JP2021073888A - Tcr様抗体の製造方法およびその利用 - Google Patents

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龍彦 小澤
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篤 村口
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Abstract

【課題】TCR様抗体を容易に製造するためのシステムを提供する。【解決手段】目的抗原ペプチドとMHCとの複合体(目的抗原p/MHC)に特異的に結合可能なT細胞受容体(TCR)様抗体を産生する細胞の特定方法であって:(1)基体表面に複数のウェルを有し、ウェルは1つの細胞のみが入る大きさであり、抗体と結合性を有する物質の被覆層を有するウェルに、被検体細胞を格納し;(2)被検体細胞より産生された抗体を被覆層の物質と結合させ;(3)結合した抗体に、TCR様抗体以外の抗体をブロックした後に、目的抗原p/MHCを供与し;(4)目的抗原p/MHCに結合した抗体を検出し、その抗体を産生する細胞を、TCR様抗体を産生する細胞として特定する工程を含む方法を提供する。【選択図】図1B

Description

本発明は、TCR様抗体の製造方法に関する。本発明は、TCR様抗体を用いたがんの免疫療法の分野において有用である。
がん免疫においては、細胞傷害性CD8+T細胞が重要な役割を果たしており、がん細胞を傷害するCD8+T細胞、あるいはそのT細胞受容体(TCR)を利用したがん免疫療法(TCR-T細胞療法)の研究が急速に進展している。しかしながら、TCR-T細胞が自己抗原と反応して、自己免疫病を発症するなどの副作用が報告されており、課題も多い。一方でTCRの代わりに、がん細胞のがん抗原(ペプチド)とMHCクラスIの複合体(p/MHC)に特異的に結合するTCR様抗体を用いた新しい治療法が次世代のがん免疫療法として期待されている。
しかし、がん抗原(ペプチド)とMHCクラスIの複合体で免疫しても、大多数はペプチドとMHCの両方を認識しない抗体が誘導され、目的とするペプチドとMHCの両方を認識するTCR様抗体は僅かしか誘導されない。そのため、TCR様抗体の取得は極めて難しいことが知られている。例えば、Sergeevaらは、Balb/cマウスにリコンビナントのペプチド/MHCを免疫し、ハイブリドーマ法を用いてTCR様抗体を作製するが、抗原として用いたペプチド/MHCと結合したハイブリドーマクローンのうち、TCR様抗体を産生するものは僅か0.5%程度と報告されている(非特許文献1)。
一方本発明者らは、これまでに細胞が1個1個格納できる大きさ・形状の微小ウェルを規則正しく4万5千個〜23万個程度配置したマイクロウェルアレイチップを開発し、そこにB細胞を1個ずつ配置して抗原刺激し、B細胞の細胞内Ca2+濃度の変動やB細胞表面の抗体への抗原の結合を単一細胞レベルで解析することにより、抗原特異的B細胞を同定できることを示してきた。さらに、ウェル周囲のチップ表面を抗原でコートしたマイクロウェルアレイチップを用いることで、より簡便に抗原特異的抗体分泌細胞が検出できることを示してきた(特許文献1)。そしてこのシステム(ImmunoSpot Array Assay on a Chip, ISAAC)を用いることにより、末梢血リンパ球から、目的の抗原に特異的な抗体を産生する細胞を特定し、リコンビナント抗体得るまでを、わずか7日以内に達成できることを示してきた(非特許文献2〜4)。
また本発明者らは、ISAACシステムがリン酸化された抗原に特異的抗体を取得するためにも用いうることを示してきた(特許文献2)。このISAACシステムを利用した方法においては、目的のリン酸化部位に特異的な抗体を産生する細胞を特定するに際し、リン酸化されていない非リン酸化抗原をチップ上に供与して非リン酸化抗原に結合する抗体をブロックする。その後、標識したリン酸化抗原を供与することにより、目的のリン酸化部位に特異的な抗体を産生する細胞を特定する。通常、リン酸化された抗原で動物を免疫した場合、大多数はリン酸化部位を認識しない抗体が誘導されるが、このISAACシステムを利用した方法により、高い獲得効率でリン酸化部位特異的な抗体を得ることができる。そしてこの方法を用いて、様々なリン酸化ペプチドを特異的に認識する抗体が取得され、利用されている(非特許文献5、6)。
特許第4148367号公報 特開2014−73100号公報(特許第6293409号)
Sergeeva et al., Blood, 117(16), 4262-4272 (2011) Jin A et al, A rapid and efficient single-cell manipulation method for screening antigen-specific antibody-secreting cells from human peripheral blood. Nature medicine 2009, 26, 1088-1092 Jin A et al, Rapid isolation of antigen-specific antibody-secreting cells using a chip-based immunospot array. Nature Protocol 2011, 6, 668-676 Ozawa T et al, A Novel Rabbit Immunospot Array Assay on a Chip Allows for the Rapid Generation of Rabbit Monoclonal Antibodies with High Affinity. PLoS One 2012, 7, e52383 Kawasaki et al., Scientific Reports, 6:31502, DOI: 10.1038/srep31502 (2016) Tanaka et al., J. Biol. Chem., 293(7), 2288-2301 (2018)
がんの免疫療法においてTCR様抗体の取得が強く求められている。しかし、従来の方法では、膨大な数のハイブリドーマクローンを樹立した上でその中のごく僅かなクローンのみがTCR様抗体であるため、TCR様抗体の作製には非常に多大な労力を要していた。様々な技術が発達した現在においてもTCR様抗体の取得は容易でなく、その取得の難易度は極めて高い。
