<第1実施形態>
図面を参照して、本発明の実施形態に係る作業機械について説明する。本実施形態では、作業機械が、クローラ式の油圧ショベルである例について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る油圧ショベル1の構成例を示す概略図である。なお、図1では、後述するGNSSアンテナ28及びアンテナ支持装置80の図示を省略している。図1に示すように、油圧ショベル1は、車両本体2と、多関節型の作業機であるフロント作業機3と、を備える。車両本体2は、走行用油圧モータ15により駆動されるクローラで走行可能に構成された下部走行体5と、下部走行体5上に旋回可能に設けられる上部旋回体4と、を有する。フロント作業機3は、上部旋回体4に設けられる。
上部旋回体4のフレーム(以下、旋回フレーム49と記す)には、オペレータが搭乗する運転室12、上部旋回体4を左右に旋回するための旋回用油圧モータ13、エンジン31、エンジン31に駆動されて各油圧アクチュエータ9,10,11,13,15に作動油(作動流体)を供給する油圧ポンプ32、及び、油圧ポンプ32から各アクチュエータ9,10,11,13,15に供給される作動油を制御するコントロールバルブ33等の装置が取り付けられている。
フロント作業機3は、ブーム6、アーム7、バケット(アタッチメント)8といった複数のフロント部材により構成されており、各フロント部材6,7,8はブームシリンダ9、アームシリンダ10、バケットシリンダ11により駆動される。
上部旋回体4の旋回フレーム49には、直交3軸の角速度及び加速度の検出が可能なIMU(Inertial Measurement Unit:慣性計測装置)が取り付けられている。以下、旋回フレーム49に取り付けられるIMUを旋回体IMU26と記す。
フロント作業機3には、フロント作業機3の姿勢を検出するための複数の作業機姿勢センサ20(20a,20b,20c)が搭載されている。作業機姿勢センサ20aは、ブーム6の姿勢(回転角)を検出するためのブーム角センサで、作業機姿勢センサ20bは、アーム7の姿勢(回転角)を検出するためのアーム角センサで、作業機姿勢センサ20cは、バケット8の姿勢(回転角)を検出するためのバケット角センサである。なお、本実施形態の作業機姿勢センサ20は、各フロント部材6,7,8の回転角を検出するポテンショメータであるが、各フロント部材6,7,8の回転角を検出可能なIMUを利用してもよい。
運転室12には、オペレータがフロント作業機3、上部旋回体4及び下部走行体5等を操作するための操作レバー(操作装置)17が設けられている。オペレータが操作レバー17を操作することにより、ブームシリンダ9、アームシリンダ10、バケットシリンダ11、旋回用油圧モータ13、走行用油圧モータ15をそれぞれ駆動させることが可能である。
下部走行体5は、左右両側に位置して、前後方向に延在するサイドフレーム51を有するトラックフレーム50と、サイドフレーム51の一端部に設けられた駆動輪16aと、サイドフレーム51の他端部に設けられた従動輪16bと、駆動輪16aと従動輪16bとに亘って巻回された履帯14と、を有する。左右の履帯14が、左右の駆動輪16aに接続された走行用油圧モータ15によりそれぞれ駆動されることで、油圧ショベル1が走行する。
図2は、図1の油圧ショベル1に取り付けられるアンテナ支持装置80及びアンテナ28の位置を示す油圧ショベル1の平面模式図である。図2に示すように、上部旋回体4には、複数の衛星から衛星信号を受信するGNSS(Global Navigation Satellite Systems:全地球衛星測位システム)用のアンテナ(以下、GNSSアンテナと記す)28が複数設けられる。本実施形態に係る油圧ショベル1は、2つのGNSSアンテナ28として、上部旋回体4の旋回中心軸C0上に設けられるメインアンテナ28aと、旋回中心軸C0から離れた位置(例えば、上部旋回体4の右部)に設けられるサブアンテナ28bと、を備える。メインアンテナ28aは、下部走行体5を停止させた状態で上部旋回体4を旋回動作させたときに位置が変わらないように設けられるアンテナであり、サブアンテナ28bは、下部走行体5を停止させた状態で上部旋回体4を旋回動作させたときに位置が変わるように設けられるアンテナである。また、メインアンテナ28aは、受信した衛星信号に基づいて、上部旋回体4の位置及び方位を演算する際に必ず用いるメインアンテナ28aの位置を算出するために、上部旋回体4に搭載されるアンテナである。サブアンテナ28bは、受信した衛星信号に基づいて基線ベクトルを算出するために上部旋回体4に搭載されるアンテナであり、算出された基線ベクトルは、その算出精度が許容できる精度である場合に上部旋回体4の位置及び方位を演算する際に用いられる。つまり、サブアンテナ28bの位置情報は、サブアンテナ28bの上空視界状況によっては、上部旋回体4の位置及び方位を演算する際に用いられない場合がある。上部旋回体4の位置及び方位の演算方法の詳細については後述する。メインアンテナ28aは、アンテナ支持装置80によって支持され、サブアンテナ28bは、上部旋回体4の旋回フレーム49から旋回中心軸C0に沿って上方に延在する柱状の支持部材89によって支持される。なお、メインアンテナ28aを支持するアンテナ支持装置80の詳細については後述する。
また、図1に示すように、上部旋回体4には、2つのGNSSアンテナ28(28a,28b)で受信された複数の衛星信号に基づいて地理座標系(グローバル座標系)における上部旋回体4の位置及び方位を演算する演算装置である測位演算装置110(図5参照)を備えるGNSS受信機21と、GNSS受信機21が上部旋回体4の位置の演算に利用する補正信号を基準局901(図5参照)から受信するための第1通信機29と、管理センタに備えられている管理サーバ902(図5参照)と双方向通信をするための第2通信機23と、が搭載されている。
上部旋回体4と下部走行体5の間には、旋回軸受装置(旋回輪)40が設けられる。上部旋回体4は、旋回軸受装置40を介して下部走行体5に旋回可能に取り付けられ、旋回用油圧モータ13により駆動される。
図3は、図2のIII−III線断面模式図であり、旋回軸受装置40及びアンテナ支持装置80について示す。図3に示すように、旋回軸受装置40は、上部旋回体4に設けられる円環状の外輪41と、下部走行体5に設けられ外輪41の径方向内側に配置される円環状の内輪42と、外輪41の内周面に設けられた軌道溝41aと内輪42の外周面に設けられた軌道溝42aとの間に設けられる複数の転動体(ボール)43と、を有する。外輪41と内輪42とは、複数の転動体43によって、旋回中心軸C0を中心として相対回転可能に支持される。
