本発明の例示の態様について以下具体的に説明するが、本発明はこれらの態様に限定されるものではない。
一態様において、ポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド樹脂、セルロース、及び所定量の表面改質剤を含む。以下、ポリアミド樹脂組成物の各成分の例について更に説明する。
≪(A)ポリアミド樹脂≫
本発明において用いることができる(A)ポリアミド樹脂の例示としては、特に限定されないが、ラクタム類の重縮合反応により得られる、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12等;1,6−ヘキサンジアミン、2−メチル−1,5−ペンタンジアミン、1,7−ヘプタンジアミン、2−メチル−1−6−ヘキサンジアミン、1,8−オクタンジアミン、2−メチル−1,7−ヘプタンジアミン、1,9−ノナンジアミン、2−メチル−1,8−オクタンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,11−ウンデカンジアミン、1,12−ドデカンジアミン、m−キシリレンジアミンなどのジアミン類と、ブタン二酸、ペンタン二酸、ヘキサン二酸、ヘプタン二酸、オクタン二酸、ノナン二酸、デカン二酸、ベンゼン−1,2−ジカルボン酸、ベンゼン−1,3−ジカルボン酸、ベンゼン−1,4ジカルボン酸等、シクロヘキサン−1,3−ジカルボン酸、シクロヘキサン−1,4−ジカルボン酸などのジカルボン酸類との共重合体として得られるポリアミド6,6、ポリアミド6,10、ポリアミド6,11、ポリアミド6,12、ポリアミド6,T、ポリアミド6,I、ポリアミド9,T、ポリアミド10,T、ポリアミド2M5,T、ポリアミドMXD,6、ポリアミド6、C、ポリアミド2M5,C等;及び、これらがそれぞれ共重合された共重合体(一例としてポリアミド6,T/6,I)等の共重合体が挙げられる。
これらポリアミド樹脂の中でも、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド6,6、ポリアミド6,10、ポリアミド6,11、ポリアミド6,12といった脂肪族ポリアミドや、ポリアミド6,C、ポリアミド2M5,Cといった脂環式ポリアミドがより好ましい。
ポリアミド樹脂の末端カルボキシル基濃度には特に制限はないが、下限値は、20μモル/gであると好ましく、より好ましくは30μモル/gである。また、その末端カルボキシル基濃度の上限値は、150μモル/gであると好ましく、より好ましくは100μモル/gであり、更に好ましくは80μモル/gである。
ポリアミド樹脂において、全末端基に対するカルボキシル末端基比率([COOH]/[全末端基])が、0.30〜0.95であることがより好ましい。カルボキシル末端基比率下限は、より好ましくは0.35であり、さらにより好ましくは0.40であり、最も好ましくは0.45である。またカルボキシル末端基比率上限は、より好ましくは0.90であり、さらにより好ましくは0.85であり、最も好ましくは0.80である。上記カルボキシル末端基比率は、セルロース成分の組成物中への分散性の観点から0.30以上とすることが望ましく、得られる組成物の色調の観点から0.95以下とすることが望ましい。
ポリアミド樹脂の末端基濃度の調整方法としては、公知の方法を用いることができる。例えば、ポリアミドの重合時に所定の末端基濃度となるように、ジアミン化合物、モノアミン化合物、ジカルボン酸化合物、モノカルボン酸化合物、酸無水物、モノイソシアネート、モノ酸ハロゲン化物、モノエステル、モノアルコールなどの末端基と反応する末端調整剤を重合液に添加する方法が挙げられる。
末端アミノ基と反応する末端調整剤としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ピバリン酸、イソ酪酸等の脂肪族モノカルボン酸;シクロヘキサンカルボン酸等の脂環式モノカルボン酸;安息香酸、トルイル酸、α−ナフタレンカルボン酸、β−ナフタレンカルボン酸、メチルナフタレンカルボン酸、フェニル酢酸等の芳香族モノカルボン酸;及びこれらから任意に選ばれる複数の混合物が挙げられる。これらの中でも、反応性、封止末端の安定性、価格などの点から、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、 カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸及び安息香酸からなる群より選ばれる1種以上の末端調整剤が好ましく、酢酸が最も好ましい。
末端カルボキシル基と反応する末端調整剤としては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン等の脂肪族モノアミン;シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン等の脂環式モノアミン;アニリン、トルイジン、ジフェニルアミン、ナフチルアミン等の芳香族モノアミン及びこれらの任意の混合物が挙げられる。これらの中でも、反応性、沸点、封止末端の安定性、価格などの点から、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、シクロヘキシルアミン及びアニリンからなる群より選ばれる1種以上の末端調整剤が好ましい。
これら、アミノ末端基及びカルボキシル末端基の濃度は、1H−NMRにより、各末端基に対応する特性シグナルの積分値から求めるのが精度、簡便さの点で好ましい。それらの末端基の濃度を求める方法として、具体的に、特開平7−228775号公報に記載された方法が推奨される。この方法を用いる場合、測定溶媒としては、重トリフルオロ酢酸が有用である。また、1H−NMRの積算回数は、十分な分解能を有する機器で測定した際においても、少なくとも300スキャンは必要である。そのほか、特開2003−055549号公報に記載されているような滴定による測定方法によっても末端基の濃度を測定できる。ただし、混在する添加剤、潤滑剤等の影響をなるべく少なくするためには、1H−NMRによる定量がより好ましい。
ポリアミド樹脂は、濃硫酸中30℃の条件下で測定した固有粘度[η]が、0.6〜2.0dL/gであることが好ましく、0.7〜1.4dL/gであることがより好ましく、0.7〜1.2dL/gであることが更に好ましく、0.7〜1.0dL/gであることが特に好ましい。好ましい範囲、その中でも特に好ましい範囲の固有粘度を有する上記ポリアミド樹脂を使用すると、樹脂組成物の射出成形時の金型内流動性を大幅に高め、成形片の外観を向上させるという効用を与えることができる。
本開示において、「固有粘度」とは、一般的に極限粘度と呼ばれている粘度と同義である。この粘度を求める具体的な方法は、96%濃硫酸中、30℃の温度条件下で、濃度の異なるいくつかの測定溶媒のηsp/cを測定し、そのそれぞれのηsp/cと濃度(c)との関係式を導き出し、濃度をゼロに外挿する方法である。このゼロに外挿した値が固有粘度である。これらの詳細は、例えば、Polymer Process Engineering(Prentice−Hall,Inc1994)の291ページ〜294ページ等に記載されている。
このとき濃度の異なるいくつかの測定溶媒の点数は、少なくとも4点とすることが精度の観点より望ましい。このとき、推奨される異なる粘度測定溶液の濃度は、好ましくは、0.05g/dL、0.1g/dL、0.2g/dL、0.4g/dLの少なくとも4点である。
ポリアミド樹脂の数平均分子量には特に制限はないが、下限値は、好ましくは2000超であり、より好ましくは3000であり、最も好ましくは5000である。また、数平均分子量の上限値は、特に限定されないが、取扱い性の観点から好ましくは50000以下である。樹脂組成物としての成形加工性を確保するためには、数平均分子量は上述の範囲内にあることが望ましい。なお上記数平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)を用い、標準ポリメタクリル酸メチル換算で測定される値である。
≪(B)セルロース≫
次に本発明において用いることができる(B)セルロースについて詳述する。(B)セルロースの好適例は、特に限定されないが、例えばセルロースパルプ、セルロースウィスカー、セルロースファイバー又はこれらセルロースの変性物の1種以上であり、これらは反応性(すなわち、セルロースが変性される場合の反応性、及び(B)セルロースと(C)表面改質剤との反応性)、安定性、価格などの点で好ましい。
本開示で、「長さ」(L)及び「径」(D)は、セルロースウィスカーにおける長径及び短径、並びに、セルロースパルプ及びセルロースファイバーにおける繊維長及び繊維径に、それぞれ相当する。
セルロースパルプの製法は特に限定されないが、例えば、原料パルプを裁断後100℃以上の熱水等で処理し、ヘミセルロース部分を加水分解して脆弱化したのち、高圧ホモジナイザー、マイクロフリュイダイザー、ボールミル、ディスクミル等を用いた粉砕法により解繊して得ることができる。典型的な態様において、セルロースパルプは、L/D比が40以上かつ平均繊維径が1000nmを超えるものである。
本開示で、セルロースウィスカーとは、パルプ等を原料とし、当該原料を裁断後、塩酸、硫酸等の酸中でセルロースの非晶部分を溶解した後に残留する結晶質のセルロースであって、長さ/径比率(L/D比)が30未満であるものを指す。
本開示で、セルロースファイバーとは、パルプ等を100℃以上の熱水等で処理し、ヘミセルロース部分を加水分解して脆弱化したのち、高圧ホモジナイザー、マイクロフリュイダイザー、ボールミル、ディスクミル等を用いた粉砕法により解繊したセルロースであって、L/D比が30以上、かつセルロースパルプ(すなわち、L/D比が40以上かつ繊維径が1000nmを超えるもの)に分類されないものを指す。好ましい態様において、セルロースファイバーは、L/D比が30以上、かつ数平均繊維径が1000nm以下である。
セルロースパルプのL/D下限は、より好ましくは50であり、さらにより好ましくは80であり、最も好ましくは100である。上限は特に限定されないが、取扱い性の観点から好ましくは10000以下である。樹脂組成物の良好な機械物性を発現させるために、セルロースパルプのL/D比は上述の範囲内にあることが望ましい。
セルロースウィスカーのL/D上限は、好ましくは25であり、より好ましくは20であり、さらにより好ましくは15であり、さらにより好ましくは10であり、最も好ましくは5である。下限は特に限定されないが、1を超えていればよい。樹脂組成物の良好な摺動性を発現させるために、セルロースウィスカーのL/D比は上述の範囲内にあることが望ましい。
セルロースファイバーのL/D下限は、好ましくは50であり、より好ましくは80であり、より好ましくは100であり、さらにより好ましくは120であり、最も好ましくは150である。上限は特に限定されないが、取扱い性の観点から好ましくは1000以下である。本開示の樹脂組成物を用いて得られる樹脂成形体の良好な機械的特性を少量で発揮させるために、セルロースファイバーのL/D比は上述の範囲内であることが望ましい。
本開示で、セルロースパルプ、セルロースウィスカー及びセルロースファイバーの各々の長さ、径、及びL/D比は、セルロースパルプ、セルロースウィスカー及びセルロースファイバーの各々の水分散液を、高剪断ホモジナイザー(例えば日本精機(株)製、商品名「エクセルオートホモジナイザーED−7」)を用い、処理条件:回転数15,000rpm×5分間で分散させた水分散体を、0.1〜0.5質量%まで純水で希釈し、マイカ上にキャストし、風乾したものを測定サンプルとし、光学顕微鏡、又は高分解能走査型顕微鏡(SEM)、又は原子間力顕微鏡(AFM)で計測して求める。具体的には、少なくとも100本のセルロースが観測されるように倍率が調整された観察視野にて、無作為に選んだ100本のセルロースの長さ(L)及び径(D)を計測し、比(L/D)を算出する。比(L/D)が30未満のものをセルロースウィスカー、30以上のものをセルロースファイバーと分類する。但し、繊維径が1000nmを超え、かつ比(L/D)が40を超えるものはセルロースパルプと分類する。セルロースパルプ、セルロースウィスカー及びセルロースファイバーの各々について、長さ(L)の数平均値、径(D)の数平均値、及び比(L/D)の数平均値を算出して、本開示の、セルロースパルプ、セルロースウィスカー及びセルロースファイバーの各々の長さ、径、及びL/D比とする。また、本開示のセルロース成分の長さ及び径とは、上記100本のセルロースの数平均値である。
又は、組成物中のセルロースパルプ、セルロースウィスカー及びセルロースファイバーの各々の長さ、径、及びL/D比は、固体である組成物を測定サンプルとして、上述の測定方法により測定することで確認することができる。
又は、組成物中のセルロースパルプ、セルロースウィスカー及びセルロースファイバーの各々の長さ、径、及びL/D比は、組成物の樹脂成分を溶解できる有機又は無機の溶媒に組成物中の樹脂成分を溶解させ、セルロースを分離し、前記溶媒で充分に洗浄した後、溶媒を純水又は分散可能な有機溶媒に置換した水分散液を作製し、セルロース濃度を、0.1〜0.5質量%まで純水で希釈し、マイカ上にキャストし、風乾したものを測定サンプルとして上述の測定方法により測定することで確認することができる。この際、測定するセルロースは無作為に選んだ100本以上の測定を行う。
本開示におけるセルロースの変性物としては、エステル化剤、シリル化剤、イソシアネート化合物、ハロゲン化アルキル化剤、酸化アルキレン及び/又はグリシジル化合物から選択される1種以上の変性剤により変性されたものが挙げられる。
変性剤としてのエステル化剤は、セルロースの表面のヒドロキシル基と反応してこれをエステル化できる少なくとも一つの官能基を有する有機化合物を包含する。またエステル化は国際公開第2017/159823号の段落[0108]に記載の方法で実施できる。エステル化剤は市販の試薬又は製品であってもよい。
エステル化剤の好適例としては、特に限定されないが、例えば酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ピバリン酸、イソ酪酸等の脂肪族モノカルボン酸;シクロヘキサンカルボン酸等の脂環式モノカルボン酸;安息香酸、トルイル酸、α−ナフタレンカルボン酸、β−ナフタレンカルボン酸、メチルナフタレンカルボン酸、フェニル酢酸等の芳香族モノカルボン酸;及びこれらから任意に選ばれる複数の混合物、並びに、これらから任意に選ばれる、対称無水物(無水酢酸、無水マレイン酸、シクロヘキサン−カルボン酸無水物、ベンゼン−スルホン酸無水物)、混合酸無水物(酪酸−吉草酸無水物)、環状無水物(無水コハク酸、無水フタル酸、ナフタレン−1,8:4,5−テトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサン−1,2,3,4−テトラカルボン酸3,4−無水物)、エステル酸無水物(酢酸3−(エトキシカルボニル)プロパン酸無水物、炭酸ベンゾイルエチル)等が挙げられる。
これらの中でも、反応性、安定性、価格などの点から、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、 カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、安息香酸、無水酢酸、無水マレイン酸、無水コハク酸、及び無水フタル酸が好ましく使用可能である。
変性剤としてのシリル化剤は、セルロースの表面のヒドロキシル基又はその加水分解後の基と反応できる少なくとも一つの反応性基を有するSi含有化合物を包含する。シリル化剤は市販の試薬又は製品であってもよい。
