以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図においては同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
図1は、本実施形態に係る光学測定装置1の概略構成図である。光学測定装置1は、試料に照射された光に応じて試料から生じる光を検出する装置である。本実施形態では、光学測定装置1は、試料に照射された励起光に応じて試料から生じる蛍光を検出する蛍光測定装置であるとして説明する。励起光とは試料を励起する光であり、蛍光とは励起光に応じて試料が放出する光であり、励起光と波長が異なる光である。また、本実施形態では、光学測定装置1は、イムノクロマト法を用いた測定に係る蛍光を検出する装置であるとして説明する。イムノクロマト法とは、抗原抗体反応を利用した免疫測定法であり、例えば、インフルエンザウイルスの検出等に用いられる。
図1に示されるように、イムノクロマト法を用いた測定では、試料として免疫クロマト試験片100が用意される。免疫クロマト試験片100は、試薬ホルダ101内に、測定対象物となるイムノクロマトメンブレンを収容している。免疫クロマト試験片100のイムノクロマトメンブレンの特定の位置(測定対象部)には、所定の抗原に対する捕捉抗体(例えばインフルエンザウイルス抗原に対する抗体)が固定されている。試薬ホルダ101には、イムノクロマトメンブレンに検体を滴下するための開口部である検体点着ウィンドウ、及び捕捉抗体が固定された測定対象部を測定するための開口部である測定ウィンドウが設けられている。試薬ホルダ101の検体点着ウィンドウに検体が滴下されると、検体中の抗原が、まず蛍光試薬で標識された検出抗体と結合し、次いで捕捉抗体との間で抗原抗体反応を起こしてトラップされる。光学測定装置1は、免疫クロマト試験片100の測定ウィンドウから露出したイムノクロマトメンブレンに対して励起光を照射し、測定対象部における抗原‐抗体複合物(詳細には、抗体の蛍光試薬)から蛍光を検出することにより、蛍光強度を測定する。なお、蛍光試薬としては、例えばユウロピウム、Q−dot(登録商標)、有機色素等を用いることができる。
ここで、光学測定装置1において後述する検出光学系20に入射し、検出される検出光には、蛍光だけでなく、励起光自体に起因する光が含まれることが考えられる。このような光は、例えば、励起光の散乱光が挙げられる。このような散乱光は、例えば、励起光が免疫クロマト試験片100に照射され、散乱することで発生する励起光の一部であり、励起光と等しい位相を持つ(位相差のない)光である。免疫クロマト試験片100のイムノクロマトメンブレンや試薬ホルダ101は一般的に白色であるため、上述した散乱光が生じやすくなっている。また、測定する試料や検出光学系の配置によっては、励起光そのものが検出される場合もある。以下では、光学測定装置1において検出される検出光には、蛍光及び散乱光が含まれるとして説明する。
図1に示されるように、光学測定装置1は、照射光学系10(光源部)と、検出光学系20(光検出部)と、光源駆動回路30と、IV変換アンプ40と、波形生成回路50と、キャンセル回路60(信号処理部)と、タイミング生成器70と、AD変換器80と、CPU90と、を備える。
照射光学系10は、免疫クロマト試験片100に向けて励起光を照射する。照射光学系10は、光源11と、アパーチャー12と、励起光フィルタ13と、コリメートレンズ14と、を有している。光源11は、免疫クロマト試験片100(試料)に励起光(第1光)を照射する。光源11は、例えば半導体発光素子である。本実施形態では、光源11は発光ダイオード(LED)であるとして説明するがこれに限定されず、例えば光量を確保すべくLDが用いられてもよい。アパーチャー12は、光源11から出射された光を、所望の光束断面を有する光に整形するための光束整形部材である。励起光フィルタ13は、アパーチャー12を介して到達した励起光について、励起に必要な波長をフィルタリングする波長選択フィルタである。励起光フィルタ13は、例えば誘電体多層膜フィルタや色ガラスフィルタ等の光学フィルタであり、より詳細には特定の波長帯(蛍光試薬の励起波長)のみを透過させる誘電体多層膜フィルタからなるバンドパスフィルタである。コリメートレンズ14は、励起光フィルタ13によるフィルタリング後の励起光を、免疫クロマト試験片100(詳細にはイムノクロマトメンブレンの測定対象部)上に結像させるレンズである。
検出光学系20は、免疫クロマト試験片100からの蛍光を検出する。しかしながら、現実的には、検出光学系20には、免疫クロマト試験片100からの蛍光(イムノクロマトメンブレンの測定対象部からの蛍光)に加え、上述した励起光自体に起因する散乱光も含んだ光である検出光が入射され、当該検出光を検出することになる。検出光学系20は、光検出素子21と、蛍光フィルタ22と、集光レンズ23とを有している。検出光は、集光レンズ23によって集光され、蛍光フィルタ22を介して光検出素子21へと入射する。蛍光フィルタ22は、免疫クロマト試験片100からの検出光について、蛍光以外の光が光検出素子21に到達することを抑制するために設けられる波長選択フィルタである。蛍光フィルタ22は、例えば誘電体多層膜フィルタや色ガラスフィルタ等の光学フィルタであり、より詳細には特定の波長帯のみを透過させる誘電体多層膜フィルタと色ガラスフィルタを組み合わせたバンドパスフィルタである。しかしながら、例えば励起光波長及び蛍光波長が近い場合等においては、蛍光フィルタ22によって蛍光波長を持つ蛍光を適切に透過させながら励起光波長を持つ散乱光のみを効率よく遮断することは困難である。また、一般的に、効率の良い波長選択フィルタとして汎用される誘電体多層膜フィルタは光の入射角度によって特性が変化してしまう。そのため本実施形態においては、蛍光フィルタ22を、誘電体多層膜フィルタと色ガラスフィルタとの組み合わせによって構成することで、斜め方向からの散乱光を色ガラスフィルタによって効果的に遮断している。しかしながら、やはり波長選択のみでは十分な効果が得難く、様々な条件を持った散乱光の進入を効率よく防ぐことは困難である。以下では、蛍光フィルタ22を設けることによっても、光検出素子21に到達する検出光には散乱光が含まれてしまっているとして説明する。