下部走行体5のトラックフレーム50の上面を構成する上面板52には、円筒状の円筒部53が設けられる。円筒部53の上端面には、旋回軸受装置40の内輪42が載置され、内輪取付ボルト(不図示)によって内輪42が円筒部53に固定される。
内輪42は、その外周面の全周に亘って、半円状断面の凹溝である軌道溝42aが形成されている。一方、内輪42の内周側には、旋回用油圧モータ13の歯車13aが噛み合う内歯歯車42bが形成されている。外輪41は、内輪42よりも一回り径が大きい円環状に形成されている。外輪41の内周面には、内輪42の軌道溝42aと対向する位置に半円状断面の凹溝からなる軌道溝41aが形成されている。ここで、外輪41は、内輪42に対して上側にオフセットした状態で設けられている。これにより、内輪42と上部旋回体4を構成する旋回フレーム49の底板49aとの干渉が防止される。
外輪41には、周方向に沿って複数のボルト挿通孔41bが形成されている。本実施形態では、複数のボルト挿通孔41bは、旋回中心軸C0を中心とした円周上に等間隔で形成されている。なお、複数のボルト挿通孔41bは、不等間隔で形成されていてもよい。各ボルト挿通孔41bは、外輪41の厚さ方向、すなわち旋回中心軸C0の方向(以下、軸方向とも記す)に貫通している。各ボルト挿通孔41bには、下側から上側に向けて外輪取付ボルト60が挿通されている。複数の外輪取付ボルト60は、外輪取付ボルト60の中心軸と旋回中心軸C0との間の距離が互いに等しくなるように配置される。
上部旋回体4の旋回フレーム49には、外輪取付ボルト60の雄ねじが螺合する雌ねじが形成されたねじ孔49bが、ボルト挿通孔41bに対向するように形成されている。外輪取付ボルト60は、外輪41のボルト挿通孔41bに下側から上側に向かって挿通され、旋回フレーム49の底板49aに形成されたねじ孔49bに螺着される。これにより、外輪41は、旋回フレーム49の底板49aの下面に一体的に取り付けられる。
アンテナ支持装置80は、メインアンテナ28aの位相中心が上部旋回体4の旋回中心軸C0上に位置するように、メインアンテナ28aを支持する。以下、アンテナ支持装置80の構成及びアンテナ支持装置80の上部旋回体4に対する取付構造について詳しく説明する。
図2及び図3に示すように、アンテナ支持装置80は、アンテナ支持台81と、アンテナ支持台81に固定されるアンテナ取付部85と、アンテナ支持台81に固定される複数の支持脚82,83(1本の前側支持脚82及び2本の後側支持脚83)と、を有する。なお、アンテナ支持台81とアンテナ取付部85、及び、アンテナ支持台81と支持脚82,83とは、溶接、ボルト締結等により、一体構造物として形成される。
アンテナ取付部85には、メインアンテナ28aがボルト等により着脱自在に取り付けられる。なお、メインアンテナ28aは、ねじ接続によりアンテナ取付部85に着脱自在に取り付けられる場合に限定されるものではない。メインアンテナ28aは、アンテナ取付部85に対し、クランプ等の締結部材により着脱自在に取り付けてもよいし、リベット接続や溶接、接着等の取り外しを想定しない取付方法により取り付けてもよい。
図3に示すように、前側支持脚82は、旋回フレーム49の底板49aに当接する矩形平板状(帯状)の取付部82bと、取付部82bの基端部とアンテナ支持台81とを接続する接続部82aと、を有する。接続部82aは、旋回中心軸C0よりも後側でアンテナ支持台81に固定される固定部及びこの固定部から旋回中心軸C0に沿って下方に延在する鉛直部を有する上側接続部82a1と、上側接続部82a1の下端部から取付部82bの基端部に向かって斜めに延在する下側接続部82a2と、を有する。このように前側支持脚82が構成されているため、アンテナ支持装置80が設けられることにより、ブーム6の可動範囲が制限されることを防止できる。換言すれば、本実施形態によれば、ブーム6の可動範囲を広くとることができる。
図2及び図3に示すように、一対の後側支持脚83は、旋回用油圧モータ13を挟むようにして上部旋回体4の左右対称位置に配置される。一対の後側支持脚83は、互いに同様の構成である。図3に示すように、後側支持脚83は、旋回フレーム49の底板49aに当接する矩形平板状の取付部83bと、取付部83bの基端部とアンテナ支持台81とを接続する直線状の接続部83aと、を有する。支持脚82,83の取付部82b,83bの先端部には、外輪取付ボルト60(60B)が挿通されるボルト挿通孔84が形成されている。
図2及び図3に示すように、外輪41と上部旋回体4とを接続するための複数の外輪取付ボルト60には、2種類のボルト60A,60Bが含まれる。ボルト60Aは、外輪41と底板49aとを接続する機能のみを有する接続部材であり、ボルト60Bは、外輪41と底板49aとを接続する機能だけでなく、アンテナ支持装置80を底板49aに固定する機能を有する接続部材である。
図3に示すように、外輪取付ボルト60は、頭部61と、頭部61から延在する軸部62と、を有し、軸部62の先端部には、底板49aのねじ孔49bに螺合する雄ねじが形成されている。ボルト60Bの軸部62は、ボルト60Aの軸部62よりも長く形成されている。
ボルト60Bの軸部62は、外輪41のボルト挿通孔41b、底板49aのねじ孔49b及びアンテナ支持装置80の取付部82bのボルト挿通孔84に挿通される。ボルト60Bは、その軸部62の先端部が取付部82bのボルト挿通孔84から突出し、突出部に形成された雄ねじにナット63が螺着される。つまり、取付部82b、底板49a及び外輪41が積層された状態でボルト60Bの頭部61とナット63によって挟持され、取付部82bが底板49aとともに外輪41に取り付けられる。なお、取付部83bも同様に、ボルト60B及びナット63によって底板49aとともに外輪41に取り付けられる。
このように、本実施形態では、アンテナ支持装置80の取付部82b,83bが、底板49a及び外輪41とともにボルト60B及びナット63により締結されている。つまり、アンテナ支持装置80の取付部82b,83bは、旋回軸受装置40の外輪41と上部旋回体4の底板49aとが接続される部位(接続部)において、上部旋回体4に固定される。
アンテナ支持装置80の取付部82b,83bは、旋回中心軸C0からの距離が等しくなるように配置されるボルト(接続部材)60Bによって上部旋回体4の旋回フレーム49に固定される。アンテナ支持装置80が上部旋回体4に取り付けられることにより、メインアンテナ28aの位相中心が旋回中心軸C0に位置することになる。なお、本実施形態では、メインアンテナ28aの最下部にオフセットの基準位置であるARP(Antenna Reference Point)が設定されており、ARPも旋回中心軸C0上に位置している。
