JP2021090909A - アルカリ水電解用隔膜の製造方法 - Google Patents

アルカリ水電解用隔膜の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】無機粒子の脱落が抑制され、安定性ならびに量産性に優れたアルカリ水電解用隔膜の製造方法を提供すること。【解決手段】有機高分子樹脂(R)と無機粒子とを含む樹脂混合液であって、下記水分定量方法(I)で測定された水の含有量が該有機高分子樹脂(R)100質量%に対して21質量%以下である該樹脂混合液を用いて塗膜を形成する塗膜形成工程と、該塗膜を、該有機高分子樹脂(R)に対する非溶媒に浸漬する凝固工程とを含む、アルカリ水電解用隔膜の製造方法を提供する。水分定量方法(I):気化式カールフィッシャー樹脂混合液のサンプル量 0.2g窒素流量 600mL/min気化温度 200℃測定時間 30分【選択図】図1

Description

本発明は、アルカリ水電解用隔膜の製造方法に関する。
近年エネルギー源として注目を集めている水素ガスの工業的な製造方法の一つとして水の電気分解が知られている。水の電気分解は、一般的に、導電性を高めるために水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等を電解質として添加した水に、直流電流を印加することにより行われている。そのような水の電気分解には、陽極室と陰極室を有し、これらが隔膜により仕切られた電解槽が使用される。
水の電気分解は、電子(又はイオン)の移動により行われる。そのため、電気分解を効率よく行うためには、隔膜には高いイオン透過性が必要とされる。また、陽極室で発生した酸素と、陰極室で発生した水素とを遮断し得るガスバリア性が必要とされる。水の電気分解では、30%程度の高濃度のアルカリ性水溶液が使用され、80〜90℃程度で行われる。このため、水の電気分解に使用されるアルカリ水電解用隔膜には耐高温や耐アルカリ性も必要とされる。
アルカリ水電解用隔膜としては、非溶媒誘起相分離法(NIPS)によって製造された多孔性膜がこれまでに種々提案されている。特許文献1では、非溶媒誘起相分離法(NIPS法)にて多孔質膜を製造する際に、多孔質膜の孔径を制御するために水等の添加剤を添加することが好ましい旨が記載されている。
無機粒子を含むアルカリ水電解用隔膜においては、無機粒子の脱落が発生し、安定性ならびに量産性が低下する問題があった。そのため、無機粒子の脱落が抑制され、安定性ならびに量産性に優れた隔膜が求められていた。
特開2017−039874
本発明の課題は、無機粒子の脱落が抑制され、安定性ならびに量産性に優れたアルカリ水電解用隔膜の製造方法を提供することにある。
本発明者らは、有機高分子樹脂と無機粒子とを含むアルカリ水電解用隔膜の製造方法において、有機高分子樹脂と無機粒子とを含み、水の含有量が一定値以下の樹脂混合液を用いて塗膜を形成し、該有機高分子樹脂に対する非溶媒に浸漬することにより、無機粒子の脱落が抑制され、安定性ならびに量産性に優れたアルカリ水電解用隔膜を提供できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明のアルカリ水電解用隔膜の製造方法は、有機高分子樹脂(R)と無機粒子とを含む樹脂混合液であって、下記水分定量方法(I)で測定された水の含有量が該有機高分子樹脂(R)100質量%に対して21質量%以下である該樹脂混合液を用いて塗膜を形成する塗膜形成工程と、該塗膜を、該有機高分子樹脂(R)に対する非溶媒に浸漬する凝固工程とを含む。
水分定量方法(I):気化式カールフィッシャー
樹脂混合液のサンプル量 0.2g
窒素流量 600mL/min
気化温度 200℃
測定時間 30分
上記塗膜は、絶対湿度20g/m以下の環境で1分以内に前記凝固工程に付すことが好ましい。
本発明によれば、無機粒子の脱落が抑制され、安定性ならびに量産性に優れたアルカリ水電解用隔膜の製造方法を提供できる。
本発明のアルカリ水電解用隔膜の製造方法に含まれる、塗膜形成工程および凝固工程の一実施形態を模式的に示す図である。 本発明のアルカリ水電解用隔膜の製造方法で得られるアルカリ水電解用隔膜の断面の一実施形態を模式的に示す断面図である。
以下に本発明を詳述する。なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、本発明の好ましい形態である。また、本明細書において、「A〜B」の記載は、「A以上、B以下」を意味する。
[アルカリ水電解用隔膜の製造方法]
本発明のアルカリ水電解用隔膜の製造方法は、有機高分子樹脂(R)と無機粒子とを含む樹脂混合液であって、下記水分定量方法(I)で測定された水の含有量が該有機高分子樹脂(R)100質量%に対して21質量%以下である該樹脂混合液を用いて塗膜を形成する塗膜形成工程と、該塗膜を、該有機高分子樹脂(R)に対する非溶媒に浸漬する凝固工程とを含む。
水分定量方法(I):気化式カールフィッシャー
樹脂混合液のサンプル量 0.2g
窒素流量 600mL/min
気化温度 200℃
測定時間 30分
図1に、本発明のアルカリ水電解用隔膜の製造方法に含まれる、塗膜形成工程および凝固工程の一実施形態を模式的に示す。塗膜形成工程では、基材11をローラー15を介して搬送し、コーター14を用いて、有機高分子樹脂(R)と無機粒子とを含む樹脂混合液12を塗布し、上記樹脂混合液の塗膜13を得る。塗膜形成工程後、凝固工程で塗膜13を水槽18中の非溶媒16に浸漬する。上記塗膜13を凝固工程に付すまでの工程17は、塗膜13がローラー15を離れてから非溶媒16に浸漬するまでの工程を示す。その後、浸漬後の塗膜13を、ローラー19を介して、水槽18の外に搬送する。以下に、各工程を詳述する。
1.塗膜形成工程
上記塗膜形成工程では、上記有機高分子樹脂(R)[以下、単に樹脂(R)という場合がある]と上記無機粒子とを含む樹脂混合液を用いて塗膜を形成する。上記樹脂混合液では、上記水分定量方法(I)で測定された水の含有量が該有機高分子樹脂(R)100質量%に対して21質量%以下である。
