JP2020125425A - 繊維状セルロース含有組成物、その製造方法、及び膜 - Google Patents

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Abstract

【課題】塗工適性に優れたセルロース含有組成物、その製造方法、および膜を提供すること。【解決手段】繊維幅が1000nm以下であり、亜リン酸基又は亜リン酸基に由来する置換基を有する繊維状セルロースとタンパク質とを含むセルロース含有組成物であって、前記タンパク質は酵素を含み、前記タンパク質の含有量が、前記繊維状セルロース1質量部に対して1×10-3質量部以下であり、前記繊維状セルロースの固形分濃度を0.4質量%として25℃及び回転数3rpmの条件で測定した粘度が10mPa・s以上11000mPa・s以下である、セルロース含有組成物。【選択図】なし

Description

本発明は、微細繊維状セルロース含有組成物、その製造方法及び膜に関する。
近年、石油資源の代替及び環境意識の高まりから、再生産可能な天然繊維を利用した材料が着目されている。天然繊維の中でも、繊維径が10μm以上50μm以下の繊維状セルロース、特に木材由来の繊維状セルロース(パルプ)は、主に紙製品としてこれまで幅広く使用されてきた。
繊維状セルロースとしては、繊維径が1μm以下の微細繊維状セルロースも知られている。近年は、このような微細繊維状セルロースから構成されるシートや、微細繊維状セルロース含有シートと樹脂を含む複合シートが開発されている。また、微細繊維状セルロースは増粘作用を発揮することができるため、微細繊維状セルロースを増粘剤として各種用途に用いることも検討されている。
微細繊維状セルロースの分散体の製造方法として、特許文献1には、化学変性したセルロース繊維を解繊してセルロースナノファイバー分散体とすることが記載されている。特許文献1には、化学変性したセルロース繊維として、酵素で処理されたセルロース繊維を使用してもよいことが記載されている。また、特許文献2には、酸化セルロースを水性媒体中で微細化して、微細セルロース繊維の分散液を得ることが記載されている。特許文献2にはセルロース原料に酵素処理を行ってもよいことが記載されている。
特開2017−2136号公報 特開2015−221844号公報
本発明者らは、塗料の補強を目的として微細繊維状セルロースを使用することを検討してきた。しかし、微細繊維状セルロースは高粘度であることから、粘度上昇を望まない使用用途では、補強に十分な量の微細繊維状セルロースを添加することが困難であった。たとえば塗料により塗膜を形成する際には、微細繊維状セルロースは、粘度が低い方がより塗工適性に優れている。本発明は、塗工適性に優れたセルロース含有組成物、その製造方法、および膜を提供することを解決すべき課題とする。
本発明者らは上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、繊維幅が1000nm以下であり、亜リン酸基又は亜リン酸基に由来する置換基を有する繊維状セルロースを含有する組成物において、酵素を添加して組成物の粘度を調節することにより、塗工適性に優れたセルロース含有組成物を提供できることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成したものである。
本発明は、以下の構成を有する。
[1] 繊維幅が1000nm以下であり、亜リン酸基又は亜リン酸基に由来する置換基を有する繊維状セルロースと、タンパク質とを含むセルロース含有組成物であって、前記タンパク質は酵素を含み、前記タンパク質の含有量が、前記繊維状セルロース1質量部に対して1×10-3質量部以下であり、前記繊維状セルロースの固形分濃度を0.4質量%として25℃及び回転数3rpmの条件で測定した粘度が10mPa・s以上11000mPa・s以下である、セルロース含有組成物。
[2] 前記タンパク質の含有量が、前記繊維状セルロース1質量部に対して1×10-7質量部以上である、[1]に記載のセルロース含有組成物。
[3] 繊維幅が1000nm以下であり、亜リン酸基又は亜リン酸基に由来する置換基を有する繊維状セルロースとタンパク質とを含むセルロース含有組成物であって、前記タンパク質は酵素を含み、前記酵素のエンドグルカナーゼ活性が840U/L以下であり、前記繊維状セルロースの固形分濃度を0.4質量%として25℃及び回転数3rpmの条件で測定した粘度が10mPa・s以上11000mPa・s以下である、セルロース含有組成物。
[4] 前記酵素のエンドグルカナーゼ活性が0.084U/L以上である、[3]に記載のセルロース含有組成物。
[5] 前記繊維状セルロースの重合度が、200以上450以下である、[1]から[4]の何れか一に記載のセルロース含有組成物。
[6] 繊維幅が1000nm以下であり、亜リン酸基又は亜リン酸基に由来する置換基を有する繊維状セルロースと、タンパク質とを含む膜であって、前記タンパク質は酵素を含み、前記タンパク質の含有量が、前記繊維状セルロース1質量部に対して1×10-3質量部以下である、膜。
[7] 前記タンパク質の含有量が、前記繊維状セルロース1質量部に対して1×10-7質量部以上である、[6]に記載の膜。
[8] 繊維幅が1000nm以下であり、亜リン酸基又は亜リン酸基に由来する置換基を有する繊維状セルロース1質量部に対して、1×10-3質量部以下の酵素を添加する工程を含む、セルロース含有組成物の製造方法。
本発明によれば、塗工適性に優れたセルロース含有組成物を提供することができる。
図1は、リンオキソ酸基を有する繊維状セルロース含有スラリーに対するNaOH滴下量とpHの関係を示すグラフである。 図2は、カルボキシ基を有する繊維状セルロース含有スラリーに対するNaOH滴下量とpHの関係を示すグラフである。
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。
(セルロース含有組成物)
本発明は、繊維幅が1000nm以下であり、亜リン酸基又は亜リン酸基に由来する置換基を有する繊維状セルロース(以下、微細繊維状セルロースともいう)とタンパク質とを含むセルロース含有組成物であって、前記タンパク質は酵素を含み、前記タンパク質の含有量が、前記繊維状セルロース1質量部に対して1×10-3質量部以下であり、前記繊維状セルロースの固形分濃度を0.4質量%として25℃及び回転数3rpmの条件で測定した粘度が10mPa・s以上11000mPa・s以下である、セルロース含有組成物に関する。
タンパク質の含有量は、繊維状セルロース1質量部に対して1×10-3質量部以下であればよく、1×10-4質量部以下が好ましく、1×10-5質量部以下がより好ましく、5.0×10-6質量部以下が特に好ましい。タンパク質の含有量は、繊維状セルロース1質量部に対して1×10-7質量部以上が好ましく、3×10-7質量部以上がより好ましく、1×10-6質量部以上がさらに好ましい。
タンパク質の含有量は、酵素の添加量を調整すること、又は酵素処理を含む微細繊維状セルロースの製造プロセスを調整すること等により制御できる。本実施形態では、たとえば酵素処理を行うタイミング等に起因してタンパク質量を調整することができる。タンパク質の含有量を上記の範囲内とすることにより良好な塗工適性を達成することができる。
セルロース含有組成物におけるタンパク質の含有量は、例えばビュレット法、Lowry法、蛍光法、色素結合法によって求めることができる。ビュレット法によってタンパク質の含有量を求める場合には、牛血清アルブミン水溶液(タンパク質量が5.0質量%以下となるように調製したもの)に対し4倍量のビュレット薬を加えて混合し、20℃から25℃の環境下で30分放置した後、分光光度計を使用し540nmの吸光波長を測定し、測定値をもとに、検量線を引く。次に、セルロース含有組成物に対し、4倍量のビュレット試薬を加えてよく混合し、20℃から25℃の環境下で30分放置した後、分光光度計を使用し540nmの吸光波長を測定する。測定値を検量線へ書き込むことにより、セルロース含有組成物に含まれるタンパク質量を求めることができる。
さらに本発明は、繊維幅が1000nm以下であり、亜リン酸基又は亜リン酸基に由来する置換基を有する繊維状セルロースとタンパク質とを含むセルロース含有組成物であって、前記タンパク質は酵素を含み、前記酵素のエンドグルカナーゼ活性が840U/L以下であり、前記繊維状セルロースの固形分濃度を0.4質量%として25℃及び回転数3rpmの条件で測定した粘度が10mPa・s以上11000mPa・s以下である、セルロース含有組成物に関する。
酵素のエンドグルカナーゼ活性は、840U/L以下であればよい。酵素のエンドグルカナーゼ活性の下限値は、0.084U/L以上が好ましく、0.84U/L以上がより好ましく、1U/L以上がより好ましく、2U/L以上がさらに好ましく、3U/L以上が特に好ましい。酵素のエンドグルカナーゼ活性の上限値は、84U/L以下が好ましく、8.4U/L以下がより好ましく、7U/L以下がさらに好ましく、6U/L以下が特に好ましい。
酵素のエンドグルカナーゼ活性は、酵素の添加量を調整すること、又は酵素処理を含む微細繊維状セルロースの製造プロセスを調整すること等により制御できる。本実施形態では、たとえば酵素処理を行うタイミング等に起因して酵素のエンドグルカナーゼ活性を調整することができる。酵素のエンドグルカナーゼ活性を上記の範囲内とすることにより良好な塗工適性を達成することができる。
セルロース含有組成物における酵素のエンドグルカナーゼ活性(EG活性とも言う)は、下記のように測定することができる。
濃度1%(W/V)のカルボキシメチルセルロースの基質溶液(濃度100mM、pH5.0の酢酸−酢酸ナトリウム緩衝液含有)を調製する。製造直後のセルロース含有組成物を予め緩衝液(前記同様)で希釈(希釈倍率は下記酵素溶液の吸光度が下記グルコース標準液から得られた検量線に入るようにする)する。90μlの前記基質溶液に前記希釈して得られた評価用スラリー溶液10μlを添加し、37℃、30分間反応させる。検量線を作成するために、イオン交換水(ブランク)、グルコース標準液(濃度0.5〜5.6mMからすくなくとも濃度が異なる標準液4点)を選択し、それぞれ100μlを用意し、37℃、30分間保温する。前記反応後の酵素含有評価用スラリー溶液、検量線用ブランク及びグルコース標準液に、それぞれ300μlのDNS発色液(1.6質量%のNaOH、1質量%の3,5−ジニトロサリチル酸、30質量%の酒石酸カリウムナトリウム)を加えて、5分間煮沸し発色させる。発色後直ちに氷冷し、2mlのイオン交換水を加えてよく混合した。30分間静置した後、1時間以内に吸光度を測定する。吸光度の測定は96穴マイクロウェルプレートに200μlを分注し、マイクロプレートリーダーを用い、540nmの吸光度を測定する。ブランクの吸光度を差し引いた各グルコース標準液の吸光度とグルコース濃度を用い検量線を作成する。セルロース含有組成物中のグルコース相当生成量はセルロース含有組成物の吸光度からブランクの吸光度を引いてから検量線を用いて算出する。1分間に1μmolのグルコース等量の還元糖を生成する酵素量を1単位と定義し、下記式からEG活性を求める。
EG活性=緩衝液で希釈して得られたセルロース含有組成物1mlのグルコース相当生成量(μmol)/30分×希釈倍率
本発明のセルロース含有組成物は、繊維状セルロースの固形分濃度を0.4質量%として25℃及び回転数3rpmの条件で測定した粘度が10mPa・s以上11000mPa・s以下であればよい。上記粘度の下限は、100mPa・s以上が好ましく、200mPa・s以上がより好ましく、500mPa・s以上がさらに好ましく、1000mPa・s以上が特に好ましい。上記粘度の上限は、10000mPa・s以下が好ましく、
8000mPa・s以下がより好ましく、6500mPa・s以下がより一層好ましく、5000mPa・s以下がさらに好ましく、4000mPa・s以下がさらに一層好ましく、3000mPa・s以下が特に好ましく、2000mPa・s以下が最も好ましい。
