JP2021048071A - リチウムイオン二次電池用正極活物質およびリチウムイオン二次電池 - Google Patents

リチウムイオン二次電池用正極活物質およびリチウムイオン二次電池 Download PDF

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Abstract

【課題】抵抗を低減させ、優れた出力特性を発現できる正極活物質の提供。【解決手段】層状岩塩型の結晶構造を有するリチウム遷移金属含有複合酸化物粒子からなり、一次粒子が凝集した二次粒子により構成され、二次粒子は、3.0μm以上7.0μm以下の50%累積径d50、2.0m2/g以上5.0m2/g以下の比表面積、0.01μm以上0.20μm以下の細孔ピーク径、0.008cc/g以上0.03cc/g以下のlog微分細孔容積〔dV/d(logD)〕を有し、0.1μm以上1.0μm以下の範囲にある複数の一次粒子のそれぞれについて、断面STEMあるいはTEM−EDX分析によって複数箇所について添加元素Mの濃度を測定し、添加元素Mの濃度の標準偏差を添加元素Mの平均濃度で除した値である添加元素Mの濃度の変動係数を算出した場合に、該変動係数が1.5以下である、リチウムイオン二次電池用正極活物質。【選択図】図1

Description

本発明は、リチウム遷移金属含有複合酸化物からなるリチウムイオン二次電池用正極活物質、および該リチウムイオン二次電池用正極活物質を正極材料として用いたリチウムイオン二次電池に関する。
近年、スマートフォン、タブレット端末、デジタルカメラ、ノート型パソコンなどの携帯電子機器の普及に伴い、高いエネルギー密度を有する小型で軽量な二次電池の開発が強く望まれている。また、ハイブリット電気自動車、プラグインハイブリッド電気自動車、電池式電気自動車などの電気自動車用の電源として高容量で高出力の二次電池の開発が強く望まれている。
このような要求を満たす二次電池として、リチウムイオン二次電池がある。このリチウムイオン二次電池は、負極、正極、非水電解質あるいは固体電解質などで構成され、その負極および正極の材料として用いられる活物質には、リチウムを脱離および挿入することが可能な材料が使用される。なお、非水電解質としては、支持塩であるリチウム塩を有機溶媒に溶解してなる非水電解液があり、固体電解質としては、不燃性でリチウムイオン伝導性を有する無機あるいは有機の固体電解質がある。
リチウムイオン二次電池のうち、層状岩塩型またはスピネル型の結晶構造を有するリチウム遷移金属含有複合酸化物を正極材料に用いたリチウムイオン二次電池は、4V級の電圧が得られるため、高いエネルギー密度を有する電池として、研究開発および実用化が進められている。
リチウムイオン二次電池の正極材料としては、合成が比較的容易なリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO)、コバルトよりも安価なニッケルを用いたリチウムニッケル複合酸化物(LiNiO)、リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物(LiNi1/3Mn1/3Co1/3)、マンガンを用いたリチウムマンガン複合酸化物(LiMn)、リチウムニッケルマンガン複合酸化物(LiNi0.5Mn0.5)などのリチウム遷移金属含有複合酸化物からなる正極活物質が提案されている。
近年、これらのリチウム遷移金属含有複合酸化物の中でも、リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物(LiNi1/3Mn1/3Co1/3)を含む、遷移金属として、少なくともニッケル、マンガン、およびコバルトを含有する、リチウムニッケルマンガンコバルト含有複合酸化物(NMC)からなる三元系の正極活物質は、熱安定性に優れ、高容量で、電池容量のサイクル特性も良好で、かつ、低抵抗で高出力が得られる材料として注目されている。リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物は、リチウムコバルト複合酸化物やリチウムニッケル複合酸化物などと同じく、層状岩塩型の結晶構造を有する化合物である。
リチウム遷移金属含有複合酸化物に関しては、その内部抵抗の低減による高出力化にその開発の重点が置かれている。特に、電気自動車用の電源用途において、さらなる内部抵抗の低減による高出力化が高いレベルで要求されている。
リチウムニッケル含有複合酸化物やリチウムニッケルマンガンコバルト含有複合酸化物などのリチウム遷移金属含有複合酸化物からなる正極活物質の出力特性やサイクル特性を改善するためには、小粒径かつ粒度分布が狭い粒子によって構成することが重要である。粒径の小さい粒子は、その比表面積が大きく、正極活物質として用いた場合に電解質との反応面積を十分に確保することができ、さらに、正極を薄く構成し、リチウムイオンの正極−負極間の移動距離を短くすることができる。このため、粒径の小さい粒子とすることで、正極抵抗の低減を図ることが可能となる。また、粒度分布が狭い粒子を用いることにより、電極内で粒子に印加される電圧を均一化できるため、微粒子の選択的な劣化による電池容量の低下を抑制することが可能となる。
出力特性のさらなる改善を図るために、リチウム遷移金属含有複合酸化物の粒子構造の改善についても研究開発が進められている。たとえば、出力特性の改善には、正極活物質の内部に、電解質が侵入可能な空間部を形成することが有効であると考えられる。このような構造を採用することにより、粒径が同程度である中実構造の正極活物質と比べて、電解質との反応面積を大きくすることができるため、正極抵抗を大幅に低減することが可能となる。なお、正極活物質は、その前駆体となる遷移金属含有複合水酸化物の粒子性状を引き継ぐことが知られている。すなわち、空間部を備えた正極活物質を得るためには、その前駆体である遷移金属含有複合水酸化物の二次粒子の粒径、粒度分布、および粒子構造などを適切に制御することが必要となる。
たとえば、特開2012−246199号公報、および、WO2012/131881号公報には、主として核生成を行う核生成工程と、主として粒子成長を行う粒子成長工程の2段階に明確に分離した晶析反応により、正極活物質の前駆体となる遷移金属含有複合水酸化物粒子を製造する方法が開示されている。これらの方法では、核生成工程および粒子成長工程におけるpH値や反応雰囲気を適宜調整することで、小粒径で粒度分布が狭く、かつ、微細一次粒子からなる低密度の中心部と、板状または針状一次粒子からなる高密度の外殻部とから構成される遷移金属含有複合水酸化物粒子を得ており、このような複合水酸化物粒子から得られる正極活物質は、中空構造を有しており、電解液との接触面積が大きくなり、出力特性の改善が可能としている。
WO2014/181891号公報、特開2018−104276号公報には、少なくとも遷移金属を含有する金属化合物とアンモニウムイオン供給体とを含む核生成用水溶液のpH値を12.0〜14.0となるように制御し、核生成を行う核生成工程と、生成した核を含有する粒子成長用水溶液のpH値を、核生成工程のpH値よりも低く、かつ、10.5〜12.0となるように制御して成長させる粒子成長工程を備え、核生成工程および粒子成長工程の初期を非酸化性雰囲気とするとともに、粒子成長工程における所定のタイミングで、酸化性雰囲気に切り替えた後、再度、非酸化性雰囲気に切替える雰囲気制御を少なくとも1回行うことを特徴とする遷移金属含有複合水酸化物粒子の製造方法が開示されている。この方法によれば、小粒径で粒度分布が狭く、かつ、板状または針状一次粒子が凝集して形成された中心部を有し、中心部の外側に微細一次粒子が凝集して形成された低密度層と、板状一次粒子が凝集して形成された高密度層が交互に積層した積層構造を2つ備える遷移金属含有複合水酸化物粒子を得ることができるとしている。
これらの遷移金属含有複合水酸化物粒子を前駆体とする正極活物質は、小粒径で粒度分布が狭く、中空構造または空間部を有する多層構造を備えたものとなる。したがって、これらの正極活物質を用いた二次電池では、電池容量、出力特性、およびサイクル特性を同時に改善することが可能とされている。
