JP2020106305A - 温度計測装置及びその計測方法 - Google Patents
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Description
通常、光ファイバは、光を伝搬するコアと、その周囲を覆う同心円状のクラッドとからなる誘電体から構成され、クラッドの屈折率をコアの屈折率よりも小さくすることにより、光の全反射現象を利用して光を伝送している。このような光ファイバは、その特性として光学的特性と温度依存性とを備えているため、これらの特性を利用した温度計測装置が種々提案されている。
特許文献1は、温度計測装置ではないが、片持ちタイプの走査光ファイバを光ファイバ自身の共振周波数と実質的に離れた初期周波数から共振周波数に近づくように連続的に振動させて光を照射し、後方散乱光を時系列に集光している。
λ=2n・Λ
尚、λはブラッグ波長(反射光波長)、nはコア51の屈折率、Λは屈折率変調周期(回折格子54の間隔)である。
しかし、FBGセンサは、配置された環境温度に起因する光ファイバ自身の歪を用いて温度を計測していることから、速度を有する空気や水等の流体内に配置された状況において、多点計測性を維持しつつ流体温度を精度良く検出できない虞がある。
風速を段階的に調整可能な送風機と、この送風機の送風口の前に張設されたFBGセンサとによって実験装置を構成し、時間経過に伴って風速を増加させた状態の下、計測値と真値との計測温度差及びFBGセンサの振動周波数を夫々測定した。
図12,図13に検証結果を示す。図12は、経過時間と計測温度差との相関関係を示すグラフ、図13は、風速と光ファイバの振動周波数との相関関係を示すグラフである。
図12に示すように、計測温度差、所謂計測ノイズが極端に増加する領域が特定の経過時間に対応して発生している。また、図13に示すように、FBGセンサの振動周波数は風速に比例する線形傾向であるにも拘らず、振動周波数が一定値に固定される領域が特定の風速に対応して生じている。
図14に示すように、光ファイバが速度を有する流体内に存在するとき、光ファイバは風向きに対して直交方向に上下振動する。これは、光ファイバの上面及び下面から後面にかけて上下交互に発生するカルマン渦に起因するものであり、上下各々の圧力差により光ファイバが上下方向に周期的に振動する。そして、カルマン渦に起因した光ファイバの振動(自励振動)は、光ファイバ自身が本来有する構造上の固有な振動周波数(固有振動数)に近づくと、カルマン渦の発生周波数が光ファイバの固有振動数に強制的に引き寄せられることから(所謂、ロッキング現象)、光ファイバの自励振動がカルマン渦の発生周波数に共鳴し、結果的に、光ファイバの固有振動数とカルマン渦の発生周波数とが合致する周辺の周波数帯域において、光ファイバの自励振動が更に増幅される傾向にある。
しかし、現時点、有効且つ具体的な改善策は、提案されていない。
前記光ファイバの固有振動数が、前記感温部から発生するカルマン渦の周波数帯域から外れる振動数に設定されているため、計測環境下において、カルマン渦の発生周波数に相当する周波数帯域が光ファイバの固有振動数に引き寄せられるロッキング現象を強制的且つ構造的に回避することができ、光ファイバとカルマン渦との共鳴振動に起因した光ファイバの歪の発生を抑制することができる。
この構成によれば、保護被膜に相当する金属被膜を用いて光ファイバの伸縮を抑制しつつ、光ファイバの固有振動数を調整することができる。
この構成によれば、計測精度と計測応答性とを両立することができる。
この構成によれば、感温部の金属被膜を薄くすることにより、計測応答性を高めつつ、固有振動数の調整幅を大きくすることができる。しかも、被支持部の被膜を厚くすることにより、光ファイバの支持剛性を確保することができる。
この構成によれば、簡単な構成で固有振動数の調整幅を大きくすることができる。
この構成によれば、簡単な構成で車両のエンジンルーム内温度を精度良く計測することができる。
前記光ファイバの固有振動数が前記感温部を流体内に配置したときのカルマン渦の周波数帯域に含まれる場合、前記光ファイバの固有振動数を、前記感温部から発生するカルマン渦の周波数帯域から予め外れる振動数に設定する振動数設定ステップを有しているため、計測環境下において、カルマン渦の周波数帯域が光ファイバの固有振動数に引き寄せられるロッキング現象を強制的且つ構造的に回避することができ、光ファイバとカルマン渦との共鳴振動に起因した光ファイバの歪の発生を抑制することができる。
