(1)エンジンの全体構成
図1は、本発明のエンジンの制御方法および制御装置が適用されたエンジンの全体構成を概略的に示したシステム図である。本図に示されるエンジンシステムは、車両に搭載されており、走行用の動力源となるエンジン本体1を備える。本実施形態では、エンジン本体1として、4サイクルのガソリン直噴エンジンが用いられている。エンジン本体1は、後述するように、燃料と空気とが混合した混合気の少なくとも一部を自着火により燃焼させることが可能な圧縮着火式エンジンである。エンジンシステムは、エンジン本体1に加えて、エンジン本体1に導入される吸気が流通する吸気通路30と、エンジン本体1から排出される排気が流通する排気通路40と、排気通路40を流通する排気の一部を吸気通路30に還流するEGR装置50を備えている。
エンジン本体1は、気筒2が内部に形成されたシリンダブロック3と、気筒2を上から閉塞するようにシリンダブロック3の上面に取り付けられたシリンダヘッド4と、気筒2にそれぞれ往復摺動可能に挿入されたピストン5とを有している。エンジン本体1は、複数の気筒2(例えば、図1の紙面と直交する方向に並ぶ4つの気筒2)を有する多気筒型のものであるが、ここでは簡略化のため、1つの気筒2のみに着目して説明を進める。
ピストン5の上方には燃焼室6が画成されており、燃焼室6には、ガソリンを主成分とする燃料が、後述するインジェクタ15からの噴射によって供給される。そして、供給された燃料が燃焼室6で空気と混合されつつ燃焼し、その燃焼による膨張力で押し下げられたピストン5が上下方向に往復運動する。なお、燃焼室6に噴射される燃料には、主成分としてガソリンを含有したものが用いられる。この燃料には、ガソリンに加えてバイオエタノール等の副成分が含まれてもよい。インジェクタ15は、1燃焼サイクル中に複数回にわけて燃料を噴射できるように構成されている。本実施形態では、インジェクタ15が請求項の「燃料噴射手段」に相当する。
ピストン5の下方には、エンジン本体1の出力軸であるクランク軸7が設けられている。クランク軸7は、ピストン5とコネクティングロッド8を介して連結され、ピストン5の往復運動(上下運動)に応じて中心軸回りに回転駆動される。
気筒2の幾何学的圧縮比、つまりピストン5が上死点にあるときの燃焼室6の容積とピストン5が下死点にあるときの燃焼室6の容積との比は、後述するSPCCI燃焼(部分圧縮着火燃焼)に好適な値として、13以上30以下に設定される。
シリンダブロック3には、クランク軸7の回転角度(クランク角)およびクランク軸7の回転数(エンジン回転数)を検出するクランク角センサSN1が設けられている。また、シリンダブロック3には、シリンダブロック3に形成されたウォータジャケットを流通してエンジン本体1を冷却するためのエンジン冷却水の温度つまりエンジン水温を検出するエンジン水温センサSN2が設けられている。
シリンダヘッド4には、燃焼室6に開口する吸気ポート9および排気ポート10と、吸気ポート9を開閉する吸気弁11と、排気ポート10を開閉する排気弁12とが設けられている。なお、当実施形態のエンジンのバルブ形式は、吸気2バルブ×排気2バルブの4バルブ形式であり、吸気ポート9、排気ポート10、吸気弁11および排気弁12は、1つの気筒2についてそれぞれ2つずつ設けられている。本実施形態では、1つの気筒2に接続された2つの吸気ポート9のうちの一方に、開閉可能なスワール弁18が設けられており、気筒2内のスワール流(気筒軸線の回りを旋回する旋回流)の強さが変更されるようになっている。
吸気弁11および排気弁12は、シリンダヘッド4に配設された一対のカム軸等を含む動弁機構13、14により、クランク軸7の回転に連動して開閉駆動される。
吸気弁11用の動弁機構13には、吸気弁11の少なくとも開時期を変更可能な吸気VVT13aが内蔵されている。同様に、排気弁12用の動弁機構14には、排気弁12の少なくとも閉時期を変更可能な排気VVT14aが内蔵されている。
本実施形態では、吸気VVT13aおよび排気VVT14aの制御により、排気弁12の閉弁時期が吸気弁11の開弁時期よりも遅角側の時期となって吸気弁11および排気弁12がともに所定の期間開弁するバルブオーバーラップが実現されるようになっている。また、吸気VVT13aおよび排気VVT14aの制御により、吸気弁11と排気弁12の双方が開弁する期間であるバルブオーバーラップ期間が変更されるようになっている。吸気弁11と排気弁12とがバルブオーバーラップするように駆動されると、燃焼室6から吸気通路30と排気通路40の少なくとも一方に既燃ガスが排出された後、この既燃ガスが再び燃焼室6に導入される内部EGRが行われる。これにより、燃焼室6に既燃ガス(内部EGRガス)が残留することになる。燃焼室6に残留する既燃ガスである内部EGRガスの量は、バルブオーバーラップ期間によって変化し、前記のバルブオーバーラップ期間の調整によって内部EGRガスの量が調整される。なお、吸気VVT13a(排気VVT14a)は、吸気弁11(排気弁12)の開時期(閉時期)を固定したまま閉時期(開時期)のみを変更するタイプの可変機構であってもよいし、吸気弁11(排気弁12)の開時期および閉時期を同時に変更する位相式の可変機構であってもよい。
シリンダヘッド4には、燃焼室6に燃料(主にガソリン)を噴射するインジェクタ15と、インジェクタ15から燃焼室6に噴射された燃料と燃焼室6に導入された空気との混合気に点火する点火プラグ16とが設けられている。シリンダヘッド4には、さらに、燃焼室6の圧力である筒内圧を検出する筒内圧センサSN3が設けられている。前記の点火プラグ16は、請求項の「点火手段」に相当する。
インジェクタ15は、その先端部に複数の噴孔を有した多噴孔型のインジェクタであり、当該複数の噴孔から放射状に燃料を噴射することが可能である。インジェクタ15は、その先端部がピストン5の冠面の中心部と対向するように設けられている。なお、本実施形態では、ピストン5の冠面に、その中央部を含む領域をシリンダヘッド4とは反対側(下方)に凹陥させたキャビティが形成されている。
点火プラグ16は、インジェクタ15に対し吸気側に幾分ずれた位置に配置されている。
吸気通路30は、吸気ポート9と連通するようにシリンダヘッド4の一側面に接続されている。吸気通路30の上流端から取り込まれた空気(吸気、新気)は、吸気通路30および吸気ポート9を通じて燃焼室6に導入される。
吸気通路30には、その上流側から順に、燃焼室6(気筒2)に導入される吸気(空気)に含まれる異物を除去するエアクリーナ31と、スロットル弁32と、吸気を圧縮しつつ送り出す過給機33と、過給機33により圧縮された吸気を冷却するインタークーラ35と、サージタンク36とが設けられている。スロットル弁32は、スロットル弁32は、吸気通路30を開閉する開閉弁であり、スロットル弁32の開度によって燃焼室6(気筒2)に導入される空気の量が変更される。
吸気通路30の各部には、吸気の流量である吸気量を検出するエアフローセンサSN4と、吸気の温度である吸気温を検出する吸気温センサSN5とが設けられている。エアフローセンサSN4は、吸気通路30におけるエアクリーナ31とスロットル弁32との間の部分に設けられ、当該部分を通過する吸気の流量を検出する。吸気温センサSN5は、サージタンク36に設けられ、当該サージタンク36内の吸気の温度を検出する。