特開2012−246199号公報 WO2012/131881号公報 WO2014/181891号公報 特開2018−104276号公報
しかしながら、これらの文献に記載の正極活物質に対しては、その出力特性について改善の余地があることから、さらなる出力特性の改善が求められている。
本発明は、上記課題に鑑みて、リチウムイオン二次電池に用いられた際に、優れた出力特性を発現することが可能なリチウムイオン二次電池用正極活物質を提供することをと目的とする。
本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質は、
一般式(A):Li1+uNiCoMn(ただし、−0.05≦u≦0.5、x+y+z+t=1、0.3≦x≦0.9、0≦y≦0.5、0≦z≦0.5、0<t≦0.05、Mは、Mg、Al、Si、Ca、Ti、Si、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、およびWから選択される1種以上の添加元素)で表れる組成、および、層状岩塩型の結晶構造を有するリチウム遷移金属含有複合酸化物粒子からなり、
該リチウム遷移金属含有複合酸化物粒子は、一次粒子が凝集した二次粒子により構成され、
前記二次粒子は、3.0μm以上7.0μm以下の粒度分布測定値から求めた50%累積径d50、2.0m/g以上5.0m/g以下のBET比表面積、0.01μm以上0.20μm以下の窒素ガス吸着法により得られた細孔分布における細孔ピーク径、0.008cc/g以上0.03cc/g以下の前記細孔ピーク径の範囲におけるlog微分細孔容積〔dV/d(logD)〕を有し、および、
前記一次粒子のうち、0.1μm以上1.0μm以下の範囲にある一次粒子径を有する複数の一次粒子のそれぞれについて、断面STEMあるいはTEM−EDX分析によって複数箇所について前記添加元素Mの濃度を測定し、該添加元素Mの濃度の標準偏差を該添加元素Mの平均濃度で除した値である該添加元素Mの濃度の変動係数を算出した場合に、該変動係数が1.5以下である。
前記二次粒子の前記50%累積径d50は、4.0μm以上6.0μm以下であることが好ましい。
前記二次粒子の粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90−d10)/d50〕(ただし、d10は粒度分布測定値から求めた10%累積径であり、d90は粒度分布測定値から求めた90%累積径である)が1.0以下であることが好ましい。
前記二次粒子のd90/d10の値が、1.0以上2.0以下であることが好ましい。
前記二次粒子は、凝集部と、該凝集部の外周部を連通する1個以上の連通孔と、該凝集部の内側に存在し、前記連通孔と連通する2個以上の空間部を有することが好ましい。前記連通孔の数は2個以上であることが好ましい。前記2個以上の空間部は、前記連通孔または他の空間部と連通することが好ましい。
前記添加元素Mは、Mg、Al、Si、Ti、Zr、Nb、Mo、およびWから選択される1種以上であることが好ましい。前記添加元素Mは、Wであることが好ましい。
本発明のリチウムイオン二次電池は、正極、負極、セパレーター、および非水電解質を備え(非水電解質二次電池)、あるいは、正極、負極、および固体電解質を備え(固体電解質二次電池)、前記正極に用いられる正極活物質として、本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質が用いられていることを特徴とする。
本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質では、非水電解質あるいは固体電解質との接触面積が十分に大きいため、粒子界面でのリチウムイオンの挿入および脱離が促進され、その出力特性を改善することが可能である。したがって、本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質用を適用したリチウムイオン二次電池は、高い出力特性を提供することが可能となるため、その工業的な意義は非常に大きい。
図1は、本発明の実施例1のリチウムイオン二次電池用正極活物質を構成する二次粒子の断面のSEM写真である。 図2は、比較例1のリチウムイオン二次電池用正極活物質を構成する二次粒子の断面のSEM写真である。 図3は、電池評価に使用した2032型コイン形電池の概略断面図である。 図4は、インピーダンス評価の測定例を示すグラフである。 図5は、解析に使用した等価回路の概略説明図である。
1.リチウムイオン二次電池用正極活物質
本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質(以下、「正極活物質」という)は、リチウム遷移金属含有複合酸化物粒子(以下、「複合酸化物粒子」という)からなり、下記の要件(1)〜(7)を具備することを特徴とする。
(1)組成
複合酸化物粒子は、一般式(A):Li1+uNiCoMn(ただし、−0.05≦u≦0.5、x+y+z+t=1、0.3≦x≦0.9、0≦y≦0.5、0≦z≦0.5、0<t≦0.05、Mは、Mg、Al、Si、Ca、Ti、Si、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、およびWから選択される1種以上の添加元素)で表れる組成を有する。
本発明の正極活物質において、リチウム(Li)の過剰量を示すuの値は、−0.05〜0.5の範囲にある。好ましくは0〜0.50の範囲、より好ましくは0〜0.35の範囲にある。uの値を上記範囲に規制することにより、この正極活物質を正極材料として用いたリチウムイオン二次電池の出力特性および電池容量を向上させることができる。これに対して、uの値が−0.05未満では、二次電池の正極抵抗が大きくなるため、出力特性を向上させることができない可能性がある。0.5を超えると、初期放電容量が低下するばかりでなく、正極抵抗も大きくなってしまう可能性がある。
ニッケル(Ni)は、二次電池の高電位化および高容量化に寄与する元素であり、その含有量を示すxの値は、0.3〜0.9の範囲にある。好ましくは0.4〜0.7の範囲、より好ましくは0.4〜0.6の範囲にある。xの値が0.3未満では、この正極活物質を用いた二次電池のエネルギー密度を十分に向上させることができない可能性がある。xの値が0.9を超えると、出力特性や耐久性を向上させる他の元素の含有量が減少し、正極活物質としての特性が十分に得られない可能性がある。
マンガン(Mn)は、熱安定性の向上に寄与する元素であり、その含有量を示すyの値は、0〜0.5の範囲にある。好ましくは0.1〜0.4の範囲にある。yの値が0.5を超えると、高温作動時に正極活物質からMnが溶出し、充放電サイクル特性が劣化することがある。
コバルト(Co)は、充放電サイクル特性および出力特性の向上に寄与する元素であり、その含有量を示すzの値は、0〜0.5の範囲にある。好ましくは0.1〜0.4の範囲にある。zの値が0.5を超えると、この正極活物質を用いた二次電池の初期放電容量が低下することがある。
本発明の正極活物質では、以下の添加元素Mを含有することができる。添加元素Mとしては、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、カルシウム(Ca)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、およびタングステン(W)から選択される1種以上を用いることができる。
添加元素Mは、Mg、Al、Si、Ti、Zr、Nb、Mo、およびWからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、Wであることがより好ましい。
添加元素Mの含有量を示すtの値は、0〜0.05の範囲にある。好ましくは0.001〜0.03の範囲にある。tの値が0.05を超えると、Redox反応に寄与する金属元素が減少するため、二次電池の電池容量が低下する。