シリル化剤の好適例としては、特に限定されないが、クロロジメチルイソプロピルシラン、クロロジメチルブチルシラン、クロロジメチルオクチルシラン、クロロジメチルドデシルシラン、クロロジメチルオクタデシルシラン、クロロジメチルフェニルシラン、クロロ(1−ヘキセニル)ジメチルシラン、ジクロロヘキシルメチルシラン、ジクロロヘプチルメチルシラン、トリクロロオクチルシラン、ヘキサメチルジシラザン、1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシラザン、1,3−ジビニル−1,3−ジフェニル−1,3−ジメチル−ジシラザン、1,3−N−ジオクチルテトラメチル−ジシラザン、ジイソブチルテトラメチルジシラザン、ジエチルテトラメチルジシラザン、N−ジプロピルテトラメチルジシラザン、N−ジブチルテトラメチルジシラザン又は1,3−ジ(パラ−t−ブチルフェネチル)テトラメチルジシラザン、N−トリメチルシリルアセトアミド、N−メチルジフェニルシリルアセトアミド、N−トリエチルシリルアセトアミド、t−ブチルジフェニルメトキシシラン、オクタデシルジメチルメトキシシラン、ジメチルオクチルメトキシシラン、オクチルメチルジメトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、等が挙げられる。
これらの中でも、反応性、安定性、価格などの点からヘキサメチルジシラザン、オクタデシルジメチルメトキシシラン、ジメチルオクチルメトキシシラン、及びトリメチルエトキシシランが好ましく使用可能である。
変性剤としてのハロゲン化アルキル化剤は、セルロースの表面のヒドロキシル基と反応してこれをハロゲン化アルキル化できる少なくとも一つの官能基を有する有機化合物を包含する。ハロゲン化アルキル化剤は市販の試薬又は製品であってもよい。
ハロゲン化アルキル化剤の好適例としては、特に限定されないが、クロロプロパン、クロロブタン、ブロモプロパン、ブロモヘキサン、ブロモヘプタン、ヨードメタン、ヨードエタン、ヨードオクタン、ヨードオクタデカン、ヨードベンゼン等を用いることが出来る。これらの中でも、反応性、安定性、価格などの点からブロモヘキサン、及びヨードオクタンが好ましく使用可能である。
変性剤としてのイソシアネート化合物は、セルロースの表面のヒドロキシル基と反応できるイソシアネート基を少なくとも一つ有する有機化合物を包含する。またイソシアネート化合物は、特定の温度でブロック基が脱離してイソシアネート基を再生する事が可能なブロックイソシアネート化合物であってもよく、また、ポリイソシアネートの2量体若しくは3量体、ビューレット化イソシアネートなどの変性体、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート(ポリメリックMDI)等であってもよい。これらは市販の試薬又は製品であってもよい。
イソシアネート化合物の好適例としては、特に限定されないが、脂肪族ポリイソシアネート、脂環族ポリイソシアネート、芳香族ポリイソシアネート、芳香脂肪族ポリイソシアネート、ブロックイソシアネート化合物、ポリイソシアネート等が挙げられる。例えば、テトラメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2−メチルペンタン−1,5−ジイソシアネート、3−メチルペンタン−1,5−ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン)、トリレンジイソシアネート(TDI)、2,2’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、4,4’−ジベンジルジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,3−フェニレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート)、ジアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、テトラアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、α,α,α,α−テトラメチルキシリレンジイソシアネート、上記イソシアネート化合物にオキシム系ブロック剤、フェノール系ブロック剤、ラクタム系ブロック剤、アルコール系ブロック剤、活性メチレン系ブロック剤、アミン系ブロック剤、ピラゾール系ブロック剤、重亜硫酸塩系ブロック剤、又はイミダゾール系ブロック剤を反応させたブロックイソシアネート化合物、等が挙げられる。
これらの中でも、反応性、安定性、価格などの点からTDI、MDI、ヘキサメチレンジイソシアネート、及び、ヘキサメチレンジイソシアネート変性体とヘキサメチレンジイソシアネートとを原料とするブロック化イソシアネートが好ましく使用可能である。
前記ブロックイソシアネート化合物のブロック基の解離温度は、反応性、安定性の観点から、上限値が好ましくは210℃であり、より好ましくは190℃であり、さらに好ましくは150℃である。また下限値は好ましくは70℃であり、より好ましくは80℃であり、さらに好ましくは110℃である。ブロック基の解離温度がこの範囲となるようなブロック剤としては、メチルエチルケトンオキシム、オルト−セカンダリーブチルフェノール、カプロラクタム、重亜硫酸ナトリウム、3,5−ジメチルピラゾール、2−メチルイミダゾール等が挙げられる。
変性剤としての酸化アルキレン及び/又はグリシジル化合物は、セルロースの表面のヒドロキシル基と反応できる酸化アルキレン基、グリシジル基及び/又はエポキシ基を少なくとも一つ有する有機化合物を包含する。酸化アルキレン及び/又はグリシジル化合物は市販の試薬又は製品であってもよい。
酸化アルキレン及び/又はグリシジル化合物の好適例としては、特に限定されないが、例えば、メチルグリシジルエーテル、エチルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、2−メチルオクチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、p−ターシャリーブチルフェニルグリシジルエーテル、sec−ブチルフェニルグリシジルエーテル、n−ブチルフェニルグリシジルエーテル、フェニルフェノールグリシジルエーテル、クレジルグリシジルエーテル、ジブロモクレジルグリシジルエーテル等のグリシジルエーテル;グリシジルアセテート、グリシジルステアレート等のグリシジルエステル;エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、ヘキサメチレングリコールジグリシジルエーテル、レゾルシノールジグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリブチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ソルビタンポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル等の多価アルコールグリシジルエーテルが挙げられる。
これらの中でも、反応性、安定性、価格などの点から2−メチルオクチルグリシジルエーテル、ヘキサメチレングリコールジグリシジルエーテル、及びペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテルが好ましく使用可能である。
(B)セルロースは、組成物の樹脂成分を溶解できる有機又は無機の溶媒に組成物中の樹脂成分を溶解させ、セルロースを分離し、前記溶媒で充分に洗浄した後、分離したセルロースを熱分解又は加水分解処理することにより確認できる。又は直接1H−NMR、13C−NMR測定を行うことにより確認する事が出来る。
(A)ポリアミド樹脂100質量部に対する(B)セルロースの配合量は、良好な機械的特性、熱安定性及び耐久性の観点から、1質量部以上、好ましくは2質量部以上、より好ましくは3質量部であり、十分な成形性を得る観点から、200質量部以下、好ましくは100質量部以下、より好ましくは20質量部以下である。
≪(C)表面改質剤≫
次に本発明において用いることができる(C)表面改質剤について詳述する。
(C)表面改質剤は、典型的には、オリゴマー(例えば熱可塑性樹脂のオリゴマー)である。一態様において、オリゴマーは、ポリマーのうち、重合度が20以下であるものである。
熱可塑性樹脂のオリゴマーの具体例としては、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂(ポリフェニレンエーテルを他の樹脂とブレンド又はグラフト重合させて変性させた変性ポリフェニレンエーテルも含む)、ポリアリレート系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリケトン系樹脂、ポリフェニレンエーテルケトン系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂(例えばα−オレフィン(共)重合体)、各種アイオノマー等のオリゴマーが挙げられる。
上記熱可塑性樹脂の好ましい具体例は、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン(例えば直鎖状低密度ポリエチレン)、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、環状オレフィン系樹脂、ポリ1−ブテン、ポリ1−ペンテン、ポリメチルペンテン、エチレン/α−オレフィン共重合体、エチレン・ブテン共重合体、EPR(エチレン−プロピレン共重合体)、変性エチレン・ブテン共重合体、EEA(エチレン−エチルアクリレート共重合体)、変性EEA、変性EPR、変性EPDM(エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体)、アイオノマー、α−オレフィン共重合体、変性IR(イソプレンゴム)、変性SEBS(スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン共重合体)、ハロゲン化イソブチレン−パラメチルスチレン共重合体、エチレン−アクリル酸変性体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、及びその酸変性物、(エチレン及び/又はプロピレン)と(不飽和カルボン酸及び/又は不飽和カルボン酸エステル)との共重合体、(エチレン及び/又はプロピレン)と(不飽和カルボン酸及び/又は不飽和カルボン酸エステル)との共重合体のカルボキシル基の少なくとも一部を金属塩化して得られるポリオレフィン、共役ジエンとビニル芳香族炭化水素のブロック共重合体、共役ジエンとビニル芳香族炭化水素のブロック共重合体の水素化物、他の共役ジエン化合物と非共役オレフィンとの共重合体、天然ゴム、各種ブタジエンゴム、各種スチレン−ブタジエン共重合体ゴム、イソプレンゴム、ブチルゴム、イソブチレンとp−メチルスチレンの共重合体の臭化物、ハロゲン化ブチルゴム、アクリロニトリロブタジエンゴム、クロロプレンゴム、エチレン−プロピレン共重合体ゴム、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体ゴム、スチレン−イソプレン共重合体ゴム、スチレン−イソプレン−ブタジエン共重合体ゴム、イソプレン−ブタジエン共重合体ゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、多硫化ゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル等のアクリル、アクリロニトリルを主成分とするアクリロニトリル系共重合体、アクリロニトリル・ブタンジエン・スチレン(ABS)樹脂、アクリロニトリル・スチレン(AS)樹脂、酢酸セルロース等のセルロース系樹脂、塩化ビニル/エチレン共重合体、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体、エチレン/酢酸ビニル共重合体、及びエチレン/酢酸ビニル共重合体のケン化物等が挙げられる。
これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。。また、上記した熱可塑性樹脂が、不飽和カルボン酸、その酸無水物又はその誘導体から選ばれる少なくとも1種の化合物により変性されたものも用いることもできる。
これらの中でも、耐熱性、成形性、意匠性及び機械特性の観点から、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂及びこれらの2種以上の混合物からなる群より選択される樹脂が好ましい。
これらの中でもポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアセタール系樹脂等が、取り扱い性・コストの観点からより好ましい樹脂である。
ポリオレフィン系樹脂は、オレフィン類(例えばα−オレフィン類)を含むモノマー単位を重合して得られる高分子である。ポリオレフィン系樹脂の具体例としては、特に限定されないが、低密度ポリエチレン(例えば線状低密度ポリエチレン)、高密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレンなどに例示されるエチレン系(共)重合体、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体などに例示されるポリプロピレン系(共)重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体などに代表されるα−オレフィンと他のモノマー単位との共重合体等が挙げられる。
また、セルロースとの親和性を高めるため、酸変性されたポリオレフィン系樹脂も好適に使用可能である。酸としては、マレイン酸、フマル酸、コハク酸、フタル酸及びこれらの無水物、及びクエン酸等のポリカルボン酸等から適宜選択可能である。これらの中でも好ましいのは、変性率の高めやすさから、マレイン酸又はその無水物である。変性方法については特に制限はないが、過酸化物の存在下/非存在下で樹脂を融点以上に加熱して溶融混練する方法が一般的である。酸変性するポリオレフィン樹脂としては前出のポリオレフィン系樹脂はすべて使用可能であるが、ポリプロピレンが中でも好適に使用可能である。
酸変性されたポリオレフィン系樹脂は、単独で用いても構わないが、組成物としての変性率を調整するため、変性されていないポリオレフィン系樹脂と混合して使用することがより好ましい。例えば、変性されていないポリプロピレンと酸変性されたポリプロピレンとの混合物を用いる場合、全ポリプロピレンに対する酸変性されたポリプロピレンの割合は、好ましくは0.5質量%〜50質量%である。より好ましい下限は、1質量%であり、更に好ましくは2質量%、更により好ましくは3質量%、特に好ましくは4質量%、最も好ましくは5質量%である。また、より好ましい上限は、45質量%であり、更に好ましくは40質量%、更により好ましくは35質量%、特に好ましくは30質量%、最も好ましくは20質量%である。セルロースとの界面強度を維持するためには、下限以上が好ましく、樹脂としての熱安定性を維持するためには、上限以下が好ましい。
熱可塑性樹脂として好ましいポリアミド系樹脂としては、特に限定されないが、ラクタム類の重縮合反応により得られるポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12等;1,6−ヘキサンジアミン、2−メチル−1,5−ペンタンジアミン、1,7−ヘプタンジアミン、2−メチル−1−6−ヘキサンジアミン、1,8−オクタンジアミン、2−メチル−1,7−ヘプタンジアミン、1,9−ノナンジアミン、2−メチル−1,8−オクタンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,11−ウンデカンジアミン、1,12−ドデカンジアミン、m−キシリレンジアミンなどのジアミン類と、ブタン二酸、ペンタン二酸、ヘキサン二酸、ヘプタン二酸、オクタン二酸、ノナン二酸、デカン二酸、ベンゼン−1,2−ジカルボン酸、ベンゼン−1,3−ジカルボン酸、ベンゼン−1,4ジカルボン酸等、シクロヘキサン−1,3−ジカルボン酸、シクロヘキサン−1,4−ジカルボン酸などのジカルボン酸類との共重合体として得られる、ポリアミド6,6、ポリアミド6,10、ポリアミド6,11、ポリアミド6,12、ポリアミド6,T、ポリアミド6,I、ポリアミド9,T、ポリアミド10,T、ポリアミド2M5,T、ポリアミドMXD,6、ポリアミド6、C、ポリアミド2M5,C及び、これらがそれぞれ共重合された共重合体、一例としてポリアミド6,T/6,I等の共重合体が挙げられる。
