JP2020110746A - 微小液滴噴射装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】内燃機関やインクジェットプリンタ等に用いられ、流動帯電の影響を制御した高い効率の流体噴射装置を提供する。【解決手段】燃料気化器あるいは燃料噴射器の静電容量を大きくする、あるいはエンジンと導通することによって流動帯電による電圧の上昇を抑え、帯電した燃料液滴に働くクーロン引力を小さくして燃料液滴の放出の遅れを抑制する。また、燃料噴射口の前方に設置する電極による電場で帯電した燃料を加速して分裂させ、燃料液滴を効率よく噴射させる。さらに、燃焼室に電圧を負荷し、クーロン引力によって帯電した燃料液滴と燃焼室内壁との衝突確率を大きくして熱交換を促進し、燃料液滴の気化割合を大きくする。【選択図】図1

Description

本発明は、内燃機関(エンジン)やインクジェットプリンタ等に用いられる液体を微小液滴の状態で噴射する装置に関するものである。
液体を微小液滴の状態で被噴射体に噴射する噴射装置として、例えば、燃料の燃焼の最適化により内燃機関(エンジン)の熱効率の向上を図る技術がある。液体が噴射装置あるいは気化器を通過すると流動帯電が起き、噴射装置あるいは気化器と液体は、それぞれ正と負(物質の組み合わせによって、負と正の場合もある)に帯電し、液滴と噴射装置等との間にクーロン引力が働く。液滴の径が小さくなるほど液滴の噴出には大きな圧力が必要になる主たる原因は、この流動帯電によるクーロン引力と考えられる。
本発明の技術は、塗膜などの表面仕上げ、インクジェットによるプリントの高ドット化に寄与する。また、内燃機関においては、クーロン引力によって生じる燃料液滴の放出の遅れと気化の遅れによる燃料の燃焼割合の低下を克服する技術を提供することにあり、高い熱効率および大きな出力とトルクを実現するとともに、燃焼割合を向上させることによって排気ガス中の炭化水素の含有割合を低減する。
本発明は、表面修飾や極薄膜多層三次元構造物製造および内燃機関(エンジン)において燃料の燃焼の最適化により熱効率の向上を図るための微小液滴の生成技術に関する。微小な噴出口から液体を噴出させて微小液滴を生成するには、大きな圧力が必要である。液体の比表面積(体積あるいは質量当たりの表面積の割合)は噴射口の径に反比例して大きくなるため、固体表面と液体との界面で起きる流動帯電の効果は微小液滴の生成では顕著に現れる。流動帯電によって液体中に取り込まれた電荷(物質の組合せによって、負と正の場合がある)と微小液滴噴射装置あるいはその噴射口の間に働く誘電分極した液体分子に働くクーロン引力に抗して液体を噴出させるには、液体に大きな圧力を加えなければならない。帯電した液体と微小液滴を電気的に制御する本発明の技術を用いると、従来技術よりも小さな圧力で微小な液滴を噴出口から噴出させることができる。塗膜などの表面修飾、インクジェットを利用した極薄膜多層三次元構造物の構築に応用できる。また、内燃機関に応用すると、微小な燃料液滴の燃焼割合が高いので、高い熱効率および大きな出力とトルクが実現され、排気ガス中の炭化水素成分の含有割合を低減できる。
液滴の径を例えば〜10μmとして噴射時刻と噴射量を制御できるならば、様々な分野のイノヴェーションクラスタが生じると考えられる。微小な液滴による塗装の膜厚制御と装飾性の向上や印刷の高ドット化と情報の高密度化が期待される。またインクジェットプリンタを利用した有機半導体集積回路、極薄多層フィルム基板および大面積集積回路の高密度化を加速できる。さらに内燃機関のイノヴェーションが可能である。内燃機関(エンジン)は自動車などの交通機関あるいはその他の産業分野において最も重要な動力源の一つであり、高度に発達した技術分野を形成している。内燃機関の熱効率はガソリンエンジンで20%〜30%、ディーゼルエンジンで30%〜40%と、他の熱機関の効率に比べて低く、改善の余地が大きい。熱効率を決定する混合気の形成と給気そして燃焼の適否は、機械的あるいは電子的に制御される給気、点火、圧縮および排気のタイミングに依存している。これらの過程に要する時間は数100マイクロ秒から〜10ミリ秒と短く、しかもエンジンの回転数の変化とともに温度、圧力および混合気などの条件が変動する。このためこれらの過程における物理的・化学的現象については未解明な部分が少なくない(非特許文献1参照)。
最近、発明者等は作動中の燃料気化器、燃料噴射装置およびエンジンの電位と接地電位との電位差を測定し、これらの電位差が周期的に変動することを発見した(図33乃至図38参照)。図33は、従来の自動二輪車(HONDA MEN 450)に搭載した燃料噴射装置(インジェクタ)の電位測定の結果を示すものであり、エンジン回転数は6900rpmである。このインジェクタは、燃料噴射の対象物である被噴射体とは絶縁状態にある。図に示した二か所の矢印は、燃料噴射の失敗を表している。図34は、図33に示す最初のインパルスの拡大図である。これは、1つのインパルスが複数の電圧上昇とパルス振動から成り立っていることを示している。図35は、図34をさらに拡大した図であり、パルス振動に先立って、最大3Vほどの電位上昇が存在することを示している。図36は、図33に示す従来の自動二輪車に搭載した内燃機関(エンジン)の電位測定の結果を示すものであり、エンジン回転数は7300rpmである。このエンジンは、インジェクタとは絶縁状態にある。図に示すように、電圧変動のノイズに周期的なインパルスが乗っているのが見られる。図37は、図36に示す最初のインパルスの拡大図である。これは、1つのインパルスが複数の電圧の降下とパルス振動から成り立っていることを示している。図38は、図37をさらに拡大した図であり、パルス振動に先立って、最大0.6Vほどの電位の降下が存在することを示している。
電位差の変動は、燃料気化器および燃料噴射装置の器壁の負電荷(電子)がガソリン中に取り込まれる流動帯電によるものである。流動帯電は広い意味での摩擦現象と考えられる。2種類の異なる誘電体を摩擦すると静電気が生じ、それぞれ正と負に帯電する現象は古代ギリシャの時代から知られている。帯電する2つの物体は誘電体に限らず、導体あるいは流体でも起きる。摩擦力は物体の加重に比例する。また、摩擦力はマクロな固体の見かけの接触面積には依存しないが、ミクロな分子レベルの実接触面積には比例する。液体と固体の界面では見かけの接触面積と実接触面積はほとんど等しいと考えられるので、流動帯電による流体の単位体積当たりの電荷量は流体の接触面積とともに大きくなると考えられる。
流動帯電については早くから知られており(非特許文献2参照)、電荷が蓄積して生じた高電場による放電により、送油管や貯油槽などにおいて爆発事故が起きることが報告されている。このため流動帯電に関する研究は盛んにおこなわれている(T. Paillat, G. Touchard and Y. Bertrand, Sensor, 2012, 12, 14315-14326)。しかし、流動帯電の起きる物理・化学的メカニズムや発現の態様についてはまだ解明されていないので、定量的な研究の進展が望まれる。
帯電した液滴の電荷の極性は、装置の材料の材質との組み合わせによって決まると考えられる。本申請書において以下の記述において理解が容易となるように、液滴の極性を負として記述するが、極性が正の場合を排除するものではない。
Advanced engine technology, Heintz Heisler, 2009, Butterworth-Heinemann Electrostatics in Petroleum Industry: The Prevention of Explosion Hazards; A. Klinkerberg and J. L. van der Minne, 1958, Elsevier, Amsterdam, The Netherlands,
液体が噴射装置から噴射される際に、その通過に伴って、流動帯電が発生し、帯電した液体の液滴と静電気を帯びた噴射口との間にクーロン力が働き、これによって液滴の放出遅れや不十分な放出などの不具合が問題となっていた。
本発明は、このような事情によりなされたものであって、流動帯電の影響を制御した効率の良い微小液滴噴射装置を提供する。
微小液滴噴射装置を用いた内燃機関において、流動帯電によって生じた異符号の電荷を持つ燃料液体と噴射口の間にクーロン引力が働くと、燃料液滴の放出時刻に遅れが生じ、一部の燃料液滴はシリンダに取り込まれなくなる。また、発明者等が行ったエンジン音測定と動力測定試験の結果は、大きな燃焼割合と大きな出力を実現するためにはシリンダ内の燃料液滴の気化の効率化が重要であることを示している。
発明者等は、これらの知見に基づいて、前記流体噴射装置の一例であり、燃料気化器あるいは間接噴射式および直接噴射式の燃料噴射装置から噴出する燃料液体と液滴に働くクーロン力を制御する燃料噴射装置を開発し、更に、気化し易い微細な燃料液滴を短時間に効率よく噴射し、エンジンの回転数に即応して噴射量を制御する燃料噴射装置を開発した。
液滴を生成のために液体に圧力を加えて噴出口から断続的に噴出させる方法は、簡単で制御が容易なために実用上きわめて重要である。径の小さな液滴を噴出させるために噴出口の径を小さくすると、液体の接触面積が噴射口の径に反比例して大きくなるので摩擦(流体摩擦)の抗力が大きくなり、大きな圧力が必要となる。さらに流動帯電によるクーロン引力が抗力として加わるために、サブミリ以下の微小液滴の噴出は困難になる。本発明は、送液ポンプで加圧されて輸送される液体が流動帯電によって電荷を持つことに着目し、微小液滴噴射装置の静電容量を大きくして流動帯電による噴射口の電圧の上昇を抑え、帯電した微小液滴に働くクーロン引力の増加を抑制する。また、微小液滴噴射口の前方に設置する電極による電場で帯電した液体を加速して分裂させ、微小液滴を効率よく噴射させる。さらに、微小液滴噴射口あるいは噴射口先端の電極に電圧を加え、クーロン力によって帯電した液体を振動させて微小液滴を効率よく噴出させる。これらの方法によると、直径50μm以下の微小液滴をこれまでよりも小さな圧力で噴出させることができる。また、内燃機関の燃焼室(シリンダ、ハウジングなど)に電圧を負荷し、クーロン引力によって帯電した燃料液滴と燃焼室内壁との衝突確率を大きくして熱交換を促進し、燃料液滴の気化割合を大きくする。さらに、燃料液滴の径を50μm程度に小さくすることによって、気化に要する時間を短縮する。これらの手段によって燃焼割合を高め、大きな出力とトルクを持つエンジンを実現する。大きな燃焼割合の実現は、排気ガス中の炭化水素系成分の減少をもたらすので、大気汚染と温室ガス効果の防止に貢献する。