本発明は、TCR様抗体の作製を容易にするための新たな手段を提供することを課題とする。
本発明は以下を提供する。
[1] 目的抗原ペプチドとMHCとの複合体(目的抗原p/MHC)に特異的に結合可能なT細胞受容体(TCR)様抗体を産生する細胞の特定方法であって:
(1)基体の一方の主表面に複数のウェルを有し、ウェルは1つの細胞のみが入る大きさであり、ウェルの周辺の主表面の少なくとも一部に抗体と結合性を有する物質の被覆層を有するマイクロウェルアレイの少なくとも一部のウェルに、被検体細胞を培養液とともに格納し;
(2)被覆層およびウェルを培養液に浸漬して、被検体細胞より培養液中に産生された抗体がウェルから被覆層への拡散が可能な状態で被検体細胞を培養して、産生された抗体を被覆層の物質と結合させ;
(3)結合した抗体に、TCR様抗体以外の抗体をブロックした後に、目的抗原p/MHCを供与し;
(4)目的抗原p/MHCに結合した抗体を検出し、その抗体を産生する細胞を、TCR様抗体を産生する細胞として特定する
工程を含む、方法。
[2] 工程(3)で行われるブロックが、非抗原ペプチドとMHCとの複合体(非抗原p/MHC)を供与することにより実施される、請求項1に記載の方法。
[3] 被検体細胞が、目的抗原p/MHCにより免疫された動物から回収したB細胞である、1または2に記載の方法。
[4] 被覆層の物質が、抗IgG抗体である、1〜3のいずれか1項に記載の方法。
[5] 工程(3)で供与される目的抗原p/MHCが、ビオチン化またはタグ化されており、工程(4)における検出が、標識物質とストレプトアビジンとの複合体または標識物質とタグ抗体との複合体を用いて行われる、1〜4のいずれか1項に記載の方法。
[6] 標識物質が、蛍光物質である、5に記載の方法。
[7] 目的抗原ががん関連抗原である、1〜6のいずれか1項に記載の方法。
[8] 1に定義された工程(1)〜(4)を含み、
(5)特定されたTCR様抗体を産生する細胞を少なくとも1個ずつ容器に回収し;
(6)容器内の細胞をPCRに供してTCR様抗体の遺伝子を増幅し;
(7)増幅した遺伝子からリコンビナントTCR様抗体産生用遺伝子を構築して抗体産生用細胞へ導入し;そして
(8)遺伝子が導入された抗体産生用細胞によりリコンビナントTCR様抗体を製造する
工程を含む、TCR様抗体の製造方法。
[9] 目的抗原ががん関連抗原である、7に記載の製造方法。
[10] がんの免疫療法に用いるTCR様抗体を製造するための、7または8に記載の製造方法。
本発明により、容易にTCR様抗体を得ることができる。
ブロッキング法を用いてTCR様抗体特異的ASCを検出するための模式図。ブロッキングなしの場合の手順。a) TCR様抗体ではない抗体の場合、および b) TCR様抗体の場合とも、ビオチン標識p/MHC複合体に結合してシグナルが検出される。 ブロッキング法を用いてTCR様抗体特異的ASCを検出するための模式図。ブロッキングありの場合の手順。非抗原p/MHC複合体で予めブロッキングして、次いでビオチンを標識した目的の抗原p/MHCとCy3標識ストレプトアビジンで検出を行う。a) TCR様抗体ではない抗体の場合、非抗原p/MHC複合体が抗体へ結合する。その結果、目的の抗原p/MHCの結合が阻害されるため、シグナルは検出されないか、もしくはシグナルが弱くなる。b) TCR様抗体の場合の場合、非抗原p/MHC複合体には結合しないが、目的の抗原p/MHCに結合する。その結果、TCR様抗体で特異的に強いシグナルが検出される。 作製したモノクローナル抗体の解析(1)。BRLF1もしくはEBNA3Aペプチドを提示させたT2-A24細胞株に、作製したモノクローナル抗体が結合するか、フローサイトメーターを用いて解析した。アイソタイプコントロールとしてAGIA抗体を用いた。数値は平均蛍光強度(mean fluorescent intensity: MFI)を示している。図2Bについても同じ。 作製したモノクローナル抗体の解析(2)。 ブロッキングによるTCR様抗体の取得効率。(A)TCR様抗体、TCR様ではない抗体の分泌された代表的なISAACのスポット。(B)TCR様抗体とTCR様ではない抗体の蛍光強度の比較。それぞれの群の蛍光強度をプロットした。横線はそれぞれの群の平均値を示している。マン・ホイットニーのU検定を用いてp値を決定した。(C)蛍光強度150未満と150以上の群におけるTCR様抗体の頻度。ブロッキング法を併用したISAAC法を行い、それぞれ細胞よりリコンビナント抗体をスポットの蛍光強度を150未満と150以上に分類し、それぞれにおけるTCR様抗体の頻度を示した。黒はTCR様抗体、薄灰はTCR様ではない抗体の割合を表す。ブロッキングなし(左)、ブロッキングあり(右)。円グラフの中心にある数は、分析した抗体の数を示す。フィッシャーのt検定を用いてp値を決定した。
本発明は、ISAAC法を用いたTCR様抗体の製造に関する。
本発明は、目的抗原ペプチドとMHCとの複合体(目的抗原p/MHC)に特異的に結合可能な抗体、すなわちTCR様抗体を産生する細胞の特定方法を提供する。本発明のTCR様抗体を産生する細胞の特定方法は、下記の工程を含む。
(1)基体の一方の主表面に複数のウェルを有し、ウェルは1つの細胞のみが入る大きさであり、ウェルの周辺の主表面の少なくとも一部に抗体と結合性を有する物質の被覆層を有するマイクロウェルアレイの少なくとも一部のウェルに、被検体細胞を培養液とともに格納し;
(2)被覆層およびウェルを培養液に浸漬して、被検体細胞より培養液中に産生された抗体がウェルから被覆層への拡散が可能な状態で被検体細胞を培養して、産生された抗体を被覆層の物質と結合させ;
(3)結合した抗体に、TCR様抗体以外の抗体をブロックした後に、目的抗原p/MHCを供与し;
(4)目的抗原p/MHCに結合した抗体を検出し、その抗体を産生する細胞を、TCR様抗体を産生する細胞として特定する
工程(1):
工程(1)は、マイクロウェルアレイに、被検体細胞を播種する工程である。本発明には、マイクロウェルアレイとして、前掲特許文献1に詳細に記載されたものと同じものを用いることができる。また、当業者であれば、これらの文献を参照し、本発明のためのマイクロウェルアレイを適宜設計できる。本発明に用いることのできるマイクロウェルアレイは、典型的には多数のマイクロウェルを配したチップであり、具体的には次のようなものである。
