JP2020165745A - 放射性物質密封容器の異常検出装置およびその異常検出方法 - Google Patents

放射性物質密封容器の異常検出装置およびその異常検出方法 Download PDF

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総一郎 岡▲崎▼
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将徳 後藤
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浩文 竹田
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Abstract

【課題】従来の技術をさらに発展させて、より精度の高い予測が可能な、放射性物質密封容器の異常検出装置を得る。【解決手段】放射性物質の密封容器における第1の位置の温度を計測する第1の温度計測器と、第1の位置とは異なった第2の位置の温度を計測する第2の温度計測器と、同密封容器の周囲の雰囲気温度を計測する雰囲気温度計測器と、放射性物質についての熱的な物理量を取得する熱的物理量取得手段とを有する。さらに、第1の位置の温度と、第2の位置の温度と、雰囲気温度と、放射性物質についての熱的な物理量とから、数学モデルを用いて、第1の位置の温度と第2の位置の温度との温度差の将来値を予測するとともに、この将来値と、その将来の時点における第1の位置の温度の計測値および第2の位置の温度の計測値の温度差とを比較することで、密封容器の健全性を評価する演算装置を有する。【選択図】図2

Description

本発明は放射性物質密封容器の異常検出装置および放射性物質密封容器の異常検出方法に関し、特に、放射性物質を密封する容器における容器内部の気体の漏洩を検出するための、異常検出装置および異常検出方法に関する。
原子炉の使用済原子燃料に代表される高放射性物質の貯蔵手段として、コンクリートキャスクが知られている。このコンクリートキャスクは、空気によって自然冷却を行う乾式型である。コンクリートは放射線遮蔽材および構造体としての物性および機械的性能に優れるとともに、安価であるため、水プールを必要とする湿式法や金属キャスクと比較して、コスト的に有利である。
コンクリートキャスクは、コンクリートにより形成され遮蔽構造体として機能する、筒状のコンクリート容器を備える。このコンクリート容器の内部には、密閉容器として機能する筒状のキャニスタが収納される。キャニスタは、ステンレス鋼などの金属製で、両端が閉塞した円筒形状に形成され、その内部には、放射性物質である使用済原子燃料が封入されている。キャニスタは、封入された放射性物質が外部に漏洩しないよう、溶接密閉構造を有している。そしてキャニスタの内部には、空気よりも熱伝導率の高い不活性ガスであるヘリウムガスが封入されている。
上記のように構成されるコンクリートキャスクにおいて、キャニスタの溶接部の欠陥や腐食などにより、キャニスタに封入されたヘリウムが漏洩してしまう可能性が懸念される。かかるヘリウム漏洩事象は、環境に放射性物質を出すことになり、防止すべき事象であるが、万が一このような事象が起こった場合には、より早急に検知して対策をとる必要がある。
このための検知手段として特許文献1には、キャニスタの頂面の中心位置および底面の中心位置の温度差と、冷却用空気の温度としての給気温度とを監視し、これらの温度変化に基づいてヘリウムガスの漏洩を検知するようにしたものが記載されている。
特許文献2には、キャニスタ(貯蔵器)の特定位置における温度についての未来物理量を予測する数学モデルにより、キャニスタの健全性を数値的かつ統計的に評価するための健全性指数を計算するようにしたものが記載されている。この数学モデルとして、具体的には重回帰モデルが用いられている。
特開2005−265443号公報 特許第4107910号公報
本発明は、上記のような従来の技術をさらに発展させて、より精度の高い予測が可能な、放射性物質密封容器の異常検出装置およびその異常検出方法を得ることを目的とする。
この目的を達成するため本発明の放射性物質密封容器の異常検出装置は、
放射性物質の密封容器における第1の位置の温度を計測する第1の温度計測器と、
