まず、本発明が適用可能な沈殿池1の構成の例を説明する。
図1は、沈殿池1の一例を示す断面図である。図1には、沈殿池1の長さ方向に平行なX軸と、沈殿池1の幅方向に平行なY軸と、沈殿池1の深さ方向(高さ方向または鉛直方向)に平行なZ軸の3軸からなる直交座標系が示されている。以下では、この直交座標系を用いて各部を説明する場合がある。
沈殿池1は、たとえば、上水、下水、その他の廃水などの処理水を浄化する設備である。より具体的には、沈殿池1は、たとえば、下水処理施設の最終沈殿池であり、沈砂池、最初沈殿池、およびエアレーションタンクを通過した処理水が流入する。
沈殿池1は、たとえば、処理水流入部2と、ピット3と、掻寄機4と、阻流壁5と、越流トラフ8と、処理水流出部9と、を備えている。処理水流入部2は、沈殿池1における処理水の最上流部であり、沈殿池1の上流側の設備で処理された処理水を沈殿池1に流入させる。ピット3は、たとえば、処理水の上流側(X軸−側)が下流側(X軸+側)よりも低くなるように傾斜した沈殿池1の底部の最上流部に、凹状に設けられている。図示を省略するが、ピット3の底部には、たとえば、ポンプに接続された排出口が設けられている。
掻寄機4は、たとえば、一対のチェーン41と、複数のスプロケットホイール42と、複数のフライト43と、駆動装置44と、を備えている。一対のチェーン41は、沈殿池1の長さ方向(X軸方向)、すなわち沈殿池1の上流部における処理水の流れ方向に、おおむね平行に配置されている。また、一対のチェーン41は、沈殿池1の幅方向(Y軸方向、すなわち処理水の流れ方向に交差する水平方向)に間隔をあけて、沈殿池1の長さ方向に延びるように配置されている。
スプロケットホイール42は、たとえば、沈殿池1の幅方向に延びるシャフトの両端部に設けられている。スプロケットホイール42は、たとえば、沈殿池1の底部において、ピット3の下流側(X軸+側)と沈殿池1の最下流部に間隔をあけて配置されている。また、スプロケットホイール42は、沈殿池1を流れる処理水の水面近傍において、ピット3の下流側と阻流壁5の上流側(X軸−側)に間隔をあけて配置されている。図1に示す例では、沈殿池1の幅方向(Y軸方向)の一方側に配置された四つのスプロケットホイール42に一方のチェーン41が架け渡され、沈殿池1の幅方向の他方側に配置された四つのスプロケットホイール42に他方のチェーン41が架け渡されている。
フライト43は、たとえば、沈殿池1の幅方向(Y軸方向)に延びる細長い板状の部材である。沈殿池1の幅方向において、フライト43の一端が一方のチェーン41に取り付けられ、フライト43の他端が他方のチェーン41に取り付けられている。複数のフライト43は、たとえば、無端状のチェーン41の全周にわたって等間隔に設けられているが、図1では、便宜上、一部のフライト43の図示を省略している。
駆動装置44は、たとえば、モータ、ギア、チェーンなどによって構成され、スプロケットホイール42を回転させて、一対のチェーン41を循環駆動させる。図1に示す例において、駆動装置44は、一対のチェーン41が紙面上で右回りに回転するように、スプロケットホイール42を駆動する。駆動装置44の大部分は、処理水の水面よりも上方の水上部に配置されている。
阻流壁5は、沈殿池1の長さ方向(X軸方向)において、沈殿池1の上流部における処理水の流れ方向の下流側(X軸+側)に配置されている。阻流壁5は、たとえば、沈殿池1の幅方向(Y軸方向)および深さ方向(Z軸方向)におおむね平行に設けられ、沈殿池1の処理水の流れを遮るように設けられている。阻流壁5の下端は、沈殿池1の底部よりも上方に配置され、処理水の水面から所定の深さまで、処理水流入部2から処理水流出部9へ向かう処理水の流れを遮るように設けられている。
越流トラフ8は、たとえば、固体粒子を含む汚濁物質が沈降して除去された処理水を越流させる複数のV字状のノッチを備えている。越流トラフ8を越流した処理水は、たとえば処理水流出部9を介して、沈殿池1の下流側の設備へ流出する。
以上のような構成を備えた沈殿池1では、処理水が次のように処理される。上流側の設備から、沈殿池1の処理水流入部2に流入した処理水は、沈殿池1における処理水の最上流部である処理水流入部2から、沈殿池1の長さ方向に下流側(X軸+側)へ向けて流れる。この過程で、処理水中の固体粒子を含む汚濁物質やフロックが沈降して、沈殿池1の底部に堆積する。沈殿池1の底部に堆積した堆積物、たとえば汚泥は、掻寄機4によって掻き取られてピット3に集められる。
より具体的には、掻寄機4は、駆動装置44を駆動させてスプロケットホイール42を回転させることで、一対のチェーン41を循環駆動させる。これにより、沈殿池1の幅方向(Y軸方向)に延びてその両端部が一対のチェーン41に取り付けられた複数の細長い板状のフライト43が、沈殿池1の底部に沿って沈殿池1の下流側(X軸+側)から上流側(X軸−側)へ移動する。これにより、沈殿池1の底部に堆積した堆積物が、ピット3に掻き寄せられる。ピット3に集められた堆積物は、たとえば、ピット3の排出口からポンプによって吸い出される。
阻流壁5の下を通過した処理水は、その下流側で上方へ流れる。その過程で、処理水中の固体粒子を含む汚濁物質やフロックが沈降して、池底に堆積する。汚濁物質やフロックが沈降して除去された処理水は、越流トラフ8を越えて、処理水流出部9から沈殿池1の下流側の設備へ流出する。
次に、従来の傾斜式沈殿装置の構成の例を説明する。
図2に、従来の沈殿装置106の構成を示す。
沈殿装置106は、処理水に含まれる汚濁物質が堆積する傾斜部161を備える。沈殿池1の底部に沿って流れて阻流壁5の下方を通過した処理水は、沈殿装置106の下端から上方へ向けて流れる。また、沈殿池1において、阻流壁5の下端よりも上方を流れる処理水は、阻流壁5によって堰き止められ、阻流壁5の下端をくぐるように沈殿池1の底部へ向けて流れ、沈殿装置106の下端から上方へ向けて流れる。
沈殿装置106は、傾斜部161を1つ以上備えている。傾斜部161は、たとえば上向流中に配置される。傾斜部161は、たとえば、傾斜板または傾斜管を備えている。あるいは、傾斜部161は、傾斜板または傾斜管である。傾斜管は、たとえば、複数の傾斜した流路を備えている。
