JP2020196688A - メタクリル酸の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】本発明の課題は、イソブタンの一段酸化によるメタクリル酸製造において、イソブタン転化率が低く未反応イソブタンが多量に残存するような場合でも、エネルギー消費を抑え且つ安全に未反応イソブタンを回収・リサイクルできるプロセスを提供することにある。【解決手段】本発明に係るメタクリル酸の製造方法は、触媒が充填された酸化反応器にイソブタンおよび酸素を含有する混合ガスを供給し、イソブタンを酸化してメタクリル酸を製造する工程、反応後ガスからメタクリル酸を回収する工程、メタクリル酸を回収した反応後ガスを膜分離装置へ導入し、イソブタンを濃縮する工程、および、イソブタンが濃縮された反応後ガスを、酸化反応器に導入して再利用する工程を含むことを特徴とする。【選択図】図2

Description

本発明は、イソブタンからメタクリル酸を効率的に製造できる方法に関するものである。
メタクリル酸は、メタクリル酸メチルを初めとする基幹化学製品の基礎原料として非常に重要である。メタクリル酸の製造方法としては、イソブチレンを原料とした二段酸化法が知られている。詳しくは、ビスマス−モリブデン系触媒上でイソブチレンと分子状酸素を反応させてメタクロレインとし、次いで、リン−モリブデン系ヘテロポリ酸系触媒上でメタクロレインと分子状酸素を反応させてメタクリル酸に転換するものである。イソブチレンを出発原料とした二段酸化法は既に工業化され、特に日本において主なメタクリル酸製造法となっている。
原料イソブチレンは、ナフサ分解工程で得られるC4留分から分離・精製工程を経て生産されているが、近年のナフサ分解設備の統廃合や稼働率低下などにより、イソブチレンの供給不安や価格高騰が懸念されている。このような状況を受け、資源的に豊富で且つ安価なイソブタンを原料としたメタクリル酸製造に関する技術開発が広く行われている。
イソブタンからメタクリル酸を製造する方法として、イソブタンを脱水素してイソブチレンに変換し、これを従来のビスマス−モリブデン系触媒によりメタクロレインに酸化し、次いでリン−モリブデン系ヘテロポリ酸系触媒によりメタクリル酸に酸化する方法が提案されている(特許文献1)。しかし、この方法ではイソブタンの脱水素工程が別途必要となるため設備費が高くなる。また、吸熱反応であるイソブタン脱水素反応を効果的に進行させるためには外部からの熱供給が必要となり、エネルギー消費が大きくなる。さらに、イソブタン脱水素反応は化学平衡のためイソブタンを完全転化させることはできず、一定量の未反応イソブタンが発生する。この未反応イソブタンを回収して脱水素反応工程にリサイクルする必要があるためプロセスが複雑となり、経済的な製造方法とはなり難い。
一方、イソブタンを分子状酸素で直接酸化してメタクリル酸を製造する方法が提案されている。特許文献2には、ピロリン酸ジバナジルを活性成分とする触媒を用い、イソブタンを接触気相酸化してメタクロレインおよび/またはメタクリル酸を製造する方法が開示されている。特許文献3には、リンおよび/またはヒ素を中心元素とし、モリブデンおよびバナジウムを配位元素として含み、モリブデンに対するバナジウム含有量が特定の範囲に調節されたヘテロポリ酸系触媒に、イソブタンと分子状酸素を含む混合ガスを気相で接触させてメタクロレインおよび/またはメタクリル酸を製造する方法が示されている。特許文献4には、(i)ヘテロポリ酸の難水溶性の塩、および(ii)リン、モリブデンおよびバナジウムを含む複合酸化物を含有する触媒に、イソブタンと分子状酸素を接触させることによりイソブタンを気相酸化してメタクリル酸を製造する方法が提案されている。
これら特許公報で提案されている触媒にイソブタンと分子状酸素を供給して接触的に気相酸化反応を行うことでイソブタンから直接メタクリル酸を得ることができるが、いずれの触媒でもイソブタン転化率は低位であり、イソブタン転化率が30%を越える領域で高選択的にメタクリル酸を製造できる触媒は提案されていない。したがって、現在までに提案されている触媒を用いたイソブタンの一段酸化によるメタクリル酸製造では、多量の未反応イソブタンが発生するため、これを回収して反応器にリサイクルすることが必要となる。
未反応イソブタンの回収方法としては、溶剤を用いる吸収と放散による方法が知られている。例えば特許文献5には、メタクリル酸やメタクロレイン等の凝縮成分を分離した後のガス中に含まれる未反応イソブタンをC8〜10のパラフィン系溶剤を用いて吸収し、その後、放散により回収する方法が提案されている。また、特許文献6には、アルカンからニトリルまたはオキシドを製造する際の未反応アルカンを加圧スイング吸着法(PSA法)により回収する方法が記載されている。
しかし、有機溶剤を用いて吸収したイソブタンを放散により分離する方法では、多量の未反応イソブタンを100%に近い回収率で回収しようとすると、大規模な吸収塔が必要となる。さらに、吸収操作でイソブタンは有機溶剤に溶解されて溶液となり、放散操作では気体として有機溶剤より放出される。つまり、吸収操作と放散操作はイソブタンの相変化を伴うため、そのための消費エネルギーが非常に大きいという問題もある。加圧スイング吸着法(PSA法)では、イソブタンはガスのままであって相変化せず消費エネルギーは吸収および放散による方法と比較して少なくて済むが、PSA法では被処理ガスからの未反応イソブタン回収率を高く維持することは困難であり、結果として吸着されずに廃棄される未反応イソブタンが多くなるという問題点がある。また、多量の未反応イソブタンが存在する場合、短時間での吸着剤破過を防止するためには、多量の吸着剤が必要となり、装置の大型化を招く。