基体の一方の主表面に複数のウェルを有し、ウェルは1つの細胞のみが入る大きさである。複数個のマイクロウェルは、同一形状として、同一間隔で縦横に配置することができる。マイクロウェルの形状は、例えば、円筒形、六角柱であり、円筒形の場合、その寸法は、例えば、直径3〜100μmであることができ、好ましくは4〜15μmである。また、深さは、例えば、3〜100μmであることができ、好ましくは4〜40μmである。1つのマイクロウェルアレイチップが有するマイクロウェルの数は、特に制限はないが、抗原特異的リンパ球の頻度が105個に1個から多い場合には約500個であるという観点から、1cm2当たり、例えば、2,000〜1,000,000個の範囲であることができる。またマイクロウェルアレイは、少なくとも前記ウェルの周辺の前記主表面の少なくとも一部に、前記ウェルに格納される細胞の少なくとも一部が産生する物質の少なくとも一部と結合性を有する物質の被覆層を有する。マイクロウェルアレイの素材は、例えばシリコン(Si)である。マイクロウェルアレイの素材は、樹脂でもよい。素材は表面処理されていてもよい。なお本明細書で「X〜Y」で範囲を表すときは、その範囲には、それぞれの両端の値XおよびYも含まれる。
本発明において、ウェルに格納される細胞(被検体細胞)は、目的抗原p/MHCに特異的に結合可能なTCR様抗体を産生する細胞(B細胞)を含む細胞群である。生体から、B細胞を含む末梢血リンパ球群(PBL)を得るための手段は当業者にはよく知られている。PBLからさらにB細胞を分離・純化して、本発明へ適用してもよい。B細胞の分離・純化方法もまた、当業者にはよく知られている。本発明に適用される被検体細胞は、ヒトも含め、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、マウスなどあらゆる動物種由来のものであり得る。特に好ましく適用できる細胞の例は、目的抗原p/MHCにより免疫されたウサギ個体から回収したB細胞である。本発明において被検体細胞としてウサギ由来の細胞を用いることにより、従来のTCR様抗体と比べて、高親和性のTCR様抗体の取得が見込まれ、in situにおいてがん細胞の高感度な検出が期待できる。
目的の抗原による動物の免疫は、通常の方法にしたがうことができる。必要に応じ、完全フロイントアジュバントまたは不完全フロイントアジュバントを用い、適宜、追加免疫操作を行う。免疫開始から数週間経過後、末梢血リンパ球を分離することができる。マイクロウェルアレイチップに播種する際、細胞は、適切な培養液に、0.5〜10×106cells/mL程度の密度に懸濁するとよい。
動物の免疫、および後述するブロッキングのために用いる目的抗原p/MHCの作製は、従来技術を利用して行うことができる。本発明者らは、安価で容易に目的抗原p/MHCを作製するためのプロトコールを整備している(Lyu et al., A novel and simple method to produce large amounts of recombinant soluble peptide/major histocompatibility complex monomers for analysis of antigen-specific human T cell receptors New Biotechnology 2019, 49(25), 169-177)。このプロトコールに拠れば、目的抗原p/MHCの作製にかかるコストを大幅に抑えることができる。なおMHCには、クラスIとクラスIIとがあるが、本発明にはどちらも用いることができる。
さらに本発明に用いられるマイクロウェルアレイは、少なくとも前記ウェルの周辺の前記主表面の少なくとも一部に、前記ウェルに格納されるB細胞が産生する抗体と結合性を有する物質の被覆層を有する。結合性を有する物質は、典型的には、抗免疫グロブリン抗体であり、好ましくは抗IgG抗体である。
結合性物質の被覆層の形成は、基板の被覆層を形成する主表面を、結合性物質と主表面との結合性を確保するために、例えば、シランカップリング剤で表面処理し、次いで、結合性物質を含有する溶液を、シランカップリング剤処理した表面に適用することで形成できる。表面処理は、シランカップリング剤処理に限られず、タンパク質等からなる結合性物質と無機材料(例えば、シリコン材料)あるいは有機材料(例えば、ポリマー材料)からなる基板表面との結合を促進する物質であれば適宜選択して用いることができる。細胞が産生する物質の少なくとも一部と結合性を有する物質の被覆層を有さない前記主表面の少なくとも一部は、適切なブロッキング剤でコートしてもよい。
工程(2):
本発明の工程(2)は、前記被覆層およびウェルを培養液に浸漬して、被検体細胞より培養液中に産生された抗体がウェルから前記被覆層への拡散が可能な状態で被検体細胞を培養して、産生された抗体を被覆層の物質と結合させる工程である。培養によって細胞が抗体を産生し、産生された抗体が培養液に放出され、ウェル内部からウェル周辺の被覆層に拡散する。拡散し、被覆層に到達した産生抗体は、被覆層を構成する抗体と結合性を有する物質(例えば、被検体細胞がウサギ由来である場合は、抗ウサギ抗体)と結合する。抗体を産生しない細胞を格納したウェル周辺の被覆層では産生物質と結合性物質との結合は生じない。
培養条件は、適宜決定でき、培養時間は、被覆層を構成する結合性物質と結合した産生物質の量が、検出可能なレベルになるように適宜決定できる。尚、培養時間が長くなりすぎると、産生物質が広く拡散しすぎて、産生物質を産生する細胞を格納したウェルの特定が困難になる場合があるので、培養時間は、産生物質を産生する細胞を格納したウェルの特定が容易に行なえる範囲で適宜決定することが好ましい。ウサギ由来の抗体産生細胞を用いる場合、培養は、典型的には、30〜40℃で、1〜6時間行うことができ、より特定された条件として、37℃における3時間の培養を例示することができる。
工程(3):
本発明の工程(3)は、ウェルの周辺のチップの主表面の少なくとも一部に結合した抗体に、TCR様抗体以外の抗体をブロックした後に、目的抗原p/MHCを供与する工程である。