沈殿装置106の下端から上方へ向けて流入した処理水は、傾斜部161の斜面に沿って上方へ流れる。その過程で、処理水中の固体粒子を含む汚濁物質やフロックが沈降して、傾斜部161の斜面上に堆積する。傾斜部161を通過することで汚濁物質やフロックが沈降して除去された処理水は、越流トラフ8を越えて、処理水流出部9から沈殿池1の下流側の設備へ流出する。
沈殿装置106が傾斜部161を有することで、より広い面積で処理水中の汚濁物質やフロックの沈殿物を沈降および堆積させて除去することができる。すなわち、処理水中の固体粒子を含む汚濁物質を沈降させて除去する距離を短縮することができ、汚濁物質やフロックの沈殿効率および分離効率を向上させることができる。また、傾斜部161の斜面上の堆積物の一部は、傾斜部161の斜面を滑り落ちて沈殿池1の底部へ落下する。これにより、傾斜部161に堆積した堆積物を除去する頻度を低減することができる。
傾斜部161の洗浄は、たとえば振動式シックナーを用いて行うことができる。しかしながら、振動式シックナーでは、傾斜部161に堆積した固体粒子を含む堆積物は、十分に除去することができない。たとえば、ボールバイブレータを用いて、傾斜部161を、1[mm]以下の振幅で、264[Hz]から383[Hz]までの周波数で振動させても、傾斜部161の斜面に堆積した堆積物は十分に除去されない。また、たとえばタービンバイブレータを用いて、傾斜部161を、1[mm]以下の振幅で、153[Hz]から414[Hz]までの周波数で振動させても、傾斜部161の斜面に堆積した堆積物は十分に除去されない。さらに、たとえばピストンバイブレータを用いて、傾斜部161を、1[mm]以下の振幅で、79[Hz]から117[Hz]までの周波数で振動させても、傾斜部161の斜面に堆積した堆積物は十分に除去されない。
たとえば、沈殿池1に流入する処理水が下水である場合、傾斜部161の斜面に付着する主な堆積物は汚泥である。傾斜部161に付着した汚泥は、たとえば二日間以上の長時間にわたって放置されると、生物反応にともなってガスを発生させる。このガスにより、傾斜部161に付着した堆積物が処理水の表面に浮上して、処理水の水質を悪化させるおそれがある。
また、傾斜部161に付着した堆積物を除去する技術として、空気洗浄装置を導入することが考えられる。空気洗浄装置は、たとえば、ブロワを作動させて散気管から空気泡を噴出することで、傾斜部161を撹拌振動させ、傾斜部161に付着した堆積物を剥離させる。しかしながら、空気洗浄では傾斜部上の堆積物が洗浄時に巻き上がるので、傾斜部の位置が高すぎると浮上した堆積物が処理水に混入するおそれがあり、傾斜部161の洗浄中は沈殿池1に対する処理水の流入を停止させる必要がある。また、空気洗浄装置は、散気管から多量の空気泡を噴出させるために、比較的に大きな動力を必要とする。
次に、本発明の実施形態を説明する。
[実施形態1]
図3は、本発明の実施形態1に係る沈殿装置6の概略を示す。沈殿池1に沈殿装置6が設置されている。沈殿装置6は、傾斜式沈殿装置であり、複数の傾斜部61を備える。傾斜部61は、たとえば上向流中に配置される。各傾斜部61は、たとえばすべて同一の構造とすることができる。とくに、各傾斜部61は、沈殿装置6または沈殿池1に設置される状態において、同一の高さ寸法を有する構造とすることができる。傾斜部61は、図3では傾斜板として構成されているが、傾斜管として構成されてもよい。
特に限定はされないが、傾斜部61の寸法の一例は、次のとおりである。沈殿池1の幅方向(Y軸方向)に沿う傾斜部61の長手方向の寸法は、たとえば、1[m]から2[m]程度である。沈殿池1の深さ方向(Z軸方向)に対して傾斜した傾斜部61の短手方向の寸法は、たとえば、0.3[m]から1[m]程度である。傾斜部61の板厚は、たとえば、1[mm]から3[mm]程度である。
このような寸法例に限らず、個々の傾斜部61の具体的な構成は任意に設計可能であり、たとえば従来の傾斜部(たとえば図2に関連して説明した傾斜部161)と同様の構成を有するものであってもよい。また、個々の傾斜部61に関する構成および作用等は、図2に関連して説明した傾斜部161と同様とすることができる。
本実施形態では、各傾斜部61は面が大まかな水流の方向(X軸方向)(または沈殿池1における全体的な処理水の流れの方向)と交わるよう配置され、たとえば上流から下流に向かって互いに平行に配置される。傾斜部61の1つを第1傾斜部611とし、第1傾斜部611より下流側(X軸+側)に配置される傾斜部61の1つを第2傾斜部612とする。
図3に一点鎖線で示すように、第1傾斜部611は、第2傾斜部612より高い高さ位置(Z軸+側)に配置される。言い換えると、第1傾斜部611の高さ位置は第1高さ位置であり、第2傾斜部612の高さ位置は第2高さ位置であり、第1高さ位置は第2高さ位置よりも高い。
ここで、高さ位置の定義は当業者が適宜決定可能であるが、たとえば、傾斜部61が配置された状態での上端の高さ位置としてもよく、傾斜部61が配置された状態での下端の高さ位置としてもよく、傾斜部61の重心の高さ位置としてもよい。また、各傾斜部61が同一の構造を有する場合には、傾斜部61における任意の基準点の高さ位置としてもよい。
図3の例では、沈殿装置6が3つ以上の傾斜部61を備えている。このような場合に、第1傾斜部611および第2傾斜部612以外の傾斜部61の高さ位置は任意に決定可能であるが、図3の例では、各傾斜部61の高さ位置は第1高さ位置または第2高さ位置のいずれかに揃えられている。また、図3の例では、傾斜部61は上流側および下流側の2つのグループに分けることができ、第1傾斜部611を含む上流側グループの傾斜部61はすべて第1高さ位置にあり、第2傾斜部612を含む下流側グループの傾斜部61はすべて第2高さ位置にある。
さらに、図3の例では、各傾斜部61の高さ位置は、上流側から下流側に向かって、広義の単調減少関数で表せるようになっている。すなわち、第1傾斜部611、第2傾斜部612および他の傾斜部61を含むすべての傾斜部61は、上流側から下流側に向かって、直前の傾斜部61と同じ高さ位置か、それより低い高さ位置に配置される。
ここで、各傾斜部61の位置が低すぎると、上述のような様々な問題が発生するが、その可能性は、上流の第1傾斜部611のほうが下流の第2傾斜部612よりも大きい。一方で、各傾斜部61の位置が高すぎると、洗浄時に汚泥が処理水に混入する等の問題が発生するが、その可能性はすべての傾斜部61で同様である。
