JP2020090728A - 鋼部材および鋼板ならびにこれらの製造方法 - Google Patents

鋼部材および鋼板ならびにこれらの製造方法 Download PDF

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亮太 宮田
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Abstract

【課題】鋼部材の製造工程において、溶接後にPWHTを長時間行った場合にも、板厚中央部が高強度かつ靭性の十分に優れた鋼部材を提供する。【解決手段】C、Si、Mn、P、S、Al、Cu、Ni、Cr、Mo、N、B、およびVが規定の範囲内にあり、Nbが0.005%以下、Tiが0.001%以下、かつCa、Mg、REMおよびZrの合計が0.0010%以下に抑えられ、残部が鉄および不可避不純物であり、板厚が100mm以下であって、板厚中央部における組織が、下記(a)、(b)の全てを満たし、かつ−38℃におけるシャルピー吸収エネルギーが100J以上であることを特徴とする鋼部材。(a)組織が焼戻ベイナイトと焼戻マルテンサイトの少なくとも一方である。(b)隣接する2つの結晶の方位差が15°以上の大角粒界で囲まれた結晶粒の平均円相当径をD、粒界炭化物の最大径をdとしたとき、D/dで表わされる値が54以下である。【選択図】図1

Description

本発明は、鋼部材および鋼板ならびにこれらの製造方法に関する。詳細には、本発明は、鋼板に対して溶接および溶接後熱処理(Post Weld Heat Treatment、以下「PWHT」ということがある)を施して得られる鋼部材、特には、該PWHTが高温長時間であっても板厚中央部の強度および低温靭性に優れた鋼部材と、該鋼部材の製造に用いられる鋼板と、これらの製造方法に関する。以下では、低温靭性を単に「靭性」ということがある。
石油精製をはじめとする化学工業で用いる中・高温圧力容器は、操業の高能率化を目的に、更なる耐高温高圧化が要求される傾向にある。よって、上記圧力容器等の鋼部材に使用される鋼板は、高強度化が求められる。また安全性の観点から、上記鋼部材に対し高レベルの低温靭性も要求される。
上記高強度化を図るべく、上記鋼板には、焼ならしや焼入れが施される。しかし上記鋼板の板厚が厚めであると、焼ならしまたは焼入れ時の鋼板内部、特に板厚中央部の冷却速度が小さく、高強度等が得られにくいといった問題がある。また上記圧力容器等の鋼部材は、上記鋼板を溶接した後、ひずみ除去のための応力除去焼なまし、即ちPWHTが施されて得られる。上記ひずみ除去のためにPWHTが長時間行われるが、PWHTが長時間施された鋼部材は、低温靭性等が低下するといった問題がある。
また、高靭性を確保する方法として、合金元素量を高めることが挙げられる。上記圧力容器等の鋼部材には、合金元素としてCrおよびMoを含むCr−Mo鋼が用いられる。
上記Cr−Mo鋼として、例えば2.25Cr−1.0Mo鋼を用いた場合には、靭性の確保が難しい、厚鋼板の板厚中央部でも良好な靭性が得られることが知られている。しかし近年は、省資源化やコストダウンの志向が高まっている。よって、上記2.25Cr−1.0Mo鋼よりも合金元素量を抑えたCr−Mo鋼を用いることを前提に、板厚中央部の強度と靭性に優れた鋼部材を実現することが強く求められている。
上記課題に対し、合金元素量を抑えつつ化学成分を適正に調整することによって、高強度や高靭性を達成する技術が提案されている。例えば特許文献1および2には、靭性確保の難しい1.25Cr−0.5Moレベルの成分組成の鋼を対象に、低温靭性を改善する技術が示されている。
特許文献1には、NbおよびCaを添加することで、焼入れ性を確保し、かつSR(Stress Relief、応力除去焼鈍)時の特性低下の抑制を図った技術が示されている。しかしこの技術を、造塊法での鋳造が主となる厚めの鋼板に適用すると、前記Caが粗大な介在物を形成し、靭性に悪影響を及ぼす懸念がある。よって、板厚が厚めの鋼部材の板厚中央部の靭性を、安定して確保することは難しいと思われる。
また特許文献2には、製造工程において、焼入れ前に制御圧延、または、制御圧延+加速冷却を施すことにより、オーステナイト粒径を微細化し、低温靭性を確保した技術が示されている。しかしこの技術における上記制御圧延は、圧延ラインの生産性の低下を招く場合があるため、実用的とは言い難い。
特開平06−279919号公報 特開2000−345281号公報
本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、鋼部材の製造工程において、溶接後のPWHTを長時間、特には高温長時間とした場合にも、鋼材内部が高強度かつ高い低温靭性を示す鋼部材と、該鋼部材の製造に有用な鋼板、およびこれらの製造方法を確立することにある。上記「鋼材内部」は、特には「板厚中央部」を意味する。以下同じである。
上記課題を解決し得た本発明の鋼部材は、
C:0.110%(質量%の意味。化学成分について以下同じ)以上0.15%以下、
Si:0.50%以上0.80%以下、
Mn:0.40%以上0.65%以下、
P:0%超0.0070%以下、
S:0%超0.0070%以下、
Al:0.030%以上0.080%以下、
Cu:0.05%以上0.20%以下、
Ni:0.05%以上0.30%以下、
