JP2020164499A - 製紙工程用スライムコントロール剤組成物およびスライムコントロール方法 - Google Patents

製紙工程用スライムコントロール剤組成物およびスライムコントロール方法 Download PDF

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Abstract

【課題】酸化性物質でありながら安定性に優れ、しかも、細菌類、真菌類、藻類に加えて、アメーバ等の原生動物に対しても殺滅効果を示す製紙工程用スライムコントロール剤組成物、および当該効果を有するスライムコントロール方法を提供する。【解決手段】本発明は、上記課題を解決するため、クロラミンTおよびクロラミンBから選択される少なくとも1種の酸化性物質と、臭素化合物の少なくとも1種とを含有することを特徴とする製紙工程用スライムコントロール剤組成物、またクロラミンTおよびクロラミンBから選択される少なくとも1種の酸化性物質と、臭素化合物の少なくとも1種とを水系に添加し、好ましくは製紙工程中の水貯留部を攪拌することを特徴とするスライムコントロール方法の構成とした。【選択図】図2

Description

本発明は、水系に添加使用される製紙工程用スライムコントロール剤組成物およびスライムコントロール方法に関し、特に、貯蔵安定性の高い酸化性の製紙工程用スライムコントロール剤組成物であって、製紙工程水系に添加した際の除菌効果やバイオフィルム抑制効果が高く、優れたスライム防止効果が得られる製紙工程用スライムコントロール剤組成物、およびそれを用いたスライムコントロール方法に関する。
製紙はパルプ原料を水中に分散させた原料スラリーを抄紙することで行われ、その際、微細繊維や填料、澱粉、サイズ剤等を含む白水が抄紙機等から多量に排出される。また、白水は、水資源の有効活用や再利用の観点から、抄紙工程や原料調整工程で循環させて用いられるようになっている。
しかし、白水は澱粉、サイズ剤、ラテックス、カゼイン等の有機物を多く含むため、細菌類、真菌類等の微生物が繁殖し、微生物由来のスライムが循環水系中、或いは配管や設備表面に発生しやすい。このスライムは、製品中に混入して製品品質や生産効率を低下させる。
特に、白水循環水系は、上記微細繊維、澱粉等が濃縮されるため、その一部を系外に排出し新しい水を導入しているが解決には不十分である。加えて、現在では一度系外に排出した白水を加圧浮上や凝集ろ過等によって処理した後に抄紙工程用水として再利用することも一般的であり、有機物の蓄積対策、スライム対策は抄紙工程における大きな課題となっている。
このような製紙工程のスライムの抑制技術のうち、従来から多用され、殺菌性は高いが安定性が低く水系内の金属腐食性に劣る塩素系酸化剤に代えて、殺菌性は劣るが安定性が高く金属腐食性が低い塩素系酸化剤とアンモニウム塩やスルファミン酸との反応生成物による処理が種々提案されている。
例えば、特開2008−43836号公報(特許文献1)、特開2014−145145号公報(特許文献2)。さらに、殺菌効果が高い臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物との反応物の使用が特開2015−209610号公報(特許文献3)に開示され、クロラミンTの使用も特表2017−536168号公報(特許文献4)に開示されている。
本出願人も特開2014−196266号公報(特許文献5)でクロラミンTとアゾール系化合物を用いた、分解を受けにくく、長期間安定してスライムコントロール性能を発揮することが可能なスライムコントロール剤を提案している。
特許文献5で提案の方法は、安定性には優れるが、次亜塩素酸塩などと比較すると微生物を殺滅する力が相対的に弱く、殺菌効果の向上が求められていた。
特開2008−43836号公報 特開2014−145145号公報 特開2015−209610号公報 特表2017−536168号公報 特開2014−196266号公報