表面に滲みだす電子の存在によって管の表面には電気2重層ができて誘電分極した液体分子やイオンが吸着しているシュテルン層と流体内の摩擦(粘性)を受けながら流れるグイ・チャップマン層が生じる。液体では固体と異なり真表面積と見かけの表面積はほとんど同じと考えてよい。液体分子に占めるこれらの層の液体分子の割合は、管の径に反比例して管の径が小さくなるほど多くなる。したがって、液体を径の小さな管の中を通すためには、大きな圧力を加える必要がある。液体が流れるときに電荷が界面を超えて移動することがあり、流動帯電と呼ばれる。液体中に移動した電荷は、液体分子の誘電分極によって徐々に部分的に静電遮蔽され液体中に取り込まれていくと考えられる。流動帯電は広い意味で摩擦と考えられるので、管壁への垂直圧力が大きいほど摩擦力が大きくなり、界面を超えて移動する電荷量が増大すると考えられる。径の小さな管を流れる液体では単位体積当たりの電荷量が多くなり、管壁と液体中の電荷との間に働くクーロン引力が流れの抗力として無視できなくなる。実用において重要な時間制御された微小液滴の噴出のためには、特に大きな圧力が必要とされるので器壁を厚くしなければならならない。このため、微小孔の行路長も長くなる。したがって、従来のポンプによる液体の加圧方法では、径が小さくなるほど微小液滴の生成は困難となる。微小液滴が生成できる場合でも、噴射装置は大型で重量が大きくなるため、製造コストが高くなる。さらに噴射装置を大型化すると、機械的振動や騒音など副次的な問題を解決する必要が出てくる。
本発明は、送液ポンプの小さな圧力で簡単に微小液滴を生成するために、次の課題を解決する。
(1)流動帯電によって生じる液体中の電荷と噴射器の器壁の間に働くクーロン引力を小さくする。
(2)電極に加える電圧によって帯電した液体を加速し、小さな圧力で微小液滴を生成する。
さらに、
(3)流動帯電の効果を考慮した燃料噴射装置と燃焼室により、動力機関について大きな出力とトルクおよび高い熱効率を実現する。
本発明者らは、流動帯電によって内燃機関の燃料供給と燃料の燃焼にさまざまな問題が生じていることを発見した。ここで熱機関の熱効率を決定する要因について説明し、解決すべき課題を明らかにする。熱効率の高い理想的なエンジンを実現するには、燃料気化器あるいは間接噴射式および直接噴射式の燃料噴射装置から1.噴射したすべての燃料をシリンダに注入し2.最適な空燃比の混合気を創出し、混合気中の3.燃料分子を最適なタイミングで完全に燃焼させることである。ここで、最適なタイミングでの燃焼というのはクランク角90度を中心とした限定された範囲での燃焼を意味している。ピストンの上死点および下死点の位置で加えられる力は仕事をしないことを考えるならば明らかであろう。
1,噴射したすべての燃料をシリンダに注入する
燃料気化器あるいは間接噴射式の噴射装置では、給気行程の時間内に、つまり吸気弁の開いている間に噴出した燃料液滴をすべてシリンダ内に注入させる必要がある。燃料液滴の噴出の制御は、気化器では吸気管中の気体の流速(風速)により、間接噴射方式では給油ポンプによって行われている。しかし、流動帯電によって異符号に帯電した燃料液体とこれら装置の噴出口の間にクーロン引力が働くと、燃料液滴の一部は噴射口に付着して噴出に遅れが生じ(図32参照)、シリンダ内に取り込まれずに吸気管中に取り残されることが起きる(図39、図40の参照)。図39は、絶縁状態の放出された液滴をあらわし、図33の28回の燃料噴射に含まれるパルス振動の振動開始時刻(最初のパルス振動を0とする)(X軸)、放出の順番(Y軸)、振動の大きさV(Z軸)を示す。図40は、絶縁状態のシリンダに到達した液滴をあらわし、図36の28回の燃料噴射に含まれるパルス振動の振動開始時刻(最初のパルス振動を0とする)(X軸)、到達の順番(Y軸)、振動の大きさV(Z軸)を示す。吸気管に取り残された燃料の多くは、排気行程の終期と給気行程の始期(それぞれクランク角30度ほど)において吸気弁と排気弁が同時に開いている間に、シリンダを素通りして排気管に排出され、そこで圧縮行程の間に燃焼すると考えられる(図43の圧縮行程、図44の燃焼行程、図19の圧縮行程、図20の燃焼行程参照)。直接噴射方式では、この問題は起きない。
2.最適な空燃比の混合気を創出する
理論空燃比は化学量論的に見積もられる。しかし、化学量論にはファクタとして時間は含まれていないので、実用上の空燃比は出力および燃料の経済性を考慮して経験的に決定され、理論空燃比を含むかなり広い範囲の値をとる。エンジンの回転数によって、燃料噴射装置が適切に作動しないことが起き(図33の矢印の個所)、またシリンダ取り込まれる燃料の割合およびシリンダ内で燃焼する燃料の割合が変化する。エンジンの信頼性と作動の最適化のためには、安定した燃料の供給と最適な燃料混合気の創出が重要である。
3.燃料分子を最適なタイミングで完全に燃焼させる
すでに述べたように高い熱効率を実現するためには、クランク角90度を中心とした限られた範囲で燃料を完全に燃焼することである。補遺に記した実験の結果は、燃料液滴が早くシリンダに注入されてそこに存在する時間が長いほど、また燃料液滴が周囲から効率よく熱を受け取るほど、燃焼行程における燃焼割合が高いことを示している。燃料液滴の気化にはこれまで考えられてきたよりも長い時間が必要であると考えられる。実験の結果は、圧縮行程と排気行程においても燃焼が行われることを示している(図19の圧縮行程、図20の排気行程、図46の圧縮行程、図47の排気工程参照)。排気行程における燃焼はピストンの上昇ブレーキをかけることになるので、内燃機関の熱効率を低下させる一因となる。
本発明ではこれらの課題を、燃料液滴の微小化とシリンダ内に注入された燃料液滴の気化を容易にすることによって解決する。
本発明の微小液滴噴射装置の一態様は、噴射口の静電容量を大きくして流動帯電による電位上昇を小さくすることを特徴とする(請求項1)。
また、本発明の微小液滴噴射装置の一態様は、請求項1に記載の発明において、前記噴射口が被噴射体と電気的に導通し、その電位上昇と当該被噴射体の電位降下を抑制することを特徴とする(請求項2)。
また、本発明の微小液滴噴射装置の一態様は、請求項1に記載の発明において、前記噴射口の前方に電極を設け、当該電極に電圧を加えて、負に帯電した流体を電場で加速して前記噴射口から液滴を噴出させることを特徴とする(請求項3)。
また、本発明の微小液滴噴射装置の一態様は、請求項1に記載の発明において、内部に1個ないし複数の電極の電極を設置し、その電位を変えることによって加圧された液体中の電子を振動させて、噴射のタイミングを電位で調節して噴射量を制御することを特徴とする(請求項4)。また、本発明の微小液滴噴射装置の一態様は、請求項1に記載の発明において、前記被噴射体がシリンダとピストンあるいはシリンダヘッドを備え、当該シリンダと当該ピストンあるいは当該シリンダヘッドに正電圧を加えて負に帯電した液滴に対しクーロン引力を作用させ、前記シリンダ内壁、前記ピストン上面および前記シリンダヘッドとの衝突確率を増加させることを特徴とする(請求項5)。
また、本発明の微小液滴噴射装置の一態様は、請求項1に記載の発明において、振動板の振動によって液体を加速するアクチュエータと、空気流量、エンジン回転数、冷却水温度、スロットル開口度および蓄電池電圧などの検出器からの信号を受けるセンサと、当該センサからの情報に基づいて液滴噴出量を制御するコントローラとを備え、前記噴射口は、直径50μm以下の複数の微細噴射口からなり、当該微細噴射口は、口径が50μm以下の液滴を噴出することを特徴とする(請求項6)。
本発明の微小液滴噴射装置では流動帯電の影響を制御することによって効率の良い微小液滴噴射が得られる。請求項2に記載の微小液滴噴射装置の被噴射体が内燃機関である場合において、その電位上昇と被噴射体である内燃機関の電位降下を抑制することができる。請求項3に記載の微小液滴噴射装置において、微小液滴を電場で加速して遅滞なく効率的に噴射口から噴出させることができる。また、請求項4に記載の微小液滴噴射装置において、内部に1個ないし複数の電極の電極を設置し、その電位を変えることによって加圧された液体中の電子を振動させて、噴射のタイミングを電位で調節して噴射量を制御することができる(請求項4)。帯電した液体と電極との間に働くクーロン力を変化させて、噴射のタイミングを電位で調節して噴射量を制御することができる。請求項5に記載の微小液滴噴射装置において、帯電した微小液滴に対しクーロン引力を作用させて被噴射体との衝突確率を増加させることができる。請求項6に記載の微小液滴噴射装置において、直径50μm以下の複数の噴射口から粒径50 mm以下の微小燃料液滴を容易に噴出することができる。
実施例1を説明する自動車と燃料噴射装置の噴射口を示す概念図。 実施例1を説明する内燃機関のシリンダと噴射口を示す概念図。 実施例1を説明する自動車と内燃機関と噴射口を示す概念図。 実施例2を説明する噴射口と対向する電極を示す概念図。 実施例3を説明する高圧ポンプを接続した噴射口を示す概念図。 実施例3を説明する噴射口の動作を示す概念図。 実施例4を説明する蓄電池が接続された内燃機関(シリンダ、シリンダヘッド)の概念図。 実施例4を説明するシリンダ(シリンダヘッド)の上に設けた導体環を示す概念図。 実施例5を説明するMEMS型燃料噴射装置を示す概念図。 実施例5を説明するMEMS型燃料噴射装置の吸気管を示す概念図。 実施例5を説明するMEMS型燃料噴射装置の断面図。 実施例5を説明する噴射セルの側面図及び正面図。 噴射口の燃料液体に影響を与える給油ポンプ圧力及びクーロン引力を示す概念図。 シリンダ内の液滴の衝突を説明する概念図。 実施例1を説明する導通状態の電位変化を示す特性図。 図15の最初のインパルスの拡大図。 図16をさらに拡大した図。 導通状態におけるエンジン音測定を示す特性図。 図18におけるパワースペクトルを示す特性図。 図18におけるパワースペクトルを示す特性図。 導通状態におけるエンジン音測定を示す特性図。 図21におけるパワースペクトルを示す特性図。 図21におけるパワースペクトルを示す特性図。 液滴の放出時刻と到達時刻を示す特性図。 液滴の放出時刻と到達時刻を示す特性図。 液滴の放出時刻と到達時刻を示す特性図。 液滴の放出時刻と到達時刻を示す特性図。 液滴の放出時刻と到達時刻を示す特性図。 給気行程の開始時刻を0とした時の実施例4を説明する特性図。 動力測定試験の結果を示す特性図。 図5を詳細に説明した概念図。 従来技術(絶縁状態)における燃料液体の噴射口付着の状態を説明する概念図。 絶縁状態における燃料噴射装置の電位測定を示す特性図。 図33の最初のインパルスの拡大図。 図34をさらに拡大した図。 絶縁状態におけるエンジンの電位測定を示す特性図。 図36の最初のインパルスの拡大図。 図37をさらに拡大した図。 絶縁状態における放出された液滴の特徴を示す特性図。 絶縁状態におけるシリンダに到達した液滴の特徴を示す特性図。 本発明(導通状態)における放出された液滴の特徴を示す特性図。 絶縁状態におけるエンジン音測定を示す特性図。 図42におけるパワースペクトルを示す特性図。 図42におけるパワースペクトルを示す特性図。 絶縁状態におけるエンジン音測定を示す特性図。 図45におけるパワースペクトルを示す特性図。 図45におけるパワースペクトルを示す特性図。 明細書中の数式を表す図。 明細書中の数式を表す図。