Cr:1.05%以上1.50%以下、
Mo:0.45%以上0.65%以下、
N:0.0030%以上0.0070%以下、
B:0.0003%以上0.0010%以下、および
V:0%以上0.030%以下
を満たし、
Nbが0.005%以下、Tiが0.001%以下、かつCa、Mg、REMおよびZrの合計が0.0010%以下に抑えられ、残部が鉄および不可避不純物であり、
板厚が100mm以下であって、
板厚中央部における組織が、下記(a)、(b)の全てを満たし、かつ−38℃におけるシャルピー吸収エネルギーが100J以上であるところに特徴を有する。
(a)組織が焼戻ベイナイトと焼戻マルテンサイトの少なくとも一方である。
(b)隣接する2つの結晶の方位差が15°以上の大角粒界で囲まれた結晶粒の平均円相当径をD、粒界炭化物の最大径をdとしたとき、D/dで表わされる値が54以下である。
また上記課題を解決し得た本発明の鋼板は、上記鋼部材の製造に用いる鋼板であって、C:0.110%以上0.15%以下、
Si:0.50%以上0.80%以下、
Mn:0.40%以上0.65%以下、
P:0%超0.0070%以下、
S:0%超0.0070%以下、
Al:0.030%以上0.080%以下、
Cu:0.05%以上0.20%以下、
Ni:0.05%以上0.30%以下、
Cr:1.05%以上1.50%以下、
Mo:0.45%以上0.65%以下、
N:0.0030%以上0.0070%以下、
B:0.0003%以上0.0010%以下、および
V:0%以上0.030%以下
を満たし、
Nbが0.005%以下、Tiが0.001%以下、かつCa、Mg、REM、およびZrの合計が0.0010%以下に抑えられ、残部が鉄および不可避不純物であり、かつ板厚が100mm以下であるところに特徴を有する。
更に、前記課題を解決し得た鋼板の製造方法は、前記成分組成を満たす鋼片を熱間圧延後、焼入れを、加熱温度:910℃以上940℃以下、かつ該加熱温度での保持時間:25分以上60分以下の条件で行い、この焼入れ後に焼戻しを、加熱温度:620℃以上Ac1点以下、かつ下記式(1)で表されるPT値が19.2以上20.6以下となる加熱温度および加熱時間で行うところに特徴を有する。
T値=TT×(20+logtT)×10-3 …(1)
式(1)中、TTは焼戻しの加熱温度(K)、tTは焼戻しの加熱時間(hr)を示す。
本発明には、前記鋼部材の製造方法も含まれる。該鋼部材の製造方法は、前記鋼板を用いて溶接し、更に溶接後熱処理を、下記式(2)で表されるPPWHT値が20以上となる加熱温度および加熱時間で行うところに特徴を有する。
PWHT値=TPWHT×(20+logtPWHT)×10-3 …(2)
式(2)中、TPWHTは溶接後熱処理の加熱温度(K)、tPWHTは溶接後熱処理の加熱時間(hr)を示す。
本発明の鋼板を鋼部材の製造に用いれば、該鋼部材の製造工程中のPWHTを長時間、特には高温長時間とした場合にも、鋼材内部が高強度かつ靭性の十分に優れた鋼部材が得られる。その結果、高強度かつ高靭性を示す中・高温圧力容器等を提供することができる。
更に、本発明の鋼部材は、合金元素量が抑えられているため、省資源化かつコストダウンに寄与する。
図1は、実施例におけるD/dと−38℃でのシャルピー吸収エネルギーとの関係を示したグラフである。
本発明者らは、合金元素量が、前記2.25Cr−1.0Mo鋼よりも抑えられたCr−Mo鋼からなる鋼板を用いることを前提に、該鋼板に対し、特に長時間のPWHTを施して鋼部材を製造した場合であっても、該鋼部材として板厚中央部の低温靭性と強度に優れたものを得るべく、鋭意研究を重ねた。
その結果、まず板厚中央部が高靭性の鋼部材を得るには、特に、
・微細な組織とし、かつ粗大化しやすく破壊の起点となりやすい粒界炭化物の微細化を図る。詳細には、(a)焼戻ベイナイトと焼戻マルテンサイトの少なくとも一方とすると共に、(b)隣接する2つの結晶の方位差が15°以上の大角粒界で囲まれた結晶粒の平均円相当径(以下、単に「大角粒界サイズ」ということがある)をD、粒界炭化物の最大径をdとしたとき、D/dで表わされる値が54以下とする;および
・焼戻し脆化感受性の抑制を図る、詳細には、後述する成分組成を満たすようにする;
ことが有効であることを見出した。上記「焼戻し脆化感受性の抑制」を、以下「焼戻し脆化の抑制」、「粒界割れの抑制」ともいう。
以下では、本発明の鋼部材の、板厚中央部のミクロ組織に関する上記(a)および(b)についてまず説明する。
尚、以下の説明では、「板厚中央部の組織」を、単に「組織」という。また、下記に示す特性、即ち、強度、低温靭性は、鋼部材、即ち、鋼板に対して溶接およびPWHTを施した後の、少なくとも板厚中央部の各特性をいうものとする。
(a)組織が焼戻ベイナイトと焼戻マルテンサイトの少なくとも一方である。
上記焼戻ベイナイトや焼戻マルテンサイトは、微細な組織であり、特に板厚中央部の強度および靭性を確保するのに有効な組織である。本発明の鋼部材は、組織が焼戻ベイナイトと焼戻マルテンサイトの少なくとも一方である。その他の不可避的に含まれうる組織として、ポリゴナルフェライト、残留オーステナイト、パーライト等が挙げられるが、これらの組織は合計で5面積%以下に抑えられ、最も好ましくはこれらの組織が0面積%である。特に前記ポリゴナルフェライトが存在する場合、結晶粒サイズの粗大な上部ベイナイト組織が主体となり、良好な靭性を確保することができない。
