本発明の一実施形態について以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能である。本発明はまた、異なる実施形態や実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態や実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。さらに、各実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を組み合わせることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。なお、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。また、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A〜B」は、「A以上(Aを含みかつAより大きい)B以下(Bを含みかつBより小さい)」を意図する。
〔1.本発明の一実施形態の技術的思想〕
従来、水、カルシウムイオンおよび臭化物イオンを含む組成物(例えば、臭化カルシウム水溶液)は、共晶を形成しないと考えられていた。すなわち、臭化カルシウム水溶液は、共晶を形成しないため、共晶温度が存在せず、水の凝固点降下で到達できるよりもはるかに低い温度域に融解温度を有しないと考えられていた。
本発明者は鋭意検討の結果、水、カルシウムイオンおよび臭化物イオンを含む組成物の共晶温度を発現させることに成功した。
また、蓄冷材組成物の技術分野では、同一の組成を有する組成物は同一の共晶温度を持つ、ということが一般的な技術知識、すなわち常識であったところ、本発明者は、驚くべきことに、水、カルシウムイオンおよび臭化物イオンを含む組成物に、2種の異なる温度域の共晶温度を発現させることができることを、独自に初めて見出した。
具体的には、同一の組成を有する蓄冷材組成物を用いて、蓄冷材組成物の組成を変化させることなく特定の工程行うことにより、2種の異なる温度域の共晶温度、すなわち水の凝固点降下で到達できるよりもはるかに低い温度域に2種の異なる融解温度を有する蓄冷材組成物を製造できることを、本発明者は独自に見出した。
〔2.蓄冷材組成物〕
(2−1.第1の蓄冷材組成物)
本発明の一実施形態に係る蓄冷材組成物は、水、カルシウムイオンおよび臭化物イオンからなり、−75℃〜−65℃の範囲内に融解温度を有する。当該構成を有する、本発明の一実施形態に係る蓄冷材組成物を、「第1の蓄冷材組成物」とも称する。第1の蓄冷材組成物は、当該構成を有するため、下記(1)〜(3)の利点を有する:
利点(1)再現性良く、且つ安定的に、蓄冷材組成物の融解温度を−75℃〜−65℃に調整することが可能であるため、−75℃〜−65℃の範囲の様々な管理温度領域で、温度管理対象物品を温度保持し、当該温度管理対象物品の保管または輸送を可能とすること;
利点(2)ドライアイスの代替材として使用可能であること;
利点(3)取り扱いが容易であること。
第1の蓄冷材組成物は、蓄冷材組成物が凝固状態(固体)から溶融状態(液体)に相転移する間(換言すれば、融解する間)に熱エネルギーを吸収することによって、潜熱型の蓄冷材として利用できるものである。第1の蓄冷材組成物は、「融解型潜熱蓄冷材組成物」、ともいえる。なお、溶融状態には後述する「ゲル状」も含まれる。
第1の蓄冷材組成物に含まれるイオンの種類および量は、当該第1の蓄冷材組成物が融解温度以上の液化した状態において、第1の蓄冷材組成物中に存在するイオンの種類および量を意図するものである。なお、「液化した状態」には「ゲル化した状態」も含まれる。「ゲル化」については、後に詳述する。第1の蓄冷材組成物に含まれるイオンの種類および量は、例えば、室温(例えば30℃)にて、イオンクロマトグラフィーの手法を用いて測定することができる。測定方法としては、公知の方法を用いることができる。また、例えば、以下の(1)または(2)等の方法によって、室温において解離し得る特定のイオンを含む混合物を調製する混合工程を行い、当該イオンの一部でも除去することなく蓄冷材組成物を製造する場合を考える:(1)室温において解離し得る特定の化合物と水とを混合すること;または(2)室温において解離し得る特定の化合物を含む水溶液同士を混合すること。この場合には、混合工程で使用された、特定の化合物の化学式および添加量から、得られた第1の蓄冷材組成物に含まれるイオンの種類および量を理論的に計算して算出してもよい。本明細書において、「解離」とは、「電離」および「イオン化」を意図する。用語「解離」と「電離」と「イオン化」は相互置換可能である。
また、第1の蓄冷材組成物は、30℃において解離していない(イオンになっていない)カルシウム塩および臭化物塩等の化合物を含んでいてもよい。第1の蓄冷材組成物に含まれる化合物が30℃において解離していない場合には、当該化合物がカルシウム元素および臭素元素等を含む化合物であっても、当該化合物の含有量は、第1の蓄冷材組成物が含むカルシウムイオンおよび臭化物イオン等の量に影響を与えない。
第1の蓄冷材組成物が、−75℃〜−65℃の範囲内に融解温度を有する理由について、特に限定されるものではないが、凝固状態の第1の蓄冷材組成物が、整った結晶を有するためと推察される。
以下では、まず、第1の蓄冷材組成物に含まれる成分について説明し、次いで、第1の蓄冷材組成物の物性(例えば、融解温度)および製造方法について説明する。
(蓄冷材組成物に含有される成分)
第1の蓄冷材組成物は、水、カルシウムイオンおよび臭化物イオンからなるもの(を含むもの)であればよく、その他の構成は特に限定されるものではない。第1の蓄冷材組成物は、上記構成を有することにより、上述した利点(1)〜利点(3)の各利点を有する。
第1の蓄冷材組成物は、融解温度の範囲内に融解温度を有する限り、融解温度以上であり、かつ、液化した状態において、塩化物イオン、ナトリウムイオンおよびアンモニウムイオン等を含んでいてもよい。第1の蓄冷材組成物は、融解温度以上であり、かつ、液化した状態において、塩化物イオン、ナトリウムイオンおよびアンモニウムイオンからなる群から選択される1種以上のイオンを、実質的に含まない態様であってもよい。「蓄冷材組成物はXイオンを実質的に含まない」(Xは、塩化物イオン、ナトリウムイオンおよびアンモニウムイオンからなる群より選択される任意の物質)とは、蓄冷材組成物100重量部中、Xイオンの含有量が0.05モル以下であることを意図する。第1の蓄冷材組成物は、水、カルシウムイオンおよび臭化物イオンのみからなるものであってもよい。「第1の蓄冷材組成物は、水、カルシウムイオンおよび臭化物イオンのみからなる」とは、水、カルシウムイオンおよび臭化物イオン以外のイオンの含有量が、蓄冷材組成物100重量部中、0.05モル以下であることを意図する。なお、第1の蓄冷材組成物における「融解温度の範囲内」とは、「−75℃〜−65℃の範囲内」を意図する。