このような状況に対し、本実施形態に係る沈殿装置6では、水流方向位置に応じて高さ位置を変え、上流側の傾斜部61をより高い位置に配置することにより、より多くの傾斜部61においてより適切な高さ位置バランスを実現することができる。
この効果の具体例について、図4〜6を用いてさらに説明する。
図4は、図3に汚泥界面SIの図示を追加したものである。処理水が上流から下流へと進むにつれて汚泥が沈殿するので、汚泥界面の高さは上流から下流に向かって減少する。汚泥界面の位置は、天候その他の条件によって変動する。たとえば、雨天時には流量が増加するので、汚泥界面の位置が高くなる。図4の汚泥界面SIは、様々な条件下で通常予測される様々な位置の汚泥界面のうち、最も高い位置に形成されるものとすることができる。この位置は、たとえば雨天時の位置に対応する。
第1傾斜部611の位置の具体的な値は、次のようになる。例えば、沈殿池1の水深が3[m]であり、上流側の第1傾斜部611における汚泥界面SIの高さが池底から2[m]であるとする。この場合には、第1傾斜部611の下端を池底から2[m]以上の位置とする。この場合には、水面から第1傾斜部611の上端まではたとえば0.2[m]程度となる場合がある。また、下流側の第2傾斜部612における汚泥界面SIの高さが池底から1.5[m]であるとすると、第2傾斜部612の下端を池底から1.5[m]以上の位置とする。この場合には、水面から第1傾斜部611の上端まではたとえば0.7[m]程度となる場合がある。
このように、第1傾斜部611が高い位置に配置されることにより、その下端が汚泥界面SIより上に位置している。すなわち、第1傾斜部611は、予測される汚泥界面SIに干渉しない高さ位置に配置されている。このため、第1傾斜部611に汚泥等が堆積しにくくなる。
なお、このような汚泥界面SIの位置は、たとえば非特許文献1〜3に記載される手法を用いて決定することができるが、例を以下に示す。
非特許文献1に開示される手法では、汚泥柱は、押出し流れの考え方に従い、位置・汚泥濃度・界面高さが変化しながら、下流に向かって水平方向に移動してゆく。
汚泥柱の高さ(すなわち、その汚泥柱における汚泥界面SIの高さ)は、汚泥そのものの沈降速度に加え、流入や引抜の影響を加味した界面下降速度に従って算出することができる。一例として、時刻tにおける汚泥界面SIの下降速度Vdownは次式で表すことができる。
ただし、Vdown(t)[m/h]は時刻tにおける汚泥柱上面の下降速度である。X(t)[g/L]は時刻tにおける汚泥柱における汚泥濃度であり、界面の下降に従い、初期濃度(MLSS濃度)から濃縮されて上昇する。Qin(t)[m3/h]は時刻tにおける生物反応槽の流量である。Qr(t)[m3/h]は時刻tにおける返送汚泥の流量である。Qex(t)[m3/h]は時刻tにおける余剰汚泥の流量である。A[m2]は沈殿池1の表面積である。V0[m/h],k[L/g][m3/h]は係数である。
単位時間当たりに沈殿池1に流入した汚泥を、1つの汚泥柱とみなすモデルを用いると、このVdown(t)を用いて汚泥柱の状態を以下のように表せる。汚泥柱の番号をi(ただしiは正の整数)とする。最上流の汚泥柱についてi=1となる。第i番目の汚泥柱について、時刻tにおける汚泥界面の高さHi(t)は、次のように表せる。
ただし、Δtは時間刻の微小差分である。Li[m]は第i番目の汚泥柱の流入部からの距離であり、汚泥柱が押出し流れに従って流入分だけ下流に移動することを表す。S[m2]は流路の断面積すなわちYZ平面による断面の面積である。Hi[m]は第i番目の汚泥柱の界面の高さ位置であり、その汚泥柱に対する界面の下降速度Vdown(t)に従って下降する。Htank[m]は沈殿池1の有効水深である。
非特許文献2では、時刻tにおける汚泥界面の高さH(t)を次式で表している。
H(t)=H(t−Δt)/(1+ωΔt)
ただしωは沈降速度[m/h]である。
非特許文献3では、時刻tにおける汚泥界面の下降速度Vを次式で表している。
V=275.1・exp(0.01716・T−0.0004266・X)・S-0.7804
ただしT[℃]は水温であり、X[mg/L]はMLSS濃度であり、SはSVIである。また、これを用いて、位置L1[m]における汚泥界面の深さ(水面からの距離)D[m]を次式で表している。
D=(V−OFR)・tST・L1/L=(n−1)・H・L1/L
ただしOFR[m/h]は流入水の水面積負荷であり、tST[h]は滞留時間であり、L[m]は沈殿池1の全長(X軸方向寸法)であり、L1[m]は流入口からその位置までの距離であり、n=V/OFRであり、H[m]は沈殿池1の深さである。
なお、このように汚泥界面の高さに基づいて傾斜部61の高さ位置を決定する場合には、少なくとも1つの傾斜部61の高さ位置を決定すればその傾斜部61について効果を得ることができるが、複数またはすべての傾斜部61についてそのように高さ位置を決定すれば、すべての傾斜部について同様の効果を得ることができる。
図5は、図4において、傾斜部61が配置される領域を上流側に拡張した変形例を表す。阻流壁5がより上流側(X軸−側)に配置されており、より多くの傾斜部61が配置されている。とくに、最上流側の傾斜部61の位置は、図4より上流側となっている。
このように、上流側の傾斜部61(第1傾斜部611を含む)の位置をより高くすることにより、汚泥界面SIとの干渉を回避しつつ、より上流側に傾斜部61を配置することができる。
図6は、図3に流速の図示を追加したものである。図6の例では、第1傾斜部611は、第1傾斜部611の直下における流速が0.3[m/min]以下となる高さ位置に配置される。
流速の計測または算出方法は、当業者が適宜決定することができる。たとえば、第1傾斜部611の直下の流速を直接計測してもよい。または、他の部分の流速を計測し、これに基づいて第1傾斜部611の直下の流速を算出してもよい。
または、他の物理量を測定、推定または算出し、これに基づいて第1傾斜部611の直下の流速を算出してもよい。より具体的な例としては、第1傾斜部611の直下の流速を、沈殿池1における流量と、第1傾斜部611の直下の流路断面積とに基づき、たとえば流量を流路断面積で除算することによって算出してもよい。
このように、高い位置に第1傾斜部611を配置することにより、処理水の流速が小さくなり、池底に堆積した汚泥の巻き上がり(浮上)を抑制することができるので、処理水質が向上する。
