JP2021126814A - ボールペンチップ及びボールペン - Google Patents

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Abstract

【課題】長期間のインクとの接触によっても耐食性に優れ、書き味を損なうことのない超硬合金製ペンボールを用いたボールペンチップを提供する。【解決手段】タングステン(W)、コバルト及びニッケルのうちの一方又は両方を含むバインダー金属(γ)並びに炭素(C)を元素組成として含有する超硬合金製の筆記ボールを備えたボールペンチップであって、WxγxCの組成を有するη相又はθ相が前記筆記ボールの表面に露出していることを特徴とする。【選択図】図4

Description

本発明は、超硬合金製の筆記ボールを備えたボールペンチップ及びこれを装着したボールペンに関する。
ボールペンのボールを構成する材質として、下記特許文献1〜3のように、超硬合金やセラミックなどが広く知られている。
超硬合金製の筆記ボールについては、インクによる腐食を抑制するために、種々の試みがなされている。たとえば、下記特許文献4記載の技術では、腐食対策のために、超硬合金にバナジウムを添加したボールペンチップ用ボールが開示されている。また、下記特許文献5記載の技術では、三炭化七クロム相をボールの表面に露出させて耐食性の向上を図っている。さらに、下記特許文献6記載の技術では、主成分として炭窒化チタン及び窒化チタンのうちの少なくとも1を含有する筆記ボールが開示されている。
実開昭52−106235号公報 特開2002−19366号公報 特開2015−51571号公報 特開2002−29193号公報 特開2005−254609号公報 特開2019−181891号公報
タングステン(W)、炭素(C)並びにバインダー金属(M、たとえば、コバルト(Co)及び/又はニッケル(Ni))を元素組成として含有する超硬合金においては、W、C及びMを含有する三元系複炭化物であるη相又はθ相が析出すると機械強度が劣るとされている。よってこれまでは、η相及びθ相が析出しないような原料組成がよい、とされてきた。η相はコバルトをバインダー相の成分として使用したときに観察され、たとえばWCoC及びWCoCのような組成式で表される。θ相はニッケルをバインダーとして使用したときに観察され、たとえばWNiCの組成式で表される。しかし、η相及びθ相が析出していない超硬合金製の筆記ボールにおいても、組み合わせるインクの組成によっては経時的な腐食が問題となる。
そこで本発明は、長期間のインクとの接触によっても耐食性に優れ、書き味を損なうことのない超硬合金製ペンボールを用いたボールペンチップを提供することを課題とする。
上記課題に鑑み、本発明の第1態様は、タングステン(W)、コバルト及びニッケルのうちの一方又は両方を含むバインダー金属(γ)並びに炭素(C)を元素組成として含有する超硬合金製の筆記ボールを備えたボールペンチップであって、
γCの組成を有するη相又はθ相が前記筆記ボールの表面に露出していることを特徴とする。
「WγCの組成を有するη相又はθ相」としては、たとえば、WCoC及びWCoCの組成を有するη相、並びにWNiCの組成を有するθ相が挙げられる。なお、「WγCの組成」とは、Cの数に対して金属元素の個数が複数結合していることを意味しており、上記の例に限定するものではない。
本態様のボールペンチップでは、超硬合金では好ましくないとされてきたη相又はθ相をあえて筆記ボールの組織内に析出させ、さらに研磨などによって表面に露出させることで、長期間のインク、とりわけ水性インクとの接触によっても筆記ボールの耐腐食性を発揮させることを可能とした。
本発明の第2態様は、上記第1の態様の構成に加え、タングステン(W)、コバルト及びニッケルのうちの一方又は両方を含むバインダー金属(γ)、W及びγ以外の金属元素である他金属元素並びに炭素(C)を元素組成として含有するとともに前記η相及びθ相を含有しない超硬合金である共晶超硬合金における、原料としての炭化タングステン(WC)の配合率をA(質量%)及び前記他金属元素の炭化物である他炭化物の配合率をB(質量%)、並びに、WCの式量をP、前記他炭化物の式量をQ、炭素の原子量をR及び前記他炭化物の組成式における炭素数をnとしたとき、
K=R(A/P+nB/Q)・・・(式1)
で定義される前記共晶超硬合金の炭素含有率K(質量%)に対し、元素組成として前記他金属元素をさらに含有する前記筆記ボールの炭素含有率L(質量%)が、
K−0.5<L<K−0.2・・・(式2)
であることを特徴とする。
本態様の共晶超硬合金とは、タングステン(W)、コバルト及びニッケルのうちの一方又は両方(γ)、W及びγ以外の金属元素である他金属元素並びに炭素(C)を元素組成として含有し、η相及びθ相を含有しないことが既知である超硬合金をいう。他金属元素とは、たとえばクロム(Cr)である。この共晶超硬合金の原料は、炭化タングステン(WC)及び他金属元素の炭化物である他炭化物を含む。他炭化物とは、たとえば二炭化三クロム(Cr)である。もちろん、この共晶超硬合金の原料には、コバルト及びニッケルのうちの一方又は両方の単体又は化合物が含まれる。
本態様の筆記ボールは、共晶超硬合金の原料を元に、最終的な炭素含有率を低減させている。すなわち、本態様の筆記ボールは、共晶超硬合金の原料と同様に、炭化タングステン、他炭化物及び、コバルト及びニッケルのうちの一方又は両方の単体又は化合物を原料とする。