このような従来のイソブタン回収法にみられた問題を解決するため、未反応イソブタン含有ガス中の一酸化炭素の二酸化炭素への酸化と二酸化炭素の除去を行った後、未反応イソブタンを酸化反応器に回収することを特徴とするメタクリル酸の製造方法が提案されている(特許文献7)。本法では、未反応イソブタンと比較して少量の二酸化炭素を、炭酸カリウムを主成分とする吸収剤で吸収して系外除去するだけであるので、吸収塔は大きくなくて済む。また、吸収液からの二酸化炭素の放散にかかるエネルギー消費量も多大なものとならないと考えられる。
しかし本法では、未反応イソブタン含有ガス中の一酸化炭素のみを選択的に酸素により二酸化炭素に接触酸化する必要があるが、そのためには温度や空間速度など、一酸化炭素の選択的酸化反応器の反応条件を適切に管理する必要がある。設定条件より外れ、所望の一酸化炭素の二酸化炭素への転化率が得られない場合には、系外パージ量を増加させる必要があり、その結果イソブタンが無駄に系外排出されることになる。また、管理温度が上振れすると、一酸化炭素のみでなくイソブタンの酸化反応も進行してイソブタンが無駄に消費されることになる。また、一酸化炭素のみでなくイソブタンの酸化反応も進行すると反応で多大な酸化熱が発生して反応暴走が起こり、危険な状態となることが懸念される。
特開昭58−189130号公報 特開平5−331085号公報 特開平2−42032号公報 特開2001−114726号公報 特開昭58−189130号公報 特開平2−4753号公報 特開平4−279548号公報
上述した状況下、本発明の課題は、イソブタンの一段酸化によるメタクリル酸製造において、イソブタン転化率が低く未反応イソブタンが多量に残存するような場合でも、エネルギー消費を抑え且つ安全に未反応イソブタンを回収・リサイクルできるプロセスを提供することにある。
本発明者らはかかる課題を解決し、経済的で安全なイソブタンの一段酸化によるメタクリル酸製造プロセスを確立するために鋭意検討を行った。その結果、イソブタン酸化反応器出口ガスより得られる未反応イソブタン含有ガスを膜分離装置に導入してイソブタンを分離回収することで課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
以下、本発明を示す。
[1] メタクリル酸を製造するための方法であって、
触媒が充填された酸化反応器にイソブタンおよび酸素を含有する混合ガスを供給し、イソブタンを酸化してメタクリル酸を製造する工程、
反応後ガスからメタクリル酸を回収する工程、
メタクリル酸を回収した反応後ガスを膜分離装置へ導入し、イソブタンを濃縮する工程、および、
イソブタンが濃縮された反応後ガスを、酸化反応器に導入して再利用する工程を含むことを特徴とする方法。
[2] 更に、メタクリル酸を回収した後で且つイソブタンを濃縮する前に、反応後ガスからメタクロレインを回収する工程を含む上記[1]に記載の方法。
[3] イソブタンを濃縮する工程において、イソブタンを濃縮した反応後ガスにおける一酸化炭素のモル流速を、酸化反応器に導入する混合ガスにおける一酸化炭素のモル流速に対して90%以上、110%以下とする上記[1]または[2]に記載の方法。
[4] 膜分離装置におけるイソブタンの透過率が1×10-7kmol/s・m2・kPa以下である上記[1]〜[3]のいずれかに記載の方法。
[5] 膜分離装置におけるイソブタンの透過率に対する一酸化炭素の透過率の比が10以上である上記[1]〜[4]のいずれかに記載の方法。
[6] イソブタンを濃縮する工程において、少なくとも窒素および二酸化炭素を低減する上記[1]〜[5]のいずれかに記載の方法。
[7] 膜分離装置において、導入する反応後ガスと分離膜を透過した透過側ガスの圧力差を0.1MPa以上、2MPa以下とする上記[1]〜[6]のいずれかに記載の方法。
[8] イソブタンを濃縮する工程におけるイソブタンの損失率が3%以下である上記[1]〜[7]のいずれかに記載の方法。
本発明によれば、イソブタンの一段酸化によるメタクリル酸製造において、イソブタン転化率が低く未反応イソブタンが多量に残存するような場合でも、エネルギー消費を抑え且つ安全に未反応イソブタンを回収・リサイクルできるプロセスが提供されるため、経済的且つ安全にイソブタンからのメタクリル酸製造を実施することができる。
図1は、後記の実施例でイソブタンを濃縮するために用いた膜分離装置の模式図である。 図2は、後記の実施例での反応フローの概略図である。
以下、本発明方法を工程毎に説明するが、本発明は以下に具体的に示す態様に限定されるものではない。
1.メタクリル酸の製造工程
本工程では、触媒が充填された酸化反応器にイソブタンおよび酸素を含有する混合ガスを供給し、イソブタンを酸化してメタクリル酸を製造する。
酸化反応器は、触媒を充填することができ、触媒層に少なくともイソブタンと酸素を含有する混合ガスを流通させることができ、且つ温度制御が可能なものであれば特に制限されない。例えば、多管式反応器を用いることができる。
多管式反応器は、内径1〜5cmの反応管を1,000〜100,000本含み、反応管の内側には反応ガスを流通させることができ、反応管の外側には熱媒を流して酸化反応により発生する反応熱を触媒層から系外に取り除いて触媒層内の温度分布を均質化することにより、反応温度を適切に制御できるものである。