添加元素Mは、複合酸化物粒子内部に分散させてもよく、複合酸化物粒子の表面を被覆させてもよい。いずれの場合でも、添加元素Mの含有量が上記範囲となるように制御することが好ましい。
本発明の複合酸化物粒子は、主たる遷移金属として、Ni、Mn、およびCoを含む、リチウムニッケルマンガンコバルト含有複合酸化物(NMC)により構成されていることが好ましい。この場合、複合酸化物粒子は、一般式(B):Li1+uNiMnCo(−0.05≦u≦0.5、x+y+z+s+t=1、0.3≦x≦0.7、0.15≦y≦0.4、0.15≦z≦0.4、0.001≦s≦0.03、0≦t≦0.05、Mは、Mg、Al、Si、Ca、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wから選択される1種以上の添加元素)の組成を有することが好ましい。
正極活物質の組成の確認は、誘導結合プラズマ発光分析、粉末X線回折により得られたパラメータをリートベルト解析することなどにより、行うことができる。
本発明の正極活物質は、上記一般式(A)または一般式(B)の組成を有する場合、層状岩塩型で、六方晶系の結晶構造を有する。
(2)粒子構造
本発明の正極活物質では、複合酸化物粒子は、複数の一次粒子が凝集して形成された二次粒子から構成される。
前記二次粒子は、凝集部と、該凝集部の外周部を連通する1個以上の連通孔と、該凝集部の内側に存在し、前記連通孔と連通する2個以上の空間部を有することが好ましい。
前記2個以上の空間部は、前記連通孔または他の空間部と連通することが好ましい。前記連通孔の数も2個以上であることが好ましい。
複合酸化物粒子がこのような二次粒子の構造を有することにより、後述する本発明の正極活物質の粒子性状を容易に実現することが可能となる。
外周部の連通孔と内部の空間部とが連通していない場合、粒子内部の空間部が孤立して、複合酸化物粒子(二次粒子)の内部に十分に電解質が侵入できず、十分な反応場が確保できないため、この正極活物質を用いた二次電池において、所望の電池性能が十分に発現しない場合がある。内部の2個以上の空間部は、それぞれが直接に外周部の連通孔と連通することができる。あるいは、他の連通孔を介して外周部の連通孔と連通することもできる。
このような構造により、外周部の連通孔を介して、粒子内部の空間部にまで十分に電解質が侵入するため、粒子の表面だけでなく、粒子内部においても、リチウムの脱離および挿入が可能となり、十分な反応場が確保され、電池の内部抵抗を大幅に低減させることが可能となる。
したがって、このような構造を有する正極活物質を正極材料に用いてリチウムイオン二次電池を構成した場合、出力特性をさらに改善することが可能となる。
(3)粒子径
本発明の正極活物質において、前記二次粒子は、3.0μm以上7.0μm以下の粒度分布測定値から求めた50%累積径d50を有する。該二次粒子の50%累積径d50は、4.0μm以上6.5μm以下であることが好ましく、4.0μm以上6.0μm以下であることがより好ましい。
より具体的には、50%累積径d50は、レーザー光回折散乱式粒度分析計で測定した体積積算値から求めた累積体積が全粒子の合計体積の50%となる粒径(全体体積を100%にして粒度分布の累積曲線を求めるとき、この累積曲線が50%となる点の粒径)である。
正極活物質を構成する粒子のd50が上記範囲にあれば、この正極活物質を用いた二次電池の単位体積あたりの電池容量を増加させることができるばかりでなく、安全性や出力特性も改善することができる。
これに対して、50%累積径d50が3.0μm未満では、正極活物質の充填性が低下し、単位体積あたりの電池容量を増加させることができない可能性がある。50%累積径d50が7.0μmを超えると、正極活物質の反応面積が低下し、電解質との界面が減少するため、出力特性を改善することが困難となる可能性がある。
(4)BET比表面積
本発明の正極活物質において、前記二次粒子は、2.0m/g以上5.0m/g以下のBET比表面積を有する。BET比表面積は、2.5m/g以上4.5m/g以下であることが好ましい。
前記二次粒子のBET比表面積は、正極活物質の粒子性状(電解質との接触面積)を表す指標となる。該二次粒子が、凝集部と、該凝集部の外周部を連通する1個以上の連通孔と、該凝集部の内側に存在し、前記連通孔と連通する2個以上の空間部を有する場合、このBET比表面積は、二次粒子の外周部に存在する連通孔(開口部)および二次粒子の内部の微細空洞(空間部)を含む表面積を表す。
BET比表面積は、窒素ガス吸着によるBET法により測定される。
前記二次粒子のBET比表面積が2.0m/g未満では、この正極活物質を用いて二次電池を構成した場合に、電解質との反応面積を十分に確保することができず、出力特性を十分に向上させない可能性がある。該二次粒子のBET比表面積が5.0m/gを超えると、正極活物質と電解質との反応面積が多くなり過ぎ、二次電池の耐久性が低下する場合がある。
(5)細孔ピーク径
本発明の正極活物質において、前記二次粒子は、0.01μm以上0.20μm以下の窒素ガス吸着法により得られた細孔分布における細孔ピーク径を有する。該細孔ピーク径は、
0.02μm以上0.18μm以下であることが好ましく、0.03μm以上0.15μm以下であることがより好ましい。
具体的には、細孔ピーク径は、窒素ガス吸着法により該二次粒子の吸着側等温線から求めた細孔分布を得て、該細孔分布における細孔ピークの存在する径として定義される。
該二次粒子の細孔ピーク径は、正極活物質の粒子性状(平均的な細孔径)を表す指標となる。より具体的には、正極活物質を構成する二次粒子の細孔ピーク径が上述の範囲にあると、該粒子は、多数の微細な細孔を有した多孔質形状であるという特性を備えることを意味する。
該二次粒子の細孔ピーク径が、0.01μm未満では、細孔径が小さいため粒子強度を維持できず粒子が粉砕され、電池性能を損なう可能性がある。該二次粒子の細孔ピーク径が0.20μmを超えると、この正極活物質を用いて二次電池を構成した場合、電解質との反応面積を十分に確保できず、出力特性を十分に発揮できない可能性がある。
(6)log微分細孔容積
本発明の正極活物質において、前記二次粒子は、0.008cc/g以上0.03cc/g以下の前記細孔ピーク径におけるlog微分細孔容積〔dV/d(logD)〕を有する。該log微分細孔容積は、0.01cc/g以上0.02cc/g以下であることが好ましく、0.015cc/以上0.02cc/g以下であることがより好ましい。
該細孔ピーク径におけるlog微分細孔容積〔dV/d(logD)〕は、正極活物質の粒子性状(全空洞の体積)を表す指標となる。より具体的には、該細孔ピーク径におけるlog微分細孔容積〔dV/d(logD)〕は、ガス吸着法により吸着側等温線から求めた細孔分布に基づいて、それぞれの細孔径について求めた差分細孔容積dVを、細孔径の対数扱いの差分値d(logD)で割った値を求めた、log微分細孔容積分布における、前記細孔ピーク径のおける値である。正極活物質を構成する二次粒子において、log微分細孔容積〔dV/d(logD)〕が上述の範囲にあると、該粒子は、内部に適切な量の空間部が形成され、十分なBET比表面積が得られることを意味する。
該細孔ピーク径におけるlog微分細孔容積〔dV/d(logD)〕が、0.008cc/gを下回ると、二次粒子の内部に十分な空間部が形成されず、十分なBET比表面積が得られない場合がある。該細孔ピーク径におけるlog微分細孔容積〔dV/d(logD)〕が、0.03cc/gを超えると、二次粒子の内部に構造的に空間部が多く存在することとなり、かさ密度が低くなって充填性が低下するため、該正極活物質を用いて二次電池を構成した場合に、単位体積あたりの電池容量が十分に得られない場合がある。
(7)添加元素Mの濃度の変動係数
本発明の正極活物質において、前記二次粒子を構成する前記一次粒子内における添加元素Mの濃度のばらつきを示す変動係数(CV)は、1.5以下である。該変動係数(CV)は、1.3以下であることが好ましく、1.2以下であることがさらに好ましい。
添加元素Mの濃度の変動係数は、前記一次粒子内の粒内および粒界を含む一次粒子全体における添加元素Mの濃度のばらつきを示す指標である。