過給機33は、エンジン本体1と機械的に連係された機械式の過給機(スーパーチャージャ)である。過給機33の具体的な形式は特に問わないが、例えばリショルム式、ルーツ式、または遠心式といった公知の過給機のいずれかを過給機33として用いることができる。
過給機33とエンジン本体1との間には、締結と解放を電気的に切り替えることが可能な電磁クラッチ34が介設されている。電磁クラッチ34が締結されると、エンジン本体1から過給機33に駆動力が伝達されて、過給機33による過給が行われる。一方、電磁クラッチ34が解放されると、前記駆動力の伝達が遮断されて、過給機33による過給が停止される。
吸気通路30には、過給機33をバイパスするためのバイパス通路38が設けられている。バイパス通路38は、サージタンク36と後述するEGR通路51とを互いに接続している。バイパス通路38には開閉可能なバイパス弁39が設けられている。バイパス弁39は、サージタンク36に導入される吸気の圧力つまり過給圧を調整するための弁である。例えば、バイパス弁39の開度が大きくなるほど、バイパス通路38を通過する吸気の流量が多くなる結果、過給圧は低くなる。
排気通路40は、排気ポート10と連通するようにシリンダヘッド4の他側面に接続されている。燃焼室6で生成された既燃ガス(排気)は、排気ポート10および排気通路40を通じて外部に排出される。
排気通路40には触媒コンバータ41が設けられている。触媒コンバータ41には、排気に含まれる有害成分(HC、CO、NOx)を浄化するための三元触媒41aと、排気中に含まれる粒子状物質(PM)を捕集するためのGPF(ガソリン・パティキュレート・フィルタ)41bとが、この順で上流側から内蔵されている。なお、触媒コンバータ41の下流側に、三元触媒やNOx触媒等の適宜の触媒を内蔵した別の触媒コンバータを追加してもよい。
EGR装置50は、排気通路40と吸気通路30とを接続するEGR通路51と、EGR通路51に設けられたEGRクーラ52およびEGR弁53とを有している。EGR通路51は、排気通路40における触媒コンバータ41よりも下流側の部分と、吸気通路30におけるスロットル弁32と過給機33との間の部分とを互いに接続している。EGRクーラ52は、EGR通路51を通じて排気通路40から吸気通路30に還流される排気(外部EGRガス)を熱交換により冷却する。EGR弁53は、EGRクーラ52よりも下流側(吸気通路30に近い側)のEGR通路51に開閉可能に設けられ、EGR通路51を流通する排気の流量を調整する。
EGR通路51には、EGR弁53の上流側の圧力と下流側の圧力との差を検出するための差圧センサSN6が設けられている。
(2)制御系統
図2は、エンジンの制御系統を示すブロック図である。本図に示されるECU100は、エンジンを統括的に制御するためのマイクロプロセッサであり、周知のCPU150、メモリ160(ROM、RAM)等から構成されている。
ECU100には各種センサによる検出信号が入力される。例えば、ECU100は、前述したクランク角センサSN1、エンジン水温センサSN2、筒内圧センサSN3、エアフローセンサSN4、吸気温センサSN5、差圧センサSN6と電気的に接続されており、これらのセンサによって検出された情報(つまりクランク角、エンジン回転数、エンジン水温、筒内圧、吸気量、吸気温、EGR弁53の前後差圧)がECU100に逐次入力されるようになっている。
また、車両には、当該車両を運転するドライバーにより操作されるアクセルペダルの開度を検出するアクセルセンサSN8が設けられており、このアクセルセンサSN8による検出信号もECU100に入力される。
ECU100は、前記各センサからの入力信号に基づいて種々の判定や演算等を実行しつつエンジンの各部を制御する。すなわち、ECU100は、吸気VVT13a、排気VVT14a、インジェクタ15、点火プラグ16、スワール弁18、スロットル弁32、電磁クラッチ34、バイパス弁39、およびEGR弁53等と電気的に接続されており、前記演算の結果等に基づいてこれらの機器にそれぞれ制御用の信号を出力する。
ECU100は、機能的に、後述するように混合気の燃焼状態を判定する異常燃焼判定部110と、インジェクタ15を制御する燃料噴射制御部120とを備え、異常燃焼判定部110は請求項の「判定手段」に相当し、燃料噴射制御部120は、請求項の「噴射制御手段」にする。
(3)基本制御
図3は、エンジン回転数とエンジン負荷とに応じた運転モードの相違を説明するためのマップ図である。本図に示すように、エンジンの運転領域は、3つの運転領域、第1運転領域Aと第2運転領域Bと第3運転領域Cとに大別される。
第3運転領域Cは、エンジン回転数が所定のSI実施回転数N1以上の領域である。第1運転領域Aは、エンジン回転数がSI実施回転数N1未満の領域のうちエンジン負荷が所定の切替負荷T1未満の領域である。第2運転領域Bは、第1運転領域Aと第3運転領域C以外の残余の領域であり、エンジン回転数がSI実施回転数N1未満の領域のうちエンジン負荷が所定の切替負荷T1以上の領域である。
第1運転領域Aおよび第2運転領域Bでは、SI燃焼とCI燃焼とをミックスした圧縮着火燃焼(以下、これをSPCCI燃焼という)が実行される。なお、SPCCI燃焼における「SPCCI」とは、「Spark Controlled Compression Ignition」の略である。
SI燃焼とは、火花点火燃焼であって、点火プラグ16により混合気に点火し、その点火点から周囲へと燃焼領域を拡げていく火炎伝播により混合気を強制的に燃焼させる形態のことである。CI燃焼とは、ピストン5の圧縮により高温・高圧化された環境下で混合気を自着火により燃焼させる形態のことである。そして、これらSI燃焼とCI燃焼とをミックスしたSPCCI燃焼とは、混合気が自着火する寸前の環境下で行われる火花点火により燃焼室6内の混合気の一部をSI燃焼させ、当該SI燃焼の後に(SI燃焼に伴うさらなる高温・高圧化により)燃焼室6内の残りの混合気を自着火によりCI燃焼させる、という燃焼形態のことである。
図4は、SPCCI燃焼が起きたときのクランク角に対する熱発生率(J/deg)の変化と熱発生量の変化とを示したグラフである。SPCCI燃焼では、SI燃焼時の熱発生がCI燃焼時の熱発生よりも穏やかになる。例えば、SPCCI燃焼が行われたときの熱発生率の波形は、図4に示すように、立ち上がりの傾きが相対的に小さくなる。また、燃焼室6における圧力変動(つまりdP/dθ:Pは筒内圧 θはクランク角度)も、SI燃焼時はCI燃焼時よりも穏やかになる。言い換えると、SPCCI燃焼時の熱発生率の波形は、SI燃焼によって形成された相対的に立ち上がりの傾きが小さい第1熱発生率部(M1で示した部分)と、CI燃焼によって形成された相対的に立ち上がりの傾きが大きい第2熱発生部(M2で示した部分)とが、この順に連続するように形成される。
SI燃焼によって、燃焼室6内の温度および圧力が高まると、これに伴い未燃混合気が自着火し、CI燃焼が開始される。図4に例示するように、この自着火のタイミング(つまりCI燃焼が開始するタイミング)で、熱発生率の波形の傾きが小から大へと変化する。すなわち、SPCCI燃焼における熱発生率の波形は、CI燃焼が開始するタイミングで現れる変曲点(図4のX)を有している。