第1の蓄冷材組成物が含む(A)カルシウムイオンの量、(B)臭化物イオンの量、および(C)カルシウムイオンと臭化物イオンとのモル比率(臭化物イオンのモル量/カルシウムイオンのモル量)は、それぞれ特に限定されるものではないが、それぞれ以下の態様であることが好ましい:
(A)カルシウムイオンの量としては、水100モルに対して、0.1モル〜20.0モルであることが好ましく、3.0モル〜18.0モルであることがより好ましく、7.0モル〜16.0モルであることがさらに好ましく、10.0モル〜15.0モルであることが特に好ましい;
(B)臭化物イオンの量としては、水100モルに対して、0.1モル〜40.0モルであることが好ましく、5.0モル〜35.0モルであることがより好ましく、15.0モル〜33.0モルであることがさらに好ましく、24.0モル〜30.0モルであることが特に好ましい;
(C)カルシウムイオンと臭化物イオンとのモル比率(臭化物イオンのモル量/カルシウムイオンのモル量)としては、0.1〜5.0であることが好ましく、0.5〜4.0であることがより好ましく、1.0〜3.0であることがさらに好ましく、1.5〜2.5であることが特に好ましい。
(A)カルシウムイオンの量、(B)臭化物イオンの量、および/または(C)カルシウムイオンと臭化物イオンとのモル比率(臭化物イオンのモル量/カルシウムイオンのモル量)が、上述した好ましい態様の範囲内である場合、得られる蓄冷材組成物は、以下の利点を有する:(a)融解温度の範囲内にて、定温保持性能がより安定的に、かつ、より再現性良く発現すること;(b)凍結時の体積膨張がより小さいこと;および(c)蓄冷材組成物の取り扱いがより容易であること。なお、「定温保持性能」については、後述する。
第1の蓄冷材組成物において、カルシウムイオンの供与形態は特に限定されない。本明細書において、「供与形態」は「供給源」、または「由来」とも言い換えることができ、用語「供与形態」、用語「供給源」、および用語「由来」は、相互置換可能である。
カルシウムイオンの供与形態としては、例えば、フッ化カルシウム、塩化カルシウム、臭化カルシウム、ヨウ化カルシウム、酸化カルシウム、硫化カルシウム、窒化カルシウム、リン化カルシウム、炭化カルシウム、およびホウ化カルシウム、等のカルシウム塩をあげることができる。これらカルシウム塩は、1種を単独で使用しても良いし、複数種を組み合わせて使用しても良い。化合物の取り扱いの容易性および安全性に優れること、並びに化合物が安価であること等から、第1の蓄冷材組成物では、カルシウムイオンは、塩化カルシウム由来、および/または臭化カルシウム由来であることが好ましい。カルシウムイオンの供与形態が、塩化カルシウム、および/または臭化カルシウムである場合、得られる蓄冷材組成物は、(a)融解温度の範囲内にて、定温保持性能がより安定的に、かつ、より再現性良く発現すること、(b)凍結時の体積膨張がより小さいこと、および(c)蓄冷材組成物の取り扱いがより容易であること、の利点を有する。
第1の蓄冷材組成物において、臭化物イオンの供与形態は特に限定されない。臭化物イオンの供与形態としては、例えば、臭化アンモニウム、臭化カリウム、臭化ナトリウム、臭化カルシウム、臭化リチウム、臭化マグネシウム、および臭化亜鉛、等の臭化物塩をあげることができる。これら臭化物塩は、1種を単独で使用しても良いし、複数種を組み合わせて使用しても良い。化合物の取り扱いの容易性、および安全性に優れること等から、第1の蓄冷材組成物では、臭化物イオンは、臭化アンモニウム、臭化カリウム、臭化ナトリウム、および臭化カルシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の臭化物塩に由来することが好ましく、臭化カルシウム由来、および/または臭化アンモニウム由来であることがより好ましい。当該構成であれば、得られる蓄冷材組成物は、得られる蓄冷材組成物は、(a)融解温度の範囲内にて、定温保持性能がより安定的に、かつ、より再現性良く発現すること、(b)凍結時の体積膨張がより小さいこと、および(c)蓄冷材組成物の取り扱いがより容易であること、の利点を有する。
臭化カルシウムは医薬品の原料にも利用されるほど安全であり、かつ、取り扱いが容易である。故に、第1の蓄冷材組成物において、カルシウムイオンおよび臭化物イオンは、臭化カルシウム由来であることがさらに好ましい。
第1の蓄冷材組成物を製造するための化合物の組み合わせとしては、例えば次の、(A1)〜(A4)の組み合わせが挙げられる:(A1)臭化カルシウムのみ;(A2)臭化カルシウムおよび任意のカルシウム塩;(A3)臭化カルシウムおよび任意の臭化物塩;(A4)任意のカルシウム塩および任意の臭化物塩。
上記(A1)〜(A4)の化合物の組み合わせにおいて、各々の化合物量を特定量配合することによって、第1の蓄冷材組成物を製造することができる。
第1の蓄冷材組成物において、カルシウムイオンおよび臭化物イオンの由来が、それぞれ、カルシウム塩および臭化物塩である場合を考える。この場合、第1の蓄冷材組成物における、(D)カルシウム塩の配合量、(E)臭化物塩の配合量、および(F)カルシウム塩の配合量と臭化物塩の配合量とのモル比率(臭化物塩の配合量のモル量/カルシウム塩の配合量のモル量)、はそれぞれ特に限定されるものではないが、それぞれ、以下の態様であることが好ましい:
(D)カルシウム塩の配合量は、第1の蓄冷材組成物が含む水100モルに対して、0.1モル〜20.0モルであることが好ましく、3.0モル〜18.0モルであることがより好ましく、7.0モル〜16.0モルであることがさらに好ましく、10.0モル〜15.0モルであることが特に好ましい;
(E)臭化物塩の配合量は、第1の蓄冷材組成物が含む水100モルに対して、0.1モル〜40.0モルであることが好ましく、5.0モル〜35.0モルであることがより好ましく、15.0モル〜33.0モルであることがさらに好ましく、24.0モル〜30.0モルであることが特に好ましい;
(F)カルシウム塩の配合量と臭化物塩の配合量とのモル比率(臭化物塩の配合量のモル量/カルシウム塩の配合量のモル量)は、0.1〜5.0であることが好ましく、0.5〜4.0であることがより好ましく、1.0〜3.0であることがさらに好ましく、1.5〜2.5であることが特に好ましい。