以下、実施例を参照して発明の実施の形態を説明する。
この実施例では、図1乃至図3、図15乃至図17を参照して、自動車に搭載した燃料気化器あるいは間接噴射式および直接噴射式の燃料噴射装置を説明する。
この燃料噴射装置は、噴射口の静電容量を大きくして流動帯電による電位上昇を小さくするものである(請求項1)。また、この燃料噴射装置は、前記噴射口を被噴射体と電気的に導通させてその電位上昇と当該被噴射体の電位降下を抑制する(請求項2)。
微小な噴出口から加圧した液体を噴出させて微小液滴を生成する場合には、流動帯電のために帯電した液体は流れと反対向きの抗力を受ける。このため、微小液滴の噴出のためには大きな圧力を加える必要がある。また、液滴はクーロン引力のために噴射口に付着し、液滴の放出に遅れが生じる。この効果を小さくするために、噴射装置あるいは噴射口の静電容量を大きくして電位上昇を抑える。液滴の噴出一回当たりの流動帯電によって生じる電荷量Qは一定と考えると、静電容量をCと電位Vとの積は定数となる(図48の(1)式)。
静電容量を大きくするために、噴射装置あるいは噴射口を表面積の大きな導体(静電容量 C0)に接続すると、合成静電容量はC ´(=C0 +C>C)となる。接続された時の電位V´との間には前記(1)式の関係が成り立つ(図48の(2)式及び(3)式)。
したがって、噴射装置あるいは噴射口を静電容量の大きな導体と接続することによって、電位の上昇を抑制できる。
微小液滴噴射装置あるいは噴射口の静電容量C0を大きくするには、これらを表面積の大きな導体(静電容量C´)と導通する。この時、合成静電容量Cは、C=C0+C´>C´となる。例えば、自動車では表面積の大きな導体として、ボディー(フレーム、シャーシ)が考えられる(図1参照)。車体表面の塗装を電気伝導性物質にして導通する、あるいは電気伝導性プラスチック部品と導通することなども有効である。
内燃機関の燃料気化器あるいは噴射装置の電位の上昇とエンジンの電位降下を抑制するために、燃料噴射装置とエンジンを電気的に導通する(図2、図3参照)。これによって燃料噴射に伴う電位の変動がほとんどなくなることは電位測定の結果から明らかである(図15乃至図17参照)。
実施例2では図4を参照して燃料噴射装置を説明する。
この燃料噴射装置は、噴射口の前方に電極を設け、当該電極に電圧を加えて、負に帯電した液体を電場で加速して前記噴射口から液滴を噴出させることを特徴としている(請求項3)。
微小液滴噴射装置噴射口の噴射方向前方に電極を設置し、電極に正電圧をかけて負に帯電した微小液滴をその運動方向に加速する(内燃機関の間接噴射式燃料噴射装置に利用するときの図4参照)。電場による力と送液ポンプによる圧力が負に帯電した液体と噴射口の間に働くクーロン引力よりも大きくなると、液体の先端部分が分裂して液滴として噴出する。送液ポンプの小さな圧力で負に帯電した液体に働く力の平衡が崩れるので、電場がない場合に比べ早いタイミングで微小液滴を噴射できる。流動帯電によって管壁に生じた正電荷は、負に帯電した液体とともに噴射口近くに移動するので、正電荷の数密度は噴出口で最も高くなると考えられる。このため噴射口の外に出た初速度の小さな微小液滴はクーロン引力によって噴出口表面に吸着すると考えられる。電極による加速は、この吸着を少なくできる。この方法により送液ポンプの小型化と製造コストの削減が可能となる。さらに、送液ポンプと噴射装置の高圧力での作動によって発生する振動と騒音を軽減できる。(Mitigation of noise and vibration in high-pressure fuel system of a gasoline direct injection engine, J. Borg, A. Watanabe and K. Tokuo, Procedia 48 (2012) 3170−3178)。電極に加える電圧の大きさと時刻を変えることによって、微小液滴の放出タイミングを調節できる。この方法は、微小液滴の噴射が必要な広い分野、インクジェットや液体燃料を噴射して燃焼させ、発生するエネルギーを動力源とする装置(レシプロエンジン、ロータリーエンジンなど)などに利用できる。
微小液滴噴射装置の噴射口前方に置いた電極に正の電圧を加えることによって、負に帯電した液体を電場で加速し、微小液滴を噴出させる。電極の形状は、噴射した燃料液滴が中空部分を通過できる対称性のよいリング状もしくは円筒状が望ましい。電極は液滴と接触しないように、かつ負荷電圧が大きくならないように噴射口に近い適切な位置に設置する(図4参照)。電極に負荷する電圧は、液体中の電荷量と液滴の質量および噴射口と電極間の距離に依存する。後述する段落0031以降に開示した実験の場合、噴射装置とエンジンの絶縁状態において噴射装置の電位の上昇は3V程度であった。したがって、負荷電圧は高々〜10Vと考えている。内燃機関に利用する場合、常時一定の電圧を負荷してもよいが、給油ポンプの作動に同期させるあるいはクランク角度に対応させるもしくは噴射口の電位の上昇を検出して、燃料液滴噴射の時間だけ負荷するパルス電圧としてもよい。
実施例3では図5、図6及び図31を参照して燃料噴射装置を説明する。
この燃料噴射装置は、内部に1個乃至複数の電極を設置し、その電位を変えることによって加圧された液体中の電子を振動させて、噴射のタイミングを電位で調節して噴射量を制御することを特徴とする(請求項4)。
この実施例に係る燃料噴射装置は、図4に記載された噴射装置とは異なり、噴射口に電極を設置している。そして、電極には一方が接地された蓄電池が接続されている。
微小液滴噴射装置の流路の径は噴射口で最も小さく、また流動帯電よって液体中に取り込まれる電子の数は流れる距離が長くなるとともに増加するので、液体中の電子密度は噴射口の出口で最大となる。帯電した液体は管壁の正電荷を引き連れて移動するので、管壁の正電荷面密度は噴射口の出口付近で最大となると考えられる。このため、帯電した液体に働く単位体積当たりのクーロン引力は、噴射口の出口付近で最大となる。帯電した液体に働くクーロン引力とポンプの圧力との間には、瞬間的に力の平衡状態が生じる。この時、噴射口あるいは噴射口に設置した電極の電位を降下させると、クーロン引力が小さくなるので力の平衡が崩れ、微小液滴が放出される。電位をさらに降下させるとクーロン斥力が働くようになり、ポンプの圧力が小さくても微小液滴が噴出すると考えられる(内燃機関の直接噴射式噴射装置に利用するときの様子の図5参照)。このように、高圧ポンプで加圧した状態で電極電圧の上昇と降下を繰り返し、クーロン引力と斥力が交互に働かせて振動させると、液体を切り分けて液滴として断続的に噴出させる「単極電気振動チョッパー」として利用できる(図6 負荷電圧B)。さらに複数の電極の組み合わせについて、それぞれの電位の変動周期をわずかにずらし、振動する液体の量を多くして振動の振幅を長くすると、流路長の長い噴射装置にも利用できる噴射効率の高い「電気振動チョッパー」として利用できる。内燃機関の直接噴射式燃料噴射装置に利用する例を図31に示す。
複数の電極で溶液中の荷電粒子を加速して振動させる「電気振動チョッパー」は、電気浸透流ポンプと似た構造を持つ装置である。ここで両装置の基礎原理から利用の態様までを比較検討して、本発明の新規性と独創性を明らかにする。電気浸透はロイスが発見した(F. F. Reuss, Notice sur un nouvel effete l’électricité galvanique, Memoires de la Société Impériale des Naturalistes de Moscou, 1809, 2: 327−337)、水中で粘土を2枚の電極で挟み、電極に電圧を加えると水流が生じる現象である。現在、この現象は次のように説明されている。溶液が固体表面に接すると、溶液中のイオンが基板の表面の原子に吸着してシュテルン層を形成し、その外側に吸着イオンと同種のイオンを過剰に含むグイ・チャップマン層が形成される。以下ではこのイオンは正イオンとする。シュテルン層の吸着イオンは固定されて動けないのに対し、グイ・チャップマン層のイオンは、電場を加えると逆符号の電極に向かって溶媒分子を引き連れて運動するので水流が生じる(H-J. Butt, K. Graf and M. Kappl, “Physics and Chemistry of Interfaces, 3rd ed., 2013, Wiley-VCH, 鈴木祥仁、深尾浩次訳 丸善)。このように考えて、グイ・チャップマン層を流れる微小部分の定常状態の流速νをナヴィエ・ストークスの方程式(4)(図48の(4)式)と連続の式(図48の(5)式)を解いて求める。ここでηは液体の粘性率を表し、Pは液体に加わる圧力、ρeはグイ・チャップマン層の正イオンの電荷密度そしてEは電極板によって加えられる電場を表す。最初の項が粘性力による抗力であることが明らかになるように、圧力Pと電場Eをx軸と平行で正の向きとし、正負の符号を変更したので文献(H-J. Butt, K. Graf and M. Kappl)とは同じではない。(4)式と(5)式から流速νを求めるには、ポワソンの方程式(図48の(6)式)が成り立つことを利用する。
しかし、液体中には吸着イオンと同種のイオンの他に、反対符号を持つイオンも存在する。吸着して動くことのできないイオンを除き、電場によって動くすべてのイオンを含めた運動方程式を考えなければならない。したがって、電極に挟まれた液体の微小部分についてのナヴィエ・ストークスの方程式(4)は図48の(7)式のように置き換えられるべきである。ここで、ρeはイオンの液体中の電荷密度、ρe cは反対イオンの電荷密度を表し、いずれも位置の関数である。(7)式の圧力Pの向きは流れと同じ向きになるようにしたので、(4)式とは逆向きである。ρeとρe cの間には次の関係がある。ここで、ρe adは液体中のイオンでシュテルン層に含まれることになるイオンの数密度である。ρe adは図48の(9)式で表わされるので、図48の(10)式の様に表すことができる。通常、圧力Pは0となるので、巨視的な流れとしての電気浸透流の駆動力は、吸着イオンの電荷数と等しい数の反対符号の電荷が電場中で受ける力であることを示している。イオンの電荷と液体分子は電荷−双極子相互作用によって結びついて動くので、その結果、巨視的な液体の流れが生じる。ただし、(8)式が成立して定常流が存在するためには、基板に吸着したイオン数をnad、基板表面の吸着サイトの数をNとすると、n<<Nという条件を満たしていなければならない。
電気浸透流の流速のプロファイルは、(4)式では界面近くで小さくなるとともに、ρeが最も小さくなるチャンネルの中心軸で極小値を取るはずである。これに対し、(10)式では中心軸の位置で流速が最大となり、さらにチャンネルの径が十分大きくなると、界面付近を除くとイオン濃度は一定となるので流速もほとんど一定になると考えられる。微粒子をマーカーとして光学顕微鏡で観察した毛管を流れる電気浸透流は、(10)式から予想されるプロファイルを示している(H-J. Butt, K. Graf and M. Kappl, “Physics and Chemistry of Interfaces, 3rd ed., 2013, Wiley-VCH, 鈴木祥仁、深尾浩次訳 丸善)。