上記粘度は、セルロース含有組成物の製造から24時間後に、イオン交換水を注ぎ、固形分濃度が0.4質量%となるよう調製し、その後、25℃の環境下にて24時間静置し、B型粘度計(No.3ローター、またはNo.2ローター、またはNo.1ローター)(BLOOKFIELD社製、アナログ粘度計T−LVT)を用いて25℃にて回転数3rpmで3分間回転させて測定した粘度である。
本発明のセルロース含有組成物は、上記構成を有することにより、塗工適性が向上している。本発明においては、解繊後の微細繊維状セルロースに対して酵素を加えることにより機械的処理に頼らない微細繊維状セルロースの粘度の調整を効率的に行うことができ、これにより塗工適性の向上を図ることができる。また、解繊後の微細繊維状セルロースに酵素を添加することにより効率的な粘度の減少を実現できることから、添加する酵素の量を低減することができる。本発明のセルロース含有組成物を用いて膜を作製する場合には、上記した効果により、膜の光学物性及び機械物性を良好なものとすることができる。これは、酵素を多量に添加した場合には、酵素由来のタンパク質が結晶化することにより物性が劣化することを抑制できることによるものと推測される。
セルロース含有組成物の形態は特に制限されるものではなく、例えば、粉体や、スラリー、固体といった種々の形態で存在することができる。中でもセルロース含有組成物は、スラリーであることが好ましい。
(繊維状セルロース)
本発明のセルロース含有組成物は、繊維幅が1000nm以下であり、亜リン酸基又は亜リン酸基に由来する置換基(単に亜リン酸基ということもある)を有する繊維状セルロース(微細繊維状セルロースとも言う)を含む。
微細繊維状セルロースの含有量は、セルロース含有組成物の全固形分量に対して、0.5質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることがより一層好ましく、40質量%以上であることがさらに好ましく、50質量%以上であることがさらに一層好ましく、55質量%以上であることが最も好ましい。また、微細繊維状セルロースの含有量は95質量%以下であることが好ましい。
微細繊維状セルロースを得るための繊維状セルロース原料としては特に限定されないが、入手しやすく安価である点から、パルプを用いることが好ましい。パルプとしては、木材パルプ、非木材パルプ、脱墨パルプを挙げることができる。木材パルプとしては例えば、広葉樹クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹クラフトパルプ(NBKP)、サルファイトパルプ(SP)、溶解パルプ(DP)、ソーダパルプ(AP)、未晒しクラフトパルプ(UKP)、酸素漂白クラフトパルプ(OKP)等の化学パルプ等が挙げられる。また、セミケミカルパルプ(SCP)、ケミグラウンドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ、砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)等の機械パルプ等が挙げられるが、特に限定されない。非木材パルプとしてはコットンリンターやコットンリント等の綿系パルプ、麻、麦わら、バガス等の非木材系パルプ、ホヤや海草等から単離されるセルロース、キチン、キトサン等が挙げられるが、特に限定されない。脱墨パルプとしては古紙を原料とする脱墨パルプが挙げられるが、特に限定されない。本実施態様のパルプは上記の1種を単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。上記パルプの中で、入手のしやすさという点で、セルロースを含む木材パルプ、脱墨パルプが好ましい。木材パルプの中でも化学パルプはセルロース比率が大きいため、繊維微細化(解繊)時の微細繊維状セルロースの収率が高く、またパルプ中のセルロースの分解が小さく、軸比の大きい長繊維の微細繊維状セルロースが得られる点で好ましい。中でもクラフトパルプ、サルファイトパルプが最も好ましく選択される。軸比の大きい長繊維の微細繊維状セルロースを含有する膜は高強度が得られる傾向がある。
微細繊維状セルロースの平均繊維幅は、電子顕微鏡で観察して、1000nm以下である。平均繊維幅は、好ましくは2nm以上1000nm以下、より好ましくは2nm以上1000nm未満、より好ましくは2nm以上100nm以下であり、より好ましくは2nm以上50nm以下であり、さらに好ましくは2nm以上10nm以下であるが、特に限定されない。微細繊維状セルロースの平均繊維幅が2nm未満であると、セルロース分子として水に溶解しているため、微細繊維状セルロースとしての物性(強度や剛性、寸法安定性)が発現しにくくなる傾向がある。なお、微細繊維状セルロースは、たとえば繊維幅が1000nm以下である単繊維状のセルロースである。
微細繊維状セルロースの電子顕微鏡観察による繊維幅の測定は以下のようにして行う。濃度0.05質量%以上0.1質量%以下の微細繊維状セルロースの水系懸濁液を調製し、この懸濁液を親水化処理したカーボン膜被覆グリッド上にキャストしてTEM観察用試料とする。幅の広い繊維を含む場合には、ガラス上にキャストした表面のSEM像を観察してもよい。構成する繊維の幅に応じて1000倍、5000倍、10000倍あるいは50000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡画像による観察を行う。但し、試料、観察条件や倍率は下記の条件を満たすように調整する。
(1)観察画像内の任意箇所に一本の直線Xを引き、該直線Xに対し、20本以上の繊維が交差する。
(2)同じ画像内で該直線と垂直に交差する直線Yを引き、該直線Yに対し、20本以上の繊維が交差する。
上記条件を満足する観察画像に対し、直線X、直線Yと交錯する繊維の幅を目視で読み取る。こうして少なくとも重なっていない表面部分の画像を3組以上観察し、各々の画像に対して、直線X、直線Yと交錯する繊維の幅を読み取る。このように少なくとも20本×2×3=120本の繊維幅を読み取る。微細繊維状セルロースの平均繊維幅(単に、「繊維幅」ということもある。)はこのように読み取った繊維幅の平均値である。
微細繊維状セルロースの繊維長は特に限定されないが、0.1μm以上1000μm以下が好ましく、0.1μm以上800μm以下がさらに好ましく、0.1μm以上600μm以下が特に好ましい。繊維長を上記範囲内とすることにより、微細繊維状セルロースの結晶領域の破壊を抑制でき、また微細繊維状セルロースのスラリー粘度を適切な範囲とすることができる。なお、微細繊維状セルロースの繊維長は、TEM、SEM、AFMによる画像解析より求めることができる。
微細繊維状セルロースはI型結晶構造を有していることが好ましい。ここで、微細繊維状セルロースがI型結晶構造をとっていることは、グラファイトで単色化したCuKα(λ=1.5418Å)を用いた広角X線回折写真より得られる回折プロファイルにおいて同定できる。具体的には、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークをもつことから同定することができる。
微細繊維状セルロースに占めるI型結晶構造の割合は30%以上であることが好ましく、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは70%以上である。この場合、耐熱性と低線熱膨張率発現の点でさらに優れた性能が期待できる。結晶化度については、X線回折プロファイルを測定し、そのパターンから常法により求められる(Seagalら、Textile Research Journal、29巻、786ページ、1959年)。
微細繊維状セルロースは、亜リン酸基又は亜リン酸基由来の置換基を有することが好ましい。亜リン酸基に由来する置換基は、亜リン酸基の塩であってもよい。
本発明では、亜リン酸基又は亜リン酸基に由来する置換基は、例えば、下記式(2)で表される置換基である。
Figure 2020125425
式(2)中、bは自然数であり、mは任意の数であり、b×m=1である。αは、水素原子、飽和−直鎖状炭化水素基、飽和−分岐鎖状炭化水素基、飽和−環状炭化水素基、不飽和−直鎖状炭化水素基、不飽和−分岐鎖状炭化水素基、不飽和−環状炭化水素基、芳香族基、またはこれらの誘導基である。中でも、αは水素原子であることが特に好ましい。なお、式(2)におけるαには、セルロース分子鎖に由来する基は含まれない。
式(2)のαで表される飽和−直鎖状炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、又はn−ブチル基等が挙げられるが、特に限定されない。飽和−分岐鎖状炭化水素基としては、i−プロピル基、又はt−ブチル基等が挙げられるが、特に限定されない。飽和−環状炭化水素基としては、シクロペンチル基、又はシクロヘキシル基等が挙げられるが、特に限定されない。不飽和−直鎖状炭化水素基としては、ビニル基、又はアリル基等が挙げられるが、特に限定されない。不飽和−分岐鎖状炭化水素基としては、i−プロペニル基、又は3−ブテニル基等が挙げられるが、特に限定されない。不飽和−環状炭化水素基としては、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等が挙げられるが、特に限定されない。芳香族基としては、フェニル基、又はナフチル基等が挙げられるが、特に限定されない。
また、αにおける誘導基としては、上記各種炭化水素基の主鎖又は側鎖に対し、カルボキシ基、ヒドロキシ基、又はアミノ基などの官能基のうち、少なくとも1種類が付加又は置換した状態の官能基が挙げられるが、特に限定されない。また、Rの主鎖を構成する炭素原子数は特に限定されないが、20以下であることが好ましく、10以下であることがより好ましい。Rの主鎖を構成する炭素原子数を上記範囲とすることにより、亜リン酸基の分子量を適切な範囲とすることができ、繊維原料への浸透を容易にし、微細セルロース繊維の収率を高めることもできる。
式(2)におけるβb+は有機物又は無機物からなる1価以上の陽イオンである。有機物からなる1価以上の陽イオンとしては、脂肪族アンモニウム、又は芳香族アンモニウムが挙げられ、無機物からなる1価以上の陽イオンとしては、ナトリウム、カリウム、若しくはリチウム等のアルカリ金属のイオンや、カルシウム、若しくはマグネシウム等の2価金属の陽イオン、又は水素イオン等が挙げられるが、特に限定されない。これらは1種又は2種類以上を組み合わせて適用することもできる。有機物又は無機物からなる1価以上の陽イオンとしては、βを含む繊維原料を加熱した際に黄変しにくく、また工業的に利用し易いナトリウム、又はカリウムのイオンが好ましいが、特に限定されない。
なお、微細繊維状セルロースは、亜リン酸基又は亜リン酸基由来の置換基に加えて、さらにリン酸基又はリン酸基に由来する基を有していてもよい。リン酸基又はリン酸基に由来する基は、例えば、下記式(1)もしくは(3)で表される置換基である。なお、リン酸基又はリン酸基に由来する基は、下記式(3)で表されるような縮合リンオキソ酸基であってもよい。
Figure 2020125425
式(1)中、a及びbは自然数であり、mは任意の数である(ただし、a=b×mである)。α及びα’のうちa個がO-であり、残りはORである。ここで、Rは、水素原子、飽和−直鎖状炭化水素基、飽和−分岐鎖状炭化水素基、飽和−環状炭化水素基、不飽和−直鎖状炭化水素基、不飽和−分岐鎖状炭化水素基、不飽和−環状炭化水素基、芳香族基、またはこれらの誘導基である。なお、式(1)におけるαは、セルロース分子鎖に由来する基であってもよい。
Figure 2020125425
式(3)中、a及びbは自然数であり、mは任意の数であり、nは2以上の自然数である(ただし、a=b×mである)。α1,α2,・・・,αn及びα’のうちa個がO-であり、残りはR又はORのいずれかである。ここで、Rは、水素原子、飽和−直鎖状炭化水素基、飽和−分岐鎖状炭化水素基、飽和−環状炭化水素基、不飽和−直鎖状炭化水素基、不飽和−分岐鎖状炭化水素基、不飽和−環状炭化水素基、芳香族基、またはこれらの誘導基である。なお、式(3)におけるαは、セルロース分子鎖に由来する基であってもよい。
