従来、プレストレストコンクリート床版に用いられる鉄筋やPC鋼より線(PC鋼ストランド)などに対する塩害対策としては、表面にエポキシ樹脂が塗布されたエポキシ鉄筋の使用や防錆PC鋼より線などの比較的錆びにくい材料を適用することで対応してきた。しかしながら現状では、これらのエポキシ鉄筋の補強材や、樹脂被覆により防錆処理された緊張材を使用しても、依然としてこれらの材料から発生する錆を完全に防ぐことはできず、プレストレストコンクリート床版の耐久性を完全担保するには至ってない。
連続繊維補強より線を使用したプレストレストコンクリート床版は、連続繊維補強より線自身が錆びない材料である。しかも、連続繊維補強材より線の引張強度は、PC鋼より線の引張強度より高いので、超高耐久のプレストレストコンクリート床版を経済的に実現することができる可能性がある。さらに、連続繊維補強より線を緊張材として使用して、構造物にプレストレスを導入することにより、ひび割れ発生の制御や構造物の軽量化を実現することができる。
しかしながら、従来の連続繊維補強より線を緊張材として使用したプレストレストコンクリート床版は、その定着治具や緊張装置が、従来のPC鋼より線の定着治具や緊張装置と比較すると、施工性や経済性の点から不利となることが多かった。例えば、連続繊維補強より線は、横方向からの締付荷重に対して強度低下する特性を有するために、横方向強度低下に対処できる膨張材充填方式の定着スリーブとする必要があった。従来のPC鋼より線の定着は、PC鋼より線を直接にクサビ定着できるので、定着スリーブを必要としない。一方、この膨張材充填方式の定着スリーブは、スリーブ形状寸法を大きくする必要があった。その上、定着スリーブは剛性確保のために金属製とする必要があり、その防錆のためにステンレス(材質:SUS304)よりも錆びにくく、高価であるステンレス(材質:SUS316)を適用する必要があった。そのため、従来の連繊維補強より線を緊張材として適用したプレストレストコンクリート床版の緊張定着部に対する、材料費と施工費が大幅に高価になるという課題を有していた。
プレストレストコンクリート床版に対する従来の緊張材の緊張定着方法は、PC鋼より線をジャッキなどの緊張装置で緊張して、PC鋼より線を直接にクサビ定着方式で定着するものであった。このクサビ定着方式による定着方法が、長い経験と豊富な実績から唯一経済的で、且つ安全性を確保できる施工方法として、長年に亘り用いられてきた。一方、連続繊維補強より線を緊張材として使用したスパンが長い床版の緊張作業においては、連続繊維補強より線の伸び量が大きくなり、一度のジャッキストロークでの緊張作業ができなくなるという問題が生じる。その結果、高価で長い定着スリーブの緊張定着治具が必要となるだけでなく、緊張作業に長時間を要するなどの問題があった。これに対して、従来のPC鋼より線によるクサビ定着方式では、任意の位置でPC鋼より線をグリップできるために、緊張ジャッキの盛り替え作業が容易でき、緊張作業において大きな問題とはならなかった。
具体的には、連続繊維補強より線の長い床版スパンの緊張作業においては、PC鋼より線のようなクサビ方式の定着装置は開発されていない。つまり、連続繊維補強より線を定着するための装置としては、例えば、金属製のマンションタイプのスリーブとテンションロッドの組合せ装置を使用する必要があるなど、施工装置や施工費用が高価となる問題を有していた。
なお、ここで、連続繊維補強材とは、炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維などの連続繊維を、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、メタクリル樹脂、ポリカーボネイト樹脂、塩化ビニル樹脂などの樹脂で束ねて一体化した複合材料であるFRP補強材のことを指している(FRP:Fiber-Reinforced Plastics(繊維強化プラスチック))。また、連続繊維補強より線とは、多数の連続繊維補強材を束ねた素線を撚り合わせた連続繊維補強材のことである。
例えば、特許文献1には、PC鋼材3がシース管4に挿通され、シース管4の一端4aに固定された第1端板5にPC鋼材3の固定側端部3aが固定され、PC鋼材3の圧縮力導入側端部3bに固定された押圧板8と、PC鋼材3の圧縮力導入側端部3b側を押圧板8とともに引っ張って緊張力を与えた状態でシース管4の他端4bに固定された第2端板6と、押圧板8と第2端板6との間に配置されるピン部材9とを備え、ピン部材9は、押圧板8の第2端板6に対する支持状態が解除可能に設けられたプレストレス導入構造1が開示されている(特許文献1の特許請求の範囲の請求項1、明細書の段落[0027]〜[0031]、図面の図4等参照)。
特許文献1に記載のプレストレス導入構造(方法)は、緊張材としてPC鋼より線に限定しないで、コンクリート構造物に緊張力を導入できる方怯である。しかし、この方法では、緊張力の圧縮反力の受ける部位として、シース管を使用しているので、緊張できる範囲が短いものに限定されて、橋梁などのプレストレストコンクリート床版を対象とすることはできないとう問題があった。
