JP2021046084A - 空気入りタイヤ - Google Patents

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Abstract

【課題】セルフシールタイプの空気入りタイヤのタイヤ内表面に設けられるシーラント層のシール性を向上し、且つ、走行に伴うシーラントの流動を抑制し、これら性能をバランスよく両立することを可能にした空気入りタイヤを提供する。【解決手段】トレッド部1におけるインナーライナー層9のタイヤ径方向内側にシーラント層10を有する空気入りタイヤにおいて、シーラント層10を構成するシーラント材組成物として80℃におけるtanδが0.2以上0.5以下であるものを使用する。【選択図】図1

Description

本発明は、タイヤ内表面にシーラント層を備えたセルフシールタイプの空気入りタイヤに関する。
空気入りタイヤにおいて、トレッド部におけるインナーライナー層のタイヤ径方向内側にシーラント層を設けることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。このような空気入りタイヤでは、釘等の異物がトレッド部に突き刺さった際に、その貫通孔にシーラント層を構成するシーラント材が流入することにより、空気圧の減少を抑制し、走行を維持することが可能になる。
上述したセルフシールタイプの空気入りタイヤにおいて、シーラント材の粘度が低いと、シーラント材が貫通孔内に流入し易くなるという点でシール性の向上が見込めるが、走行中に加わる熱や遠心力の影響によりシーラント材がタイヤセンター側に向かって流動し、その結果、貫通孔がタイヤセンター領域から外れると、シーラント材が不足して、シール性が充分に得られない虞がある。一方、シーラント材の粘度が高いと、前述のシーラント材の流動は防止することができるが、シーラント材が貫通孔内に流入しにくくなり、シール性が低下する虞がある。そのため、シーラント材を構成するシーラント材組成物としては、走行に伴うシーラント材の流動の抑制と、良好なシール性の確保とをバランスよく両立することが求められている。
特開2006‐152110号公報
本発明の目的は、セルフシールタイプの空気入りタイヤのタイヤ内表面に設けられるシーラント層のシール性を向上し、且つ、走行に伴うシーラントの流動を抑制し、これら性能をバランスよく両立することを可能にした空気入りタイヤを提供することにある。
上記目的を達成する本発明の空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ外径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、少なくとも前記トレッド部におけるインナーライナー層のタイヤ径方向内側にシーラント層を有する空気入りタイヤにおいて、前記シーラント層を構成するシーラント材組成物の80℃におけるtanδが0.2以上0.5以下であることを特徴とする。
本発明の空気入りタイヤは、タイヤ内面に設けられるシーラント層を構成するシーラント材組成物が上述の特性を有しているので、走行に伴うシーラントの流動を抑制しながら、良好なシール性を発揮することができる。
本発明の空気入りタイヤにおいては、シーラント材組成物の100℃におけるtanδが0.25以上0.5以下であることが好ましい。シーラント材組成物がこのような特性を有することで、走行に伴うシーラントの流動を抑制しながら、良好なシール性を発揮するには有利になる。
本発明の空気入りタイヤにおいては、シーラント材組成物の80℃におけるtanδとインナーライナー層を構成するゴム組成物の80℃におけるtanδとの差が0.1以上0.3以下であることが好ましい。これにより、シーラント層とインナーライナー層との物性差が適度な範囲に抑えられるので、走行に伴うシーラントの流動を効果的に抑制することができる。
本発明の空気入りタイヤにおいては、シーラント材組成物が、ブチルゴムを80質量%以上含有するゴム成分100質量部に対して、有機過酸化物5質量部〜20質量部、架橋剤0.1質量部〜40質量部、架橋助剤0質量部超1質量部未満が配合されてなることが好ましい。このような配合にすることで、シーラント材組成物に上述の物性を付与するには有利になる。また、このように架橋剤と有機過酸化物の併用によって架橋を行うことで、良好なシール性を得るのに充分な粘性を確保しながら、走行中に流動しない適度な弾性を得て、これら性能をバランスよく両立することもできる。
このとき、ブチルゴムが塩素化ブチルゴムを含み、ゴム成分100質量%に対する塩素化ブチルゴムの配合量が5質量%以上であることが好ましい。このような配合にすることで、タイヤ内面に対する接着性を向上することができる。
