本発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。ただし、この実施形態に記載されている構成要素はあくまで例示であり、本発明の範囲をそれらに限定する趣旨のものではない。
[実施形態1]
まず、物体の反射特性について説明する。図14は、物体の反射特性を説明する模式図である。曲線1502は、矢印の方向から点1501に向かって光を照射したときの反射特性を示し、点1501と曲線1502上の点とを結ぶ線分の長さが、点1501からその点の方向に反射する反射光の強度を示す。物体の表面で反射した光は、拡散反射成分と鏡面反射成分とに分離できる。拡散反射成分とは、入射光が測定面の内部で乱反射することで生じる成分であり、あらゆる方向において均一の強度で観察される。一方鏡面反射成分とは、入射光が測定面の表面で鏡面反射することで生じる光沢感に係る成分であり、特定の方向に偏った強度で観察される。以下では鏡面反射成分の強度が最大となる反射方向を最大反射方向と呼ぶ。鏡面反射成分の強度は、反射方向に関して最大反射方向を対称中心とする分布を示す。
図1(b)は、実施形態1の測定システムが測定対象とするメタリック塗板の表面構造の模式図である。この塗板の表面は、透明なコーティング層101、着色層102、基材層103から成り、着色層102は、金属片などの光輝材104を含む。このような塗板の表面に対しては、同じ方向から照明したとしても、光輝材104の作用により最大反射方向は塗板上の位置によって変化する。最大反射方向の2次元分布は、メタリック塗板の光輝感に作用し、塗板の見え方を決定する。実施形態1では、測定対象の物体において、最大反射方向に係る指標の2次元分布を導出する。
ここで、最大反射方向に係る指標として、以下で定義される光学的法線方向を用いる。図8は、光学的法線方向を説明する模式図である。ベクトル112は、測定物15上の点151に対する光源の方向を示す。またベクトル111は、この光源からの光の最大反射方向を示す。仮想面113は、このベクトル111およびベクトル112が鏡面反射の関係になる面を示す。光学的法線方向114は、この仮想面113の法線方向であり、ベクトル111とベクトル112の2等分方向であるハーフベクトルの方向である。この定義は、次のように説明することもできる。すなわち、受光方向を示すベクトル111と、照明方向を変化させたとき前記受光方向への反射光の強度が最大となる照明方向を示すベクトル112のハーフベクトルの方向が光学的法線方向114の方向である。以下では、受光方向への反射光の強度が最大となる照明方向を主照明方向と呼ぶ。なお照明方向を変化させたときの受光方向への反射光の強度は、照明方向に関して主照明方向を対称の中心とする分布を示す。
(測定装置の概要)
図1(a)に本実施形態の測定システムの外観を示す。測定システム100は、平面状の照明装置11と撮影装置12と操作パネル13と情報処理装置14を有する。本測定システムは、操作パネル13を用いたユーザ操作に基づき、照明装置11により照明された測定物15を撮影装置12が撮影する。情報処理装置14は、撮影装置12が撮影して得られる撮影画像に基づいて、測定物15における光学的法線方向の2次元分布を導出する。なお、以下の説明において、X、Y、Z座標の方向と、照明方向、受光方向、法線方向などに係る天頂角θと方位角φの方向は、図1(a)に示すように定義する。X、Y、Z座標の原点は、撮影装置12の光軸と、測定面15との交点とし、測定物15の表面をXY平面とする。
照明装置11は、面上に配置した複数の点光源を用いて、測定物15を照明する。各点光源は、独立して輝度(光強度)を制御可能であり、点灯と消灯だけでなく、後述する照明用画像に対応した多階調の輝度で発光する。本実施形態では、照明装置11は、測定物15に対向して設置されたフラットパネルのディスプレイを有し、このディスプレイの各画素が点光源として機能する。照明装置11のディスプレイ面は、測定物15の側を向いて測定物15と平行に設置される。なおディスプレイは、モノクロディスプレイでもよい。
撮影装置12は、光を集光するレンズと、受光するセンサを有するデジタルカメラである。レンズは、両側テレセントリックレンズであり、受光方向に係るレンズの光軸方向は、方位角φoが0度、天頂角θoが45度とする。レンズは、測定物15の像をセンサ面に結像する。従ってセンサが生成する画像の各画素は、測定物15の表面における1点に対応づくことになる。測定物15の表面に対してレンズの光軸が傾斜しているため、センサ面およびレンズは、公知のシャインプルーフの原理を満足する位置に設置される。図9は、シャインプルーフの原理を満足する位置に設置された、レンズおよびセンサを含む撮影装置12の光学系を示す模式図である。測定物15の表面を反射した光は、第一レンズの主面122、絞り124、第二レンズの主面123の順に通過して、センサ面121に結像する。センサは、受光素子からなるCCDやCMOSなどの2次元センサである。センサにおける各受光素子は、受光した光の強度を電気信号に変換する。その結果、受光した光の強度に比例する画素値の画素からなる画像が生成される。
第一レンズおよび第二レンズはテレセントリックレンズを構成するため、主光線は光軸に平行になる。よって、測定物15における全ての測定点において、受光方向は一定(θo)となる。なおセンサが生成する画像における画素値の階調数は10bit、センササイズは2/3インチ、撮影解像度は800dpiとする。撮影装置12は、測定物15を斜め方向から撮影するため、一般に撮影解像度はX方向とY方向で異なる。X方向とY方向の解像度を一致させる解像度変換処理は、撮影直後に行ってもよいし、後述する画像処理の後、測定結果を出力する前に実施してもよい。また、行わなくてもよい。
操作パネル13は、ここではタッチパネルを用いる。測定システムのユーザは、操作パネル13上のユーザインタフェースを介して各種測定条件の設定や測定開始の指示を行う。また、操作パネル13は、表示用ディスプレイとしても機能し、設定されている測定条件や測定結果を表示する。
情報処理装置14は、操作パネル13を介して入力されたユーザの指示に基づき、照明装置11と撮影装置12を制御して測定物15の撮影画像を取得する。また、情報処理装置14は、撮影画像に後述する演算処理を施し、光学的法線方向の2次元分布を算出する。すなわち実施形態1において情報処理装置14は、照明制御手段と、撮影制御手段、画像処理手段として機能する。また情報処理装置14は、演算処理の処理経過や処理結果を操作パネル13や図示しない外部装置に出力する。
(測定方法の概要)
ここで、実施形態1における測定システム100が測定物15の反射特性を測定する方法について概要を説明する。図5は、光源と撮影装置12で受光する反射光との関係を示す図である。撮影装置12のセンサ上の画素Pは、測定物15上の測定点151の位置において反射した光を受光している。また、測定点151において、点光源Lnから照射した光の最大反射方向が画素Pの方向であり、測定物15は鏡のように鏡面性の高い物体であったとする。この場合、点光源Lnの輝度を図5(b)に示すような正弦波状に変調させると、画素Pの輝度値は、図5(b)と同様に図5(c)に示すように変化する。
実施形態1における照明装置11は、図6に示すように複数の位置に点光源を配置したディスプレイを有する。図6は、点光源として利用される照明装置11のディスプレイにおける各画素と撮影装置12の位置関係を説明する模式図であり、測定システム100のXZ断面を示す。なおここでは説明のため、ディスプレイには1列8個の画素からなる例を示している。点光源Lj{j:1,2,..8}それぞれは、照明装置11のディスプレイにおける画素に対応する。各点光源Ljは、測定物15における測定点151を異なる方向θjから照明する。測定点151において反射した反射光は、撮影装置12における画素Pにより受光される。測定物15の鏡面性が高い場合、画素Pが主に受光するのは、各点光源からの光のうち、主照明方向の位置に配置された点光源から照射される光である。そこで実施形態1では、各点光源の輝度を、互いに位相の異なる正弦波状に変調させることで、撮像装置12の各画素がどの点光源から照射された光を主に受光しているかを識別し、各画素に対応する主照明方向を導出する。なお以下では、主照明方向の位置に配置された点光源を主光源と呼ぶ。
図6(b)は、点光源L1、L2、L6それぞれの輝度変調の例を示す模式図である。点光源L1、L2、L6はいずれも正弦波状に変調するが、点光源L1の位相を基準として互いに位相が異なっている。図6(c)に各点光源の照明方向(天頂角)と位相の関係を示す。図6(b)に示すように、点光源L1の輝度は、時間tに関して、(ωt)+K2で変調されるとする。すなわち、点光源L1は、時間t=0において輝度が最大になる。この正弦波の位相δを0度とする。なおK1およびK2は、照明装置11が制御可能な輝度範囲に応じて設定される定数である。またωは変調の角周波数である。ここで時間tは、θ=ωtで計算される位相θに対応付けられる。同様に、点光源L2の位相δは45度であり、輝度はK1cos(θ―45)+K2で変調される。すなわちθ=45度に対応する時間において輝度が最大となる。点光源L6の位相δは225度であり、輝度はK1cos(θ―225)+K2で変調される。すなわちθ=225度に対応する時間において輝度が最大となる。つまり各点光源は、設定した位相δに基づいて、θ=δとなる位相θに対応した時間において、輝度が最大となるように変調される。このように各点光源の輝度を互いに位相の異なる正弦波状に変調させながら、撮影装置12が測定物15を動画撮影したとする。この場合、撮影装置12のセンサにおける画素Pの輝度値は、例えば、図7に示すように変化する。なお図7において縦軸は画素Pの輝度値を示し、横軸は撮影時刻を照明装置11の位相に対応づけて示している。上述したように画素Pが主に受光するのは、主光源からの光である。よって位相B(照明開始時点から輝度値が最大となるまでの時間に対応したθの値)は、測定点151における主光源の位相δに一致する。すなわち、各画素の位相Bから、主照明方向を導出できる。図7の例では、位相Bは225度であることから、測定点151における主光源は点光源L6であり、主照明方向はθ6である。
測定物15の鏡面性が低い場合、画素Pは、主光源以外の各点光源からの反射光も受光する。ただし前述したように、受光方向への反射光の強度は、照明方向に関して主照明方向を対称の中心とする分布を示す。よって、主光源Lmの位相をδmとするとき、主光源の隣に配置されている位相δm+δ1の点光源Lm+1と、位相δm−δ1の点光源Lm−1からの反射光の強度は、ほぼ等しい。同様に、主光源から数えてi番目先の点光源Lm+i(位相δm+δi)からの反射光の強度と、i番目手前の点光源Lm−i(位相δm−δi)からの反射光の強度は、ほぼ等しい。この場合、画素Pの輝度値Iは、次の式(1)で示される。I=A0cos(θ−δm)+C0+Σ{Ai cos(θ−δm+δi)+Ci}
+ΣAi cos(θ−δm−δi)+Ci
=A0cos(θ−δm)+C0
+{ΣAi{cos(θ−δm)cos(δi)
−sin(θ−δm)sin(δi)}+Ci}