ただし、共晶超硬合金の原料に対し、さらに何らかの物質(元の共晶超硬合金の原料に含まれるものであっても、そうでなくてもよい。)が添加されるか、これらの原料のうち炭素含有化合物(すなわち、炭化タングステン及び他炭化物の一方又は両方)の配合率が削減されるか、又はこれらの原料で超硬合金を形成する過程で脱炭処理を行うことで、最終的な炭素含有率が共晶超硬合金よりも低減されている。具体的には、上記式1で算出される共晶超硬合金の炭素含有率K(質量%)に対し、上記式2に示すように、筆記ボールの炭素含有率L(質量%)は(K−0.5)質量%より高く、(K−0.2)質量%未満である。筆記ボールの炭素含有率L(質量%)が(K−0.2)質量%未満であることで、意図的に超硬合金にη相を析出させることが可能となる。一方、筆記ボールの炭素含有率L(質量%)を(K−0.5)質量%より高くすることで、η相が超硬合金の組織内に細かく分散することによる強度低下を回避している。
なお、η相及びθ相は、電子顕微鏡を用いて、たとえば倍率5,000倍、視野20μm×25μmにおいて観察することができる。
ここで、炭素含有量を低下させてη相を意図的に発生させる手段の1つとして、共晶超硬合金の原料から、炭化タングステンを所定の割合減じ、その減じた割合に相当するタングステンを添加することで、相対的に超硬合金中の炭素含有量を低下させることが可能である。具体的には、本発明の第3態様は、上記第2態様の構成に加え、前記筆記ボールは、前記共晶超硬合金の原料組成に対し、炭化タングステン(WC)の配合率をΔA(質量%)減じ、かつ、配合率ΔA(質量%)のタングステン(W)を添加した原料組成を有するとともに、
ΔA=(AQ+nBP)/Q−PL/R・・・(式3)
であることを特徴とする。ここで、Lは上記したように筆記ボールを形成する超硬合金の炭素含有率(質量%)である。
上記ΔAは、以下のように導出される。すなわち、共晶超硬合金の炭化タングステン(WC)の配合率A(質量%)からΔA(質量%)の炭化タングステン(WC)を減じ、同時にΔA(質量%)のタングステン(W)を添加することで、筆記ボールの炭素含有率がL(質量%)になるのであるから、前記式1から、
L=R{(A−ΔA)/P+nBP/Q)・・・(式4)
となる。この式4をΔAについて解けば、上記式3が導かれる。
ここで、上記式3から、Lが大きくなるほどΔAは小さくなる。よって、筆記ボールの炭素含有率L(質量%)が前記式2を満たすためには、ΔA(質量%)は、上記式3から、
{(AQ+nBP)/Q−P(K−0.5)/R}<ΔA<{(AQ+nBP)/Q−P(K−0.2)/R}・・・(式5)
を満たしていればよい。
本発明の第4態様のボールペンは、上記第1態様から第3態様までのいずれかに記載のボールペンチップが軸筒の先端に装着され、水性インク組成物をが該軸筒内のインク収容部に収容されたことを特徴とする。また、本発明の第5態様のボールペンは、上記第1態様から第3態様までのいずれかに記載のボールペンチップが、軸筒に装着されるボールペンリフィルの先端に装着され、水性インク組成物が該ボールペンリフィルのインク収容部に収容されたことを特徴とする。
すなわち、超硬合金に経時的な腐食をもたらしやすい水性インク組成物を使用したボールペンにおいても、本発明の筆記ボールは耐食性を発揮し、筆記ボール表面の腐食に伴うボールペンチップの摩耗を防止し、長期間にわたり書き味を損なうことはない。
本発明は上記のように構成されているので、長期間のインクとの接触によっても耐食性に優れ、書き味を損なうことのない超硬合金製ペンボールを用いたボールペンチップを提供することが可能となる。
本発明の実施の形態に係るボールペンを正面断面図で示したものである。 本発明の実施の形態に係るボールペンのボールペンチップ先端付近を拡大して正面断面図で示したものである。 本発明の別の実施の形態に係るボールペンに内蔵されるリフィルを正面断面図で示したものである。 低炭素例1の筆記ボールの電子顕微鏡写真である。 低炭素例2の筆記ボールの電子顕微鏡写真である。 比較例のボールペンにおいて製造直後の筆記ボールの状態を示す電子顕微鏡写真である。 比較例のボールペンにおいて製造後50℃環境下に1箇月放置した筆記ボールの状態を示す電子顕微鏡写真。 比較例のボールペンにおいて製造後50℃環境下に2箇月放置した筆記ボールの状態を示す電子顕微鏡写真。 実施例のボールペンにおいて製造直後の筆記ボールの状態を示す電子顕微鏡写真である。 実施例のボールペンにおいて製造後50℃環境下に1箇月放置した筆記ボールの状態を示す電子顕微鏡写真。 実施例のボールペンにおいて製造後50℃環境下に2箇月放置した筆記ボールの状態を示す電子顕微鏡写真。 比較例のボールペンの筆記試験の結果を示すグラフ。 実施例のボールペンの筆記試験の結果を示すグラフ。
以下、図面を参照しつつ、本発明の1の実施の形態を説明する。
(1)ボールペン10
本実施の形態に係るボールペン10は、図1に示すように、先端が開放し、後端が閉鎖した筒状の軸筒12と、この軸筒12の先端に継手11を介して装着されるボールペンチップ20と、この軸筒12の内部空間の前半部に当たるコレクター収納部14の軸心を貫通するインク誘導部13と、この軸筒12の内部空間の後半部に当たるインク収容部15の内部空間に収容される直液状態の水性インク組成物40と、ボールペンチップ20の先端からコレクター収納部14の後端付近までを被蓋する図示しないキャップとから構成されている。すなわち、本実施の形態に係るボールペン10はいわゆる水性ボールペンである。
コレクター収納部14の内面から、インク誘導部13の外面にかけては、リング状の薄板を軸方向に重ねたコレクター17が形成されている。コレクター17は、直液式ボールペンにおいて、気圧や温度の変化でインク収容部15の空気が膨張した際、水性インク組成物40を保留し、外部への漏れを防止するためのものである。
