JP2021128836A - 燃料電池用触媒層の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】乾燥工程設備が大型化するのを抑制しつつ、触媒インクを短時間で乾燥できる技術を提供すること。【解決手段】燃料電池用触媒層の製造方法であって、触媒担持体とアイオノマと溶媒とを含む触媒インクを、転写シートに塗布する工程と、転写シートに塗布された触媒インクの表面温度が溶媒の沸点以下の温度になるように、触媒インクの表面に超音波で振動させた空気を吹き付けることにより、触媒インクを乾燥させる第1乾燥工程と、触媒インクの表面温度が第1乾燥工程における触媒インクの表面温度より高い温度であって、転写シートの軟化温度以下の温度となるように、触媒インクを乾燥させる第2乾燥工程と、を含む製造方法。【選択図】図3
Description
本開示は、燃料電池に用いられる触媒層の製造方法に関する。
燃料電池用触媒層の製造方法として、溶媒にアイオノマを分散させた触媒インクを例えば電解質膜に塗布し、乾燥する方法が知られている(特許文献1)。また、特許文献1には、熱風乾燥炉を用いて、触媒インクを短時間で乾燥させることで、アイオノマをガス拡散層との接合面となる触媒層の表面に偏析させ、触媒層とガス拡散層との接合強度を向上させる技術が開示されている。
ところで、表面にアイオノマが偏析した触媒層について熱風乾燥炉を用いて大量生産する場合には、熱風乾燥炉における、乾燥対象物の搬送方向の寸法を長くすることが考えられる。しかしこの場合、乾燥工程の設備が大型化するおそれがある。そこで、設備が大型化するのを抑制しつつ、表面にアイオノマが偏析した触媒層を短時間で生産できる技術が望まれている。
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
(1)本開示の一形態によれば、燃料電池用触媒層の製造方法が提供される。この製造方法は、触媒担持体とアイオノマと溶媒とを含む触媒インクを、転写シートに塗布する工程と、前記転写シートに塗布された前記触媒インクの表面温度が前記溶媒の沸点以下の温度になるように、前記触媒インクの表面に超音波で振動させた空気を吹き付けることにより、前記触媒インクを乾燥させる第1乾燥工程と、前記触媒インクの表面温度が前記第1乾燥工程における前記前記触媒インクの表面温度より高い温度であって、前記転写シートの軟化温度以下の温度となるように、前記触媒インクを乾燥させる第2乾燥工程と、を含む。この形態によれば、超音波を用いた第1乾燥工程を用いることで、触媒インクを短時間に乾燥することができ、また、第1乾燥工程と第2乾燥工程とを含むことにより、熱風乾燥炉のみを用いた乾燥工程と比較して、設備の大型化を抑制しつつ触媒層を短時間で生産することができる。また、第1乾燥工程によって触媒インクの表面側を乾燥させることで、表面側において触媒担持体を密集させた後に、第2乾燥工程によって更に乾燥を行うことで、アイオノマが表面側に吸い寄せられることで偏析させることができる。
本開示は、種々の形態で実現することも可能である。例えば、上記製造方法を工程の一部に含む膜電極接合体の製造方法や燃料電池の製造方法、燃料電池用触媒層の製造装置等の形態で実現することができる。
A.実施形態:
A1.燃料電池セルの構成:
図1は、燃料電池セル50の構成を模式的に示す断面図である。燃料電池セル50は、膜電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)20と、アノード側ガス拡散層32と、カソード側ガス拡散層34と、アノード側セパレータ42と、カソード側セパレータ44とを備える。燃料電池セル50は、固体高分子形燃料電池であり、燃料ガスおよび酸化ガスを用い、電気化学反応によって発電する。例えば、燃料ガスとして水素が用いられ、酸化ガスとして空気中の酸素が用いられる。
A1.燃料電池セルの構成:
図1は、燃料電池セル50の構成を模式的に示す断面図である。燃料電池セル50は、膜電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)20と、アノード側ガス拡散層32と、カソード側ガス拡散層34と、アノード側セパレータ42と、カソード側セパレータ44とを備える。燃料電池セル50は、固体高分子形燃料電池であり、燃料ガスおよび酸化ガスを用い、電気化学反応によって発電する。例えば、燃料ガスとして水素が用いられ、酸化ガスとして空気中の酸素が用いられる。
膜電極接合体20は、電解質膜15と、アノード側触媒層10aと、カソード側触媒層10bとを備える。電解質膜15は、湿潤状態で良好なプロトン伝導性を示す電解質樹脂を主成分とする薄膜により構成されている。アノード側触媒層10aおよびカソード側触媒層10bは、電解質膜15を挟んで互いに対向して配置されている。以下の説明では、アノード側触媒層10aとカソード側触媒層10bとを総称して、「触媒層10」とも呼ぶ。
触媒層10は、触媒粒子を担持した触媒担持体と、アイオノマとを主成分として形成されている。触媒粒子としては、例えば、白金や白金の合金が用いられる。触媒担持体としては、例えば、カーボンブラックが用いられる。アイオノマは、電解質樹脂により構成されており、かかる電解質樹脂としては、例えば、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂や、ナフィオン(登録商標)等のフッ素系樹脂が用いられてもよく、また、電解質膜15を構成する電解質樹脂と同種であってもよく、異種であってもよい。
アノード側ガス拡散層32およびカソード側ガス拡散層34は、膜電極接合体20を挟んで互いに対向して配置されている。2つのガス拡散層32,34は、いずれもガス拡散性に優れた導電性部材により構成されている。例えば、不織布により形成されたカーボンクロスやカーボンペーパー等により構成されてもよい。
アノード側セパレータ42およびカソード側セパレータ44は、膜電極接合体20および2つのガス拡散層32,34を挟んで互いに対向して配置されている。アノード側セパレータ42は、燃料ガス供給流路52を形成するため、凹凸形状に成形されている。同様に、カソード側セパレータ44は、酸化ガス供給流路54を形成するため、凹凸形状に成形されている。
A2.触媒層の製造装置:
図2は、触媒層10を製造する製造装置100の概略構成を示す図である。製造装置100は、超音波乾燥装置60と、ダイヘッド70と、熱風乾燥炉80と、搬送ローラ71と、を備える。触媒層10は、触媒担持体とアイオノマと溶媒とを含む触媒インク12が、ダイヘッド70により転写シート90に塗布された後、超音波乾燥装置60および熱風乾燥炉80により乾燥されて形成される。触媒インク12の溶媒としては、例えば、高沸点を有するジアセトンアルコール(以下、「高沸点DAA」と記載する。)等の高沸点溶媒が用いられる。本実施形態で用いる高沸点DAAの沸点は168℃(摂氏)である。転写シート90としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等、もしくは、シクロオレフィンポリマー(COP)の単層体あるいはコーティング等で積層された多層体のシートが用いられる。ちなみに、PTFE、PET、PEN、COPそれぞれの軟化温度(熱変形温度)は、320℃、240℃、240℃、170℃である。なお、転写シート90に形成された触媒層10は、表面を電解質膜15側とされて電解質膜15に転写された後、転写シート90から剥離される。