式(1)及び(3)における各基の具体的例示は、式(2)における各基の具体的例示と同様である。また、式(1)及び(3)におけるβb+の具体的例示は、式(2)におけるβb+の具体的例示と同様である。
微細繊維状セルロースが亜リン酸基を置換基として有することは、微細繊維状セルロースを含有する分散液について赤外線吸収スペクトルの測定を行い、1210cm-1付近に亜リン酸基の互変異性体であるホスホン酸基のP=Oに基づく吸収を観察することで確認できる。また、繊維状セルロースがリン酸基を置換基として有することは、繊維状セルロースを含有する分散液について赤外線吸収スペクトルの測定を行い、1230cm-1付近にリン酸基のP=Oに基づく吸収を観察することで確認できる。また、繊維状セルロースが亜リン酸基やリン酸基を置換基として有することは、NMRを用いて化学シフトを確認する方法や、元素分析に滴定を組み合わせる方法などでも確認できる。
<亜リン酸基の導入>
亜リン酸基の導入は、セルロースを含む繊維原料に対し、亜リン酸基を有する化合物及びその塩から選択される少なくとも1種(以下、「亜リン酸化試薬」又は「化合物A」という)を反応させることにより行うことができる。このような亜リン酸化試薬は、乾燥状態または湿潤状態の繊維原料に粉末や水溶液の状態で混合してもよい。また別の例としては、繊維原料のスラリーに亜リン酸化試薬の粉末や水溶液を添加してもよい。
亜リン酸基の導入は、セルロースを含む繊維原料に対し、亜リン酸基を有する化合物及びその塩から選択される少なくとも1種(亜リン酸化試薬又は化合物A)を反応させることにより行うことができる。なお、この反応は、尿素及びその誘導体から選択される少なくとも1種(以下、「化合物B」という)の存在下で行ってもよい。
化合物Aを化合物Bの共存下で繊維原料に作用させる方法の一例としては、乾燥状態または湿潤状態の繊維原料に化合物A及び化合物Bの粉末や水溶液を混合する方法が挙げられる。また別の例としては、繊維原料のスラリーに化合物A及び化合物Bの粉末や水溶液を添加する方法が挙げられる。これらのうち、反応の均一性が高いことから、乾燥状態の繊維原料に化合物A及び化合物Bの水溶液を添加する方法、または湿潤状態の繊維原料に化合物A及び化合物Bの粉末や水溶液を添加する方法が好ましい。また、化合物Aと化合物Bは同時に添加してもよいし、別々に添加してもよい。また、初めに反応に供試する化合物Aと化合物Bを水溶液として添加して、圧搾により余剰の薬液を除いてもよい。繊維原料の形態は綿状や薄いシート状であることが好ましいが、特に限定されない。
本実施態様で使用する化合物Aは、亜リン酸基を有する化合物及びその塩から選択される少なくとも1種である。亜リン酸基を有する化合物としては亜リン酸を挙げることができ、亜リン酸としては、たとえば99%亜リン酸(ホスホン酸)が挙げられる。亜リン酸基を有する化合物の塩としては、亜リン酸のリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩などが挙げられ、これらは種々の中和度とすることができる。これらのうち、リンオキソ酸基の導入の効率が高く、後述する解繊工程で解繊効率がより向上しやすく、低コストであり、かつ工業的に適用しやすい観点から、亜リン酸、亜リン酸のナトリウム塩、亜リン酸のカリウム塩、または、亜リン酸のアンモニウム塩が好ましく用いられる。
また、反応の均一性が高まり、かつ亜リン酸基導入の効率が高くなることから化合物Aは水溶液として用いることが好ましい。化合物Aの水溶液のpHは特に限定されないが、亜リン酸基の導入の効率が高くなることから7以下であることが好ましく、パルプ繊維の加水分解を抑える観点からpH3以上pH7以下がさらに好ましい。化合物Aの水溶液のpHは例えば、亜リン酸基を有する化合物のうち、酸性を示すものとアルカリ性を示すものを併用し、その量比を変えて調整してもよい。化合物Aの水溶液のpHは、亜リン酸基を有する化合物のうち、酸性を示すものに無機アルカリまたは有機アルカリを添加すること等により調整してもよい。
繊維原料に対する化合物Aの添加量は特に限定されないが、化合物Aの添加量をリン原子量に換算した場合、繊維原料(絶乾質量)に対するリン原子の添加量は0.5質量%以上100質量%以下が好ましく、1質量%以上50質量%以下がより好ましく、2質量%以上30質量%以下が最も好ましい。繊維原料に対するリン原子の添加量が上記範囲内であれば、微細繊維状セルロースの収率をより向上させることができる。また、繊維原料に対するリン原子の添加量を100質量%以下とすることにより、亜リン酸化効率を高めつつも使用する化合物Aのコストを抑制することができる。
本実施態様で使用する化合物Bとしては、尿素、ビウレット、1−フェニル尿素、1−ベンジル尿素、1−メチル尿素、1−エチル尿素などが挙げられる。
化合物Bは化合物A同様に水溶液として用いることが好ましい。また、反応の均一性が高まることから化合物Aと化合物Bの両方が溶解した水溶液を用いることが好ましい。繊維原料(絶乾質量)に対する化合物Bの添加量は1質量%以上500質量%以下であることが好ましく、10質量%以上400質量%以下であることがより好ましく、100質量%以上350質量%以下であることがさらに好ましく、150質量%以上300質量%以下であることが特に好ましい。
化合物Aと化合物Bの他に、アミド類またはアミン類を反応系に含んでもよい。アミド類としては、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、アセトアミド、ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。アミン類としては、メチルアミン、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ピリジン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどが挙げられる。これらの中でも、特にトリエチルアミンは良好な反応触媒として働くことが知られている。
亜リン酸基の導入においては加熱処理を施すことが好ましい。加熱処理温度は、繊維の熱分解や加水分解反応を抑えながら、亜リン酸基を効率的に導入できる温度を選択することが好ましい。具体的には50℃以上300℃以下であることが好ましく、100℃以上250℃以下であることがより好ましく、130℃以上200℃以下であることがさらに好ましい。また、加熱処理には、種々の熱媒体を有する機器を利用することができ、たとえば撹拌乾燥装置、回転乾燥装置、円盤乾燥装置、ロール型加熱装置、プレート型加熱装置、流動層乾燥装置、気流乾燥装置、減圧乾燥装置、赤外線加熱装置、遠赤外線加熱装置、マイクロ波加熱装置、高周波乾燥装置を用いてもよい。
加熱処理の際、化合物Aを添加した繊維原料スラリーに水が含まれている間において、繊維原料を静置する時間が長くなると、乾燥に伴い水分子と溶存する化合物Aが繊維原料表面に移動する。そのため、繊維原料中の化合物Aの濃度にムラが生じる可能性があり、繊維表面への亜リン酸基の導入が均一に進行しない恐れがある。乾燥による繊維原料中の化合物Aの濃度ムラ発生を抑制するためには、ごく薄いシート状の繊維原料を用いるか、ニーダー等で繊維原料と化合物Aを混練又は攪拌しながら加熱乾燥又は減圧乾燥させる方法を採ればよい。
加熱処理に用いる加熱装置としては、スラリーが保持する水分及び亜リン酸基などの繊維の水酸基への付加反応で生じる水分を常に装置系外に排出できる装置であることが好ましく、例えば送風方式のオーブン等が好ましい。装置系内の水分を常に排出すれば、リン酸エステル化の逆反応であるリン酸エステル結合の加水分解反応を抑制できることに加えて、繊維中の糖鎖の酸加水分解を抑制することもでき、軸比の高い微細繊維を得ることができる。
加熱処理の時間は、加熱温度にも影響されるが繊維原料スラリーから実質的に水分が除かれてから1秒以上300分以下であることが好ましく、1秒以上1000秒以下であることがより好ましく、10秒以上800秒以下であることがさらに好ましい。本発明では、加熱温度と加熱時間を適切な範囲とすることにより、亜リン酸基の導入量を好ましい範囲内とすることができる。
亜リン酸基の導入量は、微細繊維状セルロース1g(質量)あたり、5.20mmol/g以下であることが好ましく、0.1mmol/g以上3.65mmol/g以下であることがより好ましく、0.14mmol/g以上3.5mmol/g以下がより一層好ましく、0.2mmol/g以上3.2mmol/g以下がさらに好ましく、0.4mmol/g以上3.0mmol/g以下が特に好ましく、最も好ましくは0.6mmol/g以上2.5mmol/g以下である。亜リン酸基の導入量を上記範囲内とすることにより、繊維原料の微細化を容易にし、微細繊維状セルロースの安定性を高めることができる。また、亜リン酸基の導入量を上記範囲内とすることにより、微細化が容易でありながらも、微細繊維状セルロース同士の水素結合も残すことが可能で、膜とした場合には良好な強度発現が期待できる。
微細繊維状セルロースに対するリンオキソ酸基(亜リン酸基を含む)の導入量は、たとえば中和滴定法により測定することができる。中和滴定法による測定では、得られた微細繊維状セルロースを含有するスラリーに、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリを加えながらpHの変化を求めることにより、導入量を測定する。
図1は、リンオキソ酸基を有する繊維状セルロース含有スラリーに対するNaOH滴下量とpHの関係を示すグラフである。繊維状セルロースに対するリンオキソ酸基の導入量は、たとえば次のように測定される。
まず、繊維状セルロースを含有するスラリーを強酸性イオン交換樹脂で処理する。なお、必要に応じて、強酸性イオン交換樹脂による処理の前に、後述の解繊処理工程と同様の解繊処理を測定対象に対して実施してもよい。
次いで、水酸化ナトリウム水溶液を加えながらpHの変化を観察し、図1の上側部に示すような滴定曲線を得る。図1の上側部に示した滴定曲線では、アルカリを加えた量に対して測定したpHをプロットしており、図1の下側部に示した滴定曲線では、アルカリを加えた量に対するpHの増分(微分値)(1/mmol)をプロットしている。この中和滴定では、アルカリを加えた量に対して測定したpHをプロットした曲線において、増分(pHのアルカリ滴下量に対する微分値)が極大となる点が二つ確認される。これらのうち、アルカリを加えはじめて先に得られる増分の極大点を第1終点と呼び、次に得られる増分の極大点を第2終点と呼ぶ。滴定開始から第1終点までに必要としたアルカリ量が、滴定に使用したスラリー中に含まれる繊維状セルロースの第1解離酸量と等しくなり、第1終点から第2終点までに必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中に含まれる繊維状セルロースの第2解離酸量と等しくなり、滴定開始から第2終点までに必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中の総解離酸量と等しくなる。そして、滴定開始から第1終点までに必要としたアルカリ量を滴定対象スラリー中の固形分(g)で除して得られる値が、リンオキソ酸基導入量(mmol/g)となる。なお、単にリンオキソ酸基導入量(またはリンオキソ酸基量)と言った場合は、第1解離酸量のことを表す。
なお、図1において、滴定開始から第1終点までの領域を第1領域と呼び、第1終点から第2終点までの領域を第2領域と呼ぶ。例えば、リンオキソ酸基がリン酸基の場合であって、このリン酸基が縮合を起こす場合、見かけ上、リンオキソ酸基における弱酸性基量(本明細書では第2解離酸量ともいう)が低下し、第1領域に必要としたアルカリ量と比較して第2領域に必要としたアルカリ量が少なくなる。一方、リンオキソ酸基における強酸性基量(本明細書では第1解離酸量ともいう)は、縮合の有無に関わらずリン原子の量と一致する。また、リンオキソ酸基が亜リン酸基の場合は、リンオキソ酸基に弱酸性基が存在しなくなるため、第2領域に必要としたアルカリ量が少なくなるか、第2領域に必要としたアルカリ量はゼロとなる場合もある。この場合、滴定曲線において、pHの増分が極大となる点は一つとなる。