また、特許文献2には、CFRP製の筋材本体2の外周に、GFRP製の管体4を通し、且つこれを定着剤5により筋材本体2に固定して、複数の突起部3が外周に一体化した建築土木用の筋材1が開示されている(特許文献2の特許請求の範囲の請求項1、明細書の段落[0021]〜[0042]、図面の図1,図3,図4等参照)。
しかし、特許文献2に記載の建築土木用の筋材1は、床版上面増し厚工法における筋材として従来の鉄筋の代わりに錆びないCFRPの筋材を適用するにあたり、CFRPの筋材の付着性能を向上させた発明である。つまり、従来のロッドCFRPでは付着性能が低いために鉄筋代替えとして採用されなかった課題に対して、CFRP製の筋材本体2の外周に、GFRP製の管体4を通して突起部3を設けて付着性能を向上させたものである。よって、CFRP材料を緊張材として使用する目的ではないために、その定着性能は異形鉄筋並みで満足される。この点は、実施例の引抜実験結果における付着応力度を見ても、後述の本発明に係る解撚定着具の付着応力度の1/3〜1/4程度の性能しか発揮できていない。つまり、特許文献2のCFRPは、緊張材として適用することができないことが分かる。
さらに、特許文献3には、下記のように、CFRPを用いてプレテンション方式でプレストレストコンクリートを製造する方法が開示されている(特許文献3の特許請求の範囲の請求項1、明細書の段落[0010]〜[0012]、図面の図1,図2等参照)。この製造方法は、緊張台3の固定部5にCFRP7の一端を固定させ、CFRP7を方向変更治具9a、9bで折り曲げつつ、その他端を固定治具11に連結して、固定治具11で固定する。そして、ジャッキ17a、17bを駆動し、緊張台3をA方向に移動させ、CFRP7に引張り力を与える。この状態で電源19からCFRP7に通電を行い、CFRP7を硬化させる。その後、型枠1内にコンクリートを打設し、コンクリートが固化した後ジャッキ17a、17bからの力を解放してプレストレスを導入する。その後、型枠1の側面21、23でCFRP7を切断するものである。
この特許文献3に記載のプレストレストコンクリートの製造方法が、従来のPC鋼より線によるプレテンション方式と大きく異なる点は、CFRP緊張材を1本のループ材として使用している点である。折り曲げ点でループ状に方向を反転させるために、硬化させる前の状態のCFRPを配置している。その状態で緊張し、緊張後に通電して、その結果発生する熱によりプラスチックを硬化させる考えである。プラスチックが熱硬化する前にCFRPを曲げることは可能であるが、その状態では炭素繊維中のプラスチックが炭素繊維相互を収束していないために、所定の引張強度を発揮することができない。また、仮に熱通電後に緊張を行ったとしても、360°のループでは、ループの曲率の関係を考えるとCFRPの引張強度が大幅に低下してしまい、緊張材としての役割を果たすことができないという問題がある。
次に、従来のPC鋼より線(PC鋼ストランド)を緊張材として使用した場合のプレストレストコンクリート床版の問題点について説明する。
プレストレストコンクリート床版の耐久性を向上させるために、エポキシ鉄筋やエポキシ樹脂被膜のPC鋼より線など、防錆処理した補強筋や緊張材を使用してきたが、これらの材料では、完全に防錆することは困難であることが、最近分かってきた。特に、塩化カルシウムなどの凍結融解材(融雪剤)が大量に散布される橋梁コンクリート床版、あるいは海岸沿いに建設された橋梁コンクリート床版、海岸・港湾に建設された桟橋コンクリート床板においては、塩化物イオンがコンクリート床版に浸透して、内部の鋼材が腐食劣化してしまうという問題があった。このため、構造物内に緊張材やその定着具として鋼材が使用されている限りは、100年オーダーでの長期間に亘っての防錆が困難であるという問題がある。
これらの環境の地域に建設されるプレストレストコンクリート床版においても、ポストテンションにより床版に緊張力を導入する場合では、緊張定着具としてのアンカーヘッドや定着板はすべて鋼製である。また、オイルシールなどの防錆工法も知られているが、100年のオーダーで長期間に亘りこれらの床版を運用・管理する場合には、定期的な点検や10年から20年ごとに防錆オイル交換をするなどの維持管理費用が発生するという問題がある。
これに対して、緊張材としてPC鋼より線の代わりに、錆びることのない連続繊維補強より線を採用したプレストレストコンクリート床版には、以下のような問題があった。
連続繊維補強より線を緊張材として適用した場合に、現状で最も安定した緊張定着具(定着具)としては、定着用膨張材を用いた緊張定着具が存在する。この緊張定着具は、金属スリーブ内に連続繊維補強より線を挿入し、金属スリーブ内部に膨張性充填材を充填し、その充填材硬化時の膨張圧により金属スリーブと連続繊維補強より線を一体とする構造である。このため、スリーブの材料として金属材料を適用するのは、スリーブを介して定着力を伝達するため、スリーブの剛性確保の観点から必要不可欠となっている。その上、防錆の観点から、スリーブの材料は、通常のステンレス(材質:SUS304)ではなく、それよりも錆びにくく、かつ高価なステンレス(材質:SUS316)を使用する必要があった。そのために、従来のPC鋼より線の緊張定着具よりは、高価になるという問題があった。