GNSSアンテナ28の位相中心とは、衛星信号(電波)の入射において仮想的に電波の集中点と見なせる点であり、アンテナの電気的な中心のことを指す。なお、理想的なアンテナではこの位相中心は一点に定まるが、実際には種々の要因でばらつく。ここでは、その平均の位置をアンテナの位相中心と定義する。
アンテナ支持装置80は、旋回フレーム49への取付作業の前に一体構造物として組み立てられる。一体構造物のアンテナ支持装置80は、旋回フレーム49上に載置され、外輪41と旋回フレーム49とを外輪取付ボルト60によって接続する接続作業において、旋回フレーム49に固定される。したがって、外輪41と旋回フレーム49との接続作業とは別に、アンテナ支持装置80を旋回フレーム49に取り付ける場合に比べて作業工数の低減を図ることができる。
ここで、メインアンテナ28aを支持するアンテナ支持装置が一体構造物でない場合であって、メインアンテナ28aと旋回フレーム49とを接続する接続作業において、複数部品からなるアンテナ支持装置を組み立てる場合には、複数の部品の組み立てにより生じる累積誤差が大きくなるおそれがある。これに対して、本実施形態では、一体構造物であるアンテナ支持装置80によって、旋回フレーム49に対してメインアンテナ28aを固定するため、組み立てによる累積誤差を小さく抑えることができる。また、本実施形態では、アンテナ支持装置80を旋回フレーム49に固定するためのボルト60Bが、外輪41のボルト挿通孔41bに挿通されている。このため、メインアンテナ28aの位相中心を外輪取付ボルト60のPCD(Pitch Circle Diameter:ピッチ円直径)の精度に近い精度で旋回中心軸C0上に位置決めすることが可能となる。
旋回中心軸C0上にメインアンテナ28aの位相中心を位置させたことによる本実施形態の効果を、本実施形態の比較例と比較して説明する。図4は、本実施形態の比較例に係る油圧ショベル91におけるメインアンテナ928aの上空視界について説明する図である。図4(a)は、所定の姿勢のときのメインアンテナ928aの上空視界を模式的に示し、図4(b)は、図4(a)の姿勢から上部旋回体4を180度旋回させた姿勢のときのメインアンテナ928aの上空視界を模式的に示している。
図4(a)及び図4(b)に示すように、本実施形態の比較例に係る油圧ショベル91では、メインアンテナ928a及びサブアンテナ28bが、旋回中心軸C0を挟むように、上部旋回体4の左部及び右部のそれぞれに配置されている。つまり、油圧ショベル91では、メインアンテナ928aが旋回中心軸C0から離れた位置に設けられている。
一般的に、油圧ショベルでは、下部走行体5を停止させた状態で、上部旋回体4を旋回動作させる作業が行われる。ここで、旋回動作が建造物等の障害物99の近傍で行われる場合、上部旋回体4の方位(向き)が変わることによって、各アンテナと障害物99との距離が変化する。その結果、アンテナの上空視界において障害物99によって遮られる領域が変化し、アンテナで信号を受信可能な衛星の数が増減する場合がある。
本実施形態の比較例に係る油圧ショベル91では、図4(a)に示す姿勢のときに、メインアンテナ928aと障害物99との間の距離がD1であり、メインアンテナ928aの上空視界において障害物99で遮られる領域の面積はS1となる。なお、メインアンテナ928aと障害物99との間の距離D1は、旋回中心軸C0と障害物99との間の距離D0よりも大きい(D1>D0)。このとき、油圧ショベル91のメインアンテナ928aで信号(電波)を受信可能な衛星90の数は6つとなる。
一方、図4(b)に示す姿勢では、メインアンテナ928aと障害物99との間の距離がD1よりも小さいD2となる(D2<D1)。なお、メインアンテナ928aと障害物99との間の距離D2は、旋回中心軸C0と障害物99との間の距離D0よりも小さい(D2<D0)。図4(b)に示す姿勢では、メインアンテナ928aと障害物99との間の距離が図4(a)に示す姿勢のときよりも近くなるため、メインアンテナ928aの上空視界において障害物99で遮られる領域の面積がS1よりも大きいS2となる(S2>S1)。その結果、油圧ショベル91のメインアンテナ928aで信号を受信可能な衛星90の数は図4(a)の姿勢のときよりも1つ減って5つとなる。このように、図4(b)に示す姿勢では、衛星90Aからメインアンテナ928aへ向かう信号(電波)が障害物99によって遮蔽されるため、メインアンテナ928aによって衛星90Aからの信号を受信することができなくなる。
このように上部旋回体4の旋回動作中にメインアンテナ928aで信号を受信可能な衛星90の数が変化すると、測位に用いる衛星90の組み合わせが変化する場合がある。この場合、組み合わせが変化したときに、メインアンテナ928aで受信した信号に基づく測位演算に不連続点が生じ、測位精度が悪化するおそれがある。
これに対して、本実施形態では、図2及び図3に示すように、メインアンテナ28aは、その位相中心が旋回中心軸C0上に位置するように、アンテナ支持装置80によって旋回フレーム49に取り付けられている。これにより、上部旋回体4の旋回動作中にメインアンテナ28aで信号を受信可能な衛星90の数が変化することを抑制することができ、測位に用いる衛星90の組み合わせを一意的に保つことができる。つまり、本実施形態によれば、上部旋回体4の旋回動作中に、メインアンテナ28aで受信した信号に基づく測位演算に不連続点が生じることを防止できるため、測位精度を向上させることができる。
次に、図5を参照して、油圧ショベル1に搭載された主制御装置100及び測位演算装置110の機能について説明する。図5は、第1実施形態に係る油圧ショベル1の主制御装置100及び測位演算装置110の機能ブロック図である。本実施形態では、測位演算装置110は、GNSS受信機21に設けられる。なお、測位演算装置110の機能の一部または全部は、主制御装置100が担うようにしてもよい。また、主制御装置100の機能の一部または全部は、測位演算装置110が担うようにしてもよい。
主制御装置100は、各種センサ、操作レバー(操作装置)17等の情報に基づいて、油圧ショベル1の各部の動作を制御する。測位演算装置110は、主制御装置100からの情報、GNSSアンテナ28からの情報、並びに第1通信機29及び第2通信機23からの情報に基づいて、地理座標系における車両本体2(上部旋回体4)の位置及び方位を演算する演算装置である。
