JP2021021111A - 防食剤、防食端子付き電線、防食剤の製造方法、および防食端子付き電線の製造方法 - Google Patents

防食剤、防食端子付き電線、防食剤の製造方法、および防食端子付き電線の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】酸性リン酸エステルを含有する粘稠性の防食剤として、異物の混入による防食性の低下を抑制することができる防食剤、および異物の混入による防食性の低下を抑制することができる防食剤を用いた防食端子付き電線を提供する。また、そのような防食剤および防食端子付き電線の製造方法を提供する。【解決手段】基油と、前記基油の粘稠性を向上させる増稠剤とから構成される粘稠性物質と、下記の一般式1および一般式2で表される化合物の1種または2種以上より構成される酸性リン酸エステルと金属との組成物と、固形物と、を含み、固形物として、端縁の一箇所と他の箇所とを結ぶ直線のうち最長の直線の長さが、0.4mm未満のもののみを含有する、防食剤とする。P(=O)(−OR1)(−OH)2(1)P(=O)(−OR1)2(−OH) (2)ただし、R1は炭素数4以上30以下の炭化水素基である。【選択図】図2

Description

本開示は、防食剤、防食端子付き電線、防食剤の製造方法、および防食端子付き電線の製造方法に関する。
端子を電線に接続した端子付き電線において、防食等を目的として、端子と電線の間の電気接続部を、表面保護剤組成物で被覆する場合がある。その種の表面保護組成物の一例として、特許文献1に開示されるように、炭化水素鎖を有する酸性リン酸エステルと金属との組成物を基油に添加したものが知られている。ここで、酸性リン酸エステルは、下記の一般式aおよび一般式bで表される化合物の1種または2種以上を含んでいる。
P(=O)(−OR)(−OH) (a)
P(=O)(−OR(−OH) (b)
ここで、Rは炭素数4〜30の炭化水素基である。
さらに、上記のような酸性リン酸エステルを含有する表面保護剤組成物において、特許文献2に開示されるように、アミド化合物等から構成される増稠剤を基油に添加して、粘稠性物質を形成する場合がある。表面保護剤組成物が粘稠性物質を含有することで、高温条件でも高い粘度が維持されて流出が抑えられ、このことにより、高温に晒されても金属表面を安定して保護することができる。
特開2015−151614号公報 特開2017−179040号公報
防食を目的として、端子付き電線の電気接続部を、特許文献1や特許文献2に記載されるような酸性リン酸エステルを含有する防食剤(表面保護剤組成物)で被覆する場合に、防食剤中に固形の異物が混入することがあれば、端子付き電線の所定の箇所を被覆して形成した防食剤の膜において、その異物が存在する箇所から、水や電解質が侵入し、防食性が低下してしまう場合がある。膜中の異物は、剥離等、膜の物理的損傷の起点ともなりやすい。酸性リン酸エステルを含有する防食剤は、青色不透明である場合が多く、その色のために、防食剤中、また防食剤を用いて形成された膜中に異物が混入していても、視認しにくく、異物が混入した個体を目視検査によって排除することも難しい。さらに、端子付き電線の所定箇所への防食剤の配置を、ジェットディスペンサ等、細孔から防食剤を供給する形態の器具を用いて行う際に、異物によって細孔の閉塞が起こると、防食剤の均一な供給が妨げられる場合がある。
これらの理由から、防食剤に異物が混入することがあれば、高い防食性を示す膜の形成を妨げる要因となりうる。特に、特許文献2に記載されるように、防食剤が粘稠性物質を含有する場合には、防食剤の粘稠性により、異物を防食剤から分離することが、困難となる。
そこで、酸性リン酸エステルを含有する粘稠性の防食剤として、異物の混入による防食性の低下を抑制することができる防食剤、および異物の混入による防食性の低下を抑制することができる防食剤を用いた防食端子付き電線を提供すること、また、そのような防食剤および防食端子付き電線の製造方法を提供することを課題とする。
本開示の防食剤は、基油と、前記基油の粘稠性を向上させる増稠剤とから構成される粘稠性物質と、下記の一般式1および一般式2で表される化合物の1種または2種以上より構成される酸性リン酸エステルと金属との組成物と、固形物と、を含み、
固形物として、端縁の一箇所と他の箇所とを結ぶ直線のうち最長の直線の長さが、0.4mm未満のもののみを含有する。
P(=O)(−OR)(−OH) (1)
P(=O)(−OR(−OH) (2)
ただし、Rは炭素数4以上30以下の炭化水素基である。
本開示の防食端子付き電線は、導体と、前記導体の外周を被覆する絶縁被覆とを有する電線と、電気接続部において前記導体と電気的に接続された端子と、前記防食剤により、前記電気接続部を被覆する防食部と、を有する。
本開示の防食剤の製造方法は、基油と、前記基油の粘稠性を向上させる増稠剤とから構成される粘稠性物質と、下記の一般式1および一般式2で表される化合物の1種または2種以上より構成される酸性リン酸エステルと金属との組成物と、を含む防食剤原料を、目開きが0.15mmよりも大きく、0.4mmよりも小さいメッシュフィルタに通す濾過工程を含む。
P(=O)(−OR)(−OH) (1)
P(=O)(−OR(−OH) (2)
ただし、Rは炭素数4以上30以下の炭化水素基である。
本開示の防食端子付き電線の製造方法は、導体と、前記導体の外周を被覆する絶縁被覆とを有する電線と、電気接続部において前記導体と電気的に接続された端子と、を有する端子付き電線の前記電気接続部を被覆して、前記製造方法によって製造された防食剤を配置する防食工程を有する。
本開示にかかる防食剤、防食端子付き電線、防食剤の製造方法、および防食端子付き電線の製造方法は、異物の混入による防食性の低下を抑制することができる。
図1は、本開示の一実施形態にかかる防食剤の製造方法に用いる製造装置の一例を示す側面図である。図中の円内には、製造装置を構成するメッシュフィルタの拡大図を示している。 図2は、本開示の一実施形態にかかる防食端子付き電線の概略を示す斜視図である。 図3は、上記防食端子付き電線の概略を示す平面図である。 図4は、メッシュフィルタの目開きと防食剤の粘度との関係、およびメッシュフィルタの目詰まりの有無についての実験結果を示す図である。 図5Aは、目開き0.20mmのメッシュフィルタで捕捉された繊維状物質の繊維長さと繊維径を示す図である。図5Bは、目開き0.20mmのメッシュフィルタで捕捉された薄片状物質の縦寸法および横寸法を示す図である。
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施形態を列記して説明する。
本開示にかかる防食剤は、基油と、前記基油の粘稠性を向上させる増稠剤とから構成される粘稠性物質と、下記の一般式1および一般式2で表される化合物の1種または2種以上より構成される酸性リン酸エステルと金属との組成物と、固形物と、を含み、固形物として、端縁の一箇所と他の箇所とを結ぶ直線のうち最長の直線の長さが、0.4mm未満のもののみを含有する。
P(=O)(−OR)(−OH) (1)
P(=O)(−OR(−OH) (2)
ただし、Rは炭素数4以上30以下の炭化水素基である。
本開示にかかる防食剤においては、固形物として、端縁の一箇所と他の箇所とを結ぶ直線のうち最長の直線の長さが、0.4mm未満のものしか含有されていない。つまり、その寸法よりも粗大な固形の異物の含有が、排除されている。よって、金属表面等の被覆対象面に防食剤を配置し、膜状とした際に、異物の混入を原因とする、膜内への水や電解質の侵入や、剥離等の損傷が起こりにくく、高い防食性を発揮することができる。また、防食剤が粘稠性物質を含有することにより、異物の分離が行いにくくなっているが、上記寸法未満の微小な固形物の含有が許容されることにより、粘稠性を保ったまま、異物の混入による防食性の低下が起こりにくい防食剤とすることができる。
ここで、前記防食剤は、固形物として、直径が20μm未満、長さが0.4mm未満の繊維状物質のみを含有するとよい。防食剤には、製造工程において、拭き取り用紙等に由来する繊維や、作業者に由来する人毛等、繊維状物質が混入しやすいが、防食剤に含有される固形物が、上記寸法未満の繊維状物質に限定されていることにより、防食剤を用いて形成される膜において、特に高い防食性が発揮されやすくなる。
また、前記増稠剤は、アミド化合物を含むとよい。アミド化合物は、基油の粘稠性を効果的に向上させることができ、防食剤の流出を抑制する。よって、高い防食性が防食剤によって発揮される状態が、維持されやすくなる。さらに、高温になる条件でも、粘稠性を維持し、防食剤を流出しにくい状態に保つことができる。
そして、前記防食剤は、直径100μm以上の気泡を含有しないものであるとよい。すると、防食剤の膜に気泡が含まれることによる防食性の低下を抑制することができ、粗大な異物の混入が排除されていることの効果と合わせて、高い防食性を発揮する防食剤となる。
本開示にかかる防食端子付き電線は、導体と、前記導体の外周を被覆する絶縁被覆とを有する電線と、電気接続部において前記導体と電気的に接続された端子と、前記防食剤により、前記電気接続部を被覆する防食部と、を有する。
端子付き電線の電気接続部が、上記の防食剤によって被覆されていることにより、電気接続部に、外部から、水や電解質が侵入しにくくなり、電気接続部において、腐食が発生しにくくなる。防食剤に含有される固形物の大きさが制限されていることにより、電気接続部において、防食剤が高い防食性を発揮することができる。
ここで、前記導体は、アルミニウムを含み、前記端子は、銅を含むとよい。この場合には、電気接続部において、アルミニウムと銅が接触し、異種金属界面が形成されるが、上記の高い防食性を有する防食剤によって、そのような電気接続部を被覆しておくことで、異種金属間腐食を効果的に抑制することができる。
また、前記防食部において、前記防食剤は、厚さ1mm以下の膜を形成しているとよい。防食剤がそのように薄い膜を形成している場合でも、防食剤の成分組成の効果により、また、含有される固形物の大きさが制限されていることにより、防食剤が高い防食性を発揮することができる。
本開示にかかる防食剤の製造方法は、基油と、前記基油の粘稠性を向上させる増稠剤とから構成される粘稠性物質と、下記の一般式1および一般式2で表される化合物の1種または2種以上より構成される酸性リン酸エステルと金属との組成物と、を含む防食剤原料を、目開きが0.15mmよりも大きく、0.4mmよりも小さいメッシュフィルタに通す濾過工程を含む。
P(=O)(−OR)(−OH) (1)