上記塗膜形成工程は、無機粒子分散液調製工程ならびに樹脂混合液調製工程を含むことが好ましい。
1−1 無機粒子分散液調製工程
上記無機粒子分散液調製工程では、上記無機粒子を溶媒と混合して上記無機粒子分散液を調製する。後述の樹脂混合液調製工程において上記無機粒子を上記樹脂(R)と混合する場合、予め上記無機粒子を溶媒に分散させた無機粒子分散液を調製してから上記樹脂(R)と混合することが好ましい。
1−1−1 無機粒子
本発明のアルカリ水電解用隔膜の製造方法では、上記無機粒子を使用することにより、好ましくは、上記無機粒子間あるいは上記無機粒子と上記樹脂(R)との空隙部分に電解液が満たされてイオン透過性を発揮するアルカリ水電解用隔膜を製造することができる。また、上記無機粒子を含むことにより、好ましくはアルカリ水電解用隔膜が親水化し、水の電気分解において発生する酸素ガスや水素ガスが隔膜に付着して電気分解の妨げになることを抑制することができる。
本発明において使用する上記無機粒子としては、例えば、マグネシウム、ジルコニウム、チタン、亜鉛、アルミニウム、タンタル等の水酸化物又は酸化物、カルシウム、バリウム、鉛、ストロンチウム等の硫酸塩等が挙げられる。なかでも、マグネシウム、ジルコニウム、チタン、亜鉛、アルミニウム、タンタル等の水酸化物が好ましい。さらに、上記無機粒子の分散性やアルカリ溶液中での安定性がより一層優れる点で、水酸化マグネシウム、水酸化ジルコニウム、水酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化チタン、硫酸カルシウム、硫酸バリウムが好ましく、水酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、硫酸バリウムがより好ましい。上記無機粒子は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
上記無機粒子としては、天然物であっても合成物であってもよい。また、表面が未処理のものであってもよく、溶媒への分散を向上させるために、シランカップリング剤、ステアリン酸、オレイン酸、脂肪酸、高級脂肪酸、カルボン酸エステル、リン酸エステル等により表面処理したものであってもよい。上記無機粒子の形状は、粒子状であれば特に限定されず、不定形;真球状、長楕円球状等の球状;薄片状、六角板状等の板状;繊維状のいずれの形状であってもよいが、溶媒に分散しやすく、樹脂組成物を調製しやすい点で、球状、板状、繊維状であることが好ましく、アルカリ水電解隔膜のイオン透過性や粒子の保持性の点で、板状であることがより好ましい。
上記無機粒子は、アスペクト比が1.0〜8.0であることが好ましい。アスペクト比が上述の範囲であると、イオン透過性がより一層優れ、均一性に優れた隔膜とすることができる。上記アスペクト比は、1.5〜7.0であることがより好ましく、2.0〜6.0であることがさらに好ましい。
本明細書中、アスペクト比とは、最長径aと最短径bとの比(a/b)を意味し、粉体状の無機粒子をSEMで観察し、得られた画像の任意の10粒子において、解析ソフト等を使用して、各粒子の最長径aと最短径bとの比(a/b)を測定し、それらの比の単純平均値をその粒子のアスペクト比として求めることができる。
上記最長径aとしては、例えば、粒子の形状が板状の場合、粒子の板面の長径を採用し、繊維状である場合は、繊維の長さを採用する。また、最長径aの中点を通って最長径と直行する径のうちの最も短い径を最短径bとする。上記最短径bとしては、例えば、粒子の形状が板状の場合は、粒子の厚みを採用し、繊維状である場合は、繊維の太さを採用する。粒子の厚み及び繊維の太さとしては、最長径aの中点における厚み、太さをそれぞれ採用する。
上記無機粒子の平均粒子径は、上記無機粒子の分散性がより一層優れる点で、0.01〜2.0μmであることが好ましく、0.05〜1.0μmであることがより好ましく、0.1〜0.7μmであることがさらに好ましく、0.2〜0.5μmであることが特に好ましい。なお、上記平均粒子径は、無機粒子と0.2質量%のヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を用いて分散処理を行った無機粒子分散液を用いて、レーザー回折・散乱法による粒度分布測定から求められる体積平均粒子径(d50)である。上記無機粒子の平均粒子径が上述の範囲であると、高いイオン伝導性を示すと共に、イオン透過性、ガスバリア性により優れ、また、無機粒子の脱落がより抑制され、より安定性の高い隔膜とすることができる。
上記無機粒子の比表面積は、隔膜のイオン透過性がより一層優れる点で、5〜35m/gが好ましく、7〜25m/gであることがより好ましく、10〜20m/gであることがさらに好ましい。なお、上記比表面積は、粉体状の無機粒子について液体窒素を用いたBET法により測定される比表面積である。アルカリ水電解用隔膜におけるイオンパスは無機粒子の親水性の高い表面により形成されるため、上記無機粒子の比表面積が上述の範囲であると、イオン透過性により一層優れた隔膜とすることができる。
上記分散液中の上記無機粒子の含有量は、20〜70質量%であることが好ましく、より好ましくは30〜65質量%、さらに好ましくは50〜65質量%である。上記無機粒子の含有量が上述の範囲であると、より高いイオン伝導性を示すと共に、イオン透過性、ガスバリア性、耐熱性及び耐アルカリ性により優れた隔膜とすることができる。また、一般に無機粒子の含有量が20質量%以上と高い場合には、アルカリ溶液中での上記無機粒子の脱落が起こり易くなる。しかしながら、本発明のアルカリ水電解用隔膜の製造方法によれば、無機粒子の含有量が20質量%以上であっても上記無機粒子の脱落が抑制され、高いイオン伝導性を示すと共に、イオン透過性、ガスバリア性、耐熱性及び耐アルカリ性により優れた隔膜とすることができる。
1−1−2 溶媒