なお、上述のリンオキソ酸基導入量(mmol/g)は、分母が酸型の繊維状セルロースの質量を示すことから、酸型の繊維状セルロースが有するリンオキソ酸基量(以降、リンオキソ酸基量(酸型)と呼ぶ)を示している。一方で、リンオキソ酸基の対イオンが電荷当量となるように任意の陽イオンCに置換されている場合は、分母を当該陽イオンCが対イオンであるときの繊維状セルロースの質量に変換することで、陽イオンCが対イオンである繊維状セルロースが有するリンオキソ酸基量(以降、リンオキソ酸基量(C型))を求めることができる。
すなわち、下記計算式によって算出する。
リンオキソ酸基量(C型)=リンオキソ酸基量(酸型)/{1+(W−1)×A/1000}
A[mmol/g]:繊維状セルロースが有するリンオキソ酸基由来の総アニオン量(リンオキソ酸基の総解離酸量)
W:陽イオンCの1価あたりの式量(たとえば、Naは23、Alは9)
なお、滴定法によるリンオキソ酸基量の測定においては、水酸化ナトリウム水溶液1滴の滴下量が多すぎる場合や、滴定間隔が短すぎる場合、本来より低いリンオキソ酸基量となるなど正確な値が得られないことがある。適切な滴下量、滴定間隔としては、例えば、0.1N水酸化ナトリウム水溶液を5〜30秒に10〜50μLずつ滴定するなどが望ましい。また、繊維状セルロース含有スラリーに溶解した二酸化炭素の影響を排除するため、例えば、滴定開始の15分前から滴定終了まで、窒素ガスなどの不活性ガスをスラリーに吹き込みながら測定するなどが望ましい。
また、亜リン酸基に加えて、リン酸基、縮合リン酸基のいずれかまたは両方を含む場合において検出されるリンオキソ酸が、亜リン酸、リン酸、縮合リン酸のどれに由来するのかを区別する方法としては、例えば、酸加水分解などの縮合構造を切断する処理を行ってから上述した滴定操作を行う方法や、酸化処理などの亜リン酸基をリン酸基へ変換する処理を行ってから上述した滴定操作を行う方法などが挙げられる。
亜リン酸基導入工程は、少なくとも1回行えば良いが、複数回繰り返すこともできる。この場合、より多くの亜リン酸基が導入されるので好ましい。
<アルカリ処理>
微細繊維状セルロースを製造する場合、亜リン酸基導入工程と、後述する解繊処理工程の間にアルカリ処理を行ってもよい。アルカリ処理の方法としては、特に限定されないが、例えば、アルカリ溶液中に、亜リン酸導入繊維を浸漬する方法が挙げられる。
アルカリ溶液に含まれるアルカリ化合物は、特に限定されないが、無機アルカリ化合物であってもよいし、有機アルカリ化合物であってもよい。アルカリ溶液における溶媒としては水または有機溶媒のいずれであってもよい。溶媒は、極性溶媒(水、またはアルコール等の極性有機溶媒)が好ましく、少なくとも水を含む水系溶媒がより好ましい。
また、アルカリ溶液のうちでは、汎用性が高いことから、水酸化ナトリウム水溶液、または水酸化カリウム水溶液が特に好ましい。
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液の温度は特に限定されないが、5℃以上80℃以下が好ましく、10℃以上60℃以下がより好ましい。
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液への浸漬時間は特に限定されないが、5分以上30分以下が好ましく、10分以上20分以下がより好ましい。
アルカリ処理におけるアルカリ溶液の使用量は特に限定されないが、亜リン酸基導入繊維の絶乾質量に対して100質量%以上100000質量%以下であることが好ましく、1000質量%以上10000質量%以下であることがより好ましい。
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液使用量を減らすために、アルカリ処理工程の前に、官能基導入繊維を水や有機溶媒により洗浄しても構わない。アルカリ処理後には、取り扱い性を向上させるために、解繊処理工程の前に、アルカリ処理済み官能基導入繊維を水や有機溶媒により洗浄することが好ましい。
<酸処理工程>
微細繊維状セルロースを製造する場合、亜リン酸基を導入する工程と、後述する解繊処理工程の間に、繊維原料に対して酸処理を行ってもよい。例えば、亜リン酸基導入工程、酸処理、アルカリ処理及び解繊処理をこの順で行ってもよい。
酸処理の方法としては、特に限定されないが、たとえば酸を含有する酸性液中に繊維原料を浸漬する方法が挙げられる。使用する酸性液の濃度は、特に限定されないが、たとえば10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。また、使用する酸性液のpHは、特に限定されないが、たとえば0以上4以下であることが好ましく、1以上3以下であることがより好ましい。酸性液に含まれる酸としては、たとえば無機酸、スルホン酸、カルボン酸等を用いることができる。無機酸としては、たとえば硫酸、硝酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、次亜塩素酸、亜塩素酸、塩素酸、過塩素酸、リン酸、ホウ酸等が挙げられる。スルホン酸としては、たとえばメタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等が挙げられる。カルボン酸としては、たとえばギ酸、酢酸、クエン酸、グルコン酸、乳酸、シュウ酸、酒石酸等が挙げられる。これらの中でも、塩酸または硫酸を用いることがとくに好ましい。
酸処理における酸溶液の温度は、特に限定されないが、たとえば5℃以上100℃以下が好ましく、20℃以上90℃以下がより好ましい。酸処理における酸溶液への浸漬時間は、特に限定されないが、たとえば5分以上120分以下が好ましく、10分以上60分以下がより好ましい。酸処理における酸溶液の使用量は、特に限定されないが、たとえば繊維原料の絶対乾燥質量に対して100質量%以上100000質量%以下であることが好ましく、1000質量%以上10000質量%以下であることがより好ましい。
<解繊処理>
繊維状セルロースは、解繊処理工程で解繊処理される。解繊処理工程では、通常、解繊処理装置を用いて、繊維を解繊処理して、微細繊維状セルロース含有スラリーを得るが、処理装置、処理方法は、特に限定されない。
解繊処理装置としては、高速解繊機、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザーや超高圧ホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機、ボールミル、ビーズミルなどを使用できる。あるいは、解繊処理装置としては、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナー、二軸混練機、振動ミル、高速回転下でのホモミキサー、超音波分散機、またはビーターなど、湿式粉砕する装置等を使用することもできる。解繊処理装置は、上記に限定されるものではない。好ましい解繊処理方法としては、粉砕メディアの影響が少なく、コンタミの心配が少ない高速解繊機、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザーが挙げられる。
解繊処理の際には、繊維原料を水と有機溶媒を単独または組み合わせて希釈してスラリー状にすることが好ましいが、特に限定されない。分散媒としては、水の他に、極性有機溶剤を使用することができる。好ましい極性有機溶剤としては、アルコール類、ケトン類、エーテル類、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、またはジメチルアセトアミド(DMAc)等が挙げられるが、特に限定されない。アルコール類としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、またはt−ブチルアルコール等が挙げられる。ケトン類としては、アセトンまたはメチルエチルケトン(MEK)等が挙げられる。エーテル類としては、ジエチルエーテルまたはテトラヒドロフラン(THF)等が挙げられる。分散媒は1種であってもよいし、2種以上でもよい。また、分散媒中に繊維原料以外の固形分、例えば水素結合性のある尿素などを含んでも構わない。
微細繊維状セルロースは、解繊処理により得られた微細繊維状セルロース含有スラリーを、一度濃縮及び/又は乾燥させた後に、再度解繊処理を行って得てもよい。この場合、濃縮、乾燥の方法は特に限定されないが、例えば、微細繊維状セルロースを含有するスラリーに濃縮剤を添加する方法、一般に用いられる脱水機、プレス、乾燥機を用いる方法等が挙げられる。また、公知の方法、例えばWO2014/024876、WO2012/107642、及びWO2013/121086に記載された方法を用いることができる。また、微細繊維状セルロース含有スラリーをシート化することで濃縮、乾燥し、上記シートに解繊処理を行い、再度微細繊維状セルロース含有スラリーを得ることもできる。
微細繊維状セルロース含有スラリーを濃縮及び/又は乾燥させた後に、再度解繊(粉砕)処理をする際に用いる装置としては、高速解繊機、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機、ボールミル、ビーズミル、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナー、二軸混練機、振動ミル、高速回転下でのホモミキサー、超音波分散機、ビーターなど、湿式粉砕する装置等を使用することもできるが特に限定されない。
<酵素処理>
本発明のセルロース含有組成物は、タンパク質を含み、上記タンパク質は酵素を含む。
本発明で用いる酵素は、セルラーゼ系酵素であり、セルロースの加水分解反応機能を有する触媒ドメインの高次構造に基づく糖質加水分解酵素ファミリーに分類される。セルラーゼ系酵素はセルロース分解特性によってエンド型グルカナーゼ(endo−glucanase)とセロビオヒドロラーゼ(cellobiohydrolase)に分類される。エンド型グルカナーゼはセルロースの非晶部分や可溶性セロオリゴ糖、又はカルボキシメチルセルロースのようなセルロース誘導体に対する加水分解性が高く、それらの分子鎖を内側からランダムに切断し、重合度を低下させる。しかし、エンド型グルカナーゼは結晶性を有するセルロースミクロフィブリルへの加水分解反応性は低い。これに対して、セロビオヒドロラーゼはセルロースの結晶部分を分解し、セロビオースを与える。また、セロビオヒドロラーゼはセルロース分子の末端から加水分解し、エキソ型或いはプロセッシブ酵素とも呼ばれる。本発明においては、エンド型グルカナーゼを使用することが好ましい。
本発明において使用する酵素としては、エンド型グルカナーゼ及びセロビオヒドロラーゼ以外に、ヘミセルラーゼ系酵素を使用してもよい。ヘミセルラーゼ系酵素の中でもキシランを分解する酵素であるキシラナーゼ(xylanase)、マンナンを分解する酵素であるマンナーゼ(mannase)、又はアラバンを分解する酵素であるアラバナーゼ(arabanase)が挙げられる。また、ペクチンを分解する酵素であるペクチナーゼもヘミセルラーゼ系酵素として使用することができる。ヘミセルラーゼ系酵素を産生する微生物はセルラーゼ系酵素も産生する場合が多い。
ヘミセルロースは植物細胞壁のセルロースミクロフィブリル間にあるペクチン類を除いた多糖類である。ヘミセルロースは多種多様で植物の種類や細胞壁の壁層間でも異なる。木材においては針葉樹の2次壁ではグルコマンナンが主成分であり、広葉樹の2次壁では4−O−メチルグルクロノキシランが主成分である。そのため、針葉樹から微細繊維を得るためにはマンナーゼを使用する方が好ましく、広葉樹の場合はキシラナーゼを使用する方が好ましい。
本発明によれば、繊維幅が1000nm以下であり、亜リン酸基又は亜リン酸基に由来する置換基を有する繊維状セルロース1質量部に対して、1×10-3質量部以下の酵素を添加する工程を含む、セルロース含有組成物の製造方法が提供される。微細繊維状セルロースに対して酵素を添加することにより、微細繊維状セルロースと酵素を反応させることができる。本発明においては、酵素処理後に、微細繊維状セルロースの洗浄工程を行わない形態を採用することができる。
