JP2020127387A - 栄養組成物 - Google Patents
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Description
製品中の栄養成分が均一化されていることは臨床栄養学上重要であることから、乳化破壊によるタンパク質や油脂の凝集・沈殿を低減し、栄養組成物の乳化安定性を維持することが求められていた。
そこで、本発明が解決しようとする課題は、速やかな胃内増粘性を有しつつ、乳化安定性を有する栄養組成物を提供することにある。
本発明の栄養組成物は、乳化作用を有するカゼインタンパク質を主要タンパク源とし、かつ、油脂として中鎖脂肪酸トリグリセリドを含有することで、乳化安定性を有する。
また、本発明の栄養組成物は、酸性領域に等電点を有するカゼインタンパク質を含有することで、胃内に供給された際に速やかに増粘性を発揮することができる。
カゼインタンパク質の含有量が上記範囲に調製された栄養組成物は、カゼインタンパク質の乳化作用によって乳化安定性が補強されつつ、胃内へ供給された際には速やかに増粘性を発揮する。
中鎖脂肪酸トリグリセリドの含有量が上記範囲に調製された栄養組成物は、優れた乳化安定性を有する。
また、本発明の栄養組成物は製品中の水分含有量が100〜150g/100kcalとなるように調製されることが好ましい。
なお、本発明において「炭水化物」は、糖質、食物繊維、多糖類からなるゲル化剤や増粘剤を総称する意味として用いる。
本発明の栄養組成物は、胃内への供給初期の段階から速やかに増粘し、又は胃液濃度が低い場合にも優れた増粘性を有する。
カゼインタンパク質の含有量は、ウエスタンブロット法により測定することができる。
ホエイタンパク質をタンパク源として含有する場合でも、カゼインタンパク質の含有質量比を上記範囲に調製することで、速やかな胃内増粘性と乳化安定性を両立することができる。
本発明における中鎖脂肪酸トリグリセリドは、加熱時における乳化破壊を低減し、栄養組成物の乳化安定性に寄与する。
中鎖脂肪酸トリグリセリドの含有量は、ガスクロマトグラフ法により測定することができる。
中鎖脂肪酸トリグリセリドの含有量を上記の下限値以上とすることで、栄養組成物の乳化安定性を向上させることができる。
中鎖脂肪酸トリグリセリドの含有量を上記の上限値以下とすることで、対象者への経管投与時にチューブ内壁に残渣が付着することを防止することができる。
中鎖脂肪酸トリグリセリドと上記の油脂を併用する場合、植物油脂及び/又は魚油と組み合わせて使用することが好ましい。植物油脂及び/又は魚油を使用することで、必須脂肪酸を効率よく摂取することができる。
このような比率で油脂を配合することにより、十分な栄養価を有しつつ、乳化安定性に優れる栄養組成物を提供することができる。
中鎖脂肪酸トリグリセリドに加えて上述した他の油脂を配合する際に、中鎖脂肪酸トリグリセリドの含有量を上記範囲となるよう調製することで、栄養組成物の乳化安定性を向上させることができる。
人工胃液は、第十七改正日本薬局方の「6.09崩壊試験法」に基づいて調製することができる(pH1.2、塩化ナトリウム2.0g/L、塩酸7.0ml/L)。
また、前記の比率で栄養組成物と人工胃液とを混合した後の混和物の粘度は、それぞれ栄養組成物の摂取後15〜25分、30〜40分、及び45〜60分における粘度の目安とすることもできる。
後述する実施例に示すように、本発明の栄養組成物は、その人工胃液との混和物において人工胃液の比率が前記のように小さいながらも、優れた胃内増粘性を発揮するものである。
なお、人工胃液と混合せずに栄養組成物の粘度を測定することで、栄養組成物を対象者に投与する前の、すなわち製品としての粘度を評価することができる。
人工胃液の比率が上記であるときの、栄養組成物のpHは、6.5〜4.5であることが好ましく、6.0〜4.8であることがより好ましく、5.8〜5.3であることがさらに好ましい。
人工胃液の比率が上記であるときの、栄養組成物のpHは、好ましくは6.0〜4.0であり、より好ましくは5.8〜4.5であり、さらに好ましくは5.5〜5.0である。
人工胃液の比率が上記であるときの、栄養組成物のpHは、5.5〜4.0であることが好ましく、5.3〜4.3であることがより好ましく、5.0〜4.6であることがさらに好ましい。