(b)隣接する2つの結晶の方位差が15°以上の大角粒界で囲まれた結晶粒の平均円相当径をD、粒界炭化物の最大径をdとしたとき、D/dで表わされる値が54以下である。
板厚中央部の組織を、上述の通り、焼戻ベイナイトと焼戻マルテンサイトの少なくとも一方とすることで、組織の微細化を図ることができるが、本発明では、組織の確実な微細化により高い靭性を得るべく、上記(b)を規定する。
焼戻ベイナイトと焼戻マルテンサイトの組織の場合、一般的には、隣接する2つの結晶の方位差(結晶方位差)が15°以上の、いわゆる大角粒界は、隣接する2つの結晶方位差が大きいため、脆性破壊の進展が湾曲され、脆性破壊の破面単位が小さくなり、靭性向上に寄与する。一方、本発明の鋼部材は、上述の通り、PWHT、特には長時間のPWHT、更には高温長時間のPWHTを受けたものである。鋼部材を構成するCr−Mo鋼は、PWHTを受けると、一般的にM236の粒界炭化物が生成する。このPWHTの条件が高温、長時間といった厳しい条件になると、上記粒界炭化物は粗大化して破壊の起点となりやすく、靭性劣化を招く。
本発明では、これら大角粒界サイズの平均円相当径Dと上記粒界炭化物のうちの最大径dの関係について、上記(b)の通りD/dで表わされる値が54以下を満たせば、PWHT後であっても十分に優れた靭性を確保できることを見出した。上記D/dは、好ましくは50以下、より好ましくは48以下である。尚、本発明で規定する成分組成や製造条件等を考慮すると、上記D/dの下限値は12程度となる。
本発明では、上記D/dが54以下を満たせばよく、大角粒界の平均円相当径Dと上記粒界炭化物の最大径dの個々の値については特に限定されない。大角粒界サイズの平均円相当径Dは、例えば45μm以下、更には35μm以下、更には30μm以下、更には25μm以下、更には15μm以下とすることができる。大角粒界サイズの下限は、製造上、おおよそ10μm程度となる。また、上記粒界炭化物の最大径dは、例えば0.8μm以下とすることができる。該粒界炭化物の最大径は、更に0.70μm以下、更に0.60μm以下とすることができる。尚、上記粒界炭化物の最大径の下限は、本発明で規定の成分組成および製造条件の範囲内において、おおよそ0.20μm程度である。
本発明では、板厚中央部の組織を上記の通り制御する必要があるが、その他の部位、例えば板厚表層部等の組織については特に限定されない。なお、板厚中央部より表層側の部分は、板厚中央部よりも一般的に焼入れ時の冷却速度が大きいので、板厚中央部よりも微細な組織が得られやすく、強度、靭性ともに板厚中央部よりも良くなる傾向にある。
板厚中央部において、上記(a)および(b)の微細な組織を得るには、上記鋼部材の製造に用いる鋼板の成分組成を、特に下記の通りとする必要がある。即ち、上記平均円相当径Dの微細のために後述する量のBを含有させ、フリーB(固溶B)として存在させることによって焼入れ性を高めることが必要である。そのためには、フリーBを確保すべく、Bと結合してBNを形成しやすいNを、後述する量のAlを添加してAlNとして固定することが重要である。このAlNは、焼入れ時に旧オーステナイト(γ)粒の粗大化を抑制して、微細な組織を得るために有用である。
上記の通りDの微細化のために、合金元素を添加して焼入性を向上させることが有効であるが、過剰なC、過剰なCuやNiは強度を必要以上に高めて、靭性の低下を招く。よって靭性確保の観点から、C、CuおよびNiの上限を設定する必要がある。
また本発明では、NbとTiの含有量を抑える。これらの元素が多く含まれると、上記範囲のD/dを達成することが困難となるからである。またこれらの元素は、必要以上に強度を高めて加工性の低下を招くからである。更に、Ca、Mg、REMおよびZrの含有量も抑える。これらの元素は介在物を増加させ、靭性の低下を招くからである。また上記粒界炭化物のサイズ制御には、上記Cの他にCrの含有量も制御が必要である。更に、焼戻し脆化感受性を抑制して靭性を確保するには、Si等の含有量の制御も必要である。
更に製造条件として、後に詳述する通り、溶接に供する鋼板の製造時に、焼入れと焼戻しの条件を適正に制御することが重要である。
以下ではまず、上記組織や特性の確保に必要な、鋼板および鋼部材の成分組成について説明する。
C:0.110%以上0.15%以下
Cは、鋼板の焼入れ時に、冷却速度の小さい板厚中央部でも、焼戻ベイナイトと焼戻マルテンサイトの少なくとも一方を得ること、及び焼入れ性を増加させて平均結晶粒径Dの微細化を図り、D/dを上記範囲内とするために必要な元素である。また、粒界炭化物を確保して、十分な母材強度を得るためにも必要な元素である。これらの効果を十分発揮させるため、C量を0.110%以上とする。C量は、好ましくは0.120%以上、より好ましくは0.130%以上である。しかしC量が過剰であると、長時間のPWHT後に、粒界炭化物の粗大化を招き、靭性が劣化する。また、鋼板の溶接時に溶接割れが生じやすくなる。よってC量は0.15%以下とする。C量は、好ましくは0.145%以下である。
Si:0.50%以上0.80%以下
Siは、鋼部材の母材強度、即ち、板厚中央部の強度の向上に有効な元素である。また脱酸材として用いられる元素でもある。更に、焼戻し脆化感受性を抑制して靭性確保にも有用な元素である。これらの効果を発揮させるため、Si量は0.50%以上とする。Si量は、好ましくは0.55%以上、より好ましくは0.60%以上である。しかしながら、Si量が過剰になると、焼戻し脆化感受性が高まり、靭性が劣化するので、0.80%以下とする。Si量は、好ましくは0.75%以下、より好ましくは0.70%以下である。