これらポリアミド系樹脂の中でも、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド6,6、ポリアミド6,10、ポリアミド6,11、ポリアミド6,12といった脂肪族ポリアミドや、ポリアミド6,C、ポリアミド2M5,Cといった脂環式ポリアミドがより好ましい。
ポリアミド系樹脂の末端カルボキシル基濃度には特に制限はないが、下限値は、20μモル/gであると好ましく、より好ましくは30μモル/gである。また、末端カルボキシル基濃度の上限値は、150μモル/gであると好ましく、より好ましくは100μモル/gであり、更に好ましくは80μモル/gである。
ポリアミド系樹脂において、好ましい全末端基に対するカルボキシル末端基比率([COOH]/[全末端基])が、0.30〜0.95であることがより好ましい。カルボキシル末端基比率下限は、より好ましくは0.35であり、さらにより好ましくは0.40であり、最も好ましくは0.45である。またカルボキシル末端基比率上限は、より好ましくは0.90であり、さらにより好ましくは0.85であり、最も好ましくは0.80である。上記カルボキシル末端基比率は、セルロース成分の組成物中への分散性の観点から0.30以上とすることが望ましく、得られる組成物の色調の観点から0.95以下とすることが望ましい。
ポリアミド系樹脂の末端基濃度の調整方法としては、公知の方法を用いることができる。例えば、ポリアミドの重合時に所定の末端基濃度となるように、ジアミン化合物、モノアミン化合物、ジカルボン酸化合物、モノカルボン酸化合物、酸無水物、モノイソシアネート、モノ酸ハロゲン化物、モノエステル、モノアルコールなどの末端基と反応する末端調整剤を重合液に添加する方法が挙げられる。
末端アミノ基と反応する末端調整剤としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ピバリン酸、イソ酪酸等の脂肪族モノカルボン酸;シクロヘキサンカルボン酸等の脂環式モノカルボン酸;安息香酸、トルイル酸、α−ナフタレンカルボン酸、β−ナフタレンカルボン酸、メチルナフタレンカルボン酸、フェニル酢酸等の芳香族モノカルボン酸;及びこれらから任意に選ばれる複数の混合物が挙げられる。これらの中でも、反応性、封止末端の安定性、価格などの点から、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、 カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸及び安息香酸からなる群より選ばれる1種以上の末端調整剤が好ましく、酢酸が最も好ましい。
末端カルボキシル基と反応する末端調整剤としては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン等の脂肪族モノアミン;シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン等の脂環式モノアミン;アニリン、トルイジン、ジフェニルアミン、ナフチルアミン等の芳香族モノアミン及びこれらの任意の混合物が挙げられる。これらの中でも、反応性、沸点、封止末端の安定性、価格などの点から、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、シクロヘキシルアミン及びアニリンからなる群より選ばれる1種以上の末端調整剤が好ましい。
これら、アミノ末端基及びカルボキシル末端基の濃度は、1H−NMRにより、各末端基に対応する特性シグナルの積分値から求めるのが精度、簡便さの点で好ましい。それらの末端基の濃度を求める方法として、具体的に、特開平7−228775号公報に記載された方法が推奨される。この方法を用いる場合、測定溶媒としては、重トリフルオロ酢酸が有用である。また、1H−NMRの積算回数は、十分な分解能を有する機器で測定した際においても、少なくとも300スキャンは必要である。そのほか、特開2003−055549号公報に記載されているような滴定による測定方法によっても末端基の濃度を測定できる。ただし、混在する添加剤、潤滑剤等の影響をなるべく少なくするためには、1H−NMRによる定量がより好ましい。
ポリアミド系樹脂は、濃硫酸中30℃の条件下で測定した固有粘度[η]が、0.6〜2.0dL/gであることが好ましく、0.7〜1.4dL/gであることがより好ましく、0.7〜1.2dL/gであることが更に好ましく、0.7〜1.0dL/gであることが特に好ましい。好ましい範囲、その中でも特に好ましい範囲の固有粘度を有する上記ポリアミド系樹脂を使用すると、樹脂組成物の射出成形時の金型内流動性を大幅に高め、成形片の外観を向上させるという効用を与えることができる。
熱可塑性樹脂として好ましいポリエステル系樹脂としては、特に限定されないが、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)、ポリアリレート(PAR)、ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)(3−ヒドロキシアルカン酸からなるポリエステル樹脂)、ポリ乳酸(PLA)、ポリカーボネート(PC)等から選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でより好ましいポリエステル系樹脂としては、PET、PBS、PBSA、PBT、及びPENが挙げられ、更に好ましくは、PBS、PBSA、及びPBTが挙げられる。
また、ポリエステル系樹脂は、重合時のモノマー比率並びに末端安定化剤の添加の有無及び量によって、末端基を自由に変えることが可能であるが、ポリエステル系樹脂の全末端基に対するカルボキシル末端基比率([COOH]/[全末端基])が、0.30〜0.95であることが好ましい。カルボキシル末端基比率下限は、より好ましくは0.35であり、さらに好ましくは、0.40であり、最も好ましくは0.45である。また、カルボキシル末端基比率上限は、より好ましくは0.90であり、さらに好ましくは、0.85であり、最も好ましくは0.80である。上記カルボキシル末端基比率は、セルロース成分の組成物中への分散性の観点から0.30以上とすることが望ましく、得られる組成物の色調の観点から0.95以下とすることが望ましい。
熱可塑性樹脂として好ましいポリアセタール系樹脂には、ホルムアルデヒドを原料とするホモポリアセタールと、トリオキサンを主モノマーとし、例えば1,3−ジオキソランをコモノマー成分として含むコポリアセタールとが一般的であり、両者とも使用可能であるが、加工時の熱安定性の観点から、コポリアセタールが好ましく使用できる。特に、コモノマー成分(例えば1,3−ジオキソラン)量としては0.01〜4モル%の範囲内が好ましい。コモノマー成分量のより好ましい下限量は、0.05モル%であり、さらに好ましくは0.1モル%であり、特に好ましくは0.2モル%である。またより好ましい上限量は、3.5モル%であり、さらに好ましくは3.0モル%であり、特に好ましくは2.5モル%であり、最も好ましくは2.3モル%である。押出加工時及び成形加工時の熱安定性の観点から、下限は上述の範囲内とすることが望ましく、界面密着性の観点より、上限は上述の範囲内とすることが望ましい。
(C)表面改質剤の数平均分子量の下限値は、好ましくは100であり、より好ましくは200であり、最も好ましくは300である。また、数平均分子量の上限値は、特に限定されないが、取扱い性の観点から好ましくは2000以下である。(B)セルロースとの十分な親和性を確保するためには、(C)表面改質剤の数平均分子量は上述の範囲内にあることが望ましい。
また、樹脂組成物を調製する際の、(C)表面改質剤の添加方法としては、特に制限はないが、(A)ポリアミド樹脂、(B)セルロース、(C)表面改質剤、及びその他成分を混合し重合する方法、(A)ポリアミド樹脂、(B)セルロース、及び(C)表面改質剤を混合し重合し、得られた樹脂組成物とその他成分とを溶融混練する方法、(A)ポリアミド樹脂、(B)セルロース、及びその他成分を混合し重合し、得られた樹脂組成物と(C)表面改質剤とを溶融混練する方法、(A)ポリアミド樹脂を重合し、(B)セルロース、(C)表面改質剤、及びその他成分を溶融混練する方法、(B)セルロース、及び(C)表面改質剤を混合し、乾燥してセルロース製剤を作製したのち、当該セルロース製剤と、(A)ポリアミド樹脂及びその他成分とを溶融混練する方法が有効である。
(C)表面改質剤は、その一部又は全部が、(A)ポリアミド樹脂の分解生成物であるオリゴマー、又は(A)ポリアミド樹脂の原料モノマーからの重合時に生じる低分子量成分であるオリゴマーであってもよい。
≪(C)表面改質剤の量≫
ポリアミド樹脂組成物中の(C)表面改質剤の量は、下記の方法で評価される。すなわち、
(C)表面改質剤は、ポリアミド樹脂溶解性溶媒にポリアミド樹脂組成物を溶解させたときの、不溶分中の(C)表面改質剤含有量をW’、溶液中の(C)表面改質剤含有量をW”、W’とW”との合計をWとしたときに、下記関係式(1):
1≧10×W’/W・・・(1)
を満たす。
W’は、ポリアミド樹脂可溶性溶媒不溶分であるセルロース表面の(C)表面改質剤含有量を、熱分解GC−MS、1H−NMR、又は13C−NMRによって測定して得られる値である。具体的には、熱分解GC−MSによって(C)表面改質剤成分の定性評価と(C)表面改質剤付着量の定量評価を行う。単離したセルロースをセルロース溶解性溶媒に溶解させて、1H−NMR、又は13C−NMRによって測定を行い、(C)表面改質剤の分子量の測定を行う。一態様において、ポリアミド樹脂溶解性溶媒としては、23℃において液体である溶媒を使用でき、例えば、ヘキサフルオロ−2−プロパノール、水、エチレングリコール、ベンジルアルコール、酢酸、塩化カルシウム飽和メタノール溶液、濃厚ギ酸水溶液、濃硫酸、濃硝酸、濃塩酸等が例示される。一態様において、セルロース溶解性溶媒としては、23℃において液体である溶媒を使用でき、例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等が例示される。
W”は、溶液中の(C)表面改質剤含有量を直接GPC測定を行うことで得られる値である。
上記関係式を満足すると、樹脂とセルロースとが良好な密着性を示し、耐疲労特性、耐摩耗特性などの諸物性が向上する傾向にある。一方、上記10×W’/Wが1を超えると、セルロースが分散不良となり、耐疲労特性や加工性などの諸物性が低下する傾向がある。
上記W、W’、及びW”は様々な操作を行うことで制御が可能である。例えば、95℃の熱水で所定時間の精錬を行うこと、ペレタイズ後に80℃の真空乾燥を所定の時間行うこと、アニール((C)表面改質剤のTgよりも高い温度で熱処理を行うこと)を行うこと、ペレットを恒温恒湿環境下に保管し所定の量を吸湿させた後に所定の温度で射出成型を行うこと、二軸などの押し出し機で溶融混練を行いう際に減圧を行うこと、などによって、(C)表面改質剤の樹脂組成物中の量(すなわちW)の制御、より多くの(C)表面改質剤をセルロース表面近傍に多く分布させることによるW’の増大、等が可能である。
95℃の熱水で所定時間の精錬では、樹脂が水で膨潤する事で、(C)表面改質剤が水と一緒に移動して系外へ抜けていくと考えられる。ペレタイズ後の80℃の真空乾燥では、ポリアミド樹脂のTgよりも高い温度かつ、超高真空状態に所定時間暴露することで、ペレット内部に存在する(C)表面改質剤がペレット表面から気化し、系外へ抜けていくと考えられる。アニールでは、(C)表面改質剤のTgよりも高い温度で熱処理を施す事で、(C)表面改質剤分子が組成物中を動き、樹脂の結晶化が促進され、その後、結晶化した部分から行き場のなくなった(C)表面改質剤が樹脂中でより親和性の高いセルロース表面に移動しているのではないかと考えられる。ペレットを恒温恒湿環境下に保管し所定の量を吸湿させた後に所定の温度で射出成型した場合には、吸湿が生じ、さらに高温にさらされることで、重合していた高分子の分解反応が引き起こされ、低分子量化によるオリゴマー生成が生じると考えられる。
ポリアミド樹脂組成物中のW’及びW”は、前述のようなポリアミド樹脂溶解性溶媒を用いた単離によって、当業者に一般的な分析方法を用いて求めることが可能である。例えば、1gの樹脂組成物に対し、50mlのヘキサフルオロ−2−プロパノールを用いて、組成物中の樹脂成分を溶解させ、不溶分であるセルロースを遠心分離やろ過などにより分離する。分離で得られたウェットケーク状のセルロースに2mlのヘキサフルオロ−2−プロパノールを添加し、3秒間洗浄し、減圧濾過を1回行う。この減圧濾過で得られたセルロースを23℃で24時間以上風乾し、乾燥セルロースを得る。得られた乾燥セルロースと内部標準物質とを同時又は別条件で測定する。このときの測定方法は、熱分解GC−MS、又は1H−NMR、13C−NMR測定等であってよい。これにより、(C)表面改質剤のW’を算出する事が可能である。
一方、上記の不溶分を分離した後の溶液(すなわち、ポリアミド樹脂が溶解したろ液)を直接GPC測定することで(C)表面改質剤のW”を算出する事が可能である。
(A)ポリアミド樹脂100質量部に対する(C)表面改質剤の量は、樹脂成形体の良好な性能を得る観点から、0.01質量部以上、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上であり、樹脂成形体の摩耗性向上の観点から、5質量部以下、好ましくは4質量部以下、より好ましくは3質量部以下、更に好ましくは2質量部以下、特に好ましくは2質量部未満である。
≪(D)金属イオン成分≫
次に本発明において用いることができる(D)金属イオン成分について詳述する。
ポリアミド樹脂組成物は、任意成分として(D)金属イオン成分を含むことが可能である。(D)金属イオン成分は市販の試薬又は製品であってもよい。
(D)金属イオン成分としては、銅化合物、金属(銅又は銅以外)のハロゲン化物などが挙げられる。
銅化合物としては、塩化銅、臭化銅、ヨウ化銅等のハロゲン化銅;酢酸銅、プロピオン酸銅、安息香酸銅、アジピン酸銅、テレフタル酸銅、イソフタル酸銅、サリチル酸銅、ニコチン酸銅、ステアリン酸銅等のカルボン酸銅塩;エチレンジアミン、エチレンジアミン四酢酸等のキレート剤に銅が配位した、銅錯塩;等が挙げられる。銅化合物は、1種類で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。銅化合物としては、耐熱エージング性に一層優れること、成形押出時のスクリューやシリンダー部の金属腐食(以下、単に「金属腐食」ともいう。)を抑制できること等の観点から、ヨウ化銅(CuI)、臭化第一銅(CuBr)、臭化第二銅(CuBr2)、塩化第一銅(CuCl)、及び酢酸銅が好ましく、ヨウ化銅、及び酢酸銅がより好ましい。
ポリアミド樹脂組成物における上記銅化合物の含有量は、(A)ポリアミド樹脂100質量部に対して、0.005〜0.6質量部であることが好ましく、0.005〜0.4質量部であることがより好ましく、0.01〜0.4質量部であることがさらに好ましい。驚くべきことに、(D)金属イオン成分の量が上記範囲内であることで、ポリアミド樹脂組成物の疲労試験における破断回数が更に向上する。このような優れた耐繰り返し疲労性の発現要因は未解明ではあるが、(B)セルロースの表面と(C)表面改質剤との界面、又は(B)セルロースの表面と(A)ポリアミド樹脂との界面に(D)金属イオン成分が存在し、密着性を増大させていると推測される。また、銅化合物の含有量が上記範囲内であると、熱安定性の指標の一つである耐熱エージング性が一層向上するとともに、銅の析出及び金属腐食を一層抑制することができる。
ポリアミド樹脂組成物における銅化合物中の銅元素の含有量は、上記(A)ポリアミド樹脂100質量部に対して、0.005〜0.2質量部であることが好ましく、0.005〜0.15質量部であることがより好ましく、0.006〜0.1質量部であることがさらに好ましい。銅元素の含有量が上記範囲内であると、耐熱エージング性が一層向上するとともに、銅の析出及び金属腐食を一層抑制することができる。
