JP6680371B1 - 繊維状セルロース含有組成物及び塗料 - Google Patents

繊維状セルロース含有組成物及び塗料 Download PDF

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Abstract

【課題】本発明の課題は、塗工物における粒(凝集物)が抑制された繊維状セルロース含有組成物及び塗料を提供することである。【解決手段】本発明によれば、繊維幅が1000nm以下であり、亜リン酸基又は亜リン酸基に由来する置換基を有する繊維状セルロースと水とを含み、以下の条件により得られる塗膜の像鮮明度(くし目幅は0.125mm)が55%以上である繊維状セルロース含有組成物が提供される。(条件)前記繊維状セルロース含有組成物と、前記繊維状セルロース1重量部に対してアクリル樹脂156重量部と、前記繊維状セルロース1重量部に対してイソシアネート44重量部と、を混ぜて得られた塗布液を、アプリケーターを用いて30μm厚となるように平滑なポリエチレンテレフタレート板上に塗工し、塗工後すぐに80℃で30分間乾燥させる。【選択図】なし

Description

本発明は、繊維状セルロース含有組成物及び塗料に関する。
近年、石油資源の代替及び環境意識の高まりから、再生産可能な天然繊維を利用した材料が着目されている。天然繊維の中でも、繊維径が10〜50μmの繊維状セルロース、特に木材由来の繊維状セルロース(パルプ)は、主に紙製品としてこれまで幅広く使用されてきた。
繊維状セルロースとしては、繊維径が1μm以下の微細繊維状セルロースも知られている。微細繊維状セルロースは、新たな素材として注目されており、その用途は多岐にわたる。例えば、微細繊維状セルロースを含むシートや樹脂複合体、増粘剤の開発が進められている。
また、繊維状セルロースを塗料に適用することが検討されている。特許文献1には、数平均繊維径が2nm以上500nm以下のセルロース繊維と、水系樹脂と、着色剤とを含有する水系塗料組成物が記載されている。
特開2016−69618号公報
本発明者らは、塗料の増粘剤として微細繊維状セルロースを使用することを検討してきた。しかしながら、微細繊維状セルロースを塗料に含有させた場合、塗工物における粒(凝集物)について改善の余地があることが分かった。本発明は、塗工物における粒(凝集物)が抑制された繊維状セルロース含有組成物及び塗料を提供することを解決すべき課題とする。
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、所定の条件で得られる塗膜の像鮮明度を制御することにより、繊維状セルロース含有組成物の塗工物における粒(凝集物)を抑制できることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成したものである。
本発明は以下の構成を有する。
[1] 繊維幅が1000nm以下であり、亜リン酸基又は亜リン酸基に由来する置換基を有する繊維状セルロースと水とを含み、以下の条件により得られる塗膜の像鮮明度(くし目幅は0.125mm)が55%以上である繊維状セルロース含有組成物。
(条件)
前記繊維状セルロース含有組成物と、前記繊維状セルロース1重量部に対してアクリル樹脂156重量部と、前記繊維状セルロース1重量部に対してイソシアネート44重量部と、を混ぜて得られた塗布液を、アプリケータ―を用いて30μm厚となるように平滑なポリエチレンテレフタレート板上に塗工し、塗工後すぐに80℃で30分間乾燥させる。
[2] 前記の像鮮明度が65%以上98%以下である[1]に記載の繊維状セルロース含有組成物。
[3] 前記繊維状セルロースと水との合計量が、組成物全体に対して90質量%以上である[1]又は[2]に記載の繊維状セルロース含有組成物。
[4] 前記繊維状セルロースの固形分濃度を0.4質量%として23℃及び回転数3rpmの条件で測定した粘度が40,000mPa・s以下である[1]〜[3]のいずれか1に記載の繊維状セルロース含有組成物。
[5] 繊維状セルロースを分散液とし、当該分散液について下記条件で分離した上澄みを回収したときの上澄み収率が80質量%以上となる[1]〜[4]のいずれか1に記載の繊維状セルロース含有組成物。
(条件)
繊維状セルロースの分散液を固形分濃度0.2質量%に調整し、冷却高速遠心分離機を用い、12000G、10分の条件で遠心分離する。得られた上澄み液を回収し、上澄み液の固形分濃度を測定した。下記式に基づいて、繊維状セルロースの収率を求める。
上澄み収率(%)=上澄みの固形分濃度(%)/0.2×100
[6] 以下の条件により得た塗膜のヤング率が0.7GPa以上である[1]〜[5]のいずれか1に記載の繊維状セルロース含有組成物。
(条件)
前記繊維状セルロース含有組成物と、前記繊維状セルロース1質量部に対してアクリル樹脂156質量部と、前記繊維状セルロース1質量部に対してポリイソシアネート44質量部と、を混ぜて得られた塗布液を、アプリケーターを用いて30μm厚となるように平滑なポリプロピレン板上に塗工し塗工後すぐに80℃で30分間乾燥させる。
[7] 酵素をさらに含む[1]〜[6]のいずれか1に記載の繊維状セルロース含有組成物。
[8] 塗料において使用するための[1]〜[7]のいずれか1に記載の繊維状セルロース含有組成物。
[9] 増粘剤において使用するための[1]〜[7]のいずれか1に記載の繊維状セルロース含有組成物。
[10] [1]〜[9]のいずれか1に記載の繊維状セルロース含有組成物を含む塗料。
本発明によれば、塗工物における粒(凝集物)が抑制された繊維状セルロース含有組成物及び塗料を提供することができる。
図1は、リンオキソ酸基を有する繊維状セルロース含有スラリーに対するNaOH滴下量とpHの関係を示すグラフである。
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。
本発明の繊維状セルロース含有組成物は、繊維幅が1000nm以下であり、亜リン酸基又は亜リン酸基に由来する置換基を有する繊維状セルロースと水とを含み、以下の条件により得られる塗膜の像鮮明度(くし目幅は0.125mm)が55%以上である繊維状セルロース含有組成物である。
(条件)
繊維状セルロース含有組成物と、繊維状セルロース1重量部に対してアクリル樹脂156重量部と、繊維状セルロース1重量部に対してイソシアネート44重量部と、を混ぜて得られた塗布液を、アプリケーターを用いて30μm厚となるように平滑なポリエチレンテレフタレート板上に塗工し、塗工後すぐに80℃で30分間乾燥させる。
本発明の繊維状セルロース含有組成物について、上記の像鮮明度は55%以上であれば特に限定されないが、像鮮明度は、60%以上が好ましく、65%以上がより好ましく、70%以上がさらに好ましく、75%以上が特に好ましい。像鮮明度の上限値は特に限定されないが、98%以下であることが実際的である。
本発明における像鮮明度は後記実施例で示したJISK7374:2007に準拠して測定した値とする。本発明において繊維状セルロース含有組成物の塗膜の像鮮明度を規定することにより、塗工物における粒(凝集物)が抑制される理由は定かではないが、以下のように推定される。本発明における像鮮明度は、増粘剤が他の成分を均一に分散させる能力を具体的な数値により示す指標となり得る。このような指標に基づいて増粘剤としての組成物を高度に調整することにより、凝集の少ない塗料が実現されるものと考えられる。
塗膜の像鮮明度を上記の範囲に調節する方法は特に限定されないが、例えば、下記に例示する特定成分を所定量添加する態様、又は微細繊維状セルロースを特定の条件において酵素で処理する態様が挙げられる。また、塗料の配合成分の配合順序を選定することが挙げられる。例えば、微細繊維状セルロースと特定成分とを含有する組成物を調製し、次いで、この組成物と樹脂及び/又は硬化剤等とを混合する態様が挙げられる。
(繊維状セルロース)
本発明の繊維状セルロース含有組成物は、微細繊維状セルロースを含む。微細繊維状セルロースは、亜リン酸基又は亜リン酸基に由来する置換基を有する。
微細繊維状セルロースを得るための繊維状セルロース原料としては特に限定されないが、入手しやすく安価である点から、パルプを用いることが好ましい。パルプとしては、木材パルプ、非木材パルプ、脱墨パルプを挙げることができる。木材パルプとしては例えば、広葉樹クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹クラフトパルプ(NBKP)、サルファイトパルプ(SP)、溶解パルプ(DP)、ソーダパルプ(AP)、未晒しクラフトパルプ(UKP)、酸素漂白クラフトパルプ(OKP)等の化学パルプ等が挙げられる。また、セミケミカルパルプ(SCP)、ケミグラウンドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ、砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)等の機械パルプ等が挙げられるが、特に限定されない。非木材パルプとしてはコットンリンターやコットンリント等の綿系パルプ、麻、麦わら、バガス等の非木材系パルプ、ホヤや海草等から単離されるセルロース、キチン、キトサン等が挙げられるが、特に限定されない。脱墨パルプとしては古紙を原料とする脱墨パルプが挙げられるが、特に限定されない。本実施態様のパルプは上記の1種を単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。上記パルプの中で、入手のしやすさという点で、セルロースを含む木材パルプ、脱墨パルプが好ましい。木材パルプの中でも化学パルプはセルロース比率が大きいため、繊維微細化(解繊)時の微細繊維状セルロースの収率が高く、またパルプ中のセルロースの分解が小さく、軸比の大きい長繊維の微細繊維状セルロースが得られる点で好ましい。中でもクラフトパルプ、サルファイトパルプが最も好ましく選択される。軸比の大きい長繊維の微細繊維状セルロースを含有するシートは高強度が得られる傾向がある。
微細繊維状セルロースの平均繊維幅は、電子顕微鏡で観察して、1000nm以下である。平均繊維幅は、好ましくは2nm以上1000nm以下、より好ましくは2nm以上1000nm未満、より好ましくは2nm以上100nm以下であり、より好ましくは2nm以上50nm以下であり、さらに好ましくは2nm以上10nm以下であるが、特に限定されない。微細繊維状セルロースの平均繊維幅が2nm未満であると、セルロース分子として水に溶解しているため、微細繊維状セルロースとしての物性(強度や剛性、寸法安定性)が発現しにくくなる傾向がある。なお、微細繊維状セルロースは、たとえば繊維幅が1000nm以下である単繊維状のセルロースである。
微細繊維状セルロースの電子顕微鏡観察による繊維幅の測定は以下のようにして行う。濃度0.05質量%以上0.1質量%以下の微細繊維状セルロースの水系懸濁液を調製し、この懸濁液を親水化処理したカーボン膜被覆グリッド上にキャストしてTEM観察用試料とする。幅の広い繊維を含む場合には、ガラス上にキャストした表面のSEM像を観察してもよい。構成する繊維の幅に応じて1000倍、5000倍、10000倍あるいは50000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡画像による観察を行う。但し、試料、観察条件や倍率は下記の条件を満たすように調整する。
(1)観察画像内の任意箇所に一本の直線Xを引き、該直線Xに対し、20本以上の繊維が交差する。
(2)同じ画像内で該直線と垂直に交差する直線Yを引き、該直線Yに対し、20本以上の繊維が交差する。
上記条件を満足する観察画像に対し、直線X、直線Yと交錯する繊維の幅を目視で読み取る。こうして少なくとも重なっていない表面部分の画像を3組以上観察し、各々の画像に対して、直線X、直線Yと交錯する繊維の幅を読み取る。このように少なくとも20本×2×3=120本の繊維幅を読み取る。微細繊維状セルロースの平均繊維幅(単に、「繊維幅」ということもある。)はこのように読み取った繊維幅の平均値である。
微細繊維状セルロースの繊維長は特に限定されないが、0.1μm以上1000μm以下が好ましく、0.1μm以上800μm以下がさらに好ましく、0.1μm以上600μm以下が特に好ましい。繊維長を上記範囲内とすることにより、微細繊維状セルロースの結晶領域の破壊を抑制でき、また微細繊維状セルロースのスラリー粘度を適切な範囲とすることができる。なお、微細繊維状セルロースの繊維長は、TEM、SEM、AFMによる画像解析より求めることができる。
繊維状セルロースの軸比(繊維長/繊維幅)は、とくに限定されないが、たとえば20以上10000以下であることが好ましく、50以上1000以下であることがより好ましい。軸比を上記下限値以上とすることにより、微細繊維含有シートを形成しやすい、また、溶媒分散体を作製した際に十分な増粘性が得られやすい。軸比を上記上限値以下とすることにより、たとえば繊維状セルロースを水分散液として扱う際に、希釈等のハンドリングがしやすくなる点で好ましい。
微細繊維状セルロースはI型結晶構造を有していることが好ましい。ここで、微細繊維状セルロースがI型結晶構造をとっていることは、グラファイトで単色化したCuKα(λ=1.5418Å)を用いた広角X線回折写真より得られる回折プロファイルにおいて同定できる。具体的には、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークをもつことから同定することができる。
微細繊維状セルロースに占めるI型結晶構造の割合は30%以上であることが好ましく、より好ましくは40%以上、さらに好ましくは50%以上である。この場合、耐熱性と低線熱膨張率発現の点でさらに優れた性能が期待できる。結晶化度については、X線回折プロファイルを測定し、そのパターンから常法により求められる(Seagalら、Textile Research Journal、29巻、786ページ、1959年)。