なお、水性インク組成物40は、低粘度の水性インクであり、具体的には、色材及び溶媒である水(水道水、精製水、蒸留水、イオン交換水又は純水等)に、さらに、水性インクに通常用いられる各成分、たとえば、水溶性有機溶剤、粘度調整剤としての変性ポリビニルアルコール(PVA)、その他の粘度調整剤、分散剤、潤滑剤、防錆剤、防腐剤、防菌剤及びpH調整剤などのいずれか1つ以上を任意成分として適宜含有しているものである。
本実施形態に用いる色材としては、水に溶解又は分散する染料、酸化チタン等の従来公知の無機系及び有機系顔料、顔料を含有した樹脂粒子顔料、樹脂エマルションを染料で着色した疑似顔料、白色系プラスチック顔料並びにシリカ又は雲母を基材とし表層に酸化鉄や酸化チタンなどを多層コーティングした顔料等のいずれか1つ以上を本実施形態の効果を損なわない範囲で使用することができる。
染料としては、たとえば、エオシン、フオキシン、ウォーターイエロー#6−C、アシッドレッド、ウォーターブルー#105、ブリリアントブルーFCF及びニグロシンNB等の酸性染料、ダイレクトブラック154、ダイレクトスカイブルー5B及びバイオレットB00B等の直接染料、並びに、ローダミン及びメチルバイオレット等の塩基性染料などが挙げられる。
無機系顔料としては、たとえば、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、キレートアゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレン及びペリノン顔料並びにニトロソ顔料などが挙げられる。より具体的には、カーボンブラック、チタンブラック、亜鉛華、べんがら、アルミニウム、酸化クロム、鉄黒、コバルトブルー、酸化鉄黄、ビリジアン、硫化亜鉛、リトポン、カドミウムエロー、朱、カドミウムレッド、黄鉛、モリブデードオレンジ、ジンククロメート、ストロンチウムクロメート、ホワイトカーボン、クレー、タルク、群青、沈降性硫酸バリウム、バライト粉、炭酸カルシウム、鉛白、紺白、紺青、マンガンバイオレット、アルミニウム粉及び真鍮粉等の無機顔料、並びに、C.I.ピグメントブルー17、C.I.ピグメントブルー15、C.I.ピグメントブルー17、C.I.ピグメントブルー27、C.I.ピグメントレッド5、C.I.ピグメントレッド22、C.I.ピグメントレッド38、C.I.ピグメントレッド48、C.I.ピグメントレッド49、C.I.ピグメントレッド53、C.I.ピグメントレッド57、C.I.ピグメントレッド81、C.I.ピグメントレッド104、C.I.ピグメントレッド146、C.I.ピグメントレッド245、C.I.ピグメントイエロー1、C.I.ピグメントイエロー3、C.I.ピグメントイエロー12、C.I.ピグメントイエロー13、C.I.ピグメントイエロー14、C.I.ピグメントイエロー17、C.I.ピグメントイエロー34、C.I.ピグメントイエロー55、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントイエロー95、C.I.ピグメントイエロー166、C.I.ピグメントイエロー167、C.I.ピグメントオレンジ5、C.I.ピグメントオレンジ13、C.I.ピグメントオレンジ16、C.I.ピグメントバイオレット1、C.I.ピグメントバイオレット3、C.I.ピグメントバイオレット19、C.I.ピグメントバイオレット23、C.I.ピグメントバイオレット50及びC.I.ピグメントグリーン7等が挙げられる。
これらの色材は、単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。また、これらの色材の含有量は、水性インク組成物全量に対して、0.1〜40質量%の範囲で適宜調整することが可能である。
用いることができる水溶性有機溶剤としては、たとえば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、3−ブチレングリコール、チオジエチレングリコール及びグリセリン等のグリコール類、並びに、エチレングリコールモノメチルエーテル及びジエチレングリコールモノメチルエーテルのうちから、単独で、又は2種以上を混合して使用することができる。これらの水溶性有機溶剤の含有量は、水性インク組成物全量に対して、3〜30質量%とすることが望ましい。
本実施形態の水性インク組成物は、変性PVAと、ホウ酸及びその塩から選ばれる少なくとも1種とを含有している。
本実施形態に用いる変性PVA、並びに、ホウ酸塩及びその塩は、粘度調整剤として用いるものであり、水性インク組成中に、当該2種の粘度調整剤を含有することが望ましい。
本実施形態に用いる変性PVAは、ポリビニルアルコール(一般式:−〔CH−CH(OH)〕−〔CH−CH(OCOCH)〕−)の水酸基、酢酸基及び末端基の少なくとも一部を水素原子、カルボン酸、アクリル酸などの各種アニオン、アンモニウム、各種カチオン、アルキル基などの疎水基及びカルボニル基などのいずれかで変性した各種変性PVAが挙げられ、たとえば、カルボキシル基変性PVA、スルホン酸基変性PVA、エチレンオキサイド基変性PVA、又は、PVAの側鎖に上記の変性基を有するものが挙げられる。また、部分ケン化PVAにアクリル酸及びメタクリル酸メチルを共重合したPVA・アクリル酸・メタクリル酸共重合体も本実施形態の変性PVAとして使用することができる。
本実施形態に用いる変性PVAは、インクの経時安定性及び粘度付与性の点から、そのケン化度(〔m/(m+n)〕×100)は、50mol%以上とすることが望ましい。また、このケン化度の変性PVAにおいて、筆記感及び着色性を損なうことなく、本実施形態の効果をさらに発揮せしめて文字の美感を高める点から、その重合度(m+n)は、300〜2000が望ましい。