従来のPC鋼より線を使用した緊張では、クサビ定着が最も汎用的に適用されている。連続繊維補強より線は、その軸方向の引張力に対してはPC鋼より線よりも高強度の性質がある。しかし、連続繊維補強より線は、その横方向のせん断剛性とせん断強度が小さく、クサビのような局所的圧縮力に対して弱い性質がある。そのために、現状では連続繊維補強より線のクサビ定着は実用化に至っていない。つまり、連続繊維補強より線の緊張定着には、従来のPC鋼より線に適用されているクサビ定着をそのまま適用することができなかった。そのために、センターホールジャッキをはじめ、アンカーヘッドなどの定着具をそのまま連続繊維補強より線の定着具として使用することができないという問題がある。
このように、連続繊維補強より線は、横方向からの力に対して、せん断剛性やせん断強度の点で欠点がある。このために、前述の金属スリーブと膨張性充填材の組合せによる、いわゆる金属スリーブ定着では、所定の定着効果を得るために、スリーブ外径と長さを大きくする必要がある。しかも、その金属スリーブは、工場製作に限定されているために、必要長の連続繊維補強より線を工場において切断し、その先端に金属スリーブと膨張性充填材の充填加工・製作を行う必要がある。つまり、連続繊維補強より線を使用した緊張材の出荷時には、連続繊維補強より線の両端部に金属スリーブが装着されている。したがって、プレストレストコンクリート床版の緊張現場で連続繊維補強より線をシース管に挿入する際には、シース管の内径をスリーブ径よりー回り大きくする必要がある。その結果、従来のPC鋼より線の場合に比較して、大きな径のシース管が必要となる。そのために、プレストレストコンクリート床版の連続繊維補強より線緊張材の必要本数の配置問隔を維持して配置することが困難となり、緊張材の必要本数を配置できないなど、設計的に不利な問題が生ずる。
シース管の径が、従来のシース管の径よりも大きくなることにより、シース管の価格が上昇するだけでなく、プレストレス導入後の床版の有効断面積が減少するために、構造設計上も不利となるという問題も発生する。
前述のように、連続繊維補強より線には、金属スリーブが工場からの出荷時に装着されており、その金属スリーブの重量は、相当に重い。そのために、運搬されてきた連続繊維補強より線が梱包された包みを荷ほどきする際や、連続繊維補強より線をシース管に挿入する際などにおいて、金属スリーブが取付けられた先端重量が重いことが原因で、連続繊維補強より線が、首折れ状態になるリスクが発生する。この首折れ状態は、連続繊維補強より線の首折れ部に致命的となる大きなひずみを発生させる可能性があり、連続繊維補強より線の引張破断保障荷重の担保保障を脅かす重大なリスクを発生させるという問題がある。
連続繊維補強より線の弾性係数は、PC鋼より線よりも弾性係数が小さい。そのために、長大なスパンのプレストレストコンクリート床版を緊張する場合、緊張引張力による連続繊維補強より線の伸び量は大きくなってしまう。このため、現状の金属スリーブを用いた定着具を適用して、緊張定着をする場合は、緊張ジャッキの盛り替えを行うことになり、金属スリーブの長さを長くする必要がある。そのために、金属スリーブのコストがさらに上昇するという問題がある。また、金属スリーブの重量がさらに重くなるので、緊張現場における金属スリーブ付近の首折れによる損傷リスクが増大する。
前述したように、連続繊維補強より線をプレストレストコンクリート床版に現状の技術でポストテンション緊張材として適用する場合、定着装置のコストが高いばかりか、プレストレストコンクリート床版を建設する現地での緊張作業のコスト増、また首折れによる引張破断保証荷重のリスク増大などの問題を有している。
以下、本発明に係る解撚定着具を備えるプレストレストコンクリート床版及びそのプレストレス導入方法を実施するための一実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
<解撚定着具を備えるプレストレストコンクリート床版>
[第1実施形態]
先ず、図1,図2を用いて、本発明の第1実施形態に係る解撚定着具を備えるプレストレストコンクリート床版について説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る解撚定着具を備えるプレストレストコンクリート床版の構成を示す斜視図である。図1に示すように、本発明の第1実施形態に係る解撚定着具を備えるプレストレストコンクリート床版1(以下単にプレストレストコンクリート床版1という)は、本発明を建設場所での場所打ちコンクリートによるコンクリート床版に適用した実施形態である。
図1に示すように、プレストレストコンクリート床版1は、2本の主桁上に載置された2つの床版である、第1コンクリート床版2と、第2コンクリート床版3など、から主に構成されている。そして、プレストレストコンクリート床版1は、図のX方向を橋軸方向として、その橋軸方向Xに沿って緊張材として連続繊維補強より線4が配置され、この連続繊維補強より線4が緊張されて橋軸方向Xにプレストレスが導入されている。勿論、本発明に係るプレストレストコンクリート床版は、2本の主桁上に載置される床版に限られず、複数本の主桁上に載置されるものでも構わない。また、本発明に係るプレストレストコンクリート床版は、箱桁橋のように、桁と一体となっている床版にも適用することができる。