CI燃焼の開始後は、SI燃焼とCI燃焼とが並行して行われる。CI燃焼は、SI燃焼よりも熱発生が大きいため、熱発生率は相対的に大きくなる。ただし、CI燃焼は、圧縮上死点の後に行われるため、熱発生率の波形の傾きが過大になることはない。すなわち、圧縮上死点を過ぎるとピストン5の下降によりモータリング圧力が低下するので、このことが熱発生率の上昇を抑制する結果、CI燃焼時のdP/dθが過大になることが回避される。このように、SPCCI燃焼では、SI燃焼の後にCI燃焼が行われるという性質上、燃焼騒音の指標となるdP/dθが過大になり難く、単純なCI燃焼(全ての燃料をCI燃焼させた場合)に比べて燃焼騒音を抑制することができる。
CI燃焼の終了に伴いSPCCI燃焼も終了する。CI燃焼はSI燃焼に比べて燃焼速度が速いので、単純なSI燃焼(全ての燃料をSI燃焼させた場合)に比べて燃焼終了時期を早めることができる。言い換えると、SPCCI燃焼では、燃焼終了時期を膨張行程内において圧縮上死点に近づけることができる。これにより、SPCCI燃焼では、単純なSI燃焼に比べて燃費性能を向上させることができる。
(a)第1運転領域A
第1運転領域Aでは、燃費性能を高めるために、燃焼室6内の空燃比(A/F)が理論空燃比よりも高く(リーンに)されつつSPCCI燃焼が実施される。第1運転領域Aでは、燃焼室6内で生成されるNOxであるrawNOxの量が十分に小さくなる程度にまで燃焼室6内の空燃比が高くされる。例えば、第1運転領域Aにおいて燃焼室6内の空燃比は30程度とされる。
第1運転領域Aでは、前記の燃焼が実現されるようにエンジンの各部が次のように駆動される。
第1運転領域Aでは、インジェクタ15は、燃焼室6内の空燃比(A/F)が前記のように理論空燃比よりも高くなるような量の燃料を燃焼室6に噴射する。本実施形態では、1燃焼サイクル中に燃焼室6に供給すべき燃料のほぼ全量が吸気行程中に燃焼室6に噴射されるように、インジェクタ15が駆動される。例えば、第1運転領域Aでは、吸気行程中に大半の燃料が噴射され、圧縮行程中に2回に分けて残りの燃料が噴射される。
第1運転領域Aでは、点火プラグ16は、圧縮上死点付近で混合気に点火する。この点火をきっかけにSPCCI燃焼が開始され、燃焼室6内の一部の混合気が火炎伝播により燃焼(SI燃焼)し、その後に残りの混合気が自着火により燃焼(CI燃焼)する。なお、混合気を活性化させるために、圧縮上死点付近で実施する点火よりも前に追加で点火を行ってもよい。
第1運転領域Aでは、スロットル弁32の開度は全開または全開に近い開度とされる。
第1運転領域Aでは、EGR弁53は全閉とされて、燃焼室6に導入される外部EGRガスの量がゼロとされる。
内部EGRが実行されて燃焼室6に高温の既燃ガスが残留すれば、混合気の温度が高められることで混合気を適切にCI燃焼させることができる。これより、第1運転領域Aでは、吸気VVT13aおよび排気VVT14aは、吸気弁11と排気弁12をこれらがバルブオーバーラップするように駆動する。本実施形態では、吸気弁11と排気弁12とが、排気上死点を跨いで所定期間開弁するように駆動される。
第1運転領域Aでは、スワール弁18は全閉もしくは全閉に近い低開度まで閉じられる。
第1運転領域Aでは、過給機33の駆動は停止される。すなわち、電磁クラッチ34が解放されて過給機33とエンジン本体1との連結が解除されるとともに、バイパス弁39が全開とされることにより、過給機33による過給が停止される。
(b)第2運転領域
エンジン負荷が高い領域では、燃焼室6内に供給される燃料の量が多いことで混合気の空燃比を高く(リーンにする)のが困難になる。これより、第1運転領域Aよりもエンジン負荷が高い第2運転領域Bでは、燃焼室6内の空燃比を理論空燃比以下としつつ混合気をSPCCI燃焼させる。本実施形態では、第2運転領域Bにおいて、混合気の空燃比はほぼ理論空燃比とされる。
第2運転領域Bでは、スロットル弁32の開度は、後述する異常燃焼回避制御の実施時を除き、基本的に、エンジン負荷に対応した空気量が燃焼室6に導入されるように設定される。
第2運転領域Bでは、インジェクタ15は、前記のように空燃比が理論空燃比となるような量の燃料を燃焼室6に噴射する。本実施形態では、後述する異常燃焼回避制御の実施時を除き、基本的に、第1運転領域Aと同様に、インジェクタ15は、1燃焼サイクル中に燃焼室6内に噴射すべき燃料の大半を吸気行程中に噴射し、残りの燃料を吸気行程の後半から圧縮行程の前半にかけて噴射する。例えば、第2運転領域Bでは、図5に示すように、圧縮行程の中央付近(圧縮上死点前300°CA等)で1回目の燃料噴射(Q1)が開始され、吸気下死点BDC(圧縮上死点前180°CA)で2回目の燃料噴射(Q2)が開始される。2回目の燃料噴射の噴射量(2回目にインジェクタ15から噴射される燃料の質量)は、1回目の燃料噴射の噴射量(1回目にインジェクタ15から噴射される燃料の質量)よりも少ない。例えば、1燃焼サイクル中に燃焼室6に噴射される燃料の総量に対する2回目の燃料噴射の噴射量の割合は、10%程度とされる。以下では、前記のようにインジェクタ15が2回に分けて燃料を噴射する場合において、1回目の燃料噴射を前段噴射といい、2回目の燃料噴射を後段噴射という。また、前段噴射は請求項の「第1の燃料噴射」に相当し、後段噴射は請求項の「第2の燃料噴射」に相当する。
第2運転領域Bでも、点火プラグ16は、圧縮上死点付近で混合気に点火する。第2運転領域Bにおいても、この点火をきっかけにSPCCI燃焼が開始され、燃焼室6内の一部の混合気が火炎伝播により燃焼(SI燃焼)し、その後に残りの混合気が自着火により燃焼(CI燃焼)する。
第2運転領域Bでは、燃焼室6で生成されるNOxを低減するべく、EGR弁53が開かれて外部EGRガスが燃焼室6に導入される。ただし、エンジン負荷が高いときは多量の空気を燃焼室6に導入せねばならないため、外部EGRガスの燃焼室6への導入量を低減する必要がある。これより、第2運転領域Bでは、燃焼室6に導入される外部EGRガスの量が高負荷側ほど少なくなるようにEGR弁53の開度が制御され、エンジン負荷が最大となる領域ではEGR弁53は全閉にされる。
第2運転領域Bでも、吸気VVT13aおよび排気VVT14aは、吸気弁11と排気弁12を、これら吸気弁11と排気弁12とがバルブオーバーラップするように駆動する。
第2運転領域Bでは、スワール弁18は、全閉/全開を除いた適宜の中間開度まで開かれ、その開度は、エンジン負荷が高いほど大きくされる。
過給機33は、第2運転領域Bのうちエンジン回転数およびエンジン負荷がともに低い側では、停止される。一方、第2運転領域Bのその他の領域では、過給機33は稼働される。すなわち、電磁クラッチ34が締結されて過給機33とエンジン本体1とが連結される。このとき、サージタンク36内の圧力(過給圧)が、運転条件(回転数/負荷)ごとに予め定められた目標圧力に一致するように、バイパス弁39の開度が制御される。
(c)第3運転領域
第3運転領域Cでは、比較的オーソドックスなSI燃焼が実行される。このSI燃焼の実現のために、第3運転領域Cでは、インジェクタ15は、少なくとも吸気行程と重複する所定の期間にわたって燃料を噴射する。点火プラグ16は、圧縮上死点付近で混合気に点火する。第3運転領域Cでは、この点火をきっかけにSI燃焼が開始され、燃焼室6内の混合気の全てが火炎伝播により燃焼する。
