JP2004162076A - 溶接性および耐震性に優れた鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】質量%で、C:0.005〜0.2%、N:0.0001〜0.01%、Al:0.001〜0.1%、Si:0.01〜1%、Mn:0.1〜2%、P,S:0.02%以下、さらにTi:0.001〜0.1%、V:0.001〜0.2%、Nb:0.001〜0.1%の1種または2種以上を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる鋼組成を有し、かつ、Ti、Nb、Vの1種または2種以上を含有する炭化物、炭窒化物、窒化物のうちで円相当直径の寸法が50nm以上10000nm以下のものの個数密度が5.0×106個/mm2未満であり、該個数密度をTi、Nb、Vのうち該個数密度の算出対象となった炭化物、炭窒化物、窒化物が含有する種類の合金元素の添加量の総和で除した値を5.0×107個/(mm2・質量%)未満とした鋼板。
【選択図】 なし
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、耐震性および溶接性に優れた鋼板及びその製造方法に関するものである。この製法で製造した鋼材は、造船、橋梁、建築、海洋構造物、圧力容器、ラインパイプなどの溶接構造物一般に用いることができるが、高い耐震性が要求される建築構造物や橋梁構造物のほか、溶接施工性や溶接熱影響部靱性が必要となる部位での使用において特に有効である。
【0002】
【従来の技術】
鋼構造物の耐震性を高めるためには、鋼材の降伏比(YR)を低くすることと、靭性、特に、溶接熱影響部の靭性を高くすることが重要となる。また、溶接性を高めるためには、前記の溶接熱影響部の靭性を高くするのみでなく、同一の強度を低いPcmで達成し、極力溶接施工性を高めることが重要である。
【0003】
鋼材の降伏比を低減する手法としては、例えば、圧延後にAr3とAr1の間の温度まで冷却したのちに加速冷却を実施することで組織をフェライトとベイナイトやマルテンサイトとの混合組織とし、低YRを達成する発明が開示されている(例えば、特許文献1参照)。さらに、圧延後に焼き入れた後、Ac1とAc3の間の温度まで再加熱し、組織の一部をオーステナイト化した後に急冷し、混合組織とする発明が開示されている(例えば、特許文献2参照)。いずれの方法も低YR化に有効ではあるが、強度を確保するためにCを始めとする合金元素の添加量を増大し、硬質第二相となる以前のオーステナイト中の合金元素量を高める必要があるため、溶接熱影響部の靱性は低下する。つまり、YR低減と溶接熱影響部靱性の向上を両立させることは上記の従来技術では困難である。
【0004】
一方、溶接性を確保するためにはPcmを低減する必要があるが、強度を確保するためには一般的に合金元素の添加量増加が必要となるため、溶接性と強度は基本的に相反する特性となる。Pcmを極力低く抑えつつ強度を確保する手法としては、加速冷却を実施する手法がある(例えば、特許文献3参照)。この手法によれば、熱間圧延の後400℃以下まで加速冷却を実施することにより、極力炭素当量を低く抑えた上で高い強度を確保することが可能であるが、400℃以下の低温で水冷停止をした場合には、母材の靱性や良好な形状の確保が難しく、その適用には限界がある。一方、溶接熱影響部の靱性を向上させるための手法が開示されている(例えば、特許文献4参照)。この手法では、Si量やsol.Al量、N量の低減、TiやCaの添加により溶接熱影響部の靱性向上が可能であるが、高い強度が必要な場合には合金元素添加量は必然的に増大するため、溶接熱影響部靱性の抜本的向上は不可能である。
【0005】
以上述べたように、高い溶接性と耐震性を両立することは、上記の技術では不可能であると言わざるを得ない。
【0006】
【特許文献1】
特開平10−265844号公報
【特許文献2】
特開平03−115524号公報
【特許文献3】
特開昭62−196325号公報
【特許文献4】
特開2001−11566号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記の問題点を解消し、耐震性および溶接性に優れた鋼材及びその製造方法の提供を課題としている。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、制御圧延、制御冷却によって鋼板を高強度化する検討を進めた結果、圧延、水冷といった鋼板製造プロセスおよび鋼板の化学成分および析出物の存在状態を特定の範囲に制御することにより、同一の強度で比較した場合の溶接性を従来に比べて大幅に高めることが可能であること、さらに製造方法を限定することで耐震性能も高めることが可能であることを新たに知見し、この有効な範囲を限定するに至り、本発明を完成したもので、その要旨とするところは以下の通りである。
(1)質量%で、C:0.005〜0.2%、N:0.0001〜0.01%、Al:0.001〜0.1%、Si:0.01〜1%、Mn:0.1〜2%、P:0.02%以下、S:0.02%以下を含有し、さらにTi:0.001〜0.1%、V:0.001〜0.2%、Nb:0.001〜0.1%の1種または2種以上を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる鋼組成を有し、かつ、Ti、Nb、Vの1種または2種以上を含有する炭化物、炭窒化物、窒化物のうちで円相当直径の寸法が50nm以上10000nm以下のものの個数密度が5.0×106個/mm2未満であり、該個数密度をTi、Nb、Vのうち該個数密度の算出対象となった炭化物、炭窒化物、窒化物が含有する種類の合金元素の添加量の総和で除した値が5.0×107個/(mm2・質量%)未満であることを特徴とする、溶接性および耐震性に優れた鋼板。
(2)ミクロ組織の70%未満がベイナイトあるいはマルテンサイトを主体とする組織であり、残部がフェライトを主体とする組織であることを特徴とする、前記(1)に記載の溶接性および耐震性に優れた鋼板。
(3)質量%で、さらに、Cu:0.005〜1%、Ni:0.01〜2%、Cr:0.01〜1%、Mo:0.01〜1%の1種または2種以上をさらに含有することを特徴とする、前記(1)または(2)に記載の溶接性および耐震性に優れた鋼板。
(4)質量%で、さらに、Ca:0.0005〜0.02%、Mg:0.0005〜0.02%、REM:0.001〜0.1%の1種または2種以上を含有することを特徴とする、前記(1)ないし(3)のいずれか1項に記載の溶接性および耐震性に優れた鋼板。
(5)質量%で、C:0.005〜0.2%、N:0.0001〜0.01%、Al:0.001〜0.1%、Si:0.01〜1%、Mn:0.1〜2%、P:0.02%以下、S:0.02%以下を含有し、さらにTi:0.001〜0.1%、V:0.001〜0.2%、Nb:0.001〜0.1%の1種または2種以上を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる鋼組成を有する鋼片または鋳片を1050℃以上1350℃以下の温度域に加熱し、該温度域に20分以上保持をした後に圧延を開始し、圧延をAr3点以上900℃以下で終了した後、20秒以内に鋼板表面の平均冷却速度が0.5℃/s以上の冷却を行い、300℃以上で冷却を終了した後空冷することを特徴とする溶接性および耐震性に優れた鋼板の製造方法。
(6)質量%で、C:0.005〜0.2%、N:0.0001〜0.01%、Al:0.001〜0.1%、Si:0.01〜1%、Mn:0.1〜2%、P:0.02%以下、S:0.02%以下を含有し、さらにTi:0.001〜0.1%、V:0.001〜0.2%、Nb:0.001〜0.1%の1種または2種以上を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる鋼組成を有する鋼片または鋳片を1050℃以上1350℃以下の温度域に加熱し、該温度域に20分以上保持をした後に圧延を開始し、圧延をAr3点以上900℃以下で終了した後、20秒以内に鋼板表面の平均冷却速度が0.5℃/s以上の冷却を行い、500℃未満で冷却を終了した後空冷し、さらにその後に900℃未満の温度で焼き戻しを行うことを特徴とする溶接性および耐震性に優れた鋼板の製造方法。
(7)質量%で、C:0.005〜0.2%、N:0.0001〜0.01%、Al:0.001〜0.1%、Si:0.01〜1%、Mn:0.1〜2%、P:0.02%以下、S:0.02%以下を含有し、さらにTi:0.001〜0.1%、V:0.001〜0.2%、Nb:0.001〜0.1%の1種または2種以上を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる鋼組成を有する鋼片または鋳片を1050℃以上1350℃以下の温度域に加熱し、該温度域に20分以上保持をした後に圧延を開始し、圧延をAr3点以上900℃以下で終了した後、20秒以内に鋼板表面の平均冷却速度が0.5℃/s以上の冷却を行い、該冷却をAr3点以下500℃以上の温度域で停止し、さらに、その後、600秒以内に鋼板表面の平均冷却速度が0.5℃/s以上の冷却を行うことを特徴とする、溶接性および耐震性に優れた鋼板の製造方法。