また、栄養組成物を対象者に投与する前の20℃における粘度は、600mPa・s以下となるように調製することが好ましく、500mPa・s以下となるように調製することがより好ましく、400mPa・s以下となるように調製することがさらに好ましい。
栄養組成物を対象者に投与する前の粘度を上記の上限値及び下限値の範囲に調製することで、製品の保管時にも、通液性を維持することが可能な範囲で粘性が付与され、後述する不溶性の2価金属塩の沈殿を低減することができる。
すなわち、本発明の栄養組成物は、栄養組成物と人工胃液とを混合した混和物において、人工胃液の比率が15質量%のときの20℃における粘度増加率が、好ましくは10倍以上であり、より好ましくは20倍以上であり、さらに好ましくは30倍以上である。
また、本発明の栄養組成物は、栄養組成物と人工胃液とを混合した混和物において、人工胃液の比率が20質量%のときの20℃における粘度増加率が、好ましくは20倍以上であり、より好ましくは30倍以上であり、さらに好ましくは40倍以上である。
また、本発明の栄養組成物は、栄養組成物と人工胃液とを混合した混和物において、人工胃液の比率が25質量%のときの20℃における粘度増加率が、好ましくは20倍以上であり、より好ましくは30倍以上であり、さらに好ましくは40倍以上である。
本発明の栄養組成物は、カゼインタンパク質を含むことにより速やかに胃内増粘性を発揮する。そのため、乳化破壊を促進する上記多糖類の含有量は、上限値以下に減らすことが好ましい。
また、下限値は特に制限されないが、十分な胃内増粘性を得るため、少なくとも0.5質量%以上含まれることが好ましい。
これらの安定剤を使用することで、栄養組成物を対象者へ投与する前の20℃における粘度として好ましい範囲の粘性を付与することができるため、保管時や経管投与する際の流通時において、後述する不溶性の2価金属塩の沈殿を低減することができる。
また、本発明におけるグァーガムの含有量は、0.001〜0.3質量%であることが好ましく、0.01〜0.1質量%であることがより好ましく、0.02〜0.07質量%であることがさらに好ましい。
このような含有量でジェランガム及び/又はグァーガムを含有することで、栄養組成物を対象者へ投与する前の20℃における粘度として好ましい範囲の粘性を付与することができる。
このような含有量で発酵セルロースを含有することで、栄養組成物の保管時や経管投与する際の流通時における不溶性の2価金属塩の沈殿を低減することができる。
不溶性の2価金属塩を使用することで、栄養組成物の製造時に2価金属イオンがゲル化剤又は増粘剤と結合して増粘することを防止することができる。
また、不溶性の2価金属塩を使用した場合、キレート剤を不使用又は極少量とすることができる。これにより、キレート剤との反応により消費される2価金属イオンが減り、ゲル化剤又は増粘剤との結合に消費される2価金属イオンが増加することから、栄養組成物の胃内増粘性を向上させることが可能になる。
これらの配合量は、臨床栄養学又はゲル化剤若しくは増粘剤との配合バランスに基づいて決定することができるが、不溶性の2価金属塩の総量としては、0.1〜1.0質量%であることが好ましく、0.15〜0.8質量%であることがより好ましく、0.2〜0.5質量%であることがさらに好ましい。
この場合、リン酸三カルシウムの含有量は、0.05〜0.5質量%であることが好ましく、0.07〜0.3質量%であることがより好ましく、0.1〜0.2質量%であることがさらに好ましい。
また、リン酸三マグネシウムの含有量は、0.05〜0.5質量%であることが好ましく、0.07〜0.3質量%であることがより好ましく、0.1〜0.2質量%であることがさらに好ましい。
このような形態の栄養組成物は、上述したように、不溶性の2価金属塩を含むことで十分な胃内増粘性を得ることができるため、乳化破壊を引き起こす上記多糖類の含有量を少量に留めることが可能となる。これにカゼインタンパク質の乳化作用も相まって、本発明の栄養組成物は、乳化安定性に優れたものとなる。
乳化安定性の観点から、好ましくは、大豆レシチン、卵黄レシチンなどを用いることができる。
本発明におけるレシチンの含有量は、0.025〜0.1質量%であることが好ましく、0.05〜0.08質量%であることがさらに好ましい。
本発明における有機酸モノグリセリドの含有量は、0.025〜0.1質量%であることが好ましく、0.05〜0.08質量%であることがさらに好ましい。