上記無機粒子を分散させるための溶媒としては、後に混合する上記樹脂(R)を溶解し得る性質を有するものであれば特に限定されず、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、メチルエチルケトン、トルエン等が挙げられる。これらの溶媒は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。なかでも、上記無機粒子の分散性が良好となる点で、N−メチル−2−ピロリドンが好ましい。
上記無機粒子分散液中の上記無機粒子に対する上記溶媒の使用量は、上記無機粒子100質量部に対して、50〜100質量部が好ましく、50〜90質量部がより好ましく、50〜80質量部がさらに好ましい。
上記無機粒子を上記溶媒に分散させる方法としては、特に限定されず、ミキサー、ボールミル、ジェットミル、ディスパー、サンドミル、ロールミル、ポットミル、ビーズミル、ペイントシェーカー等を用いる方法等、公知の混合分散の手段を適用することができる。中でも、水分制御の観点から、密閉式のボールミルが好ましい。
上記無機粒子分散液中における上記無機粒子の平均粒子径は、好ましくは0.1〜1.0μm、より好ましくは0.15〜0.8μm、さらに好ましくは0.15〜0.5μmである。なお、上記無機粒子分散液中における上記無機粒子の平均粒子径は、動的光散乱法による粒度分布測定から求められ、具体的には実施例に記載の方法で測定できる。
1−1−3 分散剤
上記無機粒子分散液には分散剤を添加しても良い。上記分散剤としては、カチオン系界面活性剤;アニオン系面活性剤;カルボキシ基、リン酸基、スルホン酸基等の親水性官能基を有する従来公知の顔料分散剤等が挙げられる。
カチオン系界面活性剤としては、分子内に炭素数5以上の炭化水素鎖を有するカチオン系界面活性剤がより好ましい。
アニオン系界面活性剤としては、分子内に炭素数5以上の炭化水素鎖を有するアニオン系界面活性剤がより好ましい。
ポリマー顔料分散剤としては、親水性官能基を有するポリマーであれば特に制限されないが、炭素数が5以上の炭化水素鎖を主鎖または側鎖に有するポリマーであることが好ましく、さらに構成単位(繰り返し単位)として炭素数が5以上の炭化水素鎖を含むポリマーであることがより好ましく、構成単位として炭素数が5以上のポリエステルあるいはポリエーテルを含むポリマーであることがさらに好ましい。
このようなポリマーとしては、炭素数が5以上の炭化水素鎖を含む構成単位のみを繰返し単位として含むポリマーであっても、炭素数が5以上の炭化水素鎖を含む構成単位以外の構成単位を繰返し単位としてさらに含むものであってもよい。
また、後者の場合、炭素数が5以上の炭化水素鎖を含む構成単位のみを繰返し単位として含むブロックと他の構成単位から構成されるブロックとからなるポリマーであっても、分子内に、炭素数が5以上の炭化水素鎖を含む構成単位と他の構成単位とがランダムに繋がった構造のポリマーであってもよい。
上記分散剤の使用量は、溶媒100質量部に対して、1〜10質量部が好ましく、1.2〜8.0質量部がより好ましく、1.5〜5.0質量部以下がさらに好ましい。このようにすることにより、無機粒子の分散安定性をより効果的に向上できる。
1−2 樹脂混合液調製工程
上記樹脂混合液調製工程では、上記無機粒子分散液調製工程で調製された上記無機粒子分散液に、上記樹脂(R)を混合して樹脂混合液を調製する。
1−2−1 有機高分子樹脂(R)
有機高分子樹脂(R)は好ましくは上記無機粒子を保持し、上記無機粒子を保持する隔壁として機能でき、上記無機粒子の親水性表面の減少を最小限なものとしながら、アルカリ溶液中で隔膜から上記無機粒子が脱落するのを抑制することができる。
上記樹脂(R)としては、無機粒子を保持し、好ましくはアルカリ溶液中で膨潤することなく、本発明の効果を発揮できる有機高分子樹脂であれば特に限定されない。上記樹脂(R)としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂;ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂;又は、ポリスルホン、ポリスチレン等の芳香族炭化水素系樹脂等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。なかでも、さらに耐熱性、耐アルカリ性に優れたアルカリ水電解用隔膜とすることができる点で、芳香族炭化水素系樹脂が好ましい。
上記芳香族炭化水素系樹脂としては、より具体的には、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンサルファイド等のポリアリーレンサルファイド樹脂、ポリフェニルスルホン、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリアミドイミド等が挙げられる。なかでも、より一層優れた耐アルカリ性を付与することができる点で、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、及びポリフェニルスルホンからなる群より選択された少なくとも1種が好ましく、製造上の観点で、ポリスルホン、ポリエーテルスルホンがより好ましい。
ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、及びポリフェニルスルホンからなる群より選択された少なくとも1種を用いることにより、例えば、非溶媒誘起相分離法や蒸気誘起相分離法を用いて隔膜を製造する際には、スルホニル基が後述の無機粒子との適度な親和性を有することにより、相分離条件の調整が容易となる。また、耐アルカリ性がさらに高くなることで、アルカリ溶液中で長時間使用した場合の寸法や質量、抵抗値の安定性や新たな空孔の発生抑制効果により優れたものとなる。ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、及びポリフェニルスルホンとしては、変性されていない、25℃における接触角が80°以上のものが吸湿抑制等の観点から好ましい。
