以下、添付図面を参照しながら各実施例について詳細に説明する。なお、以下の説明において、用語「所定」は、「あらかじめ規定された」という意味で使用される、
なお、以下では、図1から図5Bを主に参照して、本実施例による巻線形成方法及び巻線形成装置を用いて製造されるステータコイルを利用して好適に製造可能なモータ等の構成を概説してから、図7A以降を主に参照して、本実施例による巻線形成方法及び巻線形成装置について詳説する。
図1は、一実施例によるステータ12の斜視図である。図1には、ロータの図示が省略されている。以下では、円環状のステータコア14を基準として軸方向、径方向及び周方向を定義する。また、ステータコア14の軸方向中心から離れる側を軸方向外側と定義する。
ステータ12は、複数の同芯巻きコイル10と、ステータコア14と、を備えている。複数の同芯巻きコイル10は、後述するように、接合されてステータコイルを形成する。ステータ12は、例えば三相交流モータなどの回転電機に用いられる固定子である。ステータ12は、回転子であるロータ(図示せず)に対して径方向外側に所定のエアギャップを介して配置された、通電によってロータを回転させる磁界を発生する部材である。
ステータコア14は、中空円筒状に形成された部材である。ステータコア14の内径側には、ロータを収容するための空間(内径側空間)18が形成されている。なお、ステータコア14は、絶縁コーティングされた複数の電磁鋼板を軸方向に積層して形成されていてもよい。また、ステータコア14の径方向外側端面には、絶縁コーティングされた軟磁性体粉末を圧縮成型した材料で形成された円筒状のヨークが取り付けられていてもよい。
ステータコア14は、円環状に形成されるバックヨーク20と、バックヨーク20の径方向内側端面から径方向内側(軸中心側)へ向けて延びるティース22と、を有している。ティース22は、バックヨーク20に対して周方向に複数(例えば、48個)設けられており、周方向に沿って等間隔で設けられている。周方向に隣接する2つのティース22の間には、同芯巻きコイル10が保持されるスロット24が形成されている。各スロット24は、径方向内側に開口しており、径方向外側に向けて延びている。各スロット24は、周方向幅が径方向外側ほど大きくなるように形成されている。ステータコア14は、複数のスロット24が軸中心から放射状に延びるように構成されている。
同芯巻きコイル10は、断面が矩形状(具体的には、長方形)に形成された平角線により形成される。この平角線は、導電性の高い例えば銅やアルミニウム等の金属により構成されている。なお、この平角線の断面角部は、R加工されていてもよい。同芯巻きコイル10は、ステータコア14に対して周方向に複数(例えば、48個)配設される。なお、以下で、「エッジワイズ曲げ」とは、平角線の断面短辺側の面を曲げることを指し、「フラットワイズ曲げ」とは、平角線の断面長辺側の面を曲げることを指す。
各同芯巻きコイル10は、平角線の断面短辺方向に複数本の平角線が積層されるように構成されていると共に、平角線が積層される積層方向に隣り合う平角線間に所定の隙間が形成されるように構成されている。例えば、各同芯巻きコイル10の組み付け状態では、ある任意の一のスロット24では、ある一の同芯巻きコイル10のスロット収容部30の各平角線間に、他の一の同芯巻きコイル10のスロット収容部32の各平角線が1本ずつ径方向に挟まれる状態となる。
図2A及び図2Bは、組み付け状態の複数の同芯巻きコイル10の一部を取り出した斜視図であり、図2Aは、径方向内側且つ軸方向外側から視た図であり、図2Bは、径方向外側且つ軸方向内側から視た図である。図3は、組み付け状態の4つの同芯巻きコイル10だけを取り出した斜視図である。図4は、同芯巻きコイル10の単品状態を示す斜視図である。図5A及び図5Bは、同芯巻きコイル10の単品状態を示す図であり、図5Aは、軸方向に視た上面図であり、図5Bは正面図である。
各同芯巻きコイル10はそれぞれ、所定巻回数(例えば4周)で巻回された平角線が曲げ加工されることにより成形されるカセットコイルである。
各同芯巻きコイル10はそれぞれ、図4に示すように、スロット収容部30、32と、コイルエンド部34、36と、径方向内側端部40と、径方向外側端部50とを有している。なお、スロット収容部30、32及びコイルエンド部34、36は、同芯巻きコイル10の本体部(略六角形状の閉ループ部101(図6A参照))を形成する。
スロット収容部30、32はそれぞれ、ステータコア14のスロット24内に挿入(収容)される、そのスロット24を軸方向に貫くように略直線状に延びる部位である。同一の同芯巻きコイル10において、スロット収容部30とスロット収容部32とは、ステータコア14の周方向に所定距離離れた互いに異なるスロット24に収容される。
コイルエンド部34、36はそれぞれ、スロット収容部30、32に接続すると共に、ステータコア14の軸方向端面から軸方向外側に向けて突出した、周方向に離れた2つのスロット収容部30、32同士を繋ぐ部位である。
コイルエンド部36(径方向内側端部40及び径方向外側端部50が形成される側のコイルエンド部)は、図5Bに示すように、頂部361と、斜行部362、363とを含む。斜行部362、363は、頂部361の周方向両側からそれぞれ形成され、スロット収容部30及び32に向かって軸方向内側に傾斜する態様でそれぞれ延在する。
径方向内側端部40及び径方向外側端部50は、周方向に離れた2つの同芯巻きコイル10のスロット収容部30、32同士を繋ぐ。図3に示す例では、周方向に90度ずつ離れた4つの同芯巻きコイル10が、一の同芯巻きコイル10の径方向内側端部40が、当該一の同芯巻きコイル10に隣接する他の一の同芯巻きコイル10の径方向外側端部50に接合する関係で、互いに接続される。なお、このような径方向内側端部40と径方向外側端部50との間の接合は、径方向内側端部40の第4直線部418と、径方向外側端部50の第6直線部510とを重ね合わせた状態で、当該重ね合わせた第4直線部418及び第6直線部510の所定範囲(接合部となる部分)に対して溶接を行うことで実現されてよい。なお、この場合、径方向内側端部40及び径方向外側端部50における接合部は、後述の被覆剥離装置60により絶縁用の被覆(被膜)が溶接時までに除去される。
径方向内側端部40は、図4に示すように、複数の曲げ加工を介して成形される。具体的には、径方向内側端部40は、第1斜行部402と、第1エッジワイズ曲げ部404と、第1直線部406と、第1フラットワイズ曲げ部408と、第2直線部410と、第2エッジワイズ曲げ部412と、第3直線部414と、第3エッジワイズ曲げ部416と、第4直線部418とを含む。
径方向外側端部50は、図4に示すように、複数の曲げ加工を介して成形される。具体的には、径方向外側端部50は、第2斜行部502と、第4エッジワイズ曲げ部504と、第5直線部506と、第2フラットワイズ曲げ部508と、第6直線部510とを含む。