このような含有量でレシチンと有機酸モノグリセリドとを使用することにより、栄養組成物の乳化安定性をより向上させることができる。
ミネラルとしては、ナトリウム、カリウム、リン、鉄、亜鉛、銅などを例示することができる。ミネラルを含む原料として、有機酸塩(グルコン酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、リンゴ酸塩等)、無機塩(塩化物塩、水酸化物塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩等)、炭酸塩、ミネラル酵母、卵殻カルシウム、貝殻カルシウム、珊瑚カルシウム、乳清ミネラル及びドロマイト等を使用することができる。
ビタミンとしては、ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK、ナイアシン、ビオチン、パントテン酸、葉酸などを例示することができる。
食物繊維としては、難消化性デキストリン、グァーガム分解物などを例示することができる。
本発明の栄養組成物は、甘味料、香料、消泡剤として常用される微量添加物をさらに含むことができる。
タンパク質の種類の相違、及びカゼインタンパク質とホエイタンパク質の混合割合が栄養組成物の乳化安定性及び胃内増粘性に与える影響を評価した。
表1に示す配合にしたがい、カゼインタンパク質とホエイタンパク質の混合割合及び各サンプルの熱量の総計が異なる液状の栄養組成物を調製した。
カゼインナトリウム(タツア社製、Tatua100、カゼインタンパク質含量91%)、WPI(フォンテラ社製、WPI895、ホエイタンパク質含量94%)、デキストリン(松谷化学工業社製、TK−16)、クエン酸、クエン酸三ナトリウム、リン酸三カルシウム、リン酸三マグネシウム、及び発酵セルロース製剤(発酵セルロース含量20%)を60℃の溶解水に添加して混合溶解した。ここへ、植物油脂、精製魚油、中鎖脂肪酸トリグリセリド、レシチン、及びコハク酸モノグリセリドをさらに添加して撹拌混合した。その後、高圧均質機(APV社製)を用いて50MPaの圧力で均質化処理した。均質化した溶解液にゲル化剤を添加して十分に混合した後、レトルトパウチ(東洋製罐社製)に200gずつ充填し、密封し、レトルト殺菌機(日阪製作所社製)を用いて123℃で15分間殺菌処理し、液状の栄養組成物を調製した。
なお、ゲル化剤としては、ペクチン製剤(ペクチン含量75%)を使用した。
実施例1〜4のレトルト殺菌後のサンプルを用いて、脂肪浮上の有無を目視で観察した。評価方法は、以下に示す5段階の評点方式とした。結果を表3に示す。
5点:油脂の分離や浮上物が全く認められない。
4点:上部に浮上物が僅かに認められる。
3点:上部に浮上物が認められるが、混合により再懸濁が可能である。
2点:上部に油脂の分離や浮上物が認められ、混合しても再懸濁ができない。
1点:著しく油脂が分離し、油層の形成が認められ、混合しても再懸濁できない。
また、実施例1及び2、並びに実施例3及び4を比較した結果、カゼインタンパク質を多く配合することで、乳化安定性がより向上することがわかった。
実施例2及び4のサンプルを用いて、栄養組成物の胃内増粘性を評価した。胃内増粘性は、人工胃液及び栄養組成物を1:4又は1:3の質量比で混合して37℃で30分間静置した際の粘度として評価した。人工胃液は、第十七改正日本薬局方の「6.09崩壊試験法」に基づいて調製した(pH1.2、塩化ナトリウム2.0g/L、塩酸7.0ml/L)。粘度は、B型回転粘度計(東機産業株式会社製)を使用し、測定温度20℃、ローター回転数6rpmの条件で測定した。結果を表4に示す。
油脂の種類が栄養組成物の乳化安定性及び胃内増粘性に与える影響を評価した。
試験例1と同様の手順で、表5に示す配合にしたがい、油脂の種類が異なる液状の栄養組成物を調製した。
実施例5、並びに比較例1及び2のレトルト殺菌後のサンプルを用いて、試験例1と同様の評価基準にしたがい、脂肪浮上の有無を目視で観察した。結果を表7に示す。
また、試験例1の実施例3と、試験例2の比較例1及び2を比較すると、これらはタンパク質の構成や成分組成が同等であるにもかかわらず、中鎖脂肪酸トリグリセリドの有無によって、乳化安定性に差異が現れることが確認された。