放射性物質の密封容器における前記第1の位置とは異なった第2の位置の温度を計測する第2の温度計測器と、
放射性物質の密封容器の周囲の雰囲気温度を計測する雰囲気温度計測器と、
放射性物質についての熱的な物理量を取得する熱的物理量取得手段と、
前記第1の位置の温度と、第2の位置の温度と、雰囲気温度と、放射性物質についての熱的な物理量とから、数学モデルを用いて、第1の位置の温度と第2の位置の温度との温度差の将来値を予測するとともに、前記将来値と、その将来の時点における第1の位置の温度の計測値および第2の位置の温度の計測値の温度差とを比較することで前記密封容器の健全性を評価する演算装置と、
を有することを特徴とする。
本発明の放射性物質密封容器の異常検出装置によれば、放射性物質についての熱的な物理量は、この放射性物質についての熱的な物理量の初期値にもとづく数値解析結果であることが好ましい。
本発明の放射性物質密封容器の異常検出装置によれば、演算装置は、第1の位置の温度と第2の位置の温度との温度差について予測された将来値に対し、その将来の時点における第1の位置の温度の計測値および第2の位置の温度の計測値の温度差が規定値を外れる回数が一定回数以上であるときに警告を発するものであることが好ましい。
本発明の放射性物質密封容器の異常検出装置によれば、第1の位置の温度と第2の位置の温度との温度差について予測された将来値は、勾配ブースティング法または重回帰法にて計算された値であって、誤差範囲に関する上限値と下限値とを有する時系列の値であることが好ましい。
本発明の放射性物質密封容器の異常検出方法は、
放射性物質の密封容器における第1の位置の温度を計測し、
放射性物質の密封容器における前記第1の位置とは異なった第2の位置の温度を計測し、
放射性物質の密封容器の周囲の雰囲気温度を計測し、
放射性物質についての熱的な物理量を取得し、
前記第1の位置の温度と、第2の位置の温度と、雰囲気温度と、放射性物質についての熱的な物理量とから、数学モデルを用いて、第1の位置の温度と第2の位置の温度との温度差の将来値を予測するとともに、前記将来値と、その将来の時点における第1の位置の温度の計測値および第2の位置の温度の計測値の温度差とを比較することで前記密封容器の健全性を評価する、
ことを特徴とする。
本発明の放射性物質密封容器の異常検出方法によれば、放射性物質についての熱的な物理量を、この放射性物質についての熱的な物理量の初期値にもとづく数値解析により求めることが好適である。
本発明の放射性物質密封容器の異常検出方法によれば、第1の位置の温度と第2の位置の温度との温度差について予測された将来値に対し、その将来の時点における第1の位置の温度の計測値および第2の位置の温度の計測値の温度差が規定値を外れる回数が一定回数以上であるときに警告を発することが好適である。
本発明の放射性物質密封容器の異常検出方法によれば、第1の位置の温度と第2の位置の温度との温度差について予測する将来値を、誤差範囲に関する上限値と下限値とを有する時系列の値として、勾配ブースティング法または重回帰法にて求めることが好適である。
本発明の放射性物質密封容器の異常検出方法によれば、誤差範囲に関する上限値と下限値とを、統計的な標準偏差または予測区間から求めることが好適である。
本発明者らの知見によれば、内部に発熱体を収納する放射性物質密封容器の表面温度は、その周囲の気温およびその内部に収納された発熱体の温度による影響や、計測誤差などにより、常に変動している。この点に関し、従来の技術たとえば特許文献1や特許文献2に記載の技術においては、周囲の気温に着目したうえで、第1の位置の温度と第2の位置の温度との温度差を議論している。これに対し本発明においては、密封が維持されている密封容器の表面温度を、密封容器の周囲の雰囲気温度のみならず、放射性物質についての熱的な物理量をも用いて、精度良く予測することが可能となる。そして本発明によれば、予測された表面温度と実際の温度を比較、評価することで、放射性物質の密封容器から漏洩する内部気体を精度良く検出できるようになる。