P(=O)(−OR(−OH) (2)
ただし、Rは炭素数4以上30以下の炭化水素基である。
本開示にかかる防食剤の製造方法においては、防食剤原料をメッシュフィルタに通す濾過工程を実施することにより、製造される防食剤における固形異物の混入を低減し、異物混入による防食性の低下を、抑制することができる。特に、用いるメッシュフィルタの目開きを0.4mmよりも小さくしておくことで、防食性の低下を引き起こしやすい粗大な異物を、効果的に除去することができる。一方、メッシュフィルタの目開きを0.15mmよりも大きくしておくことで、防食剤が粘稠性物質を含有していても、ゲル状物質等、粘稠性物質に由来する成分のメッシュフィルタによる捕捉等を避けながら、防食剤を効率的にメッシュフィルタに通過させ、異物の含有の低減を達成することができる。
ここで、前記メッシュフィルタ、および前記防食剤原料が接触する装置部材を、室温より高く、55℃より低い温度に維持するとよい。メッシュフィルタを通過する防食剤原料が、室温よりも高い温度に加熱されることで、防食剤原料の流動性が向上し、メッシュフィルタを通過させやすくなる。一方、防食剤原料の温度が、55℃よりも低く抑えられることにより、増稠剤の変質等、高温による防食剤への影響を、抑制しやすくなる。
また、前記防食剤の製造方法は、前記濾過工程の後に、外部の環境に接触させることなく、前記防食剤を充填容器に充填する充填工程をさらに有するとよい。すると、濾過工程によって異物の含有を低減した防食剤に、外部の環境から異物を混入させることなく、高い防食性を発揮する状態で、防食剤を使用に供することができる。
そして、前記防食剤の製造方法は、前記濾過工程の前に、前記防食剤原料に対して、室温よりも高く55℃よりも低い温度に加熱し、流動性を向上させた状態で、脱泡を行う脱泡工程をさらに有するとよい。脱泡工程を実施することで、製造される防食剤中に、大きな気泡が含有されるのを、抑制することができる。その結果、濾過工程での異物の除去の効果と合わせて、防食剤への異物および気泡の混入による防食性の低下を、効果的に抑制することができる。
本開示にかかる防食端子付き電線の製造方法は、導体と、前記導体の外周を被覆する絶縁被覆とを有する電線と、電気接続部において前記導体と電気的に接続された端子と、を有する端子付き電線の前記電気接続部を被覆して、前記製造方法によって製造された防食剤を配置する防食工程を有する。上記のように、所定の目開きを有するメッシュフィルタを用いた濾過工程を経て製造された防食剤は、異物の混入が低減され、高い防食性を示すものとなっている。そのような防食剤で、端子付き電線の電気接続部を被覆することで、電気接続部への水や電解質の侵入を効果的に抑制し、高い防食性を発揮させることができる。
ここで、前記防食工程における前記防食剤の配置は、ジェットディスペンサを用いて行うとよい。ジェットディスペンサを用いることで、防食剤を、所定の位置に、膜状で均一性高く配置しやすくなる。ジェットディスペンサにおいては、細孔から防食剤が吐出されるが、防食剤中への異物の混入が低減されていることにより、異物による細孔の閉塞、およびそれに伴う防食工程の効率低下を、抑制することができる。
[本開示の実施形態の詳細]
以下に、本開示の実施形態にかかる防食剤、防食端子付き電線、防食剤の製造方法、および防食端子付き電線の製造方法について、図面を用いて詳細に説明する。本開示の実施形態にかかる防食剤は、所定の成分を含有し、固形物として、所定の寸法未満のもののみを含有する。本開示の実施形態にかかる防食端子付き電線は、そのような防食剤で、端子と電線の間の電気接続部を被覆したものである。本開示の実施形態にかかる防食剤および防食端子付き電線の製造方法は、上記実施形態にかかる防食剤および防食端子付き電線を、好適に製造することができる方法である。
<防食剤の概略>
まず、本開示の一実施形態にかかる防食剤の概略について説明する。本開示の一実施形態にかかる防食剤は、以下の成分を含有している。
・基油と増稠剤とから構成される粘稠性物質。
・以下の一般式1および一般式2で表される化合物の1種または2種以上より構成される酸性リン酸エステルと金属との組成物。
P(=O)(−OR)(−OH) (1)
P(=O)(−OR(−OH) (2)
ここで、Rは炭素数4以上30以下の炭化水素基である。また、増稠剤は、基油の粘稠性を向上させる物質である。後に詳しく説明するように、増稠剤としては、アミド化合物等、基油を常温でゲル化させるゲル化剤を挙げることができる。
ここで、防食剤としては、次に述べる固形物の含有を除いて、特許文献2に開示されたものを、好適に適用することができる。防食剤の組成および特性の詳細については、後に詳しく説明する。
本実施形態にかかる防食剤は、上記各成分に加え、固形物を含有している。防食剤に含有される固形物は、最長部寸法が0.4mm未満のもののみとなっている。ここで、最長部寸法とは、固形物の端縁の一箇所と、端縁の他の箇所とを結ぶ直線のうち、最長の直線の長さを指す。固形物が繊維状物質である場合、最長部寸法は、概ね、その繊維状物質の長さ、つまり長手方向に沿った寸法となる。固形物が薄片状物質である場合には、最長部寸法は、概ね、その薄片状物質の面を横切る直線のうち、最長の直線の長さとなる。本実施形態にかかる防食剤は、最長部寸法が0.4mm未満の固形物は含有するが、最長部寸法が0.4mm以上の固形物は含有しない。好ましくは、防食剤に含有される固形物の最長寸法は、0.3mm未満、さらには0.2mm未満であるとよい。防食剤に含有される固形物は、微細であるほど好ましく、その寸法に特に下限は設けられないが、本実施形態にかかる防食剤は、光学顕微鏡の空間分解能以上の寸法の固形物を含有するものである。なお、本明細書において、固形物とは、防食剤の成分である粘稠性物質(ゲル状物質)よりも高い硬度を有する固体物質を指す。
防食剤に含有される固形物は、最長部寸法が0.4mm未満のものであれば、種類および具体的な形状を特に限定されるものではなく、防食剤に意図的に添加されたものであっても、不可避的に防食剤中に混入するものであってもよい。意図的に防食剤に添加される固形物としては、顔料、フィラー等を例示することができる。しかし、本実施形態において、防食剤は、意図的に固形物を添加されたものではなく、固形物として、不可避的に混入したもの(異物)のみを含有することが好ましい。
不可避的に防食剤に含有されうる典型的な固形物の一例として、繊維状物質を挙げることができる。繊維状物質は、断面寸法よりも長手方向の寸法が長くなった、細長い物質であれば、その種類を特に限定されるものではない。繊維状との概念には、糸状あるいは紐状等と認識されうるものも含む。繊維状物質としては、繊維の他、多様な天然物および人工物が想定される。防食剤に異物として混入されやすい繊維状物質としては、防食剤の調製装置の拭き取り等に用いられる拭き取り用紙に由来する繊維、防食剤の調製作業を行う作業員に由来する人毛等を挙げることができる。防食剤に含有される固形物が繊維状物質である場合に、その繊維状物質は、繊維径(端面または断面の直径)が20μm未満、かつ繊維長さ(長手方向に沿った寸法)が0.4mm未満であることが好ましい。特に、防食剤に含有される固形物が、繊維径が20μm未満、かつ繊維長さが0.4mm未満の繊維状物質のみであることが好ましい。繊維径は、さらに好ましくは、15μm未満であるとよい。また、繊維長さは、さらに好ましくは、0.3mm未満、0.2mm未満であるとよい。
防食剤に不可避的に含有されうる繊維状物質以外の固形物の例として、薄片状物質を挙げることができる。薄片状物質は、面状の部位を有し、その面状の部位を横切る寸法よりも厚さが小さい物質であれば、その種類を特に限定されるものではなく、多様な天然物および人工物が想定される。防食剤に異物として混入されやすい薄片状物質としては、防食剤の原料を収容していた容器から剥落した塗料片、大気中から混入した塵埃、原料中の反応残渣等を挙げることができる。防食剤に含有される固形物が薄片状物質である場合に、面状の部位を円形に近似した際の円の直径が、0.2mm未満であること、あるいは面状の部位を長方形に近似した際の縦寸法および横寸法が、いずれも0.2mm未満であることが好ましい。特に、防食剤に薄片状物質が含有される場合に、含有される薄片状物質が、それらの寸法未満のもののみであることが好ましい。薄片状物質の面状部を近似した円の直径および縦寸法、横寸法は、さらに好ましくは、0.1mm未満であるとよい。
さらに、防食剤は、直径100μm以上の気泡を含有しないことが好ましい。気泡の直径は、気泡を球体に近似した際の直径として、評価することができる。
本実施形態にかかる防食剤は、特定の酸性リン酸エステルと金属との組成物と、基油と増稠剤より構成される粘稠性物質とを含有することにより、金属表面等の被覆対象面に膜状等で配置することで、被覆対象面に密着して被覆対象面を被覆し、水(または電解質;以下においても同様)が被覆対象面に接触して腐食を引き起こすのを、抑制することができる。ここで、防食剤が、特定の酸性リン酸エステルと金属との組成物を含有することにより、金属表面に対して、高い吸着性および密着性を得ることができる。また、防食剤が、ゲル状等の粘稠性物質を含有することにより、防食剤の粘度が高い状態が維持されやすく、被覆対象面から防食剤が流出しにくい。よって、本実施形態にかかる防食剤は、被覆対象面において、高い防食性を発揮する状態を、安定に維持することができる。
一般に、防食剤に異物が混入していると、防食剤の防食性が低下してしまう可能性がある。具体的には、膜状等に配置された防食剤の中に、異物が混入していると、その異物の箇所で、膜の連続性が分断されることになり、異物の存在する箇所から、水等の腐食因子が侵入する可能性がある。また、防食剤の膜が、外部の物体と接触した際に、異物がその物体に対して、付着や引掛りを起こすことで、異物が起点となって、防食剤の膜に、剥離等の物理的損傷が発生し、十分な防食性を維持できなくなる可能性がある。さらに、金属表面等の被覆対象面への防食剤の配置に際し、ジェットディスペンサ等、細孔を介して防食剤を供給する形態の器具を用いる場合には、異物がその細孔を閉塞することで、防食剤を均一性高く供給するのを、妨げる可能性がある。