第3運転領域Cでは、過給機33は稼働される。スロットル弁32は全開とされる。EGR弁53は、燃焼室6内の空燃比が理論空燃比以下となるようにその開度が制御される。例えば、第3運転領域Cでは、燃焼室6内の空燃比が理論空燃比もしくはこれよりやや小さくなるようにEGR弁53の開度が制御される。第3運転領域Cでは、スワール弁18は全開とされる。
(4)異常燃焼対策
第2運転領域Bでは、SPCCI燃焼が実施され、且つ、エンジン負荷が高いために、燃焼室6内の温度等が所望のレベルからずれたときに、筒内圧が所定の範囲を超えて急上昇するおそれがある。筒内圧が急上昇すると燃焼騒音が増大してしまう。そこで、本実施形態では、第2運転領域Bにおいて、燃焼騒音が所望のレベルを超えるような燃焼が生じたか否かを判定する。そして、このような燃焼が生じた場合には、これが連続して生じるのを回避するための制御を実施する。
(4−1)異常燃焼判定
筒内圧の大小は筒内圧センサSN3により検出することができる。しかしながら、本願発明者らは、単に筒内圧センサSN3で検出された値の最大値が所定値よりも高い場合に異常燃焼が生じたと判定する構成では、混合気の燃焼時に気筒内で生じる空洞共鳴に起因して判定精度が十分に確保されないことを突き止めた。
図6(a)は、エンジンの運転条件が互いに異なる第1条件と第2条件とにおいてエンジン本体1を稼働させたときに、エンジン本体1の周囲でマイクによって集音した音を周波数分析した結果である。図6(b)は、図6(a)と同じときに筒内圧センサで検出された筒内圧を周波数分析した結果である。図6(a)、図6(b)において、横軸は周波数、縦軸はスペクトルであり、実線は第1条件での結果、破線は第2条件での結果である。
図6(a)に示すように、第1条件での音のスペクトルは第2条件での音のスペクトルよりも大きく、第1条件の方が騒音は大きい。これに対して、図6(b)に示すように、周波数が4kHzよりも低い領域では第1条件の方が第2条件よりも明確に筒内圧のスペクトルが大きくなるものの、周波数が4kHz以上の領域では、一部の周波数を除き第1条件と第2条件とで筒内圧のスペクトルに差が見られなくなる。このように、低周波数成分の筒内圧のスペクトルつまり筒内圧の強度・大きさと騒音との相関は高いが、高周波数成分の筒内圧のスペクトルつまり筒内圧の強度・大きさと騒音との相関は小さい。
筒内圧の波形のうち高周波の成分は、燃焼室6内での空洞共鳴によって生成される波である。そのため、高周波数成分の筒内圧の圧力波については、燃焼室6内に節となる領域と腹となる領域が形成されることになる。
図7(a)、(b)は、燃焼室6の概略断面図であって、空洞共鳴によって生成された7kHzの筒内圧のスペクトルの分布を模式的に示した図である。図7(a)と図7(b)とには、燃焼中の所定のタイミングであって互いに異なるタイミングでの分布が示されている。図7(a)、(b)の例では、これら図の左右中央の部分G1が7kHzの圧力波の節となり、燃焼室6のうち図7(a)、(b)の右端部G3および左端部G2がそれぞれ7kHzの圧力波の腹となる。これより、図7(a)に示すように所定のタイミングでは、燃焼室6の左端部G2のスペクトルは最大になり、右端部G3のスペクトルは最小になるが、図7(b)に示すようにこの所定のタイミングからずれたタイミングでは、燃焼室6の左端部G2のスペクトルが最小になり、燃焼室6の右端部G3のスペクトルが最大になる。このように、燃焼室6の位置によって、得られる高周波数成分の筒内圧のスペクトルは大きく変化し、高周波数成分の筒内圧のスペクトルは、これを算出するのに用いた筒内圧を検出した位置であって筒内圧センサの設置位置によって大きく変化することになる。しかも、同じ周波数成分であっても、エンジンの回転数等によって圧力波の節および腹となる位置は変化する。
このようにして、前記のように、高周波数成分の筒内圧のスペクトルつまり筒内圧の強度・大きさと騒音との相関が確保されないという現象が起こり、騒音が過大になるような異常燃焼が生じたか否かを単に筒内圧の最大値で判定する構成では、判定精度が低くなる。
これに対して、低周波数成分の筒内圧の圧力波は空洞共鳴の影響をほとんど受けないので、筒内圧センサの設置位置によらず筒内圧の平均的な大きさを検出できる。これより、前記のように低周波数成分の筒内圧のスペクトルと騒音との相関は高くなる。
前記の知見に基づき、本実施形態では、筒内圧センサSN3で検出された筒内圧のうち低周波数成分のみを用いて異常燃焼が生じたか否かを判定する。
異常燃焼が生じたか否かの判定は異常燃焼判定部110にて実施される。図8は、異常燃焼判定部110で実施される異常燃焼判定の流れを示したブロック図である。異常燃焼判定部110は、機能的に、バンドパスフィルタ部111と、スペクトル算出部112と、減衰フィルタ部113と、最大筒内圧強度算出部114と、比較判定部115と、燃焼重心時期算出部116と、指標期間算出部117とを備える。
バンドパスフィルタ部111は、筒内圧センサSN3で検出された筒内圧のうち低周波数成分のみを抽出する。本実施形態では、筒内圧センサSN3で検出された筒内圧のうち第1周波数以下且つ第2周波数以上の周波数成分のみを抽出する。第1周波数は、空洞共鳴の影響を受けない筒内圧の周波数の最大値付近に設定されている。第2周波数は、燃焼に起因しない筒内圧つまりピストン5の往復動に伴って生じる筒内圧の波形の周波数の最大値付近の値に設定されている。例えば、第1周波数は4kHzに設定され、第2周波数は1kHzに設定される。なお、4kHzよりも高い周波数の音は比較的人の耳に感知されにくい。そのため、第1周波数を4kHzに設定した場合には、人が感知する騒音と筒内圧のレベルとの相関を確保できる。
スペクトル算出部112は、バンドパスフィルタ部111で抽出された筒内圧の低周波数成分をフーリエ解析して各周波数(第2周波数から第1周波数までの範囲で)のスペクトルを算出する。なお、スペクトル算出部112でフーリエ解析する前に、バンドパスフィルタ部111で抽出された筒内圧の低周波数成分から点火プラグ16の駆動に伴って生じた圧力変化つまり点火ノイズを除去する処理を行うようにしてもよい。
減衰フィルタ部113は、スペクトル算出部112で算出されたスペクトルに減衰フィルタをかける。つまり、燃焼室6内で生じた圧力波の一部はシリンダブロック3等で減衰され、エンジン本体1の外部に騒音として伝えられる音のレベルは低減する。減衰フィルタ部113は、スペクトル算出部112で算出されたスペクトルに対して、このような減衰を模擬した減衰フィルタをかける。本実施形態では、減衰フィルタ部113は、スペクトル算出部112で算出された各周波数のスペクトルから、図9のように各周波数についてそれぞれ設定された減衰量を差し引く。具体的には、図9の減衰フィルタは、第1周波数に向かって周波数が高くなるほど減衰量が小さくなるように設定されており、スペクトル算出部112で算出された各周波数のスペクトルは、周波数が高いほど小さい値が差し引かれることになる。
