以下、本発明の例示的な実施形態(第1実施形態、第2実施形態)が開示される。以下に示される実施形態の構成、ならびに当該構成によってもたらされる作用および結果(効果)は、例である。本発明は、以下の実施形態に開示される構成以外によっても実現可能である。また、本発明によれば、以下の構成によって得られる種々の効果(派生的な効果も含む)のうち少なくとも一つを得ることが可能である。
(第1実施形態)
第1実施形態では、後輪系にディスクブレーキタイプのEPBを適用している車両用ブレーキ装置を例に挙げて説明する。図1は、第1実施形態の車両用ブレーキ装置の全体概要を示す模式図である。図2は、第1実施形態の車両用ブレーキ装置に備えられる後輪系の車輪ブレーキ機構の断面模式図である。
図1に示すように、第1実施形態の車両用ブレーキ装置は、運転者の踏力に基いてサービスブレーキ力(液圧ブレーキ力)を発生させるサービスブレーキ1と、駐車時や一時停止時などに車両の移動を規制するためのEPB2と、を備えている。
サービスブレーキ1は、運転者によるブレーキペダル3の踏み込みに基いてブレーキ液圧を発生させ、このブレーキ液圧に基いてサービスブレーキ力を発生させる液圧ブレーキ機構(以下、「液圧ブレーキ装置」ともいう。)である。液圧ブレーキ装置は、ESC−ECU8(制御部)によって制御される。
具体的には、サービスブレーキ1は、運転者によるブレーキペダル3の踏み込みに応じた踏力を倍力装置4にて倍力したのち、この倍力された踏力に応じたブレーキ液圧をマスタシリンダ(以下、M/Cという。)5内に発生させる。そして、このブレーキ液圧を各車輪の車輪ブレーキ機構に備えられたホイールシリンダ(以下、W/Cという。)6に伝えることでサービスブレーキ力を発生させる。また、M/C5とW/C6との間にブレーキ液圧制御用のアクチュエータ7が備えられている。アクチュエータ7は、サービスブレーキ1により発生させるサービスブレーキ力を調整し、車両の安全性を向上させるための各種制御(例えば、アンチスキッド制御等)を行う。
アクチュエータ7を用いた各種制御は、サービスブレーキ力を制御するESC(Electronic Stability Control)−ECU8にて実行される。例えば、アクチュエータ7に備えられる各種制御弁やポンプ駆動用のモータを制御するための制御電流をESC−ECU8が出力することにより、アクチュエータ7に備えられる液圧回路を制御し、W/C6に伝えられるW/C圧を制御する。これにより、車輪スリップの回避などを行い、車両の安全性を向上させる。例えば、アクチュエータ7は、各車輪毎に、W/C6に対してM/C5内に発生させられたブレーキ液圧もしくはポンプ駆動により発生させられたブレーキ液圧が加えられることを制御する増圧制御弁や、各W/C6内のブレーキ液をリザーバに供給することでW/C圧を減少させる減圧制御弁等を備えており、W/C圧を増圧・保持・減圧制御できる構成とされている。また、アクチュエータ7は、サービスブレーキ1の自動加圧機能を実現可能にしており、ポンプ駆動および各種制御弁の制御に基いて、ブレーキ操作がない状態であっても自動的にW/C6を加圧できる。
一方、EPB2は、EPBモータ10によって車輪ブレーキ機構を駆動させることで電動ブレーキ力を発生させるものであり、EPBモータ10の駆動を制御するEPB−ECU9(制御部)を有して構成されている。なお、EPB−ECU9とESC−ECU8は、例えばCAN(Controller Area Network)通信によって情報の送受信を行う。
車輪ブレーキ機構は、第1実施形態の車両用ブレーキ装置においてブレーキ力を発生させる機械的構造である。前輪系の車輪ブレーキ機構は、サービスブレーキ1の操作によってサービスブレーキ力を発生させる構造とされている。また、後輪系の車輪ブレーキ機構は、サービスブレーキ1の操作とEPB2の操作の双方に対してブレーキ力を発生させる共用の構造とされている。前輪系の車輪ブレーキ機構は、後輪系の車輪ブレーキ機構に対して、EPB2の操作に基いて電動ブレーキ力を発生させる機構をなくした従来から一般的に用いられている車輪ブレーキ機構であるため、ここでは説明を省略し、以下では後輪系の車輪ブレーキ機構について説明する。