本発明においては、酵素処理後に酵素を失活させてもよい。酵素を失活させるための方法としては、微細繊維状セルロースと酵素の混合物を加熱して100℃にし、温度を保ったまま30分〜1時間静置したり、微細繊維状セルロースと酵素の混合物に対し、強塩基を加えてpHを10以上に調整することなどが挙げられるが、特に限定されない。
上記したセルロース含有組成物の製造方法により、本発明のセルロース含有組成物を製造することができる。
繊維幅が1000nm以下であり、亜リン酸基又は亜リン酸基に由来する置換基を有する繊維状セルロース1質量部に対して添加する酵素の量は、1×10-3質量部以下であればよく、1×10-4質量部以下が好ましく、1×10-5質量部以下がより好ましく、5.0×10-6質量部以下が特に好ましい。また、酵素の添加量は、繊維状セルロース1質量部に対して1×10-7質量部以上が好ましく、3×10-7質量部以上がより好ましく、1×10-6質量部以上がさらに好ましい。
酵素の添加量を上記の範囲内とすることにより、製造されるセルロース含有組成物の良好な塗工適性を達成することができる。
微細繊維状セルロースと酵素との反応時間は、特に限定されないが、一般的には1分〜24時間が好ましく、1分〜1時間がより好ましい。
微細繊維状セルロースと酵素の反応温度及び反応pHは、使用する酵素の至適温度及び至適pHに保つことが好ましく、一般的には、20℃〜80℃、pH4.5〜9.5に保つことが好ましい。
反応条件を上記の範囲内とすることにより、製造されるセルロース含有組成物の良好な塗工適性を達成することができる。
<重合度>
本発明のセルロース含有組成物において、繊維状セルロースの重合度は特に限定されないが、200以上450以下であることが好ましく、250以上400以下であることがより好ましく、250以上350以下であることがよりさらに好ましく、270以上300以下であることが特に好ましい。
繊維状セルロースの重合度は、Tappi T230に従い測定する。すなわち、測定
対象の繊維状セルロースを分散媒に分散させて測定した粘度(η1とする)、および分散
媒体のみで測定したブランク粘度(η0とする)を測定したのち、比粘度(ηsp)、固
有粘度([η])を下記式に従って測定する。
ηsp=(η1/η0)−1
[η]=ηsp/(c(1+0.28×ηsp))
ここで、式中のcは、粘度測定時の微細繊維状セルロースの濃度を示す。
さらに、下記式から微細繊維状セルロースの重合度(DP)を算出する。
DP=1.75×[η]この重合度は粘度法によって測定された平均重合度であることから、「粘度平均重合度」と称されることもある。
(親水性高分子)
本発明のセルロース含有組成物は、親水性高分子をさらに含んでいてもよい。特に、繊維状セルロース含有組成物が塗膜形成用スラリーである場合は、親水性高分子を含むことが好ましい。塗膜形成用スラリーが親水性高分子を含むことにより、透明性が高くかつ機械的強度に優れた微細繊維状セルロース含有膜を得ることができる。
親水性高分子としては、例えば、ポリエチレングリコール、セルロース誘導体(ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等)、カゼイン、デキストリン、澱粉、変性澱粉、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール(アセトアセチル化ポリビニルアルコール等)、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ポリアクリル酸塩類、ポリアクリルアミド、アクリル酸アルキルエステル共重合体、ウレタン系共重合体などを挙げることができる。中でも、親水性高分子は、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルアルコール(PVA)、変性ポリビニルアルコール(変性PVA)及びポリエチレンオキサイド(PEO)から選択される少なくとも1種であることが好ましく、ポリエチレンオキサイド(PEO)であることがより好ましい。
親水性高分子の含有量は、繊維状セルロース100質量部に対して、0.5質量部以上であることが好ましく、3質量部以上であることがより好ましく、5質量部以上であることがさらに好ましく、10質量部以上であることが特に好ましい。また、親水性高分子の含有量は、繊維状セルロース100質量部に対して、5000質量部以下であることが好ましく、1000質量部以下であることがより好ましく、500質量部以下であることがさらに好ましく、100質量部以下であることが特に好ましい。
親水性高分子の粘度平均分子量は特に限定されないが、1.0×103以上1.0×107以下であることが好ましく、2.0×103以上1.0×107以下であることがより好ましく、5.0×103以上1.0×107以下であることがさらに好ましい。
(任意成分)
本発明の繊維状セルロース含有組成物には、上述した成分以外の任意成分が含まれていてもよい。任意成分としては、たとえば、消泡剤、潤滑剤、紫外線吸収剤、染料、顔料、安定剤、界面活性剤、カップリング剤、無機層状化合物、無機化合物、レベリング剤、有機系粒子、帯電防止剤、磁性粉、配向促進剤、可塑剤、防腐剤、架橋剤等を挙げることができる。また、任意成分として、有機イオンを添加してもよい。
任意成分として、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂等を添加してもよい。これらの樹脂はエマルジョンとして添加されてもよい。熱硬化性樹脂エマルジョン、光硬化性樹脂エマルジョンの具体例としては、特開2009−299043号公報に記載のものが挙げられる。
(セルロース含有膜)
本発明は、上述したセルロース含有組成物から形成されたセルロース含有膜に関するものでもある。本発明は、繊維幅が1000nm以下であり、亜リン酸基又は亜リン酸基に由来する置換基を有する繊維状セルロースとタンパク質とを含むセルロース含有膜であって、前記タンパク質は酵素を含み、前記タンパク質の含有量が、前記繊維状セルロース1質量部に対して1×10-3質量部以下である、セルロース含有膜に関するものである。なお、本願明細書において、膜とは、他の基材上に積層された膜や、基材から剥離されたシートなどを含む。
セルロース含有膜におけるタンパク質の含有量は、繊維状セルロース1質量部に対して1×10-3質量部以下であればよく、1×10-4質量部以下が好ましく、1×10-5質量部以下がより好ましく、5.0×10-6質量部以下が特に好ましい。セルロース含有膜におけるタンパク質の含有量は、繊維状セルロース1質量部に対して1×10-7質量部以上が好ましく、3×10-7質量部以上がより好ましく、1×10-6質量部以上がさらに好ましい。
セルロース含有膜におけるタンパク質の含有量は、酵素の添加量を調整すること、又は酵素処理を含む微細繊維状セルロースの製造プロセスを調整すること等により制御できる。本実施形態では、たとえば酵素処理を行うタイミングや、酵素処理後であって膜形成工程の前に洗浄工程を含まないこと等に起因して、セルロース含有膜におけるタンパク質量を調整することができる。セルロース含有膜におけるタンパク質の含有量を、繊維状セルロース1質量部に対して1×10-3質量部以下とすることにより、セルロース含有膜の光学物性を良好なものとすることができる。
本発明のセルロース含有膜のヘーズは、2.0%未満であることが好ましく、1.5%未満であることがより好ましく、1.0%未満であることがさらに好ましい。セルロース含有膜のヘーズは、JIS K 7136に準拠し、ヘーズメータ(村上色彩技術研究所社製、HM−150)を用いて測定される値である。
本発明のセルロース含有膜の引張弾性率は、1GPa以上であることが好ましく、2GPa以上であることがより好ましく、4GPa以上であることがさらに好ましい。また、セルロース含有膜の引張弾性率の上限値に特に制限はないが、例えば、50GPa以下とすることができる。セルロース含有膜の引張弾性率は、JIS P 8113に準拠し、引張試験機テンシロン(エー・アンド・デイ社製)を用いて測定した値である。引張弾性率を測定する際には、23℃、相対湿度50%で24時間調湿したものを測定用の試験片とし、23℃、相対湿度50%の条件下で測定を行う。
本発明のセルロース含有膜の厚みは特に限定されるものではないが、5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましく、20μm以上であることがさらに好ましい。また、セルロース含有膜の厚みの上限値は、特に限定されないが、たとえば1000μm以下とすることができる。なお、セルロース含有膜の厚みは、触針式厚さ計(マール社製、ミリトロン1202D)で測定することができる。
本発明のセルロース含有膜の坪量は、10g/m2以上であることが好ましく、20g/m2以上であることがより好ましく、30g/m2以上であることがさらに好ましい。また、セルロース含有膜の坪量は、100g/m2以下であることが好ましく、80g/m2以下であることがより好ましい。ここで、セルロース含有膜の坪量は、JIS P 8124に準拠し、算出することができる。
(膜の形成方法)
セルロース含有膜の形成工程は、繊維幅が1000nm以下であり、亜リン酸基又は亜リン酸基に由来する置換基を有する繊維状セルロースと、タンパク質とを含むスラリーを得る工程と、このスラリーを基材上に塗工する工程、又は、スラリーを抄紙する工程を含む。
スラリーを得る工程では、スラリーに含まれる微細繊維状セルロース1質量部に対して、1×10-3質量部以下の酵素を添加すればよい。
スラリーを得る工程では、親水性高分子をさらに添加することが好ましい。また、親水性高分子の他に、ポリアミンポリアミドエピハロヒドリンや、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂などの熱可塑性樹脂を添加してもよい。このように親水性高分子等を添加することにより、透明性と機械的強度に優れたセルロース含有膜を形成することができる。なお、親水性高分子等を添加する場合、微細繊維状セルロースに酵素を添加する前に、親水性高分子等を添加してもよい。
<塗工工程>
塗工工程は、スラリーを得る工程で得られたスラリーを基材上に塗工し、これを乾燥して膜を形成する工程である。形成されたセルロース含有膜は、基材から剥離せずに用いてもよいが、基材から剥離することによりシート単体として用いてもよい。塗工装置と長尺の基材を用いることで、セルロース含有膜を連続的に生産することができる。
塗工工程で用いる基材の材質は、特に限定されないが、組成物(スラリー)に対する濡れ性が高いものの方が乾燥時のセルロース含有膜の収縮等を抑制することができて良いが、セルロース含有膜を基材から剥離して使用する場合には、乾燥後に形成されたセルロース含有膜が容易に剥離できるものを選択することが好ましい。中でも樹脂製のフィルムや板または金属製のフィルムや板が好ましいが、特に限定されない。例えばアクリル、ポリエチレンテレフタレート、塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ塩化ビニリデン等の樹脂のフィルムや板、アルミ、亜鉛、銅、鉄板の金属のフィルムや板、および、それらの表面を酸化処理したもの、ステンレスのフィルムや板、真ちゅうのフィルムや板等を用いることができる。
塗工工程において、スラリーの粘度が低く、基材上で展開してしまう場合、所定の厚み、坪量のセルロース含有膜を得るため、基材上に堰止用の枠を固定して使用してもよい。堰止用の枠の質は特に限定されないが、乾燥後に付着するセルロース含有膜の端部が容易に剥離できるものを選択することが好ましい。中でも樹脂板または金属板を成形したものが好ましいが、特に限定されない。例えばアクリル板、ポリエチレンテレフタレート板、塩化ビニル板、ポリスチレン板、ポリ塩化ビニリデン板等の樹脂板や、アルミ板、亜鉛板、銅板、鉄板等の金属板及び、それらの表面を酸化処理したもの、ステンレス板、真ちゅう板等を成形したものを用いることができる。