+{ΣAi{cos(θ−δm)cos(δi)
+sin(θ−δm)sin(δi)}+Ci}
=A0cos(θ−δm)
+2cos(θ−δm)ΣAicos(δi)+C0+2ΣCi
={A0+2ΣAi cos(δi)}cos(θ−δm)+C0+2ΣCi・・・(1)
ここでΣは添え字iに関する総和を求める。A0およびC0は、主光源(主照明方向)からの光に係る反射率に関する定数である。AiおよびCiは、主光源から数えてi番目の点光源からの光に係る反射率に関する定数である。式(1)に示すように、画素Pの輝度値が最大となるθの値(位相B)は、位相δmである。よって、測定物15の鏡面性が低い場合であっても、位相Bは主光源の位相に一致する。
また実施形態1では、測定物15の各測定点における光沢強度も測定する。光沢強度とは、最大反射方向の反射強度であり、例えば、JIS Z8741で規定される鏡面光沢度である。光沢強度Dは、次のように導出する。まず、図7に示す画素Pの輝度値変化において、最大輝度値Dを最大輝度情報として算出する。最大輝度情報と光沢強度との対応関係は、光沢強度が既知の物体を測定して予め保持しておく。測定物15の各測定点の光沢強度は、この対応関係を参照して、前記の最大輝度情報から求められる。
(情報処理装置の構成)
ここで、照明装置11および撮影装置12の制御、画像処理を実行する情報処理装置14の構成について説明する。図2(a)は、情報処理装置14のハード構成を示す。マイクロプロセッサ(CPU)201は、ランダムアクセスメモリ(RAM)などのメインメモリ202をワークメモリとする。また、ハードディスクドライブ(HDD)またはソリッドステートドライブ(SSD)などの記憶部203やリードオンリメモリ(ROM)204に格納されたプログラムを実行し、システムバス205を介して照明装置11や撮影装置12を制御する。なお、記憶部203やROM204には、測定を実現するプログラムや各種データが格納されている。USB(Universal Serial Bus)などの汎用インターフェース(I/F)206には、操作パネル13や、USBメモリやメモリカードなどの記録メディア(コンピュータが読み取り可能な記録媒体)207などが接続される。また、操作パネル13は、ビデオカード(VC)208にも接続され、CPU201によって、ユーザインタフェース(UI)や、後述する画像処理の処理経過や処理結果を示す情報が表示される。照明装置11は、ビデオカードなどの照明インターフェース(I/F)209を介してシステムバス205に接続される。撮影装置12は、USBやカメラリンクなどのカメラインターフェース(I/F)210を介してシステムバス205に接続される。CPU201は、例えば、操作パネル13を介して入力されるユーザ指示に従いROM204、記憶部203または記録メディア207に格納されたアプリケーションプログラム(AP)や各種データをメインメモリ202の所定領域にロードする。そして、APを実行し、APに従い操作パネル13にUIを表示する。CPU201は、UIを用いて入力したユーザ指示に従って照明装置11と撮影装置12を制御して測定面15を撮影し、撮影画像データをメインメモリ202や記憶部203に格納する。さらに、CPU201は、APに従いメインメモリ202に格納した撮影画像データに所定の演算処理を施す。そして、CPU201は、ユーザ指示に従い演算処理結果を操作パネル13に表示したり、記憶部203や記録メディア207に格納したりする。また、CPU201は、システムバス205に接続された図示しないネットワークI/Fを介して、有線または無線ネットワーク上のコンピュータ装置やサーバ装置との間でプログラム、データ、演算処理結果および中間処理データの送受信を行うこともできる。
(情報処理装置14の機能構成)
図2(b)は、本実施形態における情報処理装置14の機能構成を示すブロック図である。図2(b)を用いて、情報処理装置14の詳細な機能構成について説明する。情報処理装置14は、デバイス制御部901とデータ格納部902、撮影画像補正部903を備える。デバイス制御部901は、照明装置11に照明用画像を転送し、照明装置11のディスプレイに照明用画像を表示させる。また、照明用画像に基づいて照明された測定物15を撮影装置12に撮影させ、撮影装置12から得られる撮影画像をデータ格納部902に格納する。撮影画像補正部903は、データ格納部902に格納された撮影画像に対して所定の階調補正を実行する。
位相情報算出部904は、撮影画像補正部903によって補正された補正画像に基づいて、位相情報分布を取得する。位相情報分布とは、各画素にける輝度値の変化の位相Bを格納した画像である。位相Bは、どの点光源(ディスプレイにおける画素)が主光源であるかを識別するための情報である。光学的法線方向算出部905は、位相情報算出部904が取得した位相情報分布に基づいて、測定物15における光学的法線方向の2次元分布を取得する。
実施形態1では、反射光の強度が最大となる方向の反射強度を光沢強度として算出する。そこで最大輝度情報算出部906は、撮影画像補正部903によって補正された補正画像に基づいて、最大輝度情報分布を取得する。最大輝度情報分布とは、各画素における輝度値変化の最大輝度値Dを格納した画像である。光沢強度算出部907は、最大輝度情報算出部906が取得した最大輝度情報分布に基づいて、光沢強度の2次元分布を取得する。
さらに情報処理装置14は、光学的法線方向画像生成部908と法線方向密度分布算出部909、光輝情報算出部910を有する。光学的法線方向画像生成部908は、光学的法線方向算出部905で取得した光学的法線方向の2次元分布と、光沢強度算出部907で取得した光沢強度の2次元分布に基づいて、光学的法線方向画像を生成する。法線方向密度分布算出部909は、光学的法線方向算出部905で取得した光学的法線方向の2次元分布と、光沢強度算出部907で取得した光沢強度の2次元分布に基づいて、法線方向密度分布を取得する。
光輝情報算出部910は、光学的法線方向算出部905で取得した光学的法線方向の2次元分布と、光沢強度算出部907で取得した光沢強度の2次元分布に基づいて、測定物15の光輝情報を取得する。光輝情報とは、測定物の光輝感(メタリック感)に相関のある情報である。光輝感とは、観察角度に応じて輝点の位置や大きさが変化することにより生じる質感である。ここでは光輝情報として、輝点の大きさと分散に係る情報を生成する。
出力部911は、光学的法線方向算出部905で取得した光学的法線方向の2次元分布、光沢強度算出部907で取得した光沢強度の2次元分布を出力する。また、出力部911は、光学的法線方向画像生成部908で生成した光学的法線方向画像、法線方向密度分布算出部909で取得した法線方向密度分布、光輝情報算出部910で取得した光輝情報を出力する。また、出力部911は、撮影画像補正部903で補正した撮影画像を出力する。
(照明装置11の制御について)
次に、照明装置11に表示させる照明用画像について説明する。ディスプレイにおける各点光源(画素)は、上述の通り互いに位相の異なる正弦波状に変調された光を照射する。情報処理装置14は、各点光源に対応する位相を、各点光源の識別情報として用いる。各点光源を正弦波状に変調させながら撮影装置12が測定物15を測定すると、撮影装置12が生成する画像における各画素は、点光源と同様、正弦波状に輝度値が変化する。各画素の輝度値変化における正弦波の位相により、測定物15の各測定点において主光源および主照明方向を特定する。正弦波の位相は、少なくとも3つの輝度値があれば特定できる。実施形態1では、まず各点光源の輝度を点光源のX方向の位置に応じて互いに位相の異なる正弦波状に変調させながら、撮影装置12が4回撮影することで、主光源のX方向の位置を特定する。同様に各点光源の輝度を点光源のY方向の位置に応じて互いに位相の異なる正弦波状に変調させながら撮影装置12が4回撮影することで、主光源のY方向の位置を特定する。図4は、照明用画像を説明する図である。図4(a)は、ディスプレイを示し、矩形は画素である。図4(b)〜(e)は、点光源のX方向の位置を識別するための照明用画像であり、図4(f)〜(i)は、点光源のY方向の位置を識別するための照明用画像である。情報処理装置14は、照明装置11に図4(b)〜(i)に示す照明用画像を順に送信する。照明装置11は、受信した照明用画像に基づいてディスプレイの各画素の輝度値を制御する。情報処理装置14は、照明用画像を切り替えることにより照明装置11のディスプレイにおける各画素(点光源)を変調させる。ディスプレイにおける各画素の輝度値Lは、次の式(2)によって示される。
L(Xd,Yd,Δi)=K1×cos(Δi−δ(Xd,Yd))+K2・・・(2)
ここで、XdとYdは、それぞれ、照明装置11のディスプレイにおけるX軸方向およびY軸方向の位置に係る画素番号である。またΔiは変調情報、K1およびK2は定数、δは各画素の位相を示す位相分布関数である。定数K1および定数K2は、それぞれ、照明パターンのコントラストと平均輝度のパラメータである。照明用画像の各画素の画素値が8bit(256階調)である場合には、例えば、定数K1および定数K2は127である。位相分布関数δは、次の式(3)と式(4)で与えられる。
δ(Xd,Yd)=K3×Xd・・・(3)
δ(Xd,Yd)=K4×Yd・・・(4)
ここでK3とK4は、隣り合う点光源の位相差に係る定数である。式(3)の位相分布関数は、図4(b)〜(e)の照明画像に対応し、画素(点光源)のX方向の位置に応じて位相が決定されることを意味する。同様に、式(4)の位相分布関数は、図4(f)〜(i)の照明画像に対応し、画素(点光源)のY方向の位置に応じて位相が決定されることを意味する。式(2)における変調情報Δiは、輝度変調のサンプリング時間に対応する位相を示し、添え字iの値は、輝度変調のサンプリング番号を示す。輝度のサンプリング数(照明用画像の数)がn個の場合、iは1からnの値をとる。本実施形態ではn=4であり、(Δ1,Δ2,Δ3,Δ4)=(0度,90度,180度,270度)とする。図4(b)〜(e)および図4(f)〜(i)の照明画像のサンプリング番号は、それぞれ、1〜4である。
(測定手順)
図3は、本実施形態の情報処理装置14が実行する測定手順を示すフローチャートである。各ステップは、情報処理装置14が有するCPUが以降に説明するフローチャートを実行するプログラムを読み出し、実行することにより実現する。
まず、ステップS301においてデバイス制御部901は、図4(b)〜(i)に示す各照明用画像を順に照明装置11に転送して表示させる。照明装置11が測定物15を照明すると、撮影装置12に測定物15を撮影させる。その結果、8つの撮影画像が得られる。なお以降、図4(b)〜(e)の照明用画像を第一グループとし、図4(f)〜(i)の照明用画像を第二グループと呼ぶ。データ格納部902は、取得した撮影画像を記憶する。撮影画像補正部903は、各撮影画像に対して所定の階調補正を実行する。