(第1コンクリート床版、第2コンクリート床版)
第1コンクリート床版2と第2コンクリート床版3とは、後述の押圧ジャッキJを設置できるスペースSPの分だけ所定距離離間して設置されている。第1コンクリート床版2は、橋軸方向Xに長さが短いコンクリート床板であり、第2コンクリート床版3は、橋軸方向Xに長さが長いコンクリート床板である。これらの第1コンクリート床版2と第2コンクリート床版3は、一般的には主桁上で構築される。
後述するが、第1コンクリート床版2と第2コンクリート床版3とは、プレストレスを導入するときに、両者の間のスペースSPが押し広げられる。このとき、橋軸方向Xに短いコンクリート床版であると第1コンクリート床版2が、橋軸方向に長いコンクリート床版である第2コンクリート床版3から離れて移動し、第2コンクリート床版3は移動しない。よって、第1コンクリート床版2を「可動床版」と定義し、移動しない第2コンクリート床版3を「固定床版」と定義することにする。つまり、第1コンクリート床版2及び第2コンクリート床版3は、以後、可動床版2及び固定床版3とも表記する。
図1に示すように、可動床版2及び固定床版3は、平面視矩形状のコンクリート製の床版本体20,30を備えている。これらの床版本体20,30は、いずれも、2本の主桁上に位置する部分の厚さが厚くなり、その橋軸直角方向に沿ってハンチが形成された典型的な床版の断面形状となっている。これらの可動床版2及び固定床版3は、いわゆる場所打ちコンクリート床版であり、現場において組み立てられた型枠にフレッシュコンクリートが打設されて硬化することにより構築される。
可動床版2と固定床版3との間のスペースSPは、可動床版2を押して移動させるための押圧ジャッキJを設置するジャッキ設置接合部となるスペースである。このスペースSPには、最終的には、後述のように、現場打ちのコンクリート又は現場打ちのモルタルが打設されて緊張力に対抗する支持反力体が形成され、可動床版2及び固定床版3と一体化されたプレストレストコンクリート床版1が構築される。
床版本体20及び床版本体30には、それぞれ橋軸方向Xに沿って連続繊維補強より線4を挿通するためのシース管21及びシース管31がコンクリート部分に埋設されている。これらのシース管21及びシース管31の長さは、床版本体20及び床版本体30の橋軸方向Xの内側(スペースSP側)の端面まで達し、その反対側の外側の端面には、後述の解撚定着具5を定着するのに必要なスペース分だけ残して到達しない長さとなっている。
要するに、シース管21及びシース管31の長さ方向の内側の端面と、床版本体20及び床版本体30の内側の端面とは、面一となっている。しかし、シース管21及びシース管31の長さ方向の外側の端面は、床版本体20及び床版本体30の外側の端面までには到達せず、一定距離だけ長さ方向の内側の位置までとなっている。
図1に示すように、連続繊維補強より線4の長さ方向の両端部には、解撚定着具5が形成され、その一端の解撚定着具5が可動床版2に、他端の解撚定着具5が固定床版3に、それぞれのコンクリート中に定着されている。
なお、図1においては、分かり易くするために、解撚定着具5を強調して実際よりも大きく模式的に図示している。また、図1においては、分かり易くするために、シース管21,31及び解撚定着具5を有する連続繊維補強より線4の配置を1本のみで図示している。しかし、実際は、連続繊維補強より線4等は、プレストレストコンクリート床版1の全幅に亘り複数本(複数個所)配置されるものである。連続繊維補強より線4及びそのシース管21,31は、構造設計により決められるものであり、一般的には複数本必要である。
可動床版2と固定床版3との間のスペースSPは、押圧ジャッキJで押し広げられ、これによって、連続繊維補強より線4に緊張力が導入される。緊張力を保った状態で、スペースSPに、コンクリート又はモルタルなどセメント系経時硬化材が現場打ちで打設され、養生後、所定の強度発現することにより、連続繊維補強より線4に作用する緊張力に対抗する支持反力体が形成される。
その後、スペースSPから押圧ジャッキJが撤去される。これにより、可動床版2、固定床版3、及びこれらの間の支持反力体に、橋軸方向Xのプレストレスが導入される。なお、図1においては、分かり易くするために、1台の押圧ジャッキJだけが示されているが、実際には複数台数のジャッキが設置される。
(連続繊維補強より線、解撚定着具)
次に、図2を用いて、プレストレストコンクリート床版1の連続繊維補強より線4及びその両端部の解撚定着具5についてさらに詳細に説明する。図2は、解撚定着具を備えるプレストレストコンクリート床版1の解撚定着具5を示す側面図である。
図2に示すように、解撚定着具5は、連続繊維補強より線4の両端部に形成され(図1も参照)、連続繊維補強より線4の一般部の径D1より拡径して最大径がD2となった部位である。
連続繊維補強より線4は、素線を構成する1本の心線41と、その周囲に撚り合わされた素線を構成する複数本の側線42と、から構成されている。断面(図示せず)で見ると、連続繊維補強より線4、心線41及び側線42は、いずれも略円形の形状となっている。また、断面上、連続繊維補強より線4は、その中心に心線41が配置され、心線41を取り囲むように複数本の側線42が位置する。連続繊維補強より線4は、例えば、一般部の径D1が、5mm〜30mm程度の直径となっている。