スラリーを塗工する塗工機としては、例えば、ロールコーター、グラビアコーター、ダイコーター、カーテンコーター、エアドクターコーター等を使用することができる。厚みをより均一にできることから、ダイコーター、カーテンコーター、スプレーコーターが好ましい。
塗工温度は特に限定されないが、20℃以上45℃以下であることが好ましく、25℃以上40℃以下であることがより好ましく、27℃以上35℃以下であることがさらに好ましい。塗工温度が上記下限値以上であれば、スラリーを容易に塗工でき、上記上限値以下であれば、塗工中の分散媒の揮発を抑制できる。
塗工工程においては、セルロース含有膜の仕上がり坪量が10g/m2以上100g/m2以下、好ましくは20g/m2以上60g/m2以下になるようにスラリーを塗工することが好ましい。坪量が上記範囲内となるように塗工することで、強度に優れたセルロース含有膜が得られる。
塗工工程は、基材上に塗工したスラリーを乾燥させる工程を含むことが好ましい。乾燥方法としては、特に限定されないが、非接触の乾燥方法でも、セルロース含有膜を拘束しながら乾燥する方法の何れでもよく、これらを組み合わせてもよい。
非接触の乾燥方法としては、特に限定されないが、熱風、赤外線、遠赤外線または近赤外線により加熱して乾燥する方法(加熱乾燥法)、真空にして乾燥する方法(真空乾燥法)を適用することができる。加熱乾燥法と真空乾燥法を組み合わせてもよいが、通常は、加熱乾燥法が適用される。赤外線、遠赤外線または近赤外線による乾燥は、赤外線装置、遠赤外線装置または近赤外線装置を用いて行うことができるが、特に限定されない。加熱乾燥法における加熱温度は特に限定されないが、20℃以上150℃以下とすることが好ましく、25℃以上105℃以下とすることがより好ましい。加熱温度を上記下限値以上とすれば、分散媒を速やかに揮発させることができ、上記上限値以下であれば、加熱に要するコストの抑制及び微細繊維状セルロースが熱によって変色することを抑制できる。
<抄紙工程>
セルロース含有膜の製造工程は、スラリーを抄紙する工程を含んでもよい。抄紙工程で用いられる抄紙機としては、長網式、円網式、傾斜式等の連続抄紙機、これらを組み合わせた多層抄き合わせ抄紙機等が挙げられる。抄紙工程では、手抄き等公知の抄紙を行ってもよい。
抄紙工程では、スラリーをワイヤー上で濾過、脱水して湿紙状態のセルロース含有膜を得た後、プレス、乾燥することでセルロース含有膜を得る。スラリーを濾過、脱水する場合、濾過時の濾布としては特に限定されないが、微細繊維状セルロースや防腐剤は通過せず、かつ濾過速度が遅くなりすぎないことが重要である。このような濾布としては特に限定されないが、有機ポリマーからなるシート、織物、多孔膜が好ましい。有機ポリマーとしては特に限定されないが、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のような非セルロース系の有機ポリマーが好ましい。具体的には孔径0.1μm以上20μm以下、例えば1μmのポリテトラフルオロエチレンの多孔膜、孔径0.1μm以上20μm以下、例えば1μmのポリエチレンテレフタレートやポリエチレンの織物等が挙げられるが、特に限定されない。
スラリーからセルロース含有膜を製造する方法としては、特に限定されないが、例えばWO2011/013567に記載の製造装置を用いる方法等が挙げられる。この製造装置は、微細繊維状セルロースを含むスラリーを無端ベルトの上面に吐出し、吐出されたスラリーから分散媒を搾水してウェブを生成する搾水セクションと、ウェブを乾燥させて繊維シートを生成する乾燥セクションとを備えている。搾水セクションから乾燥セクションにかけて無端ベルトが配設され、搾水セクションで生成されたウェブが無端ベルトに載置されたまま乾燥セクションに搬送される。
採用できる脱水方法としては特に限定されないが、紙の製造で通常に使用している脱水方法が挙げられ、長網、円網、傾斜ワイヤーなどで脱水した後、ロールプレスで脱水する方法が好ましい。また、乾燥方法としては特に限定されないが、紙の製造で用いられている方法が挙げられ、例えば、シリンダードライヤー、ヤンキードライヤー、熱風乾燥、近赤外線ヒーター、赤外線ヒーターなどの方法が好ましい。
(積層体)
上述した工程で得られたセルロース含有膜に、さらに他の層を積層して積層体を形成してもよい。このような他の層は、セルロース含有膜の両表面上に設けられていてもよいが、セルロース含有膜の一方の面上にのみ設けられていてもよい。セルロース含有膜の少なくとも一方の面上に積層される他の層としては、例えば、樹脂層や無機層を挙げることができる。
積層体の具体例としては、例えば、
セルロース含有膜の少なくとも一方の面上に樹脂層が直接積層された積層体;
セルロース含有膜の少なくとも一方の面上に無機層が直接積層された積層体;
樹脂層、セルロース含有膜、無機層がこの順で積層された積層体;
セルロース含有膜、樹脂層、無機層がこの順で積層された積層体;及び
セルロース含有膜、無機層、樹脂層がこの順で積層された積層体:
を挙げることができる。
積層体の層構成は上記に限定されるものではなく、用途に応じて種々の態様とすることができる。
<樹脂層>
樹脂層は、天然樹脂や合成樹脂を主成分とする層である。ここで、主成分とは、樹脂層の全質量に対して、50質量%以上含まれている成分を指す。樹脂の含有量は、樹脂層の全質量に対して、60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましく、90質量%以上であることが特に好ましい。なお、樹脂の含有量は、100質量%とすることもでき、95質量%以下であってもよい。
天然樹脂としては、例えば、ロジン、ロジンエステル、水添ロジンエステル等のロジン系樹脂を挙げることができる。
合成樹脂としては、例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリウレタン樹脂及びアクリル樹脂から選択される少なくとも1種であることが好ましい。中でも、合成樹脂はポリカーボネート樹脂及びアクリル樹脂から選択される少なくとも1種であることが好ましく、ポリカーボネート樹脂であることがより好ましい。なお、アクリル樹脂は、ポリアクリロニトリル及びポリ(メタ)アクリレートから選択される少なくともいずれか1種であることが好ましい。
樹脂層を構成するポリカーボネート樹脂としては、例えば、芳香族ポリカーボネート系樹脂、脂肪族ポリカーボネート系樹脂が挙げられる。これらの具体的なポリカーボネート系樹脂は公知であり、例えば特開2010−023275号公報に記載されたポリカーボネート系樹脂が挙げられる。
樹脂層を構成する樹脂は1種を単独で用いてもよく、複数の樹脂成分が共重合または、グラフト重合してなる共重合体を用いてもよい。また、複数の樹脂成分を物理的なプロセスで混合したブレンド材料として用いてもよい。
セルロース含有膜と樹脂層の間には、接着層が設けられていてもよく、また接着層が設けられておらず、セルロース含有膜と樹脂層が直接密着をしていてもよい。セルロース含有膜と樹脂層の間に接着層が設けられる場合は、接着層を構成する接着剤として、例えば、アクリル系樹脂を挙げることができる。また、アクリル系樹脂以外の接着剤としては、例えば、塩化ビニル樹脂、(メタ)アクリル酸エステル樹脂、スチレン/アクリル酸エステル共重合体樹脂、酢酸ビニル樹脂、酢酸ビニル/(メタ)アクリル酸エステル共重合体樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、エチレン/酢酸ビニル共重合体樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、エチレンビニルアルコール共重合体樹脂や、SBR、NBR等のゴム系エマルジョンなどが挙げられる。
セルロース含有膜と樹脂層の間に接着層が設けられていない場合は、樹脂層が密着助剤を有してもよく、また、樹脂層の表面に親水化処理等の表面処理を行ってもよい。
密着助剤としては、例えば、イソシアネート基、カルボジイミド基、エポキシ基、オキサゾリン基、アミノ基及びシラノール基から選択される少なくとも1種を含む化合物や、有機ケイ素化合物が挙げられる。中でも、密着助剤はイソシアネート基を含む化合物(イソシアネート化合物)及び有機ケイ素化合物から選択される少なくとも1種であることが好ましい。有機ケイ素化合物としては、例えば、シランカップリング剤縮合物や、シランカップリング剤を挙げることができる。
なお、親水化処理以外の表面処理の方法としては、コロナ処理、プラズマ放電処理、UV照射処理、電子線照射処理、火炎処理等を挙げることができる。
<無機層>
無機層を構成する物質としては、特に限定されないが、例えばアルミニウム、ケイ素、マグネシウム、亜鉛、錫、ニッケル、チタン;これらの酸化物、炭化物、窒化物、酸化炭化物、酸化窒化物、もしくは酸化炭化窒化物;またはこれらの混合物が挙げられる。高い防湿性が安定に維持できるとの観点からは、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化炭化ケイ素、酸化窒化ケイ素、酸化炭化窒化ケイ素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化炭化アルミニウム、酸化窒化アルミニウム、またはこれらの混合物が好ましい。
無機層の形成方法は、特に限定されない。一般に、薄膜を形成する方法は大別して、化学的気相成長法(Chemical Vapor Deposition、CVD)と物理成膜法(Physical Vapor Deposition、PVD)とがあるが、いずれの方法を採用してもよい。CVD法としては、具体的には、プラズマを利用したプラズマCVD、加熱触媒体を用いて材料ガスを接触熱分解する触媒化学気相成長法(Cat−CVD)等が挙げられる。PVD法としては、具体的には、真空蒸着、イオンプレーティング、スパッタリング等が挙げられる。
また、無機層の形成方法としては、原子層堆積法(Atomic Layer Deposition、ALD)を採用することもできる。ALD法は、形成しようとする膜を構成する各元素の原料ガスを、層を形成する面に交互に供給することにより、原子層単位で薄膜を形成する方法である。成膜速度が遅いという欠点はあるが、プラズマCVD法以上に、複雑な形状の面でもきれいに覆うことができ、欠陥の少ない薄膜を成膜することが可能であるという利点がある。また、ALD法には、膜厚をナノオーダーで制御することができ、広い面を覆うことが比較的容易である等の利点がある。さらにALD法は、プラズマを用いることにより、反応速度の向上、低温プロセス化、未反応ガスの減少が期待できる。
(用途)
本発明のセルロース含有組成物は、例えば、塗料、樹脂、エマルジョン、水硬性材料(セメント)、又はゴムと混合し補強材として用いることができる。本発明のセルロース含有組成物のスラリーを用いて製膜して、セルロース含有膜を作製してもよい。本発明のセルロース含有組成物は、増粘剤として各種用途に使用することもできる。
セルロース含有膜は、各種のディスプレイ装置、各種の太陽電池、等の光透過性基板の用途に適している。また、電子機器の基板、家電の部材、各種の乗り物や建物の窓材、内装材、外装材、包装用資材等の用途にも適している。さらに、糸、フィルタ、織物、緩衝材、スポンジ、研磨材などの他、セルロース含有膜そのものを補強材として使う用途にも適している。
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
[実施例1]
<亜リン酸基導入繊維状セルロースの作製>
原料パルプとして、王子製紙製の針葉樹クラフトパルプ(固形分93質量%、坪量208g/m2シート状、離解してJIS P 8121に準じて測定されるカナダ標準濾水度(CSF)が700ml)を使用した。