しかし、本実施形態にかかる防食剤は、固形物として、最長部寸法が0.4mm未満のものしか含有していない。防食剤に含有される固形物が、そのように微小なものに限定されていることにより、固形物が防食剤の膜の連続性を損ないにくくなっている。また、防食剤の膜において、固形物が、膜の面に対して、突出や隆起を起こしにくい。その結果、防食剤の膜に固形物が混入していても、腐食因子の侵入や膜の物理的損傷による防食性の低下の原因となりにくい。また、固形物が、ジェットディスペンサ等の器具において、細孔を閉塞させる要因となりにくく、高い防食性を発揮する均一性の高い防食剤の膜を、効率的に形成することができる。このように、防食剤に含有される固形物の寸法が制限されることにより、固形の異物が防食剤中に混入していても、防食性の低下が起こりにくくなる。防食剤に含有される固形物が、繊維径20μm未満、繊維長さ0.4mm未満の繊維状物質のみであれば、また、薄片状物質が含有される場合でも、その面を円に近似した時の直径または長方形に近似した際の縦横の寸法が0.2mm未満であれば、特に効果的に、防食性の低下を抑制することができる。
さらに、本実施形態にかかる防食剤は、特定の酸性リン酸エステルを含有することで、青色を呈しており、また、不透明となりやすい。防食剤を膜状にしても、青色不透明な膜となるため、次に説明する防食端子付き電線等、膜状等の形態で防食剤を被覆対象面に配置した製品において、防食性に影響を与えそうな異物が混入していても、目視検査によってその異物を視認することは困難である。そこで、膜の形成を行う前の防食剤に対して、あらかじめ、含有される固形物の大きさを制限しておくことで、目視検査による異物の識別を経ることなく、高い防食性を担保することができる。本実施形態にかかる防食剤においては、上記のように、固形物の最長部寸法が0.4mm未満となっていれば、固形物の含有量は特に制限されるものではないが、高い防食性を担保しやすくする観点から、固形物の含有量は、防食剤全体に対して、0.1質量%以下、さらには0.01質量%以下となっていることが好ましい。
本実施形態にかかる防食剤は、粘稠性物質を含有することにより、高い粘稠性を有しているため、粘稠性の低い防食剤に固形物が含有される時と比較して、固形物が、ゲル状組織等、粘稠性物質の組織に安定に保持され、固形物の除去が難しくなる。さらに、フィルタを用いた濾過等によって、その固形物を除去しようとしても、ゲル状物質の捕捉等により、粘稠性を有する防食剤を、フィルタに円滑に通過させにくい場合がある。また、ゲル状物質等の捕捉により、フィルタの通過を経て、防食剤の成分組成や、粘度等の特性が、変化する可能性がある。そこで、上記のように、防食剤の防食性に影響を与えない微小なものであれば、防食剤への固形物の含有を許容することで、不可避的に混入される固形異物の除去に、過剰な労力や費用を投入することや、濾過等、固形物の除去のための工程で、防食剤を変性させてしまうことを、回避しやすい。
さらに、本実施形態にかかる防食剤においては、含有される固形物を微小なものに限定しておくことに加え、直径100μm以上の気泡を含有しないようにしておくことで、防食剤の防食性を、さらに効果的に発揮させることができる。本実施形態にかかる防食剤は、粘稠性物質を含有することにより、膜状等で被覆対象面に配置した状態でも、気泡が保持されやすい。そのように気泡が形成された箇所は、水等の腐食因子の侵入経路となりやすいが、直径100μm未満のものであれば、気泡が存在しても、防食性を著しく低下させるものとはならない。
本防食剤の粘度(せん断粘度)は、防食剤の被覆対象面への配置や、次に説明する製造方法における濾過工程を簡便に行うのに十分な流動性を確保する観点から、25℃において、300Pa・s以下であることが好ましい。一方、防食剤の流出を抑え、十分な防食性を発揮しやすくする等の観点から、防食剤の粘度は、25℃で、30Pa・s以上であることが好ましい。防食剤の粘度は、JIS K7117−2に準じ、円錐−平板型回転粘度計を用いて測定することができる。回転粘度計の回転数としては、0.5rpmを例示することができる。
本実施形態にかかる防食剤は、適用対象を限定されるものではなく、金属表面等、防食を意図する被覆対象面に、膜状等の形態で配置すればよい。後に説明する防食端子付き電線は、本防食剤を用いて防食が施された物品の一例となる。
<防食剤の製造方法>
次に、本開示の一実施形態にかかる防食剤の製造方法について説明する。
本実施形態にかかる製造方法においては、防食剤原料を所定の目開きを有するメッシュフィルタに通す濾過工程を実行する。また、任意に、濾過工程の前に、防食剤原料に対して、脱泡工程を実行する。さらに、濾過工程の後に、得られた防食剤に対して、充填工程を実行してもよい。本製造工程は、図1に例示した製造装置Aを用いて、好適に実行することができる。
(防食剤原料)
まず、本製造方法において防食剤を製造するための防食剤原料について説明する。防食剤原料は、以下の成分を含有している。
・基油と増稠剤とから構成される粘稠性物質。
・以下の一般式1および一般式2で表される化合物の1種または2種以上より構成される酸性リン酸エステルと金属との組成物。
P(=O)(−OR)(−OH) (1)
P(=O)(−OR(−OH) (2)
ここで、Rは炭素数4以上30以下の炭化水素基である。また、増稠剤とは、基油の粘稠性を向上させる物質である。後に詳しく説明するように、増稠剤としては、アミド化合物等、基油を常温でゲル化させるものを挙げることができる。
防食剤原料はさらに、固形物を含有していてもよい。固形物の形状や大きさ、種類は、特に限定されるものではない。ここで、防食剤原料としては、固形物の含有を除いて、特許文献2に開示されたものを、好適に適用することができる。本製造方法においては、後に説明するように、濾過工程での粗大な固形物の除去以外には、濾過工程による粘稠性物質の含有量の減少等、成分組成の変化が実質的に起こらないので、防食剤原料は、含有される固形物の寸法の制限を除いて、製造すべき防食剤に所望される成分組成に従って、調製しておけばよい。
(製造装置)
図1に示す製造装置の構成について、簡単に説明する。製造装置Aは、原料容器A1と、配管A2と、フィルタ部A3と、充填部A4と、を有している。
原料容器A1は、防食剤原料を収容可能な容器である。原料容器A1は、真空攪拌機として構成されており、ポンプ(不図示)により、内部の空間を真空排気することができるとともに、内部の空間に空気を送り込み、加圧することができる。また、原料容器A1は、攪拌装置を内部に備え、収容された防食剤原料を撹拌することができる。さらに、原料容器A1にはヒータ(不図示)が設けられており、所定の温度に原料容器内A1を加熱することができる。
原料容器A1の底部からは、配管A2が延びており、配管A2の中空部が、原料容器A1の内部空間と連通している。配管A2の中途部には、フィルタ部A3が設けられている。フィルタ部A3は、配管A2の中空部と連通した空間を有するフィルタ収容部A31の中に、パンチングプレートA32と、メッシュフィルタA33とを、相互に積層して有している。パンチングプレートA32およびメッシュフィルタA33は、配管A2における流体の流動方向に交差するように、面を立てて配置されている。図示した形態では、流体の流れに対して上流側にメッシュフィルタA33が、下流側にパンチングプレートA32が配置されている。配管A2には、フィルタ収容部A31を含め、全域に、ヒータ(不図示)が設けられており、所定の温度に配管A2を加熱することができる。
パンチングプレートA32は、金属板に、メッシュフィルタA33の開口よりも径の大きな貫通孔を多数形成したものであり、メッシュフィルタA33を支持する支持体として機能する。メッシュフィルタA33は、ステンレス鋼に代表される金属より構成されるメッシュ体であり、多数の金属細線A34が、縦横に配置されて網状に織られ、網目として、微細な貫通孔を多数有している。メッシュフィルタA33の目開き(網目の1辺の寸法;図1中拡大図の寸法L)は、0.15mmよりも大きく、かつ0.4mmよりも小さくなっている。
フィルタ部A3の上流側および下流側には、それぞれ、圧力計A5,A5を設けておくことが好ましい。圧力計A5,A5により、フィルタ部A3を通過する前後の流体の圧力を計測し、比較することで、メッシュフィルタA33において閉塞が起こっていないかを、監視することができる。例えば、所定の基準値よりもフィルタ部A3の前後における圧力差が大きくなっている場合には、閉塞が起こっていると判断し、メッシュフィルタA33を交換または洗浄するようにすればよい。
配管A2の末端には、充填部A4が設けられている。充填部A4は、取り付け部A41と、充填レベルセンサA42とを有している。取り付け部A41は、シリンジ(充填容器)A6を取り付け、シリンジA6内の空間と配管A2の中空部内を連通させた状態とし、配管A2内を上流から流れてきた流体を、シリンジA6の中に充填することができる。充填レベルセンサA42は、シリンジA6に充填された流体の量を計測することができる。
(製造工程)
以下、本製造方法における各工程について、順に説明する。
(1)脱泡工程
本製造方法においては、最初に、脱泡工程を実施し、防食剤原料に対して脱泡を行う。脱泡工程を開始するに当たり、原料容器A1の中に、防食剤原料を充填する。防食剤原料としては、本製造装置Aの外部で、各含有成分を所定量で配合し、混合したものを、原料容器A1に投入しても、各成分を原料容器A1に投入し、原料容器A1内で混合することで調製してもよい。
原料容器A1内に防食剤原料を投入すると、原料容器A1を密閉し、防食剤原料を撹拌しながら、原料容器A1内を真空排気する。真空排気により、防食剤原料内に含有される気泡の一部または全部を、除去することができる。この脱泡工程を実施することで、製造される防食剤における気泡の含有を低減することができ、例えば、製造される防食剤を、直径100μm以上の気泡を含有しないものとできる。脱泡工程を行う間、原料容器A1内の防食剤原料の温度を、室温より高く、55℃より低い温度に維持し、流動性を高めておくことが望ましい。
(2)濾過工程
脱泡工程が完了すると、真空排気を停止し、一旦、原料容器A1内を大気圧に戻す。その後、原料容器A1内に空気を送り込み、原料容器A1内の防食剤原料に対して、加圧を行う。加圧により、配管A2内を、下流に向けて、防食剤原料が移動する。なお、脱泡工程において、真空排気を行い、防食原料中の気泡を十分に除去しておくことにより、濾過工程において、空気による加圧を行っても、防食剤原料において、気泡の含有が低減された状態が維持される。濾過工程および次の充填工程を行う間、フィルタ収容部A31を含む配管A2の温度は、室温より高く、55℃より低い温度に維持しておくことが好ましい。
配管A2内を流れる防食剤原料は、フィルタ部A3において、メッシュフィルタA33を通過する。防食剤原料に、メッシュフィルタA33の網目を通過できない固形物が含有されている場合には、防食剤原料がメッシュフィルタA33を通過する際に、そのような固形物がメッシュフィルタA33に捕捉され、製造される防食剤から除去される。