図2は、触媒層10を製造する製造装置100の概略構成を示す図である。製造装置100は、超音波乾燥装置60と、ダイヘッド70と、熱風乾燥炉80と、搬送ローラ71と、を備える。触媒層10は、触媒担持体とアイオノマと溶媒とを含む触媒インク12が、ダイヘッド70により転写シート90に塗布された後、超音波乾燥装置60および熱風乾燥炉80により乾燥されて形成される。触媒インク12の溶媒としては、例えば、高沸点を有するジアセトンアルコール(以下、「高沸点DAA」と記載する。)等の高沸点溶媒が用いられる。本実施形態で用いる高沸点DAAの沸点は168℃(摂氏)である。転写シート90としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等、もしくは、シクロオレフィンポリマー(COP)の単層体あるいはコーティング等で積層された多層体のシートが用いられる。ちなみに、PTFE、PET、PEN、COPそれぞれの軟化温度(熱変形温度)は、320℃、240℃、240℃、170℃である。なお、転写シート90に形成された触媒層10は、表面を電解質膜15側とされて電解質膜15に転写された後、転写シート90から剥離される。
帯状の転写シート90は、搬送ローラ71と、搬送ローラ71と所定の間隔を有して配置されている搬送ローラ(図示しない)とに張架されている。搬送ローラ71が回転することにより、転写シート90が、図2の矢印方向に搬送される。ダイヘッド70は、搬送ローラ71の表面に接近して配置されている。ダイヘッド70は、搬送ローラ71と接触している転写シート90の表面に触媒インク12を塗布する。
超音波乾燥装置60は、後述する第1乾燥工程を実行するために用いられる。超音波乾燥装置60は、制御部61と、ACモータ62と、ブロア64と、ヒータ66と、超音波ノズル68と、を備える。ACモータ62は、ブロア64に内蔵されているファンを回転させる。ブロア64は、空気を超音波ノズル68に向けて圧送する。ヒータ66は、ブロア64により圧送される空気を暖める。超音波ノズル68は、圧送される暖められた空気を超音波振動させて、噴射する。制御部61は、ACモータ62およびヒータ66を制御する。超音波ノズル68から、搬送される触媒インク12に向かって超音波振動された熱風が噴射されることにより、触媒インク12は乾燥される。触媒インク12の表面温度が目標温度となるように、超音波ノズル68の先端から触媒インク12までの距離、超音波ノズル68の内圧、単位時間当たりの熱風の噴射量、およびヒータ66の加熱温度などが予め調整されている。
熱風乾燥炉80は、第1乾燥工程の後に実行される後述する第2乾燥工程を実行するために用いられる。熱風乾燥炉80は、複数の表面ノズル81および複数の裏面ノズル82を有する。表面ノズル81および裏面ノズル82は、熱風を噴射する。複数の表面ノズル81および複数の裏面ノズル82は、それぞれ、転写シート90の表面側および裏面側に、間隔を有して配置されている。転写シート90は、裏面ノズル82から噴射される熱風により、裏面ノズル82から離隔した状態で搬送される。また、熱風乾燥炉80は、図示しない熱風乾燥炉80内を暖めるためのヒータと、熱風乾燥炉80内の空気を循環させるための循環ファンと、を有する。熱風乾燥炉80内の雰囲気温度は目標温度となるように、ヒータ温度などが図示しない制御部により調整される。なお、熱風乾燥炉80として、裏面ノズル82に代えて、搬送ローラ、あるいは加熱ローラを備える熱風乾燥炉が用いられてもよい。
A3.触媒層の製造方法:
図3を用いて、触媒層の製造方法について説明する。工程P110では、転写シート90と触媒インク12とが準備される。本実施形態における触媒インクの組成は、固形分濃度が9.1%、アイオノマと触媒担持体との重量比が0.75以上1.30以下、水分率が60%、高沸点DAA率が20%以上40%以下である。また、触媒インクの粒度分布については、D50が1μm以下、D90が3μm以下である。また、触媒インクのせん断粘度は、35〜110mPa・s(562s−1)である。また、工程P110では、搬送ローラ71に転写シート90が設置される。