このようにして、径方向内側端部40及び径方向外側端部50は、各種の曲げ部(第1エッジワイズ曲げ部404等)を有する。なお、ここでは、同芯巻きコイル10の特定の構成について説明したが、同芯巻きコイル10の詳細な構成については、任意である。例えば、径方向内側端部40及び径方向外側端部50の形状等は任意である。
次に、図6A以降を参照して、一実施例による被覆剥離方法及び被覆剥離装置60について詳説する。
図6Aは、本実施例による被覆剥離装置60により被覆が剥離される前の同芯巻きコイル10の単品状態を示す斜視図である。図6Bは、同芯巻きコイル10の概略的な断面図である。
なお、上述した各同芯巻きコイル10はそれぞれ、一本の直線状の平角線から形成される。なお、平角線は、図6Bに示すように、断面が矩形状の導体部1200(図6B参照)が絶縁用の被覆(被膜)1300(図6B参照)で覆われ、平角線自体の断面も矩形状である。具体的には、一本の直線状の平角線は、巻線形成装置(図示せず)により略六角形状等に成形されつつ複数回(複数周)巻回され、その後、同芯巻きコイル10のコイルエンド部34、36が、成形装置(図示せず)により最終的な形状(図4参照)へと成形される。そして、その後、同芯巻きコイル10の径方向内側端部40及び径方向外側端部50は、それぞれの接合部の被覆1300が以下で詳説する被覆剥離装置60により剥離された後、平角線成形装置(図示せず)により最終的な形状(図4参照)へと曲げ成形される。このようにして成形された各同芯巻きコイル10はステータコア14に組み付けられ、被覆1300が剥離された接合部同士が接合される。
このように、以下で詳説する被覆剥離装置60により処理される各同芯巻きコイル10は、径方向内側端部40及び径方向外側端部50が真っ直ぐの成形前の状態である。従って、以下の被覆剥離方法及び被覆剥離装置60に関する説明において、同芯巻きコイル10は、特に言及しない限り、図6Aに示すように、径方向内側端部40及び径方向外側端部50が真っ直ぐの成形前の状態であるものとする。すなわち、本実施例による被覆剥離装置60により被覆が剥離される前の同芯巻きコイル10は、閉ループ部101と、閉ループ部から外側へと延在する2つの直線状部位102、103とを有する。なお、上述のように、被覆剥離装置60による処理後に、直線状部位102は、平角線成形装置(図示せず)により、径方向内側端部40の形状へと成形され、直線状部位103は、平角線成形装置(図示せず)により、径方向外側端部50の形状へと成形される。
図7A及び図7Bは、本実施例による被覆剥離装置60を概略的に示す斜視図である。図7A及び図7Bには、剥離処理対象の一の同芯巻きコイル10(径方向内側端部40及び径方向外側端部50については、成形前の真っ直ぐの状態、以下、同様)が、併せて示されている。図7Aには、剥離処理対象の一の同芯巻きコイル10が被覆剥離装置60に対してセットされる直前の状態で模式的に示され、図7Bには、剥離処理対象の一の同芯巻きコイル10の先端部501が被覆剥離装置60に対してセットされた状態で模式的に示されている。
本実施例では、剥離処理対象の一の同芯巻きコイル10の全体のうちの、被覆剥離装置60による被覆が剥離される部位(以下、「剥離対象部位」とも称する)は、直線状部位102、103(図6A参照)のそれぞれの先端部(図7Aの直線状部位103の先端部501参照)に、設定される。すなわち、剥離対象部位は、径方向内側端部40及び径方向外側端部50のそれぞれの接合部に係る被覆が剥離されるように、直線状部位102、103のそれぞれの先端部に、設定される。なお、剥離対象部位は、接合部(上述のように溶接により接合される部位)を包含する限り、接合部よりも若干広い範囲の部位であってよい。
また、図7A及び図7Bには、上下方向がZ方向で定義され、Z方向でZ1側が上側である。また、図7A及び図7Bには、X方向と、X方向に沿ったX1側とX2側が定義されている。また、図7A及び図7Bには、X方向とZ方向の双方に直交するY方向が定義されている。以下では、Y方向内側とは、Y方向における支持部62の位置を中心として、当該中心に向かう側を指し、Y方向外側とは、当該中心から離れる側を指す。
以下では、主に、径方向外側端部50を形成する直線状部位103における先端部501の剥離対象部位に対して処理を行う場合について説明するが、径方向内側端部40を形成する直線状部位102における先端部の剥離対象部位に対して処理を行う場合についても同様である。直線状部位102における先端部に係る被覆を剥離するための被覆剥離装置は、以下で説明する被覆剥離装置60と共通であってもよいが、別に用意されてもよい。
また、同様に、以下では、主に、直線状部位103の先端部501における断面短辺側の面(平角線における対向する2つの面の一例)上の被覆を剥離する場合について説明するが、先端部501における断面長辺側の面上の被覆を剥離する場合についても同様である。断面長辺側の面上の被覆を剥離するための被覆剥離装置は、以下で説明する被覆剥離装置60と共通であってもよいが、別に用意されてもよい。
剥離処理対象の一の同芯巻きコイル10(以下、単に「同芯巻きコイル10」とも称する)は、図7A及び図7Bに示すように、直線状の先端部501がX方向に延在する態様で、被覆剥離装置60に対してセットされる。なお、被覆剥離装置60への同芯巻きコイル10のセットは、ロボットのような機械により実現されてもよいし、人手により実現されてもよい。
図7Cは、本実施例による被覆剥離装置60を概略的に示す正面図であり、図7Dは、本実施例による被覆剥離装置60を概略的に示す側面図である。図8は、第1可動部材64の一部を示す2面図であり、図9は、第1可動部材64の一部を示す斜視図である。図10は、駆動機構68の一部の一例を示す斜視図である。
被覆剥離装置60は、図7Aから図10に示すように、支持部62と、第1可動部材64と、第2可動部材66と、駆動機構68とを含む。
支持部62は、X方向に延在し、XY平面内に延在する支持面を形成する。支持部62には、同芯巻きコイル10の先端部501(剥離対象部位を含む)がX方向(第1方向の一例)に沿って直線状に延在する状態で載せられる。支持部62の支持面には、同芯巻きコイル10の先端部501における断面長辺側の面が面沿いに載置される。
第1可動部材64は、Y方向(第2方向の一例)で支持部62の両側に配置される。第1可動部材64は、支持部62の両側の部分が一体化された一体構成であってよい。第1可動部材64は、同芯巻きコイル10の先端部501における断面短辺側の面(以下、単に「同芯巻きコイル10のY方向側面」とも称する)に向けて移動可能である。すなわち、第1可動部材64は、支持部62の両側からY方向内側へと移動可能(並進移動可能)である。本実施例では、一例として、第1可動部材64は、同芯巻きコイル10の剥離対象面に当接するプレカット位置と、当該面からY方向外側に離れた退避位置との間に移動可能である。なお、図7A、図7B、図7C等では、退避位置にある第1可動部材64が図示されている。