具体的に用いることができる変性PVAとしては、市販のゴーセネックスLシリーズ(商品名、日本合成化学工業)及びゴーセネックスWOシリーズ(商品名、日本合成化学工業)、アニオン変性PVA(商品名:Aシリーズ、日本酢ビ・ポバール)並びにアニオン変性PVA(商品名:Kポリマーシリーズ、クラレ)等が挙げられる。また、PVA・アクリル酸・メタクリル酸共重合体としては、POVACOAT(商品名、大同化成工業)等が挙げられる。これらの変性PVAは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
このような変性PVAの含有量は、水性インク組成物全量に対して、0.1〜8質量%であることが望ましい。この含有量が0.1質量%未満では、粘度付与性能が充分でなく、描線の滲み耐性が低下するなどの、一方、8質量%を越えると、粘度が高すぎてインクの追従性能が低下し、好ましくない。
本実施形態に用いるホウ酸及びその塩としては、ホウ酸、ホウ酸のアルカリ金属塩(リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム)及びホウ酸のアンモニウム塩などが挙げられ、たとえば、ホウ酸(HBO)、三酸化二ホウ酸(B)、メタホウ酸ナトリウム(NaBO)、二ホウ酸ナトリウム(Na)、四ホウ酸ナトリウム(Na)、五ホウ酸ナトリウム(NaB)、六ホウ酸ナトリウム(Na2B610)、八ホウ酸ナトリウム(NaB13)及びホウ酸アンモニウム〔(NHO・5B〕、並びに、これらの水和物などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらのうち、インク成分に対する溶解性や汎用性の点で望ましいのは、四ホウ酸ナトリウム、ホウ酸アンモニウム及び三酸化二ホウ酸である。
これらのホウ酸及びその塩の合計含有量は、水性インク組成物全量に対して、0.01〜3質量%とすることが望ましい。このホウ酸及びその塩の含有量が0.01質量%未満であると、粘度付与性が充分でなく、一方、3質量%を超えると、インク粘度の経時安定性が低下するなどの不具合を招くことがある。
用いることができる粘度調整剤としては、たとえば、合成高分子、セルロース及び多糖類からなる群から選ばれた少なくとも一種が望ましい。具体的には、アラビアガム、トラガカントガム、グアーガム、ローカストビーンガム、アルギン酸、カラギーナン、ゼラチン、キサンタンガム、ウェランガム、サクシノグリカン、ダイユータンガム、デキストラン、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、デンプングリコール酸及びその塩、アルギン酸プロピレングリコールエステル、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ポリアクリル酸及びその塩、カルボキシビニルポリマー、ポリエチレシオキサイド、酢酸ビニルとポリビニルピロリドンの共重合体、架橋型アクリル酸重合体及びその塩、非架橋型アクリル酸重合体及びその塩並びにスチレン−アクリル酸共重合体及びその塩などが挙げられる。
分散剤としては、スチレン−マレイン酸共重合体及びその塩、スチレン−アクリル酸共重合体及びその塩、α−メチルスチレン−アクリル酸共重合体及びその塩並びにポリアクリル酸ポリメタクリル酸共重合物などの少なくとも1種が挙げられる。
潤滑剤としては、顔料の表面処理剤にも用いられる多価アルコールの脂肪酸エステル、糖の高級脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレン高級脂肪酸エステル、アルキル燐酸エステルなどのノニオン系や、リン酸エステル、高級脂肪酸アミドのアルキルスルホン酸塩、アルキルアリルスルホン酸塩などのアニオン系、ポリアルキレングリコールの誘導体やフッ素系界面活性剤及びポリエーテル変性シリコーンなどが挙げられる。
また、防錆剤としては、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、ジシクロへキシルアンモニウムナイトライト及びサポニン類など、防腐剤又は防菌剤としては、フェノール、ナトリウムオマジン、安息香酸ナトリウム及びベンズイミダゾール系化合物などが挙げられる。
pH調整剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属の水酸化物、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、モルホリン、トリエチルアミン等のアミン化合物及びアンモニア等が挙げられる。
この水性インク組成物を製造するには、従来から知られている方法が採用可能であり、たとえば、上記変性PVA並びにホウ酸及びその塩の少なくとも1種、色材の他、上記水性における各成分を所定量配合し、ホモミキサー又はディスパー等の攪拌機により攪拌混合することによって得られる。さらに必要に応じて、ろ過又は遠心分離によってインク組成物中の粗大粒子を除去してもよい。
以上から、特に好ましい水性インク組成物の形態として、粘度調整剤として変性PVAと、ホウ酸、ホウ酸のアルカリ金属塩及びホウ酸のアンモニウム塩から選ばれる少なくとも1種とを含有し、変性PVAの含有量が水性インク組成物全量に対して、0.1〜8質量%であり、ホウ酸及びその塩から選ばれる少なくとも1種の含有量が水性インク組成物全量に対して、0.01〜3質量%であるものが望ましい。
