JP2021093954A - ガラクトオリゴ糖を製造可能な酵素、およびガラクトオリゴ糖を製造する方法 - Google Patents

ガラクトオリゴ糖を製造可能な酵素、およびガラクトオリゴ糖を製造する方法 Download PDF

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Abstract

【課題】 3糖のガラクトオリゴ糖の製造選択性が高く、安全かつ高効率にガラクトオリゴ糖を製造できる、より改善された特性を有するガラクトオリゴ糖を製造可能な酵素、およびさらに生産性の向上したガラクトオリゴ糖の製造方法を提供する。【解決手段】 (a)配列番号1に示すアミノ酸配列;(b)配列番号1に示すアミノ酸配列において1〜10個のアミノ酸が置換、欠失、挿入されたアミノ酸配列;または(c)配列番号1に示すアミノ酸配列に対する相同性が70%以上100%未満のアミノ酸配列において、配列番号1に示すアミノ酸配列のN437H、T297A、R77A、Y296F、F414L、F104L、F104E、F104N、F104Q、F104S、F104T、F104V、およびF104Y、ならびにそれらに相当する変異からなる群から選択される1以上の変異を有するアミノ酸配列を有し、ガラクトオリゴ糖生産活性を有する酵素。【選択図】なし

Description

本発明は、ガラクトオリゴ糖を製造可能な酵素に関する。また本発明は、この酵素をコードしているDNA、この酵素の製造方法、およびこの酵素を用いたガラクトオリゴ糖の製造方法等に関する。
ガラクトオリゴ糖は、ヒト腸内細菌フローラに生息するビフィズス菌などの有用細菌の栄養源として重宝される。ガラクトオリゴ糖の製造方法として種々の方法が提案されている(例えば特許文献1〜6)。この中で使用されている酵素はラクターゼであり、この中で使用されている微生物はラクターゼ産生微生物である。ラクターゼ(β−ガラクトシダーゼ)は乳糖をβ−ガラクトースとグルコースに加水分解する。ここで、ラクターゼによっては乳糖分子を分解して得られたβ−ガラクトシル基を別の乳糖分子などに転移させる反応(糖転移反応)を起こし得、この反応によってガラクトオリゴ糖を生産し得る。
現在、商業的に実用されているガラクトオリゴ糖製造のためのラクターゼは、主としてバチルス・サーキュランス(Bacillus circulans)由来のラクターゼである。バチルス・サーキュランス由来のラクターゼは、ガラクトオリゴ糖の製造効率が比較的高いという利点がある。しかしながら、このラクターゼは4糖以上のガラクトオリゴ糖を製造し易いというデメリットがある。4糖以上のガラクトオリゴ糖は3糖のガラクトオリゴ糖に比べ、乳糖からの収率が低くなる。
また、ガラクトオリゴ糖の製造方法には、ラクターゼ産生微生物を用いる方法とその微生物から精製したラクターゼを使用する方法とが存在する。ラクターゼ産生微生物を用いる製造方法には、精製ラクターゼを用いる場合と比較して、酵素精製の工程を省ける点、副反応生成物であるグルコースなどの単糖を微生物が資化することで除去可能である点などの利点がある。しかしその検討は依然として不十分である。
さらに、ガラクトオリゴ糖産生微生物としてバチルス属が良く知られているが、バチルス属の中には炭疽菌やセレウス菌など病原性を示す種も多く知られており、より安全なガラクトオリゴ糖産生菌が求められている。
本発明者らは、このような背景から、バチルス・サーキュランス以外の微生物に由来し、3糖のガラクトオリゴ糖の製造選択性が高く、高効率にガラクトオリゴ糖を製造できる酵素およびそれを用いたガラクトオリゴ糖の製造方法、および安全性が高い酵素または微生物を利用するガラクトオリゴ糖の製造方法を開発してきた(特許文献7)。
特許第2652049号 特許第2739335号 特許第5643756号 特開平5−236981号公報 特表2011−517553号公報 特表2013−501504号公報 WO2019/194062号公報
Z. Mozaffar, K. Nakanishi, R. Matsuno and T. Kamikubo, Purification and Properties of β-Galactosidases from Bacillus circulans, Agric. biol. chem., 48, 3053-3061 (1986) Sotoya et al., Identification of genes involved in galactooligosaccharide utilization in Bifidobacterium breve strain YIT 4014T., Microbiology, 163, 1420-1428. (2017) Van Leeuwen, S. S., 1H NMR analysis of the lactose/β-galactosidase-derived galacto-oligosaccharide components of Vivinal(R) GOS up to DP5., Carbohydrates. Res., 400, 59-73. (2014) T. Moriya, N. Nagahata, R. Odaka, H. Nakamura, J. Yoshikawa, K. Kurashima, T. Saito, Synthesis of an allergy inducing tetrasaccharide "4P-X"., Carbohydrates. Res., 439, 44-49. (2017)
本発明は、上記のような背景に基づき、3糖のガラクトオリゴ糖の製造選択性が高く、安全かつ高効率にガラクトオリゴ糖を製造できる、より改善された特性を有するガラクトオリゴ糖を製造可能な酵素、およびさらに生産性の向上したガラクトオリゴ糖の製造方法を提供することを目的とする。
そこで、本発明者らは、前記の目的について鋭意研究した結果、ラクターゼの耐熱性および/または糖転移能を向上させることに成功し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明によれば、
〔1〕 (a)配列番号1に示すアミノ酸配列;
(b)配列番号1に示すアミノ酸配列において1〜10個のアミノ酸が置換、欠失、挿入されたアミノ酸配列;または
(c)配列番号1に示すアミノ酸配列に対する相同性が70%以上100%未満のアミノ酸配列
において、
配列番号1に示すアミノ酸配列のN437H、T297A、R77A、Y296F、F414L、F104L、F104E、F104N、F104Q、F104S、F104T、F104V、およびF104Y、ならびにそれらに相当する変異からなる群から選択される1以上の変異を有するアミノ酸配列を有し、ガラクトオリゴ糖生産活性を有する酵素;
〔2〕 配列番号1に示すアミノ酸配列のN437Hまたはそれに相当する変異を有するアミノ酸配列を有する、前記〔1〕記載の酵素;
〔3〕 配列番号1に示すアミノ酸配列のT297A、F414L、F104L、F104E、F104N、F104Q、F104S、F104T、F104V、およびF104Y、ならびにそれらに相当する変異からなる群から選択される1以上の変異を有するアミノ酸配列を有する、前記〔2〕記載の酵素;
〔4〕 配列番号1に示すアミノ酸配列からなる酵素と比較して、改善されたガラクトオリゴ糖生産活性を有する、前記〔1〕〜〔3〕のいずれか1項記載の酵素;
〔5〕 前記〔1〕〜〔4〕のいずれか1項記載の酵素をコードしているDNA;
〔6〕 前記〔5〕記載のDNAを含む組換えベクター;
〔7〕 前記〔5〕記載のDNAまたは前記〔6〕記載の組換えベクターを有する形質転換体;
〔8〕 前記〔7〕記載の形質転換体を培養する工程と、培養した形質転換体または培養上清からガラクトオリゴ糖生産活性を有する酵素を回収する工程と、を含むガラクトオリゴ糖生産活性を有する酵素の製造方法;
〔9〕 前記〔1〕〜〔4〕のいずれか1項記載の酵素を含み、ガラクトオリゴ糖生産活性を有する、酵素含有組成物;
〔10〕 乳糖と、前記〔1〕〜〔4〕のいずれか1項記載の酵素、前記〔7〕記載の形質転換体または前記〔9〕記載の酵素含有組成物と、を接触させることを含むガラクトオリゴ糖の製造方法
が提供される。