第1の蓄冷材組成物において、カルシウムイオンおよび臭化物イオンの由来が、臭化カルシウムである場合を考える。第1の蓄冷材組成物における、(G)臭化カルシウムの配合量は特に限定されるものではない。第1の蓄冷材組成物における、(G)臭化カルシウムの配合量は、第1の蓄冷材組成物が含む水100モルに対して、0.1モル〜20.0モルであることが好ましく、3.0モル〜18.0モルであることがより好ましく、7.0モル〜16.0モルであることがさらに好ましく、10.0モル〜15.0モルであることが特に好ましい。
(D)カルシウム塩の配合量、(E)臭化物塩の配合量、(F)カルシウム塩の配合量と臭化物塩の配合量とのモル比率(臭化物塩の配合量のモル量/カルシウム塩の配合量のモル量)および/または(G)臭化カルシウムの配合量が、上述した好ましい態様の範囲内である場合、得られる蓄冷材組成物は、以下の利点を有する:(a)融解温度の範囲内にて、定温保持性能がより安定的に、かつ、より再現性良く発現すること;(b)凍結時の体積膨張がより小さいこと;および(c)蓄冷材組成物の取り扱いがより容易であること。
本明細書において、「配合」は、「添加」または「使用」とも言える。また、「配合」、「添加」および「使用」は製造における用語であり、製造により得られた物質における「含有」ともいえる。本明細書において、「配合」、「添加」、「使用」および「含有」は相互置換可能であり、「配合量」、「添加量」、「使用量」および「含有量」は相互置換可能である。
第1の蓄冷材組成物に配合されるかまたは含まれる化合物は、特に限定されるものではないが、有害なヒュームの発生の懸念がなく、かつ/または、強アルカリおよび強酸等の性質を有さないことが好ましい。上記構成であれば、第1の蓄冷材組成物の製造および取り扱いが容易になるという利点を有する。換言すれば、本明細書中において、「取扱いが容易である」ことは、蓄冷材組成物に使用されるかまたは含まれる化合物、および蓄冷材組成物それ自身が、有害なヒュームの発生の懸念がなく、かつ/または、強アルカリおよび強酸等の性質を有さないことを意図する。例えば、上記した特許文献4には、水と混合することで−60℃以下に共晶点を有する無機塩として、塩化亜鉛および水酸化カリウムが記載されている。しかしながら、塩化亜鉛は有害なヒュームを発生し得、水酸化カリウムは強アルカリであるため、塩化亜鉛および水酸化カリウムは、取り扱いが困難な化合物といえる。
第1の蓄冷材組成物における水は、飲料水として使用可能な水であってもよく、例えば、軟水、硬水、および純水等であってもよい。
第1の蓄冷材組成物は、後述するように、容器、または袋等に充填されて、蓄冷材を形成し、当該蓄冷材は、輸送容器内に配置されて使用され得る。しかしながら、輸送または運搬時に、蓄冷材を形成する容器等が破損した場合には、破損した容器等から、該容器内に充填されていた蓄冷材組成物が漏れ出すこととなる。この場合、温度管理対象物品を汚染して該温度管理対象物品を使用不可能にすること、等が懸念される。
そこで、輸送または運搬時に蓄冷材組成物が充填された容器等が破損した場合であっても、蓄冷材組成物の流出を最小限に防ぐために、第1の蓄冷材組成物は、増粘剤を含有し、固体状(ゲル状を含む)となることが好ましい。
上記増粘剤としては、特に限定されないが、例えば、吸水性樹脂(例えば、澱粉系、アクリル酸塩系、ポバール系、およびカルボキシメチルセルロース系等)、アタパルジャイト粘土、ゼラチン、寒天、シリカゲル、キサンタンガム、アラビアガム、グアーガム、カラギーナン、セルロース、および蒟蒻等が挙げられる。
上記増粘剤としてはまた、イオン性の増粘剤であってもよく、またはノニオン性の増粘剤であってもよい。増粘剤としては、蓄冷材組成物に含まれるイオンに影響を与えないノニオン性の増粘剤を用いるのが好ましい。上記ノニオン性の増粘剤としては、例えば、グアーガム、デキストリン、ポリビニルピロリドン、およびヒドロキシエチルセルロース等が挙げられる。ノニオン性の増粘剤の中でも、ゲルの安定性に優れており、かつ環境適合性の高いヒドロキシエチルセルロースが特に好ましい。
第1の蓄冷材組成物に含まれるカルシウムイオンおよび臭化物イオンは、それらの濃度に依存して、温度変化により経時的に、塩を形成する場合があり、形成された塩は、析出する場合がある。第1の蓄冷材組成物が増粘剤を含む場合、増粘剤は蓄冷材組成物をゲル状にするだけでなく、蓄冷材組成物中に溶解しているイオンを効率的に分散することにより、塩の析出を防ぐことができる。
第1の蓄冷材組成物が増粘剤を含む場合、以下(a)〜(c)の利点を有する:(a)増粘剤が蓄冷材組成物の融解および凝固の挙動に影響を与えることなく、蓄冷材組成物が高い融解潜熱量を維持することが可能となる;(b)蓄冷材組成物の使用が想定される環境温度下での昇降温試験後であっても、蓄冷材組成物において固相および液相の分離がない;(c)容器または袋等の破損による漏洩時の環境負荷、および回収時の作業負荷を低減することが可能となる。
第1の蓄冷材組成物が増粘剤を含む場合、蓄冷材組成物は、当該蓄冷材組成物の融解温度以上の環境下において、ゲル化し得る。増粘剤を含む蓄冷材組成物は、凝固状態(固体)から溶融状態(ゲル状)に相転移し得る。
増粘剤は、使用する種類によって最適配合量が異なる。(a)蓄冷材組成物が含むイオンからなる塩、および/または、蓄冷材組成物が含む化合物、の凝集と析出とを防ぎ、(b)蓄冷材組成物の容器または袋への充填時に特殊なポンプ等を必要とせず、且つ、(c)蓄冷材組成物のハンドリング性が良い、という観点から、増粘剤の配合量は、通常、蓄冷材組成物の100重量部に対して、0.1〜10.0重量部を添加することが好ましく、0.2〜5.0重量部を添加することがさらに好ましい。第1の蓄冷材組成物は、ヒドロキシエチルセルロースを0.2〜5.0重量部含むことにより、流動性が抑えられた透明なゲルとなり得る。
第1の蓄冷材組成物は、上記成分の他に、相分離防止剤(例えば、オレイン酸、オレイン酸ナトリウム、オレイン酸カリウム、メタリン酸カリウム、ケイ酸ナトリウム、またはイソステアリン酸カリウム)、香料、着色剤、抗菌剤、高分子ポリマー、その他の有機化合物、または、その他の無機化合物等を、必要に応じて含有することができる。
第1の蓄冷材組成物は、−75℃〜−65℃の範囲内に融解温度を有する限り、融解温度以上であり、かつ、液化した状態において、カルシウムイオンおよび臭化物イオン以外のその他物質および/またはその他イオンを含んでいてもよい。上記その他物質としては、例えば、軽金属および重金属等の金属が挙げられる。軽金属としては、アルミニウム、マグネシウム、ベリリウムおよびチタン等が挙げられる。重金属としては、鉄、鉛、金、白金、銀、銅、クロム、カドミウム、水銀、亜鉛、ヒ素、マンガン、コバルト、ニッケル、モリブデン、タングステン、錫、ビスマス、ウランおよびプルトニウム等が挙げられる。上記その他イオンとしては、上述した軽金属および重金属からなる、軽金属イオンおよび重金属イオン等の金属イオンが挙げられる。