Mn:0.40%以上0.65%以下
Mnは、オーステナイトを安定化させ、変態温度を低温化させることで、焼入れ性を向上させ、微細な組織を得て、その結果、強度と靭性を確保する上で有効な元素である。こうした効果を発揮させるため、Mnは0.40%以上含有させる。Mn量は、好ましくは0.45%以上であり、より好ましくは0.46%以上である。しかしながらMnを過剰に含有させると、焼戻し脆化感受性が高まり、靭性が劣化する。よって、Mn量は、0.65%以下、好ましくは0.60%以下、より好ましくは0.55%以下、より更に好ましくは0.50%以下である。
P:0%超0.0070%以下
不可避不純物であるPは、母材と溶接部の靭性に悪影響を及ぼすとともに、特に鋼部材の粒界に偏析し、粒界割れを招き、靭性を劣化させる。これらの不都合を招かないように、P量は0.0070%以下に抑制する。P量は、好ましくは0.0060%以下、より好ましくは0.0050%以下である。
S:0%超0.0070%以下
Sは、MnSを形成し、鋼板の溶接時に溶接割れを招きやすい元素である。よってSは、できるだけ少ない方が好ましく、S量は0.0070%以下、好ましくは0.0050%以下、より好ましくは0.0030%以下に抑える。
Al:0.030%以上0.080%以下
Alは、上述の通り、本発明では非常に重要な元素であり、焼入れ時にNをAlNとして固定し、フリーBによる焼入れ性確保に必要な元素である。また、AlNは、焼入れ時の旧γ粒の粗大化を抑制し、微細な組織を得るために有用である。更にAlは脱酸に必要な元素でもある。これらの効果を発揮させるため、Al量を0.030%以上とする。Al量は、好ましくは0.040%以上、より好ましくは0.045%以上、更に好ましくは0.050%以上である。一方、Al量が過剰になると、アルミナ系の粗大な介在物が形成されて靭性が低下する。よってAl量は0.080%以下とする。Al量は、好ましくは0.075%以下であり、より好ましくは0.071%以下である。
Cu:0.05%以上0.20%以下、Ni:0.05%以上0.30%以下
CuおよびNiは、靭性を大きく損なうことなく、強度を高めるのに有効な元素である。この効果を十分に発揮させるため、Cuを0.05%以上、好ましくは0.10%以上、より好ましくは0.11%以上、かつNiを0.05%以上、好ましくは0.10%以上、より好ましくは0.15%以上、更に好ましくは0.16%以上含有させる。ただし、これらの元素の多量の添加は、前述の通り強度を必要以上に高めて、靭性の低下を招く。よって、Cu量の上限は0.20%以下、Ni量の上限は0.30%以下とする。Cu量は、より好ましくは0.18%以下、更に好ましくは0.17%以下である。またNi量は、より好ましくは0.28%以下、更に好ましくは0.26%以下である。
Cr:1.05%以上1.50%以下
Crは、PWHTによる炭化物の粗大化を抑制し、鋼部材の靭性を確保するのに有効な元素である。また、中・高温域における強度の確保、更には耐食性の向上にも有効な元素である。これらの効果を発揮させるため、Crを1.05%以上含有させる。Cr量は、好ましくは1.10%以上、より好ましくは1.20%以上である。一方、Crを過剰に含有させると、焼戻し脆化感受性が高まり、PWHT後に粒界割れが生じやすく、靭性に悪影響を及ぼす。また過剰のCrは、加工性や溶接性の低下、更には製造コストの上昇を招く。よって、Cr量は1.50%以下とする。Cr量は、好ましくは1.45%以下、より好ましくは1.40%以下である。
Mo:0.45%以上0.65%以下
Moは、焼入れ性を高めるとともに、焼戻し脆化の抑制に有効な元素である。これらの効果を得るには、Moを0.45%以上含有させる必要がある。Mo量は、好ましくは0.50%以上であり、より好ましくは0.55%以上である。一方、Mo量が0.65%を超えても効果の向上は小さく、製造コストの上昇につながるため、Mo量の上限は0.65%以下とする。Mo量は、好ましくは0.62%以下である。
N:0.0030%以上0.0070%以下
Nは、Alとともに本発明に重要な元素である。AlNを生成し、焼入れ時にNを固定することにより、フリーBによる焼入れ性向上効果を最大限発揮させることができる。またAlNは、焼入れ時の旧γ粒の粗大化を抑制し、微細な組織を得るために有用である。
N量が0.0030%未満であると、AlNが不足し、旧γ粒が粗大になり、その結果、微細な組織が得られず靭性が劣化する。よって、N量は0.0030%以上とする。好ましくは0.0035%以上、より好ましくは0.0040%以上である。一方、N量が0.0070%を超えると、AlによるN固定効果が得られず、BNが生成してしまい、フリーBによる焼入れ性向上効果が阻害されて、組織が粗大化し、靭性が劣化する。よってN量は0.0070%以下とする。N量は、好ましくは0.0060%以下、より好ましくは0.0055%以下、更に好ましくは0.0050%以下である。
B:0.0003%以上0.0010%以下