最大筒内圧強度算出部114は、減衰フィルタ部113で処理された後の第2周波数から第1周波数まで(第2周波数以上且つ第1周波数以下)の筒内圧波形のスペクトルの最大値を、最大筒内圧強度CPLFとして算出する。本実施形態では、減衰フィルタ部113で処理された後の筒内圧のスペクトルを1/3オクターブバンド化処理し、各帯域のスペクトルを算出した後、全帯域のスペクトルのうちの最大値を抽出する。1/3オクターブバンド化処理とは、周波数スペクトルの各オクターブ領域(ある周波数からその2倍の周波数までの領域)をそれぞれ3分割し、各分割帯域の筒内圧レベルを算出する処理のことである。例えば、1/3オクターブバンド化処理によって、1kHz、1.25kHz、1.6kHz、2kHz、2.5kHz、3.15kHz、4kHzをそれぞれ中心周波数とする各帯域のスペクトルが特定される。このようにして、本実施形態では、シリンダブロック3等によって減衰された後の低周波数成分の筒内圧のスペクトルの最大値が算出される。なお、前記の最大筒内圧強度CPLFは、請求項の「筒内圧強度」に相当する。
比較判定部115は、最大筒内圧強度算出部114で算出された最大筒内圧強度CPLFと予め設定された判定強度とを比較する。そして、比較判定部115は、最大筒内圧強度CPLFが判定強度を超えると、燃焼騒音が所望のレベルを超える燃焼が生じたと判定する。このような、燃焼騒音が所望のレベルを超える燃焼が生じるときの最大筒内圧強度CPLFは、80dB以上であることが分かっている。これより、判定強度は80dBに設定される。換言すると、本実施形態では、最大筒内圧強度CPLFが80dB未満の燃焼は正常な燃焼であると定義され、最大筒内圧強度CPLFが80dB以上となる燃焼が燃焼騒音が所望のレベルを超える燃焼であると定義される。
図10は、正常な燃焼が実現されたときの熱発生率(実線)と、最大筒内圧強度CPLFが80dB以上となる燃焼が生じたときの熱発生率(破線、鎖線)とを比較して示している。図10に示されるように、最大筒内圧強度CPLFが80dB以上となる燃焼が生じたときは正常な燃焼に比べて燃焼が早くに開始するとともに速くに進行する。ただし、同じように最大筒内圧強度CPLFが80dB以上となる場合であっても、図10の破線と鎖線のように、熱発生率が急激に立ち上がる時期つまりCI燃焼が開始する時期は一定ではない。
破線で示したようなCI燃焼が開始する時期が比較的遅い燃焼では、点火時期の変更によって混合気の燃焼の進行度を遅くすることができる。具体的には、点火時期を遅角させて膨張行程のより遅い時期に主たる燃焼を生じさせることで、燃焼速度を遅くすることができる。一方、鎖線で示したようなCI燃焼が開始する時期が比較的早く燃焼の進行度が過度に速い燃焼では、点火時期を変更しても混合気の燃焼の進行度を変更することができない。つまり、鎖線で示したような燃焼では、点火時期に至るまでに燃料と空気との反応が十分に進んでいるため、点火時期を変更しても混合気の燃焼の進行度を変更できず、点火時期に関わらず混合気が早期に自着火してしまう。
これに対応して、異常燃焼判定部110は、最大筒内圧強度CPLFが判定強度以上となる燃焼が生じたと判定した場合に、さらに、この燃焼が前記のいずれのパターンの燃焼であるかを判定する。すなわち、比較判定部115は、最大筒内圧強度CPLFが判定強度以上のときの燃焼が、点火時期の変更によって混合気の燃焼の進行度を変更可能な第1の異常燃焼であるか、点火時期の変更によって混合気の燃焼の進行度を変更不能な第2の異常燃焼であるかを判定する。以下では、適宜、第1の異常燃焼をノックといい、第2の異常燃焼をプリイグという。本実施形態では、この第2の異常燃焼つまりプリイグが、請求項の「異常燃焼」に相当する。
本実施形態では、図11に示すように、異常燃焼判定部110は、最大筒内圧強度CPLFが判定強度以上となる燃焼が生じたと判定した場合において、点火時期から燃焼重心時期までの指標期間が所定の判定期間よりも短い場合にプリイグと判定し、点火時期から燃焼重心時期までの指標期間が判定期間以上の場合にノックと判定する。燃焼重心時期は、1燃焼サイクル中に燃焼室6に供給される燃料の総量(質量)のうち50%の質量の燃料が燃焼を終了する時期である。本実施形態では、この燃料の総量(質量)のうち50%の質量の燃料が請求項の「1燃焼サイクル中に気筒に供給される燃料のうち所定の割合の量の燃料」に相当する。
燃焼重心時期算出部116は、筒内圧センサSN3で検出された筒内圧と、クランク角センサSN1で検出されたクランク角と、ECU100に記憶されている各クランク角における燃焼室6の容積とに基づいて、各クランク角における熱発生率を算出するとともに、これを積分して熱発生量を算出する。そして、図4に示すように、所定のクランク角における熱発生量を100%として、その50%の熱発生量が生じたクランク角を燃焼重心時期として算出する。
指標期間算出部117は、点火時期(ECU100から点火プラグ16に対して出された点火時期の指令値)から燃焼重心時期算出部116で算出された燃焼重心時期までの期間を指標期間として算出する。
比較判定部115は、指標期間算出部117で算出された指標期間と判定期間とを比較する。比較判定部115は、最大筒内圧強度CPLFが判定強度以上となる燃焼が生じたと判定した場合において、指標期間が判定期間未満のときはノックが発生したと判定する。
また、比較判定部115は、最大筒内圧強度CPLFが判定強度以上且つ指標期間が判定期間未満となる燃焼サイクルが、1つの気筒2で予め設定された判定回数以上連続して生じると、プリイグが発生したと判定する。つまり、本実施形態では、最大筒内圧強度CPLFが判定強度以上且つ指標期間が判定期間未満となる燃焼サイクルが単に1回生じただけではプリイグが発生したと判定せず、このような燃焼サイクルが同じ気筒2で判定回数以上連続してはじめてプリイグが発生したと判定する。判定期間および判定回数は予め設定されて比較判定部115に記憶されている。例えば、判定回数は2回に設定される。プリイグが発生するのは、指標期間が10°CA未満のときであることが分かっている。これより、判定期間は10°CAに設定されている。
図12のフローチャートを用いて、異常の異常燃焼判定の手順をまとめると次のようになる。図12に示したステップS1〜S19の各ステップは、各気筒2について各気筒2での燃焼が終了する毎に実施される。
ステップS1にて、異常燃焼判定部110は、筒内圧センサSN3で検出された筒内圧等を読み込む。
次に、ステップS2にて、異常燃焼判定部110は、現在のエンジンの運転ポイントが第2運転領域B内の運転ポイントであるか否かを判定する。
ステップS2の判定がNOであって現在の運転ポイントが第2運転領域B内の運転ポイントでない場合は、ステップS19に進む。ステップS19にて、異常燃焼判定部110は、カウンタ(i)を0にする。カウンタについては後述する。
一方、ステップS2の判定がYESであって現在の運転ポイントが第2運転領域B内の運転ポイントである場合、つまり、第2運転領域Bでエンジンが運転されている場合は、ステップS3に進む。
ステップS3にて、異常燃焼判定部110は、筒内圧センサSN3で検出された筒内圧に基づいて前記のように最大筒内圧強度CPLFを算出する。ステップS3の後はステップS4に進む。
ステップS4にて、異常燃焼判定部110は、筒内圧およびクランク角に基づいて前記のように指標期間すなわち点火時期から燃焼重心時期までの期間を算出する。ステップS4の後はステップS5に進む。
ステップS5にて、異常燃焼判定部110は、ステップS3で算出した最大筒内圧強度CPLFが判定強度未満であるか否かを判定する。