上記樹脂混合液中の上記樹脂(R)の含有量は、5〜50質量%であることが好ましく、10〜45質量%であることがより好ましく、15〜40質量%であることがさらに好ましい。
上記樹脂混合液を混合する方法としては、上記無機粒子分散液調製工程で記載した混合分散の手段と同様の手段が挙げられる。
上記分散液と上記樹脂(R)は、好ましくは、無機粒子100質量部に対して、上記樹脂(R)が10〜40質量部、より好ましくは12〜35質量部、さらに好ましくは15〜33質量部になるように混合して樹脂混合液とすることが好ましい。また、上記樹脂(R)に対して、前記無機粒子を150体積%以上含むことが好ましい。無機粒子と上記樹脂(R)の含有割合が上述した範囲であると、得られたアルカリ水電解用隔膜のアルカリ溶液中での無機成分の溶出がさらに一層抑制され、より高いイオン伝導性を示すと共に、イオン透過性、ガスバリア性、耐熱性及び耐アルカリ性にもより優れたアルカリ水電解用隔膜を製造できる。
1−2−2 溶媒
上記樹脂混合液を調製する場合には、溶媒を使用しても良い。使用する溶媒としては、上記樹脂(R)を溶解する性質を有するものであれば特に限定されず、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、メチルエチルケトン、トルエン等が挙げられる。なかでも、上記無機粒子と上記樹脂(R)がより均一に分散・混合できる点で、上記無機粒子分散液の調製に使用した溶媒と同じ溶媒が好ましい。
上記樹脂混合液調製工程では、上記無機粒子分散液に対し、上記樹脂(R)を溶液として混合してもよい。上記樹脂(R)の溶液(樹脂溶液)に使用する溶媒としては、上記無機粒子を分散させるための溶媒として挙げたものが好ましく使用できる。
上記無機粒子分散液と上記樹脂溶液とを混合する場合、上記無機粒子分散液中の溶媒と上記樹脂溶液中の溶媒との合計含有量は、上記無機粒子分散液と上記樹脂溶液との合計質量100質量%に対して、30〜75質量%であることが好ましい。より好ましくは、35〜70質量%であり、さらに好ましくは、40〜65質量%である。アルカリ水電解用隔膜の空隙率を好ましい範囲に調整するためにはこのような割合で溶媒を用いることが好ましい。
1−2−3 親水性添加剤
上記樹脂混合液には、親水性添加剤を添加しても良い。上記親水性添加剤としては、有機親水性添加剤であっても良く、無機親水性添加剤であってもよい。上記有機親水性添加剤としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド、分子量10万未満のポリエチレンイミン、ポリアクリル酸、デキストラン等の水溶性ポリマー;界面活性剤;グリセリン;糖類等が挙げられる。上記無機親水性添加剤としては、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化リチウム等が挙げられる。親水性添加剤の使用量は、分散液中の無機粒子100質量部に対して、0.1質量部以上20質量部以下が好ましい。
上記分散液調製工程で調製された分散液に上記樹脂(R)を混合する方法としては、上記分散液と上記樹脂(R)を充分に混合することができる方法であれば特に限定されず、上記分散液に上記樹脂(R)をそのまま混合してもよいし、予め上記樹脂(R)を溶媒に溶解させた樹脂溶液を調製して、上記樹脂溶液と上記分散液とを混合してもよい。なかでも、上記無機粒子と上記樹脂(R)をより均一に分散・混合できる点で、上記樹脂溶液を調製して、上記樹脂溶液と上記分散液とを混合して樹脂混合液とする方法が好ましい。
1−2−4 樹脂混合液
好ましくは上記無機粒子分散液調製工程ならびに上記樹脂混合液調製工程を経て得られた、上記樹脂(R)と上記無機粒子とを含む上記樹脂混合液では、下記水分定量方法(I)で測定された水の含有量が上記樹脂(R)100質量%に対して21質量%以下である。上記水の含有量は、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下である。上記樹脂混合液の上記水の含有量を上記範囲とすることにより、最終的に得られるアルカリ水電解用隔膜を、無機粒子の脱落が抑制され、安定性ならびに量産性に優れたものとすることができる。
水分定量方法(I):気化式カールフィッシャー
樹脂混合液のサンプル量 0.2g
窒素流量 600mL/min
気化温度 200℃
測定時間 30分
なお、上記樹脂混合液では、上記樹脂(R)を含んでいるため、通常のカールフィッシャー装置では、脱水溶剤で樹脂が凝固して電極に付着するため測定が困難である。本発明では、気化式カールフィッシャーにて、溶媒と水分のみを揮発させて定量することにより、上記樹脂混合液中の水分の定量が可能となった。
上記樹脂混合液中の上記水の含有量を上記範囲とするためには、上記無機粒子分散液調製工程ならびに上記樹脂混合液調製工程で用いる上記無機粒子、上記樹脂(R)ならびに溶媒等の各原料の保管ならびに取扱い時に水分を低く制御し、また、上記各工程を湿度の調節された環境で行うことにより制御できる。
1−3 塗膜形成
上記樹脂混合液を用いて塗膜を形成する方法としては、例えば、上記樹脂混合液を基材上に塗布する方法や、上記樹脂混合液中に基材を浸漬させ、上記樹脂混合液が含浸した基材を得る方法等が挙げられる。なかでも、簡便に塗膜を形成できる点で、上記樹脂混合液を基材上に塗布する方法が好ましい。
上記樹脂混合液を基材上に塗布する方法としては、特に限定されず、ダイコーティング、スピンコーティング、グラビアコーティング、カーテンコーティング、スプレー、アプリケーター、バーコーター等を用いる方法等の公知の塗布手段を適用することができる。