触媒は、酸素でイソブタンを酸化することによりメタクリル酸を得る反応を触媒するものであれば特に制限されない。例えば、下記式(I)で表される組成を有するヘテロポリ酸系触媒を用いることができる。
Moabcdefx (I)
[式中、Moはモリブデン、Pはリン、Aはヒ素、アンチモン、ゲルマニウム、ビスマス、ジルコニウムおよびセレンから選ばれる少なくとも1種の元素、Bは銅、鉄、クロム、ニッケル、マンガン、コバルト、スズ、銀、亜鉛、パラジウム、ロジウムおよびテルルから選ばれる少なくとも1種の元素、Cはバナジウム、タングステンおよびニオブから選ばれる少なくとも1種の元素、Dはアルカリ金属、アルカリ土類金属およびタリウムから選ばれる少なくとも1種の元素、Oは酸素を表し、a、b、c、d、e、fおよびxは、それぞれ、Mo、A、B、C、DおよびOの原子比を表し、a=12のとき、0.5≦b≦4、0≦c≦5、0≦d≦3、0≦e≦4、0.01≦f≦4であり、xはそれぞれの元素の酸化状態によって定まる数値である。]
触媒の大きさは、使用する酸化反応器などに応じて適宜調整すればよいが、例えば、最大径の大きさが0.1〜10mmとなるようにすることができる。また、触媒の形状も適宜選択すればよく、例えば、球状、円柱状、ペレット状、リング状、ハニカム状、顆粒状などが挙げられる。
触媒層へ導入する混合ガスは、少なくともイソブタンと酸素を含む。混合ガス中のイソブタン濃度は、適宜調整すればよいが、例えば5モル%以上、70モル%以下とすることができる。また、混合ガス中の酸素については、反応性と爆発範囲を考慮して、イソブタンに対する酸素のモル比が0.1以上、1以下となるように設定することが好ましい。
混合ガスには、その他、不活性ガスと水蒸気を含むことが好ましい。不活性ガスとしては窒素や二酸化炭素を挙げることができ、混合ガス中のイソブタンの濃度を調整し、膜分離工程を含むイソブタンリサイクルプロセスを経済的に運転できるようにする役割を有する。混合ガスにおける不活性ガスの濃度は、通常、イソブタンの濃度に対して1倍以上、10倍以下とすることができる。水蒸気は、目的物であるメタクリル酸の選択率を向上させる作用を有する。混合ガスにおける水蒸気の濃度は、使用する触媒などに応じて適宜調整すればよいが、通常、イソブタンの濃度に対して0.1倍以上、2倍以下とすることができる。
その他、触媒層へ導入する混合ガスは、一酸化炭素を含んでいてもよい。一酸化炭素はイソブタンの酸化反応において不可避的に副生する。副生した一酸化炭素を膜分離工程で過剰に除去しようとすると、必要な分離膜面積を大きくせざるを得ずコスト高になる上に、必要なイソブタンの損失率が高くなるおそれがあるため、イソブタンが濃縮された反応後ガスを含む混合ガスにおける一酸化炭素濃度は所定濃度となるよう設定することが好ましい。よって、混合ガスにおける一酸化炭素の濃度は、混合ガスにおけるイソブタンの濃度に対して0.1倍以上、1倍以下とすることができる。
なお、以上で説明した混合ガスは、プロセスの開始時に触媒層へ導入するガスであってもよいが、本発明に係るメタクリル酸製造プロセスを連続的に実施するに当たり、メタクリル酸を回収した反応後ガスに所定の組成となるよう必要成分を添加して触媒層へ導入するガスを志向している。
本工程の反応条件は、適度なイソブタン転化率、メタクリル酸選択率、メタクリル酸収率が得られるよう調整することが好ましい。例えば、混合ガスの空速度を500/h以上、10000/h以下とすることが好ましい。反応温度は300℃以上、450℃以下が好ましい。
イソブタン転化率は、現状の触媒性能から、例えば3%以上、25%以下に調整することが好ましい。イソブタン転化率が3%以上であれば、未反応イソブタンの再利用も考慮して、工業上許容できる。一方、イソブタン転化率が過剰に高いと、メタクリル酸選択率が著しく低下するおそれがあるため、イソブタン転化率としては25%以下が好ましい。また、メタクリル酸選択率としては、50%以上、100%以下が好ましい。
上記反応により得られる反応後ガスには、メタクリル酸の他、未反応のイソブタンとメタクロレインが含まれる。また、混合ガスに不活性ガスを添加した場合には、当該不活性ガスも含まれる。その他、水蒸気や一酸化炭素も含まれる。
2.メタクリル酸回収工程
本工程では、上記メタクリル酸製造工程を経て得られる反応後ガスからメタクリル酸を回収する。メタクリル酸の融点は16℃であり、反応後ガスに含まれる成分の中では最も凝縮し易い。よって、例えば、反応後ガスを捕集塔へ導入し、メタクリル酸溶液を得ることができる。但し、メタクロレインも常温常圧で液体であり、凝縮成分であるため、メタクロレインの一部もメタクリル酸溶液に混入する。
捕集塔としては、捕集塔内で反応後ガスと捕集溶剤とを接触させることができるものであれば特に限定されない。例えば、反応後ガスを捕集塔の下部から捕集塔内に導入すると共に、捕集溶剤を捕集塔の上部から捕集塔内に導入することにより、反応後ガスが捕集塔内を上昇する間に捕集溶剤と接触して冷却され、メタクリル酸が捕集溶剤に吸収され、メタクリル酸溶液として回収される。捕集塔としては、例えば、塔内に棚板(シーブトレイ)が設けられた棚段塔、塔内に充填物が充填された充填塔、塔内壁表面に捕集溶剤が供給される濡れ壁塔、塔内空間に捕集溶剤がスプレーされるスプレー塔などを採用することができる。