後輪系の車輪ブレーキ機構では、サービスブレーキ1を作動させたときだけでなくEPB2を作動させたときにも、図2に示す摩擦材であるブレーキパッド11を押圧し、ブレーキパッド11によって被摩擦材であるブレーキディスク12(12RL、12RR、12FR、12FL)を挟み込むことにより、ブレーキパッド11とブレーキディスク12との間に摩擦力を発生させ、ブレーキ力を発生させる。
具体的には、車輪ブレーキ機構は、図1に示すキャリパ13内において、図2に示すようにブレーキパッド11を押圧するためのW/C6のボディ14に直接固定されているEPBモータ10を回転させることにより、EPBモータ10の駆動軸10aに備えられた平歯車15を回転させる。そして、平歯車15に噛合わされた平歯車16にEPBモータ10の回転力(出力)を伝えることによりブレーキパッド11を移動させ、EPB2による電動ブレーキ力を発生させる。
キャリパ13内には、W/C6およびブレーキパッド11に加えて、ブレーキパッド11に挟み込まれるようにしてブレーキディスク12の端面の一部が収容されている。W/C6は、シリンダ状のボディ14の中空部14a内に通路14bを通じてブレーキ液圧を導入することで、ブレーキ液収容室である中空部14a内にW/C圧を発生させられるようになっており、中空部14a内に回転軸17、推進軸18、ピストン19などを備えて構成されている。
回転軸17は、一端がボディ14に形成された挿入孔14cを通じて平歯車16に連結され、平歯車16が回動させられると、平歯車16の回動に伴って回動させられる。この回転軸17における平歯車16と連結された端部とは反対側の端部において、回転軸17の外周面には雄ネジ溝17aが形成されている。一方、回転軸17の他端は、挿入孔14cに挿入されることで軸支されている。具体的には、挿入孔14cには、Oリング20と共に軸受け21が備えられており、Oリング20にて回転軸17と挿入孔14cの内壁面との間を通じてブレーキ液が漏れ出さないようにされながら、軸受け21により回転軸17の他端を軸支持している。
推進軸18は、中空状の筒部材からなるナットにて構成され、内壁面に回転軸17の雄ネジ溝17aと螺合する雌ネジ溝18aが形成されている。この推進軸18は、例えば回転防止用のキーを備えた円柱状もしくは多角柱状に構成されることで、回転軸17が回動しても回転軸17の回動中心を中心として回動させられない構造になっている。このため、回転軸17が回動させられると、雄ネジ溝17aと雌ネジ溝18aとの噛合いにより、回転軸17の回転力を回転軸17の軸方向に推進軸18を移動させる力に変換する。推進軸18は、EPBモータ10の駆動が停止されると、雄ネジ溝17aと雌ネジ溝18aとの噛合いによる摩擦力により同じ位置で止まるようになっており、目標とする電動ブレーキ力になったときにEPBモータ10の駆動を停止すれば、推進軸18がその位置で保持され、所望の電動ブレーキ力を保持してセルフロック(以下、単に「ロック」という。)できるようになっている。
ピストン19は、推進軸18の外周を囲むように配置されるもので、有底の円筒部材もしくは多角筒部材にて構成され、外周面がボディ14に形成された中空部14aの内壁面と接するように配置されている。ピストン19の外周面とボディ14の内壁面との間のブレーキ液漏れが生じないように、ボディ14の内壁面にシール部材22が備えられ、ピストン19の端面にW/C圧を付与できる構造とされている。シール部材22は、ロック制御後のリリース制御時にピストン19を引き戻すための反力を発生させるために用いられる。このシール部材22を備えてあるため、基本的には旋回中に傾斜したブレーキディスク12によってブレーキパッド11およびピストン19がシール部材22の弾性変形量を超えない範囲で押し込まれても、それらをブレーキディスク12側に押し戻してブレーキディスク12とブレーキパッド11との間が所定のクリアランスで保持されるようにできる。