本発明の空気入りタイヤにおいては、シーラント材組成物に配合される架橋剤が硫黄成分を含むことが好ましい。これにより、ゴム成分(ブチル系ゴム)と架橋剤(硫黄)や有機過酸化物との反応性が高まり、シーラント材組成物の加工性を向上することができる。
本発明の空気入りタイヤにおいては、シーラント材組成物に配合される架橋助剤の配合量が、架橋剤の配合量の50質量%〜400質量%であることが好ましい。これにより、架橋剤と架橋助剤とのバランスが良好になり、熱劣化を抑制することができ、長期に亘ってシール性を良好に維持することが可能になる。
本発明の空気入りタイヤにおいては、シーラント材組成物に配合される架橋助剤がチアゾール系化合物またはチウラム系化合物であることが好ましい。これにより、加硫速度を早めることができ、生産性を高めることができる。その一方で、他の架橋助剤よりも熱劣化を抑制することができ、長期に亘ってシール性を良好に維持することも可能になる。
本発明の空気入りタイヤにおいては、シーラント材組成物がゴム成分100質量部に対して、液状ポリマー50質量部〜400質量部が配合されたものであることが好ましい。更に、この液状ポリマーがパラフィンオイル、ポリブテンオイル、ポリイソプレンオイル、ポリブタジエンオイル、アロマオイルから選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。このように液状ポリマーを用いることで、シーラント材組成物の物性の温度依存性を低くすることができ、低温環境下におけるシール性を向上することもできる。更に、この液状ポリマーの分子量が800以上であると、タイヤ内面に設けたシーラント層からタイヤ本体にオイル分が移行してタイヤに影響を及ぼすことを防止することもできる。
本発明の空気入りタイヤの一例を示す子午線断面図である。
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
本発明の空気入りタイヤ(セルフシールタイプの空気入りタイヤ)は、例えば図1に示すように、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部1と、このトレッド部1の両側に配置された一対のサイドウォール部2と、サイドウォール部2のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部3とを備えている。図1において、符号CLはタイヤ赤道を示す。尚、図1は子午線断面図であるため描写されないが、トレッド部1、サイドウォール部2、ビード部3は、それぞれタイヤ周方向に延在して環状を成しており、これにより空気入りタイヤのトロイダル状の基本構造が構成される。また、子午線断面図における他のタイヤ構成部材についても、特に断りがない限り、タイヤ周方向に延在して環状を成している。
図1の例において、左右一対のビード部3間にはカーカス層4が装架されている。カーカス層4は、タイヤ径方向に延びる複数本の補強コードを含み、各ビード部3に配置されたビードコア5およびビードフィラー6の廻りに車両内側から外側に折り返されている。ビードフィラー6はビードコア5の外周側に配置され、カーカス層の本体部と折り返し部とにより包み込まれている。
トレッド部1におけるカーカス層4の外周側には複数層(図1では2層)のベルト層7が埋設されている。これら複数層のベルト層7のうち、ベルト幅が最も小さい層を最小ベルト層7a、ベルト幅が最も大きい層を最大ベルト層7bという。各ベルト層7は、タイヤ周方向に対して傾斜する複数本の補強コードを含み、かつ層間で補強コードが互いに交差するように配置されている。これらベルト層7において、補強コードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は例えば10°〜40°の範囲に設定されている。トレッド部1におけるベルト層7の外周側にはベルト補強層8が設けられている。図示の例では、ベルト層7の全幅を覆うフルカバー層とフルカバー層の更に外周側に配置されてベルト層7の端部のみを覆うエッジカバー層の2層のベルト補強層8が設けられている。ベルト補強層8は、タイヤ周方向に配向する有機繊維コードを含み、この有機繊維コードはタイヤ周方向に対する角度が例えば0°〜5°に設定されている。
タイヤ内面にはカーカス層4に沿ってインナーライナー層9が設けられている。このインナーライナー層9は、タイヤ内に充填された空気がタイヤ外に透過することを防ぐための層である。インナーライナー層9は、例えば、空気透過防止性能を有するブチルゴムを主体とするゴム組成物で構成される。或いは、熱可塑性樹脂をマトリクスとする樹脂層で構成することもできる。樹脂層の場合、熱可塑性樹脂のマトリクス中にエラストマー成分を分散させたものであってもよい。
