<本発明の概要>
本発明者らは、(A)インクとして分散安定性が高く、(B)長期安定性に優れ、(C)基板との密着性が高く、(D)抵抗が低い導電膜を形成できることを実現すべく鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明に係る錫又は酸化錫インクの一態様は、錫又は酸化錫と、分散剤と、還元剤と、分散媒とを含む。
この構成により、インクとして錫又は酸化錫の分散安定性が向上するとともに、長期安定性が向上する。また、還元剤が含まれることにより、焼結時に錫の表面酸化膜又は酸化錫の還元が行われ、抵抗が低くなる効果が得られる。また、プラズマ、光及び熱を用いて焼成処理を行うことができるため、錫又は酸化錫の有機物が分解され、焼成が促進されることで、抵抗が低い導電膜を形成できる。
本発明に係る錫又は酸化錫インクの一態様において、前記分散剤が、酸性吸着基を持つことが好ましい。この構成により、錫又は酸化錫の分散安定性が効果的に向上するとともに、長期安定性が向上し、塗膜を安定的に形成できるようになる。
本発明に係る錫又は酸化錫インクの一態様において、分散剤の酸価が、20以上、130以下である。これにより、錫又は酸化錫インクの分散安定性をさらに向上させることができる。
本発明に係る錫又は酸化錫インクの一態様において、錫又は酸化錫インク全体に対し、錫又は酸化錫の含有量が、3質量%(wt%)以上、45質量%以下であり、前記分散剤の含有量が、0.3質量%以上、13質量%以下であり、前記還元剤の含有量が、0.01質量%以上、3質量%以下であり、かつ、前記分散媒の含有量が、20質量%以上、90質量%以下である。インクに含まれる錫又は酸化錫、分散剤、還元剤、分散媒の割合をこの範囲にすることにより、基板と錫又は酸化錫の密着性が向上する。
本発明に係る錫又は酸化錫インクの一態様において、還元剤が、ヒドラジン、ヒドラジン水和物、ヒドラジン誘導体、ナトリウム、カーボン、ヨウ化カリウム、シュウ酸、硫化鉄(II)、チオ硫酸ナトリウム、アスコルビン酸、塩化スズ(II)、水素化ジイソブチルアルミニウム、蟻酸、水素化ホウ酸ナトリウム及び亜硫酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1つを含むことが好ましい。この構成により、錫又は酸化錫の分散安定性が向上するとともに、導電膜の抵抗が低下する。
本発明に係る錫又は酸化錫インクの一態様において、還元剤が、ヒドラジン又はヒドラジン水和物であることが好ましい。この構成により、錫又は酸化錫の分散安定性がより向上するとともに、焼成において錫の表面酸化膜又は酸化錫の還元に寄与し、導電膜の抵抗がより低下する。
本発明に係る錫又は酸化錫インクの一態様において、炭素の重量に対する前記錫又は酸化錫の重量の比が、2以上、200以下であることが好ましい。この構成により、インクと基板との密着性が向上する。
本発明に係る錫又は酸化錫インクの一態様において、錫又は酸化錫の平均粒子径が、3.0nm以上、300nm以下であることが望ましい。この構成により、錫又は酸化錫の分散安定性がより向上する。
本発明に係る塗膜を含む製品の一態様は、錫又は酸化錫と、分散剤と、還元剤とを含む。
この構成により、錫又は酸化錫の分散安定性が向上するとともに、長期安定性が向上する。また、還元剤が含まれることにより、焼結時に錫又は酸化錫の還元が行われ、抵抗が低くなる効果が得られる。また、プラズマ、光及び熱を用いて焼成処理を行うことができるため、錫又は酸化錫中の有機物が分解され、焼成が促進されることで、抵抗が低い導電膜を形成できる。
また、本発明に係る塗膜を含む製品の一態様において、塗膜中の炭素の重量に対する錫又は酸化錫の重量の比が2以上、200以下である。この構成により、インクと基板との密着性が向上する。
本発明に係る塗膜を含む製品の一態様において、分散剤が、酸性吸着基を持つことが好ましい。この構成により、錫又は酸化錫の分散安定性が向上するとともに、長期安定性が向上し、塗膜を安定的に形成できるようになる。
本発明に係る塗膜を含む製品の一態様において、分散剤の酸価が、20以上、130以下であることが好ましい。これにより、錫又は酸化錫の分散安定性をさらに向上させ、塗膜を安定的に形成できるようになる。
本発明に係る塗膜を含む製品の一態様において、還元剤が、ヒドラジン、ヒドラジン水和物、ヒドラジン誘導体、ナトリウム、カーボン、ヨウ化カリウム、シュウ酸、硫化鉄(II)、チオ硫酸ナトリウム、アスコルビン酸、塩化スズ(II)、水素化ジイソブチルアルミニウム、蟻酸、水素化ホウ酸ナトリウム及び亜硫酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1つを含むことが好ましい。この構成により、錫又は酸化錫酸化物の分散安定性が向上し、塗膜を安定的に形成できるようになる。
本発明に係る塗膜を含む製品の一態様において、還元剤が、ヒドラジン又はヒドラジン水和物であることが好ましい。この構成により、錫又は酸化錫の分散安定性がより向上し、塗膜を安定的に形成できるとともに、焼成において酸化物の還元に寄与し、製品を用いて得られる導電膜の抵抗がより低下する。
本発明に係る塗膜を含む製品の一態様において、錫又は酸化錫の平均粒子径が、3.0nm以上、300nm以下であることが望ましい。この構成により、錫又は酸化錫の分散安定性がより向上し、塗膜を安定的に形成できるようになる。
本発明に係る導電性基板の製造方法の一態様は、上述の錫又は酸化錫インクを基板上に塗布し、塗膜を得る工程と、塗膜を、プラズマ焼成、レーザ照射、キセノン光照射、又は不活性ガス中での150℃以上での加熱のいずれか一つにより焼成し、導電性パターンを得る工程と、を具備する。
本発明に係る導電性基板の製造方法の一態様において、前記導電性パターンを得る工程において、前記導電性パターンを、銅、銀又はアルミニウムの上に配置することが好ましい。
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施の形態」という。)を例示する目的で詳細に説明するが、本発明は本実施の形態に限定されるものではない。
<本実施の形態の錫又は酸化錫インクの概要>
本実施の形態における錫又は酸化錫インクでは、ナノ粒子の凝集を防止すべく、分散剤を含ませている。さらに、本実施の形態では、還元剤も微量に含む。還元剤を含むことで、焼成の際、錫の表面酸化膜又は酸化錫の錫への還元を促進させることができる。
以下、本実施の形態の錫又は酸化錫インクについて具体的に説明する。図1は、本実施の形態に係る錫又は酸化錫とリン酸エステル塩との関係を示す模式図である。図2は、本実施の形態に係る導電性基板を示す断面模式図である。
<錫又は酸化錫酸化物インク>
本実施の形態の錫又は酸化錫インクは、(1)錫又は酸化錫と、(2)分散剤と、(3)還元剤と、(4)分散媒と、を含むことを特徴とする。錫又は酸化錫インクに還元剤が含まれることにより、焼成において酸化錫の錫への還元が促進され、錫の焼結が促進される。
「錫又は酸化錫インク」とは、分散媒中に、錫又は酸化錫インクが分散した状態のインクやペーストである。また、錫又は酸化錫インクは、分散体と称することもできる。
「還元剤」は、錫又は酸化錫インクに対する還元作用を有するものであり、自然酸化膜及び金酸化物の金属への還元を促進する。還元剤は、分散剤及び分散媒よりも還元作用が強い物質として選択される。
「分散媒」は、溶媒として機能する。「分散媒」は、物質によっては、分散剤、還元剤及び分散媒のうち2以上に該当し、又は、いずれに該当する場合であっても、本実施の形態においては、分散媒と定義される。
「分散剤」は、錫又は酸化錫同士が互いに凝集しないように分散媒中に分散させることに寄与する。
本実施の形態に係る錫又は酸化錫インクにおいて、炭素の重量に対する前記錫又は酸化錫の重量の比が、2以上、200以下であることが好ましい。この構成により、インクと基板との密着性が向上する。
また、本実施の形態に係る錫又は酸化錫インクにおいて、分散剤は、酸性吸着基を持つ。この構成により、錫又は酸化錫の分散安定性が効果的に向上する。
また、本実施の形態に係る錫又は酸化錫インクにおいて、分散剤の酸価は、20以上、130以下である。これにより、分散安定性が効果的に向上する。