ピストン19は、回転軸17が回転しても回転軸17の回動中心を中心として回動させられないように、推進軸18に回転防止用のキーが備えられる場合にはそのキーが摺動するキー溝が備えられ、推進軸18が多角柱状とされる場合にはそれと対応する形状の多角筒状とされる。
このピストン19の先端にブレーキパッド11が配置され、ピストン19の移動に伴ってブレーキパッド11を紙面左右方向に移動させるようになっている。具体的には、ピストン19は、推進軸18の移動に伴って紙面左方向に移動可能で、かつ、ピストン19の端部(ブレーキパッド11が配置された端部と反対側の端部)にW/C圧が付与されることで推進軸18から独立して紙面左方向に移動可能な構成とされている。
ここで、図3を参照して、シール部材22の変形の様子について説明する。図3は、第1実施形態の電動ブレーキ装置におけるシール部材22の変形の様子を示す模式図(図2の領域Rからシール部材22だけを抜き出した図)である。
図3に示すように、非制動時、シール部材22は、空間内に隙間なく収まっている。また、液圧制動時、シール部材22は、ブレーキ液に押されることによって、大きく弾性変形する。このようにシール部材22が大きく弾性変形していれば、EPB解除時に、そのシール部材22が元の形に戻ろうとする力を利用することによって、ピストン19を適正なリリース位置まで移動させることができる。
また、電動制動時、シール部材22は、ピストン19との摩擦によって少し弾性変形する。しかし、シール部材22の弾性変形が小さいので、EPB解除時に、シール部材22が元の形に戻ろうとする力を利用してピストン19を適正なリリース位置まで移動させることはできない。
したがって、このような状態でEPB解除を行うと、いわゆる引き摺りが発生しうる。引き摺りとは、非制動時にブレーキパッド11とブレーキディスク12が接触してブレーキ力を生じている現象を指す。
引き摺りが発生すると、燃費、音、引っかかり感等、様々な面でデメリットが生じる。従来技術では、EPB解除時に、引き摺りが発生しないようにするために、運転者が車両を走行させるための操作(例えばアクセルペダルの踏み込み等)を行ってから液圧をかけてEPBを解除するため、応答性が良くないという問題があった。以下では、第1実施形態において、引き摺りを回避しつつ、応答性を向上させる技術について説明する。
図1に戻って、上述のように構成された車輪ブレーキ機構では、サービスブレーキ1が操作されると、それにより発生させられたW/C圧に基いてピストン19が紙面左方向に移動させられることでブレーキパッド11がブレーキディスク12に押圧され、サービスブレーキ力を発生させる。また、EPB2が操作されると、EPBモータ10が駆動されることで平歯車15が回転させられ、それに伴って平歯車16および回転軸17が回転させられるため、雄ネジ溝17aおよび雌ネジ溝18aの噛合いに基いて推進軸18がブレーキディスク12側(紙面左方向)に移動させられる。そして、それに伴って推進軸18の先端がピストン19の底面に当接してピストン19を押圧し、ピストン19も同方向に移動させられることでブレーキパッド11がブレーキディスク12に押圧され、電動ブレーキ力を発生させる。このため、サービスブレーキ1の操作とEPB2の操作の双方に対してブレーキ力を発生させる共用の車輪ブレーキ機構とすることが可能となる。
また、車両は、操作SW(Switch)23、表示ランプ24、車内センサ25、車内撮影カメラ26、測距センサ27、前方撮影カメラ28を備える。
操作SW23は、運転者が各種操作(例えばEPB開始操作、EPB解除操作等)を行うための手段であり、例えば車室内のインストルメントパネル(図示せず)に備えられる。
表示ランプ24は、EPB-ECU9からの指示に応じて表示を行う手段であり、例えばインストルメントパネルに備えられる。