光検出素子21は、蛍光フィルタ22によるフィルタリング後の検出光を検出する光センサである。光検出素子21は、例えば半導体受光素子である。本実施形態では、光検出素子21はフォトダイオード(PD)であるとして説明するがこれに限定されず、後述する光源11からの励起光の変調周波数に対応して高速応答できるものであれば、アバランシェフォトダイオード(APD)又は光電子増倍管(PMT)等であってもよい。光検出素子21は、詳細には、励起光が照射された免疫クロマト試験片100(詳細にはイムノクロマトメンブレンの測定対象部における抗原‐抗体複合物の蛍光試薬)から生じる蛍光(第2光)、及び、励起光に起因する光であって励起光と位相差がない上述した散乱光(第3光)が含まれる検出光を検出する。光検出素子21は、検出光に応じた検出信号をIV変換アンプ40に出力する。
光源駆動回路30は、LEDである光源11に駆動電流を出力することにより光源11を駆動させる回路である。光源駆動回路30は、タイミング生成器70から、基準となるサイン波状の周波数信号の入力を受ける。光源駆動回路30は、入力された基準となる周波数信号に基づいて駆動電流の周波数を変調する。すなわち、光源駆動回路30は、励起光を出力する光源11の変調周波数を設定する。これに応じて、光源11から出力される励起光の周波数が変調し、光源11からの光量(励起光量)がサイン波状に変化する。なお、変調周波数は、用いられる蛍光試薬の蛍光寿命に基づいて決定されてもよい。例えば、蛍光試薬として蛍光寿命が数ミリ秒であるユウロピウムが用いられる場合には変調周波数が1kHz程度とされ、蛍光寿命が数10ナノ秒であるQ−dotが用いられる場合には変調周波数が1MHz程度とされ、蛍光寿命が数ナノ〜数十ナノ秒である有機色素が用いられる場合には変調周波数が10MHz程度とされてもよい。
一般的に、蛍光寿命は、蛍光強度がピーク値から1/e(約37%)に落ちるまでの時間とされる。この蛍光寿命の定義から逆算すると、例えば蛍光寿命が数ミリ秒であるユウロピウムを用いる場合の最適な変調周波数は1kHz、蛍光寿命が数ナノ〜数十ナノ秒である有機色素を用いる場合の最適な変調周波数は100MHz〜1GHz程度が好ましいと考えられる。しかし、ユウロピウム試薬を用いて実際に変調周波数に対する蛍光由来の信号出力を測定したところ、蛍光寿命から定まる周波数よりも低周波で変調したほうが、蛍光強度が高くなり、励起光に対する蛍光信号の割合も大きくなることが判明した(図12参照)。図12に示されるように、蛍光寿命から定まる周波数である1kHzよりも低周波側において、蛍光強度が高くなっている。具体的には、蛍光寿命を1/eではなく、「蛍光強度のピーク値が1%に落ちるまでの時間」と定義し、その時間から変調周波数を求めることによって、蛍光強度を高くすることができた。この場合、ユウロピウムであれば蛍光寿命が約10msとなり、ここから定まる光源11の変調周波数は約100Hzとなる。
上述したように、光源駆動回路30は、光源11の変調周波数を、蛍光強度を考慮して決定してもよい。具体的には、光源駆動回路30は、光源11の変調周波数を、蛍光強度がピーク値から1/eに落ちるまでの時間である蛍光寿命に対応する値(詳細には、1/蛍光寿命)よりも低くする。光源駆動回路30は、光源11の変調周波数を、蛍光寿命に対応する値よりも低く、且つ、商用周波数(50Hz,60Hz)よりも高く設定し、例えば、100Hz付近であって商用周波数の倍波を避けることによりノイズの影響を低減した110Hz程度に設定する。光源駆動回路30は、光源11の変調周波数を、100Hz付近の他の値、例えば90Hz、80Hz,70Hz,または130Hz等に設定してもよい。
IV変換アンプ40は、光検出素子21から出力された電流信号(検出信号)を電圧信号に変換する。IV変換アンプ40は、電圧信号に変換した検出信号を波形生成回路50に出力する。
波形生成回路50は、IV変換アンプ40から出力された検出信号に基づいて、検出信号の波形を生成する回路である。波形生成回路50は、タイミング生成器70から、基準となる周波数信号の入力を受ける。タイミング生成器70は、光源駆動回路30及び波形生成回路50に対して同じタイミングで基準となる周波数信号を入力する。波形生成回路50は、生成した波形(検出信号)の情報をキャンセル回路60に出力する。
キャンセル回路60は、波形生成回路50によって生成された波形(検出信号)を処理する信号処理部である。キャンセル回路60は、蛍光と散乱光における位相の違い(位相差)に基づき、検出信号から散乱光に応じた信号成分を除去する。なお、キャンセル回路60は、光源駆動回路30及び波形生成回路50と同じタイミングで、タイミング生成器70から基準の周波数信号の入力を受けることにより、励起光(すなわち散乱光)の位相の情報を取得する。これにより、キャンセル回路60において、蛍光と散乱光における位相差に基づく、散乱光の信号成分の除去が可能になっている。キャンセル回路60の処理の詳細について、図2〜図4を参照して説明する。
図2は、蛍光と散乱光との位相差を説明する概念図である。図2に示されるように、光源部Lからサイン波状の励起光が照射された試料Sからのサイン波状の検出光(光検出部Dにおいて検出される検出光)には、サイン波状の散乱光及び蛍光が含まれている。なお、光源部Lからの励起光は、サイン波状に限らず、矩形波等の周期的変調波形でもよく、その場合、検出光(散乱光及び蛍光)も励起光と同様の周期的変調波形を有する。そして、散乱光は励起光と位相差がない光であるのに対して、蛍光は、励起光に応じて試料Sから生じる光であり、散乱光に対して数10ミリ秒からナノ秒程度、位相が遅れて検出されることとなる。本発明者らは、このような位相差に着目し、検出光から散乱光のみを除去し蛍光のみを取り出す手法を見出した。なお、図2においては、光源部Lの光軸上に試料S及び光検出部Dが配置されているため、励起光の光軸と交わる方向に放出された蛍光を検出する図1と異なり、励起光の光軸と同軸方向に放出された蛍光を検出している。このような場合、検出光に含まれるのは蛍光及び散乱光に加え、励起光そのものが含まれる可能性もある。また、光検出部Dに入射する、励起光に起因する光の光量も大きくなる可能性が高い。そのため、本手法による蛍光の取出しが有効になる。