捕集溶剤としては、メタクリル酸を吸収し、溶解できるものであれば、特に限定されないが、例えば、ジフェニルエーテル、ジフェニル、ジフェニルエーテルとジフェニルとの混合物、水、メタクリル酸溶液などを使用することができる。なかでも、捕集溶剤としては、水またはメタクリル酸溶液を用いることが好ましく、水を50質量%以上含有するメタクリル酸水溶液または水を用いることがより好ましい。当該メタクリル酸水溶液の水濃度としては、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がより更に好ましい。
捕集溶剤の温度や供給量、および反応後ガスの供給量は、所望の濃度のメタクリル酸溶液が得られるよう調整することが好ましい。例えば捕集溶剤の温度は、メタクリル酸の捕集率を高める点から0℃以上が好ましく、5℃以上がより好ましく、また35℃以下が好ましく、30℃以下がより好ましい。捕集溶剤の供給量は、反応後ガスの捕集塔への供給量(G)に対する捕集溶剤の捕集塔への供給量(L)の比で示される液ガス比(L/G)が、2L/m3以上であることが好ましく、3L/m3以上がより好ましく、5L/m3以上がより更に好ましく、また15L/m3以下が好ましく、12L/m3以下がより好ましく、10L/m3以下がより更に好ましい。
捕集溶剤に吸収されたメタクリル酸は、メタクリル酸溶液として捕集塔から抜き出される。メタクリル酸溶液は、例えば、捕集塔の反応後ガスの供給位置より下方の位置、例えば捕集塔の底部から抜き出せばよい。
捕集塔は、捕集塔から排出されたメタクリル酸溶液の一部を、反応後ガスの供給位置およびメタクリル酸溶液の排出位置より上方かつ捕集溶剤の供給位置より下方の位置から捕集塔に返送する循環ラインを有していることが好ましい。循環ラインを通して、捕集塔から排出されたメタクリル酸溶液の一部を捕集塔に戻して循環させることにより、メタクリル酸溶液のメタクリル酸濃度を高めることができる。循環ラインには、循環ラインを通るメタクリル酸溶液を冷却するための熱交換器が設けられることが好ましい。
捕集塔では、メタクリル酸やメタクロレインの重合を抑制するために重合防止剤を添加してもよい。重合防止剤としては、従来公知の重合防止剤を用いることができ、例えば、ハイドロキノン、メトキノン(p−メトキシフェノール)等のキノン類;フェノチアジン、ビス−(α−メチルベンジル)フェノチアジン、3,7−ジオクチルフェノチアジン、ビス−(α−ジメチルベンジル)フェノチアジン等のフェノチアジン類;2,2,6,6−テトラメチルピペリジノオキシル、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジノオキシル、4,4’,4”−トリス−(2,2,6,6−テトラメチルピペリジノオキシル)フォスファイト等のN−オキシル化合物;ジアルキルジチオカルバミン酸銅、酢酸銅、ナフテン酸銅、アクリル酸銅、硫酸銅、硝酸銅、塩化銅等の銅塩化合物;ジアルキルジチオカルバミン酸マンガン、ジフェニルジチオカルバミン酸マンガン、ギ酸マンガン、酢酸マンガン、オクタン酸マンガン、ナフテン酸マンガン等のマンガン塩化合物;N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミンやその塩、p−ニトロソフェノール、N−ニトロソジフェニルアミンやその塩などのニトロソ化合物などが挙げられる。これらの重合防止剤は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
得られたメタクリル酸溶液は、メタクロレインの放散、蒸留、晶析などの精製操作に付し、メタクリル酸を精製する。回収されたメタクロレインは、混合ガスに配合して再利用することが好ましい。
3.メタクロレインの回収工程
本工程では、メタクリル酸を回収した後で且つイソブタンを濃縮する前に、反応後ガスからメタクロレインを回収する。本工程の実施は任意であり、メタクリル酸を回収した反応ガスを本工程に付すことなくそのまま次工程であるイソブタンの濃縮工程に付してもよいし、或いは、例えば比較的多くのメタクロレインが生成するよう反応条件を設定したような場合に、本工程を実施してもよい。
本工程は、上記メタクリル酸回収工程と同様に実施することができる。但し、メタクロレインの融点は−81℃、沸点は69℃と、メタクリル酸と比較して凝縮し難いといえるため、メタクロレインを十分に凝縮できる範囲で条件を調整する必要がある。例えば、捕集溶剤の温度を1℃以上、15℃以下と、比較的低く設定することが好ましい。
得られたメタクロレイン溶液は、メタクロレイン放散塔へ導入してメタクロレインを回収することが好ましい。回収されたメタクロレインは、混合ガスへ導入して再利用することが好ましい。また、メタクロレインを放散した後の溶液にはまだメタクロレインの一部が残留しているため、例えば温度調整した後にメタクロレインの捕集塔の捕集溶剤として用いることが好ましい。
4.イソブタンの濃縮工程
本工程では、メタクリル酸を回収した反応後ガス、更にはメタクロレインを回収した反応後ガスを膜分離装置へ導入し、イソブタンを濃縮する。