図1に示すように、トレッド部1におけるインナーライナー層9のタイヤ径方向内側には、シーラント層10が設けられている。特に、走行時に釘等の異物が刺さる可能性がある領域、即ち、トレッド部1の接地領域に対応するタイヤ内面にシーラント層10は設けられる。特に、最小ベルト層7aの幅よりも広い範囲にシーラント層10を設けるとよい。本発明のシーラント材組成物は、このシーラント層10に用いられる。シーラント層10は、上述の基本構造を有する空気入りタイヤの内表面に貼付されるものであり、例えば釘等の異物がトレッド部1に突き刺さった際に、その貫通孔にシーラント層10を構成するシーラント材が流入し、貫通孔を封止することにより、空気圧の減少を抑制し、走行を維持することを可能にするものである。
シーラント層10は、例えば0.5mm〜5.0mmの厚さを有する。この程度の厚さを有することで、シール性を良好に確保しながら、走行時のシーラントの流動を抑制することができる。また、シーラント層10をタイヤ内面に貼付する際の加工性も良好になる。シーラント層10の厚さが0.5mm未満であると充分なシール性を確保することが難しくなる。シーラント層10の厚さが5.0mmを超えるとタイヤ重量が増加して転がり抵抗が悪化する。尚、シーラント層10の厚さとは平均厚さである。
シーラント層10は、加硫済みの空気入りタイヤの内面に後から貼り付けることで形成することができる。例えば、後述のシーラント材組成物からなりシート状に成型されたシーラント材をタイヤ内表面の全周に亘って貼付したり、後述のシーラント材組成物からなり紐状または帯状に成型されたシーラント材をタイヤ内表面に螺旋状に貼付することでシーラント層10を形成することができる。また、その際に、シーラント材組成物を加温することで、シーラント材組成物の性能のばらつきを抑えることができる。加温条件としては、温度を好ましくは140℃〜180℃、より好ましくは160℃〜180℃、加温時間を好ましくは5分〜30分、より好ましくは10分〜20分にするとよい。この空気入りタイヤの製造方法によれば、パンク時のシール性が良好であってシーラントの流動が生じ難い空気入りタイヤを効率良く製造することができる。
本発明は、主として、上述のセルフシールタイプの空気入りタイヤのシーラント層10に使用されるシーラント材組成物に関するものであるので、空気入りタイヤの基本構造や、シーラント層10の構造は上述の例に限定されない。
本発明の空気入りタイヤのシーラント層10を構成するシーラント材組成物は、80℃におけるtanδ(以下、「tanδ(80℃)」という)が0.2以上0.5以下、好ましくは0.35〜0.45である。シーラント材組成物がこのような特性を有することで、走行に伴うシーラントの流動を抑制しながら、良好なシール性を発揮することができる。シーラント材組成物のtanδ(80℃)が0.2未満であると、シール性を向上する効果が十分に得られない。シーラント材組成物のtanδ(80℃)が0.5を超えるとシーラントの流動を十分に抑制することができない。尚、tanδ(80℃)は、JIS K6394に準拠して、粘弾性スペクトロメーターを用いて、伸長変形歪率10%±2%、振動数20Hz、温度80℃の条件で測定する。
更に、シーラント材組成物は、100℃におけるtanδ(以下、「tanδ(100℃)」という)が好ましくは0.25以上0.5以下、より好ましくは0.3〜0.4であるとよい。シーラント材組成物がこのような特性を有することで、走行に伴うシーラントの流動を抑制しながら、良好なシール性を発揮するには有利になる。シーラント材組成物のtanδ(100℃)が0.25未満であると、シール性の更なる向上が見込めなくなる。シーラント材組成物のtanδ(100℃)が0.5を超えるとシーラントの流動を抑制する効果が限定的になる。尚、tanδ(100℃)は、JIS K6394に準拠して、粘弾性スペクトロメーターを用いて、伸長変形歪率10%±2%、振動数20Hz、温度100℃の条件で測定する。
シーラントの流動性の観点からは、シーラント材組成物のtanδ(80℃)は、シーラント層10に隣接するインナーライナー層9を構成するゴム組成物よりも適度に大きいことが好ましい。具体的には、シーラント材組成物のtanδ(80℃)とインナーライナー層を構成するゴム組成物のtanδ(80℃)との差が好ましくは0.1以上0.3以下、より好ましくは0.1〜0.2であるとよい。更に、シーラント材組成物のtanδ(100℃)とインナーライナー層を構成するゴム組成物のtanδ(100℃)との差が好ましくは0.1〜0.2であるとよい。これにより、シーラント層10とインナーライナー層9との物性差が適度な範囲に抑えられるので、走行に伴うシーラントの流動を効果的に抑制することができる。tanδ(80℃)の差が0.1未満であると、tanδ(80℃)の差が実質的に無くなるので所望の効果が十分に得られない。tanδ(80℃)の差が0.3を超えると、物性差を抑えてシーラントの流動を抑制する効果が十分に見込めなくなる。