本発明の実施の形態の異常検出装置を適用可能な放射性物質密封容器を示す図である。 本発明の実施の形態の異常検出方法のフローチャートである。 本発明の実施の形態の異常検出方法で用いられる勾配ブースティング法のフローチャートである。 図3のフローチャートの要部を詳細に示す図である。 本発明の実施の形態の異常検出方法を用いた検出結果の例を示す図である。 図5の要部を詳細に示す図である。 温度差ΔTBTの予測値を求めるときに雰囲気温度だけを用いたときの検出結果の例を示す図である。 温度差ΔTBTの予測値を求めるときに放射性物質についての熱的な物理量だけを用いたときの検出結果の例を示す図である。
図1に示される放射性物質の貯蔵容器は、使用済の放射性物質が収納されると共に加圧ヘリウムガスが充填された金属製の密封容器11と、密封容器11が収容されたコンクリート製の遮蔽構造体12と、遮蔽構造体12の下部側に形成される給気口13および上部側に形成される排気口14と、密封容器11と遮蔽構造体12との間に形成されて給気口13および排気口14を繋ぐ流路15とを有する。そして、この放射性物質の貯蔵容器は、給気口13から流路15を介して排気口14へと移動する大気すなわち冷却ガスにより、放射性物質から発生する熱を奪って冷却するように構成されている。
本発明の実施の形態の異常検出装置は、放射性物質の貯蔵容器における密封容器11からの加圧ガスの漏洩を検知するものである。この異常検出装置においては、密封容器11の上面16および下面17の温度を検知するための温度センサ18、19がそれぞれ設けられている。また、貯蔵容器の雰囲気温度つまり給気口13における空気の温度を検知するための温度センサ20が設けられている。21は演算装置で各温度センサ18、19、20からの検出信号が入力されるように構成されている。
本発明の実施の形態の放射性物質密封容器の異常検出装置およびその異常検出方法においては、密封容器11の上面16の温度を検知する温度センサ18にて検知された温度と、密封容器11の下面17温度を検知する温度センサ19にて検知された温度との温度差ΔTBTにもとづいて、密封容器11の健全性を評価する。密封容器11の内部では対流が生じるため、上面16の温度と下面17の温度とは、互いに影響を及ぼし合う。また密封容器11すなわち放射性物質の貯蔵容器は屋外に設置されることが多いが、その雰囲気温度である周囲の気温すなわち周囲温度は、ダイナミックに変動する。さらに密封容器11の内部の放射性物質すなわち使用済燃料について、その熱的物理量すなわち発熱量や温度は、放射性元素の崩壊等による発熱などにもとづき、ダイナミックに変動する。
上述の特許文献1に記載のように、密封容器における異なる2点の温度差にもとづいて、この密封容器からのガス漏れの有無すなわち密封容器の健全性を評価することが、原理的に可能である。そして特許文献1では、密封容器における異なる2点の温度を検知するとともに周囲温度をも検知して、これらの検知結果から密封容器の健全性を精度良く評価している。
これに対し本発明においては、上記の諸現象にもとづき、密封容器における異なる2点の温度を検知するとともに、周囲温度を検知し、さらに放射性物質の熱的物理量を取得したうえで、つまり周囲温度に加えて放射性物質の熱的物理量をも加味することで、密封容器の健全性をいっそう精度良く評価しようとするものである。以下、その実施の形態を詳細に説明する。
特許文献1においても説明されているが、密封容器11の健全性が損なわれるすなわちその密封性が損なわれると、その内圧が大気圧より高ければ漏洩が発生し、またその内圧が大気圧より低ければインリークが発生する。それによって、密封容器11の表面温度が変化する。この表面温度の変化は、密封容器11の頂部と底部とにおいて特に顕著である。したがって、健全性を評価するためには、密封容器11における異なる2点の温度の差を求めることが必要であり、その2点は密封容器11における高さの異なる位置であることがより好ましく、上述のように密封容器11の上面16の温度と下面17の温度との差であることがさらに好ましく、上面16の中央部の温度と下面17の中央部の温度との差であることがいっそう好ましい。
貯蔵容器の雰囲気温度すなわち貯蔵容器の周囲の大気の温度は、温度センサ20によって計測することができる。その検知位置は、上述の給気口13、排気口14、流路15のいずれかとすることができる。なかでも、図示のように貯蔵容器の温度の影響を受けにくい給気口13で温度検知することが望ましい。