主制御装置100及び測位演算装置110は、動作回路としてのCPU(Central Processing Unit)、記憶装置としてのROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)、その他の周辺回路を備えたマイクロコンピュータで構成される。主制御装置100及び測位演算装置110は、それぞれ複数のマイクロコンピュータで構成することも可能である。
主制御装置100及び測位演算装置110は、記憶装置に予め記憶されているプログラム(ソフトウェア)を実行し、プログラム内で規定されているデータとインタフェースから入力されたデータに基づいて演算処理を行い、インタフェースから外部に信号(演算結果)を出力する。
本実施形態では、主制御装置100は、インタフェースを介して、作業機姿勢センサ20、旋回体IMU26等と接続されている。測位演算装置110は、インタフェースを介して、GNSSアンテナ28、第1通信機29及び第2通信機23等と接続されている。また、主制御装置100と測位演算装置110とは相互に情報の授受が可能なように接続されている。
主制御装置100は、主制御装置100の記憶装置に記憶されているプログラムを実行することにより、旋回体姿勢演算部101、作業機姿勢演算部102及び車両制御部103として機能する。
旋回体姿勢演算部101は、例えば、上部旋回体4が静止している場合、旋回体IMU26に設定されたIMU座標系における重力加速度の方向(つまり、鉛直下向き方向)と、旋回体IMU26の取り付け状態(つまり、旋回体IMU26と上部旋回体4との相対的な位置関係)とに基づき、車体座標系における上部旋回体4の姿勢情報を演算する。また、旋回体姿勢演算部101は、上部旋回体4が旋回動作中である場合、旋回体IMU26で測定された直交3軸周りの角速度を時間積分することにより、車体座標系における上部旋回体4の姿勢情報(上部旋回体4のロー角、ピッチ角、旋回角)を演算する。以下、上部旋回体4の姿勢情報は、旋回体姿勢情報とも記す。
作業機姿勢演算部102は、作業機姿勢センサ20a,20b,20cで検出された各フロント部材6,7,8の角度情報に基づいて、車体座標系におけるフロント作業機3の姿勢情報を演算する。以下、フロント作業機3の姿勢情報を作業機姿勢情報とも記す。
車両制御部103は、油圧ショベル1の各部の動作を制御するとともに、下部走行体5の走行状態(停止状態または走行状態)を監視する。
測位演算装置110は、測位演算装置110の記憶装置に記憶されているプログラムを実行することにより、メインアンテナ位置算出部111、第1上空視界情報生成部112、第2上空視界情報生成部113、メインアンテナ可用衛星特定部114、サブアンテナ可用衛星特定部115、基線ベクトル算出部116、基線ベクトル精度評価部118、IMU方位精度評価部104、メインアンテナ精度評価部119及び位置・方位演算部120として機能する。
メインアンテナ位置算出部111は、メインアンテナ28aが受信した衛星信号及び第1通信機29が基準局901から受信した補正信号に基づいて、メインアンテナ28aの緯度、経度及び楕円体高からなる地理座標系(グローバル座標系)における位置の座標値を算出する。補正信号は、電離層、対流圏等の外乱要因がメインアンテナ28aの位置の演算に与える悪影響を軽減するために用いられる。所定の位置座標に存在する基準局901は、上空の衛星からの信号(電波)を継続的に受信して、補正信号を継続的に発信する。メインアンテナ位置算出部111は、補正信号を用いることにより、メインアンテナ28aの位置の座標値を精度よく算出することができる。なお、メインアンテナ位置算出部111は、後述するメインアンテナ可用衛星特定部114により特定された衛星からの信号だけを用いて、メインアンテナ28aの位置の演算を行う。
第2通信機23は、油圧ショベル1の周辺の地形、立体構造物の3次元情報を管理サーバ902から受信する。なお、本実施形態では、外部から3次元情報を取得する例について説明するが、油圧ショベル1に、上部旋回体4の周囲情報を検出可能な複数の周囲情報検出装置(例えば、カメラ、レーザレーダ等)を設け、周囲情報検出装置によって取得した情報に基づき、3次元情報を生成するようにしてもよい。また、記憶媒体を介して、3次元情報を取得するようにしてもよい。
第1上空視界情報生成部112は、メインアンテナ位置算出部111が算出したメインアンテナ28aの位置、旋回体姿勢演算部101が演算した上部旋回体4の姿勢情報(ロール角、ピッチ角及び旋回角)、及び第2通信機23が衛星通信、携帯電話通信、狭域無線通信等を通じて管理サーバ902から受信した3次元情報に基づいて、メインアンテナ28aの上空視界と、その上空視界が油圧ショベル1の外部の構造物、地形によって遮られる範囲と、を含む第1のメイン上空視界情報を生成する。
第2上空視界情報生成部113は、作業機姿勢演算部102で演算されたフロント作業機3の姿勢情報、及び第1上空視界情報生成部112で生成された第1のメイン上空視界情報に基づいて、メインアンテナ28aの上空視界と、その上空視界が油圧ショベル1の外部の構造物、地形、及びフロント作業機3によって遮られる範囲と、を含む第2のメイン上空視界情報を生成する。
メインアンテナ可用衛星特定部114は、第2上空視界情報生成部113より生成された第2のメイン上空視界情報に基づき、メインアンテナ28aの位相中心に信号(電波)が直接届く衛星を特定する。すなわち、メインアンテナ可用衛星特定部114は、油圧ショベル1の上空に存在する複数の衛星の中から、メインアンテナ28aで直接信号を受信可能な衛星を選択する。
メインアンテナ精度評価部119は、メインアンテナ可用衛星特定部114で特定された衛星である可用衛星の数及び可用衛星の配置の情報、及び、メインアンテナ位置算出部111での算出結果のばらつきに基づいて、メインアンテナ28aの位置の算出精度が、許容できる精度であるか否かを判定する。
メインアンテナ28aの位置の算出精度は、メインアンテナ28aで信号(電波)を受信可能な可用衛星の数及び配置により変化する。可用衛星の配置状況により測位精度が受ける影響は、例えば、DOP(Dilution of Precision:精度低下率)で表すことができる。可用衛星数が少なく、可用衛星間の距離が狭いほど、メインアンテナ28aの位置の算出精度は低くなる。メインアンテナ精度評価部119は、可用衛星の数及び可用衛星の配置の情報に基づき、精度評価用パラメータを演算する。精度評価用パラメータは、算出精度が高いほど高くなるパラメータである。