ここで酸性吸着基とは、粒子との相互作用によって粒子表面に吸着する部分のことであり、例えばカルボン酸、リン酸、カルボン酸塩、リン酸塩などが挙げられる。
分散剤の酸価は、より好ましくは、25以上、120以下であり、さらに好ましくは、36以上、110以下であり、さらにより好ましくは、36以上、101以下である。
このように分散剤の酸化の範囲を限定することで、分散安定性が効果的に向上する。また、プラズマや光、レーザ光を用いて焼成処理を行うことができるため、金属酸化物中の有機物が分解され、金属の焼成が促進され、抵抗の低い導電膜を形成できる。このため、電気を流す配線や、放熱、電磁波シールド、回路など様々な配線を提供できる。
また、本実施の形態に係る錫又は酸化錫インクにおいて、還元剤は、ヒドラジン、ヒドラジン水和物、ヒドラジン誘導体、ナトリウム、カーボン、ヨウ化カリウム、シュウ酸、硫化鉄(II)、チオ硫酸ナトリウム、アスコルビン酸、塩化スズ(II)、水素化ジイソブチルアルミニウム、蟻酸、水素化ホウ酸ナトリウム及び亜硫酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1つを含むことが好ましい。これにより、錫又は酸化錫の分散安定性が向上するとともに、導電膜の抵抗が低下する。
また、本実施の形態に係る錫又は酸化錫インクにおいて、還元剤は、ヒドラジン又はヒドラジン水和物であることが特に好ましい。錫又は酸化錫インクの還元剤としてヒドラジン又はヒドラジン水和物を用いることにより、錫又は酸化錫の分散安定性がより向上するとともに、焼成において錫の表面酸化膜又は酸化錫の還元に寄与し、導電膜の抵抗がより低下する。
また、本実施の形態に係る錫又は酸化錫インクにおいて、錫又は酸化錫粒子の平均粒子径の好ましい範囲は、3.0nm以上、300nm以下、より好ましくは5.0nm以上、250nm以下、さらに好ましくは10nm以上、200nm以下である。平均粒子径が300nm以下の場合、低温焼成が可能となり、基板の汎用性が広がる。また、基板上に微細パターンを形成し易い傾向があるので好ましい。また、3.0nm以上であると、錫又は酸化錫インクに用いられた際に分散安定性がよく、錫又は酸化錫インクの長期安定性が向上するので好ましい。また、均一な薄膜を作製できる。
ここで平均粒子径とは、錫又は酸化錫インク中での分散時の粒子径であり、大塚電子製FPAR−1000を用いてキュムラント法によって測定した値である。つまり1次粒子径とは限らず、2次粒子径であってもよい。
次に、錫又は酸化錫インクにおける錫又は酸化錫と分散剤の状態について、図1を用いて説明する。図1に示すように、錫又は酸化錫インク1において、錫又は酸化錫の一例である錫又は酸化錫2の周囲には、分散剤としての例えばリン含有有機物の一例であるリン酸エステル塩3が、リン3aを内側に、エステル塩3bを外側にそれぞれ向けて取り囲んでいる。リン酸エステル塩3は電気絶縁性を示すため、隣接する錫又は酸化錫2との間の電気的導通は妨げられる。また、リン酸エステル塩3は、立体障害効果により錫又は酸化錫インク1の凝集を抑制する。
したがって、錫又は酸化錫2は半導体であり導電性であるが、電気絶縁性を示すリン酸エステル塩3で覆われているので、錫又は酸化錫インク1は電気絶縁性を示し、断面視(図2中に示す上下方向に沿った断面)で、錫又は酸化錫インク1の両側に隣接する導電性パターン領域(後述)の間の絶縁を確保することができる。
一方、導電性パターン領域は、錫又は酸化錫及びリン含有有機物を含む塗布層の一部の領域に光照射し、当該一部の領域において、酸化錫を錫に還元する。このように酸化錫が還元された錫を還元錫という。また、当該一部の領域において、リン含有有機物は、リン酸化物に変性する。リン酸化物では、上述のエステル塩3b(図1参照)のような有機物は、レーザなどの熱によって分解し、電気絶縁性を示さないようになる。
また、図1に示すように、錫又は酸化錫2が用いられている場合、レーザなどの熱によって、錫の表面酸化膜又は酸化錫が錫に変化すると共に焼結し、隣接する錫又は酸化錫2同士が一体化する。これによって、優れた電気導電性を有する領域(以下、「導電性パターン領域」という)を形成することができる。
導電性パターン領域において、錫の中にリン元素が残存している。リン元素は、リン元素単体、リン酸化物及びリン含有有機物のうち少なくとも1つとして存在している。このように残存するリン元素は導電性パターン領域中に偏析して存在しており、導電性パターン領域の抵抗が大きくなる恐れはない。
[(1)錫又は酸化錫]
錫又は酸化錫の平均粒子径の好ましい範囲は、好ましくは、3.0nm以上、300nm以下、より好ましくは5.0nm以上、250nm以下、さらに好ましくは10nm以上、200nm以下である。平均粒子径が300nm以下の場合、低温焼成が可能となり、基板の汎用性が広がる。また、基板上に微細パターンを形成し易い傾向があるので好ましい。また、3.0nm以上であると、錫又は酸化錫インクに用いられた際に分散安定性がよく、錫又は酸化錫インクの長期安定性が向上し、また、均一な薄膜を作製できるので好ましい。
ここで平均粒子径とは、錫又は酸化錫インク中での分散時の粒子径であり、大塚電子製FPAR−1000を用いてキュムラント法によって測定した値である。つまり1次粒子径とは限らず、2次粒子径であってもよい。
また、平均粒子径分布において、多分散度が0.10以上0.40以下の範囲がよく、より好ましくは0.20以上0.30以下がよい。この範囲であれば、成膜性がよく、分散安定性も高い。
錫又は酸化錫に関しては、市販品を用いてもよいし、合成して用いてもよい。市販品として、例えば、SigmaAldrich社製の粒子径<100nmの酸化錫粒子がある。錫又は酸化錫の合成方法としては、錫塩溶液に還元剤を反応させて錫又は酸化錫粒子を得る方法が好ましい。この方法で製造した錫粒子は大気中で酸化され、酸化錫の被膜を持つことがある。この反応において、温度と時間を制御することで、錫又は酸化錫インク中の還元剤の含有量を制御することができ、錫又は酸化錫インクの長期安定性をより良くすることが可能となる。
合成終了後、合成溶液と錫又は酸化錫の分離を行うが、遠心分離などの既知の方法を用いればよい。また、得られた錫又は酸化錫を後述の分散剤、分散媒を加えホモジナイザーなど既知の方法で攪拌し分散する。特に、窒素雰囲気などの不活性雰囲気下で分散を行うことにより、得られた錫又は酸化錫に含まれるヒドラジンなどの還元剤の、酸素や水分などによる分解を防ぐことができる。このようにして得られた錫又は酸化錫を有する分散体は、後述の方法で金属粒子などと混合してもよく、本実施の形態の錫又は酸化錫インクとすることができる。この錫又は酸化錫インクが印刷、塗布に用いられる。
[(2)分散剤]
次に分散剤について説明する。分散剤としては、例えば、リン含有有機物が挙げられる。リン含有有機物は、金属粒子に吸着してもよく、この場合、立体障害効果により凝集を抑制する。また、リン含有有機物は、絶縁領域において電気絶縁性を示す材料である。リン含有有機物は、単一分子であってよいし、複数種類の分子の混合物でもよい。
分散剤の数平均分子量は、特に制限はないが、例えば、300〜30000であることが好ましい。300以上であると、絶縁性に優れ、得られる錫又は酸化錫インクの分散安定性が増す傾向があり、30000以下であると、焼成しやすい。また、構造としては錫又は酸化錫に親和性のある基を有する高分子量共重合物のリン酸エステルが好ましい。例えば、化学式(1)の構造は、錫又は酸化錫と吸着し、また基板への密着性にも優れるため、好ましい。
化学式(1)中、lは1〜20の整数、好ましくは1〜15の整数、より好ましくは1〜10の整数であり、mは1〜20の整数、好ましくは1〜15の整数、より好ましくは1〜10の整数であり、nは1〜20の整数、好ましくは1〜15の整数、より好ましくは1〜10の整数である。この範囲とすることで、酸化銅の分散性を高めつつ、さらに分散媒に分散剤が可溶となる。
リン含有有機物は、光や熱によって分解又は蒸発しやすいことが好ましい。光や熱によって、分解又は蒸発しやすい有機物を用いることによって、焼成後に有機物の残渣が残りにくくなり、抵抗率の低い導電性パターンを得ることができる。