メッシュフィルタA33の目開きが、0.4mmよりも小さくなっていることで、異物等の固形物を、十分に除去することができ、高い防食性を有する防食剤を製造することができる。例えば、最長部寸法が0.4mm以上の固形物を、効果的に除去することができる。よって、防食剤原料に、最長部寸法が0.4mm未満のものだけでなく、最長部寸法が0.4mm以上のものが含有されている場合でも、濾過工程を経ることで、固形物として最長部寸法が0.4mm未満のものしか含有しない、上記で説明した本実施形態にかかる防食剤を、製造することができる。ただし、本製造方法によって製造される防食剤は、そのように、最長部寸法が0.4mm未満の固形物のみを含有するものに限られず、メッシュフィルタA33によって、含有される固形物の最長部寸法や含有量が、防食剤原料に比べて低減されているのであれば、固形物を実質的に含有しないものや、それよりも大きな固形物を含有するものであってもよい。さらに固形物の除去を効果的に行うためには、メッシュフィルタA33の目開きは、0.30mmよりも小さくなっているとよい。
一方、メッシュフィルタA33の目開きが、0.15mmよりも大きくなっていることにより、メッシュフィルタA33を通過する際に、防食剤に変性が発生しにくい。具体的には、防食剤原料に含有される粘稠性物質またはその構成成分が、メッシュフィルタA33の網目に捕捉され、メッシュフィルタA33を通過して得られる防食剤中において、当初の防食剤原料よりも、粘稠性物質またはその構成成分の含有量が減少する事態が、起こりにくい。例えば、粘稠性物質が、増稠剤として、アミド化合物等、ゲル化剤を含有しており、粘稠性物質がゲル状である場合に、メッシュフィルタA33の目開きが小さすぎると、そのゲルがメッシュフィルタA33の網目に捕捉され、その結果、濾過工程を経て製造される防食剤における粘稠性物質の含有量が少なくなり、防食剤の粘稠性が低下する場合がある。メッシュフィルタA33によるゲルの捕捉は、メッシュフィルタA33での圧損の増大による濾過効率の低下や、メッシュフィルタA33の交換や洗浄の高頻度化にもつながる。そこで、メッシュフィルタA33の目開きを0.15mmよりも大きくしておくことで、メッシュフィルタA33での粘稠性物質の捕捉を低減し、それらの事態を回避することができる。
脱泡工程および濾過工程を実行する間、原料容器A1、およびフィルタ収容部A31を含む配管A2を、室温より高く、55℃より低い温度に加熱しておくことで、メッシュフィルタA33をはじめとし、防食剤原料が接触する装置部材の温度を、室温より高く、55℃より低い温度に維持することができる。防食剤原料を室温以上に加熱することにより、防食剤原料の粘度が下がって流動性が向上し、脱泡工程および濾過工程を効率良く実施することができる。一方、加熱温度を55℃未満に抑えておくことで、加熱に起因する防食剤原料の変性を抑制することができる。例えば、粘稠性物質を構成する増稠剤として、アミド化合物等、炭化水素鎖を有する物質が用いられる場合に、55℃以上の温度において、その炭化水素鎖が結晶化し、粘稠性物質の材料特性が変化してしまう可能性がある。防食剤原料の加熱温度を55℃未満に抑えることで、加熱による大幅な粘度の低下を利用することはできないが、上記のように、メッシュフィルタA33の目開きを0.15mmよりも大きくしておくことで、加熱によって粘度を大幅に下げることができなくても、メッシュフィルタA33を通過する防食剤原料の流速を、確保しやすくなっている。
(3)充填工程
充填部A4の取り付け部A41にシリンジA6を取り付けておけば、メッシュフィルタA33を通過して製造された防食剤を、シリンジA6に充填することができる。充填レベルセンサA42の読み取り値に基づき、所定量の防食剤を、シリンジA6に充填すればよい。
防食剤は、濾過工程を経た後、充填工程を実施される間、また充填工程によってシリンジA6に充填された後の状態において、製造装置Aの外部の環境に接触しない。よって、濾過工程を経た防食剤に、外部環境から、新たな異物が混入することは、実質的に起こらない。よって、濾過工程によって異物を除去された状態が、防食剤を使用する段階まで維持される。つまり、粗大な固形の異物が混入せず、高い防食性を発揮する状態で、防食剤を使用に供することができる。例えば、シリンジA6を、ジェットディスペンサに装着し、防食剤を吐出することで、粗大な異物が混入していない防食剤を、そのまま、所定の箇所に、膜状で配置することができる。
<防食端子付き電線>
次に、本開示の一実施形態にかかる防食端子付き電線について説明する。本実施形態にかかる防食端子付き電線は、端子と電線導体とが電気接続部にて電気的に接続された端子付き電線において、電気接続部を、上記で説明した本開示の一実施形態にかかる防食剤によって被覆し、防食部を形成したものである。
本実施形態にかかる防食端子付き電線の概略を、図2,3に示す。本実施形態にかかる防食端子付き電線1は、電線2と、端子5を有している。電線2は、導体3と、導体3の外周を被覆する絶縁被覆4とを有しており、電気接続部6において、端子5が、導体3に電気的に接続されている。そして、電気接続部6を含む部位を、上で説明した本開示の実施形態にかかる防食剤によって被覆して、防食部7が形成されている。以降、防食端子付き電線1の長手方向に沿って、端子5が配置された側(図2の左側)を前方、電線2が配置された側(図2の右側)を後方とする。
端子5は、嵌合部51を有する。また、嵌合部51の後端側に一体に延設形成されて、第一のバレル部52と第二のバレル部53とを含むバレル部を有する。嵌合部51は、雌型嵌合端子の箱型の嵌合接続部として構成されており、雄型接続端子(不図示)と嵌合可能となっている。
電気接続部6では、電線2の端末の絶縁被覆4が除去され、導体3が露出されている。この導体3が露出された電線2の端末部が、端子5のバレル部52,53の片面側(図2の上面側)にかしめ固定されて、電線2と端子5が接続されている。具体的には、第一のバレル部52が、導体3と端子5を電気的に接続するとともに、端子5に導体3を物理的に固定している。一方、第二のバレル部53が、第一のバレル部52よりも後方において、第一のバレル部52が導体3を固定しているのよりも弱い力で電線2を固定し、端子5への電線2の物理的な固定を補助している。第二のバレル部53は、図示したように、電線2の端末に露出された導体3を後方でかしめ固定していても、あるいは、さらに後方の絶縁被覆4に導体3が被覆された箇所において、電線2を絶縁被覆4の外周からかしめ固定していてもよい。
防食部7は、防食端子付き電線1の長手方向に関して、電線2の端末で露出された導体3の先端3aよりも前方の位置から、絶縁被覆4の先端よりも後方までの領域にわたり、電気接続部6全体および絶縁被覆4の端末側の一部の領域を、防食剤によって被覆して形成されている。防食端子付き電線1の周方向に関して、防食部7は、端子5の位置においては、底面(図2下方の、導体3が固定されたのと反対側の面)を除く各面を被覆している。電線2の位置においては、防食部7は、電線2の全周を被覆している。
端子5、および電線2の導体3や絶縁被覆4を構成する材料は、特に限定されるものではないが、以下に、好適な例を挙げる。端子5の材料(母材の材料)としては、一般的に用いられる黄銅の他、各種銅合金、銅などを挙げることができる。端子5の表面の一部(例えば接点)もしくは全体には、スズ、ニッケル、金またはそれらを含む合金など、各種金属によりめっきが施されていてもよい。
電線2の導体3は、単一の金属線として構成されてもよいが、複数の素線が撚り合わされた撚線として構成されることが好ましい。この場合、撚線は、1種の金属素線より構成されていてもよいし、2種以上の金属素線を含んでいてもよい。また、撚線は、金属素線以外に、有機繊維等を素線として含んでいてもよい。導体3を構成する金属素線の材料としては、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、もしくはこれらの材料に各種めっきが施された材料などを例示することができる。電線2の絶縁被覆4を構成する材料としては、例えば、ゴム、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル(PVC)等のハロゲン系ポリマー、熱可塑性エラストマーなどを挙げることができる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。絶縁被覆4の材料中には、適宜、各種添加剤が添加されていてもよい。添加剤としては、難燃剤、充填剤、着色剤等を挙げることができる。
本実施形態にかかる防食端子付き電線1は、電気接続部6を含む端子5の箇所を、ポリマー材料で構成されるコネクタハウジングに収容して用いることができる。また、複数の防食端子付き電線1を束ねて、ワイヤーハーネスとして用いることもできる。
以上のように、本実施形態にかかる防食端子付き電線1においては、防食部7が、電気接続部6を含む領域を、連続して被覆している。電気接続部6を防食部7で被覆することで、外部から電気接続部6へと水分等の腐食因子が侵入するのを、防食部7によって抑制することができる。上記のように、導体3および端子5は、それぞれ、いかなる金属材料より構成されてもよいが、端子5が、銅または銅合金よりなる母材にスズめっきを施された一般的な端子材料よりなり、導体3がアルミニウムまたはアルミニウム合金よりなる素線を含んでいる場合のように、電気接続部6において異種金属が接触している場合には、水等の腐食因子との接触が生じると、電気接続部6に特に腐食が発生しやすい。しかし、防食部7において、防食剤が電気接続部6を被覆していることで、このような異種金属間腐食も、抑制することができる。
特に、防食部7を構成する防食剤が、特定の酸性リン酸エステルと金属との組成物と、粘稠性物質とを含有していることにより、緻密な防食剤の膜が電気接続部6に密着した防食部7を形成し、電気接続部6を腐食から効果的に保護することができる。また、防食剤が高い粘稠性を有していることにより、防食剤で電気接続部6を被覆した防食部7の構造および特性が安定に維持され、高い防食性が発揮される。