また、メインアンテナ精度評価部119は、統計学においてデータのばらつき度合いを示す指標(例えば分散、標準偏差等)を演算する。メインアンテナ精度評価部119は、上記精度評価用パラメータが予め定めた閾値以上であり、かつ、メインアンテナ位置算出部111での算出結果のばらつき度合いを示す指標が予め定めた閾値未満の場合には、メインアンテナ28aの位置の算出精度は、許容できる精度であると判定する。一方、メインアンテナ精度評価部119は、上記精度評価用パラメータが予め定めた閾値未満である場合、または、メインアンテナ位置算出部111での算出結果のばらつき度合いを示す指標が予め定めた閾値以上の場合には、メインアンテナ28aの位置の算出精度が、許容できる精度ではないと判定する。
基線ベクトル算出部116は、メインアンテナ28aが受信した衛星信号と、サブアンテナ28bで受信した衛星信号と、に基づいて、メインアンテナ28a及びサブアンテナ28bの緯度、経度及び楕円体高からなる位置の座標値を算出する。さらに、基線ベクトル算出部116は、算出したGNSSアンテナ28の位置の座標値に基づいて、メインアンテナ28aからサブアンテナ28bへの基線ベクトルを算出する。なお、基線ベクトル算出部116は、メインアンテナ可用衛星特定部114により特定されたメインアンテナ28aの衛星からの信号だけを用いて、メインアンテナ28aの位置の演算を行う。また、基線ベクトル算出部116は、後述するサブアンテナ可用衛星特定部115により特定された衛星からの信号だけを用いて、サブアンテナ28bの位置の演算を行う。
第1上空視界情報生成部112は、メインアンテナ位置算出部111が算出したメインアンテナの位置、基線ベクトル算出部116が算出した基線ベクトル、旋回体姿勢演算部101が演算した上部旋回体4の姿勢情報(ロール角、ピッチ角及び旋回角)、及び第2通信機23が管理サーバ902から受信した3次元情報に基づいて、サブアンテナ28bの上空視界と、その上空視界が油圧ショベル1の外部の構造物、地形によって遮られる範囲と、を含む第1のサブ上空視界情報を生成する。
第2上空視界情報生成部113は、作業機姿勢演算部102で演算されたフロント作業機3の姿勢情報、及び第1上空視界情報生成部112で生成された第1のサブ上空視界情報に基づいて、サブアンテナ28bの上空視界と、その上空視界が油圧ショベル1の外部の構造物、地形、及びフロント作業機3によって遮られる範囲と、を含む第2のサブ上空視界情報を生成する。
サブアンテナ可用衛星特定部115は、第2上空視界情報生成部113より生成された第2のサブ上空視界情報に基づき、サブアンテナ28bの位相中心に信号(電波)が直接届く衛星を特定する。すなわち、サブアンテナ可用衛星特定部115は、油圧ショベル1の上空に存在する複数の衛星の中から、サブアンテナ28bで直接信号を受信可能な衛星を選択する。
基線ベクトル精度評価部118は、サブアンテナ可用衛星特定部115で特定された衛星である可用衛星の数及び可用衛星の配置の情報、及び、基線ベクトル算出部116での算出結果のばらつきに基づいて、基線ベクトルの算出精度が、許容できる精度であるか否かを判定する。なお、基線ベクトルの算出精度が、許容できる精度であるか否かの判定方法は、メインアンテナ精度評価部119によるメインアンテナ28aの位置の算出精度が、許容できる精度であるか否かの判定方法と同様であるので、説明を省略する。
位置・方位演算部120は、メインアンテナ精度評価部119においてメインアンテナ28aの位置の算出精度が許容できる精度であると判定され、かつ、基線ベクトル精度評価部118において基線ベクトルの算出精度が許容できる精度であると判定された場合、メインアンテナ位置算出部111で算出されたメインアンテナ28aの位置と、基線ベクトル算出部116で算出された基線ベクトルと、に基づいて、上部旋回体4の位置及び上部旋回体4の方位(以下、GNSS方位とも記す)を演算する。
なお、上部旋回体4の位置とは、上部旋回体4の任意の位置であり、例えば、旋回中心軸C0上の位置、ブーム6の基端部と上部旋回体4とを接続するブームピンの中心軸上の位置等に設定される。測位演算装置110の記憶装置には、車体座標系におけるGNSSアンテナ28の位置の座標と、任意に設定される上部旋回体4の位置の座標との関係を表す幾何学情報が記憶されている。このため、位置・方位演算部120は、メインアンテナ28aの位置の座標、基線ベクトル及び上記幾何学情報に基づいて、地理座標系における上部旋回体4の位置の座標を算出することができる。
位置・方位演算部120は、メインアンテナ精度評価部119においてメインアンテナ28aの位置の算出精度が許容できる精度であると判定され、かつ、基線ベクトル精度評価部118において基線ベクトルの算出精度が許容できない精度であると判定された場合、メインアンテナ位置算出部111で算出されたメインアンテナ28aの位置と、旋回体姿勢演算部101で演算された旋回体姿勢情報に基づいて、上部旋回体4の位置及び上部旋回体4の方位(以下、IMU方位とも記す)を演算する。なお、旋回体姿勢情報は、上述したように、旋回体IMU26の測定結果に基づいて、旋回体姿勢演算部101によって演算される。
位置・方位演算部120は、メインアンテナ精度評価部119において、メインアンテナ28aの位置の算出精度が許容できる精度ではないと判定された場合、上部旋回体4の位置及び上部旋回体4の方位の演算は行わない。また、位置・方位演算部120は、基線ベクトル精度評価部118において、基線ベクトルの算出精度が許容できる精度ではないと判定され、かつ、後述するIMU方位精度評価部104において、IMU方位の精度が許容できる精度ではないと判定された場合にも、上部旋回体4の位置及び上部旋回体4の方位の演算は行わない。なお、位置・方位演算部120での演算結果は、主制御装置100の車両制御部103に出力され、油圧ショベル1の制御に用いられる。
IMU方位精度評価部104は、基線ベクトル精度評価部118からの情報、及び旋回体姿勢演算部101からの情報に基づいて、位置・方位演算部120で演算されるIMU方位の精度が、許容できる精度であるか否かを判定する。IMU方位精度評価部104は、基線ベクトル精度評価部118において、基線ベクトルの算出精度が許容できる精度であると判定されている状態から、基線ベクトルの算出精度が許容できる精度ではないと判定された場合、その時点t0からの時間を計測する。
基線ベクトルの算出精度が許容できる精度ではないと判定されてからは、上述したように、位置・方位演算部120においてIMU方位が演算される。ここで、IMU方位は、時点t0において記憶装置に記憶されているGNSS方位を基準とした上部旋回体4の方位角から演算される。ここで、上部旋回体4の方位角は、旋回体IMU26で検出された角速度を時間積分することにより演算される旋回体姿勢情報に基づき演算されるため、時間が経過するほど積分の誤差が蓄積する。
