以下、適宜図面を参照しつつ、本発明に係る制御方法について、好適な実施形態に基づき説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えば、本発明を特徴付けない二次電池や車両の構造等)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。また、数値範囲を示す「A〜B」との表現は、「A以上B以下」の意である。
本明細書において「リチウムイオン二次電池」とは、電荷担体としてリチウムイオンを利用し、正負極間においてこの電荷担体の移動に伴い繰り返し充放電が実現される二次電池を包含する。電解質は、固体電解質やゲル状高分子電解質、液状電解質(電解液)のいずれであってもよい。一般にリチウムイオン電池、リチウムポリマー電池等と称される二次電池は、本明細書における非水電解質二次電池に包含される典型例である。以下、ここに開示される非水電解質二次電池がリチウムイオン電池である場合を例にして詳細に説明する。
リチウムイオン二次電池10は、一般的に、複数の単電池(以下「セル」と表現する場合がある)が接続された組電池の形態を有している。セルにおいては、充電状態が継続すると正極平均電位は上昇し、負極平均電位は下降し、正負極間の電位差(Vav)が大きくなる。ここで、負極電位がLi基準電位以下となると、負極表面に金属リチウム(Li)が析出することが知られている。そのため、従来からリチウムイオン二次電池を充電する際には、正負極間の平均電位の電位差である正負極間の端子電圧を所定電位(例えば、4.1V)以内に抑制して、負極表面の金属リチウムの析出を抑制するようにしている。なお、Li基準電位とは、リチウム金属電極のLi+/Li平衡電位であり、リチウムイオン二次電池10の電極電位は、このLi基準電位を0V(vsLi+/Li)として定義される。
しかしながら、組電池においては、セルごとに性能のばらつきがあり得る。また、電池のセル内部(例えば正負極の表面)にも、反応性にバラツキがあり得る。そのため、たとえ組電池の正負極平均電位の電位差が所定電位以下(例えば、電流が後述する許容入力電流値Vlim以下)であったとしても、負極の局所的な部位については負極電位(以下、負極局所電位という)がLi基準電位以下に達し、当該負極表面には金属リチウムが析出する場合があり得る。このような金属リチウムの析出は、ハイレート(例えば20C以上)での充電や、高充電状態(高SOC、State of Charge:SOC)からの充電、長時間の充電継続、低温(電池セルの内部抵抗が高い状態)での充電の際に生じやすい。なお、セル電位は、リチウムイオン二次電池のセルにおける正極と負極との間の電位差であり、負極電位および正極電位は、Li基準電極に対する電位差として把握される。ここで、負極電位がLi基準電位以下にならないように、正極平均電位を引き下げることも考えられるが、この場合はセル電位が小さくなってしまい、二次電池に対する要求性能を満足できない場合が生じ得る。
そこで、ここに開示される二次電池の充放電制御装置20は、負極電位が局所的にもLi基準電位に達するのを抑制するため、入力許可電力調整手段40を有している。この入力許可電力調整手段40は、充放電時に、充放電履歴に基づきリチウムイオン二次電池の負極電位がリチウム基準電位まで低下しないように、二次電池への入力許可電力を調整する。
以下、二次電池の充放電制御装置20ならびに入力許可電力調整手段40の構成と動作について、図1に示す充放電制御装置20を搭載した自動車100の例を基に説明する。図1の自動車100は、いわゆるハイブリッド自動車(HV:Hybrid Vehicle)であり、ここに開示される自動車100の好適例である。なお、本明細書における「ハイブリッド自動車」とは、内燃機関と電動機(モータ)との両方を動力源として搭載する自動車の意である。ただし、自動車100は、いわゆる電気自動車(EV:Electric Vehicle)や、燃料電池車(FCEV:Fuel Cell Electric Vehicle)等の内燃機関を備えない自動車であってもよい。
ハイブリッド自動車(HV)100は、エンジン58と、モータ52と、充放電可能な二次電池10と、を備えている。エンジン58は、ガソリンまたは軽油などの炭化水素系燃料の燃焼により、熱エネルギーを力学的エネルギーに変換して動力を出力する内燃機関である。モータ52は、電気エネルギーを力学的エネルギーに変換する電力機器、原動機であり、ここでは力学的エネルギーを電気エネルギーに変換する発電を可能とする。モータ52とエンジン58の出力軸は3軸式の動力分配統合機構56に接続されており、これらは自動車100の駆動輪60を回転駆動する。また、自動車100は、動力分配統合機構56に接続され発電するためのジェネレータ54と、二次電池10とモータ52及びジェネレータ54とを接続する昇圧コンバータ兼インバータ50と、を有する。