本発明は、上記課題を解決する、すなわち、酸化性物質でありながら安定性に優れ、しかも、細菌類、真菌類、藻類等、加えてアメーバ等の原生動物に対しても殺滅効果を示し、製紙工程水系に添加した際のスライム抑制効果や除菌効果に優れた製紙工程用スライムコントロール剤組成物、および当該効果を有するスライムコントロール方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、クロラミンTおよびクロラミンBから選択される少なくとも1種の酸化性物質と、臭素化合物とを製紙工程用水系中に共存させることで、従来技術からは想定できない優れたスライムコントロール効果が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
(1)
クロラミンTおよびクロラミンBから選択される少なくとも1種の酸化性物質と、臭素化合物の少なくとも1種とを含有することを特徴とする製紙工程用スライムコントロール剤組成物。
(2)
前記酸化性物質と臭素化合物の質量比率が1〜15対0.5〜30であることを特徴とする(1)に記載の製紙工程用スライムコントロール剤組成物。
(3)
前記臭素化合物が臭化ナトリウム、臭化カリウム、および臭化リチウムから選択される少なくとも1種であることを特徴とする(1)または(2)に記載の製紙工程用スライムコントロール剤組成物。
(4)
前記酸化性物質と臭素化合物とが一製剤として調整されている(1)から(3)の何れか一に記載の製紙工程用スライムコントロール剤組成物。
(5)
(1)から(4)の何れか一に記載の製紙工程用スライムコントロール剤組成物を製紙工程水系に添加することを特徴とするスライムコントロール方法。
(6)
前記製紙工程水系中の結合残留塩素濃度を、0.01mg/L以上100mg/L以下に制御することを特徴とする(5)に記載のスライムコントロール方法。
(7)
前記製紙工程水系に存在する水貯留部の少なくとも1箇所に撹拌する工程を有することを特徴とする(5)または(6)に記載のスライムコントロール方法。
(8)
前記攪拌が前記水貯留部の下部に沈積する堆積物の量を低減させる攪拌であることを特徴とする(5)から(7)のいずれか一に記載のスライムコントロール方法。
との構成とした。
本発明の製紙工程用スライムコントロール剤組成物は、クロラミンTおよびクロラミンBから選択される少なくとも1種の酸化性物質と、臭素化合物の少なくとも1種とを含有し、安定性に優れた酸化性殺菌剤であるとともに、本製紙工程用スライムコントロール剤組成物を水系に適用することで、高い殺菌、殺藻効果により、優れたスライムコントロール効果を示すものである。
特に、クロラミンTおよびクロラミンBから選択される少なくとも1種の酸化性物質の含有量を1質量%以上15質量%以下、臭素化合物の含有量を0.5質量%以上30質量%以下とし、該臭素化合物として臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化リチウムから選択される少なくとも1種を用いることで、組成物の安定性をより確実なものとすることができる。特にクロラミンTおよびクロラミンBから選択される少なくとも1種の酸化性物質と臭素化合物とを一製剤として調整することでさらに優れた保存安定性を有するスライムコントロール剤組成物となる。
また、本発明のスライムコントロール方法は、製紙工程用水系にクロラミンTおよびクロラミンBから選択される少なくとも1種の酸化性物質と臭素化合物の少なくとも1種とを添加することで、細菌類、真菌類、藻類等、加えてアメーバ等の原生動物に対しても殺滅効果を示し、スライムコントロール効果を得ることが可能となる。
この際、水系中の結合残留塩素濃度を0.01mg/L以上100mg/L以下とすると、微生物の抑制効果を確実なものとするとともに、酸化性物質による水系内の金属材料の腐食を最小限に抑制することが可能となる。
本発明である製紙工程でのスライムコントロール方法の説明に使用する抄紙システムの一例Aである。 水中攪拌機を用いた、水貯留部の下部に沈積する堆積物の量を低減させる、いくつかの攪拌方法の例についての説明図である。
本発明の製紙工程用スライムコントロール剤組成物は、クロラミンTおよびクロラミンBから選択される少なくとも1種の酸化性物質と、臭素化合物の少なくとも1種とを含有する。
本発明で酸化性物質として用いるクロラミンTとは、IUPAC名:N−クロロ−4− メチルベンゼンスルホンアミドのことであり、クロラミンBとは、IUPAC名:N−クロロベンゼンスルホンアミドのことである。