なお、このように流速に基づいて傾斜部61の高さ位置を決定する場合には、少なくとも1つの傾斜部61の高さ位置を決定すればその傾斜部61について効果を得ることができるが、複数またはすべての傾斜部61についてそのように高さ位置を決定すれば、すべての傾斜部について同様の効果を得ることができる。
また、図3〜6に示すように、第1傾斜部611は、掻寄機4と干渉しない位置に配置されてもよい。このようにすると掻寄機4との干渉による損傷等を回避することができる。
次に、沈殿装置6を洗浄するための構成について説明する。
図3に示すように、沈殿装置6は、傾斜部61を洗浄するための洗浄装置7を備える。洗浄装置7は、傾斜部61を昇降させる昇降部62を備えており、傾斜部61を昇降させることにより洗浄する。昇降部62は、処理水を得るための構造物や部品(越流トラフ8等)の近傍に配置されてもよい。
以下、洗浄装置7の各部の構成について、図7から図10を参照して詳細に説明する。
図7は、図1に示す沈殿装置6および洗浄装置7の模式的な拡大断面図である。沈殿装置6は、たとえば、複数の傾斜部61に加えて、これら複数の傾斜部61を支持するとともに洗浄装置7に接続するフレーム61bと、そのフレーム61bに傾斜部61を連結する連結部61cと、を有している。
図8は、フレーム61bと傾斜部61との連結構造を示す斜視図である。図7および図8に示すように、フレーム61bは、たとえば、沈殿池1の長さ方向(X軸方向)に沿って延びる横枠部61b1と、沈殿池1の深さ方向(Z軸方向)に沿って延びる縦枠部61b2とを備えている。傾斜部61およびフレーム61bの材質は特に限定されず、たとえば、耐食性を有する金属や樹脂によって構成することができる。なお、連結部61cの詳細については後述する。
図7および図8の例では、同一の高さ位置にある傾斜部61(第1傾斜部611を含む)のみがフレーム61bに連結されている。異なる高さ位置にある傾斜部61(第2傾斜部612を含む)は、同様の構成を有する別のフレーム(図示せず)に連結されてもよいし、他の方法で配置されてもよい。また、異なる高さ位置の傾斜部61を、同一のフレーム61bに連結してもよい。
フレーム61bの横枠部61b1は、たとえば、沈殿池1の幅方向(Y軸方向)において、複数の傾斜部61の一端と他端にそれぞれ二本が、上下に離隔して配置されている。フレーム61bの横枠部61b1は、たとえば、沈殿池1の長さ方向(X軸方向)におおむね平行に配置されている。フレーム61bの横枠部61b1は、たとえば、沈殿池1の幅方向における傾斜部61の端部、すなわち傾斜部61の長手方向の一端と他端に、連結部61cを介して連結され、複数の傾斜部61を支持している。
フレーム61bの縦枠部61b2は、たとえば、沈殿池1の幅方向(Y軸方向)において、複数の傾斜部61の一端と他端にそれぞれ二本が、沈殿池1の長さ方向の上流側(X軸−側)と下流側(X軸+側)に離隔して配置されている。フレーム61bの縦枠部61b2は、たとえば、沈殿池1の深さ方向(Z軸方向)におおむね平行に配置され、上端部が処理水の水面よりも上方の水上部まで延びている。フレーム61bの縦枠部61b2は、たとえば、沈殿池1の深さ方向に離隔して配置された二本の横枠部61b1に連結され、横枠部61b1および連結部61cを介して複数の傾斜部61を支持している。
また、フレーム61bの縦枠部61b2は、たとえば、上端部に軸部61b3を有している。軸部61b3は、たとえば、沈殿池1の幅方向(Y軸方向)に延びる。
図8の例では、連結部61cは、傾斜部61に固定された第1部分61c1と、フレーム61bに固定された第2部分61c2と、を有している。これら第1部分61c1と第2部分61c2とは、遊びを有して係合している。より具体的には、第1部分61c1は、たとえば、断面形状がU字型になるように曲折された板状の部材であり、沈殿池1の幅方向(Y軸方向)の両端と、下端とが開放されている。第1部分61c1は、たとえば、沈殿池1の幅方向(Y軸方向)における傾斜部61の一方の端部と他方の端部に、それぞれ、上下に間隔をあけて二つずつ固定されている。
第2部分61c2は、たとえば、沈殿池1の幅方向に延びる軸状または棒状の部材であり、先端に抜け止めの拡径部が形成され、先端と反対側の基端がフレーム61bの横枠部61b1に固定されている。第2部分61c2は、横枠部61b1において、傾斜部61に固定された第1部分61c1に対応する位置に設けられている。
傾斜部61をフレーム61bに連結するには、傾斜部61に固定された連結部61cの第1部分61c1を、フレーム61bに固定された連結部61cの第2部分61c2に引っ掛ける。これにより、第1部分61c1と第2部分61c2とが、第2部分61c2の下方側に遊びを有した状態で係合する。また、たとえば、第2部分61c2を係合させる第1部分61c1の溝幅を、第2部分61c2の直径よりも大きくすることで、第1部分61c1と第2部分61c2とが、沈殿池1の長さ方向(X軸方向)に遊びを有した状態で係合する。
図9は、図7に示す昇降部62の拡大図である。昇降部62は、沈殿池1において処理水の水面よりも上方の水上部に設けられている。より具体的には、昇降部62は、固定ブラケット11を介して、沈殿池1の外縁部に支持されて固定されている。
沈殿装置6のフレーム61bには軸部61b3が設けられる。軸部61b3は、フレーム61bの接地部61dを介し、沈殿池1の外縁部に支持される。ただし、接地部61dは固定されておらず、外力等に応じて移動することが可能であり、たとえば図9の一点鎖線で示すように持ち上げることができる。このように、フレーム61bは移動可能に支持されている。フレーム61bが移動すると、これに伴って、フレーム61bに支持されている各傾斜部61も移動することになる。
昇降部62は、たとえば、フレーム61bの軸部61b3を支持する支持部64を有している。昇降部62は、たとえば、支持部64を昇降させることで、軸部61b3を介してフレーム61bを昇降させ、結果として、フレーム61bに支持された傾斜部61を昇降させる。