本発明で使用されるシーラント材組成物は、上述の物性を有していれば、その具体的な配合は特に限定されない。但し、上述の物性を確実に得るために、例えば後述の配合を採用することが好ましい。
本発明のシーラント材組成物においては、ブチル系ゴムとして、ハロゲン化ブチルゴムを含むことが好ましい。ハロゲン化ブチルゴムとしては、塩素化ブチルゴム、臭素化ブチルゴムを例示することができ、特に塩素化ブチルゴムを好適に用いることができる。塩素化ブチルゴムを用いる場合、ゴム成分100質量%に占める塩素化ブチルゴムの割合は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%〜85質量%である。ハロゲン化ブチルゴム(塩素化ブチルゴム)を含むことで、ゴム成分と後述の架橋剤や有機過酸化物との反応性が高まり、シール性の確保とシーラントの流動の抑制とを両立するには有利になる。また、シーラント材組成物の加工性を向上することもできる。塩素化ブチルゴムの割合が5質量%未満であると、ゴム成分と後述の架橋剤や有機過酸化物との反応性が充分に向上せず、所望の効果が充分に得られない。
本発明のシーラント材組成物において、ブチル系ゴムの全量がハロゲン化ブチルゴム(塩素化ブチルゴム)である必要はなく、非ハロゲン化ブチルゴムを併用することもできる。非ハロゲン化ブチルゴムとしては、シーラント材組成物に通常用いられる未変性のブチルゴム、例えば、JSR社製BUTYL‐065、LANXESS社製BUTYL‐301などが挙げられる。ハロゲン化ブチルゴムと非ハロゲン化ブチルゴムとを併用する場合、非ハロゲン化ブチルゴムの配合量はゴム成分100質量%中に、好ましくは20質量%未満、より好ましくは10質量%未満にするとよい。
本発明のシーラント材組成物においては、ブチル系ゴムとして2種以上のゴムを併用することが好ましい。即ち、塩素化ブチルゴムに対して、他のハロゲン化ブチルゴム(例えば、臭素化ブチルゴム)または非ハロゲン化ブチルゴムを組み合わせて用いることが好ましい。塩素化ブチルゴム、他のハロゲン化ブチルゴム(臭素化ブチルゴム)、非ハロゲン化ブチルゴムの3種は、加硫速度が互いに異なるため、少なくとも2種類を組み合わせて用いると、加硫速度の違いに起因して、加硫後のシーラント材組成物の物性(粘度や弾性等)は均質にならない。即ち、シーラント材組成物内での加硫速度の異なるゴムの分布(濃度のばらつき)によって、加硫後のシーラント層において相対的に硬い部分と相対的に柔らかい部分とが混在することになる。その結果、相対的に硬い部分では流動性が抑制され、相対的に柔らかい部分ではシール性が発揮されて、これら性能をバランスよく両立するには有利になる。
本発明のシーラント材組成物においては、ゴム成分としてブチル系ゴム以外の他のジエン系ゴムを配合することもできる。他のジエン系ゴムとしては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)等のシーラント材組成物に一般的に用いられるゴムを使用することができる。これら他のジエン系ゴムは、単独又は任意のブレンドとして使用することができる。
本発明のシーラント材組成物においては、架橋剤および有機過酸化物を配合することが好ましい。尚、本発明における「架橋剤」とは、有機過酸化物を除いた架橋剤であり、例えば硫黄、亜鉛華、環状スルフィド、樹脂(樹脂加硫)、アミン(アミン加硫)等を例示することができる。架橋剤としては、特に硫黄成分を含むもの(例えば、硫黄)を用いることが好ましい。このように架橋剤および有機過酸化物を併用して配合することで、シール性の確保とシーラントの流動の防止とを両立するための適度な架橋を実現できる。架橋剤の配合量は、上述のゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.1質量部〜40質量部、より好ましくは0.5質量部〜10質量部である。また、有機過酸化物の配合量は、上述のゴム成分100質量部に対して、好ましくは5質量部〜20質量部、より好ましくは10質量部〜15質量部である。架橋剤の配合量が0.1質量部未満であると、実質的に架橋剤が含まれないのと同等になり、適切な架橋を行うことができない。架橋剤の配合量が40質量部を超えると、シーラント材組成物の架橋が進みすぎてシール性が低下する。有機過酸化物の配合量が5質量部未満であると、有機過酸化物が過少であり架橋が十分に行うことができず、所望の物性を得ることができない。有機過酸化物の配合量が20質量部を超えると、シーラント材組成物の架橋が進みすぎてシール性が低下する。