上記基材としては、上記樹脂混合液を塗布して塗膜を形成することができるものであれば、特に限定されず、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアセタール、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート等の樹脂からなるフィルム又はシート、ガラス板等が挙げられる。なかでも、ハンドリングが良好である点および原料コストが低減できる点で、ポリエチレンテレフタレートが好ましい。
1−3−1 多孔性支持体
多孔性支持体を含むアルカリ水電解用隔膜を製造する場合は、上記基材として多孔性支持体を使用してもよい。上記多孔性支持体は、多孔質の有機ポリマーであり、イオン透過性を阻害せず、アルカリ水電解用隔膜の支持体となり得る部材である。上記多孔性支持体は、シート状の部材であることが好ましい。
上記多孔性支持体の材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホン、ポリフェニレンサルファイド等のポリアリーレンサルファイド樹脂、ポリケトン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、フッ素系樹脂等の樹脂材料が挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、優れた耐熱性及び耐アルカリ性を発揮できる点で、ポリプロピレン、ポリエチレン、及びポリフェニレンサルファイドからなる群より選択された少なくとも1種の樹脂材料を含むことが好ましく、ポリプロピレン、及びポリフェニレンサルファイドからなる群より選択された少なくとも1種の樹脂材料を含むことがより好ましい。
上記多孔性支持体の形態としては、例えば、不織布、織布(織物)、編物、メッシュ、多孔質膜、フェルト又は不織布と織布の混合布等が挙げられるが、好ましくは、不繊布、織布、メッシュ、又はフェルトが挙げられ、より好ましくは、不織布、織布、メッシュが挙げられる。
上記多孔性支持体としては、なかでも、ポリプロピレン、ポリエチレン、及びポリフェニレンサルファイドからなる群より選択される少なくとも1種の樹脂を含む、不織布、織布、メッシュ、又はフェルトが好ましい。さらに、多孔性支持体としては、ポリフェニレンサルファイドを含む、不織布、メッシュ、又はフェルトが好ましい。上記多孔性支持体中のポリプロピレン、ポリエチレン、及びポリフェニレンサルファイドの含有量は、合計で50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましい。
上記多孔性支持体がシート状である場合、上記多孔性支持体の厚みは、アルカリ水電解用隔膜が本発明の効果を発揮できる限り特に限定されないが、例えば、好ましくは30〜2000μm、より好ましくは50〜1000μm、さらに好ましくは80〜500μm、最も好ましくは80〜250μmである。
また、無機粒子と上記樹脂(R)を含む膜と多孔性支持体とが一体化した複合体であるアルカリ水電解用隔膜を製造する場合は、上記基材上に、上記樹脂混合液を塗布し、その塗液上に上記多孔性支持体を置いて塗液を上記多孔性支持体に含浸させてもよい。
上記樹脂混合液の塗布量としては、特に限定されず、上記隔膜が、上述した効果が発揮できる厚みを有するよう適宜設定すればよい。樹脂混合液の塗布は、基材の片面から行っても良く、表面に行っても良い。いずれの場合も、多孔性支持体を基材とする場合には、多孔性支持体に樹脂混合液が浸みこんでいることが好ましい。
2.凝固工程
本発明のアルカリ水電解用隔膜の製造方法は、上記塗膜を、上記樹脂(R)に対する非溶媒に浸漬する凝固工程を含む。上記塗膜を非溶媒に浸漬させることにより、上記塗膜中に非溶媒が拡散し、非溶媒に溶解しない上記樹脂(R)が凝固する。一方、非溶媒に溶解しうる塗膜中の溶媒は、塗膜から溶出する。このように相分離が生じることにより、上記樹脂(R)(及び無機粒子)が凝固し、多孔質膜が形成される。
2−1 非溶媒に浸漬される塗膜の水の含有量
本発明のアルカリ水電解用隔膜の製造方法では、上記非溶媒に浸漬する時の上記塗膜の水の含有量が、上記樹脂(R)100質量%に対して27質量%以下であることが好ましい。換言すれば、水の含有量が、上記樹脂(R)100質量%に対して27質量%以下である上記塗膜を、上記非溶媒に浸漬することが好ましい。
本発明のアルカリ水電解用隔膜の製造方法では、上記塗膜を、絶対湿度20g/m以下の環境で1分以内に上記凝固工程に付すことが好ましい。上記凝固工程に付すとは、塗膜を液状の非溶媒に浸漬することである。
ここで、上記図1を用いて説明すると、上記塗膜13を凝固工程に付すまでの工程17は、絶対湿度20g/m以下の環境で1分以内であることが好ましい。工程17の絶対湿度は、17g/m以下がより好ましく、15g/m以下がさらに好ましい。また、工程17に要する時間は、0.5分以内であることがより好ましく、0.25分以内であることがさらに好ましい。工程17をこのように制御することにより、塗膜の吸湿を抑えた状態で非溶媒に浸漬できる。そして、無機粒子の脱落がより抑制され、安定性ならびに量産性に優れたアルカリ水電解用隔膜を提供できる。
2−2 非溶媒
上記非溶媒としては、上記樹脂(R)を実質的に溶解しない性質を有するものであれば、特に限定されないが、例えば、イオン交換水;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等の低級アルコール;又はこれらの混合溶媒等が好ましく使用できる。経済性と廃液処理の観点からはイオン交換水が好ましい。また上記非溶媒は、上述した成分以外に、塗膜中に含まれる溶媒と同様の溶媒を少量含んでいてもよい。
上記非溶媒の使用量は、塗膜100質量部、すなわち、塗膜の形成に用いられる樹脂混合液の固形分100質量部に対して、50〜10000質量部であることが好ましい。より好ましくは、100〜5000質量部であり、さらに好ましくは、200〜1000質量部である。得られる隔膜の空隙率を好ましい範囲に調整する点、塗膜中の溶媒を完全に非溶媒中に抽出する点において、非溶媒をこのような割合で使用することが好ましい。
