排気タービン式過給機のための軸受構造部は広く知られている。排気タービン式過給機の軸受構造部は、排気タービン式過給機の回転体アセンブリを軸支しており、その回転体アセンブリは、コンプレッサ羽根車と、このコンプレッサ羽根車と一体回転するように連結回転軸を介してこのコンプレッサ羽根車に連結されたタービン羽根車とを含んでいる。軸受構造部は連結回転軸を軸支するための軸受を備えており、その軸受には様々な種類のものがある。多くの場合、アキシャル軸受とラジアル軸受との両方の機能を兼ね備えた滑り軸受が用いられている。また、特に摩擦に関して好適な軸支を可能とするべくローラ軸受が用いられることもある。かかる軸受構造部は、コンプレッサ羽根車を収容している吸気流通部と、タービン羽根車を収容している排気流通部との間に設けられている。
今日では、排気タービン式過給機は、ディーゼルエンジン車であるとガソリンエンジン車であるとを問わず、略々いかなる種類の自動車にも好適に用い得るものとなっている。エンジンのたゆまぬ改良の結果として、また特に、低燃費化のための改良が絶え間なく続けられた結果として、最近では、エンジンの排気温度は非常な高温となるに至っており、その高温の排気が、さほどの温度低下を来すこともなく、排気タービン式過給機の排気流通部に流入している。
流入する排気が高温であることから排気流通部が熱せられ、そこから更に壁部の熱伝導により軸受構造部が熱せられる。しかるに軸受構造部は、軸受を潤滑する潤滑油がその中を流れるように構成されており、それゆえ軸受構造部には冷却を施す必要がある。その冷却のために水冷ジャケットが備えられている。水冷ジャケットのうちには鋳造により製作されるものもあれば、金属板製の部品として製作されるものもある。水冷ジャケットを用いることで軸受構造部及び/または排気流通部の中に冷却水を流すことができる。
特許文献1(ドイツ特許出願公開公報DE 10 2008 011 258 A1号)に、排気タービン式過給機のための軸受構造部が開示されている。この軸受構造部の水冷ジャケットは、この軸受構造部とタービンハウジングとを少なくとも部分的に囲繞する形状の金属板製ジャケットとされている。この金属板製ジャケットには、冷却水が漏れないように封止するのが容易でないという問題がある。
本発明の目的は、改良した水冷ジャケットを備えた排気タービン式過給機のための軸受構造部を提供することにある。また更なる目的は、改良した排気タービン式過給機を提供することにある。
本発明によれば、上記目的は請求項1に記載した特徴を備えた排気タービン式過給機のための軸受構造部により達成される。また本発明によれば、上記更なる目的は請求項9に記載した特徴を備えた排気タービン式過給機により達成される。従属請求項は本発明の好適且つ重要な構成上の特徴を備えた特に有利な構成例を記載したものである。
本発明に係る排気タービン式過給機のための軸受構造部は、前記排気タービン式過給機の回転体アセンブリの連結回転軸が挿通される挿通孔を備えている。該軸受構造部は前記連結回転軸を軸支する軸受部材を保持するように構成されており、潤滑油を前記軸受部材に供給するための潤滑油循環流路が、少なくとも部分的に該軸受構造部の中に形成されている。該軸受構造部の構成部品の温度を低下させるために、冷却液の貫流流路を構成している冷却ジャケットが備えられている。本発明によれば、前記冷却ジャケットは、冷却液流路と、流入流路と、流出流路とを含んでおり、前記流入流路は第1流路接続部において前記冷却液流路に流路接続しており、前記流出流路は第2流路接続部において前記冷却液流路に接続して貫流流路を構成しており、前記冷却液流路に突条部が備えられている。前記突条部により得られる利点は、冷却液の流れを好適に配分し得ることにあり、この利点は前記突条部を前記流路接続部に対向する位置に設けることで特に顕著となる。冷却液の流れの好適な配分は、前記第1流路接続部に対向する位置と前記第2流路接続部に対向する位置との各々に前記突条部を設けることで更に優れたものとなり、また、冷却液の流れが好適に配分されることで、冷却液による冷却能力が向上する。そして、冷却液による冷却能力が向上することによって、温度がより均一化されることから、前記軸受構造部に発生する熱応力が顕著に低下するという利点が得られる。更にその結果として、前記軸受構造部の使用寿命が伸び、ひいては、前記軸受構造部を備えた排気タービン式過給機の使用寿命が伸びることにもなる。