本発明では、亜リン酸基又は亜リン酸基に由来する置換基は、例えば、下記式(2)で表される置換基である。
式(2)中、bは自然数であり、mは任意の数であり、b×m=1である。αは、水素原子、飽和−直鎖状炭化水素基、飽和−分岐鎖状炭化水素基、飽和−環状炭化水素基、不飽和−直鎖状炭化水素基、不飽和−分岐鎖状炭化水素基、不飽和−環状炭化水素基、芳香族基、またはこれらの誘導基である。中でも、αは水素原子であることが特に好ましい。なお、式(2)におけるαには、セルロース分子鎖に由来する基は含まれない。
式(2)のαで表される飽和−直鎖状炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、又はn−ブチル基等が挙げられるが、特に限定されない。飽和−分岐鎖状炭化水素基としては、i−プロピル基、又はt−ブチル基等が挙げられるが、特に限定されない。飽和−環状炭化水素基としては、シクロペンチル基、又はシクロヘキシル基等が挙げられるが、特に限定されない。不飽和−直鎖状炭化水素基としては、ビニル基、又はアリル基等が挙げられるが、特に限定されない。不飽和−分岐鎖状炭化水素基としては、i−プロペニル基、又は3−ブテニル基等が挙げられるが、特に限定されない。不飽和−環状炭化水素基としては、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等が挙げられるが、特に限定されない。芳香族基としては、フェニル基、又はナフチル基等が挙げられるが、特に限定されない。
また、αにおける誘導基としては、上記各種炭化水素基の主鎖又は側鎖に対し、カルボキシ基、ヒドロキシ基、又はアミノ基などの官能基のうち、少なくとも1種類が付加又は置換した状態の官能基が挙げられるが、特に限定されない。また、Rの主鎖を構成する炭素原子数は特に限定されないが、20以下であることが好ましく、10以下であることがより好ましい。Rの主鎖を構成する炭素原子数を上記範囲とすることにより、亜リン酸基の分子量を適切な範囲とすることができ、繊維原料への浸透を容易にし、微細セルロース繊維の収率を高めることもできる。
式(2)におけるβb+は有機物又は無機物からなる1価以上の陽イオンである。有機物からなる1価以上の陽イオンとしては、脂肪族アンモニウム、又は芳香族アンモニウムが挙げられ、無機物からなる1価以上の陽イオンとしては、ナトリウム、カリウム、若しくはリチウム等のアルカリ金属のイオンや、カルシウム、若しくはマグネシウム等の2価金属の陽イオン、又は水素イオン等が挙げられるが、特に限定されない。これらは1種又は2種類以上を組み合わせて適用することもできる。有機物又は無機物からなる1価以上の陽イオンとしては、βを含む繊維原料を加熱した際に黄変しにくく、また工業的に利用し易いナトリウム、又はカリウムのイオンが好ましいが、特に限定されない。
なお、微細繊維状セルロースは、亜リン酸基又は亜リン酸基由来の置換基に加えて、さらにリン酸基又はリン酸基に由来する基を有していてもよい。リン酸基又はリン酸基に由来する基は、例えば、下記式(1)もしくは(3)で表される置換基である。なお、リン酸基又はリン酸基に由来する基は、下記式(3)で表されるような縮合リンオキソ酸基であってもよい。
式(1)中、a及びbは自然数であり、mは任意の数である(ただし、a=b×mである)。α及びα’のうちa個がO-であり、残りはORである。ここで、Rは、水素原子、飽和−直鎖状炭化水素基、飽和−分岐鎖状炭化水素基、飽和−環状炭化水素基、不飽和−直鎖状炭化水素基、不飽和−分岐鎖状炭化水素基、不飽和−環状炭化水素基、芳香族基、またはこれらの誘導基である。なお、式(1)におけるαは、セルロース分子鎖に由来する基であってもよい。
式(3)中、a及びbは自然数であり、mは任意の数であり、nは2以上の自然数である(ただし、a=b×mである)。α1,α2,・・・,αn及びα’のうちa個がO-であり、残りはR又はORのいずれかである。ここで、Rは、水素原子、飽和−直鎖状炭化水素基、飽和−分岐鎖状炭化水素基、飽和−環状炭化水素基、不飽和−直鎖状炭化水素基、不飽和−分岐鎖状炭化水素基、不飽和−環状炭化水素基、芳香族基、またはこれらの誘導基である。なお、式(3)におけるαは、セルロース分子鎖に由来する基であってもよい。
式(1)及び(3)における各基の具体的例示は、式(2)における各基の具体的例示と同様である。また、式(1)及び(3)におけるβb+の具体的例示は、式(2)におけるβb+の具体的例示と同様である。
微細繊維状セルロースが亜リン酸基を置換基として有することは、微細繊維状セルロースを含有する分散液について赤外線吸収スペクトルの測定を行い、1210cm-1付近に亜リン酸基の互変異性体であるホスホン酸基のP=Oに基づく吸収を観察することで確認できる。また、繊維状セルロースがリン酸基を置換基として有することは、繊維状セルロースを含有する分散液について赤外線吸収スペクトルの測定を行い、1230cm-1付近にリン酸基のP=Oに基づく吸収を観察することで確認できる。また、繊維状セルロースが亜リン酸基やリン酸基を置換基として有することは、NMRを用いて化学シフトを確認する方法や、元素分析に滴定を組み合わせる方法などでも確認できる。
<亜リン酸基の導入>
亜リン酸基の導入は、セルロースを含む繊維原料に対し、亜リン酸基を有する化合物及びその塩から選択される少なくとも1種(以下、「亜リン酸化試薬」又は「化合物A」という)を反応させることにより行うことができる。このような亜リン酸化試薬は、乾燥状態または湿潤状態の繊維原料に粉末や水溶液の状態で混合してもよい。また別の例としては、繊維原料のスラリーに亜リン酸化試薬の粉末や水溶液を添加してもよい。
亜リン酸基の導入は、セルロースを含む繊維原料に対し、亜リン酸基を有する化合物及びその塩から選択される少なくとも1種(亜リン酸化試薬又は化合物A)を反応させることにより行うことができる。なお、この反応は、尿素及びその誘導体から選択される少なくとも1種(以下、「化合物B」という)の存在下で行ってもよい。
化合物Aを化合物Bの共存下で繊維原料に作用させる方法の一例としては、乾燥状態または湿潤状態の繊維原料に化合物A及び化合物Bの粉末や水溶液を混合する方法が挙げられる。また別の例としては、繊維原料のスラリーに化合物A及び化合物Bの粉末や水溶液を添加する方法が挙げられる。これらのうち、反応の均一性が高いことから、乾燥状態の繊維原料に化合物A及び化合物Bの水溶液を添加する方法、または湿潤状態の繊維原料に化合物A及び化合物Bの粉末や水溶液を添加する方法が好ましい。また、化合物Aと化合物Bは同時に添加してもよいし、別々に添加してもよい。また、初めに反応に供試する化合物Aと化合物Bを水溶液として添加して、圧搾により余剰の薬液を除いてもよい。繊維原料の形態は綿状や薄いシート状であることが好ましいが、特に限定されない。
本実施態様で使用する化合物Aは、亜リン酸基を有する化合物及びその塩から選択される少なくとも1種である。亜リン酸基を有する化合物としては亜リン酸を挙げることができ、亜リン酸としては、たとえば99%亜リン酸(ホスホン酸)が挙げられる。亜リン酸基を有する化合物の塩としては、亜リン酸のリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩などが挙げられ、これらは種々の中和度とすることができる。これらのうち、リンオキソ酸基の導入の効率が高く、後述する解繊工程で解繊効率がより向上しやすく、低コストであり、かつ工業的に適用しやすい観点から、亜リン酸、亜リン酸のナトリウム塩、亜リン酸のカリウム塩、または、亜リン酸のアンモニウム塩が好ましく用いられる。
また、反応の均一性が高まり、かつ亜リン酸基導入の効率が高くなることから化合物Aは水溶液として用いることが好ましい。化合物Aの水溶液のpHは特に限定されないが、亜リン酸基の導入の効率が高くなることから7以下であることが好ましく、パルプ繊維の加水分解を抑える観点からpH3以上pH7以下がさらに好ましい。化合物Aの水溶液のpHは例えば、亜リン酸基を有する化合物のうち、酸性を示すものとアルカリ性を示すものを併用し、その量比を変えて調整してもよい。化合物Aの水溶液のpHは、亜リン酸基を有する化合物のうち、酸性を示すものに無機アルカリまたは有機アルカリを添加すること等により調整してもよい。
繊維原料に対する化合物Aの添加量は特に限定されないが、化合物Aの添加量をリン原子量に換算した場合、繊維原料(絶乾質量)に対するリン原子の添加量は0.5質量%以上100質量%以下が好ましく、1質量%以上50質量%以下がより好ましく、2質量%以上30質量%以下が最も好ましい。繊維原料に対するリン原子の添加量が上記範囲内であれば、微細繊維状セルロースの収率をより向上させることができる。また、繊維原料に対するリン原子の添加量を100質量%以下とすることにより、亜リン酸化効率を高めつつも使用する化合物Aのコストを抑制することができる。
本実施態様で使用する化合物Bとしては、尿素、ビウレット、1−フェニル尿素、1−ベンジル尿素、1−メチル尿素、1−エチル尿素などが挙げられる。
化合物Bは化合物A同様に水溶液として用いることが好ましい。また、反応の均一性が高まることから化合物Aと化合物Bの両方が溶解した水溶液を用いることが好ましい。繊維原料(絶乾質量)に対する化合物Bの添加量は1質量%以上500質量%以下であることが好ましく、10質量%以上400質量%以下であることがより好ましく、100質量%以上350質量%以下であることがさらに好ましく、150質量%以上300質量%以下であることが特に好ましい。
化合物Aと化合物Bの他に、アミド類またはアミン類を反応系に含んでもよい。アミド類としては、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、アセトアミド、ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。アミン類としては、メチルアミン、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ピリジン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどが挙げられる。これらの中でも、特にトリエチルアミンは良好な反応触媒として働くことが知られている。
亜リン酸基の導入においては加熱処理を施すことが好ましい。加熱処理温度は、繊維の熱分解や加水分解反応を抑えながら、亜リン酸基を効率的に導入できる温度を選択することが好ましい。具体的には50℃以上300℃以下であることが好ましく、100℃以上250℃以下であることがより好ましく、130℃以上200℃以下であることがさらに好ましい。また、加熱処理には、種々の熱媒体を有する機器を利用することができ、たとえば撹拌乾燥装置、回転乾燥装置、円盤乾燥装置、ロール型加熱装置、プレート型加熱装置、流動層乾燥装置、気流乾燥装置、減圧乾燥装置、赤外線加熱装置、遠赤外線加熱装置、マイクロ波加熱装置、高周波乾燥装置を用いてもよい。
加熱処理の際、化合物Aを添加した繊維原料スラリーに水が含まれている間において、繊維原料を静置する時間が長くなると、乾燥に伴い水分子と溶存する化合物Aが繊維原料表面に移動する。そのため、繊維原料中の化合物Aの濃度にムラが生じる可能性があり、繊維表面への亜リン酸基の導入が均一に進行しない恐れがある。乾燥による繊維原料中の化合物Aの濃度ムラ発生を抑制するためには、ごく薄いシート状の繊維原料を用いるか、ニーダー等で繊維原料と化合物Aを混練又は撹拌しながら加熱乾燥又は減圧乾燥させる方法を採ればよい。
加熱処理に用いる加熱装置としては、スラリーが保持する水分及び亜リン酸基などの繊維の水酸基への付加反応で生じる水分を常に装置系外に排出できる装置であることが好ましく、例えば送風方式のオーブン等が好ましい。装置系内の水分を常に排出すれば、リン酸エステル化の逆反応であるリン酸エステル結合の加水分解反応を抑制できることに加えて、繊維中の糖鎖の酸加水分解を抑制することもでき、軸比の高い微細繊維を得ることができる。
加熱処理の時間は、加熱温度にも影響されるが繊維原料スラリーから実質的に水分が除かれてから1秒以上300分以下であることが好ましく、1秒以上1000秒以下であることがより好ましく、10秒以上800秒以下であることがさらに好ましい。本発明では、加熱温度と加熱時間を適切な範囲とすることにより、亜リン酸基の導入量を好ましい範囲内とすることができる。
亜リン酸基の導入量は、微細繊維状セルロース1g(質量)あたり、5.20mmol/g以下であることが好ましく、0.1mmol/g以上3.65mmol/g以下であることがより好ましく、0.14mmol/g以上3.5mmol/g以下がより一層好ましく、0.2mmol/g以上3.2mmol/g以下がさらに好ましく、0.4mmol/g以上3.0mmol/g以下が特に好ましく、最も好ましくは0.6mmol/g以上2.5mmol/g以下である。亜リン酸基の導入量を上記範囲内とすることにより、繊維原料の微細化を容易にし、微細繊維状セルロースの安定性を高めることができる。また、亜リン酸基の導入量を上記範囲内とすることにより、微細化が容易でありながらも、微細繊維状セルロース同士の水素結合も残すことが可能で、シートとした場合には良好な強度発現が期待できる。
繊維状セルロースに対するリンオキソ酸基(亜リン酸基を含む)の導入量は、たとえば中和滴定法により測定することができる。中和滴定法による測定では、得られた繊維状セルロースを含有するスラリーに、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリを加えながらpHの変化を求めることにより、導入量を測定する。
図1は、リンオキソ酸基を有する繊維状セルロース含有スラリーに対するNaOH滴下量とpHの関係を示すグラフである。繊維状セルロースに対するリンオキソ酸基の導入量は、たとえば次のように測定される。