この工程では、産生され、アレイ表面の結合性物質にトラップされた抗体に対して、TCR様抗体に特異的でない抗体を、まず、適切なブロッキングのための成分を用いてブロックする。ブロッキングのための成分の好ましい例の一つは、非抗原ペプチドとMHCとの複合体(非抗原p/MHC)である。以下では、ブロッキングのための成分として非抗原p/MHCを用いた場合を例に説明することがあるが、当業者であれば、他の成分を用いた場合にもその説明を適宜応用して、理解することができる。
上述の処理により、ウェル周囲に結合した抗体が目的抗原p/MHCに特異的ではなく、非抗原p/MHCに結合性のものであれば、その抗体には非抗原p/MHCが結合することによりブロックされる。一方、ウェル周囲に結合した抗体が目的抗原p/MHCに特異的であり、目的抗原p/MHCのみに結合するものであれば、その抗体は非抗原p/MHCでブロックされておらず、目的抗原p/MHCが結合することとなる。
目的抗原p/MHCで動物免疫しても、誘導される抗体の多くは、目的抗原p/MHCを特異的には認識しない抗体(TCR様抗体以外の抗体、例えばβ2ミクログロブリンやHLAの重鎖に結合する抗体)であるが、このような抗体であっても目的抗原p/MHCを供与した場合に結合してしまうことがある(図1A)。しかし、ブロッキングを行うことにより、目的抗原p/MHCが、本来の目的であるTCR様抗体以外の抗体に結合できなくなる、もしくは結合できても、結合できる量は非常に限られる。その結果、目的抗原p/MHCに特異的に結合可能なTCR様抗体が特定できる(図1B)。
工程(3)におけるブロッキング処理では、適切な培地または緩衝液に、ブロッキング剤としての非抗原p/MHCを溶解して用いることができる。処理のための条件は、当業者であれば適宜設計できるが、典型的には次のようにして行う。0.1〜1000μg/ml、好ましくは、1〜100μg/ml、より好ましくは5〜50μg/mlの濃度の非抗原p/MHC溶液を、アレイに供与し、0.1〜16時間、好ましくは0.2〜4時間、より好ましくは0.25〜2時間、必用に応じて30〜40℃に保温する。
工程(3)におけるブロッキングに続く処理では、適切な培地または緩衝液に、目的抗原p/MHCを溶解して用いることができる。この処理のための条件は、当業者であれば適宜設計できるが、典型的には次のようにして行う。0.1〜1000μg/ml、好ましくは、1〜100μg/ml、より好ましくは5〜50μg/mlの濃度の目的抗原p/MHC溶液を、アレイに供与し、0.1〜16時間、好ましくは0.2〜4時間、より好ましくは0.25〜2時間、必用に応じて30〜40℃に保温する。
ここで用いられる目的抗原p/MHCは、続く工程(4)で検出可能なように標識化、例えばビオチン化またはタグ化されていてもよい。
工程(4):
本発明の工程(4)は、目的抗原p/MHCと結合した抗体を検出して、その抗体を産生する細胞を、目的抗原p/MHCに特異的に結合可能なTCR様抗体を産生する細胞として特定する工程である。工程(3)においてビオチン化またはタグ化された抗原を用いた場合、検出は、標識物質とストレプトアビジンとの複合体または標識物質とタグ抗体との複合体を用いて行うことができる。ここでいう複合体は結合物と言い換えることもでき、例えば、双方がタンパク質の場合は、融合タンパク質ということもできる。
タグは、典型的には、数個〜数十のアミノ酸長の比較的短いポリペプチド鎖からなる。タグを認識する抗体を一般にタグ抗体といい、タグ抗体のエピトープとなるタグ配列をエピトープタグという。エピトープタグの例は、FLAG(登録商標)、HA、His、Myc、V5等があり、これらの配列および利用方法は当業者にはよく知られている。
複合体化される標識物質としては、免疫染色や多重染色において使用される種々のものを適用できる。例えば、蛍光物質である、AMCA、Alexa Fluor 350、Marina Blue、Cascade Blue、Cascade Yellow、Pacific Blue、Alexa Fluor 405、Alexa Fluor 488、Qdot(R)605、FITC、PE/RD1、ECD/PE−TexasRed、PC5/SPRD/PE−Cy5、PC5.5/PE−Cy5.5、PE Alexa Fluor 750、PC7/PE−Cy7、TRITC、Cy3、Texas Red、Alexa Fluor 647、Alexa Fluor 700、Cy5、Cy5.5、APC、APC7/APC−Cy7、APC Alexa Fluor750が適用できる。
工程(4)のための条件は、当業者であれば適宜設計できるが、工程(3)においてビオチン化またはタグ化された抗原を用い、工程(4)で標識物質とストレプトアビジンとの複合体または標識物質とタグ抗体との複合体を用いて行う場合、典型的には次のようにして行う。0.1〜1000μg/ml、好ましくは、1〜100μg/ml、より好ましくは5〜50μg/mlの濃度の複合体溶液を、アレイに供与し、0.1〜16時間、好ましくは0.2〜4時間、より好ましくは0.25〜2時間、必用に応じて30〜40℃に保温する。
標識物質が蛍光標識である場合、検出は、蛍光顕微鏡や、蛍光イメージスキャナー、イメージリーダ等を用いることができる。
標識物質として蛍光物質を用いる場合、工程(4)における細胞の特定は、標識物質によって提示されるウェル周辺のスポットの蛍光強度に基づいて、効率的に行うことができる。すなわち、本発明の特に好ましい態様の一つは、蛍光強度を利用した目的の抗体を産生する細胞の効率的な特定方法であり、この方法は、下記の工程を含む:
(1)基体の一方の主表面に複数のウェルを有し、ウェルは1つの細胞のみが入る大きさであり、ウェルの周辺の主表面の少なくとも一部に抗体と結合性を有する物質の被覆層を有するマイクロウェルアレイの少なくとも一部のウェルに、被検体細胞を培養液とともに格納し;
(2)被覆層およびウェルを培養液に浸漬して、被検体細胞より培養液中に産生された抗体がウェルから被覆層への拡散が可能な状態で被検体細胞を培養して、産生された抗体を被覆層の物質と結合させ;
(3)結合した抗体に、TCR様抗体以外の抗体をブロックした後に、目的抗原p/MHCを供与し;
(4)目的抗原p/MHCに結合した抗体を検出し、その抗体を産生する細胞を、標識物質によって提示されるウェル周辺のスポットの蛍光強度に基づいて、特定する。