このように構成される水性インク組成物により、筆記描線に滲みもなく、また、紙裏面へのインクの裏抜けもなく、しかも、カスレ、ボテ及び線割れもない機能を発現するボールペンを可能にするとともに、ボールペンチップに対して経時的な安定性にも優れたものとすることができる。
また、別体のボールペンリフィル18(図3参照)の形態としてもよい。その場合、好ましくは、ボールペンチップを直接又は中継部材を介して挿着したパイプ又はパイプ形状の成形物等からなるインク収容管内に上記インク組成物を充填し、かつ、該インク組成物後端面にはインク追従体を配設してなる構成となるものが望ましい。インク追従体としては、インク収容管内に収容された水性インク組成物とは相溶性がなく、かつ、該水性インク組成物に対して比重が小さい物質、たとえば、ポリブテン、シリコーンオイル、鉱油等が挙げられる。
図2に、ボールペンチップ20先端付近の拡大断面図を示す。ボールペンチップ20は、図示しない円筒状の胴体部と、この胴体部の先端からボールペンチップ20の先端に向かって縮径するように形成されたテーパー部27とを有するホルダー21と、ホルダー21の内部に抱持される球状の筆記ボール30から構成されている。また、ホルダー21は、ボールペンチップ20の後端から貫通されたインク誘導孔26と、ホルダー21の先端付近の内周を切削して形成したボールハウス22と、ボールハウス22の内周面先端とテーパー部27の先端とに挟まれた部位で、かつ、筆記ボール30の中心方向への塑性変形によってかしめられたカシメ部23から構成されている。また、ボールハウス22の底部に設けられ、かつ、インク誘導孔26の周囲に形成されたボール受座24と、ボール受座24とインク誘導孔26とを連絡するようにインク誘導孔26の周囲4箇所に等配されたインク溝25を有している。なお、インク溝25は水性インク組成物40の粘度等に応じて幅や数を変えてもよい。
ホルダー21の組み立ての際は、その先端からボールハウス22に、筆記ボール30を挿入する。そして、筆記ボール30の上部を後端方向に押圧することによって、ボール受座24を筆記ボール30の外形に沿って変形させる。その後、テーパー部27の先端にテーパー状のローラーを用いてかしめ加工を施してカシメ部23を設けることでホルダー21が形成される。
このホルダー21は、ビッカース硬度が200から420程度のフェライト系ステンレスから形成されている。ホルダー21の材料は、他に洋白、真鍮、又は黄銅などの金属や樹脂を用いて形成することもできるが、ビッカース硬度は170から450であることが望ましい。
さらに、ホルダー21は本実施の形態では、中実の線材からの切削加工にて形成されているが、線材からの切削加工に限定されず、たとえば中空状のパイプ材を塑性加工にて形成されてもよい。
(2)筆記ボール30
本実施形態の筆記ボール30は、タングステン(W)、コバルト及びニッケルのうちの一方又は両方を含むバインダー金属(γ)及び炭素(C)を元素組成として含有する超硬合金製で、WγCの組成を有するη相又はθ相が前記筆記ボール30の表面に露出している。具体的には、γとしてコバルト(Co)及びニッケル(Ni)の両方を含有している。この他にも、タングステン(W)並びにコバルト及びニッケルのうちの一方又は両方(γ)以外の金属元素である他金属元素としてクロム(Cr)を含有している。すなわち、本実施形態の筆記ボール30はいわゆる四元素系の超硬合金製である。そして、WCoCを主とした組成を有するη相が表面に露出している。
本実施形態の筆記ボール30は、タングステン(W)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)及び炭素(C)を元素組成として占有し、η相及びθ相を含有しない超硬合金である共晶超硬合金の組成から、炭素含有率を低減させた元素組成を有する。すなわち、共晶超硬合金における、原料としての炭化タングステン(WC)の配合率をA(質量%)及び前記他金属元素の炭化物である他炭化物の配合率をB(質量%)、並びに、WCの式量をP、前記他炭化物の式量をQ、炭素の原子量をR及び前記他炭化物の組成式における炭素数をnとしたとき、共晶超硬合金の炭素含有率K(質量%)は
K=R(A/P+nB/Q)
で定義される。
たとえば、共晶超硬合金の原料が、WCが90.5質量%、Coが5.0質量%、Niが2.5質量%及びCrが2.0質量%であったとする。そして、WCの式量が195.84、Crの式量が180.02であり、Cの原子量が12.01であり、Crの組成式における炭素数は2であるから、
K=12.01×(90.5÷195.84+2×2.0÷180.02)=5.82(質量%)
となる。
そして、筆記ボール30の炭素含有率L(質量%)は、上記K(質量%)を基に、
K−0.5<L<K−0.2
の範囲に調整される。上記の例であれば、
5.32<L<5.62
となる。
筆記ボール30の炭素含有率L(質量%)を上記の範囲とするためには、たとえば、一旦、共晶超硬合金の組成通りに原料を配合してから、超硬合金とするまでに適宜の脱炭素工程に付すこととしてもよい。また、共晶超硬合金の原料組成に対し、炭化タングステンの配合率を減じて、その分の配合率の炭化されていないタングステンを添加することとしてもよい。
この場合、共晶超硬合金における炭化タングステン(WC)の配合率から減じられる割合、かつ、添加されるタングステン(W)の割合であるΔA(質量%)は、前記式5を基に、
3.3<ΔA<8.2
の範囲とすればよい。
すなわち、筆記ボールの炭化タングステン(WC)配合率が82.3質量%(=90.5−8.2)を上回り、かつ、87.2質量%(=90.5−3.3)を下回ることとし、これに対応してタングステン(W)の配合率を8.2質量%未満、かつ、3.3質量%超とすれば、筆記ボール30の炭素含有率L(質量%)は、