添加元素Mの濃度の変動係数は、以下のようにして求められる。まず、収束イオンビーム装置(FIB)やイオンミリング装置などで、正極活物質を薄片加工して、二次粒子断面を露出させる。走査透過電子顕微鏡(STEM)あるいは透過電子顕微鏡(TEM)を用いて、該二次粒子の断面のうち、0.1μm以上1.0μm以内の範囲にある一次粒子径を有する連結する2つの一次粒子を狙い、該2つの一次粒子のそれぞれについて、複数箇所に電子線照射を行い、発生した添加元素Mの特性X線のエネルギーについてエネルギー分散型X線分析装置(EDX)分析を行うことで、それぞれの箇所における添加元素Mの濃度を求める。
得られた添加元素Mの濃度のデータから、添加元素Mの平均濃度(μ)、および、添加元素Mの濃度の標準偏差(σ)を求める。
添加元素Mの濃度の変動係数(CV)は、式:CV=σ/μにより求められる。
添加元素Mの濃度の変動係数(CV)が1.5を超えると、一次粒子内および/または二次粒子内のおける、添加元素Mの分布に偏りが生じ、この正極活物質を用いた二次電池において、電池容量や出力特性などの電池性能が損なわれる場合がある。
(8)粒度分布
任意であるが、本発明の正極活物質において、前記二次粒子の粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90−d10)/d50〕は、好ましくは1.0以下、より好ましくは0.7以下、さらに好ましくは0.6以下である。このような粒度分布が狭い二次粒子からなる正極活物質は、微細粒子や粗大粒子の割合が少ないため、これを用いた二次電池は、安全性、サイクル特性、および出力特性のいずれにも優れたものとなる。
〔(d90−d10)/d50〕が1.0を超えると、正極活物質中の微細粒子や粗大粒子の割合が増加する。たとえば、微細粒子の割合が多いと、微細粒子の局所的な反応に起因して、二次電池が発熱しやすくなり、安全性が低下するばかりでなく、微細粒子の選択的な劣化により、サイクル特性が劣ったものとなることがある。また、粗大粒子の割合が多いと、電解質と正極活物質の反応面積を十分に確保することができず、出力特性が劣ったものとなることがある。
工業規模の生産を前提とした場合には、正極活物質として、〔(d90−d10)/d50〕が過度に小さいものを用いることは現実的ではない。したがって、コストや生産性を考慮すると、〔(d90−d10)/d50〕の下限値は、0.3程度とすることが好ましい。
なお、粒度分布の広がりを示す指標〔(d90−d10)/d50〕におけるd10およびd90の意味および求め方は、上述のd50の場合と同様であり、d90は、それぞれの粒子の体積を粒径の小さい側から累積し、その累積体積が全粒子の合計体積の90%となる粒径、d10は、それぞれの粒子の体積を粒径の小さい側から累積し、その累積体積が全粒子の合計体積の10%となる粒径を意味する。
(9)d90/d10
任意であるが、本発明の正極活物質において、前記二次粒子についての前記粒度分布測定値から求めたd10の値に対するd90の値の比(d90/d10)は、1.0以上2.0以下であることが好ましく、1.2以上1.8以下であることがより好ましい。
正極活物質を構成する二次粒子のd90/d10の値がこの範囲にあれば、この正極活物質を用いた二次電池の単位体積あたりの電池容量を増加させることができるばかりでなく、安全性や出力特性も改善することができる。二次粒子のd90/d10の値が2.0を超えると、正極活物質の反応面積が低下し、電解質との界面が減少するため、出力特性を改善することが困難となる可能性がある。
(10)(003)面のX線回折図形から求めた結晶子径
任意であるが、本発明の正極活物質を構成する複合酸化物粒子について、X線回折による(003)面のピークの半価幅からシェラー式を用いて一次粒子の結晶子径を求めた場合に、その結晶子径が、好ましくは300Å〜1500Åの範囲、より好ましくは400Å〜1300Åの範囲、さらに好ましくは700Å〜1250Åの範囲にある。このような範囲の結晶子径を有する正極活物質は、結晶性がきわめて高く、二次電池の正極抵抗を低減させ、かつ、その出力特性を向上させることができる。
(003)面の結晶子径が300Å未満であると、一次粒子が微細で、正極活物質内の一次粒子間に存在する細孔が微細となりすぎて、正極活物質内に電解質が侵入しがたくなるため、電解質との反応面積が減少し、二次電池の出力特性が低下する。(003)面の結晶子径が1500Åを超えると、一次粒子が粗大になりすぎて、二次粒子中に占める細孔の割合が極端に減少し、電解質の侵入経路が減少するため、電解質との反応面積が減少して、二次電池の出力特性が低下する。
2.リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法
本発明の正極活物質は、上述した組成、結晶構造、粒子構造、および粒子性状を具備している限り、その製造方法により限定されることはない。
ただし、本発明の正極活物質を以下に説明する製造方法により製造することにより、上述した組成、結晶構造、粒子構造、および粒子性状を具備した正極活物質を容易に製造することが可能となる。
具体的には、本発明の正極活物質は、晶析工程中における酸化性雰囲気と非酸化性雰囲気とを切り替えて、ニッケルマンガンコバルト含有複合水酸化物などの遷移金属含有複合水酸化物を調製し、該複合水酸化物あるいは該複合水酸化物を熱処理した熱処理粒子とリチウム化合物とを混合して、得られたリチウム混合物を焼成することにより得られる。
以下、各工程について、前記複合酸化物粒子がリチウムニッケルマンガンコバルト含有複合酸化物粒子である場合を例にして、詳細に説明する。
(1)晶析工程
反応槽内に水と水酸化ナトリウム水溶液と炭酸カリウム水溶液とアンモニア水を適量供給し、pH値が液温25℃基準で11以上13以下、アンモニウムイオン濃度が9g/L以上15g/L以下となるように調整した反応前水溶液を準備する。一方、硫酸ニッケル、硫酸マンガン、硫酸コバルト、および添加元素Mの化合物(硫酸塩、ナトリウム塩など)を、それぞれの金属元素(Ni、Co、Mn、M)のモル比が上記式(A)を満たすように水に溶解し、1.0mol/L以上3.0mol/L以下の原料水溶液を調整することが望ましい。
粒子内部に固溶させる添加元素Mの濃度の変動係数を抑えるためには、遷移金属元素の周辺に局所的に添加元素Mが共沈することを解消するため、硫酸マンガン、および硫酸コバルトを、それぞれの金属元素(Ni、Co、Mn)のモル比が上記式(A)を満たすように水に溶解し、1.0mol/L以上3.0mol/L以下の原料水溶液を調整し、添加元素Mの化合物を含んだ水溶液を別に準備して、添加元素Mの添加量が上記式(A)を満たすように、前記原料水溶液に添加することがより好ましい。
次に、原料水溶液を、アルゴンガスや窒素など酸素濃度が2容量%以下の非酸化性雰囲気のガスを吹き込みながら、反応前水溶液に供給することで、核生成を行う。この際、水酸化ナトリウム水溶液と炭酸カリウム水溶液とアンモニア水を適時供給し、核生成用水溶液のpH値およびアンモニウムイオン濃度を上述した範囲に維持させることが望ましい。
核生成終了後、硫酸などの酸を加えて、pH値が、液温25℃基準で10以上12以下であって、かつ、前記核生成工程におけるpH値よりも小さくなるように調整することで、粒子成長用水溶液を形成する。pH値が所定の値になったことを確認した後、上記原料水溶液を供給し核生成工程で生成した核(粒子)を成長させる。なお、添加元素Mの化合物を含んだ水溶液を別に準備する場合において、該添加元素Mの化合物を含んだ水溶液を、粒子成長工程においてのみ、あるいは、粒子成長工程の特定の段階(たとえば、第3段階および第4段階)においてのみ、添加することもできる。
粒子成長の第1段階として、粒子成長工程の開始時から、酸素濃度が2容量%以下の非酸化性雰囲気における晶析を、一定時間攪拌機を用いて攪拌させながら、継続する。
第2段階として、原料水溶液の供給を継続したまま、孔径が100μm〜1cmの範囲にある散気管を用いて、反応槽内に空気または酸素を流通させ、反応雰囲気を酸素濃度が21容量%以上の酸化性雰囲気に調整する、切替操作1を行う。切替操作1の開始後、酸化性雰囲気を維持しつつ一定時間撹拌機を用いて攪拌させながら、晶析を行う。