メタクリル酸を回収した後の反応ガスに含まれる成分中、イソブタンとメタクロレインの分子の大きさが最も大きく、その他の主な成分である酸素、窒素、一酸化炭素、二酸化炭素、水蒸気などの分子の大きさは比較的小さい。よって、イソブタンおよびメタクロレインと窒素などの小分子は、孔径が調整された分離フィルタを有する膜分離装置へ導入することにより分離できる。また、特に窒素や二酸化炭素などの不活性ガスや、一酸化炭素などの系内流入成分や副生成分を排出することなく、未反応イソブタンを再利用するために触媒層入口にリサイクルすると、それらは系内に蓄積して系内濃度が上昇し続けることになり、触媒層へ導入する混合ガスの組成を所定範囲に維持することができない。その結果、未反応イソブタンを再利用するメタクリル酸の製造プロセスを安定かつ連続的に運転することができなくなる。よって、これら小分子を再利用すべきイソブタンやメタクロレインから分離し、その一定量を系外へ排出することは、未反応イソブタンを再利用しながらメタクリル酸の製造プロセスを安定かつ連続的に運転する上で不可欠である。なお、水蒸気は、上記メタクリル酸回収工程やメタクロレイン回収工程において、捕集溶剤として水や水溶性の有機溶媒を用いることにより回収され、系外へ排出される。
膜分離装置の分離方式は、一般的に、膜分離装置内でのガスの混合状態や流れ状態により、濃縮側完全混合−透過側完全混合方式、濃縮側プラグフロー−透過側完全混合方式、濃縮側プラグフロー−透過側プラグフロー方式、濃縮側プラグフロー−透過側クロスフロー方式に分類される。これら方式より、イソブタン、或いはイソブタンとメタクロレインの濃縮分離に適した方式を選定すればよい。多数の円柱状分離膜を備えた膜分離装置では、濃縮側のガス混合状態を完全混合とすることは容易でない。従って、濃縮側プラグフロー−透過側完全混合方式、濃縮側プラグフロー−透過側プラグフロー方式、濃縮側プラグフロー−透過側クロスフロー方式の採用が好ましい。
膜分離装置の分離膜の孔径は、少なくともイソブタンおよびメタクロレインがほとんど透過できず、且つ少なくとも一酸化炭素が透過できるよう調整する。なお、一酸化炭素が透過可能な分離膜であれば、より小分子である窒素と二酸化炭素も透過できる。具体的には、例えば、分離膜の孔径を0.4nm以上、0.5nm以下とすることが好ましく、分離膜は0.4nm未満の孔も有していてもよく、また、イソブタンの回収効率を損なわない限り0.5nm超の孔を有していても構わない。細孔径分布測定結果において、50%以上の孔の径が0.4nm以上、0.5nm以下であることが好ましい。当該割合としては、60%以上または70%以上が好ましく、80%以上または90%以上が好ましい。なお、当該孔径は、例えば、液体アルゴン温度でのアルゴン吸着等温線を測定し、得られたアルゴン吸着等温線にHK法やSF法等のミクロ細孔解析法を適用することで求めることができる。
所望の孔径を有する分離膜は、常法により作製することができる。例えば、所望の孔径よりも大きな孔径を有する多孔質基材をシリカ等でコーティングし、孔径を調整すればよい。多孔質基材の材質は、アルミナなど腐食し難いものが好ましい。また、多孔質基材の平均粒子径としては、500nm以上、1000nm以下程度が好ましい。多孔質基材の形状は、使用する膜分離装置の形状に合わせればよく、例えば円筒状や平板状とすることができる。
膜分離装置の分離膜の膜厚や孔径は、膜分離装置におけるイソブタンの透過率が1×10-7kmol/s・m2・kPa以下となるように調整することが好ましい。透過率は、分離膜の透過係数(単位:kmol・m/s・m2・kPa)を分離膜の膜厚(単位:m)で除したものに相当する。当該透過率が1×10-7kmol/s・m2・kPa以下であれば、イソブタンの膜透過量が十分に小さく、イソブタンを効率的に濃縮できるといえる。一方、イソブタンの透過率の下限は特に制限されず、低い方が良いといえるが、過剰に低いと他成分の分離効率が低下するおそれがあり得るため、当該透過率としては1×10-10kmol/s・m2・kPa以上が好ましい。また、透過率が上記範囲にあれば、イソブタンの濃縮工程におけるイソブタンの損失率を3%以下に抑制することが可能になり得る。当該損失率は、[(膜分離装置の分離膜を透過して排出されたガスにおけるイソブタンのモル流速)/(膜分離装置へ導入する反応後ガスにおけるイソブタンのモル流速)]×100で計算できる。上記透過率としては、1×10-8kmol/s・m2・kPa以下がより好ましく、1×10-9kmol/s・m2・kPa以下がより更に好ましい。
本工程では、より多くのイソブタンが分離膜を透過できず、且つイソブタンおよびメタクロレイン以外の成分がより多く分離膜を透過することにより、膜分離装置において少なくともイソブタンが濃縮されることが好ましい。よって、例えば、膜分離装置におけるイソブタンの透過率に対する一酸化炭素の透過率の比としては10以上が好ましい。当該比が10以上であれば、本工程でイソブタンが十分に濃縮され、他成分を十分に分離できるといえる。当該比としては、20以上がより好ましく、50以上がより更に好ましい。一方、当該比を過剰に大きくするためには、分離膜の孔径を通常よりも精緻に制御しなければならずコスト高になるおそれがあり得るため、当該比としては500以下が好ましい。
フィルタの孔径は、例えば、多孔質基材をシリカゾルに浸漬や塗布した後、焼成する操作を繰り返し、シリカゾルの濃度や操作の繰り返し回数により調整することができる。シリカゾルとしては、ジルコニアゾルやチタニアゾル等、シリカゾルとその他の金属酸化物ゾルとの混合物を用いてもよい。