本発明によれば、パエニバチルス・パブリ(Paenibacillus pabuli)由来のガラクトオリゴ糖生産活性を有する酵素に基づいて、3糖のガラクトオリゴ糖の製造選択性が高く、高効率にガラクトオリゴ糖を製造することが可能な酵素およびそれをコードするDNA等、この酵素の製造方法、さらには生産性の向上したガラクトオリゴ糖の製造方法等が提供される。
本発明の酵素は、ある態様において、耐熱性が向上しており、より高温で、より高濃度の乳糖を基質とした酵素反応が可能である。乳糖は、温度を上げると溶解度が増すことから、ガラクトオリゴ糖製造反応を行う際の反応温度は高いほど望ましい。さらに、本発明によれば、より高温でオリゴ糖の製造を行うことができるため、雑菌の汚染も防ぐことができる。
本発明の酵素は、別の態様において、糖転移能が向上しており、従来と同じ温度条件下であっても、ガラクトオリゴ糖の生産効率を改善することができる。また、改善された転移能および耐熱性を有する本発明の酵素を使用することにより、これまでと同条件での反応であってもさらに生産性の向上したガラクトオリゴ糖の製造を行うことが可能となる。
したがって、本発明の酵素およびガラクトオリゴ糖の製造方法を使用することにより、ガラクトオリゴ糖製造の生産性が向上する。
野生型酵素(WT)および本発明の酵素(変異体N437H)の60℃における残存活性を比較した図である。 野生型酵素(WT)および本発明の酵素(変異体N437H)の70℃におけるガラクトオリゴ糖生産量を比較した図である。
1.本明細書において使用する用語の定義および方法の説明
本発明において、オリゴ糖とは、3糖から10糖の多糖化合物を意味する。
本発明において、ガラクトオリゴ糖(GOSとも表記する)とは、下記一般式で表されるオリゴ糖を主として意味する。
(Gal)n−Gal−Glc
ここで、Galはガラクトース残基、Glcはグルコース残基を表し、nは1〜8の整数、特に1〜3の整数である。糖間の各結合の結合様式は特に制限されないが、典型的にはβ−1,4−グリコシド結合である。糖間(特にGal−Gal間)の結合様式はβ−1,3−グリコシド結合であってもよい。
ラクターゼとは、乳糖をβ−ガラクトースとグルコースに加水分解できる酵素である。
本発明において酵素のラクターゼ活性は、以下に挙げる2つの方法のいずれかによって定義される。
乳糖溶液(乳糖濃度10%)に測定対象の酵素を添加し、pH6.5、40℃の条件下におけるグルコース生成量を測定して定量する。1分間に1μmolのグルコースを生成する酵素活性が1LUと定義される。
o−ニトロフェニル−β−ガラクトピラノシド(ONPG)溶液(ONPG濃度1.65mM)に測定対象の酵素を添加し、pH6.5、40℃の条件下におけるo−ニトロフェニル生成量を測定して定量する。1分間に1μmolのo−ニトロフェニルを生成する酵素活性が1OUと定義される。
この2つの方法の少なくとも一方で活性が測定可能であれば、その酵素はラクターゼであると判断してよい。より具体的には、0.2LU/mL以上または0.5OU/mL以上であれば、ラクターゼと判断してよい。
乳糖の分解の際、ラクターゼは、β−ガラクトシル基を他の分子に転移させることができる。水に転移させればβ−ガラクトースを生じるが、乳糖(Gal−Glc)に転移させれば3糖(上記式(Gal)n−Gal−Glcのnが1)のガラクトオリゴ糖(Gal−Gal−Glc)を生じる。したがって、酵素がラクターゼ活性を有しても、ガラクトオリゴ糖生産活性(GOS生産活性とも表記する)を必ずしも有するわけではない。酵素のガラクトオリゴ糖生産活性は、以下に説明する方法によって評価される。
乳糖溶液(乳糖濃度60%)に測定対象の酵素を添加し、pH6.5、50℃の条件下において所定時間に亘って静置または振とうする。酵素がガラクトオリゴ糖生産活性を有している場合、この間に乳糖からガラクトオリゴ糖を生産する。所定時間経過後、反応溶液をHPLCによって解析する。
HPLCで使用するカラムはTransgenomic社製CARBOSep CHO−620 6.5φ×300mm等が挙げられる。移動相は水、流速は0.4mL/min、温度は85℃、検出はRIの条件にて分析する。
単糖および2糖ならびにガラクトオリゴ糖(3糖以上、主として3〜5糖)のピーク面積の合計値に対して、ガラクトオリゴ糖のHPLCピーク面積の合計値が占める割合が、基準値以上であればガラクトオリゴ糖生産活性ありと判断してよい。当該基準値は通常1%である。当然のことながら、この割合が大きいほどその酵素は高いガラクトオリゴ糖生産活性を有している。高いガラクトオリゴ糖生成活性を有する酵素を取得したい場合には高い基準値を設定してよい。よって、当該基準値を1%、3%、5%、10%、20%、25%、30%、35%、40%と設定してもよい。
上記のβ−ガラクトシル基の転移反応が3糖(上記式(Gal)−Gal−Glcのnが1)のガラクトオリゴ糖(Gal−Gal−Glc)に対して起これば、4糖(上記式のnが2)のガラクトオリゴ糖((Gal)−Gal−Glc)が生じる。同様に、4糖(上記式のnが2)のガラクトオリゴ糖に対して起これば、5糖(上記式のnが3)のガラクトオリゴ糖((Gal)−Gal−Glc)が生じる。
本発明において、ガラクトオリゴ糖の収率とは、「ガラクトオリゴ糖の生成量」を「乳糖の消費量」で除した百分率を意味する。すなわち、
収率(%)=ガラクトオリゴ糖の生成量(質量)/乳糖の消費量(質量)×100
である。ガラクトオリゴ糖生成量および乳糖消費量は上記のようにHPLC解析によって求めることができる。
3糖のガラクトオリゴ糖を製造する場合、2分子の乳糖から1分子のグルコースおよび1分子の3糖のガラクトオリゴ糖が生じる。この時のガラクトオリゴ糖の理論収率は約74%である。
4糖のガラクトオリゴ糖を製造する場合、3分子の乳糖から2分子のグルコースおよび1分子の4糖のガラクトオリゴ糖が生じる。この時のガラクトオリゴ糖の理論収率は約65%である。
したがって、乳糖からガラクトオリゴ糖を製造する場合、3糖のガラクトオリゴ糖のみを製造することが収率の点で最も効率的である。
3糖ガラクトオリゴ糖の製造選択性(%)とは、ガラクトオリゴ糖の全生成量に対する3糖ガラクトオリゴ糖の生成量の百分率を意味する。この数値が高ければ高いほど3糖ガラクトオリゴ糖を主に生成していることを意味する。ガラクトオリゴ糖の全生成量および3糖ガラクトオリゴ糖の生成量は上記のようにHPLC解析によって求めることができる。3糖ガラクトオリゴ糖の製造選択性は60%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、75%以上であることがさらに好ましく、80%以上であることが特に好ましい。
2.本発明の酵素
本発明によれば、ガラクトオリゴ糖生産活性を有する新規の酵素およびその酵素をコードしているDNAが提供される。本発明の酵素は、後述するベースとなるアミノ酸配列またはそれをコードするDNAに対し、特定の変異を導入することにより設計および/または製造することができる。また、本発明の酵素は、天然に存在する微生物から単離されたものであってもよく、合成によって製造されたものであってもよい。
2−1.本発明の酵素の設計の基礎として使用できるアミノ酸配列
本発明の酵素を設計するベースとなるアミノ酸配列は、配列番号1のアミノ酸配列およびそのファミリー酵素のアミノ酸配列である。配列番号1に示すアミノ酸配列からなる酵素は、パエニバチルス・パブリから由来する酵素である(特許文献7)。配列番号1に示すアミノ酸配列からなる酵素の分子量は約51kDaである。この酵素はラクターゼとして機能する酵素であり、乳糖を原料としたガラクトオリゴ糖製造に使用可能であることが分かっている。BgaD−Dに対する相同性は約8%である。なお、BgaD−Dは、バチルス・サーキュランス由来ラクターゼで、現在、商業的に最も利用されているガラクトオリゴ糖製造用ラクターゼであるBgaDを構成する分子量の異なる4種類の酵素(特許文献3)の一つであり、この中で最もガラクトオリゴ糖生産活性が高いことが知られている。後述する本発明のガラクトオリゴ糖製造方法において、ガラクトオリゴ糖製造用ラクターゼとしてBgaD−Dを用いた場合、ガラクトオリゴ糖収率は、約60〜70%であり、3糖ガラクトオリゴ糖の製造選択性は最大で約60%である。BgaD−Dを使用してガラクトオリゴ糖を製造した場合、4糖以上のガラクトオリゴ糖も多く製造される。