まず、繊維状セルロースを含有するスラリーを強酸性イオン交換樹脂で処理する。なお、必要に応じて、強酸性イオン交換樹脂による処理の前に、後述の解繊処理工程と同様の解繊処理を測定対象に対して実施してもよい。
次いで、水酸化ナトリウム水溶液を加えながらpHの変化を観察し、図1の上側部に示すような滴定曲線を得る。図1の上側部に示した滴定曲線では、アルカリを加えた量に対して測定したpHをプロットしており、図1の下側部に示した滴定曲線では、アルカリを加えた量に対するpHの増分(微分値)(1/mmol)をプロットしている。この中和滴定では、アルカリを加えた量に対して測定したpHをプロットした曲線において、増分(pHのアルカリ滴下量に対する微分値)が極大となる点が二つ確認される。これらのうち、アルカリを加えはじめて先に得られる増分の極大点を第1終点と呼び、次に得られる増分の極大点を第2終点と呼ぶ。滴定開始から第1終点までに必要としたアルカリ量が、滴定に使用したスラリー中に含まれる繊維状セルロースの第1解離酸量と等しくなり、第1終点から第2終点までに必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中に含まれる繊維状セルロースの第2解離酸量と等しくなり、滴定開始から第2終点までに必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中に含まれる繊維状セルロースの総解離酸量と等しくなる。そして、滴定開始から第1終点までに必要としたアルカリ量を滴定対象スラリー中の固形分(g)で除して得られる値が、リンオキソ酸基導入量(mmol/g)となる。なお、単にリンオキソ酸基導入量(またはリンオキソ酸基量)と言った場合は、第1解離酸量のことを表す。
なお、図1において、滴定開始から第1終点までの領域を第1領域と呼び、第1終点から第2終点までの領域を第2領域と呼ぶ。例えば、リンオキソ酸基がリン酸基の場合であって、このリン酸基が縮合を起こす場合、見かけ上、リンオキソ酸基における弱酸性基量(本明細書では第2解離酸量ともいう)が低下し、第1領域に必要としたアルカリ量と比較して第2領域に必要としたアルカリ量が少なくなる。一方、リンオキソ酸基における強酸性基量(本明細書では第1解離酸量ともいう)は、縮合の有無に関わらずリン原子の量と一致する。また、リンオキソ酸基が亜リン酸基の場合は、リンオキソ酸基に弱酸性基が存在しなくなるため、第2領域に必要としたアルカリ量が少なくなるか、第2領域に必要としたアルカリ量はゼロとなる場合もある。この場合、滴定曲線において、pHの増分が極大となる点は一つとなる。
なお、上述のリンオキソ酸基導入量(mmol/g)は、分母が酸型の繊維状セルロースの質量を示すことから、酸型の繊維状セルロースが有するリンオキソ酸基量(以降、リンオキソ酸基量(酸型)と呼ぶ)を示している。一方で、リンオキソ酸基の対イオンが電荷当量となるように任意の陽イオンCに置換されている場合は、分母を当該陽イオンCが対イオンであるときの繊維状セルロースの質量に変換することで、陽イオンCが対イオンである繊維状セルロースが有するリンオキソ酸基量(以降、リンオキソ酸基量(C型))を求めることができる。
すなわち、下記計算式によって算出する。
リンオキソ酸基量(C型)=リンオキソ酸基量(酸型)/{1+(W−1)×A/1000}
A[mmol/g]:繊維状セルロースが有するリンオキソ酸基由来の総アニオン量(リンオキソ酸基の総解離酸量)
W:陽イオンCの1価あたりの式量(たとえば、Naは23、Alは9)
なお、滴定法によるリンオキソ酸基量の測定においては、水酸化ナトリウム水溶液1滴の滴下量が多すぎる場合や、滴定間隔が短すぎる場合、本来より低いリンオキソ酸基量となるなど正確な値が得られないことがある。適切な滴下量、滴定間隔としては、例えば、0.1N水酸化ナトリウム水溶液を5〜30秒に10〜50μLずつ滴定するなどが望ましい。また、繊維状セルロース含有スラリーに溶解した二酸化炭素の影響を排除するため、例えば、滴定開始の15分前から滴定終了まで、窒素ガスなどの不活性ガスをスラリーに吹き込みながら測定するなどが望ましい。
また、亜リン酸基に加えて、リン酸基、縮合リン酸基のいずれかまたは両方を含む場合において検出されるリンオキソ酸が、亜リン酸、リン酸、縮合リン酸のどれに由来するのかを区別する方法としては、例えば、酸加水分解などの縮合構造を切断する処理を行ってから上述した滴定操作を行う方法や、酸化処理などの亜リン酸基をリン酸基へ変換する処理を行ってから上述した滴定操作を行う方法などが挙げられる。
亜リン酸基導入工程は、少なくとも1回行えば良いが、複数回繰り返すこともできる。この場合、より多くの亜リン酸基が導入されるので好ましい。
<アルカリ処理工程>
微細繊維状セルロースを製造する場合、亜リン酸基導入工程と、後述する解繊処理工程との間に、繊維原料に対してアルカリ処理を行ってもよい。アルカリ処理の方法としては、特に限定されないが、例えばアルカリ溶液中に、亜リン酸基導入繊維を浸漬する方法が挙げられる。
アルカリ溶液に含まれるアルカリ化合物は、特に限定されず、無機アルカリ化合物であってもよいし、有機アルカリ化合物であってもよい。本実施形態においては、汎用性が高いことから、たとえば水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムをアルカリ化合物として用いることが好ましい。また、アルカリ溶液に含まれる溶媒は、水又は有機溶媒のいずれであってもよい。アルカリ溶液に含まれる溶媒は、水、又はアルコールに例示される極性有機溶媒などを含む極性溶媒であることが好ましく、少なくとも水を含む水系溶媒であることがより好ましい。アルカリ溶液としては、汎用性が高いことから、たとえば水酸化ナトリウム水溶液、又は水酸化カリウム水溶液が好ましい。
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液の温度は、特に限定されないが、たとえば5℃以上80℃以下であることが好ましく、10℃以上60℃以下であることがより好ましい。アルカリ処理工程における亜リン酸基導入繊維のアルカリ溶液への浸漬時間は、特に限定されないが、たとえば5分以上30分以下であることが好ましく、10分以上20分以下であることがより好ましい。アルカリ処理におけるアルカリ溶液の使用量は、特に限定されないが、たとえば亜リン酸基導入繊維の絶対乾燥質量に対して100質量%以上100000質量%以下であることが好ましく、1000質量%以上10000質量%以下であることがより好ましい。
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液使用量を減らすために、亜リン酸基導入工程の後であってアルカリ処理工程の前に、亜リン酸基導入繊維を水や有機溶媒により洗浄してもよい。アルカリ処理工程の後であって解繊処理工程の前には、取り扱い性を向上させる観点から、アルカリ処理を行った亜リン酸基導入繊維を水や有機溶媒により洗浄することが好ましい。
<酸処理工程>
微細繊維状セルロースを製造する場合、亜リン酸基を導入する工程と、後述する解繊処理工程の間に、繊維原料に対して酸処理を行ってもよい。本実施形態の一例としては、亜リン酸基導入工程、酸処理、アルカリ処理及び解繊処理をこの順で行う場合が挙げられる。
酸処理における酸溶液の温度は、特に限定されないが、たとえば5℃以上100℃以下が好ましく、20℃以上90℃以下がより好ましい。酸処理における酸溶液への浸漬時間は、特に限定されないが、たとえば5分以上120分以下が好ましく、10分以上60分以下がより好ましい。酸処理における酸溶液の使用量は、特に限定されないが、たとえば繊維原料の絶対乾燥質量に対して100質量%以上100000質量%以下であることが好ましく、1000質量%以上10000質量%以下であることがより好ましい。
酸処理の方法としては、特に限定されないが、たとえば酸を含有する酸性液中に繊維原料を浸漬する方法が挙げられる。使用する酸性液の濃度は、特に限定されないが、たとえば10質量%以下が好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。また、使用する酸性液のpHは、特に限定されないが、たとえば0から4が好ましく、1から3であることがより好ましい。酸性液に含まれる酸としては、たとえば無機酸、スルホン酸、カルボン酸等を用いることができる。無機酸としては、たとえば硫酸、硝酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、次亜塩素酸、亜塩素酸、塩素酸、過塩素酸、リン酸、ホウ酸等が挙げられる。スルホン酸としては、たとえばメタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等が挙げられる。カルボン酸としては、たとえばギ酸、酢酸、クエン酸、グルコン酸、乳酸、シュウ酸、酒石酸等が挙げられる。これらの中でも、塩酸又は硫酸を用いることがとくに好ましい。
<解繊処理(微細化)>
亜リン酸基導入繊維は、解繊処理工程で解繊処理することにより、微細繊維状セルロースが得られる。解繊処理工程においては、たとえば解繊処理装置を用いることができる。解繊処理装置は、特に限定されないが、たとえば湿式微粒化装置、高速解繊機、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザーや超高圧ホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機、ボールミル、ビーズミル、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナー、二軸混練機、振動ミル、高速回転下でのホモミキサー、超音波分散機、又はビーターなどを使用することができ、解繊処理時の微細繊維状セルロースの固形分濃度は適宜設定できる。上記解繊処理装置の中でも、粉砕メディアの影響が少なく、コンタミネーションのおそれが少ない湿式微粒化装置、高速解繊機、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザーを用いるのがより好ましい。解繊処理(微細化)の回数は特に限定されないが、十分な微細化を促すために複数回行うことが好ましい。上限は特に限定されないが10回以下であることが実際的である。
解繊処理工程においては、たとえば亜リン酸基導入繊維を、分散媒により希釈してスラリー状にすることが好ましい。分散媒としては、水、及び極性有機溶剤などの有機溶媒から選択される1種又は2種以上を使用することができる。極性有機溶剤としては、とくに限定されないが、たとえばアルコール類、多価アルコール類、ケトン類、エーテル類、エステル類、非プロトン極性溶媒等が好ましい。アルコール類としては、たとえばメタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブチルアルコール等が挙げられる。多価アルコール類としては、たとえばエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなどが挙げられる。ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)等が挙げられる。エーテル類としては、たとえばジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノn−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。エステル類としては、たとえば酢酸エチル、酢酸ブチル等が挙げられる。非プロトン性極性溶媒としてはジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF),ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチル−2−ピロリジノン(NMP)等が挙げられる。
<酵素処理>
本発明においては、酵素処理を行ってもよい。即ち、本発明のセルロース含有組成物は酵素を含んでいてもよい。また、本発明のセルロース含有組成物は、酵素が失活してなるタンパク質を含んでいてもよい。
本発明で用いることができる酵素は、セルラーゼ系酵素であり、セルロースの加水分解反応機能を有する触媒ドメインの高次構造に基づく糖質加水分解酵素ファミリーに分類される。セルラーゼ系酵素はセルロース分解特性によってエンド型グルカナーゼ(endo−glucanase)とセロビオヒドロラーゼ(cellobiohydrolase)に分類される。エンド型グルカナーゼはセルロースの非晶部分や可溶性セロオリゴ糖、又はカルボキシメチルセルロースのようなセルロース誘導体に対する加水分解性が高く、それらの分子鎖を内側からランダムに切断し、重合度を低下させる。しかし、エンド型グルカナーゼは結晶性を有するセルロースミクロフィブリルへの加水分解反応性は低い。これに対して、セロビオヒドロラーゼはセルロースの結晶部分を分解し、セロビオースを与える。また、セロビオヒドロラーゼはセルロース分子の末端から加水分解し、エキソ型或いはプロセッシブ酵素とも呼ばれる。本発明においては、エンド型グルカナーゼを使用することが好ましい。
本発明において使用する酵素としては、エンド型グルカナーゼ及びセロビオヒドロラーゼ以外に、ヘミセルラーゼ系酵素を使用してもよい。ヘミセルラーゼ系酵素の中でもキシランを分解する酵素であるキシラナーゼ(xylanase)、マンナンを分解する酵素であるマンナーゼ(mannase)、又はアラバンを分解する酵素であるアラバナーゼ(arabanase)が挙げられる。また、ペクチンを分解する酵素であるペクチナーゼもヘミセルラーゼ系酵素として使用することができる。ヘミセルラーゼ系酵素を産生する微生物はセルラーゼ系酵素も産生する場合が多い。