ステップS302において位相情報算出部904は、ステップS301で取得した補正後の撮影画像に基づいて、第一グループおよび第二グループそれぞれの位相情報分布を取得する。まず、第一グループの照明画像で照明し、撮影された4つの撮影画像に基づいて、撮影画像の画素毎に位相Bを算出し、第一グループの位相情報分布を取得する。図7は、撮影画像における処理対象画素の輝度値変化の一例を示す図である。横軸は、サンプリング時間に対応する変調情報、縦軸は変調情報に対応する照明用画像で照明したときの撮影画像の輝度値を示す。位相情報算出部904は、4つの撮影画像における処理対象画素の輝度値をプロットする。この測定結果は正弦波状に変化するので、4つのプロット点を式(2)の正弦波にフィッティングし、曲線2701を得る。そして位相情報算出部904は、フィッティングした正弦波の位相Bを位相情報として算出する。ここで位相Bは、輝度値が最大となる時間に対応した位相の推定値である。位相Bを算出する方法として、実施形態1では次の式(5)から式(8)を用いる。
0≦ssかつ0≦scのとき、
B=arctan(ss/sc) ・・・(5)
0≦ssかつsc<0のとき、
B=arctan(ss/sc)+180度・・・(6)
ss<0かつsc<0のとき、
B=arctan(ss/sc)+180度・・・(7)
ss<0かつ0≦scのとき、
B=arctan(ss/sc)+360度・・・(8)
ただし、ssおよびscの値は次の式(9)、式(10)による。
ss=Σ(Ii×sin(Δi)) ・・・(9)
sc=Σ(Ii×cos(Δi)) ・・・(10)
ここでΣは添え字iに関する総和を求める。なお、位相Bを算出する方法としては、この方法に限らない。各グループの撮影画像において各画素の輝度値変化は、式(2)によって表わされる照明用画像のいずれかの画素(点光源)の輝度値変化と同期する。そこで式(2)によって表される位相の異なる複数の正弦波の中から、図26に示すフィッティングした正弦波(曲線2701)に同期する正弦波を求め、この正弦波の位相を位相Bとしてもよい。
位相情報算出部904が算出する位相Bは、主光源の位相に一致する。また第一グループの照明画像は、画素(点光源)のX方向の位置に応じて位相が決定されている。よって、第一グループの照明画像で照明し、撮影された撮影画像に基づいて算出した位相Bの値B_a1から、主光源のX方向の画素番号Xd_aが求められる。詳細は後述する。同様にして、位相情報算出部904は、第二グループの照明画像で照明し、撮影された4つの撮影画像に基づいて、撮影画像の画素毎に位相Bの値B_a2を算出し、第二グループの位相情報分布を取得する。この位相B_a2から、主光源のY方向の画素番号Yd_aが求められる。
ステップS303において光学的法線方向算出部905は、撮影画像における画素毎に光学的法線方向Nvの2次元分布を取得する。詳細は後述する。
ステップS304において最大輝度情報算出部906は、ステップS301で取得した補正後の撮影画像に基づいて画素毎に最大輝度情報を算出し、最大輝度情報分布を取得する。最大輝度情報は、図7のDであり、照明画像のグループ毎に算出した後、平均する。最大輝度情報算出部906は、4つの撮影画像における処理対象画素の輝度値をプロットし、この4つのプロット点を式(2)の正弦波にフィッティングして曲線2701を得る。そして最大輝度情報算出部906は、フィッティングした正弦波の最大輝度Dを最大輝度情報として算出する。最大輝度Dは、フィッティングした曲線2701の振幅情報Aとバイアス情報Cの和である。振幅情報Aを算出する方法として、実施形態1では、次の式(11)を用いる。
A=(ss^2+sc^2)^0.5・・・(11)
なおssとscは、上記の式(9)および式(10)で求められる。
またバイアス情報Cを算出する方法として、実施形態1では、次の式(12)を用いる。
C=Σ(Ii) ・・・(12)
ここで、Σは添え字iに関する総和を求める。最大輝度情報算出部906は、振幅情報Aとバイアス情報Cから、式(13)によって最大輝度情報Dを算出する。
D=A+C ・・・(13)
次に、ステップS305において光沢強度算出部907は、撮影画像の各画素について光沢強度Gを算出し、光沢強度Gの2次元分布を取得する。光沢強度Gの2次元分布とは、撮影画像の各画素に対応する光沢強度Gの値を格納した画像である。光沢強度算出部907は、最大輝度情報Dと光沢強度とを対応づけた光沢強度変換テーブルを参照する。図10は、光沢強度変換テーブルの一例を示す模式図である。図10に示すように、光沢強度変換テーブルは、離散的な最大輝度情報Dと鏡面光沢度との対応関係を記述したルックアップテーブルである。任意の最大輝度情報Dに対応する光沢強度Gは、公知の補間方法によって算出する。また、光沢強度変換テーブルは、鏡面光沢度が既知の面を測定してあらかじめ作成しておく。光沢強度算出部907は、各画素の最大輝度情報を参照して、各画素の光沢強度を導出する。
ステップS306において光学的法線方向画像生成部908は、光学的法線方向画像を生成する。光学的法線方向画像は、ステップS303で取得した光学的法線方向の2次元分布に基づいて、光学的法線方向の天頂角θnと方位角φnとに応じて色付けしたカラー画像である。光学的法線画像の各画素の色の色相角hと彩度C*は、例えば、θnとφnから次の式(14)と式(15)で与えられる値とする。
h=φn ・・・(14)
C*=Kc x θn ・・・(15)
ここで、Kcは定数である。このように、光学的法線方向の方位角を色相角、天頂角を彩度に対応付けした光学的法線方向画像によれば、光沢的法線方向の分布の把握が容易となる。なお、明度L*は50とするか、または、sRGBの色域において各色相で彩度C*が最大となる明度の値とする。このL*,C*,hの値は、公知の方法によってsRGBに変換され、各画素にRGBの値を格納する一般的なカラー画像に変換される。さらに、X方向とY方向の解像度が一致するように解像度変換される。光学的法線方向画像は、ステップS305で取得した光沢強度Gの2次元分布に基づいて、光沢強度が所定の値以下となる画素は特別な色を割り当ててもよい。例えば、黒色にする。または、光沢強度に応じて明度L*を割り当ててもよい。例えば、光沢強度が弱い程、明度L*が小さくなるように設定する。このように光沢強度に応じた明度にすることで、測定物15の見え方への寄与の小さい領域を識別できる。
ステップS307において法線方向密度分布算出部909は、ステップS304において求めた光沢的法線方向の2次元分布から法線方向密度分布を取得す。法線方向密度分布は、光学的法線方向のヒストグラムである。光沢的法線方向の天頂角θnと方位角φnを複数の区間に分割して各区間に対応する画素数をカウントし、測定物15を測定した撮影画像の全画素数に対する割合を計算したものである。法線方向密度分布によれば、測定物15の光学的法線方向の統計的分布が把握できる。図21は、法線方向密度分布の結果表示の一例を示す模式図である。同心円の大きさが天頂角θn、水平軸右向き方向となす角度が方位角φnに対応し、各点の濃淡は、その点に対応する法線方向が測定面に含まれる割合を示す。なお、各区間に対応する画素数をカウントするときは、ステップS305で取得した光沢強度Gの2次元分布に基づいて、光沢強度が所定以下の画素はカウントから除外するように処理してもよい。この様にすれば、測定物15の見え方への寄与の小さい領域を除外することできる。
ステップS308において光輝情報算出部910は、ステップS304で求めた光学的法線方向の2次元分布に基づいて光輝情報を取得する。本実施形態において光輝情報は、光学的法線方向が略一致する領域でクラスタリングしたときのクラスタサイズの平均値、および標準偏差を算出する。ここで算出するクラスタサイズの平均値は、測定物15のメタリック感を表す輝点の大きさとみなすことができる。また、クラスタサイズの標準偏差が大きいほど、輝点が分散しているため、観察角度によってよりメタリック感が強いと言える。
なお、サイズが所定の大きさを超えるクラスタの個数を光輝情報としてもよい。また、ステップS305で取得した光沢強度Gの2次元分布に基づいて、光沢強度が所定の値を超える領域についてクラスタリングを行うように処理してもよい。このような光輝情報を参照することで、メタリック塗装などの特性を数値管理することが可能となる。例えば、1つまたは複数の光輝情報が、基準の塗装サンプルに対して所定の範囲内にあるか否かを測定することで、塗装の品質を管理することができる。
ステップS309において出力部911は、各種測定結果を出力して、情報処理装置14は測定物15の反射特性の測定を終了する。出力するデータは、光学的法線方向および光沢強度の2次元分布、法線方向分布画像、法線方向密度分布、光輝情報の他、撮影画像や上記処理の中間データを含んでもよい。
次に、ステップS303において光学的法線方向算出部905が算出する光学的法線方向Nvの2次元分布を算出する手順を説明する。図3(b)は、ステップS303の詳細手順を説明するフローチャートである。情報処理装置14が図3(b)に示すフローチャートに対応するプログラムを読み出し、実行することで光学的法線方向算出部905における処理が実現する。
ステップS801において、位相情報算出部904が算出した位相分布を参照し、各画素の主光源となるディスプレイ上の画素番号を導出する。主光源の画素番号(Xd_a,Yd_a)は、位相情報B_a1およびB_a2とから、上記の式(3)および式(4)に基づき、次の式(16)と式(17)の通りに算出できる。
Xd_a=B_a1/K3・・・(16)
Yd_a=B_a2/K4・・・(17)
式(16)および式(17)で算出される主光源の画素番号は、整数に限らない。すなわち、本測定システムによれば、照明装置11の点光源の間隔よりも高い分解能で光学的法線方向を求めることができる。次に、ステップS802において、主光源のXYZ座標の2次元分布として、撮影画像の各画素に対応する主光源のXYZ座標を格納した画像を生成する。主光源の3次元空間におけるXYZ座標(Xill,Yill,Zill)は、ディスプレイ上の画素位置を示す画素番号(Xd_a,Yd_a)から、次の式(18)乃至式(20)の通りに算出できる。
Xill=Kill_11×Xd_a+Kill_13・・・(18)
Yill=Kill_22×Yd_a+Kill_23・・・(19)
Zill=Kill_33 ・・・(20)
ここで、Kill_11、Kill_13、Kill_22、Kill_23、Kill_33は、照明装置11の設置位置と照明装置の画素のサイズで決まる定数であり、あらかじめ取得しておくことができる。
ステップS803において、測定点のXYZ座標の2次元分布として、撮影画像の各画素に対応する測定点のXYZ座標を格納した画像を生成する。撮影装置12は測定物15の測定面に焦点を合わせているため、撮影画像の画素と測定面15の面上の点は一対一に対応付けられる。測定物15における測定点のXYZ座標(Xsmp,Ysmp,Zsmp)は、撮影画像における画素の画素番号(Xc,Yc)から、次の式(21)乃至式(23)の通りに算出できる。
Xsmp=Kcam_11 x Xc+Kcam_13・・・(21)
Ysmp=Kcam_22 x Yc+Kcam_23・・・(22)
Zsmp=0 ・・・(23)
ここで、Kcam_11、Kcam_13、Kcam_22、Kcam_23は、撮影装置12の設置位置と撮影解像度で決まる定数であり、あらかじめ取得しておくことができる。