イソブタンの濃縮の条件は、反応後ガスに含まれるイソブタンを十分に回収できる範囲で調整することが好ましく、同時にイソブタンを濃縮したガスにおける一酸化炭素のモル流速を、酸化反応器へ導入する混合ガスにおける一酸化炭素のモル流速と同一または略同一にすることが好ましい。反応後ガスからイソブタン以外の成分を過剰に分離しようとすると、分離膜の面積を大きくせざるを得ずコスト高になる上に、イソブタンの損失量も増加する。そこで、イソブタンを濃縮したガスにおける一酸化炭素のモル流速を上記目安で調整することにより、適度な大きさの分離膜を用いることができ且つ本工程でのイソブタンの損失量も抑制できる。ここで、「同一または略同一」とは、イソブタンを濃縮した反応後ガスにおける一酸化炭素のモル流速が、酸化反応器に導入する混合ガスにおける一酸化炭素のモル流速に対して90%以上、110%以下であることをいう。
イソブタンや一酸化炭素のモル流速は、分離膜の面積、反応後ガスの膜分離装置への導入速度、分離膜間での圧力差などにより調整することができる。但し、低圧側の圧力は、経済性の点から常圧とすることが好ましい。その結果、膜分離装置へ導入する反応後ガスと分離膜を透過した透過側ガスの圧力差が0.1MPa以上、2MPa以下となるように調整することが好ましい。なお、当然ではあるが、分離膜を介して、膜分離装置へ導入する反応後ガスを導入する側が高圧側であり、その反対側が低圧側である。
5.イソブタンの再利用工程
本工程では、イソブタンを濃縮した反応後ガスを、酸化反応器に導入して再利用する。但し、当該反応後ガスの組成は、当初の混合ガスに比べて変化している。例えばイソブタンと酸素は酸化反応により消費されており、その濃度は当然に低下しているため、所定範囲で消費分を追加する。また、その他の成分も、本発明に係るメタクリル酸の製造プロセスを安定かつ連続的に実施すべく、触媒層へ導入する混合ガスにおける組成を所定範囲に調整することが好ましい。
以上の通り、本発明によれば、いまだイソブタン転化率が低いながらも、用途が限られており安価なイソブタンからメタクリル酸を一段階で製造することができ、且つ未反応のイソブタンを回収して再利用できるため、メタクリル酸を効率的に製造することが可能になる。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
実施例1
(1)イソブタン酸化触媒の調製
0.533gのリンモリブデン酸(H3PMo1240,ナカライテスク社製,77.5重量%)と6gのリンバナドモリブデン酸(H4PMo11VO40,日本無機化学工業社製,77.29重量%)を72gのイオン交換水に溶解した(溶液A)。1.1gの硝酸セシウム(和光純薬社製)と0.453gの硝酸アンモニウム(和光純薬社製)を16gのイオン交換水に溶解した(溶液B)。溶液Bを攪拌下の溶液Aに添加し、室温で20分攪拌を継続した。その後、攪拌しながら70℃に加熱して水分を蒸発させて粉体を得た。得られた粉体を乳鉢で粉砕後、磁性皿に入れて窒素気流下、120℃で12時間乾燥させた。次いで、5%酸素/窒素バランスガス気流下、380℃で4時間熱処理した。熱処理後の粉体を加圧成型した後、0.71〜1.18mmに篩い分けして顆粒状の触媒を得た。この触媒の酸素、窒素、水素を除く組成は、Cs2PMo11.10.9である。
(2)分離膜の作製
(2−1)シリカコロイドゾルの調製
ビス(トリエトキシシリル)エタン(BTESE)、エタノール、純水、35質量%塩酸を用い、BTESE/エタノール/純水/塩酸=1/28/6/0.1(モル比)の混合溶液を調製した。当該溶液を室温で2時間攪拌後、純水を追加してBTESE/エタノール/純水/塩酸=1/28/300/0.1(モル比)とした。次いで、加熱により混合溶液を6時間沸騰させた。この際、混合液量を一定とするため、沸騰による減少液量に対応する量の純水を追加した。
(2−2)シリカジルコニアゾルの調製
エタノール100gに、珪酸エチル3.55g、ジルコニウムテトラブトキシド7.2g、35質量%塩酸1.0gを加え、0.5時間攪拌し、珪酸エチルとジルコニウムテトラブトキシドを加水分解した。その後、更に水を加えて総液量を500mLとした後、12時間煮沸攪拌することにより、シリカジルコニアコロイドゾル(Zr/Si=1)を調製した。
(2−3)製膜
平均細孔径約1μmの多孔性α−アルミナ管(商品名「マルチポアロン」三井研削砥石社製,外径:10mm,長さ:24.5mm)の外表面上に、α−アルミナ微粒子の担持と550℃での空気中焼成を3回繰り返した。その後、上記(2−2)で得たシリカジルコニアコロイドゾルを2質量%に調整したものを使って180℃でのホットコーティングと550℃での空気中焼成を3回繰り返し、細孔径が数nmのシリカジルコニア中間層を作製した。このようにしてシリカ−ジルコニア膜で被覆したα−アルミナ管を得た。次いで、シリカ−ジルコニア膜で被覆したα−アルミナ管に上記(2−1)で得たシリカコロイドゾルを使って180℃でのホットコーティングと350℃での空気中焼成を8回繰り返して多孔性シリカ膜を作成した。得られた多孔性シリカ膜の膜厚は、約0.1μmであった。
(3)イソブタン酸化反応
上記(1)で得たイソブタン酸化触媒4gを、電気環状炉内に設置した内径6mmのステンレス製反応管に充填し、イソブタン13.5モル%、酸素13.5モル%、水蒸気10モル%、窒素63モル%からなる原料ガスを、常圧、100mL/分(標準状態換算)で流通させた。電気環状炉の温度を300℃に設定し、12時間反応させて安定化させた。その後、電気炉温度を360℃として反応を行い、反応生成物をガスクロマトグラフィーで分析したところ、イソブタン転化率13.1%、メタクリル酸選択率52.6%、メタクロレイン選択率6.4%、酢酸選択率10%、二酸化炭素選択率14.8%、一酸化炭素選択率9.1%であった。他にはアクリル酸などが生成していた。