このように架橋剤と有機過酸化物とを併用するにあたって、架橋剤の配合量Aと有機過酸化物の配合量Bとの質量比A/Bを、好ましくは5/1〜1/200、より好ましくは1/10〜1/20にするとよい。このような配合割合とすることで、シール性の確保とシーラントの流動の防止とを、よりバランスよく両立することが可能になる。
有機過酸化物としては、例えば、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド、ブチルヒドロパーオキサイド、p−クロロベンゾイルパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルヒドロパーオキサイド等が挙げられる。特に、1分間半減期温度が100℃〜200℃である有機過酸化物が好ましく、前述の具体例の中では、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイドが特に好ましい。尚、本発明において、「1分間半減期温度」は、一般に、日本油脂社の「有機過酸化物カタログ第10版」に記載された値を採用し、記載のない場合は、カタログに記載された方法と同様に、有機溶媒中における熱分解から求めた値を採用する。
本発明のシーラント材組成物には、架橋助剤を配合することが好ましい。架橋助剤とは、硫黄成分を含む架橋剤と共に配合することで架橋反応触媒として作用する化合物である。架橋剤および架橋助剤を配合することで、加硫速度を早めることができ、シーラント材組成物の生産性を高めることができる。架橋助剤の配合量は、上述のゴム成分100質量部に対して好ましくは0質量部超1質量部未満、より好ましく0.1質量部〜0.9質量部である。このように架橋助剤の配合量を抑えることで、触媒として架橋反応を促進させつつシーラント材組成物の劣化(熱劣化)を抑制することができる。架橋助剤の配合量が1質量部以上であると熱劣化を抑制する効果が十分に得られない。尚、架橋助剤は、上記のように硫黄成分を含む架橋剤と共に配合することにより架橋反応触媒として作用するものであるので、硫黄成分の代わりに有機過酸化物と共存させても架橋反応触媒としての作用は得られず、架橋助剤を多く使用しなければならず、熱劣化を促進してしまう。
架橋助剤の配合量は、上述の架橋剤の配合量の好ましく50質量%〜400質量%、より好ましくは100質量%〜200質量%であるとよい。このように架橋助剤を架橋剤に対して適度に配合することで、架橋助剤の触媒としての機能を良好に発揮することができ、シール性の確保とシーラントの流動の防止とを両立するには有利になる。架橋助剤の配合量が架橋剤の配合量の50質量%未満であると流動性が低下する。架橋助剤の配合量が架橋剤の配合量の400質量%を超えると耐劣化性が低下する。
架橋助剤としては、例えば、スルフェンアミド系、チアゾール系、チウラム系、チオ尿素系、グアニジン系、ジチオカルバミン酸塩系、アルデヒド‐アミン系、アルデヒド‐アンモニア系、イミダゾリン系、キサントゲン酸系の化合物(加硫促進剤)を例示することができる。これらの中でも、チアゾール系、チウラム系、グアニジン系、ジチオカルバミン酸塩系の加硫促進剤を好適に用いることができる。チアゾール系の加硫促進剤としては、例えば、2−メルカプトベンゾチアゾール、ジベンゾチアジルジスルフィド等を挙げることができる。チウラム系の加硫促進剤としては、例えば、テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド等を挙げることができる。グアニジン系の加硫促進剤としては、例えば、ジフェニルグアニジン、ジオルトトリルグアニジン等を挙げることができる。ジチオカルバミン酸塩系の加硫促進剤としては、例えば、ジメチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム等を挙げることができる。特に、本発明においては、チアゾール系またはチウラム系の加硫促進剤を用いることが好ましく、得られるシーラント材組成物の性能のばらつきを抑えることができる。
尚、例えばキノンジオキシムのような実際は架橋剤として機能する化合物を便宜的に架橋助剤と呼称する場合があるが、本発明における架橋助剤は、上述のように架橋剤による架橋反応の触媒として機能する化合物であるので、キノンジオキシムは本発明における架橋助剤には該当しない。
本発明のシーラント材組成物は、液状ポリマーを配合することが好ましい。このように液状ポリマーを配合することで、シーラント材組成物の粘性を高めてシール性を向上することができる。液状ポリマーの配合量は、上述のゴム成分100質量部に対して、好ましくは50質量部〜400質量部、より好ましくは70質量部〜200質量部である。液状ポリマーの配合量が50質量部未満であると、シーラント材組成物の粘性を高める効果が充分に得られないことがある。液状ポリマーの配合量が400質量部を超えると、シーラントの流動を充分に防止することができない。
