アッパ部材10及びロア部材20の右側の合わせ面は、側面視で、V字形状を有する。即ち、アッパ部材10及びロア部材20の右側の合わせ面は、軸方向(前後方向)の中央を基準として、前側が後傾斜面で構成され、後側が前傾斜面で構成される。一方、アッパ部材10及びロア部材20の左側の合わせ面は、側面視で、上下反転(上に凸)のV字形状を有する。即ち、アッパ部材10及びロア部材20の右側の合わせ面は、軸方向(前後方向)の中央を基準として、前側が前傾斜面で構成され、後側が後傾斜面で構成される。これにより、作業者は、アッパ部材10及びロア部材の何れか一方だけを前後方向で逆に組み付けようとしても、アッパ部材10及びロア部材20の合わせ面が適合せず、誤りに気付くことができる。
尚、アッパ部材10及びロア部材20の左右の合わせ面は、一方が側面視でU字形状を有し、他方が側面視で上下反転のU字形状を有していてもよい。アッパ部材10及びロア部材20の左右の合わせ面は、側面視で、W字形状を有し、他方が側面視で上下反転のW字形状を有していてもよい。
本例の場合、上述の第3例(図13)の場合と同様、例えば、アッパ部材10及びロア部材20の何れか一方だけに、上述のマーカ15,25が設けられてよい。また、例えば、アッパ部材10及びロア部材20の何れか一方だけに、上述の凸部16,26が設けられる態様であってもよい。これにより、作業者は、アッパ部材10及びロア部材20のうちの何れか一方の向きを基準にして、アッパ部材10及びロア部材20を正しく組み付けることができる。
このように、本例では、上述の第3例の場合と同様、アッパ部材10及びロア部材20の左右の合わせ面は、軸受1の前後左右の中央の軸を基準として、非対称の形状を有する。これにより、アッパ部材10及びロア部材20のうちの何れか一方だけが前後方向で逆に組み付けられてしまうような事態を抑制し、軸受1や軸100の焼付き等の発生を抑制することができる。また、本例では、更に、アッパ部材10及びロア部材20の何れか一方だけに、上述のマーカ15,25或いは凸部16,26が設けられる態様であってもよい。これにより、アッパ部材10及びロア部材20が前後方向で逆に組み付けられてしまうような事態を確実に抑制し、軸受1や軸100の焼付き等の発生を確実に抑制することができる。
[作用]
次に、本実施形態に係る軸受1の主たる作用について説明する。
アッパ部材10の内周面12は、内嵌合される軸100の回転方向に沿って上流側よりも下流側で軸100との隙間が小さい第1の部分(例えば、オイルリリーフ部122及びベース部121)を含む。また、アッパ部材10の内周面12は、第1の部分と軸100の回転方向に隣接し、当該回転方向に沿って相対的に小さい変化率で軸100との隙間が大きくなる第2の部分(例えば、オイルリリーフ部124)を含む。そして、アッパ部材10の内周面12は、第2の部分と軸100の回転方向で隣接する態様で内周面12における軸100の回転方向の端部に設けられ、軸100の回転方向に沿って相対的に大きい変化率で軸100との隙間が大きくなる第3の部分(例えば、クラッシュリリーフ部125)を含む。
同様に、ロア部材20の内周面22は、内嵌合される軸100の回転方向に沿って上流側よりも下流側で軸との隙間が小さい第1の部分(例えば、オイルリリーフ部222及びベース部221)を含む。また、ロア部材20の内周面22は、第1の部分と軸100の回転方向に隣接し、当該回転方向に沿って相対的に小さい変化率で軸100との隙間が大きくなる第2の部分(例えば、オイルリリーフ部224)を含む。そして、ロア部材20の内周面22は、第2の部分と軸100の回転方向で隣接する態様で内周面22における軸100の回転方向の端部に設けられ、軸100の回転方向に沿って相対的に大きい変化率で軸100との隙間が大きくなる第3の部分(例えば、クラッシュリリーフ部225)を含む。
これにより、軸受1の半周分に相当する各部材は、軸100の回転方向の端部において、第2の部分から第3の部分に亘り、軸100の回転方向に沿って内周面と軸100との隙間が相対的に緩やかに広がるように構成されうる。そのため、軸受1の半周分に相当する各部材は、軸100の回転方向の端部において、軸100の回転方向に沿った周方向での軸100と内周面との隙間の急激な変化を抑制し、内周面と軸100との間の油膜圧力の急激な低下を抑制することができる。
以上、実施形態について詳述したが、本開示はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された要旨の範囲内において、種々の変形・改良が可能である。