第1の蓄冷材組成物の製造において使用する原料(化合物および水等)は、上述した金属および金属イオンを含んでいる場合がある。
(蓄冷材組成物の物性)
第1の蓄冷材組成物は、−75℃〜−65℃の範囲内に融解温度を有することを特徴とする。第1の蓄冷材組成物が有する融解温度は、−74℃以上であってもよく、−73℃以上であってもよく、−72℃以上であってもよく、−71℃以上であってもよく、−70℃以上であってもよい。第1の蓄冷材組成物が有する融解温度は、−65℃未満であってもよく、−69℃以下であってもよく、−69℃未満であってもよく、−70℃以下であってもよく、−71℃以下であってもよく、−72℃以下であってもよく、−73℃以下であってもよい。
本明細書において蓄冷材組成物の「融解温度」とは、「固体状の蓄冷材組成物が融解し始めて液化する間に、当該蓄冷材組成物が呈する温度」のことを意図する。なお、上記「液化」には上述した「ゲル化」も含まれる。上記「融解温度」について、より具体的に、図1の(a)を用いて説明する。図1の(a)は、恒温槽内に、凝固状態の本発明の一実施形態に係る蓄冷材組成物を設置した後、当該恒温槽の温度を極低温から一定の昇温速度で温度上昇させた場合の、蓄冷材組成物の温度を時間に対してプロットしたグラフである。図1の(a)に示すように、一定速度で上昇していく恒温槽の温度と比較して、蓄冷材組成物の温度は、次の(1)〜(3)の順で変化する:(1)一定速度で上昇する;(2)温度T1において蓄冷材組成物の潜熱によりほとんど変化しなくなり、温度T1から温度T2まで、定温を保持する;(3)温度T2を境に、上昇を再開する。本明細書において、温度T1を「融解開始温度」と称し、温度T2を「融解終了温度」と称する。温度T1と温度T2との中点の温度T3を、本明細書において「融解温度」と定義する。
また、本発明の一実施形態に係る蓄冷材組成物について、蓄冷材組成物の潜熱作用により、融解開始温度T1から融解終了温度T2まで、融解開始温度T1+3.0℃の範囲内で蓄冷材組成物の温度が維持される状態を「定温保持」と定義付ける。蓄冷材組成物が定温保持を示す場合、該蓄冷材組成物は「定温保持性がある」または「定温保持性能がある」といえる。蓄冷材組成物は、定温保持性または定温保持性能があることが好ましい。
第1の蓄冷材組成物の融解温度は、−75℃〜−65℃の範囲内であれば、特に限定されず、様々な温度管理対象物品が必要とする様々な管理温度に合わせて、適宜設定し得る。本発明の一実施形態に係る蓄冷材も、蓄冷材組成物と同様に−75℃〜−65℃の範囲内に、融解温度を有することが好ましい。
例えば、医薬品、医療機器、細胞、検体、臓器、化学物質または食品等の各種物品の保管または輸送には、管理温度として−40℃以下が必要とされる場合がある。また温度管理対象物品のなかでも、バイオ医薬品(抗体等)、細胞、再生細胞、ワクチン、検体、遺伝子治療用ベクター等の保管または輸送には、管理温度として、−55℃以下が必要とされる場合があり、さらには−65℃以下が必要とされる場合もある。
第1の蓄冷材組成物の融解温度は、市販の温度コントロールユニットを備えた恒温槽中に測定試料を入れ、恒温槽の温度を一定の速度で上昇または下降させ、その際の試料温度を、熱電対を用いてモニターすることにより測定することができる。
(蓄冷材組成物の製造方法)
第1の蓄冷材組成物を調製する方法としては、特に限定されず、公知の方法を採用することができる。例えば、以下の(i)および(ii)の方法によって、蓄冷材組成物を製造することができる:(i)上記(A1)〜(A4)の組み合わせの化合物を、タンブラー、またはリボンブレンダー等を用いて予め混合して混合物を調製する;その後(ii)当該混合物を容器へ移し、当該容器へ水を注ぎ入れ、容器を冷却しながらミキサー等で攪拌して、蓄冷材組成物を調製する。また、以下の(iii)および(iv)の方法によっても、蓄冷材組成物を製造することができる:(iii)上記(A1)〜(A4)の組み合わせの化合物の、各々の化合物からなる水溶液を準備する;(iv)それら水溶液を混合することにより、蓄冷材組成物を調製する。
第1の蓄冷材組成物は、好ましくは後述する〔3.蓄冷材組成物の製造方法〕の項に記載の製造方法により、製造されることが好ましい。
(2−2.第1’の蓄冷材組成物)
本発明の他の一実施形態に係る蓄冷材組成物は、水および臭化カルシウムからなり、−75℃〜−65℃の範囲内に融解温度を有する。当該構成を有する、本発明の一実施形態に係る蓄冷材組成物を、「第1’の蓄冷材組成物」とも称する。第1’の蓄冷材組成物は、当該構成を有するため、上述した利点(1)〜利点(3)の各利点を有する。
以下、第1’の蓄冷材組成物に関する具体的態様について説明するが、以下に詳説した事項以外は、適宜、(2−1.第1の蓄冷材組成物)の記載を援用する。
第1’の蓄冷材組成物において、臭化カルシウムの含有量は特に限定されるものではない。第1’の蓄冷材組成物において、臭化カルシウムの含有量は、蓄冷材組成物が含む水100モルに対して、0.1モル〜20.0モルであることが好ましく、3.0モル〜18.0モルであることがより好ましく、7.0モル〜16.0モルであることがさらに好ましく、10.0モル〜15.0モルであることが特に好ましい。当該構成によると、得られる蓄冷材組成物は、以下の利点を有する:(a)融解温度の範囲内にて、定温保持性能がより安定的に、かつ、より再現性良く発現すること;(b)凍結時の体積膨張がより小さいこと;および(c)蓄冷材組成物の取り扱いがより容易であること。
(2−3.第2の蓄冷材組成物)
本発明の他の一実施形態に係る蓄冷材組成物は、水、カルシウムイオンおよび臭化物イオンからなり、−60℃〜−50℃の範囲内に融解温度を有する。当該構成を有する、本発明の一実施形態に係る蓄冷材組成物を、「第2の蓄冷材組成物」とも称する。第2の蓄冷材組成物は、当該構成を有するため、上述した利点(2)および利点(3)、並びに下記利点(4)を有する:
利点(4)再現性良く、且つ安定的に、蓄冷材組成物の融解温度を−60℃〜−50℃に調整することが可能であるため、−60℃〜−50℃の範囲の様々な管理温度領域で、温度管理対象物品を温度保持し、当該温度管理対象物品の保管または輸送を可能とすること。
以下、第2の蓄冷材組成物に関する具体的態様について説明するが、以下に詳説した事項以外は、適宜、(2−1.第1の蓄冷材組成物)の記載を援用する。