後述する本発明のガラクトオリゴ糖製造方法において、ガラクトオリゴ糖製造用ラクターゼとして配列番号1に示すアミノ酸配列からなる酵素を用いた場合のガラクトオリゴ糖収率は、約60〜約70%である。しかし、製造されるガラクトオリゴ糖のうち3糖ガラクトオリゴ糖の製造選択性は約80%以上である。
配列番号1に示すアミノ酸配列からなる酵素は、β−1,3−グリコシド結合を形成するように、β−ガラクトシル基(β−ガラクトース残基)を糖(例えば乳糖)に高度に選択的に転移させる。すなわち、配列番号1に示すアミノ酸配列からなる酵素によって製造されるGOSの多くは、β−ガラクトシル基間がβ−1,3−グリコシド結合している3糖GOSである。一般的な腸内細菌の中ではビフィズス菌のみがβ−1,3−グリコシド結合を分解することができる。そのためこのような糖を多く含むGOSを摂取した場合、腸内においてビフィズス菌が優先的にこのGOSを資化し、増殖することができると想定される。なお従来の多くのGOSでは、ガラクトシル基は乳糖にβ−1,4−グリコシド結合またはβ−1,6−グリコシド結合を形成して結合している。
このように、配列番号1に示すアミノ酸配列からなる酵素は、高いガラクトオリゴ糖収率を実現しながら、高い酵素化学的性質や高い3糖ガラクトオリゴ糖選択性をも両立している。この酵素の使用によって、収率の悪化を招く4糖以上のガラクトオリゴ糖の発生を従来よりも低減できる。
当然のことながら、配列番号1に示すアミノ酸配列からなる酵素のファミリー酵素も同様の効果を奏するものと推論される。
なお、当然のことながら、その機能を害しない限り、上記酵素は付加領域を有していてもよい。このような付加領域としては、例えば、タグドメイン等の領域が挙げられる。これらが付加される位置はN末端、C末端の一方または双方のいずれでもよい。
ある酵素E1が別の酵素E2のファミリー(または相同体)であるとは、E1とE2のアミノ酸配列に基づく相同性(または同一性、類似性と表現してもよい)が70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上または99%以上を有していることを意味する。上限値に特に制限はないが100%未満である。すなわち、少なくとも1以上のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入が存在する。アミノ酸配列相同性はBLASTアルゴリズムおよびBLAST2.0アルゴリズムを用いた公知のソフトウェアなどを用いて容易に算出することができる。
ある酵素E1が別の酵素E2のファミリー(または相同体)であるとは、特に、酵素E1のアミノ酸配列が、酵素E2のアミノ酸配列に対して1個以上10個以下のアミノ酸の置換、欠失、挿入によって達成できることを意味する。置換とは、特定部位のアミノ酸が別のアミノ酸へ置き換えられたことを意味する。欠失とは、特定部位のアミノ酸を欠失していることを意味する。挿入とは、存在しなかったアミノ酸がアミノ酸配列に追加されていることを意味する。
これに加えて、ある酵素E1と別の酵素E2とがファミリー(または相同体)であるとは、酵素E1と酵素E2とが同一の機能を発揮できることを意味する。この機能における活性比に特に制限はない。例えば、より活性の高い酵素をE1とし、その活性を100%としたとき、より活性の低い酵素E2の活性は1%以上、5%以上、10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上または90%以上である。
配列番号1に示すアミノ酸配列からなる酵素のファミリー酵素とは、配列番号1に示すアミノ酸配列に対して70%以上100%未満の相同性を有し、かつ、ガラクトオリゴ糖生産活性を有する酵素を意味する。あるいは、配列番号1に示すアミノ酸配列からなる酵素のファミリー酵素とは、配列番号1に示すアミノ酸配列において1〜10個のアミノ酸が置換、欠失、挿入されたアミノ酸配列からなり、かつ、ガラクトオリゴ糖生産活性を有する酵素を意味する。配列番号1に示すアミノ酸配列からなる酵素のファミリー酵素は、配列番号1に示すアミノ酸配列に対する相同性の下限値が、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上または99%以上であってもよい。相同性の下限値がこれらの場合においても、上限値はいずれも100%未満である。
したがって、より具体的には、本発明の酵素を設計するベースとなるアミノ酸配列としては、以下のアミノ酸配列(a)〜(c):
(a)配列番号1に示すアミノ酸配列
(b)配列番号1に示すアミノ酸配列において1〜10個のアミノ酸が置換、欠失、挿入されたアミノ酸配列を有し、ガラクトオリゴ糖生産活性を有する酵素のアミノ酸配列
(c)配列番号1に示すアミノ酸配列に対する相同性が70%以上100%未満のアミノ酸配列を有し、ガラクトオリゴ糖生産活性を有する酵素のアミノ酸配列
のいずれかを有する、またはアミノ酸配列(a)〜(c)のいずれかからなるアミノ酸配列が挙げられる。
なお、配列番号1に示すアミノ酸配列を有する酵素は、パエニバチルス・パブリから単離されたが、上記のようなファミリー酵素は、土壌等から単離したその生産菌から得ることもでき、あるいは、公的機関に寄託されており、当業者であれば容易に入手可能なパエニバチルス属の他の細菌、例えば、
・Paenibacillus themophilus(例えば、寄託番号DSM 24746)
・Paenibacillus popilliae(例えば、寄託番号DSM 22700)
・Paenibacillus thiaminolyticus(例えば、寄託番号NBRC 15656)
・Paenibacillus pabuli(例えば、寄託番号NBRC 13638)
・Paenibacillus alvei(例えば、寄託番号NBRC 3343)
・Paenibacillus alginolyticus(例えば、寄託番号NBRC 15375)
・Paenibacillus chibensis(例えば、寄託番号NBRC 15958)
・Paenibacillus chitinolyticus(例えば、寄託番号NBRC 15660)
・Paenibacillus chondroitinus(例えば、寄託番号NBRC 15376)
・Paenibacillus glucanolyticus(例えば、寄託番号NBRC 15330)
・Paenibacillus lautus(例えば、寄託番号NBRC 15380)
・Paenibacillus macerans(例えば、寄託番号NBRC 15307)
・Paenibacillus peoriae(例えば、寄託番号NBRC 15541)
・Paenibacillus polymyxa(例えば、寄託番号NBRC 15309および寄託番号JCM 2507)
・Paenibacillus validus(例えば、寄託番号NBRC 15382)
・Paenibacillus apiarius(例えば、寄託番号DSM 5581)
・Paenibacillus jamilae(例えば、寄託番号DSM 13815)
・Paenibacillus kribbensis(例えば、寄託番号JCM 11465)
・Paenibacillus terrae(例えば、寄託番号JCM 11466)
から単離してもよい。これらパエニバチルス属細菌の天然株、突然変異株から単離したファミリー酵素、それらから遺伝子組み換え技術により製造した組換え体のファミリー酵素も、同様に、本発明において使用することが可能である。
2−2.本発明の酵素のアミノ酸配列
本発明の酵素は、上記のとおりのベースとなる酵素のアミノ酸配列において特定の変異を含むアミノ酸配列を有する。特定の変異とは、具体的には、配列番号1のアミノ酸配列における、N437H、T297A、R77A、Y296F、F414L、F104L、F104E、F104N、F104Q、F104S、F104T、F104V、およびF104Y、ならびにそれらに相当する変異のいずれか1以上である。