図3は、散乱光の除去(キャンセル)手法について説明する図である。図3は、検出光のうち散乱光の波形のみを示している。なお、この波形は励起光の波形と等しい。図3において横軸は時間、縦軸は振幅を示している。図3に示される、散乱光の位相に応じた波形について、例えば1周期の1/4の時間単位で分離(時間領域を分離)し、各時間領域1〜4についてそれぞれ積分すると、各時間領域1〜4における散乱光の出力を得ることができる。ここで、各時間領域1〜4の積分値それぞれに、ある乗数を掛けて全て足し合わせると、出力の合計を0とすることができる。すなわち、各時間領域1〜4の出力の絶対値は同じであり、時間領域1及び2の振幅の範囲は正、時間領域3及び4の振幅の範囲は負であるところ、図3に示されるように、時間領域1について乗数「−1」が掛けられて増幅されると時間領域1の出力は「正×負」で負の値となり、時間領域2について乗数「+1」が掛けられて増幅されると時間領域2の出力は「正×正」で正の値となり、時間領域3について乗数「+1」が掛けられて増幅されると時間領域3の出力は「負×正」で負の値となり、時間領域4について乗数「−1」が掛けられて増幅されると時間領域4の出力は「負×負」で正の値となる。このため、所定の乗数が掛けて増幅された各時間領域1〜4の積分値を全て足し合わされると、各値が相殺されて、出力の合計が0となる。このように、散乱光に応じた信号成分については、散乱光の位相に応じた所定の時間単位で分離し、分離した各成分をそれぞれ増幅し、増幅した各成分を合成することによって、除去する(出力を0とする)ことができる。
図4は、蛍光測定手法について説明する図である。図4は、検出信号に含まれる散乱光及び蛍光の波形を示している。図4において横軸は時間、縦軸は振幅を示している。上述したように、散乱光に応じた信号成分については、散乱光の位相に応じた所定の時間単位で分離し、分離した各成分をそれぞれ増幅し、増幅した各成分を合成することによって、除去する(出力を0とする)ことができた。ここで、図4に示されるように、蛍光については散乱光に対して位相差を有しているため、散乱光の位相に応じた所定の時間単位で分離すると、各時間領域1〜4の積分値が同じ値とならないため、散乱光と同様の乗数を掛けてそれぞれ増幅し足し合わされた値は0ではない値が出力される。このように、散乱光及び蛍光について、同じ時間領域に分離して増幅し合成することによって、散乱光の信号成分を除去しながら蛍光の出力強度を検波出力することができる。
このように、キャンセル回路60は、検出信号について、散乱光の位相に応じた所定の時間単位で分離し、分離した検出信号の各成分をそれぞれ増幅し、増幅した各成分を合成することにより、検出信号から散乱光に応じた信号成分を除去し、蛍光の信号成分を得ることができる。キャンセル回路60は、散乱光に応じた信号成分を除去した信号(すなわち蛍光の信号成分のみとなった信号)である蛍光信号をAD変換器80に出力する。なお、所定の時間単位として1周期の1/4の時間を例示したがこれに限定されず、合成後において散乱光に応じた信号成分を除去可能な時間単位であればどのような時間単位であってもよい。また、増幅における乗数として「+1」及び「−1」を例示したがこれに限定されず、合成後において散乱光に応じた信号成分を除去可能な乗数であればどのような乗数であってもよい。
AD変換器80は、キャンセル回路60から出力された蛍光信号について、AD変換を行いデジタル値に変換し、CPU90に出力する。CPU90は、AD変換器80から出力されたデジタル信号(蛍光信号)について、所定の制御・信号処理を行う。CPU90は、信号処理結果を例えばシリアル通信で外部のコンピュータに転送してもよい。また、CPU90は、タイミング生成器70から出力される信号、すなわち光学測定装置1における各種動作タイミングを決定する信号を生成してタイミング生成器70に出力してもよい。なお、CPU90に替えてFPGAが用いられてもよい。以上の処理によって、光学測定装置1は、検出光から散乱光の影響を除去し、蛍光試薬の蛍光に関する信号のみを得ることができる。
次に、光学測定装置1が行う蛍光測定処理(光学測定方法)について、図5を参照して説明する。
図5は、光学測定装置1による蛍光測定処理を示すフローチャートである。図5に示されるように、蛍光測定処理では、最初に、照射光学系10(光源部)の光源11が、免疫クロマト試験片100(試料)に向けて励起光を照射する(ステップS1)。免疫クロマト試験片100(詳細には、イムノクロマトメンブレンの測定対象部における抗原‐抗体複合物)に対して励起光が照射されることにより、抗原‐抗体複合物の蛍光試薬から蛍光が放出される。一方、励起光が免疫クロマト試験片100で散乱され、散乱光が生じる。
つづいて、検出光学系20(光検出部)の光検出素子21が、上述した蛍光及び散乱光を含む検出光を検出する(ステップS2)。光検出素子21は、検出光をIV変換アンプ40に出力する。そして、IV変換アンプ40において光検出素子21から出力された電流信号(検出信号)が電圧信号に変換され、波形生成回路50において検出信号の波形が生成された後に、キャンセル回路60(信号処理部)が、蛍光と散乱光における位相差に基づき、検出信号から散乱光に応じた信号成分を除去する(ステップS3)。具体的には、キャンセル回路60は、検出信号について、散乱光の位相に応じた所定の時間単位で分離し、分離した検出信号の各成分をそれぞれ増幅し、増幅した各成分を合成することにより、検出信号から散乱光に応じた信号成分を除去し、蛍光の信号成分を得る。その後、AD変換器80において蛍光信号がデジタル値に変換され、CPU90において所定の制御・信号処理が行われることにより、蛍光に関する信号を得ることができる。
次に、上述した光学測定装置1の作用効果について説明する。