二次電池10は、昇圧コンバータ兼インバータ50を介してモータ52と電力やりとりし充放電する。また、二次電池10は、昇圧コンバータ兼インバータ50を介して、ジェネレータ54からの発電電力および回生エネルギーを蓄電する。なお、二次電池10は、着脱可能に備えられていてもよい。また、昇圧コンバータは、インバータ入力電圧を制御するものであり、モータ52の出力トルク等に応じたインバータ入力電圧を制御する。インバータは、モータ52への駆動電流を制御するとともに、回生制動の制御も行う。ジェネレータ54の発電電力は、昇圧コンバータ兼インバータ50を介し二次電池10に供給される。なお、モータ52とは別に、必ずしもジェネレータ54を設ける必要はない。
自動車100は、さらに、二次電池の充放電制御装置20を備えている。この充放電制御装置20は、二次電池用電子制御ユニット(以下「二次電池ECU」という)22と、SOC推定手段24と、エンジン用電子制御ユニット(以下「エンジンECU」という)26と、モータ用電子制御ユニット(以下「モータECU」という)28と、ハイブリッド用電子制御ユニット(以下「HVECU」という)30と、入力許可電力調整手段40とを有する。また、充放電制御装置20は、入力許可電力調整手段40により二次電池に入力可能な電力値を算出するために、二次電池の温度を検知する温度センサ12と、二次電池のからの電流を検知する電流センサ14と、電圧センサ16とを有していてもよい。電流センサ14は、二次電池10の出力端子に接続された電力ラインに取り付けられ、二次電池の電流IBを検出する。温度センサ12は、二次電池10内に設けられ、二次電池の温度TBを検出する。電圧センサ16は、二次電池10に取り付けられ、二次電池10の端子間電圧を測定する。図1では、電圧センサ16は二次電池10の全体(組電池)の電圧を測定するように設置されているが、電圧センサ16は、各セルのセル電圧を測定するように設置されていてもよい。
HVECU30は、動力出力装置全体をコントロールする。例えば、HVECU30は、エンジンECU26、モータECU28、および、二次電池ECU22と、通信ポートを介して接続されており、エンジンECU26、モータECU28、および、二次電池ECU22と各種制御信号やデータを送受信可能に構成されている。また、HVECU30は、自動車100の運転状態を検出する各種センサから信号を受信する。例えば、HVECU30は、図示しないイグニッションスイッチからのイグニッション信号や、図示しないアクセルセンサからの信号や、その他センサからの信号を受信し、アクセル開度、ブレーキ踏み込み量、車速などの情報が入力される。ここで、HVECU30は、アクセル開度、ブレーキ踏み込み量、車速などの情報に基づき、トルク指令を決定する。決定されたトルク指令は、HVECU30から、モータECU28、エンジンECU26に出力される。HVECU30は、例えば、モータ52が回生中であるかどうかを判定し、回生中であると判断した場合は、これら情報からモータトルク指令を決定する。HVECU30は、例えば、モータトルク指令を決定し、モータECU28を介して昇圧コンバータ兼インバータ50を制御し、二次電池の充電電流を制御する。
このようなHVECU30は、CPU32を中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPU32の他に、処理プログラムを記憶するROM34と、データを一時的に記憶するRAM36と、図示しない入出力ポートおよび通信ポートとを備える。ここで、ROM34には、入力許可電力調整手段40において算出される許容入力電流値Ilim、および、二次電池入力電力制限値Winを算出するためのプログラムが格納されている。RAM36は、後述する二次電池ECU22から出力された二次電池電流値IBおよび二次電池温度値TBや、入力許可電力調整手段40にて算出された許容入力電流値Ilim、および、二次電池入力電力制限値Win、その他、各種演算に必要なデータを一時的に記憶することができる。
エンジンECU26は、エンジン58の駆動を制御する。エンジンECU26は、エンジン58の運転状態を検出する各種センサから信号を受信し、エンジン58の駆動を制御する。また、エンジンECU26は、HVECU30に接続されており、HVECU30から送られたトルク指令に合致するようにエンジン58の駆動を制御する。エンジンECU26は、例えば、エンジン58に対して燃料噴射制御や点火制御、吸入空気量調節制御などの運転制御を実施する。また、エンジンECU26は、必要に応じてエンジン58の運転状態に関するデータをHVECU30に送信する。