さらに、防食部7を構成する防食剤は、固形物として、最長部寸法が0.4mm未満のものしか含有していない。そのため、防食部7の膜の中に、固形の異物が混入することがあっても、その異物は、最長部寸法が0.4mm未満のものに限られる。よって、異物の混入によって、防食部7の膜の連続性が損なわれにくく、防食部7において、異物が存在する位置から、水等の腐食因子が侵入する事態が起きにくい。また、防食部7の膜の面から、異物が突出または隆起した状態となりにくく、異物が、端子5を収容するコネクタハウジング等、外部の物体と接触することがあっても、異物の位置を起点として、防食部7の膜が剥離等の物理的損傷を受けにくい。それらの結果、防食剤によって発揮される防食性が、維持されやすくなる。
防食部7は、防食剤の膜の厚さに、空間的な分布を有していてもよいが、いずれの箇所においても、その厚さは、1mm以下であることが好ましい。すると、過剰量の防食剤の使用を避けることができるとともに、端子5をコネクタハウジングに収容する際等に、防食部7の存在が妨げとなりにくい。防食部7を構成する防食剤に含有される固形物が、最長部寸法0.4mm未満のものに限定されていることにより、防食剤の膜の厚さが1mm以下であっても、高い防食性を発揮することができる。さらには、防食剤の膜の厚さを、0.5mm以下、また0.1mm以下としても、高い防食性を発揮することができる。一方、十分な防食性を確保しやすくする観点から、防食剤の膜の厚さは、0.3μm以上とすることが好ましく、さらには、電線導体3の先端3aの位置で0.3μm以上、電線2の表面の位置で25μm以上としておくことが好ましい。端子付き電線において防食を施すべき電気接続部6は、平板形状を取るのではなく、凹凸構造や曲面形状を表面に露出させている。よって、表面の各部に、均一な厚さの被膜を形成するのは困難であるが、防食部7を構成する防食剤が、成分組成の効果および固形物含有の制限の効果により、高い防食性を示すため、被膜の厚さの均一性が低くなってしまっても、電気接続部6の各部において、高い防食性能を得ることができる。
<防食端子付き電線の製造方法>
次に、本開示の一実施形態にかかる防食端子付き電線の製造方法について説明する。ここでは、上記で説明した本開示の実施形態にかかる防食剤の製造方法によって製造された防食剤を用いて、上記で説明した本開示の実施形態にかかる防食端子付き電線1を製造する。
防食端子付き電線1を製造するに際し、まず、端子付き電線を準備する。つまり、絶縁被覆4を皮剥した電線2の端末に、端子5のバレル部52,53をかしめて固定する。そして、防食工程を実施する。つまり、電線導体3と端子5の間の圧着部である電気接続部6を含む所定の位置に、上記本開示の実施形態にかかる製造方法によって製造した防食剤を配置し、防食部7を形成する。
防食工程における防食部7の形成は、防食剤の滴下、塗布、吐出、防食剤への浸漬等により、行うことができる。これらの方法により、電気接続部6を含む所定の箇所を防食剤で被覆して、防食部7を形成することができる。上記の方法の中で、防食剤の吐出によって防食部7を形成することが、最も好適である。防食剤が粘稠性物質を含有しており、高い粘度を有しているが、吐出を利用すれば、高粘度の防食剤を、膜状に均質に配置しやすい。防食剤を吐出するための器具としては、ジェットディスペンサを例示することができる。防食剤を充填したシリンジA6をジェットディスペンサに取り付け、ジェットディスペンサの先端の細孔から防食剤を吐出することで、防食部7を形成することができる。
ジェットディスペンサのように、細孔を通過させて防食剤を吐出する場合に、防食剤中に粗大な固形物が含有されていると、その固形物が細孔に捕捉され、細孔を部分的または全体的に閉塞させる原因となる可能性がある。細孔の閉塞が起こると、防食剤を円滑に吐出することができず、また、防食剤を所定の箇所に均一性高く配置することが困難となる。しかし、用いる防食剤が、上記の製造方法により、濾過工程を経て製造されており、粗大な固形物を含有しないものとなっていることにより、固形物による細孔の閉塞が起こりにくい。その結果、防食工程において、防食工程を効率的に進め、高い防食性を有する防食部7を、均一性高く形成することができる。
<防食剤の詳細>
最後に、本開示の一実施形態にかかる防食剤の詳細について説明する。前述のとおり、本実施形態にかかる防食剤(および防食剤の製造に用いる防食剤原料;以下においても同様)としては、固形物の含有を除き、特許文献2に開示されたものを、好適に適用することができる。
上記のように、本開示の実施形態にかかる防食剤は、上記所定の上限未満の寸法を有する固形物に加え、以下の成分を含有している。
・基油と増稠剤とから構成される粘稠性物質。
・以下の一般式1および一般式2で表される化合物の1種または2種以上より構成される酸性リン酸エステルと金属との組成物。
P(=O)(−OR)(−OH) (1)
P(=O)(−OR(−OH) (2)
ここで、Rは炭素数4以上30以下の炭化水素基である。
粘稠性物質を構成する基油としては、通常の潤滑油の基油として用いられるものを、好適に用いることができる。具体的には、任意の鉱油、ワックス異性化油、合成油の1種または2種以上を使用することができる。鉱油としては、具体的には、例えば、原油を常圧蒸留及び減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱瀝、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱蝋、接触脱蝋、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理等の精製処理等を適宜組み合わせて精製したパラフィン系、ナフテン系等の油やノルマルパラフィン等が使用できる。
ワックス異性化油としては、炭化水素油を溶剤脱ろうして得られる石油スラックワックスなどの天然ワックス、あるいは一酸化炭素と水素との混合物を高温高圧で適用な合成触媒と接触させる、いわゆるFischer Tropsch合成方法で生成される合成ワックスなどのワックス原料を水素異性化処理することにより調製されたものが使用できる。ワックス原料としてスラックワックスを使用する場合、スラックワックスは硫黄と窒素を大量に含有しており、これらの元素は基油には不要であるため、必要に応じて水素化処理し、硫黄分、窒素分を削減したワックスを原料として用いることが望ましい。
合成油としては、特に制限はないが、1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマー、エチレン−プロピレンオリゴマー等のポリα−オレフィンまたはその水素化物、イソブテンオリゴマーまたはその水素化物、イソパラフィン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ジエステル(ジトリデシルグルタレート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート等)、ポリオールエステル(トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール−2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等)、ポリオキシアルキレングリコール、ジアルキルジフェニルエーテル、ポリフェニルエーテル等が挙げられる。
基油としては、100℃における動粘度が10mm/s以上、かつ数平均分子量が400以上のものを用いることが好ましい。基油の上記動粘度が高くなることで防食剤の動粘度が上昇するので、高温に曝されたときの流出が抑えられやすくなる。そして、この観点から、上記動粘度は、より好ましくは15mm/s以上、さらに好ましくは20mm/s以上であるとよい。また、膜形状での配置のしやすさなどの観点から、上記動粘度は、より好ましくは150mm/s以下、さらに好ましくは120mm/s以下であるとよい。揮発性および製造時の扱いやすさの観点からは、100℃における動粘度は2〜130mm/sの範囲内であることが好ましい。動粘度は、JIS K2283に準拠して測定できる。
基油の数平均分子量が400以上である場合には、分子量が高く、高温に曝されたときの酸化劣化が抑えられ、その結果、上記動粘度の低下が抑えられやすくなる。高温に曝されたときにも基油の上記動粘度が高く維持されるので、高温に曝されたときの流出が抑えやすい。そして、この観点から、上記数平均分子量は、より好ましくは450以上である。また、膜形状での配置のしやすさなどの観点から、上記数平均分子量は、より好ましくは10000以下、さらに好ましくは8000以下である。
粘稠性物質を構成する増稠剤は、基油の粘稠性を向上させることができるものであれば、特に限定されるものではないが、金属石鹸系、あるいは非石鹸系の増稠剤を用いることができる。金属石鹸系増稠剤に含有される金属としては、カルシウム、ナトリウム、リチウム、アルミニウムなどが挙げられる。非石鹸系としては、ウレア化合物、アミド化合物、ベントナイト化合物などが挙げられる。特に熱が加わる環境下で適用される場合において、流出しにくく耐久性に優れるなどの観点から、非石鹸系の増稠剤を用いることがより好ましい。非石鹸系のうちでも、耐熱性により優れるなどの観点から、ウレア化合物およびアミド化合物、特にアミド化合物が特に好ましい。
アミド化合物をはじめとする増稠剤は、基油中で水素結合による網目構造を形成する。これらの網目構造中に吸着作用や毛細管作用などにより、基油が保持される。その結果、基油に粘稠性が付与され、グリース様の粘稠性物質となる。つまり、増稠剤がゲル化剤として作用し、基油とともに用いることで、常温でゲル状物を形成する。すなわち、増稠剤が、液状の基油を常温でゲル化(半固体状化)する。粘稠性物質は、その粘稠性により、被覆対象面に、常温下あるいは加熱下で、保持される。
増稠剤として用いられうるアミド化合物は、アミド基(−NH−CO−)を1つ以上有する化合物であり、アミド基が1つのモノアミド化合物やアミド基が2つのビスアミド化合物などを好ましく用いることができる。
アミド化合物としては、例えば下記の一般式3,4,5で表される化合物を好ましく用いることができる。これらの化合物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
21−CO−NH−R22 (3)
23−CO−NH−Y31−NH−CO−R24 (4)
25−NH−CO−Y32−CO−NH−R26 (5)
一般式3,4,5において、R21〜R26は、それぞれ個別に炭素数5〜25の飽和または不飽和の鎖状炭化水素基を示し、R22は水素であってもよい。Y31およびY32は、炭素数1〜10のアルキレン基、フェニレン基、または炭素数7〜10のアルキルフェニレン基からなる群より選ばれる炭素数1〜10の2価の炭化水素基を示す。また、一般式3,4,5において、R21〜R26を構成する炭化水素基の水素の一部は水酸基(−OH)で置換されていてもよい。