図3を用いて、触媒層の製造方法について説明する。工程P110では、転写シート90と触媒インク12とが準備される。本実施形態における触媒インクの組成は、固形分濃度が9.1%、アイオノマと触媒担持体との重量比が0.75以上1.30以下、水分率が60%、高沸点DAA率が20%以上40%以下である。また、触媒インクの粒度分布については、D50が1μm以下、D90が3μm以下である。また、触媒インクのせん断粘度は、35〜110mPa・s(562s−1)である。また、工程P110では、搬送ローラ71に転写シート90が設置される。
工程P120では、ダイヘッド70により、触媒インク12が転写シート90に塗布される。工程P130では、転写シート90に塗布された触媒インク12の表面に、超音波ノズル68により、超音波で振動させた空気が吹き付けられて、触媒インク12が乾燥される。工程P130を、第1乾燥工程とも呼ぶ。工程P130における触媒インク12の表面温度は、溶媒の急激な蒸発を避けるため、高沸点DAAの沸点(168℃)以下の温度、例えば100℃にされる。乾燥時間は、例えば10秒である。乾燥時間とは、触媒インク12が、超音波ノズル68から超音波で振動させた熱風を吹き付けられる時間である。
図4を用いて、第1乾燥工程について説明する。図4に示すグラフの横軸は、乾燥時間であり、縦軸は、乾燥速度、溶剤量、および温度である。図4において、実線で示す特性線は、乾燥速度を示し、破線で示す特性線は、触媒インク12に含まれる溶媒量を示し、一点鎖線で示す特性線は、触媒インク12の温度を示す。一般に、乾燥工程には、定率乾燥期間と、減率乾燥期間とがある。定率乾燥期間とは、乾燥速度が一定の期間であり、減率乾燥期間とは、乾燥速度が時間に応じて低下する期間である。なお、乾燥速度とは、単位時間当たりに蒸発する溶媒量で規定される速度である。上述したように、触媒インク12は、溶媒に、触媒担持体およびアイオノマが分散されて構成されている。定率乾燥期間においては、触媒インク12に加えられる熱量は、主に溶媒の蒸発に費やされるため、時間の経過とともに、溶媒量は減少し、触媒インク12の昇温速度は緩やかである。第1乾燥工程は、定率乾燥期間に相当する。
図3に戻り、工程P130の後、転写シート90に塗布された触媒インク12は、熱風乾燥炉80により乾燥される(工程P140)。工程P140を、第2乾燥工程とも呼ぶ。工程P140における触媒インク12の表面温度は、工程P120における触媒インク12の表面温度よりも高温であって、転写シート90の軟化温度以下の温度である、例えば160℃にされる。乾燥時間は、例えば10秒である。工程P140により、転写シート90の表面に触媒層10が形成され、触媒層10の製造は終了する。
図4を用いて、第2乾燥工程について説明する。定率乾燥工程に続く、減率乾燥期間では、触媒担持体およびアイオノマの隙間に存在する溶媒が蒸発する。定率乾燥期間を経て、触媒インク12に含まれる溶媒量は少なくなっているため、減率乾燥期間の乾燥速度は、時間の経過とともに低下していく。溶媒の蒸発に費やされる熱量は少なくなるため、加えられる熱量により、触媒インク12の温度が上昇する。第2乾燥工程は、減率乾燥期間に相当する。なお、本実施形態における、第1乾燥工程および第2乾燥工程の各々の乾燥時間は、第1乾燥工程が定率乾燥期間に、第2乾燥工程が減率乾燥期間に相当するように、事前実験などにより決定されている。詳しくは、第1乾燥工程の乾燥時間は、触媒インク12の重量減少率が10〜15%程度となるまでに要する時間とされている。第2乾燥工程の乾燥時間は、触媒インク12の重量減少率が5%程度以下となる時間とされている。なお、重量減少率とは、乾燥前の触媒インク12の重量に対する、触媒層10に残存する溶媒の重量の割合である。
第1乾燥工程および第2乾燥工程により、触媒インク12が急速に乾燥されるため、触媒層10の表面には、アイオノマが偏析する。アイオノマが触媒層10の表面側に偏析するメカニズムとしては、以下のメカニズムが推定される。第1乾燥工程において、溶液中の溶媒および水分が急速に蒸発すると、溶液界面が急激に低下し、やがてカーボンブラック等の触媒担持体が表面に現れる。カーボンブラック等の触媒担持体の溶液中における拡散速度は比較的遅いため、溶液界面の付近に存在する触媒担持体は、溶液界面が急激に低下すると、溶液界面に集まる。続く、第2乾燥工程では、僅かな溶媒中でも拡散可能なアイオノマが、溶液界面に集まった触媒担持体群において、隣り合う触媒担持体によって形成された狭い隙間に毛管現象によって入り込む。その結果、溶液界面近傍、すなわち、触媒インク12の表面側にアイオノマが偏析するものと推定される。