(8)質量%で、C:0.005〜0.2%、N:0.0001〜0.01%、Al:0.001〜0.1%、Si:0.01〜1%、Mn:0.1〜2%、P:0.02%以下、S:0.02%以下を含有し、さらにTi:0.001〜0.1%、V:0.001〜0.2%、Nb:0.001〜0.1%の1種または2種以上を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる鋼組成を有する鋼片または鋳片を1050℃以上1350℃以下の温度域に加熱し、該温度域に20分以上保持をした後に圧延を開始し、圧延をAr3点以上900℃以下で終了した後、20秒以内に鋼板表面の平均冷却速度が0.5℃/s以上の冷却を行い、200℃以下まで冷却した後、Ac1点以上Ac3点以下まで再加熱し、その後、鋼板表面の平均冷却速度が0.1℃/s以上の冷却を行うことを特徴とする、溶接性および耐震性に優れた鋼板の製造方法。
(9)質量%で、さらに、Cu:0.005〜1%、Ni:0.01〜2%、Cr:0.01〜1%、Mo:0.01〜1%の1種または2種以上を含有することを特徴とする、前記(5)ないし(8)のいずれか1項に記載の溶接性および耐震性に優れた鋼板の製造方法。
(10)質量%で、さらに、Ca:0.0005〜0.02%、Mg:0.0005〜0.02%、REM:0.001〜0.1%の1種または2種以上を含有することを特徴とする、前記(5)ないし(9)のいずれか1項に記載の溶接性および耐震性に優れた鋼板の製造方法。
(11)加熱後の鋼片または鋳片の表面を、該表面の平均冷却速度が2℃/s以上で1050℃以下Ar3点以上の温度まで冷却し、復熱後に圧延を開始することを特徴とする、前記(5)ないし(10)のいずれか1項に記載の溶接性および耐震性に優れた鋼板の製造方法。
(12)圧延1パス当たりの平均圧下率が25%以上であることを特徴とする、前記(5)ないし(11)のいずれか1項に記載の溶接性および耐震性に優れた鋼板の製造方法。
(13)圧延最終パスの圧下率が25%以上であることを特徴とする、前記(5)ないし(12)のいずれか1項に記載の溶接性および耐震性に優れた鋼板の製造方法。
(14)圧延パス間の一部あるいは全てにおいて、鋼板の表面を該表面の平均冷却速度が2℃/s以上の冷却を行い、復熱後に次の圧延パスを実施することを特徴とする、前記(5)ないし(13)のいずれか1項に記載の溶接性および耐震性に優れた鋼板の製造方法。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明を詳細に説明する。
【0010】
本発明者らは、同一強度の鋼板で溶接性を高めるため、鋼塊の成分や鋼板製造のプロセスを多様に変化させた実験を行った結果、本発明の鋼の成分範囲で圧延、冷却といった鋼板製造プロセスを限定することにより、同一強度で高い溶接性が得られることを見いだした。さらに、併せて耐震性、すなわち降伏比を低減する手法についても検討し、溶接性と耐震性を併せて向上させるための条件も見い出した。
【0011】
本発明で述べる溶接性とは、溶接時に割れが発生しにくい尺度と溶接熱影響部の靭性レベルを指し、具体的にはたとえば溶接割れ感受性組成Pcmや溶接熱影響部のシャルピー衝撃吸収エネルギーで評価される。前者はその値が低い方が、後者はその値が高い方が溶接性が高いとされる。なお、Pcmは一般的に以下のような成分式の形で計算される。Pcm=C+Si/30+(Mn+Cu+Cr)/20+Ni/60+Mo/15+V/10+5B
本発明において最も重要な点は、析出物の存在状態を規定することである。具体的には、Ti、Nb、Vの1種または2種以上を含有する炭化物、炭窒化物、窒化物のなかで円相当直径の寸法が50nm以上10000nm以下のものの個数密度が5.0×106個/mm2未満であり、該個数密度をTi、Nb、Vのうち該個数密度の算出対象となった炭化物、炭窒化物、窒化物が含有する種類の合金元素の添加量の総和で除した値が5.0×107個/(mm2・質量%)未満と規定する。これは、50nm以上10000nmの範囲にある粗大析出物は、強度増大への寄与が小さく、しかも粗大析出物の生成により鋼中に固溶したTi、Nb、Vが減少するため、焼入性の増大による強度増加量が減少し、かつ強化に大きく寄与する微細析出物の生成量も減少するためである。つまり、粗大な析出物の量を低減することにより、固溶状態にあるTi、Nb、Vの量が増大し、焼入性の増大や析出強化を通じて同一強度を得るためのPcmを低減でき、溶接性は大幅に向上する。さらに、固溶状態にあるTi、Nb、Vの量の増大はベイナイトやマルテンサイトの変態温度を低下させるため、組織を軟らかい組織と硬い組織の複合組織とした場合には硬い組織の硬さの増大を通じて降伏比を下げる効果も得られる。上記の炭化物、窒化物、炭窒化物の個数密度が5.0×106個/mm2以上の場合には前記の効果が低下するため、これを5.0×106個/mm2未満と限定する。また、Ti、Nb、Vの1種または2種以上を含有する炭化物、炭窒化物、窒化物の絶対的個数はTi、Nb、Vの添加量の増大とともに大きくなるため、その添加量に対して個数密度の上限値を規定する必要がある。
【0012】
上記の個数密度をTi、Nb、Vのうち該個数密度の算出対象となった炭化物、炭窒化物、窒化物が含有する種類の合金元素の添加量の総和で除した値が5.0×107個/(mm2・質量%)以上となると、たとえ炭化物、炭窒化物、窒化物の個数密度が5.0×106個/mm2未満であってもTi、Nb、Vによる強度増大効果が小さくなるため、該個数密度をTi、Nb、Vのうち該個数密度の算出対象となった炭化物、炭窒化物、窒化物が含有する種類の合金元素の添加量の総和で除した値を5.0×107個/(mm2・質量%)未満と規定した。なお、本発明の効果は炭化物、炭窒化物、窒化物の個数密度が5.0×106個/mm2未満、個数密度をTi、Nb、Vのうち該個数密度の算出対象となった炭化物、炭窒化物、窒化物が含有する種類の合金元素の添加量の総和で除した値が5.0×107個/(mm2・質量%)未満で得られるが、それぞれの値が1.0×106個/mm2未満、1.0×107個/(mm2・質量%)未満の場合にはその効果が顕著となるため、望ましくはその値を1.0×106個/mm2未満、1.0×107個/(mm2・質量%)未満とする。
【0013】
なお、ここでTi、Nb、Vの1種または2種以上を含有する炭化物、炭窒化物、窒化物というのは、例えばTiC、NbC、V4C3、Ti(CN)、Nb(CN)、V(CN)、TiN、NbN、VNなどであり、さらにTi、Nb、Vの2種以上が複合した炭化物、炭窒化物、窒化物を含む。また、前記の炭化物、炭窒化物、窒化物が他の酸化物、硫化物、炭化物、窒化物、炭窒化物、例えばAl2O3、MnS、AlNなどと複合して析出した場合にもこれを含めるものとする。
【0014】
本発明ではTi、Nb、Vのうち1種または2種以上を含有する炭化物、炭窒化物、窒化物の寸法が50nm以上10000nm以下のものを規定しているが、これら炭化物、炭窒化物、窒化物の寸法を測定する方法は以下の通りである。鋼材を文献「防食技術、第37号、776〜778頁、1988年」に示すような選択的腐食技術により腐食し、この後文献「電子顕微鏡Q&A、アグネ承風社」に示すような抽出レプリカ法により電子顕微鏡試料を作製し、透過型電子顕微鏡で倍率1万倍の明視野像の観察を行い、個々の粒子の面積から算出した円相当直径をもってその寸法とする。また、Ti、Nb、Vのうち1種または2種以上を含有する炭化物、炭窒化物、窒化物の個数密度は、同じく透過型電子顕微鏡で撮影した倍率1万倍の明視野写真をその総面積が1000μm2以上となる枚数だけ撮影し、この領域内に存在するTi、Nb、Vを含有する炭化物、炭窒化物、窒化物のうちその寸法が50nm以上10000nm以下であるものの個数を測定し、これを撮影した領域の面積で除した値とする。さらに、個数密度を添加量で除した値を算出する際の添加量は、Ti、Nb、Vのうち個数密度の算出対象となった炭化物、炭窒化物、窒化物のなかに含まれる全ての合金元素の質量%で表した添加量の総和とする。
【0015】
降伏比を低下させるためには、次の点も重要となる。降伏比を低減するためには、硬い組織と軟い組織の混合組織とすることが有効であり、本発明では硬い組織としてベイナイトやマルテンサイト、軟い組織としてフェライト主体組織とし、ベイナイトやマルテンサイトの面積率が70%未満と規定する。硬い組織の面積率が70%以上となるとYRで80%以下を確保することが難しいことから、ベイナイトやマルテンサイトの面積率を70%未満とした。なお、本発明で述べるフェライト主体組織とは一部がパーライト、疑似パーライトやセメンタイトである場合も含めるものとする。
【0016】
なお、混合組織のうちベイナイトやマルテンサイトの面積率を求める方法は以下の通りである。鋼を研磨、ナイタールエッチングした上で光学顕微鏡観察を行い、倍率500倍で撮影総面積が100000μm2以上となる枚数だけ写真を撮影し、この組織のうちフェライトが占める面積率を測定し、残部をベイナイトおよびマルテンサイトとする。フェライトか否かの判断が難しい場合には一旦透過型電子顕微鏡の1万倍で組織を観察し、フェライト組織を確認した上で再度光学顕微鏡写真による面積率の測定を行うものとする。また、面積率の測定は、画像解析ソフトウェア等により行うことができ、フェライトに該当する領域をたとえば黒く塗りつぶし、残部を白くするトレースを行い、この面積率を自動測定する。
【0017】
次に、合金元素の添加理由について説明する。