心線41及び側線42は、いずれも熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂を含侵させた多数本、例えば、数万本の長尺の連続する炭素繊維を断面円形に束ねた樹脂含有繊維束であり、連続繊維補強より線4の全体には、数十万本の炭素繊維が含まれる。炭素繊維のそれぞれは非常に細く、例えば、5μm〜7μmの直径を持つ。連続繊維補強より線4は、炭素繊維強化プラスチック(Carbon Fiber-Reinforced Plastics)製のものと言うこともできる。
但し、連続繊維補強より線4は、炭素繊維に代えてアラミド繊維又はガラス繊維を用いてもよい。熱硬化性樹脂には、例えば、エポキシ樹脂やビニルエステル樹脂が用いられる。熱可塑性樹脂には、例えば、ポリカーボネイトやポリ塩化ビニルが用いられる。
解撚定着具5は、連続繊維補強より線4の両端部を解撚した解撚拡径部43の内部に、樹脂モルタル又はセメントモルタルなどの経時硬化材6を充填して硬化させることで形成されている。このため、解撚定着具5の現場での作成が可能となり、連続繊維補強より線4の運搬時の首折れリスクをさらに低減することができる。
より詳しくは、連続繊維補強より線4を構成する側線42を所定長さ(解撚区間L)に亘って解撚し(側線42などの素線の撚り合わせを解くこと)、解撚によって形成される隙間(空間)に経時硬化材6を充填したものである。なお、図2に示すように、解撚区間Lの両端部がインシュロック(登録商標)などの結束バンド7を用いて縛られている。
結束バンド7によって挟まれた解撚区間Lにおける連続繊維補強より線4を構成する複数本の側線42が解撚され、解撚された複数本の側線42が外向きに引っ張られる。これによって、解撚区間Lには、心線41と側線42の間、及び側線42同士の間に、隙間が形成される。そして、この隙間に経時硬化材6が充填される。経時硬化材6の圧縮強度は、30〜60N/mm2程度であり、連続繊維補強より線4を所定の緊張力で緊張しても、解撚拡径部43が減径されない構成となっている。
解撚区間Lの長さは、連続繊維補強より線4の一般部の直径D1の5倍以上、例えば、5〜20倍程度、望ましくは、7〜20倍程度が好ましい。また、解撚拡径部43の最大径(解撚拡径部43の最も太い箇所の横断面の直径)D2は、連続繊維補強より線4の直径D1の1.2倍〜2.6倍程度が望ましい。このような太径の寸法を有する解撚拡径部43(解撚定着具5)を端部に備える連続繊維補強より線4を緊張材として用いることで、短い定着長さ(解撚区間L)で、コンクリート床版(第1コンクリート床版2、第2コンクリート床版3)に強固に定着させることができる。
<プレストレス導入方法>
[第1実施形態]
次に、図3a,図3bを用いて、本発明の実施形態に係るプレストレス導入方法について説明する。前述の第1実施形態に係る解撚定着具を備えるプレストレストコンクリート床版1にプレストレスを導入する場合を例示して説明する。図3a,図3bは、本発明の実施形態に係るプレストレス導入方法であるプレストレストコンクリート床版1のプレストレス導入方法を示す工程説明図であり、(A)〜(E)の順番で各工程を実施する。
図3a(A)に示すように、先ず、本発明の実施形態に係るプレストレス導入方法では、2つの床版を構築する床版構築工程を行う。詳しくは、シース管21及びシース管31を床版構築のための型枠9内に設置して、両端部に解撚定着具5を有する連続繊維補強より線4をシース管21及びシース管31に挿入する。
図3a(B)に示すように、解撚定着具5側のシース管21及びシース管31の端部におけるシース管と連続繊維補強より線4との隙間をウレタンゴムなどのゴム製(ゴム弾性体)のシールSによって閉じた後、可動床版2及び固定床版3の床版本体20,30の型枠9内にコンクリートを打設し、一定期間養生して2つの床版を構築する。
シース管21及びシース管31の端部は、シールSによって封止されているので、シース管21,32内にコンクリートが流れ込むことはなく、シース管内は、空洞のままである。このため、シース管21及びシース管31内に挿入されている連続繊維補強より線4は、打設されたコンクリートとは分離された状態にある。養生期間が経過してコンクリートが所定の強度発現した後、型枠9を脱型する。
本工程により、連続繊維補強より線4の両端部に解撚定着具5が、それぞれコンクリート中に定着された可動床版2及び固定床版3が完成する。なお、可動床版2には、押圧ジャッキJを設置する凹部22が形成されている。
図3b(C)に示すように、次に、本実施形態に係るプレストレス導入方法では、押圧ジャッキJを設置してジャッキアップするジャッキアップ工程を行う。詳しくは、前工程で構築した可動床版2の凹部22に油圧ジャッキなどの押圧ジャッキJを設置する。