前述のとおり、目的抗原p/MHCが、本来の目的であるTCR様抗体以外の抗体に結合できなくなる、もしくは結合できても、結合できる量は非常に限られる。したがって、TCR様抗体以外の抗体のISAACイムノスポットは、TCR様抗体のISAACイムノスポットと比較して蛍光強度が高い。すなわち、より高い蛍光強度のスポットの細胞を回収することで、TCR様抗体を産生する細胞の獲得効率がより高くなる。
標識物質によって提示されるウェル周辺のスポットの蛍光強度に基づいて細胞を特定するとは、例えば各々ウェルの周辺スポットについて蛍光強度を測定し、蛍光強度が高いほうから50%、より特定すると40%、さらに特定すると30%、さらに特定すると20%、さらに特定すると10%である各ウェルの細胞を、目的のものとして特定することをいう。より具体的には、例えば蛍光強度が測定されたウェル周辺スポット50カ所のうち、蛍光強度が高いほうから20%(10カ所)にあるウェル10個から得られる細胞を、目的のものとして特定する。
ブロッキングを行う本発明の方法において、スポットの蛍光強度に基づいて、細胞を回収することにより、50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、より特定すると85%以上の効率(TCR様抗体を産生する細胞の数/回収した細胞の数)で、TCR様抗体産生細胞を得ることができる。また、蛍光強度が一定未満であるウェルから回収した細胞の産生する抗体は、TCR様抗体ではないということができる。本発明者らの検討によると、ブロッキング法を併用したISAAC法を行った場合、スポットの蛍光強度が強い細胞由来の抗体は、85%以上がTCR様抗体であり、蛍光強度が弱い細胞由来の抗体は、いずれもTCR様抗体ではなかった(実施例、および図3参照)。
本発明のISAACシステムによる目的抗原p/MHCに特異的に結合可能なTCR様抗体の獲得効率は注目に値する。従来技術のプロトコールでは、獲得効率はわずか0.5%であった(前掲非特許文献1)。それに対し、本発明の方法では、効率は著しく増大する。本発明のブロッキング法を併用したISAAC法を用いることで、TCR様抗体を効率的に得ることが可能となる。
他の工程、その他:
本発明の方法においては、いずれの場合も、工程の前、後、または途中おいて、不要な溶液を除去する工程、基板またはウェルを洗浄する工程を追加することができる。
本発明は、上記の本発明の方法で特定した細胞をウェルから回収することを含む、TCR様抗体を産生する細胞の製造方法も提供する。個々のウェルからの目的細胞の回収は、例えば蛍光顕微鏡下で毛細管(キャピラリー)を取り付けたマイクロマニピュレーターを用いて行うことができる。回収した細胞は、培養、分析等、あらゆる目的に供することができる。本発明は、さらに、特定し、回収した細胞から、種々の遺伝情報を回収し、利用して(例えば、目的抗原p/MHC特異的免疫グロブリン遺伝子をPCR(polymerase chain reaction)により増幅し、これを利用して)、リコンビナント抗体産生細胞を製造する方法、およびリコンビナントTCR様抗体を製造する方法も提供する。
リコンビナントTCR様抗体を製造する方法は、具体的には、次の工程を含む:
(1)基体の一方の主表面に複数のウェルを有し、ウェルは1つの細胞のみが入る大きさであり、ウェルの周辺の主表面の少なくとも一部に抗体と結合性を有する物質の被覆層を有するマイクロウェルアレイの少なくとも一部のウェルに、被検体細胞を培養液とともに格納し;
(2)被覆層およびウェルを培養液に浸漬して、被検体細胞より培養液中に産生された抗体がウェルから被覆層への拡散が可能な状態で被検体細胞を培養して、産生された抗体を被覆層の物質と結合させ;
(3)結合した抗体に、TCR様抗体以外の抗体をブロックした後に、目的抗原p/MHCを供与し;
(4)目的抗原p/MHCに結合した抗体を検出し、その抗体を産生する細胞を、TCR様抗体を産生する細胞として特定し;
(5)特定されたTCR様抗体を産生する細胞を少なくとも1個ずつ容器に回収し;
(6)容器内の細胞をPCRに供してTCR様抗体の遺伝子を増幅し;
(7)増幅した遺伝子からリコンビナントTCR様抗体産生用遺伝子を構築して抗体産生用細胞へ導入し;そして
(8)遺伝子が導入された抗体産生用細胞によりリコンビナントTCR様抗体を製造する。
工程(1)〜(4)については、既に述べた説明がこのリコンビナントTCR様抗体の製造方法の場合にも当てはまる。
本発明に適用可能な、MHCと複合体を形成する目的抗原ペプチドの好ましい例の一つは、がん関連抗原に由来する抗原ペプチド(がん関連抗原ペプチド)である。がん関連抗原の例は、本明細書の実施例に示したもののほか、WT1、CEA、CA19−9、CA125、PSA、CA72−4、SCC、MK−1、MUC−1、p53、HER2、G250、gp−100、MAGE、BAGE、SART、MART、MYCN、BCR−ABL、TRP、LAGE、GAGE、およびNY−ESO1等がある。
目的抗原ペプチドががん関連ペプチドである場合の、目的抗原p/MHC複合体に特異的に結合可能なTCR様抗体は、がんの免疫療法に有用である。がんには、成人のがんおよび幼児期のがんが含まれ、また消化器がん、肺がん、および難治性の食道がん、頭頸部がん、卵巣がん、多発性骨髄種等が含まれる。
本発明の方法は、本発明で疾患または状態に関連して「処置」というときは、特に記載した場合を除き、発症リスクの低減、予防、治療、進行の抑制を含む。
本発明の方法により、様々ながんペプチド/MHCのみならず、ネオアンチゲン由来ペプチド/MHCを特異的に認識できるTCR様抗体の作製が見込まれる。これらTCR様抗体を用いたCAR−T細胞療法やBiTE療法を用いた新たな免疫療法を開発することで、高い奏功率が期待され、がん免疫療法の新たな突破口が開けると期待される。
本発明は、ペプチド/MHCを特異的に認識するTCR様抗体を作製する技術基盤を提供するもので、特にがん治療に焦点を当てている。一方この一連の技術は、がんペプチド/MHCに特異的な抗体作製だけでなく、予後不良因子との報告があるがん浸潤制御性T細胞や、自己免疫疾患などに関与するT細胞由来TCRの抗原ペプチド/MHCなどにも応用可能である。この技術基盤により、がん研究だけでなく、これまで未解決だった基礎的研究への応用、即ち、自己免疫疾患など様々な疾患の病態・病因の解明が大きく進展することが期待される。