通常、ナトリウム塩の水和物の形で市販されているが、水に溶けて酸化力を示し、微生物抑制効果が得られるものであれば、塩の種類を問わず本発明に含まれる。このような塩として、ナトリウム塩の他に、リチウム塩、カリウム塩等が挙げられる。
クロラミンTおよびクロラミンBは、水中で結合残留塩素として酸化力を示し、各種微生物の殺滅、増殖抑制に寄与する。通常、市販のクロラミンTおよびクロラミンBを水系に添加した場合、何れも固形分としての水系への添加濃度に対して約4分の1の濃度の結合塩素が水中に検出されるようになる。すなわち、酸化力の消費、分解を無視した場合、クロラミンT、クロラミンBの4mg/L水溶液の示す結合残留塩素濃度は1mg/Lである。
本発明の製紙工程用スライムコントロール剤組成物は、前記クロラミンTおよびクロラミンBから選択される少なくとも1種の酸化性物質を含有する。酸化性物質としてクロラミンTやクロラミンBを用いることで、次亜塩素酸ナトリウム等と比較して貯蔵安定性が格段に向上する。好ましい酸化性物質は、入手しやすさの点でクロラミンTである。
本発明の製紙工程用スライムコントロール剤組成物中のクロラミンTまたはクロラミンBの少なくとも1種の含有量は、通常は概略0.5質量%以上、20質量%以下程度であるが、1質量%以上15質量%以下とするのが、組成物が安定で、長期間放置しても析出物等が発生しない点で好ましい。
本発明の製紙工程用スライムコントロール剤組成物は、臭素化合物を含有する。臭素化合物としては、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化リチウム、臭化カルシウム、臭化マグネシウムおよび臭化アンモニウム等が挙げられる。これらのうち、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化リチウムを用いるのが貯蔵安定性の点で好ましく、臭化カリウムを用いると特に貯蔵安定性に優れた製剤が可能となる。
本発明の製紙工程用スライムコントロール剤組成物中の臭素化合物の含有量は、通常は概略0.2質量%以上35質量%以下程度であるが、0.5質量%以上30質量%以下とするのが、組成物が安定で、長期間放置しても析出物等が発生しない点で好ましい。
本発明の製紙工程用スライムコントロール剤組成物は、クロラミンTおよびクロラミンBから選択される少なくとも1種の酸化性物質と臭素化合物の少なくとも1種とを配合して一製剤として調整しておくこともできるし、使用する際に酸化性物質と臭素化合物とを別々に二製剤として添加することもできる。
本発明の組成物は、予め一製剤として調整しておくことにより、クロラミンTおよびクロラミンBから選択される少なくとも1種の酸化性物質と臭素化合物の少なくとも1種とが添加前に混合して存在しているためにスライム制御効果が発現しやすく、使用時の配合調整作業が不要となるため現場作業が軽減されるので好ましい。
本発明の製紙工程用スライムコントロール剤組成物には、さらに必要に応じて、pH調整剤、殺菌剤、スライム防止剤、徐藻剤、腐食防止剤、スケール防止剤、消泡剤、界面活性剤などを一製剤として配合したり、使用時に本発明の製紙工程用スライムコントロール剤組成物と併用したりすることができる。
本発明の製紙工程用スライムコントロール剤組成物の一製剤としての製造方法は、特に限定されない。例えば、予め臭素化合物の少なくとも1種、及び必要によりその他の添加剤を加えた水溶液に、クロラミンTおよびクロラミンBから選択される少なくとも1種の酸化性物質を添加混合する方法が挙げられる。
本発明の製紙工程用スライムコントロール剤組成物は、製造の容易性や酸化性物質の安定性を確保するために組成物のpHを9以上とするのが好ましい。より好ましい組成物のpHは10.0以上であり、さらに好ましくは11.5以上、13.5未満である。組成物のpH調整に用いるpH調整剤としては、一般的なアルカリ剤が使用でき、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等が好適に使用される。