ステップS804において、照明方向を表す方向ベクトルの2次元分布を取得する。これは、撮影画像の各画素に対応する照明方向を表す方向ベクトルのXYZ成分を格納した画像である。主光源に対応する照明方向を表す方向ベクトル(Xvi,Yvi,Zvi)は、主光源と測定点それぞれのXYZ座標から、式(24)乃至式(26)の通りに算出できる。
Xvi=(Xill−Xsmp)/norm・・・(24)
Yvi=(Yill−Ysmp)/norm・・・(25)
Zvi=(Zill−Zsmp)/norm・・・(26)
ただし、normは次の式(27)によって定義される。
norm=((Xill−Xsmp)^2+(Yill−Ysmp)^2+(Zill−Zsmp)^2)^0.5 ・・・(27)
ステップS805において、光学的法線方向を表すベクトルの2次元分布を取得する。これは、撮影画像の各画素に対応する上記ベクトルのXYZ成分を格納した画像である。本測定装システムの受光方向は、天頂角45度、方位角0度である。よって、受光方向を表す方向ベクトル(Xvc,Yvc,Zvc)は、次の式(28)から式(30)により算出できる。
Xvc=1/(2)^0.5・・・(28)
Yvc=0 ・・・(29)
Zvc=1/(2)^0.5・・・(30)
光学的法線方向を表す方向ベクトル(Xvn,Yvn,Zvn)は、照明方向と受光方向それぞれの方向ベクトルから、次の式(31)乃至式(33)の通りに算出できる。
Xvn=((Xvi+Xvc)/2)/norm・・・(31)
Yvn=((Yvi+Yvc)/2)/norm・・・(32)
Zvn=((Zvi+Zvc)/2)/norm・・・(33)
ただし、normは次の式(34)により定義される。
norm=(((Xvi+Xvc)/2)^2+((Yvi+Yvc)/2)^2+((Zvi+Zvc)/2)^2)^0.5・・・(34)
ステップS806において、光学的法線方向の2次元分布を取得する。これは、撮影画像の各画素に対応する、光学的法線方向の天頂角θnと方位角φnを格納した画像である。光学的法線方向の天頂角θnと方位角φnは、光学的法線方向を表す方向ベクトル(Xvn,Yvn,Zvn)から、次の式(35)および式(36)の通りに算出できる。
θn=arctan(Yvn/Xvn)・・・ (35)
φn=arctan((Xvn^2+Yvn^2)^0.5/Zvn)・・・(36)
以上の通りに、全ての測定点に対して最大反射方向に対応する光学的法線方向の算出処理を完了する。
以上の通り、本実施形態では照明装置11の複数の点光源に互いに位相の異なる正弦波上に変調させながら発光させ、測定物15を照明する。撮影装置12は、照明装置11の各点光源の変調1周期分のうち複数回、測定物15を撮影し撮影画像を得る。撮影画像における各画素は、主光源の位相差と同じ位相差で輝度値が変化することを利用して、各画素がどの点光源から主に反射光を受光しているかを特定することで、最大反射方向を特定する。特に前述の実施形態では、位相の異なる光量に変調させて各点光源を同時に発光させるので、1つ1つの点光源を順に発光させながらその都度測定物15を測定する方法に比べて大幅に時間を短縮できる。また、3回異なる照明用画像のタイミングで撮影するだけで、各画素の輝度変化を検出できる。これにより撮影画像を保存するメモリ容量や、演算に係る時間を短縮することもできる。前述では、1周期分の位相を4回に分けて撮影した場合を例に説明したが、3回の場合は、変調情報iΔは、(Δ1,Δ2,Δ3)=(0度,120度,240度)と設定するとよい。ただし、照明用画像の切り替え(撮影回数)は多いほど、撮影画像に含まれるノイズの影響を抑制できる。そのため照明用画像の切り替え(撮影回数)は、ユーザによる測定精度などを考慮して設定することが望ましい。
なお、複数の点光源として用いるディスプレイは、表示可能な最大輝度と最初輝度の比である輝度コントラストが高く、輝度の時間変動が小さく、ディスプレイ内における各画素の輝度のムラが少ない方が、各点光源を識別しやすく望ましい。また、複数の点光源は密に配置され、連続的に位相をずらして各点光源に発光させることが望ましい。そのため実施形態1ではディスプレイを測定物15の照明に用いた。ディスプレイを用いる場合、ディスプレイの解像度は、点光源の配置密度でもあり、測定精度に関わる。また、ディスプレイのサイズは、撮影装置12が測定する測定面15における全ての測定点に対し、鏡面反射成分(最大反射方向からの反射光)を受光できることを考慮して設計されていることが望ましい。
[実施形態2]
前述の実施形態では、正弦波の1周期を8個の点光源に割り当てる構成を例に説明した。しかしながらディスプレイ状に配列された各点光源をちょうど1周期分になるように位相を異ならせる必要はない。例えば、図23に示すように、1周期分の位相差を、ディスプレイの半分の点光源に割り当てるようにしてもよい。つまりこれは、1つの照明用画像に2周期の正弦波状に輝度が変化することになり、照明用画像は縞模様になる。この場合、ディスプレイにおいて同じ位相差の点光源が周期的に存在することになる。実施形態2では、このようにディスプレイにおいてX方向またはY方向に同じ位相差の点光源が周期的に存在する場合の測定方法について説明する。
位相情報Bの補正について説明する。式(5)乃至式(8)で算出される位相情報Bの値は0度から360度の範囲であり、真の位相情報を360で割った余りである。よって、式(3)および式(4)のδがこの範囲外の値を含む場合は、必要に応じて位相情報Bを補正する。図23(a)において、上述した画素2606(不図示)の主光源である点光源2605の位置は、光学的法線方向2603の方向によって変化する。しかし、光学的法線方向は、測定物15の法線方向(Z方向)の周辺に分布する。よって、点光源2605は、光学的法線方向2603が測定面15の法線方向に一致するときの点光源2605の周辺に存在すると推定される。このときの点光源2605の位相δの値をPsとする。このとき、位相情報Bは、元の値に360度の整数倍を加算または減算することで、Ps±180度の範囲に入るように補正される。
図25は、位相情報Bの補正手順を説明するフローチャートである。まず、ステップS2801において、撮影画像の各画素に関して、光学的法線方向が測定面15の法線方向に一致するときの主光源の画素番号を算出する。撮影画像の画素(Xc,Yc)に対応する上記主光源の画素番号(Xd_b,Yd_b)は、次の式(37)および式(38)で与えられる。
Xd_b=(Kcam_11 x Xc+Kcam_13−Kill_33−Kill_13)/Kill_11・・・(37)
Yd_b=(Kcam_22 x Yc+Kcam_23−Kill_23)/Kill_22 ・・・(38)
次に、ステップS2802において、光学的法線方向が測定面15の法線方向に一致するときの主光源の位相Psを算出する。Psは、照明パターンのグループ毎に算出する。第一グループの照明パターンで撮影した画像から求めた位相情報Bの補正に使うPsは、ステップS2801で算出したXd_bを上記の式(3)に代入して算出する。また、第二グループの照明パターンで撮影した画像から求めた位相情報Bの補正に使うPsは、ステップS2801で算出したYd_Bを上記式(4)に代入して算出する。
次に、ステップS2803において、B+180度の値と、ステップS2802で算出したPsの値を比較する。前者が後者より小さい場合はステップS3304に進み、他の場合は補正後の位相情報としてBを出力して処理を終了する。
ステップS2804では、Bに360度を加えてステップS2803に戻る。
[実施形態3]
実施形態1では、センサの画素Pにおける輝度変化を、周期関数にフィッティングすることで、位相情報を算出した。実施形態3では、変換テーブルを参照して位相情報を推定する方法について説明する。実施形態3では、位相情報算出部904が実行するステップS302最大輝度情報算出部906が実行するステップS304の処理が実施形態1と異なる。尚、実施形態1と同じ構成については、詳細な説明を省略する。
まず、実施形態3におけるステップS302に処理を説明する。図13は、実施形態2におけるステップS302のフローチャートである。まず、ステップS1601において位相情報算出部904は、グループ毎に撮影画像の画素位置(Xc,Xy)の画素値Iiを取得し、平均輝度を算出する。平均輝度Iaveは、次の式(39)を用いて算出する。
Iave(Xc,Yc)=Σ(Ii(Xc,Yc))/n・・・(39)
ここで、nは、各照明グループにおける撮影数であり、ここでは4である。式(39)のΣは、添え字iに関する総和を求める。
ステップS1602において位相情報算出部904は、各画素における輝度変化の振幅を算出する。振幅Iampは、例えば、次の式(40)で与えられる。
Iamp(Xc,Yc)=Max(Max(Ii)−Iave,Iave−Min(Ii))・・・(40)
ここで、Maxは引数の最大値を計算する関数、Minは引数の最小値を計算する関数を示す。
ステップS1603において位相情報算出部904は、平均輝度Iaveおよび振幅Iampを用いて、変調情報の位相Δが0度の照明用画像に対応した撮影画像I1における各画素を正規化する。正規化後の画像の画素値Icorは、次の式(41)で与えられる。
Icor(Xc,Yc)=(I1(Xc,Yc)−Iave(Xc,Yc))/Iamp・・・(41)
画素値Icorは、平均0、振幅1に正規化された反射強度を示す。
ステップS1604において位相情報算出部904は、位相変換テーブルを参照して、式(41)で求めた信号Icorに対応する位相情報を算出する。位相変換テーブルは、正規化された反射強度に対応する位相情報を記述したテーブルであり、予めデータ格納部902に格納しておく。図12は、位相変換テーブルの一例を示す模式図である。図12に示すように、位相変換テーブルは、離散的な正規化反射強度に対応する位相情報を保持するテーブルである。また、任意の正規化反射強度に対応する位相は、公知の補間方法を利用して算出することができる。なお、位相変換テーブルは、余弦関数の数表であり、位相変換テーブルに記載される位相δと正規化反射強度Icorの対応関係は、次の式(42)を満足する。
Icor=cos(δ)・・・(42)
以上の処理により、撮影画像における各画素の輝度変化の位相算出処理を完了する。
実施形態3におけるステップS304は、最大輝度情報Dを実施形態1の式(13)に代わって、式(43)を用いて算出する。
D(Xc,Yc)=Max(Ii(Xc,Yc))・・・(43)
以上説明したように実施形態3では、撮影画像における全ての画素の測定結果(輝度値)に基づいて三角関数にフィッティングする代わりに、位相変換テーブルを参照して各画素の位相を算出する。これにより、三角関数にフィッティングする演算が不要となり位相算出処理を高速化できる。
[実施形態4]
実施形態1では、照明装置11に面光源のディスプレイを利用する方法を例に説明した。実施形態4では、複数の点光源をライン状に拝礼したライン光源を用いる方法について説明する。なお、実施形態1と同じ構成については、詳細な説明を省略する。