【0018】
Cは、微細炭化物や微細炭窒化物による強度確保に必須の元素であるため、その添加量を0.005質量%以上とする。しかし、一方でC量の増大は焼入性の増大や粗大析出物の生成による母材靱性や溶接性の低下を招くため、その上限を0.2質量%とする。
【0019】
Nは、微細炭窒化物、微細窒化物による強度確保に必須の元素であるため、その添加量を0.0001質量%以上とする。しかし、一方でN量の増大は粗大析出物の生成や母材靭性の低下を招くため、その上限を0.01質量%とする。
【0020】
Alは、脱酸材として添加され、Ti酸化物形成量の低減を通じて微細なTiを含む析出物を得るために必須の元素であるため、その添加量を0.001質量%以上とする。しかし、一方でAl量の増大は母材靭性の低下を招くため、その上限を0.1質量%とする。
【0021】
Siは、強度確保及び脱酸に必要な元素であるため、その添加量を0.01質量%以上とする。しかし、一方でSi量の増大は溶接性を低下させるため、その上限を1質量%とする。
【0022】
Mnは、強化元素として有用であるが、過剰な添加は溶接性を低下させるため、その範囲を0.1質量%以上2質量%以下とする。
【0023】
Pは、不純物元素であり低い方が望ましく、0.02質量%以下とする。特に、フェライトに固溶したPは、母材の延性を低下させるため、望ましくは0.015質量%以下とする。
【0024】
Sは、不純物元素であり低い方が望ましく、0.02質量%以下とする。SはMnSの生成により母材靱性を低下させるため、望ましくは0.01質量%以下とする。
【0025】
Ti、Nb、Vは、本発明において最も重要な元素であり、その一種以上が添加される必要がある。
【0026】
Tiは、微細析出物による強度確保や固溶体による焼入性増大に有効な元素であるため、その添加量を0.001質量%以上とする。しかし、一方でTi量の増大は粗大析出物の生成や焼入性の増大による母材靭性や溶接性の低下を招くため、その上限を0.1質量%とする。
【0027】
Nbは、微細析出物による強度確保や固溶体による焼入性増大に有効な元素であるため、その添加量を0.001質量%以上とする。しかし、一方でNb量の増大は粗大析出物の生成や焼入性の増大による母材靭性や溶接性の低下を招くため、その上限を0.1質量%とする。
【0028】
Vは、微細析出物による強度確保に有効な元素であるため、その添加量を0.001質量%以上とする。しかし、一方でV量の増大は粗大析出物の生成による母材靭性の低下を招くため、その上限を0.2質量%とする。
【0029】
さらに、強度確保や一層の溶接性向上などのため、その他の元素の添加が有効である。以下にその限定理由を示す。
【0030】
Cu、Ni、Cr、Moは、強度確保の観点から必要に応じて添加される。
【0031】
Cuは、強度確保のため必要に応じて添加される。0.005質量%未満の添加ではその効果は小さく、一方、1質量%を超える天下は溶接性を低下させるため、その範囲を0.005〜1質量%とする。
【0032】
Niは、強度確保のために必要に応じて添加される。0.01質量%未満の添加ではその効果は小さく、一方、2質量%を超える添加は溶接性を低下させるため、その範囲を0.01〜2質量%とする。
【0033】
Crは、強度確保のために必要に応じて添加される。0.01質量%未満の添加ではその効果は小さく、一方、1質量%を超える添加は母材靱性や溶接性を低下させるため、その範囲を0.01〜1質量%とする。
【0034】
Moは、強度確保のために必要に応じて添加される。0.01質量%未満の添加ではその効果が小さく、一方、1質量%を超える添加は母材靱性や溶接性を低下させるため、その範囲を0.01〜1質量%とする。
【0035】
また、Ca,Mg,REMの1種または2種以上の添加により、母材介在物制御、溶接熱影響部の加熱オーステナイトの微細化や粒内からの変態核生成を通じて母材靱性及び溶接熱影響部靱性を高めることができ、必要に応じて添加する。この効果を発揮するためには、Ca及びMgはそれぞれ0.0005質量%以上、REMは0.001質量%以上の添加が必要である。一方、過剰に添加すると硫化物や酸化物が粗大化して母材靱性や延性の低下をもたらすため、その上限値をCa,Mgで0.02質量%、REMで0.1質量%とする。
【0036】
次に、本発明で規定する鋼の製造方法について説明する。最も重要な点は、圧延前の加熱、圧延、圧延最終パス後の冷却の条件をそれぞれ規定することである。
【0037】
本発明の鋼組成を有する鋼片または鋳片を加熱する条件は、凝固時に析出したNb、Ti、Vを含む析出物を十分に固溶するために1050℃以上に加熱の上この温度域に20分以上保持する必要がある。また、1350℃を超える温度まで加熱したのちに20分以上保持することは、オーステナイトの粗大化による母材靭性低下をもたらすため、これを1350℃以下とした。なお、保持時間については、設定加熱温度に達した後設定温度±50℃以内にある時間を指す。また、加熱温度は鋼板表面で測定した値とし、その測定精度を高めるため3箇所以上の測定の平均値とすることが望ましい。
【0038】
実際の鋳造から圧延に至る過程では、鋳造後の鋳片を常温まで冷却することなく直接圧延を開始する場合がある。この場合においても、鋳造後の鋼塊の温度が1050℃未満の場合にはTi、Nb、Vの固溶量を増やすため1050℃以上1350℃未満に加熱の上20分以上保持する必要があるが、1050℃以上の場合にはその時点でも固溶量が大きいためそのまま圧延を開始することが可能である。
【0039】
圧延の終了温度を規定することは、微細な炭化物、炭窒化物、窒化物を生成させ、低いPcmで高い強度を確保するために重要である。圧延終了温度が900℃を超える場合には、Ti、Nb、Vを含有する微細な析出物の生成がオーステナイト中で急速に進行し、焼入性を増大させる固溶Ti、Nb、V量や強化に寄与する微細な析出物量が減少する。一方、圧延終了温度がAr3点未満の場合は、フェライトの加工により靱性が大幅に低下するため、圧延終了温度をAr3点以上900℃以下とする。Ar3点は、たとえば圧延を想定した熱加工履歴を与え、種々の温度から急冷を行った組織を観察することにより、変態が開始する温度として推定が可能である。
【0040】
圧延を仕上げた後の鋼板に加速冷却を実施するための条件は、本発明で最も重要な製造上の要件でる。具体的には、圧延を仕上げた後20秒以内に鋼板表面の平均冷却速度が0.5℃/s以上の冷却を行う。これは、圧延後のオーステナイト中でTi、Nb、Vの粗大析出物が生成することを極力抑制し、固溶量を確保するためである。これにより、焼入性の向上や微細析出物の生成による強度増大がはかれ、同一強度における合金元素添加量の低減を通じて溶接性を格段に向上させることができ、さらに組織を軟らかい組織と硬い組織の複合組織とした場合には硬い組織の変態温度の低下を通じて降伏比を低下させることができる。圧延を仕上げた後冷却を開始するまでの時間を20秒超とすることや、冷却速度を0.5℃/s未満とすることは、Ti、Nb、Vの1種または2種以上を含有する粗大な析出物の生成量増大を招くため、圧延を仕上げた後20秒以内に平均冷却速度0.5℃/s以上で冷却することとする。圧延を仕上げた後平均冷却速度が0.5℃/s以上で冷却する時間は、20秒以内であればその効果を得られるが、10秒以内であればその効果は一層顕著となるため、望ましくはそれを10秒以内とする。冷却速度は0.5℃/s以上であればその効果を得られるが、5℃/s以上であればその効果は一層顕著となるため、望ましくはそれを5℃/s以上とする。冷却速度の上限は、設備コストなどの観点から100℃/sとすることが好ましい。
【0041】
なお、圧延を仕上げた後20秒以内とは、圧延の最終パス圧下を受けた鋼板の一部位が0.5℃/s以上の平均冷却速度で冷却を開始されるまでの時間を意味する。鋼板表面の平均冷却速度とは、例えば放射温度計により測定された鋼板表面温度の単位時間当たりの変化量を意味し、測定精度を高めるため3箇所以上を測定してその平均値を採用することが望ましい。
【0042】
加速冷却を開始した後、これを停止する温度については下記の4つの方法を採ることが可能である。前二者は主に溶接性を高める場合の製造方法、後二者は溶接性と耐震性を共に高める場合の製造方法である。
【0043】
製造法の第一は、鋼板表面の平均冷却速度が0.5℃/s以上の冷却を300℃以上で停止し、以後空冷する方法であり、第二が、鋼板表面の平均冷却速度が0.5℃/s以上の冷却を500℃未満で停止し、以後900℃未満で焼き戻しを実施する方法である。前者の場合には、変態開始までに固溶状態で残存しているTi、Nb、Vの微細な析出物が変態時あるいは変態後に生成し、強度が大幅に増大し、さらに組織を軟らかい組織と硬い組織の複合組織とした場合には硬い組織の変態温度の低下を通じて降伏比を低下させることができる。冷却を300℃未満で停止した場合には、母材の靱性が大幅に低下するため、冷却の停止温度を300℃以上とする。一方、後者の場合は、500℃未満の冷却停止で固溶状態のTi、Nb、Vが多量に残存するが、以後の焼き戻しにより微細な析出物を多量に生成させ、強度を大幅に増大させることができる。冷却の停止温度が500℃以上の場合は、強度を確保することが困難となるため、冷却の停止温度を500℃未満とする。また、焼き戻し温度を900℃以上とした場合には、強度を確保することが困難となるため、焼き戻し温度を900℃未満とする。