モータECU28は、モータ52を駆動制御する。モータECU28は、モータ52の運転状態を検出する各種センサから信号を受信する。モータECU28は、信号に応じて昇圧コンバータ兼インバータ50を制御し、モータ52の駆動を制御する。また、モータECU28は、HVECU30と通信可能に接続されており、HVECU30から送られたトルク指令を受信する。モータECU28は、例えば、このモータトルク指令に従って昇圧コンバータ兼インバータ50を制御し、モータ52の駆動を調整する。する。モータECU28は、必要に応じてモータ52の運転状態に関するデータをHVECU30に出力する。
二次電池ECU22は、二次電池10の状態を監視する。二次電池ECU22には、二次電池10を管理するのに必要な信号、例えば、二次電池10の正負極端子間に設置された電圧センサ16からの端子間電圧、電流センサ14からの充放電電流(以下「二次電池電流IB」という)、温度センサ12からの電池温度TB等が入力されて記憶される。二次電池ECU22は、HVECU30のRAM36に、時間tにおける二次電池電流値IBおよび電池温度TBを出力して一時記憶させる。
SOC推定手段24は、二次電池10の充電状態(State of Chare:SOC、ここでは残容量に対応)を推定する。SOC推定手段24は、二次電池ECU22に入力された二次電池電流値IBを積算することで、時間tにおける充電容量値SOCを推定する。なお、積算には、実測された二次電池温度値TBにより補正された推定電流値を用いることが好適であり、二次電池起電圧など他の情報を利用してより正確なSOC推定を採用してもよい。二次電池の温度を考慮した充電容量値SOCの推定方法は、公知の各種のSOC算出法を採用することができる。SOCの推定に際しては、電池温度の他、電池使用年数、運転モード、使用地域、季節、外気温等のいずれか1以上の要素を考慮してもよい。
入力許可電力調整手段40は、例えば、所定の時間間隔(例えば100msec毎)に二次電池の入力電力を制限する制限値Winを算出し、この制限値Winを基に二次電池10への入力許可電力を調整している。入力許可電力調整手段40は、例えば、許容入力電流値算出手段42と、入力電力制限値算出手段44と、を備える。これらの手段は、集積回路やマイクロプロセッサ等のハードウェアで構成されていてもよいし、CPUがコンピュータプログラムを実行することにより機能的に実現されるようになっていてもよい。なお、ここに開示される技術には、プロセッサを上記各手段42、44として機能させるためのコンピュータプログラム、および、このコンピュータプログラムが記録されたコンピュータ読み取り可能な記録媒体の提供が含まれる。この記録媒体としては、信号や搬送波のような形態を長く留めない伝播信号を含まない。
図2は、二次電池の充放電制御装置20による、二次電池の充放電制御のフローチャートである。以下、充放電制御装置20の動作について説明する。
充放電制御装置20では、温度センサ12にて、所定の測定間隔(例えば100msec毎)で、時間tにおける二次電池温度TB(t)を測定する。また、電流センサ14にて、時間tにおける二次電池電流IB(t)を測定する(S10)。各センサで測定された二次電池温度値TB(t)と二次電池電流値IB(t)は、二次電池ECU22に送られ、二次電池ECU22において記憶される。
また、二次電池ECU22は、SOC推定手段24と、HVECU30とに、時間tにおける二次電池温度値TB(t)と二次電池電流値IB(t)とを出力する。HVECU30は、これら二次電池温度値TB(t)と二次電池電流値IB(t)をRAM36に一時的に記憶する。SOC推定手段24は、入力された二次電池温度値TB(t)と二次電池電流値IB(t)とを基に、時間tにおける充電容量SOC(t)を推定する(S20)。
次いで、HVECU30は、アクセル開度、ブレーキ踏み込み量、車速などから、モータが回生中であるかどうかを判断する(S30)。そしてHVECU30は、モータが回生中であると判定した場合は、回生エネルギーによる蓄電を行うため、二次電池10への充電を開始する(S40)。すなわち、HVECU30は、モータトルク指令を決定し、モータECU28を介して昇圧コンバータ兼インバータ50を制御する。このとき、HVECU30は、二次電池10への入力電力が過剰とならないように、電力制限値Winを使用して二次電池10への充電を実施する。この電力制限値Winは、入力許可電力調整手段40により以下の手順で算出される。
入力許可電力調整手段40では、まず、許容入力電流値算出手段42が、二次電池への許容入力電流値I
lim(t)を算出する(S50)。許容入力電流値I
lim(t)の算出法は特に限定されない。許容入力電流値算出手段42は、例えば、RAM36に一時記憶された時間tにおける二次電池電流値I
B(t)および二次電池温度値T