第1可動部材64は、支持部62の両側の構成の基本部分が、Y方向に関して対称である。以下では、第1可動部材64は、支持部62の両側の一方側の部分についてのみ説明する場合があるが、他方側の部分については対称である。
第1可動部材64は、プレカット刃641(第1刃の一例)を有する。プレカット刃641の刃先は、図8に示すように、X方向の所定位置P1(所定位置の一例)に配置される。プレカット刃641の刃先は、Y方向内側に向く向きで、Z方向(第3方向の一例)に延在する。プレカット刃641は、Z方向に平行となる態様で、Z方向に延在する。ただし、変形例では、プレカット刃641の刃先は、Z方向に対してわずかに傾斜する態様で、Z方向に延在してもよい。この場合、プレカット刃641の刃先のX方向の位置は、Z方向の位置に応じて異なる。なお、プレカット刃641の刃先のY方向の位置は、Z方向の各位置で同じである。プレカット刃641は、第1可動部材64に一体的に形成されてもよいし、第1可動部材64の本体部に取り付け可能な刃形成部材により形成されてもよい。
プレカット刃641は、同芯巻きコイル10のY方向側面に対して、Z方向の切れ目を入れる機能を有する。以下、このようにしてプレカット刃641により、同芯巻きコイル10のY方向側面に対して、Z方向の切れ目を入れることを、「プレカット(事前カット)」とも称する。
プレカットの際、第1可動部材64は、プレカット刃641が、同芯巻きコイル10のY方向側面上の被覆に切れ目を入れることができるプレカット位置まで、Y方向内側に移動される。プレカット刃641のZ方向の位置及びプレカット刃641の刃長(Z方向の長さ)は、同芯巻きコイル10のY方向側面上の被覆に対してZ方向の全長にわたる切れ目が入るように、適合される。従って、プレカット刃641の刃長(Z方向の長さ)は、同芯巻きコイル10の先端部501における断面短辺の長さよりもわずかに大きくてよい。
本実施例では、一例として、第1可動部材64は、図8及び図9に示すように、第1部位644と、第2部位646と、接続部位648とを含む。
第1部位644は、図8に示すように、接続部位648よりもX方向X1側に延在する。第1部位644は、第1可動部材64がプレカット位置にあるときに同芯巻きコイル10のY方向側面に当接する当接面6441を有する。当接面6441は、図8に示すように、X方向でX2側から位置P11から位置P12の範囲(第1範囲の一例)にわたり延在する。なお、本実施例では、一例として、当接面6441は、X方向で位置P11から位置P12の範囲の全体にわたり、同芯巻きコイル10のY方向側面に当接する。
第1部位644は、Y方向内側におけるX方向X2側縁部にプレカット刃641を有する。プレカット刃641は、第1部位644の当接面6441に対してY方向内側に突出する。プレカット刃641の突出する高さ(すなわち当接面6441からの刃の高さ)は、被覆の厚みに対応してよい。
本実施例では、図8に示すように、プレカット刃641の刃先は、第1部位644の端面6411(第1端面の一例)と第1部位644の傾斜面6412との角により、形成される。端面6411は、X方向に垂直である(すなわちYZ平面内に延在する)。従って、プレカット刃641は、第1部位644の端面6411上に延在する。なお、本実施例では、一例として、端面6411は、凹部70のX方向X1側の側面に一体化する態様で延在する。傾斜面6412は、Z方向に視てX方向で所定位置P1からX1側へと離れるほど同芯巻きコイル10のY方向側面から離れていく向きで傾斜する。なお、傾斜面6412の斜度を大きくするほど、プレカット刃641の刃先の鋭利さが増す。傾斜面6412の斜度は、必要なプレカット刃641の刃先の鋭利さに応じて適合されてよい。傾斜面6412は、X方向X1側で当接面6441に連続する。
第2部位646は、図8に示すように、接続部位648よりもX方向X2側に延在する。第2部位646は、第1可動部材64がプレカット位置にあるときに同芯巻きコイル10のY方向側面に当接する当接面6461を有する。従って、当接面6461は、上述した第1部位644の当接面6441と面一である。当接面6461は、図8に示すように、X方向でX2側から位置P21から位置P22の範囲(第2範囲の一例)にわたり延在する。なお、本実施例では、一例として、当接面6461は、X方向で位置P21から位置P22の範囲の全体にわたり、同芯巻きコイル10のY方向側面に当接する。
接続部位648は、X方向で第1部位644と第2部位646との間に位置する。接続部位648は、X方向で第1部位644と第2部位646との間をつなぐ。接続部位648は、Y方向内側を向く表面が第1部位644の当接面6461(及び第2部位646の当接面6461)よりもY方向外側に位置する。従って、第1部位644、第2部位646、及び接続部位648は、Z方向に視て、Y方向外側(支持部62から離れる側)に凹む凹部70を形成する。
凹部70は、後述する第2可動部材66の一部(刃形成部材663)がZ方向に通過するためのスペースを形成する機能を有する。凹部70は、Y方向内側の開口部が、図8に示すように、X方向で所定位置P1から位置P22まで延在する。X方向に沿った所定位置P1から位置P22までの長さは、同芯巻きコイル10の先端部501における剥離対象部位のX方向の寸法に対応する。ただし、X方向に沿った所定位置P1から位置P22までの長さは、同芯巻きコイル10の先端部501における剥離対象部位のX方向の寸法よりもわずかに長くてもよい(例えば、第2部位646のY方向内側かつX方向X1側の角部が角Rを有する場合、当該角RのRに相当する寸法だけ長くてもよい)。
このような第1可動部材64によれば、プレカット位置にあるときに、同芯巻きコイル10の先端部501を、第1部位644と第2部位646とによりY方向両側からかつX方向で離れた2つの範囲(第1範囲と第2範囲)で挟持できる。同芯巻きコイル10の先端部501は、剥離対象部位のX方向両側で、第1可動部材64の第1部位644と第2部位646とよりY方向両側から当接される。これにより、同芯巻きコイル10の剥離対象部位は、XY面内で実質的に変位不能となる。以下では、このような、第1可動部材64がプレカット位置にあるときに実現される機能であって、同芯巻きコイル10の先端部501における剥離対象部位のXY面内の変位を第1部位644と第2部位646とにより防止する機能を、「第1可動部材64の第1部位644及び第2部位646による剥離対象部位に対する位置規制機能」とも称する。