Bは、上述した通り、フリーB(固溶B)として存在させることで、焼入れ性を高め、特に、焼入れ時の冷却速度が遅い板厚が厚めの鋼板の板厚中央部においても、平均結晶粒径Dを微細化することができる。その結果、上記板厚中央部においても優れた靭性を確保することができる。この様な効果を得るには、前述のAlおよびNの含有量と後述する焼入れ条件を制御することを前提としても、Bは0.0003%以上必要である。B量は、好ましくは0.0005%以上であり、より好ましくは0.0007%以上である。一方、Bを過度に含有させると、かえって焼入れ性が低下する場合や、溶接割れ等を招くことがあるため、B量の上限は0.0010%とする。B量は、好ましくは0.0009%以下であり、より好ましくは0.0008%以下である。
V:0%以上0.030%以下
Vは、炭化物、窒化物を形成して強度向上に寄与するとともに、焼入れ性を高めて微細な組織を得るのにも有効な元素である。これらの効果を得るため、V量を好ましくは0.003%以上含有させてもよい。V量は、より好ましくは0.005%以上である。一方、Vの過剰な添加は、コストの上昇を招くため、上限は0.030%以下とする。V量は、好ましくは0.027%以下であり、より好ましくは0.020%以下、さらに好ましくは0.010%以下である。
Nbが0.005%以下、Tiが0.001%以下、かつCa、Mg、REMおよびZrの合計が0.0010%以下
本発明では、Nbを0.005%以下、Tiを0.001%以下、かつCa、Mg、REM(Rare Earth Metal)およびZrの合計を0.0010%以下に抑える。上述の通り、NbとTiは、焼入れ時の旧γ粒を微細にし、焼入性を低下させる。
その結果、大角粒界サイズが粗大、即ち、平均円相当径Dが大きくなり、D/dが規定範囲を超えてしまう。またNbとTiは、必要以上に強度を高め、加工性の低下を招く元素でもある。更にCa、Mg、REMおよびZrは、介在物を増加させ、靭性の低下を招く。以上のことから、これらの元素は極力抑えることが好ましく、いずれの元素もゼロであってもよい。本発明において前記REMは、ランタノイド元素、即ちLaからLuまでの15元素、およびスカンジウムとイットリウムを含む意味である。
本発明の鋼板および鋼部材は上記化学成分を含有し、残部は鉄および不可避不純物である。
次に、本発明の鋼板および鋼部材の製造方法について説明する。まず鋼板の製造方法から説明する。
上述した成分組成を有する鋼片を、常法により熱間圧延して鋼板を得た後、該鋼板に対し、焼入れと焼戻しを行う。鋼部材の上記(a)および(b)で規定の微細な組織を得るには、鋼板の製造工程において、下記の条件で焼入れおよび焼戻しを行う必要がある。
焼入れの加熱温度:910℃以上940℃以下、かつ該加熱温度での保持時間:25分以上60分以下
焼入れの加熱温度を910〜940℃、かつ加熱保持時間を25分以上とすることによって、旧γ粒をある程度成長させることができ、その結果、焼入れ性が向上し、微細な組織を得ることができる。
焼入れの加熱温度が910℃を下回ると、焼入れ時の旧γ粒が微細なままであるため、鋼板の板厚中央部の様に冷却速度の遅い部分では、微細な組織が得られず、優れた靭性を確保することができない。よって、焼入れの加熱温度は910℃以上とする。好ましくは920℃以上である。一方、加熱温度が940℃を超えると、AlNとして固定していたNが一部固溶し、Bと結合してBNとなり、フリーBによる焼入れ性向上効果が得られない。その結果、微細な組織が得られず、靭性が劣化する。よって、焼入れの加熱温度は940℃以下とする。好ましくは935℃以下である。
また、焼入れ時の加熱温度が上記範囲内であっても、該加熱温度での保持時間(加熱保持時間)が25分より短いと旧γ粒が微細なままであるため、所定量のBを含んでいても十分な焼入れ性が得られず、その結果、組織が粗大化して靭性が劣化する。よって加熱保持時間は25分以上とする。好ましくは30分以上である。加熱保持時間の上限は、生産性等の観点から60分以下であり、好ましくは55分である。
尚、上記の通り焼入れ時の条件を制御して、旧γ粒径を50〜100μm程度の範囲内とすれば、微細な組織が容易に得られるため好ましい。
前記焼入れに続いて、焼戻しを620℃以上Ac1点以下の温度、かつ下記式(1)で表されるPT値が19.2以上20.6以下となる加熱温度および加熱時間で行う。
T値=TT×(20+logtT)×10-3 …(1)
式(1)中、TTは焼戻しの加熱温度(K)、tTは焼戻しの加熱時間(hr)を示す。
焼戻しの加熱温度(焼戻し温度):620℃以上Ac1点以下
前記焼入れでは、板厚によらず表層近傍は冷却速度が大きく、表層の硬さが硬くなりやすいため、焼入れ後、焼戻しを行うことにより鋼板の曲げ加工等の加工性を向上させることができる。よって、鋼部材の製造工程において、該鋼板の加工性を向上させる観点からは、表層の硬さを減じるために焼戻しを行うことが好ましい。焼戻しの条件としては、焼戻し温度を620℃以上Ac1点以下とすることが好ましい。焼戻し温度を620℃以上とすることによって、表層の硬さが十分低減されて、良好な加工性を確保することができる。焼戻し温度は、より好ましくは700℃以上である。一方、焼戻し温度がAc1点を超えると、組織の一部が逆変態し、その後空冷されるため、ポリゴナルフェライトが混在するようになる。その結果、所望の組織である焼戻ベイナイトと焼戻マルテンサイトの少なくとも一方が得られず、強度低下を招き、かつ逆変態部は組織が粗いため、靭性低下も招く。よって、焼戻し温度の上限はAc1点以下とすることが好ましい。前記焼戻し温度は、より好ましくは750℃以下である。尚、上記Ac1点は、後述する実施例に記載の方法で求められる。