図15は、実施形態4の照明装置を説明する模式図である。図15(a)に示すように、ライン光源1801は、Yd方向に移動可能なように構成されている。そこで一紙形態4では、ライン光源を実施形態1の照明装置11が照明する範囲と同じ範囲を照明するように、ライン光源をYd方向に操作しながら分割して照明する。もちろん、ライン光源は、Xd方向に移動可能なように構成されてもよい。ライン光源の各画素は、実施形態1と同様に、式(2)により表わされる輝度を表示する。図15(a)に示すように、Xd方向のライン光源をYd方向に走査する場合、第一のグループの照明用画像を利用する。必要な最少の照明用画像の数は3つである。照明用画像が4つ場合の例を、図15(b)乃至図15(e)に示す。
実施形態4では、ステップS301乃至ステップS303、およびステップS304の処理が、実施形態1と異なる。図16は、実施形態4におけるステップS301の詳細なフローチャートである。まず、ステップS1901において情報処理装置14は、照明装置11のライン光源の走査位置を示す定数Cに0を設定させる。ステップS1902において情報処理装置14は、ライン光源をYd=Cの位置に移動させる。ステップS1903において情報処理装置14は、照明用画像を順に照明装置11に転送して表示させる。また情報処理装置14は、各照明用画像を表示したときの測定物15を撮影装置12に撮影させる。これによって、照明用画像の数に対応した数の撮影画像が取得される。
ステップS1904において情報処理装置14は、全てのYd方向について撮影を完了したか判断する。ライン光源の全ての走査位置における撮影が完了した場合は、終了する。他の場合は、ステップS1905に進む。ステップS1905では、定数Cをインクリメントして、次のライン光源の走査位置Ydを設定し、ステップS1902に戻る。
図17は、実施形態4におけるステップS302の詳細なフローチャートである。ステップS2001において位相情報算出部904は、ライン光源の走査位置毎に、各画素の輝度変化における振幅情報Aを求める。振幅情報Aは、撮影画像の画素値Iiと変調の情報Δiから、上記の式(9)、式(10)、式(11)を用いて算出する。ステップS2002において位相情報算出部904は、全ての走査位置のうち、振幅情報Aが最大となる走査位置Ydを取得する。この振幅が最大値となる走査位置Ydは、撮影画像の画素毎に取得する。ステップS2003において位相情報算出部904は、撮影画像の画素毎に位相情報を算出し、測定物15の位相分布を取得する。位相情報は、ライン光源がステップS2002において取得した走査位置Ydにあるときの撮影画像の画素値Iiと変調の情報Δiから、上記式(5)から式(10)を用いて算出される。この位相情報が実施形態1における位相情報Bに相当する。
実施形態4におけるステップS303は、図3(b)に示すフローチャートにおいて、ステップS801の処理が実施形態1と異なる。実施形態4におけるステップS801は、ステップS2003で取得した位相情報Bを式(16)のB_a1に代入して画素番号Xdを取得する。また、画素番号Ydは、式(17)で計算する代わりに、上記ステップS2002で取得した走査位置Ydを使用する。
ステップS304において、ライン光源がステップS2002で取得した走査位置にあるときの撮影画像の画素値Iiと変調の情報Δiから、上記式(9)、式(10)および式(11)により、振幅情報Aを計算する。同様に、ライン光源がステップS2002で取得した走査位置にあるときの撮影画像の画素値Iiから、上記式(12)により、バイアス情報Bを算出する。
以上説明したように実施形態4における測定システムは、面光源の代わりに、ライン光源を使用する。ライン光源は一般に、輝度のムラが少なく、安定性に優れていることが知られている。ライン光源を走査させながら最大反射強度を特定することにより、光学的法線方向の2次元分布などの反射特性をより高精度に取得できる。
[実施形態5]
実施形態5では、照明装置11としてプロジェクタとスクリーンを利用する構成について説明する。なお、実施形態1と同じ構成については、詳細な説明を省略する。図18は、実施形態5の照明装置11を説明する模式図である。図18に示すように、実施形態4の照明装置11は、プロジェクタ2101と、裏面照射型の透過タイプのスクリーン2102とを有する。不図示の測定物15は、スクリーン2102の下側に配置され、スクリーン2102を透過した光によって照明される。本実施形態では、このスクリーン2102の面上の点を点光源として利用する。スクリーン2102の面上の点は、プロジェクタ2101に入力する画像の画素に対応する。プロジェクタ2101は入力された画像の画素値に応じて、任意の中間レベルで発光する。また、スクリーン2102は、プロジェクタ2101に入力する画像の画素値が画像面内で連続的に変化するとき、面上の点の輝度レベルも当該画素値に応じて連続的に変化する。また、スクリーン2102は、測定物15の表面と平行に設置する。そして、プロジェクタ2101に入力する画像の画素番号(Xp,Yp)に対応するスクリーン2102の面上の点を(Xs,Ys)とする。プロジェクタ2101とスクリーン2102は、プロジェクタにおけるY方向の画素番号Ypの値が等しい画素に対応するスクリーン2102の面上の点が、スクリーン2102の面上で直線を構成する。この直線の方向が測定装置のX軸方向と平行になるようにプロジェクタ2101とスクリーン2102の設置位置を決定する。同様に、プロジェクタ2101とスクリーン2102は、プロジェクタにおけるX方向の画素番号Xpの値が等しい画素に対応するスクリーン2102の面上の点が、スクリーン2102の面上で直線を構成する。この直線の方向が、測定装置のY軸方向と平行になるようにプロジェクタ2101とスクリーン2102の設置位置を決定する。この場合、プロジェクタ2101に入力する画像の画素番号(Xp,Yp)を、実施形態1の照明装置の画素番号(Xd Yd)として、実施形態1と同じ処理で光学的法線方向の2次元分布などの測定値を算出できる。すなわち、実施形態1の説明において、XdをXp、YdをYpに置き換えればよい。
以上説明したように、実施形態5の測定システムでは、ディスプレイの代わりに、大型化が容易なプロジェクタとスクリーンを使用する。これによって、1回で測定物15の光学的法線方向の測定可能な範囲を拡大し、より広い角度範囲の法線方向分布を取得できる。
[実施形態6]
前述の実施形態では、測定物15の反射特性を導出する測定システムについて説明した。実施形態6の測定システムでは、基準サンプルの測定結果と評価サンプルの測定結果を比較し、両者の差が所定の範囲内にあるか否かを判定する評価機能を備える測定システムについて説明する。実施形態6の測定システムの各構成は、実施形態1と同じであり、処理手順と機能構成が実施形態1の測定装置と異なる。
図32は、実施形態6における情報処理装置14の機能構成を示すブロック図である。実施形態6の情報処理装置14は、実施形態1の構成に加えて、基準データ格納部2201と、光学的法線方向画像補正部2202と、密度分布差分データ算出部2203と、光輝情報差分データ算出部2204を有する。実施形態6における光学的法線方向画像生成部908、法線方向密度分布算出部909および光輝情報算出部910は、それぞれ、基準サンプルの光学的法線方向画像、法線方向密度分布、光輝情報を生成および算出し、基準データ格納部2201に格納する。また、実施形態6における光学的法線方向画像生成部908は、評価サンプルの光学的法線方向画像を生成し、光学的法線方向画像補正部2202に出力する。
同様に、実施形態6の法線方向密度分布算出部909は、評価サンプルの法線方向密度分布を算出して密度分布差分データ算出部2203と光学的法線方向画像補正部2202に出力する。また、実施形態6の光輝情報算出部910は、評価サンプルの光輝情報を算出して光輝情報差分データ算出部2204に出力する。光学的法線方向画像補正部2202は、基準データ格納部2201に格納された基準サンプルの法線方向密度分布と、法線方向密度分布算出部909が算出した評価サンプルの法線方向密度分布とに基づいて、光学的法線方向画像を補正する。そして、補正後の光学的法線方向画像を出力する。
図26(a)は、実施形態6における情報処理装置14が実行する処理のフローチャートである。まず、ステップS2301において情報処理装置14は、基準サンプルの反射特性を測定する。測定手順は、図3(a)で説明した実施形態1の測定手順と同じである。つまりここでは、基準サンプルの光学的法線方向分布画像、法線方向密度分布および光輝情報を算出する。
ステップS2302において、評価サンプルの反射特性を測定する。ステップS2302における測定手順もステップS2301同様、実施形態1と同じである。従ってここでは、評価サンプルの基準サンプルの光学的法線方向分布画像、法線方向密度分布および光輝情報を算出する。
ステップS2303において、評価サンプルの方位角を補正する。測定システムに対するサンプルの相対的な向きは、測定を行う毎に変わってしまう場合がある。そのため基準サンプルと評価サンプルでX軸方向、Y軸方向にずれが発生する場合がある。このずれは、反射特性がサンプルの向きに依存しない等方性のサンプルでは問題にならない。しかしながら異方性のサンプルでは評価精度に影響する。そこで、ステップS307において算出した法線方向密度分布のデータに基づいて、方位角を補正する。ここでは、評価サンプルの方位角を1度ずつ回転させて法線方向密度分布データを取得し、基準サンプルの法線方向密度分布データとの差分を計算する。差分が最も小さくなる角度を補正角度として算出し、評価サンプルの方位角を補正角度により補正する。包囲各の補正は、評価サンプルをXY方向において回転させ、基準サンプルと反射特性が最も近くなる方向で評価サンプルを測定したことと同等の効果が期待される。本実施形態の測定システムは、このように方位角を補正された測定値に基づいて基準サンプルの反射特性と評価サンプルの反射特性を比較する。
ステップS2304において、ステップS2304において算出した補正角度に基づいて、評価サンプルの法線方向分布画像を補正する。後述するステップS2308の結果出力では、基準サンプルの法線方向画像と評価サンプルの補正後の法線方向画像とを並べて表示する。これにより、ユーザは基準サンプルと評価サンプルの差異の傾向を視覚的に把握することができる。
ステップS2305において、基準サンプルの法線方向密度分布と評価サンプルの法線方向密度分布の差分データを計算する。差分データは、方位角と天頂角の区分毎の差分でもよいし、全区分の差の二乗和のルートを計算したものでもよい。ステップS2306において、基準サンプルの光輝情報と評価サンプルの光輝情報の差分データを計算する。差分データは、例えば、光輝情報が示すクラスタサイズの平均値の差や標準偏差の差、さらに、サイズが所定の大きさを超えるクラスタの個数の差である。ステップS2307において、ステップS2305からステップS2306で計算した各差分データと、合否判定基準データとを比較し、合否判定を行う。なお合否判定基準データは、あらかじめ、汎用I/F206を介して外部から入力するなどし、設定しておく。合否判定は、例えば、差分データが合否判定基準データよりも小さい場合は合格、それ以外の場合は不合格と判定する。最後に、ステップS2308において、判定の結果を出力する。判定結果に加えて、各種差分データを出力する。