塗膜を浸漬する非溶媒の温度としては、10℃以上が好ましく、15℃以上がより好ましく、20℃以上がさらに好ましい。また、55℃以下が好ましく、50℃以下がより好ましく、45℃以下がさらに好ましい。このような温度とすることにより、製造した隔膜におけるイオンパスをより多く形成でき、高いイオン伝導性を示すと共に、より高いガスバリア性とより高い耐久性を両立したアルカリ水電解用隔膜をより容易に製造できる。
さらに、非溶媒を除去するために、上記工程で凝固した塗膜を乾燥させて、隔膜を得てもよい。
上記塗膜の乾燥温度としては、60〜120℃が好ましい。
乾燥時間としては、0.5〜120分が好ましく、1〜60分がより好ましく、1〜30分がさらに好ましい。
[アルカリ水電解用隔膜]
本発明のアルカリ水電解用隔膜の製造方法で得られるアルカリ水電解用隔膜は、有機高分子樹脂(R)と無機粒子とを含む。上記アルカリ水電解用隔膜は、多孔性支持体を含んでいてもよい。有機高分子樹脂(R)、無機粒子、多孔性支持体については、上記アルカリ水電解用隔膜の製造方法の項で示した好ましい形態を含む形態と同じ態様である。
上記アルカリ水電解用隔膜における上記樹脂(R)の含有量は、好ましくはアルカリ水電解用隔膜100質量%中3〜40質量%である。上記樹脂(R)の含有量が上述の範囲であると、アルカリ水電解用隔膜のイオン透過性や靱性が良好でありながら、アルカリ溶液中でのアルカリ水電解用隔膜からの無機成分の溶出がさらに一層抑制される。また、高いイオン伝導性を示すと共に、イオン透過性、ガスバリア性、耐熱性及び耐アルカリ性にも優れたアルカリ水電解用隔膜となり得る。上記樹脂(R)の含有量は、アルカリ水電解用隔膜100質量%中、より好ましくは5〜35質量%であり、さらに好ましくは7〜30質量%である。
上記アルカリ水電解用隔膜における上記樹脂(R)の含有量は、上記アルカリ水電解用隔膜が上記多孔性支持体を含まない場合は、アルカリ水電解用隔膜100質量%中5〜40質量%であることが好ましく、より好ましくは10〜35質量%、さらに好ましくは10〜25質量%である。上記アルカリ水電解用隔膜が上記多孔性支持体を含む場合は、上記樹脂(R)の含有量は、好ましくはアルカリ水電解用隔膜100質量%中3〜20質量%、より好ましくは5〜18質量%、さらに好ましくは7〜15質量%である。
上記アルカリ水電解用隔膜は、上記無機粒子100質量部に対して上記樹脂(R)を10〜40質量部含むことが好ましく、12〜35質量部含むことがより好ましく、15〜33質量部含むことがさらに好ましい。無機粒子と上記樹脂(R)の含有割合が上述した範囲であると、アルカリ溶液中でのアルカリ水電解用隔膜からの無機成分の溶出がさらに一層抑制される。また、高いイオン伝導性を示すと共に、イオン透過性、ガスバリア性、柔軟性、耐熱性及び耐アルカリ性にも優れたアルカリ水電解用隔膜となり得る。
上記アルカリ水電解用隔膜における上記無機粒子の含有量は、好ましくは、アルカリ水電解用隔膜100質量%中30〜95質量%である。上記無機粒子の含有量が上述の範囲であると、アルカリ溶液中での無機成分の溶出がより一層抑制され、高いイオン伝導性を示すと共に、イオン透過性、ガスバリア性、耐熱性及び耐アルカリ性に優れた隔膜とすることができる。上記無機粒子の含有量は、アルカリ水電解用隔膜100質量%中、より好ましくは32〜92質量%、さらに好ましくは35〜90質量%である。
上記アルカリ水電解用隔膜における上記無機粒子の含有量は、上記アルカリ水電解用隔膜が上記多孔性支持体を含まない場合は、アルカリ水電解用隔膜100質量%中60〜95質量%であることが好ましく、より好ましくは65〜92質量%、さらに好ましくは75〜90質量%である。
上記アルカリ水電解用隔膜が上記多孔性支持体を含む場合は、上記無機粒子の含有量は、好ましくはアルカリ水電解用隔膜100質量%中30〜50質量%、より好ましくは32〜48質量%、さらに好ましくは35〜45質量%である。
また、有機ポリマーに対して、上記無機粒子を150体積%以上(即ち、有機ポリマーの体積の1.5倍の体積量以上)含むことが好ましい。ここで有機ポリマーとは、上記アルカリ水電解用隔膜が上記多孔性支持体を含む場合は、上記樹脂(R)と上記多孔性支持体とを含み、上記アルカリ水電解用隔膜が上記多孔性支持体を含まない場合は、上記樹脂(R)を指す。
図2に、上記アルカリ水電解用隔膜の一実施形態を模式的に示す。アルカリ水電解用隔膜1は、単膜層2と支持体層3を含んでいる。単膜層2は、上記樹脂(R)と無機粒子とを含む層であり、支持体層3は、上記樹脂(R)と無機粒子と多孔性支持体とを含む層である。
上記アルカリ水電解用隔膜において、上述した単膜層2は、上記支持体層3の一方の面に形成されていてもよいし、両面に形成されていてもよい。
また、上記アルカリ水電解用隔膜は、上述した単膜層2は無くても良く、無機粒子と上記樹脂(R)と上記多孔性支持体とが一体化した支持体層3としての複合体であってもよい。上記複合体とすることにより、アルカリ水電解用隔膜の強度と靭性を向上させることができる。
上記アルカリ水電解用隔膜では、膜全体としての空隙率が25〜80%であることが好ましく、30〜75%がより好ましく、35〜70%がさらに好ましい。膜全体としての空隙率が上述の範囲であると、隔膜中の空隙に電解液がより連続的に満たされるため、より高いイオン伝導性を示すと共に、イオン透過性により優れ、かつガスバリア性により優れた膜とすることができる。
上記膜全体としての空隙率は、下記に示す方法により測定された隔膜の実測密度値、および隔膜を構成する各成分の密度値(真密度)および組成比を用いて算出される隔膜の計算密度値より、下記式から算出できる。
空隙率(%)=[1−(実測密度値)/(計算密度値)]×100
実測密度値は、得られた隔膜の任意の場所から切り出した試験片について、質量と体積を測定し、質量を体積で除すことにより算出できる。体積は、試験片の縦方向の長さ、横方向の長さを、ノギスを用いて測定、膜厚を上記膜厚測定方法に基づき測定することにより算出できる。また、試験片の質量は、体積を測定した試験片について小数点以下4桁の精密天秤を用いて測定できる。