(10)式は電気浸透流だけでなく、電荷を含む液体に電場を加えた時の定常状態の流速に関する一般的な式である。例えば電解槽中の加圧0の電解質溶液に電場を加えた場合には、吸着イオンの割合が極めて小さくρe ad は0に近いと考えられるので、巨視的な流れは出現しない。流動帯電によって電子が液体中に取り込まれた場合にも、ρe adを液体中の電子の数密度とすれば、電場中の電子に働く力が圧力とともに流れの定常状態を作り出すことを示している。しかし、電場によって流動帯電によって液体中に取り込まれた電子を加速する場合と、溶液中に含まれるイオンを加速する電気浸透流の場合では、以下のような違いが見られる。
(1)液体に加えられる圧力
流動帯電によって電子が液体中に取り込まれるのは、液体に大きな圧力を加えた場合である。しかし、電気浸透流ポンプではイオンがすでに溶液中に存在するため、溶液に圧力を加える必要はない。あるとしても補助的な小さな圧力である(特開2004−276224号公報)。
(2)流管の材質
流動帯電では大きな圧力に耐えるように金属管が用いられ、電気浸透流ポンプでは特定のイオン種が吸着するように誘電体(シリカガラス、酸化物微粒子凝集体、ポリカーボネートPCやポリメチルメタクリレートPMMAなどのポリマー)が用いられる。
(3)液体の種類
流動帯電が生じる液体について制限はないと考えられる。しかし、電気浸透流ポンプでは十分なイオンを溶かし込む必要があるので、極性溶媒に限られると考えられる。
電気浸透を利用した電気浸透流ポンプは、電場によって溶液中にイオン電流を流して微小量溶液を輸送する装置で、化学分析、化学合成あるいは生命科学の分野で用いられている。外部に置いた電極対でキャピラリー管や基板上に形成された流路あるいは絶縁物粒子集合体などの多孔質構造体を挟んで、あるいはこれらキャピラリー管等の内部に設置した電極対で電場を形成し、電場で水溶液中のイオンを加速させて液体を輸送する。したがって、電極の1つは正、他方は負の電位なので、これによって流れるイオン電流の大きさと向きは一定である。これに対し、「電気振動チョッパー」は電極電位を変動させて電子を振動させて、圧力が加えられた液体を液滴として噴射口から噴出する装置である。液体の輸送はほとんど高圧ポンプよって行われる。「電気振動チョッパー」では電極の電位が変動すると同時に2つの反対向きに電子の流れが生じ、再び電位が変動すると電子の流れが逆向きに切り替わる。これによって、液体は流れの方向と平行に振動し、振動の振幅が十分大きければ、液体は切り分けられて噴射口から液滴となって飛び出す。単極電気振動チョッパーで液滴を噴射できるのは、電極一つでも電子を振動させることができるからである。複数の電極を用いると、より多量の液体を振動させることができるので、効率よく液滴を噴射することができる。
「単極電気振動チョッパー」あるいは「電気振動チョッパー」を内燃機関の燃料噴射装置に利用すると、燃料液滴を微小化できるので燃料の燃焼効率の向上が可能となる。電位の高さと電位変動の周期を調整すると、微小液滴の量と噴射回数が変わるので単位時間当たりの噴射量を簡単に制御できる。直接噴射式噴射装置は、噴射したすべての燃料をシリンダに送り込むことができるという優れた特性を持っている。しかし、燃料を噴射するためには、高い圧力を加えなければならない。「単極電気振動チョッパー」あるいは「電気振動チョッパー」を利用すると高圧ポンプの圧力を小さくでき、ポンプの小型化およびコストの削減が可能である。また、高圧の作動によって発生する振動と騒音の軽減が可能である。(Mitigation of noise and vibration in high-pressure fuel system of a gasoline direct injection engine, J. Borg, A. Watanabe and K. Tokuo, Procedia 48 (2012) 3170−3178)この方法は、微小液滴の噴射が必要な広い分野、例えば、インクジェットや液体燃料を噴射して燃焼させて発生するエネルギーを動力源とする広い範囲の装置(ロータリーエンジンやジェットエンジンなど)に利用できる。
微小液滴噴射装置の噴射口あるいは噴射口の一部に電極を設置し(図5参照)、電位を上げた状態で液体を噴射口まで送り込む。高圧ポンプで液体を吸引するときは、弁Aを開き、弁Bと弁Cを閉じる。液体を噴出口側に送り出す時は、弁Aを閉じ、弁Bと弁Cを開く。液体を噴出させるときに、弁Cは閉じてもよい。流動帯電の効果を考慮すると、弁Cの上流側の流路の径は十分に大きくすることが望ましい。図5にはシリンジ型のポンプを示したが、他の型のポンプを排除するものではない。
内燃機関の燃料液滴噴射装置に「電気振動チョッパー」を使用する場合の例として、2個の電極用いた場合を図31に示す。大きな圧力に耐えるように、電極1および電極2の厚さを十分にとる必要がある。電極1の流路径を例えば100μm、電極2の流路径を50μmとすることによって、2つの流路径をともに50μmとするときよりも小さな圧力で燃料を電極1まで到達させることができる。このとき、電極2を厚くして、機械的強度を大きくしてもよい。直接噴射式燃料噴射装置として使用する場合には、弁Cを閉じた時にできる電極1までの間のスペースを小さくすることが望ましい。電極の電位を変化させるのは、燃料を液滴として断続的に噴出させるためである。図31には、弁Cの開閉と電極1と電極2の電位の変化の例も示した。電極1と電極2の電圧負荷のオン、オフの時間差d1、d2は流路長に合わせて調整することが望ましい。複気筒エンジンの噴射装置に利用する場合には、リザーバの液体に常に圧力を加え、またリザーバに複数の弁Cを設置し、燃料を必要とするシリンダにつながる弁Cだけを開くことにしてもよい。電極につなぐ蓄電池の負極はボディに接続する。実施例2の燃料噴射装置と組み合わせると、電極への負荷電圧を小さくできる。「電気振動チョッパー」を用いた内燃機関の噴射装置の例(図31)について、大雑把な見積もりを示す。
エンジンは4サイクル500ccの単気筒ガソリンエンジンとし、エンジンの回転数を6000rpmとする。燃料噴射方式はすべての燃料をシリンダに注入できる直接噴射式とする。シリンダ内の空気の温度を100℃とする。ガソリンの分子量を80、密度を0.7g/cmとし、空燃比を13:1とする。この時、エンジンが2回転するときに必要なガソリンの量はおよそ0.05cc(5×1010μm)である。ガソリンの気化に要する時間を無視できるものとしたとき、ガソリン噴射の最適な時間は給気が終わってピストンが下死点を過ぎてからである。この場合、ガソリンの気化によるシリンダ内の圧力上昇がないため、空気の吸入量の最大値が実現できる。圧縮行程2.5msの間にガソリンを噴射する。ノッキングを避けるためには噴射時刻はなるべく遅くすることが望ましく、ガソリン液滴の気化のためには噴射時刻を早くすることが望ましい。ガソリンをシリンダ内に注入した時、混合気の温度は完全に気化した場合の方が気化の不完全な場合に比べて低い。気化の潜熱が大きいためである。このため、「電気振動チョッパー」を用いてガソリン液滴を微小化する場合は、ノッキングも起きにくいと考えられる。圧縮行程の終了する直前の1msの間(クランク角が下死点から108度になる時刻)にガソリンを噴射するとして、噴射口について検討する。噴射板の噴出口の径を50μmとし、「電気振動チョッパー」の電極電圧を下げると噴射板表面から深さ0.5mmまでの液滴が噴出するものとすると、噴出口1個から1回の噴射で噴出する液滴の量は9.8×10μmである。電極の電圧を100kHzで変化させるとして、ガソリン5×1010μmを時間1msの間に噴射するのに必要な噴出口の数はおよそ530個である。噴出口の間隔を200μmとすると、530個の噴出口を持つ噴射板の直径は10mmで十分である。噴射された液滴は直径50μmで長さ500μmと細長いので、同じ体積の球形液滴に比べると比表面積が大きいので気化しやすく、また複数の凝集中心ができるので噴射されるとすぐに分裂すると考えられる。
実施例4では図7及び図8を参照して燃料噴射装置を説明する。
この燃料噴射装置は、被噴射体の燃焼室がシリンダとピストンあるいはシリンダヘッドを備え、当該シリンダと当該ピストンあるいは当該シリンダヘッドに正電圧を加えて負に帯電した微小液滴に対しクーロン引力を作用させ、前記シリンダ内壁、前記ピストン上面および前記シリンダヘッドとの衝突確率を増加させることを特徴とする(請求項5)。
内燃機関の燃焼室(シリンダやハウジングなど)に正電圧を負荷し、負に帯電した燃料液滴に対しクーロン引力を働かせて燃料液滴と燃焼室内壁との衝突確率を増加させて燃料液滴の気化を促進する。燃焼波面に取り込まれると、燃料液滴は熱を受け取り気化すると考えられる。しかし、燃焼波の速度が大きいので、一部の液滴あるいは液滴の中心部分は燃焼しないまま液滴として残留する。したがって、燃焼室内において燃料液滴が気化に必要な熱(潜熱)を〜0.1ミリ秒から〜数ミリ秒の間に効率的に得ることは、燃焼割合と燃焼のタイミングを決定する重要な因子である。潜熱の熱源は、液滴と空気中の気体分子との衝突、シリンダ内壁、ピストンヘッド表面およびシリンダヘッド表面との衝突によるエネルギー移動とこれら表面からの輻射および圧縮行程における圧縮熱である。これらの中で主要な熱源は、衝突によるエネルギー移動と圧縮熱と考えられる。1気圧での燃料の気化温度は、ガソリンでは30℃から200℃、軽油では200℃から350℃である。圧縮によって気圧が高くなるために、実際の気化温度はこれよりも高いと考えられる。
負に帯電した燃料液滴が燃焼室の内壁と衝突すると、電荷が移動して内壁が負に帯電する(図38参照)。この為時間の経過とともにクーロン斥力が増加し、燃料液滴と内壁の衝突確率が小さくなる(図14参照)。燃焼室に正電圧を負荷すると、負に帯電した燃料液滴に対しクーロン引力が働き、燃料液滴と燃焼室内壁との衝突確率が増加すると共に燃料液滴の内壁表面への吸着時間が長くなるので受け取る熱量が増加すると考えられる。
燃焼室の電位を高くする方法の有効性は、噴射装置とエンジンの絶縁状態と導通状態のエンジン音パワーの強度を比較することによって明らかとなる。導通すると絶縁状態よりもエンジンの電位の降下が小さくなるので、燃焼室の電位をわずかに高くしたことになる。シリンダ内のガソリン量は、絶縁状態の方が導通状態よりも少ない(図39、41参照)。燃焼行程におけるエンジン音パワーの強度は、絶縁状態の方が導通状態よりも小さい(図20 燃焼行程、図44 燃焼行程参照)。この結果がガソリン量の多寡のみに因るものとすれば、燃焼過程における燃料の燃焼割合は等しいので、排気行程において燃焼するガソリン(燃焼行程で燃焼しないで残ったガソリン)の量は導通状態の方が多くなり、エンジン音パワーの強度も導通状態の方が大きくなると予想される。しかし、図20(排気工程)及び図44(排気工程)に示されるように、絶縁状態パワーの強度の方が導通状態よりも著しく大きく、結果は予想と逆である。絶縁状態と導通状態で排気行程における燃焼に関して違いがないとすれば、燃焼室の電位を高くして燃料液滴の衝突確率を大きくすると、燃焼過程における燃料の燃焼割合が増加すると考えてよいであろう。自動二輪車(KTM DUKE)の絶縁状態と導通状態の燃焼過程のパワーの強度を比較すると、わずかに導通状態の方が大きく、すこし高い周波数成分が存在する。動力出力試験の結果は、出力とトルクはともに導通状態の方が〜50%近く絶縁状態よりも大きい(図29参照)。