【0044】
なお、冷却停止の温度は、鋼板表面で測定された温度とし、たとえば放射温度計による測定が可能である。測定精度を高めるためには、3点以上の測定を行って平均値を採用することが望ましい。また、焼き戻しにおいては、設定した焼き戻し温度まで加熱した後、該温度に10分以上保持した後空冷するものとする。なお、ここでの焼き戻しの保持時間とは熱処理炉に鋼板を挿入後に炉温が設定温度の上下30℃以内に安定した時点を起点として算出した時間とする。
【0045】
次に溶接性と耐震性を高める第三の製造方法について説明する。鋼板表面の冷却速度が0.5℃/s以上の冷却の停止温度をAr3点以下500℃以上とし、さらに平均冷却速度が0.5℃/s以上の冷却の停止から600秒以内に鋼板表面の平均冷却速度が0.5℃/s以上の冷却を行う。これは、最初の加速冷却の停止から600秒以内に行う冷却により形成されるベイナイトやマルテンサイトの変態温度を、固溶状態で残存するTi、Nb、Vの効果で低温化させ、これ以前に形成されたフェライト主体組織との複合組織とすることで、低いYRが達成される。また、同一の合金成分の場合に達成可能な強度も高くなるため、合金成分の低減が可能であり、溶接熱影響部の靭性もあわせて向上する。最初の平均冷却速度が0.5℃/s以上の冷却の停止から次の平均冷却速度が0.5℃/s以上の冷却を行うまでの時間が600秒を超えると、フェライトの面積率が増大して強度の確保が難しくなるため、これを600秒以内とする。冷却速度は0.5℃/s未満ではベイナイトやマルテンサイトの硬さが低下することから、これを0.5℃/s以上とする。上限については、設備コストを勘案して100℃/sとする。
【0046】
次に溶接性と耐震性を高める第四の製造方法について説明する。圧延を仕上げた後20秒以内に実施する鋼板表面の平均冷却速度が0.5℃/s以上の冷却を200℃以下で停止した後、Ac1点以上Ac3点以下まで再加熱し、次いで鋼板表面の平均冷却速度が0.1℃/s以上の冷却を行う。200℃以下で冷却が停止した時点ではベイナイトやマルテンサイトを主体とする組織となっており、フェライト生成量は小さい。しかし、Ti、Nb、Vの析出は格段に抑制されており、多量の固溶Ti、Nb、Vが確保されている。この後でAc1点以上Ac3点以下までの加熱を行って組織の一部をオーステナイト化し、一部は焼き戻しによりフェライト化した後、鋼板表面の平均冷却速度が0.1℃/s以上の冷却を行う。このときもオーステナイト化した組織中には多量のTi、Nb、Vの固溶体が存在するため、引き続く鋼板表面の平均冷却速度が0.1℃/s以上の冷却により硬いベイナイトやマルテンサイトが形成され、高強度かつ低いYRが達成される。冷却を停止する温度が200℃超の場合には、最終的な強度確保が難しくなるため、これを200℃以下とする。また、200℃以下まで冷却を行ったあと加熱する温度がAc1点未満である場合には、硬いベイナイトやマルテンサイトが生成せず降伏比を低下させることが困難なため、一方加熱する温度がAc3点超では、組織が硬い組織と軟らかい組織の混合とならずに降伏比を低下させることが困難なため、これをAc1点以上Ac3点以下とする。また、Ac1点以上Ac3点以下まで加熱した後の冷却速度が0.1℃/s未満の場合には強度が低くなるため、これを0.1℃/s以上とする。
【0047】
本発明で規定した鋼材を得るための製造方法としては、上記の条件とあわせて下記の要件を満足することが望ましい。粗圧延については、母材靱性と生産性を低下させない条件で所定の圧下を加えることが重要である。粗圧延の開始温度が900℃未満となる場合には、加熱後に圧延を開始するまでの時間が長くなり生産性が大きく低下するため、一方、開始温度が1100℃以上ではオーステナイトが粗大化して母材靭性が低下するため、粗圧延の開始温度は、900℃以上1100℃以下とするのが望ましい。粗圧延の終了温度が900℃未満となる場合には、仕上圧延時の圧延温度が低くなり圧延能率が低下して生産性が低下するため、一方終了温度が1100℃を超えるとオーステナイトが粗大化して母材靭性が低下するため、粗圧延の終了温度は900℃以上1100℃以下とするのが望ましい。また、粗圧延での圧下率が90%を超える場合には、圧延温度が上記の範囲にある場合でもTi、Nb、Vの1種以上を含む粗大炭化物、粗大炭窒化物、粗大窒化物の析出量が増大するため、粗圧延での圧下率は90%以下とするのが望ましい。また、粗圧延での圧下率が20%未満の場合にはオーステナイトが十分に微細化せず母材靭性が低下するため、粗圧延での圧下率は20%以上とするのが望ましい。
【0048】
なお、ここでの粗圧延とは、制御圧延による種々の効果を発現させるために行う高温側、低温側2段階の圧延のうち高温側での圧延を指し、低音側での圧延は仕上げ圧延と呼ばれる。低温側での圧延の開始にあたっては、所定の開始温度までの時間待ちが生じるのが一般的であり、低温側圧延の開始温度という管理指標の存在により粗圧延、仕上げ圧延を区別するものとする。しかし、全圧延過程の途中で圧延開始温度の管理指標が存在しない場合には、粗圧延を900℃以上における圧延とする。また、粗圧延の開始温度や終了温度は圧延機の直前や直後に取り付けられた温度計により測定された鋼板表面の温度とし、測定精度を高めるため3点以上の平均値を採用することが望ましい。また圧下率とは、圧延前の板厚から圧延後の板厚を引いた値を圧延前の板厚で除した値の百分率表示である。
【0049】
仕上げ圧延は、制御圧延効果を十分に得るために、1000℃以下で開始し、フェライトの加工により母材靭性が低下するのを抑制するためこれをAr3点以上とするのが望ましい。また、仕上圧延の圧下率は、充分な制御圧延効果を得るために、60%以上とすることが望ましい。なお、上記で規定した圧下率とは、圧延前の鋼板の厚さから圧延後の厚さを引き、圧延前の鋼板厚さで除した値の百分率表示である。
【0050】
本発明では、以下に述べる製造方法を必要に応じて組み合わせることで、鋼板の特性を一層向上することが可能である。
【0051】
第一に、圧延開始前の冷却の制御が有効である。具体的には、加熱後の鋼片、鋳片の表面を、圧延開始前に表面の平均冷却速度が2℃/s以上でAr3点以上1050℃以下の温度まで冷却し、復熱後に圧延を開始する。圧延開始前にこの冷却を実施するのは、一旦圧延を開始した後は圧延最終パスまで間の温度待ち時間を低減できるよう予め温度を低下させるためである。これにより、圧延中あるいは圧延パス間でTi、Nb、Vを含む粗大な析出物が生成する量を一層低減することができ、溶接性がさらに向上する。この効果は2℃/s未満では小さいため、これを2℃/s以上とした。冷却速度は速いほどよいが設備コストなどの観点から100℃/sを上限とすることが好ましい。なお、圧延前の冷却温度をAr3点以上1050℃以下としたのは、1050℃超では未再結晶域での圧下量が減少して十分な組織微細化効果が得られないためであり、Ar3点以上としたのは、Ar3未満の温度まで冷却すると鋼板表層部近傍ではオーステナイトとフェライトの二相域圧延となり、圧延による加工フェライトが鋼中に残存することで靱性低下を招くためである。なお、ここにいう復熱とは、冷却された表面と未冷却の内部との温度勾配が時間と共に緩和される結果、表面温度が上昇する現象であり、本発明においては、鋼板中心部の温度と表面温度の差が50℃未満になった時点、あるいは冷却後20秒以上経過した時点を指す。
【0052】
第二に、圧延1パス当たりの平均圧下率を25%以上とすることが有効である。平均圧下率を25%以上とすることで、圧延のパス数を低減することができ、オーステナイト中でのTi、Nb、Vの粗大な炭化物や炭窒化物の生成量を低減することが可能である。平均圧下率が25%未満では有意な効果が得られないため、これを25%以上とした。上限は圧延負荷の観点から50%とすることが好ましい。なお、平均圧下率とは各圧延パスの圧下率、すなわち圧延パス前の板厚と圧延パス後の板厚の差を圧延パス前の板厚で除した値の百分率表示の平均値である。
【0053】
第三に、圧延最終パスの圧下率を25%以上とすることが有効である。圧延最終パスの圧下率を25%以上とすることで、特に大きな析出強化量増大効果が得られる。なお、上限は圧延負荷の観点から50%とすることが好ましい。
【0054】
第四に、圧延パス間の一部あるいは全てにおいて、鋼板の表面を表面の平均冷却速度が2℃/s以上の冷却を行い、復熱後に次の圧延パスを実施することが有効である。圧延パスの間に前記の冷却を実施するのは、圧延パス間でTi、Nb、Vの1種または2種以上を含む粗大な炭化物、炭窒化物、窒化物の生成量を低減するためである。さらに、鋼板表層部と中心部に温度差をつけることで内部の変形抵抗を相対的に小さくして、板厚中心部への加工下部組織の導入を促進し、これにより組織を微細化して板厚中心部の靱性を高める効果もある。パス間冷却を行うことにより圧延開始から終了までの時間が短縮され、生産性の向上にも大きく寄与する。パス間の冷却によるTi、Nb、Vの1種または2種以上を含む粗大析出物の生成量抑制効果は、圧延パス間の鋼板表面における平均冷却速度が2℃/s未満では効果が小さいため、2℃/s以上とする必要がある。冷却速度は速いほどよいが設備コストなどの観点から100℃/sを上限とすることが好ましい。圧延パス間の冷却については必ずしも全圧延パス間について実施する必要はなく、要求される靱性に応じてそれを選択することができる。圧延パス間の冷却開始温度及び停止温度は、この圧延パス間冷却がオーステナイトの再結晶温度域及び未再結晶温度域の両方で効果を有することから、上限を圧延開始温度とする。一方、Ar3点以下に冷却された場合には、引き続く圧延によりフェライトが加工され靱性が低下するため、圧延パス間冷却の停止温度の下限を鋼板表面温度でAr3点以上とすることが好ましい。なお、ここにいう復熱とは、冷却された表面と未冷却の内部との温度勾配が時間と共に緩和される結果、表面温度が上昇する現象であり、本発明においては、鋼板中心部の温度と表面温度の差が100℃未満になった時点、あるいは冷却後5秒以上経過した時点を指す。