光学測定装置1は、照射光学系10からの励起光が照射された免疫クロマト試験片100から生じる蛍光、及び、励起光に起因する光であって励起光と等しい位相を持つ散乱光を含む検出光を検出する検出光学系20と、検出光に応じた検出信号を処理するキャンセル回路60と、を備え、キャンセル回路60は、蛍光と散乱光における位相の違いに基づき、検出信号から散乱光に応じた信号成分を除去する。
このような光学測定装置1では、励起光が照射された免疫クロマト試験片100(詳細には、イムノクロマトメンブレンの測定対象部における抗原‐抗体複合物の蛍光試薬)から生じる蛍光と、励起光と等しい位相を持つ散乱光における位相の違いに基づいて、検出信号から、散乱光に応じた信号成分が除去される。つまり、検出光に含まれる光成分のうち、ノイズ成分に相当する散乱光は、励起光に起因する光であって励起光と等しい位相を持つことに着目し、検出信号に対して励起光と等しい位相を持つ信号成分を除去することで、励起光自体に起因するノイズ成分である散乱光に応じた信号成分を除去することができる。具体的には、検出光には、免疫クロマト試験片100(詳細には、抗原‐抗体複合物の蛍光試薬)から生じる光(蛍光)だけでなく、励起光に起因する光(散乱光)がノイズ成分として含まれることがあるところ、蛍光が散乱光に対して僅かに遅れて検出される(蛍光が散乱光に対して位相差を有している)ため、当該位相の違いを利用することによって、検出信号から散乱光に応じた信号成分だけを適切に除去することができる。以上のように、光学測定装置1によれば、励起光自体に起因するノイズ成分である散乱光を適切に除去することができる。
なお、検出光から散乱光を除去する手法としては、波長選択によるもの、具体的には、検出光に対して波長選択フィルタを用いることで蛍光の波長帯のみを抜き出して散乱光の波長帯を除去することが考えられる。本実施形態においても、蛍光フィルタ22を設けることによってある程度の散乱光を除去している。しかしながら、励起光波長及び蛍光波長が近い場合においては、蛍光フィルタ22によって蛍光波長を持つ蛍光を適切に透過させながら励起光波長を持つ散乱光を完全に遮断することは困難である。また、一般的に、波長選択フィルタは光の入射角度によって特性が変化してしまうため、蛍光フィルタ22によって、つまり波長選択によって、様々な角度から入射する散乱光の進入を完全に防ぐことは困難である。この点、本実施形態の光学測定装置1では、蛍光フィルタ22を用いた光学的な波長選択に加え、蛍光と散乱光(すなわち励起光)との位相差を利用して、散乱光のみを除去する信号処理を行っているため、蛍光フィルタ22によって完全に遮断することができない散乱光についても、適切に除去することができる。また、波長選択フィルタのみによって散乱光を除去すべく、例えば波長選択フィルタに対する散乱光の入射角度を一定にするための光学系を設けることが考えられるが、この場合には光検出に係る構成が大型化してしまうことが問題となる。この点、本実施形態の光学測定装置1では、散乱光の入射角度を一定にするための光学系が不要となり、装置の小型化を実現することができる。
また、他にも、励起光及び信号光を全て光検出器に入力し、時間‐出力信号波形から寿命が長い蛍光試薬(例えば、ユウロピウム)の蛍光成分のみをデジタル処理及びゲート回路によって取り出すような、蛍光寿命を利用した時間分解法による蛍光測定が知られている。しかしながら、当該方法では、計測システムが複雑となるのに加え、蛍光寿命の短い(蛍光寿命がナノ秒程度である)蛍光を捕らえるためには超高速な時間分解能が必要となるため、コストが高くなる。この点、本実施系形態の光学測定装置1では、励起光(散乱光)と蛍光との位相差に着目し、検出信号から散乱光に応じた信号成分を除去して蛍光に応じた信号成分のみを取り出す。このような技術は、タイミング制御回路及び分離・合成回路によって容易に実現することができるため、コストを低減することができる。また、光学測定装置1によれば、10MHz程度の位相変調を行うことによって数ナノ秒の蛍光寿命を有する有機色素の蛍光も検出することができる。
そして、キャンセル回路60は、検出信号について、散乱光の位相(励起光の位相)に応じた所定の時間単位で分離し、分離した検出信号の各成分をそれぞれ増幅し、増幅した各成分を合成することにより、検出信号から散乱光に応じた信号成分を除去している。このように、散乱光の位相を考慮して、散乱光に応じた信号成分のみが除去されるように検出信号の分離(所定の時間単位での分離)、分離した各成分の増幅、増幅した各成分の合成を行うことによって、散乱光に応じた信号成分を適切に除去することができる。そして、蛍光は散乱光に対して位相の違いを有しているため、散乱光に応じた信号成分のみが除去されるような信号処理を行っても、蛍光に応じた信号成分は除去されず、検出信号から蛍光に応じた信号成分のみを適切に取り出すことができる。
また、上述したように、第1光は、試料を励起する励起光であり、第2光は、励起光に応じて試料が放出する蛍光であり、第3光は、励起光又は励起光の散乱光の少なくとも一方を含む。これにより、蛍光及び励起光または励起光の散乱光の少なくとも一方に応じた信号成分を含む検出信号から、励起光または励起光の散乱光の少なくとも一方に応じた信号成分を適切に除去し、蛍光に応じた信号成分のみを適切に取り出すことができる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されない。例えば、光学測定装置1では、キャンセル回路60において検出信号から散乱光に応じた信号成分を除去するとして説明したが、これに限定されない。すなわち、図6に示される光学測定装置1Aのように、キャンセル回路60を設けずに、AD変換器80におけるA/D変換後に、CPU90A(信号処理部)において検出信号から散乱光に応じた信号成分を除去する処理を行ってもよい。この場合には、キャンセル回路60を設ける必要がないため、装置の小型化に寄与することができる。
また、光学測定装置1は、試料に第1光を照射し、試料から生じる第2光、及び、第1光に起因する光であって第1光と等しい位相を持つ第3光を含む検出光を検出するものであればよく、第1光が励起光以外の光であり、第2光が蛍光以外の光であり、第3光が散乱光以外の光であってもよい。