以上説明したように実施形態6の測定システムは、反射特性の評価機能を備える。これによって、光学的法線方向の2次元分布や、光沢強度分布の違いに起因する反射特性について、基準サンプルとの差異を簡易に評価できる。
[実施形態7]
実施形態6は、BRDFの2次元分布であるSVBRDF(Spatially Varying BRDF)に係る反射モデルのパラメータを測定する構成について説明する。なお、上記実施形態と同じ構成については、詳細な説明を省略する。BRDFは、照明方向ωi(θi,φi)および観察方向ωo(θo,φo)の4次元の関数であり、物体表面に任意の方向から光が入射したとき、各方向へどれだけの光が反射されるのかを表す。SVBRDFは、上記のBRDFの4変数に位置変数Pxy(X,Y)を加えた6次元の関数である。次元数が大きいため、各変数を密に測定すると大量のデータになり、かつ測定には長い時間を要する。また、SVBRDFは、ノイズの影響を受けやすい微小な光量を検出する必要があるため精度の高い測定が難しい。一方、BRDFを少ないパラメータで表現する反射モデルが多数提案されている。このパラメータの2次元分布を測定すれば、反射モデルにより近似したSVBRDFが得られる。実施形態7の測定システムは、測定物のBRDFを表す反射モデルのパラメータを測定することで、SVBRDFを導出する。SVBRDFが得られると、任意の条件で照明し、任意の方向で観察したときの測定物の見え方を予測できる。
ここで、本実施形態の測定システムが算出するBRDFの反射モデルについて説明する。反射モデルは、次の式(44)で示すように、反射光Iを拡散反射成分Idと鏡面反射成分Isとの和で表現する。
I=Id+Is・・・(44)
Lambertのモデルを使用する反射モデルでは、反射光の拡散反射成分Idは、次の式(45)によって与えられる。
Id(X,Y,θi,φi)=Rd(X,Y)×Ein(θi,φi)×cos(θi)・・・(45)
ここで、Einは照明光の強度である。Rdは、拡散反射成分の反射率(以下、拡散反射率と呼ぶ)であり、例えば、測定面に対して0度から照明し、45度で受光したときの輝度レベルId_smpと、同じ条件で取得した基準拡散反射面からの輝度レベルId_stdとの比率である。また、照明を消灯または遮光して撮影したときの輝度レベルId_bkを用いて黒レベルを補正し、基準拡散反射面の0度照明45度受光における拡散反射率の値Cal_Rd045を用いてスケーリングする。この場合、拡散反射率Rdは、次の式(46)で与えられる。
Rd(X,Y)=(Id_smp(X,Y)−Id_bk(X,Y))/Id_std(X,Y)×Cal_Rd045・・・(46)
基準拡散反射面としては、硫酸バリウム粉末やPTFE粉末の圧着面が利用できる。また、好適には、Cal_Rd045の値は公的な計量機関で値付けされた値を使用する。鏡面反射成分は、入射光が測定面の表面で反射することで生じる成分である。鏡面反射成分は、特定の反射方向(前述の最大反射方向)およびその近傍方向において大きな強度が観察される。Torrance−Sparrowのモデルを改変した反射モデルでは、反射光の鏡面反射成分は、次の式(47)により表わされる。
Is(X,Y,θi,φi,θo,φo)
=F(X,Y,θi)×D(X,Y,θi,φi,θo,φo)×Ein/cos(θo)・・・(47)
ここで、Einは照明光の強度、Fはフレネル反射を表す関数、Dは光沢写像性を表す関数である。光沢写像性について詳細は後述する。フレネル反射は、入射光または反射光の方向によって反射率が変化し、天頂角が90度に近づくほど反射率が大きくなる現象である。関数Fは、次の式(48)により表わされる。
F(X,Y,θi,φi)=1−(1−Rs(X,Y))×W(θi,φi)・・・(48)
Rsは本測定システムが測定する鏡面反射率である。鏡面反射率は、次の式(49)で表される天頂角θmにおける反射率である。
θm=arccos(V・Nv)・・・(49)
ここで、Vは受光方向を示すベクトルであり、測定システムでは天頂角45度、方位角0度である。また、Nvは測定システムが測定する光学的法線方向を示すベクトルである。尚、記号・はベクトルの内積を示し、θmはVとNvの成す角度である。
また式(48)におけるWは、測定される天頂角θmのフレネル反射の反射率と、照明方向ωi(θi,φi)と光学的法線方向Nvとの成す角度θvのフレネル反射の反射率との比である。Wは、式(50)により算出される。
W=(1−cos(θv))^5/(1−cos(θm))^5・・・(50)
ここで、θvは次の式(51)による。
θv=arccos(ωi・Nv) ・・・(51)
ただし、ωiは照明方向を示すベクトルである。
上記の式(47)のDは、光沢写像性に係る微小面の法線分布を表す。Torrance−Sparrowの反射モデルでは、物体表面が鏡面反射を生じる微小面の集合で構成されると仮定し、この微小面の法線方向の分布に基づいて各方向への散乱を表現する。本反射モデルは、この法線方向の分布を表現する関数に次の式(52)により表わされるTrowbridge−Reitzによって提案された分布モデルを使用する。
D=(α^2/(cos(θg)^2×(α^2−1)+1))^2・・・(52)
ここで、αは分布形状に関するパラメータであり、測定される光沢写像性に係る値を示す。前述の通り光沢写像性は、鏡面反射方向およびその近傍方向の反射光の強度変化における特徴量である。
また、光沢写像性が方位角によって変化する特性を光沢異方性と呼ぶ。光沢異方性を表す面は、その法線を軸に回転させたとき、照明方向と受光方向を固定していても観察される光量が変化する。例えば、ヘアーライン加工された金属や、折り目が規則的な凹凸構造を持つサテン刺繍などは、光沢異方性を表す。典型的には、光沢写像性の最も大きい方位角と、光沢写像性が最も小さい方位角が直交し、その間の方位角において光沢写像性は滑らかに変化する。この様な光沢異方性の特性は、楕円を使用したモデルで近似表現される。この楕円モデルによれば、光沢写像性が最大となる方位角を楕円の長軸方向とし、この方位角の光沢写像性の値を楕円の長軸の長さに、この方位角に直交する方向の光沢写像性の値を楕円の短軸の長さに対応付けてモデル化する。任意の方位角φの方向の光沢写像性の値は、上記楕円と、この楕円の中心を通る方位角φの直線との2つの交点を結ぶ線分の長さによって算出される。図11は、上記の楕円モデルを説明する模式図である。楕円1401は、光沢写像性が最大となる方位角がφu、φu方向の光沢写像性の値がαu、φuに直交する方向の光沢写像性の値がαvの光沢異方性を表す。任意の方位角φにおける光沢写像性は、図11の線分abの長さに対応した値で与えられる。
式(52)のパラメータαの値は、1以下の値をとり、光沢写像性と負の相関をもつ。よって、パラメータαが小さい程大きな光沢写像性を示す。実施形態7における測定システムは、式(52)のパラメータαが最小となる方位角φuと、φu方向のパラメータαの値αuと、φuに直交する方向のパラメータαの値αvを測定する。照明方向ωi、観察方向ωoにおける光沢写像性に関わるパラメータαは、上記のパラメータφu、αu、αvを用いて算出することができる。
(測定装置の構成)
図22は、実施形態7における測定システムの外観を示す図である。測定システム2500は、実施形態1の構成に加えて、拡散反射率を測定するための照明装置2501を有する。照明装置2501は、測定物15の表面を天頂角0度方向から平行光で照明する。照明光源は、LED、ハロゲン、キセノンなどを用いればよい。演色性が高く、明るく、輝度の時間変動が小さく、面内ムラの小さい光源が好適である。
撮影装置12は、実施形態1と同じ構成である。照明装置11が照明した測定物15に加えて、照明装置2501が照明した測定物15を撮影する。照明装置11が照明した測定物15を撮影するときは、照明装置2501は消灯するか遮光する。一方照明装置2501が照明した測定物15を撮影するときは、照明装置11は消灯するか遮光する。また、照明装置11と照明装置2501の両方を消灯または遮光した状態でも撮影する。なお、以下では、照明装置11が照明した測定物15を撮影した撮影画像を拡散反射撮影画像、照明装置2501が照明した測定物15を撮影した撮影画像を鏡面反射撮影画像と呼ぶ。また、両者とも消灯もしくは遮光して撮影した撮影画像を黒レベル撮影画像と呼ぶ。本実施形態の情報処理装置14は、照明装置11と撮影装置12に加えて、上記照明装置2401を制御して測定物15の撮影画像を取得する。また、情報処理装置14は、撮影画像に後述する演算処理を施し、上述した反射モデルのパラメータを算出する。そして、演算処理の処理経過や処理結果を操作パネル13や図示しない外部装置に出力する。
(測定方法の概要)
拡散反射率Rdは、照明装置2501が照明した測定物15の撮影画像に基づいて、上記の式(26)により算出する。また、光学的法線方向Nvは、実施形態1と同様にして算出する。
次に、光沢写像性の測定方法について説明する。光沢写像性とは、光沢のある物体において、写り込む像の鮮明さに関わる指標である。物体の光沢写像性の値が大きい場合、物体に写り込む照明の像は鮮明に観察され、逆に光沢写像性の値が小さい場合、物体に写り込む照明の像はぼけて観察される。図30は、照明光と撮影装置12で受光する反射光との関係を説明する模式図である。図30(a)は、測定面が平滑で光沢写像性が大きい場合の照明光と受光する反射光の関係を示す。測定面の写像性が大きい場合、受光方向へ反射する反射光に係る照明光の照明方向は、受光方向に対して鏡面反射となる特定の方向が支配的となる。そのため図30(a)において撮影装置12の画素Pは、受光方向と鏡面反射の関係にある光源Lnからの照明光の反射光のみを受光する。光源Ln−1からの照明光は、方向Rn−1に反射し、撮影装置12で受光されない。一方、測定面が凸凹で写像性が小さい場合、反射光は散乱する。そのため、受光方向へ反射する反射光に係る照明光の照明方向は、受光方向に対して鏡面反射となる方向の近傍に幅を持つ。写像性が小さいほど、この幅は広くなる。図30(b)は、測定面15の光沢写像性が小さい場合の照明光と受光される反射光の関係を示す。図30(b)において光源Ln−1からの照明光は、方向Rn−1だけでなく、その近傍方向に反射する。よって、撮影装置12の画素Pは、光源Lnからの照明光の反射光に加えて、光源Ln−1からの照明光の反射光も受光する。その結果、受光する反射光は、位相の違う異なる方向からの照明光による反射光を合成したものとなる。図29は、位相の異なる変調信号の合成を説明する模式図である。図29の信号3501と信号3502は、互いに位相の異なる正弦波の変調信号であり、信号3503は、信号3501と信号3502を合成した変調信号である。図29から分かるように、位相の異なる変調信号を合成すると振幅は小さくなる。すなわち、測定物15の光沢写像性が小さいほど、撮影画像における画素の輝度変化の振幅は小さくなる。振幅情報から光沢写像性への変換は、両者の対応関係を記述した光沢写像性変換テーブルを参照して、公知の補間方法を用いて行う。図28(b)は、光沢写像性変換テーブルの一例を示す。光沢写像性変換テーブルは、光沢写像性が既知のサンプルに基づいてあらかじめ作成しておく。本測定システムでは、複数の点光源を輝度変調させながら撮影し、撮影画像における画素の輝度変化の振幅成分である振幅情報を算出することにより、測定物15の光沢写像性を算出する。