反応器出口ガスを10℃の冷却水に通気して、メタクリル酸とメタクロレインを含む凝縮成分を吸収させた。凝縮成分を除去した反応後ガスの組成は、イソブタン13.6モル%、酸素10.1モル%、二酸化炭素1.2モル%、一酸化炭素0.7モル%、窒素73.2モル%、水蒸気1.2モル%であった。
(4)未反応イソブタンの回収と再利用
上記のイソブタン酸化反応で示したように、触媒層出口には多量の未反応イソブタンが残存していた。よって、未反応イソブタンを分離膜で濃縮し、他成分から分離回収して触媒層入口にリサイクルする必要がある。
上記(3)イソブタン酸化反応に記載したように、反応器出口ガスを冷却水に通気して凝縮成分を吸収させると、イソブタン13.6モル%、酸素10.1モル%、二酸化炭素1.2モル%、一酸化炭素0.7モル%、窒素73.2モル%、水蒸気1.2モル%の混合ガスが得られたが、この混合ガスからイソブタンのみを純度100%に濃縮・回収する必要はなく、リサイクル反応操作を行う上で、系外除去しなければ反応系内に蓄積して濃度が増加する成分、ここでは、一酸化炭素、二酸化炭素および窒素の一部を分離膜で未反応イソブタンから分離して、系外に排出できればよい。
上記(2)で作成したシリカ膜のような分離膜での物質移動は、移動する成分の分離膜間の分圧差を推進力として進行する。系外排出すべき一酸化炭素、二酸化炭素、窒素のうち、窒素は希釈ガスとして多量に含まれており十分な分圧があるが、一酸化炭素と二酸化炭素については反応生成するのみであり、その分圧は非常に小さい。このように分離膜を介して系外排出したい一酸化炭素と二酸化炭素の分圧が低い場合、分離膜での透過速度が小さくなり、必要な系外排出量を得るために多量の分離膜が必要となり経済性に劣ることになる。この問題を解決するために、一酸化炭素と二酸化炭素のリサイクル反応系内濃度をある程度高めた状態でリサイクル反応を行った。具体的には、一酸化炭素と二酸化炭素濃度をそれぞれ入口イソブタン濃度の0.3倍、0.5倍と設定してリサイクル反応を実施した。
触媒反応器入口ガスの組成は、イソブタン13.5モル%、酸素13.5モル%、水蒸気10モル%、一酸化炭素4.05%、二酸化炭素6.75%、窒素52.2モル%とした。原料ガス流速は100mL/分(標準状態換算)とし、常圧で供給した。モル流速換算では、イソブタン10.045μmol/秒、酸素10.045μmol/秒、二酸化炭素5.022μmol/秒、一酸化炭素3.013μmol/秒、窒素38.84μmol/秒、水蒸気7.44μmol/秒であった。
触媒としては、上記(1)で得たイソブタン酸化触媒4gを電気環状炉内に設置した内径6mmのステンレス製反応管に充填して、上記と同様に360℃で反応した。反応生成物をガスクロマトグラフィーにより分析したところ、イソブタン転化率12.9%、メタクリル酸選択率52.9%、メタクロレイン選択率6.3%、酢酸選択率9.7%、二酸化炭素選択率14.5%、一酸化炭素選択率9.3%となった。他にはアクリル酸などが生成した。
反応器出口ガスを10℃の冷却水に通気してメタクリル酸とメタクロレインを含む凝縮成分を吸収させた。凝縮成分を除去した反応後ガスの組成は、イソブタン13.6モル%、酸素10.1モル%、二酸化炭素9モル%、一酸化炭素5.5モル%、窒素60.6モル%、水蒸気1.2モル%であった(反応後ガス1)。モル流速では、イソブタン8.749μmol/秒、酸素6.474μmol/秒、二酸化炭素5.774μmol/秒、一酸化炭素3.495μmol/秒、窒素38.84μmol/秒、水蒸気0.769μmol/秒であった。
上記で得られた混合ガス(反応後ガス1)を、上記(2)で作製した多孔性シリカ膜を装填した膜分離装置に導入し、イソブタンの濃縮・分離回収を行った。導入ガスは2気圧に昇圧してから膜分離装置に導入した。透過側の圧力は常圧とした。
具体的には、図1に概略を示す分離装置1を用いてイソブタンの濃縮回収を行った。円筒型の分離装置1の内部には、分離膜2として円筒型の多孔性シリカ膜が配置されている。分離装置中、分離膜の有効面積は1.7cm2であった。また、分離装置の温度を40℃に設定した。多孔性シリカ膜の両端はグラファイト製リング3でシールされている。配管4を通して2気圧に昇圧された未反応イソブタン含有ガス1を、86.1mL/分(標準状態)の速度で分離膜2の外側表面に供給した。分離膜2を透過したガス成分は、分離膜2の内側に移動し、配管6から取り出した(透過ガス)。他方、分離膜2の外側表面に供給されたが、分離膜2を透過しなかったガス成分は、配管5を通って分離装置1より取り出された(イソブタン濃縮ガス)。
各ガスの成分のモル流速を石鹸膜流量計およびガスクロマトグラフィーで測定した。結果を表1に示す。
Figure 2020196688
上記結果より、使用した分離膜のイソブタンの透過率を算出すると1.8×10-9kmol/s・m2・kPaであり、当該分離膜のイソブタン透過率は十分に低いものであった。また、当該膜の一酸化炭素の透過率は1.24×10-7kmol/s・m2・kPaと十分に高く、イソブタンの透過率に対する一酸化炭素の透過率の比は68.8であり、当該膜の選択性は極めて優れたものであった。