第2の蓄冷材組成物における「融解温度の範囲内」とは、「−60℃〜−50℃の範囲内」を意図する。従って、(2−1.第1の蓄冷材組成物)の項における「−75℃〜−65℃の範囲内に融解温度を有する」との記載は、第2の蓄冷材組成物の態様において、「−60℃〜−50℃の範囲内に融解温度を有する」との記載に置換される。
第2の蓄冷材組成物が、−60℃〜−50℃の範囲内に融解温度を有する理由について、特に限定されるものではないが、凝固状態の第2の蓄冷材組成物が、凝固状態の第1の蓄冷材組成物と比較して、乱れた結晶を有するためと推察される。
第2の蓄冷材組成物は、−60℃〜−50℃の範囲内に融解温度を有することを特徴とする。第1の蓄冷材組成物が有する融解温度は、−59℃以上であってもよく、−58℃以上であってもよく、−57℃以上であってもよく、−56℃以上であってもよく、−55℃以上であってもよい。第2の蓄冷材組成物が有する融解温度は、−51℃以下であってもよく、−52℃以下であってもよく、−53℃以下であってもよく、−54℃以下であってもよく、−55℃以下であってもよい。
(2−4.第2’の蓄冷材組成物)
本発明の他の一実施形態に係る蓄冷材組成物は、水および臭化カルシウムからなり、−60℃〜−50℃の範囲内に融解温度を有する。当該構成を有する、本発明の一実施形態に係る蓄冷材組成物を、「第2’の蓄冷材組成物」とも称する。第2’の蓄冷材組成物は、当該構成を有するため、上述した利点(2)〜利点(4)の各利点を有する。
以下、第2’の蓄冷材組成物に関する具体的態様について説明するが、以下に詳説した事項以外は、適宜、(2−1.第1の蓄冷材組成物)および(2−3.第2の蓄冷材組成物)の記載を援用する。
第2’の蓄冷材組成物は、水、カルシウムイオンおよび臭化物イオンからなるもの(を含むもの)であればよく、その他の構成は特に限定されるものではない。第2’の蓄冷材組成物は、上記構成を有することにより、上述した利点(2)〜利点(4)の各利点を有する。
第2’の蓄冷材組成物は、−60℃〜−50℃の範囲内に融解温度を有する限り、融解温度以上であり、かつ、液化した状態において、塩化物イオン、ナトリウムイオンおよびアンモニウムイオン等を含んでいてもよい。
なお、第2’の蓄冷材組成物における「融解温度の範囲内」とは、「−60℃〜−50℃の範囲内」を意図する。従って、(2−1.第1の蓄冷材組成物)の項における「−75℃〜−65℃の範囲内に融解温度を有する」との記載は、第2’の蓄冷材組成物の態様において、「−60℃〜−50℃の範囲内に融解温度を有する」との記載に置換される。
第2’の蓄冷材組成物において、臭化カルシウムの含有量は特に限定されるものではない。第2’の蓄冷材組成物において、臭化カルシウムの含有量は、好ましい態様を含み、(2−2.第1’の蓄冷材組成物)の項にて説明した態様と同じであってもよい。
〔3.蓄冷材組成物の製造方法〕
(3−1.第1の製造方法)
本発明の一実施形態に係る蓄冷材組成物の製造方法は、水、カルシウムイオンおよび臭化物イオンからなる混合物を調製する混合工程、および上記混合物の融解温度を、−75℃〜−65℃の範囲内に調整する融解温度調整工程、を含む。当該構成を有する、本発明の一実施形態に係る蓄冷材組成物の製造方法を、「第1の製造方法」とも称する。第1の製造方法は、上述した構成を有することにより、上述した利点(1)〜利点(3)の各利点を有する蓄冷材組成物を製造することができる。
第1の製造方法は、(2−1.第1の蓄冷材組成物)の項にて説明した第1の蓄冷材組成物を製造するために好適に用いられる。以下、第1の製造方法に関する各工程について説明するが、以下に詳説した事項以外は、適宜、(2−1.第1の蓄冷材組成物)の記載を援用する。
(混合工程)
混合工程において、水、カルシウムイオンおよび臭化物イオンからなる混合物を調製する方法としては特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。例えば、以下の(i)および(ii)の方法によって、水、カルシウムイオンおよび臭化物イオンからなる混合物を調製することができる:(i)上記(A1)〜(A4)の組み合わせの化合物を、タンブラー、またはリボンブレンダー等を用いて予め混合して混合物を調製する;その後(ii)当該混合物を容器へ移し、当該容器へ水を注ぎ入れ、容器を冷却しながらミキサー等で攪拌する。また、以下の(iii)および(iv)の方法によっても、水、カルシウムイオンおよび臭化物イオンからなる混合物を製造することができる:(iii)上記(A1)〜(A4)の組み合わせの化合物の、各々の化合物からなる水溶液を調製する;(iv)調製されたそれら水溶液を混合する。
(融解温度調整工程)
融解温度調整工程としては、蓄冷材組成物の製造方法における、様々な条件を調整する工程が挙げられる。上記様々な条件としては、例えば、蓄冷材組成物を凝固させるときの条件が挙げられる。融解温度調整工程は、混合物の融解温度が、−75℃〜−65℃の範囲内となるように、蓄冷材組成物を凝固させるときの条件を調整する工程ともいえる。
蓄冷材組成物を凝固させるときの条件としては、例えば、蓄冷材組成物を凝固させる速度、蓄冷材組成物を凝固させるときの温度、当該温度に蓄冷材組成物を放置する時間、当該温度に蓄冷材組成物を放置するときの当該蓄冷材組成物の状態、等が挙げられる。融解温度調整工程は、混合物の融解温度が、−75℃〜−65℃の範囲内となるように、蓄冷材組成物を凝固させるときの温度、当該温度に蓄冷材組成物を放置する時間、当該温度に蓄冷材組成物を放置するときの当該蓄冷材組成物の状態からなる群から選択される1つ以上を調整する工程、ともいえる。
蓄冷材組成物を凝固させる速度とは、蓄冷材組成物周囲の環境温度を低下させるときの降温速度を意図し、冷却速度ともいえる。蓄冷材組成物を凝固させる速度としては、5℃/分であってもよく、20℃/分であってもよく、50℃/分であってもよく、100℃/分であってもよい。
蓄冷材組成物を凝固させるときの温度としては、特に限定されないが、−80℃未満であることが好ましい。蓄冷材組成物を凝固させるときの温度としては、−100℃以下であってもよく、−130℃以下であってもよく、−150℃以下であってもよく、−180℃以下であってもよく、−190℃以下であってもよい。例えば、蓄冷材組成物を液体窒素(1気圧にて−196℃)中、ドライアイス中、ドライアイスとアルコール(例えばエタノール)との混合物中、に放置する場合、蓄冷材組成物を−80℃未満で凝固させることができる。