上記のとおり、ベースとなる酵素のアミノ酸配列は、配列番号1に示すアミノ酸配列を有する酵素のファミリー酵素のアミノ酸配列であってもよい。すなわち、配列番号1に示すアミノ酸配列からなる酵素のファミリー酵素とは、配列番号1に示すアミノ酸配列に対して70%以上100%未満の相同性を有し、かつ、ガラクトオリゴ糖生産活性を有する酵素を意味する。配列番号1に示すアミノ酸配列からなる酵素のファミリー酵素は、配列番号1に示すアミノ酸配列に対する相同性の下限値が、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上または99%以上であってもよい。相同性の下限値がこれらの場合においても、上限値はいずれも100%未満である。あるいは、配列番号1に示すアミノ酸配列からなる酵素のファミリー酵素とは、配列番号1に示すアミノ酸配列において1〜10個のアミノ酸が置換、欠失、挿入されたアミノ酸配列からなり、かつ、ガラクトオリゴ糖生産活性を有する酵素を意味する。
この場合、上記特定の変異は、配列番号1に示すアミノ酸配列における各変異に相当する変異であればよい。配列番号1に示すアミノ酸配列は、447個のアミノ酸残基からなっており、ファミリー酵素のアミノ酸配列も概ね同様の長さを有するか、ある程度の長さ(数十〜数百残基程度)にわたる同一または相動性の高い領域を有すると考えられるため、上記のような当業者に公知の配列比較ソフトウェアを使用することにより、ファミリー酵素のアミノ酸配列における上記各変異に相当するアミノ酸は容易に見つけることができる。
したがって、本発明の酵素は、
(a)配列番号1に示すアミノ酸配列;
(b)配列番号1に示すアミノ酸配列において1〜10個のアミノ酸が置換、欠失、挿入されたアミノ酸配列;または
(c)配列番号1に示すアミノ酸配列に対する相同性が70%以上100%未満のアミノ酸配列
において、
配列番号1に示すアミノ酸配列のN437H、T297A、R77A、Y296F、F414L、F104L、F104E、F104N、F104Q、F104S、F104T、F104V、およびF104Y、ならびにそれらに相当する変異からなる群から選択される1以上の変異を有するアミノ酸配列を有し、ガラクトオリゴ糖生産活性を有する酵素である。この酵素は、上記のアミノ酸配列を有するものであれば、上記のアミノ酸配列に加えて付加的部分を含むものであってもよく、上記のアミノ酸配列のみからなっていてもよい。
本発明の酵素は、複数の変異を有していてもよい。この場合、配列番号1に示すアミノ酸配列のN437Hまたはそれに相当する変異を有するか、またはそれに加えて、配列番号1に示すアミノ酸配列のT297A、F414L、F104L、F104E、F104N、F104Q、F104S、F104T、F104V、およびF104Y、ならびにそれらに相当する変異からなる群から選択される1以上の変異を有することが望ましい。ガラクトオリゴ糖生産活性を有する限りにおいて、それら以外の任意の変異を含んでいてもよい。好ましくは、本発明の酵素は、配列番号1に示すアミノ酸配列からなる酵素と比較して、改善されたガラクトオリゴ糖生産活性、特に耐熱性および/または収率を有する。
本発明の酵素は、上記(a)〜(c)のようなベースとなるアミノ酸配列をコードするDNAに所望の変異を導入することにより、本発明の酵素をコードするDNAを作製し、これを適切な宿主で発現させることにより容易に得ることができる。あるいは、天然に存在する微生物、例えばパエニバチルス属細菌、特にパエニバチルス・パブリのような微生物から単離してもよく、合成によって製造してもよい。
3.本発明のDNA
本発明は、上記したような酵素をコードするDNAも提供する。上述した酵素をコードしていれば、いかなる塩基配列からなるDNAも本発明の範囲内である。特に、以下に詳しく説明する塩基配列からなるDNAが、そのようなDNAの典型例である。
本発明の酵素をコードするDNAは、上記(a)〜(c)のようなベースとなるアミノ酸配列をコードするDNAから製造することができる。
配列番号2に示す塩基配列からなるDNAは配列番号1に示すアミノ酸配列からなる酵素をコードしている(3’末端の終始コドンを含む)。上述したように、配列番号1に示すアミノ酸配列からなる酵素は良好なガラクトオリゴ糖生産活性を有している。よって、これら塩基配列と相同性の高い塩基配列からなるDNAがコードする酵素は、高確率でガラクトオリゴ糖生産活性を有する酵素である。
また、上記DNAに対して、保存的塩基置換されている塩基配列からなるDNAも本発明に含まれる。塩基配列の保存的塩基置換とは、塩基配列における塩基の置換のうち、コードする酵素のアミノ酸配列が変化しない置換を意味する。すなわち、2以上のDNAが、それぞれの塩基配列は相互に異なるが同一アミノ酸配列の酵素をコードしている関係にあることを意味する。
なお、当然のことながら、自身またはコードしている酵素の機能を害しない限り、上記DNAは、付加領域を有していてもよい。このような付加領域としては、例えば、そのDNA自身の繰り返し構造や、終止コドンやオペレーター配列、タグペプチドに対応する領域等が挙げられる。これらが付加される位置は5’末端、3’末端の一方または双方のいずれでもよい。
したがって、本発明のDNAは、本発明の酵素をコードするDNAであり、具体的には、
ガラクトオリゴ糖生産活性を有する酵素をコードするDNAであって、
(1)配列番号2に示す塩基配列;
(2)配列番号2に示す塩基配列に高い相同性を有する塩基配列;
(3)前記(1)〜(2)のいずれかの塩基配列に対して保存的塩基置換されている塩基配列;または
(4)前記(1)〜(2)のいずれかに前記(1)〜(2)の塩基配列、終止コドンやオペレーター配列等を付加した塩基配列
において、配列番号2に示す塩基配列によってコードされるアミノ酸配列におけるN437H、T297A、R77A、Y296F、F414L、F104L、F104E、F104N、F104Q、F104S、F104T、F104V、およびF104Y、ならびにそれらに相当する変異からなる群から選択される1以上の変異を有するアミノ酸配列からなる、またはそれを含むアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNAが挙げられる。
あるDNAの塩基配列に高い相同性(または同一性、類似性と表現してもよい)を有する塩基配列からなるDNAとは、あるDNAの塩基配列に対する相同性が70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上または99%以上である塩基配列からなるDNAを意味する。上限値は特に制限はなく100%未満である。DNAの塩基配列相同性はBLASTアルゴリズムおよびBLAST2.0アルゴリズムを用いた公知のソフトウェアなどを用いて容易に算出することができる。
これとは別に/これに加えて、あるDNAの塩基配列に高い相同性を有する塩基配列からなるDNAとは、当該あるDNAの塩基配列に相補的な塩基配列からなるDNAに、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする、またはハイブリダイズできるDNAを意味する。
ここで、『ストリンジェントな条件』とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件を意味する。ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーは、主に、温度、イオン強度、および変性剤の条件によって決定される。ストリンジェントな条件としては、例えば、60℃、1×SSC、0.1%SDSに相当する塩濃度および温度で洗浄する条件が挙げられる。60℃、0.1×SSC、0.1%SDSに相当する塩濃度および温度で洗浄する条件、68℃、0.1×SSC、0.1%SDSに相当する塩濃度および温度で洗浄する条件としてもよい。
したがってより具体的には、本発明のDNAとして、
ガラクトオリゴ糖生産活性を有する酵素をコードするDNAであって、
(1)配列番号2に示す塩基配列;
(2)配列番号2に示す塩基配列に対する相同性が70%以上100%未満である塩基配列;
(3)配列番号2に示す塩基配列に相補的な塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列;