この原料パルプに対して亜リン酸化処理を次のようにして行った。まず、上記原料パルプ100質量部(絶乾質量)に、亜リン酸(ホスホン酸)と尿素の混合水溶液を添加して、亜リン酸(ホスホン酸)33質量部、尿素120質量部、水150質量部となるように調整し、薬液含浸パルプを得た。次いで、得られた薬液含浸パルプを165℃の熱風乾燥機で250秒加熱し、パルプ中のセルロースに亜リン酸基を導入し、亜リン酸化パルプを得た。
次いで、得られた亜リン酸化パルプに対して洗浄処理を行った。洗浄処理は、亜リン酸化パルプ100g(絶乾質量)に対して10Lのイオン交換水を注いで得たパルプ分散液を、パルプが均一に分散するよう撹拌した後、濾過脱水する操作を繰り返すことにより行った。ろ液の電気伝導度が100μS/cm以下となった時点で、洗浄終点とした。
次いで、洗浄後の亜リン酸化パルプに対して中和処理を次のようにして行った。まず、洗浄後の亜リン酸化パルプを10Lのイオン交換水で希釈した後、撹拌しながら1Nの水酸化ナトリウム水溶液を少しずつ添加することにより、pHが12以上13以下の亜リン酸化パルプスラリーを得た。次いで、当該亜リン酸化パルプスラリーを脱水して、中和処理が施された亜リン酸化パルプを得た。次いで、中和処理後の亜リン酸化パルプに対して、上記洗浄処理を行った。
これにより得られた亜リン酸化パルプに対しFT−IRを用いて赤外線吸収スペクトルの測定を行った。その結果、1210cm-1付近に亜リン酸基の互変異性体であるホスホン酸基のP=Oに基づく吸収が観察され、パルプに亜リン酸基(ホスホン酸基)が付加されていることが確認された。また、得られた亜リン酸化パルプを供試して、X線回折装置にて分析を行ったところ、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークが確認され、セルロースI型結晶を有していることが確認された。なお、得られた亜リン酸化パルプについて、後述する<亜リン酸基量の測定>に記載の測定方法で測定される亜リン酸基量(第1解離酸量)は1.51mmol/gだった。なお、総解離酸量は、1.54mmol/gであった。
<解繊処理>
得られた亜リン酸化パルプにイオン交換水を添加し、固形分濃度が2質量%のスラリーを調製した。
このスラリーを、湿式微粒化装置(スギノマシン社製、スターバースト)で200MPaの圧力にて4回処理し、微細繊維状セルロースを含む微細繊維状セルロース分散液Aを得た。
X線回折により、この微細繊維状セルロースがセルロースI型結晶を維持していることが確認された。
また、微細繊維状セルロースの繊維幅を透過型電子顕微鏡を用いて測定したところ、3〜5nmであった。
<亜リン酸基量の測定>
微細繊維状セルロースの亜リン酸基量は、対象となる微細繊維状セルロースを含む微細繊維状セルロース分散液をイオン交換水で含有量が0.2質量%となるように希釈して作成した繊維状セルロース含有スラリーに対し、イオン交換樹脂による処理を行った後、アルカリを用いた滴定を行うことにより測定した。
イオン交換樹脂による処理は、上記繊維状セルロース含有スラリーに体積で1/10の強酸性イオン交換樹脂(アンバージェット1024;オルガノ株式会社、コンディショング済)を加え、1時間振とう処理を行った後、目開き90μmのメッシュ上に注いで樹脂とスラリーを分離することにより行った。
また、アルカリを用いた滴定は、イオン交換樹脂による処理後の繊維状セルロース含有スラリーに、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を5秒に10μLずつ加えながら、スラリーが示すpHの値の変化を計測することにより行った。なお、滴定開始の15分前から窒素ガスをスラリーに吹き込みながら滴定を行った。この中和滴定では、アルカリを加えた量に対して測定したpHをプロットした曲線において、増分(pHのアルカリ滴下量に対する微分値)が極大となる点が二つ観測される。これらのうち、アルカリを加えはじめて先に得られる増分の極大点を第1終点と呼び、次に得られる増分の極大点を第2終点と呼ぶ(図1)。滴定開始から第1終点までに必要としたアルカリ量が、滴定に使用したスラリー中の第1解離酸量と等しくなる。また、滴定開始から第2終点までに必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中の総解離酸量と等しくなる。なお、滴定開始から第1終点までに必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象スラリー中の固形分(g)で除した値を第1解離酸量(mmol/g)とした。また、滴定開始から第2終点までに必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象スラリー中の固形分(g)で除した値を総解離酸量(mmol/g)とした。
<繊維幅の測定>
微細繊維状セルロースの繊維幅を下記の方法で測定した。
湿式微粒化装置にて処理をして得られた上記微細繊維状セルロース分散液の上澄み液を、微細繊維状セルロースの濃度が0.01質量%以上0.1質量%以下となるように水で希釈し、親水化処理したカーボングリッド膜に滴下した。これを乾燥した後、酢酸ウラニルで染色し、透過型電子顕微鏡(日本電子社製、JEOL−2000EX)により観察した。
<酵素処理>
微細繊維状セルロース分散液Aに、微細繊維状セルロース1質量部に対して、酵素含有液(AB Enzymes社製、 ECOPULP R、酵素含有量は約5質量%)を3.0×10-6質量部添加し、18,500回転で2分間撹拌した。これを回収し、評価用スラリーを得た。
[実施例2]
実施例1の<酵素処理>において、微細繊維状セルロース1質量部数に対して、酵素含有液を1.0×10-2質量部添加した。その他の手順は実施例1と同様にし、評価用スラリーを得た。
[実施例3]
実施例1の<酵素処理>において、微細繊維状セルロース1質量部数に対して、酵素含有液を1.0×10-5質量部添加した。その他の手順は実施例1と同様にし、評価用スラリーを得た。
[実施例4]
実施例1の<酵素処理>において、微細繊維状セルロース1質量部数に対して、酵素含有液を4.76×10-5質量部添加した。その他の手順は実施例1と同様にし、評価用スラリーを得た。
[比較例1]
実施例1において、<酵素処理>を行わなかった。上記以外は実施例1と同様にし、評価用スラリーを得た。
[比較例2]
<酵素処理>
実施例1の、<亜リン酸基導入繊維状セルロースの作製>で得たアルカリ処理、洗浄処理後の亜リン酸化パルプをイオン交換水で2%に希釈した後、酵素含有液の添加を行った。酵素含有液の添加量は、固形分量1質量部数に対して、酵素含有液を4.76×10-5質量部数添加とした。次いで、この亜リン酸化パルプを25℃の環境下に24時間静置した後、脱水して脱水シートを得た後、5000質量部のイオン交換水を注ぎ、攪拌して均一に分散させた後、濾過脱水した。その後、再度5000質量部のイオン交換水を注ぎ、攪拌して均一に分散させた後、濾過脱水した。
上記濾過脱水後の亜リン酸化パルプについて、上述の方法で測定した亜リン酸基量(強酸性基量)は、1.45mmol/gであった。また、X線回折装置にて分析を行ったところ、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークが確認され、セルロースI型結晶を有していることが確認された。
<解繊処理>
得られた亜リン酸化パルプにイオン交換水を添加し、固形分濃度が2質量%のスラリーを調製した。
このスラリーを、湿式微粒化装置(スギノマシン社製、スターバースト)で200MPaの圧力にて4回処理し、微細繊維状セルロースを含む評価用スラリーを得た。
X線回折により、この微細繊維状セルロースがセルロースI型結晶を維持していることが確認された。
また、微細繊維状セルロースの繊維幅を上述の透過型電子顕微鏡を用いた方法で測定したところ、3〜5nmであった。
[比較例3]
後述する<TEMPO酸化>を経て得たアルカリ処理、洗浄処理後のTEMPO酸化パルプをイオン交換水で2%に希釈した後、酵素含有液の添加を行った。酵素含有液の添加量は、固形分量1質量部数に対して、酵素含有液を4.76×10-5質量部数添加数とした。次いで、このTEMPO酸化パルプを25℃の環境下に24時間静置した後、脱水して脱水シートを得た後、5000質量部のイオン交換水を注ぎ、攪拌して均一に分散させた後、濾過脱水した。その後、再度5000質量部のイオン交換水を注ぎ、攪拌して均一に分散させた後、濾過脱水した。
<TEMPO酸化>
原料パルプとして、王子製紙製の針葉樹クラフトパルプ(未乾燥)を使用した。
この原料パルプに対してアルカリTEMPO酸化処理を次のようにして行った。
まず、乾燥質量100質量部相当の上記原料パルプと、TEMPO(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル)1.6質量部と、臭化ナトリウム10質量部を、水10000質量部に分散させた。次いで、13質量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、1.0gのパルプに対して3.8mmolになるように加えて反応を開始した。反応中は0.5Mの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHを10以上10.5以下に保ち、pHに変化が見られなくなった時点で反応終了と見なした。
<TEMPO酸化パルプの洗浄>
次いで、得られたTEMPO酸化パルプに対して洗浄処理を行った。
洗浄処理は、TEMPO酸化後のパルプスラリーを脱水し、脱水シートを得た後、5000質量部のイオン交換水を注ぎ、攪拌して均一に分散させた後、濾過脱水する操作を繰り返すことにより行った。ろ液の電気伝導度が100μS/cm以下となった時点で、洗浄終点とした。
この脱水シートに対して、残存するアルデヒド基の追酸化処理を次のようにして行った。
乾燥質量100質量部相当の上記脱水シートを、0.1mol/L酢酸緩衝液(pH4.8)10000質量部に分散させた。次いで80%亜塩素酸ナトリウム113質量部を加え、直ちに密閉した後、マグネチックスターラーを用いて500rpmで撹拌しながら室温で48時間反応させ、パルプスラリーを得た。
次いで、得られた追酸化済みTEMPO酸化パルプに対して洗浄処理を行った。
洗浄処理は、追酸化後のパルプスラリーを脱水し、脱水シートを得た後、5000質量部のイオン交換水を注ぎ、攪拌して均一に分散させた後、濾過脱水する操作を繰り返すことにより行った。ろ液の電気伝導度が100μS/cm以下となった時点で、洗浄終点とした。これにより得られたTEMPO酸化パルプについて、後述する測定方法で測定されるカルボキシ基量は、1.30mmol/gであった。
また、得られたTEMPO酸化パルプを供試して、X線回折装置にて分析を行ったところ、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークが確認され、セルロースI型結晶を有していることが確認された。
<解繊処理>
得られた脱水シートにイオン交換水を添加し、固形分濃度が2質量%のスラリーを調製した。このスラリーを、湿式微粒化装置(スギノマシン社製、スターバースト)で200MPaの圧力にて4回処理し、微細繊維状セルロースを含む評価用スラリーを得た。X線回折により、この微細繊維状セルロースがセルロースI型結晶を維持していることが確認された。また、微細繊維状セルロースの繊維幅を上述の透過型電子顕微鏡を用いた方法で測定したところ、3〜5nmであった。
<カルボキシ基量の測定>
微細繊維状セルロースのカルボキシ基量は、対象となる微細繊維状セルロースを含む微細繊維状セルロース含有スラリーにイオン交換水を添加して、含有量を0.2質量%とし、イオン交換樹脂による処理を行った後、アルカリを用いた滴定を行うことにより測定した。
イオン交換樹脂による処理は、0.2質量%の微細繊維状セルロース含有スラリーに体積で1/10の強酸性イオン交換樹脂(アンバージェット1024;オルガノ株式会社製、コンディショング済)を加え、1時間振とう処理を行った後、目開き90μmのメッシュ上に注いで樹脂とスラリーを分離することにより行った。