蓄冷材組成物を凝固させるときの温度に蓄冷材組成物を放置する時間としては、特に限定されないが、1分であってもよく、2分であってもよく、5分であってもよく、10分であってもよく、30分であってもよく、1時間であってもよく、3時間であってもよく、6時間であってもよく、10時間であってもよく、16時間であってもよく、24時間であってもよく、36時間であってもよく、48時間であってもよく、72時間であってもよい。
蓄冷材組成物を凝固させるときの温度に蓄冷材組成物を放置するときの当該蓄冷材組成物の状態としては、静置した状態、および振動を与えた状態などを挙げることができる。当該振動を与える方法、振動の程度については、特に限定されない。
融解温度調整工程は、2種以上の温度環境下のそれぞれに蓄冷材組成物を交互に1回以上放置する工程を含んでいてもよい。「2種以上の温度環境下」におけるそれぞれの温度は特に限定されない。2種以上の温度環境下のそれぞれに蓄冷材組成物を交互に1回以上放置する工程としては、例えば、(i)−200℃〜−190℃の環境下と−85℃〜−75℃の環境下とに、蓄冷材組成物を交互に1〜5回放置する工程、(ii)−200℃〜−190℃の環境下と−165℃〜−155℃の環境下とに、蓄冷材組成物を交互に1〜5回放置する工程、および(iii)−200℃〜−190℃の環境下と15℃〜25℃の環境下とに、蓄冷材組成物を交互に1〜5回放置する工程、などが挙げられる。第1の製造方法では、融解温度調整工程は、2種以上の温度環境下のそれぞれに蓄冷材組成物を交互に2回以上放置する工程を含んでいないことが好ましい。
2種以上の温度環境下のそれぞれに蓄冷材組成物を交互に1回以上放置する工程において、蓄冷材組成物を放置するときの当該蓄冷材組成物の状態は、特に限定されず、静置した状態、および振動を与えた状態などを挙げることができる。
第1の製造方法により得られる蓄冷材組成物(例えば第1の蓄冷材組成物)は、特に限定されるものではないが、整った結晶を有し、その結果、−75℃〜−65℃の範囲内に融解温度を有すると推察される。第1の製造方法は、蓄冷材組成物中に、整った結晶を作る方法ともいえる。
第1の製造方法の好ましい態様としては、例えば、以下のような態様が挙げられる:
水、カルシウムイオンおよび臭化物イオンからなる混合物を調製する混合工程、上記混合物を−200℃〜−190℃に5分間〜15分間静置する工程、および、上記混合物を−85℃〜−75℃に2時間〜4時間静置する工程を含む。当該態様において、混合物を−200℃〜−190℃に静置する時間は10分間であってもよく、混合物を−85℃〜−75℃に静置する時間は3時間であってもよい。
第1の製造方法では、混合工程にて使用された化合物(例えば臭化カルシウム)に由来する成分は、全て蓄冷材組成物に含まれ、かつ、全て室温において解離し得る。故に、得られる蓄冷材組成物が含み得るカルシウムイオンおよび臭化物イオンの量は、使用された化合物の使用量から理論的に計算して求めることができる。
(3−2.第1’の製造方法)
本発明の他の一実施形態に係る蓄冷材組成物の製造方法は、水および臭化カルシウムからなる混合物を調製する混合工程、および上記混合物の融解温度を、−75℃〜−65℃の範囲内に調整する融解温度調整工程、を含む。当該構成を有する、本発明の一実施形態に係る蓄冷材組成物の製造方法を、「第1’の製造方法」とも称する。第1’の製造方法は、上述した構成を有することにより、上述した利点(1)〜利点(3)の各利点を有する蓄冷材組成物を製造することができる。
第1’の製造方法は、(2−2.第1’の蓄冷材組成物)の項にて説明した第1’の蓄冷材組成物を製造するために好適に用いられる。
第1’の製造方法における、融解温度調整工程の態様としては、好ましい態様を含め、(3−1.第1の製造方法)に記載の態様と同じであってもよい。
第1’の製造方法における、その他の態様については、適宜、(2−1.第1の蓄冷材組成物)、(2−2.第1’の蓄冷材組成物)および(3−1.第1の製造方法)の記載を援用する。
(3−3.第2の製造方法)
本発明の一実施形態に係る蓄冷材組成物の製造方法は、水、カルシウムイオンおよび臭化物イオンからなる混合物を調製する混合工程、および上記混合物の融解温度を、−60℃〜−50℃の範囲内に調整する融解温度調整工程、を含む。当該構成を有する、本発明の一実施形態に係る蓄冷材組成物の製造方法を、「第2の製造方法」とも称する。第1の製造方法は、上述した構成を有することにより、上述した利点(2)〜利点(4)の各利点を有する蓄冷材組成物を製造することができる。
第2の製造方法は、(2−3.第2の蓄冷材組成物)の項にて説明した第2の蓄冷材組成物を製造するために好適に用いられる。
以下、第2の製造方法に関する具体的態様について説明するが、以下に詳説した事項以外は、適宜、(2−1.第1の蓄冷材組成物)、(2−3.第2の蓄冷材組成物)および(3−1.第1の製造方法)の記載を援用する。
第2の製造方法では、融解温度調整工程は、融解温度調整工程は、2種以上の温度環境下のそれぞれに蓄冷材組成物を交互に2回以上放置する工程を含むことが好ましい。
第2の製造方法の好ましい態様としては、例えば、以下のような態様が挙げられる:
水、カルシウムイオンおよび臭化物イオンからなる混合物を調製する混合工程、および上記混合物を、−200℃〜−190℃の環境下と−85℃〜−75℃の環境下とに、交互に5回放置する工程、を含む。
第2の製造方法により得られる蓄冷材組成物(例えば第2の蓄冷材組成物)は、特に限定されるものではないが、乱れた結晶を有し、その結果、−60℃〜−50℃の範囲内に融解温度を有すると推察される。第2の製造方法は、蓄冷材組成物中に、乱れた結晶を作る方法ともいえる。
第2の製造方法においても、混合工程にて使用された化合物(例えば臭化カルシウム)に由来する成分は、全て蓄冷材組成物に含まれ、かつ、全て室温において解離し得る。故に、得られる蓄冷材組成物が含み得るカルシウムイオンおよび臭化物イオンの量は、使用された化合物の使用量から理論的に計算して求めることができる。
(3−4.第2’の製造方法)
本発明の一実施形態に係る蓄冷材組成物の製造方法は、水および臭化カルシウムからなる混合物を調製する混合工程、および上記混合物の融解温度を、−60℃〜−50℃の範囲内に調整する融解温度調整工程、を含む。当該構成を有する、本発明の一実施形態に係る蓄冷材組成物の製造方法を、「第2’の製造方法」とも称する。第2’の製造方法は、上述した構成を有することにより、上述した利点(2)〜利点(4)の各利点を有する蓄冷材組成物を製造することができる。
第2’の製造方法は、(2−4.第2’の蓄冷材組成物)の項にて説明した第2’の蓄冷材組成物を製造するために好適に用いられる。