なお、検出信号から散乱光に応じた信号成分を除去して蛍光等を高感度に検出する本技術は、様々な技術分野に応用することが考えられる。例えば、マイクロプレートリーダ―においては、蛍光色素として蛍光寿命数が数nsecから数十nsecであり検出困難な有機色素(例えばフルオレセイン)が用いられるところ、本技術を適用することにより蛍光を高感度に検出することが期待できる。同様に、液体クロマトグラフの分野においても本技術を適用することが考えられる。また、例えばDNAシーケンサの分野では、増幅したDNAをキャピラリー電気泳動により分離し、G,A,T,Cにそれぞれ標識した蛍光色素の蛍光を読み取るところ、本技術を適用することにより、励起光由来のノイズを効果的に除去し、高S/Nな信号が得られることが期待できる。同様に、PCR(Polymerase Chain Reaction)の分野においても本技術を適用することが考えられる。
次に、上述した実施形態において説明した特定の信号成分(ノイズ)の除去に関して、図7〜図16を参照してより具体的に説明する。
図7は、ノイズ成分の除去について説明する図である。図7(a)は励起光に起因する散乱光に応じた信号成分(ノイズ)の除去を行わなかった場合の検出光の強度、図7(b)は励起光に起因する散乱光に応じた信号成分(ノイズ)の除去を行った場合の検出光の強度を示している。図7(a)及び図7(b)において縦軸は検出光の強度を示しており、横軸は試料500の測定エリアである測定部501における位置を示すチャンネルである。1チャンネルは例えば0.02mmである。図7(c)は、図7(a)及び図7(b)のチャンネルの位置に対応する試料500の領域を示す図である。図7(c)に示した試料500を拡大した模式図が図8である。図8に示されるように、試料500は、検体が滴下される滴下部502と、蛍光試薬で標識された検出抗体を保持する保持部503と、捕捉抗体を測定対象部504に固定した測定部501とが上流から下流に向けて配置されている。蛍光試薬は、例えばDTBTA-Eu3+である。測定部501は、例えば白色のイムノクロマトメンブレンの一部であるため、励起光を散乱し易い。
このような試料500に対して、滴下部502に検体を滴下すると、検体は毛細管現象により下流側へ移動する。検体中に被検出物質がある場合、保持部503の検出抗体と被検出物質とが反応して複合体を形成し、この複合体が測定部501を下流側に移動していく。そして、複合体が測定部501上の測定対象部504に達したときに、複合体が測定対象部504の捕捉抗体に捕捉され、被検出物質、検出抗体、及び捕捉抗体の3つによる複合体が形成される。この状態で測定エリアである測定部501に対して集光位置(チャンネル)を変化させながら励起光が照射されることにより、図7(a)及び図7(b)に示されるようなチャンネル毎の検出光強度を導出することができる。図7(a)及び図7(b)において検出光強度が他と比べて大きくなっているチャンネルは、複合体が捕捉されている測定対象部504の位置に対応するチャンネルである。
図7(a)に示されるように、散乱光に応じた信号成分(ノイズ)の除去が行われていない場合には、検出光には蛍光だけでなく散乱光が含まれるため、検出光強度が大きくなっている。そして、このようなノイズは励起光量を大きくすることに伴って大きくなるため、図7(a)に示されるように、励起光量を2倍にするとノイズも同様に2倍程度になっている。一般的にS/Nを向上させる方法として、励起光量を増加させることにより蛍光シグナル量を増加させる方法が考えられるが、上述したように、図7(a)のように励起光量に応じてノイズも増加する態様においては、S/Nを向上させることが難しい。さらに、励起光量を増加させることによってダイナミックレンジが狭まるという問題もある。
一方で、図7(b)に示されるように、散乱光に応じた信号成分(ノイズ)の除去を行った場合には、検出光には概ね蛍光のみが含まれており、検出したい信号(蛍光に基づく信号)のみを検出することができている。この場合には、ノイズがほぼ0であるため、図7(b)に示されるように、励起光量を増加させても(例えば2倍にしても)、光検出器が飽和しない限り、励起光(散乱光)の影響をほぼ0にキャンセルすることができ、ノイズが極端に大きくなることがない。以上のように、図7(b)に示されるようなノイズの除去を行う構成においては、励起光を増加させた場合にノイズ成分をほぼ0にキャンセルした状態でシグナル成分のみを増加させることができるため、S/Nの向上につながる。当該構成は、ノイズ成分に非常に強いため、励起光量を増加させることやIV変換アンプの増倍率を上げることが可能となる。
図9は、S/Nの定義について説明する図である。図9は、チャンネル毎の検出光の強度(測定エリアの各位置における検出光の強度)の一例を示している。図9に示されるように、検出光の強度10count付近に±4程度のゆらぎ成分が存在している。このようなベース光量のゆらぎ(標準偏差)は、蛍光物質等が何も塗布されていない測定部501(或いは、計測状態と同様にぬれた状態とされた測定部501)に励起光をスキャンして取得される値である。以下では、当該ベース光量のゆらぎをノイズNと定義する。また、シグナルSは、「測定対象部504のピーク蛍光強度から全チャネルにおける測定対象部504の位置を除いたノイズ成分の平均値を差し引いた値」と定義する。S/Nは、上記で定義したシグナルをノイズで割った値と定義する。
なお、図9に示される例では、ノイズの値が10countほどオフセットしている。後述するキャリブレーション処理を行うことによって、原理的にはノイズの値はほぼ0にキャンセルされる。しかし、ノイズの値に応じたバックグラウンドはばらつきがあるところ、ソフトでの解析の観点からは信号が常にプラスの値となることが好ましいため、バックグラウンドのオフセット処理を行っている。なお、オフセット量は、信号がダイナミックレンジ内(0〜4096count内)に収まるように設定される。オフセット量は、ダイナミックレンジの観点から極力少なくしつつ、測定部501に励起光をスキャンすることにより得られるバックグラウンドの信号が常に(ほぼ確実に)プラスの値となるように設定されている。具体的には、オフセット量は、例えば、蛍光物質等が何も塗布されていない測定部501(或いは、計測状態と同様にぬれた状態とされた測定部501)に励起光をスキャンして取得される検出光の強度平均値+該強度平均値の6σの値とされてもよい。なお、回路系に突発的なノイズが飛び込んでくる場合に備えて、上記で計算されるオフセット量に適当なマージンを加えて最終的なオフセット量とされてもよい。オフセット量は、ダイナミックレンジを犠牲にせず且つ信号がマイナスに出力されないように選択され、例えば+20count程度であってもよい。