上記のように、触媒層10は、触媒層10のアイオノマが偏析した表面を電解質膜15側として、電解質膜15に転写される。アイオノマは、電解質膜15を構成している電解質樹脂と類似した構造を有するため、アイオノマが表面に偏在した触媒層10を用いることで、触媒層10と電解質膜15との接合強度を向上させることができる。また、燃料電池セル50の氷点下始動時における耐久性能を向上させることができる。環境温度が常温から氷点下に変化すると、電解質膜15と触媒層10との間に存在する水が凍結して体積が増大し、電解質膜15と触媒層10とが互いに剥離するおそれがある。触媒層10と電解質膜15との接合強度を向上させることで、氷点下始動時における耐久性能を向上させることができる。
本実施形態では、定率乾燥期間の乾燥に超音波乾燥装置60を用いることにより、乾燥温度を高沸点DAAの沸点168℃よりも低い温度としつつ、急速に触媒インク12を乾燥することができる。超音波乾燥装置60によれば、超音波で振動させた空気が触媒インク12の表面およびその近傍の空間に存在する蒸発物滞留層を破壊して、蒸発物滞留層に起因する溶媒および水分の滞留を抑制しつつ、触媒インク12を乾燥することができる。したがって、超音波乾燥装置60による乾燥は、蒸発する溶媒量が多い定率乾燥期間に好適である。また、第2乾燥工程では、第1乾燥工程の乾燥温度よりも高い乾燥温度で乾燥することにより、第2乾燥工程の乾燥温度を第1乾燥工程と同じ乾燥温度とするよりも乾燥時間を短縮することができる。本実施形態では、超音波乾燥装置60を用いた第1乾燥工程と、第1乾燥工程よりも乾燥温度が高い第2乾燥工程とを、含む製造工程とすることで、熱風乾燥炉80のみを用いた乾燥工程と比較して、乾燥工程設備が大型化するのを抑制しつつ、触媒インク12を短時間で乾燥することができる。
本実施形態では、減率乾燥期間の乾燥に、熱風乾燥炉80を用いることで、触媒インク12を効率的に乾燥することができる。減率乾燥期間においては、蒸発する溶媒量は定率乾燥期間と比較して少なく、また、触媒担持体およびアイオノマの隙間に存在する溶媒が蒸発する期間である。したがって、減率乾燥期間では、触媒インク12の表面だけでなく、触媒インク12全体を加熱する方が好ましい。熱風乾燥炉80では、熱風乾燥炉80内の雰囲気が高温とされているため、触媒インク12全体を加熱することができる。このため、第2乾燥工程には、超音波乾燥装置60よりも熱風乾燥炉80の方が好ましい。
A4.触媒層の評価:
上記の製造方法にて作製した実施例の触媒層10と、上記とは異なる製造方法にて作製した比較例1,2の触媒層10について、熱重量示差熱分析(TG―DTA分析)により、重量減少率を測定した。図5に、実施例、比較例1,2の作製条件と、重量減少率の結果とを示す。高沸点DAAの濃度は、実施例、比較例1,2のいずれも25%で調整された。実施例における第1乾燥工程は、超音波乾燥装置60を用い、乾燥温度100℃、乾燥時間10秒であり、第2乾燥工程は、熱風乾燥炉80を用い、乾燥温度160℃、乾燥時間10秒である。比較例1における第1乾燥工程は、超音波乾燥装置60を用い、乾燥温度100℃、乾燥時間10秒であり、第2乾燥工程は、超音波乾燥装置60を用い、乾燥温度100℃、乾燥時間10秒である。比較例2における第1乾燥工程は、熱風乾燥炉80を用い、乾燥温度70℃、乾燥時間72秒であり、第2乾燥工程は、熱風乾燥炉80を用い、乾燥温度90℃、乾燥時間36秒の後、乾燥温度130℃、乾燥時間36秒である。なお、乾燥温度とは、触媒インク12の表面の温度である。