一般式3で表されるアミド化合物としては、具体的には、ラウリン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘン酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アミド等の飽和脂肪酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド等の不飽和脂肪酸アミド、ステアリルステアリン酸アミド、オレイルオレイン酸アミド、オレイルステアリン酸アミド、ステアリルオレイン酸アミド等の飽和または不飽和の長鎖脂肪酸と長鎖アミンによる置換アミドなどが挙げられる。これらの化合物のうちでは、一般式3においてR21が炭素数12〜20の飽和鎖状炭化水素基でありR22が水素基であるアミド化合物、一般式3においてR21およびR22のそれぞれが炭素数12〜20の飽和鎖状炭化水素基であるアミド化合物など、一般式3においてR21およびR22の少なくとも一方が炭素数12〜20の飽和鎖状炭化水素基であるアミド化合物が好ましい。より具体的には、ステアリルステアリン酸アミドが好ましい。
一般式4で表されるアミド化合物としては、具体的には、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスイソステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、メチレンビスラウリン酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、ヘキサメチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、m−キシリレンビスステアリン酸アミドなどが挙げられる。これらの化合物のうちでは、一般式4においてR23が炭素数12〜20の飽和鎖状炭化水素基でありR24が水素基であるアミド化合物、一般式4においてR23およびR24のそれぞれが炭素数12〜20の飽和鎖状炭化水素基であるアミド化合物など、一般式4においてR23およびR24の少なくとも一方が炭素数12〜20の飽和鎖状炭化水素基であるアミド化合物が好ましい。より具体的には、エチレンビスステアリン酸アミドが好ましい。
一般式5で表されるアミド化合物としては、具体的には、N,N‘−ジステアリルセバシン酸アミドなどが挙げられる。中でも、一般式5においてR25が炭素数12〜20の飽和鎖状炭化水素基でありR26が水素基であるアミド化合物、一般式5においてR25およびR26のそれぞれが炭素数12〜20の飽和鎖状炭化水素基であるアミド化合物など、一般式5においてR25およびR26の少なくとも一方が炭素数12〜20の飽和鎖状炭化水素基であるアミド化合物が好ましい。
アミド化合物をはじめとする増稠剤は、基油と混合した際に常温でゲル状(半固形状)を維持しやすいなどの観点から、融点が20℃以上であることが好ましい。より好ましくは50℃以上、さらに好ましくは80℃以上、特に好ましくは120℃以上である。また、融点が200℃以下であることが好ましい。より好ましくは180℃以下、さらに好ましくは150℃以下である。また、増稠剤の分子量は、100〜1000の範囲内であることが好ましい。より好ましくは150〜800の範囲内である。
増稠剤の含有量は、基油と混合した際に常温でゲル状(半固形状)を維持しやすいなどの観点から、基油100質量部に対し、1質量部以上であることが好ましい。より好ましくは2質量部以上、さらに好ましくは5質量部以上である。また、基油100質量部に対し、70質量部以下であることが好ましい。より好ましくは60質量部以下、さらに好ましくは50質量部以下である。
防食剤に含有される酸性リン酸エステルは、上記の一般式1および一般式2で表される化合物の1種または2種以上より構成される。酸性リン酸エステルに含まれる炭化水素基Rは、炭素数が4以上30以下となっている。
上記式1および式2で表現される特定の酸性リン酸エステルを構成する炭化水素基Rとして、炭素数4以上30以下の炭化水素基を用いることで、長鎖アルキル化合物である基油との相溶性が高くなる。炭化水素基の炭素数が4未満では、特定の酸性リン酸エステルが無機質となる。また、特定の酸性リン酸エステルは結晶化の傾向が強くなる。そうすると、基油との相溶性が悪く、基油と混ざりにくくなる。一方、炭化水素基の炭素数が30超では、特定の酸性リン酸エステルの粘度が高くなりすぎて、流動性が低下しやすい。炭化水素基の炭素数としては、基油との相溶性から、より好ましくは5以上、さらに好ましくは6以上である。また、炭化水素基の炭素数としては、流動性などの観点から、より好ましくは26以下、さらに好ましくは22以下である。炭化水素基Rとしては、アルキル基、シクロアルキル基、アルキル置換シクロアルキル基、アルケニル基、アリール基、アルキル置換アリール基、アリールアルキル基などが挙げられる。
アルキル基としては、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、へプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基などが挙げられる。これらのアルキル基は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。
シクロアルキル基としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロへプチル基などが挙げられる。アルキル置換シクロアルキル基としては、メチルシクロペンチル基、ジメチルシクロペンチル基、メチルエチルシクロペンチル基、ジエチルシクロペンチル基、メチルシクロヘキシル基、ジメチルシクロヘキシル基、メチルエチルシクロヘキシル基、ジエチルシクロヘキシル基、メチルシクロへプチル基、ジメチルシクロへプチル基、メチルエチルシクロへプチル基、ジエチルシクロへプチル基などが挙げられる。アルキル置換シクロアルキル基の置換位置は、特に限定されない。アルキル基は直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。
アルケニル基としては、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、へプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基などが挙げられる。これらのアルケニル基は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。
アリール基としては、フェニル基、ナフチル基などが挙げられる。アルキル置換アリール基としては、トリル基、キシリル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、ペンチルフェニル基、ヘキシルフェニル基、へプチルフェニル基、オクチルフェニル基、ノニルフェニル基、デシルフェニル基、ウンデシルフェニル基、ドデシルフェニル基などが挙げられる。アルキル置換アリール基の置換位置は、特に限定されない。アルキル基は直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。アリールアルキル基としては、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、フェニルブチル基、フェニルペンチル基、フェニルヘキシル基などが挙げられる。アルキル基は直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。
長鎖アルキル化合物である基油との相溶性を特に高める観点から、炭化水素基は、脂肪族炭化水素基、脂環族炭化水素基であることが好ましい。より好ましくは脂肪族炭化水素基である。脂肪族炭化水素基としては、飽和炭化水素からなるアルキル基、不飽和炭化水素からなるアルケニル基が挙げられる。脂肪族炭化水素基であるアルキル基やアルケニル基は、直鎖状、分岐鎖状のいずれの構造のものであってもよい。ただし、アルキル基がn−ブチル基、n−オクチル基などの直鎖状のアルキル基であると、アルキル基同士が配向しやすく、特定の酸性リン酸エステルと金属との組成物の結晶性が高くなり、基油との相溶性が低下する傾向がある。この観点から、炭化水素基がアルキル基である場合には、直鎖状のアルキル基よりも分岐鎖状のアルキル基が好ましい。一方、アルケニル基は、1以上の炭素−炭素二重結合構造を有することで、直鎖状であっても結晶性がそれほど高くない。このため、アルケニル基は、直鎖状であってもよいし、分岐鎖状であってもよい。
具体的な酸性リン酸エステルとしては、ブチルオクチルアシッドホスフェイト、イソミリスチルアシッドホスフェイト、イソセチルアシッドホスフェイト、ヘキシルデシルアシッドホスフェイト、イソステアリルアシッドホスフェイト、イソベヘニルアシッドホスフェイト、オクチルデシルアシッドホスフェイト、オクチルドデシルアシッドホスフェイト、イソブチルアシッドホスフェイト、2−エチルヘキシルアシッドホスフェイト、イソデシルアシッドホスフェイト、ラウリルアシッドホスフェイト、トリデシルアシッドホスフェイト、ステアリルアシッドホスフェイト、オレイルアシッドホスフェイト、ミリスチルアシッドホスフェイト、パルミチルアシッドホスフェイト、ジ−ブチルオクチルアシッドホスフェイト、ジ−イソミリスチルアシッドホスフェイト、ジ−イソセチルアシッドホスフェイト、ジ−ヘキシルデシルアシッドホスフェイト、ジ−イソステアリルアシッドホスフェイト、ジ−イソベヘニルアシッドホスフェイト、ジ−オクチルデシルアシッドホスフェイト、ジ−オクチルドデシルアシッドホスフェイト、ジ−イソブチルアシッドホスフェイト、ジ−2−エチルヘキシルアシッドホスフェイト、ジ−イソデシルアシッドホスフェイト、ジ−トリデシルアシッドホスフェイト、ジ−オレイルアシッドホスフェイト、ジ−ミリスチルアシッドホスフェイト、ジ−パルミチルアシッドホスフェイトなどが挙げられる。これらの化合物のうちでは、非結晶性、基油との分子鎖絡まり性などの観点から、オレイルアシッドホスフェイト、イソステアリルアシッドホスフェイトが好ましい。