K−0.5<L<K−0.2すなわち、
5.32<L<5.62
の範囲となる。これにより、筆記ボール30の金属組織内に意図的にη相を出現させることが可能となる。
そして、共晶超硬合金の原料100質量部に対し、タングステンを上記範囲で添加したものを粉砕混合した混合物を、球状に形成した後、焼結する。そして、得られた球体を、一定間隔に保持した2枚の砥石の間で、砥石に固定される固定砥粒、又は遊離砥粒とともに転がし、ボール表面31を鏡面に仕上げることで、筆記ボール30が形成される。
(3)水性インク組成物40
本実施形態の水性インク組成物40は、顔料又は染料である色剤、エチレングリコール、グリセリン又はプロピレングリコールのような溶剤、水及び各種添加剤(顔料分散剤、増粘剤、潤滑剤、防錆剤、pH調整剤等)を成分として適宜含有している。
なお、水性インク組成物40は、いわゆるゲルインクであってもよい。このようなゲルインクとしての水性インク組成物40は、図3に示すような、ボールペンリフィル18に収容される。ボールペンリフィル18は、水性インク組成物40を収容する長軸円筒状のインク収容部15の先端に、継手11を介してボールペンチップ20が装着された構造を有する。ボールペンチップ20の構造は図2に示すとおりである。なお、水性インク組成物40の後端には、水性インク組成物40がインク収容部15の後端から流出するのを防止するために、グリース状のフォロワー41が注入されている。このフォロワー41は、筆記によって水性インク組成物40が消費されていくのに伴い、先端方向へ追随していく。このボールペンリフィル18は、図示しない軸筒に装着され、ボールペン10として使用可能となる。
(4)作用及び効果
筆記の際、インク収容部15の水性インク組成物40は、図1に示すようなボールペン10の場合、インク誘導部13、インク誘導孔26及びインク溝25を通じてボールハウス22に送られ、ボールハウス22に収容された筆記ボール30に十分に供給される。一方、図3に示すようなボールペンリフィル18の場合、インク収容部15の水性インク組成物40は、継手11、インク誘導孔26及びインク溝25を通じてボールハウス22に送られ、ボールハウス22に収容された筆記ボール30に十分に供給される。いずれの場合も、筆記ボール30の回転により、ボール表面31に供給された水性インク組成物40が紙等の記録体に転写若しくは浸透し、筆記が完了となる。
ここで、筆記ボール30は、前記したように、炭素含有率L(質量%)が(K−0.5)質量%より高く、(K−0.2)質量%未満である。筆記ボール30の炭素含有率L(質量%)が(K−0.2)質量%未満であることで、意図的に超硬合金にη相を析出させて、耐食性を増すことが可能となる。一方、筆記ボール30の炭素含有率L(質量%)を(K−0.5)質量%より高くすることで、η相が超硬合金の組織内に細かく分散することによる強度低下が回避される。
以下、実施例にて本発明の筆記ボール30を説明する。なお、以下の記述における炭素含有率の計算では、W、Cr及びCの原子量はそれぞれ183.83、52及び12.01とした
(1)従来例
従来例としての共晶超硬合金は、下記表1の組成とした。
Figure 2021126814
上記表1の組成から、超硬合金中の炭素含有率は5.82質量%と算出される。なお、炭化タングステン及び二炭化三クロムに占める炭素含有率(以下、「炭化物換算炭素含有率」)は、6.29質量%(={5.82/(90.5+2.0)}×100)である。超硬合金中の二炭化三クロム含有率2.0質量%と、炭化物換算炭素含有率6.29質量%とを炭化タングステン−二炭化三クロム−コバルト合金の相域図に当てはめると、従来例としての共晶超硬合金は、η相が析出しない領域に位置している。
(2)低炭素例1
低炭素例1としての超硬合金は、上記表1の組成を基に、炭素含有率を従来例より0.3質量%低い5.52質量%とするべく、下記表2の組成とした。すなわち、炭化タングステン配合比を、上記表1の90.5質量%から、4.9質量%を減じた85.6質量%とし、この減じた分の4.9質量%のタングステン粉末を添加した。
Figure 2021126814
上記表2の組成から、超硬合金中の炭素含有率は5.52質量%と算出される。なお、炭化物換算炭素含有率(ただし、タングステン粉末も含む)は、5.97質量%(={5.52/(85.6+2.0+4.9)}×100)である。超硬合金中の二炭化三クロム含有率2.0質量%と、炭化物換算炭素含有率5.97質量%とを炭化タングステン−二炭化三クロム−コバルト合金の相域図に当てはめると、低炭素例1としての超硬合金は、η相が析出しない領域から析出する領域との境界の、析出する領域側に位置する。
(3)低炭素例2
低炭素例2としての超硬合金は、上記表1の組成を基に、炭素含有率を従来例より0.6質量%低い5.22質量%とするべく、下記表3の組成とした。すなわち、炭化タングステン配合比を、上記表1の90.5質量%から、9.7質量%を減じた80.8質量%とし、この減じた分の9.7質量%のタングステン粉末を添加した。
Figure 2021126814
上記表3の組成から、超硬合金中の炭素含有率は5.22質量%と算出される。なお、炭化物換算炭素含有率(ただし、タングステン粉末も含む)は、5.64質量%(={5.22/(80.8+2.0+9.7)}×100)である。超硬合金中の二炭化三クロム含有率2.5質量%と、炭化物換算炭素含有率5.64質量%とを炭化タングステン−二炭化三クロム−コバルト合金の相域図に当てはめると、低炭素例2としての超硬合金は、η相が析出する領域に位置する。
(4)ビッカース硬度(Hv)