【0055】
以上のように作製された鋼材は従来に比べて格段に低い合金元素添加量で高い強度を確保できることから、溶接熱影響部靱性に優れている。
【0056】
【実施例】
種々の化学成分の供試鋼材を用いて、種々の製造条件で製造した板厚20〜80mmの鋼板について、母材の引張強さ、降伏比、靱性および溶接熱影響部靱性を評価した。鋼板の化学成分とCeq.、Pcm、Ti、Nb、Vを含有する炭化物、炭窒化物、窒化物のなかで50nm以上10000nm以下のものの個数密度、個数密度を合金元素の添加量で除した値、ベイナイトとマルテンサイトの面積率を表1、表2(表1の続き1)、表3(表1の続き2)、表4(表1の続き3)、表5(表1の続き4)、表6(表1の続き5)に、製造条件を表7、表8(表7の続き1)、表9(表7の続き2)、表10(表7の続き3)、表11(表7の続き4)、表12(表7の続き5)に、母材の引張強さ、降伏比、靱性および溶接熱影響部靱性を表13、表14(表13の続き)に示す。
【0057】
なお、表7,8,10,11において復熱圧延実施有無とあるのは、先に説明したように、鋼片、鋳片あるいは鋼板の表面を所定の冷却速度で冷却し、復熱後に圧延を行なう処理の有無を表わすものである。
【0058】
引張強さ、降伏比は、鋼板の1/4t部(板厚中心と表面との中間)から圧延方向に垂直に採取したJIS4号サブサイズ引張試験片を用いて常温試験により測定した。母材靱性は、鋼板の1/4t部から圧延方向と試験片の長手方向が垂直になるように、さらにノッチが板厚貫通方向となるように採取したJIS4号シャルピー試験片を用い、−20℃で試験を実施し、衝撃吸収エネルギーを測定した。なお、引張強さについては同一条件で実施した2本の試験結果の平均値を採用し、母材靱性については同一温度で3本の試験を実施し、その平均値を採用した。溶接熱影響部靱性は、鋼板に入熱10kJ/mmのサブマージアーク溶接を実施し、ノッチ底部位が1/4t、ボンドに対応するように採取したシャルピー試験片により−20℃での衝撃吸収エネルギーとして測定した。試験は同一温度で3本実施し、その平均値を採用した。
【0059】
発明例1は、0.16という非常に低いCeq.で引張強さ400MPa程度を達成するため、析出元素のNbを添加し、さらに仕上圧延後20秒以内の加速冷却を実施したものである。粗大析出物の生成量が少ないため、強度は400MPaを超え、さらに低Ceq.のため母材靱性、溶接熱影響部靱性に優れ、低Pcmであることから溶接性にも優れている。一方、比較例1は、仕上圧延後に加速冷却を開始するまでの時間が20秒を超えているため、粗大析出物が多量に生成し、強度が低く、発明例1に比べて母材強度と溶接性のバランスが大きく劣っている。また比較例2は、仕上圧延後に加速冷却を開始するまでの時間は20秒以内であるものの、Al量が本発明の成分範囲を外れているため、母材靱性、溶接熱影響部靱性が大幅に低下しており、発明例1に比べて母材強度と溶接性のバランスが大きく劣っている。
【0060】
発明例2は、0.16という非常に低いCeq.で引張強さ400MPa程度を達成するため、析出元素のTiを添加し、さらに仕上圧延後20秒以内の加速冷却を実施したものである。粗大析出物の生成量が少ないため、強度は400MPaを超え、さらに低Ceq.のため母材靱性、溶接熱影響部靱性に優れ、低Pcmであることから溶接性にも優れている。一方、比較例3は、C量が本発明の範囲を超えているために母材靱性と溶接熱影響部靱性が大幅に低下し、発明例2に比べて母材強度と溶接性のバランスが大きく劣っている。
【0061】
発明例3は、0.18という非常に低いCeq.で引張強さ400MPa程度を達成しするために析出元素のVを添加し、仕上圧延後20秒以内の加速冷却を行い、さらに降伏比を低減するために二段階の加速冷却を実施したものである。粗大析出物の生成量が少ないため、強度は400MPaを超え、低Ceq.のため母材靱性、溶接熱影響部靱性に優れ、低Pcmであることから溶接性に優れ、さらに降伏比が低下している。一方、比較例4は、仕上圧延後に加速冷却を開始するまでの時間が20秒を超えているため、粗大析出物が多量に生成し、強度が低く、降伏比が高く、発明例3に比べて母材強度と溶接性、耐震性のバランスが大きく劣っている。
【0062】
発明例4は、0.18という非常に低いCeq.で引張強さ400MPa程度を達成するため、析出元素のTiとNbを添加し、さらに仕上圧延後20秒以内の加速冷却を行い、降伏比を低減するために二段階の加速冷却を実施したものである。粗大析出物の生成量が少ないため、強度は400MPaを超え、低Ceq.のため母材靱性、溶接熱影響部靱性に優れ、低Pcmであることから溶接性も優れ、さらに降伏比も低い。一方、比較例5は、仕上圧延後に加速冷却を開始するまでの時間が20秒を超えているため、粗大析出物が多量に生成し、強度が低く、さらにN量が本発明の範囲を超えているために母材靱性と溶接熱影響部靱性が大きく低下しており、発明例4に比べて母材強度と溶接性、耐震性のバランスが大きく劣っている。
【0063】
発明例5は、0.18という非常に低いCeq.で引張強さ400MPa程度を達成するため、析出元素のTiとVを添加し、仕上圧延後20秒以内の加速冷却を行い、さらに降伏比を低減するために加速冷却後に二相域までの再加熱を実施したものである。粗大析出物の生成量が少ないため、強度は400MPaを超え、さらに低Ceq.、Ca添加のため母材靱性、溶接熱影響部靱性に優れ、低Pcmであることから溶接性に優れ、さらに降伏比が低い。一方、比較例6は、仕上圧延後に加速冷却を開始するまでの時間が20秒を超えているため、降伏比が高く、Si量が本発明の範囲を超えているために母材靱性と溶接熱影響部靱性が大きく低下しており、発明例5に比べて母材強度と溶接性、耐震性のバランスが大きく劣っている。
【0064】
発明例6は、0.16という非常に低いCeq.で引張強さ400MPa程度を達成するため、析出元素のTiとNbを添加し、仕上圧延後10秒以内の加速冷却を行い、さらに降伏比を低減するため加速冷却後に二相域までの再加熱を実施したものである。粗大析出物の生成量が少ないため、強度は400MPaを超え、さらに低Ceq.、Mg添加のため母材靱性、溶接熱影響部靱性に優れ、低Pcmであることから溶接性に優れ、さらに降伏比が低い。一方、比較例7は、仕上圧延後に加速冷却を開始するまでの時間が20秒を超えているため、降伏比が高く、Mn量が本発明の範囲を超えているために母材靱性と溶接熱影響部靱性が大きく低下しており、発明例6に比べて母材強度と溶接性、耐震性のバランスが大きく劣っている。
【0065】
発明例7は、0.26という非常に低いCeq.で引張強さ500MPa程度を達成するため、析出元素のTiを添加し、仕上圧延後20秒以内の加速冷却を実施したものである。粗大析出物の生成量が少ないため、強度は500MPaを超え、さらに低Ceq.のため母材靱性、溶接熱影響部靱性に優れ、さらに低Pcmであることから溶接性に優れている。一方、比較例8は、仕上圧延後に加速冷却を開始するまでの時間が20秒を超えているため、粗大析出物が多量に生成し、強度が低く、発明例7に比べて母材強度と溶接性のバランスが大きく劣っている。また、比較例9は、C量が本発明の範囲を超えているために母材靱性と溶接熱影響部靱性が大きく低下しており、発明例7に比べて母材強度と溶接性のバランスが大きく劣っている。
【0066】
発明例8は、0.28という非常に低いCeq.で引張強さ500MPa程度を達成するため、析出元素のV、Nbを添加し、仕上圧延後20秒以内の加速冷却を実施したものである。粗大析出物の生成量が少ないため、強度は500MPaを超え、さらに低Ceq.、Mg添加のため母材靱性、溶接熱影響部靱性に優れ、さらに低Pcmであることから溶接性に優れている。一方、比較例10は、仕上圧延後に加速冷却を開始するまでの時間が20秒を超えているため、粗大析出物が多量に生成し、強度が低く、発明例8に比べて母材強度と溶接性のバランスが大きく劣っている。
【0067】
発明例9は、0.27という非常に低いCeq.で引張強さ500MPa程度を達成するため、析出元素のNbを添加し、仕上圧延後20秒以内の加速冷却を実施したものである。粗大析出物の生成量が少ないため、強度は500MPaを超え、さらに低Ceq.のため母材靱性、溶接熱影響部靱性に優れ、さらに低Pcmであることから溶接性に優れている。一方、比較例11は、仕上圧延後に加速冷却を開始するまでの時間が20秒を超えているため、粗大析出物が多量に生成し、強度が低く、発明例9に比べて母材強度と溶接性のバランスが大きく劣っている。
【0068】