また、支持部64は、たとえば、少なくとも一方向に遊びを有してフレーム61bを支持するように構成されている。より具体的には、支持部64は、たとえば、フレーム61bを下方から支持する支持底部64bと、フレーム61bの両側に空隙を介して対向する移動規制部64aと、を有している。また、支持部64は、支持底部64bの上方が開放されている。より詳細には、図9に示す例において、支持部64は、たとえば、上部が開放されたU字型、J字型、または円弧状の断面形状を有するフック状の形状に成形されている。なお、支持部64は、たとえば円環状の形状のように上部が閉じた形状であってもよく、複数の部品で構成されていてもよい。
支持部64は、たとえば、フック状の形状の底部の支持底部64bによって、フレーム61bに設けられた軸部61b3を支持する。支持部64の移動規制部64aは、支持底部64bの上に軸部61b3が支持された状態で、軸部61b3に対して、沈殿池1の長さ方向(X軸方向)の両側に間隙を介して対向するように設けられている。すなわち、図9に示す例において、支持部64は、たとえば、沈殿池1の上流方向(X軸−方向)と、沈殿池1の下流方向(X軸+方向)と、上方向との、少なくとも三方向以上に遊びを有して、フレーム61bを支持するように構成されている。
図10は、昇降部62の構成の一例を示す空気圧回路図である。洗浄装置7は、昇降部62による傾斜部61の昇降を制御する制御部63と、エアシリンダ65と、エアシリンダ65に設けられたスピードコントローラ66と、空気供給部67と、フィルタ/レギュレータ68と、電磁弁69と、を備えている。
エアシリンダ65は、たとえば、沈殿池1の幅方向(Y軸方向)の一方側と他方側に、それぞれ二つずつ、合計で四つ設けられる。支持部64は、エアシリンダ65のピストンロッド65aに連結されている。昇降部62は、エアシリンダ65のピストンロッド65aを伸縮させることで、ピストンロッド65aに連結された支持部64を昇降させる。なお、昇降部62は、エアシリンダ65を備える構成に限定されず、たとえばギア、モータ、ボールねじ、チェーン、ワイヤロープ、リンク機構等を使用した昇降機構によって支持部64を昇降させるようにしてもよい。
四つのエアシリンダ65は、すべて図10に示すエアシリンダ65と同様の構成を備える。そのため、図10では、二つのエアシリンダ65とそれに付随する構成のみを図示し、他の二つのエアシリンダ65とそれに付随する構成の図示を省略する。なお、昇降部62が備えるエアシリンダ65の数は、特に限定されない。
空気供給部67は、たとえば、空気を圧縮する圧縮機と、圧縮された空気を貯留するタンクとを備え、エアー用ゴムホースを介してフィルタ/レギュレータ68に接続されている。空気供給部67は、制御部63からの制御信号に基づいて、圧縮された空気をフィルタ/レギュレータ68に供給する。フィルタ/レギュレータ68は、たとえば、フィルタが内蔵された減圧弁である。フィルタ/レギュレータ68は、各エアシリンダ65に対して設けられた電磁弁69にエアチューブを介して接続され、所定の圧力に減圧された清浄な空気を電磁弁69に供給する。
電磁弁69は、たとえば、4方向、4ポート、3位置の電磁弁である。電磁弁69は、たとえば、制御部63の制御信号に基づいて、図10に示す全てのポートが閉じた状態と、右側が励磁された状態と、左側が励磁された状態とを切り替える。
電磁弁69は、右側が励磁されると、右側の矢印が交差した状態になり、1番と2番のポートが接続され、4番と3番のポートが接続される。この状態で、圧縮された空気がフィルタ/レギュレータ68を介して電磁弁69に供給されると、図10における下方側のスピードコントローラ66の逆止弁が開き、図10におけるエアシリンダ65の下方側に圧縮された空気が供給される。
これにより、エアシリンダ65のピストンロッド65aが図10における上方側に移動して収縮し、支持部64が上昇する。また、ピストンロッド65aの収縮にともなって、図10におけるエアシリンダ65の上方側から空気が排出され、図10における上方側のスピードコントローラ66へ流入する。すると、図10における上方側のスピードコントローラ66の逆止弁が閉じ、流量制御弁を通して空気が排出される。
また、電磁弁69は、左側が励磁されると、左側の矢印が平行な状態になり、1番と4番のポートが接続され、2番と3番のポートが接続される。この状態で、圧縮された空気がフィルタ/レギュレータ68を介して電磁弁69に供給されると、図10における上方側のスピードコントローラ66の逆止弁が開き、図10におけるエアシリンダ65の上方側に圧縮された空気が供給される。
これにより、エアシリンダ65のピストンロッド65aが図10における下方側に移動して伸長し、支持部64が下降する。また、ピストンロッド65aの伸長にともなって、図10におけるエアシリンダ65の下方側から空気が排出され、図10における下方側のスピードコントローラ66へ流入する。すると、図10における下方側のスピードコントローラ66の逆止弁が閉じ、流量制御弁を通して空気が排出される。
すなわち、本実施形態において、スピードコントローラ66は、エアシリンダ65のメータアウト制御を行うように構成されている。また、スピードコントローラ66は、たとえば、図10における下方側のスピードコントローラ66の流量制御弁を通過する空気の流量が、図10における上方側のスピードコントローラ66の流量制御弁を通過する空気の流量よりも、大きくなるように設定されている。
換言すると、スピードコントローラ66は、たとえば、ピストンロッド65aの伸長時にエアシリンダ65から排出された空気を通過させる流量制御弁の空気流量が、ピストンロッド65aの収縮時にエアシリンダ65から排出された空気を通過させる流量制御弁の空気流量よりも多くされている。これにより、図9に示す例において、ピストンロッド65aに連結されて傾斜部61を支持する支持部64の下降速度は、支持部64の上昇速度よりも高速になる。
このような構成により、昇降部62は、たとえば、傾斜部61の下降速度が傾斜部61の上昇速度よりも高速になるように構成されている。または、たとえば、傾斜部61を機械的に持ち上げることにより上昇させ、傾斜部61を、傾斜部61の自重を利用して下降させるように構成されている。ここで「自重を利用して下降させる」とは、自由落下によるものや、エアシリンダを開放して空気の出入りが自由となる状態で下降させることによるものを含む。また、「自由落下」とは、たとえば水中における自由落下を意味するが、自由落下の全行程が水中で行われるものに限定されない。また、このような動作を行う昇降部62の構成は、図9および図10に示す構成に限定されない。