次に、散乱光に応じた信号成分(ノイズ)の除去手法について、具体的に説明する。光学測定装置1では、ロックイン回路であるキャンセル回路60においてキャリブレーション処理が行われ、該キャリブレーション処理の実施結果が考慮されて、検出信号から散乱光に応じた信号成分(ノイズ)が除去される。
具体的には、光学測定装置1を用いた光学測定方法では、最初に、試料500の測定対象部504以外の箇所に励起光が照射されるように、照射光学系10の光学ヘッドが配置される。つづいて、照射光学系10からの励起光が測定部501等に照射されることによる散乱光(測定部501等に散乱した励起光成分)が検出光学系20において検出される。ここで検出光学系20に検出される光は、基本的には、少なくとも測定対象部504における蛍光を含まない散乱光のみの光であり、キャリブレーション処理に用いられるキャリブレーション処理用光である。
キャリブレーション処理用光の取得について、より詳細に説明する。キャリブレーション処理用光は、試料500における、測定対象部504に固定された捕捉抗体よりも下流側のエリアに励起光が照射されることにより検出されてもよい。図13は、試料500の各領域における蛍光強度を説明する図である。図13において、「LineA」と示された箇所は測定対象部504の箇所を示している。図7(a)及び図7(b)等の説明においては、説明の便宜上、測定対象部504以外の蛍光強度を小さく示したが、実際には、図13に示されるように、検体が滴下される上流側においては、捕捉抗体が存在しなくても蛍光強度が大きくなりやすい。このため、散乱光のみとしたいキャリブレーション処理用光は、試料500における、測定対象部504上に固定された捕捉抗体よりも下流側のエリアに励起光が照射されることにより検出されることが好ましい。なお、キャリブレーション処理用光の取得は、試料500における測定部501以外にも、イムノクロマトメンブレンを収容するケースや、別途用意したキャブレーション処理用の部材を用いて行ってもよい。
つづいて、キャリブレーション処理が実施される。具体的には、光学測定装置1のキャンセル回路60が、上述したキャリブレーション処理用光に応じたキャリブレーション信号に基づき、検出信号から散乱光に応じた信号成分を除去するためのキャリブレーション処理を実施する。キャリブレーション処理の詳細については後述する。そして、キャリブレーション処理の完了後、試料500の測定エリア(測定部501)上を照射光学系10の光学ヘッドでスキャンすることにより、測定部501の蛍光情報が取得される。具体的には、キャンセル回路60が、上述したキャリブレーション処理の実施結果を考慮して、検出信号から散乱光に応じた信号成分を除去することにより、蛍光情報を取得する。
次に、キャリブレーション処理の詳細について説明する。光学測定装置1のキャンセル回路60は、例えばFPGA(Field Programmable Gate Array)を利用したロックイン回路である。キャリブレーション処理において、キャンセル回路60は、光源駆動回路30によって設定される光源11の変調周波数(例えばDDS(Direct Digital Synthesizer)の周波数)に合わせた、キャンセル回路60の動作周波数で周期を刻む周期信号に対して位相をずらしたロックイン用のスイッチ信号を生成する。そして、ロックイン回路として機能するキャンセル回路60は、測定信号であるキャリブレーショ信号、及び、参照信号であるスイッチ信号を入力として、散乱光に応じた信号成分を出力し、該散乱光に応じた信号成分の電圧値が0に近似する所定範囲内(スラッシュレベル)となるように、スイッチ信号の位相を調整する。
図10は、キャンセル回路60のFPGA内部でキャリブレーション処理に用いる信号を示している。図10に示される周期信号は、上述したようにDDSの周波数に合わせて周期を刻むクロック信号である。基準信号は、周期信号から任意の位相にある(周期信号に対して位相をずらした)、周期信号と同じ周波数の信号であり、後述するXY信号用のトリガである。XY信号は、上述したロックイン用のスイッチ信号であり、基準信号をトリガにして作られる信号である。X信号(第1信号)は、基準信号と位相差がない信号である。Y信号(第2信号)は、基準信号に対して90度位相がずれた信号である。キャンセル回路60は、実際にはX信号及びY信号に加えて、更に、X信号を反転させたX´信号(第3信号)と、Y信号を反転させたY´信号(第4信号)とを生成する。X信号、Y信号、X´信号、及びY´信号は、それぞれ独立した専用の回路によって生成される。散乱光に応じた信号成分の電圧値がスラッシュレベルとなるようにスイッチ信号の位相を調整するとは、すなわち、キャンセル回路60からの出力が0V(またはそれに近似する値)になるまで、周期信号に対して基準信号の位相をずらし続けることである。
図11は、周期信号に対して基準信号の位相をずらして出力が0Vになるように調整する処理を説明する図である。いま、周期信号、基準信号、及びスイッチ信号の初期状態の位相関係が図11(a)に示される状態であったとする。そして、スイッチ信号に基づいて図11中の網掛けの区間で積分処理がなされ、出力(散乱光に応じた信号成分の電圧値)がスラッシュレベルではなく且つ正の値であったとする。この場合、図11(b)に示されるように、スイッチ信号の位相を遅らせるように基準信号の位相が調整される。すなわち、キャンセル回路60は、キャリブレーション処理において、散乱光に応じた信号成分の電圧値がスラッシュレベルではなく正の値である場合には、スイッチ信号の位相を遅らせるように調整する。