発明例10は、0.28という非常に低いCeq.で引張強さ500MPa程度を達成するため、析出元素のNbを添加し、仕上圧延後20秒以内の加速冷却を実施したものである。粗大析出物の生成量が少ないため、強度は500MPaを超え、さらに低Ceq.のため母材靱性、溶接熱影響部靱性に優れ、さらに低Pcmであることから溶接性に優れている。一方、比較例12は、仕上圧延後に加速冷却を開始するまでの時間が20秒を超えているため、粗大析出物が多量に生成し、強度が低く、発明例10に比べて母材強度と溶接性のバランスが大きく劣っている。
【0069】
発明例11は、0.26という非常に低いCeq.で引張強さ500MPa程度を達成するため、析出元素のTiを添加し、仕上圧延後20秒以内の加速冷却を実施したものである。粗大析出物の生成量が少ないため、強度は500MPaを超え、さらに低Ceq.のため母材靱性、溶接熱影響部靱性に優れ、さらに低Pcmであることから溶接性に優れている。一方、比較例13は、仕上圧延後に加速冷却を開始するまでの時間が20秒を超えているため、粗大析出物が多量に生成し、強度が低く、さらにNが本発明の範囲を超えて添加されているために母材および溶接熱影響部の靱性が低く、発明例11に比べて母材強度と溶接性のバランスが大きく劣っている。
【0070】
発明例12は、0.26という非常に低いCeq.で引張強さ500MPa程度を達成するため、析出元素のV、Nbを添加し、仕上圧延後20秒以内の加速冷却を実施したものである。粗大析出物の生成量が少ないため、強度は500MPaを超え、さらに低Ceq.、REM添加のため母材靱性、溶接熱影響部靱性に優れ、さらに低Pcmであることから溶接性に優れている。一方、比較例14は、仕上圧延後に加速冷却を開始するまでの時間が20秒を超えているため、粗大析出物が多量に生成し、強度が低く、さらにAlが本発明の範囲を超えて添加されているために母材および溶接熱影響部の靱性が低く、発明例12に比べて母材強度と溶接性のバランスが大きく劣っている。
【0071】
発明例13は、0.26という非常に低いCeq.で引張強さ500MPa程度を達成するため、析出元素のNbを添加し、仕上圧延後20秒以内の加速冷却を実施したものである。粗大析出物の生成量が少ないため、強度は500MPaを超え、さらに低Ceq.、Ca添加のため母材靱性、溶接熱影響部靱性に優れ、さらに低Pcmであることから溶接性に優れている。一方、比較例15は、仕上圧延後に加速冷却を開始するまでの時間が20秒を超えているため、粗大析出物が多量に生成し、強度が低く、さらに加熱温度が本発明の範囲を超えているために母材靱性が低く、発明例13に比べて母材強度と溶接性のバランスが大きく劣っている。
【0072】
発明例14は、0.24という非常に低いCeq.で引張強さ500MPa程度を達成するため、析出元素のTi、Nbを添加し、仕上圧延後10秒以内の加速冷却を実施したものである。粗大析出物の生成量が少ないため、強度は500MPaを超え、さらに低Ceq.、Ca添加のため母材靱性、溶接熱影響部靱性に優れ、さらに低Pcmであることから溶接性に優れている。一方、比較例16は、仕上圧延後に加速冷却を開始するまでの時間が20秒を超えているため、粗大析出物が多量に生成し、強度が低く、さらに加熱温度が本発明の範囲を超えているために母材靱性が低く、発明例14に比べて母材強度と溶接性のバランスが大きく劣っている。
【0073】
発明例15は、0.29という非常に低いCeq.で引張強さ500MPa程度を達成するため、析出元素のVを添加し、仕上圧延後20秒以内の加速冷却を行い、さらに降伏比を低減するために二段階の加速冷却を実施したものである。粗大析出物の生成量が少ないため、強度は500MPaを超え、さらに低Ceq.のため母材靱性、溶接熱影響部靱性に優れ、低Pcmであることから溶接性に優れ、さらに降伏比が低い。一方、比較例17は、仕上圧延後に加速冷却を開始するまでの時間が20秒を超えているため、粗大析出物が多量に生成し、強度が低く、降伏比が高く、発明例15に比べて母材強度と溶接性、耐震性のバランスが大きく劣っている。
【0074】
発明例16は、0.29という非常に低いCeq.で引張強さ500MPa程度を達成するため、析出元素のNbを添加し、仕上圧延後20秒以内の加速冷却を行い、さらに降伏比を低減するために二段階の加速冷却を実施したものである。粗大析出物の生成量が少ないため、強度は500MPaを超え、さらに低Ceq.のため母材靱性、溶接熱影響部靱性に優れ、低Pcmであることから溶接性に優れ、さらに降伏比が低い。一方、比較例18は、仕上圧延後に加速冷却を開始するまでの時間が20秒を超えているため、粗大析出物が多量に生成し、強度が低く、降伏比が高く、発明例16に比べて母材強度と溶接性、耐震性のバランスが大きく劣っている。
【0075】
発明例17は、0.29という非常に低いCeq.で引張強さ500MPa程度を達成するため、析出元素のTi、Vを添加し、仕上圧延後20秒以内の加速冷却を行い、さらに降伏比を低減するために二段階の加速冷却を実施したものである。粗大析出物の生成量が少ないため、強度は500MPaを超え、さらに低Ceq.のため母材靱性、溶接熱影響部靱性に優れ、低Pcmであることから溶接性に優れ、さらに降伏比が低い。一方、比較例19は、仕上圧延後に加速冷却を開始するまでの時間が20秒を超えているため、粗大析出物が多量に生成し、降伏比が高く、さらにC量が本発明の範囲を超えているために母材および溶接熱影響部の靱性が大幅に低下しており、発明例17に比べて母材強度と溶接性、耐震性のバランスが大きく劣っている。
【0076】
発明例18は、0.27という非常に低いCeq.で引張強さ500MPa程度を達成するため、析出元素のNbを添加し、仕上圧延後20秒以内の加速冷却を行い、さらに降伏比を低減するために二段階の加速冷却を実施したものである。粗大析出物の生成量が少ないため、強度は500MPaを超え、さらに低Ceq.、Mg添加のため母材靱性、溶接熱影響部靱性に優れ、低Pcmであることから溶接性に優れ、さらに降伏比が低い。一方、比較例20は、仕上圧延後に加速冷却を開始するまでの時間が20秒を超えているため、粗大析出物が多量に生成し、強度が低く、降伏比が高く、さらにN量が本発明の範囲を超えているために母材および溶接熱影響部の靱性が大幅に低下しており、発明例18に比べて母材強度と溶接性、耐震性のバランスが大きく劣っている。
【0077】
発明例19は、0.29という非常に低いCeq.で引張強さ500MPa程度を達成するため、析出元素のTi、Vを添加し、仕上圧延後20秒以内の加速冷却を行い、さらに降伏比を低減するために加速冷却後に二相域までの再加熱を実施したものである。粗大析出物の生成量が少ないため、強度は500MPaを超え、さらに低Ceq.、Ca、REM添加のため母材靱性、溶接熱影響部靱性に優れ、低Pcmであることから溶接性に優れ、さらに降伏比が低い。一方、比較例21は、仕上圧延後に加速冷却を開始するまでの時間が20秒を超えているため、粗大析出物が多量に生成し、強度が低く、降伏比が高く、発明例19に比べて母材強度と溶接性、耐震性のバランスが大きく劣っている。
【0078】
発明例20は、0.27という非常に低いCeq.で引張強さ500MPa程度を達成するため、析出元素のV、Nbを添加し、仕上圧延後20秒以内の加速冷却を行い、さらに降伏比を低減するために加速冷却後に二相域までの再加熱を実施したものである。粗大析出物の生成量が少ないため、強度は500MPaを超え、さらに低Ceq.、Ca、Mg添加のため母材靱性、溶接熱影響部靱性に優れ、低Pcmであることから溶接性に優れ、さらに降伏比が低い。一方、比較例22は、仕上圧延後に加速冷却を開始するまでの時間が20秒を超えているため、粗大析出物が多量に生成し、強度が低く、降伏比が高く、さらに加熱温度が本発明の範囲を超えているために母材靱性が大きく低下しており、発明例20に比べて母材強度と溶接性、耐震性のバランスが大きく劣っている。
【0079】
発明例21は、0.25という非常に低いCeq.で引張強さ500MPa程度を達成するため、析出元素のTi、Nbを添加し、仕上圧延後10秒以内の加速冷却を行い、さらに降伏比を低減するために加速冷却後に二相域までの再加熱を実施したものである。粗大析出物の生成量が少ないため、強度は500MPaを超え、さらに低Ceq.、REM添加のため母材靱性、溶接熱影響部靱性に優れ、低Pcmであることから溶接性に優れ、さらに降伏比が低い。一方、比較例23は、仕上圧延後に加速冷却を開始するまでの時間が20秒を超えているため、粗大析出物が多量に生成し、強度が低く、降伏比が高く、さらに圧延の仕上温度が本発明の範囲を下回っているために母材靱性が大きく低下しており、発明例21に比べて母材強度と溶接性、耐震性のバランスが大きく劣っている。
【0080】
発明例22は、0.30という非常に低いCeq.で引張強さ600MPa程度を達成するため、析出元素のVを添加し、仕上圧延後20秒以内の加速冷却を実施したものである。粗大析出物の生成量が少ないため、強度は600MPaを超え、さらに低Ceq.のため母材靱性、溶接熱影響部靱性に優れ、さらに低Pcmであることから溶接性に優れている。一方、比較例24は、仕上圧延後に加速冷却を開始するまでの時間が20秒を超えているため、粗大析出物が多量に生成し、強度が低く、発明例22に比べて母材強度と溶接性のバランスが大きく劣っている。比較例25は、N量が本発明の範囲を超えているため、粗大析出物が多量に生成し、強度が低く、さらに母材および溶接熱影響部の靱性が大幅に低下しており、発明例22に比べて母材強度と溶接性のバランスが大きく劣っている。比較例26は、V量が本発明の範囲を超えているため、粗大析出物が多量に生成し、強度が低く、さらに母材および溶接熱影響部の靱性が大幅に低下しており、発明例22に比べて母材強度と溶接性のバランスが大きく劣っている。