車内センサ25は、車内の所定の状態を検知するためのセンサである。車内センサ25は、例えば、アクセルペダル開度を検知するセンサや、ブレーキペダル開度を検知するセンサや、ハンドル操作の有無や操作量を検知するセンサや、運転者の姿勢を検知するセンサである。また、車内センサ25は、例えば、車両の前後方向(進行方向)のG(加速度)を検知するセンサや、M/C5におけるM/C圧を検知するセンサである。また、車内センサ25は、例えば、車輪ブレーキ機構(例えばブレーキディスク)の温度を検知するセンサや、各車輪の回転速度を検知するセンサや、EPBモータ10の電流を検知(検出)するセンサ等である。車内センサ25は、検知した値や検知した値に基いた演算結果等をEPB-ECU9に送る。
車内撮影カメラ26は、車内を撮影する。車内撮影カメラ26は、例えば、運転者を含む車内を撮影する。
測距センサ27は、例えば、超音波や赤外線等を用いて、前方車両との距離を計測する。
前方撮影カメラ28は、車両の前方を撮影する。前方撮影カメラ28は、例えば、前方車両や前方信号機を含む前方を撮影する。
EPB−ECU9は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、I/Oなどを備えた周知のマイクロコンピュータによって構成され、ROMなどに記憶されたプログラムにしたがってEPBモータ10の回転を制御することにより電動ブレーキ制御を行うものである。
EPB−ECU9は、例えば操作SW23の操作状態に応じた信号等を入力し、操作SW23の操作状態に応じてEPBモータ10を駆動する。さらに、EPB−ECU9は、EPBモータ10の電流検出値に基いてロック制御やリリース制御などを実行するものであり、その制御状態に基いてロック制御中であることやロック制御によって車輪がロック状態であること、および、リリース制御中であることやリリース制御によって車輪がリリース状態(EPB解除状態)であることを認識する。そして、EPB−ECU9は、表示ランプ24に対し、各種表示を行わせるための信号を出力する。
以上のように構成された車両用ブレーキ装置では、基本的には、車両走行時にサービスブレーキ1によってサービスブレーキ力を発生させることで車両に制動力を発生させるという動作を行う。また、サービスブレーキ1によって車両が停車(一時停止等)をした際に、運転者が操作SW23を押下してEPB2を作動させて電動ブレーキ力を発生させることで停車状態(一時停止状態等)を維持したり、その後に電動ブレーキ力を解除したりするという動作を行う。すなわち、サービスブレーキ1の動作としては、車両走行時に運転者によるブレーキペダル3の操作が行われると、M/C5に発生したブレーキ液圧がW/C6に伝えられることでサービスブレーキ力を発生させる。また、EPB2の動作としては、EPBモータ10を駆動することでピストン19を移動させ、ブレーキパッド11をブレーキディスク12に押し付けることで電動ブレーキ力を発生させて車輪をロック状態にしたり、ブレーキパッド11をブレーキディスク12から離すことで電動ブレーキ力を解除して車輪をリリース状態にしたりする。
具体的には、ロック・リリース制御により、電動ブレーキ力を発生させたり解除したりする。ロック制御では、EPBモータ10を正回転させることによりEPB2を作動させ、EPB2にて所望の電動ブレーキ力を発生させられる位置でEPBモータ10の回転を停止し、この状態を維持する。これにより、所望の電動ブレーキ力を発生させる。リリース制御では、EPBモータ10を逆回転させることによりEPB2を作動させ、EPB2にて発生させられている電動ブレーキ力を解除する。
ここで、ESC−ECU8とEPB−ECU9の制御の詳細について説明する。ESC−ECU8とEPB−ECU9は、車両の車輪と一体に回転するブレーキディスク12(被制動部材)に向けて、液圧によってブレーキパッド11(制動部材)を押圧して、液圧ブレーキ力を発生させる液圧ブレーキ装置と、ブレーキディスク12に向けて、EPBモータ10を駆動することによってブレーキパッド11を押圧して、電動ブレーキ力を発生させる電動ブレーキ装置と、を備える車両に適用される。