焼戻しは、更に、規定の式(1)で表されるPT値が上記範囲内となる加熱温度および加熱時間で行う。上記PT値が19.2を下回ると、硬さが高くなりすぎて加工性が低下するといった不具合が生じる。よって、上記P値は19.2以上であり、好ましくは19.3以上、より好ましくは19.4以上である。一方、上記PT値が20.6を上回ると、炭化物の粗大化等が生じて、靭性等の特性の低下を招く。よって、上記PT値は20.6以下であり、好ましくは20.3以下、より好ましくは20.0以下である。
本発明の鋼板の板厚は、100mm以下である。板厚の下限は、6mm以上、更には10mm以上である。上記鋼板を用いて得られる鋼部材も、上記鋼板と同じ板厚である。
本発明の鋼部材は、上記焼入れおよび焼戻しを行って得られた鋼板に対し、一般的に行われている方法で溶接、更には、上述した通りひずみを除去するために溶接後熱処理(PWHT)を施して得られる。
本発明の鋼部材の製造方法は、上記溶接後熱処理を、下記式(2)で表されるPPWHT値が20以上となる加熱温度および加熱時間で行うところに特徴を有する。この条件は、高温長時間の厳しい条件(例えば、温度:680℃以上かつ加熱時間20時間以上の場合、PPWHT値は20.3)を示している。本発明では、この様に高温長時間の厳しい条件で熱処理を経た後であっても、靭性の十分に優れた鋼部材が得られる。上記PWHTの条件として、例えば加熱温度:600〜690℃、加熱時間:5時間〜22時間とすることが挙げられる。
PWHT値=TPWHT×(20+logtPWHT)×10-3 …(2)
式(2)中、TPWHTは溶接後熱処理の加熱温度(K)、tPWHTは溶接後熱処理の加熱時間(hr)を示す。
本発明の鋼部材は、例えば石油精製をはじめとする化学工業で用いる中・高温圧力容器等として用いることができる。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
表1−1および表1−2に示す成分組成を満たす鋼片に対し、常法により熱間圧延を施した後、表2に示す条件で焼入れおよび焼戻しを行い、表2に示す板厚の鋼板を得た。前記板厚は、鋼部材を模擬した試験片の板厚でもある。表2に示すAc1点は、表1−1および表1−2に示す成分組成の鋼板を用い、0.5℃/秒の昇温速度で加熱した際の膨張率変化を解析することによって求めた。尚、焼入れおよび焼戻しの加熱温度は、鋼板の板厚中心部の温度であり、熱処理炉の炉内雰囲気温度と在炉時間から差分法により計算するか、実験炉を用いた場合は同板厚のダミー材に熱電対を差し込んで実測した温度である。
更に、溶接後のPWHTを模擬して、大気雰囲気の台車型電気炉にて、加熱温度:690℃で加熱保持時間:22時間の条件で熱処理を行って、鋼部材を模擬した試験片を得た。前記条件は、現状実施されている条件の中でも著しく厳しい条件であり、この場合、PPWHT値は20.6である。室温から上記加熱温度までの昇温速度と、上記加熱温度から室温までの降温速度は、いずれも55℃/hr以下とした。
尚、鋼部材を製造する際、前記鋼板を溶接してからPWHTを施すが、該溶接として例えば多層溶接が実施される後、該溶接は、鋼部材(溶接熱影響部も含む)の特性(特に靭性)に悪影響を及ぼすことは少ないため、本実施例では、溶接に関する熱処理は施さずに試験片を作製した。
上記の様にして得られた試験片を用い、金属組織の評価、引張試験、およびシャルピー衝撃試験を下記の要領で実施した。また、鋼部材の製造工程で要求されうる特性である鋼板の加工性を評価するため、前記PWHT実施前の鋼板を用いて表層硬さの測定を行った。
[金属組織の観察]
金属組織の観察は以下のようにして実施した。
(1)圧延方向に平行でかつ鋼板表面に対して垂直な、鋼板表裏面を含む板厚断面を観察できるよう上記鋼板からサンプルを採取した。
(2)湿式エメリー研磨紙(#150〜#1000)での研磨、またはそれと同等の機能を有する研磨方法(ダイヤモンドスラリー等の研磨剤を用いた研磨等)により、観察面の鏡面仕上を行った。
(3)研磨されたサンプルを、3%ナイタール溶液を用いて腐食し、結晶粒界を現出させた。
(4)t(板厚)/2部位において、現出させた組織を400倍の倍率で写真撮影した。
本実施例では6cm×8cmの写真として撮影した。次に、撮影した写真にて、旧オーステナイト粒界にポリゴナルフェライトが生成しているものを判別し、黒く塗りつぶした。
次に、前記写真を画像解析装置に取り込んだ。前記写真の領域は400倍の場合、150μm×200μmに相当する。画像解析装置への取り込みは、いずれの倍率の場合も、領域の合計が1mm×1mm以上となるよう取り込んだ。即ち、400倍の場合、上記写真を少なくとも35枚取り込んだ。
(5)画像解析装置において、写真毎に黒色の面積率を算出し、全ての写真の平均値をポリゴナルフェライト(F)分率とし、全体から差し引いたものを、焼戻ベイナイトと焼戻マルテンサイトの少なくとも一方(B+M)の分率とした。
尚、ここでいう焼戻ベイナイトは、上部ベイナイト、下部ベイナイト、ベイニティックフェライトなどが焼戻された組織をいうが、一般的に焼戻マルテンサイトも含め、これらの組織を選別することは難しいこと、またPWHT後は組織が十分焼き戻されていることから、ポリゴナルフェライト以外の組織を、焼戻ベイナイトと焼戻マルテンサイトの少なくとも一方(B+M)とした。尚、本実施例で使用したいずれの試験片にも、パーライト組織は含まれていないことも確認した。