【0081】
発明例23は、0.29という非常に低いCeq.で引張強さ600MPa程度を達成するため、析出元素のTi、Nbを添加し、仕上圧延後20秒以内の加速冷却を実施したものである。粗大析出物の生成量が少ないため、強度は600MPaを超え、さらに低Ceq.のため母材靱性、溶接熱影響部靱性に優れ、さらに低Pcmであることから溶接性に優れている。一方、比較例27は、仕上圧延後に加速冷却を開始するまでの時間が20秒を超えているため、粗大析出物が多量に生成し、強度が低く、発明例23に比べて母材強度と溶接性のバランスが大きく劣っている。比較例28は、Nb量が本発明の範囲を超えているため、粗大析出物が多量に生成し、強度が低く、さらに母材および溶接熱影響部の靱性が大幅に低下しており、発明例23に比べて母材強度と溶接性のバランスが大きく劣っている。
【0082】
発明例24は、0.27という非常に低いCeq.で引張強さ600MPa程度を達成するため、析出元素のTi、Nbを添加し、仕上圧延後10秒以内の加速冷却を実施したものである。粗大析出物の生成量が少ないため、強度は600MPaを超え、さらに低Ceq.のため母材靱性、溶接熱影響部靱性に優れ、さらに低Pcmであることから溶接性に優れている。一方、比較例29は、仕上圧延後に加速冷却を開始するまでの時間が20秒を超えているため、粗大析出物が多量に生成し、強度が低く、さらにスラブ(鋼片または鋳片)の加熱温度が本発明の範囲を超えているため、母材の靱性が大幅に低下しており、発明例24に比べて母材強度と溶接性のバランスが大きく劣っている。
【0083】
発明例25は、0.28という非常に低いCeq.で引張強さ600MPa程度を達成するため、析出元素のTi、Vを添加し、仕上圧延後20秒以内の加速冷却を実施したものである。粗大析出物の生成量が少ないため、強度は600MPaを超え、さらに低Ceq.のため母材靱性、溶接熱影響部靱性に優れ、さらに低Pcmであることから溶接性に優れている。一方、比較例30は、仕上圧延後に加速冷却を開始するまでの時間が20秒を超えているため、粗大析出物が多量に生成し、強度が低く、発明例25に比べて母材強度と溶接性のバランスが大きく劣っている。
【0084】
発明例26は、0.27という非常に低いCeq.で引張強さ600MPa程度を達成するため、析出元素のTi、Nbを添加し、仕上圧延後20秒以内の加速冷却を実施したものである。粗大析出物の生成量が少ないため、強度は600MPaを超え、さらに低Ceq.のため母材靱性、溶接熱影響部靱性に優れ、さらに低Pcmであることから溶接性に優れている。一方、比較例31は、仕上圧延後に加速冷却を開始するまでの時間が20秒を超えているため、粗大析出物が多量に生成し、強度が低く、さらに仕上圧延の終了温度が本発明の範囲を下回っているために母材靱性が大幅に低下しており、発明例26に比べて母材強度と溶接性のバランスが大きく劣っている。
【0085】
発明例27は、0.29という非常に低いCeq.で引張強さ600MPa程度を達成するため、析出元素のVを添加し、仕上圧延後20秒以内の加速冷却を実施したものである。粗大析出物の生成量が少ないため、強度は600MPaを超え、さらに低Ceq.のため母材靱性、溶接熱影響部靱性に優れ、さらに低Pcmであることから溶接性に優れている。一方、比較例32は、仕上圧延後に加速冷却を開始するまでの時間が20秒を超えているため、粗大析出物が多量に生成し、強度が低く、発明例27に比べて母材強度と溶接性のバランスが大きく劣っている。
【0086】
発明例28は、0.29という非常に低いCeq.で引張強さ600MPa程度を達成するため、析出元素のNbを添加し、仕上圧延後20秒以内の加速冷却を実施したものである。粗大析出物の生成量が少ないため、強度は600MPaを超え、さらに低Ceq.のため母材靱性、溶接熱影響部靱性に優れ、さらに低Pcmであることから溶接性に優れている。一方、比較例33は、仕上圧延後に加速冷却を開始するまでの時間が20秒を超えているため、粗大析出物が多量に生成し、強度が低く、さらにスラブ(鋼片または鋳片)の加熱温度が本発明の範囲を超えているために、母材靱性が大幅に低下しており、発明例28に比べて母材強度と溶接性のバランスが大きく劣っている。
【0087】
発明例29は、0.26という非常に低いCeq.で引張強さ600MPa程度を達成するため、析出元素のTi、Nbを添加し、仕上圧延後10秒以内の加速冷却を実施したものである。粗大析出物の生成量が少ないため、強度は600MPaを超え、さらに低Ceq.、Mg添加のため母材靱性、溶接熱影響部靱性に優れ、さらに低Pcmであることから溶接性に優れている。一方、比較例34は、仕上圧延後に加速冷却を開始するまでの時間が20秒を超えているため、粗大析出物が多量に生成し、強度が低く、さらにNb量が本発明の範囲を大幅に超えているため、母材および溶接熱影響部の靱性が大幅に低下しており、発明例29に比べて母材強度と溶接性のバランスが大きく劣っている。
【0088】
発明例30は、0.30という非常に低いCeq.で引張強さ600MPa程度を達成するため、析出元素のV、Nbを添加し、仕上圧延後20秒以内の加速冷却を行い、さらに降伏比を低減するために二段階の加速冷却を実施したものである。粗大析出物の生成量が少ないため、強度は600MPaを超え、さらに低Ceq.のため母材靱性、溶接熱影響部靱性に優れ、低Pcmであることから溶接性に優れ、さらに降伏比が低い。一方、比較例35は、仕上圧延後に加速冷却を開始するまでの時間が20秒を超えているため、粗大析出物が多量に生成し、強度が低く、降伏比が高く、発明例30に比べて母材強度と溶接性、耐震性のバランスが大きく劣っている。
【0089】
発明例31は、0.30という非常に低いCeq.で引張強さ600MPa程度を達成するため、析出元素のTi、Vを添加し、仕上圧延後20秒以内の加速冷却を行い、さらに降伏比を低減するために二段階の加速冷却を実施したものである。粗大析出物の生成量が少ないため、強度は600MPaを超え、さらに低Ceq.のため母材靱性、溶接熱影響部靱性に優れ、低Pcmであることから溶接性に優れ、さらに降伏比が低い。一方、比較例36は、仕上圧延後に加速冷却を開始するまでの時間が20秒を超えているため、粗大析出物が多量に生成し、強度が低く、降伏比が高く、さらにTi量が本発明の範囲を超えているために母材および溶接熱影響部の靱性が大幅に低下しており、発明例31に比べて母材強度と溶接性、耐震性のバランスが大きく劣っている。
【0090】
発明例32は、0.27という非常に低いCeq.で引張強さ600MPa程度を達成するため、析出元素のTi、Nbを添加し、仕上圧延後10秒以内の加速冷却を行い、さらに降伏比を低減するために二段階の加速冷却を実施したものである。粗大析出物の生成量が少ないため、強度は600MPaを超え、さらに低Ceq.、Ca添加のため母材靱性、溶接熱影響部靱性に優れ、低Pcmであることから溶接性に優れ、さらに降伏比が低い。一方、比較例37は、仕上圧延後に加速冷却を開始するまでの時間が20秒を超えているため、粗大析出物が多量に生成し、強度が低く、降伏比が高く、さらに圧延の仕上終了温度が本発明の範囲を下回っていることから母材靱性が大幅に低下しており、発明例32に比べて母材強度と溶接性、耐震性のバランスが大きく劣っている。
【0091】
発明例33は、0.30という非常に低いCeq.で引張強さ600MPa程度を達成するため、析出元素のV、Nbを添加し、仕上圧延後20秒以内の加速冷却を行い、さらに降伏比を低減するために加速冷却後に二相域までの再加熱を実施したものである。粗大析出物の生成量が少ないため、強度は600MPaを超え、さらに低Ceq.のため母材靱性、溶接熱影響部靱性に優れ、低Pcmであることから溶接性に優れ、さらに降伏比が低い。一方、比較例38は、仕上圧延後に加速冷却を開始するまでの時間が20秒を超えているため、粗大析出物が多量に生成し、強度が低く、降伏比が高く、発明例33に比べて母材強度と溶接性、耐震性のバランスが大きく劣っている。
【0092】
発明例34は、0.28という非常に低いCeq.で引張強さ600MPa程度を達成するため、析出元素のTiを添加し、仕上圧延後20秒以内の加速冷却を行い、さらに降伏比を低減するために加速冷却後に二相域までの再加熱を実施したものである。粗大析出物の生成量が少ないため、強度は600MPaを超え、さらに低Ceq.、REM添加のため母材靱性、溶接熱影響部靱性に優れ、低Pcmであることから溶接性に優れ、さらに降伏比が低い。一方、比較例39は、仕上圧延後に加速冷却を開始するまでの時間が20秒を超えているため、粗大析出物が多量に生成し、降伏比が高く、さらにC量が本発明の範囲を超えているため、母材および溶接熱影響部の靱性が大幅に低下しており、発明例34に比べて母材強度と溶接性、耐震性のバランスが大きく劣っている。
【0093】