ヘミセルロースは植物細胞壁のセルロースミクロフィブリル間にあるペクチン類を除いた多糖類である。ヘミセルロースは多種多様で植物の種類や細胞壁の壁層間でも異なる。木材においては針葉樹の2次壁ではグルコマンナンが主成分であり、広葉樹の2次壁では4−O−メチルグルクロノキシランが主成分である。そのため、針葉樹から微細繊維を得るためにはマンナーゼを使用する方が好ましく、広葉樹の場合はキシラナーゼを使用する方が好ましい。
本発明によれば、酵素を添加する工程を含む、セルロース含有組成物の製造方法が提供される。微細繊維状セルロースに対して酵素を添加することにより、微細繊維状セルロースと酵素を反応させることができる。本発明においては、酵素処理後に、微細繊維状セルロースの洗浄工程を行わない形態を採用することができる。
本発明においては、酵素処理後に酵素を失活させてもよい。酵素を失活させるための方法としては、微細繊維状セルロースと酵素の混合物を加熱して100℃にし、温度を保ったまま30分〜1時間静置したり、微細繊維状セルロースと酵素の混合物に対し、強塩基を加えてpHを10以上に調整することなどが挙げられるが、特に限定されない。
上記したセルロース含有組成物の製造方法により、本発明のセルロース含有組成物を製造することができる。
繊維幅が1000nm以下であり、亜リン酸基又は亜リン酸基に由来する置換基を有する繊維状セルロース1質量部に対して添加する酵素の量は特に限定されないが、1×10-3質量部以下が好ましく、1×10-4質量部以下がより好ましく、1×10-5質量部以下がさらに好ましく、5.0×10-6質量部以下が特に好ましい。また、酵素の添加量は、繊維状セルロース1質量部に対して1×10-7質量部以上が好ましく、3×10-7質量部以上がより好ましく、1×10-6質量部以上がさらに好ましい。
酵素の添加量を上記の範囲内とすることにより、塗工物における粒(凝集物)を抑制することができる。
微細繊維状セルロースと酵素との反応時間は、特に限定されないが、一般的には1分〜24時間が好ましく、1分〜1時間がより好ましい。
微細繊維状セルロースと酵素の反応温度及び反応pHは、使用する酵素の至適温度及び至適pHに保つことが好ましく、一般的には、20℃〜80℃、pH4.5〜9.5に保つことが好ましい。
反応条件を上記の範囲内とすることにより、塗工物における粒(凝集物)を抑制することができる。
<粗大繊維状セルロース>
上述したように微細繊維状セルロースを得る工程においては、繊維原料(粗大繊維状セルロース)を微細化する工程を含むことが好ましい。このとき粗大繊維状セルロースの大部分は微細化されるが、その一部は微細化されずに残る場合がある。このような場合、本発明繊維状セルロース含有組成物には、粗大繊維状セルロースが含まれることとなる。
本発明の繊維状セルロース含有組成物中に含まれる粗大繊維状セルロースとは、セルロース分散液を固形分濃度0.2質量%に調整し、冷却高速遠心分離機(コクサン社、H−2000B)を用い、12000G、10分の条件で遠心分離した際に沈降する繊維状セルロースのことである。
沈降成分が少ないとはすなわち遠心分離後の上澄み液の収率が高いということである。この遠心分離後の上澄み収率が繊維状セルロースの全質量に対して、80質量%以上であることが好ましい。遠心分離後の上澄み収率は90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましく、99質量%以上であることが特に好ましい。
なお、上記の微細繊維状セルロース分散液の遠心分離後の上澄み収率は、本明細書においては以下の方法により測定することができる。
微細繊維状セルロース分散液を遠心分離した後の上澄み収率を以下に記載の方法により測定した。遠心分離後の上澄み収率は、微細繊維状セルロースの収率の指標となり、上澄み収率が高い程、微細繊維状セルロースの収率が高い。
微細繊維状セルロース分散液を固形分濃度0.2質量%に調整し、冷却高速遠心分離機(コクサン社、H−2000B)を用い、12000G、10分の条件で遠心分離した。得られた上澄み液を回収し、上澄み液の固形分濃度を測定した。下記式に基づいて、微細繊維状セルロースの収率を求めた。
微細繊維状セルロースの収率(%)=上澄みの固形分濃度(%)/0.2×100
本実施形態においては、微細繊維状セルロース分散液の遠心後の上澄み収率が高く、すなわち繊維状セルロース含有組成物中に粗大繊維の含有量が少ない点に特徴があり、微細繊維状セルロース分散液の遠心後の上澄み収率を上記範囲とすることにより、塗料に配合した際に、塗工物における粒(凝集物)を抑制することができる。
(特定成分)
本発明の繊維状セルロース含有組成物には、塗膜の像鮮明度を調節するために下記に記載する特定成分を含有させることができる。
<糖類>
特定成分としては、単糖類又は多糖類或いはそれらの糖アルコールが挙げられる。糖類(糖アルコールを除く)の中では、単糖類又は二糖類が好ましく、グルコース単位又はフルクトース単位を有するものが好ましく、グルコース単位を有するものがより好ましい。糖アルコールの中ではヘキシトールが好ましい。糖類の好ましいものとしては、トレハロース、マルトース、スクロース、ラクツロース、ラクトース、セロビオース、グルコース、フルクトース、マンノース、ガラクトース、アラビノース、キシロース、エリトリトール、グリセリン、イソマルト、ラクチトール、マルチトール、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、又はその誘導体等が挙げられ、なかでもトレハロース誘導体が好ましい。なお、本明細書で「誘導体」と称するときには、当該化合物の他、本発明の効果を損ねない範囲で、任意の置換基を導入した化合物や、当該化合物の一部を脱離したり環化したりした化合物、酸性基や塩基性基を導入した化合物、或いはそれらの塩を含む意味である。任意の置換基としては後記置換基Zの例が挙げられる。トレハロースに置換基を導入した誘導体としては、例えば、エステル(アシル化物)、硫酸エステルもしくはその塩、四級カチオン化物もしくはその塩等が挙げられる。アシル化物のアシル基をRYCO−で表すとき、RYの例として、後記置換基Zで挙げたアルキル基、ヒドロキシアルキル基、アリール基、アラルキル基等が挙げられる。
<水溶性化合物>
特定成分として水溶性化合物を用いることができ、これは水素結合を形成可能な官能基を有する分子量200以下の化合物であることが好ましい。上記官能基はカルボニル基又はアミノ基であることが好ましい。上記水溶性化合物は尿素誘導体であることが好ましい。具体的に尿素誘導体は下記式(A)で表される化合物もしくはその塩であることが好ましい。
21〜R24はそれぞれ独立に、水素原子又は1価の有機基を表す。1価の有機基としては、アルキル基(炭素数1〜12が好ましく、1〜6がより好ましく、1〜3がさらに好ましい。鎖状でも環状でもよく、直鎖でも分岐でもよい)、アルケニル基(炭素数2〜12が好ましく、2〜6がより好ましく、2〜3がさらに好ましい。鎖状でも環状でもよく、直鎖でも分岐でもよい)、アリール基(炭素数6〜22が好ましく、6〜18がより好ましく、6〜10がさらに好ましい)、アラルキル基(炭素数7〜23が好ましく、7〜19がより好ましく、7〜11がさらに好ましい。アルキレン部位は、鎖状でも環状でもよく、直鎖でも分岐でもよい)、カルバモイル基(炭素数1〜12が好ましく、1〜6がより好ましく、1〜3がさらに好ましい)、アシル基(炭素数2〜12が好ましく、2〜6がより好ましく、2〜3がさらに好ましい。アルキル部位は、鎖状でも環状でもよく、直鎖でも分岐でもよい)、アリーロイル基(炭素数7〜23が好ましく、7〜19がより好ましく、7〜11がさらに好ましい)が挙げられる。中でもR21〜R24は水素原子、メチル基、エチル基、フェニル基、ベンジル基、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、カルバモイル基であることが好ましく、水素原子がより好ましい。R21〜R24の2つ以上が水素原子であることが好ましく、R21〜R24の3つ以上が水素原子であることがより好ましく、R21〜R24のすべてが水素原子であることが特に好ましい。
上記1価の有機基は下記置換基Zを有していてもよい。例えば、上記アルキル基はヒドロキシ基を伴って、ヒドロキシアルキル基となっていてもよい。
21〜R24は互いに結合して環を形成していてもよい。環を形成するときに、下記の連結基Yを介在していてもよい。
Xは酸素原子又は硫黄原子を表し、酸素原子が好ましい。ただし、酸素原子又は硫黄原子は水素原子又はアルキル基(炭素数1〜12が好ましく、1〜6がより好ましく、1〜3がさらに好ましい)が置換して式(A)で表される化合物がイソ尿素構造をとっていてもよい。
式(A)で表される化合物が塩を構成するとき、その塩は特に限定されないが、例えば、塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩、硝酸塩等が挙げられる。
水溶性化合物の分子量は200以下であるが、150以下が好ましく、100以下がより好ましく、80以下が特に好ましい。下限値は40以上が実際的である。水溶性化合物の分子量はマススペクトルによって確認することができる。
水溶性化合物の具体例としては、尿素、チオ尿素、ビウレット、フェニル尿素、ベンジル尿素、ジメチル尿素、ジエチル尿素、テトラメチル尿素、ベンゾレイン尿素、ヒダントイン、もしくはその塩が挙げられ、中でも尿素もしくはその塩が好ましい。
水溶性化合物は水に溶解性を有する化合物であれば特に限定されないが、例えば、25℃のイオン交換水に0.5質量%以上溶解する化合物と定義することができ、1質量%以上溶解することが好ましく、10質量%以上溶解することがより好ましい。
<グアニジン誘導体>
特定成分としては下記式(B)で表される化合物もしくはその塩(本明細書では、これをグアニジン誘導体と呼ぶことがある)を用いることができる。
31〜R35はそれぞれ独立に、水素原子又は1価の置換基を表し、R31〜R35の3つ以上が水素原子であることが好ましく、R31〜R35の4つ以上が水素原子であることがより好ましく、R31〜R35のすべてが水素原子であることが特に好ましい。式(B)で表される化合物は塩を形成していることがより好ましい。なお、本発明で式(B)で表される化合物は溶液中でイオン(カチオン)として存在が確認されてもよく、これも本発明の好ましい範囲に含まれる態様である。
1価の置換基としては、アルキル基(炭素数1〜12が好ましく、1〜6がより好ましく、1〜3がさらに好ましい)、アリール基(炭素数6〜22が好ましく、6〜18がより好ましく、6〜10がさらに好ましい)、アラルキル基(炭素数7〜23が好ましく、7〜19がより好ましく、7〜11がさらに好ましい)、アシル基(炭素数2〜12が好ましく、2〜6がより好ましく、2〜3がさらに好ましい)、アリーロイル基(炭素数7〜23が好ましく、7〜19がより好ましく、7〜11がさらに好ましい)、アミノ基(炭素数0〜12が好ましく、0〜6がより好ましく、0〜3がさらに好ましい)、カルバモイル基(炭素数1〜12が好ましく、1〜6がより好ましく、1〜3がさらに好ましい)、アルキルスルホニル基(炭素数1〜12が好ましく、1〜6がより好ましく、1〜3がさらに好ましい)、アリールスルホニル基(炭素数6〜22が好ましく、6〜18がより好ましく、6〜10がさらに好ましい)、ホスホリル基(炭素数0〜12が好ましく、0〜6がより好ましく、0〜3がさらに好ましい)が挙げられる。1価の置換基は本発明の効果を損ねない範囲でさらに任意の下記置換基Zを有していてもよい。なお、上記置換基の規定において、アルキル部位もしくはアルキレン部位は環状でも鎖状でもよく、分岐でも直鎖でもよい。
形成される塩としては、塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩、硝酸塩、スルファミン酸塩、炭酸塩、イソチオシアン酸塩、酢酸塩等が挙げられる。中でも、塩酸塩、リン酸塩、スルファミン酸塩が好ましく、スルファミン酸塩が特に好ましい。
31〜R35は互いに結合して環を形成していてもよい。環を形成する際には下記の連結基Yを介在していてもよい。形成される環は縮環して式中の窒素原子を含む複素芳香族環を形成していてもよい。
<顔料分散剤>
特定成分としてはイオン性基を有する顔料分散剤(単に顔料分散剤と呼ぶことがある)を用いることができる。顔料分散剤は顔料(微細な固体)を分散媒体中に均一に分散させ安定な分散体を調製するために使用される成分である。
顔料分散剤は、例えば構造的には界面活性剤の一種であるが、特に、分散媒への親和性とともに、顔料などの固体表面に吸着するための機能を有するものが好ましい。さらに、顔料吸着作用、分散媒親和に加え、顔料の再凝集の防止や沈降生成抑止のために静電反発あるいは立体反発性(分散時の斥力付与)を併せ持つものがある。本発明では、この顔料吸着作用、分散媒親和作用、分散時の斥力付与作用を併せ持つものが好ましい。
これら3つの機能を併せ持つ顔料分散剤として、樹脂型の顔料分散剤が挙げられる。
樹脂型顔料分散剤としてはポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、(メタ)アクリル酸系樹脂で構成される高分子が例示され、側鎖にアミノ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、カルボン酸エステル基、アミド基、アンモニウム基、スルホ基、硫酸エステル基、ホスホリル基、リン酸基、カルバモイル基、スルファモイル基などの官能基をもつものが好ましい。
イオン性基を有する顔料分散剤の分子量は特に限定されないが、高分子量の化合物であることが好ましく、重量平均分子量1,000以上が好ましく、5,000以上がより好ましい。上限は、100,000以下が好ましく、60,000以下がより好ましい。なお、顔料分散剤の重量平均分子量(Mw)は、特に断らない限り、ゲルパーミエ―ションクロマトグラフ(GPC)により下記の条件で測定した値とする。