リン含有有機物の分解温度は、限定されないが、600℃以下であることが好ましく、400℃以下であることがより好ましく、200℃以下であることがさらに好ましい。リン含有有機物の沸点は、限定されないが、300℃以下であることが好ましく、200℃以下であることがより好ましく、150℃以下であることがさらに好ましい。
リン含有有機物の吸収特性は、限定されないが、焼成に用いる光を吸収できることが好ましい。例えば、焼成のため光照射処理(例えばレーザ光での光照射処理)を行う場合は、その発光波長の、例えば355nm、405nm、445nm、450nm、532nm、1056nmなどの光を吸収するリン含有有機物を用いることが好ましい。基板が樹脂の場合、特に好ましくは、355nm、405nm、445nm、450nmの波長である。
分散剤としては、公知のものを用いることができ、例えば、長鎖ポリアミノアマイドと極性酸エステルの塩、不飽和ポリカルボン酸ポリアミノアマイド、ポリアミノアマイドのポリカルボン酸塩、長鎖ポリアミノアマイドと酸ポリマーの塩などの塩基性基を有する高分子が挙げられる。また、アクリル系ポリマー、アクリル系共重合物、変性ポリエステル酸、ポリエーテルエステル酸、ポリエーテル系カルボン酸、ポリカルボン酸などの高分子のアルキルアンモニウム塩、アミン塩、アミドアミン塩などが挙げられる。このような分散剤としては、市販されているものを使用することもできる。
上記市販品としては、例えば、DISPERBYK(登録商標)―101、DISPERBYK―102、DISPERBYK−110、DISPERBYK―111、DISPERBYK―112、DISPERBYK−118、DISPERBYK―130、DISPERBYK―140、DISPERBYK−142、DISPERBYK―145、DISPERBYK―180、DISPERBYK―2096、DISPERBYK―9076、DISPERBYK―9077、TERRA−204、TERRA−U(以上ビックケミー社製)、フローレンDOPA−15B、フローレンDOPA−15BHFS、フローレンDOPA−22、フローレンDOPA−33、フローレンDOPA−44、フローレンDOPA−17HF、フローレンTG−662C、フローレンKTG−2400(以上共栄社化学社製)、ED−117、ED−118、ED−212、ED−213、ED−214、ED−216、ED−350、ED−360(以上楠本化成社製)、プライサーフ(登録商標)M208F、プライサーフDBS(以上第一工業製薬製)などを挙げることができる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
分散剤の必要量は、錫又は酸化錫の量に比例し、要求される分散安定性を考慮し調整する。本実施形態の錫又は酸化錫インクに含まれる分散剤の質量比率(分散剤質量/錫又は酸化錫質量)は、好ましくは0.0050以上0.30以下であり、より好ましくは0.050以上0.25以下であり、さらにより好ましくは0.10以上0.23以下である。分散剤の量は分散安定性に影響し、量が少ないと凝集しやすく、多いと分散安定性が向上する傾向がある。但し、本実施の形態の錫又は酸化錫インクにおける分散剤の含有率を35質量%以下にすると、焼成して得られる導電膜において分散剤由来の残渣の影響を抑え、導電性を向上できる。
本実施の形態の錫又は酸化錫インクに含まれる分散剤の酸価(mgKOH/g)は20以上、130以下である。より好ましくは25以上120以下であり、さらに好ましくは36以上110以下、さらにより好ましくは36以上101以下である。この範囲に入ると分散安定性に優れるため好ましい。特に平均粒子径が小さい錫又は酸化錫の場合に有効である。具体的には、ビックケミ―社製「s―102」(酸価101)、「DISPERBYK−140」(酸価73)、「DISPERBYK−142」(酸価46)、「DISPERBYK−145」(酸価76)、「DISPERBYK−118」(酸価36)、「DISPERBYK−180」(酸価94)などが挙げられる。
[(3)還元剤]
次に還元剤について説明する。還元剤としては、ヒドラジン、ヒドラジン水和物、ヒドラジン誘導体、ナトリウム、カーボン、ヨウ化カリウム、シュウ酸、硫化鉄(II)、チオ硫酸ナトリウム、アスコルビン酸、塩化スズ(II)、水素化ジイソブチルアルミニウム、蟻酸、水素化ホウ酸ナトリウム、亜硫酸塩などが挙げられる。焼成において、錫の表面酸化膜又は酸化錫還元に寄与し、より抵抗の低い錫膜を作製することができる観点から、還元剤は、ヒドラジン又はヒドラジン水和物が最も好ましい。また、ヒドラジン又はヒドラジン水和物を用いることにより、錫又は酸化錫インクの分散安定性を維持でき、錫膜の抵抗を低くできる。
還元剤の必要量は錫又は酸化錫の量に比例し、要求される還元性を考慮し調整する。本実施の形態の錫又は酸化錫インクに含まれる還元剤の質量比率(還元剤質量/錫又は酸化錫質量)は、0.0001以上0.10以下が好ましく、より好ましくは0.0001以上0.05以下、さらに好ましくは0.0001以上0.03以下である。還元剤の質量比率は、0.0001以上だと分散安定性が向上し、かつ錫膜の抵抗が低下する。また、0.10以下だと錫又は酸化錫インクの長期安定性が向上する。
[(4)分散媒]
本実施の形態に用いられる分散媒(溶媒)は、分散という観点から分散剤の溶解が可能なものの中から選択する。一方、錫又は酸化錫インクを用いて導電性パターンを形成するという観点からは、溶媒の揮発性が作業性に影響を与えるため、導電性パターンの形成方法、例えば、印刷や塗布の方式に適するものである必要がある。従って、溶媒は分散性と印刷や塗布の作業性に合わせて下記の溶剤から選択すればよい。
分散媒の具体例としては、以下の分散媒を挙げることができる。プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、3−メトキシ−3−メチル−ブチルアセテート、エトキシエチルプロピオネート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールターシャリーブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールブチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、2−ペンタンジオール、2−メチルペンタン−2,4−ジオール、2,5−ヘキサンジオール、2,4−ヘプタンジオール、2−エチルヘキサン−1,3−ジオール、ジエチレングリコール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、トリエチレングリコール、トリ−1,2−プロピレングリコール、グリセロール、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、i−ブタノール、2−ブタノール、t−ブタノール、n−ペンタノール、i−ペンタノール、2−メチルブタノール、2−ペンタノール、t−ペンタノール、3−メトキシブタノール、n−ヘキサノール、2−メチルペンタノール、1−ヘキサノール、2−ヘキサノール、2−エチルブタノール、1−ヘプタノール、2−ヘプタノール、3−ヘプタノール、n−オクタノール、2−エチルヘキサノール、2−オクタノール、n−ノニルアルコール、2、6ジメチル−4−ヘプタノール、n−デカノール、シクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノール、3、3、5−トリメチルシクロヘキサノール、ベンジルアルコール、ジアセトンアルコールなどが挙げられる。これらに具体的に記載したもの以外にも、アルコール、グリコール、グリコールエーテル、グリコールエステル類溶剤を溶媒に用いることができる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよく、印刷方式に応じ蒸発性や、印刷機材、被印刷基板の耐溶剤性を考慮し選択する。