本実施例1に係る温度計測装置1は、光ファイバの温度依存性を利用したFBG(Fiber Bragg Grating)センサを前提とした温度計測装置である。
図1に示すように、本実施例1の温度計測装置1は、光ファイバ10と、光源2と、サーキュレータ3と、処理手段4等を主な構成要素としている。
説明の便宜上、単一の光ファイバ10を示しているが、光ファイバ10は1本でも良く、計測環境に合わせて複数本であっても良い。
尚、以下、温度計測装置1の説明は、温度計測方法の説明を含むものである。
コア11とクラッド12は、透明な誘電体(ガラス等)から構成され、例えば、直径が125μmに設定されている。
感温部10aは、計測対象領域である流体(空間)内に流体の進行方向に対して交差角(例えば、90°)を有するように配置されている。1対の被支持部10bは、感温部10aを非接触状態で張設するため、固定部材に支持されている。
本実施例では、後述する張力付与手段5を介して1対の被支持部10bを固定部材に支持している。
回折格子13の間隔をΛ、コア11の屈折率をnとしたとき、回折格子13からの反射光の波長(ブラッグ波長)λは、次式(1)で表すことができる。
λ=2n・Λ …(1)
波長λに対応する回折格子13部分が流体温度を計測するセンサ部に相当し、回折格子13の間隔Λが異なるセンサ部を単一の感温部10aに対して複数個所形成することが可能である。
取付被膜15は、被支持部10bに対応したクラッド12表面を一定の膜厚になるように被覆している。本実施例では、取付被膜15は金属被膜14とは異なる材質で同じ膜厚になるように設定されている。
処理手段4は、回折格子13(センサ部)から反射された反射光を入力し、入力した反射光のブラッグ波長λと温度特性係数kとに基づいて回折格子13に対応した位置の温度を演算している。基準温度Ta℃のときのブラッグ波長をλa、基準温度よりも温度Tb℃高いときのブラッグ波長をλbとしたとき、以下の式(2)が成り立っている。
Tb−Ta=(λb−λa)/k …(2)
温度特性係数kは、例えば、10pm/℃を用いている。
温度計測装置1では、計測環境下において、光ファイバ10の固有振動数fiがカルマン渦の周波数帯域Aに含まれる場合、固有振動数fiを周波数帯域Aから外すため、計測実行前に、固有振動数変更処理を実行している。
光ファイバ10の固有振動数fiは、次式(3)で表すことができる。
尚、基本光ファイバは、金属被膜14及び取付被膜15が省略されている。
カルマン渦の発生周波数は、その物性として、流速に比例して線形特性を示すため、カルマン渦の発生周波数と基本光ファイバの固有振動数fiは、風速約11m/sで略一致する。そして、風速11m/sの周辺領域、具体的には、風速約9m/sから12m/sの領域では、カルマン渦の発生周波数が基本光ファイバの固有振動数に強制的に引き寄せられるロッキング現象が生じ、基本光ファイバの自励振動がカルマン渦の発生周波数に共鳴振動する。それ故、風速約9m/sから12m/sの領域、つまり、周波数72Hzを含む約60Hzから80Hzの周波数帯域Aから光ファイバの固有振動数fiを強制的に外し、周波数帯域A内におけるロッキング現象の発生を回避している。
膜厚設定処理では、クラッド12の外周に膜厚10μmのニッケル金属被膜14を設けている。
これにより、式(3)のヤング率Eを92.2Gpa増加することができ、光ファイバ10の固有振動数fiを周波数帯域Aから強制的に外している。図3の表に示すように、ニッケル金属被膜14の膜厚を厚くすることにより、ヤング率Eを増加することができるため、周波数帯域Aに応じて、適宜、金属被膜14膜厚を設定している。
また、金属被膜14の材質は、銅、金等、計測環境に応じて任意に選択可能であり、何れの場合であっても、膜厚を増加することにより、ヤング率Eを増加することができる。
これにより、式(3)の張力Tを増加することができ、光ファイバ10の固有振動数fiを周波数帯域Aから外している。張力付与手段5は、例えば、テープ等の貼着手段を用いることが可能である。張力付与手段5を用いて感温部10aに所定張力Tを付与した状態で、被支持部10bを固定部材に支持している。