B(t)と、SOC推定手段24において推定された時間tにおける充電容量値SOC(t)とを用い、ROM34に格納されているプログラムに基づいて、許容入力電流値I
lim(t)を算出することができる。許容入力電流値算出手段42は、例えば、以下の式(I)(II)に示すように、t=t
n(ただし、nは整数である。)における二次電池への許容入力電流値I
lim(t
n)を、t=t
n−1における既知の算出許容入力電流値I
lim(t
n−1)を基準とし、これに充電の継続による単位時間当たりの許容入力電流値の減少分F又はfと、単位時間当たりの放置による許容電流量回復量G又はgとを減じることで算出することができる。
ここで、測定開始の時間はt0=0である。また、充放電履歴がない場合、すなわち初回(t0)については、上記式(I)で示したように、初回の許容入力電流値Ilim(t0)として設定許容入力電流値Ilim(0)を用いることができる。そして許容入力電流値Ilimは、上記のとおり、充放電履歴がない状態における許容入力電流値Ilim(0)から、充放電の継続による許容入力電流値の減少分Fと、二次電池の放置による許容入力電流値の回復量Gとをそれぞれ減算することで算出される。
なお、式(I)、(II)における各項は、以下を示す。なお、初回の設定許容入力電流値I
lim(0)は、例えば、対象とする二次電池について、充放電履歴の影響がない状態から充電した場合に、単位時間以内に金属Liが析出しない最大電流値として求めることができる。なお、この初回の設定許容入力電流値I
lim(0)については、予め電池温度ごとに、当該「金属リチウムが析出しない最大電流値」を測定しておき、電池温度と初回の設定許容入力電流値I
lim(0)との関係を示すマップ等として、例えばHVECU30のRAM36等に格納しておくことができる。このようなマップについても、電池使用年数、運転モード、使用地域、季節、外気温等のいずれか1以上の要素を考慮して変化させたものを、複数のパターンとして用意しておいてもよい。以下に記載されるマップについても同様である。
ここで、許容入力電流値Ilim=0の場合、二次電池の負極活物質中にLiイオンが満充電されている(飽和状態である)ことを示すことから、Ilim(0)−Ilim(t)は、二次電池の負極活物質に吸蔵されているLiイオン量を示す。一方、二次電池は自然放電が生じることから、負極活物質中のLiイオンが減少することによって、時間による許容入力電流値Ilimは回復され、その大きさはLiイオンの減少量に比例する。したがって、時間tnにおけるIlim(tn)よりも単位時間(dt)だけ前の時間tn−1におけるLiイオンの減少量は、Ilim(0)とIlim(tn−1)との差に比例する。ここで、差を無次元化するために、差をIlim(0)で除すことにより回復量を得ることができる。
なお、二次電池は使用によって電池性能が低下することがあり得る。この場合、許容入力電流値算出手段42は、二次電池の経時劣化を考慮して許容入力電流値I
lim'を算出してもよい。本実施形態の許容入力電流値算出手段42は、さらに金属リチウム析出を経時で抑制するために、二次電池の経時劣化を考慮した許容入力電流値I
lim'を算出するようにしている(S52)。許容入力電流値I
lim'は、例えば、下記の式(III)に示すように、S50で得られたI
limに劣化係数ηを乗じることで産出することができる。
ここで、上記劣化係数ηは、一定の値であってもよいし、変数であってもよい。例えば、対象とする二次電池の充放電頻度と劣化係数との関係を予めマップにして用意しておき、HVECU30のRAM36等に格納しておくとよい。許容入力電流値算出手段42は、二次電池の充放電頻度に応じてRAM36にアクセスすることで、充放電頻度に対応したより適切な劣化係数を得ることができる。これにより、二次電池の劣化を考慮した許容入力電流値を算出することができる。
ところで、上記の許容入力電流値Ilim(0)は、単位時間だけ充電したときに、金属リチウムが負極に析出しないような最大電流CmaxBとして設定されている。特に、許容入力電流値Ilim(0)=CmaxBは、上述のとおり、セルごとの性能のばらつきを考慮して、二次電池のハイレート充電や、高SOCからの充電、長時間の充電継続、低温充電などにおいても金属リチウムが負極に析出しないような最大電流Cとして設定されている。ここで、負極の表面に析出する金属リチウムには、活性リチウムと、不活性リチウムと、が含まれている。そして活性リチウムは、負極電位に応じて電解液への再溶解が可能である。つまり、いったん析出した金属リチウムであっても、活性リチウムであれば電池の放電を行うことで電解液に溶解させることができる。活性リチウムの溶解は、直近に析出した活性リチウム、すなわち、負極の表面に近い活性リチウムから順に進む。また、活性リチウムは、周辺の電解液と反応して徐々に不活性化し、不活性リチウムに変質する。活性リチウムがいったん不活性リチウムとなると、電解液に溶解できず、電気化学反応に寄与しない。しかしながら、再溶解された金属リチウムは、再び電気化学反応に寄与することができ、電池の性能および耐久性等の面でなんら問題がないといえる。換言すれば、再溶解するような金属リチウムが析出するような二次電池の充放電態様については、なんら問題がないといえる。また、不活性リチウムが析出するような二次電池の充放電態様でないかぎり、上記許容入力電流値Ilimによる制限は過剰となり、二次電池が要求される出力性能を満足できない可能性があり得る。