密封容器11の内部の放射性物質の熱的物理量としては、その温度や発熱量を挙げることができる。これらは、実測データから求めることができる。しかし、実際の内部発熱体の温度及び発熱量をサーモメータ等で直接に計測することは難しいと考えられるため、数値解析により予測される温度や発熱量を用いる方法が挙げられる。その数値解析の手法の詳細は、例えば以下のとおりである。
燃焼計算コード等から使用済燃料の発熱量を計算し、それを基に有限要素法を用いた解析ソフトにより、内部発熱体の貯蔵開始時から貯蔵末期までの温度推移を求める。ただし、この値は対流を考慮しない値であるため、実際より高い温度になると予想されるが、CFD(数値流体力学)ソフトウェア等を用いて求めた計算値を、密封容器11の頂部の温度と底部の温度との温度差について実測した値であるΔTBT値により補正することで、より精度の高い内部発熱体の温度を予測することが出来る。
本発明においては、得られたデータから、数学モデルを用いて、上述の温度差ΔTBTの将来値を予測する。そして、その予測値と、その将来の時点における温度差ΔTBTの実測値とを比較することにより、密封容器11の健全性を評価する。詳細には、温度差ΔTBTの予測値と実測値との「ずれ」にもとづいて、密封容器11の健全性を評価する。そのフローを、図2を参照して説明する。
図1に示される貯蔵容器の密封容器11および演算装置21を用いた放射性物質の貯蔵を、ステップS201において開始したなら、ステップS202において、各物理量の計測を開始する。この物理量には、上述のように、密封容器11における異なる2点すなわちその上面16の温度および下面17の温度と、貯蔵容器の周囲の大気温度とを含む。そして、可能であれば。放射性物質の熱的物理量つまりその温度や発熱量を実測する。実測ができない場合は、上述の数値解析結果を利用する。
図2に示されるフローにおいては、一定期間にわたり密封容器11の表面温度を計測し、機械学習にてその先の期間の表面温度を予測する。予測された表面温度に平滑化処理を施して誤差を取り除き、補正予測温度と統計的な予測区間を算出する。補正予測温度および予測区間と、実際の表面温度とを比較することで、漏洩の有無を検出する。
すなわち、ステップS203において各種データの学習を開始したなら、ステップS204において、温度差ΔTBTの学習を終了するか否かを判断し処理を分岐する。図2のフローにおいては、「はい」、「いいえ」の両方に分岐する。
「いいえ」に分岐した場合は、ステップS205において全データの計測を継続し、「はい」の場合のフローとの処理時間を整合させるために所定時間の経過を待つ。密封容器11の内部の放射性物質の熱的物理量については、実測を行うか、数値解析によって値を求める。所定時間の経過後は、後述のステップS209に移る。
ステップS204において「はい」に分岐した場合は、ステップS206において、温度差ΔTBTの予測モデルを構築し、ステップS207において温度差ΔTBTの予測を開始する。ステップS206における予測モデルすなわち数学モデルについての詳細は、後述する。
ステップS208にて予測を終了したときには、平滑化および統計的な予測区間の算出を行う。予測区間とは、温度差ΔTBTについての許容変動範囲を意味する。平滑化の詳細ついては後述する。
次に、ステップS209において、ステップS208からの予測区間と、ステップS205からの計測データすなわち実際値とから、密封容器11における漏洩の有無を評価する。詳細には、実際値が予測区間内に存在する場合には漏洩なしと評価し、これに対し実際値が予測区間を外れている場合には、漏洩ありと評価する。
続くステップS210においては、密封容器11における漏洩の有無を判断し、漏洩がない場合はステップS203に戻って、それまでの処理を繰り返す。反対に漏洩があった場合には、ステップS211に移って、貯蔵を終了し、漏洩対策などの処置を実施する。
ステップS206における予測モデルすなわち数学モデルについて詳しく説明する。その数学モデルとしては、適宜の手法を用いることができる。なかでも、勾配ブースティング法と重回帰分析とが好ましい。なぜなら、本発明者らの検討によれば、勾配ブースティング法は他の手法に比べて高精度であり、重回帰分析は他の手法に比べて演算時間が短いためである。このうち、勾配ブースティング法は、精度の劣る予測器(以下、「弱い予測器」と称することがある)を足し合わせて精度を高める手法である。詳細は後述するが、勾配ブースティング法を用いて得られる温度差ΔTBTの将来値は、誤差範囲に関する上限値と下限値を有する時系列の値(予測区間)である。