第2’の製造方法における、融解温度調整工程の態様としては、好ましい態様を含め、(3−3.第2の製造方法)に記載の態様と同じであってもよい。
第2’の製造方法における、その他の態様については、適宜、(2−1.第1の蓄冷材組成物)、(2−3.第2の蓄冷材組成物)、(2−4.第2’の蓄冷材組成物)および(3−1.第1の製造方法)の記載を援用する。
次に「蓄冷材」について説明する。
〔4.蓄冷材〕
本発明の一実施形態に係る蓄冷材は、上述した蓄冷材組成物を備えるものであればよく、その他の構成、材料等については限定されるものではない。
本発明の一実施形態に係る蓄冷材は、該蓄冷材を形成する蓄冷材組成物が凝固状態(固体)から溶融状態(液体)に相転移する間(換言すれば、融解する間)に熱エネルギーを吸収することによって、潜熱型の蓄冷材として利用できるものである。本発明の一実施形態に係る蓄冷材は、融解型潜熱蓄冷材、ともいえる。なお、溶融状態には上述した「ゲル状」も含まれる。
例えば、本発明の一実施形態に係る蓄冷材は、上述した蓄冷材組成物が容器または袋等に充填されたものであり得る。
上記容器または袋は、蓄冷材組成物による錆びおよび腐食に起因する、液漏れを防ぐという観点から、主に樹脂(例えば合成樹脂)で形成されたものであることが好ましい。上記樹脂としては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン、ナイロンおよびポリエステル等が挙げられる。
これらの素材は、1種類を単独で使用してもよく、耐熱性およびバリアー性を高めるために、これらの素材のうち2種類以上を組み合わせて使用する(例えば、多層構造としたものを使用する等)こともできる。取り扱い、およびコストの点より、ポリエチレンからなる容器または袋を用いることが好ましい。
上記容器または袋の形状としては、特に限定されないが、容器または袋を介して蓄冷材組成物と温度管理対象物品またはその周辺の空間との間で効率良く熱交換を行うという観点から、厚みが薄く、且つ表面積を大きく確保できる形状が好ましい。これらの容器または袋に対して、蓄冷材組成物を充填することによって、蓄冷材を形成することができる。
なお、上記容器または袋のさらに具体的な例は、特開2015−78307号公報に開示の容器または袋を用いることができる。当該文献は、本明細書中において参考文献として援用される。
本発明の一実施形態に係る蓄冷材の融解温度は、当該蓄冷材が備える蓄冷材組成物の融解温度と同一であるとみなすことができる。すなわち、本発明の一実施形態に係る蓄冷材の融解温度は、−75℃〜−65℃であり得るか、または−60℃〜−50℃であり得る。
〔5.輸送容器〕
本発明の一実施形態に係る輸送容器は、上述した本発明の一実施形態に係る蓄冷材を備えたものであればよく、その他の具体的な構成、材料等については特に限定されるものではない。
本発明の一実施形態に係る輸送容器の一例を図2に示す。図2の(a)は、本発明の一実施形態に係る蓄冷材10を、概略的に示す斜視図であり、図2の(b)は、本発明の一実施形態に係る輸送容器1を、概略的に示す分解斜視図である。
図2の(a)および(b)に示すように、本実施形態の蓄冷材10の開口は、蓄冷材の蓋11によって塞がれている。蓄冷材10の中には、上記開口を介して本発明の一実施形態に係る蓄冷材組成物20が充填されており、該蓄冷材10は、断熱容器40内に収納または配置して使用することができる。
蓄冷材10及び蓄冷材の蓋11の素材としては、特に限定されず、従来公知のものを適宜使用することがきる。
上記断熱容器40は、例えば箱体41とその箱体の開口部410に嵌合する蓋42と、を用いることで、断熱性を有するよう構成される。
断熱容器40の素材としては、断熱性を有するものであれば特に限定されないが、軽量および安価であり、且つ結露を防止することができるという観点からは、発泡プラスチックが、好適に用いられる。断熱容器40の素材としてはまた、断熱性が非常に高く、温度保持時間が長く、且つ結露を防止することができるという観点からは、真空断熱材が、好適に用いられる。発泡プラスチックとしては、具体的には、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、AS樹脂又はABS樹脂等を発泡させたものが用いられる。また、真空断熱材としては、例えば、芯材にシリカ粉、グラスウール、またはガラス繊維等を用いたものが用いられる。さらに断熱容器40は、発泡プラスチックと真空断熱材との組合せにより構成されていてもよい。その場合には、(i)発泡プラスチックからなる箱体41および蓋42の外面もしくは内面を真空断熱材で覆う、または、(ii)発泡プラスチックからなる箱体41および蓋42を構成する壁の内部に真空断熱材を埋設させる、等の手段により、断熱性能の高い断熱容器40が得られる。
上記断熱容器40のさらに具体的な構成としては、特開2015−78307号公報に開示されている構成を用いることができる。当該文献は、本明細書中において参考文献として援用される。
図3の(a)は、輸送容器1の内部を概略的に示す斜視図であり、図3の(b)は、図3の(a)のA−A線断面を模式的に表す断面図である。
図2の(b)に示すように、断熱容器40は、箱体41と蓋42とを備え、本発明の一実施形態に係る輸送容器1は、断熱容器40と蓄冷材10とスペーサー6とを備えている。図2および図3に示すように、本発明の一実施形態に係る輸送容器1は、蓄冷材10を該輸送容器1内に収納または配置する際に、(1)箱体内の空間を覆う蓋42の表面、箱体の側面部412、および箱体の底面部411と、当該蓄冷材10との間の空間を埋めるために、且つ、(2)図3の(b)に示すように、温度管理対象物品を収容する空間5を確保するために、スペーサー6を備えることもできる。
図2及び図3では、輸送容器1は10個の蓄冷材10を備えているが、輸送容器1が備える蓄冷材の数は1個以上であれば特に限定されない。温度管理対象物品を長時間および/または安定的に管理温度下で保管または輸送する観点から、輸送容器1が備えている蓄冷材10は、好ましくは2個以上、より好ましくは4個以上、さらに好ましくは6個以上、特に好ましくは10個以上である。輸送容器1が備える蓄冷材10の数は、蓄冷材10の大きさ、温度管理対象物品の保管または輸送時間、ならびに温度管理対象物品の保管または輸送時の外気温度等によって、適宜選択されてもよい。
スペーサー6の素材としては、特に限定されないが、例えば、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、AS樹脂またはABS樹脂並びにこれらの樹脂を発泡させた発泡プラスチックが用いられる。