(4)前記(1)〜(3)のいずれかの塩基配列に対して保存的塩基置換されている塩基配列;または
(5)前記(1)〜(3)のいずれかに前記(1)〜(3)のいずれかの繰り返し構造、終止コドンやオペレーター配列等を付加した塩基配列
において、配列番号2に示す塩基配列によってコードされるアミノ酸配列におけるN437H、T297A、R77A、Y296F、F414L、F104L、F104E、F104N、F104Q、F104S、F104T、F104V、およびF104Y、ならびにそれらに相当する変異からなる群から選択される1以上の変異を有するアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNAが挙げられる。
別の表現をすれば、本発明のDNAとして、
ガラクトオリゴ糖生産活性を有する酵素をコードするDNAであって、
(A)配列番号2に示す塩基配列;または
(B)配列番号2に示す塩基配列に対する相同性が70%以上100%未満である塩基配列;
(C)配列番号2に示す塩基配列に相補的な塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列;または
(D)(A)〜(C)のいずれかの塩基配列に対して保存的塩基置換されている塩基配列
のいずれかを含む、またはこれらのいずれかからなるDNAにおいて、そのコードするアミノ酸配列が、配列番号2に示す塩基配列によってコードされるアミノ酸配列におけるN437H、T297A、R77A、Y296F、F414L、F104L、F104E、F104N、F104Q、F104S、F104T、F104V、およびF104Y、ならびにそれらに相当する変異からなる群から選択される1以上の変異を有するアミノ酸配列である、DNAが挙げられる。
本発明のDNAのベースとなるDNAは、合成することもできるが、例えば、パエニバチルス属の細菌(特にパエニバチルス・パブリ)からゲノムDNAを回収した後、これを鋳型とするPCRによって得ることもできる。
配列番号1に示すアミノ酸配列からなる酵素やその相同体をコードしている構造遺伝子を増幅するためのプライマーのペアは、適宜設計し、合成することができる。
こうして、配列番号1に示すアミノ酸配列からなる酵素やその相同体をコードしている構造遺伝子(例えば配列番号2に示す塩基配列からなるDNA)を取得することができる。
本発明のDNAは、このようにして取得したベースとなる酵素のアミノ酸配列をコードするDNAに、当業者に公知の方法で特定の変異を導入することにより製造することができる。特定のアミノ酸配列をコードするDNAに所望の変異を導入する方法は、当業者に公知であり、本発明の酵素のアミノ酸配列をコードするDNAを得るためにいずれの方法を用いてもよい。また、本発明のDNAは、それ自体を合成により製造してもよく、天然の微生物から単離および増幅してもよい。
4.本発明のベクター
本発明によれば、本発明のDNAを含む組換えベクターが提供される。この組換えベクターによって形質転換体の作製および酵素の大量発現が可能となる。
ベクターとしては、特に制限はなく、通常使用されるものが使用できる。例えば、プラスミド、バクテリオファージ、コスミド、ファージミドなどが挙げられる。
プラスミドとしては、例えば、pK4、pRK401、pRF31、pBR322、pBR325、pUC118、pUC119、pUC18、pBIC、pUB110、pTP5、YEp13、YEp24、YCp50などが挙げられる。
ファージとしては、λファージ(λgt10、λgt11、λZAP等)が挙げられる。さらに、レトロウイルスまたはワクシニアウイルスなどの動物ウイルス、バキュロウイルスなどの昆虫ウイルスベクターを用いることもできる。
ベクターには、プロモーター、エンハンサーなどのシスエレメント、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー、リボソーム結合配列(SD配列)、開始コドン、終止コドンなどを連結することができる。また、製造する酵素の精製を容易にするためのタグ配列を連結することもできる。タグとしては、Hisタグ、GSTタグ、MBPタグなどの公知のタグを利用できる。またベクターはセレクションのための抗生物質耐性遺伝子などを含んでもよい。
ベクターにDNAを挿入する手法としては、特に制限はなく、通常使用されるものが使用できる。通常は以下の手法によって行われる。一般に、精製されたDNAを適切な制限酵素で切断し、ベクターDNAの制限酵素部位またはマルチクローニングサイトに挿入してベクターに連結することができる。
5.形質転換体
本発明によれば、本発明のDNAおよび/または組換えベクターを含む(または導入させた)形質転換体が提供される。
形質転換体の宿主となる生物には、特に制限はなく、通常使用されるものが使用できる。原核生物、古細菌、真核生物のいずれも使用可能であり、例えば、真正細菌(大腸菌等)、酵母、植物細胞、動物細胞(COS細胞、CHO細胞等)、昆虫細胞が挙げられる。
宿主としては、特に、Bacillus属(例えばBacillus subtilis)、Paenibacillus属、Brevibacillus属(例えばBrevibacillus chosinensis)、Escherichia属(例えばEscherichia coli)、Corynebacterium属、Saccharomyces属、Shizosaccharomyces属、Kluyveromyces属、Pichia属、Aspergillus属、Penicillium属、Trichoderma属の微生物が挙げられる。また、乳酸菌や酢酸菌といった食経験のある微生物が挙げられる。
DNAおよび/または組換えベクターをこれら宿主に導入する手法に特に制限はない。例えばエレクトロポレーション法、スフェロプラスト法、酢酸リチウム法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法等が挙げられる。相同組換え等を利用して宿主のゲノム中に挿入または付加してもよい。
なお、DNAや組換えベクターが宿主に導入されたか否かの確認には、任意の手法を使用可能である。例えば、PCR法、サザンハイブリダイゼーション法、ノーザンハイブリダイゼーション法等により行うことができる。
6.酵素の製造方法
本発明の形質転換体を利用して、従来公知の方法によって本発明の酵素やそれを含む組成物を調製することができる。例えば、以下に説明する方法によって調製することができる。
本発明の酵素をコードする対象遺伝子を導入した前記形質転換体を液体培地で大量培養する。大量培養後、所定の誘導剤を形質転換体に投与して対象遺伝子の発現を誘導してもよい。例えば、ベクターがLacオペロンを使用している場合にはIPTGを投与して対象遺伝子の発現を誘導することができる。
大量発現後、培養上清、もしくは細胞を超音波や細胞壁溶解酵素などによって破砕することで得られる破砕液を回収する。この上清や破砕液には本発明の酵素が大量に含まれている。この上清や破砕液を酵素含有組成物としてそのまま使用してもよいし、この液体組成物について精製処理を施して精製酵素として回収してもよい。
この精製処理は、例えば塩析や膜分離、カラムクロマトグラフィーによって実行できる。これら操作は一種もしくは複数を組み合わせることもできる。カラムクロマトグラフィーの種類に制限はないが、これら酵素に特異的に作用する抗体などを含むカラムを使用してもよいし、予め酵素に付加させたHisタグなどのタグドメインと相互作用可能なカラムを使用してもよい。
このような方法によって、本発明の酵素を大量に調製することが可能である。これら酵素はガラクトオリゴ糖の製造に用いることができる。
7.ガラクトオリゴ糖の製造方法
本発明の酵素はガラクトオリゴ糖生産活性を有しているため、これを用いて乳糖からガラクトオリゴ糖を製造することができる。したがって、本発明によれば、ガラクトオリゴ糖の製造方法が提供される。ガラクトオリゴ糖製造の手法や条件は制限されない。1例を挙げて以下に説明するが、本発明はこれに制限されない。
本発明のガラクトオリゴ糖の製造方法は、乳糖と、本発明の酵素、形質転換体または酵素含有組成物とを接触させる工程を含む。この接触によってガラクトオリゴ糖が生産される。任意に、製造されたガラクトオリゴ糖を単離および/または精製する工程等の付加的工程を含んでもよい。