金属被膜14の膜厚が所定厚さよりも厚くなる場合、計測応答性に支障が生じる虞がある。それ故、光ファイバ10の固有振動数fiを周波数帯域Aから外すに当り、金属被膜14の膜厚が所定厚さよりも厚くなる場合には、金属被膜14の膜厚を所定厚さに制限し、追加的に張力付与手段5を用いて感温部10aの張力Tを増加する。
また、空間的許容範囲に基づき膜厚が制限される場合も、同様である。
本実施例では、風洞実験等の車両走行状態におけるエンジンルームの下端部、具体的には、オイルパンとアンダーカバーとの間の雰囲気温度を検出している。
図4〜図6に示すように、車両Vのエンジンルームには、横置きエンジン21と、このエンジン21の左側に隣接配置された変速機22と、フロントサスペンション(図示略)を支持すると共に前端部に左右1対の突出部を有するサスペンションクロスメンバ23と、このサスペンションクロスメンバ23の左右1対の突出部から前方に夫々延びると共にエンジン21の下部を支持する左右1対のエンジンサポートメンバ24(フレーム)と、エンジンルームの底部を覆うアンダーカバー(図示略)等を備えている。
尚、図中、矢印F方向は、車体前後方向前方、矢印L方向は、車幅方向左方、矢印U方向は、車体上下方向上方を夫々示している。
オイルパンとアンダーカバーとの間隔(例えば、17.5mm)に対して光ファイバ10の直径(145μm)であるため、流れ場に対して殆ど影響を与えない。
尚、光ファイバ10の直径が1mm(空間の間隔に対して約5%の占有率)であれば、空間的許容範囲であるため、エンジンカバーとボンネットとの間隔(約27mm)、エギマニインシュレータとパネルインシュレータとの間隔(約23.3mm)、キャタリストとトンネルインシュレータとの間隔(約25.1mm)等にも適用可能である(何れも図示略)。
S2では、光ファイバ10の固有振動数fiを式(3)を用いて演算した後、S3に移行する。S3では、カルマン渦の発生周波数に相当する周波数帯域Aを演算した後、S4に移行する。
S4の判定の結果、固有振動数fiが周波数帯域Aから外れている場合、光ファイバ10を温度計測対象である流体の計測位置に配置する(S5)。
S5の後、温度計測装置1による多点温度計測を実行し(S6)、終了する。
S4の判定の結果、固有振動数fiが周波数帯域Aから外れていない場合、光ファイバ10に対して固有振動数変更処理を実行し(S7)、S2にリターンする。
S7(振動数設定ステップ)の固有振動数変更処理では、まず、膜厚設定処理が実行され、金属被膜14の膜厚が所定厚みを超える場合、張力設定処理を実行している。
作用、効果の説明にあたり、実施例1の温度計測装置1を用いた温度計測実験装置を作成し、検証実験を行った。この検証実験では、風速を段階的に調整可能な送風機と、この送風機の送風口の前に張設された光ファイバ10とによって実験装置を構成し、時間経過に伴って風速を増加させた状態の下、計測値と真値との計測温度差及び光ファイバ10の振動周波数を夫々測定した。
図8は、経過時間と計測温度差との相関関係を示すグラフ、図9は、風速と光ファイバの振動周波数との相関関係を示すグラフである。
図8に示すように、従来のFBGセンサ(図12参照)に比べて、計測ノイズに起因した計測温度差が解消している。また、図9に示すように、カルマン渦の周波数帯域Aにおけるロッキング現象が解消され、光ファイバ10の振動周波数が、風速に拘らず、線形特性を有している。
光ファイバ10の固有振動数fiが、感温部10aから発生するカルマン渦の周波数帯域Aから外れる振動数に設定されているため、計測環境下において、カルマン渦の発生周波数に相当する周波数帯域Aが光ファイバ10の固有振動数fiに引き寄せられるロッキング現象を強制的且つ構造的に回避することができ、光ファイバ10とカルマン渦との共鳴振動に起因した光ファイバ10の歪の発生を抑制することができる。
光ファイバ10の固有振動数fiが感温部10aを流体内に配置したときのカルマン渦の周波数帯域Aに含まれる場合、光ファイバ10の固有振動数fiを、感温部10aから発生するカルマン渦の周波数帯域Aから予め外れる振動数に設定する振動数設定ステップを有しているため、計測環境下において、カルマン渦の周波数帯域Aが光ファイバ10の固有振動数fiに引き寄せられるロッキング現象を強制的且つ構造的に回避することができ、光ファイバ10とカルマン渦との共鳴振動に起因した光ファイバ10の歪の発生を抑制することができる。