第2可動部材66は、Z方向に視て、支持部62に重なる位置に設けられる。第2可動部材66は、支持部62に対して上側から近接又は離反する態様で、Z方向に移動可能である。すなわち、第2可動部材66は、同芯巻きコイル10の先端部501における断面長辺側の面(以下、単に「同芯巻きコイル10の上下面」とも称する)に向けて移動可能(並進移動可能)である。本実施例では、一例として、第2可動部材66は、同芯巻きコイル10の上下面に当接する当接位置と、当該上下面から上側に離れた退避位置との間に移動可能である。なお、図7A、図7C、図7D等では、退避位置にある第2可動部材66が図示されている。
第2可動部材66は、剥離刃661(第2刃の一例)を有する。剥離刃661は、同芯巻きコイル10の剥離対象部位のY方向側面上の被覆を剥離する機能を有する。剥離刃661は、同芯巻きコイル10の剥離対象部位のY方向両側でY方向側面上の被覆を剥離できるように、Z方向に視て、Y方向で支持部62の両側に位置する。剥離刃661は、XZ面に平行な刃面を有し、当該刃面の下端に、下向きの鋭利な刃先を有する。剥離刃661は、Z方向に視て、同芯巻きコイル10のY方向側面上の被覆と導体部との境界面(図6Bの被覆1300と導体部1200との境界面1400参照)に刃面が略一致するように配置される。この場合、当該導体部のY方向側面(図6Bの境界面1400と同じY方向側面1201参照)に沿って剥離刃661がZ方向に移動することで、Y方向側面上の被覆を剥離できる。
剥離刃661は、支持部62の両側の構成がY方向に関して対称である。剥離刃661の刃先は、同芯巻きコイル10の剥離対象部位のX方向の長さに対応する長さで、X方向に延在する。すなわち、剥離刃661の刃長(X方向の長さ)は、同芯巻きコイル10の先端部501における剥離対象部位のX方向の長さに対応する。本実施例では、一例として、剥離刃661の刃先は、X方向に平行に延在するが、X方向に対して傾斜する態様(ただし、XZ面内の刃面は維持)で、X方向に延在してもよい。例えば、剥離刃661の刃先は、X方向に対して5度程度傾斜してもよい。
なお、剥離刃661は、第2可動部材66に一体的に形成されてもよいし、後述するように、第2可動部材66の本体部662に取り付け可能な刃形成部材663により形成されてもよい。
本実施例では、一例として、第2可動部材66は、本体部(ストリッパ)662と、本体部662の両側に、刃形成部材663とを有する。
本体部662の下端面は、同芯巻きコイル10の上面に当接可能である。第2可動部材66が当接位置にあるとき、本体部662の下端面は、同芯巻きコイル10の上面に当接する。従って、第2可動部材66が当接位置にあるとき、同芯巻きコイル10は、本体部662と支持部62とにより上下方向で挟持される。なお、この際、同芯巻きコイル10には、上下方向の押圧荷重(同芯巻きコイル10に変形が生じることがない比較的小さい荷重)が付与されてもよい。
刃形成部材663は、Y方向で本体部662の両側の構成が、Y方向に関して対称である。刃形成部材663は、本体部662のY方向外側に取り付けられる。刃形成部材663は、本体部662に対して上下方向に移動可能である。刃形成部材663は、第2可動部材66(本体部662)が当接位置に至った後、本体部662に対して更に下方に移動可能(並進移動可能)である。刃形成部材663は、上述した第1可動部材64の凹部70を通って第1可動部材64の上面(例えば接続部位648の上面)よりも下方へと移動可能である。
刃形成部材663は、剥離刃661の刃先が剥離終了位置(同芯巻きコイル10の剥離対象部位の下面に一致する位置又はそれよりも下方の位置)に至るまで、本体部662に対して下方に移動可能である。なお、剥離刃661の刃先がX方向に対して傾斜する場合、刃形成部材663は、剥離刃661の刃先における最も上側の位置が同芯巻きコイル10の剥離対象部位の下面に一致する位置又はそれよりも下方の位置に至るまで、本体部662に対して下方に移動可能である。
具体的には、刃形成部材663は、図7C及び図7Dに示すように、X方向X1側の端面6631(第2端面の一例)と、X方向X2側の端面6632と、傾斜面6633と、を有する。端面6631及び端面6632は、X方向に垂直である(すなわちYZ面内に延在する)。剥離刃661は、X方向で端面6631及び端面6632との間に、その全長にわたり延在する。ただし、剥離刃661は、端面6631及び端面6632のそれぞれの角部で鋭利である必要はなく、曲げR形状を有してもよい。傾斜面6633は、Z方向Z2側の縁部に刃先を形成する。傾斜面6633は、Z方向でZ2側に向かうにつれて本体部662に向かう向きに傾斜する。
駆動機構68は、上述した第1可動部材64のY方向の移動や第2可動部材66のZ方向の移動(本体部662に対する刃形成部材663の移動を含む)を実現する。駆動機構68の構成は、任意であり、例えばカム機構を含んでよい。また、駆動機構68は、第1可動部材64のY方向の移動を実現する機構と、第2可動部材66のZ方向の移動を実現する機構とを独立して有してもよいし、連動する態様で有してもよい。また、駆動機構68は、動力源としてアクチュエータ(図示せず)を有する。アクチュエータは、液圧式のピストンや電動式のモータ等により実現されてもよい。なお、図10には、駆動機構68の一部として、カム機構を利用して第1可動部材64のY方向の移動を実現する機構681が示される。この場合、カム保持部材6811が下方に移動すると(矢印R1参照)、カム保持部材6811に設けられるカム68111が、第1可動部材64と一体に可動する可動部6812に作用し、支持部62の両側の可動部6812が互いにY方向に近接する(矢印R2参照)。これにより、第1可動部材64がプレカット位置へと移動する。また、カム保持部材6811が上方に移動すると(矢印R1の逆)、カム68111が、可動部6812に作用し、支持部62の両側の可動部6812がバネによる付勢力により互いにY方向に離反する(矢印R2の逆)。これにより、第1可動部材64が退避位置へと移動する。なお、駆動機構68の動力源(図示せず)の作動は、制御装置(図示せず)により実現される。
次に、図11から図14を参照して、被覆剥離装置60を用いた被覆剥離方法について詳説する。
図11及び図12は、被覆剥離装置60を用いた被覆剥離方法の流れに沿った説明図であり、S111からS116は、それぞれ、図7Cに対応するビューで、被覆剥離装置60の状態を模式的に示す。図13は、同芯巻きコイル10の先端部501の剥離対象部位を模式的に示す2面図である。図13では、剥離対象部位がハッチング領域で示されている。図14は、剥離刃661が作用するときの剥離刃661とプレカット刃641との間の位置関係を説明する上面図である。なお、図14には、同芯巻きコイル10がハッチング領域で模式的に示されている。
被覆剥離方法が実現される被覆剥離工程は、剥離処理対象の一の同芯巻きコイル10(図6A参照)を準備する準備工程後に、実行される。