上記の製造方法にて作製した実施例の触媒層10と、上記とは異なる製造方法にて作製した比較例1,2の触媒層10について、熱重量示差熱分析(TG―DTA分析)により、重量減少率を測定した。図5に、実施例、比較例1,2の作製条件と、重量減少率の結果とを示す。高沸点DAAの濃度は、実施例、比較例1,2のいずれも25%で調整された。実施例における第1乾燥工程は、超音波乾燥装置60を用い、乾燥温度100℃、乾燥時間10秒であり、第2乾燥工程は、熱風乾燥炉80を用い、乾燥温度160℃、乾燥時間10秒である。比較例1における第1乾燥工程は、超音波乾燥装置60を用い、乾燥温度100℃、乾燥時間10秒であり、第2乾燥工程は、超音波乾燥装置60を用い、乾燥温度100℃、乾燥時間10秒である。比較例2における第1乾燥工程は、熱風乾燥炉80を用い、乾燥温度70℃、乾燥時間72秒であり、第2乾燥工程は、熱風乾燥炉80を用い、乾燥温度90℃、乾燥時間36秒の後、乾燥温度130℃、乾燥時間36秒である。なお、乾燥温度とは、触媒インク12の表面の温度である。
実施例、比較例1,2の重量減少率は、それぞれ、3.9%、8.9%、2.9%であった。重量減少率の数値が大きいほど、残存する溶媒量が多いことを示している。なお、アイオノマに吸着している水を完全に除去することはできないため、重量減少率の最低値は、一般に3〜4%程度となる。第1乾燥工程および第2乾燥工程の合計の乾燥時間は同じであり、実施例の重量減少率は、比較例1の重量減少率よりも小さい。よって、実施例の乾燥速度は、比較例1の乾燥速度よりも大きい。この結果から、第2乾燥工程における乾燥温度を、第1乾燥工程における乾燥温度よりも高温とすることで、第1乾燥工程における乾燥温度と同じ乾燥温度とするよりも、乾燥速度を大きくすることができることがわかる。ちなみに、比較例2の重量減少率は、実施例および比較例1の重量減少率よりも小さい。しかしながら、第1乾燥工程および第2乾燥工程の合計の乾燥時間は、144秒と長いため、実施例および比較例1と比較して、比較例2の乾燥速度は小さい。
実施例、比較例1,2の触媒層10について、蛍光物質でアイオノマを染色し、蛍光顕微鏡を用いて、染色された触媒層10の画像を撮像した。図6〜8は、それぞれ、実施例、比較例1,2の撮像画像の解析結果であり、触媒層10の厚み方向に対する蛍光強度の分布を示している。蛍光強度が大きいほど、アイオノマが多いことを示している。比較例2(図8)が、厚みに対して、ほぼ均一にアイオノマが分布しているのに対して、実施例(図6)および比較例1(図7)は、触媒層10の表面にアイオノマが偏在している。これは、比較例2の乾燥速度が小さいため、アイオノマは偏析せず、対して、実施例および比較例1は、乾燥速度が大きいためアイオノマが偏析したと考えられる。また、実施例の方が、比較例1よりもより、表面のアイオノマ量が多い。これは、実施例の乾燥速度は、比較例1の乾燥速度よりも大きいためであると考えられる。
図9は、実施例、比較例1,2の触媒層10を用いて燃料電池セル50を作製し、発電電流を測定した結果である。具体的には、発電電圧0.6Vとした場合の電流密度[A/cm−2]の値を示している。測定は、環境条件を温度70℃、相対湿度30%とする条件1と、温度105℃、相対湿度30%とする条件2との2つの条件で行われた。電流密度の値が大きいほど、発電性能は高い。いずれの条件においても、比較例1,2に対して、実施例の電流密度は大きく、実施例は、比較例1,2よりも発電性能が優れていることがわかる。これは、触媒層10と電解質膜15との間のプロトン抵抗(インピーダンス)が低下したためであると考えられる。
以上、説明した実施形態によれば、第1乾燥工程および第2乾燥工程により、触媒インク12が急速に乾燥されるため、触媒インク12の表面にアイオノマが偏析した触媒層10を作製することができる。表面にアイオノマが偏析した触媒層10を用いることにより、触媒層10と電解質膜15との接合強度を向上させることができる。超音波乾燥装置60を用いた第1乾燥工程と、第1乾燥工程よりも乾燥温度が高い第2乾燥工程とを、含む製造工程とすることで、熱風乾燥炉80のみを用いた乾燥工程と比較して、乾燥工程設備が大型化するのを抑制しつつ、触媒インク12を短時間で乾燥することができる。また、触媒インク12を短時間で乾燥できるので、触媒層を短時間で生産することができる。