以下、数学モデルの例としての勾配ブースティング法を用いた手法について、図3および図4を参照して詳細に説明する。
図3のフローは、図2のフローと一部重複するものであるが、説明のために敢えて重複させる。すなわち、ステップS201、S202、S205は図2のフローにおける処理と同じものである。なお、図3では、図2におけるステップS203とS204とは、記載を省略している。また図3ではステップS204において分岐を行っているが、上述のように「はい」と「いいえ」との両方に分岐するため、図3のように直列的に記載しなおすこともできる。
図2を参照した説明と重複的になるが、本発明の異常検出装置および異常検出方法では、ステップS205において計測されるそれぞれの物理量は、常時計測される時系列データである。また、以後のステップにおいて予測、評価が行われるが、その際にも常に計測は続けられ、その計測値を用いる。
次のステップS301は、予測器を構築するというステップであり、図2におけるステップS206に相当するものである。このステップS301においては、未来物理量を予測するための予測器を構築する。図4は、その一例として、勾配ブースティング法を詳細に示す。
すなわち、図4に示す勾配ブースティング法のステップS401においては、計測値から「第1の弱い予測器」を構築する。つまり、勾配ブースティング法のステップS401においては、計算時間は短いものの精度には劣る「第1の弱い予測器」を構築する。「第1の弱い予測器」とは、正解率が0.5より大きい、つまりランダムよりは正解率が高いが、その正解率が1より小さい予測器を意味する。「第1の弱い予測器」は典型的には機械学習における決定木であるが、計算時間に優れる場合は、他の予測器を選ぶことも可能である。
なお、決定木の作成方法は、特に限定されない。
次に、ステップS402において、「第1の弱い予測器」から「第1の弱い『予測値』」を予測する。つまり、勾配ブースティング法のステップS402においては、ステップS401で構築した「第1の弱い予測器」を用いて、温度差ΔTBTの計測値を、雰囲気温度と、放射性物質についての熱的な物理量とによって分類する。これにより、雰囲気温度と、放射性物質についての熱的な物理量とが与えられたときに、温度差ΔTBTについての、もっともありそうな「第1の弱い予測値」が求められる。
ステップS403では、計測値と「第1の弱い予測値」との間の「第1の弱い誤差」を算出する。つまり、計測値と「第1の弱い予測値」との残差を求め、この残差を「第1の弱い誤差」とする。「第1の弱い誤差」は、続くステップS404以降において、より強い予測器を構築するために用いられる。
そのステップS404においては、「第1の弱い誤差」から「第2の弱い予測器」を構築する。その手順は、ステップS401のものと同様である。ただし、「第2の弱い予測器」は、「第1の弱い誤差」を、雰囲気温度の値と、放射性物質についての熱的な物理量の値とによって分類する。よって、「第2の弱い予測器」は、「第1の弱い誤差」つまり計測値と「第1の弱い予測値」との残差を、雰囲気温度と、放射性物質についての熱的な物理量とによって分類することで、「第2の弱い誤差」を予測するものである。
次のステップS405では、「第2の弱い予測器」を、このステップS405以後においてより強い予測器を構築するために用いる。つまり、ステップS405においては、「第1の弱い予測器」と「第2の弱い予測器」とを合成して「強い予測器」を構築する。換言すると、「第1の弱い予測器」と「第2の弱い予測器」とを合成して、より精度の高い「強い予測器」を構築する。「強い予測器」は、「第1の弱い予測器」では十分に予測できなかったデータに対して、「第2の弱い予測器」を用いて精度良く予測し直す。よって、「強い予測器」は、「第1の弱い予測器」より精度の高い予測器となる。
ステップS406では、「強い予測器」から「強い予測値」を予測する。詳細には、ステップS405で構築した「強い予測器」を用いて温度差ΔTBTを雰囲気温度の値と、放射性物質についての熱的な物理量の値とによって分類することで、雰囲気温度と放射性物質についての熱的な物理量とが与えられたときに、(もっともありそうな)温度差ΔTBTの「強い予測値」を算出できる。