上記した従来例、低炭素例1及び低炭素例2の超硬合金にて、前記実施形態に記載した方法にて径0.5mmの筆記ボールを製造した。製造した筆記ボールを半割りにしたものをワークとし、ワークの断面中心にて、JIS Z 2244:2009に準拠してビッカース硬度(Hv)を測定した。測定方法の概略は、正四角錐のダイヤモンド圧子をワークの表面に押し込み、その荷重(F)を解除した後、表面に残ったくぼみの対角線長さを測定するものである。硬度測定器はMVK−E(AKASHI)を使用し、荷重(F)は0.5kg重(≒4.9N)とし、荷重保持時間は10秒とした。対角線長さの測定は、STM7−CB(オリンパス)を使用した。従来例、低炭素例1及び低炭素例2のボールのそれぞれについて3個のサンプルで測定した結果を、下記表4に掲げる。
Figure 2021126814
上記表4に示すように、低炭素例1は従来例に対し平均で7.6%の硬度上昇を見た。また、低炭素例2は従来例に対し平均で8.4%の硬度上昇を見た。よって、従来例の共晶超硬合金の炭素含有率から0.3質量%〜0.6質量%、超硬合金中の炭素含有率を減少させることで、筆記ボールの硬度を高めることが分かった。また、炭素含有率を0.3質量%減少させた低炭素例1ではサンプル間のばらつきが従来例より小さくなったのに対し、炭素含有率を0.6%減少させた低炭素例2では、サンプル間のばらつきが低炭素例1より大きくなり、中には低炭素例1よりも硬度の低いサンプルもあった(サンプルNo.2)。
(5)圧砕試験
上記した従来例、低炭素例1及び低炭素例2の超硬合金にて、前記実施形態に記載した方法にて製造した径0.5mmの筆記ボールを、自動荷重試験機(MAX−1KN、日本計測システム)にて、押し具として超硬ピン(超硬工具協会規格:V20)及び受け具として超硬プレート(超硬工具協会規格:V30)を使用して圧砕試験に供した。すなわち、受け具の上に筆記ボールを載置してその上から押し具で押圧し、圧砕した時点の荷重(F、単位N)を自動荷重試験器で測定してこれを圧砕力とした。従来例、低炭素例1及び低炭素例2のボールのそれぞれについて5個のサンプルで圧砕力を測定した結果を、下記表5に掲げる。
Figure 2021126814
低炭素例1及び低炭素例2は、従来例よりも圧砕力が高いという結果となった。しかし、低炭素例2は数値のばらつきが大きく、中には従来例よりも圧砕力が低いサンプルもあった(サンプルNo.3)。よって、圧砕試験の結果は、圧砕力の平均値が最も高く、数値のばらつきも小さい低炭素例1が最も優れていた。
(6)電子顕微鏡観察
以上のビッカース硬度(Hv)測定及び圧砕試験の結果を総合すると、従来例の炭素含有率(質量%)から0.3質量%炭素含有率の低い低炭素例1は、0.6質量%低い低炭素例2よりも優れている、と結論される。その理由を探るため、低炭素例1及び低炭素例2の筆記ボールの断面組織を電子顕微鏡にて観察し、その電子顕微鏡写真をそれぞれ図4及び図5に示す(いずれも倍率は5,000倍)。写真は重い元素ほど白く表示され、軽い元素ほど黒く表示される。そのためWCが白く、バインダー部が黒く表示され、各図中で、濃い灰色の領域がη相である。低炭素例1では、図4に示すように、η相が集約して分布していた。それに対し低炭素例2では、図5に示すように、η相が細かく分散して分布していた。
低炭素例2では、小さいη相が全体にほぼ均一に分布していることから、超硬合金としての物性が不安定になるものと推測された。一方、低炭素例1では、粗大なη相の不均一な分布は機械的強度が増す方向へ作用しているものと考えられた。
(7)小括
以上、低炭素例1及び低炭素例2の筆記ボールはいずれも従来例よりビッカース硬度(Hv)、圧砕試験ともに優れていた。しかし、炭素含有率が、従来例の炭素含有率より0.6質量%低い、5.22質量%で低炭素例2の筆記ボールは圧砕試験でのばらつきが大きく、ボールペンチップの製造工程においてタタキ工程付されることを考慮すると、実用に耐えないと判断された。したがって、従来例の炭素含有率K(質量%)に対し、炭素含有率L(質量%)が、
K−0.5<L<K−0.2
の範囲内、すなわち、5.32質量%超5.62質量%未満の範囲内である5.52%である低炭素例1の筆記ボールが最も機械的強度に優れている、と結論される。
(8)腐食試験
上記のビッカース硬度(Hv)測定及び圧砕試験の結果、機械的強度に優れている、とされた低炭素例1(炭素含有率5.52質量%)の筆記ボールを実施例として、インクとの接触に対する経時的な耐腐食性を検証した。比較例としては、従来例(炭素含有率5.82質量%)の筆記ボールを使用した。筆記ボールは、図1に示されたボールペンチップに装着し、以下の配合を示す水性インク組成物を収容する軸筒にボールペンチップを装着してボールペンとして製造した。
変性PVA WO−320N(粘度調整剤、日本合成化学工業):2.0質量%
ホウ酸アンモニウム(粘度調整剤):0.1質量%
カーボンブラック(色材):7.0質量%
JONCRYL 61J(分散剤、BASF):5.5質量%
リン酸エステルRS−610(潤滑剤、東邦化学工業):0.5質量%
ベンゾトリアゾール(防錆剤):0.3質量%
トリエタノールアミン(pH調整剤):2.5質量%
プロピレングリコール(溶剤):12.0質量%
イオン交換水(水):残部
比較例及び実施例のそれぞれについて、ボールペン製造直後の筆記ボールと、ボールペンを製造後50℃環境下に1箇月放置した筆記ボールと、ボールペンを製造後50℃環境下に2箇月放置した筆記ボールとをそれぞれ電子顕微鏡で観察して得た電子顕微鏡写真を図6〜図11に示す。図6〜図11の各図はいずれも、倍率5,000倍で、右側が筆記ボール表面状態の凹凸を示す顕微鏡写真であり左側が筆記ボールの表面組織の顕微鏡写真である。