したがって、IMU方位精度評価部104は、時点t0からの計測時間が予め定めた時間(閾値)未満である場合には、IMU方位の精度が許容できる精度であると判定し、時点t0からの計測時間が予め定めた時間(閾値)以上である場合には、IMU方位の精度が許容できる精度ではないと判定する。
なお、IMU方位精度評価部104は、車両制御部103から出力される下部走行体5の走行動作情報が停止状態を表す情報である場合には、旋回体IMU26からの情報に基づいた各種演算の結果については、信頼性が無いと判定する機能も有する。
図6は、第1実施形態に係る測位演算装置110による測位演算処理の内容を示すフローチャートである。図6に示すフローチャートに示す処理は、例えば、図示しないイグニッションスイッチのオンにより開始され、図示しない初期設定が行われた後、所定の制御周期で繰り返し実行される。
図6に示すように、ステップS101において、測位演算装置110は、各種情報を取得し、ステップS106へ進む。各種情報には、車両制御部103からの走行動作情報、メインアンテナ28a及びサブアンテナ28bからの衛星信号、第1通信機29からの補正信号、第2通信機23からの3次元情報、旋回体姿勢演算部101からの旋回体姿勢情報、作業機姿勢演算部102からの作業機姿勢情報等が含まれる。
ステップS106において、測位演算装置110は、ステップS101で取得した走行動作情報に基づき、下部走行体5が停止しているか否かを判定する。ステップS106において、下部走行体5が停止していると判定された場合、停止状態フラグをオンにして、ステップS111に進む。ステップS106において、下部走行体5が停止していない、すなわち下部走行体5が走行していると判定された場合、停止状態フラグをオフにして、図6に示す処理を終了する。
ステップS111において、測位演算装置110は、ステップS101で取得した3次元情報、旋回体姿勢情報及び作業機姿勢情報、並びに1制御周期前のステップS121で算出されたメインアンテナ28aの位置及び基線ベクトルに基づき、上空視界情報(第1のメイン及びサブ上級視界情報及び第2のメイン及びサブ上空視界情報)を生成し、ステップS116へ進む。
ステップS116において、測位演算装置110は、ステップS111で演算された第2のメイン上空視界情報に基づいて、メインアンテナ28aの可用衛星を特定するとともに、ステップS111で演算された第2のサブ上空視界情報に基づいて、サブアンテナ28bの可用衛星を特定し、ステップS121へ進む。
ステップS121において、測位演算装置110は、ステップS101で取得したメインアンテナ28a及びサブアンテナ28bで受信した衛星信号及び補正信号に基づき、メインアンテナ28aの位置及び基線ベクトルを算出してステップS126へ進む。なお、ステップS121の演算に用いられる衛星信号は、ステップS116において特定された可用衛星の衛星信号である。
ステップS126において、測位演算装置110は、メインアンテナ28aの位置の算出精度が許容できる精度であるか否かを判定する。ステップS126において、メインアンテナ28aの位置の算出精度が許容できる精度であると判定された場合、ステップS131へ進み、メインアンテナ28aの算出精度が許容できる精度ではないと判定された場合、ステップS151へ進む。
ステップS131において、測位演算装置110は、基線ベクトルの算出精度が許容できる精度であるか否かを判定する。ステップS131において、基線ベクトルの算出精度が許容できる精度であると判定された場合、ステップS136へ進み、基線ベクトルの算出精度が許容できる精度ではないと判定された場合、ステップS141へ進む。
ステップS141において、測位演算装置110は、IMU方位の算出精度が許容できる精度であるか否かを判定する。ステップS141において、IMU方位の算出精度が許容できる精度であると判定された場合、ステップS146へ進み、IMU方位の算出精度が許容できる精度ではないと判定された場合、ステップS151へ進む。
ステップS136において、測位演算装置110は、ステップS121で算出されたメインアンテナ28aの位置及び基線ベクトルに基づいて、上部旋回体4の位置及び上部旋回体4の方位(GNSS方位)を算出し、図6に示す処理を終了する。
ステップS146において、測位演算装置110は、ステップS121で算出されたメインアンテナ28aの位置、ステップS136で演算されたGNSS方位の最新値、及びステップS101で取得された旋回体姿勢情報に基づいて、上部旋回体4の方位(IMU方位)を演算し、図6に示す処理を終了する。ここで、GNSS方位の最新値とは、繰り返し演算処理が行われる図6のフローチャートにおいて、ステップS126及びステップS131の双方で肯定判定されているときに、ステップS136で演算されたGNSS方位の最新の値であり、この値は記憶装置で保持される。
ステップS151において、測位演算装置110は、当該時刻(当該制御周期)での測位演算は行わないことを表す情報を記憶装置に記憶し、図6に示す処理を終了する。
このように、本実施形態では、GNSSアンテナ28(28a,28b)の上空視界状況が良好、すなわち上空視界が遮られる範囲が小さく、GNSSアンテナ28(28a,28b)で信号を受信可能な衛星(可用衛星)の数が十分であり、可用衛星が分散して配置されているときには、メインアンテナ28aの位置及び基線ベクトルに基づいて、上部旋回体4の方位(すなわち、GNSS方位)が演算される(S126でYes→S131でYes→S136)。
ここで、上部旋回体4が旋回することにより、サブアンテナ28bの上空視界状況が悪化し、すなわち上空視界が遮られる範囲が大きくなり、サブアンテナ28bの可用衛星の数が減少すると、GNSS方位を基準として、旋回動作した上部旋回体4の角速度を時間積分することにより上部旋回体4の方位(すなわち、IMU方位)が演算される(S126でYes→S131でNo→S141でYes→S146)。
なお、IMU方位の算出精度は、時間が長くなるほど積分の誤差が蓄積する。このため、上部旋回体4の旋回動作が継続され、所定時間を超えると、IMU方位の算出精度が許容できる精度ではなくなり、測位演算が終了する(S126でYes→S131でNo→S141でNo→S151)。