被覆剥離方法は、まず、S111の状態を形成することを含む。S111の状態は、第1可動部材64及び第2可動部材66がともに退避位置(初期位置)にある被覆剥離装置60に、剥離処理対象の一の同芯巻きコイル10が、その先端部501(剥離対象部位を含む)が支持部62上に載置される態様で、セットされた状態に対応する。
次いで、被覆剥離方法は、S112の状態を形成することを含む。S112の状態は、第1可動部材64が退避位置からプレカット位置に移動すること(矢印R111参照)で実現された状態に対応する。
このようにして第1可動部材64がプレカット位置に移動すると、上述のように、プレカットが実現されることで、図13に示すように、同芯巻きコイル10のY方向側面上の被覆1300に、切れ目C1が入る。なお、切れ目C1の深さD1は、プレカット刃641の突出する高さ(すなわち上述した当接面6441からの刃の高さ)に対応する。また、第1可動部材64がプレカット位置に移動すると、上述のように、第1可動部材64の第1部位644と第2部位646とが同芯巻きコイル10のY方向側面に当接する。すなわち、同芯巻きコイル10の先端部501は、Y方向両側から第1部位644により挟持されるとともに、Y方向両側から第2部位646により挟持される。
次いで、被覆剥離方法は、S113の状態を形成することを含む。S113の状態は、第2可動部材66(本体部662及び刃形成部材663)が退避位置から当接位置に移動すること(矢印R112参照)で実現された状態に対応する。S113の状態は、S112の状態に対して、第2可動部材66の位置が変化しただけであり、第1可動部材64の位置は同じである。すなわち、S113の状態では、第1可動部材64はプレカット位置で維持される。
このようにして第2可動部材66(本体部662及び刃形成部材663)が退避位置から当接位置に移動すると、上述したように、同芯巻きコイル10の先端部501が支持部62と本体部662との間で上下方向に挟持される。なお、この際、同芯巻きコイル10の先端部501は、上述のように、第1可動部材64の第1部位644と第2部位646とによりY方向両側からかつX方向で離れた2つの範囲(第1範囲と第2範囲)で挟持される。すなわち、上述した第1可動部材64の第1部位644及び第2部位646による剥離対象部位に対する位置規制機能が実現された状態である。従って、本体部662の下端面が同芯巻きコイル10の先端部501の上面に当接する際にも、同芯巻きコイル10の先端部501が支持部62に対して位置ずれを起こす可能性は極めて低い。
次いで、被覆剥離方法は、S114の状態を形成することを含む。S114の状態は、第2可動部材66の本体部662に対して刃形成部材663を下方に剥離終了位置まで移動すること(矢印R113参照)で実現された状態に対応する。この際、刃形成部材663の下端部(剥離刃661の刃先を含む)は、上述した第1可動部材64の凹部70を通る。なお、S114の状態は、S113の状態に対して、第2可動部材66の刃形成部材663の位置が変化しただけであり、第1可動部材64の位置及び第2可動部材66の本体部662の位置は同じである。
このようにして刃形成部材663が剥離終了位置に移動すると、上述したように、刃形成部材663により、同芯巻きコイル10の先端部501における剥離対象部位のY方向側面(Y方向両側の側面)上の被覆部分1302(図13参照)が、Z方向に切断されることで、剥離される。図13には、被覆1300全体のうちの、剥離される被覆部分1302が示される。図13において、ラインC10は、Z方向に視たときの刃形成部材663を表すとともに、先端部501における被覆と導体部との境界面(図6Bの被覆1300と導体部1200との境界面1400参照)を表す。なお、刃形成部材663は、当該境界面よりもわずかにY方向外側にオフセットされてもよい。
ここで、剥離刃661とプレカット刃641との間の位置関係について、図14を参照して更に説明する。図14は、S114の状態における剥離刃661とプレカット刃641との間の位置関係を示す。S114の状態、すなわち、第1可動部材64がプレカット位置にあり、第2可動部材66が当接位置にあり、かつ、剥離刃661の刃先が剥離終了位置にある状態では、刃形成部材663の端面6631は、第1可動部材64の第1部位644の端面6411にX方向に対向する。
本実施例では、上述したように、剥離刃661は、X方向X1側では刃形成部材663の端面6631まで延在し、プレカット刃641は、第1部位644の端面6411上に延在する。この際、端面6631と端面6411とは、ともにX方向に垂直な平面であるので、X方向に隣接させることが可能である。これにより、刃形成部材663の端面6631と第1部位644の端面6411との間のX方向の離間距離Δ1を比較的小さくすることが可能となり、剥離刃661のX方向X1側の縁部とプレカット刃641との間でバリが残る可能性を効果的に低減できる。
この場合、刃形成部材663の端面6631と第1部位644の端面6411との間のX方向の離間距離Δ1は、好ましくは、0.075mm以下であり、より好ましくは、0.05mm以下である。ここで、刃形成部材663の端面6631と第1部位644の端面6411との間のX方向の離間距離Δ1は、剥離刃661とプレカット刃641との間のX方向の離間距離に対応するので、バリが残らないようにする観点からは、0mmに近いほうが望ましい。かかる離間距離を0.075mm以下、より好ましくは0.05mm以下とすることで、バリが残る可能性を低減しつつ、公差等の観点から必要なクリアランスを確保できる。
次いで、被覆剥離方法は、S115の状態を形成することを含む。S115の状態は、刃形成部材663を剥離終了位置から元の位置に戻すこと(矢印R114参照)で実現された状態に対応する。S115の状態は、S113の状態と同じである。
次いで、被覆剥離方法は、S116の状態を形成することを含む。S116の状態は、第1可動部材64をプレカット位置から退避位置に戻し(矢印R115参照)かつ第2可動部材66を当接位置から退避位置に戻すこと(矢印R116参照)で実現された状態に対応する。なお、S116の状態は、S111の状態と同じである。
なお、図12に示す例では、S114の状態からS116の状態への変化は、上述した順序で実現されているが、これに限られない。例えば、S114の状態からS116の状態への変化は、まず、第1可動部材64をプレカット位置から退避位置に戻し、次いで、刃形成部材663を剥離終了位置から元の位置に戻し、次いで、第2可動部材66を当接位置から退避位置に戻すことで実現されてもよい。また、これらの動作の一部が同時に実現されてもよい。例えば、第1可動部材64をプレカット位置から退避位置に戻しながら、刃形成部材663を剥離終了位置から元の位置に戻してもよいし、刃形成部材663を剥離終了位置から元の位置に戻しながら、第2可動部材66を退避位置に戻すこととしてもよい。