図6は、比較例の筆記ボールの製造直後の状態を示す。表面に腐食は認められず、表面画像では凹凸がないためにコントラストが一様となっている。図7は、比較例の筆記ボールの1箇月後の状態を示す。表面画像においてコントラストが発生し、凹みを呈する領域が腐食したバインダーであり、腐食が進行して表面が荒れてきている。組織写真では白色のWCが脱落して、黒色の部分が増加している様子が認められる。図8は、比較例の筆記ボールの2箇月後の状態を示す。表面画像において凹みがより増加していることからバインダーの腐食はさらに進行し、荒れも顕著である。
図9は、実施例の筆記ボールの製造直後の状態を示す。組成画像及び凹凸画像ともに腐食は認められない。図10は実施例の筆記ボールの1箇月後の状態を示す。組織にη相が認められるが、バインダーの腐食は認められず、さほど荒れていない。図11は実施例の筆記ボールの2箇月後の状態を示す。ここへ来てようやく表面画像に凹凸状態のバインダーの腐食が見られ、表面が荒れてきている。
以上、実施例の筆記ボールではバインダーの腐食が比較例の筆記ボールより約一箇月遅く進行していることが認められる。これは、実施例の筆記ボールで析出しているη相がバインダーの腐食を妨げているものと推察される。
(9)筆記試験
上記(8)で言及したように製造した比較例及び実施例のボールペンについて、それぞれ製造直後及び製造後50℃環境下に2箇月放置した状態で筆記試験を行った。すなわち、JIS規格S6054に準拠した筆記試験機及び筆記試験紙を用い、筆記速度4.5m/分、筆記角度60°、筆記荷重1Nの筆記条件で、JIS規格P3201に準拠した筆記試験紙上にボールペンで螺旋筆記することにより筆記試験を行った。
まず、図12のグラフに示す比較例のボールペンの筆記試験の結果では、正方形のシンボルで表す製造直後の状態では、筆記距離およそ1,000mまで、インク流出量150mg付近を維持していた。一方、円形のシンボルで表す2箇月放置した状態では、インク流出量が製造直後の状態に比べ約20〜50mg少ないまま終筆を迎えた。筆記描線については筆記距離100mの時点から描線のカスレ等の筆記不良が散見された。
ところが、図13のグラフに示す実施例のボールペンの筆記試験の結果では、正方形のシンボルで表す製造直後の状態では、比較例と同様、筆記距離およそ1,000mまで、インク流出量150mg付近を維持していた。一方、円形のシンボルで表す2箇月放置した状態でも、インク流出量は製造直後の状態と変わらずに、ほぼ同じ筆記距離で終筆を迎えた。筆記描線については特に問題は見られなかった。
以上、筆記試験の結果から、実施例の筆記ボールは、比較例と同様に経時的に表面の腐食が進行するが、インク流出量及び筆記描線の品質ともに実施例の方が良好であった。したがって、実施例の筆記ボールは、表面の腐食によっても筆記性には問題が生じにくい品質を有していると結論される。
本発明は、超硬合金製の筆記ボールを備えたボールペンチップ及びこれを装着したボールペンに利用可能である。
10 ボールペン 11 継手 12 軸筒
13 インク誘導部 14 コレクター収納部 15 インク収容部
17 コレクター 18 ボールペンリフィル
20 ボールペンチップ 21 ホルダー 22 ボールハウス
23 カシメ部 24 ボール受座 25 インク溝
26 インク誘導孔 27 テーパー部
30 筆記ボール 31 ボール表面
40 水性インク組成物 41 フォロワー

Claims (5)

  1. タングステン(W)、コバルト及びニッケルのうちの一方又は両方を含むバインダー金属(γ)並びに炭素(C)を元素組成として含有する超硬合金製の筆記ボールを備えたボールペンチップであって、
    γCの組成を有するη相又はθ相が前記筆記ボールの表面に露出していることを特徴とするボールペンチップ。
  2. タングステン(W)、コバルト及びニッケルのうちの一方又は両方を含むバインダー金属(γ)、W及びγ以外の金属元素である他金属元素並びに炭素(C)を元素組成として含有するとともに前記η相及びθ相を含有しない超硬合金である共晶超硬合金における、原料としての炭化タングステン(WC)の配合率をA(質量%)及び前記他金属元素の炭化物である他炭化物の配合率をB(質量%)、並びに、WCの式量をP、前記他炭化物の式量をQ、炭素の原子量をR及び前記他炭化物の組成式における炭素数をnとしたとき、
    K=R(A/P+nB/Q)
    で定義される前記共晶超硬合金の炭素含有率K(質量%)に対し、元素組成として前記他金属元素をさらに含有する前記筆記ボールの炭素含有率L(質量%)が、
    K−0.5<L<K−0.2
    であることを特徴とする、請求項1に記載のボールペンチップ。
  3. 前記筆記ボールは、前記共晶超硬合金の原料組成に対し、炭化タングステン(WC)の配合率をΔA(質量%)減じ、かつ、配合率ΔA(質量%)のタングステン(W)を添加した原料組成を有するとともに、
    ΔA=(AQ+nBP)/Q−PL/R
    であることを特徴とする請求項2に記載のボールペンチップ。
  4. 請求項1から請求項3までのいずれかに記載のボールペンチップが軸筒の先端に装着され、水性インク組成物が該軸筒内のインク収容部に収容されたことを特徴とするボールペン。
  5. 請求項1から請求項3までのいずれかに記載のボールペンチップが、軸筒に装着されるボールペンリフィルの先端に装着され、水性インク組成物が該ボールペンリフィルのインク収容部に収容されたことを特徴とするボールペン。
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