分散媒として、水もしくは炭素数10以下のモノアルコールがより好ましく、さらに炭素数7以下が好ましい。炭素数7以下のモノアルコール中でも、エタノール、n−ブタノール、i−ブタノール、sec−ブタノール、t−ブタノールが分散性、揮発性及び粘性が特に適しているのでさらに好ましい。これらのモノアルコールを単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。錫又は酸化錫の分散性の低下を抑制するため、さらに分散剤との相互作用により、より安定に分散させるためにもモノアルコールの炭素数は7以下であることが好ましい。また、炭素数は7以下を選択すると抵抗値も低くなり好ましい。
ただし、沸点は錫又は酸化錫インクの作業性に影響を与える。沸点が低すぎれば揮発が速いため、固形物の析出による欠陥の増加や清掃頻度の増大により作業性が悪化する。このため、塗布、ディスペンサー方式では沸点が40℃以上、インクジェット方式、スクリーン方式、オフセット方式では120℃以上、より好ましくは150℃以上、さらに好ましくは200℃以上がよく、沸点の上限としては、乾燥の観点から300℃以下が好ましい。
また、分散媒の錫又は酸化錫インク全体に対する含有量が、20質量%以上、90質量%以下であることが好ましい。これにより、低温焼成が可能になる。また、プラズマ、光及びレーザ光を用いて焼成処理を行うことができるため、錫又は酸化錫中の有機物が分解され、錫又は酸化錫の焼成が促進されて抵抗が低い導電膜を形成できるとともに、分散安定性が向上する。
また、分散媒の錫又は酸化錫インク全体に対する含有量は、40質量%以上、90質量%以下がさらに好ましく、50質量%以上、90質量%以下がさらにより好ましく、50質量%以上70質量%以下が最も好ましい。
[還元剤の調整方法]
本実施の形態では、既述の<本実施の形態の錫又は酸化錫インクの概要>に記載したように、錫又は酸化錫インク中に、ヒドラジン等の還元剤を微量に含ませることに特徴的部分がある。このように、錫又は酸化錫インク中に、所定量の還元剤を含ませる調整方法としては、以下の方法を提示することができる。
(A) まず第一の方法は、錫又は酸化錫に還元剤を添加する方法である。錫又は酸化錫、分散剤、分散媒といった組成物の混合物(分散体)に還元剤を添加する方法である。還元剤は、各要素と同時に添加してもよいし、各要素を順番に添加する中の一つとしても構わない。この際、用いる錫又は酸化錫粒子を錫塩から還元したものを利用するケースもあるため、事前に錫又は酸化錫中の還元剤を定量した後、還元剤を添加することが好ましい。例えば、後述する図3中(d)と図3中(e)との間で、UF膜モジュールによる濃縮及び希釈を繰り返し、溶媒を置換し、錫又は酸化錫微粒子を含有する分散体を得るような場合は、還元剤を分散体に添加して、還元剤含有量を調整することができる。
(B) 次に第二の方法を記載する。第二の方法は、上記したように錫又は酸化錫を錫塩から生成する場合に錫塩の還元のために添加する還元剤をインクにも引き続き利用する方法である。この時に、反応温度と反応時間によって制御することが好ましい。通常、錫又は酸化錫を錫塩から生成する場合、反応温度と反応時間に依存するが、還元剤は消費される。また、還元剤が残った場合は、濃縮希釈を繰り返すことによって積極的に除去される。これに対して本方法では、反応温度及び反応時間を適宜選択することにより還元剤含有量を制御し、さらに溶媒を用いた濃縮希釈を行わず、未反応の還元剤をそのままインクに利用するものである。加えて、還元剤の中でも、ヒドラジンは非常に不安定である為、錫塩から錫又は酸化錫物への反応系を窒素等の不活性雰囲気下で行い、かつ、攪拌も窒素雰囲気で行うことが好ましい。以下、手順を詳細に記載する。
本実施の形態では、ヒドラジン等の還元剤を粒子合成時の反応原料として用い、還元剤を反応後も残すことが特徴である。その一例であるが、例えば、酢酸錫を溶かした溶液に、ヒドラジン等の還元剤を、第1の時間をかけて窒素雰囲気下で投入攪拌し、第2の時間をかけて窒素雰囲気下で撹拌して、錫及び/又は酸化錫を得る。第1の時間、第2の時間の中で、所定温度に調整することが好ましい。その後、遠心分離等で上澄み液と錫及び/又は酸化錫を含む沈殿物に分離し、得られた沈殿物に、分散剤等を加えて、窒素雰囲気下でホモジナイザーを用いて分散し、錫及び/又は酸化錫インクを得る。
上記した還元剤を投入する第1の時間は、5.0分〜60分程度であることが好ましい。第1の時間の温度は、−10℃〜60℃であることが好ましい。また、撹拌の際の第2の時間は、30分〜120分程度であることが好ましい。また、撹拌の際の所定温度は、−10℃〜60℃であることが好ましい。例えば、撹拌の際、外部温調器等を用いて途中で温度を変えることができる。
分散処理の方法としては、ホモジナイザーであることが好ましいが、ホモジナイザーに限定するものでなく、例えば超音波、ボールミル、ビーズミル、ミキサーであってもよい。
また、本実施の形態では、錫又は酸化錫、分散剤、及び還元剤等を含有した分散液を、ホモジナイザーなど既知の方法で攪拌し分散する際、窒素雰囲気などの不活性雰囲気下で行う。
本実施の形態では、不活性雰囲気とは、窒素雰囲気であることが好ましいが、窒素雰囲気以外にアルゴン雰囲気、ヘリウム雰囲気であってもよい。これらの不活性ガスを複数種、含む雰囲気下で撹拌し分散してもよい。
また、本実施の形態では、ヒドラジン等の還元剤を、例えば、上記したように、得られた沈殿物に、分散剤を加える際、又は、錫又は酸化錫インクを得た後に、添加することも可能である。これにより、還元剤含有量を精度よく調整することができる。このとき、錫又は酸化錫インクに含まれる錫又は酸化錫は、上記沈殿物であってもよいし、市販品であってもよい。
以上により、所望の含有量のヒドラジン等の還元剤を含ませることができる。
なお、本実施の形態では、還元剤として、ヒドラジン、ヒドラジン誘導体あるいはヒドラジン水和物であることが好ましい。また、これらヒドラジンに、別の還元剤を含んでいてもよい。また、ヒドラジン、ヒドラジン誘導体あるいはヒドラジン水和物以外の還元剤を用いる場合も、上記に挙げた還元剤の調整方法に準じて調整することで、所望の還元剤含有量を含ませることができる。
本実施の形態では、サロゲート法により、還元剤の定量を可能とする。従来、ベンズアルデヒドをヒドラジン等の還元剤に反応させ、誘導体化した後にガスクロマトグラフィーで定量していた。しかしながら、この定量方法では、還元剤の定量を阻害する粒子が存在すると、還元剤を定量することは困難であった。また、定量操作中に、ヒドラジン等の還元剤が大気中の酸素で分解する場合があり、還元剤を定量することが困難だった。そこで本発明者らは、定量の前処理において、酸によって錫又は酸化錫をイオン化し定量の阻害要因を解消した。さらにサロゲート物質を利用して、定量操作中のヒドラジン等の還元剤の分解のばらつきを補正するサロゲート法により、定量が困難だった還元剤の定量が可能となった。
[錫又は酸化錫と金属を含む分散体(金属インク)の調整]
錫又は酸化錫と金属粒子を含む分散体、すなわち金属インクは、前述の錫又は酸化錫酸化物分散体に、金属微粒子、必要に応じ分散媒を、それぞれ所定の割合で混合し、例えば、ミキサー法、超音波法、3本ロール法、2本ロール法、アトライター、ホモジナイザー、バンバリーミキサー、ペイントシェイカー、ニーダー、ボールミル、サンドミル、自公転ミキサーなどを用いて分散処理することにより調整することができる。
分散媒の一部は既に作成した錫又は酸化錫分散体に含まれているため、この金属分散体に含まれている分で充分な場合はこの工程で添加する必要はなく、粘度の低下が必要な場合は必要に応じこの工程で加えればよい。もしくはこの工程以降で加えてもよい。分散媒は前述の金属分散体作製時に加えたものと同じものでも、異なるもの加えてもよい。
この他に必要に応じ、有機バインダ、酸化防止剤、還元剤、金属酸化物を加えてもよく、不純物として金属や金属酸化物、金属塩及び金属錯体を含んでもよい。
また、針金状、樹枝状、鱗片状銅粒子はクラック防止効果が大きいため、単独であるいは球状、サイコロ状、多面体などの銅粒子や他の金属と複数組み合わせて加えてもよく、その表面を酸化物や他の導電性のよい金属、例えば銀などで被覆してもよい。
なお、異種金属粒子で、形状が針金状、樹枝状、鱗片状の一種もしくは複数を加える場合、同様な形状の金属粒子と同様にクラック防止効果を有するため、同様の形状の金属粒子の一部との置き換え、もしくは同様の形状の金属粒子に追加して使うこともできるが、マイグレーション、粒子強度、抵抗値、金属間化合物の形成、コストなどを考慮する必要がある。金属粒子としては、例えば金、銀、錫、亜鉛、ニッケル、白金、ビスマス、インジウム、アンチモンを挙げることができる。