ポリアミド樹脂組成物は、アルカリ金属のハロゲン化物及びアルカリ土類金属のハロゲン化物からなる群より選ばれる少なくとも一種の金属ハロゲン化物をさらに含有していてもよい。金属ハロゲン化物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
金属ハロゲン化物としては、ヨウ化カリウム、臭化カリウム、塩化カリウム、ヨウ化ナトリウム、塩化ナトリウム等が挙げられる。金属ハロゲン化物としては、ポリアミド樹脂組成物の耐熱エージング性が一層向上し、金属腐食が一層抑制される点で、ヨウ化カリウム、及び臭化カリウムが好ましく、ヨウ化カリウムがより好ましい。
ポリアミド樹脂組成物における金属ハロゲン化物の含有量は、上記(A)ポリアミド樹脂100質量部に対して、0.05〜20質量部であることが好ましく、0.05〜10質量部であることがより好ましく、0.07〜5質量部であることがさらに好ましい。金属ハロゲン化物の含有量が上記範囲内であると、耐熱エージング性が一層向上するとともに、銅析出及び金属腐食を一層抑制することができる。
金属ハロゲン化物は、ハロゲン元素の含有量C3と銅元素の含有量C4とのモル比C3/C4が、2/1〜50/1となるように配合することが好ましく、2/1〜40/1となるように配合することがより好ましく、5/1〜30/1となるように配合することがさらに好ましい。モル比C3/C4を2/1以上とすることで、銅析出及び金属腐食を一層抑制することができ、50/1以下とすることで、靭性、剛性などの機械物性を損なうことなく、金属腐食を一層抑制することができる。
ポリアミド樹脂組成物中に銅化合物を含有させる方法としては、例えば、ポリアミド重合時に銅化合物(必要に応じて、さらに金属ハロゲン化物)を配合する方法(製法1)、溶融混練を用いてポリアミド樹脂に銅化合物(必要に応じて、さらに金属ハロゲン化物)を配合する方法(製法2)が挙げられる。
本実施形態のポリアミド樹脂組成物の製造方法では、銅化合物を固体状態で添加してもよく、例えば水溶液の状態で添加してもよい。前記製法1におけるポリアミド重合時とは、原料モノマーからポリアミドの重合が完了するまでの、どの段階でもよい。製法2の溶融混練を行う装置は、特に限定されるものではなく、公知の装置、例えば、単軸又は2軸押出機、バンバリーミキサー、及びミキシングロールなどの溶融混練機などを用いることができる。中でも2軸押出機が好ましく用いられる。
溶融混練の温度は、好ましくは、ポリアミド樹脂の融点よりも1〜100℃程度高い温度、より好ましくは10〜50℃程度高い温度である。混練機での剪断速度は100sec-1以上程度であることが好ましく、混練時の平均滞留時間は0.5〜5分程度であることが好ましい。
≪(E)摺動剤成分≫
次に本発明において用いることができる(E)摺動剤成分について詳述する。ポリアミド樹脂組成物は、任意成分として(E)摺動剤成分を含むことが可能である。(E)摺動剤成分は市販の試薬又は製品であってもよい。
(E)摺動剤成分の好ましい下限量は、(A)ポリアミド樹脂100質量部に対して、0.01質量部であり、より好ましくは0.5質量部であり、特に好ましくは、1.0質量部である。また、(E)摺動剤成分の好ましい上限量は、(A)ポリアミド樹脂100質量部に対し、5質量部であり、より好ましくは4質量部であり、特に好ましくは3質量部である。(E)摺動剤成分の量を上記範囲内とすることで、疲労試験における破断回数が向上する。通常のフィラー(例えばガラスファイバー等)を用いた場合、ガラスファイバー表面に(E)摺動剤成分が偏在し、摺動剤分子が多数積層する構造となることで、フィラーが脱落しやすい、長期疲労試験などで効果が低下する、といった問題が生じる場合がある。しかし、(B)セルロースを用いた場合、セルロースの表面積はガラスファイバー等と大きく異なり大表面積であるため、(E)摺動剤成分がセルロース表面に偏在しにくく、摺動剤分子が積層しにくい。これにより、疲労試験における破断回数が向上し、さらには耐摩耗性も維持されると推測される。
(E)摺動剤成分の量が(A)ポリアミド樹脂100質量部に対し、5質量部以下である場合、樹脂成形体における層剥離及びシルバーストリークスの発生がより良好に抑制される。また、(E)摺動剤成分の量が(A)ポリアミド樹脂100質量部に対して0.01質量部以上である場合、摩耗量低減のより顕著な効果が得られる。
(E)摺動剤成分としては、これらに限定されるものではないが、例えば、下記一般式(2)、(3)又は(4)で表わされる構造を有する化合物が挙げられる。
[R11−(A1−R12)x−A2−R13]y・・・(2)
A3−R11−A4・・・(3)
R14−A5・・・(4)
ここで、式(2)及び(3)中、R11、R12及びR13は、各々独立して、炭素数1〜7000のアルキレン基、置換若しくは非置換の炭素数1〜7000のアルキレン基の少なくとも1個の水素原子が炭素数6〜7000のアリール基で置換された置換アルキレン基、炭素数6〜7000のアリーレン基、又は炭素数6〜7000のアリーレン基における少なくとも1個の水素原子が炭素数1〜7000の置換若しくは非置換のアルキル基で置換された置換アリーレン基である。
また、式(4)中、R14は、炭素数1〜7000のアルキル基、置換若しくは非置換の炭素数1〜7000のアルキル基の少なくとも1個の水素原子が炭素数6〜7000のアリール基で置換された置換アルキル基、炭素数6〜7000のアリール基、又は炭素数6〜7000のアリール基における少なくとも1個の水素原子が炭素数1〜7000の置換若しくは非置換のアルキル基で置換された置換アリール基である。
これらの基は二重結合、三重結合、又は環状構造を含む基でもよい。
また、式(2)中、A1及びA2は、各々独立して、エステル結合、チオエステル結合、アミド結合、チオアミド結合、イミド結合、ウレイド結合、イミン結合、尿素結合、ケトキシム結合、アゾ結合、エーテル結合、チオエーテル結合、ウレタン結合、チオウレタン結合、スルフィド結合、ジスルフィド結合、又はトリスルフィド結合である。
また、式(3)、(4)中、A3、A4及びA5は、各々独立して、ヒドロキシル基、アシル基(例えばアセチル基)、アルデヒド基、カルボキシル基、アミノ基、スルホ基、アミジン基、アジ基、シアノ基、チオール基、スルフェン酸基、イソシアニド基、ケテン基、イソシアネート基、チオイソシアネート基、ニトロ基、又はチオール基である。
微小荷重摺動時の摩耗特性の観点から、(E)摺動剤成分における上記一般式(2)、(3)又は(4)で表わされる構造を以下の範囲内とすることが好ましい。
すなわち、R11、R12、R13、及びR14における炭素数は、好ましくは2〜7000であり、より好ましくは3〜6800であり、さらに好ましくは4〜6500である。
式(2)中、xは1〜1000の整数を示し、1〜100の整数が好ましい。yは1〜1000の整数を示し、1〜200の整数が好ましい。
式(2)中、好ましいA1及びA2は、各々独立して、エステル結合、チオエステル結合、アミド結合、イミド結合、ウレイド結合、イミン結合、尿素結合、ケトキシム結合、エーテル結合、及びウレタン結合であり、より好ましいA1及びA2は、各々独立して、エステル結合、アミド結合、イミド結合、ウレイド結合、イミン結合、尿素結合、ケトキシム結合、エーテル結合、及びウレタン結合である。
式(3)及び(4)中、好ましいA3、A4及びA5は、各々独立して、ヒドロキシル基、アシル基(例えばアセチル基)、アルデヒド基、カルボキシル基、アミノ基、アジ基、シアノ基、チオール基、イソシアニド基、ケテン基、イソシアネート基、及びチオイソシアネート基であり、より好ましいA3、A4及びA5は、各々独立して、ヒドロキシル基、アシル基(例えばアセチル基)、アルデヒド基、カルボキシル基、アミノ基、シアノ基、イソシアニド基、ケテン基、及びイソシアネート基である。
具体的には、(E)摺動剤成分として、特に限定されないが、例えば、アルコール、アミン、カルボン酸、ヒドロキシ酸、アミド、エステル、ポリオキシアルキレングリコール、シリコーンオイル、ワックス、及び潤滑油からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物が例示される。
アルコールとしては、炭素数が6〜7000の飽和又は不飽和の1価又は多価のアルコール類が好ましい。具体的な例としては特に限定されないが、例えば、オクチルアルコール、ノニルアルコール、デシルアルコール、ウンデシルアルコール、ラウリルアルコール、トリデシルアルコール、ミリスチルアルコール、ペンタデシルアルコール、セチルアルコール、ヘプタデシルアルコール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、リノリルアルコール、ノナデシルアルコール、エイコシルアルコール、セリルアルコール、ベヘニルアルコール、メリシルアルコール、ヘキシルデシルアルコール、オクチルドデシルアルコール、デシルミリスチルアルコール、デシルステアリルアルコール、ユニリンアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、トレイトール、エリスリトール、ペンタエリスリトール、アラビトール、リビトール、キシリトール、ソルバイト、ソルビタン、ソルビトール、マンニトールが挙げられる。
これらの中でも、摺動性の効率の観点から、炭素数11以上のアルコールが好ましい。より好ましくは炭素数12以上のアルコールであり、さらに好ましくは炭素数13以上のアルコールである。特に好ましいのはこれらの中でも飽和アルコールである。
これらの中では、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、リノリルアルコール、ベヘニルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールが好ましく使用可能であり、ベヘニルアルコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールが特に好ましく使用可能である。
アミンとしては、以下に限定されるものではないが、例えば、一級アミン、二級アミン、三級アミンが挙げられる。
一級アミンとしては、特に限定されないが、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロパンアミン、ブタンアミン、ペンタンアミン、ヘキサンアミン、へプタンアミン、オクタンアミン、シクロヘキシルアミン、エチレンジアミン、アニリン、メンセンジアミン、イソホロンジアミン、キシレンジアミン、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルアミン等が挙げられる。
二級アミンとしては、特に限定されないが、例えば、ジメチルアミン、ジエチルアミン、N−メチルエチルアミン、ジフェニルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、ピペリジン、N,N−ジメチルピペラジン等が挙げられる。
三級アミンとしては、特に限定されないが、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ヘキサメチレンジアミン、N,N−ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン等が挙げられる。
特殊なアミンとしては、特に限定されないが、例えば、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ジエチルアミノロピルアミン、N−アミノエチルピペラジン等が挙げられる。これらの中でも、ヘキサンアミン、ヘプタンアミン、オクタンアミン、テトラメチルエチレンジアミン、N,N−ジメチルピペラジン、ヘキサメチレンジアミンがより好ましく使用可能であり、これらの中でも、ヘプタンアミン、オクタンアミン、テトラメチルエチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンが特に好ましく使用可能である。
カルボン酸としては、炭素数が6〜7000の飽和又は不飽和の1価又は多価の脂肪族カルボン酸類が好ましい。具体的な例としては特に限定されないが、例えば、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ウンデシル酸、ペラルゴン酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ナノデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコン酸、モンタン酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、メリシン酸、ラクセル酸、ウンデシレン酸、エライジン酸、セトレイン酸、ブラシジン酸、ソルビン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、バクセン酸、リノール酸、リノレン酸、エレオステアリン酸、アラキドン酸、ネルボン酸、エルカ酸、プロピオール酸、ステアロール酸等が挙げられる。
これらの中でも、摺動性の効率の観点から、炭素数10以上の脂肪酸が好ましい。より好ましくは炭素数11以上の脂肪酸であり、さらに好ましくは炭素数12以上の脂肪酸である。特に好ましいのはこれらの中でも飽和脂肪酸である。飽和脂肪酸の中ではパルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、モンタン酸、アジピン酸、セバシン酸等が、工業的にも容易に入手可能であり、更に好ましい。
また、かかる成分を含有してなる天然に存在する脂肪酸又はこれらの混合物等でもよい。これらの脂肪酸はヒドロキシ基で置換されていてもよく、合成脂肪族アルコールであるユニリンアルコールの末端をカルボキシル変性した合成脂肪酸でもよい。
ヒドロキシ酸としては特に限定されないが、例えば、脂肪族ヒドロキシ酸、芳香族ヒドロキシ酸が挙げられる。脂肪族ヒドロキシ酸としては、特に限定されないが、例えば、グリコール酸、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシブタン酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシヘキサン酸、ヒドロキシヘプタン酸、ヒドロキシノナン酸、ヒドロキシデカン酸、ヒドロキシウンデカン酸、ヒドロキシドデカン酸、ヒドロキシトリデカン酸、ヒドロキシテトラデカン酸、ヒドロキシペンタデカン酸、ヒドロキシヘキサデカン酸、ヒドロキシヘプタデカン酸、ヒドロキシオクタデカン酸、ヒドロキシノナデカン酸、ヒドロキシイコサン酸、ヒドロキシドコサン酸、ヒドロキシテトラドコサン酸、ヒドロキシヘキサドコサン酸、ヒドロキシオクタドコサン酸や乳酸、タルトロン酸、グリセリン酸、ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシ酪酸、3−ヒドロキシ酪酸、γ−ヒドロキシ酪酸、リンゴ酸、酒石酸、シトラマル酸、クエン酸、イソクエン酸、ロイシン酸、メバロン酸、パントイン酸、リシノール酸、リシネライジン酸、セレブロン酸、キナ酸、シキミ酸、等が挙げられ、これらの異性体であってもよい。
芳香族ヒドロキシ酸としては特に限定されないが、例えば、モノヒドロキシ安息香酸誘導体としてサリチル酸、クレオソート酸(ホモサリチル酸、ヒドロキシ(メチル)安息香酸)、バニリン酸、シリング酸、ジヒドロキシ安息香酸誘導体としてピロカテク酸、レソルシル酸、プロトカテク酸、ゲンチジン酸、オルセリン酸、トリヒドロキシ安息香酸誘導体として、没食子酸、フェニル酢酸誘導体として、マンデル酸、ベンジル酸、アトロラクチン酸、ケイヒ酸やヒドロケイヒ酸誘導体として、メリロト酸、フロレト酸、クマル酸、ウンベル酸、コーヒー酸、フェルラ酸、シナピン酸が挙げられ、これらの異性体であってもよい。これらの中では、脂肪族ヒドロキシ酸がより好ましく、脂肪族ヒドロキシ酸の中でも炭素数が5から30の脂肪族ヒドロキシ酸が更に好ましく、炭素数8から28の脂肪族ヒドロキシ酸が特に好ましい。