TCR様抗体はTCRと同様にがん細胞に特異的に結合することから、がん細胞を可視化する技術開発にもつながる。
また、本研究の対象としているがん細胞以外にも、ウイルス等による感染及びそれによる疾患(感染症)または状態の研究にも同様の波及効果をもたらすことが期待される。感染症には、ウイルス感染症(例えば、後天性免疫不全症候群(AIDS)、成人T細胞性白血病、エボラ出血熱、インフルエンザ、ウイルス性肝炎、ウイルス性髄膜炎、黄熱、風邪症候群、狂犬病、サイトメガロウイルス感染症、重症急性呼吸器症候群 (SARS)、進行性多巣性白質脳症、水痘、帯状疱疹、手足口病、デング熱、伝染性紅斑、伝染性単核球症、天然痘、風疹、急性灰白髄炎(ポリオ)、麻疹 、咽頭結膜熱(プール熱)、マールブルグ出血熱、ハンタウイルス腎出血熱、ラッサ熱、流行性耳下腺炎、ウエストナイル熱、ヘルパンギーナ、チクングニア熱)、細菌感染症、リケッチア感染症、寄生性感染症、プリオン病が含まれる。
以下、本発明を実施例により説明する。
[抗原の調整]
抗原となるEBウイルスの抗原BRLF1ペプチドとSCTの複合体(BRLF1/SCT)およびEBNA3A/SCTの調整は、非特許文献6に従って行った。簡潔にはペプチド、β2ミクログロブリン、HLA-A24の重鎖、AviTag (非特許文献7)、10xHisTagを一本鎖で繋いで融合したMHC/複合体遺伝子を、pcDNA3.4ベクター(Thermo Fisher Scientific)に組み込んだ。このプラスミドをExpi293FTM細胞(Thermo Fisher Scientific)に導入し、1週間培養させ、その培養上精中に抗体タンパクを分泌させた。その培養上清を500mM NaCl, 20mMリン酸緩衝液, pH 8.0に対して透析を行った。透析後Ni-NTAを用いてアフィニティー精製を行った。
ビオチン化BRLF/SCTの調整には、BRLF1/SCTのプラスミドと共に、pcDNA3.4ベクターにBirAを組み込んだプラスミド(非特許文献6)をExpi293F細胞に導入し、100μMのビオチンを含んだ培養液で1週間培養させ、その培養上精中に抗体タンパクを分泌させた。その後同様にその培養上清を500mM NaCl, 20mMリン酸緩衝液, pH 8.0に対して透析を行った。透析後Ni-NTAを用いてアフィニティー精製を行った(非特許文献8、9)。
[ウサギへの免疫および細胞の調製]
ウサギの実験は、富山大学の動物実験委員会により承認された。11〜13週齢で体重2kgのニュージーランドホワイトウサギ(Sankyo Lab)を、完全フロイントアジュバント(CFA,Millipore)で混和した500μgのBRLF1/SCTを皮下免疫した。一次免疫の2、4、および6週間後に、そのウサギを不完全フロイントアジュバント(IFA,Millipore)で混和した500μgのBRLF1/SCTを追加免疫した。その最後の追加免疫の1週間後、リンパ組織(末梢血リンパ球(PBMC)、脾臓細胞(spleen)、骨髄細胞(BM))、を分離し、IgG+細胞を、ウサギIgG特異的抗体コンジュゲートマイクロビーズ(Miltenyi Biotec)と、LSカラム(Miltenyi Biotec)を用いて、製造者の説明書にしたがって分離した。
[マイクロウェルアレイチップによるウサギASCの検出]
マイクロウェルアレイチップおよびISAAC法の詳細および説明は、以前の文献(前掲非特許文献2、3、4、特許文献2)に記述されている。簡潔には、そのチップの表面をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中の抗ウサギIgG-Fc抗体(10μg/ml)でコートし、それを4℃で一夜保温した。その抗体溶液を除去した後、そのチップを0.01%のBiolipidure (NOF Corporation)で室温において30分間ブロッキングし、次いでそれを10%FCSを含むRPMI培地で洗浄した。次いで培地中の細胞をそのチップに配列し、ウェルの外側に残った細胞を培地にて穏やかな洗浄により除去した。そのチップ上の細胞を37℃で3時間培養した。PBSにて穏やかに洗浄した後、そのチップ上に20μg/mlのENA3A/SCTを添加し、それらを室温で30分間保温した。PBSにて緩やかな洗浄後、5μg/mlのビオチン化BRLF1/SCTを添加し、それらを室温で30分間保温した。PBSにて緩やかな洗浄後、Cy3コンジュゲートストレプトアビジン(Sigma)を添加して30分間保温した。PBSにて緩やかな洗浄後、最後に1μMのCell Trace Oregon Green (Molecular Probes)を用いて室温で5分間染色した。単一の細胞から放出された抗原特異的抗体を蛍光顕微鏡(BX51WI, Olympus)の下で観察した。抗原特異的ASCを個々のウェルから蛍光顕微鏡下で毛細管(Primetech)を取り付けたマイクロマニピュレーター(TransferMan 4r, Eppendorf)を用いて回収し、次いでそれらを逆転写のためにマイクロチューブに吐出した。
[抗体の産生]
回収した単一細胞からのVHおよびVL断片に関する抗体遺伝子の増幅法は、以前の文献(前掲非特許文献2、非特許文献10、11、特許文献2)に記述されている。簡潔には、15U SuperScriptTM III (Invitrogen)により、それぞれ0.25pmolのIgγ-RT(5'-GCGAGTAGAGGCCTGAGGAC-3'SEQ ID NO.:1)およびIgκ-RT(5'-GATGCCAGTTGTTTGGGTGGT-3' SEQ ID NO.:2)プライマー、1U RNase阻害剤 (New England Biolabs)、0.5mMのそれぞれのdNTP、5mM DTT、0.2% Triton-X100、および1×1st strand cDNA緩衝液(Invitrogen)を用いて、55℃で1時間逆転写を実施した。cDNAの3'テイリング(3'-tailing)を、20U 末端デオキシヌクレオチドトランスフェラーゼ(Roche)により、4mM MgCl2、0.5mM dGTP、50mM P-K緩衝液(25mM K2HPO4および25mM KH2PO4、pH7.0)および1U RNase阻害剤を用いて、37℃で1時間実施した。