<本実施の形態の塗膜を含む製品の概要>
本発明者らは、上記した錫又は酸化錫インクを用いた、塗膜を含む製品を開発するに至った。すなわち、錫又は酸化錫インクを構成する成分は、塗膜の成分として含まれる。したがって、塗膜は、錫又は酸化錫、分散剤とともに、ヒドラジン等の還元剤を含む。
塗膜中にヒドラジン等の還元剤を有することで、焼成において、錫又は酸化錫の還元に寄与し、より抵抗の低い錫膜を作製することができる。
分散剤の酸価(mgKOH/g)は、20以上、130以下が好ましく、25以上120以下がより好ましく、36以上110以下がさらに好ましく、36以上101以下がさらにより好ましい。この範囲に入ると分散安定性に優れるため好ましい。特に平均粒子径が小さい錫又は酸化錫の場合に有効である。
分散剤としては、具体的には、ビックケミ―社製「DISPERBYK―102」(酸価101)、「DISPERBYK−140」(酸価73)、「DISPERBYK−142」(酸価46)、「DISPERBYK−145」(酸価76)、「DISPERBYK−118」(酸価36)、「DISPERBYK−180」(酸価94)などが挙げられる。
塗膜中での錫又は酸化錫を含む微粒子の平均粒子径は、3.0nm以上、300nm以下、より好ましくは5.0nm以上、250nm以下、さらに好ましくは10nm以上、200nm以下である。平均粒子径が300nm以下の場合、低温焼成が可能となり、基板上に微細パターンを形成し易い傾向があるので好ましい。平均粒子径が3.0nm以上であれば、塗膜としての抵抗の安定性を向上させることができる。
次に、塗膜中の還元剤について説明する。還元剤としては、ヒドラジン、ヒドラジン水和物、ヒドラジン誘導体、ナトリウム、カーボン、ヨウ化カリウム、シュウ酸、硫化鉄(II)、チオ硫酸ナトリウム、アスコルビン酸、塩化スズ(II)、水素化ジイソブチルアルミニウム、蟻酸、水素化ホウ酸ナトリウム、亜硫酸塩などが挙げられる。ヒドラジン誘導体としては、ヒドラジン塩類、アルキルヒドラジン類、ピラゾール類、トリアゾール類、ヒドラジド類などが挙げられる。ヒドラジン塩類としては、モノ塩酸ヒドラジン、ジ塩酸ヒドラジン、モノ臭化水素酸ヒドラジン、炭酸ヒドラジンなどが挙げられ、ピラゾール類としては、3,5−ジメチルピラゾール、3−メチル−5−ピラゾロンなどが挙げられ、トリアゾール類としては、4−アミノ−1,2,4−トリアゾール、1,2,4−トリアゾール、1,2,3−トリアゾール、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール、3−メルカプト−1,2,4−トリアゾールなどが挙げられ、ヒドラジド類としては、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、ドデカンジオヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、プロピオン酸ヒドラジド、サリチル酸ヒドラジド、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸ヒドラジド、ベンゾフェノンヒドラゾンなどが挙げられる。上記のように、ヒドラジン誘導体には、アルキルヒドラジン等のヒドラジン骨格誘導体を用いることができる。焼成において、錫の表面酸化膜又は酸化錫の還元に寄与し、より抵抗の低い錫膜を作製することができる観点から、還元剤は、ヒドラジン又はヒドラジン水和物が最も好ましい。また、ヒドラジン又はヒドラジン水和物を用いることにより、錫又は酸化錫インクの長期安定性を維持し、還元が進むため、結果的に導電膜の抵抗を低くできる。
本実施の形態の塗膜は、フィルム基板、ガラス基板、成形加工物など様々な材料、加工品に作製できる。本膜に別な樹脂層を重ねてもよい。
<本実施の形態の導電性基板の概要>
本発明者らは、上記した錫又は酸化錫インクを用いることで、導電性に優れた導電性基板を開発するに行った。すなわち、本実施の形態の錫又は酸化錫インクを用いて形成されたパターン、或いは塗膜に対し焼成処理を行うことで、導電性基板を得ることができる。
[導電性基板の構成]
本実施の形態に係る錫又は酸化錫インクを用いた際、焼成の方法により、2種類の導電性基板を得ることができる。基板上に上記の錫又は酸化錫インクで塗膜を形成し、錫又は酸化錫インクの錫又は酸化錫粒子をレーザ照射で焼成することで、図2Aの導電性基板を得ることができる。基板上に錫又は酸化錫インクで所望のパターンを印刷し、これをプラズマで焼成することで、図2Bの導電性基板を得ることができる。
図2Aに示すように、導電性基板10は、基板11と、基板11が構成する面上に、断面視において、錫又は酸化錫及びリン含有有機物を含む絶縁領域12と、錫又は酸化錫が焼成で還元された還元錫を含む導電性パターン領域13と、が互いに隣接して配置された層14と、を具備していてもよい。導電性パターン領域13は、錫配線を構成する。導電性パターン領域13には、分散剤としてのリン含有有機物に由来するリン元素が含まれている。絶縁領域12は、錫又は酸化錫酸化物、分散剤としてのリン含有有機物、及び、還元剤としてのヒドラジン、ヒドラジン水和物或いはヒドラジン誘導体を含むことが好ましい。
図2Bに示すように、導電性基板10は、基板11と、基板11が構成する面上に、断面視において、錫又は酸化錫を含む導電性パターン領域13と、を具備していてもよい。導電性パターン領域13は、錫配線を構成する。導電性パターン領域13には、リン元素が含まれていることが好ましい。
また、導電性パターン領域13には、焼成の工程で、還元されなかった酸化錫が一部含まれていてもよい。導電性パターン領域13には、還元錫とともに、酸化錫インクの錫又は酸化錫粒子が含まれていてもよい。また、絶縁領域12及び導電性パターン領域13には、ボイドが含まれていてもよい。
また、絶縁領域12と導電性パターン領域13とが隣接する層14は、層内では、電気導電性、粒子状態(焼成と未焼成)等が、基板の面上に沿って漸次的に変化してもよいし、絶縁領域12と導電性パターン領域13との間に境界(界面)が存在していてもよい。
また、導電性パターンは、メッシュ状に形成されていてもよい。メッシュ状とは格子状の配線のことで、透過率が高くなり、透明になるため好ましい。
本実施の形態で用いられる基板は、錫又は酸化錫インクの塗膜を形成する表面を有するものであって、板形状を有していてもよく、立体物であってもよい。本実施の形態においては、立体物が構成する曲面又は段差等を含む面に導電性パターンを形成することもできる。本実施の形態における基板は、配線パターンを形成するための回路基板シートの基板材料、又は配線付き筐体の筐体材料等を意味する。
また、層14又は導電性パターン領域13を覆うようにして光線透過性の樹脂層(不図示)が設けられていてもよい。樹脂層は、後述の導電性基板10の製造方法において、光照射の際に塗膜が酸素に触れるのを防止し、錫の表面酸化膜又は酸化錫の還元を促進できる。これにより、光照射のときに塗膜の周囲を無酸素又は低酸素雰囲気にする、例えば、真空雰囲気又は不活性ガス雰囲気のための設備が不要になり、製造コストを削減できる。また、樹脂層は、光照射の熱等によって導電性パターン領域13が剥離又は飛散するのを防止できる。これにより、導電性基板10を歩留まりよく製造できる。
図2Cのように形成された導電性基板を、導電性パターン付製品とすることができる。導電性パターン付製品は、基板11と、基板の表面に形成された錫又は酸化錫含有層17と、錫又は酸化錫含有層の表面に形成された導電性層18と、を具備し、導電性層は線幅1.0μm以上、1000μm以下の配線であり、配線は還元錫を含むことを特徴とする。
[基板への錫又は酸化錫インクの塗布方法]
錫又は酸化錫インクを用いた塗布方法について説明する。塗布方法としては特に制限されず、スクリーン印刷、凹版ダイレクト印刷、凹版オフセット印刷、フレキソ印刷、反転印刷法、オフセット印刷などの印刷法やディスペンサー描画法、スプレー法などを用いることができる。塗布法としては、ダイコート、スピンコート、スリットコート、バーコート、ナイフコート、スプレーコート、ディツプコートなどの方法を用いることができる。