本発明のスライムコントロール方法は、製紙工程用水系に対して、クロラミンTおよびクロラミンBから選択される少なくとも1種の酸化性物質と、臭素化合物の少なくとも1種とを添加する方法である。臭素化合物を添加することで、クロラミンTおよびクロラミンB から選択される少なくとも1種の酸化性物質のみを添加した場合と比較して、スライムコントロール効果が格段に向上する。
本発明のスライムコントロール方法において、クロラミンTおよびクロラミンBから選択される少なくとも1種の酸化性物質と、臭素化合物の少なくとも1種を、それぞれの水系へ添加する方法に特に制限はなく、各々を別々に添加しても同時に添加しても、本発明の好ましい製紙工程用スラムコントロール剤組成物のように予め両者を混合して一剤化したものを添加しても良い。ここで、一製剤化したものを水系に添加する方法は、個別に添加した場合と比較してスライムコントロール効果が向上するので、より好ましい形態である。
本発明のスライムコントロール方法では、水系中の結合留塩素濃度が0.01mg/L以上100mg/L以下となるようにクロラミンTおよびクロラミンBから選択される少なくとも1種の酸化性物質の添加量を調整する。
結合残留塩素濃度が0.01mg/L未満だと所望の微生物抑制効果が得られず、100mg/Lを超えて添加すると、酸化性物質による水系内の金属材料の腐食リスクが高まるので好ましくない。より好ましい結合塩素濃度は、0.1mg/L以上20mg/L以下である。
なお、水系中の結合残留塩素濃度の測定は、常法に従って行えばよく、例えば、JIS K0101 28項に記載された方法を適宜採用することができる。
本発明のスライムコントロール方法において、臭素化合物の水系への添加量は、クロラミンTおよびクロラミンBから選択される少なくとも1種の酸化性物質の水系への添加量を1としたときに、重量比で0.2から5の範囲とするのがより良好な微生物抑制効果を発揮させる上で好ましい。
本発明の製紙工程用スライムコントロール剤組成物の水系への添加箇所としては特に制限はなく、適宜選択できるが、攪拌を行っている水貯留部に添加すると効率よくスライムの原因物質との接触が可能となるので好ましい。
本発明の製紙工程用スライムコントロール剤組成物に配合可能な防食剤としては、アゾール系化合物が好適である。アゾール系化合物としては、例えば、イミダゾール、ピラゾール、オキサゾール、チアゾール、トリアゾール、テトラゾールなどの単環式アゾール系化合物、ベンゾイミダゾール、ベンゾオキサゾール、ベンゾイソオキサゾール、ベンゾチアゾール、メルカプトベンゾイミダゾール、メルカプトメチルベンゾイミダゾール、メルカプトベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、インダゾール、プリン、イミダゾチアゾール、ピラゾロオキサゾールなどの縮合多環式アゾール系化合物などや、さらにアゾール系化合物の中で塩を形成する化合物にあってはそれらの塩などを挙げることができる。これらのアゾール系化合物は、1種のみを配合しても、2種以上を組み合わせて配合しても構わない。好ましいアゾール系化合物は、酸化性物質の分解抑制効果が高い点で、ベンゾトリアゾールあるいはトリルトリアゾールである。
本発明の製紙工程用スライムコントロール剤組成物に配合可能なアゾール系化合物以外の防食剤としては、例えば、リン酸またはその塩、ピロリン酸、トリポリリン酸、ヘキサメタリン酸等の重合リン酸またはその塩、亜鉛塩、モリブデン酸またはその塩、タングステン酸またはその塩、グルコン酸、クエン酸、酒石酸、フィチン酸、琥珀酸、乳酸等の有機カルボン酸またはその塩等を挙げることができる。
本発明の製紙工程用スライムコントロール剤組成物に配合可能なスケール防止剤としては、例えば、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、アミノトリメチレンホスホン酸やこれらの水溶性塩などのホスホン酸類、アクリル酸系、マレイン酸系、メタクリル酸系、スルホン酸系、イタコン酸系、または、イソブチレン系の各重合体やこれらの共重合体等のポリマー類、アクリル酸系重合体の次亜リン酸付加物等のホスフィノカルボン酸類、ニトリロ三酢酸、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸等のアミノカルボン酸系化合物等を挙げることができる。