第1PCRを、dCアダプタープライマー(5'-AGCAGTAGCAGCAGTTCGATAACTTCGAATTCTGCAGTCGACGGTACCGCGGGCCCGGGATCCCCCCCCCCCCCDN-3'SEQ ID NO.:3)ならびにγ鎖(Igγ-1st:5'-CGAGTTCCAAGTCACGGTCA-3'SEQ ID NO.:4)およびκ鎖の定常領域(Igκ-1st:5'-CTCCCAGGTGACGGTGACAT-3'SEQ ID NO.:5)の混合物を用いて実施した。それぞれの産生物の増幅を、primeSTAR DNAポリメラーゼ(TaKaRa)を用いて、製造業者の説明書にしたがって実施した:30サイクルの、94℃で15秒間の変性、55℃で5秒間のアニーリング、および72℃で1分30秒間の伸長。次に、結果として得られたPCR産物を水で4倍希釈し、それぞれ2μlをネステッドPCRのために用いた。ネステッドPCRをアダプタープライマー(5'-AGCAGTAGCAGCAGTTCGATAA-3'SEQ ID NO.:6)およびγ鎖 (Igγ-nest:5'-GCCTTTGACCAAGCAGCCCAA-3'SEQ ID NO.:7)またはκ鎖定常領域(Igκ-nest:5'-CGGGAAAGTATTTATTCGCCACA-3'SEQ ID NO.:8)に特異的なそれぞれのネステッドプライマーにより、primeSTAR DNAポリメラーゼを用いて実施した。そのPCR産物を、ウサギγまたはκ鎖に関する完全な定常領域cDNAを含有する発現ベクターの中に挿入した。その後、Expi293FTM細胞(Thermo Fisher Scientific)をその完全な抗体分子をコードするγ鎖およびκ鎖発現ベクター両方により、Expi293 Expression System(Thermo Fisher Scientific)を用いて同時形質移入し、培養した細胞の上清を7日後に集め、次いでリコンビナントモノクローナル抗体をプロテインGカラム(GE Healthcare)を用いて精製した。その組換え抗体の抗原特異性をELISAにより調べた。
[リコンビナント抗体のAPCラベル]
精製したリコンビナント抗体のACPラベルは、Allophycocyanin Labeling Kit-NH2(同人化学研究所)を用いて、製造者の説明書にしたがって行った。
[細胞を用いた抗体特異性の確認]
HLA-A24が発現したT2A24細胞株を、10μg/mlのBRFL1ペプチド(TYPVLEEMF SEQ ID NO.:9)もしくはEBLA3Aペプチド(RYSIFFDYM SEQ ID NO.:10)を含むRPMI-10%FCS培地で、37℃, 5%-CO2で1晩培養することで、T2A24細胞株のHLA-A24にBRFL1ペプチドもしくはEBNA3Aペプチドを提示させた。ペプチドを提示させた細胞をPBSにて緩やかに洗浄後、200 ng/mlのAPCラベルしたリコンビナントモノクローナル抗体を添加し、室温で20分インキュベートした。PBSにて緩やかに洗浄後、フローサイトメーター(FACSCanto, BD Biosciences)にてCy3の蛍光強度を測定した。アイソタイプコントロールとしてAGIA抗体(非特許文献:13)を用いた。
[蛍光強度の測定]
ISAACシグナルの蛍光強度を決定するため、ImageJソフトウェア(NIH)を用いてISAACイムノスポットのCy3の蛍光強度を測定した。
[結果]
BRLF1/SCTを免疫したウサギより分離したリンパ球を用いて、EBNA3A/SCTを用いてブロッキングしたISAAC法にて検出した72個の細胞を回収した。ここから28個のVHおよびVLのcDNAペアを単離した。それぞれのcDNAのペアをExpi293F細胞の中に形質移入し、リコンビナントモノクローナル抗体を産生した。最終的に、ELISAによりBRLF1/SCTと結合する18個のリコンビナントモノクローナル抗体を得た。
次に、これらの抗体のcDNA配列を決定した。その結果、VHおよびVLのペアで他とは異なるアミノ酸配列のクローンと、同一のアミノ酸配列のクローンの、計14種類に分類することができた。
これら14種類の抗体が、TCR様抗体であるかを検証した。BRLF1ペプチドもしくはEBNA3Aペプチドを提示したT2-A24細胞株に対してフローサイトメーターを用いて検証したところ、6種類(0521-21, 0521-23, 0521-24, 0521-28, 0521-34, 0619-03)はBRLF1ペプチドを提示することで、EBNA3Aペプチドを提示したT2-A24細胞株よりも平均蛍光強度(mean fluorescent intensity: MFI)が高く、強い結合が認められた。これらをTCR様抗体と定義した。一方8種類(0514-09, 0521-16, 0521-27, 0606-12, 0619-01, 0619-07, 0619-10, 0619-26)はBRLF1ペプチドを提示しても、EBNA3Aペプチドを提示したT2-A24細胞株と同等の結合が認められた。もしくはペプチドを提示したT2-A24細胞株とは結合が認められなかった。これらをTCR様ではない抗体と定義した(図2Aおよび図2B)。
最後に、TCR様抗体とTCR様ではない抗体を産生していた細胞由来スポットのCy3蛍光強度の違いについて解析した。各スポットのCy3蛍光強度の最大値は、TCR様抗体の群では169.0±15.8(平均値±SD)、TCR様ではない抗体の群では81.0±24.7(平均値±SD)であり、TCR様抗体の群の方が優位に高かった(p < 0.002、マン・ホイットニーのU検定)。また、蛍光強度が150以上の群と150未満の群におけるTCR様抗体の頻度を比較したところ、150以上の群では85%以上がTCR様抗体であったのに対し、150未満の群はいずれもTCR様抗体ではなかった(p < 0.001、フィッシャーのt検定)(図3)。これらの結果より、本発明のブロッキング法を併用したISAAC法を行い、スポットの蛍光強度が高い細胞由来の抗体を得てくることで、高確率でTCR様抗体が得られることが示された。
[実施例の項で引用した文献]