本発明に係る塗膜を含む製品の一態様において、塗膜中の炭素の重量に対する錫又は酸化錫の重量の比は2以上200以下、より好ましくは2以上150以下、より好ましくは2以上100以下であることが好ましい。この構成により、基板と塗膜との密着性が向上する。
[基板]
本実施の形態で用いられる基板は、特に限定されるものではなく、無機材料又は有機材料で構成される。
無機材料としては、例えば、ソーダライムガラス、無アルカリガラス、硼珪酸ガラス、石英ガラスなどのガラスや、アルミナなどのセラミック材料が挙げられる。
有機材料としては、高分子材料、紙などが挙げられる。高分子材料としては樹脂フィルムを用いることができ、ポリイミド(PI)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエステル、ポリカーボネート(PC)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリアセタール(POM)、ポリアリレート(PAR)、ポリアミド(PA)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、変性ポリフェニレンエーテル(m−PPE)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリフタルアミド(PPA)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリベンズイミダゾール(PBI)、ポリカルボジイミド、ポリシロキサン、ポリメタクリルアミド、ニトリルゴム、アクリルゴム、ポリエチレンテトラフルオライド、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ウレア樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)、ポリブテン、ポリペンテン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン−ジエン共重合体、ポリブタジエン、ポリイソプレン、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体、ブチルゴム、ポリメチルペンテン(PMP)、ポリスチレン(PS)、スチレン−ブタジエン共重合体、ポリエチレン(PE)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、フェノールノボラック、ベンゾシクロブテン、ポリビニルフェノール、ポリクロロピレン、ポリオキシメチレン、ポリスルホン(PSF)、ポリフェニルスルホン樹脂(PPSU)、シクロオレフィンポリマー(COP)、アクリロ二トリル・ブタジエン・スチレン樹脂(ABS)、アクリロニトリル・スチレン樹脂(AS)、ナイロン樹脂(PA6、PA66)、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)、ポリエーテルスルホン樹脂(PESU)、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、及びシリコーン樹脂などを挙げることができる。特に、PI、PET及びPENは、フレキシブル性、コストの観点から好ましい。基板の厚さは、例えば1μm〜10mmとすることができ、好ましくは25μm〜250μmである。基板の厚さが250μm以下であれば、作製される電子デバイスを、軽量化、省スペース化、及びフレキシブル化できるため好ましい。
また、本発明の一態様において、導電性パターンを、銅、銀又はアルミニウムの上に配置することを特徴とする。この構成により、回路の修復や回路上へのチップのマウントに用いることができる。
紙としては、一般的なパルプを原料とした上質紙、中質紙、コート紙、ボール紙、段ボールなどの洋紙やセルロースナノファイバーを原料としたものが挙げられる。紙の場合は高分子材料を溶解したもの、もしくはゾルゲル材料などを含浸硬化させたものを使うことができる。また、これらの材料はラミネートするなど貼り合わせて使用してもよい。例えば、紙フェノール基材、紙エポキシ基材、ガラスコンポジット基材、ガラスエポキシ基材などの複合基材、テフロン(登録商標)基材、アルミナ基材、低温低湿同時焼成セラミックス(LTCC)、シリコンウェハなどが挙げられる。なお、本実施の形態における基板は、配線パターンを形成するための回路基板シートの基板材料、又は配線付き筐体の筐体材料を意味する。
[導電膜形成方法]
本実施の形態の導電膜の製造方法は、塗膜における錫の表面酸化膜又は酸化錫を還元し錫を生成させ、これ自体の融着、及びインクに金属粒子が含まれる場合はその金属粒子との融着、一体化、により導電膜(金属膜)を形成するものである。この工程を焼成と呼ぶ。従って、錫の表面酸化膜又は酸化錫の還元と融着、金属粒子との一体化による導電膜の形成ができる方法であれば特に制限はない。本実施の形態の導電膜の製造方法における焼成は、例えば、焼成炉で行ってもよいし、プラズマ、赤外線、フラッシュランプ、レーザなどを単独もしくは組み合わせて用いて行ってもよい。
本実施の形態では、塗膜を焼成処理して基板上に導電性パターンを形成することができる。本実施形態の方法によれば、基板上に塗布液を所望のパターンに直接形成できるため、従来のフォトレジストを用いた手法と比較し、生産性を向上させることができる。
図3を参照して、本実施の形態に係る焼成にレーザ照射を用いた場合の導電性基板の製造方法について、より具体的に説明する。図3中(a)において、水中に錫塩を溶かし、ヒドラジンを加えて攪拌する。
次に、図3中(b)、(c)において、遠心分離で上澄みと沈殿物に分離した。次に、図3中(d)において、得られた沈殿物に、分散剤及びアルコールを加え、分散する。このとき、例えば、窒素雰囲気下で、ホモジナイザーを用いて分散する。
図3中(e)、(f)において、錫又は酸化錫インク(分散体)をスプレーコート法により例えばPET製の基板(図3(f)中、「PET」と記載する)上に塗布し、錫又は酸化錫及びリン含有有機物を含む塗布層(塗膜)を形成する。図3中(f)、(g)において、MxOは錫酸化物を示し、Mは還元された錫を示す(図4、5中も同じ)。
次に、図3中(g)において、塗布層に対して、例えばレーザ照射を行い、塗布層の一部を選択的に焼成し、錫酸化物を錫に還元する。この結果、図3中(h)において、基板上に、錫酸化物及びリン含有有機物を含む絶縁領域(図3(h)中、「A」と記載する)と、錫及びリン元素を含む導電膜(導電性パターン領域)(図3(h)中、「B」と記載する)と、が互いに隣接して配置された層が形成された導電性基板が得られる。導電性パターン領域は、配線として利用できる。
また、導電性パターン領域には、焼成の工程で、還元されなかった錫酸化物が含まれていてもよい。絶縁領域及び導電性パターン領域には、錫又は酸化錫インクの粒子が含まれていてもよい。また、絶縁領域及び導電性パターン領域には、ボイドが含まれていてもよい。
本実施の形態では、絶縁領域に、錫又は酸化錫、分散剤としてのリン含有有機物、及び還元剤としてのヒドラジンあるいはヒドラジン水和物を含む構成とすることができる。
次に、図4を参照して、本実施の形態に係る焼成にプラズマを用いた場合の導電性基板の製造方法について、より具体的に説明する。図4中(a)−(d)の工程については、図3と同様である。
図4中(e)、(i)において、例えばPET製の基板上に、錫又は酸化錫インク(分散体)を、例えば、インクジェット印刷により所望のパターンで印刷し、錫又は酸化錫及びリン含有有機物を含む塗布層を形成する。
次に、図4中(i)において、塗布層に対して、例えばプラズマ照射を行い、塗布層を焼成し、錫の表面酸化膜又は酸化錫を錫に還元する。この結果、図4中(j)において、基板上に、錫及びリン元素を含む導電性パターン領域(図4(j)中、「B」と記載する)が形成された導電性基板が得られる。
図5は、図3と同様に、焼成にレーザ照射を用いた場合の導電性基板の製造方法を示す。図5中(a)−(h)の工程については、図3と同様である。