本発明の一実施形態では、断熱容器40の内部に一対のスペーサー6を対向させて配置させている。本発明の一実施形態に係る輸送容器1は、スペーサー6を備えることにより、蓄冷材10の配置位置が定まるため、パッキングを容易に行うことを可能とする。輸送容器1が備えるスペーサー6の大きさおよび数は、特に限定されず、輸送容器1、蓄冷材10および温度管理対象物品の大きさ等によって、適宜設定されてもよい。
図2及び図3では、輸送容器1は、温度管理対象物品を収容する空間5を1つ備えているが、輸送容器1が備える空間5の数は1個以上であれば特に限定されず、複数の空間5を備えていてもよい。例えば、1つの空間5の中に蓄冷材10および/またはスペーサー6を配置することにより、空間5を分割して使用してもよい。
本発明の一実施形態に係る輸送容器の融解温度は、当該輸送容器が備える蓄冷材の融解温度を同一であるとみなすことができる。すなわち、本発明の一実施形態に係る輸送容器の融解温度は、当該輸送容器に備えられている蓄冷材がそなえる蓄冷材組成物の融解温度と同一であるとみなすことができる。本発明の一実施形態に係る輸送容器の融解温度は、−75℃〜−65℃であり得るか、または−60℃〜−50℃であり得る。本発明の一実施形態に係る輸送容器であれば、外気温度に左右されず、温度管理の必要な物品(温度管理対象物品)を、長時間にわたって、−75℃〜−65℃または−60℃〜−50℃の範囲内に維持して保管または輸送できる。本発明の一実施形態に係る輸送容器は、例えば、温度管理の必要な医薬品、医療機器、細胞、検体、臓器、化学物質、もしくは食品等の各種物品の、保管または輸送に好適に使用できる。
本発明の一実施形態に係る輸送容器は、温度管理対象物品のなかでも、管理温度として−55℃以下、または−65℃以下が必要とされ得る、バイオ医薬品(抗体等)、細胞、再生細胞、ワクチン、検体、遺伝子治療用ベクター等の保管または輸送により好適に使用できる。さらに、物品を−55℃以下、または−65℃以下に維持して保管または輸送する、本発明の一実施形態に係る輸送容器の使用用途としては、(a)細胞の輸送(例えば、細胞培養センター内での凍結細胞の輸送、細胞バンクから細胞培養センター等への凍結細胞の施設間輸送等)および、(b)細胞の保管(例えば、無菌室またはクリーンベンチでの凍結細胞の一時保管、細胞バンクまたは細胞培養センター等で使用されるディープフリーザーが停電した際の細胞の保管(バックアップ)用途等)等が挙げられる。
上述のように、本発明の一実施形態に係る輸送容器は、温度管理対象物品を、長時間にわたって、−75℃〜−65℃または−60℃〜−50℃の範囲内に維持することができることから、「保温容器」ともいえる。
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
実施例および比較例で使用した原料は、以下のとおりである。
<化合物>
臭化カルシウム[Strem Chemicals, Incorporated製、Calcium bromide hydrate,98%]。
<水>
飲料水道水。
実施例および比較例では、恒温槽として、サイニクス社製、超低温アルミブロック恒温槽 クライオポーター(登録商標)CS−80CPを使用した。
<蓄冷材組成物の製造>
(実施例1)
水100モルに対して13.5モルの臭化カルシウムを溶解し、蓄冷材組成物を調製した。次に、得られた蓄冷材組成物を、2mlのポリプロピレン製クライオバイアルに、熱電対とともに充填し、蓄冷材組成物を含むクライオバイアル(以下、蓄冷材組成物含クライオバイアルとも称する。)を得た。次に、得られた蓄冷材組成物含クライオバイアルを、液体窒素(−196℃)中に7分間静置した後、−80℃に設定した恒温槽内に1時間〜5時間静置した。得られた凝固した蓄冷材組成物を、融解温度の測定に用いた。
(実施例2)
実施例1で融解温度を測定した、同じ蓄冷材組成物含クライオバイアルを用いて、実施例2を実施した。具体的には、当該蓄冷材組成物含クライオバイアルを(i)液体窒素(−196℃)中に3〜5分静置する操作と、(ii)−80℃に設定した恒温槽内に20分〜40分間静置する操作とを、合計5回繰り返した。ここで、クライオバイアル中の蓄冷材組成物の温度を熱電対によりモニターし、上記(ii)の操作では、熱電対の温度が−80℃以上を示すまで、蓄冷材組成物含クライオバイアルを−80℃に設定した恒温槽内に静置した。その後、蓄冷材組成物含クライオバイアルを−80℃に設定した恒温槽内に1時間〜5時間静置した。得られた凝固した蓄冷材組成物を、融解温度の測定に用いられた。
(比較例1)
実施例1および実施例2で融解温度を測定した、同じ蓄冷材組成物含クライオバイアルを用いて、比較例1を実施した。具体的には、当該蓄冷材組成物含クライオバイアルを−80℃に設定した恒温槽内に4時間静置した後、当該蓄冷材組成物含クライオバイアルを用いて融解温度を測定した。
実施例1、2および比較例1の各蓄冷材組成物では、水に溶解された臭化カルシウムに由来する成分は、全て蓄冷材組成物に含まれ、かつ、全て室温において解離し得る。故に、実施例1、2および比較例1の各蓄冷材組成物が含み得るカルシウムイオンおよび臭化物イオンの量は、水に溶解された臭化カルシウムの量から理論的に計算して求めることができる。すなわち、実施例1、2および比較例1の各蓄冷材組成物が含み得るカルシウムイオンは13.5モルであり、臭化物イオンは27モルである。
<融解温度の測定方法>
実施例1、2および比較例1にて製造された各蓄冷材組成物(臭化カルシウム含クライオバイアル)を−80℃の恒温槽内に静置し、−80℃〜20℃の温度範囲内で、0.5℃/分の昇温速度にて、温度上昇を行った。この間、恒温槽の温度上昇過程において、熱電対にてモニターされた恒温槽内の蓄冷材組成物の温度を、時間に対してプロットした。実施例1および2の蓄冷材組成物では、図1に示すような図が得られた。すなわち、実施例1および2の蓄冷材組成物では、図1に示すように、一定速度で上昇する恒温槽の温度と比較して、蓄冷材組成物の温度は、次の(1)〜(3)の順で変化した:(1)一定速度で上昇した;(2)温度T1において蓄冷材組成物の潜熱によりほとんど変化しなくなり、温度T1から温度T2まで、定温を保持した;(3)温度T2を境に、上昇を再開した。温度T1と温度T2との中点の温度T3を、蓄冷材組成物における「融解温度」とした。なお、比較例1の蓄冷材組成物では、蓄冷材組成物の温度は、図1の(2)のような定温保持を示さなかった。
実施例1、2および比較例1の各蓄冷材組成物の融解温度を、表1に示す。上述したように、比較例1の蓄冷材組成物では、図1の(2)のような定温保持を示さなかったため、融解温度の結果は「なし」と表記している。