アミドとしては、炭素数が6〜7000の飽和又は不飽和の1価又は多価の脂肪族アミド類が好ましい。具体的な例としては特に限定されないが、例えば、1級アミドとしてヘプタンアミド、オクタンアミド、ノナンアミド、デカンアミド、ウンデカンアミド、ラウリルアミド、トリデシルアミド、ミリスチルアミド、ペンタデシルアミド、セチルアミド、ヘプタデシルアミド、ステアリルアミド、オレイルアミド、ノナデシルアミド、エイコシルアミド、セリルアミド、ベヘニルアミド、メリシルアミド、ヘキシルデシルアミド、オクチルドデシルアミド、ラウリン酸アマイド、パルチミン酸アマイド、ステアリン酸アマイド、ベヘン酸アマイド、ヒドロキシステアリン酸アマイド、オレイン酸アマイド、エルカ酸アマイドなどの飽和又は不飽和アミドが挙げられる。
2級アミドの例としては、以下に限定されるものではないが、例えば、N−オレイルパルミチン酸アミド、N−ステアリルステアリン酸アミド、N−ステアリルオレイン酸アミド、N−オレイルステアリン酸アミド、N−ステアリルエルカ酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスヒドロキシステアリン酸アマイド、エチレンビスベヘン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスベヘン酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、ヘキサメチレンヒドロキシステアリン酸アマイド、などの飽和又は不飽和アミドが挙げられる。
3級アミドの例としては、以下に限定されるものではないが、例えば、N,N−ジステアリルアジピン酸アミド、N,N−ジステアリルセバシン酸アミド、N,N−ジオレイルアジピン酸アミド、N,N−ジオレイルセバシン酸アミド、N,N−ジステアリルイソフタル酸アミドなどの飽和又は不飽和アミドが挙げられる。
これらの中でも、パルチミン酸アマイド、ステアリン酸アマイド、ベヘン酸アマイド、ヒドロキシステアリン酸アマイド、オレイン酸アマイド、エルカ酸アマイド、N−ステアリルステアリン酸アマイドがより好ましく使用可能である。
これらの中でも、メチレンビスステアリン酸アマイド、エチレンビスラウリン酸アマイド、エチレンビスステアリン酸アマイド、エチレンビスベヘン酸アマイドが好ましく使用可能である。これらの中でも、摺動性の効率の観点から、炭素数10以上のアミドが好ましい。より好ましくは、炭素数11以上のアミドであり、さらに好ましくは炭素数13以上のアミドである。特に好ましいのはこれらの中でも飽和脂肪族アミドである。
エステルとしては、上述のアルコールとカルボン酸、又はヒドロキシ酸とが反応してエステル結合を形成している反応生成物などが好ましい。
具体的な例としては特に限定されないが、例えば、ステアリン酸ブチル、パルミチン酸2−エチルヘキシル、ステアリン酸2−エチルヘキシル、べへニン酸モノグリセライド、2−エチルヘキサン酸セチル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、イソステアリン酸コレステリル、ラウリン酸メチル、オレイン酸メチル、ステアリン酸メチル、ミリスチン酸セチル、ミリスチン酸ミリスチル、ミリスチン酸オクチルドデシルペンタエリスリトールモノオレエート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールテトラパルミテート、ステアリン酸ステアリル、ステアリン酸イソトリデシル、2−エチルヘキサン酸トリグリセライド、アジピン酸ジイソデシル、エチレングリコールモノラウレート、エチレングリコールジラウレート、エチレングリコールモノステアレート、エチレングリコールジステアレート、トリエチレングリコールモノステアレート、トリエチレングリコールジステアレート、エチレングリコールモノオレエート、エチレングリコールジオレエート、ポリエチレングリコールモノラウレート、ポリエチレングリコールモノステアレート、ポリエチレングリコールジステアレート、ポリエチレングリコールモノオレエート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリンモノラウレート、グリセリンジラウレート、グリセリンモノオレエート、グリセリンジオレエート等が挙げられる。
これらの中でもミリスチン酸セチル、アジピン酸ジイソデシル、エチレングリコールモノステアレート、エチレングリコールジステアレート、トリエチレングリコールモノステアレート、トリエチレングリコールジステアレート、ポリエチレングリコールモノステアレート、ポリエチレングリコールジステアレートが好ましく使用可能であり、ミリスチン酸セチル、アジピン酸ジイソデシル、エチレングリコールジステアレートが特に好ましく使用可能である。
ポリオキシアルキレングリコールとしては、以下に限定されるものではないが、例えば、以下の3種類が挙げられる。
第1のポリオキシアルキレングリコールは、アルキレングリコールをモノマーとする重縮合物である。このような重縮合物としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコールとプロピレングリコールとのブロックコポリマー、ランダムコポリマー等が挙げられる。これらの重縮合物の重合度の好ましい範囲は5〜2500、より好ましい範囲は10〜2300である。
第2のポリオキシアルキレングリコールは、第1のポリオキシアルキレングリコールで挙げた重縮合物と脂肪族アルコールとのエーテル化合物である。このようなエーテル化合物としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ポリエチレングリコールオレイルエーテル(エチレンオキサイド重合度5〜500)、ポリエチレングリコールセチルエーテル(エチレンオキサイド重合度5〜500)、ポリエチレングリコールステアリルエーテル(エチレンオキサイド重合度5〜300)、ポリエチレングリコールラウリルエーテル(エチレンオキサイド重合度5〜300)、ポリエチレングリコールトリデシルエーテル(エチレンオキサイド重合度5〜300)、ポリエチレングリコールノニルフェニルエーテル(エチレンオキサイド重合度2〜1000)、ポリエチレングリコールオキチルフェニルエーテル(エチレンオキサイド重合度4〜500)等が挙げられる。
第3のポリオキシアルキレングリコールは、第1のポリオキシアルキレングリコールで挙げた重縮合物と高級脂肪酸とのエステル化合物である。このようなエステル化合物としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ポリエチレングリコールモノラウレート(エチレンオキサイド重合度2〜300)、ポリエチレングリコールモノステアレート(エチレンオキサイド重合度2〜500)、ポリエチレングリコールモノオレート(エチレンオキサイド重合度2〜500)等が挙げられる。
ワックスとしては、特に限定されないが、例えば、シュラックワックス、蜜ろう、鯨ろう、セラックろう、ウールろう、カルバナワックス、木ろう、ライスワックス、キャンデリラワックス、はぜろう、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、モンタンワックス、フィッシャートロプシュワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、及びこれらの高密度重合型、低密度重合型、酸化型、酸変性型、特殊モノマー変性型が挙げられる。
これらの中でもカルナバワックス、ライスワックス、キャンデリラワックス、パラフィンワックス、モンタンワックス、ポリエチレンワックス及びこれらの高密度重合型、低密度重合型、酸化型、酸変性型、特殊モノマー変性型がより好ましく使用可能であり、カルナバワックス、ライスワックス、キャンデリラワックス、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス及びこれらの高密度重合型、低密度重合型、酸化型、酸変性型、特殊モノマー変性型が特に好ましく使用可能である。
これらの中でも(E)摺動剤成分としては、アルコール、アミン、カルボン酸、エステル、1価又は2価のアミンとカルボン酸とからなるアミド化合物、並びにワックスからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物であることが好ましい。
本実施形態のポリアミド樹脂組成物に用いる(E)摺動剤成分のパラフィンワックス、ポリエチレンワックス及びこれらの高密度重合型、低密度重合型、酸化型、酸変性型、特殊モノマー変性型は、特に限定されないが、ポリオレフィンワックスの酸化反応により酸性基を導入したり、ポリオレフィンを酸化分解したり、ポリオレフィンワックスに無機酸、有機酸或いは不飽和カルボン酸などを反応させてカルボキシル基やスルホン酸基などの極性基を導入したり、ポリオレフィンワックス重合時に酸性基を持つモノマーを導入する方法により得られる。
これらは、酸化変性型或いは酸変性型ポリオレフィンワックスなどの名称で市販されており、容易に入手することができる。
ポリオレフィンワックスとしては、以下に限定されるものではないが、例えばパラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、モンタンワックス、フィッシャートロプシュワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、及びこれらの高密度重合型、低密度重合型、特殊モノマー変性型などが挙げられる。
ポリオレフィンとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン共重合体、エチレン−オクテン共重合体、ポリプロピレン−ブテン共重合体、ポリブテン、ポリブタジエンの水添物、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、エチレン−メタアクリル酸エステル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体等などが挙げられる。
(E)摺動剤成分としては摺動性改良効果の観点からパラフィンワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックスの酸変性物、ポリエチレン(高圧法低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン)、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン共重合体の酸変性物が好ましい。
(E)摺動剤成分は、特に、酸変性ポリエチレン及び/又は酸変性ポリプロピレンを含む変性ワックスであることが好ましい。
上記(E)摺動剤成分は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本実施形態において、(E)摺動剤成分は、ポリアミド樹脂成形体から分離することで分子構造や分子量、融点、酸価、粘度などを算出することが可能である。
本実施形態のポリアミド樹脂組成物を含む成形体における(E)摺動剤成分は、ポリアミド樹脂成形体又は組成物を溶解後ろ別などの操作を行い単離したのちに、(E)摺動剤成分を再結晶化や再沈殿などの操作で精製することが可能である。(E)摺動剤成分を1H−NMRや13C−NMRや二次元NMR、MALDI−TOF MSなど各種測定を行うことにより、繰り返し構造や分岐構造、各種官能基の位置情報などの分子構造を決定することができる。
(E)摺動剤成分が酸変性ポリエチレン及び/又は酸変性ポリプロピレンである場合、酸価は0〜85mg−KOH/gの範囲であることが好ましい。酸価の好ましい下限は特にないが、0mg−KOH/g以上であることが好ましい。酸価のより好ましい上限は83mg−KOH/gであり、さらにより好ましくは80mg−KOH/gであり、よりさらに好ましくは75mg−KOH/gである。酸価を上述の範囲とすることで、乾燥時の変色性を抑制し、微小荷重の高温摺動時の耐摩耗性が良好となる傾向にある。(E)摺動剤成分の酸価はJIS K0070に準拠した方法により測定できる。
(E)摺動剤成分の酸価は、例えば、特開2004−75749号公報の実施例1又は2に記載の方法、特開昭62−167308号公報の実施例1に記載の方法、市販の高密度ポリエチレンを酸素雰囲気下で熱分解することで、酸性基の導入量、及び/又は極性基の導入量を調整又は制御する方法、等によって制御可能である。また(E)摺動剤成分が酸変性ポリエチレン及び/又は酸変性ポリプロピレンである場合、市販品を使用することも可能である。
(E)摺動剤成分が酸変性ポリエチレン及び/又は酸変性ポリプロピレンである場合、140℃の溶融粘度は1〜3000mPa・sの範囲であることが好ましい。下限は特に限定されるものではないが、本実施形態のポリアミド樹脂組成物の溶融混練時の加工性の観点から、1mPa・sが好ましく、20mPa・sがより好ましく、さらに好ましくは25mPa・sであり、さらにより好ましくは30mPa・sであり、よりさらに好ましくは50mPa・sである。また、上記140℃溶融粘度の好ましい上限は、2850mPa・sであり、より好ましくは2800mPa・sであり、さらに好ましくは2700mPa・sであり、さらにより好ましくは2650mPa・sであり、よりさらに好ましくは2000mPa・sである。
(E)摺動剤成分が酸変性ポリエチレン及び/又は酸変性ポリプロピレンである場合、180℃の溶融粘度は100〜2900mPa・sの範囲であることが好ましい。(E)摺動剤成分が酸変性ポリエチレン及び/又は酸変性ポリプロピレンである場合の180℃溶融粘度の下限は、好ましくは110mPa・sであり、より好ましくは140mPa・sであり、さらに好ましくは160mPa・sであり、さらにより好ましくは300mPa・sである。また(E)摺動剤成分が酸変性ポリエチレン及び/又は酸変性ポリプロピレンである場合の180℃溶融粘度の好ましい上限は、2850mPa・sであり、より好ましくは2800mPa・sであり、さらに好ましくは2700mPa・sであり、さらにより好ましくは2650mPa・sであり、よりさらに好ましくは2000mPa・sであり、特に好ましくは1600mPa・sである。
(E)摺動剤成分が酸変性ポリエチレン及び/又は酸変性ポリプロピレンである場合、溶融粘度を上記範囲内とすることで、本実施形態のポリアミド樹脂組成物の溶融混練時に、樹脂ペレットが完全溶融となり、混練が十分に行われる傾向にある。
(E)摺動剤成分が酸変性ポリエチレン及び/又は酸変性ポリプロピレンである場合、140℃及び180℃の溶融粘度はブルックフィールド粘度計により測定できる。
(E)摺動剤成分として用いることのできる潤滑油は、以下に限定されるものではないが、樹脂成形体の摩擦・摩耗特性を向上させ得る物質であればよく、例えば、エンジンオイル、シリンダーオイルなどの天然オイル;パラフィン系オイル(出光興産株式会社製 ダイアナプロセスオイル PS32など)、ナフテン系オイル(出光興産株式会社製 ダイアナプロセスオイル NS90Sなど)、アロマ系オイル(出光興産株式会社製 ダイアナプロセスオイル AC12など)などの合成炭化水素オイル;シリコーングリス(信越化学株式会社製 G30シリーズなど)、ポリジメチルシロキサンに代表されるシリコーンオイル、シリコーンガム、変性シリコーンガム等のシリコーン系オイル;等を挙げることができ、一般に市販されている潤滑油の中から適宜に選んで、そのまま、又は、所望により適宜に配合して用いればよい。これらの中でもパラフィン系オイルとシリコーン系オイルが摺動性の観点からも優れ、かつ工業的にも容易に入手可能であり好ましい。これら潤滑油は、単独で用いても、組み合わせて用いても構わない。