溶媒:テトラヒドロフラン(THF)
カラム:Shodex K806、K805、K803G
(昭和電工(株)製を3本接続して使用)
カラム温度:40℃
試料濃度:0.1質量%
検出器:RI Model 504(GLサイエンス社製)
ポンプ:L6000(日立製作所(株)製)
流量(流速):1.0ml/min
注入量:10μL
校正曲線:標準ポリスチレンSTK standard ポリスチレン(東ソー(株)製)Mw=500以上2,800,000以下迄の13サンプルによる校正曲線を使用した。13サンプルは、ほぼ等間隔に用いる。
イオン性基を有する顔料分散剤の酸価は特に限定されないが、5mgKOH/g以上が好ましく、10mgKOH/g以上がより好ましく、15mgKOH/g以上がさらに好ましく、20mgKOH/g以上がさらに好ましく、25mgKOH/g以上がさらに好ましく、30mgKOH/g以上が特に好ましい。酸価の上限としては、200mgKOH/g以下が好ましく、180mgKOH/g以下がより好ましく、150mgKOH/g以下がさらに好ましく、120mgKOH/g以下がさらに好ましく、100mgKOH/g以下が特に好ましい。
イオン性基を有する顔料分散剤のアミン価は特に限定されないが、5mgKOH/g以上が好ましく、10mgKOH/g以上がより好ましく、15mgKOH/g以上がさらに好ましく、20mgKOH/g以上がさらに好ましく、25mgKOH/g以上がさらに好ましく、30mgKOH/g以上が特に好ましい。アミン価の上限としては、200mgKOH/g以下が好ましく、180mgKOH/g以下がより好ましく、150mgKOH/g以下がさらに好ましく、120mgKOH/g以下がさらに好ましく、100mgKOH/g以下が特に好ましい。
イオン性基を有する顔料分散剤のイオン性基は特に限定されないが、カチオン基でもアニオン基でも酸もしくは塩基による解離性基でもよい。カチオン基としてはアミノ基、第四級アンモニウム基が挙げられる。アニオン基としてはスルホ基、カルボキシ基、硫酸エステル基、リン酸基が挙げられる。解離性基としてはアミド基が挙げられる。イオン性基は対イオンをもつ塩を形成していてもよい。イオン性基を有する顔料分散剤は、上記のカチオン基、アニオン基、解離性基を同時に分子内に有していてもよい。
イオン性基を有する顔料分散剤としては種々のものが挙げられるが、ポリマー分散剤としては、スチレン・無水マレイン酸共重合物、ナフタレンスルホン酸塩のホルマリン結合物、ポリ(メタ)アクリル酸塩、カルボキシメチルセルロース、オレフィン・無水マレイン酸共重合物、ポリスチレンスルホン酸塩、アクリルアミド・アクリル酸共重合物、アルギン酸ソーダ等のアニオン系ポリマー分散剤、ポリエチレンイミン、アミノアルキル(メタ)アクリレート共重合物、ポリビニルイミダゾリン、サトキンサン、(メタ)アクリレートアルカリ金属塩部位を有する樹脂(ポリマー)、(メタ)アクリル酸部位を有する樹脂、アルキロールアンモニウム塩部位を有する樹脂等のポリマー分散剤が挙げられる。これらのポリマー分散剤については、例えば、久司美登「分散剤」J.Jpn.Soc.Colour Mater.,78〔3〕(2005)pp.41−48を参照することができる。
中でも本発明においては、イオン性基を有する顔料分散剤が、アルキロールアンモニウム塩部位を有する樹脂、(メタ)アクリル酸部位を有する樹脂、又は(メタ)アクリレートアルカリ金属塩部位を有する樹脂であることが好ましく、ポリカルボン酸アルキロールアンモニウム塩や、酸基を含む共重合物のアルキロールアンモニウム塩、多官能ポリマーのアルキロールアンモニウム塩等のアルキロールアンモニウム塩、(メタ)アクリレート樹脂・カリウム塩等が特に好ましい。なお、本明細書において、(メタ)アクリレートというときには、アクリレートとメタクリレートの総称を意味する。
アルキロールアンモニウム塩部位は、酸性基(例えば、スルホ基、カルボキシ基、硫酸エステル基、ホスホリル基、又はリン酸等)とアルキロールアンモニウムとの反応部位であることが好ましい。アルキロールアンモニウム塩部位は下記の部分構造を有することが好ましい。
−C(=O)−N(−R41)(−R42−OH) 式(41)
ここで、R41は水素原子又はアルキル基(炭素数1〜12が好ましく、1〜6がより好ましく、1〜3がさらに好ましい)、R42はアルキレン基(炭素数1〜12が好ましく、1〜6がより好ましく、1〜3がさらに好ましい)である。R41及びR42はさらに本発明の効果を奏する範囲で置換基Zを有していてもよい。
アニオン基を有する顔料分散剤としては、下記式(42)の部分構造を有するポリマーであることが好ましい。
−C(=O)−O−M 式(42)
ここで、Mは水素原子又はアルカリ金属である。アルカリ金属はナトリウム又はカリウムであることが好ましい。なお、式中のOはアニオンとなり、Mがカチオンとなって塩を構成していてもよい。
アニオン基を有する顔料分散剤としては、下記式(43)の部分構造を有するポリマーであることもまた好ましい。
−C(=O)−O−L1−A 式(43)
Aは酸性基であり、スルホ基、カルボキシ基、硫酸エステル基、ホスホリル基、又はリン酸基であることが好ましい。この酸性基は塩を形成していてもよい。好ましい塩はアルカリ金属塩であり、ナトリウム塩又はカリウム塩が好ましい。L1は後記連結基Yであり、なかでもアルキレン基(炭素数1〜12が好ましく、1〜6がより好ましく、2又は3がさらに好ましい)が好ましい。
アルキロールアンモニウム塩部位を有する顔料分散剤としては、DISPERBYK、DISPERBYK−180、DISPERBYK−181、DISPERBYK−187、DISPERBYK−140、BYK−151、BYK−9076、BYK−W968、BYK−W969(いずれも商品名、ビック-ケミー社製)等を用いることができる。
(メタ)アクリレートカリウム塩部位を有する顔料分散剤としては、スルホプロピル(メタ)アクリレートカリウムをモノマーとして用いて合成したポリマー(コポリマーを含む)を用いることができる。
(メタ)アクリレート樹脂・カリウム塩としては、例えばDISPER−AW300P(大塚化学社製)等を用いることができる。
置換基Zとしては、アルキル基(炭素数1〜24が好ましく、炭素数1〜12がより好ましく、炭素数1〜6がさらに好ましい)、アラルキル基(炭素数7〜21が好ましく、炭素数7〜15がより好ましく、炭素数7〜11がさらに好ましい)、ヒドロキシ基、アミノ基もしくはその塩(炭素数0〜24が好ましく、炭素数0〜12がより好ましく、炭素数0〜6がさらに好ましい)、チオール基、カルボキシ基もしくはその塩、カルバモイル基もしくはその塩(炭素数1〜24が好ましく、炭素数1〜12がより好ましく、炭素数1〜6がさらに好ましい)、スルファモイル基もしくはその塩(炭素数0〜24が好ましく、炭素数0〜12がより好ましく、炭素数0〜6がさらに好ましい)、アリール基(炭素数6〜22が好ましく、炭素数6〜18がより好ましく、炭素数6〜10がさらに好ましい)、アシル基(炭素数2〜12が好ましく、炭素数2〜6がより好ましく、炭素数2又は3がさらに好ましい)、アシルオキシ基(炭素数2〜12が好ましく、炭素数2〜6がより好ましく、炭素数2又は3がさらに好ましい)、複素環基(炭素数2〜8がより好ましく、炭素数2〜5がさらに好ましい)、ハロゲン原子、第四級アンモニウム基もしくはその塩(炭素数3〜23が好ましく、炭素数3〜19がより好ましく、炭素数3〜11がさらに好ましい)などが挙げられる。
連結基Yとしては、アルキレン基(メチレン基、エチレン基、プロピレン基等)、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基、スルフィニル基、イミノ基(NRL)、及びそれらの組み合わせに係る連結基が挙げられる。RLは水素原子、メチル基、エチル基、又はプロピル基である。連結基Yに含まれる原子の数は1個以上12個以下が好ましく、1個以上6個以下がさらに好ましい。
特定成分の含有量は、繊維状セルロース100質量部に対して、600質量部以下であることが好ましく、400質量部以下であることがより好ましく、300質量部以下であることがさらに好ましく、200質量部以下であることが特に好ましい。また、特定成分の含有量は、繊維状セルロース100質量部に対して、1質量部以上であることが好ましく、5質量部以上であることがより好ましく、10質量部以上であることがさらに好ましく、15質量部以上であることが特に好ましい。粒の数を抑制する観点からは、特定成分の含有量は、その種類によってさらに好適な範囲を有する。たとえば上述した糖類、水溶性化合物、グアニジン誘導体、親水性ポリマーおよび顔料分散剤などについては、5質量部以上300質量部以下であることがより好ましく、10質量部以上250質量部以下であることがより好ましく、15質量部以上200質量部以下であることがさらに好ましく、20質量部以上170質量部以下であることが特に好ましい。
特定成分は一種のみを用いても二種以上を組み合わせて用いてよい。二種以上を用いる場合はその合計量が上記の範囲であることが好ましい。
(樹脂)
本発明の繊維状セルロース含有組成物は、例えば塗料とする場合、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、又は光硬化性樹脂などの樹脂をさらに含んでもよい。樹脂としては、例えば、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、芳香族ポリカーボネート系樹脂、脂肪族ポリカーボネート系樹脂、芳香族ポリエステル系樹脂、脂肪族ポリエステル系樹脂、脂肪族ポリオレフィン系樹脂、環状オレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、熱可塑性ポリイミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリスルホン系樹脂、非晶性フッ素系樹脂、ロジン系樹脂、ニトロセルロース、塩化ビニル系樹脂、塩化ゴム系樹脂、酢酸ビニル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられるがこれらに制限されない。
樹脂の含有量は、塗料とする場合には、繊維状セルロース1質量部に対して、30質量部以上であることが好ましく、70質量部以上であることがより好ましく、100質量部以上であることが特に好ましい。また、樹脂の含有量は、繊維状セルロース1質量部に対して、500質量部以下であることが好ましく、300質量部以下であることがより好ましく、200質量部以下であることが特に好ましい。樹脂を上記含有量となるように含有させることで、上記特定成分の効果を好適に発揮させ、塗工物における粒(凝集物)の抑制や、塗膜の弾性率や強度の好適化などを実現することができる。
(硬化剤)
本発明の繊維状セルロース含有組成物は、塗料とする場合、硬化剤を含有させることが好ましい。硬化剤としては、公知のものを適宜使用することができるが、例えば、イソシアネート系硬化剤(ポリイソシアネート等)、エポキシ(オキシラン)系硬化剤、オキセタン系硬化剤等が挙げられる。本発明においては、中でも、イソシアネート系硬化剤が好ましい。
硬化剤の含有量は、塗料とする場合には、繊維状セルロース1質量部に対して、10質量部以上であることが好ましく、20質量部以上であることがより好ましく、30質量部以上であることが特に好ましい。また、硬化剤の含有量は、繊維状セルロース1質量部に対して、100質量部以下であることが好ましく、80質量部以下であることがより好ましく、60質量部以下であることが特に好ましい。硬化剤を上記含有量となるように含有させることで、上記特定成分の効果を好適に発揮させ、塗工物における粒(凝集物)の抑制や、塗膜の弾性率の好適化などを実現することができる。
(任意成分)
本発明の繊維状セルロース含有組成物には、上述した成分以外の任意成分が含まれていてもよい。任意成分としては、たとえば、消泡剤、潤滑剤、紫外線吸収剤、染料、顔料、安定剤、界面活性剤、カップリング剤、無機層状化合物、無機化合物、レベリング剤、有機系粒子、帯電防止剤、磁性粉、配向促進剤、可塑剤、防腐剤、架橋剤等を挙げることができる。また、任意成分として、有機イオンを添加してもよい。
(繊維状セルロース含有組成物)
繊維状セルロースの含有量は、繊維状セルロース含有組成物が塗料である場合には、繊維状セルロース含有組成物中の固形分に対して、0.05質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましく、0.3質量%以上であることがさらに好ましい。また、繊維状セルロースの含有量は10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、2質量%以下であることがさらに好ましい。
繊維状セルロースの含有量は、繊維状セルロース含有組成物を増粘剤とする場合には、繊維状セルロース含有組成物の全量に対して、0.1質量%以上であることが好ましく、0.4質量%以上、1質量%以上、5質量%以上、10質量%以上、20質量%以上、30質量%以上、40質量%以上、50質量%以上、又は55質量%以上でもよい。また、繊維状セルロースの含有量は95質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましい。
増粘剤の用途においては、繊維状セルロースと特定成分と水との合計量が、繊維状セルロース含有組成物全体に対して80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることが特に好ましい。