第3段階として、原料水溶液の供給を継続したまま、散気管を用いて反応槽内に非酸化性雰囲気のガスを流通させ、反応雰囲気を酸素濃度が2容量%以下の非酸化性雰囲気に調整する、切替操作2を行う。切替操作2の開始後、非酸化性雰囲気を維持しつつ一定時間撹拌機を用いて攪拌させながら、晶析を行う。
第4段階として、原料水溶液の供給を継続したまま、散気管を用いて反応槽内に酸化性雰囲気のガスを流通させ、反応雰囲気を酸素濃度が21容量%以上の酸化性雰囲気に調整する、切替操作3を行う。切替操作3の開始後、酸化性雰囲気を維持しつつ一定時間撹拌機を用いて攪拌させながら、晶析を行う。
第5段階として、原料水溶液の供給を継続したまま、散気管を用いて反応槽内に非酸化性雰囲気のガスを流通させ、反応雰囲気を酸素濃度が2容量%以下の非酸化性雰囲気に調整する、切替操作4を行う。切替操作4の開始後、非酸化性雰囲気を維持しつつ一定時間撹拌機を用いて攪拌させながら、晶析を行う。
粒子成長工程におけるそれぞれの段階の時間は、第2段階≦第4段階<第1段階≦第3段階≦第5段階とする。粒子成長工程全体の晶析時間は、8時間以内にすることが望ましい。
粒子成長工程は、同様に、切替操作5および6を行い、酸化性雰囲気における第6段階および非酸化性雰囲気における第7段階を設けることもできる。さらに、切替操作7および8を行い、酸化性雰囲気における第8段階および非酸化性雰囲気における第9段階を設けることもできる。さらに追加して、切替操作9および10を行い、酸化性雰囲気における第9段階および非酸化性雰囲気における第11段階を設けることもできる。
これらの場合も、粒子成長工程におけるそれぞれの段階の時間は、第2段階≦第4段階≦第6段階≦第8段階≦第10段階<第1段階≦第3段階≦第5段階≦第7段階≦第9段階≦第11段階とする。
晶析終了後、得られた生成物を、水洗、ろ過および乾燥させることにより、所定のニッケルコバルトマンガン含有複合水酸化物粒子を得ることができる。
粒子成長工程においては、この工程を通じて、水酸化ナトリウム水溶液とアンモニア水を適時供給し、粒子成長用水溶液のpH値およびアンモニウムイオン濃度を上述した範囲に維持することが望ましい。
このような晶析工程により得られた複合水酸化物粒子は、高密度の中心部の周囲に低密度層と高密度層とが相互に積層された粒子構造を有する。かかる粒子構造を有する複合水酸化物粒子を前駆体とすることで、凝集部と、該凝集部の外周部を連通する1個以上の連通孔と、該凝集部の内側に存在し、前記連通孔と連通する2個以上の空間部を有する粒子構造を備えた、複合酸化物粒子が容易に得られる。
(2)混合工程
混合工程は、上述した複合水酸化物粒子、あるいは、該複合水酸化物粒子に熱処理を加えた熱処理粒子に、リチウム化合物を混合して、リチウム混合物を得る工程である。
混合工程では、リチウム混合物中のLi以外の金属原子、具体的には、Ni、Mn、Co、および添加元素Mとの原子数の和(Me)と、Liの原子数(Li)との比(Li/Me)が、0.95〜1.5、好ましくは1.0〜1.5、より好ましくは1.0〜1.35、さらに好ましくは1.0〜1.2となるように、複合水酸化物粒子とリチウム化合物を混合する。すなわち、焼成工程の前後では、Li/Meは変化しないので、混合工程におけるLi/Meが、目的とする正極活物質のLi/Meとなるように、複合水酸化物とリチウム化合物を混合することが必要となる。
混合工程で使用するリチウム化合物は、特に制限されることはないが、入手の容易性から、水酸化リチウム、硝酸リチウム、炭酸リチウム、またはこれらの混合物を用いることが好ましい。特に、取り扱いの容易さや品質の安定性を考慮すると、水酸化リチウムまたは炭酸リチウムを用いることが好ましい。
混合には、一般的な混合機を使用することができる。たとえば、シェーカーミキサー、レーディゲミキサー、ジュリアミキサー、Vブレンダーなどを用いることができる。
(3)仮焼工程
リチウム化合物として、水酸化リチウムや炭酸リチウムを使用する場合には、混合工程後、焼成工程の前に、リチウム混合物を、後述する焼成温度よりも低温、かつ、350℃〜800℃、好ましくは450℃〜750℃で仮焼する仮焼工程を行うこともできる。これにより、複合水酸化物粒子中に、Liを十分に拡散させることができ、より均一な複合酸化物粒子を得ることができる。
なお、上記温度での保持時間は、1時間〜10時間とすることが好ましく、3時間〜6時間とすることがより好ましい。また、仮焼工程における雰囲気は、後述する焼成工程と同様に、酸化性雰囲気とすることが好ましく、酸素濃度が18容量%〜100容量%の雰囲気とすることがより好ましい。
(4)焼成工程
焼成工程は、混合工程で得られたリチウム混合物を所定条件の下で焼成し、複合水酸化物中にLiを拡散させて反応させ、複合酸化物粒子を得る工程である。
焼成工程に用いられる炉は、特に制限されることはなく、大気ないしは酸素気流中でリチウム混合物を加熱できるものであればよい。ただし、炉内の雰囲気を均一に保つ観点から、ガス発生がない電気炉が好ましく、バッチ式あるいは連続式の電気炉のいずれも好適に用いることができる。この点については、熱処理工程および仮焼工程に用いる炉についても同様である。
a)焼成温度
リチウム混合物の焼成温度は、720℃〜980℃に設定される。焼成温度が720℃未満では、複合水酸化物粒子とLiが十分に反応せず、余剰のLiや未反応の複合水酸化物が残存したり、得られる正極活物質の結晶性が不十分なものとなったりする。一方、焼成温度が980℃を超えると、複合酸化物粒子内の連通孔や空間部が潰れて、最終的に得られる正極活物質(二次粒子)のBET比表面積の低下、並びに、細孔ピーク径および該細孔ピーク径におけるlog微分細孔容積の低下を招く可能性がある。また、正極活物質の粒子間が激しく焼結して、異常粒成長が引き起こされ、不定形な粗大粒子の割合が増加することとなる。
焼成温度を制御することで、正極活物質(二次粒子)のBET比表面積、細孔ピーク径および該細孔ピーク径におけるlog微分細孔容積、さらには粒度分布測定値から求めた50%累積径d50を制御することが可能である。正極活物質(二次粒子)のBET比表面積、細孔ピーク径および該細孔ピーク径におけるlog微分細孔容積、粒度分布測定値から求めた50%累積径d50を制御する観点からは、リチウム混合物の焼成温度を730℃〜970℃に設定することが好ましく、750℃〜970℃に設定することがより好ましい。
焼成工程における昇温速度は、1℃/分〜10℃/分に設定することが好ましく、3℃/分〜8℃/分に設定することがより好ましい。さらに、焼成工程中、リチウム化合物の融点付近の温度においては、昇温速度を低下させて、0.3℃/分〜6℃/分に設定することがより好ましい。これにより、複合水酸化物粒子とリチウム化合物とを、より均一に反応させることができる。
b)焼成時間
焼成時間のうち、上述した焼成温度での保持時間は、少なくとも2時間とすることが好ましく、3時間〜20時間とすることがより好ましい。焼成温度における保持時間が2時間未満では、複合酸化物粒子中にLiが十分に拡散せず、余剰のLiや未反応の複合酸化物粒子が残存したり、得られる正極活物質の結晶性が不十分なものとなったりするおそれがある。
c)焼成雰囲気
焼成時の雰囲気は、酸化性雰囲気とすることが好ましく、酸素濃度が18容量%〜100容量%の雰囲気とすることがより好ましく、酸素濃度が50容量%〜100容量%の雰囲気とすることがさらに好ましい。上記酸素濃度の酸素と不活性ガスの混合雰囲気とすることが特に好ましい。すなわち、焼成は、大気ないしは酸素気流中で行うことが好ましい。酸素濃度が18容量%未満では、正極活物質の結晶性が不十分なものとなるおそれがある。
(5)解砕工程
焼成工程によって得られた正極活物質を構成する二次粒子は、凝集または軽度の焼結が生じている場合がある。このような場合には、凝集体または焼結体を解砕することが好ましい。これによって、得られる正極活物質の平均粒径や粒度分布を好適な範囲に調整することができる。なお、解砕とは、焼成時に粒子間の焼結ネッキングなどにより生じた複数の二次粒子からなる凝集体に、機械的エネルギーを投入して、二次粒子自体をほとんど破壊することなく分離させて、凝集体をほぐす操作を意味する。