液状ポリマーとしては、シーラント材組成物中のゴム成分(ブチルゴム)と共架橋可能であることが好ましく、例えば、パラフィンオイル、ポリブテンオイル、ポリイソプレンオイル、ポリブタジエンオイル、ポリイソブテンオイル、アロマオイル、ポリプロピレングリコール等が挙げられる。シーラント材組成物の物性の温度依存性を低く抑えて、低温環境下におけるシール性を良好に確保する観点から、これらの中でも、パラフィンオイル、ポリブテンオイル、ポリイソプレンオイル、ポリブタジエンオイル、アロマオイル、ポリプロピレングリコールが好ましく、特にパラフィンオイルを用いることが好ましい。また、液状ポリマーの分子量は好ましくは800以上、より好ましくは1000以上、更に好ましくは1200以上3000以下であるとよい。このように分子量の大きいものを用いることで、タイヤ内面に設けたシーラント層からタイヤ本体にオイル分が移行してタイヤに影響を及ぼすことを防止することができる。
上述の配合からなるシーラント材組成物は、少なくともブチル系ゴムを含有していることでゴム成分に適度に高い粘性を付与しながら、架橋剤と有機過酸化物の併用によって架橋を行うことで良好なシール性を得るのに充分な粘性を確保しつつ走行中に流動しない適度な弾性を得て、これら性能をバランスよく両立することができる。更に、ブチル系ゴムと有機過酸化物を上述のように適量ずつ配合した場合には、シーラント材組成物の物性(tanδ(80℃)やtanδ(100℃))やインナーライナー層9との物性差を適度な範囲に設定する効果も見込める。そのため、セルフシールタイプの空気入りタイヤのシーラント層10(シーラント材)に好適に用いることができ、シーラント材としての基本性能を十分に発揮しながら、流動の抑制とシール性の向上をバランスよく両立することが可能になる。
以下、実施例によって本発明を更に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
タイヤサイズ255/40R20で、図1に示す基本構造を有し、トレッド部におけるインナーライナー層のタイヤ径方向内側にシーラントからなるシーラント層を有する空気入りタイヤにおいて、シーラント層を構成するシーラント材組成物の配合と物性を表1〜2に記載のように設定した比較例1〜5、実施例1〜11のタイヤを製作した。
尚、空気入りタイヤにおいては、tanδ(80℃)が0.20であるインナーライナー層、または、tanδ(80℃)が0.10であるインナーライナー層のいずれかを用いた。表1〜2では前者を「A」、後者を「B」と表示し、tanδ(80℃)も併記した。また、シーラント材組成物とインナーライナー層を構成するゴム組成物とのtanδ(80℃)の差(シーラント材組成物のtanδ(80℃)からインナーライナー層のtanδ(80℃)を引いた値)も併せて示した。
80℃におけるtanδ(表中の「tanδ(80℃)」)と100℃におけるtanδ(表中の「tanδ(100℃)」)はそれぞれ、JIS K6394に準拠して、東洋精機製作所社製粘弾性スペクトロメーターを用いて、伸長変形歪率10%±2%、振動数20Hz、温度80℃または100℃の条件で測定した値である。
これら試験タイヤについて、これら試験タイヤについて、下記試験方法により、シール性、シーラント材の流動性を評価し、その結果を表1〜2に併せて示した。
シール性
各試験タイヤをリムサイズ20×9Jのホイールに組み付けて試験車両に装着し、初期空気圧250kPa、荷重8.5kNの条件で、直径4.0mmの釘をトレッド部に打ち込んだ後に、その釘を抜いた状態で1時間タイヤを静置した後の空気圧を測定した。評価結果は、以下の5段階で示した。尚、評価結果の点数が「2」以上であれば十分なシール性を発揮しており、点数が大きいほどより優れたシール性を発揮したことを意味する。
5:静置後の空気圧が240kPa以上かつ250kPa以下
4:静置後の空気圧が230kPa以上かつ240kPa未満
3:静置後の空気圧が215kPa以上かつ230kPa未満
2:静置後の空気圧が200kPa以上かつ215kPa未満
1:静置後の空気圧が200kPa未満
シーラントの流動性
試験タイヤをリムサイズ20×9Jのホイールに組み付けてドラム試験機に装着し、空気圧220kPa、荷重8.5kN、走行速度80km/hの条件で1時間走行し、走行後のシーラントの流動状態を調べた。評価結果は、走行前にシーラント層の表面に5mm方眼罫20×40マスの線を引き、走行後に形状が歪んだマスの個数を数えて、シーラントの流動が全く認められない場合(歪んだマスの個数が0個)を「○」で示し、歪んだマスの個数が全体の1/4未満である場合を「△」で示し、歪んだマスの個数が全体の1/4以上である場合を「×」で示した。