上述したように、GNSSアンテナ28を油圧ショベル1の左右のいずれかに配置する場合、上部旋回体4の旋回動作に伴って、GNSSアンテナ28と障害物99との距離が近くなったり遠くなったりする。これに対して、本実施形態では、メインアンテナ28aの位相中心が旋回中心軸C0上に位置している。したがって、メインアンテナ28aと障害物99との間に一定の距離(障害物99から旋回中心軸C0までの距離D0)を確保することができるとともに、上部旋回体4の旋回動作によって、メインアンテナ28aと障害物99との位置関係が変化することを抑制できる。これにより、メインアンテナ28aの上空視界を良好な状態に維持することができ、メインアンテナ28aの位置の算出精度が上部旋回体4の旋回動作によって低下することが抑制される。
なお、上部旋回体4の旋回動作によって、サブアンテナ28bと油圧ショベル1の近傍の障害物99との位置関係が変化することがある。本実施形態に係る測位演算装置110は、サブアンテナ28bの上空視界が良好のときには、サブアンテナ28bで受信した衛星信号に基づき、上部旋回体4の方位を演算し、サブアンテナ28bの上空視界が悪化したときには、旋回体IMU26の測定結果に基づいて上部旋回体4の方位を演算する。このため、上部旋回体4の旋回動作に起因して、上部旋回体4の方位の測定精度が低下することを抑制することができる。
上述した実施形態によれば、次の作用効果を奏する。
(1)本実施形態では、アンテナ支持装置80は、メインアンテナ28aの位相中心が旋回中心軸C0上に位置するように、メインアンテナ28aを支持する。これにより、上部旋回体4の旋回動作に伴って、メインアンテナ28aの上空視界の状態が変化することが抑制される。その結果、油圧ショベル1の上部旋回体4の位置及び方位を精度よく測定することができる。
(2)アンテナ支持装置80が、外輪41と上部旋回体4とを接続する外輪取付ボルト(接続部材)60によって、上部旋回体4に固定される。本実施形態では、アンテナ支持装置80は、外輪41のボルト挿通孔41bに挿通され旋回フレーム49のねじ孔49bに螺合するボルト(接続部材)60Bによって、上部旋回体4に固定される。したがって、本実施形態によれば、外輪41と上部旋回体4とを接続する外輪取付ボルト(接続部材)60を基準として、アンテナ支持装置80を位置決めすることができるため、メインアンテナ28aの位相中心を精度よく旋回中心軸C0上に位置決めすることができる。
(3)また、外輪41と上部旋回体4とを接続する外輪取付ボルト(接続部材)60を利用してアンテナ支持装置80を上部旋回体4に固定することができる。つまり、ボルト(接続部材)60Bが、外輪41と上部旋回体4とを接続する機能だけでなく、アンテナ支持装置80を上部旋回体4に固定する機能を有している。このため、アンテナ支持装置80を固定するための、専用の固定部材を別途設ける必要もない。したがって、アンテナ支持装置80を外輪41のボルト挿通孔41bに対応する位置とは異なる位置に、ボルト60Bとは異なる固定部材によって上部旋回体4に取り付ける場合に比べて、部品点数(接続部材の数)を低減することができる。
(4)測位演算装置(演算装置)110は、メインアンテナ28aで受信した衛星信号と、サブアンテナ28bで受信した衛星信号と、に基づいて、基線ベクトルを算出し、基線ベクトルの算出精度が許容できる精度であるか否かを判定し、基線ベクトルの算出精度が許容できる精度である場合には、基線ベクトルに基づいて上部旋回体4の方位を演算し、基線ベクトルの算出精度が許容できる精度ではない場合には、旋回体IMU(慣性計測装置)26での測定結果に基づいて上部旋回体4の方位を演算する。したがって、上部旋回体4の旋回動作に伴って、サブアンテナ28bの上空視界が悪化した場合であっても、上部旋回体4の位置及び方位を精度よく測定することができる。
<第2実施形態>
図7及び図8を参照して、第2実施形態に係る油圧ショベル1の測位演算装置210について説明する。なお、図中、第1実施形態と同一もしくは相当部分には同一の参照番号を付し、相違点を主に説明する。図7は、図5と同様の図であり、第2実施形態に係る油圧ショベル1の主制御装置100及び測位演算装置210の機能ブロック図である。
図7に示すように、第2実施形態に係る油圧ショベル1は、上記位置・方位演算部120に代えて、位置・方位演算部221及び旋回体方位精度評価部222を備え、上記基線ベクトル精度評価部118に代えてGNSS方位精度評価部218を備え、IMU方位精度評価部104に代えて、IMU方位精度評価部204を備える。
GNSS方位精度評価部218は、上記基線ベクトル精度評価部118と同様の機能に加え、GNSS方位精度を所定の指標で区分し、その精度の高さを評価する機能を有する。GNSS方位精度評価部218は、サブアンテナ可用衛星特定部115で特定された衛星である可用衛星の数及び可用衛星の配置の情報、及び、基線ベクトル算出部116での算出結果のばらつきに基づいて、GNSS方位の精度の高さを表す第1の指標(以下、GNSS方位評価指標と記す)を算出する。GNSS方位の精度が高いほど、GNSS方位評価指標も高くなる。例えば、可用衛星の数が多いほど、GNSS方位評価指標は高くなる。また、基線ベクトル算出部116での算出結果のばらつきが小さいほど、GNSS方位評価指標は高くなる。
IMU方位精度評価部204は、上記IMU方位精度評価部104と同様の機能に加え、IMU方位精度を所定の指標で区分し、その精度の高さを評価する機能を有する。IMU方位精度評価部204は、上記時点t0からの計測時間に基づいて、IMU方位の精度の高さを表す第2の指標(以下、IMU方位評価指標と記す)を算出する。IMU方位の精度が高いほど、IMU方位評価指標も高くなる。例えば、上記時点t0からの計測時間が長くなるほど、IMU方位評価指標は低くなる。
旋回体方位精度評価部222は、GNSS方位精度評価部218で算出されたGNSS方位評価指標と、IMU方位精度評価部204で算出されたIMU方位評価指標と、を比較し、いずれが高いかを指標であるかを判定する。
位置・方位演算部221は、旋回体方位精度評価部222によってGNSS方位評価指標がIMU方位評価指標よりも高いと判定された場合、メインアンテナ位置算出部111で算出されたメインアンテナ28aの位置と、基線ベクトル算出部116で算出された基線ベクトルと、に基づいて、上部旋回体4の位置及び上部旋回体4の方位(すなわち、GNSS方位)を演算する。
位置・方位演算部221は、旋回体方位精度評価部222によってIMU方位評価指標がGNSS方位評価指標よりも高いと判定された場合、メインアンテナ位置算出部111で算出されたメインアンテナ28aの位置と、旋回体姿勢演算部101で演算された旋回体姿勢情報と、に基づいて、上部旋回体4の位置及び上部旋回体4の方位(すなわち、IMU方位)を演算する。