また、ESC−ECU8は、液圧ブレーキ装置による液圧制御を実行する。また、EPB−ECU9は、電動ブレーキ装置による電動ブレーキ力を発生させるロック制御と、電動ブレーキ力を解除するリリース制御を実行する。
また、EPB−ECU9は、ロック制御が完了したロック状態において、予め設定されたリリース予測条件が満たされた場合、液圧ブレーキ装置によって所定液圧を発生させるリリース準備制御を実行し、その後、予め設定されたリリース開始条件が満たされた場合、リリース制御を実行する。なお、リリース準備制御は、例えば、EPB−ECU9がESC−ECU8に指示を行うことによって実行されるが、以下、説明を簡単にするために、EPB−ECU9によって実行されるものとする。
具体的には、EPB−ECU9は、リリース予測条件が満たされたか否かを、車内における所定情報、および、車外における所定情報の少なくともいずれか一方に基いて判定する。その場合、車内における所定情報は、例えば、アクセルペダル開度、ブレーキペダル開度、ハンドル操作、および、運転者の姿勢の少なくともいずれか一つである。
また、車外における所定情報は、前方信号機の情報(色の情報等)、および、前方車両の発進挙動(車両前進、ブレーキランプ消灯等)の少なくとも一つである。これらの車内における所定情報や車外における所定情報は、例えば、車内センサ25、車内撮影カメラ26、測距センサ27、前方撮影カメラ28等によって取得した情報や、あるいは、そのような情報を演算処理して得られる情報である。
より具体的には、例えば、EPB−ECU9は、アクセルペダル開度がゼロよりも大きくて微弱な第1のアクセルペダル開度閾値以下の場合、リリース予測条件が満たされたと判定する。
また、例えば、EPB−ECU9は、ブレーキペダル開度が所定のブレーキペダル開度閾値以上の状態からその閾値未満状態に変化したときに、リリース予測条件が満たされたと判定する。
また、例えば、EPB−ECU9は、運転者がハンドルに触ったときに、リリース予測条件が満たされたと判定する。
また、例えば、EPB−ECU9は、運転者の姿勢(視線、体勢等)が運転時の姿勢になったときに、リリース予測条件が満たされたと判定する。
また、例えば、EPB−ECU9は、前方信号機の色が赤色から青色に変化したときに、リリース予測条件が満たされたと判定する。
また、例えば、EPB−ECU9は、前方車両が前進を開始したときに、リリース予測条件が満たされたと判定する。
また、例えば、EPB−ECU9は、前方車両のブレーキランプが消えたときに、リリース予測条件が満たされたと判定する。
また、EPB−ECU9は、リリース開始条件が満たされたか否かを、例えば、アクセルペダル開度、電動ブレーキ解除操作、および、前方車両の発進挙動の少なくともいずれか一つに基いて判定する。
より具体的には、例えば、EPB−ECU9は、アクセルペダル開度が第1のアクセルペダル開度閾値よりも大きく設定されている第2のアクセルペダル開度閾値以上となったときに、リリース開始条件が満たされたと判定する。
また、例えば、EPB−ECU9は、操作SW23を用いた電動ブレーキ解除操作があったときに、リリース開始条件が満たされたと判定する。
また、例えば、EPB−ECU9は、前方車両が前進して自車両から所定距離以上離れたとき、前方車両の前進速度が所定速度以上になったときや、前方車両のブレーキランプが消灯したときに、リリース開始条件が満たされたと判定する。
次に、図4を参照して、第1実施形態のブレーキ制御装置が実行する処理について説明する。図4は、第1実施形態のブレーキ制御装置が実行する処理を示すフローチャートである。
例えば、運転者は、信号待ちの一時停止時に、まず、ブレーキペダルを踏んで液圧ブレーキをかけ、停車状態においてEPB開始操作を行って電動ブレーキをかける。その場合、ステップS1において、EPB−ECU9は、ロック制御を実行する。