次に、鏡面反射率Rsの測定方法を説明する。上述したバイアス情報Cは、鏡面反射方向周辺の反射光強度の平均値を示す。バイアス情報Cに対応する反射光には、拡散反射成分も含まれる。拡散反射成分を減じたバイアス情報Csは、測定面のバイアス情報CをCsmp、基準拡散反射面のバイアス情報CをCstd、測定面の拡散反射率RdをRd_smpとすると、次の式(53)により算出される。
Cs=Csmp−Cstd×Rd_smp/Cal_R045・・・(53)
ただし、Cal_R045は、基準拡散反射面の0度照明45度受光における反射率である。鏡面反射成分は、微小面の法線分布に基づいて鏡面反射方向周辺に分布する。算出する鏡面反射率Rsは、微小面の法線分布の中心である鏡面反射方向の反射光に関係する。ここで、鏡面反射成分の分布形状は、上述した関数Dで与えられる。よって、関数Dを全ての反射方向について積分して平均値Daveを算出する。平均値Daveと、関数Dの鏡面反射方向の値Dsとの比から、鏡面反射方向の反射光に対応するバイアス情報Csdが次の式(54)により算出できる。
Csd=Cs×Ds/Dave ・・・(54)
関数Dが上記の式(52)で与えられるとき、Dsの値は1である。一方、パラメータαuとαvに依存する平均値Daveは、離散的なパラメータαuとαvに対応する平均値Daveの値を記述した鏡面反射変換テーブルを用意しておき、この変換テーブルを参照して公知の補間法によって計算する。図28(b)は、鏡面反射変換テーブルの一例を示す。鏡面反射変換テーブルは、上記の式(52)に基づいて、あらかじめ作成しておく。鏡面反射率Rsの値は、測定面のCsdの値と、基準鏡面反射面のバイアス情報Cの値Cstd_sと、基準鏡面反射面の45度方向のフレネル反射率の値Cal_Rs45から次の式(55)で算出する。
Rs=Csd/Cstd_s x Cal_Rs45・・・(55)
基準鏡面反射面としては、光学ガラスBK7の黒色研磨ガラスが利用できる。好適には、Cal_Rs_45の値は公的な計量機関で値付けされた値を使用する。
(照明装置2501の制御)
拡散反射率を測定するための照明装置2501は、測定物15に対して全面均一な照明光を照射する。前述の実施形態と同様、照明装置11が表示する照明用画像は、周期関数で多階調に変調した輝度情報を画素毎に保持する画像である。照明装置11が表示する照明用画像における各画素の輝度Lは、上記の式(2)で与えられる。ただし、実施形態7では、位相を異ならせる方向は3つのグループのパターンを使用する。具体的には、X方向に位相を異ならせた第一グループの照明用画像、Y方向に位相を異ならせた第二グループの照明用画像、X軸と−45度を成す方向に位相を異ならせた第三グループの照明用画像を用いる。これによって、方位角の異なる3つの光沢写像性を導出する。3つの光沢写像性から上記方位角φuと上記楕円の長軸および短軸の長さに相当する光沢写像性の値を取得する第一グループ乃至第三グループの照明用画像を用いて測定物15を照明する。このようにしてそれぞれ、方位角0度、方位角90度、方位角45度の光沢写像性を取得する。第一および第二グループの照明パターンの位相分関数δは、上記の式(2)、式(3)で与えられる。第三グループの照明パターンの位相分布関数δは、次の式(56)で与えられる。
δ(Xd,Yd)=K5×(Xd/(2^0.5)−Yd/(2^0.5))・・・(56)
ここで、K5は定数であり、例えば1である。各グループとも輝度変調のための照明用画像の数は3であり、3グループ合わせて最少9回の測定により光沢異方性を算出する。図30は、照明用画像の数n=4のときの照明用画像の例を示す模式図である。図30(a)は、照明装置11と照明パターンの位置関係を示す。また、図30(b)乃至図30(e)は第一グループの照明パターン、図30(f)乃至図30(i)は第二グループの照明パターン、図30(j)乃至図30(m)は第三グループの照明パターンを示す。
(情報処理装置14機能構成)
情報処理装置14における詳細な構成について説明する。図32は、本実施形態における情報処理装置14の機能構成を示すブロック図である。デバイス制御部3901は、実施形態1のデバイス制御部901と同様に、照明装置11および撮影装置12を制御する。さらにデバイス制御部3901は、拡散反射測定用の照明装置2501を制御する。データ格納部3902は、データ格納部902と同様、取得した撮影画像を保持する。
位相情報取得部3903は、データ格納部3902に格納された第一グループ乃至第三グループの照明用画像を用いて照明した測定物15を撮影した9つの撮影画像に基づいて、各画素の位相情報を算出し、グループごとに位相分布を取得する。振幅情報取得部3904は、データ格納部3902に格納された第一グループ乃至第三グループの照明用画像により照明された測定物15の撮影画像に基づいて、各画素の輝度変化の振幅を算出し、グループ毎の振幅分布を導出する。
バイアス情報取得部3905は、データ格納部3902に格納された第一グループの照明用画像により照明された基準拡散反射面の撮影画像に基づいて、各画素のバイアス情報を算出し、バイアス分布を取得する。基準拡散反射面のバイアス分布は、校正データ格納部3913に格納される。また、データ格納部3902に格納された第一グループの照明用画像により照明された基準鏡面反射面の撮影画像に基づいて画素毎のバイアス情報を算出し、バイアス分布を取得する。基準鏡面反射面のバイアス分布は、校正データ格納部3913に格納される。また、第一グループの照明用画像により照明された測定物の撮影画像に基づいて、画素毎のバイアス情報を算出し、測定物15のバイアス分布を取得する。拡散反射情報取得部3906は、照明装置2501が照明した測定物15の撮影画像に基づいて、拡散反射率Rdの2次元分布を取得する。
また情報処理装置14は、光学的法線方向取得部3907、光沢異方性パラメータ取得部3908、光沢写像性変換テーブル格納部3911を有する。光学的法線方向取得部3907は、位相情報取得部3903が取得した位相分布に基づいて、光学的法線方向Nvの2次元分布を取得する。光沢異方性パラメータ取得部3908は、振幅情報取得部3404が取得した振幅分布に基づいて、光沢異方性に関わるパラメータφu、αu、αvの2次元分布を取得する。このとき、光沢写像性変換テーブル格納部3911が格納する光沢写像性変換テーブルを参照する。鏡面反射率分布取得部3909は、基準拡散反射面のバイアス分布、基準鏡面反射面のバイアス分布、拡散反射率Rdの2次元分布、光沢異方性パラメータの2次元分布および測定物のバイアス分布に基づいて、鏡面反射率Rsの2次元分布を取得する。鏡面反射率分布取得部3909は、鏡面反射率Rsの2次元分布を取得する処理において、鏡面反射変換テーブル格納部3912に格納される鏡面反射変換テーブルを参照する。
出力部3910は、ユーザの指示に基づき、測定結果である反射モデルのパラメータRd,Rs、Nv,φu,αu,αvの2次元分布やその他の中間データを出力する。なお以上の説明では、各構成の説明において、全ての画素の処理が完了して分布画像を取得した後に、次の処理に移る構成を説明した。しかしながら、1画素毎に全ての処理するように構成してもよいし、複数画素毎に全ての処理を完了するように構成してもよい。
図26は、本実施形態の情報処理装置14が実行する処理のフローチャートである。情報処理装置14が有するCPUが以降に説明するフローチャートを実行するプログラムを読み出し、実行することにより図32に示す各構成を実現する。ステップS2901において測定システムの校正を行う。ここで校正とは、上述した基準面のデータおよび黒レベルを取得する処理を指す。この工程では、上記の黒レベル撮影画像、基準拡散反射面の拡散反射撮影画像、および、基準拡散反射面と基準鏡面反射面のバイアス分布を取得する。詳細は後述する。
ステップS2902においてデバイス制御部3901は、測定物15を撮影し、測定する。上述したように、本測定システムでは、照明装置2501が照明した撮影と、照明装置11が第一グループ、第二グループ、第三グループの各照明用画像を表示して照明した撮影を行う。
ステップS2903において振幅情報取得部3904は、測定物15の振幅分布を取得する。振幅分布は、撮影画像の各画素に対応する振幅情報Aの値を格納した画像である。照明装置11が第一グループ乃至第三グループの照明用画像をディスプレイに表示して撮影した撮影画像について、グループ毎に各画素の輝度変化における振幅を算出する。その結果、3つの振幅分布を導出する。第一グループ乃至第三グループの照明用画像の撮影画像から算出した振幅分布は、それぞれ、方位角0度、方位角90度、方位角45度の振幅分布である。各画素の振幅情報Aは、撮影画像の各画素の輝度レベルIiと変調の情報Δiとから、上記の式(9)、式(10)および式(11)で算出する。
ステップS2904において位相情報取得部3903は、測定物15の位相分布を取得する。位相分布は、撮影画像の各画素に対応する位相情報Bの値を格納した画像である。実施形態1の測定手順ステップS302と同様の処理を行い、2つの位相分布を取得する。ステップS2905においてバイアス情報取得部3905は、測定物15のバイアス分布を取得する。バイアス分布は、撮影画像の各画素に対応するバイアス情報Cの値を格納した画像である。照明装置11が第一グループの照明用画像を表示して撮影した撮影画像を用いて、各画素の輝度レベルIiから、上記の式(12)を用いて1つのバイアス分布を算出する。
ステップS2906において拡散反射情報取得3906は、拡散反射率Rdの2次元分布を算出する。拡散反射率Rdは、上記の式(46)の通りに算出する。式(46)において、Id_smpはステップS2902で取得した拡散反射画像の輝度値である。また、Id_bkおよびId_stdはそれぞれ、ステップS2901で取得した黒レベル撮影画像と基準拡散反射面の拡散反射撮影画像の輝度値である。
ステップS2907において光学法線方向分布取得部3907は、光学的法線方向Nvの2次元分布を導出する。光学的法線方向Nvの2次元分布は、ステップS2904で求めた2つの位相分布に基づいて、実施形態1のステップS303と同様の処理を行って取得する。ステップS2908において光学違法性パラメータ取得部3908は、光沢異方性を表すパラメータの2次元分布を導出する。光沢異方性を表すパラメータの2次元分布は、ステップS2903において求めた振幅分布に基づいて算出する。詳細は後述する。ステップS2909において鏡面反射率分布取得部3909は、鏡面反射率Rsの2次元分布を取得する。鏡面反射率Rsの2次元分布は、ステップS2901で取得した基準拡散反射面と基準鏡面反射面のバイアス分布、S2905で取得したバイアス分布、ステップS2906で取得した拡散反射率Rdの2次元分布に基づいて算出する。詳細は後述する。