冷却能力を更に向上させるには、前記突条部が、良好な流れ状態が得られるように湾曲形状に形成された突条部正面表面を有するようにする。ここでいう突条部正面表面とは、前記突条部の表面のうち、前記流路接続部に対向しており、しかも前記流路接続部に最も近接している部分の表面である。こうしておけば、前記冷却液流路へ流入する冷却液の流れに剥離が生じるという問題が生じない。また、前記流出流路の近傍領域に設ける前記突条部についても同様に、当該突条部が、良好な流れ状態が得られるように湾曲形状に形成された突条部正面表面を有するようにすることで、流出する冷却液の流れを、渦が発生しない流れにすることができる。
別の1つの構成例によれば、前記突条部は台形の断面形状を有しており、このようにすることで、前記冷却液流路に、また特に前記冷却液流路のうちの前記流入流路の近傍部分に、冷却液の非流動領域が発生するのを回避することができ、もって、冷却能力を更に向上させることができる。これに対して、前記突条部の断面形状を長方形にした場合には、冷却液の流速によっては当該突条部の近傍部分に冷却液の非流動領域が発生するおそれがあり、なぜならば、冷却液がその流速で当該突条部の突条部正面表面に衝突して、その突条部正面表面から両側へ分かれて流れる際に、その突条部正面表面の延展方向へ放たれるように流れが剥離するからである。
また、前記突条部が突条部側方表面を有しており、該突条部側方表面と冷却液流路底部表面との間を接続する接続表面が形成されており、該接続表面が湾曲形状に形成されているようにすることで、冷却液による冷却能力を更に向上させることができる。
また、前記流路接続部が、良好な流れ状態が得られるように湾曲形状に形成された周縁部を有するようにすることで、冷却液による冷却能力を更に向上させることができる。
別の1つの構成例によれば、前記冷却ジャケットはロストフォーム鋳造法により製作されたものとしている。この場合、前記冷却ジャケットを前記軸受構造部に完全に一体化することができ、従って冷却液の漏れが決して生じない構造とすることができる。
本発明の第2の局面は、請求項1乃至8の何れか1項記載の軸受構造部を備えた排気タービン式過給機に関するものである。かかる排気タービン式過給機の利点は、改良によって従来の軸受構造部と比べてより冷却能力が向上した前記軸受構造部を備えているため、排気の温度が同じである場合に排気タービン式過給機の使用寿命を格段に長くすることができ、また、排気タービン式過給機の使用寿命が既に十分に長い場合には排気タービン式過給機へ供給する排気の燃焼温度をより高温にすることができる。それによって例えば、エンジンの効率をより高めることなども可能となる。
本発明の更なる利点、特徴、及び細部構成については、以下に示す好適な実施の形態についての説明を参照し、また添付図面を参照することにより明らかとなる。以上の説明中で言及した様々な特徴及びそれら特徴の組合せ、並びに、添付図面に関連した以下の説明中で言及し、及び/または、図面中に示す様々な特徴及びそれら特徴の組合せは、それら説明ないし図面に示した通りの組合せで利用し得るばかりでなく、それとは異なる組合せで利用することもでき、また、個々の特徴を単独で利用することも可能なものであって、そのように特徴を利用した場合でも本発明の範囲から逸脱するものではない。
図1にその構成を示したのは、本発明に係る軸受構造部1であり、これは本発明に係る排気タービン式過給機2の軸受構造部である。軸受構造部1は、回転体アセンブリ(不図示)の連結回転軸(不図示)が挿通される挿通孔4を備えており、挿通孔4は縦方向軸心(回転軸心)3に沿って延在している。また、挿通孔4は連結回転軸を軸支する軸受部材(不図示)を保持するように構成されている。軸受部材は軸受構造部の中を流れる潤滑油によって潤滑されており、その潤滑油は潤滑油循環流路13を介して軸受構造部1へ流入しまた軸受構造部1から流出するようにしてある。
軸受構造部1は、排気タービン式過給機2の排気流通部5に隣接して設けられている。排気流通部5は、回転体アセンブリのタービン羽根車(不図示)を羽根車チャンバ6の中に収容するように構成されている。羽根車チャンバ6は排気流通部5の渦巻流路7の下流側に形成されており、渦巻流路7から羽根車チャンバ6へ排気が流れる貫流流路が形成されている。渦巻流路7の上流側には、排気流通部5の流入流路(不図示)が形成されており、この流入流路は排気流通部5へ気体を流入させるための流路であって、流入する気体は通常、エンジン(不図示)の排気そのものである。羽根車チャンバ6の下流側には、流出流路8が形成されており、この流出流路8が羽根車チャンバ6に接続することで貫流流路が構成されている。
排気流通部5はエンジン(不図示)に接続されており、そのエンジンの排気が流入流路を介して渦巻流路7へ流入して、タービン羽根車を駆動する。エンジンの動作中には、排気流通部5の中を貫流して流れる排気によってこの排気流通部5の構成部材が熱せられて高温になっている。エンジンの動作中には更に、軸受構造部1の構成部材もまた高温になっており、それは、軸受構造部1が、排気流通部5に隣接して設けられているために間接的にではあるが高温の排気の流れの影響を受けるからである。