この中で、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸又はその水溶性塩、マレイン酸、アクリル酸アルキル、ビニルアセテートの三元共重合体、ポリアクリル酸の次亜リン酸付加物、アクリル酸と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸との共重合体の次亜リン酸付加物から選択される少なくとも1種のスケール防止剤を配合すると、配合したスケール防止剤による酸化性物質の分解がほとんどないので好ましい。
本発明の製紙工程用スライムコントロール剤組成物に配合可能なスライムコントロール剤としては、例えば、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン等のイソチアゾリン系化合物、2,2−ジブロモ−2−ニトロエタノール、2−ブロモ−2−ニトロプロパン−1,3−ジオール等のブロモニトロアルコール系化合物、グルタルアルデヒド、フタルアルデヒド等のアルデヒド系化合物、過酸化水素、ヒドラジン、ピリチオン系化合物、ジチオール系化合物、メチレンビスチオシアネート等のチオシアネート系化合物、四級アンモニウム塩系化合物、四級ホスホニウム塩系化合物、ピリジニウム塩系化合物、ポリ[オキシエチレン(ジメチルイミニオ)エチレン(ジメチルイミニオ)エチレンジクロライド]、(2−ヒドロキシプロピルジメチルアンモニウムクロライド)、ポリ(ヘキサメチレンビグアニド)などのヨーネンポリマー等のカチオン系化合物等を挙げることができる。
本発明において、「製紙工程」とは、原料調整系、白水循環系、及び白水回収系(以下、これらを併せて「循環水系」とも云う。)を包含する工程を意味しており、抄紙マシンにおいて多量に排出される水溶液(いわゆる「白水」)の回収、再利用系までを含めた水循環工程全体であり、「製紙工程水系」には原料調整系、白水循環系、白水回収系の水循環工程水系、および水循環工程水系に供給される工業用水や再利用水も含まれる。
図1に、本発明である製紙工程のスライムコントロール方法の説明に使用する抄紙システムの一例Aを示すが、本発明はこの例に限定されるものではない。
まず、製紙工程が行われる抄紙システムAでは原料調整槽1とマシンチェスト2とを備えた原料調整系A1で原料を調整する。すなわち、原料調整槽1に、パルプを含む原料と水が供給され(不図示)、さらに回収水タンク12からポンプ13より送水される水が加えられて、パルプスラリーが調整される。
調整されたパルプスラリーは、マシンチェスト2に供給され、粘度調整剤や紙力増強剤等の各種製紙用薬剤等が添加された後、ポンプ3により白水循環系A2に供給される。
そして、白水サイロ5からの白水(紙料成分をある程度含んだ水)と混合されて、紙料としてインレット6に供給され、インレット6からワイヤパート7の、回転駆動されるワイヤ7aへ供給される。
ワイヤパート7に供給された紙料は、脱水されてシート形状となり、プレスパート8以降の製紙工程に送られて紙製品となる。
一方、ワイヤパート7に残った水は、白水として白水サイロ5に貯留される。白水サイロ5に貯留された白水はポンプ4へ供給されて、白水循環系A2が形成される。
白水サイロ5に貯留された白水の一部は、白水サイロ5から白水回収系A3のシールピット9に供給される。シールピット9に供給された白水は、ポンプ10により固液分離装置11に送られて固液分離処理される。
固液分離処理された成分のうちの水は、回収水タンク12に貯留された後、その一部はポンプ13により原料調整系A1の原料調整槽1に供給されてパルプスラリーの濃度調整に利用される。また、別の一部は図示しない配管を通ってワイヤパート7のワイヤ7aやプレスパート8のフェルトを清浄に保つためのシャワー水に利用される等、抄紙工程における各種用水として再利用される。
このように白水回収系A3は、原料調整系A1、および、白水循環系A2とともに、抄紙工程の循環水系を構成し、水はこの循環水系内を循環している。
なお、回収水タンク12内の他の一部の水は濃度調整のために系外に排出され、図示しない排水処理設備等に送られる。