潤滑油の分子量の下限は100が好ましく、400がより好ましく、500がさらに好ましい。また、上限は500万が好ましく、200万がより好ましく、100万がさらに好ましい。潤滑油の融点の下限値は−50℃が好ましく、−30℃がより好ましく、−20℃がさらに好ましい。潤滑油の融点の上限値は50℃が好ましく、30℃がより好ましく、20℃がさらに好ましい。分子量は100以上にすることで潤滑油の摺動性が良好となる傾向にある。また分子量を500万以下、特に100万以下にすることで、潤滑油の分散が良好となり耐摩耗性が向上する傾向にある。また、融点を−50℃以上とすることで、樹脂成形体表面に存在する潤滑油の流動性が維持され、アブレッシブ摩耗を抑制することにより、樹脂成形体の耐摩耗性が向上する傾向にある。また融点を50℃以下とすることで、潤滑油をポリアミド樹脂と容易に混練しやすくなり、潤滑油の分散性が向上する傾向にある。上記した観点より、潤滑油の分子量及び融点は、上記範囲内にすることが好ましい。なお、上記融点は潤滑油の流動点の2.5℃低い温度を意味し、当該流動点はJIS K2269に準拠して測定される値である。
(A)ポリアミド樹脂100質量部に対する、潤滑油の含有量の下限値は、特に限定されないが、0.1質量部が好ましく、0.2質量部がより好ましく、0.3質量部がさらに好ましい。また、上記含有量の上限値も特に限定されないが、5.0質量部が好ましく、4.5質量部がより好ましく、4.2質量部がさらに好ましい。潤滑油の含有量が上述した範囲である場合、ポリアミド樹脂組成物の耐摩耗性が向上する傾向にある。特に、潤滑油の含有量が0.1質量部以上である場合、良好な摺動性を確保でき、耐摩耗性が向上する傾向にある。また、潤滑油の含有量が5.0質量部以下である場合、樹脂の軟化を抑制でき、ギヤ等の用途にも耐えうるポリアミド樹脂組成物の強度を確保できる傾向にある。したがって、ポリアミド樹脂組成物における潤滑油の含有量の範囲を上記のとおり調整する場合、摺動時の摩耗特性を改善し、さらには安定摺動性に優れるという観点から好ましい。
樹脂成形体においては、表層近傍における摺動剤成分の分散状態が摺動特性に大きな影響を与えるため、(E)摺動剤成分の重量平均分子量は重要である。(E)摺動剤成分の重量平均分子量の好ましい下限量は、500であり、より好ましくは600であり、特に好ましくは、700である。また、(E)摺動剤成分の重量平均分子量の好ましい上限量は特にないが、取扱いの容易さから、100000が目安である。(E)摺動剤成分の重量平均分子量を上述の範囲とすることで、例えば樹脂成形体は、1万回を超える摺動回数における耐摩耗性の維持を達成可能となる。
(E)摺動剤成分の分子量分布の下限は特にないが、摺動時の摩擦係数の安定性の観点から、1.0に近いことが目安である。また(E)摺動剤成分の分子量分布の好ましい上限は9.0であり、より好ましくは8.5であり、さらに好ましくは8.0であり、さらにより好ましくは7.5である。
(E)摺動剤成分の重量平均分子量は、重量平均分子量1000以下の場合は、液体クロマトグラフ/質量分析により測定され、重量平均分子量が1000を超える場合は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィにより測定された標準ポリスチレン等の換算の重量平均分子量で表される。
(E)摺動剤成分は、その融点が40〜150℃であることが好ましい。(E)摺動剤成分の融点を40℃以上とすることにより、より高い温度での樹脂成形体の耐摩耗性を向上させることが可能となる傾向にあり、(E)摺動剤成分の融点を150℃以下とすることで、加工時の樹脂中への(E)摺動剤成分の良好な分散を達成しやすくなる。(E)摺動剤成分の融点のより好ましい下限は、45℃であり、さらに好ましい下限は50℃であり、特に好ましい下限は80℃である。また、(E)摺動剤成分の融点のより好ましい上限は、140℃であり、さらに好ましくは135℃であり、特に好ましくは130℃である。(E)摺動剤成分の融点は、JIS K 7121に準拠した方法(DSC法)により測定できる。
≪その他の成分≫
本実施形態のポリアミド樹脂組成物は、本実施形態の目的を損なわない範囲で、従来熱可塑性樹脂に使用されている各種安定剤を含有することができる。安定剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、下記の無機充填剤、熱安定剤等が挙げられる。これらは1種のみを単独で使用してもよく2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらは市販の試薬又は製品であってもよい。
無機充填剤は、以下に限定されるものではないが、例えば、繊維状粒子、板状粒子、及び無機顔料からなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物である。ここでいう繊維状粒子及び板状粒子とは、平均アスペクト比が5以上である粒子である。
繊維状粒子としては、特に限定されないが、例えば、ガラス繊維、カーボン繊維、チタン酸カリウム繊維、アスベスト繊維、炭化ケイ素繊維、窒化ケイ素繊維、メタケイ酸カルシウム繊維、アラミド繊維等が挙げられる。
また、板状粒子としては、特に限定されないが、例えば、タルク、マイカ、カオリン、ガラスフレーク、ベントナイト等が挙げられる。これらの中では、タルク、マイカ、及びガラス繊維が好ましい。これらを用いることにより、機械的強度により優れ、かつ経済的である傾向にある。
また無機顔料としては、特に限定されないが、例えば、硫化亜鉛、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、硫酸バリウム、二酸化チタン、硫酸バリウム、含水酸化クロム、酸化クロム、アルミ酸コバルト、バライト粉、亜鉛黄1種、亜鉛黄2種、フェロシアン化鉄カリカオリン、チタンイエロー、コバルトブルー、ウルトラマリン青、カドミウム、ニッケルチタン、リトポン、ストロンチウム、アンバー、シェンナ、アズライト、マラカイト、アズロマラカイト、オーピメント、リアルガー、辰砂、トルコ石、菱マンガン鉱、イエローオーカー、テールベルト、ローシェンナ、ローアンバー、カッセルアース、白亜、石膏、バーントシェンナ、バーントアンバー、ラピスラズリ、アズライト、マラカイト、サンゴ粉、白色雲母、コバルトブルー、セルリアンブルー、コバルトバイオレット、コバルトグリーン、ジンクホワイト、チタニウムホワイト、ライトレッド、クロムオキサイドグリーン、マルスブラック、ビリジャン、イエローオーカー、アルミナホワイト、カドミウムイエロー、カドミウムレッド、バーミリオン、タルク、ホワイトカーボン、クレー、ミネラルバイオレッド、ローズコバルトバイオレット、シルバーホワイト、金粉、ブロンズ粉、アルミニウム粉、プルシアンブルー、オーレオリン、雲母チタン、カーボンブラック、アセチレンブラック、ランプブラック、ファーナスブラック、植物性黒、骨炭、炭酸カルシウム、紺青等が挙げられる。
これらの中でも硫化亜鉛、酸化亜鉛、酸化鉄、二酸化チタン、チタンイエロー、コバルトブルー、及び炭酸塩が、より高い耐摩耗性を付与する観点から好ましく、酸化亜鉛、及びチタンイエローが、モース硬度が充分に低く、更に高い摩耗性を付与する観点から、より好ましい。
上述した無機充填剤の添加量は、特に限定されないが、(A)ポリアミド樹脂100質量部に対して、無機充填剤が0.002〜50質量部の範囲であると好ましい。無機充填剤の添加量を上述の範囲とする事で樹脂組成物の取扱い性を高めることができる。
熱安定剤としては、樹脂成形体の熱安定性向上の観点から、ヒンダードフェノール系熱安定剤、リン系熱安定剤、アミン系熱安定剤などの各種熱安定剤が挙げられる。なかでもヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましい。
ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、n−オクタデシル−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート、n−オクタデシル−3−(3’−メチル−5’−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート、n−テトラデシル−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート、1,6−ヘキサンジオール−ビス−(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート)、1,4−ブタンジオール−ビス−(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート)、トリエチレングリコール−ビス−(3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート)等が挙げられる。
また、ヒンダードフェノール系酸化防止剤として、以下に限定されるものではないが、例えば、テトラキス−(メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネートメタン、3,9−ビス(2−(3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ)−1,1−ジメチルエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン、N,N’−ビス−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェノール)プリピオニルヘキサメチレンジアミン、N,N’−テトラメチレンビス−3−(3’−メチル−5’−t−ブチル−4−ヒドロキシフェノール)プロピオニルジアミン、N,N’−ビス−(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェノール)プロピオニル)ヒドラジン、N−サリチロイル−N’−サリチリデンヒドラジン、3−(N−サリチロイル)アミノ−1,2,4−トリアゾール、N,N’−ビス(2−(3−(3,5−ジ−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ)エチル)オキシアミド等も挙げられる。
上述したヒンダードフェノール系酸化防止剤の中でも、樹脂成形体の熱安定性向上の観点から、トリエチレングリコール−ビス−(3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート)、及びテトラキス−(メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)メタンが好ましい。
リン系熱安定剤としては、特に限定されないが、例えば、ペンタエリスリトール型ホスファイト化合物、トリオクチルホスファイト、トリラウリルホスファイト、トリデシルホスファイト、オクチルジフェニルホスファイト、トリスイソデシルホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、フェニルジ(トリデシル)ホスファイト、ジフェニルイソオクチルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、ジフェニル(トリデシル)ホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチル−5−メチルフェニル)ホスファイト、トリス(ブトキシエチル)ホスファイト、4,4’−ブチリデン−ビス(3−メチル−6−t−ブチルフェニル−テトラ−トリデシル)ジホスファイト、テトラ(C12〜C15混合アルキル)−4,4’−イソプロピリデンジフェニルジホスファイト、4,4’−イソプロピリデンビス(2−t−ブチルフェニル)ジ(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ビフェニル)ホスファイト、テトラ(トリデシル)−1,1,3−トリス(2−メチル−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)ブタンジホスファイト、テトラ(トリデシル)−4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェニル)ジホスファイト、テトラ(C1〜C15混合アルキル)−4,4’−イソプロピリデンジフェニルジホスファイト、トリス(モノ、ジ混合ノニルフェニル)ホスファイト、9,10−ジ−ヒドロ−9−オキサ−9−オキサ−10−ホスファフェナンスレン−10−オキサイド、トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)ホスファイト、水素化−4,4’−イソプロピリデンジフェニルポリホスファイト、ビス(オクチルフェニル)ビス(4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェニル))1,6−ヘキサノールジホスファイト、ヘキサトリデシル−1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ジホスファイト、トリス(4、4’−イソプロピリデンビス(2−t−ブチルフェニル))ホスファイト、トリス(1,3−ステアロイルオキシイソプロピル)ホスファイト、2、2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、2,2−メチレンビス(3−メチル−4,6−ジ−t−ブチルフェニル)2−エチルヘキシルホスファイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチル−5−メチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスファイト、及びテトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスファイトが挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
上記で列挙したものの中でも、組成物の耐熱エージング性の一層の向上及びガス発生量の低減という観点から、ペンタエリスリトール型ホスファイト化合物、及びトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイトが好ましい。前記ペンタエリスリトール型ホスファイト化合物としては、特に限定されないが、例えば、(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)フェニルペンタエリスリトールジホスファイト、(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)メチルペンタエリスリトールジホスファイト、(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)2−エチルヘキシルペンタエリスリトールジホスファイト、(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)イソデシルペンタエリスリトールジホスファイト、(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ラウリルペンタエリスリトールジホスファイト、(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)イソトリデシルペンタエリスリトールジホスファイト、(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)シクロヘキシルペンタエリスリトールジホスファイト、(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ベンジルペンタエリスリトールジホスファイト、(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)エチルセロソルブペンタエリスリトールジホスファイト、(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ブチルカルビトールペンタエリスリトールジホスファイト、(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)オクチルフェニルペンタエリスリトールジホスファイト、(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ノニルフェニルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)(2,6−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)(2,4−ジ−t−オクチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)(2−シクロヘキシルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、(2,6−ジ−t−アミル−4−メチルフェニル)フェニルペンタエリストリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−アミル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、及びビス(2,6−ジ−t−オクチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトが挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