上記アルカリ水電解用隔膜のイオン伝導度は、実施例に記載の方法で算出できる。上記アルカリ水電解用隔膜のイオン伝導度は、100mS/cm超であることが好ましい。このようにした場合に、アルカリ水電解における電解効率をより高くできる。
上記アルカリ水電解用隔膜の厚みは、特に限定されず、使用する設備の大きさや取り扱い性等に応じて適宜選択すればよいが、膜の高いイオン伝導性と共に、ガスバリア性やイオン透過性、強度の観点から、50〜2000μmが好ましく、100〜1000μmがより好ましく、100〜500μmがさらに好ましく、150〜350μmが最も好ましい。
また、上述した多孔性支持体を含む場合、上記アルカリ水電解用隔膜の厚みは、好ましくは50〜2000μm、より好ましくは100〜1000μm、さらに好ましくは100〜500μm、最も好ましくは150〜300μmである。
本発明のアルカリ水電解用隔膜の製造方法では、無機粒子の脱落が抑制され、安定性ならびに量産性に優れたアルカリ水電解用隔膜を製造できる。そのため、上記アルカリ水電解用隔膜は、アルカリ性水溶液を電解液とした水の電気分解用の隔膜として好適に使用することができる。また、上述したアルカリ水電解用隔膜の他、アルカリ形燃料電池用セパレータ、1次電池用セパレータ、2次電池用セパレータ等の電池用セパレータ、食塩電解用セパレータ等の用途に用いることができる。
[アルカリ水電解装置]
上記アルカリ水電解用隔膜は、アルカリ水電解装置の部材として用いられる。上記アルカリ水電解装置としては、例えば、陽極、陰極、及び、陽極と陰極の間に配置された上記アルカリ水電解用隔膜を含むものが挙げられる。より具体的には、上記アルカリ水電解装置は、上記アルカリ水電解用隔膜によって隔てられた、陽極が存在する陽極室と、陰極が存在する陰極室とを有する。
陽極、及び陰極としては、ニッケル又はニッケル合金等を含む導電性基体等、公知の電極が挙げられる。
[電解方法]
上記アルカリ水電解用隔膜を備えたアルカリ水電解装置を用いて行う水の電気分解の方法は、特に限定されず、公知の方法で行うことができる。例えば、上述したアルカリ水電解用隔膜を備えたアルカリ水電解装置に、電解液を充填し、電解液中で電流を印加することにより行うことができる。
上記電解液としては、水酸化カリウム又は水酸化ナトリウム等の電解質を溶解したアルカリ性水溶液が用いられる。上記電解液における電解質の濃度は、特に限定されないが、電解効率がより一層向上し得る点で、20〜40質量%であることが好ましい。
また、電気分解を行う場合の温度としては、電解液のイオン伝導性がより向上し、電解効率がより一層向上し得る点で、50〜120℃が好ましく、80〜90℃がより好ましい。電流の印加条件は、公知の条件・方法で行うことができる。
以下に実施例を掲げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
<実施例1>
(1.水酸化マグネシウム分散液の調製)
水酸化マグネシウム(平均粒子径0.28μm)とN−メチル−2−ピロリドン(富士フイルム和光純薬工業社製)を質量比1:1となるよう混合し、ジルコニアメディアボールを入れた密閉式のポットミルにて、室温で6時間分散処理を行うことにより水酸化マグネシウム分散液を調製した。
(2.ポリスルホン樹脂溶解液の調製)
ポリスルホン樹脂(BASF社製、品番ウルトラゾーンS3010、25℃での接触角80〜90°)を30質量%の濃度で80〜100℃にてN−メチル−2−ピロリドン(富士フイルム和光純薬工業社製)に熱溶解させた。
(3.塗液の調製)
上記で得られた水酸化マグネシウム分散液とポリスルホン樹脂溶解液とを、固形分が48質量%かつ水酸化マグネシウム100質量部に対してポリスルホン樹脂(PSU)が25質量部になるように計量し、自転公転ミキサー(シンキー社製、品番あわとり練太郎ARE−500)にて室温で1000rpmで約10分間混合した。得られた混合液を、SUSの200メッシュで濾過することで塗液を得た。
(4.塗液の水分定量方法)
塗液の水の含有量を、平沼産業社製気化式カールフィッシャー(型番AQ−2200)にて、下記の条件で測定した。
水分定量方法(I):気化式カールフィッシャー
樹脂混合液のサンプル量 0.2g(容器底面積2.5cmφ)
窒素流量 600mL/min
気化温度 200℃
測定時間 30分
陽極液 HYDRANAL Coulomat AK(Honeywell社製)
陰極液 HYDRANAL Coulomat CG−K(Honeywell社製)
塗液の水分は樹脂に対して4.2質量%であった。
(5.塗膜の形成)
ポリフェニレンサルファイド不織布(東レ社製、トルコンペーパー#100)上に、乾燥後の隔膜の厚みが全体で250μmになるように塗布し、不織布に塗液を完全に含浸させた。
(6.凝固工程)
塗液を含浸させた不織布を、絶対湿度15g/m以下の環境で0.25分以内に水を満たした水槽に浸漬した。その後、室温にて10分間水浴させ、塗液を凝固させて膜を形成し、水浴後、得られた膜を水から取り出した。
(7.水槽濁りの評価方法)
膜を取り出した後の水槽内の水の濁りを目視で観察した。水の濁りは観察されなかった。
(8.乾燥工程)
水浴後、水から取り出した膜を、乾燥機にて80℃で、30分間乾燥し、不織布と水酸化マグネシウム及びポリスルホン樹脂を含む膜との複合体からなるアルカリ水電解用隔膜1を得た。
(9.膜厚の測定方法)
アルカリ水電解用隔膜1の厚さは、デジマチックマイクロメーター(ミツトヨ社製)を用いて測定した。任意10点を測定し、その平均値を膜厚とした。膜厚は273μmであった。
(10.バブルポイント値の測定)