また、抄紙システムA内の水が不足した場合には、この例では用水ライン15より供給されたクッションタンク14内に貯留された水がポンプ16により、シールピット9に供給される。なお、固液分離装置11で固液分離された成分のうちの固形分は製紙原料として再利用されるか、廃棄物として処理される。
本発明のスライムコントロール方法では、好ましくは製紙工程水系に存在する水貯留部の少なくとも1箇所を撹拌する工程を有する。
水貯留部の下部に沈積し、形成された堆積物層の内部は有機物が豊富なために、スライムの原因となる細菌類をはじめとする微生物の温床となると共に嫌気化が進む。その結果、微生物の代謝産物として、硫化水素、メチルメルカプタン等の還元性物質が生成され、スライムコントロール剤の効果の低下に大きく影響すると考えられる。
そこで、水貯留部の下部を攪拌により嫌気性の進行を抑えることで、本発明の製紙工程用スライムコントロール剤組成物が微生物との接触が進むことでスライム防止効果を向上させると考えられる。
本発明のスライムコントロール方法では、図1の白水循環系A2、あるいは、白水回収系A3、あるいは、原料調整系A1(「循環水系」さらには、循環水系に流入する水系(符号14〜16)に存在する、後述の水貯留部20の少なくとも1箇所を攪拌する。
攪拌する場所は、特に限定されないが、これら循環水系や流入する水系内に存在する水槽等、一時的に水の滞留する箇所が対象となる。具体的には、抄紙システムAにおける循環水系では、マシンチェスト2、白水サイロ5、シールピット9、回収水タンク12等、また、循環水系に流入する水系では、クッションタンク14が挙げられる。
ここで、水中攪拌機を用いた、いくつかの攪拌方法の例について、図2にモデル図を示す。
図2(a)では水中攪拌機Sとして下向き噴射式のものを用いている例を示す。この例では水貯留部20の中央に水中攪拌機Sを設置しており、堆積物発生防止効果が高い。
図2(b)では水中攪拌機Sとして横向き噴射式のものを水貯留部の底部よりも若干高い位置に、そして、水流が下方を向くように斜めに設置した例を示している。
図2(c)には水貯留部の底部に横向き噴射式の水中攪拌機Sを設置した例を示す。
円筒形の水貯留部に横向き噴射式の水中攪拌機を設置する場合、図2(d)にモデル的に示すように水流が水貯留部20の内周面に沿うように設置してもよく、また、図2(e)にモデル的に示すように、水流が円筒形の水貯留部20の底部付近における直径方向に向かうように設置してもよい。
いずれの場合でも水貯留部の容量や形状などに合わせて沈殿物の堆積防止効果が十分に得られるように水中攪拌機の種類や能力、設置位置等を選択することが必要であり、気泡の発生を抑え、水貯留部の堆積物が沈積し易い箇所の流速が0.5m/秒以上となるように攪拌することが好ましい。
本発明において、抄紙工程の循環水系に流入する水としては、例えば、上水、工業用水や排水処理設備の処理水等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
また、図1では、抄紙工程の循環水系に流入する用水ライン15の水をシールピット9に供給する例を示したが、供給場所はシールピット9に限定されない。
例えば、パルプや各種製紙用薬剤の希釈水として上記循環水系以外の外部からの水を供給した場合には、当該外部からの水は、本発明の抄紙工程の循環水系に流入する水である。なお、プレスパート8等の抄紙工程よりも後の工程から排出される水を白水サイロ5やシールピット9等に回収してもよい。
本発明における水貯留部の攪拌工程では、水貯留部の沈殿物の堆積防止と内部気泡の増加防止とを両立させる攪拌方法を採用する以外特に限定されないが、水中攪拌機を使用して攪拌を行うことが好ましい。図1に示した例では、水貯留部であるマシンチェスト2、白水サイロ5、シールピット9、および、回収水タンク12、クッションタンク14のそれぞれに水中攪拌機S(横向き噴射式のもの)を設置している。
ここで、水中攪拌機は既存の抄紙システムに大規模な改修なしに設置できると云うメリットがある。水中攪拌機としては、回転羽根やジェット噴射による横向き噴射式あるいは下向き噴射式のものを用いることが好ましい。上向き噴射式の水中攪拌機を用いると、水流が直接、水貯留部の底部に当たらないので、堆積物を巻き上げる力が弱まり、また、水流が気液界面を波立たせることで空気を気泡として水に巻き込むリスクが高くなるので好ましくない。