これらのことから、ここに開示される技術では、上述の許容入力電流値Ilimを「IlimB」と表して区別しておく。そして、HVECU30は、リチウムイオン二次電池20が短絡せず、再溶解可能な状態では、許容入力電流値Ilimとして、上記IlimBとは別の許容入力電流値IlimA(ここで、IlimB<IlimAである)を用意するようにしている。そして、許容入力電流値IlimBおよび許容入力電流値IlimAの少なくとも一方に基づいて入力許可電力を決定し、この入力許可電力以下で充放電するようにしている。許容入力電流値IlimBは、本発明における第1許容充電電流の一例である。許容入力電流値IlimAは、本発明における第2許容充電電流の一例である。許容入力電流値IlimAと許容入力電流値IlimBとは、時間tとの関係において、図5に示すように、許容入力電流ラインAと許容入力電流ラインBとを形成する。
ここで、IlimAは、許容入力電流値算出手段42によって、上記の式(I)および式(II)に基づいて算出することができる(S60)。ただし、初回の設定許容入力電流値IlimA(0)は、例えば、対象とする二次電池について、充放電履歴の影響がない状態から充電した場合に、単位時間以内に、活性リチウムは析出しても良いが不活性リチウムは析出しない最大電流値として求めることができる。なお、この初回の設定許容入力電流値IlimA(0)についても、予め電池温度ごとに、当該「金属リチウムが析出しない最大電流値」を測定しておき、電池温度と初回の設定許容入力電流値IlimA(0)との関係を示すマップ等として、例えばHVECU30のRAM36等に格納しておくことができる。なお、IlimAの算出方法は、上記例に限定されず、ここに開示される技術の本質を逸脱しない限りにおいて改変し得る。一例として、本出願人により提案されている他の算出法(例えば、特開2017−103896号公報参照)を採用してもよい。
また本実施形態の許容入力電流値算出手段42は、さらに金属リチウム析出を経時で抑制するために、二次電池の経時劣化を考慮した許容入力電流値Ilim'を算出するようにしている(S62)。許容入力電流値算出手段42は、二次電池の経時劣化を考慮して許容入力電流値Ilim'として、IlimB'に換えて、IlimA'(ここで、IlimB'<IlimA'である)にまで緩和するようにしている。許容入力電流値Ilim'は、例えば、上記の式(III)に示すように、S60で得られたIlimAに劣化係数ηを乗じることで算出することができる。
ここで、上記劣化係数ηは、一定の値であってもよいし、変数であってもよい。例えば、対象とする二次電池の充放電頻度と劣化係数との関係を予めマップにして用意しておき、HVECU30のRAM36等に格納しておくとよい。許容入力電流値算出手段42は、二次電池の充放電頻度に応じてRAM36にアクセスすることで、充放電頻度に対応したより適切な劣化係数を得ることができる。
なお、S30において、HVECU30が、モータが回生中ではないと判定した場合であっても、二次電池10のSOCに基づき二次電池ECU22が二次電池10への充電要求を発信する場合がある。このような場合、HVECU30は、二次電池10への充電を開始する。したがって、回生中でなくても、S116において、二次電池10は充電中と判断される(S40)。このような場合、充放電制御装置20は、上述したS50からS62の動作を実行する。なお、この場合、モータ52による回生エネルギーに換えて、ジェネレータ54からの発電電力が二次電池10に供給される。
一方で、S30において、HVECU30が、モータが回生中ではないと判定した場合であって、二次電池ECU22による充電要求がなく、二次電池10が充電状態にない場合がある。換言すれば、二次電池10は使用されていない(以下、「放置」という)か、自動車の走行等に伴い放電している。このような場合、許容入力電流値算出手段42は、上述の式(I)又は式(II)ではなく、以下の式(I')又は式(II')を用いて許容入力電流値IlimBおよびIlimAを算出する(S54、S64)。つまり、充電に換えて、放置または放電の場合には、上記減少分F又はfは、単位時間当たりの許容入力電流値の回復量F'又はf'と考えることができる。したがって、許容入力電流値IlimBおよびIlimAは、放置又は充放電の継続による許容入力電流値の回復分F'又はf'を加算し、二次電池の放置による許容入力電流値の回復量Gを減算することで算出される。換言すれば、上記式(I)及び(II)の式中のFの関数及びfの関数における符号をそれぞれマイナスからプラスに変えて、許容入力電流値Ilimを算出することができる。なお、式(I')又は式(II')は、F関数及びf関数が、放置または放電による単位時間当たりの許容電流回復項を示すこと以外は、式(I)及び(II)と共通である。したがって、他の項等についての説明はここでは省略する。