特定の酸性リン酸エステルと組成物を構成する金属としては、Li,Na,Kなどのアルカリ金属、Mg,Caなどのアルカリ土類金属、アルミニウム、チタン、亜鉛などが挙げられる。これらの金属は単独で用いられてもよいし、2種以上組み合わされて用いられてもよい。これらの金属は、イオン化傾向が比較的高いため、金属表面に対し、高い吸着性を得る事ができる。また、例えばSnよりもイオン化傾向が高いため、Snに対するイオン結合性に優れたものとすることができる。これらの金属のうちでは、耐水性などの観点から、Ca,Mgがより好ましい。酸性リン酸エステルとの組成物に用いられる金属は、組成物の分子量が大きくなり、耐熱性が向上するなどの観点から、価数が2価以上であることが好ましい。
特定の酸性リン酸エステルと金属との組成物における金属供給源としては、金属水酸化物、金属カルボン酸塩などが挙げられる。カルボン酸の金属塩を構成するカルボン酸としては、サリチル酸、安息香酸、フタル酸などが挙げられる。カルボン酸の金属塩は中性塩であり、塩基性塩や過塩基性塩などであってもよい。これらの金属供給源のうちでは、反応時の溶解性、金属イオンの反応性などの観点から、過塩基性サリチル酸などが好ましい。
また、特定の酸性リン酸エステルと金属との組成物は、分子内にリン酸基(極性基)と非極性基(エステル部位の炭化水素基)を併せ持つものであり、極性基同士、非極性基同士が会合した層状態で存在できるため、非重合体においても、高粘性の液体とすることが可能である。粘性の液体であると、金属表面に配置したときに、ファンデルワールス力による物理吸着を利用して、金属表面により密着させることができる。この粘性は、鎖状の分子鎖同士の絡まりが生じることにより得られるものと推察される。したがって、この観点から、特定の酸性リン酸エステルの結晶化を促進しない方向への設計が好ましい。具体的には、炭化水素基Rの炭素数を4以上30以下とすることに加え、炭化水素基を、1以上の分岐鎖構造または1以上の炭素−炭素二重結合構造を有するものとすることなどが挙げられる。
粘着性の観点からすると、特定の酸性リン酸エステルは、金属との組成物にする必要がある。金属との組成物にしていない特定の酸性リン酸エステルそのものを用いた場合、リン酸基の部分の極性が小さく、極性基であるリン酸基同士の会合性(凝集性)が低く、高粘性の液体にならない。このため、粘着性(粘性)が低い。また、アンモニアもしくはアミンとの組成物にしても、リン酸基の部分の極性が小さく、極性基であるリン酸基同士の会合性(凝集性)が低く、高粘性の液体にならない。このため、粘着性(粘性)が低い。
特定の酸性リン酸エステルと金属との組成物の分子量は、微分散化により、粘稠性物質との相溶性が向上することから、3000以下であることが好ましい。より好ましくは2500以下である。また、極性基の高濃度化による分離抑制などの観点から、80以上であることが好ましい。より好ましくは100以上である。分子量は、計算により求めることができる。
本実施形態にかかる防食剤には、粘稠性物質、特定の酸性リン酸エステルと金属との組成物の他に、防食剤の機能を損なわない範囲で、有機溶剤、安定化剤、腐食防止剤、色素、増粘剤、フィラーなどを添加することができる。
本実施形態にかかる防食剤において、粘稠性物質(A)と特定の酸性リン酸エステルと金属との組成物(B)の質量比は、(A):(B)=50:50〜98:2の範囲内であることが好ましい。その結果、金属との密着性に優れ、金属表面から流れ出にくくなり、金属表面を安定して保護することができる。また、皮膜としての厚みを確保して、優れた防食性能を発揮する。本実施形態にかかる防食剤において、粘稠性物質(A)と組成物(B)の質量比は、皮膜としての厚みを確保する、金属との密着性を確保する観点から、好ましくは(A):(B)=60:40〜95:5の範囲内であり、より好ましくは(A):(B)=70:30〜90:10の範囲内である。
本実施形態にかかる防食剤は、100℃におけるせん断粘度が1000mPa・s以上であることが好ましい。その結果、防食剤の流出が抑えられやすくなる。また、この観点から、上記せん断粘度は、より好ましくは1100mPa・s以上、さらに好ましくは1200mPa・s以上である。一方、上記せん断粘度は、膜形状での配置のしやすさなどを考慮すれば、好ましくは2500mPa・s以下、より好ましくは2000mPa・s以下である。上記せん断粘度は、JIS K7117−2に準じ、温度100℃、せん断速度100/sの際の粘度で表される。粘度は、円錐−平板型回転粘度計を用いて測定することができる。上記せん断粘度は、基油の動粘度、粘稠性物質、特定の酸性リン酸エステルと金属との組成物の含有量、増稠剤の含有量などにより調整することができる。
本実施形態にかかる防食剤は、軟化点150℃以下であることが好ましい。その結果、吐出等により、防食剤を供給する際の加熱による材料劣化が抑えやすくなる。この観点から、より好ましくは軟化点140℃以下、さらに好ましくは軟化点130℃以下である。一方、高温下に曝されても防食性能が維持される観点から、本実施形態にかかる防食剤は、軟化点100℃以上であることが好ましい。より好ましくは110℃以上、さらに好ましくは120℃以上である。本実施形態にかかる防食剤の軟化点は、粘稠性物質における増稠剤の種類(融点)、粘稠性物質の含有量、増稠剤の含有量などで調整可能である。
本実施形態にかかる防食剤は、粘稠性物質と、特定の酸性リン酸エステルと金属との組成物と、必要に応じて添加される成分と、を混合することにより得ることができる。また、基油と、増稠剤と、特定の酸性リン酸エステルと金属との組成物と、必要に応じて添加される成分と、を混合することによっても得ることができる。
本実施形態にかかる防食剤は、粘稠性物質の粘稠性により、吐出等により、膜状で被覆対象面に配置した際に、粘稠性膜が保持される。より融点の高い増稠剤を用いれば、融点以下の高温下で常温と同様の粘稠性が維持され、粘稠性膜がより高度に保持される。特定の酸性リン酸エステルと金属との組成物は、金属吸着成分として作用し、金属表面において粘稠性膜の密着性の向上に貢献する。以上より、防食剤は、高温に曝されても流出が抑えられ、金属表面を安定して保護するものとなる。
以下、実施例を示す。なお、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。以下、特記しない限り、試料の作製および評価は、大気中、室温にて行っている。
[1]メッシュフィルタの目開きと防食剤成分の捕捉
まず、メッシュフィルタの目開きと、メッシュフィルタによる防食剤中の成分の捕捉の関係について調査した。
[試験方法]
(試料の作製)
まず、酸性リン酸エステルと金属との組成物と、粘稠性物質とを混合して、防食剤原料を準備した。酸性リン酸エステルとしては、Rをエチルヘキシル基とした、式1および式2の化合物の混合物を用いた。また、酸性リン酸エステルとの組成物を構成する金属としては、水酸化カルシウムを供給源として用いた。粘稠性物質としては、基油として鉱物油、増稠剤としてアミド化合物を含有するものを用いた。増稠剤の添加量は、基油100質量部に対し、30質量部または50質量部とした。また、基油に対する酸性リン酸エステルと金属との組成物の添加量は、50質量部または70質量部とした。このように、増稠剤および酸性リン酸エステルと金属との組成物の添加量として、それぞれ2とおりの値を採用しており、それらの組み合わせにより、4とおりの防食剤原料を準備した。防食剤原料には、意図的には固形物を添加していないが、防食剤原料の調製は、特段の空気清浄等を行っていない通常の室内環境で行っており、空気中等から、不可避的に固形異物の混入が起こっていたと推定される。
(メッシュフィルタによる濾過)
得られた防食剤原料に対して、図1に示した製造装置を用いて、上記で説明したのと同様に、脱泡工程と濾過工程を実施した。この際、フィルタ部を構成するメッシュフィルタとしては、以下の4通りのものを用いた。
・目開き0.30mm(50メッシュ)
・目開き0.20mm(80メッシュ)
・目開き0.15mm(100メッシュ)
・目開き0.10mm(150メッシュ)
(メッシュフィルタによる防食剤成分の捕捉の評価)
上記各メッシュフィルタを用いて濾過工程を実施した後、メッシュフィルタを目視して、防食剤の構成成分であるゲル状の粘稠性物質が捕捉され、目詰まりが起こっているか否かを評価した。
また、メッシュフィルタの表面近傍に滞留している成分を採取し、その粘度を計測した。粘度の測定は、E型粘度計である円錐−平板型回転粘度計を用いて、JIS K7117−2に準じて行った。測定温度は25℃とし、円錐としては、3°×R7.7mmのものを用い、回転数は0.5rpmとした。
[試験結果]
図4に、増稠剤の添加量を30質量部、酸性リン酸エステルと金属との組成物の添加量を50質量部とした防食剤原料を用いた場合について、各メッシュフィルタを用いた場合に計測された粘度を示す。横軸に表示したメッシュフィルタの目開きごとに、縦軸に粘度を表示している。横軸の右側ほど、メッシュフィルタの目開きが小さくなっている(メッシュ数が大きくなっている)。図中には、合わせて、リファレンスとして、メッシュフィルタを通過させていない防食剤原料の粘度も示している。図の上部にはさらに、各メッシュフィルタを用いた場合について、目視評価によってメッシュフィルタの目詰まりが検出されたか否かも表示している。
図4によると、目開きが0.30mmおよび0.20mmのメッシュフィルタを用いた場合には、目詰まりが起こっていない。また、防食剤の粘度が、リファレンスのメッシュフィルタを通過させていない場合と同様の低い値を示している。一方、目開きが0.15mmおよび0.10mmのメッシュフィルタを用いた場合には、目詰まりが発生してしまっている。また、防食剤の粘度が、リファレンスのメッシュフィルタを通過させていない場合と比較して、上昇している。特に、目開きが0.10mmのメッシュフィルタを用いた場合には、粘度が著しく上昇している。
以上の結果より、目開きが0.15mm以下のメッシュフィルタを用いて濾過を行った場合には、防食剤に含有される粘稠性物質がメッシュフィルタを通過することができずに捕捉され、メッシュフィルタの目詰まりを引き起こすことが分かる。メッシュフィルタの表面近傍に滞留している成分は、そのようにメッシュフィルタを通過できない粘稠性物質を多く含むものであり、リファレンスとしてのメッシュフィルタを通過していない状態と比較して、粘度が上昇していると解釈できる。目開き0.15mm以下の領域の中でも、メッシュフィルタの目開きが小さくなるほど、捕捉される粘稠性物質の割合が多くなり、メッシュフィルタ近傍に滞留する成分の粘度が高くなると言える。