Figure 2021046084
Figure 2021046084
表1〜2において使用した原材料の種類を下記に示す。
・ブチルゴム1:塩素化ブチルゴム、JSR社製CHLOROBUTYL1066
・ブチルゴム2:臭素化ブチルゴム、JSR社製BROMOBUTYL2222
・天然ゴム:SRI TRANG社製 天然ゴム
・有機過酸化物:ジベンゾイルパーオキサイド、日本油脂社製ナイパーNS(1分間半減期温度:133℃)
・架橋剤1:硫黄、細井化学工業社製小塊硫黄
・架橋剤2:キノンジオキシム、大内新興化学工業社製社製バルノックGM
・架橋助剤:チアゾール系加硫促進剤、大内新興化学工業社製ノクセラーMZ
・液状ポリマー:パラフィンオイル、カネダ社製ハイコール K‐350(分子量:850)
表1〜2から明らかなように、実施例1〜11の空気入りタイヤは、流動性を良好に発揮しながら、室温および低温環境下の両方においてシール性を良好に発揮し、これら性能をバランスよく両立した。一方、比較例1〜5はいずれも、シール性または流動性の少なくとも一方が悪化し、これら性能を両立することができなかった。
1 トレッド部
2 サイドウォール部
3 ビード部
4 カーカス層
5 ビードコア
6 ビードフィラー
7 ベルト層
8 ベルト補強層
9 インナーライナー層
10 シーラント層
CL タイヤ赤道

Claims (11)

  1. タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ外径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、少なくとも前記トレッド部におけるインナーライナー層のタイヤ径方向内側にシーラント層を有する空気入りタイヤにおいて、
    前記シーラント層を構成するシーラント材組成物の80℃におけるtanδが0.2以上0.5以下であることを特徴とする空気入りタイヤ。
  2. 前記シーラント材組成物の100℃におけるtanδが0.25以上0.5以下であることを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。
  3. 前記シーラント材組成物の80℃におけるtanδと前記インナーライナー層を構成するゴム組成物の80℃におけるtanδとの差が0.1以上0.3以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の空気入りタイヤ。
  4. 前記シーラント材組成物が、ブチルゴムを80質量%以上含有するゴム成分100質量部に対して、有機過酸化物5質量部〜20質量部、架橋剤0.1質量部〜40質量部、架橋助剤0質量部超1質量部未満が配合されてなることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
  5. 前記ブチルゴムが塩素化ブチルゴムを含み、前記ゴム成分100質量%に対する前記塩素化ブチルゴムの配合量が5質量%以上であることを特徴とする請求項4に記載の空気入りタイヤ。
  6. 前記架橋剤が硫黄成分を含むことを特徴とする請求項4または5に記載の空気入りタイヤ。
  7. 前記架橋助剤の配合量が、前記架橋剤の配合量の50質量%〜400質量%であることを特徴とする請求項4〜6のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
  8. 前記架橋助剤がチアゾール系化合物またはチウラム系化合物であることを特徴とする請求項4〜7のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
  9. 前記ゴム成分100質量部に対して、液状ポリマー50質量部〜400質量部が配合されたことを特徴とする請求項4〜8のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
  10. 前記液状ポリマーがパラフィンオイル、ポリブテンオイル、ポリイソプレンオイル、ポリブタジエンオイル、アロマオイルから選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする請求項9に記載の空気入りタイヤ。
  11. 前記液状ポリマーの分子量が800以上であることを特徴とする請求項9または10に記載の空気入りタイヤ。
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