なお、昇降部62がエアシリンダ65を有しない場合には、たとえば、カム機構などを用いることで、支持部64の下降速度が支持部64の上昇速度よりも高速になるように構成することができる。また、たとえば、昇降部62がサーボモータを備える場合には、制御部63が昇降部62を制御して、傾斜部61の下降速度を傾斜部61の上昇速度よりも高速にするにように、制御部63を構成してもよい。
また、昇降部62がエアシリンダ65を備える場合でも、たとえば、昇降部62を構成するスピードコントローラ66の流量制御弁を自動制御することによって、傾斜部61の下降速度を傾斜部61の上昇速度よりも高速にするにように、制御部63を構成してもよい。このように、制御部63は、たとえば、傾斜部61の下降速度が傾斜部61の上昇速度よりも高速になるように、昇降部62を制御することができる。
以下、本実施形態の洗浄装置7の作用について説明する。
制御部63によって昇降部62を制御することで、昇降部62によって傾斜部61を上昇させることができる。また、制御部63によって昇降部62を制御することで、昇降部62によって傾斜部61を下降させることができる。すなわち、制御部63は、傾斜部61に堆積した堆積物を除去するときに、傾斜部61を上昇させ、次いで、下降させるように、昇降部62を制御することができる。また、制御部63は、あらかじめ傾斜部61を上昇させておき、傾斜部61に堆積した堆積物を除去するときに、傾斜部61を下降させるように、昇降部62を制御することができる。
なお、傾斜部61に堆積した堆積物をより効率よく除去する観点から、傾斜部61を上昇させてから下降させるか、または、傾斜部61を下降させてから上昇させる、往復の昇降動作を行うように、制御部63によって昇降部62を制御することが好ましい。なお、傾斜部61を下降させてから上昇させる往復の昇降動作よりも、傾斜部61を上昇させてから下降させる往復の昇降動作の方が、傾斜部61に堆積した堆積物を効果的に除去することができる場合がある。
このように、本実施形態の沈殿装置6および洗浄装置7は、制御部63によって昇降部62を制御して、昇降部62によって傾斜部61を昇降させることができる。これにより、従来のように傾斜部61を比較的に高い周波数で振動させる場合と比較して、傾斜部61に堆積した堆積物が、処理水から大きな流体抵抗を受けて効率よく除去される。なお、昇降部62による傾斜部61の連続的かつ周期的な昇降動作を、仮に振動と捉えた場合、その周波数は、たとえば1[Hz]以下であり、その振幅は、たとえば1[mm]以上である。
また、傾斜部61に堆積した堆積物をより確実に除去する観点から、複数回にわたって傾斜部61の昇降動作を行うように、制御部63によって昇降部62を制御することが好ましい。なお、昇降部62による傾斜部61の昇降動作は、一回でもよく、連続的に繰り返し行ってもよく、上昇と下降の間、または、昇降と昇降との間に、昇降動作を停止する期間を設けて間欠的に昇降させてもよい。前記したような傾斜部61の種々の昇降動作を行うためのプログラムを備える制御部63によって昇降部62を制御することで、前記したような傾斜部61の種々の昇降動作を行うことができる
また、傾斜部61の昇降動作の高さは、たとえば、10[mm]以上、30[mm]以下であることが好ましい。これにより、傾斜部61の昇降時に堆積物に対して処理水からより大きな流体抵抗を作用させ、堆積物の除去効果を向上させるとともに、昇降動作に必要な昇降部62の動力を低減することができる。また、傾斜部61を上昇させた後、傾斜部61の下降を開始するまでの時間を10[秒]以下にするように、制御部63によって昇降部62を制御することで、傾斜部61に堆積した堆積物の除去効果を、より向上させることができる。
また、昇降部62は、傾斜部61の下降動作の終了時に、フレーム61bの接地部61dを、沈殿池1の周縁部に衝突させるように構成してもよい。これにより、昇降部62によるフレーム61bの下降動作の終了時に、沈殿池1の周縁部からフレーム61bに作用する衝撃力によって傾斜部61を振動させ、傾斜部61に堆積した固体粒子を含む堆積物の除去効果を向上させることができる。これにより、傾斜部61を効果的に振動させて、傾斜部61に堆積した堆積物を効果的に除去することができる。
このような傾斜部61の昇降動作によって傾斜部61から剥離した堆積物は、処理水中で凝集して粗大化し、傾斜部61の斜面を滑り落ちて沈殿池1の底部に沈降する。これにより、従来の空気洗浄装置のように傾斜部61から剥離した堆積物が空気泡によって撹拌されて処理水中に分散したり水面に浮上したりすることが防止され、堆積物を効率よく除去して処理水の水質を向上させることができる。したがって、従来の空気洗浄装置のように傾斜部61の洗浄中に沈殿池1に対する処理水の流入を停止させる必要がなく、沈殿池1による処理水の処理効率を向上させることができる。
昇降部62および制御部63は、従来の空気洗浄装置のように処理水中に設置する必要がなく、沈殿池1における処理水の水面よりも上方の水上部に設置することが可能である。そのため、処理水中に設置する従来の空気洗浄装置と比較して、沈殿装置6および洗浄装置7の維持管理性を向上させることができる。
なお、従来の空気洗浄装置を用いる場合であっても、傾斜部61を十分に低い位置に配置していれば、堆積物が処理水に混入するおそれは小さい。しかしながら、本実施形態では、傾斜部61の一部(たとえば第1傾斜部611)が高い位置に配置されているので、従来の空気洗浄装置をそのまま用いるには不適である。これに対し、本実施形態では昇降動作による洗浄を行うので、傾斜部61が高い位置に配置されていても、処理水の水質を維持することができる。すなわち、本実施形態の洗浄装置7は、高い位置に配置された傾斜部61に対して特に顕著な効果を得ることができる。
さらに、本実施形態では、昇降部62によって傾斜部61を昇降させるので、傾斜部61の傾斜角度を変化させるような装置とは異なり、沈殿池1の長さ方向(X軸方向)または幅方向(Y軸方向)に、複数の沈殿装置6または複数の洗浄装置7を隣接させて設置することが可能である。
また、昇降部62による傾斜部61の下降速度が傾斜部61の上昇速度よりも高速になるように構成されているので、傾斜部61を勢いよく下降させて傾斜部61に堆積した堆積物の除去効率を向上させることができる。一例として、傾斜部61の上昇速度は30[mm/s]程度であり、傾斜部61の下降速度は50[mm/s]程度である。これにより、傾斜部61の下降動作の終了時に、傾斜部61に比較的に大きな慣性力を作用させ、傾斜部61に堆積した堆積物を効果的に除去することができる。