非特許文献6:Lyu F et al, A novel and simple method to produce large amounts of recombinant soluble peptide/major histocompatibility complex monomers for analysis of antigen-specific human T cell receptors. New Biotechnology 2019, 49, 169-177
非特許文献7:Altman JD et al, MHC-peptide tetramers to visualize antigen-specific T cells. Curr Protoc Immunol 2016;115. 17 3 1-3 44.
非特許文献8:Beckett D et al, A minimal peptide substrate in biotin holoenzyme synthetase-catalyzed biotinylation. Protein Sci 1999, 8, 921-929.
非特許文献9:Fairhead M et al, Site-specific biotinylation of purified proteins using BirA. Methods Mol Biol 2015, 1266, 171-84.
非特許文献10:Ozawa T et al, Amplification and analysis of cDNA generated from a single cell by 5'-RACE: application to isolation of antibody heavy and light chain variable gene sequences from single B cells. Biotechniques 2006, 40, 469-470, 472, 474 passim.
非特許文献12:Ozawa T et al, Comprehensive analysis of the functional TCR repertoire at the single-cell level. Biochem Biophys Res Commun 2008, 367, 820-825.
非特許文献13:Yano T et al, AGIA Tag System Based on a High Affinity Rabbit Monoclonal Antibody against Human Dopamine Receptor D1 for Protein Analysis, PLoS One, 2016, 11, e0156716
SEQ ID NO.:1 PCR primer, Ig gamma-RT
SEQ ID NO.:2 PCR primer, Ig kappa-RT
SEQ ID NO.:3 dC adopter primer
SEQ ID NO.:4 PCR primer, gamma chain
SEQ ID NO.:5 PCR primer, kappa chaim
SEQ ID NO.:6 dC adopter primer
SEQ ID NO.:7 PCR primer, Ig gamma-nest
SEQ ID NO.:8 PCR primer, Ig kappa-nest
SEQ ID NO.:9 BRFL1 peptide
SEQ ID NO.:10 EBLA3A peptide

Claims (10)

  1. 目的抗原ペプチドとMHCとの複合体(目的抗原p/MHC)に特異的に結合可能なT細胞受容体(TCR)様抗体を産生する細胞の特定方法であって:
    (1)基体の一方の主表面に複数のウェルを有し、ウェルは1つの細胞のみが入る大きさであり、ウェルの周辺の主表面の少なくとも一部に抗体と結合性を有する物質の被覆層を有するマイクロウェルアレイの少なくとも一部のウェルに、被検体細胞を培養液とともに格納し;
    (2)被覆層およびウェルを培養液に浸漬して、被検体細胞より培養液中に産生された抗体がウェルから被覆層への拡散が可能な状態で被検体細胞を培養して、産生された抗体を被覆層の物質と結合させ;
    (3)結合した抗体に、TCR様抗体以外の抗体をブロックした後に、目的抗原p/MHCを供与し;
    (4)目的抗原p/MHCに結合した抗体を検出し、その抗体を産生する細胞を、TCR様抗体を産生する細胞として特定する
    工程を含む、方法。
  2. 工程(3)で行われるブロックが、非抗原ペプチドとMHCとの複合体(非抗原p/MHC)を供与することにより実施される、請求項1に記載の方法。
  3. 被検体細胞が、目的抗原p/MHCにより免疫された動物から回収したB細胞である、請求項1または2に記載の方法。
  4. 被覆層の物質が、抗IgG抗体である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
  5. 工程(3)で供与される目的抗原p/MHCが、ビオチン化またはタグ化されており、工程(4)の検出が、標識物質とストレプトアビジンとの複合体または標識物質とタグ抗体との複合体を用いて行われる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
  6. 標識物質が、蛍光物質である、請求項5に記載の方法。
  7. 目的抗原ががん関連抗原である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
  8. 請求項1に定義された工程(1)〜(4)を含み、
    (5)特定されたTCR様抗体を産生する細胞を少なくとも1個ずつ容器に回収し;
    (6)容器内の細胞をPCRに供してTCR様抗体の遺伝子を増幅し;
    (7)増幅した遺伝子からリコンビナントTCR様抗体産生用遺伝子を構築して抗体産生用細胞へ導入し;そして
    (8)遺伝子が導入された抗体産生用細胞によりリコンビナントTCR様抗体を製造する
    工程を含む、TCR様抗体の製造方法。
  9. 目的抗原ががん関連抗原である、請求項8に記載の製造方法。
  10. がんの免疫療法に用いるTCR様抗体を製造するための、請求項8または9に記載の製造方法。
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