次いで、許容入力電流値算出手段42、上記式(III)により、二次電池の経時劣化を考慮した許容入力電流値IlimB'およびIlimA'を算出する(S56、S66)。すなわち、放置による許容入力電流値Ilimの増加分(G項による回復分)、または、放電継続による許容入力電流値Ilimの回復分(F項による回復分)を更新する。これにより、許容入力電流値算出手段42により、経時劣化を考慮した許容入力電流値IlimB'およびIlimA'が算出される。
許容入力電流値算出手段42は、許容入力電流値IlimBおよびIlimAと、経時劣化を考慮した許容入力電流値IlimB'およびIlimA'を算出する。ここで、HVECU30は、金属リチウムのうちの活性リチウムの析出を許容するべく、許容入力電流値Ilimを緩和するようにしている。すなわち、時間tにおける許容入力電流値Ilim(t)が、Ilim(t)>IlimB'の関係となることが許容される(S70)。
なお、二次電池の充放電制御においては、フィードバック制御の制御遅れなどによって、二次電池電流IBが許容入力電流値IlimまたはIlim'を超えて流れることがあり得る。本実施形態において、入力電力制限値算出手段44は、このフィードバック制御の遅れに基づく金属リチウムの析出を抑制するために、二次電池10への入力許可電力を制限する入力電力制限値Winを規定するようにしている。
ここで入力電力制限値Winは、図3に示すように、時刻tにおける実際の二次電池電流値IB(t)が許容入力電流値Ilim'(t)に近づいてきたときに、二次電池電流値IB(t)が許容入力電流値Ilim'(t)に到達しないように制限を開始するための目安となる入力電力(W)の制限値である。入力電力制限値Winは、例えばIlim'を上回らないような入力電流である電流目標値Itagを設定したとき、実際の二次電池電流値IB(t)がこの電流目標値Itagに到達するような入力電力値として把握することができる。
なお、入力電力制限値算出手段44は、具体的には、以下のようにして入力電力制限値Winを算出することができる。すなわち、まず、例えばIlim'を所定量オフセットさせるようにした入力電流制限目標値Itagを一旦算出する。次いで、RAM36に一時記憶された時間tにおける二次電池電流値IB(t)と、得られたItagとに基づいて、下式(IV)により入力電力制限値Winを算出する。なお、Itag1及びItag2は、以下の式(V)により得ることができる。
なお、式(V)において、Itag1及びItag2は、上述のようにIlim'に対し、それぞれ所定量だけオフセットさせた量として求められる。すなわち、Itag1及びItag2は、式(I)における、充電の継続による許容入力電流値Ilimの減少分(F関数による減少項)を更新する。したがって、Itag1,Itag2と、Ilim'の関係を、HVECU30のRAM36にマップとして予め格納しておき、これを参照してItag1,Itag2を求めるとよい。なお、二次電池の劣化や二次電池の制御を考慮してマップを作成しておくことにより、さらに局所的な負極電位低下による金属リチウム析出を抑制することができる。
入力電力制限値算出手段44は、許容入力電流値算出手段42により出力された、これら放置時の回復分または放電時の増加分が更新された許容入力電流値Ilim'と、時刻tにおける実際の二次電池電流値IBとを基に、式(IV)及び式(V)を用い、入力電力制限値Winを算出する(S100)。さらに、算出された入力電力制限値Winを基に、二次電池10への入力許可電力を制限する(S110)。ここで、放置時または放電時は二次電池10への充電が行われない。したがって、入力電力制限値Winが更新されるだけで、モータの駆動(出力トルク)制御は、入力電力制限値Winとは無関係に行われる。