なお、昇降部62による傾斜部61の下降速度は、たとえば、傾斜部61の自重を利用した下降速度と同等以上にすることができる。これにより、傾斜部61の下降動作の終了時に、たとえば傾斜部61がたわみながら振動することで、傾斜部61に堆積した堆積物の除去効果を向上させることができる。(なお、傾斜部61の上昇速度が傾斜部61の下降速度より大きくなるようにしてもよいが、その場合には、傾斜部61から剥離した堆積物が処理水の水面に浮上することで、沈殿池1の下流側に流れる処理水に堆積物が混入して水質を悪化させるおそれがある。)
また、昇降部62の支持部64は、遊びを有して傾斜部61を支持するように構成されているので、傾斜部61の昇降動作にともなって傾斜部61を振動させやすくすることができ、傾斜部61に堆積した堆積物を、より効果的に除去することができる。さらに、フレーム61bを昇降部62に固定せず、昇降部62の支持部64によってフレーム61bを支持することで、たとえば地震が発生したときに、傾斜部61と昇降部62との相対的な移動を許容して、昇降部62が損傷するのを防止できる。
また、支持部64は、フレーム61bを下方から支持する支持底部64bと、フレーム61bの両側に空隙を介して対向する移動規制部64aとを有しているので、フレーム61bと移動規制部64aとの間の空隙が、フレーム61bとの間の遊びになり、傾斜部61を振動しやすくすることができる。また、支持部64は、傾斜部61の両側の移動規制部64aの間でのフレーム61bの移動を許容しつつ、移動規制部64aの外側への移動を規制することができる。これにより、フレーム61bと昇降部62との相対的な移動を許容しつつ、フレーム61bが支持部64から脱落するのを防止できる。
また、支持部64において、支持底部64bの上方が開放されているので、たとえば地震によって、傾斜部61に鉛直方向上方の加速度が発生した場合であっても、傾斜部61を下方から支持する支持底部64bの上方が開放されているため、フレーム61bの鉛直方向上方への移動を許容することができる。これにより、支持部64および昇降部62の損傷を防止することができる。
また、昇降部62は、エアシリンダ65と、そのエアシリンダ65に設けられたスピードコントローラ66と、を有している。また、支持部64は、エアシリンダ65のピストンロッド65aに連結されている。
この構成により、傾斜部61に堆積した堆積物を除去するために必要な空気量を、大幅に削減することができる。これにより、従来の空気洗浄装置と比較して、傾斜部61に堆積した堆積物を除去するのに必要な動力を、大幅に低減することができる。また、昇降部62は、ピストンロッド65aに連結され、フレーム61bを支持して昇降させる支持部64の上昇速度と下降速度を、スピードコントローラ66によって調節することができる。
また、本実施形態の沈殿装置6は、複数の傾斜部61と、これら複数の傾斜部61を支持するフレーム61bと、そのフレーム61bに傾斜部61を連結する連結部61cと、を有している。また、連結部61cは、傾斜部61に固定された第1部分61c1と、フレーム61bに固定された第2部分61c2と、を有している。そして、これら第1部分61c1と第2部分61c2とは、遊びを有して係合している。
この構成により、傾斜部61を振動しやすくすることができる。これにより、傾斜部61に堆積した堆積物の除去効率を、より向上させることができる。
なお、洗浄装置7による上記のような洗浄動作は、少なくとも第1傾斜部611について実行されれば、第1傾斜部611について効果を得ることができる。他の傾斜部61(たとえば、より低い位置にある第2傾斜部612)は、洗浄装置7によって同様に洗浄するようにしてもよいし、洗浄装置7と同様の構成を有する別の洗浄装置によって同様に洗浄するようにしてもよいし、別種の洗浄装置(たとえば空気洗浄装置)によって洗浄するようにしてもよい。
実施形態1において、上記の変形例の他に、以下のような変形を施すことができる。
第1傾斜部611の高さ位置を決定する方法は任意である。たとえば、汚泥界面の位置や流速に依存しない方法で決定してもよい。
洗浄装置7は省略してもよいし、洗浄装置7に代えて異なる構成の洗浄装置または従来の洗浄装置を用いてもよい。
実施形態1では、第1傾斜部611および第2傾斜部612を含むすべての傾斜部61が同一の構成を有するので、傾斜部の総面積を大きく確保することができ、処理能力を高く維持できる。しかしながら、すべての傾斜部61を同一の構成とする必要はない。たとえば変形例として、第1傾斜部611の高さ寸法を第2傾斜部612の高さ寸法よりも小さく設計してもよい。その場合には、第1傾斜部611の上端と第2傾斜部612の上端とを同じ高さ位置にしながら、第1傾斜部611の下端が第2傾斜部612の下端より高い高さ位置となるように配置することも可能である。
傾斜部61の向きを変更してもよい。実施形態1では、傾斜部61が水流の方向と交わるように配置される。すなわち、傾斜部61はX軸と平行にならないように配置され、とくに、Y軸と平行となるように配置されている。このため、水流の向きは傾斜部61によって偏向され、たとえば図3に示すような上向流が発生するようになっている。
傾斜部61を支持するための構造はフレーム61bに限らず、適切な形状および強度を有する任意の構成とすることができる。
図11に、傾斜部61の向きを変更した変形例の構成を示す。この変形例では、傾斜部61が水流(沈殿池1における全体的な処理水の流れ)の方向と平行となるように配置される。すなわち、傾斜部61はX軸と平行に配置される。ただし、沈殿作用を得るために、Z軸と平行にならないように配置される。たとえば図11において、各傾斜部61は、紙面上から下に向かって、紙面奥から手前に(または紙面手前から奥に)傾くように配置される。
図12に、このような変形例における傾斜部61(たとえば第1傾斜部611)と越流トラフ8との位置関係の例を示す。傾斜部61は、高さ位置が越流トラフ8と一部重なるように配置されている。とくに、図12の例では、傾斜部61の上端と越流トラフ8の上端とが同一の高さ位置となるよう配置されている。