[EBSP法による大角粒界サイズの測定]
EBSP法を用いて、隣接する2つの結晶の方位差(結晶方位差)が15°以上の大角粒界で囲まれた結晶粒の平均円相当径(大角粒界サイズ)を求めた。その測定要領は以下の通りとした。
(1)圧延方向に平行でかつ鋼板表面に対して垂直な、鋼板表裏面を含む板厚断面を、観察できるよう上記鋼板からサンプルを採取した。
(2)湿式エメリー研磨紙(#150〜#1000)での研磨、またはそれと同等の機能を有する研磨方法(ダイヤモンドスラリー等の研磨剤を用いた研磨等)により、観察面の鏡面仕上を行った。
(3)TexSEM Laboratories社製のEBSP(Electron BackScattering Pattern)装置を使用し、板厚方向のt/2部において測定範囲:200×200μm、0.5μmピッチで、結晶方位差が15°以上の境界を結晶粒界とし、該結晶粒界で囲まれた結晶粒(大傾角粒)のサイズを測定した。この時、測定方位の信頼性を示すコンフィデンス・インデックスが0.1よりも小さい測定点は解析対象から除外した。
(4)このようにして求められる大角粒界で囲まれた結晶粒のサイズの平均値を算出して、本発明における「隣接する2つの結晶の方位差が15°以上の大角粒界で囲まれた結晶粒の平均円相当径」とした。尚、大角粒界で囲まれた結晶粒のサイズが1.0μm以下の場合は、測定ノイズと判断し、平均値計算の対象から除外した。
[粒界炭化物のサイズの測定]
粒界炭化物のサイズは下記のとおり測定した。
(1)圧延方向に平行でかつ鋼板表面に対して垂直な、鋼板表裏面を含む板厚断面を観察できるよう上記鋼板からサンプルを採取した。
(2)湿式エメリー研磨紙(#150〜#1000)での研磨、またはそれと同等の機能を有する研磨方法(ダイヤモンドスラリー等の研磨剤を用いた研磨等)により、観察面の鏡面仕上を行った。
(3)研磨されたサンプルを、3%ナイタール溶液を用いて腐食し、結晶粒界を現出させた。
(4)t(板厚をいう。以下同じ)/2部位において、現出させた組織を1000倍の倍率で写真撮影した。本実施例では6cm×8cmの写真として撮影した。次に、前記写真を画像解析装置に取り込んだ。前記写真の領域は、1000倍の場合、60μm×80μmに相当する。画像解析装置への取り込みは、領域の合計が0.4mm×0.4mm以上となるよう取り込んだ。即ち、1000倍の場合は上記写真を少なくとも35枚取り込んだ。
(5)画像解析装置において、写真毎に粒界炭化物のサイズとして短軸長さを算出し、全ての写真の粒界炭化物サイズの最大値を算出した。
[引張試験(引張特性の評価)]
t/2の部位から圧延直角方向に丸棒引張試験片を採取して、ASTM A370の要領で引張試験を行い、降伏強度および引張強度を測定した。そして、降伏強度であるYSが310MPa以上、かつ引張強度であるTSが515MPa以上の場合を、高強度であると評価した。
[シャルピー衝撃試験(衝撃特性の評価)]
t/2の部位から圧延直角方向にフルサイズのVノッチ試験片を採取して、ASTM A370の要領で試験温度−38℃にてシャルピー衝撃試験を行い、シャルピー吸収エネルギーを測定した。なお、シャルピー吸収エネルギーは3本の試験片の平均値を採用した。そして、−38℃におけるシャルピー吸収エネルギーvE-38が100J以上の場合を、靭性に優れている、即ち衝撃特性に優れていると評価した。
[表層硬さの測定(鋼板の加工性の評価)]
鋼板の加工性を評価するため、PWHT実施前の鋼板を用い、表面から1mm深さの位置にて、ASTM 370の要領でブリネル硬さ試験を行った。そして、HBWの平均値が200以下の場合を、加工性に優れると評価し、該HBWの平均値が200超の場合を、加工性は通常レベルと評価した。
これらの結果を表2および表3に示す。尚、以下のNo.は、表2および表3の試験No.を示す。
Figure 2020090728
Figure 2020090728
Figure 2020090728
Figure 2020090728
表1−1、表1−2、表2および表3から次のことがわかる。即ち、No.1〜5、7〜9、12〜36は、本発明で規定の成分組成を満たす鋼を用い、かつ規定の条件で製造しているため、鋼板は優れた加工性を示し、かつ得られた鋼部材は、所望の組織を有し、板厚中央部において優れた強度と靭性を示した。
これに対し、上記以外の例は、成分組成・製造条件のいずれかが外れているため、鋼板の加工性を確保できないか、板厚中央部における引張特性、衝撃特性の少なくともいずれかが劣る結果となった。
即ち、No.6は、成分組成を満たしているが、焼戻し時のP値が低すぎたため、十分に焼戻しされず、ブリネル硬さが高い、即ち加工性に劣った。一方、No.11は成分組成を満たしているが、焼戻し時のP値が高すぎたため、炭化物が粗大化し、特性が低下した。
No.10は、成分組成を満たしているが、焼入れの加熱時間が短すぎるため、十分に焼入れが行われず、D/dが上限を超え、靭性に劣る結果となった。
No.37は、C量が過剰であるため、靭性が劣化すると共に、ブリネル硬さが高く加工性に劣る結果となった。