次いで、被覆剥離方法は、図示しないが、このようにして被覆が剥離された同芯巻きコイル10を、被覆剥離装置60から取り出し、次の剥離処理対象の一の同芯巻きコイル10が被覆剥離装置60上にセットされる。そして、再びS111の状態から繰り返される。
このようにして図11及び図12に示す被覆剥離方法によれば、剥離対象部位に係る被覆を境界付ける切れ目C1がプレカット刃641により形成されてから、当該切れ目C1の延在方向であるZ方向に沿って、Z方向に垂直なX方向に延在する剥離刃661が移動するので、剥離対象部位に係る被覆を、切れ目C1を起点として剥離できる。従って、図11及び図12に示す被覆剥離方法によれば、このような切れ目C1を形成せずに剥離刃661により剥離を行う構成(すなわち、プレカット刃641を有さない構成)に比べて、剥離範囲のX方向X1側の境界(エッジ)が明確となりかつ剥離範囲のX方向X1側の境界位置に関する同芯巻きコイル10ごとのバラつきを低減できる。また、バリ等の発生のような望ましくない品質の発生を防止できる。
なお、図11及び図12に示す被覆剥離方法では、プレカット刃641は、剥離対象部位に係る被覆に対してX方向X1側にのみ設けられ、X方向X2側には設けられない。このため、X方向X2側では、剥離刃661のX方向X2側端部が作用する位置(図13のラインC2参照)に、バリ等が発生しうる。ただし、同芯巻きコイル10の先端部501におけるX方向X2側の末端部位5011は、不要部位として切除されるので、かかるバリ等の発生は問題とならない。なお、図13には、不要部位を切除するためのカットラインC30の一例が示される。この場合、カットラインC30は、剥離刃661のX方向X2側端部が作用する位置(図13のラインC2参照)よりもX方向X1側に設定される。このようカットラインC30で同芯巻きコイル10の先端部501におけるX方向X2側の末端部位5011を切除すると、剥離対象部位に係る被覆(Y方向側面上の被覆)がすべて除去されることになる。
換言すると、図11及び図12に示す被覆剥離方法では、同芯巻きコイル10の先端部501におけるX方向X2側の末端部位5011は、第1可動部材64の第2部位646により支持される部位として機能できる。従って、このような末端部位5011を設定することで、上述した第1可動部材64の第1部位644及び第2部位646による剥離対象部位に対する位置規制機能を実現できる。
また、図11及び図12に示す被覆剥離方法によれば、プレカット位置に第1可動部材64が位置する状態で、第2可動部材66が当接位置まで移動されかつ第2可動部材66の刃形成部材663が剥離終了位置まで移動される。これにより、プレカットが実現された際の同芯巻きコイル10の位置(被覆剥離装置60に対する位置)を確実に維持したまま、被覆剥離装置60の第2可動部材66の剥離刃661を、同芯巻きコイル10の先端部501に対して作用させることができる。すなわち、第1可動部材64の第1部位644及び第2部位646による剥離対象部位に対する位置規制機能が実現されている状態で、剥離刃661による剥離処理を実現できる。この結果、上述したプレカット刃641により形成される切れ目C1の作用とも相まって、剥離対象部位上の被覆(図13のハッチング領域参照)だけを、処理される複数の同芯巻きコイル10の先端部(先端部501等)のそれぞれに対して安定して剥離することが可能となる。
以上説明したように、本実施例の被覆剥離方法及び被覆剥離装置60によれば、とりわけ、以下のような優れた効果が奏される。
本実施例によれば、上述したように、第1可動部材64がプレカット位置に移動することで、プレカット刃641が、同芯巻きコイル10の先端部501における切れ目C1を形成する対象となる面(上記の説明では、Y方向側面)に対して、当該面に垂直な方向に押し当てられる。これにより、切れ目C1を形成する対象となる面に対して面沿いにプレカット刃を移動させる場合に比べて、バリ等の発生を低減できる。
また、本実施例によれば、上述したように、第1可動部材64がプレカット位置にある状態(すなわちプレカット刃641が被覆1300に侵入した状態)のまま、第2可動部材66の剥離刃661による剥離処理が実現される。これにより、かかるプレカット刃641を被覆1300から抜いてから、第2可動部材66の剥離刃661による剥離処理を実現する場合に比べて、被覆を安定して剥離できる。すなわち、プレカット刃641を被覆1300から抜く場合(すなわち第1可動部材64を退避位置に戻す場合)は、当該プレカット刃641による剥離対象部位に対するX方向及びY方向の位置規制がなくなるため、同芯巻きコイル10の剥離対象部位がXY平面内で変位しうる。このような変位が僅かであっても生じると、剥離刃661が作用する位置が所望の位置からわずかにずれうる。かかるずれが生じると、剥離が所望の態様で実現されないおそれがある。これに対して、本実施例によれば、プレカット後においても同芯巻きコイル10の剥離対象部位のXY平面内の変位を規制しつつ、剥離刃661による剥離処理を実現できる。従って、本実施例によれば、剥離対象部位上の被覆を、処理される複数の平角線のそれぞれに対して安定して剥離することが可能となる。
また、本実施例によれば、上述したように、第1可動部材64が第1部位644と第2部位646を備えるので、第1部位644及び第2部位646による剥離対象部位に対する位置規制機能を実現できる。これにより、同芯巻きコイル10の剥離対象部位がXY平面内で実質的に変位不能な状態を、より確実に形成できる。
また、本実施例によれば、上述したように、第1可動部材64は、第2可動部材66の刃形成部材663の移動(剥離終了位置への下方向の移動)を可能とする凹部70を形成するので、第1可動部材64の第1部位644及び第2部位646による位置規制機能が実現されている状態で、剥離刃661による剥離処理を実現できる。この結果、プレカット後においても同芯巻きコイル10の剥離対象部位のXY平面内の変位が実質的に不能となる状態が維持されるので、当該状態のまま、剥離刃661による剥離処理を実現できる。従って、本実施例によれば、剥離対象部位上の被覆を、処理される複数の平角線のそれぞれに対して更に安定して剥離することが可能となる。
また、本実施例によれば、上述したように、プレカット刃641は、剥離対象部位のX方向X1側の境界を規定する位置のみに設けられるので、剥離対象部位のX方向X2側の境界を規定する位置にも設けられる場合に比べて、プレカット刃の数が少なくて済む効率的な構成を実現できる。
以上、各実施例について詳述したが、特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内において、種々の変形及び変更が可能である。また、前述した実施例の構成要素を全部又は複数を組み合わせることも可能である。