B.他の実施形態:
(B1)上記実施形態では、第2乾燥工程に、熱風乾燥炉80が用いられる。これに限定されず、第2乾燥工程に、超音波乾燥装置60あるいは、近赤外線を用いた乾燥装置が用いられてもよい。第2乾燥工程の乾燥温度を、第1乾燥工程の乾燥温度よりも高温にすることで、乾燥方式によらず、乾燥時間を短縮することができる。上記したように、第2乾燥工程は、触媒担持体およびアイオノマの隙間に存在する溶媒が蒸発する期間である。近赤外線は、触媒担持体が赤外線を吸収して発熱するため、第2乾燥工程の乾燥時間を短縮することが期待できる。
(B1)上記実施形態では、第2乾燥工程に、熱風乾燥炉80が用いられる。これに限定されず、第2乾燥工程に、超音波乾燥装置60あるいは、近赤外線を用いた乾燥装置が用いられてもよい。第2乾燥工程の乾燥温度を、第1乾燥工程の乾燥温度よりも高温にすることで、乾燥方式によらず、乾燥時間を短縮することができる。上記したように、第2乾燥工程は、触媒担持体およびアイオノマの隙間に存在する溶媒が蒸発する期間である。近赤外線は、触媒担持体が赤外線を吸収して発熱するため、第2乾燥工程の乾燥時間を短縮することが期待できる。
(B2)上記実施形態の製造方法は、アノード側触媒層10aおよびカソード側触媒層10bに適用されていたが、いずれか一方の製造にのみ適用されてもよい。例えば、カソード側触媒層10bについては、上述の製造方法により製造し、アノード側触媒層10aについては、他の方法により製造してもよい。他の方法としては、例えば、転写シート90に代えて電解質膜15に触媒インク12を塗布し、超音波乾燥装置60および熱風乾燥炉80により触媒インク12を乾燥させる方法がある。この製造方法によれば、アノード側ガス拡散層32に面する側にアイオノマが偏在することとなる。しかし、アノード側触媒層10aが、カソード側触媒層10bに比べて薄い場合、例えば、1/3程度の場合には、かかる偏在による影響は小さい。また、かかる構成により、アイオノマがアノード側ガス拡散層32に面する側に偏在するので、アノード側触媒層10aとアノード側ガス拡散層32との接合強度を向上できるという効果も奏し得る。
本開示は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
10…触媒層、10a…アノード側触媒層、10b…カソード側触媒層、12…触媒インク、15…電解質膜、20…膜電極接合体、32…アノード側ガス拡散層、34…カソード側ガス拡散層、42…アノード側セパレータ、44…カソード側セパレータ、50…燃料電池セル、52…燃料ガス供給流路、54…酸化ガス供給流路、60…超音波乾燥装置、61…制御部、62…ACモータ、64…ブロア、66…ヒータ、68…超音波ノズル、70…ダイヘッド、71…搬送ローラ、80…熱風乾燥炉、81…表面ノズル、82…裏面ノズル、90…転写シート、100…製造装置
Claims (1)
- 燃料電池用触媒層の製造方法であって、
触媒担持体とアイオノマと溶媒とを含む触媒インクを、転写シートに塗布する工程と、
前記転写シートに塗布された前記触媒インクの表面温度が前記溶媒の沸点以下の温度になるように、前記触媒インクの表面に超音波で振動させた空気を吹き付けることにより、前記触媒インクを乾燥させる第1乾燥工程と、
前記触媒インクの表面温度が前記第1乾燥工程における前記触媒インクの表面温度より高い温度であって、前記転写シートの軟化温度以下の温度となるように、前記触媒インクを乾燥させる第2乾燥工程と、を含む製造方法。
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