そして、押圧ジャッキJを駆動してジャッキアップすることによって、可動床版2が固定床版3から離れる方向に移動する。つまり、可動床版2と固定床版3との間の隙間であるスペースSPの幅がW1からW2(W1<W2)に押し広げられる。これにより、可動床版2と固定床版3のそれぞれに解撚定着具5で定着されている連続繊維補強より線4に緊張力が導入される。勿論、適正な緊張力を連続繊維補強より線4に付与するために、本工程は、押圧ジャッキJの油圧及び連続繊維補強より線4の伸び量も管理しながら実行する。
図3b(D)に示すように、次に、本実施形態に係るプレストレス導入方法では、前工程で連続繊維補強より線4に導入された緊張力に対抗する支持反力体8を構築する支持反力体構築工程を行う。詳しくは、スペースSPに面するシース管21,31の端部をシールSによって封止する。
その後、押圧ジャッキJによって連続繊維補強より線4の緊張力を保ったまま、押圧ジャッキJが設置されている範囲を除いて、スペースSPにセメント系の経時硬化材を打設し、養生して支持反力体8を構築する。本工程で打設する経時硬化材は、コンクリート又はモルタルであり、モルタルとしては、無収縮モルタが好ましい。
図3b(E)に示すように、次に、本実施形態に係るプレストレス導入方法では、押圧ジャッキJを撤去して支持反力体を打ち増すジャッキ撤去工程を行う。詳しくは、前工程で構築した支持反力体8に所定の強度が発現した後、押圧ジャッキJを除荷して撤去する。押圧ジャッキJを除荷することにより、支持反力体8に打設された経時硬化材に、圧縮力が加えられプレストレスが導入される。
つまり、押圧ジャッキJを除荷することにより、前工程で構築した支持反力体8は、ジャッキアップ工程で可動床版2と固定床版3との間を押し広げることにより得られた連続繊維補強より線4の緊張力の反力を受け持つこととなる。押圧ジャッキJを撤去した後、スペースSPに経時硬化材を打ち増して、支持反力体8を完成させる。これにより、可動床版2及び固定床版3、並びに支持反力体8にプレストレスが導入される。
以上説明した第1実施形態に係る解撚定着具を備えるプレストレストコンクリート床版1及びそのプレストレス導入方法によれば、錆びるおそれのある鋼材を一切使用せず、錆びるおそれのない連続繊維補強より線4で経済的、且つ安全・確実にプレストレスを導入することができる。このため、プレストレストコンクリート床版1を、100年のオーダーの超高耐久な床版とすることができるとともに、維持管理費を大幅に低減することができる。
また、プレストレストコンクリート床版1及びそのプレストレス導入方法によれば、緊張材の定着を、高価な特殊ステンレス材を必要とせず、従来の金属スリーブ定着と比べて安価で経済的なものとすることができる。その上、工場出荷時に連続繊維補強より線4に金属スリーブを装着する必要がなく、せん断に弱い連続繊維補強より線4の弱点である首折れによる引張破断保証荷重のリスク増大を低減することができる。
その上、プレストレストコンクリート床版1及びそのプレストレス導入方法によれば、従来の金属スリーブ定着と比べてシース管21,31の径を小さくすることができ、連続繊維補強より線4を密に配置することが可能となる。また、シース管21,31の径を小さくすることにより、シース管21,31の単価を低減することができるだけでなく、プレストレストコンクリート床版1の有効断面積も増大させることができ、構造設計上も有利となる。
さらに、プレストレストコンクリート床版1及びそのプレストレス導入方法によれば、押圧ジャッキJによる一括緊張とすることができ、従来の単線緊張では頻繁に行われてきた緊張ジャッキの盛替等の作業が不要となり、施工コストも大幅に低減することができる。
それに加え、プレストレストコンクリート床版1及びそのプレストレス導入方法によれば、連続繊維補強より線4の両端部に解撚定着具5が設けられているので、定着長を短くすることができ、プレストレスをかけられる連続繊維補強より線4の長さを長くとることができる。このため、連続繊維補強より線4を有効に活用することができ、構造設計上も有利となる。
<解撚定着具を備えるプレストレストコンクリート床版>
[第2実施形態]
次に、図4を用いて、本発明の第2実施形態に係る解撚定着具を備えるプレストレストコンクリート床版について説明する。
図4は、本発明の第2実施形態に係る解撚定着具を備えるプレストレストコンクリート床版1’の構成を示す斜視図である。図4に示すように、第2実施形態に係る解撚定着具を備えるプレストレストコンクリート床版1’(以下単にプレストレストコンクリート床版1’という)は、プレキャストコンクリート製の床版に適用した実施形態である。なお、前述の第1実施形態に係る解撚定着具を備えるプレストレストコンクリート床版1と同一構成は、同一符号を付し、説明を省略する。
図4に示すように、プレストレストコンクリート床版1’は、1つのプレキャスト床版である可動セグメント2’と、この可動セグメント2’と隙間をあけて橋軸方向に設置された複数のプレキャスト床版である固定セグメント3’・・・3’など、から構成されている。勿論、固定セグメント3’の数は任意であり、求められる橋長に応じて決められる。図示形態では、4つの固定セグメント3’としている。
これらの可動セグメント2’及び固定セグメント3’は、プレキャスト工場等の建設現場とは別の場所で予めコンクリートが打設されて製造され、トレーラー等で搬送されて、クレーン等の揚重機を用いて主桁上に載置して並べて設置されるものである。なお、可動セグメント2’が、本発明に係る第1コンクリート床版に相当し、最も外側の固定セグメント3’が、本発明に係る第2コンクリート床版に相当する。