本発明のガラクトオリゴ糖製造方法において、乳糖と接触させる酵素は、本発明の酵素を含むものであればよく、その酵素を産生する微生物から精製した状態(精製酵素)であってもよい。あるいは、形質転換体自体と乳糖とを接触させてもよいし、形質転換体の破砕物や抽出物などの、本発明の酵素以外に他の成分も含む混合物または粗精製物等(酵素含有組成物)と乳糖とを接触させてもよい。酵素含有組成物は固形でも液状でもよい。形質転換体が酵素を菌体外に分泌する場合には菌体を除去した培地も酵素含有組成物として使用することができる。副反応を予防する点では、精製酵素を乳糖に接触させることが好ましい。
精製酵素とは、所定の精製処理を経ることで得られる酵素溶液または酵素固形物を意味する。主にその酵素以外の酵素を実質的に含まないか、もしくは他の酵素が低減されていることを意味する。
乳糖を含有する溶液に酵素等を混合するか、または酵素等を含む溶液に乳糖を混合することでガラクトオリゴ糖を製造するための反応系(溶媒、乳糖、および本発明の酵素、形質転換体または酵素含有組成物を含む混合物)が形成される。溶媒は任意であるが、通常は水または水を主成分とする水性溶媒である。
本発明において、原料とする乳糖の状態は特に制限はない。任意の溶媒に溶解させた乳糖溶液でも良い。また凝乳した上清であるホエーならびにその濃縮物や脱脂粉乳などの乳糖を含んだ混合物を乳糖原料として使用してもよい。
反応系の乳糖の含有率は、特に制限はなく任意に設定し得る。反応系全量基準で例えば1〜80質量%、2〜70質量%、4〜60質量%、5〜60質量%または30〜60質量%としてもよい。乳糖の消費に伴い、適宜乳糖を補充してもよい。
ある実施態様においては、さらに乳糖の含有率を4〜50質量%、4〜40質量%、4〜30質量%、4〜20質量%、4〜10質量%としてもよい。このような比較的低基質濃度の領域においては、本発明の酵素が好ましく使用される。これらは基質である乳糖との親和性が高く、Km値に優れており、低基質濃度においても十分な活性を有するからである。
別の実施態様では、乳糖の含有率を5〜60質量%、10〜60質量%、20〜60質量%、30〜60質量%、40〜60質量%としてもよい。このような比較的高基質濃度の領域においても、本発明の酵素が好ましく使用される。これらは良好なガラクトオリゴ糖生産活性と3糖ガラクトオリゴ糖選択活性を両立しており、ガラクトース等の生成物阻害が少なく、短時間に大量の3糖ガラクトオリゴ糖を製造することができる。
反応系の本発明の酵素の含有量は、特に制限はなく任意に設定し得る。反応系において例えば0.1〜10LU/mLまたは0.1〜10OU/mLとしてもよい。
ガラクトオリゴ糖生産活性は反応系によって異なる。本発明の酵素の含有量は次のように決定すればよい。
第一工程として、特定の反応系(乳糖の含有率、本発明の酵素の含有量、反応pH、反応温度、反応時間等)において、本発明の酵素の含有量に対するガラクトオリゴ糖生産量を確認する。
第二工程として、先の反応系に含まれる、本発明の酵素のラクターゼ活性(LU/mLまたはOU/mLの少なくとも一方)を測定する。
第三工程として、第二工程で測定したラクターゼ活性を指標にして、反応系に含まれる本発明の酵素量を調整する(本発明の酵素の含有量を増加または低減する)。
第四工程として、反応系に含まれる本発明の酵素の含有量を調整した値になるよう含ませる。
なお、上記の第一工程と第二工程は逆に行っても良い。
反応系のpHは、特に制限はなく任意に設定し得る。例えば3〜9、5〜8、6〜8、6〜7.5、6〜7、4〜8または5〜7としてもよい。当然のことながら、pHは一定でもよいし変動してもよい。
反応系の温度は、特に制限はなく任意に設定し得る。例えば20〜75℃、20〜60℃、30〜50℃、30〜75℃、40〜75℃、50〜70℃または60〜70℃としてもよい。当然のことながら、温度は一定でもよいし変動してもよい。反応系に含まれる乳糖が溶解する温度を選択することが好ましい。本発明の耐熱性に優れた酵素は、60〜70℃で特に有利に反応させることができる。
反応時間は、特に制限はなく任意に設定し得る。例えば、1〜100時間、1〜50時間、5〜30時間、12〜60時間、12〜24時間、または24〜48時間としてもよい。
これら一連のガラクトオリゴ糖の製造方法は、回分式でも連続式のいずれでもよい。回分式では、反応器に所定量の酵素、形質転換体または酵素含有組成物と原料乳糖とを投入し、所定時間ガラクトオリゴ糖を生成させた後、ガラクトオリゴ糖を含む混合物を反応器から回収する。連続式では、反応器に酵素、形質転換体または酵素含有組成物、および/または原料乳糖を連続的または断続的に投入する。そしてガラクトオリゴ糖を生成させつつ、ガラクトオリゴ糖を含む混合物を反応器から回収する。
上述した工程の終了時点では、反応系には単糖、二糖、ガラクトオリゴ糖が混在する。そのままガラクトオリゴ糖溶液として使用しても良いし、これからガラクトオリゴ糖を精製しても良い。ガラクトオリゴ糖を精製する手法は、特に制限はなく、任意のものを採用し得る。例えば、活性炭や金属イオンを配位した陽イオン交換樹脂、ゲル濾過用樹脂を使用するカラムクロマトグラフィーによってそれぞれの画分に分離することができる。
カラムクロマトグラフィーにおけるカラムのサイズ、溶媒の種類、溶媒の流量などの条件も任意に調整し得るものである。
本発明の形質転換体を乳糖に接触させてガラクトオリゴ糖を製造する場合も基本的には上記と同様であるが、形質転換体を用いる典型的な実施形態では、
本発明の形質転換体を培養する任意の工程(培養工程)、
本発明の形質転換体と原料乳糖とを接触させ、
原料乳糖からガラクトオリゴ糖を製造させ、ガラクトオリゴ糖混合物を得る工程(接触工程)、
前記ガラクトオリゴ糖混合物からガラクトオリゴ糖を分離および/または精製する任意の工程(ガラクトオリゴ糖精製工程)、
といった工程が実行される。
通常、本発明の形質転換体は乳糖に接触させるより前に培養を行う。本発明の形質転換体の培養条件に何ら制限はなく任意である。例えば、嫌気的または好気的条件下において液体培地中で約30℃、約3日間培養してもよい。液体培地の種類に何ら制限はなく任意のものが使用可能である。例えば、LB培地、ソイビーンカゼインダイジェスト(SCD)培地やブレインハートインヒュージョン(BHI)培地などが挙げられる。
培養により得られた本発明の形質転換体は、生死を問わず、培養物あるいはその処理物も有利に用いることができる。培養物を濃縮してもよい。遠心分離により液体培地と菌体を分離し、生理食塩水、蒸留水等で洗浄して湿菌体を得ることができる。その他、培養物の処理物としては、超音波処理物、溶菌酵素処理物、界面活性剤処理物、機械的磨砕処理物等が挙げられる。これらを適切な溶媒に懸濁させて、本発明の形質転換体の菌体成分および/または酵素を含む流体(これらも形質転換体または酵素含有組成物である)とすることができる。
反応系の本発明の形質転換体の含有量は、特に制限はなく適宜設定し得る。例えば湿菌体で10〜200g/L、30〜150g/L、50〜100g/Lとしてもよい。破砕物、抽出物、培地などの酵素含有混合物を使用して酵素を含有させる場合、その含有量は、元の菌株が上記範囲になるような量に調整すればよい。
反応系の乳糖の含有量に対する本発明の形質転換体の含有量の比率(kg/kg)は、特に制限はなく適宜設定し得る。例えば、乳糖量に対して湿菌体で1/30〜1/1、1/20〜1/2、1/10〜1/5としてもよい。破砕物、抽出物、培地などの酵素含有混合物を使用して酵素を含有させる場合、その含有量は、元の菌株が上記範囲になるような量に調整すればよい。
ガラクトオリゴ糖の製造を効率的に行うため、反応系は無機塩類などを含有してもよい。無機塩類などの含有量は例えば反応系全量基準で0.00001〜10質量%、0.0001〜1質量%である。無機塩類を含むような溶媒として、LB培地などの液体培地を使用してもよい。