いま、スイッチ信号の位相調整がなされた図11(b)の状態においても、網掛けの区間の積分処理の結果、出力(散乱光に応じた信号成分の電圧値)がスラッシュレベルではなく且つ正の値であったとする。この場合、図11(c)に示されるように、更にスイッチ信号の位相を遅らせるように基準信号の位相が調整される。
いま、スイッチ信号の位相調整がなされた図11(c)の状態においても、網掛けの区間の積分処理の結果、出力(散乱光に応じた信号成分の電圧値)がスラッシュレベルではなく且つ正の値であったとする。この場合、図11(d)に示されるように、更にスイッチ信号の位相を遅らせるように基準信号の位相が調整される。
いま、スイッチ信号の位相調整がなされた図11(d)の状態において、網掛けの区間の積分処理の結果、出力(散乱光に応じた信号成分の電圧値)がスラッシュレベルではなく且つ負の値であったとする。この場合、図11(e)に示されるように、スイッチ信号の位相を進めるように基準信号の位相が調整される。すなわち、キャンセル回路60は、キャリブレーション処理において、散乱光に応じた信号成分の電圧値がスラッシュレベルではなく負の値である場合には、スイッチ信号の位相を進めるように調整する。
そして、スイッチ信号の位相を進めるように調整された結果、図11(e)に示されるように、網掛けの区間の積分処理の結果、出力(散乱光に応じた信号成分の電圧値)がスラッシュレベル(0に近似する所定範囲内の値)になると、キャリブレーション処理が完了する。
キャリブレーション処理が完了すると、キャンセル回路60は、蛍光成分及び散乱光成分(励起光成分)を含んだ検出光に応じた検出信号と、キャリブレーション処理において位相が調整されたスイッチ信号とを入力として、検出信号から散乱光成分に応じた信号成分を除去する。
図15は、キャリブレーション処理を示すフローチャートである。図15に示されるように、キャリブレーション処理では、最初に、AD変換器への入力が所定のオフセット電圧に切り替えられて0レベルが記憶される(ステップS1)。そして、スイッチの切り替えによりキャンセル回路60(ロックイン回路)の信号がAD変換器に入力される(ステップS2)。この状態で、一度強制的に基準信号の位相がずらされる(ステップS3)。キャンセル回路60(ロックイン回路)の出力は周期信号に対する基準信号の位相が0度と180度のときに0Vとなるが、初期状態で偶然180度に位相が合っていた場合、誤ってキャリブレーション処理を完了してしまい、出力される信号の正負が反転してしまうため、後段の回路の構成によっては出力される信号を検出できなくなる場合がある。この点、スタート時に強制的に基準信号の位相をずらすことにより、誤ってキャリブレーション処理が完了してしまうことを防止できる。また、このようにして開始時の位相を合わせることにより、出力される信号の正負が固定される。その結果、出力される信号をデジタル値に変換した際の符号ビットが必要なくなり、AD変換器のダイナミックレンジを有効に使用することができる。また、負の出力で計測したいときは、キャリブレーション完了の位相を0度ではなく180度にしてもよい。
ステップS3が完了すると、現在のAD変換器の入力値が記録され(ステップS4)、キャリブレーションのループ処理が実行される。まず、現在のAD変換器の入力値と0レベルとが比較されて、AD変換器の入力値が0レベルよりも小さいか(負の値であるか)否かが判定される(ステップS5)。ステップS5においてAD変換器の入力値が負の値であると判定されると、DDSの周波数に応じた周期信号に対するキャンセル回路60のスイッチ信号(すなわち基準信号)の位相が進めされる(ステップS6)。一方で、ステップS5においてAD変換器の入力値が正の値であると判定されると、周期信号に対するキャンセル回路60のスイッチ信号(すなわち基準信号)の位相が遅らされる(ステップS7)。
そして、AD変換器の入力値について、符号が変化せずにスラッシュレベルとなったか否かが判定される(ステップS8)。ステップS8において符号が変化せずにスラッシュレベルになったと判定されると、キャリブレーション処理が終了する。一方で、ステップS8において条件を満たしていないと判定されると、位相をずらしたことによりAD変換器の入力の符号が変わったか否かが判定される(ステップS9)。ステップS9において変わっていないと判定された場合には再度ステップS4の処理が行われ、変わっていると判定された場合には制御による位相の変化幅が現状の半分に変更されて(ステップS10)、再度ステップS4の処理が行われる。以上が、キャリブレーション処理である。
次に、光源駆動回路30によって設定される光源11の変調周波数(例えばDDS(DirectDigital Synthesizer)の周波数)と、FPGA(Field Programmable GateArray)を利用したロックイン回路であるキャンセル回路60の動作周波数との同期処理について説明する。ロックイン回路を用いた位相差蛍光計測を行う上で、光源11の変調周波数とロックイン回路の動作周波数とは極めて厳密に同期させる必要がある。光源11の変調周波数とロックイン回路の動作周波数とがずれていると、上述したキャリブレーション処理によってロックイン回路の出力を0にしても、図14に示されるように時間経過とともに周波数のずれ、すなわち位相差が蓄積して出力がドリフトしてしまう(図14において「元データ」と記したグラフを参照)。このように、適切に同期処理が行われていない場合には、散乱光の影響によって蛍光計測を正確に行うことができない。すなわち、ロックイン回路の動作周波数で周期を刻む周期信号が、光源11の変調周波数と同期していないことによって、周期信号に基づいて生成される基準信号及びスイッチ信号が適切な信号とならず、蛍光計測を正確に行うことができない。