これにより、二次電池10への入力電力は、入力電力制限規定値のベース電力値であるSWinに対し、二次電池電流IBに応じたフィードバック制御が行われる。なお、このフィードバック制御においては、金属リチウムを析出させないための許容入力電流値Ilimまたはこれに電池劣化を考慮したIlim'に対し、所定のオフセット(制御マージン)を付与したItag1またはItag2に応じたものとなっている。これにより、フィードバック制御による制御遅れなどにより、二次電池電流IBがItag1またはItag2を超えてしまうことを、効果的に防止することができる。さらに、Itag1(またはItag2)は、充放電の履歴を考慮している。すなわち、式(I)、(II)、(I')、(II')、(III)に示すように、充放電継続時間に基づく許容入力電流の減少、回復や、放置に許容入力電流の回復を考慮している。従って、その時の二次電池10の状態に応じた金属リチウム析出防止を図ることができる。
(1)ここで、許容入力電流値Ilim(t)が、Ilim(t)≧IlimB'(t)ではないとき、すなわちIlim(t)<IlimB'(t)のとき、許容入力電流値Ilim(t)を入力しても負極には金属リチウムは析出しない。したがって、入力電力制限値算出手段44は、例えば、二次電池10への入力許可電力を制限する必要はない。
(2)しかしながら、許容入力電流値Ilim(t)が、IlimB'を超えるとき、すなわちIlim(t)≧IlimB'であるときは、負極表面に金属リチウムが析出しうる。したがって、入力電力制限値算出手段44は、先ずは許容入力電流値IlimA(t)に基づいて二次電池10への入力許可電力を制限する。そして、下記式(VI)により、IlimB'を超過したI×tを積算する。換言すれば、金属リチウムの析出量に対応するΣIlim(t)を算出する(S80)。そして入力電力制限値算出手段44は、算出された金属リチウムの析出量に対応するΣIlim(t)が、予め定められた活性リチウムが不活性リチウムに反応する金属リチウムの析出量に対応する閾値ΣIlimitとの比較において、ΣIlim(t)>ΣIlimitであるかどうかを確認する(S90)。そして、ΣIlim(t)>ΣIlimitの関係を満たす場合、すなわちΣIlim(t)が閾値を超える場合は、従来と同様、許容入力電流値IlimB'の減少分(F関数による減少項)に基づいて、上記手順にて入力電力制限値WinB(t)を算出する(S120)。
(3)これに対し、S90において、ΣIlim(t)>ΣIlimitの関係を満たさない場合、すなわちΣIlim(t)が閾値ΣIlimit以下の場合は、析出した活性リチウムは放電時に再溶解すると考えられる。そのため、負極に析出した金属リチウムが、電解液と反応して不活性リチウムとなる閾値ΣIlimitに達しない範囲で、負極に金属リチウムが析出することが許容される。したがって、ΣIlim(t)≦ΣIlimitの場合は、入力電力制限値算出手段44は、より緩和された入力電力制限値WinA(t)を算出する。具体的には、入力電力制限値算出手段44は、許容入力電流値IlimA'の減少分(F関数による減少項)に基づいて、上記手順にて入力電力制限値WinA(t)を算出する(S100)。
HVECU30は、このように入力電力制限値算出手段44によって算出された入力電力制限値Winに基づき、二次電池10への入力電力を制限する(S124)。より具体的には、HVECU30は、二次電池10への入力電力が入力電力制限値Win以下になるようにモータトルク指令(充電するための負のトルク指令)を調整して、モータECU28へ送る。モータECU28は、入力電力制限値Winに基づき制御されたモータトルク指令にしたがい、昇圧コンバータ兼インバータ50による二次電池10への入力電力を制限する。
図4は、自動車走行時の駆動用二次電池について、(a)充放電電流、(b)金属リチウムの析出量ΣIlim(t)、(c)許容入力電流値Ilimmax、(d)入力電力制限値Winmaxの時間変化の一例を示すグラフである。(a)において、二次電池の放電電流は一本のラインで示されているが、入力電流については、入力制限がかかる時間帯については、三本のラインで示されている。この例では、一番上のライン(小充電)がIlimB(t)を、真ん中のライン(中充電)がIlimA(t)を、一番下のライン(大充電)が未制限時の充電電流を表している。例えば、図4(a)の約左半分に示すように、時間tが初期の頃は、S90においてΣIlim(t)≦ΣIlimitの関係であったため、HVECU30は、二次電池への入力電流を、より厳しい許容入力電流値IlimB又はIlimB'は超えてよいが、ラインAとして示されるより緩やかな許容入力電流値IlimA又はIlimA'を超えないように、入力電力制限値WinA(t)に基づいて制限している(S130)。IlimB又はIlimB'を超えない場合は制限が為されない。そして、図4(b)に示すように、S90においてΣIlim(t)>ΣIlimitの関係となる時間帯(両矢印で示す)において、HVECU30は、二次電池への入力電流を、ラインBとして示されるより厳しい許容入力電流値IlimB又はIlimB'を超えないように、入力電力制限値WinB(t)に基づいて制限する(S110)。その結果、ΣIlim(t)≦ΣIlimitの関係が維持され、二次電池への充電電流IBがIlimB'以下に維持される。これにより、負極における金属リチウムの析出を好適に抑制することができる。なお、一として、二次電池の耐用年数(例えば10年)を考慮して、当該耐用年数までは許容入力電流値IlimA(図5のラインA)によって入力電流を制限し、耐用年数を満了した後に許容入力電流値IlimB(図5のラインB)によって入力電流を制限するように、F関数およびG関数を設計してもよい。