次に、ステップS2において、EPB−ECU9は、リリース予測条件が満たされたか否かを判定し、Yesの場合はステップS3に進み、Noの場合はステップS2に戻る。例えば、運転者が発進の準備段階として足をアクセルペダルに軽く乗せた場合、ステップS2において、EPB−ECU9は、アクセルペダル開度がゼロよりも大きくて微弱な第1のアクセルペダル開度閾値以下になったことを検知して、リリース予測条件が満たされたと判定する。
ステップS3において、EPB−ECU9は、リリース準備制御を実行する。具体的には、EPB−ECU9は、液圧ブレーキ装置によって所定液圧を発生させる。これによって、シール部材22が大きく弾性変形する(図3参照)。
次に、ステップS4において、EPB−ECU9は、リリース開始条件が満たされたか否かを判定し、Yesの場合はステップS5に進み、Noの場合はステップS4に戻る。例えば、運転者が発進ためにアクセルペダルを踏み込んだ場合、ステップS4において、EPB−ECU9は、アクセルペダル開度が第2のアクセルペダル開度閾値以上になったことを検知して、リリース開始条件が満たされたと判定する。
ステップS5において、EPB−ECU9は、リリース制御を実行する。次に、ステップS6において、EPB−ECU9は除圧(液圧解除)を行う。この後、車両走行制御が行われ、車両が走行を開始する。
ここで、図5は、比較例(従来技術)における経時的状態変化の様子を示すタイミングチャートと、第1実施形態における経時的状態変化の様子を示すタイミングチャートである。
比較例の場合、リリース開始条件が満たされて(時刻t2)から液圧を上昇させるので、リリース開始条件の成立(時刻t2)からリリース制御の開始(時刻t5)までタイムラグがある。また、リリース制御が完了した時刻t7に液圧の除圧を開始し、時刻t8に除圧を終了している。したがって、リリース開始条件の成立からリリース制御後の除圧完了までの時間T1(時刻t2〜t8)が長い。
一方、第1実施形態の場合、まず、リリース予測条件が成立すると(時刻t1)、液圧を上昇させる。よって、その後に、リリース予測条件がON中にリリース開始条件が満たされたとき(時刻t2)には液圧が充分に上昇しており、すぐにリリース制御(時刻t2〜t4)を行うことができる。また、時刻t3に、リリース開始条件がOFFになっているので、リリース予測条件をOFFとする。また、リリース制御が完了した時刻t4に液圧の除圧を開始し、時刻t6に除圧を終了している。したがって、リリース開始条件の成立からリリース制御後の除圧完了までの時間T2(時刻t2〜t6)は、比較例の場合の時間T1よりも有意に短くなる。
このように、第1実施形態のブレーキ制御装置によれば、一時停止等で電動ブレーキがロック状態となっている車両に関して、リリース予測条件が満たされた場合に所定液圧を発生させるリリース準備制御を実行しておくことで、その後、運転者が車両を走行させるための操作を行った場合にリリース制御を迅速に(従来技術よりも有意に早く)完了することができる。
なお、リリース準備制御を実行している途中でリリース開始条件が満たされた場合には、第1の方法と第2の方法の二通りの方法をとりえる。第1の方法では、リリース準備制御が完了するまで待ってからリリース制御を開始する。
図6は、第1の方法における経時的状態変化の様子を示すタイミングチャートである。第1の方法の場合、リリース予測条件が成立して(時刻t11)、液圧の上昇中にリリース開始条件が満たされたとき(時刻t12)、液圧の上昇が完了した時刻t14からリリース制御を開始する。また、時刻t13に、リリース開始条件がOFFになっているので、リリース予測条件をOFFとする。また、リリース制御が完了した時刻t15に液圧の除圧を開始し、時刻t16に除圧を終了している。
この場合も、リリース開始条件の成立からリリース制御後の除圧完了までの時間T3(時刻t12〜t16)は、比較例の場合の時間T1よりも有意に短くなる。また、液圧の上昇が完了してからリリース制御を開始することで、シール部材22を充分に弾性変形させることができ、引き摺りをより確実に回避できる。
また、第2の方法では、EPB−ECU9は、リリース準備制御を実行している途中でリリース開始条件が満たされた場合、強制的にリリース制御を開始する。