ここで、FPGAを利用したロックイン回路と、光源11の変調を行うDDSとは互いに異なるタイミングで動作しているため、光源11を所望の周波数で変調させつつ、双方の動作周波数を完全に同一にすることは不可能である。そこで、本態様では、FPGAの動作周波数を2種類設定し、2種類の動作周波数を所定の割合で切り替えながら動作させることで、ロックイン回路及びDDSの周波数ずれを実用上問題とならない程度に小さくしている。すなわち、例えばロックイン回路が10回駆動するトータルの時間で考えた場合に、全て同じ動作周波数とするのではなく、例えば10回中8回はDDSの動作周波数よりも高いものにすると共に、10回中2回はDDSの動作周波数よりも低いものにする、等によって、ロックイン回路が10回駆動するトータルの時間でのDDSとの周波数ずれを小さくすることができる。このように周波数ずれを小さくすることによって、図14に示されるように、出力のドリフトを低減することができる(図14において「改良後」と記したグラフを参照)。なお、FPGAの動作周波数ではなくDDSの動作周波数を2種類設定して切り替えても同様の効果を得ることができる。
最後に、上述した態様の作用効果について説明する。本態様では、蛍光を含まず散乱光を含むキャリブレーション処理用光を検出し、キャリブレーション処理用光に応じたキャリブレーション信号に基づき、検出信号から散乱光に応じた信号成分を除去するためのキャリブレーション処理を実施し、該キャリブレーション処理の実施結果を考慮して、検出信号から散乱光に応じた信号成分を除去する。検出信号から散乱光に応じた信号成分を除去するためのキャリブレーション処理を、散乱光を含むキャリブレーション処理用光に基づき予め行うことによって、検出信号から散乱光に応じた信号成分を適切に除去することができる。
このようにして散乱光(ノイズ)を適切に除去することの効果について、図16を参照して説明する。図16(a)は散乱光に応じた信号成分(ノイズ)の除去を行わなかった場合の検出光の強度、図16(b)は散乱光に応じた信号成分(ノイズ)の除去を行った場合の検出光の強度を示している。図16は、蛍光試薬としてDTBTA-Eu3+を塗布したメンブレンを計測した場合の結果を示している。図16(a)に示されるように、ノイズの除去が行われていない場合においては、励起光(散乱光)のバックグラウンド(BKG)のために約330countsのオフセットが必要になっている。そして、ノイズ(標準偏差)は2.16、シグナル強度は404countsであった。これに対して、図16(b)に示されるように、ノイズの除去が行われている場合においては、励起光がメンブレンに散乱することを考慮したオフセットが必要とならず、ソフト上の処理(信号の値を全てプラスにする処理)のための最低限のオフセットのみが行われている。そして、ノイズ(標準偏差)は0.69、シグナル強度は1475countsとすることができた。このように、ノイズの除去が行われている場合においてはオフセット量が小さいため、光源からの励起光量及びIV変換アンプの増幅率を上げることができ、シグナル強度を好適に上げることができる。この結果、ノイズの除去が行われない場合のS/Nが187であるのにたいして、ノイズの除去が行われる場合のS/Nを2140とすることができ、S/Nを10倍以上向上させることができる。
キャリブレーション処理において、光源11の変調周波数に合わせたキャンセル回路60の動作周波数で周期を刻む周期信号に対して位相をずらしたロックイン用のスイッチ信号を生成し、キャリブレーション信号及びスイッチ信号を入力として、散乱光に応じた信号成分を出力し、該散乱光に応じた信号成分の電圧値が0に近似する所定範囲内となるように、スイッチ信号の位相を調整し、検出信号、及び、キャリブレーション処理において位相が調整されたスイッチ信号を入力として、検出信号から散乱光に応じた信号成分を除去してもよい。このように、ロックイン回路を用いて、キャリブレーション処理において散乱光に応じた信号成分の電圧値が0に近似する値となるようにスイッチ信号の位相が調整されることにより、位相調整後のスイッチ信号を入力として、検出信号から散乱光に応じた信号成分を適切に除去することができる。
キャリブレーション処理において、散乱光に応じた信号成分の電圧値が所定範囲内ではなく該所定範囲の値よりも大きい場合には、スイッチ信号の位相を遅らせるように調整し、散乱光に応じた信号成分の電圧値が所定範囲内ではなく該所定範囲の値よりも小さい場合には、スイッチ信号の位相を進めるように調整してもよい。これにより、キャリブレーション処理において散乱光に応じた信号成分の電圧値を、適切に0に近い値に調整することができる。
光源11の変調周波数を、蛍光の強度がピーク値から1/eに落ちるまでの時間である蛍光寿命に対応する値よりも低くしてもよい。変調周波数が蛍光寿命に対応する値程度に高くされた場合には、連続する信号が互いに重なってしまう場合があり蛍光強度を最大化することができない。この点、変調周波数が蛍光寿命に対応する値よりも低くされることにより、蛍光強度を適切に高めることができる。
光源11の変調周波数を、蛍光寿命に対応する値よりも低く、且つ、商用周波数よりも高くしてもよい。これにより、変調周波数が蛍光寿命に対応する値よりも高くなり蛍光強度が弱まることを回避しながら、ノイズの増加を回避することができる。
ックイン用のスイッチ信号として、X信号と、該X信号に対して位相が90度ずれたY信号と、X信号を反転させたX´信号と、Y信号を反転させたY´信号とを、それぞれ独立した専用の回路を用いて生成してもよい。独立した専用の回路で反転信号が生成されることにより、例えばnot回路により反転信号を生成する場合に問題となる微小な遅延(not回路の通過に伴う微小な遅延)が発生することを防止できる。
キャンセル回路60(ロックイン回路)は、2種類の動作周波数が所定の割合で切り替えて設定されてもよい。これにより、動作周波数が1種類とされる場合よりも、ロックイン回路の動作周波数を光源11の変調周波数に合わせやすくなり、これらの同期制度を向上させることができる。
キャリブレーション処理用光は、試料500における、測定対象部504に固定された捕捉抗体よりも下流側のエリアに励起光が照射されることにより検出されてもよい。蛍光成分は捕捉抗体よりも上流側に滞留しやすいところ、補足抗体の下流側のエリアに励起光が照射されてキャリブレーション処理用光が検出されることにより、適切に、蛍光成分の影響を低減したキャリブレーション処理用光を検出することができる。