内燃機関の燃焼室において帯電した燃料液滴の衝突確率を大きくして熱交換の効率を高めるために、シリンダ、ピストンあるいはシリンダヘッドの電位を接地電位よりも高くする。電位を接地電位よりも高くするためにシリンダ等を蓄電池の正極に接続し、蓄電池の負極をボディに接続する(図7及び図8参照)。電圧を負荷するにはシリンダ等の静電容量が大きすぎるという場合には、電極板をシリンダとピストンあるいはシリンダヘッドに設置し、電極板に正電圧を負荷してもよい。シリンダあるいはシリンダヘッドに設置する環状の導体板電極の例を図8に示す。電圧負荷の開始時刻と終了時刻は、給油ポンプの作動に同期させるあるいはクランク角度で制御できる。
実施例5では図9乃至図12を参照して燃料噴射装置を説明する。
この燃料噴射装置は、振動板の振動によって液体燃料を加速するアクチュエータと、空気流量、エンジン回転数、冷却水温度、スロットル開口度および蓄電池電圧などの検出器からの信号を受けるセンサとセンサからの情報に基づき燃料噴出量を制御するコントローラとを備え、直径50μm以下の多数の噴射口から粒径50 mm以下の微小な燃料液滴を噴出することを特徴としている(請求項6)。この装置によると液体燃料の気化を容易にしてエンジンの熱効率を向上させることが出来る。
液体燃料の燃焼は、気化した燃料分子が空気中の酸素と反応することによって起きる(水谷幸夫、第3版、「燃焼工学」、森北出版、2017年)。ガソリンの気化温度は80℃程度なので、ほとんど液体のままシリンダ内に注入されると考えられる。このため、燃焼室内(シリンダやハウジングなど)における燃料液滴の気化割合の向上は、熱効率を高くするための重要な因子となる。この実施例では、燃料噴射装置の噴射口の径を50mm以下とし、放出される燃料液滴の大きさを直径50μm以下と小さくすることによって燃料液滴が気化し易くする。径の小さな液滴は超過圧のために大きな液滴よりも熱力学的に不安定であり、気化し易くまた酸化反応つまり燃焼が起き易い(ドゥジェンヌ、ブロシャール−ヴィアール、ケレ、第2版「表面張力の物理学」、吉岡書店、2017年)。燃料液滴の体積が小さくなると単位体積当たりの表面積割合(比表面積)が大きくなり、単位体積当たりの気体分子との散乱確率が大きくなる。また、燃料液滴の質量が小さくなるほど、燃料液滴が気体分子との衝突の際に受ける運動量の変化は大きくなり、衝突で受け取る熱エネルギーは大きくなる。したがって液滴の径が小さいほど、単位量の液体を気化させる時間は短くなり、液滴が消滅する時間が短くなる。実験的にも燃料液滴の燃焼速度STは、粒径dmに反比例することが知られており、図49の(11)式に示す経験式が得られている。ここでF/Aは燃空比、u´は混合気の乱れの強さである(水谷幸夫著、「燃焼工学」第3版、森北出版、2017年)。 燃料液滴の径を小さくして質量を小さくすると、電場による帯電液滴の運動の制御も容易となる。
内燃機関において燃料噴射装置から放出される燃料液滴の大きさを直径50〜10μmとするために、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)として確立された技術を利用する。MEMSは微細加工技術によって基板上に集積されたアクチュエータ、センサおよびコントローラから構成されたデバイスである。燃料噴射装置としての構成部分は、燃料を噴射するアクチュエータ、エンジン回転数、空気流量、冷却水温度、スロットル開口度および蓄電池電圧などの検出器からの信号を受けるセンサ、さらにセンサからの情報に基づきアクチュエータを制御して燃料噴出量を制御するコントローラである。流体噴出用のMEMSとして、インクジェットプリンタのヘッドがすでに商品化されている。インクジェットプリンタのヘッドでは、液滴の飛翔到達位置を高精度に制御するために、電気伝導性のインク液滴を電場によって加速するとともに電極偏向板によって位置を制御している。さらに、微細な印字のためにはインク液滴の径を小さくし、高速印字を実現するに時間当たりの噴出頻度を大きくしている(「インクジェット」、日本画像学会編、藤井雅彦監修、東京電機大学出版局)。内燃機関の燃料噴射装置では、液滴の位置制御よりも単位時間当たりの噴出量が重要となる。燃料噴射MEMSの実現には、燃料液滴の径を小さくして、しかも単位時間当たりの燃料噴出量を大きくするという、両立の難しい課題の解決が必要である。このため、この実施例では燃料装置の噴射口を集積化し、微小な燃料液滴を同時に多数噴射するMEMS型の燃料噴射装置を提案する。MEMS型燃料噴射装置にはエンジンの回転数に応じて給油量を瞬時に変化させるコントローラが備えられている。給油量を増減するには、センサからの情報に基づいて稼働する噴射セルの数あるいは噴射時間を調節する。
ここで、測定した単気筒450CCの4行程エンジンを回転数6000 rpm、燃料消費量20 リットル/時で作動するとものとし、燃料液滴の噴射条件を液滴の直径50μm、噴射の続く時間1m秒、噴射頻度200 kHzとして燃料噴射口の数nの見積りを行う。見積もりの燃料消費量は、消費量の上限と考えられる。液滴の噴射頻度200 kHzは、インクジェットで達成されている。燃料噴射口の数nは、図49の(12)式に示すように見積もられる。
噴射装置のアクチュエータの駆動は、圧電素子(ピエゾ素子)、超音波振動子あるいは電磁石によって振動板を振動させて行う。圧電素子アクチュエータを持つ集積型燃料噴射装置を図9乃至図12に示す。圧電素子にパルス電圧を加えて変形させて振動板を振動させ、圧力室の容積を変えることによって、燃料噴射装置を構成する噴射セル(図10、図11参照)の噴射口から燃料液滴を噴出させる。噴射セルの噴射口を複数にすることによって、アクチュエータの数を少なくできる(図12参照)。図の噴射セルには噴出口が19個あるので、噴射セルの数は約530個となる。噴出する燃料液滴の量は圧力室の容積の変形量に等しく、圧電素子の振動数はパルス電圧の周波数である。間接噴射式の場合には、集積型燃料噴射装置を吸気管に図10、図11のように設置する。複気筒エンジンに応用する場合は、圧力ポンプとリザーバ1個ですべての噴射セルに燃料を供給するようにしてもよい(図12参照)。これは、集積型の燃料噴射装置であり、請求項1から請求項5に記載されたいずれの噴射装置にも適用できる。
以下、液滴噴射による流動帯電の影響を調べるために、内燃機関の燃料気化器あるいは燃料噴射装置とエンジンに対し電位測定とエンジン音測定を行った。測定に使用したエンジンは、燃料供給を燃料噴射装置で行う自動二輪車(HOND MEN 450とKTM 390 DUKE)および燃料気化器で行う自動二輪車(HONDA KSE 125)である。エンジンは車体フレームと電気的に導通しているが、インジェクタと気化器は絶縁されている。これらのエンジンはすべて単気筒なので、電位変化とエンジン音変化の解析が容易である。単気筒エンジンの給気から排気までの4行程で起きる現象は、気筒数を増やしても変わらない。測定にはオシロスコープ(PicoScope 6 5444B, Pico Technology)を使用し、パッシヴプローブ(TA045, Pico Technology)を燃料気化器あるいは燃料噴射装置とエンジンに接続して行った。エンジン音測定にはコンデンサマイクロフォン(EMM-6, Dayton Audio)を使用した。
電位差測定とエンジン音測定の順で、実験の結果と解釈について説明する。エンジン音から回転数を求める手法は実用化されているが、エンジン音から給気、燃焼および排気の状態を評価する手法は一般的と思われないので解析の方法についても説明する。
A 電位測定
エンジンと絶縁した状態の燃料噴射装置(HOND MEN 450)の電位測定の結果を、図33に示す。エンジンの回転数は6900rpmである。図には50Hzの電圧の変動がノイズとして加わっている。図の振幅〜60Vのインパルスの周期17.5msは、給気の周期と同じである。図の最初のインパルスを拡大した図34から、このインパルスは複数のパルス振動からなっており、パルス振動に先立って電位がわずかに上昇していることが認められる。電位上昇の傾きは、時間とともに小さくなり飽和傾向を示す。図34をさらに拡大した図35から明らかなように、電位の上昇の大きさは3Vほどである。
燃料噴射装置と絶縁した状態のエンジンの電位測定の結果を、図36乃至図38に示す。エンジンの回転数は7300rpmである。50Hzノイズに加えて、振幅3Vほどのインパルスが見られ、その周期16.3msは給気の周期に等しい。図36の最初のインパルスを拡大した図37から、このインパルスは複数のパルス振動からなっており、パルス振動に先立って電位が降下していることが認められる。電位降下の傾きの絶対値は、時間とともに小さくなり飽和傾向を示す。図37をさらに拡大した図38から明らかなように、電位の降下の大きさは0.6Vほどである。
電位変化は自動二輪車(KTM 390 DUKE)でも、また燃料気化器を使用する自動二輪車(HONDA KSE 125)でも同様に検出された。電位変化の大きさは、エンジンの排気量が大きいほど、またエンジン回転数が大きいほど顕著であった。
インパルスの周期は給気の周期と等しいことから、給油ポンプでガソリンが送り出されると流動帯電が起きて燃料噴射装置が正に帯電すると考えられる。流動帯電とは運動する液体が電荷を帯びる現象で、流動帯電によってガソリンは負に帯電する(非特許文献2参照)。1個のインパルスに複数の電位上昇とパルス振動が存在するのは、1回の給気でガソリン液滴が断続的に放出されることを示している。供給ポンプの圧力によって噴出口へと押し出されるガソリンは負に帯電し、反対に噴射装置の噴射口は正に帯電するので、ガソリンと噴射口の間にはクーロン引力が働く。この引力とポンプの圧力との間には、いったん力の平衡状態が生まれると考えられる。しかし、吸気管の空気の流れなどによる揺らぎによって平衡状態が破れると、燃料は液滴となって放出される(図13参照)。これが繰り返されるために燃料液滴の放出は断続的になると考えられる。電位の上昇に続いて起きる大きな振幅(〜60V)のパルス振動は、電位の急激な変化に伴って発生したと考えられる。