可動セグメント2’及び固定セグメント3’には、それぞれ橋軸方向Xに沿って連続繊維補強より線4を挿通するためのシース管21’,シース管31’が埋設されている。これらのシース管21’及びシース管31’の長さは、可動セグメント2’又は固定セグメント3’の橋軸方向Xの長さと同一である。つまり、シース管21’及びシース管31’の長さ方向の両端面は、可動セグメント2’又は固定セグメント3’の橋軸方向Xの端面と面一となっている。
これらの複数の固定セグメント3’相互の隙間は、通常2cm〜5cmの間隔となるように設置され、その隙間に、現場において無収縮モルタルが打設される。これにより、固定セグメント3’のコンクリートは連続化され、複数のシース管31’,・・・,31’も一列に並ぶこととなる。そして、前述の解撚定着具5が両端部に形成された連続繊維補強より線4が挿入される。
なお、図4においては、分かり易くするために、シース管21’,31’及び解撚定着具5を有する連続繊維補強より線4の配置を1本のみとして図示している。しかし、実際は、連続繊維補強より線4等は、プレストレストコンクリート床版1’の全幅にわたり複数本(複数個所)配置されるものである。連続繊維補強より線4及びそのシース管21’,31’は、構造設計により決められるものであり、一般的には複数本必要である。
その後、シース管21’及びシース管31’の解撚定着具5の周りにセメントグラウトが充填される。充填されたグラウトの強度発現により、連続繊維補強より線4の両端部の解撚定着具5は、シース管21’及びシース管31’の管内において、その一方が、可動セグメント2’に、他方が、可動セグメント2’から最も離れた外側の固定セグメント3’にそれぞれ定着される。
そして、可動セグメント2’及び固定セグメント3’との間のスペースSP’に、前述の押圧ジャッキJを設置して、押し広げることにより、橋軸方向Xに挿入配置された連続繊維補強より線4に緊張力が導入される。押圧ジャッキJで緊張力を保った状態で、スペースSP’に経時硬化材が打設され、打設された経時硬化材が強度発現することにより支持反力体8’が形成されて、押圧ジャッキJを撤去可能となる。その結果、プレストレストコンクリート床版1’の橋軸方向Xの全長に亘りプレストレスが導入される。
なお、解撚定着具5は、好ましくは連続繊維補強より線4の両端部に形成されるが、定着長が設計的に長くてもよい場合は、連続繊維補強より線4のいずれか一方の端部のみにだけ設けても構わない。ここで、連続繊維補強より線4の定着長さとは、コンクリートによって覆われる連続繊維補強より線4の長さ、又はシース管21’,31’内に充填されるセメントグラウトによって連続繊維補強より線4が覆われる長さのことを指している。
また、定着長が設計的に長くてもよい場合とは、例えば、連続繊維補強より線4の直径の50〜60倍程度の定着長さを確保できることができる場合に、一方の解撚定着具5を直線定着部に変更することができる。直線定着部とは、連続繊維補強より線4と経時硬化材(コンクリートやセメントグラウトなど)との付着力だけで緊張力を負担させる定着部のことを指している。但し、直線定着部の場合には、その直線部のコンクリート床版には、所定のプレストレスが導入されない。
<プレストレス導入方法>
[第2実施形態]
次に、図5a,図5bを用いて、本発明の実施形態に係るプレストレス導入方法について説明する。前述の第2実施形態に係る解撚定着具を備えるプレストレストコンクリート床版1’にプレストレスを導入する場合を例示して説明する。図5a,図5bは、本発明の実施形態に係るプレストレス導入方法であるプレストレストコンクリート床版1’のプレストレス導入方法を示す工程説明図であり、(A)〜(E)の順番で各工程を実施する。
図5a(A)に示すように、先ず、本実施形態に係るプレストレス導入方法では、可動セグメント2’及び複数の固定セグメント3’,・・・,3’を主桁上に載置するセグメント設置工程を行う。
詳しくは、可動セグメント2’及び複数の固定セグメント3’,・・・,3’が、建設現場において、前述の所定間隔の隙間をあけて設置される。固定セグメント3’同士の間には、シース管31’の外径に沿う内径を有するウレタンゴムなどのゴム製(ゴム弾性体)のリングシールR(リング状のシール)が配置され、リングシールRによって隣り合う固定セグメント3’内のシース管31’同士がシール接続される。ここで、固定セグメント3’同士の隙間は、前述のように、例えば、2cm〜5cmの間隔とされ、リングシールRを押し潰す程度の間隔とするのがよい。
また、可動セグメント2’と最も内側の固定セグメント3’との間隔は、前述のスペースSPと同様に、押圧ジャッキJを設置するためのスペースSP’を確保するように設置される。なお、可動セグメント2’には、押圧ジャッキJを設置する凹部22’も形成されている。
図5a(B)に示すように、次に、本実施形態に係るプレストレス導入のための準備工程としては、各セグメント間に無収縮モルタルを充填して一体化するとともに、解撚定着具5とその周囲のシース管21’及びシース管31’との隙間に限定してセメントグラウトを充填する充填工程を行う。