ステップS5の判定がYESであって最大筒内圧強度CPLFが判定強度未満のときはステップS6に進む。ステップS6にて、異常燃焼判定部110は、カウンタ(i)を0にするとともに、ステップS7に進んで、正常燃焼が行われていると判定して処理を終了する(ステップS1に戻る)。
一方、ステップS5の判定がNOであって最大筒内圧強度CPLFが判定強度以上のときはステップS8に進む。ステップS8にて、異常燃焼判定部110は、ステップS4で算出した指標期間が判定期間未満であるか否かを判定する。
ステップS8の判定がYESであって指標期間が判定期間未満のときはステップS9に進む。ステップS9にて、異常燃焼判定部110は、カウンタ(i)を先の演算サイクルで算出されたカウンタ(i−1)に1を足した値にする。ステップS9の後は、ステップS10に進む。
ステップS10にて、異常燃焼判定部110は、カウンタ(i)が判定回数以上であるか否かを判定する。ステップS10の判定がNOであってカウンタ(i)が判定回数未満の場合は、異常燃焼判定部110はそのまま処理を終了する(ステップS1に戻る)。
一方、ステップS10の判定がYESであってカウンタ(i)が判定回数以上の場合は、ステップS11に進み、異常燃焼判定部110はプリイグが発生したと判定する。
このようにカウンタは、1つの気筒で最大筒内圧強度CPLFが判定強度以上で且つ指標期間が判定期間未満という条件が成立した燃焼サイクルの連続回数を表したパラメータである。これより、前記のように、このカウンタは、第2運転領域Bでエンジンが運転されていない場合、あるいは、第2運転領域Bでエンジンが運転されている状態であっても前記条件が成立しない場合には、0になる。そして、前記のように、本実施形態では、この条件が1つの気筒2で判定回数以上連続すると、プリイグが発生したと判定される。
ステップS8に戻り、ステップS8の判定がNOであって指標期間が判定期間以上のときはステップS12に進む。ステップS12にて、異常燃焼判定部110は、カウンタ(i)を0にする。ステップS12の後はステップS13に進む。ステップS13にて、異常燃焼判定部110は、ノックが発生したと判定し、処理を終了する(ステップS1に戻る)。
(4−2)異常燃焼回避制御
次に、ノックおよびプリイグが発生した場合に、これらが連続して生じるのを回避するための制御である異常燃焼回避制御について説明する。
(a)ノック回避制御
異常燃焼判定部110によりノックが発生したと判定された場合、ECU100は、点火時期を遅角させる。つまり、ECU100は、ノックが発生したと判定されないときよりも遅角側に時期で点火を行うように点火プラグ16を制御する。具体的には、ノックが発生したと判定されると、ECU100は、次の燃焼サイクルの点火時期を1燃焼サイクル前の点火時期よりも所定時期だけ遅角させる。なお、ノック判定時は、燃料噴射の噴射パターンは、通常制御時であって最大筒内圧強度CPLFが判定強度未満の時と同様に制御される。
(b)プリイグ回避制御
プリイグ判定時、つまり、異常燃焼判定部110によってプリイグが発生したと判定されたとき、ECU100(燃料噴射制御部120)は、燃料噴射の実施時期つまり噴射時期を遅角させて、燃料の噴射パターンを通常制御時(プリイグが発生したと判定されないとき)とは異なるパターンに切り替える。
前記のように、通常制御時、インジェクタ15は、吸気行程に前段噴射を行い(Q1)、吸気行程の後半から圧縮行程の前半にかけて後段噴射(Q2)を行う。これに対して、プリイグ判定時、ECU100は、通常制御時と同様に2回に分けてインジェクタ15から燃料を噴射させる一方、前段噴射と後段噴射の実施時期(前段噴射の噴射時期および後段噴射の噴射時期)がそれぞれ通常制御時よりも遅角側の時期になるようにインジェクタ15を駆動する。
図13の破線で示すように、また、前記のように、通常制御時は、第2運転領域Bにおいて前段噴射(Q1)が吸気行程中に開始されて、後段噴射(Q2)が吸気行程の後半から圧縮行程の前半にかけて開始される。これに対して、図13の実線で示すように、プリイグ判定時は、圧縮行程の前半(圧縮上死点前180°CA〜圧縮上死点前90°CA)に前段噴射(Q11)が開始され、圧縮行程の後半(圧縮上死点前90°CA〜圧縮上死点)に後段噴射(Q12)が開始される。また、前段噴射(Q11)の開始時期は、吸気弁11の閉弁時期IVCよりも遅角側とされる。例えば、プリイグ判定時は、前段噴射(Q11)が圧縮上死点前180°CAで開始され、後段噴射(Q12)が圧縮上死点前10〜20°CA程度に開始される。また、エンジン回転数に対して、通常制御時の前段噴射(Q1)と後段噴射(Q2)の開始時期が図14の破線のように設定されるのに対して、プリイグ判定時のこれら噴射(Q11、Q12)の開始時期は図14の実線のように設定される。
また、プリイグ判定時、ECU100は、後段噴射の噴射量の割合を増大させる。
具体的には、1燃焼サイクル中に燃焼室6に噴射される燃料の総量に対する後段噴射の噴射量の割合が、通常制御時よりもプリイグ判定時の方が大きくされる。例えば、通常制御時の後段噴射の噴射量の割合が10%程度とされるのに対して、プリイグ判定時は20〜30%程度とされる。また、図15の破線に示すように、通常制御時の後段噴射(Q2)の噴射量の割合はエンジン回転数によらず一定に維持されるのに対して、図15の実線に示すように、エンジン回転数が高くなるほどプリイグ判定時の後段噴射(Q12)の噴射量の割合は小さくされる。以下では、プリイグ判定時の燃料噴射パターンをプリイグ回避パターンという。
燃料噴射の実施時期が遅角されると、圧縮上死点付近に至るまでの燃料と空気の混合時間およびこれらの反応時間は短くなり、圧縮上死点付近における混合気の反応の進み具合が遅くなる。これより、燃料噴射パターンがプリイグ回避パターンとされて前段噴射および後段噴射の実施時期がそれぞれ遅角されれば、点火の開始前に反応が進んで自着火直前の状態となった混合気が燃焼室6に多量に存在するという事態が回避されて、プリイグの発生が抑制される。
また、プリイグ回避パターンでは、前段噴射が圧縮行程の前半且つ吸気弁11の閉弁後というタイミングに行われることによって、混合気が早期に自着火するのがより確実に防止される。図16等を用いて具体的に説明する。
図16は、混合気の温度および混合気の当量比(理論空燃比を空燃比で割った値)と混合気の自着火のしやすさとの関係を調べた結果である。図16のグラフの横軸は混合気の温度、縦軸は自着火のしやすさを表している。具体的には、縦軸は、混合気を自着火させるのに必要なOHラジカルの量であり、この量が多く混合気を自着火させるのに多量のOHラジカルが必要なときは、混合気は自着火しにくいといえる。図16のグラフの3つのラインは混合気の当量比(空燃比)が互いに異なるラインであり、下側のラインほど当量比が大きく空燃比は小さく(リッチに)なっている。
図16に示されるように、混合気は、筒内温度つまり混合気の温度が高いほど自着火しやすい。ここで、燃焼室6の中央部分は外周部分に比べて高温になる。これより、混合気の自着火は燃焼室6の中央部分でまず開始する。これに対して、本実施形態では、前段噴射(Q11)と後段噴射(Q12)とが前記のような時期に実施されることで燃焼室6の中央部分での混合気の燃焼が過度に促進されるのが防止される。