このように配置すると、傾斜部61を高い位置に配置した場合であっても、越流トラフ8との接触または物理的干渉を避けることができる。とくに、図12のように越流トラフ8の寸法が比較的大きい場合には、傾斜部61を図3の向きに配置しようとすると越流トラフ8と干渉するため多数の傾斜部61を配置することができないが、傾斜部61を図12の向きに配置すると空間を効率的に利用でき、多数の傾斜部61を配置することができるので、すべての傾斜部61を考慮した総面積を大きくとることができる。
なお、図11の例では図3と同様に昇降部62を備えた洗浄装置7が設けられているが、洗浄装置7は省略してもよいし、洗浄装置7に代えて異なる構成の洗浄装置または従来の洗浄装置を用いてもよい。
また、図11において、昇降部62は沈殿池1の長さ方向(X軸方向)に分離して2個配置されているが、昇降部62の数はこれに限らない。たとえば、傾斜部61の総重量等に応じ、昇降部62をただ1つとしてもよいし、昇降部62を沈殿池1の幅方向(Y軸方向)に分離して対として配置してもよい。幅方向(Y軸方向)に分離して対として配置する場合には、図11のようにさらに沈殿池1の長さ方向(X軸方向)に分離して配置すると総数4個の昇降部62が設けられることになり、沈殿池1の長さ方向(X軸方向)には分離せず1箇所のみに配置すると総数2個の昇降部62が設けられることになる。
傾斜部61の向きはすべて同一(平行)とする必要はない。たとえば、図3に示す向きに配置されたものと、図11に示す向きに配置されたものとが混在してもよい。このような配置の例を図13に示す。とくに、上流側の傾斜部61(第1傾斜部611を含む)を図12に示すように配置し、下流側の傾斜部61(第2傾斜部612を含む)を図3に示すように配置してもよく、または逆に配置してもよい。すなわち、第1傾斜部611および第2傾斜部612のうち一方は、沈殿池1における全体的な処理水の流れの方向と交わるよう配置され、第1傾斜部611および第2傾斜部612のうち他方は、沈殿池1における全体的な処理水の流れの方向と平行となるよう配置されてもよい。
第1傾斜部611の高さ位置を流速に基づいて決定する場合には、流速の範囲は0.3[m/min]以下に限られない。下水の最終沈殿池については流速の上限を0.3[m/min]とすると好適な場合があるが、下水の最初沈殿池では、第1傾斜部611の直下における流速の上限が0.3〜1.2[m/min]の範囲内となる高さ位置に第1傾斜部611を配置するようにしてもよい。また、上水の沈殿池では、第1傾斜部611の直下における流速の上限が0.08〜0.6[m/min]の範囲内となる高さ位置に第1傾斜部611を配置するようにしてもよい。
傾斜部61とフレーム61bとを遊びを持たせて連結する構成は、図8に示す構成に限定されない。図14は、図8に示す傾斜部61とフレーム61bとを連結する連結部61cの変形例を示す斜視図である。図14に示す例において、連結部61cは、傾斜部61に固定された部分と、フレーム61bの棒状の横枠部61b1を挿通させる貫通孔とを有している。この例において、横枠部61b1の直径よりも連結部61cの貫通孔の直径を大きくすることで、傾斜部61とフレーム61bとを遊びを持たせて連結することが可能である。
また、傾斜部61をフレーム61bに対して強固に連結する場合は、たとえば、横枠部61b1と縦枠部61b2との連結部に遊びを持たせてもよい。具体的には、横枠部61b1と縦枠部61b2との連結部を、長孔とピンによって構成し、長孔とピンとの間に少なくとも一方向の遊びまたは空隙を形成する。さらにフレームを分割可能な複数の部品によって構成し、各部品の連結部を長孔とピンによって構成し、長孔とピンとの間に少なくとも一方向の遊びまたは空隙を形成してもよい。
図15は、図9の昇降部62の変形例を示す拡大断面図である。図9に示す例において、昇降部62を構成するエアシリンダ65は鉛直方向に沿って配置され、ピストンロッド65aの伸縮方向は鉛直方向に沿う方向であった。これに対し、図15に示す変形例では、エアシリンダ65は水平方向に沿って配置され、ピストンロッド65aの伸縮方向は水平方向に沿う方向である。また、この変形例において、昇降部62は、レバー機構70を備えている。
図15に示す変形例において、エアシリンダ65は、たとえば、固定ブラケット12および支軸13を介して、沈殿池1の外縁部に支持されて固定されている。レバー機構70は、たとえば、第1アーム71と、第2アーム72と、支軸73と、連結軸74とを備えている。
第1アーム71は、たとえば、鉛直方向に沿って延びている。第2アーム72は、たとえば、第1アーム71の下端に連結されて水平方向に沿って延びている。第1アーム71の鉛直方向に沿う長さは、第2アーム72の水平方向に沿う長さよりも長い。第1アーム71と第2アーム72は、おおむねL字状の形状を成している。支持部64は、第2アーム72の上に固定されている。
支軸73は、たとえば、沈殿池1の幅方向(Y軸方向)に沿って延び、第1アーム71と第2アーム72との連結部に取り付けられている。支軸73は、たとえば、第1アーム71および第2アーム72を、支軸73を中心に回動自在に支持している。連結軸74は、たとえば、第1アーム71の上部に取り付けられ、第1アーム71とピストンロッド65aとを連結している。
このような構成により、図15に示す変形例に係る昇降部62は、エアシリンダ65のピストンロッド65aが収縮すると、支軸73を中心に第1アーム71と第2アーム72が回動して、支持部64が上昇する。また、昇降部62は、エアシリンダ65のピストンロッド65aが伸長すると、支軸73を中心に第1アーム71と第2アーム72が回動して、支持部64が上昇した位置から元の位置へ下降する。
図15に示す変形例に係る昇降部62においても、図9に示す昇降部62と同様に、支持部64の下降速度が、支持部64の上昇速度よりも高速になるように構成することができる。すなわち、スピードコントローラ66は、たとえば、ピストンロッド65aの伸長時にエアシリンダ65から排出された空気を通過させる流量制御弁の空気流量が、ピストンロッド65aの収縮時にエアシリンダ65から排出された空気を通過させる流量制御弁の空気流量よりも多くされている。また、沈殿装置6(とくに傾斜部61)の自重がエアシリンダ65に作用して、下降速度が上昇速度よりも高速になるようになっている。