本発明の繊維状セルロース含有組成物の形態は特に制限されるものではなく、例えば、粉体や、スラリー、固体といった種々の形態で存在することができる。中でも繊維状セルロース含有組成物は、スラリーであることが好ましく、高粘度スラリーであることがより好ましい。具体的には、繊維状セルロース含有組成物は、繊維状セルロースの固形分濃度を0.4質量%として23℃及び回転数3rpmの条件で測定した粘度が40,000mPa・s以下であることが好ましく、35,000mPa・s以下であることがより好ましく、30,000mPa・s以下であることがさらに好ましく、25,000mPa・s以下であることが特に好ましい。下限値としては、500mPa・s以上のスラリーであることが好ましく、5,000mPa・s以上のスラリーであることがより好ましく、8,000mPa・s以上のスラリーであることがさらに好ましく、10,000mPa・s以上のスラリーであることが特に好ましい。この粘度を上記の上限値以下とすることで、塗工物における粒(凝集物)の抑制を発揮し、好ましい。上記の下限値以上とすることで、塗膜としたときのヤング率や強度を好適化することができ好ましい。
繊維状セルロース含有組成物の粘度は、次のように測定する。繊維状セルロース含有組成物を固形分濃度が0.4質量%となるようにイオン交換水により希釈した後に、ディスパーザーにて1500rpmで5分間撹拌する。次いで、これにより得られた分散液の粘度をB型粘度計(BLOOKFIELD社製、アナログ粘度計T−LVT)を用いて測定する。測定条件は、回転速度3rpmとし、測定開始から3分後の粘度値を当該分散液の粘度とする。また、測定対象の分散液は測定前に23℃、相対湿度50%の環境下に一昼夜静置する。粘度の測定温度は23℃とする。その他の詳細な測定条件等は、JISZ8803:2011に準拠する。1水準につき5つの試料を調製し、各2回、合計10回の計測を行い、その算術平均値を採用する。
(塗膜)
本発明の繊維状セルロース含有組成物はこれを塗工して塗膜とすることが好ましい。塗膜の厚さは特に限定されないが、塗料としての利用形態を考慮するときには、1000μm以下であることが好ましく、500μm以下であることがより好ましく、300μm以下であることがさらに好ましく、100μm以下であることがさらに好ましく、80μm以下であることが特に好ましい。下限値としては、1μm以上が好ましく、5μm以上がより好ましく、10μm以上が特に好ましい。
塗膜のヤング率は特に限定されないが、より高いヤング率とすることを考慮するとき、例えば、0.3GPa以上であることが好ましく、0.5GPa以上であることがより好ましく、0.7GPa以上であることがさらに好ましく、0.8GPa以上であることが特に好ましい。上限値としては、8GPa以下であることが実際的である。本発明によれば、このような高いヤング率を達成できるため、高弾性率が要求される用途において好適に対応することができる。
塗膜のヤング率は、引張試験機テンシロン(エー・アンド・デイ社製)を用いて、つかみ具間の試験片長さを50mm、引張速度を5mm/分とする以外はJIS P 8113:2006に準拠して測定する。ヤング率を測定する際には、23℃、相対湿度50%で24時間調湿したものを試験片として用いる。測定は1水準につき5回行い、その平均値を採用する。
塗膜のヘーズは、特に限定されないが、4%以下であることが好ましく、3%以下であることがより好ましく、2%以下であることが特に好ましい。下限値は特にないが、0.1%以上であることが実際的である。
塗膜のヘーズは、JIS K 7136:2000に準拠し、ヘーズメータ(村上色彩技術研究所社製、HM−150)を用いて測定される値である。
(膜の製造方法)
増粘剤、塗料、膜等の製造工程は、特に限定されない。
増粘剤は、繊維幅が1000nm以下であり、亜リン酸基又は亜リン酸基に由来する置換基を有する繊維状セルロースを含む分散液(スラリー状の場合がある)と、特定成分もしくはこれを含む溶液と、必要により他の成分(例えば水)とを混合することにより製造することができる。
塗料は、微細繊維状セルロース(分散液であってもよい)と、特定成分(溶液であってもよい)と、樹脂(例えばアクリル樹脂)と、硬化剤(例えばポリイソシアネート)と、必要により他の成分(例えば有機溶媒)とを混合することにより製造することができる。
膜は、微細繊維状セルロースと特定成分とを含む組成物(例えば、上記した塗料又は増粘剤など)を塗布して、塗膜を形成することにより製造することができる。具体的には、例えば、微細繊維状セルロースと特定成分とを含む組成物を基材上に塗工する工程とこれを乾燥する工程により塗膜を形成することができる。
上記で形成した塗膜は基材から剥離して、シートにしてもよい。
また、シートは、微細繊維状セルロースと特定成分とを含む組成物(上記した塗料又は増粘剤でもよい)を抄紙することにより製造してもよい。
<塗工工程>
塗工工程は、微細繊維状セルロースと特定成分とを含む組成物(上記した塗料又は増粘剤でもよい)を基材上に塗工する工程である。
シートを製造する場合には、塗工装置と長尺の基材を用いることで、シートを連続的に生産することができる。
塗工工程で用いる基材の材質は、特に限定されないが、組成物に対する濡れ性が高いものの方が乾燥時のシートの収縮等を抑制することができて良いが、乾燥後に形成されたシートが容易に剥離できるものを選択することが好ましい。中でも樹脂製のフィルムや板または金属製のフィルムや板が好ましいが、特に限定されない。例えばアクリル、ポリエチレンテレフタレート、塩化ビニル、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニリデン等の樹脂のフィルムや板、アルミ、亜鉛、銅、鉄板の金属のフィルムや板、および、それらの表面を酸化処理したもの、ステンレスのフィルムや板、真ちゅうのフィルムや板等を用いることができる。
塗工工程において、塗工される組成物の粘度が低く、基材上で展開してしまう場合、所定の厚み、坪量のシートを得るため、基材上に堰止用の枠を固定して使用してもよい。堰止用の枠の質は特に限定されないが、乾燥後に付着するシートの端部が容易に剥離できるものを選択することが好ましい。中でも樹脂板又は金属板を成形したものが好ましいが、特に限定されない。例えばアクリル板、ポリエチレンテレフタレート板、塩化ビニル板、ポリスチレン板、ポリプロピレン板、ポリ塩化ビニリデン板等の樹脂板や、アルミ板、亜鉛板、銅板、鉄板等の金属板及び、それらの表面を酸化処理したもの、ステンレス板、真ちゅう板等を成形したものを用いることができる。
組成物を塗工する塗工機としては、例えば、アプリケーター、ロールコーター、グラビアコーター、ダイコーター、カーテンコーター、エアドクターコーター等を使用することができる。厚みをより均一にできることから、アプリケーター、ダイコーター、カーテンコーター、スプレーコーターが好ましい。
塗工温度は特に限定されないが、20℃以上45℃以下であることが好ましく、25℃以上40℃以下であることがより好ましく、27℃以上35℃以下であることがさらに好ましい。塗工温度が上記下限値以上であれば、組成物を容易に塗工でき、上記上限値以下であれば、塗工中の分散媒の揮発を抑制できる。
塗工工程においては、シートの仕上がり坪量が10g/m2以上100g/m2以下、好ましくは20g/m2以上60g/m2以下になるように組成物を塗工することが好ましい。坪量が上記範囲内となるように塗工することで、強度に優れたシートが得られる。
塗工工程は、基材上に塗工した組成物を乾燥させる工程を含むことが好ましい。乾燥方法としては、特に限定されないが、非接触の乾燥方法でも、シートを拘束しながら乾燥する方法の何れでもよく、これらを組み合わせてもよい。
非接触の乾燥方法としては、特に限定されないが、熱風、赤外線、遠赤外線又は近赤外線により加熱して乾燥する方法(加熱乾燥法)、真空にして乾燥する方法(真空乾燥法)を適用することができる。加熱乾燥法と真空乾燥法を組み合わせてもよいが、通常は、加熱乾燥法が適用される。赤外線、遠赤外線又は近赤外線による乾燥は、赤外線装置、遠赤外線装置又は近赤外線装置を用いて行うことができるが、特に限定されない。加熱乾燥法における加熱温度は特に限定されないが、20℃以上150℃以下とすることが好ましく、25℃以上105℃以下とすることがより好ましい。加熱温度を上記下限値以上とすれば、分散媒を速やかに揮発させることができ、上記上限値以下であれば、加熱に要するコストの抑制及び微細繊維状セルロースが熱によって変色することを抑制できる。
<抄紙工程>
シートを製造する場合、シートの製造工程は、微細繊維状セルロースと特定成分とを含む組成物(上記した塗料又は増粘剤でもよい)を抄紙する工程を含んでもよい。抄紙工程で抄紙機としては、長網式、円網式、傾斜式等の連続抄紙機、これらを組み合わせた多層抄き合わせ抄紙機等が挙げられる。抄紙工程では、手抄き等公知の抄紙を行ってもよい。
抄紙工程では、上記組成物をワイヤー上で濾過、脱水して湿紙状態のシートを得た後、プレス、乾燥することでシートを得る。上記組成物を濾過、脱水する場合、濾過時の濾布としては特に限定されないが、微細繊維状セルロースや防腐剤は通過せず、かつ濾過速度が遅くなりすぎないことが重要である。このような濾布としては特に限定されないが、有機ポリマーからなるシート、織物、多孔膜が好ましい。有機ポリマーとしては特に限定されないが、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のような非セルロース系の有機ポリマーが好ましい。具体的には孔径0.1μm以上20μm以下、例えば1μmのポリテトラフルオロエチレンの多孔膜、孔径0.1μm以上20μm以下、例えば1μmのポリエチレンテレフタレートやポリエチレンの織物等が挙げられるが、特に限定されない。
上記組成物からシートを製造する方法としては、特に限定されないが、例えばWO2011/013567に記載の製造装置を用いる方法等が挙げられる。この製造装置は、微細繊維状セルロースを含む組成物を無端ベルトの上面に吐出し、吐出された組成物から分散媒を搾水してウェブを生成する搾水セクションと、ウェブを乾燥させて繊維シートを生成する乾燥セクションとを備えている。搾水セクションから乾燥セクションにかけて無端ベルトが配設され、搾水セクションで生成されたウェブが無端ベルトに載置されたまま乾燥セクションに搬送される。
採用できる脱水方法としては特に限定されないが、紙の製造で通常に使用している脱水方法が挙げられ、長網、円網、傾斜ワイヤーなどで脱水した後、ロールプレスで脱水する方法が好ましい。また、乾燥方法としては特に限定されないが、紙の製造で用いられている方法が挙げられ、例えば、シリンダードライヤー、ヤンキードライヤー、熱風乾燥、近赤外線ヒーター、赤外線ヒーターなどの方法が好ましい。
(積層体)
上述した工程で得られた塗膜又はシートに、さらに他の層を積層して積層体を形成してもよい。このような他の層は、塗膜又はシートの両表面上に設けられていてもよいが、塗膜又はシートの一方の面上にのみ設けられていてもよい。塗膜又はシートの少なくとも一方の面上に積層される他の層としては、例えば、樹脂層や無機層を挙げることができる。
積層体の具体例としては、例えば、塗膜又はシートの少なくとも一方の面上に樹脂層が直接積層された積層体や、塗膜又はシートの少なくとも一方の面上に無機層が直接積層された積層体、樹脂層、塗膜又はシート、無機層がこの順で積層された積層体、塗膜又はシート、樹脂層、無機層がこの順で積層された積層体、塗膜又はシート、無機層、樹脂層がこの順で積層された積層体を挙げることができる。積層体の層構成は上記に限定されるものではなく、用途に応じて種々の態様とすることができる。
<樹脂層>
樹脂層は、天然樹脂や合成樹脂を主成分とする層である。ここで、主成分とは、樹脂層の全質量に対して、50質量%以上含まれている成分を指す。樹脂の含有量は、樹脂層の全質量に対して、60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましく、90質量%以上であることが特に好ましい。なお、樹脂の含有量は、100質量%とすることもでき、95質量%以下であってもよい。
天然樹脂としては、例えば、ロジン、ロジンエステル、水添ロジンエステル等のロジン系樹脂を挙げることができる。
合成樹脂としては、例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリウレタン樹脂及びアクリル樹脂から選択される少なくとも1種であることが好ましい。中でも、合成樹脂はポリカーボネート樹脂及びアクリル樹脂から選択される少なくとも1種であることが好ましく、ポリカーボネート樹脂であることがより好ましい。なお、アクリル樹脂は、ポリアクリロニトリル及びポリ(メタ)アクリレートから選択される少なくともいずれか1種であることが好ましい。
樹脂層を構成するポリカーボネート樹脂としては、例えば、芳香族ポリカーボネート系樹脂、脂肪族ポリカーボネート系樹脂が挙げられる。これらの具体的なポリカーボネート系樹脂は公知であり、例えば特開2010−023275号公報に記載されたポリカーボネート系樹脂が挙げられる。
樹脂層を構成する樹脂は1種を単独で用いてもよく、複数の樹脂成分が共重合又は、グラフト重合してなる共重合体を用いてもよい。また、複数の樹脂成分を物理的なプロセスで混合したブレンド材料として用いてもよい。
塗膜又はシートと樹脂層の間には、接着層が設けられていてもよく、また接着層が設けられておらず、塗膜又はシートと樹脂層が直接密着をしていてもよい。塗膜又はシートと樹脂層の間に接着層が設けられる場合は、接着層を構成する接着剤として、例えば、アクリル系樹脂を挙げることができる。また、アクリル系樹脂以外の接着剤としては、例えば、塩化ビニル樹脂、(メタ)アクリル酸エステル樹脂、スチレン/アクリル酸エステル共重合体樹脂、酢酸ビニル樹脂、酢酸ビニル/(メタ)アクリル酸エステル共重合体樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、エチレン/酢酸ビニル共重合体樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、エチレンビニルアルコール共重合体樹脂や、SBR、NBR等のゴム系エマルジョンなどが挙げられる。