水貯留部下部に沈積する堆積物の量を低減させるために、水貯留部の堆積物が沈積し易い箇所の流速が0.5m/秒以上となるように攪拌することが好ましい。また、攪拌に際して、気泡によるトラブルを引き起こさないための内部気泡の目安は、例えば、上質紙で0.3%程度以下、板紙で1%程度以下であり、この条件を満たすような攪拌方法を適宜選択することが可能である。
本発明では、上記例における、原料調整系、白水循環系、および、白水回収系により構成される循環水系、および、当該循環水系に流入する水系に存在する水貯留部の少なくとも1箇所を攪拌する。
このような構成により、攪拌しない場合と比較して、スライムコントロール効果が高まり、スライムコントロール剤の添加量の低減が可能となる。他方、経済性等を勘案しつつ、なるべく多くの水貯蔵部、さらには、これら水系にあるすべての水貯留部で攪拌を行うことが好ましい。
以下に、本発明の製紙工程用スライムコントロール剤組成物、およびスライムコントロール方法の実施例について具体的に説明する。ただし、本発明はこれらによって限定されるものではない。
<貯蔵安定性の評価>
表1に記載した、製剤例1〜13の配合組成の組成物を調整した。なお、表中の配合組成欄の数値は、該当化合物の含有量(質量%)であり、残部は各組成物をpH13.0に調整するために使用した水酸化カリウムとイオン交換水である。また、配合組成欄に記載された略号等は以下の化合物を示す。
クロラミンT:N−クロロ−4−メチルベンゼンスルホンアミドナトリウム水和物
クロラミンB:N−クロロベンゼンスルホンアミドナトリウム水和物
NaClO:5%次亜塩素酸ナトリウム溶液
SA:スルファミン酸
KBr:臭化カリウム
NaBr:臭化ナトリウム
上記13種類の組成物を100mL容のポリエチレン製白色細口ビンに100mLずつ分注し、薬剤タンク内の状況を再現するために、栓を緩くし通気可能な状態(半開放)で、35℃の恒温庫内に30日間静置した。30日後に恒温庫から取り出し、各組成物について析出物の有無を確認したところ、全ての組成物に明確な析出物は認められなかった。
また、取り出した組成物について、酸化性物質が配合されていない製剤例13を除き、組成物中の酸化力の測定を行い、各組成物の製剤直後の酸化力と比較して残存酸化力の割合(%)を求めた。それら結果を表1に合わせて記す。なお、組成物中の酸化力の測定は、JIS K0101 28.3項記載のヨウ素滴定法に従って行った。
Figure 2020164499
本発明の製紙工程用スライムコントロール剤組成物である製剤例1〜7は、35℃、半開放の条件でも30日後の残存酸化力が88%以上であった。クロラミンT(製剤例8)やクロラミンB(製剤例9)は、元々他の酸化性物質(製剤例10〜12)と比較して貯蔵安定性の良い組成物だが、臭素化合物として臭化カリウムや臭化ナトリウムを配合することで貯蔵安定性がさらに向上していることが理解される。
<製紙工場白水を用いた殺菌力の評価>
製紙工場で稼働中の中性上質紙抄紙機の白水サイロから採取した白水を500mLずつ分取し、調整1日後の表2に示す組成物を表2の濃度で採取白水中に添加、混合して1時間静置した後、各サンプル中の残留塩素濃度、一般細菌数を測定した。それら結果を表2に記す。一般細菌数はJIS K0101(1998) 63.2に従って測定した。尚、組成物添加前の白水の一般細菌数(CFU/mL)は1400,000であった。
Figure 2020164499
実施例1〜10の結果から、本発明のクロラミンTやクロラミンBと臭素化合物を含有したスライムコントロール剤組成物は優れた殺菌効果を示すことが理解される。一方、クロラミンTやクロラミンBを単独で作用させた場合(比較例1〜2)の殺菌効果は弱く、塩素化スルファミン酸(比較例3)はさらに殺菌力が劣ることが判る。
<稼働中の抄紙機を用いたスライム防止効果の評価>
比較例4として製紙工場で稼働中の中性上質紙抄紙機の白水サイロに、調整1日室温静置後の製剤例8の組成物を塩素濃度が10mg/Lとなるように添加する処理を行い、1時間稼働後の白水サイロ水中の一般細菌数、カビ数、残留塩素濃度の測定を行った。