図5では、さらに絶縁領域を洗浄する。これにより、錫配線(図5(K)中、「C」と記載する)が支持体上にパターン形成された形態を得ることができる。なお、錫配線Cは、導電性パターン領域Bと同じ層である。また、錫配線C上から錫配線C間の支持体上にかけて、樹脂層(図5(l)中、「D」と記載する)で封止することができる。なお、少なくとも、導電性パターン領域Bとしての錫配線C上を覆うように樹脂層Dを形成することができる。
樹脂層は、長期安定性を確保するものである。樹脂層は封止材層であり、透湿度を十分低くすることが好ましい。封止材層の外部からの水分の混入を防ぎ、金属配線の酸化を抑制するためである。封止材層の透湿度は1.0g/m2/day以下であることが好ましく、より好ましくは0.5g/m2/day以下であって、さらに好ましくは0.1g/m2/day以下である。このような範囲の封止材層を用いることで、例えば、85℃、85%環境における長期安定性試験において、金属配線の酸化による抵抗変化を抑止することができる。
例えば、以下に挙げる材料を封止材層の材料として用いることができる。ポリプロピレン(PP)、ポリイミド(PI)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエステル、ポリカーボネート(PC)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリアセタール(POM)、ポリアリレート(PAR)、ポリアミド(PA)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、変性ポリフェニレンエーテル(m−PPE)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリフタルアミド(PPA)、ポリエーテルニトリル(PENt)、ポリベンズイミダゾール(PBI)、ポリカルボジイミド、ポリシロキサン、ポリメタクリルアミド、ニトリルゴム、アクリルゴム、ポリエチレンテトラフルオライド、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ウレア樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)、ポリブテン、ポリペンテン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン−ジエン共重合体、ポリブタジエン、ポリイソプレン、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体、ブチルゴム、ポリメチルペンテン(PMP)、ポリスチレン(PS)、スチレン−ブタジエン共重合体、ポリエチレン(PE)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、フェノールノボラック、ベンゾシクロブテン、ポリビニルフェノール、ポリクロロピレン、ポリオキシメチレン、ポリスルホン(PSF)、ポリフェニルスルホン樹脂(PPSU)、シクロオレフィンポリマー(COP)、アクリロ二トリル・ブタジエン・スチレン樹脂(ABS)、アクリロニトリル・スチレン樹脂(AS)、ナイロン樹脂(PA6、PA66)ポリブチルテレフタレート樹脂(PBT)ポリエーテルスルホン樹脂(PESU)、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、及びシリコーン樹脂等から構成される樹脂材料を用いることができる。
さらに、上記材料に酸化ケイ素や酸化アルミニウムからなる微粒子を混合させたり、それらの材料の表面に酸化ケイ素や酸化アルミニウムからなる層を、水分バリア層として設けたりすることで透湿度を下げることができる。
絶縁領域を除去する際、水又はエタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロピルアルコール、メタノール、エチレングリコール、グリセリン等のアルコール類や、ケトン類、エステル類、エーテル類などの有機溶媒を用いることができる。特に、絶縁領域の洗浄性能の点で、水、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロピルアルコールが好ましい。また、上記溶媒にリン系の分散剤を添加しても良い。添加することでさらに洗浄性能が向上する。
錫配線上を樹脂層で覆う構成は、図4にも適用可能である。
導電性基板の製造方法は、錫又は酸化錫インクを用い、基板上に形成したパターンに、還元性ガスを含む雰囲気下でプラズマを発生させ焼成処理を行う。この構成により、低温焼成が可能になる。また、錫又は酸化錫中の有機物が効果的に分解されるため、錫又は酸化錫の焼成がより促進され、より抵抗の低い導電膜を備えた導電性基板を製造できる。
導電性基板の製造方法は錫又は酸化錫インクを用い、基板上に塗膜を形成する工程と、その塗膜にレーザ光を照射させる工程と、を含む。焼成をレーザ照射で行うことにより、錫又は酸化錫インクの金属粒子の焼成と、導電性パターンの形成を一度に行うことができる。また、光の波長を選択できるため、錫又は酸化錫インク及び基板の光の吸収波長を考慮することができる。また、焼成時間を短くすることができるため、基板へのダメージを抑えながら、錫又は酸化錫中の有機物が効果的に分解され、抵抗の低い導電膜を備えた導電性基板を製造できる。
導電性基板の製造方法は、錫又は酸化錫インクを用い、基板上に塗膜を形成する工程と、その塗膜にキセノン光を照射させる工程と、を含む。この構成により、焼成時間を短くすることができるため、基板へのダメージを抑えながら、錫又は酸化錫中の有機物が効果的に分解され、抵抗の低い導電膜を備えた導電性基板を製造できる。
導電性基板の製造方法は、錫又は酸化錫インクを用い、基板上に塗膜を形成する工程と、その塗膜に不活性ガス中で150℃以上に加熱させる工程と、を含む。この構成により、焼成時間を短くすることができるため、基板へのダメージを抑えながら、錫又は酸化錫中の有機物が効果的に分解され、抵抗の低い導電膜を備えた導電性基板を製造できる。
(塗膜の焼成)
焼成処理の方法には、本発明の効果を発揮する導電膜を形成可能であれば、特に限定されないが、具体例としては、焼却炉、プラズマ焼成法、光焼成法などを用いる方法が挙げられる。光焼成におけるレーザ照射においては、分散体としての錫又は酸化錫インクで塗膜を形成し、塗膜にレーザ照射することで、錫粒子の焼成と、パターニングを一度に行うことができる。その他の焼成法においては、錫又は酸化錫インクで所望のパターンを印刷し、これを焼成することで、導電性パターンを得ることができる。導電性パターンを作製する上で、基板との接触面に一部の酸化錫が還元されずに残ることで、導電性パターンと基板との密着性が向上するため、好ましい。
[焼成炉]
酸素の影響を受けやすい焼成炉などで焼成を行う方法では、非酸化性雰囲気において錫又は酸化錫インクの塗膜を処理することが好ましい。また錫又は酸化錫インク中に含まれる有機成分だけでは錫又は酸化錫が還元されにくい場合、還元性雰囲気で焼成することが好ましい。非酸化性雰囲気とは、酸素などの酸化性ガスを含まない雰囲気であり、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオンなどの不活性ガスで満たされた雰囲気である。また還元性雰囲気とは、水素、一酸化炭素などの還元性ガスが存在する雰囲気を指すが、不活性ガスと混合して使用してよい。これらのガスを焼成炉中に充填し密閉系でもしくはガスを連続的に流しながら錫又は酸化錫インクの塗膜を焼成してもよい。また、焼成は、加圧雰囲気で行ってもよいし減圧雰囲気で行ってもよい。
本実施の形態に係る導電性基板の製造方法においては、塗膜を、不活性ガス中での150℃以上での加熱により、焼成処理を行うことが好ましい。
[プラズマ焼成法]
本実施形態のプラズマ焼成法は焼成炉を用いる方法と比較し、より低い温度での処理が可能であり、耐熱性の低い樹脂フィルムを基材とする場合の焼成法として、よりよい方法の一つである。またプラズマにより、パターン表面の有機物質除去や酸化膜の除去が可能であるため、良好なハンダ付け性を確保できるという利点もある。具体的には、還元性ガスもしくは還元性ガスと不活性ガスとの混合ガスをチャンバ内に流し、マイクロ波によりプラズマを発生させ、これにより生成する活性種を、還元又は焼結に必要な加熱源として、さらには分散剤などに含まれる有機物の分解に利用し導電膜を得る方法である。