最後に、ステップS2910において出力部39010は、ユーザの指示に基づいて、各種測定結果を出力して終了する。出力項目は、反射モデルのパラメータRd,Rs,Nv,φu,αu,αvの2次元分布の他、受光方向を示すベクトルVや、振幅情報分布、位相情報分布、バイアス情報分布、撮影画像などの中間データを含んでもよい。
ここでステップS2901の校正の処理手順について詳細に説明する。図26(b)は、校正の処理のフローチャートである。まず、ステップS3001においてデバイス制御部3901は、基準拡散反射面を照明装置2501で照明させて撮影装置12が測定物15を撮影し、拡散反射撮影画像を取得する。ステップS3002においてデバイス制御部3901は、照明装置11に第一グループの照明用画像を転送して表示させて、基準拡散反射面を撮影する。ステップS3003においてデバイス制御部3901は、照明装置11に第一グループの照明用画像を転送して表示させ、基準鏡面反射面を撮影する。
次に、ステップS3004において、照明装置11と照明装置2501を両方とも消灯または遮光した状態で撮影し、黒レベル撮影画像を取得する。ステップS3005において、基準拡散反射面のバイアス分布を取得する。バイアス分布は、上述したステップS2905の処理を行って取得する。ステップS3006において、基準鏡面反射面のバイアス分布を取得する。バイアス分布は、上述したステップS2905の処理を行って取得する。校正処理に必要な最少の撮影数は、基準拡散反射面の拡散反射撮影画像それぞれの撮影に1、第一グループの照明用画像の撮影に3、基準鏡面反射面の第一グループの照明用画像の撮影に3、黒レベル撮影画像の撮影に1の合計8つである。すなわち、本測定システムによれば、測定面の撮影と合わせて、最少17回の撮影画像からSVBRDFが取得できる。
次に、ステップS2908の光沢異方性を表すパラメータの2次元分布の算出処理の詳細について説明する。図26(d)は、光沢異方性を表すパラメータの算出処理のフローチャートである。まず、ステップS3803において、光沢写像性の2次元分布を取得する。光沢写像性は、ステップS2903で取得した振幅分布の画素値である振幅情報Aに基づいて、上述した光沢写像性変換テーブルを参照し、公知の補間方法によって算出する。光沢写像性の2次元分布は、方位角0度、方位角90度、方位角45度の振幅分布から、それぞれ、方位角0度、方位角90度、方位角45度の光沢写像性の2次元分布を取得する。
次に、ステップS3804において、光沢異方性を表すパラメータの2次元分布を取得する。ここでは光沢異方性を表すパラメータとして、式(52)のパラメータαが最少となる方位角φuと、方位角φu方向のαの値αuと、φuに直交する方向のαの値αvの3つのパラメータを取得する。
各パラメータφuとαu、αvの値は、次の式(57)乃至式(59)で与えられる。
φu=arctan(P3/(P1−P2))/2・・・(57)
αu=1/(((P1+P2)−((P1−P2)^2+P3^2)^0.5)/2)^0.5・・・(58)
αv=1/(((P1+P2)+((P1−P2)^2+P3^2)^0.5)/2)^0.5・・・(59)
ただし、P1、P2、P3の値は、次の式(60)乃至式(62)による。
P1=−4×S90^2/P4 ・・・(60)
P2=−4×S0^2/P4 ・・・(61)
P3=−4×(S0^2+S90^2−2×S45^2)/P4 ・・・(62)
ただし、P4の値は、次の式(63)による。
P4=(S0^2+2*S0*S90+S90^2−2×S45^2)×(S0^2−2×S0×S90+S90^2−2×S45^2) ・・・(63)
ここで、S0、S90、S45は、それぞれ、方位角0度、90度、45度の光沢写像性の値であり、それぞれ、ステップS3801で取得した、対応する方位角の光沢写像性の2次元分布の画素の値である。
次に、ステップS2909における鏡面反射率Rsの2次元分布の算出手順について説明する。図36(c)は、鏡面反射率Rsの2次元分布の取得手順を説明するフローチャートである。まず、ステップS3201において、拡散反射成分を減じたバイアス情報Csの2次元分布を求める。Csの値は、上記の式(47)で算出する。式(47)において、CsmpはステップS2905で取得したバイアス分布の画素値、CstdはステップS2901で取得した基準拡散反射面のバイアス分布の画素値である。また、Rd_smpはステップS2906で取得した拡散反射率Rdの2次元分布の画素値である。
次に、ステップS3202において、関数Dの全ての反射方向の平均値Daveの2次元分布を求める。平均値Daveは、上述した鏡面反射変換テーブルを参照して、ステップS2908で取得した異方性パラメータαu、αvの2次元分布の画素値から、公知の補間方法によって算出する。
次に、ステップS3203において、鏡面反射方向の反射光に対応するバイアス情報Csdの2次元分布を求める。バイアス情報Csdは、上記の式(48)で算出する。式(48)において、CsはステップS3201で求めたCsの2次元分布の画素値であり、Dsの値は1であり、平均値DaveはステップS3202で求めた平均値Daveの2次元分布の画素値である。
次に、ステップS3204において、鏡面反射率Rsの2次元分布を求める。Rsの値は、上記の式(49)で算出する。式(49)において、CsdはステップS3203で求めたCsdの2次元分布の画素値、Cstd_sはステップS2901で取得した基準鏡面反射面のバイアス分布の画素値である。
以上の処理により、反射モデルのパラメータRd,Rs、Nv,φu,αu,αvの2次元分布を算出できる。
ここで、実施形態7の測定システムから得られるパラメータを用いて、反射モデルを算出する処理を説明する。以降の処理は、測定システムからパラメータを受信した外部の情報処理装置が実行することにより、測定物15のSVBRDFを再現できる。図27は、光沢写像性の反射モデルを算出する処理のフローチャートである。まず、ステップS3101において、照明方向を示すベクトルωiと観察方向を示すベクトルωoの2等分方向であるハーフベクトルHvを次の式(64)で算出する。
Hv=(ωi+ωo)/|ωi+ωo|・・・(64)
ここで、|ωi+ωo|は、ベクトル(ωi+ωo)の大きさを表す。
次に、ステップS3102において、ハーフベクトルHvの方位角成分φhを次の式(65)で算出する。
φh=arctan(Hv_y/Hv_x)・・・(65)
ただし、Hv_xおよびHv_yは、それぞれ、ベクトルHvのX成分およびY成分である。ステップS3103において、方位角φhに対応する光沢写像性αを次の式(66)で算出する。
α=(αw x αv)/(αv^2 x (cos(φh))^2+αu^2 x (sin(φh))^2)^0.5・・・(66)
上記の式(52)のθgは、ハーフベクトルHvと光学的法線方向を示すベクトルNvの成す角度であり、次の式(67)で与えられる。
θg=arccos(Hv・Nv) ・・・(67)
以上説明したように、反射モデルによれば、任意の照明方向および観察方向において観察される反射光の強度が、本測定装置で測定されるパラメータRd、Rs、φu、αu、αvおよびNvから算出できる。また、複数方向から照明されたときの反射光は、各照明方向の光に関する反射光の足し合わせによって求めることができる。よって、任意の照明条件で観察される反射光が算出できる。
以上説明したように、本実施形態の測定装置によれば、最少17回の撮影画像からSVBRDが取得できる。
[その他の実施形態]
上記の実施形態では、照明装置として、平面または直線上に点光源を配置した例について説明したが、点光源は曲面や曲線上に配置してもかまわない。また、平面や直線上に点光源を配置する場合であっても、当該平面や直線は、測定面に平行でなくてもかまわない。この場合、照明装置の形状の自由度が広くなり、測定装置を小型化することができる。また、照明装置の光源は、モノクロでもよいしRGBカラーでもよい。さらに、マルチバンドカラーまたは分光光源でもよい。RGBカラーやマルチバンドカラー、分光光源の照明装置を使用した場合は、光沢強度を色毎に取得できる。例えば、RGBカラーの照明装置を使用した場合は、R、G、Bの3バンドの光沢強度が取得でき、分光光源の照明装置を使用した場合は、波長毎の光沢強度が取得できる。撮影装置は、モノクロカメラでもよいし、RGBカラーカメラでも良い。さらに、マルチバンドカメラでもよいし、分光カメラでもよい。照明装置の場合と同様に、RGBカラーカメラやマルチバンドカメラ、分光カメラを使用した場合は、光沢強度を色毎に取得できる。また、撮影装置は、CCDやCMOSなどの2次元センサに限らず、ラインセンサを備えたものでもかまわない。レンズもテレセントリックレンズに限らないし、シャインプルーフの原理を満たす位置に配置したレンズでなくてもかまわない。例えば、広角レンズを使用し、光軸が測定面の法線方向と平行になるように設置し、光軸中心から外れた測定面をセンサ面に結像する構成でも構わない。照明用画像は、正弦波パターンに限らない。周期関数であればよい。例えば、三角波でも構わない。また、光学的法線方向を出力する例を説明したが、所定の照明方向から照明したときに、反射光強度が最大となる反射方向を出力する構成でも構わない。また、所定の受光方向で受光するときに、受光する光強度が最大となる照明方向を出力する構成でも構わない。また、方向に関する出力値は、天頂角と方位角であってもよいし、3次元空間のベクトル値であってもよい。この場合、光学的法線方向の2次元分布は、各画素にXvn、Yvn、Zvnの値を格納する画像である。このような画像データは、コンピュータグラフィックスのテクスチャデータである法線マップとして使用される。この場合、例えば、次の式(67)乃至式(69)によって、ベクトルのX成分とY成分の値(−1から1の範囲)をそれぞれ、R信号およびG信号の0から255に対応づけ、Z成分の値(0から1の範囲)をB信号の0から255に対応づける。
R=(Xvn+1)/2 x 255・・・(68)
G=(Yvn+1)/2 x 255・・・(69)
G=Zvn x 255 ・・・(70)
光学的法線方向の2次元分布と光沢強度分布から算出するアピアランスの特徴量は、法線方向分布画像と法線方向密度分布、光輝情報に限らない。例えば、光学的法線方向の天頂角の平均値や、標準偏差や歪度を算出して出力する構成でもよい。また、特徴量算出機能をAdd−Inで追加できるように構成してもよい。この場合、測定装置は、Add−Inモジュールを登録および削除する機能と、このモジュールに光学的法線方向の2次元分布および光沢強度分布のデータを出力する機能と、このモジュールが算出した特徴量を入力する機能を備える。また、Add−Inで追加される特徴量算出モジュールは、光学的法線方向の2次元分布および光沢強度分布のデータに基づいて、1つまたは複数の値からなる特徴量を算出する機能を備える。また、測定装置は、測定結果や処理の中間データをネットワークI/Fを介して、インターネット上のサーバに登録するように構成してもよい。
また本発明は、上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、システム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路によっても実現可能である。