解砕の方法としては、公知の手段を用いることができ、たとえば、ピンミルやハンマーミルなどを使用することができる。なお、この際、二次粒子自体を破壊しないように、解砕力を適切な範囲に制御することが好ましい。
以上述べたように、焼成条件を調整することで、正極活物質(二次粒子)のBET比表面積、細孔ピーク径および該細孔ピーク径におけるlog微分細孔容積、並びに、粒度分布測定値から求めた50%累積径d50を制御することが可能となり、最終的に、所定の粒子性状を備えた、本発明の正極活物質を容易に得ることができる。
3.リチウムイオン二次電池
本発明のリチウムイオン二次電池は、正極、負極、セパレーター、および非水電解質などの構成部材を備える、一般的な非水電解質二次電池と同様の構成を採ることができる。あるいは、本発明のリチウムイオン二次電池は、正極、負極、および固体電解質などの構成部材を備える、一般的な固体電解質二次電池と同様の構成を採ることができる。すなわち、本発明は、リチウムイオンの脱離および挿入により、充放電を行う二次電池であれば、非水系電解液二次電池から全固体リチウムイオン二次電池まで広く適用可能である。なお、以下に説明する実施形態は例示にすぎず、本発明は、本明細書に記載されている実施形態に基づいて、種々の変更、改良を施した形態のリチウムイオン二次電池に適用することが可能である。
(1)構成部材
a)正極
本発明の正極活物質を用いて、たとえば、以下のようにして、リチウムイオン二次電池の正極を作製する。
まず、本発明の正極活物質に、導電材および結着剤を混合し、さらに必要に応じて、活性炭、粘度調整などの溶剤を添加し、これらを混練して正極合材ペーストを作製する。その際、正極合材ペースト中のそれぞれの混合比も、リチウムイオン二次電池の性能を決定する重要な要素となる。たとえば、溶剤を除いた正極合材の固形分を100質量部とした場合には、一般のリチウムイオン二次電池の正極と同様に、正極活物質の含有量を60質量部〜95質量部、導電材の含有量を1質量部〜20質量部、および、結着剤の含有量を1質量部〜20質量部とすることができる。
得られた正極合材ペーストを、たとえば、アルミニウム箔製の集電体の表面に塗布し、乾燥して、溶剤を飛散させる。必要に応じて、電極密度を高めるべく、ロールプレスなどにより加圧することもある。このようにして、シート状の正極を作製することができる。シート状の正極は、目的とする電池に応じて適当な大きさに裁断などをして、電池の作製に供することができる。なお、正極の作製方法は、前記例示のものに限られることはなく、他の方法によってもよい。
導電材としては、たとえば、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛など)や、アセチレンブラックやケッチェンブラックなどのカーボンブラック系材料を用いることができる。
結着剤は、活物質粒子をつなぎ止める役割を果たすもので、たとえば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、スチレンブタジエン、セルロース系樹脂、またはポリアクリル酸を用いることができる。
このほか、必要に応じて、正極活物質、導電材および活性炭を分散させ、結着剤を溶解する溶剤を正極合材に添加することができる。溶剤としては、具体的に、N−メチル−2−ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。また、正極合材には、電気二重層容量を増加させるために、活性炭を添加することもできる。
b)負極
負極には、金属リチウムやリチウム合金などを使用することができる。また、リチウムイオンを吸蔵および脱離できる負極活物質に、結着剤を混合し、適当な溶剤を加えてペースト状にした負極合材を、銅などの金属箔集電体の表面に塗布し、乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成したものを使用することができる。
負極活物質としては、たとえば、金属リチウムやリチウム合金などのリチウムを含有する物質、リチウムイオンを吸蔵および脱離できる、天然黒鉛や人造黒鉛、フェノール樹脂などの有機化合物焼成体、コークスなどの炭素物質の粉状体などを用いることができる。この場合、負極結着剤としては、正極同様、PVDFなどの含フッ素樹脂を用いることができ、これらの負極活物質および結着剤を分散させる溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。
c)セパレーター
セパレーターは、リチウムイオン二次電池において、正極と負極との間に挟み込んで配置されるものであり、正極と負極とを分離し、電解質を保持する機能を有する。このようなセパレーターとしては、たとえば、ポリエチレンやポリプロピレンなどの薄い膜で、微細な孔を多数有する膜を用いることができるが、上記機能を有するものであれば、特に限定されることはない。また、固体電解質を用いることも可能である。
d)電解質
非水電解質二次電池に用いられる非水電解質には、支持塩であるリチウム塩を有機溶媒に溶解してなる非水電解液などが用いられる。
非水電解液に用いられる有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネートなどの環状カーボネート;ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート;テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジメトキシエタンなどのエーテル化合物;エチルメチルスルホン、ブタンスルトンなどの硫黄化合物;リン酸トリエチル、リン酸トリオクチルなどのリン化合物などから選ばれる1種を単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。
支持塩としては、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiN(CFSO、およびこれらの複合塩などを用いることができる。
なお、非水電解液は、ラジカル捕捉剤、界面活性剤および難燃剤などを含んでいてもよい。
全固体リチウムイオン二次電池などの固体電解質二次電池に用いられる固体電解質は、高電圧に耐えうる性質を有する。固体電解質には、無機固体電解質および有機固体電解質がある。
酸化物固体電解質としては、酸素(O)を含有し、かつ、リチウムイオン伝導性と電子絶縁性とを有する酸化物、たとえば、Li1.3Al0.3Ti1.7(PO、LiPO、LiPO、LiBO、LiNbO、LiTaO、LiSiO、LiSiO−LiPO、LiSiO−LiVO、LiO−B−P、LiO−SiO、LiO−B−ZnO、Li1+XAlTi2−X(PO(0≦X≦1)、Li1+XAlGe2−X(PO(0≦X≦1)、LiTi(PO、Li3XLa2/3−XTiO(0≦X≦2/3)、LiLaTa2O12、LiLaZr12、LiBaLaTa12、Li3.6Si0.60.4などを用いることができる。
硫化物固体電解質としては、硫黄(S)を含有し、かつ、リチウムイオン伝導性と電子絶縁性とを有する硫化物、たとえば、LiS−SiS、LiS−P、LiI−LiS−SiS、LiI−LiS−P、LiI−LiS−B、LiPO−LiS−SiS、LiPO−LiS−SiS、LiPO−LiS−SiS、LiI−LiS−P、LiI−LiPO−Pなどを用いることができる。
酸化物固体電解質および硫化物固体電解質以外の無機固体電解質としては、たとえば、LiN、LiI、LiN−LiI−LiOHなどを用いることができる。
有機固体電解質としては、イオン伝導性を示す高分子化合物を用いることができる。たとえば、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、これらの共重合体などを用いることができる。また、有機固体電解質は、支持塩(リチウム塩)を含むことができる。