また、アルカリを用いた滴定は、イオン交換樹脂による処理後の繊維状セルロース含有スラリーに、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を加えながら、スラリーが示すpHの値の変化を計測することにより行った。水酸化ナトリウム水溶液を加えながらpHの変化を観察すると、図2に示されるような滴定曲線が得られる。図2に示されるように、この中和滴定では、アルカリを加えた量に対して測定したpHをプロットした曲線において、増分(pHのアルカリ滴下量に対する微分値)が極大となる点が一つ観測される。この増分の極大点を第1終点と呼ぶ。ここで、図2における滴定開始から第1終点までの領域を第1領域と呼ぶ。第1領域で必要としたアルカリ量が、滴定に使用したスラリー中のカルボキシ基量と等しくなる。そして、滴定曲線の第1領域で必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象の微細繊維状セルロース含有スラリー中の固形分(g)で除すことで、カルボキシ基の導入量(mmol/g)を算出した。
なお、上述のカルボキシ基導入量(mmol/g)は、カルボキシ基の対イオンが水素イオン(H+)であるときの繊維状セルロースの質量1gあたりの置換基量(以降、カルボキシ基量(酸型)と呼ぶ)を示している。
[比較例4]
比較例3において、酵素含有液の添加量を、固形分量1質量部数に対して、1.0×10-1質量部数とした。上記以外は比較例3と同様にし、評価用スラリーを得た。
[比較例5]
実施例1において、微細繊維状セルロース1質量部に対して、酵素含有液1質量部数添加した。上記以外は実施例1と同様にし、評価用スラリーを得た。
<測定>
実施例及び比較例で得られた評価用スラリーを用いて、以下の方法に従って測定を行った。
[粘度]
評価用スラリーの製造から24時間後にイオン交換水を注ぎ、固形分濃度が0.4質量%となるよう調製した。その後、25℃の環境下にて24時間静置し、B型粘度計(No.3ローター)(BLOOKFIELD社製、アナログ粘度計T−LVT)を用いて25℃にて回転数3rpmで3分間回転させて粘度を測定した。
[重合度]
微細繊維状セルロースの比粘度および重合度は、Tappi T230に従い測定した。すなわち、測定対象の微細繊維状セルロースを分散媒に分散させて測定した粘度(η1とする)、および分散媒体のみで測定したブランク粘度(η0とする)を測定したのち、比粘度(ηsp)、固有粘度([η])を下記式に従って測定した。
ηsp=(η1/η0)−1
[η]=ηsp/(c(1+0.28×ηsp))
ここで、式中のcは、粘度測定時の微細繊維状セルロースの濃度を示す。
さらに、下記式から微細繊維状セルロースの重合度(DP)を算出した。
DP=1.75×[η]
この重合度は粘度法によって測定された平均重合度であることから、「粘度平均重合度」と称されることもある。
[エンドグルカナーゼ(EG)活性]
評価用スラリーのEG活性は下記のように測定し、定義した。
濃度1%(W/V)のカルボキシメチルセルロース(CMCNa High viscosity:Cat No.150561,MP Biomedicals,Inc.)の基質溶液(濃度100mM、pH5.0の酢酸−酢酸ナトリウム緩衝液含有)を調製した。製造直後の評価用スラリーを予め緩衝液(前記同様)で希釈(希釈倍率は下記酵素溶液の吸光度が下記グルコース標準液から得られた検量線に入るようにした)した。90μlの前記基質溶液に前記希釈して得られた評価用スラリー溶液10μlを添加し、37℃、30分間反応させた。
検量線を作成するために、イオン交換水(ブランク)、グルコース標準液(濃度0.5〜5.6mMからすくなくとも濃度が異なる標準液4点)を選択し、それぞれ100μlを用意し、37℃、30分間保温した。
前記反応後の酵素含有評価用スラリー溶液、検量線用ブランク及びグルコース標準液に、それぞれ300μlのDNS発色液(1.6質量%のNaOH、1質量%の3,5−ジニトロサリチル酸、30質量%の酒石酸カリウムナトリウム)を加えて、5分間煮沸し発色させた。発色後直ちに氷冷し、2mlのイオン交換水を加えてよく混合した。30分間静置した後、1時間以内に吸光度を測定した。
吸光度の測定は96穴マイクロウェルプレート(269620、NUNC社製)に200μlを分注し、マイクロプレートリーダー(infiniteM200、TECAN社製)を用い、540nmの吸光度を測定した。
ブランクの吸光度を差し引いた各グルコース標準液の吸光度とグルコース濃度を用い検量線を作成した。評価用スラリー溶液中のグルコース相当生成量は評価用スラリー溶液の吸光度からブランクの吸光度を引いてから検量線を用いて算出した(評価用スラリー溶液の吸光度が検量線に入らない場合は前記緩衝液で評価用スラリーを希釈する際の希釈倍率を変えて再測定を行う)。1分間に1μmolのグルコース等量の還元糖を生成する酵素量を1単位と定義し、下記式からEG活性を求めた。
EG活性=緩衝液で希釈して得られた評価用サンプル溶液1mlのグルコース相当生成量(μmol)/30分×希釈倍率 [福井作蔵, “生物化学実験法 (還元糖の定量法)第二版 ”, 学会出版センター、p23〜24 (1990年)参照]
なお、評価用スラリーを製造してから24時間経過後に同様の測定をした。
全ての実施例において、EG活性は、酵素の添加直後の評価用スラリーと、評価用スラリーを製造してから24時間経過後の評価用スラリーとで変化はなかった。
[タンパク質の含有量]
評価用スラリーに含まれるタンパク質は、ビュレット法によって求めた。
牛血清アルブミンに対し純水を加え、タンパク質の質量%が5.0%以下となるように調製した。
上記にて調製した牛血清アルブミン溶液に対し、4倍量のビュレット薬を加えてよく混合し、20℃から25℃の環境下で30分放置した。その後、分光光度計を使用し540nmの吸光波長を測定した。測定値をもとに、検量線を引いた。
次に、評価用スラリーを分取し、4倍量のビュレット試薬を加えてよく混合し、20℃から25℃の環境下で30分放置した。その後、分光光度計を使用し540nmの吸光波長を測定した。測定値は検量線へ書き込み、評価用スラリーに含まれるタンパク質量を求めた。
<評価>
実施例及び比較例で得られた評価用スラリーを以下の方法に従って評価した。
[セルロース含有膜の光学物性]
実施例及び比較例で得られた評価用スラリーを使用してセルロース含有膜を形成し、ヘーズを測定した。なお、セルロース含有膜の形成方法は後述する。
JIS K 7136に準拠し、ヘーズメータ(村上色彩技術研究所社製、HM−150)を用いてヘーズを測定した。実施例の評価結果において、ヘーズが1.0%未満であるなら◎、1.5%未満であるなら○、2.0%未満であるなら△、2.0%以上ならば×と表記した。
セルロース含有膜の形成方法:
評価用スラリーを、固形分濃度が1.0質量%となるようイオン交換水を添加して濃度調整を行った。
次いで、この微細繊維状セルロース分散液100質量部に対して、水溶性ポリエステル樹脂(互応化学社製、プラスコートZ−221、固形分濃度は20質量%)を100質量部添加し、塗料組成物Aを得た。
次いで、得られる塗膜(上記塗料組成物Aの固形分から構成される)の仕上がり坪量が50g/m2になるように塗工液を計量して、市販のアクリル板に塗工し、50℃、相対湿度15%の恒温恒湿器にて乾燥した。なお、所定の坪量となるようアクリル板上には堰止用の金枠(内寸が180mm×180mmの金枠)を配置した。乾燥後に形成された塗膜をアクリル板から剥離し、微細繊維状セルロースを含む、厚さ37μmの塗膜(セルロース含有膜)を得た。
[セルロース含有膜の機械物性]
上記の[セルロース含有膜の光学物性]にて得られたセルロース含有膜を使用し、引張弾性率を測定した。
試験片の長さを80mm、チャック間距離を50mmとした以外はJIS P 8113に準拠し、引張試験機テンシロン(エー・アンド・デイ社製)を用いて引張弾性率を測定した。なお、引張弾性率を測定する際には、23℃、相対湿度50%で24時間調湿したものを試験片として使用し、23℃、相対湿度50%の条件下で測定を行った。実施例の評価結果において、引張弾性率が4GPa以上であるなら◎、2GPa以上であるなら○、1GPa以上であるなら△、1GPa未満ならば×と表記した。
[セルロース含有膜形成時の塗工適性]
実施例及び比較例で得られた評価用スラリー100質量部に対して、水溶性ポリエステル樹脂(互応化学社製、プラスコートZ−221、固形分濃度は20質量%)を100質量部添加し、塗料組成物Bを得た。次いで、この塗料組成物Bを、フィルムアプリケーターを使用してポリカーボネートフィルム(帝人社製、パンライトPC−2151、厚み300μm)上に塗工してウェット膜を形成した。なお、フィルムアプリケーターの塗工幅は150mm、ギャップ(塗工厚)は3mmとした。評価用スラリーを塗工する際の塗工適性について、官能評価を行った。ウェット膜の目視確認時に、凹凸が見られない場合は◎、多少の凹凸が見られる場合は○、目立った凹凸が見られる場合は△、凹凸により連続したウェット膜が形成できない場合には×と表記した。
Figure 2020125425
Figure 2020125425
表1から明らかなように、タンパク質の含有量、及びエンドグルカナーゼ活性が好適な範囲にある実施例1〜4では、膜とした際の光学物性、機械物性が良好であり、塗工適性にも優れる評価用スラリーが得られた。
一方、表2から明らかなように、酵素を添加しない比較例1では、塗工適性が劣る結果となった。また、比較例2〜4では、パルプに対して酵素処理をした後に、イオン交換水により酵素を洗浄しているが、このような場合においてもタンパク質の含有量とエンドグルカナーゼ活性は低く、かつ塗工適性が劣る結果となった。また、タンパク質の含有量、及びエンドグルカナーゼ活性が好適な範囲より高い比較例5においては、膜の光学物性が不良であった。

Claims (8)

  1. 繊維幅が1000nm以下であり、亜リン酸基又は亜リン酸基に由来する置換基を有する繊維状セルロースと、タンパク質とを含むセルロース含有組成物であって、前記タンパク質は酵素を含み、前記タンパク質の含有量が、前記繊維状セルロース1質量部に対して1×10-3質量部以下であり、前記繊維状セルロースの固形分濃度を0.4質量%として25℃及び回転数3rpmの条件で測定した粘度が10mPa・s以上11000mPa・s以下である、セルロース含有組成物。
  2. 前記タンパク質の含有量が、前記繊維状セルロース1質量部に対して1×10-7質量部以上である、請求項1に記載のセルロース含有組成物。
  3. 繊維幅が1000nm以下であり、亜リン酸基又は亜リン酸基に由来する置換基を有する繊維状セルロースと、タンパク質とを含むセルロース含有組成物であって、前記タンパク質は酵素を含み、前記酵素のエンドグルカナーゼ活性が840U/L以下であり、前記繊維状セルロースの固形分濃度を0.4質量%として25℃及び回転数3rpmの条件で測定した粘度が10mPa・s以上11000mPa・s以下である、セルロース含有組成物。
  4. 前記酵素のエンドグルカナーゼ活性が0.084U/L以上である、請求項3に記載のセルロース含有組成物。
  5. 前記繊維状セルロースの重合度が、200以上450以下である、請求項1から4の何れか一項に記載のセルロース含有組成物。
  6. 繊維幅が1000nm以下であり、亜リン酸基又は亜リン酸基に由来する置換基を有する繊維状セルロースと、タンパク質とを含む膜であって、前記タンパク質は酵素を含み、前記タンパク質の含有量が、前記繊維状セルロース1質量部に対して1×10-3質量部以下である、膜。
  7. 前記タンパク質の含有量が、前記繊維状セルロース1質量部に対して1×10-7質量部以上である、請求項6に記載の膜。
  8. 繊維幅が1000nm以下であり、亜リン酸基又は亜リン酸基に由来する置換基を有する繊維状セルロース1質量部に対して、1×10-3質量部以下の酵素を添加する工程を含む、セルロース含有組成物の製造方法。
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