これらの結果から、中鎖脂肪酸トリグリセリドを含むことで、乳化安定性がより向上することがわかった。
実施例5、並びに比較例1及び2のサンプルを用いて、試験例1と同様の条件により、栄養組成物の胃内増粘性を評価した。結果を表8に示す。
カゼインタンパク質の含有量が栄養組成物の乳化安定性に与える影響を評価した。
試験例1と同様の手順で、表9に示す配合にしたがい、試験例1及び2よりも熱量が高い液状の栄養組成物を調製した。
なお、ゲル化剤としては、ペクチン製剤(ペクチン含量32%)を使用した。
サンプルA及びBのレトルト殺菌後のサンプルを用いて、試験例1と同様の評価基準にしたがい、脂肪浮上の有無を目視で観察した。結果を表11に示す。
なお、ゲル化剤として、ペクチン製剤に代えて、アルギン酸ナトリウムを使用した場合にも同様の傾向が確認された。
また、油脂の種類を植物油脂から中鎖脂肪酸トリグリセリドに置き換えた試験例2の実施例5は、速やかな胃内増粘性に加え、より向上された乳化安定性を有するものであった。
したがって、総タンパク質量に対して75質量%以上のカゼインタンパク質を含み、かつ、中鎖脂肪酸トリグリセリドを含む栄養組成物は、速やかな胃内増粘性と乳化安定性を両立的に発揮するものであるといえる。
さらに、試験例3では、試験例1及び2に比して熱量の高い、すなわち固形分の割合が高くペクチン含量が多いサンプルを使用したため、乳化安定性がやや悪化した。しかしながら、総タンパク質量に対して75質量%以上のカゼインタンパク質を含むサンプルでは、上部に浮上物は認められたものの、混合により再懸濁が可能であった。
したがって、総タンパク質量に対して75質量%以上のカゼインタンパク質を含む栄養組成物は、より優れた乳化安定性を発揮するものであるといえる。
表12に示す原料の配合割合にしたがい、カゼインナトリウム(タツア社製、Tatua100、カゼインタンパク質含量91%)、デキストリン(松谷化学工業社製、TK−16)、難消化性デキストリン、グァーガム分解物、クエン酸、クエン酸三ナトリウム、リン酸三カルシウム、リン酸三マグネシウム、食塩、塩化カリウム、グルコン酸銅、乾燥酵母及び発酵セルロース製剤(発酵セルロース含量20%)を60℃の溶解水に添加して混合溶解した。ここへ、植物油脂、精製魚油、中鎖脂肪酸トリグリセリド、レシチン、コハク酸モノグリセリドをさらに添加して撹拌混合した。その後、高圧均質機(APV社製)を用いて50MPaの圧力で均質化処理した。均質化した溶解液に、ペクチン製剤、グァーガム、ネイティブ型ジェランガム、水溶性ビタミンミックス、香料、及び甘味料を添加して十分に混合した後、レトルトパウチ(東洋製罐社製)に200gずつ充填し、密封し、レトルト殺菌機(日阪製作所社製)を用いて123℃で15分間殺菌処理し、100g当たりの熱量が64kcalの栄養組成物を調製した。得られた組成物の成分組成は表13に示すとおりであり、アミノ酸組成は表14に示すとおりであった。
処方例1と同様の原料を使用し、表12に示す原料の配合割合にしたがい、100g当たりの熱量が73kcalの栄養組成物を調製した。得られた組成物の成分組成は表13に示すとおりであり、アミノ酸組成は表14に示すとおりであった。
Claims (7)
- 総タンパク質量に対して75質量%以上のカゼインタンパク質を含み、かつ、中鎖脂肪酸トリグリセリドを含む、胃内増粘性の栄養組成物。
- 前記カゼインタンパク質の含有量が1.0〜10.0g/100kcalである、請求項1に記載の胃内増粘性の栄養組成物。
- 前記中鎖脂肪酸トリグリセリドの含有量が0.1〜5.0g/100kcalである、請求項1又は2に記載の胃内増粘性の栄養組成物。
- 炭水化物の含有量が10〜25g/100kcalである、請求項1〜3の何れか一項に記載の胃内増粘性の栄養組成物。
- 水分含有量が100〜150g/100kcalである、請求項1〜4の何れか一項に記載の胃内増粘性の栄養組成物。
- 前記栄養組成物と人工胃液とを混合した混和物において、前記人工胃液の比率が20質量%のときの20℃における粘度が4000mPa・s以上である、請求項1〜5の何れか一項に記載の胃内増粘性の栄養組成物。
- 経管流動食である、請求項1〜6の何れか一項に記載の胃内増粘性の栄養組成物。
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