ステップS407では、計測値と「強い予測値」との間の「誤差」を算出する。この「誤差」は、「強い予測器」の予測精度を評価するためのものである。
ステップS408では、上記の「誤差」を評価する。換言すると、上記の「誤差」を用いて、「強い予測器」の予測精度を評価する。このとき、予測範囲の全域において、「誤差」が「強い予測値」の標準偏差より小さければ、「強い予測器」は十分な予測精度を有していると評価される。反対に、予測範囲において、「誤差」が「強い予測値」の標準偏差より大きい点があれば、「強い予測器」は十分な予測精度を有していないと評価される。
「誤差」が小さい場合は、ステップS409において、「強い予測値」を予測値として採用して、図4のフローに示された処理を終了する。反対に、「誤差」が大きい場合、すなわち「強い予測器」が十分な予測精度を有していない場合は、ステップS410において、「強い予測器」を「弱い予測器」に置き換え、「強い予測値」を「弱い予測値」に置き換え、「誤差」を「弱い誤差」に置き換えたうえで、ステップS404からステップS408までを、「強い予測器」が十分な予測精度を得るまで繰り返す。
図3のフローに戻って、ステップS302では、予測値を算出する。つまり、ステップS302において、ステップS301で構築した予測器を用いて、温度差ΔTBTの将来値を算出する。ある時点tにおける雰囲気温度と放射性物質についての熱的な物理量とを予測器に入力すると、その時点tにおける温度差ΔTBTの将来値が出力すなわち予測される。
上記の説明から理解されるように、図3において破線で囲まれた部分、すなわちステップS301とS302とを含む部分が、図4に示されたフローの処理に相当する。
次に、図3のステップS303において、予測値すなわち温度差ΔTBTの将来値の上限値および下限値を統計的手法により算出する。典型的には標準偏差または予測区間を用いるが、ここでは予測区間を用いる手法について説明する。すなわち、例えば実測値から得られる標本平均に対し、予測区間で決められた分布の面積が95%の範囲となるように設定した値を掛け合わせた標本標準誤差を考慮する事で、温度差ΔTBTの将来値の上限値および下限値を求めることができる。
なお、標準偏差は、n個のデータからなる母集団に対してn個のデータのすべてを計測できる場合に、その平均から算出されるものである。一方、本実施の形態においては、母集団の平均と標準偏差とは、標本から推定できるのみである。一方、予測区間は、母集団を仮定した上で、ある標本値に対して「どの範囲に対してあると『予測』されるか」を示すものである。本実施の形態施においては、母集団を計測することができないため、予測区間により予測値の上限値及び下限値を定めることが適切である。
ステップS304では、計測値と予測値とを比較する。つまり、計測値と、ステップS302で求めた予測値との残差を求める。
そして、ステップS305では、ステップS304で求めた残差について評価する。密封容器11が健全であると評価するのは、密封容器11の初期内圧が大気圧より高い場合に、残差が予測値と上限値との差より小さいとき(計測値<上限値)であり、また密封容器11の初期内圧が大気圧より低い場合に、残差が予測値と下限値との差より小さいとき(計測値>下限値)である。
上記を満たした場合は、計測値と予測値とは一致した、つまり密封容器11が健全であると判断する。これに対し、そうでない場合は、計測値と予測値とは一致しない、つまり密封容器11に漏洩が発生していると評価する。なお、上記の残差を規定値として、規定値を外れる回数が一定回数以上であるときに警告を発することが好ましい。その理由は、台風などの突発的な気象条件の変化や急激な温度変化が起きた場合に規定値を外れる場合があるため、その影響を除外する目的のためである。
密封容器11に漏洩が発生した場合は、密封容器11における使用済燃料の貯蔵を中止し(ステップS306)、検査を行う。密封容器11が健全であると判断した場合は、ステップS205に戻って処理を繰り返す。
ステップS304、S305、S306における処理は、図2におけるステップS209、S210、S211の処理と共通する。
図2のステップS208における平滑化は、次のようにして行う。すなわち、予測モデル及びデータセットのうち温度差ΔTBTを除いたデータを用いて算出した温度差ΔTBTの予測値を、確率誤差及び過程誤差を取り除いた時系列分析により補正することにより、平滑化を行う。