なお、固体電解質を用いる場合には、電解質と正極活物質の接触を確保するため、正極材中にも固体電解質を混合させることができる。
(2)リチウムイオン二次電池の構成
リチウムイオン二次電池の構成は、特に限定されず、非水電解質二次電池における、正極、負極、セパレーター、非水電解質などからなる構成や、固体電解質二次電池における、正極、負極、固体電解質などからなる構成を採りうる。また、二次電池の形状は、特に限定されず、円筒形や積層形など、種々の形状に採ることができる。
非水電解質二次電池の場合、たとえば、正極および負極を、セパレーターを介して積層させて電極体とし、得られた電極体に、非水電解質を含浸させ、正極集電体と外部に通じる正極端子との間、および、負極集電体と外部に通ずる負極端子との間を、集電用リードなどを用いて接続し、電池ケースに密閉して、リチウムイオン二次電池を完成させる。
(3)リチウムイオン二次電池の特性
本発明のリチウムイオン二次電池は、上述したように、本発明の正極活物質を正極材料として用いているため、出力特性や耐久特性に優れる。
(4)リチウムイオン二次電池の用途
本発明のリチウムイオン二次電池は、上述のように、出力特性や耐久特性に優れており、これらの特性が高いレベルで要求される電動工具や環境自動車の電源に好適に利用することができる。
以下、実施例および比較例を用いて、本発明を詳細に説明する。核生成工程および粒子成長工程を通じて、反応水溶液のpH値は、pHコントローラにより測定し、この測定値に基づき、水酸化ナトリウム水溶液の供給量を調整することで、それぞれの工程における反応水溶液のpH値の変動幅を±0.2の範囲に制御した。
(実施例1)
a)複合水酸化物の製造
[核生成工程]
はじめに、反応槽内に、水を17L入れて撹拌しながら、槽内温度を40℃に設定した。この際、反応槽内に窒素ガスを1時間流通させ、反応雰囲気を、酸素濃度が2容量%以下の非酸化性雰囲気とした。続いて、反応槽内に、25質量%水酸化ナトリウム水溶液と25質量%の炭酸カリウム水溶液と25質量%アンモニア水を適量供給し、pH値が、液温25℃基準で12.6、アンモニウムイオン濃度が10g/Lとなるように調整することで反応前水溶液を形成した。
同時に、硫酸ニッケル、硫酸マンガン、および硫酸コバルトを、それぞれの金属元素のモル比がNi:Co:Mn=5:2:3となるように水に溶解し、2mol/Lの原料水溶液を調製した。
添加元素MとしてWを用いた。得られる複合水酸化物粒子における、添加元素Mを含むそれぞれの金属元素のモル比が、Ni:Mn:Co:W=5.0:2.0:3.0:0.1となるように、タングステン酸ナトリウム二水和物を水に溶解し、タングステン酸ナトリウム水溶液を調製した。
次に、原料水応液を、反応前水溶液に115ml/分で供給することで、核生成工程用水溶液を形成し、1分間の核生成を行った。この際、25質量%の水酸化ナトリウム水溶液と25質量%の炭酸カリウム水溶液と25質量%のアンモニア水を適時供給し、核生成用水溶液のpH値およびアンモニウムイオン濃度を上述の範囲に維持した。
[粒子成長工程]
核生成終了後、すべての水溶液の供給を一旦停止するとともに、硫酸を加えて、pH値が液温25℃基準で11.0となるように調整することで、粒子成長用水溶液を形成した。pH値が所定の値になったことを確認した後、核生成工程と同様の100ml/分と一定の割合で、原料水溶液を供給し、核生成工程で生成した核(粒子)を成長させた。なお、タングステン酸ナトリウム水溶液は、10ml/分と一定の割合で、第3段階および第4段階において、原料水溶液と同時に供給した。
第1段階として、攪拌機を用いて攪拌させながら、粒子成長工程の開始時から酸素濃度が2容量%以下の非酸化性雰囲気での晶析を35分継続させた。
第2段階として、原料水溶液の供給を継続したまま、孔径が1.0mmのSUS製の散気管を用いて反応槽内に空気を流通させ、反応雰囲気を、酸素濃度が21容量%の酸化性雰囲気に調整した(切替操作1)。切替操作1の開始後、攪拌機を用いて攪拌させながら、20分晶析を行った。
第3段階として、原料水溶液の供給を継続したまま、かつ、タングステン酸ナトリウム水溶液を供給しつつ、散気管を用いて反応槽内に窒素を流通させ、反応雰囲気を、酸素濃度が2容量%以下の非酸化性雰囲気に調整した(切替操作2)。切替操作2の開始後、攪拌機を用いて攪拌させながら、65分晶析を行った。
第4段階として、原料水溶液およびタングステン酸ナトリウム水溶液の供給を継続したまま、散気管を用いて反応槽内に空気を流通させ、酸素濃度が21容量%の酸化性雰囲気に調整した(切替操作3)。切替操作3の開始後、攪拌機を用いて攪拌させながら、40分晶析を行った。
第5段階として、タングステン酸ナトリウム水溶液の供給を停止する一方、原料水溶液の供給を継続したまま、散気管を用いて反応槽内に窒素を流通させ、反応雰囲気を、酸素濃度が2容量%以下の非酸化性雰囲気に調整した(切替操作4)。切替操作4の開始後、攪拌機を用いて攪拌させながら、110分晶析を行った。
その後、原料水溶液を含むすべての水溶液の供給を停止することで、粒子成長工程を終了した。得られた生成物を、水洗、ろ過および乾燥させることにより、複合水酸化物粒子を得た。
粒子成長工程においては、この工程を通じて、25質量%の水酸化ナトリウム水溶液と25質量%炭酸カリウム水溶液と25質量%のアンモニア水とを適宜供給し、粒子成長用水溶液のpH値およびアンモニウムイオン濃度を、上述の範囲に維持した。
b)正極活物質の作製
得られた複合水酸化物を、Li/Meが1.10となるように、シェーカーミキサー装置を用いて水酸化リチウムと十分に混合し、リチウム混合物を得た(混合工程)。
このリチウム混合物を、酸素(酸素濃度:100容量%)雰囲気中、昇温速度を1.3℃/分として965℃まで昇温し、この温度で3時間保持することにより焼成し、室温まで冷却した(焼成工程)。
得られたリチウム遷移金属含有複合酸化物粒子の凝集または軽度の焼結を解消するために、この正極活物質を解砕した(解砕工程)。
c)正極活物質の評価
[組成]
ICP発光分光分析装置(株式会社島津製作所製、ICPE−9000)を用いた分析により、この正極活物質の組成を分析した。
[粒度分布]
レーザー光回折散乱式粒度分析計(マイクロトラック・ベル株式会社製、マイクロトラックMT3300EXII)を用いて、正極活物質(二次粒子)の粒度分布測定値から求めた50%累積径d50、10%累積径d10、90%累積径d90を測定した。
[BET比表面積、細孔ピーク径、該細孔ピーク径におけるlog微分細孔容積]
独立4ステーション型比表面積・細孔分布測定装置(カンタクローム・インスツルメンツ社製、QUADRASORB SI)を用いて、正極活物質(二次粒子)のBET比表面積、細孔分布における細孔ピーク径、および、該細孔ピーク径におけるlog微分細孔容積を求めた。
[粒子構造]
正極活物質の一部を樹脂に埋め込み、クロスセクションポリシャ(日本電子株式会社製、IB−19530CP)加工によって断面観察可能な状態とした上で、SEM(FE−SEM:日本電子株式会社製、JSM−6360LA)により観察した。図1に示すように、本発明の正極活物質は、複数の一次粒子が凝集した二次粒子より形成され、二次粒子の外周部に連通孔を6個程度有し、かつ、二次粒子の内部に空間部を8個程度有し、かつ、外周部の連通孔と内部の空隙部とが繋がっていることを確認した。
[変動係数]
イオンミリング装置(日本電子株式会社製、クライオイオンスライサ、IB−09060CIS)を用いて、正極活物質(二次粒子)の断面を薄片加工した。TEM(日本電子株式会社製、JEM―ARM200F)を用いて、前記二次粒子の断面において、約0.5μmの一次粒子(粒界を挟んだ連結する2個)を狙い、それぞれの一次粒子の粒内および粒界を含む一次粒子全体から任意に選択した計10箇所に対して、電子線照射を行い、発生した特性X線のエネルギーをEDX(サーモフィッシャー・サイエンティフィック社製、NSS)を用いて分析して、それぞれの一次粒子全体における、Wの平均濃度(μ)、Wの濃度の標準偏差(σ)、および、Wの濃度の変動係数(CV)を解析した。表1に、得られた一次粒子についてのTEM−EDX分析によるWの濃度の測定結果を示す。