上記で列挙したペンタエリスリトール型ホスファイト化合物の中でも、ポリアミド組成物のガス発生量を低減させる観点から、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−アミル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、及びビス(2,6−ジ−t−オクチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトがより好ましい。
アミン系熱安定剤としては、特に限定されないが、例えば、4−アセトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−ステアロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−アクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(フェニルアセトキシ)−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−メトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−ステアリルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−シクロヘキシルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−ベンジルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−フェノキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(エチルカルバモイルオキシ)−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(シクロヘキシルカルバモイルオキシ)−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(フェニルカルバモイルオキシ)−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−カーボネート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−オキサレート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−マロネート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−セバケート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−アジペート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−テレフタレート、1,2−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルオキシ)−エタン、α,α’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルオキシ)−p−キシレン、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルトリレン−2,4−ジカルバメート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−ヘキサメチレン−1,6−ジカルバメート、トリス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−ベンゼン−1,3,5−トリカルボキシレート、トリス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−ベンゼン−1,3,4−トリカルボキシレート、1−[2−{3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ}ブチル]−4−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、及び1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸と1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジノールとβ,β,β’,β’−テトラメチル−3,9−[2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン]ジエタノールとの縮合物が挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
上述した熱安定剤の添加量は、特に限定されないが、(A)ポリアミド樹脂100質量部に対して、熱安定剤が0.1〜2質量部、の範囲であると好ましい。熱安定剤の添加量を上述の範囲とする事で、ポリアミド樹脂組成物の取扱い性を高め、耐熱エージング性を一層向上させることができる。
≪樹脂成形体の製造方法≫
本実施形態の樹脂成形体は、例えば、上述した(A)ポリアミド樹脂と、(B)セルロースと、(C)表面改質剤とを含み、かつW,W’及びW”が関係式(1)を満たす本実施形態のポリアミド樹脂組成物を、溶融混練し、特定の形状に成形すること等により製造することができる。
本実施形態のポリアミド樹脂組成物を製造する装置としては、特に限定されず、一般に実用されている混練機が適用できる。当該混練機としては、以下に限定されるものではないが、例えば、一軸又は多軸混練押出機、ロール、バンバリーミキサー等を用いればよい。中でも、減圧装置、及びサイドフィーダー設備を装備した2軸押出機が好ましい。
本実施形態のポリアミド樹脂組成物は、種々の形状での提供が可能である。具体的には、樹脂ペレット状、シート状、繊維状、板状、棒状等が挙げられるが、樹脂ペレット形状が、後加工の容易性や運搬の容易性からより好ましい。この際の好ましいペレット形状としては、丸型、楕円型、円柱型などが挙げられ、これらは押出加工時のカット方式により異なる。アンダーウォーターカットと呼ばれるカット方法で切断されたペレットは、丸型になることが多く、ホットカットと呼ばれるカット方法で切断されたペレットは丸型又は楕円型になることが多く、ストランドカットと呼ばれるカット方法で切断されたペレットは円柱状になることが多い。丸型ペレットの場合、その好ましい大きさは、ペレット直径として1mm以上、3mm以下である。また、円柱状ペレットの場合の好ましい直径は、1mm以上3mm以下であり、好ましい長さは、2mm以上10mm以下である。上記の直径及び長さは、押出時の運転安定性の観点から、下限以上とすることが望ましく、後加工での成形機への噛み込み性の観点から、上限以下とすることが望ましい。
ポリアミド樹脂組成物の製造方法の具体例としては、下記方法が挙げられる。
(1)単軸又は二軸押出機を用いて、(A)ポリアミド樹脂、(B)セルロース、及び(C)表面改質剤の混合物を溶融混練し、ストランド状に押出し、水浴中で冷却固化させ、ペレット状成形体として得る方法。
(2)単軸又は二軸押出機を用いて、(A)ポリアミド樹脂、(B)セルロース、及び(C)表面改質剤の混合物を溶融混練し、棒状又は筒状に押出し冷却して押出成形体として得る方法。
(3)単軸又は二軸押出機を用いて、(A)ポリアミド樹脂、(B)セルロース、及び(C)表面改質剤の混合物を溶融混練し、Tダイより押出しシート、又はフィルム状の成形体を得る方法。
(4)単軸又は二軸押出機を用いて、(A)ポリアミド樹脂、(B)セルロース、及び(C)表面改質剤の混合物を溶融混練し、ストランド状に押出し、水浴中で冷却固化させ、ペレット状成形体として得る方法。
また、(A)ポリアミド樹脂、(B)セルロース、及び(C)表面改質剤の溶融混練方法の具体例としては、以下の方法が挙げられる。
(1)(A)ポリアミド樹脂と、所望の比率で混合された(B)セルロース及び(C)表面改質剤とを、界面活性剤成分の存在下/又は非存在下で混合した後、一括溶融混練する方法。
(2)(A)ポリアミド樹脂及び必要により界面活性剤を溶融混練した後、所望の比率で混合された(B)セルロース、(C)表面改質剤混合粉末、及び必要により界面活性剤成分を添加して、更に溶融混練する方法。
(3)(A)ポリアミド樹脂、所望の比率で混合された(B)セルロース、(C)表面改質剤混合粉末、及び水、並びに必要により界面活性剤を混合した後、一括で溶融混練する方法。
(4)(A)ポリアミド樹脂及び必要により界面活性剤を溶融混練した後、所望の比率で混合された(B)セルロース、(C)表面改質剤混合粉末、及び水、並びに必要により界面活性剤を添加して、更に溶融混練する方法。
別の好ましい態様において、(A)ポリアミド樹脂の原料モノマーと、(B)セルロースの水分散液とを混合し、該原料モノマーの重合反応を行う方法で、ポリアミド樹脂組成物を製造してもよい。この態様において、(C)表面改質剤は、(A)ポリアミド樹脂の原料モノマーの重合時に生じる低分子量成分(すなわちオリゴマー)であってよく、これに代えて又はこれに加えて、重合前、重合中又は重合後に、別途の(C)表面改質剤を系中に添加してもよい。
≪部材≫
本実施形態のポリアミド樹脂組成物は、下記のような部材の形態に成形することができる。ポリアミド樹脂組成物を成形する方法については特に限定されず、公知の成形方法を適用できる。例えば、押出成形、射出成形、真空成形、ブロー成形、射出圧縮成形、加飾成形、他材質成形、ガスアシスト射出成形、発泡射出成形、低圧成形、超薄肉射出成形(超高速射出成形)、金型内複合成形(インサート成形、アウトサート成形)等の成形方法のいずれかによって成形することができる。
上述のポリアミド樹脂組成物から得られる本実施形態の部材の用途としては、成形後の外観に優れ、低寸法変化、耐摩耗性、耐繰り返し疲労性といった長期耐久性が要求される用途が好適である。
本実施形態の部材の用途としては、以下に限定されるものではないが、例えば、カム、スライダー、レバー、アーム、クラッチ、フェルトクラッチ、アイドラギアー、プーリー、ローラー、コロ、キーステム、キートップ、シャッター、リール、シャフト、関節、軸、軸受け、及びガイド等に代表される機構部品、アウトサート成形の樹脂部品、インサート成形の樹脂部品、シャーシ、トレー、側板、プリンター、及び複写機に代表されるオフィスオートメーション機器用部品、VTR(Video tape recorder)、ビデオムービー、デジタルビデオカメラ、カメラ、及びデジタルカメラに代表されるカメラ又はビデオ機器用部品、カセットプレイヤー、DAT、LD(Laser disk)、MD(Mini disk、CD(Compact disk)〔CD−ROM(Read only memory)、CD−R(Recordable)、CD−RW(Rewritable)を含む〕、DVD(Digital versatile disk)〔DVD−ROM、DVD−R、DVD+R、DVD−RW、DVD+RW、DVD−R DL、DVD+R DL、DVD−RAM(Random access memory)、DVD−Audioを含む〕、Blu−ray Disc、HD−DVD、その他光デイスクのドライブ;MFD(Multi Function Display)、MO(Magneto−Optical Disk)、ナビゲーションシステム及びモバイルパーソナルコンピュータに代表される音楽、映像又は情報機器、携帯電話及びファクシミリに代表される通信機器用部品;電気機器用部品;電子機器用部品等が挙げられる。
また、本実施形態の部材としては、自動車用の部品として、ガソリンタンク、フュエルポンプモジュール、バルブ類、ガソリンタンクフランジ等に代表される燃料廻り部品、ドアロック、ドアハンドル、ウインドウレギュレータ、スピーカーグリル等に代表されるドア廻り部品、シートベルト用スリップリング、プレスボタン等に代表されるシートベルト周辺部品、コンビスイッチ部品、スイッチ類、クリップ類等の部品、バンパー等のボディ、インストルメントパネル、コンソールボックス、ガーニッシュ、ドアトリム、天井、フロア、ランプリフレクター、ブラッシホルダー、フュエルポンプモジュール部品、デストリビューター、シートリードバルブ、ワイパーモーターギア、スピードメーターフレーム、ソレノイドイグニッションコイル、オルタネーター、スイッチ、センサー部品、タイロットエンドスタビライザー、ECUケーブル、排ガスコントロールバルブ、コネクター、排気ブレーキの電磁弁、エンジンバルブ、ラジエータファン、スタータ、インジェクタ、エンジン周りのパネル、エンジンカバー、モーターカバー、EPSギア等が挙げられる。
また、本実施形態の部材は、工業用の部品や雑貨としてシャープペンシルのペン先、シャープペンシルの芯を出し入れする機構部品、洗面台、排水口、及び排水栓開閉機構部品、自動販売機の開閉部ロック機構、商品排出機構部品、衣料用のコードストッパー、アジャスター、ボタン、散水用のノズル、散水ホース接続ジョイント、皿、コップ、スプーン、植木鉢、クーラーボックス、団扇、玩具、ボールペン、定規、クリップ、ドレーン材、フェンス、収納箱、工事用配電盤、給湯機器ポンプケーシング、インペラー、ジョイント、バルブ、水栓器具階段手すり部、及び床材の支持具である建築用品、使い捨てカメラ、玩具、ファスナー、チェーン、コンベア、バックル、スポーツ用品、自動販売機、家具、楽器、産業用機械部品(例えば、電磁機器筐体、ロール材、搬送用アーム、医療機器部材など)、一般機械部品、自動車・鉄道・車両等部品(例えば外板、シャシー、空力部材、座席、トランスミッション内部の摩擦材など)、船舶部材(例えば船体、座席など)、航空関連部品(例えば、胴体、主翼、尾翼、動翼、フェアリング、カウル、ドア、座席、内装材など)、宇宙機、人工衛星部材(モーターケース、主翼、構体、アンテナなど)、電子・電気部品(例えばパーソナルコンピュータ筐体、携帯電話筐体、OA機器、AV機器、電話機、ファクシミリ、家電製品、玩具用品など)、建築・土木材料(例えば、鉄筋代替材料、トラス構造体、つり橋用ケーブルなど)、生活用品、スポーツ・レジャー用品(例えば、ゴルフクラブシャフト、釣り竿、テニスやバトミントンのラケットなど)、風力発電用筐体部材等、また容器・包装部材、例えば、燃料電池に使用されるような水素ガスなどを充填する高圧力容器用の材料となり得る。
また、本実施形態の部材が樹脂複合フィルムである場合、プリント配線板における積層板補強用に好適である。その他、例えば、発電機、変圧器、整流器、遮断器、制御器における絶縁筒、絶縁レバー、消弧板、操作ロッド、絶縁スペーサ、ケース、風胴、エンドベル、風ウケ、標準電気品におけるスイッチボックス、ケース、クロスバー、絶縁軸、ファンブレード、機構部品、透明樹脂基板、スピーカ振動板、イータダイヤフラム、テレビのスクリーン、蛍光灯カバー、通信機器・航空宇宙用におけるアンテナ、ホーンカバー、レードーム、ケース、機構部品、配線基板、航空機、ロケット、人工衛星用電子機器部品、鉄道用部品、船舶用部品、浴槽、浄化槽、耐食機器、いす、安全帽、パイプ、タンクローリ、冷却塔、浮消波堤、地下埋没タンク、コンテナ住宅設備機器に代表される工業部品としても好適に使用できる。