以上のようにして、密封容器11における漏洩の有無を精度良く判定することができる。なお、密封容器11の内部の放射性物質の熱的物理量を計測するものであるため、放射性物質の発熱量が低下した時にも、それに合わせて精度の良い判定を行うことができる。
(実施例)
図2のフローに示される機械学習に基づき、温度差ΔTBTの実測値と、放射性物質の密封容器11の周囲の気温およびその内部に収納された発熱体の温度と(以上を「データセット」と呼ぶ)を用いて、予測開始時点以後の温度差ΔTBTの予測値を算出した。温度差ΔTBTの計測値は、図1に示される密封容器11の上面16の温度を検知する温度センサ18にて検知された温度と、密封容器11の下面17温度を検知する温度センサ19にて検知された温度とから求めた。そのための実際の処理は、放射性物質の密封容器11を1/4.5倍で模した試験装置を用いて実施した。熱源は、放射性物質に代えて電熱ヒータを用いた。密封容器11には空気を圧力0.6MPaで充填した。
図5はその結果を示す。図5において、横軸は試験開始後の日数、縦軸は温度差ΔTBTである。また温度差ΔTBTの計測値ΔTBT(t)はドットで表し、温度差ΔTBTの予測値ΔTBTf(t)は太い実線で表している。図中で濃く表示した部分は予測区間(時系列のデータ)を表し、その上縁は予測値の上限ΔTBTfmax(t)であり、その下縁は予測値の下限ΔTBTfmin(t)である。図5において、25は予測開始点で、この予測開始点25すなわち試験開始後5.8日を経過した時点で、温度差ΔTBTの予測値ΔTBTf(t)を求めることを開始した。図5において、26は漏洩開始点で、試験開始後6.8日を経過した時点で人為的に漏洩を発生させた。図6は、図5における予測開始点25の近傍の時点から漏洩開始点26の近傍の時点までの範囲を拡大して詳細に示す。
すなわち、予測開始点25の時点よりも以前においてはデータセットのすべてを用いて予測モデルを構築し、予測開始点25よりも以後においては前記予測モデルおよびデータセットのうち温度差ΔTBTを除いたデータを用いて、温度差ΔTBTの予測温度を算出した。さらに、時系列分析を用いて温度差ΔTBTの実際の温度および予測温度を補正した。この補正は、確率誤差および過程誤差を取り除く平滑化処理であり、その詳細は既述のとおりである。ここでは、補正された温度のうち予測開始点25以前を「補正温度」と呼び、予測開始点25以後を「補正予測温度」と呼ぶ。時系列分析に基づき、「補正温度」および「補正予測温度」の予測区間を算出した。この予測区間が図5および図6に示されているが、これが正常状態領域である。
図5および図6に示す事例では、漏洩開始点26よりも以前では、温度差ΔTBTの計測値が、試験開始後6.25日付近の微妙な部分を含めて、予測区間の内側に収まっているが、漏洩開始点26よりも以後では温度差ΔTBTの実際の計測値が予測区間の外側にずれている。図5および図6では、温度差ΔTBTの計測値が最初に予測区間の外側にずれた時点を「検出点」と称しており、この時点で図2のステップS210により漏洩の判断が行われる。
試験開始後6.25日付近の微妙な部分では、予測範囲をわずかに下回っていることが明らかな計測値が若干存在するが、この場合は、前述のようにそのような計測値の数が僅かであったため、すなわち予測範囲を外れた回数が僅少であったため、警告を発しない処理とした。
なお、本実施例では、熱源である電熱ヒータの温度が徐々に上昇し続けるようにセットした。このため、特に図5に示すように、密封性の維持されている領域においても温度差ΔTBTの計測値も徐々に上昇した。その傾向は、特に予測開始点25以後において顕著であった。しかしながら、「補正予測温度」および「予測区間」は温度差ΔTBTの上昇に追随しており、これは密封性が維持されていることを示している。温度差ΔTBTの計測値が実質的に「予測区間」から外れるのは、漏洩開始点26の直後である。よって、発熱体の温度が変動する場合においても、確実に漏洩の判断を行い得ることが確認された。
(比較例1)
図7は、比較例1として、温度差ΔTBTの予測値を求めるときに、上記した実施例のように、雰囲気温度と、放射性物質についての熱的な物理量との両方を用いるのではなく、雰囲気温度のみを用いた場合の結果を示す。この場合は、図示のように、予測開始後、まだ漏洩が発生していない時点で、計測値が予測区間から外れるという事態が発生した。