一方、目開きが0.15mmをよりも大きいメッシュフィルタを用いて濾過を行った場合には、防食剤に含有される粘稠性物質も、メッシュフィルタの網目を通過することができ、メッシュフィルタに捕捉されず、メッシュフィルタの目詰まりが起こらない。粘稠性物質の捕捉が起こらないことにより、メッシュフィルタを通過する際に、防食剤の成分組成に変化が生じにくく、防食剤の粘度も変化しない。よって、メッシュフィルタとして、目開きが0.15mmよりも大きいものを用いることが、固形物以外の防食剤成分の捕捉を防ぐ観点から、好ましいと言える。なお、以上の結果は、増稠剤の添加量を30質量部、酸性リン酸エステルと金属との組成物の添加量を50質量部とした防食剤原料を用いた場合についてのものであったが、他の3とおりの防食剤原料を用いた場合についても、各目開きのメッシュフィルタを用いた際の粘度上昇および目詰まりの有無について、上記と同様の結果が確認された。
[2]メッシュフィルタによる固形物の除去
次に、メッシュフィルタを用いた濾過により、防食剤原料中の固形物が除去されるかどうかを確認した。
[試験方法]
上記の試験1において、増稠剤の添加量を30質量部、酸性リン酸エステルと金属との組成物の添加量を50質量部とした防食剤原料に対して、目開き0.20mmのメッシュフィルタを用いた場合について、メッシュフィルタの入口側(上流側)と出口側(下流側)で、それぞれ、防食剤(または防食剤原料)を採取した。そして、採取した試料をトルエンに溶解し、濾紙(GEヘルスケア・ジャパン社製 グレードGF/A ガラス繊維濾紙 粒子保持能:1.6μm)で濾過した。濾紙上に残存した固形物を光学顕微鏡で観察し、各固形物の寸法を計測した。繊維状物質については、繊維長さと繊維径を計測し、薄片状物質については、縦寸法および横寸法を計測した。
[試験結果]
図5Aおよび図5Bに、それぞれ繊維状物質と薄片状物質について、顕微鏡観察で確認された個体の寸法を示している。図5Aでは、縦軸に繊維状物質の繊維長さを、縦軸にその繊維径をとり、図5Bでは、縦軸に薄片状物質の横寸法を、横軸にその縦寸法をとっている。各図においては、メッシュフィルタの入口側で観察された固形物を、濾過前の防食剤原料に含有される固形物として、丸印(○)で表示している。また、メッシュフィルタの出口側で観察された固形物を、メッシュフィルタで除去できなかった固形物として、バツ印(×)で表示している。なお、メッシュフィルタの入口側でも出口側でも、繊維状および薄片状以外の形状を有する固形物は、検出されなかった。
図5Aによると、繊維状物質として、繊維径が20μm未満、かつ繊維長さが0.4mm未満の微小なものが、メッシュフィルタの出口側で観察されており、メッシュフィルタによって除去できていないことが分かる。しかし、繊維径が20μm以上、および繊維長さが0.4mm以上のいずれか少なくとも一方を満たす、粗大な繊維状物質は、メッシュフィルタの入口側では観察されるものの、出口側では観察されていない。つまり、そのような微小な繊維状物質は、メッシュフィルタによって、除去できている。
また、図5Bによると、薄片状物質として、縦寸法および横寸法がともに0.2mm未満の微小なものが、メッシュフィルタの出口側で観察されており、メッシュフィルタによって除去できていないことが分かる。しかし、縦寸法および横寸法の少なくとも一方が0.2mm以上の粗大な薄片状物質は、メッシュフィルタの入口側では観察されるものの、出口側では観察されていない。つまり、そのような微小な薄片状物質は、メッシュフィルタによって、除去できている。
以上より、目開き0.20mmのメッシュフィルタにより、繊維径20μm以上または繊維長さ0.4mm以上の繊維状物質や、縦寸法または横寸法が0.2mm以上の薄片状物質のように、最長部寸法が0.4mm以上の固形物を除去できることが確認された。上記試験1の結果と合わせて、防食剤中の粘稠性物質のメッシュフィルタでの捕捉を避けながら、粗大な固形物を効果的に除去できていると言える。
[3]固形物の含有による防食性への影響
最後に、防食剤における微小な固形物の含有が、防食性能に影響を与えるかどうかを調査した。
[試験方法]
上記試験1において、増稠剤の添加量を30質量部、酸性リン酸エステルと金属との組成物の添加量を50質量部とした防食剤原料に対して、目開き0.20mmのメッシュフィルタを用いた濾過工程を実施して得られた防食剤に、さらに繊維状物質を添加した。具体的には、防食剤に、繊維径20μm未満の繊維状物質を添加し、撹拌した。添加した繊維状物質の繊維長さは、特に選別していないが、繊維長さ4.5mm程度までのものが含まれていた。また、参照用に、目開き0.20mmのメッシュフィルタを用いた濾過工程を実施した後、繊維状物質を添加していない防食剤も準備した。
上記で準備した各防食剤を用いて、図2,3に示したのと同様に、端子付き電線の電線導体と端子の間の電気接続部を被覆し、防食端子付き電線を作製した。端子付き電線を構成する端子としては、銅合金を母材とするメス型端子を用いた(タブ幅:1.5mm)。また、電線としては、アルミニウム合金製の導体を有するものを用いた(導体断面積:2mm)。端子付き電線の電気接続部への防食剤の配置は、ジェットディスペンサを用いて行った。
得られた防食端子付き端子電線に対して、防食性評価を行った。まず、防食端子付き電線を、100℃の恒温槽に168時間放置した。次いで、JIS C0024に準拠して、35℃にて中性塩水噴霧試験を行い(塩溶液濃度:50g/L)、120時間後の錆発生を、目視にて評価した。10個体の試料(N=10)において、1個体でも錆の発生が確認された場合には、防食性が低い(B)と評価した。一方、10個体全てにおいて錆の発生が確認されなかった場合には、防食性が高い(A)と評価した。
[試験結果]
下の表1に、繊維状物質を添加していない試料1、および繊維状物質を添加した試料2について、塩水噴霧試験による防食性評価の結果を示す。なお、繊維状物質を添加した防食剤を用いた試料2については、塩水噴霧試験後の外観観察において、繊維状物質が、防食剤の被膜中に取り込まれ、被膜の外に向かって突出しているのが目視にて確認された。
Figure 2021021111
表1によると、繊維状物質を添加していない試料1の場合にも、繊維状物質を添加した試料2の場合にも、評価を行った全個体において、塩水噴霧後の外観観察で錆の発生が確認されなかった。この結果から、繊維径20μm未満の繊維状物質であれば、異物等として防食剤に含有されていても、防食剤の防食性を低下させるものとはならないことが分かる。よって、粘稠性の防食剤において、過剰な労力や費用をかけて、微小な固形物を除去しなくても、十分な防食性を発揮することができると言える。
以上、本開示の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
A 製造装置
A1 原料容器
A2 配管
A3 フィルタ部
A31 フィルタ収容部
A32 パンチングプレート
A33 メッシュフィルタ
A34 金属細線
A4 充填部
A41 取り付け部
A42 充填レベルセンサ
A5 圧力計
A6 シリンジ(充填容器)
L 網目の1辺の寸法
1 防食端子付き電線
2 電線
3 導体
3a 導体の先端
4 絶縁被覆
5 端子
51 嵌合部
52 第一のバレル部
53 第二のバレル部
6 電気接続部
7 防食部

Claims (13)

  1. 基油と、前記基油の粘稠性を向上させる増稠剤とから構成される粘稠性物質と、
    下記の一般式1および一般式2で表される化合物の1種または2種以上より構成される酸性リン酸エステルと金属との組成物と、
    固形物と、を含み、
    固形物として、端縁の一箇所と他の箇所とを結ぶ直線のうち最長の直線の長さが、0.4mm未満のもののみを含有する、防食剤。
    P(=O)(−OR)(−OH) (1)
    P(=O)(−OR(−OH) (2)
    ただし、Rは炭素数4以上30以下の炭化水素基である。
  2. 固形物として、直径が20μm未満、長さが0.4mm未満の繊維状物質のみを含有する、請求項1に記載の防食剤。
  3. 前記増稠剤は、アミド化合物を含む、請求項1または請求項2に記載の防食剤。
  4. 直径100μm以上の気泡を含有しない、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の防食剤。
  5. 導体と、前記導体の外周を被覆する絶縁被覆とを有する電線と、
    電気接続部において前記導体と電気的に接続された端子と、
    請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の防食剤により、前記電気接続部を被覆する防食部と、を有する防食端子付き電線。
  6. 前記導体は、アルミニウムを含み、
    前記端子は、銅を含む、請求項5に記載の防食端子付き電線。
  7. 前記防食部において、前記防食剤は、厚さ1mm以下の膜を形成している、請求項5または請求項6に記載の防食端子付き電線。
  8. 基油と、前記基油の粘稠性を向上させる増稠剤とから構成される粘稠性物質と、
    下記の一般式1および一般式2で表される化合物の1種または2種以上より構成される酸性リン酸エステルと金属との組成物と、を含む防食剤原料を、
    目開きが0.15mmよりも大きく、0.4mmよりも小さいメッシュフィルタに通す濾過工程を含む、防食剤の製造方法。
    P(=O)(−OR)(−OH) (1)
    P(=O)(−OR(−OH) (2)
    ただし、Rは炭素数4以上30以下の炭化水素基である。
  9. 前記メッシュフィルタ、および前記防食剤原料が接触する装置部材を、室温より高く、55℃より低い温度に維持する、請求項8に記載の防食剤の製造方法。
  10. 前記濾過工程の後に、外部の環境に接触させることなく、前記防食剤を充填容器に充填する充填工程をさらに有する、請求項8または請求項9に記載の防食剤の製造方法。
  11. 前記濾過工程の前に、前記防食剤原料に対して、室温よりも高く55℃よりも低い温度に加熱し、流動性を向上させた状態で、脱泡を行う脱泡工程をさらに有する、請求項9または請求項10に記載の防食剤の製造方法。
  12. 導体と、前記導体の外周を被覆する絶縁被覆とを有する電線と、
    電気接続部において前記導体と電気的に接続された端子と、を有する端子付き電線の前記電気接続部を被覆して、
    請求項8から請求項11のいずれか1項に記載の製造方法によって製造された防食剤を配置する防食工程を有する、防食端子付き電線の製造方法。
  13. 前記防食工程における前記防食剤の配置は、ジェットディスペンサを用いて行う、請求項12に記載の防食端子付き電線の製造方法。
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