続いて比較例5として調整1日室温静置後の製剤例11の組成物を塩素濃度が10mg/Lとなるように添加する処理を行い、1時間稼働後に白水サイロ水中の一般細菌数、カビ数、残留塩素濃度の測定を行った。
続いて実施例11として調整1日室温静置後の製剤例1の組成物を塩素濃度が10mg/Lとなるように添加する処理を行い、1時間稼働後に白水サイロ水中の一般細菌数、カビ数、および残留塩素濃度の測定を行った。
それら結果を表3に記す。一般細菌数はJIS K0101(1998) 63.2に従って測定し、カビ数はポテトデキストロース培地法に従って測定した。
Figure 2020164499
実機抄機の白水サイロ水系でクロラミンT単独の組成物である製剤例8を使用した結果と比較して本発明の組成物であるクロラミンTに臭化カリウムを配合した製剤例1を使用した結果は、一般細菌数、カビ数が大幅に減少した。塩素化スルファミン酸単独の製剤例11を使用した結果はクロラミンT単独使用よりも一般細菌数、カビ数の減少効果が劣った。
<稼働中の抄紙機白水サイロの撹拌によるスライム防止効果の評価>
実施例12として、抄紙機の白水サイロ水中に水中攪拌機(ジエット噴射式)を水平方向に噴射するように設置(図2(c)参照)し、白水サイロ水を攪拌しながら本発明の組成物であるクロラミンTに臭化カリウムを配合した、調整1日室温静置後の製剤例1組成物を塩素濃度が10mg/Lとなるように白水サイロに添加した。その後、1時間稼働後、2時間稼働後の白水サイロ水の一般細菌数、カビ数の測定を行った。
実施例13として、実施例12で使用の水中攪拌機を稼働させないで同様に塩素濃度が10mg/Lとなるように添加し、1時間稼働後、2時間稼働後の白水サイロ水の一般細菌数、カビ数の測定を行った。
実施例12の結果は、実施例13と比較して1時間稼働後の一般細菌数、カビ数の減少効果が大きく、2時間稼働後ではさらにその差が広がった。貯水槽の水中攪拌による一般細菌数、カビ数減少効果、及び持続効果が確認された。
Figure 2020164499
A 抄紙システム
A1 原料調整系
A2 白水循環系
A3 白水回収系
1 原料調整槽
2 マシンチェスト
3 ポンプ
4 ポンプ
5 白水サイロ
6 インレット
7 ワイヤパート
7a ワイヤ
8 プレスパート
9 シールピット
10 ポンプ
11 固液分離装置
12 回収水タンク
13 ポンプ
14 クッションタンク
15 用水ライン
16 ポンプ
20 水貯留部
S 水中攪拌機

Claims (8)

  1. クロラミンTおよびクロラミンBから選択される少なくとも1種の酸化性物質と、臭素化合物の少なくとも1種とを含有することを特徴とする製紙工程用スライムコントロール剤組成物。
  2. 前記酸化性物質と臭素化合物の質量比率が1〜15対0.5〜30であることを特徴とする請求項1に記載の製紙工程用スライムコントロール剤組成物。
  3. 前記臭素化合物が臭化ナトリウム、臭化カリウム、および臭化リチウムから選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の製紙工程用スライムコントロール剤組成物。
  4. 前記酸化性物質と臭素化合物とが一製剤として調整されている請求項1から請求項3の何れか一項に記載の製紙工程用スライムコントロール剤組成物。
  5. 請求項1から請求項4の何れか一項に記載の製紙工程用スライムコントロール剤組成物を製紙工程水系に添加することを特徴とするスライムコントロール方法。
  6. 前記製紙工程水系中の結合残留塩素濃度を、0.01mg/L以上100mg/L以下に制御することを特徴とする請求項5に記載のスライムコントロール方法。
  7. 前記製紙工程水系に存在する水貯留部の少なくとも1箇所に撹拌する工程を有することを特徴とする請求項5または請求項6に記載のスライムコントロール方法。
  8. 前記攪拌が前記水貯留部の下部に沈積する堆積物の量を低減させる攪拌であることを特徴とする請求項5から請求項7のいずれか一項に記載のスライムコントロール方法。
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