ガラクトオリゴ糖混合物は、そのまま菌体含有ガラクトオリゴ糖溶液として使用しても良いし、菌体を除去してガラクトオリゴ糖溶液として使用しても良いし、あるいは、これからガラクトオリゴ糖を精製しても良い。菌体含有ガラクトオリゴ糖溶液から菌体を除去する方法は任意である。例えば遠心分離、フィルタリング、加熱などによる滅菌処理などが挙げられる。ガラクトオリゴ糖を精製する手法は特に制限はなく任意のものを採用し得る。活性炭や金属イオンを配位した陽イオン交換樹脂、ゲル濾過用樹脂を使用するカラムクロマトグラフィーによってそれぞれの画分に分離することができる。
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
1.大腸菌を用いた変異体酵素の製造
1−1.発現用プラスミドの構築
ベクターは、市販のベクターpET28a(Novagen, カタログ番号69864-3CN)を鋳型としたPCRにて増幅した。このとき、増幅用プライマーにはBamH IおよびHind III認識配列を付加した。
同様に、配列番号2に示す塩基配列を有するラクターゼ遺伝子(以下、野生型ともいう)は、ゲノムを鋳型としてPCRにて増幅した。この増幅用プライマーにもBamH IおよびHind III認識配列を付加した。使用したプライマーペアを以下に示す。
(ベクター増幅用)
5’−TCGACAAGCTTGCGGCCGCACTC-3’(配列番号3)
5’−GCTGCGGATCCTATATCTCCTTCTTAAAG-3’(配列番号4)
(配列番号2に示すラクターゼ遺伝子増幅用)
5’−AAAAAGGATCCATGACCATTTTTCAATTTC-3’(配列番号5)
5’−TTTTTAAGCTTTTAACGGATTTCCAGCC-3’(配列番号6)
PCRは、「PrimeSTAR(商標) GXL DNA Polymerase」(タカラバイオ, 製品コードR050A)を使用して、以下の50μLの系で行った。3ng/μL テンプレートDNA 3.0μL、各2.5mM dNTP Mixture 4.0μL、5× Prime STAR GXL Buffer 10μL、5pmol/μL各プライマー 2.5μL、1.25U/μL Prime STAR GXL Polymerase 1.0μLおよび超純水 27μLを混合した。PCRは、それぞれ(98℃、10秒;55℃、15秒;68℃、1分/kb)のサイクルを30回繰り返した。
得られたPCR産物を、それぞれBamH IおよびHind IIIで制限酵素処理し、ベクターに配列番号2に示すラクターゼ遺伝子を挿入することにより発現用プラスミドを構築した。
1−2 部位特異的変異の導入
配列番号1のアミノ酸配列を有する酵素に導入する変異の候補を選定した。全部で約50以上の変異を選定した。
部位特異的変異の導入には、「PrimeSTAR(商標) Mutagenesis Basal Kit」(タカラバイオ, 製品コードR046A)を用いた。用いたプライマーの主なものを以下に示した。
(N437H変異導入用)
5’−ACCAGCACGTAATCAAAAACAATTGG-3’(配列番号7)
5’−ATTACGTGCTGGTACCAGTAGTAGCT-3’(配列番号8)
(T297A変異導入用)
5’−TATTACGCCATGGGCATCAATCGGTAT -3’(配列番号9)
5’−GCCCATGGCGTAATAATTAATGCCCAG -3’(配列番号10)
(F414L変異導入用)
5’−ATGCGTTTGGGGCTCATCCATGTGGAT -3’(配列番号11)
5’−GAGCCCCAAACGCATGCGATACCCTTC -3’(配列番号12)
(F104L変異導入用)
5’−CATCGGCTCGTCGATAAATTGCTTGAA -3’(配列番号13)
5’−ATCGACGAGCCGATGGTAGAAGTCCAG -3’(配列番号14)
(F104E変異導入用)
5’−CATCGGGAAGTCGATAAATTGCTTGAA -3’ (配列番号15)
5’−ATCGACTTCCCGATGGTAGAAGTCCAG -3’ (配列番号16)
(F104N変異導入用)
5’−CATCGGAACGTCGATAAATTGCTTGAA -3’ (配列番号17)
5’−ATCGACGTTCCGATGGTAGAAGTCCAG -3’ (配列番号18)
(F104Q変異導入用)
5’−CATCGGCAAGTCGATAAATTGCTTGAA -3’ (配列番号19)
5’−ATCGACTTGCCGATGGTAGAAGTCCAG -3’ (配列番号20)
(F104S変異導入用)
5’−CATCGGAGTGTCGATAAATTGCTTGAA -3’ (配列番号21)
5’−ATCGACACTCCGATGGTAGAAGTCCAG -3’ (配列番号22)
(F104T変異導入用)
5’−CATCGGACAGTCGATAAATTGCTTGAA -3’ (配列番号23)
5’−ATCGACTGTCCGATGGTAGAAGTCCAG -3’ (配列番号24)
(F104V変異導入用)
5’−CATCGGGTTGTCGATAAATTGCTTGAA -3’ (配列番号25)
5’−ATCGACAACCCGATGGTAGAAGTCCAG -3’ (配列番号26)
(F104Y変異導入用)
5’−CATCGGTACGTCGATAAATTGCTTGAA -3’ (配列番号27)
5’−ATCGACGTACCGATGGTAGAAGTCCAG -3’ (配列番号28)
(R77A変異導入用)
5’−ACGTATGCATTCTCCATCGCATGGCCG -3’ (配列番号29)
5’−GGAGAATGCATACGTATTGATGCCCAG -3’ (配列番号30)
(Y296F変異導入用)
5’−AATTATTTCACCATGGGCATCAATCGG -3’ (配列番号31)
5’−CATGGTGAAATAATTAATGCCCAGCAG -3’ (配列番号32)
PCRを以下の25μLの系で行った。100pg/μL pET28a−nonhisBGL8 1.5μL、PrimeStar max Premix(2×) 12.5μL、5μM各プライマー 1.0μLおよび超純水9.0μLを混合した。PCRは、(98℃、10秒;59℃、15秒;72℃、45秒)のサイクルを35回繰り返した。
PCR産物10μLを用いて大腸菌DH5αを形質転換し、Kmを含むLB寒天培地(LB Km)上で30℃、2日間培養した。得られた各形質転換体からプラスミドを抽出し、「MagExtractor(商標)−Plasmid−」(東洋紡,code No. NPK-301)により精製した。なお、二重変異体についてはこれらの作業を反復して行った。
1−3 大腸菌を用いた組換え酵素の生産と無細胞抽出液の調製
宿主には、UV照射によって大腸菌由来のβ−ガラクトシダーゼを欠損させた大腸菌(E.coli)BL21(DE3) lac−1株を使用した。上記で変異を導入した変異体および野生型酵素のプラスミドをBL21(DE3)lac−1株に形質転換し、LB Km寒天培地に塗布して30℃で一晩培養した。得られた各形質転換体を3mLのLB Km培地に植菌して37℃にて16時間培養した。培養液500μLを100mLの同培地に接種し、37℃にて振盪培養した。OD660=0.5に達した時点で終濃度0.1mMとなるようにIPTGを添加し、組換えタンパク質の生産を誘導した。誘導培養を30℃にて24時間行った。
各培養液を遠心分離(8,000rpm、10分、4℃)し、回収した菌体を−80℃にて保存した。凍結したペレットを1/10量の100mM リン酸ナトリウム緩衝液(pH6.5)に懸濁し、ソニケーション(UCD−200T、Bioruptor;power High、30分)により菌体を破砕した。遠心分離(13,000rpm、5分、4℃)して得られた上清を無細胞抽出液(粗酵素液)とした。
2.変異体酵素の温度安定性(耐熱性)試験
2−1 60℃でのラクターゼ活性の比較
野生型酵素および各粗酵素液の60℃でのONPG分解活性を測定した。各粗酵素液を500〜600 OU/mLとなるように100mM リン酸ナトリウム緩衝液(pH6.5)で希釈した。o−ニトロフェニル−β−ガラクトピラノシド(ONPG)溶液(ONPG濃度1.65mM)に上記のようにして調製した測定対象の粗酵素液を添加し、pH6.5、60℃にて0、10、30、60分間保持後、ONPG分解活性(o−ニトロフェニル生成量)を測定し、各酵素の残存活性を比較した。結果を図1に示す。