塗膜又はシートと樹脂層の間に接着層が設けられていない場合は、樹脂層が密着助剤を有してもよく、また、樹脂層の表面に親水化処理等の表面処理を行ってもよい。
密着助剤としては、例えば、イソシアネート基、カルボジイミド基、エポキシ基、オキサゾリン基、アミノ基及びシラノール基から選択される少なくとも1種を含む化合物や、有機ケイ素化合物が挙げられる。中でも、密着助剤はイソシアネート基を含む化合物(イソシアネート化合物)及び有機ケイ素化合物から選択される少なくとも1種であることが好ましい。有機ケイ素化合物としては、例えば、シランカップリング剤縮合物や、シランカップリング剤を挙げることができる。
なお、親水化処理以外の表面処理の方法としては、コロナ処理、プラズマ放電処理、UV照射処理、電子線照射処理、火炎処理等を挙げることができる。
<無機層>
無機層を構成する物質としては、特に限定されないが、例えばアルミニウム、ケイ素、マグネシウム、亜鉛、錫、ニッケル、チタン;これらの酸化物、炭化物、窒化物、酸化炭化物、酸化窒化物、もしくは酸化炭化窒化物;又はこれらの混合物が挙げられる。高い防湿性が安定に維持できるとの観点からは、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化炭化ケイ素、酸化窒化ケイ素、酸化炭化窒化ケイ素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化炭化アルミニウム、酸化窒化アルミニウム、又はこれらの混合物が好ましい。
無機層の形成方法は、特に限定されない。一般に、薄膜を形成する方法は大別して、化学的気相成長法(Chemical Vapor Deposition、CVD)と物理成膜法(Physical Vapor Deposition、PVD)とがあるが、いずれの方法を採用してもよい。CVD法としては、具体的には、プラズマを利用したプラズマCVD、加熱触媒体を用いて材料ガスを接触熱分解する触媒化学気相成長法(Cat−CVD)等が挙げられる。PVD法としては、具体的には、真空蒸着、イオンプレーティング、スパッタリング等が挙げられる。
また、無機層の形成方法としては、原子層堆積法(Atomic Layer Deposition、ALD)を採用することもできる。ALD法は、形成しようとする膜を構成する各元素の原料ガスを、層を形成する面に交互に供給することにより、原子層単位で薄膜を形成する方法である。成膜速度が遅いという欠点はあるが、プラズマCVD法以上に、複雑な形状の面でもきれいに覆うことができ、欠陥の少ない薄膜を成膜することが可能であるという利点がある。また、ALD法には、膜厚をナノオーダーで制御することができ、広い面を覆うことが比較的容易である等の利点がある。さらにALD法は、プラズマを用いることにより、反応速度の向上、低温プロセス化、未反応ガスの減少が期待できる。
(用途)
本発明のセルロース含有組成物は、増粘剤として各種用途に使用することができる。
また、本発明の繊維状セルロース含有組成物は、例えば、塗料、樹脂、エマルジョン、水硬性材料(セメント)、又はゴムと混合し補強材として使用してもよい。
本発明のセルロース含有組成物を用いて、各種の塗膜又はシートを作製してもよい。
シートは、各種のディスプレイ装置、各種の太陽電池、等の光透過性基板の用途に適している。また、電子機器の基板、家電の部材、各種の乗り物や建物の窓材、内装材、外装材、包装用資材等の用途にも適している。さらに、糸、フィルタ、織物、緩衝材、スポンジ、研磨材などの他、シートそのものを補強材として使う用途にも適している。
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。なお、以下の実施例では説明の便宜を考慮し、微細繊維状セルロースを処理したスラリーを分散液と称し、これと特定成分とを含むものを繊維状セルロース含有組成物と称する。そして、繊維状セルロース含有組成物と樹脂と硬化剤等を配合したものを塗料と称する。しかしながら、これにより本発明の範囲が限定して解釈されるものではない。例えば、塗料などの微細繊維状セルロースと特定成分とその他の成分とを含有するものも、本発明の繊維状セルロース含有組成物の範囲に包含される。
<微細繊維状セルロース分散液(1)の製造>
(亜リン酸化工程)
原料パルプとして、王子製紙製の針葉樹クラフトパルプ(固形分93質量%、坪量245g/m2シート状、離解してJIS P 8121に準じて測定されるカナダ標準濾水度(CSF)が700ml)を使用した。
この原料パルプに対してリンオキソ酸化処理を次のようにして行った。まず、上記原料パルプ100質量部(絶乾質量)に、亜リン酸(ホスホン酸)と尿素の混合水溶液を添加して、亜リン酸(ホスホン酸)33質量部、尿素120質量部、水150質量部となるように調製し、薬液含浸パルプを得た。次いで、得られた薬液含浸パルプを165℃の熱風乾燥機で250秒加熱し、パルプ中のセルロースに亜リン酸基を導入し、亜リン酸化パルプを得た。
次いで、得られた亜リン酸化パルプに対して洗浄処理を行った。洗浄処理は、亜リン酸化パルプ100g(絶乾質量)に対して10Lのイオン交換水を注いで得たパルプ分散液を、パルプが均一に分散するよう撹拌した後、濾過脱水する操作を繰り返すことにより行った。ろ液の電気伝導度が100μS/cm以下となった時点で、洗浄終点とした。
次いで、洗浄後の亜リン酸化パルプに対して中和処理を次のようにして行った。まず、洗浄後の亜リン酸化パルプを10Lのイオン交換水で希釈した後、撹拌しながら1Nの水酸化ナトリウム水溶液を少しずつ添加することにより、pHが12以上13以下の亜リン酸化パルプスラリーを得た。次いで、当該亜リン酸化パルプスラリーを脱水して、中和処理が施された亜リン酸化パルプを得た。次いで、中和処理後の亜リン酸化パルプに対して、上記洗浄処理を行った。
これにより得られた亜リン酸化パルプに対しFT−IRを用いて赤外線吸収スペクトルの測定を行った。その結果、1210cm-1付近に亜リン酸基の互変異性体であるホスホン酸基のP=Oに基づく吸収が観察され、パルプに亜リン酸基(ホスホン酸基)が付加されていることが確認された。また、得られた亜リン酸化パルプを供試して、X線回折装置にて分析を行ったところ、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークが確認され、セルロースI型結晶を有していることが確認された。なお、得られた亜リン酸化パルプについて、後述する〔亜リン酸基量の測定〕に記載の測定方法で測定される亜リン酸基量(第1解離酸量)は1.51mmol/gだった。なお、総解離酸量は、1.54mmol/gであった。
(解繊処理)
得られた亜リン酸化パルプにイオン交換水を添加し、固形分濃度が2質量%のスラリーを調製した。このスラリーを、湿式微粒化装置(スギノマシン社製、スターバースト)で200MPaの圧力にて3回処理し、微細繊維状セルロースを含む微細繊維状セルロース分散液(1)を得た。X線回折により、この微細繊維状セルロースがセルロースI型結晶を維持していることが確認された。また、微細繊維状セルロースの繊維幅を下記の測定方法に準じて透過型電子顕微鏡を用いて測定したところ、3〜5nmであった。
なお、上記微細繊維状セルロースの0.4質量%粘度を測定したところ22400[mPa・s]であった。
<繊維幅の測定>
微細繊維状セルロースの繊維幅を下記の方法で測定した。
湿式微粒化装置にて処理をして得られた上記微細繊維状セルロース分散液の上澄み液を、微細繊維状セルロースの濃度が0.01質量%以上0.1質量%以下となるように水で希釈し、親水化処理したカーボングリッド膜に滴下した。これを乾燥した後、酢酸ウラニルで染色し、透過型電子顕微鏡(日本電子社製、JEOL−2000EX)により観察した。
<微細繊維状セルロース分散液(2)の製造>
微細繊維状セルロース分散液(1)に、微細繊維状セルロース1質量部に対して、酵素含有液(AB Enzymes社製、 ECOPULP R、酵素含有量は約5質量%)を3.0×10-6質量部添加し、18,500回転で2分間撹拌した。これを回収し、微細繊維状セルロース分散液(2)を得た。微細繊維状セルロース分散液(2)は酵素を含む。
なお、上記微細繊維状セルロースの0.4質量%粘度を測定したところ9200[mPa・s]であった。
各微細繊維状セルロースの物性は下記の手順にしたがって測定した。その結果を上記の表1に記載した。
<亜リン酸基量の測定>
微細繊維状セルロースの亜リン酸基量は、対象となる微細繊維状セルロースを含む微細繊維状セルロース分散液をイオン交換水で含有量が0.2質量%となるように希釈して作製した繊維状セルロース含有スラリーに対し、イオン交換樹脂による処理を行った後、アルカリを用いた滴定を行うことにより測定した。
イオン交換樹脂による処理は、上記繊維状セルロース含有スラリーに体積で1/10の強酸性イオン交換樹脂(アンバージェット1024;オルガノ株式会社、コンディショング済)を加え、1時間振とう処理を行った後、目開き90μmのメッシュ上に注いで樹脂とスラリーを分離することにより行った。
また、アルカリを用いた滴定は、イオン交換樹脂による処理後の繊維状セルロース含有スラリーに、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を5秒に10μLずつ加えながら、スラリーが示すpHの値の変化を計測することにより行った。なお、滴定開始の15分前から窒素ガスをスラリーに吹き込みながら滴定を行った。この中和滴定では、アルカリを加えた量に対して測定したpHをプロットした曲線において、増分(pHのアルカリ滴下量に対する微分値)が極大となる点が二つ観測される。これらのうち、アルカリを加えはじめて先に得られる増分の極大点を第1終点と呼び、次に得られる増分の極大点を第2終点と呼ぶ(図1)。滴定開始から第1終点までに必要としたアルカリ量が、滴定に使用したスラリー中の第1解離酸量と等しくなる。また、滴定開始から第2終点までに必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中の総解離酸量と等しくなる。なお、滴定開始から第1終点までに必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象スラリー中の固形分(g)で除した値を亜リン酸基量(mmol/g)とした。
<微細繊維状セルロース分散液の粘度の測定>
微細繊維状セルロース分散液の粘度は、次のように測定した。まず、微細繊維状セルロース分散液を固形分濃度が0.4質量%となるようにイオン交換水により希釈した後に、ディスパーザーにて1500rpmで5分間撹拌した。次いで、これにより得られた分散液の粘度をB型粘度計(BLOOKFIELD社製、アナログ粘度計T−LVT)を用いて測定した。測定条件は、回転速度3rpmとし、測定開始から3分後の粘度値を当該分散液の粘度とした。また、測定対象の分散液は測定前に23℃、相対湿度50%の環境下に一昼夜静置した。粘度の測定温度は23℃とした。その他の詳細な測定条件等は、JISZ8803:2011に準拠した。1水準につき5つの試料を調製し、各2回、合計10回の計測を行い、その算術平均値を採用した。
<微細繊維状セルロース分散液の遠心分離後の上澄み収率の測定>
微細繊維状セルロース分散液を遠心分離した後の上澄み収率を以下に記載の方法により測定した。遠心分離後の上澄み収率は、微細繊維状セルロースの収率の指標となり、上澄み収率が高い程、微細繊維状セルロースの収率が高い。
微細繊維状セルロース分散液を固形分濃度0.2質量%に調整し、冷却高速遠心分離機(コクサン社、H−2000B)を用い、12000G、10分の条件で遠心分離した。得られた上澄み液を回収し、上澄み液の固形分濃度を測定した。下記式に基づいて、微細繊維状セルロースの収率を求めた。
上澄み収率(%)=上澄みの固形分濃度(%)/0.2×100
1水準につき5つの試料を調製し、各2回、合計10回の測定を行い、その算術平均値を採用した。
<実施例1>
(繊維状セルロース含有組成物の調製)
トレハロース(和光純薬工業社製)にイオン交換水を加え固形分濃度2質量%の水溶液とした。
固形分濃度が2質量%の微細繊維状セルロース分散液(1)100gをビーカーに取り、そこにイオン交換水360g、2質量%のトレハロース水溶液40gを添加した。添加はT.K.ホモディスパー(特殊機化工業製)で1500rpmにて撹拌しながら行い、トレハロース添加後さらに5分間撹拌を行なった後、脱泡装置(シンキー社製、自転・公転ミキサーAR−250)にて脱泡処理を行なった。
これにより、微細繊維状セルロースの固形分濃度が0.4質量%、トレハロースの固形分濃度が0.16%、微細繊維状セルロース対トレハロース100対40(質量比)である繊維状セルロース含有組成物を得た。
(繊維状セルロース含有組成物の粘度の測定)
得られた繊維状セルロース含有組成物の粘度は、23℃、相対湿度50%の環境下に一昼夜静置した後、B型粘度計(BLOOKFIELD社製、アナログ粘度計T−LVT)を用いて測定した。測定条件は、回転速度3rpmとし、測定開始から3分後の粘度値を当該分散液の粘度とした。粘度の測定温度は23℃とした。その他の詳細な測定条件等は、JISZ8803:2011に準拠した。1水準につき5つの試料を調製し、各2回、合計10回の計測を行い、その算術平均値を採用した。
(塗料の調製)
得られた繊維状セルロース含有組成物24.8gをビーカーにはかりとり、イオン交換水34.6g、アクリル樹脂(DIC社、品名:バーノック WD−551、固形分濃度44.1%)35.1g、硬化剤(DIC社製、品名:バーノック DNW−5500、ポリイソシアネート、固形分濃度79.8%)5.5gの順に添加した。添加はT.K.ホモディスパー(特殊機化工業製)で1500rpmにて撹拌しながら行ない、全て添加後さらに5分間撹拌を行なった後、脱泡装置(シンキー社製、自転・公転ミキサーAR−250)にて脱泡処理を行なった。