図7は、第2の方法における経時的状態変化の様子を示すタイミングチャートである。第2の方法の場合、リリース予測条件が成立して(時刻t11)、液圧の上昇中にリリース開始条件が満たされたとき(時刻t12)、液圧の上昇が途中の時刻t12からリリース制御を開始する。また、時刻t13に、リリース開始条件がOFFになっているので、リリース予測条件をOFFとする。また、リリース制御が完了した時刻t21に液圧の除圧を開始し、時刻t22に除圧を終了している。
この場合も、リリース開始条件の成立からリリース制御後の除圧完了までの時間T4(時刻t12〜t22)は、比較例の場合の時間T1よりも有意に短くなるとともに、第1の方法の場合の時間T3よりも短くなるので、応答性をより向上できる。また、液圧の上昇が途中の状態でリリース制御を開始しているが、液圧が無い状態でリリース制御を開始するときに比べると、引き摺り発生の可能性を大きく低減できる。
(第2実施形態)
次に、第2実施形態のブレーキ制御装置について説明する。第1実施形態と同様の事項については説明を適宜省略する。第2実施形態のブレーキ制御装置では、EPB−ECU9は、リリース準備制御を実行してから所定時間内にリリース開始条件が満たされなかった場合、リリース準備制御を解除する。
図8は、第2実施形態のブレーキ制御装置が実行する処理を示すフローチャートである。図4と同様の事項については説明を適宜省略する。ステップS1において、EPB−ECU9は、ロック制御を実行する。
次に、ステップS2において、EPB−ECU9は、リリース予測条件が満たされたか否かを判定し、Yesの場合はステップS3に進み、Noの場合はステップS2に戻る。
ステップS3において、EPB−ECU9は、リリース準備制御を実行する。
次に、ステップS11において、EPB−ECU9は、リリース準備制御を実行してから所定時間が経過したか否かを判定し、Yesの場合はステップS12に進み、Noの場合はステップS4に進む。
ステップS12において、EPB−ECU9は、リリース準備制御を解除し(除圧し)、ステップS2に戻る。
ステップS4において、EPB−ECU9は、リリース開始条件が満たされたか否かを判定し、Yesの場合はステップS5に進み、Noの場合はステップS11に戻る。
ステップS5において、EPB−ECU9は、リリース制御を実行する。次に、ステップS6において、EPB−ECU9は除圧を行う。この後、車両走行制御が行われ、車両が走行を開始する。
図9は、第2実施形態における経時的状態変化の様子を示すタイミングチャートである。リリース予測条件が成立すると(時刻t31)、液圧を上昇させる。その後、所定時間が経過した時点である時刻t32において、EPB−ECU9は、リリース準備制御を解除して除圧を開始し、時刻t33に除圧が完了する。
このように、第2実施形態のブレーキ制御装置によれば、リリース準備制御を実行してから所定時間内にリリース開始条件が満たされなかった場合、リリース準備制御を解除することで、キャリパ13等の各装置への負荷を軽減し、各装置の長寿命化に寄与することができる。
以上、本発明の実施形態および変形例を説明したが、上述した実施形態および変形例はあくまで一例であって、発明の範囲を限定することは意図していない。上述した新規な実施形態および変形例は、様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、または変更を行うことができる。また、上述した実施形態および変形例は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
例えば、上述の実施形態では、後輪が電動制動車輪であるものとしたが、これに限定されず、前輪が電動制動車輪であってもよい。また、電動ブレーキ解除操作がEPBを作動・解除するための操作SWに基き実行されるものとしたが、これに限定されず、自動運転制御(例えば、前車追従制御)を作動・解除するための操作SW等の運転者の発進意思を検出できる操作SWに基き実行されるものとしてもよい。