具体的には、前段噴射(Q11)は、圧縮行程の前半且つ吸気弁11の閉弁後は、ピストン5の上昇中および吸気弁11の閉弁後であることに伴い燃焼室6内の吸気流動が弱い。そのため、前段噴射(Q11)が圧縮行程の前半且つ吸気弁11の閉弁後に実施されることで、図17(a)に示すように、前段噴射(Q11)によって噴射された燃料F1の拡散は抑制され、この燃料F1の大部分は燃焼室6の外周付近に留まることになる。そして、図17(b)に示すように、この燃料分布は圧縮上死点付近まで概ね維持される。そのため、前段噴射(Q11)に係る燃料と空気の混合および反応は主として燃焼室6の外周付近で生じ、この反応に伴う燃焼室6の中央付近の昇温量は小さく抑えられる。また、圧縮上死点付近において燃焼室6の中央に分布する自着火直前の状態の混合気の量が少なく抑えられる。従って、燃焼室6の中央付近で開始する混合気の自着火のタイミングが遅くなり、燃焼の進行度が遅くなってプリイグの発生が抑制される。なお、通常制御時は、前段噴射(Q1)が吸気行程中に実施されることで前段噴射の燃料は燃焼室6の全体に拡散する。
ここで、プリイグ回避パターンでは圧縮行程の後半に後段噴射が実施される。圧縮行程の後半であってピストン5が圧縮上死点に近いタイミングで燃料が噴射されると、燃料は燃焼室6の中央付近に供給されることになる。また、プリイグ回避パターンでは、後段噴射の噴射量の割合が増大される。これより、プリイグ回避パターンでは、圧縮上死点付近において燃焼室6の中央付近の混合気の空燃比は小さく(リッチに)なり、空燃比の点からは燃焼室6の中央付近において混合気は自着火しやすくなるといえる。しかしながら、前記のように、プリイグ回避パターンでは、前段噴射による燃焼室6の中央付近の昇温量は小さく抑えられる。また、前記のように、後段噴射から圧縮上死点までの時間が短いことで、圧縮上死点付近に至るまでの後段噴射に係る燃料と空気の反応は十分に進んでおらず、これによっても燃焼室6の中央付近の温度上昇は抑制される。従って、燃焼室6の中央付近にて混合気の自着火が過度に促進されることはなく、混合気の燃焼の進行度は遅くなる。
このことは、図18(a)と(b)との比較からも明らかである。図18(a)、(b)は、圧縮上死点において、燃焼室6内に存在する各温度と各空燃比の混合気の分布を示した図である。図18(a)、(b)では、色の濃い方が混合気の分布割合が多いことを表している。また、図18(a)は、後段噴射の割合を5%としたとき(前段噴射の割合を95%としたとき)の図であり、図18(b)は後段噴射の割合を30%としたとき(前段噴射の割合を70%としたとき)の図である。これら図18(a)、(b)に示した破線は、自着火のしやすさが同じになる温度と空燃比とをつないだラインである。図18(a)に示すように、前段噴射の割合が大きく後段噴射の割合が小さい場合は、空燃比は比較的大きい(リーンである)が高温である混合気、の割合が大きくなる。これに対して、図18(b)に示すように、前段噴射の割合が小さく後段噴射の割合が大きい場合は、空燃比は比較的小さい(リッチである)が低温である混合気、の割合が大きくなる。そして、図18(a)の場合に比べて図18(b)の場合の方が、自着火しにくい領域に多くの混合気が分布することになる。従って、プリイグ回避パターンでは、後段噴射の割合が大きくされて燃焼室6の中央付近に空燃比の高い混合気が形成されるものの、混合気は自着火しにくい状態とされて混合気の燃焼の進行度が遅くされる。
また、本実施形態では、プリイグ判定時且つ後述する所定の条件の成立時において、ECU100は、燃焼室6に導入される吸気量を低減する。具体的には、スロットル弁32の開度を小さく(閉じ側に)する。本実施形態では、所定の条件が成立している状態でプリイグが発生したと判定されると、この判定がなされる直前の開度よりもスロットル弁32の開度を小さくする。また、ECU100は、図19に示すように最大筒内圧強度CPLFが大きいほどスロットル弁32の開度の低減量を大きい値とし、最大筒内圧強度CPLFが大きいほどスロットル弁32の開度を小さくして吸気量の低減量を大きくする。プリイグ判定時且つ所定の条件の成立時も燃焼室6内の混合気の空燃比は通常制御時と同様に理論空燃比近傍に維持され、吸気量とともに燃焼室6に供給される燃料の総量も低減される。これにより、燃焼室6で生成される熱発生量が低減されてプリイグの発生が抑制される。
ここで、スロットル弁32は全気筒2と連通する吸気通路30に設けられており、スロットル弁32の開度が変更されると全気筒2の吸気量が変更される。また、スロットル弁32の駆動遅れやガスの輸送遅れにより、スロットル弁32の開度変更を開始しても、吸気通路30を流通する空気の量は徐々にしか低減しない。これより、所定の気筒2でプリイグが発生したと判定されてスロットル弁32の開度を低減した後に他の気筒2でプリイグが発生したと判定されてスロットル弁32の開度をさらに低減すると、吸気量が過度に少なくなるおそれがある。そこで、本実施形態では、スロットル弁32の開度を低減してから全気筒2で燃焼が1回ずつ終了するまでの間は、スロットル弁32のさらなる開度変更を停止する。例えば、4気筒エンジンでは、スロットル弁32の開度を低減してから720°CA間はスロットル弁32の開度変更を禁止する。
吸気量および燃料の総量を低減するとエンジントルクが低下する。そのため、吸気量を低減する制御は、燃料噴射パターンの変更のみではプリイグの発生を抑制するのが困難な状態が連続する場合にのみ実施する。
具体的には、最大筒内圧強度CPLFが特に大きいときには、燃料噴射パターンの変更のみではプリイグの発生を抑制するのが困難になる。
ここで、エンジンの運転ポイントが変化して予め設定された目標のEGR率が変化したときには、EGR弁53の応答遅れやガスの輸送遅れによって、燃焼室6に導入されるEGRガスの量が目標値からずれる場合がある。なお、EGR率は、燃焼室6内のガスの総量(総質量)に対する燃焼室6内のEGRガスの量(質量)である。前記のずれが生じると、EGRガスの代わりに燃焼室6に導入される吸気の量が増大して混合気の空燃比が大きくなり(リーンになり)、プリイグが発生するおそれがある。あるいは、燃焼室6に導入されるEGRガスの量が過大になって燃焼室6内の温度が高くなり、プリイグが発生するおそれがある。ただし、このようにして発生したプリイグは、前記のEGR弁53の応答遅れやガスの輸送遅れが解消することで解消されるため、吸気量を低減する必要性は小さい。
これより、本実施形態では、プリイグが発生したと判定された場合で、EGR率の目標値との偏差の絶対値が予め設定された判定値以下で、且つ、最大筒内圧強度CPLFが前記判定強度よりも大きい基準強度以上のときに、燃焼室6に導入される吸気量を低減する。つまり、前記の所定の条件は、EGR率の目標値との偏差の絶対値が判定値以下で、且つ、最大筒内圧強度CPLFが基準強度以上であるという条件に設定されている。
以上の異常燃焼回避制御をまとめると図20のフローチャートのようになる。
ステップS21にて、ECU100は、異常燃焼判定部110によってノックが発生したと判定されたか否かを判定する。この判定がYESであってノックが発生したと判定されたときは、ステップS22に進む。ステップS22において、ECU100は、点火時期を遅角させて、処理を終了する(ステップS1に戻る)。