≪線膨張係数≫
本実施形態のポリアミド樹脂組成物は、セルロースを含むため、従来の樹脂組成物よりも低い線膨張性を示すことが可能となる。具体的には、樹脂組成物の温度範囲0℃〜60℃における線膨張係数は50ppm/K以下であることが好ましい。より好ましい組成物の線膨張係数は45ppm/K以下であり、さらにより好ましくは40ppm/K以下であり、最も好ましくは35ppm/K以下である。線膨張係数の下限は特に制限されないが、製造容易性の観点から、例えば、5ppm/Kであることが好ましく、より好ましくは10ppm/Kである。
本発明を実施例に基づいて更に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
≪原料及び評価方法≫
以下に、使用した原料及び評価方法について説明する。
≪(A)ポリアミド樹脂≫
(a−1)宇部興産株式会社製 商品名 ε−カプロラクタム((A)ポリアミド樹脂の原料モノマーとして)
(a−2)PA6 宇部興産株式会社製 商品名1013B
≪(B)セルロース≫
(b−1)
リンターパルプを裁断後、オートクレーブを用いて、120℃以上の熱水中で3時間加熱し、ヘミセルロース部分を除去した精製パルプを、圧搾、純水中に固形分率が1.5重量%になるように叩解処理により高度に短繊維化及びフィブリル化させた後、そのままの濃度で高圧ホモジナイザー(操作圧:85MPaにて10回処理)により解繊することにより解繊セルロースを得た。ここで、叩解処理においては、ディスクリファイナーを用い、カット機能の高い叩解刃(以下カット刃と称す)で2.5時間処理した後に解繊機能の高い叩解刃(以下解繊刃と称す)を用いてさらに2時間叩解を実施し、b−1を得た。得られたセルロースを脱水を行い、3wt%まで濃縮を行った。その後、後述の各種評価を行い、下記の結果を得た。結晶化度:80%、平均繊維径:90nm、結晶形:I型結晶、L/D:450
<セルロース成分の重合度>
「第14改正日本薬局方」(廣川書店発行)の結晶セルロース確認試験(3)に規定される銅エチレンジアミン溶液による還元比粘度法により測定した。
<セルロース成分の結晶形、結晶化度>
X線回折装置(株式会社リガク製、多目的X線回折装置)を用いて粉末法にて回折像を測定(常温)し、Segal法で結晶化度を算出した。また、得られたX線回折像から結晶形についても測定した。
<セルロース成分のL/D>
セルロース成分を、1質量%濃度で純水懸濁液とし、高剪断ホモジナイザー(日本精機(株)製、商品名「エクセルオートホモジナイザーED−7」、処理条件:回転数15,000rpm×5分間)で分散させた水分散体を、0.1〜0.5質量%まで純水で希釈し、マイカ上にキャストし、風乾したものを、原子間力顕微鏡(AFM)で計測された際に得られる粒子像の長径(L)と短径(D)とした場合の比(L/D)を求め、100個〜150個の粒子の平均値として算出した。
<セルロース成分の平均径>
セルロース成分を固形分40質量%として、プラネタリーミキサー((株)品川工業所製、商品名「5DM−03−R」、撹拌羽根はフック型)中において、126rpmで、室温常圧下で30分間混練した。次いで、固形分が0.5質量%の濃度で純水懸濁液とし、高剪断ホモジナイザー(日本精機(株)製、商品名「エクセルオートホモジナイザーED−7」、処理条件:回転数15,000rpm×5分間)で分散させ、遠心分離(久保田商事(株)製、商品名「6800型遠心分離器」、ロータータイプRA−400型、処理条件:遠心力39200m2/sで10分間遠心した上澄みを採取し、さらに、この上澄みについて、116000m2/sで45分間遠心処理する。)した。遠心後の上澄み液を用いて、レーザー回折/散乱法粒度分布計(堀場製作所(株)製、商品名「LA−910」、超音波処理1分間、屈折率1.20)により得られた体積頻度粒度分布における積算50%粒子径(体積平均粒子径)を測定し、この値を平均径とした。
≪(C)表面改質剤≫
(c−1)宇部興産株式会社製 ε−カプロラクタムを用いて重合を実施し、精製を行った。
水170質量部と、ε−カプロラクタム216質量部と、アミノカプロン酸44質量部と、亜リン酸0.59質量部とを、均一な分散液となるまでミキサーで攪拌、混合した。続いて、この混合分散液を徐々に加熱し、加熱の途中において水蒸気を排出しながら、240℃まで温度を上げ、240℃にて1時間攪拌し、重合反応を行った。重合が終了した時点で得られた樹脂組成物を払い出し、これを切断してペレットとした。得られたペレットを95℃の熱水で処理し、精練を行い、乾燥させた。
上記熱水部分を冷まし、水分を蒸発させ、表面改質剤を得た。
得られた表面改質剤はMw1138、Mw/Mn1.15であった。
≪(D)金属イオン成分≫
(d−1)ヨウ化銅(I) 和光純薬工業製 商品名 ヨウ化銅(I)
(d−2)ヨウ化カリウム 和光純薬工業製 商品名 ヨウ化カリウム
≪(E)摺動剤成分≫
(e−1)ワックス ベーカーペトロライト社製 商品名 ユニシド700(Mn819、Mw1100、Mw/Mn1.2、融点110℃)
(e−2)エチレンビスステアリルアミド ライオン製 商品名 アーモワックス EBS(分子量593、融点145℃)
≪機械物性≫
射出成形機を用いて、ISO294−3に準拠した多目的試験片を成形した。得られた多目的試験片について、ISO527に準拠して引張降伏強度及び引張破断伸び、ISO179に準拠して曲げ弾性率を測定した。
≪エージング試験≫
エスペック株式会社製GPH−102を用いて150℃雰囲気にて多目的試験片の暴露試験を実施した。暴露後のサンプルはアルミ袋に保管し、ISO527に準拠して引張降伏強度を測定した。この時の強度保持率は暴露0日の多目的試験片を基準(100%)とし、引張降伏強度が80%を保持している日数を評価した。
≪片持ち曲げ疲労特性≫
得られた樹脂組成物のペレットから、東芝機械(株)製EC−75NII成形機を用いて、ISO294−3に準拠した試験片(厚み6mm III号型試験片)の樹脂成形体を得た。この試験片を用いて、JIS−K7119に準拠した条件で繰返し速度35Hz、温度23±1℃、湿度RH60±5%環境下で片持ち曲げ疲労試験の測定を行った。この時得られた応力−寿命曲線と、30MPaの応力との交点から破断に至る回数を算出した。
≪線膨張係数≫
多目的試験片の中央部から、精密カットソーにて縦4mm、横4mm、長さ4mmの立方体サンプルを切り出し、測定温度範囲−10〜80℃で、ISO11359−2に準拠して測定し、0℃〜60℃の間での膨張係数を算出した。
≪W、W’、W”の算出≫
W’=(A)ポリアミド樹脂溶解性溶媒(ヘキサフルオロ−2−プロパノール)に樹脂組成物を溶解させた際の残渣(すなわち抽出後のセルロース)に付着している(C)表面改質剤の量[g/樹脂組成物1gあたり]
W”=(A)ポリアミド樹脂溶解性溶媒(ヘキサフルオロ−2−プロパノール)に樹脂組成物を溶解させた際の溶液中の(C)表面改質剤の量[g/樹脂組成物1gあたり]
W=W’+W”:樹脂組成物全体の(C)表面改質剤量[g/樹脂組成物1gあたり]
樹脂組成物1gを、50mlのヘキサフルオロ−2−プロパノールに添加して、組成物中のポリアミド樹脂を溶解させ、溶液に対して遠心分離操作と濾過を行い、セルロースの分離を行った。分離で得られたウェットケーク状のセルロースに2mlのヘキサフルオロ−2−プロパノールを添加し、3秒間洗浄し、減圧濾過を1回行った。この減圧濾過で得られたセルロースを23℃で24時間以上風乾させ、乾燥セルロースを得た。得られた乾燥セルロース20mgに内部標準物質としてトルエンを添加し、1mlのd−ヘキサフルオロ−2−プロパノールを用いて、1H−NMR測定を実施した。内部標準物質のシグナルと、(C)表面改質剤のシグナルとの強度比からW’の定量を行った。
先の分離で得られたポリアミド樹脂が溶解したろ液を23℃で24時間以上風乾し、更に23℃で24時間真空乾燥した。得られた乾燥体ポリアミドを用いて、ポリアミド濃度が3mg/mlのヘキサフルオロ−2−プロパノール溶液になるように溶液を調製し、これを用いて下記の条件でGPC測定を行った。
装置:東ソー社製Eco Sec
カラム:TSKgel Super GMH−M 2本, TSKgel Super G1000H
オーブン:40℃
溶離液:HFIP (TFANa 4.848g/kg)
流量: Sample: 0.50 mL/min, ref: 0.25 mL/min
試料量:25μl 3mg/ml
検出器:RI
校正曲線:PMMA(ポリメチルメタクリレート)
GPC測定で得られたクロマトグラムを、分子量2000超の成分と分子量2000以下の成分とに垂直分割し、それぞれの面積比、Mn、Mwを算出した。この分子量2000以下のシグナルの面積比からW”を算出した。
≪成形性≫
先の射出成形機を用いて、ISO294−3に準拠した多目的試験片を成形した時とは別に、射出成形機(EC−75NII、東芝機械(株)製)を用いて、シリンダー温度を250℃に設定し、射出時間35秒、冷却時間15秒の射出条件で成形することにより、厚み2mm、縦120mm、横80mmの平板を得た。この時の金型温度は、70℃とした。この時、成形片にシルバーストリークスが発生するまで成形を繰り返し実施した。発生した回数を各表に記載した。また30回成形後に押し出し機本体を移動させ、ノズル部に付着している樹脂量を秤量した。この時の付着樹脂量を各表に記載した。
≪押出性≫
押出機(東芝機械(株)製TEM−26SS押出機(L/D=48、ベント付き)を用いて、シリンダー温度をすべて260℃に設定し、各表に基づいた配合を行い、それぞれ押出機トップのメインスロート部より単独で定量フィーダーから供給した。また、場合により付加的成分の配合を行い供給した。押出量10kg/時間、スクリュー回転数250rpmの条件で樹脂混練物をストランド状に押出し、ストランドバスにて急冷し、ストランドカッターで切断しペレット形状の成形体を得た。本押出しを3時間継続し、ベント部の閉塞状態を目視で確認し、閉塞状況を3段階で評価した。
○:閉塞なし
△:わずかに閉塞
×:閉塞が確認される
W、W’及びW”は、(c−1)成分の量と、(A)ポリアミド樹脂の分解生成物であるオリゴマー及び/又は(A)ポリアミド樹脂の原料モノマー由来の(すなわち原料モノマーからの重合時に)生じたオリゴマーの量との合計である。
≪比較例1≫
水170質量部と、a−1を216質量部と、アミノカプロン酸44質量部と、亜リン酸0.59質量部とを、均一な分散液となるまでミキサーで攪拌、混合した。続いて、この混合分散液を徐々に加熱し、加熱の途中において水蒸気を排出しながら、240℃まで温度を上げ、240℃にて1時間攪拌し、重合反応を行った。重合が終了した時点で得られた樹脂組成物を払い出し、これを切断してペレットとした。得られたペレットを95℃の熱水で180min精錬し、乾燥させた。射出成形条件は、シリンダ温度250℃、金型温度70℃とした。各種評価を行った。結果を表1及び2に示す。
≪比較例2〜5、実施例1〜10≫
b−1を340質量部と、a−1を216質量部と、アミノカプロン酸44質量部と、亜リン酸0.59質量部とを、均一な分散液となるまでミキサーで攪拌、混合した。続いて、この混合分散液を徐々に加熱し、加熱の途中において水蒸気を排出しながら、240℃まで温度を上げ、240℃にて1時間攪拌し、重合反応を行った。実施例2〜10及び比較例4,5は重合時にd−1を0.0324質量部事前に加え、重合を行った。重合が終了した時点で得られた樹脂組成物を払い出し、これを切断してペレットとした。得られたペレットを95℃の熱水で表1及び2記載の時間精錬し、乾燥させた。比較例2では、重合後に80℃100Pa以下の状態を保持し、24時間真空乾燥を実施した。比較例4、5では、重合後に130℃、6時間アニールを実施した。比較例5では、重合後のペレット中の水分が3000ppmになるように23℃50%の環境下で調湿してから射出成形を実施した。射出成形条件は、シリンダ温度250℃、金型温度70℃とした。各種評価を行った。結果を表1及び2に示す。
≪実施例11〜18、比較例6≫
b−1を340質量部と、a−1を216質量部と、アミノカプロン酸44質量部と、亜リン酸0.59質量部と、d−1を0.0324質量部とを、均一な分散液となるまでミキサーで攪拌、混合した。続いて、この混合分散液を徐々に加熱し、加熱の途中において水蒸気を排出しながら、240℃まで温度を上げ、240℃にて1時間攪拌し、重合反応を行った。重合が終了した時点で得られた樹脂組成物を払い出し、これを切断してペレットとした。得られたペレットを95℃の熱水で表3及び4記載の時間精錬し、乾燥させた。重合後の操作は表3及び4に記載し、先の比較例及び実施例と同じように実施した。射出成形条件は、シリンダ温度250℃、金型温度70℃とした。各種評価を行った。結果を表3及び4に示す。
≪実施例19〜20、比較例6≫
b−1を340質量部と、a−1を216質量部と、アミノカプロン酸44質量部と、亜リン酸0.59質量部と、d−1を0.0324質量部とを、均一な分散液となるまでミキサーで攪拌、混合した。続いて、この混合分散液を徐々に加熱し、加熱の途中において水蒸気を排出しながら、240℃まで温度を上げ、240℃にて1時間攪拌し、重合反応を行った。重合が終了した時点で得られた樹脂組成物を払い出し、これを切断してペレットとした。得られたペレットを95℃の熱水で表3及び4記載の時間精錬し、乾燥させた。重合後の操作は表3及び4に記載し、先の比較例及び実施例と同じように実施した。得られた組成物100質量部とその他成分とを表3及び4に記載の割合で二軸押し出し機を用いて溶融混練し、乾燥したのち組成物を得た。各種評価を行った。結果を表3及び4に示す。
≪実施例21,22≫
a−2を100質量部用いて、95℃の熱水で表3及び4記載の時間精錬を行い、乾燥させた。このペレットと、b−1を157.4質量部と、その他成分とを表3及び4に記載の割合で二軸押し出し機を用いて溶融混練し、乾燥したのち組成物を得た。射出成形条件は、シリンダ温度250℃、金型温度70℃とした。各種評価を行った。結果を表3及び4に示す。
≪実施例23〜35≫
b−1を340質量部と、a−1を216質量部と、アミノカプロン酸44質量部と、亜リン酸0.59質量部と、d−1を0.0324質量部とを、均一な分散液となるまでミキサーで攪拌、混合した。続いて、この混合分散液を徐々に加熱し、加熱の途中において水蒸気を排出しながら、240℃まで温度を上げ、240℃にて1時間攪拌し、重合反応を行った。重合が終了した時点で得られた樹脂組成物を払い出し、これを切断してペレットとした。得られたペレットを95℃の熱水で表5及び6記載の時間精錬し、乾燥させた。重合後の操作は表5及び6に記載し、先の比較例及び実施例と同じように実施した。
得られた組成物100質量部とその他成分とを表5及び6に記載の割合で二軸押し出し機を用いて溶融混練し、乾燥したのち組成物を得た。射出成形条件は、シリンダ温度250℃、金型温度70℃とした。各種評価を行った。結果を表5及び6に示す。
≪比較例7≫
セルロース繊維の水分散液として、セリッシュKY100Gの代わりにb−1を170質量部用いた以外は国際公開第2011/126038号の実施例1に記載の方法で重合を行った。得られたペレットを95℃の熱水で120min精錬し、乾燥させた。射出成形条件は、シリンダ温度250℃、金型温度70℃とした。各種評価を行った。結果を表5及び6に示す。
≪実施例36≫
b−1を170質量部と、a−1を216質量部と、アミノカプロン酸44質量部と、亜リン酸0.59質量部とを、均一な分散液となるまでミキサーで攪拌、混合した。続いて、この混合分散液を徐々に加熱し、加熱の途中において水蒸気を排出しながら、240℃まで温度を上げ、240℃にて1時間攪拌し、重合反応を行った。重合が終了した時点で得られた樹脂組成物を払い出し、これを切断してペレットとした。得られたペレットを表5及び6記載の時間精錬した。さらに80℃100Pa以下の状態を保持し、24時間真空乾燥を実施した。射出成形条件は、シリンダ温度250℃、金型温度70℃とした。各種評価を行った。結果を表5及び6に示す。