立体構造から熱安定性に寄与すると想定された変異体N437Hを、大腸菌BL21(DE3)lac−1株を宿主として発現し、60℃における残存活性を野生型酵素と比較した。その結果、N437Hにおいて顕著な耐熱性向上が認められた。
2−2 変異体酵素N437Hの各温度におけるGOS生産試験
野生型酵素およびN437Hの粗酵素液の乳糖分解活性を測定した。これを5、10、30、50、100LU/mLとなるように100mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.5)で希釈した。100mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.5)に溶解した66%乳糖溶液900μLに各粗酵素液を100μL添加し、反応液1mLを調製した。これを1.5mLチューブで行った。50、55、60、65、70、75、80℃にて24時間保持後、20%スルホサリチル酸の添加により反応を停止した。反応液を水で100倍希釈し、5μLを糖分析に供した。
各サンプルについてHPLCを行い、製造されたGOSの量を解析した。HPLCで使用したカラムはTransgenomic社製CARBOSep CHO−620 6.5φ×300mmであった。移動相は水、流速は0.4mL/min、温度は85℃、検出はRIの条件にて分析した。単糖および2糖ならびにGOS(3糖以上、主として3〜5糖)のピーク面積の合計値に対して、GOSのHPLCピーク面積の合計値が占める割合を算出した。
70℃での評価における結果を図2に示す。図2中、「G3」「G4」「G5」は、それぞれ3糖、4糖、5糖を表す。数値は、GOS(5糖、4糖、3糖)、2糖(未反応乳糖や転移2糖)、単糖(グルコース、ガラクトース)の合計HPLC面積に対する、GOSのHPLC面積の百分率である。
N437Hは70℃まで安定であり、野生型酵素と比べると約10℃耐熱性が向上していた。N437Hは複合体の形成に関与するloop441〜447とloop47〜50の近傍に位置することから、Hisへの置換によってサブユニット同士の結合がより強固となり、安定化に寄与したと考えられた。
3.各変異体酵素の耐熱性および糖転移能の評価
野生型酵素および各変異体の粗酵素液の乳糖分解活性を測定した。これを10、15、30および50LU/mLとなるように100mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.5)で希釈した。100mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.5)に溶解した11%、33%および66%乳糖溶液900μLに各粗酵素液を100μL添加し、反応液1mLを調製した。これを1.5mLチューブで行った。30、55および65℃にて24時間保持後、20%スルホサリチル酸の添加により反応を停止した。反応液を水で100倍希釈し、5μLを上記のとおりのHPLCによる糖分析に供した。
結果を表1に示す。
Figure 2021093954
表1に示すように、N437Hの変異は、耐熱性の向上に寄与する一方で、GOS生産能に影響しないことが確認された。
T297Aについては、60%乳糖を基質として3LU/mL(終濃度)、55℃にて24時間GOS生成反応を実施した結果、3糖以上のGOS生成量は44%となり、野生型酵素の41%を上回ることがわかった。
なお、T297についてアミノ酸の最適化を実施したが、試したアミノ酸のうちではアラニン置換体のみ転移能向上が認められた。T297は活性ポケットの表面に位置することから、スレオニンからアラニンへの置換によって活性ポケットが広がり、生成物が物理的な阻害を受けにくくなったことでGOS生成量が増加したと考えられた。
R77AおよびY296Fにおいては、30℃、10%または30%乳糖を基質とした際に転移能の向上が認められた(1または5LU/mL添加)。一方、反応温度が55℃以上の試験区では、両酵素で野生型酵素より低いGOS生成量および収率を示した(データ示さず)。
これらのことから、R77AおよびY296Fは、従来と同様の条件またはそれより低温および低基質濃度の条件においてGOS生産性の向上に寄与すると考えられた。なお、R77およびY296はファミリー酵素間で高度に保存されており、活性に重要なアミノ酸残基だと推測される。すなわち、今回の場合、加水分解活性が特異的に低下したことで転移活性が優勢となり、GOS生成量の増加が認められたと考えられた。また、反応温度が55℃以上の試験区では野生型酵素より低いGOS生成量および収率を示したことから、変異体では安定性が低下し、一部酵素が失活したと考えられた。
T297Aと耐熱性変異N437Hを組み合わせた二重変異体について、60%乳糖、5LU/mL、65℃、24時間の条件でGOS生成反応を行ったところ、GOS生成量は大きく向上し、最大46%に達した。すなわち、本二重変異体は耐熱性と糖転移能の両面で機能性が向上した。
60%乳糖、55℃、24時間の条件でGOS生成反応を行った結果、F414Lでは3LU/mL添加時にGOS生成量46%、F104Lでは5LU/mL添加時に42%を示し、共に野生型酵素を上回ることがわかった。
さらに、両変異点についてアミノ酸の最適化を実施したところ、F104Lでは、E、N、Q、S、T、VおよびY置換体でも同様に転移能が向上した。F414Lについては、試したアミノ酸のうちではロイシン置換体のみ転移能向上が認められた。また、F414Lでは野生型酵素と比べて安定性が低下していたが、耐熱性変異N437Hと組み合わせることで、野生型酵素と同様の55℃におけるGOS生成反応が可能であることが分かった。F414は、ファミリー酵素間で高度に保存されており、活性に重要なアミノ酸残基だと推測される。すなわち、今回の場合、R77AやY296Fと同様、加水分解活性が特異的に低下したことで転移活性が優勢となり、GOS生成量の増加が認められたと考えられた。

Claims (10)

  1. (a)配列番号1に示すアミノ酸配列;
    (b)配列番号1に示すアミノ酸配列において1〜10個のアミノ酸が置換、欠失、挿入されたアミノ酸配列;または
    (c)配列番号1に示すアミノ酸配列に対する相同性が70%以上100%未満のアミノ酸配列
    において、
    配列番号1に示すアミノ酸配列のN437H、T297A、R77A、Y296F、F414L、F104L、F104E、F104N、F104Q、F104S、F104T、F104V、およびF104Y、ならびにそれらに相当する変異からなる群から選択される1以上の変異を有するアミノ酸配列を有し、ガラクトオリゴ糖生産活性を有する酵素。
  2. 配列番号1に示すアミノ酸配列のN437Hまたはそれに相当する変異を有するアミノ酸配列を有する、請求項1記載の酵素。
  3. 配列番号1に示すアミノ酸配列のT297A、F414L、F104L、F104E、F104N、F104Q、F104S、F104T、F104V、およびF104Y、ならびにそれらに相当する変異からなる群から選択される1以上の変異を有するアミノ酸配列を有する、請求項2記載の酵素。
  4. 配列番号1に示すアミノ酸配列からなる酵素と比較して、改善されたガラクトオリゴ糖生産活性を有する、請求項1〜3のいずれか1項記載の酵素。
  5. 請求項1〜4のいずれか1項記載の酵素をコードしているDNA。
  6. 請求項5記載のDNAを含む組換えベクター。
  7. 請求項5記載のDNAまたは請求項6記載の組換えベクターを有する形質転換体。
  8. 請求項7記載の形質転換体を培養する工程と、培養した形質転換体または培養上清からガラクトオリゴ糖生産活性を有する酵素を回収する工程と、を含むガラクトオリゴ糖生産活性を有する酵素の製造方法。
  9. 請求項1〜4のいずれか1項記載の酵素を含み、ガラクトオリゴ糖生産活性を有する、酵素含有組成物。
  10. 乳糖と、請求項1〜4のいずれか1項記載の酵素、請求項7記載の形質転換体または請求項9記載の酵素含有組成物と、を接触させることを含むガラクトオリゴ糖の製造方法。

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