アルカリ水電解用隔膜1について、リキッドポロシメーター(Porous Materials社製)を用いてバブルポイント値を測定した。具体的には、2.5cmφの隔膜をイソプロパノール中に室温で1時間浸漬させて十分に湿潤させた後、フッ素系溶剤であるGalwick(Porous Materials社製)を隔膜上に満たした。隔膜に対するガス圧を昇圧させていき、イソプロパノールの液膜が破壊されて、Galwickが膜を透過して天秤でその重量を観測した時点のガス圧をバブルポイント値とした。上記隔膜のバブルポイント値は、550kPaであった。
(11.イオン伝導度の測定方法)
アルカリ水電解用隔膜1について、下記測定方法によりイオン伝導度を測定した。その結果、176mS/cmであった。
(測定方法)
測定用の隔膜試料を2枚準備する。
各隔膜試料を用いて、以下のセル構成で形成したセルを25℃の恒温槽内で30分静置した後、以下の測定条件で交流インピーダンス測定を行い、得られた切片成分(Ra)と測定サンプルを入れない場合の切片成分(Rb)および上記膜厚測定方法により得られた膜厚の値を用いて、下記式によりイオン伝導度を測定する。
隔膜試料2枚について上記測定を行い、得られた測定値(2点)の平均値を算出し、これを隔膜のイオン伝導度とする。
[イオン伝導度(mS/cm)]=[膜厚(cm)]÷[(Ra−Rb)×1000×1.77]
(測定条件)
・セル構成
作用極:Ni板
対極 :Ni板
電解液:30質量%水酸化カリウム水溶液
サンプル前処理:上記電解液に1晩浸漬
測定有効面積:1.77cm
・交流インピーダンス測定条件
印加電圧:10mV vs.開回路電圧
周波数領域:100kHz〜100Hz
(12.膜の安定性の評価方法)
アルカリ水電解用隔膜1をアルカリ液に浸漬し、膜成分の脱落を目視で観察したところ、膜成分の脱落は観察されなかった。
(13.総合評価)
アルカリ水電解用隔膜1については、上記の各評価結果より、総合的に膜として優れていた。
<実施例2>
塗液の水分を樹脂に対して13.7質量%とした以外は実施例1と同様にして、アルカリ水電解用隔膜2を得た。膜厚は288μmであった。
凝固工程にて膜を取り出した後の水槽内の水の濁りを目視で観察したところ、水の濁りは観察されなかった。アルカリ水電解用隔膜2の表面光沢の有無を目視で観察したところ、アルカリ水電解用隔膜2の表面は、表面光沢を有していた。実施例1と同様にして測定したアルカリ水電解用隔膜2のバブルポイント値は460kPa、イオン伝導度は174mS/cmであった。
アルカリ水電解用隔膜2をアルカリ液に浸漬し、膜成分の脱落を目視で観察したところ、膜成分の脱落は観察されなかった。
アルカリ水電解用隔膜2については、上記の各評価結果より、総合的に膜として優れていた。
<実施例3>
塗液の水分を樹脂に対して21.0質量%とした以外は実施例1と同様にして、アルカリ水電解用隔膜3を得た。膜厚は287μmであった。
凝固工程にて膜を取り出した後の水槽内の水の濁りを目視で観察したところ、水の濁りは僅かに観察された。アルカリ水電解用隔膜3の表面光沢の有無を目視で観察したところ、アルカリ水電解用隔膜3の表面は、表面光沢をやや有していた。実施例1と同様にして測定したアルカリ水電解用隔膜3のバブルポイント値は410kPa、イオン伝導度は189mS/cmであった。
アルカリ水電解用隔膜3をアルカリ液に浸漬し、膜成分の脱落を目視で観察したところ、膜成分の脱落はほとんど観察されなかった。
アルカリ水電解用隔膜3については、上記の各評価結果より、総合的に膜としてやや優れていた。
<比較例1>
塗液の水分を樹脂に対して30.5質量%とした以外は実施例1と同様にして、アルカリ水電解用隔膜11を得た。膜厚は265μmであった。
凝固工程にて膜を取り出した後の水槽内の水の濁りを目視で観察したところ、水の濁りが観察された。アルカリ水電解用隔膜11の表面光沢の有無を目視で観察したところ、アルカリ水電解用隔膜11の表面は、表面光沢はなかった。実施例1と同様にして測定したアルカリ水電解用隔膜11のバブルポイント値は300kPa、イオン伝導度は190mS/cmであった。
アルカリ水電解用隔膜11をアルカリ液に浸漬し、膜成分の脱落を目視で観察したところ、膜成分の脱落が確認された。
アルカリ水電解用隔膜11については、上記の各評価結果より、総合的に膜として劣っていた。
<比較例2>
塗液の水分を樹脂に対して35.7質量%とした以外は実施例1と同様にして、アルカリ水電解用隔膜12を得た。膜厚は264μmであった。
凝固工程にて膜を取り出した後の水槽内の水の濁りを目視で観察したところ、水の濁りが観察された。アルカリ水電解用隔膜12の表面光沢の有無を目視で観察したところ、アルカリ水電解用隔膜12の表面は、表面光沢はなかった。実施例1と同様にして測定したアルカリ水電解用隔膜12のバブルポイント値は270kPa、イオン伝導度は169mS/cmであった。
アルカリ水電解用隔膜12をアルカリ液に浸漬し、膜成分の脱落を目視で観察したところ、膜成分の脱落が確認された。
アルカリ水電解用隔膜12については、上記の各評価結果より、総合的に膜として劣っていた。
11 基材
12 樹脂混合液
13 塗膜
14 コーター
15 ローラー
16 非溶媒
17 塗膜を凝固工程に付すまでの工程
18 水槽
19 ローラー
1 アルカリ水電解用隔膜
2 単膜層
3 支持体層

Claims (2)

  1. 有機高分子樹脂(R)と無機粒子とを含む樹脂混合液であって、下記水分定量方法(I)で測定された水の含有量が該有機高分子樹脂(R)100質量%に対して21質量%以下である該樹脂混合液を用いて塗膜を形成する塗膜形成工程と、
    該塗膜を、該有機高分子樹脂(R)に対する非溶媒に浸漬する凝固工程と
    を含む、アルカリ水電解用隔膜の製造方法。
    水分定量方法(I):気化式カールフィッシャー
    樹脂混合液のサンプル量 0.2g
    窒素流量 600mL/min
    気化温度 200℃
    測定時間 30分
  2. 前記塗膜を、絶対湿度20g/m以下の環境で1分以内に前記凝固工程に付す、
    請求項1に記載のアルカリ水電解用隔膜の製造方法。
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