特に金属部分では活性種の失活が多く、金属部分が選択的に加熱され、基板自体の温度は上がりにくいため、基板として樹脂フィルムにも適用可能である。錫又は酸化錫は焼成が進むにつれ錫に変化するためパターン部分のみの加熱が促進される。また導電性パターン中に分散剤やバインダ成分の有機物が残ると焼結の妨げとなり、抵抗が上がる傾向にあるが、プラズマ焼成法は導体パターン中の有機物除去効果が大きい。
還元性ガス成分としては水素など、不活性ガス成分としては窒素、ヘリウム、アルゴンなどを用いることができる。これらは単独で、もしくは還元性ガス成分と不活性ガス成分を任意の割合で混合して用いてもよい。また不活性ガス成分を二種以上混合し用いてもよい。
プラズマ焼成法は、マイクロ波投入パワー、導入ガス流量、チャンバ内圧、プラズマ発生源から処理サンプルまでの距離、処理サンプル温度、処理時間での調整が可能であり、これらを調整することで処理の強度を変えることができる。従って、上記調整項目の最適化を図れば、無機材料の基板はもちろんのこと、有機材料の熱硬化性樹脂フィルム、紙、耐熱性の低い熱可塑性樹脂フィルム、例えばPET、PENを基板として利用し、抵抗の低い導電膜を得ることが可能となる。但し、最適条件は装置構造やサンプル種類により異なるため、状況に合わせ調整する。
[光焼成法]
本実施形態の光焼成法は、光源としてキセノンなどの放電管を用いたフラッシュ光方式やレーザ光方式が適用可能である。これらの方法は強度の大きい光を短時間露光し、基板上に塗布した錫又は酸化錫インクを短時間で高温に上昇させ焼成する方法で、錫の表面酸化膜又は酸化錫の還元、錫粒子の焼結、これらの一体化、及び有機成分の分解を行い、導電膜を形成する方法である。焼成時間がごく短時間であるため基板へのダメージが少ない方法で、耐熱性の低い樹脂フィルム基板への適用が可能である。
フラッシュ光方式とは、キセノン放電管を用い、コンデンサーに蓄えられた電荷を瞬時に放電する方式で、大光量のパルス光を発生させ、基板上に形成された錫又は酸化錫インクに照射することにより錫又は酸化錫を瞬時に高温に加熱し、導電膜に変化させる方法である。露光量は、光強度、発光時間、光照射間隔、回数で調整可能であり基板の光透過性が大きければ、耐熱性の低い樹脂基板、例えばPET、PENや紙などへも、錫又は酸化錫インクによる導電性パターンの形成が可能となる。
発光光源は異なるが、レーザ光源を用いても同様な効果が得られる。レーザの場合は、フラッシュ光方式の調整項目に加え、波長選択の自由度があり、パターンを形成した錫又は酸化錫インクの光吸収波長や基板の吸収波長を考慮し選択することも可能である。またビームスキャンによる露光が可能であり、基板全面への露光、もしくは部分露光の選択など、露光範囲の調整が容易であるといった特徴がある。レーザの種類としてはYAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)、YVO(イットリウムバナデイト)、Yb(イッテルビウム)、半導体レーザ(GaAs、GaAlAs、GaInAs)、炭酸ガスなどを用いることができ、基本波だけでなく必要に応じ高調波を取り出して使用してもよい。
本実施の形態では、支持体を光線透過性とすることで、光線が、支持体を透過するため、塗布層の一部を適切に焼成することが可能になる。
また、本実施の形態に係る導電性パターン領域を有する構造体の製造方法によれば、錫又は酸化錫及びリン含有有機物を含む塗布層の一部をレーザで焼成して導電性パターン領域とすると共に、未焼成部分を導電性パターン領域の絶縁のために使用できる。したがって、塗布層の未焼成部分を除去する必要がない。このため、製造工程を削減でき、溶剤等が不要であるので製造コストを下げることができる。また、導電性パターン領域の絶縁のためにソルダ―レジスト等を設ける必要がないので、その分も製造工程を削減できる。ただし、絶縁層を除去しても良い。
絶縁領域を除去する場合は、水又はエタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロピルアルコール、メタノール、エチレングリコール、グリセリン等のアルコール類や、ケトン類、エステル類、エーテル類などの有機溶媒を用いることができる。特に、絶縁領域の洗浄性能の点で、水、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロピルアルコールが好ましい。また、上記溶媒にリン系の分散剤を添加しても良い。添加することでさらに洗浄性能が向上する。
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[ヒドラジン定量方法]
サロゲート法によりヒドラジンの定量を行った。
サンプル50μLに、ヒドラジン33μg、サロゲート物質(ヒドラジン15N2H4)33μg、ベンズアルデヒド1%アセトニトリル溶液1mlを加えた。最後にリン酸20μLを加え、4時間後、GC/MS測定を行った。
同じく、サンプル50μLに、ヒドラジン66μg、サロゲート物質(ヒドラジン15N2H4)33μg、ベンズアルデヒド1%アセトニトリル溶液1mlを加えた。最後にリン酸20μLを加え、4時間後、GC/MS測定を行った。
同じく、サンプル50μLに、ヒドラジン133μg、サロゲート物質(ヒドラジン15N2H4)33μg、ベンズアルデヒド1%アセトニトリル溶液1mlを加えた。最後にリン酸20μLを加え、4時間後、GC/MS測定を行った。
最後に、サンプル50μLに、ヒドラジンを加えず、サロゲート物質(ヒドラジン15N2H4)33μg、ベンズアルデヒド1%アセトニトリル溶液1mlを加え、最後にリン酸20μLを加え、4時間後、GC/MS測定を行った。
上記4点のGC/MS測定からm/z=207のクロマトグラムよりヒドラジンのピーク面積値を得た。次にm/z=209のマスクロマトグラムよりサロゲートのピーク面積値を得た。x軸に、添加したヒドラジンの重量/添加したサロゲート物質の重量、y軸に、ヒドラジンのピーク面積値/サロゲート物質のピーク面積値をとり、サロゲート法による検量線を得た。
検量線から得られたY切片の値を、添加したヒドラジンの重量/添加したサロゲート物質の重量で除しヒドラジンの重量を得た。
[粒子径測定]
インク中の錫又は酸化錫粒子の平均粒子径は大塚電子製FPAR−1000を用いてキュムラント法によって測定した。
(実施例1)
水1875gに酢酸錫(II)一水和物(和光純薬製)112gを溶かし、1時間攪拌した。ヒドラジン一水和物(和光純薬製)58.2gを加えて攪拌した。その後、遠心分離で上澄みと沈殿物に分離した。
得られた沈殿物20gに、分散剤としてDISPERBYK−145(ビッグケミー製)(以下、BYK145と略する)4.0g、及び、分散媒としてエタノール(和光純薬製)67gを加え、窒素雰囲気下でホモジナイザを用いて分散し、インクを得た。
実施例1のインク中に酸化錫微粒子は良好に分散されていた。酸化錫の含有量は、インク全体に対して20質量%であった。酸化錫微粒子の平均粒子径は、200nmであった。また、インク中のヒドラジン量は、2700ppmであった。これを質量%に変換すると、ヒドラジンの含有量は、インク全体に対して0.27質量%である。また、BYK145(分散剤)の含有量は、インク全体に対して4質量%であった。また、エタノール(分散媒)の含有量は、インク全体に対して67質量%であった。
また、実施例1において、BYK145(分散剤)の酸価は76であった。
実施例1のインクは、錫又は酸化錫と、分散剤と、還元剤と、分散媒とを含み、分散剤が、酸性吸着基を持ち、分散剤の酸価が、20以上、130以下であり、さらにインク全体に対し、錫又は酸化錫の含有量が、3質量%以上、45質量%以下であり、分散剤の含有量が、0.3質量%以上、13質量%以下であり、還元剤の含有量が、0.01質量%以上、3質量%以下であり、かつ、分散媒の含有量が、20質量%以上、90質量%以下であるという構成により、インクとして分散安定性が高く、長期安定性に優れ、基板との密着性が高く、抵抗が低い導電膜を形成できることが確認された。