詳しくは、リングシールRが設置された固定セグメント3’同士の隙間に充填材である無収縮モルタルを充填・養生し、複数の固定セグメント3’を一体化して前述の第2コンクリート床版3(固定床版3)に相当する床版を構築する。
その後、連続したシース管21’及びシース管31’に、両端部に解撚定着具5が形成された連続繊維補強より線4を挿入する。そして、図5a(B)に示すように、セメントグラウトが解撚定着具5の周囲のみに充填されるように、グラウト注入前に予め解撚定着具の前後をウレタンゴムなどのゴム製(ゴム弾性体)のシールSによって封止しておく。解撚定着具5の周りのシース管21’及びシース管31’内に、セメントグラウト(充填材)を注入充填して、養生・硬化させ、シース管21’及びシース管31’、さらにその外側にある可動セグメント2’及び固定セグメント3’に、連続繊維補強より線4の解撚定着具5を定着させる。
図5a(C)に示すように、次に、本実施形態に係るプレストレス導入方法では、押圧ジャッキJを設置してジャッキアップするジャッキアップ工程を行う。詳しくは、前工程で構築した可動セグメント2’の凹部22’に押圧ジャッキJを設置する。
そして、押圧ジャッキJを駆動してジャッキアップすることによって、可動セグメント2’が一体化された複数の固定セグメント3’の連結体(固定床版相当)から離れる方向に移動する。つまり、スペースSP’の幅がW1からW2(W1<W2)に押し広げられる。これにより、可動セグメント2’と固定セグメント3’のそれぞれに解撚定着具5で定着されている連続繊維補強より線4に緊張力が導入される。勿論、適正な緊張力を連続繊維補強より線4に付与するために、本工程は、押圧ジャッキJの油圧及び連続繊維補強より線4の伸び量も管理しながら実行する。
図5b(D)に示すように、次に、本実施形態に係るプレストレス導入方法では、前工程で連続繊維補強より線4に導入された緊張力に対抗する支持反力体8’を構築する支持反力体構築工程を行う。詳しくは、スペースSP’に面するシース管21’,31’の端部をウレタンゴムなどのゴム製(ゴム弾性体)のシールSによって封止する。
その後、押圧ジャッキJによって連続繊維補強より線4の緊張力を保ったまま、押圧ジャッキJが設置されている範囲を除いて、スペースSP’にセメント系の経時硬化材を打設し、養生して支持反力体8’を構築する。本工程で打設する経時硬化材は、コンクリート又はモルタルであり、モルタルとしては、無収縮モルタルが好ましい。
図5b(E)に示すように、次に、本実施形態に係るプレストレス導入方法では、押圧ジャッキJを撤去して支持反力体を打ち増すジャッキ撤去工程を行う。詳しくは、前工程で構築した支持反力体8’に所定の強度が発現した後、押圧ジャッキJを除荷して撤去する。押圧ジャッキJを除荷することにより、支持反力体8’に打設された経時硬化材に、圧縮力が加えられプレストレスが導入される。
つまり、押圧ジャッキJを除荷することにより、前工程で構築した支持反力体8’は、ジャッキアップ工程で可動セグメント2’と固定セグメント3’との間を押し広げることにより得られた連続繊維補強より線4の緊張力の反力を受け持つこととなる。押圧ジャッキJを撤去した後、スペースSP’に経時硬化材を打ち増して、支持反力体8’を完成させる。これにより、可動セグメント2’及び複数の固定セグメント3’,・・・,3’、並びに支持反力体8’にプレストレスが導入される。
以上説明した本発明の第2実施形態に係る解撚定着具を備えるプレストレストコンクリート床版1’及びそのプレストレス導入方法によれば、プレキャストプレストレストコンクリート床版であるプレストレストコンクリート床版1’へ本発明を適用することができ、プレストレストコンクリート床版1と同様の前記作用効果を奏することができる。つまり、プレストレストコンクリート床版1’及びそのプレストレス導入方法によれば、錆びるおそれのある鋼材を一切使用せず、錆びるおそれのない連続繊維補強より線4で経済的、且つ安全・確実にプレストレスを導入することができる。このため、プレストレストコンクリート床版1’を、100年のオーダーの超高耐久な床版とすることができるとともに、維持管理費を大幅に低減することができる。
以上、本発明の実施形態に係る解撚定着具を備えるプレストレストコンクリート床版及びそのプレストレス導入方法について詳細に説明した。しかし、前述した又は図示した実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたって具体化した一実施形態を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。
特に、解撚定着具をコンクリート床版の両端部に設けることを例示して説明したが、設計条件によっては、解撚定着具をコンクリート床版の一端部にのみ設けてもよい。つまり、床板の端部の設計モーメントが小さいことがあるので、設計条件を考慮の上、一端の定着を解撚定着具としないで、連続繊維補強より線の直線のみにすることも可能である。この場合の定着部を直線定着部と称する。その場合の必要定着長としては、連続繊維補強より線のー般部の直径の50倍以上60倍以下の長さをとればよい。