尚、実施例1と同様の部材には、同じ符号を付している。
実施例1では、金属被膜14及び取付被膜15が同じ膜厚であったのに対し、実施例2では、金属被膜14及び取付被膜15Aが異なる膜厚とされている。
取付被膜15Aは、金属被膜14の膜厚よりも大きく形成され、被支持部10bに対応したクラッド12表面を端部側程厚くなるように被覆されている。
本実施例では、取付被膜15Aは金属被膜14と同じ材質で形成している。
1〕前記実施例においては、コア及びクラッドの外周に金属被膜及び取付被膜を直接被覆した例を説明したが、少なくとも金属被膜によって光ファイバの固有振動数を変更できれば良く、コア及びクラッドの外周を紫外線硬化樹脂等の保護被膜で被覆された光ファイバを金属被膜によって被覆し、固有振動数を変更しても良い。また、保護被膜が単一層でなく、1次被膜及び2次被膜等複数層の被膜を用いて被覆することも可能である。
また、光ファイバは単一でも良く、また、複数本併用しても良い。
尚、レイノルズ数が約80〜約300の範囲で完全なカルマン渦、300〜3×105の範囲で略周期的なカルマン渦、3×106よりも大きい範囲で周期的なカルマン渦が発生することから、上記レイノルズ数を満足する流体空間に適用することが好ましい。
2 光源
4 処理手段
5 張力付与手段
10,10A 光ファイバ
10a 感温部
10b 被支持部
11 コア
12 クラッド
14 金属被膜
15,15A 取付被膜
24 エンジンサポートメンバ
V 車両
Claims (7)
- 軸方向に延びる感温部とこの感温部の両端部に形成された被支持部を有する光ファイバと、この光ファイバに光を出力する光源と、前記感温部で発生した反射光を処理する処理手段とを備え、流体温度を計測可能な温度計測装置において、
前記感温部が、速度を有する流体内に配置されると共に、
前記光ファイバの固有振動数が、前記感温部から発生するカルマン渦の周波数帯域から外れる振動数に設定されたことを特徴とする温度計測装置。 - 前記光ファイバは、前記感温部の表面に前記光ファイバの固有振動数を変更するための金属被膜を有し、
前記金属被膜の膜厚が、前記カルマン渦の周波数帯域に関連付けて設定されることを特徴とする請求項1に記載の温度計測装置。 - 前記光ファイバは、コアと、前記コアを被覆するクラッドとを有し、
前記金属被膜の膜厚が、前記光ファイバの直径よりも小さく形成されたことを特徴とする請求項2に記載の温度計測装置。 - 前記被支持部の表面を覆う被膜を設け、
前記被膜の膜厚が、前記金属被膜の膜厚よりも大きく形成されたことを特徴とする請求項2又は3に記載の温度計測装置。 - 前記光ファイバの前記処理手段と反対側端部に前記光ファイバの張力を調整可能な張力付与手段を設け、
前記張力付与手段が、前記光ファイバの固有振動数を前記カルマン渦の周波数帯域から外すことができる張力を前記光ファイバに付与することを特徴とする請求項1に記載の温度計測装置。 - 前記感温部が、複数位置の温度を検知可能に形成されると共に車両のエンジンルーム内を車体前後方向に延びる1対のフレーム間に配置され、
前記張力付与手段が、前記1対のフレームの何れか一方に配設されたことを特徴とする請求項5に記載の温度計測装置。 - 軸方向に延びる感温部とこの感温部の両端部に形成された被支持部を有する光ファイバと、この光ファイバに光を出力する光源と、前記感温部で発生した反射光を処理する処理手段とを用いて流体温度を計測可能な温度計測方法において、
流体内に配置された前記光ファイバから発生するカルマン渦の周波数帯域を流体の速度に基づき演算する周波数演算ステップと、
次に、前記光ファイバの固有振動数が前記感温部を流体内に配置したときのカルマン渦の周波数帯域に含まれる場合、前記光ファイバの固有振動数を、前記感温部から発生するカルマン渦の周波数帯域から予め外れる振動数に設定する振動数設定ステップと、
を有することを特徴とする温度計測方法。
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2018
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