No.38、42および49は、Bを含んでいないため、D/dが大きくなり、靭性に劣った。またNo.48は、Bを含んでいないためD/dが大きくなり、かつP量が過剰であるため、靭性に劣った。
No.39とNo.46は、一定以上のNbを含んでいるため、焼入れ時の旧γ粒が微細となり、十分な焼入性が得られずD/dが大きくなり、靭性に劣った。またNo.46では加工性も低下した。
No.40および43は、C量が不足しているために十分な焼入れ性を確保できず、D/dが大きくなり、靭性に劣った。またNo.41は、C量が不足しているため、フェライトが多く生成して所望の強度を確保できず、かつD/dが大きくなり、靭性に劣った。
No.44は、C量が不足しかつBを含んでいないため、十分な焼入れ性を確保できず、その結果、強度が低く、かつD/dが大きくなり靭性が低下した。No.51は、C量が不足しているために、炭化物サイズが小さくD/dが大きくなり、特に所望の靭性を確保できなかった。
No.45は、一定以上のTiを含んでいるため、焼入れ時の旧γ粒が微細となり、十分な焼入性が得られずD/dが大きくなり、靭性に劣った。
No.47は、P量が過剰であるため、靭性に劣った。
No.50は、B量が不足しており、焼入れ性が足りないため靭性が低下した。
No.52は、CuとNiを過剰に含んでおり、かつC量も過剰であるため、靭性が低下した。
図1は、上記表2および表3のデータを用い、D/dと−38℃でのシャルピー吸収エネルギーとの関係を示したグラフである。このグラフから、D/dを54以下とすれば、十分に優れた靭性を確保できることがわかる。尚、図1中のNo.47および52は、上述の通り、D/dは本発明の範囲を満たしているものの、成分組成が外れたため靭性が低下した例である。

Claims (4)

  1. C:0.110%(質量%の意味。化学成分について以下同じ)以上0.15%以下、Si:0.50%以上0.80%以下、
    Mn:0.40%以上0.65%以下、
    P:0%超0.0070%以下、
    S:0%超0.0070%以下、
    Al:0.030%以上0.080%以下、
    Cu:0.05%以上0.20%以下、
    Ni:0.05%以上0.30%以下、
    Cr:1.05%以上1.50%以下、
    Mo:0.45%以上0.65%以下、
    N:0.0030%以上0.0070%以下、
    B:0.0003%以上0.0010%以下、および
    V:0%以上0.030%以下
    を満たし、
    Nbが0.005%以下、Tiが0.001%以下、かつCa、Mg、REMおよびZrの合計が0.0010%以下に抑えられ、残部が鉄および不可避不純物であり、
    板厚が100mm以下であって、
    板厚中央部における組織が、下記(a)、(b)の全てを満たし、かつ−38℃におけるシャルピー吸収エネルギーが100J以上であることを特徴とする鋼部材。
    (a)組織が焼戻ベイナイトと焼戻マルテンサイトの少なくとも一方である。
    (b)隣接する2つの結晶の方位差が15°以上の大角粒界で囲まれた結晶粒の平均円相当径をD、粒界炭化物の最大径をdとしたとき、D/dで表わされる値が54以下である。
  2. 請求項1に記載の鋼部材の製造に用いる鋼板であって、
    C:0.110%以上0.15%以下、
    Si:0.50%以上0.80%以下、
    Mn:0.40%以上0.65%以下、
    P:0%超0.0070%以下、
    S:0%超0.0070%以下、
    Al:0.030%以上0.080%以下、
    Cu:0.05%以上0.20%以下、
    Ni:0.05%以上0.30%以下、
    Cr:1.05%以上1.50%以下、
    Mo:0.45%以上0.65%以下、
    N:0.0030%以上0.0070%以下、
    B:0.0003%以上0.0010%以下、および
    V:0%以上0.030%以下
    を満たし、
    Nbが0.005%以下、Tiが0.001%以下、かつCa、Mg、REM、およびZrの合計が0.0010%以下に抑えられ、残部が鉄および不可避不純物であり、かつ板厚が100mm以下であることを特徴とする鋼板。
  3. 請求項2に記載の鋼板の製造方法であって、請求項2に記載の成分組成を満たす鋼片を熱間圧延後、焼入れを、加熱温度:910℃以上940℃以下、かつ該加熱温度での保持時間:25分以上60分以下の条件で行い、この焼入れ後に焼戻しを、加熱温度:620℃以上Ac1点以下、かつ下記式(1)で表されるPT値が19.2以上20.6以下となる加熱温度および加熱時間で行うことを特徴とする鋼板の製造方法。
    T値=TT×(20+logtT)×10-3 …(1)
    式(1)中、TTは焼戻しの加熱温度(K)、tTは焼戻しの加熱時間(hr)を示す。
  4. 請求項1に記載の鋼部材の製造方法であって、請求項2に記載の鋼板を用いて溶接し、更に溶接後熱処理を、下記式(2)で表されるPPWHT値が20以上となる加熱温度および加熱時間で行うことを特徴とする鋼部材の製造方法。
    PWHT値=TPWHT×(20+logtPWHT)×10-3 …(2)
    式(2)中、TPWHTは溶接後熱処理の加熱温度(K)、tPWHTは溶接後熱処理の加熱時間(hr)を示す。
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