エンジンの電位が降下するのは、シリンダ内壁やピストン上面に衝突した燃料液滴から電子を受け取るためと考えられる。燃料液滴あるいは途中で分解した燃料液滴群がシリンダ内に放出順に到達し、断続的にシリンダ表面と衝突すると、電位の変化は断続的になるはずである。液滴・液滴群がシリンダの表面に衝突しなくなり、電子の供給が止むと電位は急激に変化する。4Vほどの振幅のパルス振動が起きるのは、このためと考えられる。
燃料噴射装置(HOND MEN 450)とエンジンを直径2mmの銅線で導通させて電位を測定した。その結果を図15に示す。エンジンの回転数は8000rpmである。振幅が40Vに近いパルス振動の周期15.0msは給気の周期に等しい。図15の最初のインパルスを拡大した図16は、インパルスが複数のパルス振動からなっていることを示している。パルス振動に先立って電位がわずかに降下している。図16をさらに拡大した図17のように、電位の降下は0.3V以下と小さい。
図15乃至図17、図33乃至図38で取り上げた給気行程28回分の液滴の放出と到達について考察したので、その特徴を図39乃至図41を用いて説明する。図39は図33乃至図35の絶縁状態の噴射装置の電位測定で得られたパルス振動に関する量を表す。X軸は、1つのインパルスの最初のパルス振動の開始時刻を0とした時の後続のパルス振動の開始時刻、Y軸はこれらのパルス振動の順番、Z軸はパルス振動の最初のピークの振幅である。インパルスごとに最初のパルス振動の開始時刻は異なっているはずなので、あまり厳密な議論ではない。パルス振動の最初のピークの振幅は、帯電した電荷量の目安として採用した量である。パルス振動の開始時刻は燃料液滴の放出時刻と考えられるので、図39は燃料液滴の放出の特徴を表している。多くの燃料液滴は、放出開始から0.8msほどの間に放出されている。したがって、液滴の放出時間幅はおよそ0.8msと考えることができる。しかし、パルス振動の最初のピークの振幅がなだらかに減少を示す1ms〜4msの間に放出される液滴も少なからず存在する。ほとんどの液滴は放出回数およそ10回目までには放出されているが、放出の分布は40回近くまで広がっている。パルス振動の最初のピークの振幅は、1Vから60V近くまでの幅の広い分布をしている。液滴体積は帯電量に比例すると考えると、液滴の体積の分布の幅が広いことを示している。
図40は、図33乃至図35の絶縁状態のエンジンの電位測定で得られたパルス振動に関する量を表す。X軸、Y軸およびZ軸の表す量は図39と同じである。パルス振動の開始時刻は燃料・燃料液滴群のシリンダ内壁への到達終了時刻と考えられるので、図39は燃料液滴の到達の特徴を表す。ほとんどの液滴は、最初の液滴の到達時刻から0.6msまでの間に到達している。したがって、液滴の到達時間幅はおよそ0.6msと考えられる。また、ほとんどすべての液滴が放出15回目までには到達している。パルス振動の最初のピークの振幅は、0.6ms以内に到達した燃料液滴では1.5V近くまで分布しているが、到達時刻の遅い燃料液滴はすべて振幅が0.5V以下である。図39の結果と図40の結果とを比較すると、噴射装置から放出されたにもかかわらず放出時刻の遅い液滴はシリンダ内に注入されていない。この問題については、B(段落0033、段落0034)でエンジン音測定の結果と合わせて後で考察する。
図41は、図15乃至図17の導通状態の電位測定で得られたパルス振動に関する量を表したものである。X軸、Y軸およびZ軸の表す量は図39と同じである。パルス振動の振幅には、15V〜25Vと5V以下と二つの分布が存在する。ほとんどの液滴は0.5ms以内に放出されている。放出時刻の遅いパルスの振幅が5V以下と小さいのは、液滴の体積が小さくなるためと考えられる。15V〜25Vの範囲に密に分布する燃料液滴は、放出回数が15回までの範囲に存在する。
燃料液滴の帯電量は燃料噴射装置内の液体に加えられる圧力と流路の器壁の面積で決まると考えると、絶縁状態と導通状態の帯電量は等しいはずである。しかし、導通状態のパルス振動の最大値が40V(図15)ほどと絶縁状態の最大値60V(図33)よりも小さい。これは、エンジンと導通することによって噴射口(噴射装置)の静電容量が大きくなったために、噴射装置あるいは噴射口の電位の上昇が小さくなって帯電したガソリン液に働くクーロン引力が小さくなり、その結果、加えられる圧力が小さいところで液滴が噴出するためではないかと考えている。図41の結果を図39の結果と比較すると、絶縁状態に比べると液滴放出までの時間が短く、液滴の体積の分布の幅が狭い。この結果からも、導通状態では液滴に働くクーロン引力が小さく、加えられる圧力が小さいところで液滴が噴出すると考えられる。
B エンジン音測定
エンジンは燃料の燃焼によって発生するエネルギーの一部を音響エネルギーに変換する装置と考えられる。エンジンの回転数を一定とすると、燃焼行程でエネルギーが発生し、行程が進むとともに吸気弁と排気弁が周期的に開閉し、振動管としての構造と気体の流れが変化するので、エンジン音は周期的に変化する。音響エネルギーの大きさが燃料の燃焼によって発生するエネルギーに比例するものとすれば、エンジン音を測定することによって給気、燃焼および排気の状態を評価することが可能である。
単位体積当たりの1周期の音のエネルギー(エネルギー密度)<E>は、図49の(13)式のようにあらわされ、周波数fの2乗と振幅Aの2乗に比例する。ここで、ρは音が伝搬する媒質の密度である。音の強さIは単位時間当たりに単位面積を通って伝搬するエネルギーなので、図49の(14)式となる。ここでνは、媒質中の音の速度である。マイクロフォンで検出するのは音圧Pで、これを電圧信号として出力する。音圧Pと音の強度Iには、図49の(15)式の関係が成り立つ。
測定で得られた波形(電圧信号)x(t)をフーリエ変換すると、フーリエ係数として振幅スペクトルX(f)が求まる(図49の(16)式)。波形x(t)を2乗して積分するとエネルギーが求まり、パーシヴァルの等式(図49の(17)式)から振幅スペクトルの2乗はエネルギーとなる。測定して得られる波形は、離散的な数値列なので、分析区間のN点のサンプルの波形xnに対し離散フーリエ変換を行い、離散フーリエ係数Xkを求める(図49の(18)式)。そして、単位時間のエネルギーであるパワーのスペクトルP(k)は、図49の(19)式のように求まる。
エンジン音測定と電位測定を同時に行った。この時、マイクロフォンとエンジンの距離を30cmとしたので、エンジン音測定の信号には電位測定の信号に対しおよそ1msの遅れが存在する。電位測定のインパルス周期から求めたエンジンの回転数は5000〜6000 rpm(給気、圧縮、燃焼および排気の4行程の周期24〜20 ms)である。
エンジン音の解析を、次のように行った。各行程の時間幅は等しいものとし、4行程の4周期分について各1周期分を4分割して16の小区間を得る。4分割の順にa、b、c、dとして4周期まで各周期に1〜4の添え字番号を付すと、給気行程はa、a2、3、、圧縮行程はb、b2、3、の小区間となる。燃焼行程、排気行程も同様である。スペクトル解析のフィッティングでは、各行程の添え字1から4までの4小区間を連続した区間とし、給気行程、圧縮行程、燃焼行程および排気行程に対して同時に行った。4周期に対してフィッティングしたのは、分析区間長を長くして周波数分解能を高くするためである。給気行程の開始時刻は不明なので、次のように仮定し、
(1) ガソリン液滴放出時刻の前に、給気行程が開始する(吸気弁が開く)
(2) 絶縁状態と導通状態の給気行程開始時刻(吸気弁が開く時刻)は等しい
さらに、フィッティングの開始時刻を0.05ms刻みで変化させ、次の条件を満たすフィッティングの開始時刻を給気行程の開始時刻とした。
(1) 吸気弁と排気弁が閉じ、新たなエネルギーの発生がないので、圧縮行程のパワーが最小となる。
(2) 周波数成分に変化があるとすれば、各行程の変わり目で起きる。
測定データと解析結果の図を示す。自動二輪車(HOND MEN 450)の燃料噴射装置とエンジンの絶縁状態のエンジン音スペクトル(図42)、エンジン音パワーの周波数依存性を給気行程(図43)、圧縮行程(図43)、燃焼行程(図44)および排気行程(図44)の順に示す。図42には、4周期分とそれをさらに4分割した16の小区間を塗り分けて示している。燃料噴射装置とエンジンの導通状態の結果を、同じように図18乃至図20に示す。自動二輪車(KTM 390 DUKE)についても同様に、それぞれ図45乃至図47と図21乃至図23に示す。給気行程の開始時刻は図29にまとめて示す。
これらの結果を比較すると、自動二輪車(HOND MEN 450とKTM 390 DUKE)について絶縁状態と導通状態について次のことが分かる。
(1) 給気行程の開始(吸気弁の開口)時刻は、エンジン音スペクトルにおいてほとんど同じ位相となる。
(2)エンジンが同じ場合には、給気行程の周波数分布の違いは小さい。
初めに仮定した条件が正しいことを裏付けているといえよう。
自動二輪車(HOND MEN 450)の絶縁状態と導通状態を比較した結果を、箇条書きする。
(a) エンジン音から求めた給気行程の開始時刻と電位測定から求めた最初の液滴放出を示すパルス振動の時刻との時間差は、絶縁状態では0.3 ms、導通状態では−0.1 msである。エンジン音の検出は電気信号よりも約1ms遅れるので、実際の時間差はそれぞれおよそ1.3 msと0.9 msとなる。
(b) 圧縮行程では、絶縁状態の方が導通状態よりもパワーが大きい
(c) 燃焼行程では、導通状態の方が絶縁状態よりもパワーが顕著に大きい
(d) 排気行程では、絶縁状態の方が導通状態よりもパワーが顕著に大きい
電位差測定の結果を考慮すると、これらの結果は次のように解釈される。
(1) 絶縁状態において圧縮行程のパワーが導通状態よりも大きいのは、絶縁状態では導通状態よりもガソリンが吸気管に多く残っていて、吸気弁と排気弁が同時に開くとシリンダを素通りして排気系に達し、圧縮行程の間に燃焼するためと考えられる。
(2) 導通状態において絶縁状態よりも燃焼行程のパワーが大きく、排気行程のパワーが小さいことは、導通状態ではシリンダ内に取り込まれるガソリン量が多く、また燃焼割合が高いためと考えられる。
(3) 絶縁状態において排気行程のパワーが導通状態よりも大きいことは、絶縁状態では導通状態よりも燃焼行程で燃焼しないで残るガソリン量が多く、この残留ガソリンが排気行程においてシリンダや排気管で燃焼するためと考えられる。
このことから、燃料液滴の放出時刻の遅れを小さくしてシリンダ内に取り込まれる燃料の割合を大きくするとともに、シリンダ中の燃料液滴の気化を促進して燃焼割合を大きくすることが、間接噴射方式によって燃料を供給するエンジンの熱効率を向上させて大きな出力とトルクを実現するための決定的要因といえそうである。
自動二輪車(KTM 390 DUKE)に対し動力測定試験(Dynojet, 250ix)を行い、絶縁状態と導通状態について出力とトルクを比較したので、その結果を図29に示す。エンジン回転数は絶縁状態と導通状態いずれも6000rpmである。導通状態では出力とトルクが共に絶縁状態よりも50%ほど増加する。絶縁状態と導通状態の燃焼行程のエンジン音パワーを比較すると、150H zの成分を除いて、導通状態の方が絶縁状態よりもわずかに大きいように見える(図22及び図46の給気行程)。