その結果、Wの平均濃度(μ)は1.0、Wの濃度の標準偏差(σ)は1.1、Wの濃度の変動係数(CV)は1.1であった。
Figure 2021048071
d)二次電池の作製
図3に示すような2032型コイン形電池10を作成した。具体的には、上述のようにして得られた正極活物質:52.5mgと、アセチレンブラック:15mgと、PTFE:7.5mgを混合し、100MPaの圧力で、直径11mm、厚さ100μmにプレス成形し、正極1を作製した。
次に、この正極12用いて2032型コイン形電池を、露点が−60℃に管理されたAr雰囲気のグローブボックス内で作製した。2032型コイン形電池の負極2には、直径14mm、厚さ1mmのリチウム金属を用い、非水電解液には、1MのLiClOを支持電解質とするエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の等量混合液(宇部興産株式会社製)を用いた。また、セパレーター3には、膜厚25μmのポリエチレン多孔膜を用いた。このようにして、ガスケット4とウェーブワッシャー5を有し、正極缶6と負極缶7とを備える、2032型コイン形電池10を組み立てた。
e)電池評価
[正極抵抗]
正極抵抗の測定は、インピーダンス測定法を用い、2032型コイン形電池を3.8Vで充電し、周波数応答アナライザおよびポテンショガルバノスタット(ソーラトロン製、1255B)を使用して交流インピーダンス法により測定し、図4に示すインピーダンススペクトルを得た。得られたインピーダンススペクトルには、高周波領域と中間周波領域とに2つの半円が観測され、低周波領域に直線が観察されることから、図5に示す等価回路を組んで正極界面抵抗を解析した。ここで、Rsはバルク抵抗、Rは正極被膜抵抗、Rctは電解液/正極界面抵抗、Wはワーブルグ成分、CPE1、CPE2は定相要素を示す。なお、正極界面抵抗については、後述する比較例1の正極活物質を基準とし、これに対する抵抗減少率を示す。
得られた正極活物質の全体の組成、特性、並びに、得られたリチウムイオン二次電池の特性について、表2に示す。なお、これらについて、実施例2〜実施例5、比較例1、および比較例2についても、同様に表1に示す。
(実施例2)
リチウム混合物を915℃まで昇温し、この温度で3時間保持することにより焼成したこと以外は、実施例1と同様にして、正極活物質を得るとともに、その評価を行った。
(実施例3)
それぞれの金属元素のモル比が、Ni:Mn:Co:W=5.0:2.0:3.0:0.07となるように、タングステン酸ナトリウム水溶液を調製したことと以外は、実施例2と同様にして、正極活物質を得るとともに、その評価を行った。
(実施例4)
リチウム混合物を980℃で焼成したこと以外は、実施例1と同様にして、正極活物質を得るとともに、その評価を行った。
(実施例5)
リチウム混合物を880℃で焼成したこと以外は、実施例1と同様にして、正極活物質を得るとともに、その評価を行った。
(比較例1)
晶析工程において、核生成工程および粒子成長工程の切替操作1までをすべて酸素濃度が21容量%の酸化性雰囲気に調整して晶析し、それ以降を酸素濃度が2容量%以下の非酸化性雰囲気に調整して、複合水酸化物を得たこと以外は実施例1と同様にして、正極活物質を得るとともに、その評価を行った。図2に得られた正極活物質の粒子構造を示す。複数の一次粒子が凝集した二次粒子より形成され、二次粒子外周部に連通孔を1個有し、かつ、二次粒子内部に空間部を1個有し、かつ外周部の連通孔と内部の空隙部とが繋がっている中空構造からなることを確認した。
(比較例2)
リチウム混合物を810℃で焼成したこと以外は、実施例1と同様にして、正極活物質を得るとともに、その評価を行った。
Figure 2021048071
本発明の範囲内にある、実施例1〜5の正極活物質は、いずれもリチウムイオン二次電池に用いた際に、比較例1および比較例2との比較において、正極抵抗が減少し、出力特性が向上していることが確認された。
1 正極(評価用電極)
2 負極
3 セパレーター
4 ガスケット
5 ウェーブワッシャー
6 正極缶
7 負極缶
10 コイン形電池

Claims (8)

  1. 一般式(A):Li1+uNiCoMn(ただし、−0.05≦u≦0.50、x+y+z+t=1、0.3≦x≦0.90、0≦y≦0.5、0.0≦z≦0.5、0<t≦0.05、Mは、Mg、Al、Si、Ca、Ti、Si、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、およびWから選択される1種以上の添加元素)で表れる組成、および、層状岩塩型の結晶構造を有するリチウム遷移金属含有複合酸化物粒子からなり、
    該リチウム遷移金属含有複合酸化物粒子は、一次粒子が凝集した二次粒子により構成され、
    前記二次粒子は、3.0μm以上7.0μm以下の粒度分布測定値から求めた50%累積径d50、2.0m/g以上5.0m/g以下のBET比表面積、0.01μm以上0.20μm以下の窒素ガス吸着法により得られた細孔分布における細孔ピーク径、0.008cc/g以上0.03cc/g以下の前記細孔ピーク径の範囲におけるlog微分細孔容積(dV/d(logD))を有し、および、
    前記一次粒子のうち、0.1μm以上1.0μm以下の範囲にある一次粒子径を有する複数の一次粒子のそれぞれについて、断面STEMあるいはTEM−EDX分析によって複数箇所について前記添加元素Mの濃度を測定し、該添加元素Mの濃度の平均濃度の標準偏差を該平均濃度で除した値である変動係数を算出した場合に、該変動係数が1.5以下である、
    リチウムイオン二次電池用正極活物質。
  2. 前記二次粒子の前記50%累積径d50は、4.0μm以上6.0μm以下である、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
  3. 前記二次粒子の粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90−d10)/d50〕(ただし、d10は粒度分布測定値から求めた10%累積径であり、d90は粒度分布測定値から求めた90%累積径である)が1.0以下である、請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
  4. 前記二次粒子のd90/d10の値(ただし、d10は粒度分布測定値から求めた10%累積径であり、d90は粒度分布測定値から求めた90%累積径である)が、1.0以上2.0以下である、請求項1〜3のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
  5. 前記二次粒子は、凝集部と、該凝集部の外周部を連通する1個以上の連通孔と、該凝集部の内側に存在し、前記連通孔と連通する2個以上の空間部を有する、請求項1〜4のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
  6. 前記添加元素Mは、Mg、Al、Si、Ti、Zr、Nb、Mo、およびWからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜5のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
  7. 前記添加元素Mは、Wからなる、請求項1〜5のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
  8. 正極、負極、セパレーター、および非水電解質、あるいは、正極、負極、および固体電解質を備え、前記正極に用いられる正極活物質として、請求項1〜7のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質が用いられている、リチウムイオン二次電池。
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