反応後ガスからイソブタン以外の成分を過剰に分離しようとすると、分離膜の面積を大きくせざるを得ずコスト高になる上に、イソブタンの損失量も増加する。そこで、膜分離装置への導入ガス圧力と、多孔性シリカ膜の膜面積を調節することで、リサイクルに用いられるイソブタン濃縮ガス中に、触媒層に導入する反応前ガスに含まれる一酸化炭素と等量の一酸化炭素が残存するようにした。この分離条件で、イソブタンはほとんど透過ガスに移動せず、イソブタンを効果的に濃縮分離することができることが分かった。本工程でのイソブタンの損失率は、0.457%と非常に低いものであった。ここで得られたイソブタン濃縮ガスは、反応器入口にリサイクルされる。
(5)一酸化炭素の酸化
透過ガスには有害な一酸化炭素が含まれているので、透過ガスを一般的な1重量%白金担持アルミナ触媒が充填された触媒層に通気して二酸化炭素に酸化した。具体的には、0.5mLの触媒層に、19mL/分(標準状態)の速度で透過ガスを導入し、200℃で一酸化炭素の酸化反応を行った。一酸化炭素酸化後の透過ガスのモル流速を表2に示す。
Figure 2020196688
表2に示す結果の通り、1重量%白金担持アルミナ触媒により、一酸化炭素のみならず微量のイソブタンも酸化されて二酸化炭素と水が生成された。
(6)酸化処理ガスの再利用
一酸化炭素を酸化処理した後のガスの一部は系外へ排出し、残部を反応器入口にリサイクルした。系外排出分とリサイクル分について表3に示す。なお、反応器入口に酸化処理ガスの一部をリサイクルするのは、触媒層入口ガス中の二酸化炭素量を設定値とするためである。
Figure 2020196688
膜分離装置から得られたイソブタン濃縮ガスと一酸化炭素を酸化処理した後のガスの再利用分を合流させると、以下混合ガスが得られる。
Figure 2020196688
触媒層入口ガス設定値と表4の合計ガスを比較し、不足しているガス成分を系内追加すれば、定常的にリサイクル反応を行うことができる。表5に安定的なリサイクル反応を行うために追加供給すべきガス成分について示した。イソブタンは、液化イソブタンからそのままリサイクル反応系に供給することができる。水についても蒸発器で気化させてリサイクル反応系に供給することができる。追加すべき酸素と窒素の合計における酸素濃度は51.1体積%であり、空気より高いため、空気をそのままリサイクル反応系に追加供給することはできない。そのため、空気を原料として酸素濃度を所定の濃度に高めた後でリサイクル反応系に追加供給する必要がある。空気を原料として酸素濃度を所定濃度に高める方法は、PSA(Pressure Swing Adsorption)酸素発生装置を初めとして一般的な技術を採用することができる。
Figure 2020196688
本実施例で用いた触媒反応器でのメタクリル酸生成速度は0.6855μmol/秒であった。リサイクル反応系に供給される原料イソブタンは1.336μmol/秒であるので、メタクリル酸収率は51.3%と優れた値が得られた。
図2に、本実施例で使用した反応フローの概略を示す。
1:分離装置, 2:分離膜, 3:グラファイト製リング,
4:未反応イソブタン含有ガス導入用配管, 5:イソブタン濃縮ガス排出用配管,
6:膜透過ガス排出用配管

Claims (8)

  1. メタクリル酸を製造するための方法であって、
    触媒が充填された酸化反応器にイソブタンおよび酸素を含有する混合ガスを供給し、イソブタンを酸化してメタクリル酸を製造する工程、
    反応後ガスからメタクリル酸を回収する工程、
    メタクリル酸を回収した反応後ガスを膜分離装置へ導入し、イソブタンを濃縮する工程、および、
    イソブタンが濃縮された反応後ガスを、酸化反応器に導入して再利用する工程を含むことを特徴とする方法。
  2. 更に、メタクリル酸を回収した後で且つイソブタンを濃縮する前に、反応後ガスからメタクロレインを回収する工程を含む請求項1に記載の方法。
  3. イソブタンを濃縮する工程において、イソブタンを濃縮した反応後ガスにおける一酸化炭素のモル流速を、酸化反応器に導入する混合ガスにおける一酸化炭素のモル流速に対して90%以上、110%以下とする請求項1または2に記載の方法。
  4. 膜分離装置におけるイソブタンの透過率が1×10-7kmol/s・m2・kPa以下である請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
  5. 膜分離装置におけるイソブタンの透過率に対する一酸化炭素の透過率の比が10以上である請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
  6. イソブタンを濃縮する工程において、少なくとも窒素および二酸化炭素を低減する請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
  7. 膜分離装置において、導入する反応後ガスと分離膜を透過した透過側ガスの圧力差を0.1MPa以上、2MPa以下とする請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
  8. イソブタンを濃縮する工程におけるイソブタンの損失率が3%以下である請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
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