一方、ステップS21の判定がNOであってノックが発生したと判定されなかったときはステップS23に進む。ステップS23にて、ECU100は、異常燃焼判定部110によってプリイグが発生したと判定されたか否かを判定する。この判定がNOであってプリイグが発生したと判定されなかったときは、ステップS30に進む。ステップS30では、異常燃焼回避制御は実施されず、ECU100は、通常の制御を実施する。
一方、ステップS23の判定がYESであってプリイグが発生したと判定された場合は、ステップS24に進み、ECU100は、後段噴射の噴射量の割合を増大させるとともに、ステップS25において、前段噴射と後段噴射の実施時期(開始時期)をともに通常制御時よりも遅角させる。
また、ステップS23の判定がYESの場合、ECU100は、ステップS26にてEGR率の目標値との偏差を算出する。
具体的には、EGR率の目標値である目標EGR率は予め設定されてECU100に記憶されている。例えば、目標EGR率は、エンジン回転数とエンジン負荷等に応じて予め設定されてECU100にマップで記憶されており、ECU100は現在のエンジン回転数とエンジン負荷とに対応する値をこのマップから抽出する。また、ECU100は、エアフローセンサSN4により検出された吸気量および差圧センサSN6により検出されたEGR弁53の前後差圧に基づいて、混合気のEGR率を推定する。ステップS26では、ECU100は、推定したEGR率と目標EGR率との差つまりEGR率の偏差を算出する。
ステップS26の次は、ステップS27に進む。ステップS27にて、ECU100は、ステップS26で算出されたEGR率の偏差の絶対値が判定値未満であり、且つ、最大筒内圧強度CPLFが基準強度以上であるという条件が成立するか否かを判定する。前記の判定値および基準強度は予め設定されてECU100に記憶されている。
ステップS27の判定がNOであって前記条件の非成立時は、そのまま処理を終了する(ステップS1に戻る)。一方、ステップS27の判定がYESであって前記条件の成立時は、ステップS28に進む。
ステップS28にて、ECU100は、後述するステップS29の吸気量低減制御がまだ実施されていない、あるいは、吸気量低減制御が開始されてから全気筒2での燃焼が終了した、という条件が成立するか否かを判定する。ステップS28の判定がNOであって、吸気量低減制御が既に実施されており、且つ、吸気量低減制御を開始してから全気筒2での燃焼が終了していないときは、そのまま処理を終了する(ステップS1に戻る)。一方、ステップS28の判定がYESであって、吸気量低減制御がまだ実施されていない、あるいは、吸気量低減制御を開始してから全気筒2での燃焼が終了している場合には、ステップS29に進む。ステップS29にて、ECU100は、吸気量を低減する吸気量低減制御を実施して処理を終了する(ステップS1に戻る)。具体的には、ECU100は、前記のように、スロットル弁32の開度を小さく(閉じ側)にして各燃焼室6に導入される吸気の量を低減する。
(5)作用等
以上のように、本実施形態では、通常制御時およびノック判定時であって、最大筒内圧強度CPLFが判定強度未満のときや最大筒内圧強度CPLFが判定強度以上である一方指標期間が判定期間よりも短いとき(つまり、プリイグの非発生時)は、前段噴射(Q1)が吸気行程中に実施される。そのため、圧縮上死点付近までに燃料と空気とを十分に混合させて、燃料を適切に空気と反応させることができる。これより、燃費性能および排気性能を良好にできる。
そして、プリイグが発生したとき、つまり、最大筒内圧強度CPLFが判定強度以上であり且つ指標期間が判定期間よりも短いときであって混合気の燃焼の進行度が特に速く、点火時期の遅角によっても回避できないような異常燃焼が生じたときに、前段噴射(Q11)と後段噴射(Q12)の双方が圧縮行程中に実施される。そのため、この場合には、圧縮上死点付近までの燃料と空気の混合時間および反応時間を短くして、圧縮上死点付近に至るまでのこれらの反応を抑制できる。従って、圧縮上死点付近において混合気が過度に早期に自着火すること、および、混合気が急激に燃焼することを防止できる。そして、燃焼騒音が増大するのを防止できる。
特に、本実施形態では、プリイグが発生したと判定された時に、吸気弁11の閉弁後に前段噴射(Q11)が実施される。そのため、前記のように、前段噴射(Q11)に係る燃料が燃焼室6全体に拡散するのを抑制して、当該燃料を燃焼室6の外周に滞留させることができる。そのため、圧縮上死点付近において燃焼室6の中央付近に反応の進んだ混合気が多量に存在するという事態を回避でき、混合気が過度に早い時期に自着火すること、および、混合気が急激に燃焼するのを防止できる。
また、エンジン回転数が高いときは、1クランク角あたりの時間が短くなることで、後段噴射(Q12)によって気筒に供給される燃料と空気の混合時間が短くなる。これらの混合時間が過度に短くなると燃料が適切に燃焼せず、煤が増大するおそれがある。これに対して、本実施形態では、プリイグが発生したと判定された時に、エンジン回転数が高いときの方が低いときよりも1燃焼サイクルに気筒に供給される後段噴射(Q12)の噴射量の割合が小さくされる。そのため、燃料と空気の混合不足を抑制して煤の増大を防止できる。
また、本実施形態では、筒内圧センサSN3により検出された筒内圧のスペクトルと、点火時期から燃焼重心時期までの指標期間とに基づいてプリイグが発生したか否かを判定している。そのため、燃焼の進行度が過度に高い異常燃焼であるプリイグが発生したか否かを精度よく判定できる。そして、この判定結果に基づいて燃料噴射のパターンを変更していることで、これを適切に変更することができる。
(6)変形例
前記の実施形態では、1の気筒において最大筒内圧強度CPLFが判定強度以上となり且つ指標期間が判定期間以上となる燃焼サイクルが、複数回(判定回数以上)連続したときに、プリイグが生じたと判定した場合について説明したが、前記の燃焼サイクルが1回生じただけでプリイグが生じたと判定するようにしてもよい。ただし、前記実施形態の構成にすれば、最大筒内圧強度CPLFや指標期間の誤算出によってプリイグが生じたと判定されるのを回避できる。また、一時的に最大筒内圧強度CPLFが判定強度以上となり且つ指標期間が判定期間以上となった際に、プリイグが生じたと判定されて、その後に燃料噴射のパターンの変更等がなされてしまうのを回避でき、燃料噴射パターンの変更等の機会を少なく抑えることができる。
前記の実施形態では、通常制御時およびノック制御時において、後段噴射(Q2)を吸気行程の後半から圧縮行程の前半にかけての期間に実施する場合について説明したが、後段噴射(Q2)も前段噴射(Q1)と同様に吸気行程中に実施してもよい。
前記の実施形態では、エンジンが、SPCCI燃焼が実施されるものである場合を説明したが、エンジンで実施される燃焼形態はこれに限らない。また、前記の異常燃焼判定および異常燃焼回避制御は、第2運転領域B以外で実施されてもよい。
また、前記の実施形態では、前記の判定強度と比較して異常燃焼が生じたか否かの判定に用いるパラメータを、第2周波数から第1周波数までの筒内圧のスペクトルの最大値(最大筒内圧強度CPLF)とした場合について説明した。これに代えて、前記のパラメータとして、第2周波数から第1周波数までの筒内圧のスペクトルの値の平均値を用いてもよい。また、第1周波数以下の周波数成分であって第2周波数未満の周波数成分も含む筒内圧のスペクトルに基づいて異常燃焼が生じたか否かの判定を行ってもよい。