図8は、第2実施形態に係る測位演算装置210による測位演算処理の内容を示すフローチャートである。図8では、図6のフローチャートのステップS131の処理とS136の処理との間にステップS233の処理とS235の処理が追加されている。なお、図8において、図6に示す処理と同じ処理には同じ符号を付し、図6の処理と異なる部分を主に説明する。図8に示すフローチャートに示す処理は、例えば、図示しないイグニッションスイッチのオンにより開始され、図示しない初期設定が行われた後、所定の制御周期で繰り返し実行される。
図8に示すように、測位演算装置210は、ステップS131において、基線ベクトルの算出精度が許容できる精度であると判定された場合、ステップS233へ進み、ステップS141と同様の処理、すなわち、IMU方位の精度が許容できる精度であるか否かを判定する処理を実行する。ステップS233において、IMU方位の精度が許容できる精度であると判定された場合、ステップS235へ進み、IMU方位の精度が許容できる精度ではないと判定された場合、ステップS136へ進む。
つまり、基線ベクトルの算出精度が許容できる精度であり(S131でYes)、かつ、IMU方位の精度が許容できる精度である場合(S233でYes)、ステップS235に進む。
ステップS235において、測位演算装置210は、GNSS方位評価指標がIMU方位評価指標よりも高いか否かを判定する。ステップS122において、測位演算装置210は、GNSS方位評価指標がIMU方位評価指標よりも高いと判定された場合には、ステップS136へ進み、メインアンテナ28a及びサブアンテナ28bで受信した衛星信号に基づいて、上部旋回体4の位置及び方位を算出する。
ステップS235において、測位演算装置210は、GNSS方位評価指標がIMU方位評価指標以下であると判定された場合には、ステップS146へ進み、メインアンテナ28aで受信した衛星信号及び旋回体IMU26での測定結果に基づいて、上部旋回体4の位置及び方位を算出する。
このように、第2実施形態では、測位演算装置210が、基線ベクトルに基づいて演算される上部旋回体4の方位の精度(GNSS方位の精度)の高さを表すGNSS方位評価指標(第1の指標)と、旋回体IMU(慣性計測装置)26での測定結果に基づいて演算される上部旋回体4の方位の精度(IMU方位の精度)の高さを表すIMU方位評価指標(第2の指標)と、を比較する。測位演算装置210は、GNSS方位評価指標(第1の指標)がIMU方位評価指標(第2の指標)よりも高い場合、すなわちGNSS方位の精度がIMU方位の精度よりも高いと推定される場合、基線ベクトルに基づいて上部旋回体4の方位を演算する。また、測位演算装置210は、IMU方位評価指標(第2の指標)がGNSS方位評価指標(第1の指標)よりも高い場合、すなわちIMU方位の精度がGNSS方位の精度よりも高いと推定される場合、旋回体IMU(慣性計測装置)26での測定結果に基づいて上部旋回体4の方位を演算する。
したがって、第2実施形態によれば、第1実施形態と同様の作用効果を奏することができ、さらに、上部旋回体4の位置及び方位の測定精度を向上することができる。
次のような変形例も本発明の範囲内であり、変形例に示す構成と上述の実施形態で説明した構成を組み合わせたり、上述の異なる実施形態で説明した構成同士を組み合わせたり、以下の異なる変形例で説明する構成同士を組み合わせることも可能である。
<変形例1>
上記実施形態では、3本の支持脚82,83を設ける例について説明したが、本発明はこれに限定されない。アンテナ支持台81に固定される支持脚の本数は、2本以下であってもよいし、4本以上であってもよい。アンテナ支持装置80は、メインアンテナ28aの位相中心が旋回中心軸C0上に位置するようにメインアンテナ28aを支持できる構成であればよい。また、支持脚の形状も上記実施形態に限定されない。
<変形例2>
アンテナ支持台81と各支持脚82,83とは、着脱自在の構造としてもよい。この場合、アンテナ支持台81と各支持脚82,83との位置関係が一意的に定まるように組み立て可能な構造とすることが好ましい。
<変形例3>
上記実施形態では、サブアンテナ28bが上部旋回体4の右部に設けられている例について説明したが、本発明はこれに限定されない。サブアンテナ28bは、上部旋回体4に設けられていればよい。サブアンテナ28bは、例えば、上部旋回体4の左部に設けてもよいし、上部旋回体4の後端部に設けてもよい。
<変形例4>
上記実施形態では、2つのGNSSアンテナ28を備えた油圧ショベル1を例に説明したが、本発明はこれに限定されない。3つ以上のGNSSアンテナ28を上部旋回体4に設けてもよい。少なくとも、複数のGNSSアンテナ28が、メインアンテナ28aと、サブアンテナ28bと、を含み、メインアンテナ28aの位相中心が旋回中心軸C0上に配置されていればよい。
<変形例5>
上記実施形態では、メインアンテナ精度評価部119及び基線ベクトル精度評価部118が、可用衛星の数及び可用衛星の配置の情報、及び、算出結果のばらつきに基づいて、算出精度が許容できる精度であるか否かを判定する例について説明したが、本発明はこれに限定されない。算出結果のばらつきのみを用いて算出精度が許容できる精度であるか否かを判定してもよいし、可用衛星の数及び可用衛星の配置の情報のみに基づいて算出精度が許容できる精度であるか否かを判定してもよい。また、精度の評価方法は、上述の例に限定されず、周知の種々の方法を採用することができる。
<変形例6>
上記実施形態では、外輪取付ボルト60によって、外輪41と上部旋回体4とを接続する例について説明したが、本発明はこれに限定されない。外輪41と上部旋回体4とを接続する接続部材は、外輪取付ボルト60に限定されず、クランプ等の締結部材を接続部材として採用してもよい。
<変形例7>
上記実施形態では、フロント作業機3が、ブーム6、アーム7及びバケット8で構成される例について説明したが、本発明はこれに限定されない。作業機の構造、関節の数等は、任意に構成することができる。例えば、バケット8の代わりに油圧で開閉して物体を把持するグラップルを装備してもよい。
<変形例8>
上記実施形態では、作業機械がクローラ式の油圧ショベル1である場合を例に説明したが、本発明はこれに限定されない。ホイール式の油圧ショベル、クローラクレーン等の移動式クレーン等、下部走行体と、下部走行体上に旋回可能に設けられる上部旋回体と、を備える種々の作業機械に本発明を適用することができる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。