また、本実施の形態における二次電池の充放電制御装置20は、二次電池の使用による性能低下を抑制するために、リチウムイオン二次電池の上限電圧が予め設定された上限電圧を超えないように制御する上限電圧制御手段をさらに有してもよい。上限電圧制御手段としては、例えば、HVECU30において、予め設定された上限電圧値と、図示しない電圧センサから出力される実際の二次電池電圧値とを比較して、充電量を制御する。このように、充電電圧に上限値を設定することで、セルに不当に大きな電圧が印加されることを防止することが可能となる。
[劣化係数η]
上述したように、図1に示す許容入力電流値算出手段42は、使用による二次電池10の性能低下を考慮して、上記式(III)で、二次電池の経時劣化を考慮したIlim'を求めている。ここで、リチウムイオン二次電池などの二次電池は経年使用に伴い、劣化度合いが変化し得る。そこで、リチウムイオン二次電池の入出力を最大限活用しつつ、劣化度合いに応じて、リチウム金属の析出を抑制するために、上述した入力電力制限値Winを変更することが好適である。
そこで、許容入力電流値算出手段42は、公知の電池劣化度算出方法に基づき劣化パラメータDを求めて、劣化係数ηを決定してもよい。電池劣化度算出方法としては、例えば、特許文献1に開示された、(ア)起電圧からの電池劣化度算出方法、(イ)内部抵抗からの電池劣化度算出方法、(ウ)満充電容量からの電池劣化度算出方法、などが挙げられる。このような電池劣化度算出方法によると、劣化パラメータDに応じて、予めHVECU30のROM34に格納されたマップを用いて劣化係数ηを求めることができる。これにより、二次電池の経年劣化が反映された、経時劣化を考慮したIlim'を算出することができる。すなわち、劣化度が相対的に小さい二次電池の場合には、充電が継続した場合における入力電力制限値Winの上昇度合いが相対的に緩和されるが、劣化度が大きな二次電池の場合には、入力電力制限値Winを相対的に大きく制限し(例えばゼロにする)、充電電流をより小さく低減させることが望まれる。また、閾値ΣIlimitは、二次電池の性能に影響を及ぼさない金属リチウムの析出量であることの他に、安全性に影響を及ぼさない析出量として決定してもよい。これらは、例えば、二次電池、延いては車両を実際に使用するユーザの特性によって、例えば、電池性能、セル数、電池劣化特性などを考慮して決定することができる。なお、上記の電池劣化度算出方法では、HVECU30に付加的に備えられるタイマー38により、二次電池10の装着時から使用期間が累積カウントされている。なお、部品交換等を考慮し、タイマー情報の共有化の観点から、例えば、二次電池ECU22やエンジンECU26に設けられているタイマーにおいて、二次電池10の装着時からの使用期間が累積カウントされていてもよく、複数箇所でカウントすることも好適である。
以上の構成は、例えば、ハイレートでの充放電を行う比較的大容量(例えば電池容量が20Ah以上の、典型的には25Ah以上の、例えば30Ah以上)の二次電池についての制御方法に好ましく適用することができる。したがって、このような特徴を活かして、ここに開示される技術は、高エネルギー密度,高入出力密度およびサイクル特性等が要求される用途ならびに高い信頼性を要求される用途の二次電池を含む制御方法に、特に好ましく適用することができる。かかる用途としては、例えば、プラグインハイブリッド自動車(PHV)、ハイブリッド自動車(HV)、電気自動車(EV)等の車両に搭載される駆動用電源が挙げられる。この二次電池は、典型的には複数個を直列および/または並列に接続してなる組電池の形態であってもよい。
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。本出願の請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。例えば、上記充放電制御によると、二次電池として用いるリチウムイオン二次電池の使用による性能低下を抑制して、安定して二次電池から出力を得ることができる。かかる二次電池としては、車両における二次電池の充放電制御に限定されず、他の用途のリチウムイオン二次電池にも適用することが可能である。