例えば、上述した実施例では、剥離処理対象の一の同芯巻きコイル10が固定された状態で、第1可動部材64及び第2可動部材66が移動することで、プレカット刃641及び剥離刃661の、同芯巻きコイル10に対する相対的な移動が実現されているが、これに限られない。例えば、剥離処理対象の一の同芯巻きコイル10が移動されることで、プレカット刃641及び剥離刃661の、同芯巻きコイル10に対する相対的な移動が実現されてもよい。
また、上述した実施例では、第1可動部材64が第1部位644と第2部位646を備えているが、第2部位646が省略されてもよいし、及び/又は、第1部位644の当接面6441が無くされてもよい。また、第1部位644及び/又は第2部位646は、第1可動部材64がプレカット位置にあるときに、同芯巻きコイル10のY方向側面に当接せずに近接(図14のΔ2参照)するだけの構成であってもよい。この場合、近接に係る離間距離は、同芯巻きコイル10のY方向の幅(Y方向両側のY方向側面間の距離)が取りうる最大幅(許容範囲内の最大誤差を含む場合の最大幅)に応じて決定されてよい。例えば、第1部位644及び第2部位646は、同芯巻きコイル10のY方向の幅が誤差に起因して最大幅である場合に、第1可動部材64がプレカット位置にあるときに、同芯巻きコイル10のY方向側面に当接してもよい。この場合、同芯巻きコイル10のY方向の幅が誤差に起因して最大幅となった場合でも、第1部位644及び第2部位646により同芯巻きコイル10のY方向側面が比較的強く押圧されることを防止できる。なお、同芯巻きコイル10のY方向側面が過度に強く押圧されると、圧痕が発生する等の不都合が生じうる。
また、上述した実施例では、プレカット刃641は、剥離対象部位のX方向X1側の境界を規定する位置(すなわちX方向の一の所定位置P1)にのみ設けられるが、これに限られない。すなわち、プレカット刃641は、剥離対象部位のX方向X1側の境界を規定する位置と、剥離対象部位のX方向X2側の境界を規定する位置(すなわち図8に示す位置P22又はその近傍)とに、それぞれ設けられてもよい。この場合、図13に示すラインC2に沿って切れ目を入れることができるので、剥離対象部位のX方向X2側においてもバリ等の発生を低減できる。
また、上述した実施例では、プレカット刃641は、それにより形成される切れ目C1が被覆の厚み分の深さになるように形成されるが、これに限られない。プレカット刃641は、それにより形成される切れ目C1が被覆の厚みに満たない深さになるように形成されてもよい。この場合でも、プレカット刃641が被覆1300に侵入した状態のまま、第2可動部材66の剥離刃661による剥離処理を実現できるので、同芯巻きコイル10の剥離対象部位がXY平面内で実質的に変位しない状態のまま第2可動部材66の剥離刃661による剥離処理を実現することが可能である。
また、上述した実施例では、複数回巻回された状態の同芯巻きコイル10が剥離処理対象とされているが、これに限られない。例えば、ボビン(図示せず)から巻き出された直線状の平角線の状態のまま、被覆剥離装置60により被覆が剥離されてもよい。この場合、剥離対象部位は、2つの同芯巻きコイル10分の接合部に対応した長さを有してよい。この場合、剥離対象部位の長さ方向の中心位置で切断することで、各同芯巻きコイル10の接合部を形成できる。
<付記>
以上の実施例に関し、更に以下を開示する。なお、以下で記載する効果のうちの、一の形態に対する追加的な各形態に係る効果は、当該追加的な各形態に起因した付加的な効果である。
(1)一の形態は、絶縁用の被覆(1300)を有しかつ断面が矩形状であるステータコイル用の平角線(10)を準備する準備工程と、
前記平角線の剥離対象部位における前記被覆を剥離する被覆剥離工程とを含み、
前記被覆剥離工程は、
前記平角線の剥離対象部位が第1方向に延在する状態で、前記平角線における対向する2つの面に対して、前記第1方向に対して垂直な第2方向の両側から、前記第1方向及び前記第2方向の双方に直交する第3方向に延在する第1刃(641)を当てることで、前記剥離対象部位における前記第1方向の端部位置で前記2つの面上の前記被覆に前記第3方向の切れ目(C1)を入れる事前カット工程と、
前記第1刃が前記2つの面に当てられた状態で、前記第1方向に延在する第2刃(661)を、前記平角線に対して前記第3方向に相対的に移動させることで、前記剥離対象部位における前記2つの面上の前記被覆を剥離する剥離工程とを含む、被覆剥離方法である。
本形態によれば、平角線における2つの面上の被覆に切れ目を形成する第1刃が当該2つの面に当てられた状態で、第2刃により剥離対象部位上の被覆が被覆される。これにより、第1刃が当該2つの面から離れた状態で第2刃により剥離対象部位上の被覆が被覆される場合とは異なり、第1刃により切れ目を形成してから第2刃により剥離が完了するまでの間、剥離対象部位の変位を実質的に不能とすることができる。また、本形態によれば、平角線における2つの面上の被覆に切れ目を形成する第1刃は、当該2つの面に対して垂直な方向(第2方向)から当てられるので、当該2つの面に対して平行に刃を移動させる場合に比べて、バリ等が発生し難い。このようにして、本形態によれば、処理される複数の平角線のそれぞれに対して安定して剥離することが可能となる。
(2)また、本形態においては、好ましくは、前記剥離工程において、前記2つの面は、前記第1方向の第1範囲(P11−P12)と、前記第1方向で前記第1範囲から離れた前記第1方向の第2範囲(P21−P22)とで、設備側の部位(644、646)に対して面沿いに前記第2方向で近接又は当接し、前記第1刃は、前記第1方向で前記第1範囲に対して前記第2範囲の側から隣接する所定位置(P1)に位置し、かつ、前記第2刃は、前記第1方向で前記所定位置に対して前記第2範囲の側から隣接する位置から、前記第2範囲まで又は前記第2範囲の近傍位置まで、延在する。
この場合、第1刃により切れ目を形成してから第2刃により剥離が完了するまでの間、剥離対象部位の変位を実質的に不能とすることを、より確実に実現できる。これにより、処理される複数の平角線のそれぞれに対して安定して剥離することが、より確実に可能となる。
(3)また、本形態においては、好ましくは、前記剥離工程において、前記第2刃は、前記第1方向で前記所定位置に対して、0.05mm以下の距離だけ離間する、
この場合、0.05mmよりも有意に大きい距離だけ離間した場合よりも、バリが残り難い態様で剥離を実現できる。
(4)また、本形態においては、好ましくは、前記準備工程の後であって前記被覆剥離工程よりも前に、直線状の前記平角線を、複数回巻回してなる閉ループ部(101)と、前記閉ループ部から外側へと延在する2つの直線状部位(102、103)とを有する形状へと成形する工程を更に含み、