C 液滴放出時刻・到達時刻とクランク角
給気行程の開始時刻と液滴の放出時刻・到達時刻を比較するために、電位測定のグラフとエンジン音の波形のグラフを重ねて図24乃至図26に示す。図の破線は、エンジン音のデータからB(段落0032、段落0033)で説明した手続きで求めた給気行程開始時刻を示す。絶縁状態のインジェクタ電位を示すグラフ図24には、29msから29.5msにかけて垂直な直線群が見られる。これは、液滴の放出を示すインパルスである。エンジンの電位変化を示す図25に見られる複数の垂直な直線群は、液滴の到達終了を示すインパルスである。インジェクタとエンジンを導通した時の電位変化を示す図26に見られる垂直な直線群の間に給気行程の開始時刻が破線で示されている。3つのグラフには、電位のインパルスを示す太い線と、このインパルスがノイズとしてエンジン音の波形に加わっていることを示す細い線の両方が重なっている。液滴の放出の時間差は、インジェクタとエンジンを導通することによって小さくなることが分かる。結果をまとめて図29に示す。参考のためにKTM 390 DUKEの結果も併せて示す。図29には、音の検出の遅延(〜1 ms)を補正した値も記した。表の放出・到達時間は、図39乃至図41のグラフから求めたシリンダに到達する液滴の放出時間幅と到達時間幅である。測定ごとにエンジンの回転数が異なり、時間で単純に比較することはできないので、クランクの角度で比較したものを図27及び図28に示す。図27は、ピストンが上死点にある時刻を給気行程の開始時刻と考えたグラフである。上死点の位置を挟む前後30度の範囲では吸気弁と排気弁がともに開いているとすると、絶縁状態でも導通状態でも燃料液滴の放出開始時には排気弁は閉じられており、放出された燃料液滴がシリンダを素通りして排気されることはない。放出時間の終わるころにピストンの変位速度(風速)がほとんど最大となっている。これより遅くに放出される液滴がシリンダに到達できないのは、途中で風速が小さくなってしまうためと考えられる。図28は、ピストンが上死点よりも30度手前の位置にある時刻を給気行程の開始時刻としたグラフである。絶縁状態と導通状態の燃料液滴の放出は、排気弁が閉じる前に始まっている。導通状態の液滴放出時間の終わる時刻は、ピストンの変位速度(風速)が最大となる時刻のかなり前なので、ほとんどの液滴がシリンダに到達するものと思われる。
吸気弁の開く瞬間のクランク角度GTEが異なる2つの例において、液滴がシリンダに到達できる最後の放出時刻にはピストンの変位は半分変位するよりも前に終了してしまうことは注目に値する。シリンダ内の熱によって空気の体積が膨張するとともにガソリンの一部が気化するために、ピストンが下死点に向かって変位して生じるシリンダ内の圧力の低下が打ち消され、吸気管中の風速が0に近づくためと考えられる。
D まとめ
燃料液滴の気化に必要な時間がこれまで考えられたよりも長いことについては、すでに述べた。気化に必要な時間が長くなるのは、流動帯電によって燃料液滴中に電子が取り込まれるためではないかと考えられる。電子によって燃料分子が誘電分極して分子間力が大きくなり、液滴の凝集力が増加する(J. N. イスラエルアチェビリ、分子間力と表面力 第2版 1996年 朝倉書店)。このため帯電した燃料液滴が気化するためには、電気的に中性な場合に比べてより大きな熱量が必要と考えられる。さらに、燃料液滴が帯電するとシリンダ内壁、ピストン表面およびシリンダヘッド内面との衝突確率が小さくなるので、衝突によって受け取る熱量が減少すると考えられる。帯電した燃料液滴がシリンダ内に進入してその一部が周囲の壁と衝突すると、シリンダ等は電子を受け取るので電位が低下する。このため帯電した燃料液滴はシリンダ内壁やピストン上面からクーロン斥力を受ける。この斥力の大きさが小さいとしても、入射角が十分に大きい場合には燃料液滴はシリンダ内壁やピストン上面と衝突できない(図14参照)。したがって、クーロン斥力が働かない場合に比べて燃料液滴の衝突確率は小さくなり、気化に必要な熱量を得るための時間が長くなる。インジェクタとエンジンを導通した場合にエンジン音のパワーが大きくなるのは、シリンダ内に注入される燃料の量が増加し、シリンダ内で熱量を受け取る時間が長くなるとともに、シリンダ等の内壁の電位の低下が抑えられて衝突確率の減少幅が小さくなり、衝突によって受け取る熱量が絶縁状態よりも多くなるためと考えられる。
直接噴射方式の燃料噴射装置では、噴射された燃料はすべてシリンダ内に取り込まれ外部に逸失することはない。しかし、間接噴射方式の吸気管の気流に比べてシリンダ内の気流はその速度が小さいので、燃料液滴の微小化と気化が進みにくいと考えられる。したがって、直接噴射方式の燃料噴射装置では、噴射時における燃料液滴の微小化がとくに強く求められる。燃料液滴の微小化のためには、高圧ポンプによって燃料液体に大きな圧力を加え小さな径の噴射口から噴射させなければならない。この結果、直接噴射方式では間接噴射方式よりもさらに顕著な流動帯電の効果が現れるであろう。
以上、実施例を参照して本発明の実施の形態を説明した。
本発明は、流動帯電の影響を制御した効率の良い微小液滴噴射装置の提供を目的にするものであるが、流動帯電の影響を制御した微小液滴噴射装置は、請求項1乃至請求項6に記載された発明以外にも、例えば、上記実施例で説明した構成の発明も含まれる。その例としては、噴射口を備え、前記噴射口前方に電極を設け、当該電極に電圧を加えて、負に帯電した液体を電場で加速して前記噴射口から微小液滴を噴出させることを特徴とする微小液滴噴射装置、噴射口を備え、内部に1個乃至複数の電極を設置し、その電位を変えることによって加圧された液体中の電子を振動させて、噴射のタイミングを電位で調節して噴射量を制御することを特徴とする微小液滴噴射装置、噴射口を備え、被噴射体に正電圧を加え、負に帯電した微小液滴に対しクーロン引力を作用させて前記被噴射体との衝突確率を増加させることを特徴とする微小液滴噴射装置及び噴射口を備え、さらに、液体の気化を容易にして被噴射体の熱効率を向上させるために、振動板の振動によって前記液体を加速するアクチュエータと、空気流量、エンジン回転数、冷却水温度、スロットル開口度及び蓄電池電圧などの検出器からの信号を受けるセンサと当該センサからの情報に基づき液体噴出量を制御するコントローラとを備え、直径50μm以下の複数の噴射口から粒径50μm以下の微小燃料液滴を噴出する微小液滴噴射装置等がある。これらの微小液滴噴射装置は、いずれも効率的に微小液滴を噴射することができる。




















前述の通り(段落0004参照)、内燃機関の熱効率は他の熱機関の熱効率と比べて低く改善の余地が大きい。発明者等は、液体が噴射装置から噴射される際に、その通過に伴って、液滴の放出遅れや不十分な放出などが生じることがあり、この原因の一つが、液体が噴射装置から噴射される際に、その通過に伴って、流動帯電が発生し、帯電した液体の液滴と静電気を帯びた噴射口との間にクーロン力が働き、このクーロン力によって液滴の放出遅れや不十分な放出などの不具合が発生する現象であることを解明した。
本発明は、このような事情によりなされたものであって、流動帯電の影響を制御した効率の良い微小液滴噴射装置を提供する。
微小液滴噴射装置を用いた内燃機関において、流動帯電によって生じた異符号の電荷を持つ燃料液体と噴射口の間にクーロン引力が働くと、燃料液滴の放出時刻に遅れが生じ、一部の燃料液滴はシリンダに取り込まれなくなる。また、発明者等が行ったエンジン音測定と動力測定試験の結果は、大きな燃焼割合と大きな出力を実現するためにはシリンダ内の燃料液滴の気化の効率化が重要であることを示している。
発明者等は、これらの知見に基づいて、前記流体噴射装置の一例であり、燃料気化器あるいは間接噴射式および直接噴射式の燃料噴射装置から噴出する燃料液体と液滴に働くクーロン力を制御する燃料噴射装置を開発し、更に、気化し易い微細な燃料液滴を短時間に効率よく噴射し、エンジンの回転数に即応して噴射量を制御する燃料噴射装置を開発した。
本発明の微小液滴噴射装置の一態様は、噴射口の静電容量を大きくして流動帯電による電位上昇を小さくすることを特徴とする(請求項1)。
また、本発明の微小液滴噴射装置の一態様は、請求項1に記載の発明において、前記噴射口が被噴射体と電気的に導通し、その電位上昇と当該被噴射体の電位降下を抑制することを特徴とする(請求項2)。
また、本発明の微小液滴噴射装置の一態様は、請求項1に記載の発明において、前記噴射口の前方に電極を設け、当該電極に電圧を加えて、負に帯電した流体を電場で加速して前記噴射口から液滴を噴出させることを特徴とする(請求項3)。
また、本発明の微小液滴噴射装置の一態様は、請求項1に記載の発明において、内部に1個ないし複数の電極の電極を設置し、その電位を変えることによって加圧された液体中の電子、分極した液体分子を振動させて、噴射のタイミングを電位で調節して噴射量を制御することを特徴とする(請求項4)。また、本発明の微小液滴噴射装置の一態様は、請求項1に記載の発明において、前記被噴射体がシリンダとピストンあるいはシリンダヘッドを備え、当該シリンダと当該ピストンあるいは当該シリンダヘッドに正電圧を加えて負に帯電した液滴に対しクーロン引力を作用させ、前記シリンダ内壁、前記ピストン上面および前記シリンダヘッドとの衝突確率を増加させることを特徴とする(請求項5)。
また、本発明の微小液滴噴射装置の一態様は、請求項1に記載の発明において、振動板の振動によって液体を加速するアクチュエータと、空気流量、エンジン回転数、冷却水温度、スロットル開口度および蓄電池電圧などの検出器からの信号を受けるセンサと、当該センサからの情報に基づいて液滴噴出量を制御するコントローラとを備え、前記噴射口は、直径50μm以下の複数の微細噴射口からなり、当該微細噴射口は、口径が50μm以下の液滴を噴出することを特徴とする(請求項6)。
本発明の微小液滴噴射装置では流動帯電の影響を制御することによって効率の良い微小液滴噴射が得られる。請求項2に記載の微小液滴噴射装置の被噴射体が内燃機関である場合において、その電位上昇と被噴射体である内燃機関の電位降下を抑制することができる。請求項3に記載の微小液滴噴射装置において、微小液滴を電場で加速して遅滞なく効率的に噴射口から噴出させることができる。また、請求項4に記載の微小液滴噴射装置において、内部に1個ないし複数の電極の電極を設置し、その電位を変えることによって加圧された液体中の電子を振動させて、噴射のタイミングを電位で調節して噴射量を制御することができる(請求項4)。帯電した液体と電極との間に働くクーロン力を変化させて、噴射のタイミングを電位で調節して噴射量を制御することができる。請求項5に記載の微小液滴噴射装置において、帯電した微小液滴に対しクーロン引力を作用させて被噴射体との衝突確率を増加させることができる。請求項6に記載の微小液滴噴射装置において、直径50μm以下の複数の噴射口から粒径50μm以下の微小燃料液滴を容易に噴出することができる。