(比較例2)
図8は、比較例2として、温度差ΔTBTの予測値を求めるときに、上記した実施例のように、雰囲気温度と、放射性物質についての熱的な物理量との両方を用いるのではなく、放射性物質についての熱的な物理量のみを用いた場合の結果を示す。この場合も、図示のように、予測開始後、まだ漏洩が発生していない時点で、計測値が予測区間から外れるという事態が発生した。

Claims (9)

  1. 放射性物質の密封容器における第1の位置の温度を計測する第1の温度計測器と、
    放射性物質の密封容器における前記第1の位置とは異なった第2の位置の温度を計測する第2の温度計測器と、
    放射性物質の密封容器の周囲の雰囲気温度を計測する雰囲気温度計測器と、
    放射性物質についての熱的な物理量を取得する熱的物理量取得手段と、
    前記第1の位置の温度と、第2の位置の温度と、雰囲気温度と、放射性物質についての熱的な物理量とから、数学モデルを用いて、第1の位置の温度と第2の位置の温度との温度差の将来値を予測するとともに、前記将来値と、その将来の時点における第1の位置の温度の計測値および第2の位置の温度の計測値の温度差とを比較することで前記密封容器の健全性を評価する演算装置と、
    を有することを特徴とする放射性物質密封容器の異常検出装置。
  2. 放射性物質についての熱的な物理量は、この放射性物質についての熱的な物理量の初期値にもとづく数値解析結果であることを特徴とする請求項1記載の放射性物質密封容器の異常検出装置。
  3. 演算装置は、第1の位置の温度と第2の位置の温度との温度差について予測された将来値に対し、その将来の時点における第1の位置の温度の計測値および第2の位置の温度の計測値の温度差が規定値を外れる回数が一定回数以上であるときに警告を発するものであることを特徴とする請求項1または2記載の放射性物質密封容器の異常検出装置。
  4. 第1の位置の温度と第2の位置の温度との温度差について予測された将来値は、勾配ブースティング法または重回帰法にて計算された値であって、誤差範囲に関する上限値と下限値とを有する時系列の値であることを特徴とする請求項1から3までのいずれか1項記載の放射性物質密封容器の異常検出装置。
  5. 放射性物質の密封容器における第1の位置の温度を計測し、
    放射性物質の密封容器における前記第1の位置とは異なった第2の位置の温度を計測し、
    放射性物質の密封容器の周囲の雰囲気温度を計測し、
    放射性物質についての熱的な物理量を取得し、
    前記第1の位置の温度と、第2の位置の温度と、雰囲気温度と、放射性物質についての熱的な物理量とから、数学モデルを用いて、第1の位置の温度と第2の位置の温度との温度差の将来値を予測するとともに、前記将来値と、その将来の時点における第1の位置の温度の計測値および第2の位置の温度の計測値の温度差とを比較することで前記密封容器の健全性を評価する、
    ことを特徴とする放射性物質密封容器の異常検出方法。
  6. 放射性物質についての熱的な物理量を、この放射性物質についての熱的な物理量の初期値にもとづく数値解析により求めることを特徴とする請求項5記載の放射性物質密封容器の異常検出方法。
  7. 第1の位置の温度と第2の位置の温度との温度差について予測された将来値に対し、その将来の時点における第1の位置の温度の計測値および第2の位置の温度の計測値の温度差が規定値を外れる回数が一定回数以上であるときに警告を発することを特徴とする請求項5または6記載の放射性物質密封容器の異常検出方法。
  8. 第1の位置の温度と第2の位置の温度との温度差について予測する将来値を、誤差範囲に関する上限値と下限値とを有する時系列の値として、勾配ブースティング法または重回帰法にて求めることを特徴とする請求項5から7までのいずれか1項記載の放射性物質密封容器の異常検出方法。
  9. 誤差範囲に関する上限値と下限値とを、統計的な標準偏差または予測区間から求めることを特徴とする請求項8記載の放射性物質密封容器の異常検出方法。
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