前記剥離対象部位は、前記直線状部位のそれぞれの先端部に設定される。
この場合、平角線が直線状のままの状態で当該平角線から被覆を剥離する場合に比べて、閉ループ部に対して精度の高い位置関係で、直線状部位のそれぞれの先端部に剥離対象部位を設定できる。
(5)また、他の一の形態は、絶縁用の被覆(1300)を有しかつ断面が矩形状であるステータコイル用の平角線(10)から前記被覆を剥離する被覆剥離装置(60)であって、
前記平角線の剥離対象部位が第1方向(X)に延在する状態で載せられる支持部(62)と、
前記第1方向に対して垂直な第2方向(Y)で前記支持部の両側に、前記第1方向及び前記第2方向の双方に直交する第3方向(Z)に延在する第1刃(641)を有する第1可動部材(64)と、
前記第2方向で前記支持部の両側に、前記第1方向に延在する第2刃(661)を有する第2可動部材(66)と、
前記第1可動部材は、前記支持部に対して前記第2方向に相対的に移動することで、前記第1刃により、前記剥離対象部位における前記第1方向の端部位置で、前記平角線における前記第2方向で対向する2つの面上の前記被覆に、前記第3方向の切れ目(C1)を入れ、
前記第2可動部材は、前記第1刃が前記2つの面に当てられた状態で、前記支持部に対して前記第3方向に相対的に移動することで、前記第2刃により前記剥離対象部位における前記2つの面上の前記被覆を剥離する、被覆剥離装置である。
本形態によれば、平角線における2つの面上の被覆に切れ目を形成する第1刃が当該2つの面に当てられた状態で、第2刃により剥離対象部位上の被覆が被覆される。これにより、第1刃が当該2つの面から離れた状態で第2刃により剥離対象部位上の被覆が被覆される場合とは異なり、第1刃により切れ目を形成してから第2刃により剥離が完了するまでの間、剥離対象部位の変位を実質的に不能とすることができる。また、本形態によれば、平角線における2つの面上の被覆に切れ目を形成する第1刃は、当該2つの面に対して垂直な方向(第2方向)から当てられるので、当該2つの面に対して平行に刃を移動させる場合に比べて、バリ等が発生し難い。このようにして、本形態によれば、処理される複数の平角線のそれぞれに対して安定して剥離することが可能となる。
(6)また、本形態においては、好ましくは、前記第1可動部材は、前記第2方向で前記支持部の両側に、第1部位(644)と、第2部位(646)と、前記第1方向で前記第1部位及び前記第2部位の間を接続する接続部位(648)と含み、
前記第1部位は、前記第1刃が前記2つの面に当てられた状態で、前記第1方向の第1範囲(P11−P12)で前記2つの面に前記第2方向で当接し、
前記第2部位は、前記第1刃が前記2つの面に当てられた状態で、前記第1範囲とは前記第1方向で離れた前記第1方向の第2範囲(P21−P22)で前記2つの面に前記第2方向で当接し、
前記第1刃は、前記第1部位において、前記第1方向で前記第1範囲に対して前記第2範囲の側から隣接する所定位置に設けられる。
この場合、第1部位及び第2部位を備えるので、第1刃により切れ目を形成してから第2刃により剥離が完了するまでの間、剥離対象部位の変位を実質的に不能とすることを、より確実に実現できる。これにより、処理される複数の平角線のそれぞれに対して安定して剥離することが、より確実に可能となる。
(7)また、本形態においては、好ましくは、前記第1部位、前記第2部位、及び前記接続部位は、前記第3方向に視て前記第2方向で前記支持部から離れる側に凹む凹部(70)を形成し、
前記凹部は、前記第1刃が前記2つの面に当てられた状態で、前記第2方向で前記支持部の両側に、前記第2刃が通過するスペースを形成する。
この場合、第1部位及び第2部位を備えつつ、第1方向で第1部位と第2部位の間に、第2刃が通過するスペースを形成できる。
(8)また、本形態においては、好ましくは、前記第2刃が前記被覆を剥離する際の状態において、前記第2刃は、前記第1方向で前記所定位置に対して前記第2範囲の側から隣接する位置から、前記第2範囲まで又は前記第2範囲の近傍位置まで、延在する。
この場合、所定位置(第1刃により形成される切れ目に対応する第1方向の位置)に隣接する位置で第2刃を作用させることができるので、当該切れ目を起点として被覆を、第2刃により、より安定した態様で剥離できる。また、第1方向での剥離対象部位の長さを、第1方向での第1部位と第2部位の間の距離に応じて最大化できる。
(9)また、本形態においては、好ましくは、前記第1部位は、前記第1方向で前記第2範囲の側に、前記第3方向に平行な第1端面を有し、
前記第2可動部材は、前記第1方向で前記第1端面よりも前記第2範囲の側に、前記第3方向に平行な第2端面を有し、
前記第2刃が前記被覆を剥離する際の状態において、前記第1端面と前記第2端面は、対向し、
前記第1刃の刃先は、前記第1端面上に位置し、
前記第2刃の刃先は、前記第1方向に沿って前記第2範囲の側から前記第2端面まで延在する。
この場合、第1刃の刃先と第2刃の刃先との間の第1方向の距離を、第1端面と第2端面との間の第1方向の距離まで最小化することが可能となり、バリが残り難い態様で剥離を実現できる。この場合、第1端面は、好ましくは、第1方向に垂直である(すなわち第1方向及び第2方向の双方に平行である)が、第2方向に対して0度よりもわずかに大きい角度をなしてもよい。この場合、例えば、第2方向に対して40度以下の角度をなしてもよい。第2端面についても同様であるが、好ましくは、第1端面と第2端面とは平行である。
(10)また、本形態においては、好ましくは、前記第1部位は、前記第3方向に視て前記第1方向で前記第2範囲から離れるほど前記2つの面から離れる向きで傾斜する傾斜面を、有し、
前記第1刃の刃先は、前記第1端面と前記傾斜面との間の角により形成される。
この場合、第1刃の刃先を鋭利に形成しつつ、第1刃の刃先と第2刃の刃先との間の第1方向の距離を最小化することが可能となる。第1刃の刃先と第2刃の刃先との間の第1方向の距離を最小化することで、バリが残り難い態様で剥離を実現できる。
(11)また、本形態においては、好ましくは、前記第2刃が前記被覆を剥離する際の状態において、前記第1端面は、前記第1方向で前記第2端面に対して、0.05mm以下の距離だけ離間する。
この場合、0.05mmよりも有意に大きい距離だけ離間した場合よりも、バリが残り難い態様で剥離を実現できる。
(12)また、本形態においては、好ましくは、前記平角線は、複数回巻回してなる閉ループ部(101)と、前記閉ループ部から外側へと延在する2つの直線状部位(102、103)とを有し、
前記剥離対象部位は、前記直線状部位のそれぞれの先端部に設定される。
この場合、平角線が直線状のままの状態で当該平角線から被覆を剥離する場合に比べて、閉ループ部に対して精度の高い位置関係で、直線状部位のそれぞれの先端部に剥離対象部位を設定できる。