微小液滴噴射装置の噴射口あるいは噴射口の一部に電極を設置し(図5参照)、電位を上げた状態で液体を噴射口まで送り込む。高圧ポンプで液体を吸引するときは、弁Aを開き、弁Bと弁Cを閉じる。液体を噴出口側に送り出す時は、弁Aを閉じ、弁Bと弁Cを開く。液体を噴出させるときに、弁Cは閉じてもよい。流動帯電の効果を考慮すると、弁Cの上流側の流路の径は十分に大きくすることが望ましい。図5にはシリンジ型のポンプを示したが、他の型のポンプを排除するものではない。
内燃機関の燃料液滴噴射装置に「電気振動チョッパー」を使用する場合の例として、2個の電極用いた場合を図31に示す。大きな圧力に耐えるように、電極1および電極2の厚さを十分にとる必要がある。電極1の流路径を例えば100μm、電極2の流路径を50μmとすることによって、2つの流路径をともに50μmとするときよりも小さな圧力で燃料を電極1まで到達させることができる。このとき、電極2を厚くして、機械的強度を大きくしてもよい。直接噴射式燃料噴射装置として使用する場合には、弁Cを閉じた時にできる電極1までの間のスペースを小さくすることが望ましい。電極の電位を変化させるのは、燃料を液滴として断続的に噴出させるためである。図31には、弁Cの開閉と電極1と電極2の電位の変化の例も示した。電極1と電極2の電圧負荷のオン、オフの時間差d1、d2は流路長に合わせて調整することが望ましい。複気筒エンジンの噴射装置に利用する場合には、リザーバの液体に常に圧力を加え、またリザーバに複数の弁Cを設置し、燃料を必要とするシリンダにつながる弁Cだけを開くことにしてもよい。電極につなぐ蓄電池の負極はボディに接続する。実施例2の燃料噴射装置と組み合わせると、電極への負荷電圧を小さくできる。「電気振動チョッパー」を用いた内燃機関の噴射装置の例(図31
)について、大雑把な見積もりを示す。
実施例4では図7及び図8を参照して燃料被噴射体装置を説明する。
この燃料被噴射体装置は、被噴射体の燃焼室がシリンダとピストンあるいはシリンダヘッドを備え、当該シリンダと当該ピストンあるいは当該シリンダヘッドに正電圧を加えて負に帯電した微小液滴に対しクーロン引力を作用させ、前記シリンダ内壁、前記ピストン上面および前記シリンダヘッドとの衝突確率を増加させることを特徴とする(請求項5)。
内燃機関の燃焼室(シリンダやハウジングなど)に正電圧を負荷し、負に帯電した燃料液滴に対しクーロン引力を働かせて燃料液滴と燃焼室内壁との衝突確率を増加させて燃料液滴の気化を促進する。燃焼波面に取り込まれると、燃料液滴は熱を受け取り気化すると考えられる。しかし、燃焼波の速度が大きいので、一部の液滴あるいは液滴の中心部分は燃焼しないまま液滴として残留する。したがって、燃焼室内において燃料液滴が気化に必要な熱(潜熱)を〜0.1ミリ秒から〜数ミリ秒の間に効率的に得ることは、燃焼割合と燃焼のタイミングを決定する重要な因子である。潜熱の熱源は、液滴と空気中の気体分子との衝突、シリンダ内壁、ピストンヘッド表面およびシリンダヘッド表面との衝突によるエネルギー移動とこれら表面からの輻射および圧縮行程における圧縮熱である。これらの中で主要な熱源は、衝突によるエネルギー移動と圧縮熱と考えられる。1気圧での燃料の気化温度は、ガソリンでは30℃から200℃、軽油では200℃から350℃である。圧縮によって気圧が高くなるために、実際の気化温度はこれよりも高いと考えられる。負に帯電した燃料液滴が燃焼室の内壁と衝突すると、電荷が移動して内壁が負に帯電する(図38参照)。この為時間の経過とともにクーロン斥力が増加し、燃料液滴と内壁の衝突確率が小さくなる(図14参照)。燃焼室に正電圧を負荷すると、負に帯電した燃料液滴に対しクーロン引力が働き、燃料液滴と燃焼室内壁との衝突確率が増加すると共に燃料液滴の内壁表面への吸着時間が長くなるので受け取る熱量が増加すると考えられる。
実施例5では図9乃至図12を参照して燃料噴射装置を説明する。
この燃料噴射装置は、振動板の振動によって液体燃料を加速するアクチュエータと、空気流量、エンジン回転数、冷却水温度、スロットル開口度および蓄電池電圧などの検出器からの信号を受けるセンサとセンサからの情報に基づき燃料噴出量を制御するコントローラとを備え、直径50μm以下の多数の噴射口から粒径50 μm以下の微小な燃料液滴を噴出することを特徴としている(請求項6)。この装置によると液体燃料の気化を容易にしてエンジンの熱効率を向上させることが出来る。
液体燃料の燃焼は、気化した燃料分子が空気中の酸素と反応することによって起きる(水谷幸夫、第3版、「燃焼工学」、森北出版、2017年)。ガソリンの気化温度は80℃程度なので、ほとんど液体のままシリンダ内に注入されると考えられる。このため、燃焼室内(シリンダやハウジングなど)における燃料液滴の気化割合の向上は、熱効率を高くするための重要な因子となる。この実施例では、燃料噴射装置の噴射口の径を50μm以下とし、放出される燃料液滴の大きさを直径50μm以下と小さくすることによって燃料液滴が気化し易くする。径の小さな液滴は超過圧のために大きな液滴よりも熱力学的に不安定であり、気化し易くまた酸化反応つまり燃焼が起き易い(ドゥジェンヌ、ブロシャール−ヴィアール、ケレ、第2版「表面張力の物理学」、吉岡書店、2017年)。燃料液滴の体積が小さくなると単位体積当たりの表面積割合(比表面積)が大きくなり、単位体積当たりの気体分子との散乱確率が大きくなる。また、燃料液滴の質量が小さくなるほど、燃料液滴が気体分子との衝突の際に受ける運動量の変化は大きくなり、衝突で受け取る熱エネルギーは大きくなる。したがって液滴の径が小さいほど、単位量の液体を気化させる時間は短くなり、液滴が消滅する時間が短くなる。実験的にも燃料液滴の燃焼速度STは、粒径dmに反比例することが知られており、図49の(11)式に示す経験式が得られている。ここでF/Aは燃空比、u´は混合気の乱れの強さである(水谷幸夫著、「燃焼工学」第3版、森北出版、2017年)。 燃料液滴の径を小さくして質量を小さくすると、電場による帯電液滴の運動の制御も容易となる。
ここで、測定した単気筒450CCの4行程エンジンを回転数6000 rpm、燃料消費量20 リットル/時で作動するとものとし、燃料液滴の噴射条件を液滴の直径50μm、噴射の続く時間1m秒、噴射頻度200 kHzとして燃料噴射口の数nの見積りを行う。見積もりの燃料消費量は、消費量の上限と考えられる。液滴の噴射頻度200 kHzは、インクジェットで達成されている。燃料噴射口の数nは、図49の(12)式に示すように見積もられる。
噴射装置のアクチュエータの駆動は、圧電素子(ピエゾ素子)、超音波振動子あるいは電磁石によって振動板を振動させて行う。圧電素子アクチュエータを持つ集積型燃料噴射装置を図9乃至図12に示す。圧電素子にパルス電圧を加えて変形させて振動板を振動させ、圧力室の容積を変えることによって、燃料噴射装置を構成する噴射セル(図10、図11参照)の噴射口から燃料液滴を噴出させる。噴射セルの噴射口を複数にすることによって、アクチュエータの数を少なくできる(図12参照)。図の噴射セルには噴出口が19個あるので、噴射セルの数は約530個となる。噴出する燃料液滴の量は圧力室の容積の変形量に等しく、圧電素子の振動数はパルス電圧の周波数である。間接噴射式の場合には、集積型燃料噴射装置を吸気管に図10、図11のように設置する。複気筒エンジンに応用する場合は、圧力ポンプとリザーバ1個ですべての噴射セルに燃料を供給するようにしてもよい(図12参照)。これは、集積型の燃料噴射装置であり、請求項1から請求項3、請求項5に記載されたいずれの噴射装置にも適用できる。
B エンジン音測定
エンジンは燃料の燃焼によって発生するエネルギーの一部を音響エネルギーに変換する装置と考えられる。エンジンの回転数を一定とすると、燃焼行程でエネルギーが発生し、行程が進むとともに吸気弁と排気弁が周期的に開閉し、振動管としての構造と気体の流れが変化するので、エンジン音は周期的に変化する。音響エネルギーの大きさが燃料の燃焼によって発生するエネルギーに比例するものとすれば、エンジン音を測定することによって給気、燃焼および排気の状態を評価することが可能である。
単位体積当たりの1周期の音のエネルギー(エネルギー密度)<E>は、図49の(13)式のようにあらわされ、周波数fの2乗と振幅Aの2乗に比例する。ここで、ρは音が伝搬する媒体の密度である。音の強さIは単位時間当たりに単位面積を通って伝搬するエネルギーなので、図49の(14)式となる。ここでνは、媒質中の音の速度である。マイクロフォンで検出するのは音圧Pで、これを電圧信号として出力する。音圧Pと音の強度Iには、図49の(15)式の関係が成り立つ。
測定で得られた波形(電圧信号)x(t)をフーリエ変換すると、フーリエ係数として振幅スペクトルX(f)が求まる(図49の(16)式)。波形x(t)を2乗して積分するとエネルギーが求まり、パーシヴァルの等式(図49の(17)式)から振幅スペクトルの2乗はエネルギーとなる。測定して得られる波形は、離散的な数値列なので、分析区間のN点のサンプルの波形xnに対し離散フーリエ変換を行い、離散フーリエ係数Xkを求める(図49の(18)式)。そして、単位時間のエネルギーであるパワーのスペクトルP(k)は、図49の(19)式のように求まる。

Claims (6)

  1. 液体の噴射装置またはその噴射口の静電容量を大きくして流動帯電による電位上昇を小さくすることを特徴とする微小液滴噴射装置。
  2. 前記噴射口は、被噴射体と電気的に導通し、その電位の上昇と当該被噴射体の電位降下を抑制することを特徴とする請求項1に記載の微小液滴噴射装置。
  3. 前記噴射口前方に電極を設け、当該電極に電圧を加えて、負に帯電した液体を電場で加速して前記噴射口から微小液滴を噴出させることを特徴とする請求項1に記載の微小液滴噴射装置。
  4. 内部に1個乃至複数の電極を設置し、その電位を変えることによって加圧された液体中の電子を振動させて、噴射のタイミングを電位で調節して噴射量を制御することを特徴とする請求項1に記載の微小液滴噴射装置。
  5. 前記被噴射体に正電圧を加え、負に帯電した前記微小液滴に対しクーロン引力を作用させて前記被噴射体との衝突確率を増加させることを特徴とする請求項1に記載の微小液滴噴射装置。
  6. 前記液体の気化を容易にして被噴射体の熱効率を向上させるために、振動板の振動によって前記液体を加速するアクチュエータと、空気流量、エンジン回転数、冷却水温度、スロットル開口度及び蓄電池電圧などの検出器からの信号を受けるセンサと当該センサからの情報に基づき液体噴出量を制御するコントローラとを備え、直径50μm以下の複数の噴射口から粒径50 mm以下の前記微小燃料液滴を噴出する請求項1に記載の微小液滴噴射装置。














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