軸受構造部1を冷却するために、冷却ジャケット9が備えられており、この冷却ジャケット9は挿通孔4を少なくとも部分的に覆う形状に形成されている。この冷却ジャケット9は、排気流通部5に近接した位置に配設される軸受を冷却するのに特に適した位置に備えられており、その軸受は例えば滑り軸受の形態のラジアル軸受などである。
冷却ジャケット9は、全周形の形状に(換言するならば円環形の形状に)形成された冷却液流路10を備えていると共に、更に、流入流路11と流出流路12とを備えており、それら流入流路11及び流出流路12は冷却液流路10に接続して貫流流路を構成している。流入流路11は、冷却液を冷却液流路10へ流入させるために設けられている流路である。流出流路12は、加熱された冷却液を冷却液流路10から冷却循環流路へ流出させるために設けられており、流出した冷却液は、その冷却循環流路において冷却温度にまで冷却された後に、流入流路11を通って再び冷却液流路10へ流入する。
流入流路11へ冷却液を流入させる接続要素(不図示)と、流出流路12から冷却液を流出させる接続要素(不図示)とを取付けるために、軸受構造部1には、それら接続要素の各々に1つずつが対応した2つの取付部14が備えられており、それら取付部は孔部の形態に形成されている。
図2は、本発明に係る軸受構造部1の横断面を、排気流通部5を眺める方向で見た切断斜視図である。冷却液流路10に第1突条部15と第2突条部16とが備えられており、それら突条部15、16は回転軸心を間に挟んで互いに反対側に位置している。第1突条部15は流入流路11の流路接続部に形成されており、第2突条部16は流出流路12の流路接続部に形成されている。より詳しくは、流入流路11と冷却液流路10との接続箇所に第1流路接続部17が形成されており、この第1流路接続部17の下流側であってこの第1流路接続部17に対向する位置に、第1突条部15が形成されている。また、流出流路12と冷却液流路10との接続箇所に第2流路接続部18が形成されており、この第2流路接続部18の上流側であってこの第2流路接続部18に対向する位置に、第2突条部16が形成されている。
各々の突条部15、16は、良好な流れ状態が得られるように湾曲形状に形成されており、即ち、各々の流路接続部17、18に対向している表面である突条部正面表面19が湾曲形状に形成されると共に、突条部側方表面20と冷却液流路底部表面21との間を接続する接続表面24も湾曲形状に形成されている。また、各々の突条部15、16は、台形の断面形状25を有する。
図3は、軸受構造部1のうちの冷却液流入部の近傍部分を取出して示した切断斜視図であり、同図には流入流路11の断面が示されている。この図3から明らかなように、第1突条部15は、流入流路11を冷却液流路10に接続して貫流流路を構成している第1流路接続部17に、対向する位置に設けられている。
図4及び図5は、第1突条部15及び第2突条部16の夫々の近傍を流れる冷却液の流線の具体例を説明するための図である。流入流路11から流入する冷却液は、冷却液流路10の内壁表面26に沿って流れ、その際に、第1突条部15によって配分されて2つの部分流となる。これによって、冷却液流路10に流入する冷却液の流れは、乱流を発生することのない一定した流れとなる。同様にして、冷却液流路10から流出する冷却液の流れも、第2突条部16によって、良好な流れ状態で流出する流れとなる。
冷却ジャケット9は、鋳造法により製作されたものであり、より詳しくは、ロストフォーム鋳造法により製作されたものである。この鋳造法では、反復使用不可のコア22が用いられ、このコア22が反復使用不可であるのは、軸受構造部1の熱が冷めた後に、このコア22が破壊されるからである。図6は、冷却ジャケット9を製作するためのコア22を示した図であり、同図に条溝の形で示されている部分が突条部15、16に対応した部分である。このコア22は冷却ジャケット9の陰型として形成されている。冷却液流路10に流入する冷却液の流れ及び冷却液流路10から流出する冷却液の流れの流れ状態を向上させるために、流路接続部17、18についても、良好な流れ状態が得られるように丸みを付けた形状に形成された周縁部23を有するものとし、それによって、流れの剥離を発生させるおそれのある角の立ったエッジが形成されないようにしている。
冷却液流路10については、軸受構造部1の冷却に関する所要諸条件に適合するように設計すればよく、また、突条部15、16の形成位置、高さ寸法、及び丸み半径については、流体工学的に良好な結果が得られるようにそれらを定めればよい。