このようにして、固形分比アクリル樹脂:78、硬化剤:22、微細繊維状セルロース:0.5、トレハロース:0.2(質量比)であり、全固形分の濃度が20質量%である評価用塗料を得た。
<実施例2>
トレハロースの代わりに尿素(和光純薬工業社製)の2質量%水溶液を用いた以外は実施例1と同様にして、評価用塗料を得た。
<実施例3>
トレハロースの代わりにリン酸グアニジン(三和ケミカル社製、品名:アピノン307)の2質量%水溶液を用いた以外は実施例1と同様にして、評価用塗料を得た。
<実施例4>
トレハロースの代わりに塩酸グアニジン(三和ケミカル社製、品名:GH−L)の2質量%水溶液を用いた以外は実施例1と同様にして、評価用塗料を得た。
<実施例5>
トレハロースの代わりにスルファミン酸グアニジン(三和ケミカル社製、品名:アピノン145)の2質量%水溶液を用いた以外は実施例1と同様にして、評価用塗料を得た。
<実施例6>
トレハロースの代わりに顔料分散剤DISPWERBYK−187(ビック−ケミー社製、アルキロールアンモニウム塩/酸価:35mgKOH/g アミン価:35mgKOH/g)の2質量%水溶液を用いた以外は実施例1と同様にして、評価用塗料を得た。
<実施例7>
トレハロースの代わりに顔料分散剤DISPWERBYK−180(ビック−ケミー社製、アルキロールアンモニウム塩/酸価:94mgKOH/g アミン価:94mgKOH/g)の2質量%水溶液を用いた以外は実施例1と同様にして、評価用塗料を得た。
<実施例8>
トレハロースの代わりに顔料分散剤DISPWERBYK(ビック−ケミー社製、アルキロールアンモニウム塩/酸価:85mgKOH/g アミン価:85mgKOH/g)の2質量%水溶液を用いた以外は実施例1と同様にして、評価用塗料を得た。
<実施例9>
トレハロースの代わりに顔料分散剤DISPER−AW300P(大塚化学社製、メタクリレート樹脂・カリウム塩/酸価:120mgKOH/g)の2質量%水溶液を用いた以外は実施例1と同様にして、評価用塗料を得た。
<実施例10>
繊維状セルロース含有組成物中の微細繊維状セルロース対トレハロースの固形分比を100対20(質量比)とし、塗料調製での取り量を繊維状セルロース含有組成物24.9g、イオン交換水34.5g、アクリル樹脂を35.2g、とした以外は実施例1と同様にして評価用塗料を得た。
(得られた評価用塗料の固形分比はアクリル樹脂:78、硬化剤:22、微細繊維状セルロース:0.5、トレハロース:0.1(質量比)である。)
<実施例11>
繊維状セルロース含有組成物中の微細繊維状セルロース対トレハロースの固形分比を100対160(質量比)とし、塗料調製での取り量を水分散体24.7g、イオン交換水35g、アクリル樹脂を34.9g、硬化剤を5.4gとした以外は実施例1と同様にして評価用塗料を得た。
(得られた評価用塗量の固形分比はアクリル樹脂:78、硬化剤:22、微細繊維状セルロース:0.5、トレハロース:0.8(質量比)である。)
<実施例12>
固形分濃度が0.4質量%の微細繊維状セルロース分散液(2)24.9gをビーカーに取り、イオン交換水34.4g、アクリル樹脂35.2g、硬化剤5.5gの順に添加した。添加はT.K.ホモディスパー(特殊機化工業製)で1500rpmにて撹拌しながら行ない、全て添加後さらに5分間撹拌を行なった。
このようにして、固形分比アクリル樹脂:78、硬化剤:22、微細繊維状セルロース:0.5(質量比)の評価用塗料を得た。実施例12の繊維状セルロース含有組成物は酵素を含む。
<実施例13>
微細繊維状セルロース分散液(2)を用いた以外は実施例1と同様にして、評価用塗料を得た。実施例13の繊維状セルロース含有組成物は酵素を含む。
<実施例14>
微細繊維状セルロース分散液(2)を用いた以外は実施例3と同様にして、評価用塗料を得た。実施例14の繊維状セルロース含有組成物は酵素を含む。
<実施例15>
微細繊維状セルロース分散液(2)を用いた以外は実施例6と同様にして、評価用塗料を得た。実施例15の繊維状セルロース含有組成物は酵素を含む。
<比較例1>
微細繊維状セルロース分散液(1)を用いた以外は実施例15と同様にして評価用塗料を得た。
<比較例2>
あらかじめ微細繊維状セルロース分散液とリン酸グアニジンを混合せず、次のような手順で塗料を調製した以外は実施例3と同様にして評価用塗料を得た。
まずアクリル樹脂35.1gをビーカーにはかりとり、イオン交換水32.6g、固形分濃度が0.4質量%の微細繊維状セルロース分散液(1)24.8g、リン酸グアニジンの2質量%水溶液を2g、硬化剤5.5gの順で添加した。添加はT.K.ホモディスパー(特殊機化工業製)で1500rpmにて撹拌しながら行い、全てを添加後、さらに5分間撹拌を行なった後、自脱泡装置(シンキー社製、自転・公転ミキサーAR−250)にて脱泡処理を行なった。
<比較例3>
あらかじめ微細繊維状セルロース分散液とリン酸グアニジンを混合せず、次のような手順で塗料を調製した以外は実施例3と同様にして評価用塗料を得た。
アクリル樹脂35.1gをビーカーにはかりとり、イオン交換水32.6g、リン酸グアニジンの2質量%水溶液を2g、固形分濃度が0.4質量%の微細繊維状セルロース分散液(1)24.8g、硬化剤5.5gの順で添加した。添加はT.K.ホモディスパー(特殊機化工業製)で1500rpmにて撹拌しながら行い、全てを添加後さらに5分間撹拌を行なった後、自脱泡装置(シンキー社製、自転・公転ミキサーAR−250)にて脱泡処理を行なった。
<比較例4>
次のような手順で塗料を調製した以外は実施例3と同様にして評価用塗料を得た。
アクリル樹脂35.1gをビーカーにはかりとり、微細繊維状セルロースの固形分濃度が0.4質量%、イオン交換水34.6g、トレハロース含有の繊維状セルロース含有組成物(微細繊維状セルロース固形分濃度:0.4%、トレハロースの固形分濃度:0.08%、微細繊維状セルロース対トレハロースの固形分比が100対40)を24.8g、硬化剤5.5gの順で添加した。添加はT.K.ホモディスパー(特殊機化工業製)で1500rpmにて撹拌しながら行い、全てを添加後さらに5分間撹拌を行なった後、自脱泡装置(シンキー社製、自転・公転ミキサーAR−250)にて脱泡処理を行なった。
<参考例>
微細繊維状セルロース分散液を添加せず、塗料調製での取り量をアクリル樹脂35.2g、イオン交換水34.4g、硬化剤5.5gとし、またこの順で添加した以外は実施例1と同様にして、評価用塗料を得た。
(得られた評価用塗量の固形分比はアクリル樹脂:78、硬化剤:22(質量比)である。)
表2−1、表2−2の注記
*1: 繊維状セルロース含有組成物
*2: 微細繊維状セルロース分散液
*3: SF酸グアニジン:スルファミン酸グアニジン、
AA塩:アルキロールアンモニウム塩、
MP塩:メタクリレートカリウム塩
*4: BYK187:DISPERBYK−187、
BYK 180:DISPERBYK−180、
BYK 193:DISPERBYK−193、
BYK:DISPERBYK
*5: アクリル樹脂
*6: 塗料の調製手順・・・下表3参照
*7: 5μm以上の大きさの凝集物の数(20箇所の平均)
*8: 透過像鮮明度 (くし目幅 0.125mm)
上記の結果から、本発明で規定される像鮮明度を満たす繊維状セルロース含有組成物は塗膜としたときの粒(凝集物)の個数を改善することができることが分かる(実施例1〜15)。また、実用上好適な塗膜のヤング率と強度とを実現しうることが分かる。これに対し、本発明で規定される鮮明度を下回る繊維状セルロース含有組成物(比較例1〜3)では、塗膜としたときの粒(凝集物)の点で劣ることが分かる。
(評価用塗膜作成)
得られた塗料を用い、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム(東レ社製、品名:ルミラーT60、厚み75μm)を基材とし、アプリケーターを用いて乾燥後の塗膜厚みが30μmとなるよう塗工した。塗工後すぐに温度80℃の乾燥機で30分間加熱してPETフィルムを基材とした硬化塗膜の塗工物を得た。なお、塗膜の厚みは、触針式厚さ計(マール社製、ミリトロン1202D)で測定し、20点の算術平均値を採用した。その他の測定条件、算出方法等の詳細は、JISP8118:2014に準じて行った。
(塗工物の透過像鮮明度の測定)
JIS K 7374:2007に準拠し、写像性測定器(スガ試験機社製、ICM‐IDP)を用いて光学くし幅0.125mmにおける透過像鮮明度を測定した。
(塗工物のヘーズの測定)
JIS K 7136:2000に準拠し、ヘーズメータ(村上色彩技術研究所社製、HM−150)を用いてヘーズを測定した。
(粒(凝集物の数)の評価)
光学顕微鏡(ニコン社製)を用いてPETフィルムを基材とした塗工物の観察を行い、1mm2中における5μm以上の大きさの凝集物数N(個/mm2)を20箇所で確認し、その算術平均値(N/20)をの平均値から求めた。測定は1水準につき5回行いその平均値を採用した。その数値(個/mm2)を表に示すとともに、結果を次のように区別した評価した。
サイズ5μm以上の粒が3個/mm2以上あり:×
サイズ5μm以上の粒が3個/mm2未満あり又はなし:○
なお、粒子の大きさは円相当径とし、測定条件、算出方法等の詳細は、JISZ8827−1:2008に準じて行った。
(強度及びヤング率の評価用塗膜作成)
基材にPP(ポリプロピレン)フィルム(東レ社製、品名:トレファンBO、厚み60μm)を用いた以外は「外観評価用塗膜作成」で作成した試験片と同様に作成した。
作成した塗膜はPPフィルムからはがし、強度及びヤング率評価用の試料とした。
(塗膜のヤング率)
試験片の長さ80mm、チャック間距離を50mmとした以外はJIS P 8113:2006に準拠し、引張試験機テンシロン(エー・アンド・デイ社製)を用いてヤング率を算出した。なお、ヤング率を測定する際には、23℃、相対湿度50%で24時間調湿したものを試験片として用いた。測定は1水準につき5回行い、その平均値を採用した。
(塗膜の強度)
参考例の繊維状セルロース含有組成物を用いて作成した塗膜の強度(引張強さ)をベース強度とした。このときの試験機、試験条件及び準拠規格は上記ヤング率の測定と同じとした。実施例及び比較例の各試験片について同様に試験を行い、ベース強度から20%以上強度(引張強さ)が高まったものを「○」とした。10%以上20%未満のものを「△」、10%未満のものを「×」とした。測定は1水準につき5回行い、その平均値を採用した。

Claims (9)

  1. 繊維幅が1000nm以下であり、亜リン酸基又は亜リン酸基に由来する置換基を有する繊維状セルロースと水とを含む繊維状セルロース含有組成物であって、
    以下の条件で塗膜を形成した際、塗膜の像鮮明度(くし目幅は0.125mm)が55%以上であり、
    前記繊維状セルロース含有組成物は、糖類、下記式(A)で表される化合物、下記式(B)で表される化合物及びイオン性基を有する顔料分散剤から選択される少なくとも1種を含むか、もしくは、前記繊維状セルロース含有組成物において、前記繊維状セルロースは、酵素処理されたものである、繊維状セルロース含有組成物。
    (条件)
    前記繊維状セルロース含有組成物と、前記繊維状セルロース1重量部に対してアクリル樹脂156重量部と、前記繊維状セルロース1重量部に対してイソシアネート44重量部と、を混ぜて得られた塗布液を、アプリケーターを用いて30μm厚となるように平滑なポリエチレンテレフタレート板上に塗工し、塗工後すぐに80℃で30分間乾燥させる;
    上記式(A)において、R21〜R24はそれぞれ独立に、水素原子又は1価の有機基を表し、Xは酸素原子又は硫黄原子表す;
    上記式(B)において、R31〜R35はそれぞれ独立に、水素原子又は1価の置換基を表す。
  2. 前記の像鮮明度が65%以上98%以下である請求項1に記載の繊維状セルロース含有組成物。
  3. 前記繊維状セルロースと水との合計量が、組成物全体に対して90質量%以上である請求項1又は2に記載の繊維状セルロース含有組成物。
  4. 繊維状セルロースを分散液とし、当該分散液について下記条件で分離した上澄みを回収したときの上澄み収率が80質量%以上となる請求項1〜3のいずれか1項に記載の繊維状セルロース含有組成物。
    (条件)
    繊維状セルロースの分散液を固形分濃度0.2質量%に調整し、冷却高速遠心分離機を用い、12000G、10分の条件で遠心分離する。得られた上澄み液を回収し、上澄み液の固形分濃度を測定した。下記式に基づいて、繊維状セルロースの収率を求める。
    上澄み収率(%)=上澄みの固形分濃度(%)/0.2×100
  5. 以下の条件により得た塗膜のヤング率が0.7GPa以上である請求項1〜4のいずれか1項に記載の繊維状セルロース含有組成物。
    (条件)
    前記繊維状セルロース含有組成物と、前記繊維状セルロース1質量部に対してアクリル樹脂156質量部と、前記繊維状セルロース1質量部に対してポリイソシアネート44質量部と、を混ぜて得られた塗布液を、アプリケーターを用いて30μm厚となるように平滑なポリプロピレン板上に塗工し塗工後すぐに80℃で30分間乾燥させる。
  6. 塗料において使用するための請求項1〜5のいずれか1項に記載の繊維状セルロース含有組成物。
  7. 増粘剤において使用するための請求項1〜5のいずれか1項に記載の繊維状セルロース含有組成物。
  8. 請求項1〜7のいずれか1項に記載の繊維状セルロース含有組成物を含む塗料。
  9. 前記塗料は樹脂及び硬化剤をさらに含む、請求項8に記載の塗料。
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