発明例35は、0.28という非常に低いCeq.で引張強さ600MPa程度を達成するため、析出元素のV、Nbを添加し、仕上圧延後20秒以内の加速冷却を行い、さらに降伏比を低減するために加速冷却後に二相域までの再加熱を実施したものである。粗大析出物の生成量が少ないため、強度は600MPaを超え、さらに低Ceq.、Mg添加のため母材靱性、溶接熱影響部靱性に優れ、低Pcmであることから溶接性に優れ、さらに降伏比が低い。一方、比較例40は、仕上圧延後に加速冷却を開始するまでの時間が20秒を超えているため、粗大析出物が多量に生成し、強度が低く、降伏比が高く、さらに圧延の仕上温度が本発明の範囲を下回っているため、母材の靱性が大幅に低下しており、発明例35に比べて母材強度と溶接性、耐震性のバランスが大きく劣っている。
【0094】
発明例36は、0.42という非常に低いCeq.で引張強さ800MPa程度を達成するため、析出元素のTi、Nbを添加し、仕上圧延後20秒以内の加速冷却を実施したものである。粗大析出物の生成量が少ないため、強度は800MPaを超え、さらに低Ceq.のため母材靱性、溶接熱影響部靱性に優れ、さらに低Pcmであることから溶接性に優れている。一方、比較例41は、仕上圧延後に加速冷却を開始するまでの時間が20秒を超えているため、粗大析出物が多量に生成し、強度が低く、発明例36に比べて母材強度と溶接性、耐震性のバランスが大きく劣っている。比較例42は、Tiの添加量が本発明の範囲を超えているため、母材および溶接熱影響部の靱性が大幅に低下しており、発明例36に比べて母材強度と溶接性のバランスが大きく劣っている。
【0095】
発明例37は、0.41という非常に低いCeq.で引張強さ800MPa程度を達成するため、析出元素のTi、Vを添加し、仕上圧延後20秒以内の加速冷却を実施したものである。粗大析出物の生成量が少ないため、強度は800MPaを超え、さらに低Ceq.のため母材靱性、溶接熱影響部靱性に優れ、さらに低Pcmであることから溶接性に優れている。一方、比較例43は、仕上圧延後に加速冷却を開始するまでの時間が20秒を超えているため、粗大析出物が多量に生成し、強度が低く、発明例37に比べて母材強度と溶接性のバランスが大きく劣っている。
【0096】
発明例38は、0.39という非常に低いCeq.で引張強さ800MPa程度を達成するため、析出元素のTiを添加し、仕上圧延後10秒以内の加速冷却を実施したものである。粗大析出物の生成量が少ないため、強度は800MPaを超え、さらに低Ceq.のため母材靱性、溶接熱影響部靱性に優れ、さらに低Pcmであることから溶接性に優れている。一方、比較例44は、仕上圧延後に加速冷却を開始するまでの時間が20秒を超えているため、粗大析出物が多量に生成し、強度が低く、さらに圧延の仕上終了温度が本発明の範囲を下回っているために母材の靱性が大幅に低下しており、発明例38に比べて母材強度と溶接性のバランスが大きく劣っている。
【0097】
発明例39は、0.42という非常に低いCeq.で引張強さ800MPa程度を達成するため、析出元素のNbを添加し、仕上圧延後20秒以内の加速冷却を実施したものである。粗大析出物の生成量が少ないため、強度は800MPaを超え、さらに低Ceq.、Ca、Mg添加のため母材靱性、溶接熱影響部靱性に優れ、さらに低Pcmであることから溶接性に優れている。一方、比較例45はNb量が本発明の範囲を超えているため、粗大析出物が多量に生成し、強度が低く、さらに母材および溶接熱影響部の靱性が大幅に低下しており、発明例39に比べて母材強度と溶接性のバランスが大きく劣っている。
【0098】
発明例40は、0.39という非常に低いCeq.で引張強さ800MPa程度を達成するため、析出元素のV、Nbを添加し、仕上圧延後10秒以内の加速冷却を実施したものである。粗大析出物の生成量が少ないため、強度は800MPaを超え、さらに低Ceq.のため母材靱性、溶接熱影響部靱性に優れ、さらに低Pcmであることから溶接性に優れている。一方、比較例46は、仕上圧延後に加速冷却を開始するまでの時間が20秒を超えているため、粗大析出物が多量に生成し、強度が低く、発明例40に比べて母材強度と溶接性のバランスが大きく劣っている。
【0099】
発明例41は、0.39という非常に低いCeq.で引張強さ800MPa程度を達成するため、析出元素のTiを添加し、仕上圧延後20秒以内の加速冷却を実施したものである。粗大析出物の生成量が少ないため、強度は800MPaを超え、さらに低Ceq.のため母材靱性、溶接熱影響部靱性に優れ、さらに低Pcmであることから溶接性に優れている。一方、比較例47は、仕上圧延後に加速冷却を開始するまでの時間が20秒を超えているため、粗大析出物が多量に生成し、強度が低く、さらにスラブの加熱温度が本発明の範囲を超えているために母材靱性が大幅に低下しており、発明例41に比べて母材強度と溶接性のバランスが大きく劣っている。
【0100】
発明例42は、0.36という非常に低いCeq.で引張強さ800MPa程度を達成するため、析出元素のTi、Nbを添加し、仕上圧延後10秒以内の加速冷却を実施したものである。粗大析出物の生成量が少ないため、強度は800MPaを超え、さらに低Ceq.、Mg添加のため母材靱性、溶接熱影響部靱性に優れ、さらに低Pcmであることから溶接性に優れている。一方、比較例48は、仕上圧延後に加速冷却を開始するまでの時間が20秒を超えているため、粗大析出物が多量に生成し、強度が低く、さらに圧延の仕上終了温度が本発明の範囲を下回っているため、母材靱性が大幅に低下しており、発明例42に比べて母材強度と溶接性のバランスが大きく劣っている。
【0101】
発明例43は、0.43という非常に低いCeq.で引張強さ800MPa程度を達成するため、析出元素のVを添加し、仕上圧延後20秒以内の加速冷却を行い、さらに降伏比を低減するために二段階の加速冷却を実施したものである。粗大析出物の生成量が少ないため、強度は800MPaを超え、さらに低Ceq.のため母材靱性、溶接熱影響部靱性に優れ、低Pcmであることから溶接性に優れ、さらに降伏比が低い。一方、比較例49は、仕上圧延後に加速冷却を開始するまでの時間が20秒を超えているため、粗大析出物が多量に生成し、強度が低く、降伏比が高く、発明例43に比べて母材強度と溶接性のバランスが大きく劣っている。
【0102】
発明例44は、0.37という非常に低いCeq.で引張強さ800MPa程度を達成するため、析出元素のTi、Nbを添加し、仕上圧延後10秒以内の加速冷却を行い、さらに降伏比を低減するために二段階の加速冷却を実施したものである。粗大析出物の生成量が少ないため、強度は800MPaを超え、さらに低Ceq.、REM添加のため母材靱性、溶接熱影響部靱性に優れ、低Pcmであることから溶接性に優れ、さらに降伏比が低い。一方、比較例50は、仕上圧延後に加速冷却を開始するまでの時間が20秒を超えているため、粗大析出物が多量に生成し、強度が低く、降伏比が高く、さらに圧延の仕上終了温度が本発明の範囲を下回っているために母材靱性が大幅に低下しており、発明例44に比べて母材強度と溶接性のバランスが大きく劣っている。
【0103】
発明例45は、0.39という非常に低いCeq.で引張強さ800MPa程度を達成するため、析出元素のTi、Vを添加し、仕上圧延後20秒以内の加速冷却を行い、さらに降伏比を低減するために加速冷却後に二相域までの再加熱を実施したものである。粗大析出物の生成量が少ないため、強度は800MPaを超え、さらに低Ceq.のため母材靱性、溶接熱影響部靱性に優れ、低Pcmであることから溶接性に優れ、さらに降伏比が低い。一方、比較例51は、仕上圧延後に加速冷却を開始するまでの時間が20秒を超えているため、粗大析出物が多量に生成し、強度が低く、降伏比が高く、さらにN量が本発明の範囲を超えているために母材および溶接熱影響部の靱性が大幅に低下しており、発明例45に比べて母材強度と溶接性のバランスが大きく劣っている。
【0104】
以上の実施例から、本発明により製造された鋼材である発明例1〜45の鋼板は、同一の強度で比較した場合の母材靱性や溶接熱影響部靱性に極めて優れた鋼材であることは明白である。
【0105】
【表1】
【0106】
【表2】
【0107】
【表3】
【0108】
【表4】
【0109】
【表5】
【0110】
【表6】
【0111】
【表7】
【0112】
【表8】
【0113】
【表9】
【0114】
【表10】
【0115】
【表11】
【0116】
【表12】
【0117】
【表13】
【0118】
【表14】
【0119】
【発明の効果】
本発明によれば、幅広い強度範囲で母材及び溶接熱影響部の靱性に優れた鋼板およびその製造方法を提供することが可能であり、産業上の価値の高い発明であるといえる。
Claims (14)
- 質量%で、
C :0.005〜0.2%、
N :0.0001〜0.01%、
Al:0.001〜0.1%、
Si:0.01〜1%、
Mn:0.1〜2%、
P :0.02%以下、
S :0.02%以下を含有し、さらに
Ti:0.001〜0.1%、
V:0.001〜0.2%、
Nb:0.001〜0.1%の1種または2種以上を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる鋼組成を有し、かつ、Ti、Nb、Vの1種または2種以上を含有する炭化物、炭窒化物、窒化物のうちで円相当直径の寸法が50nm以上10000nm以下のものの個数密度が5.0×106個/mm2未満であり、該個数密度をTi、Nb、Vのうち該個数密度の算出対象となった炭化物、炭窒化物、窒化物が含有する種類の合金元素の添加量の総和で除した値が5.0×107個/(mm2・質量%)未満であることを特徴とする、溶接性および耐震性に優れた鋼板。 - ミクロ組織の70%未満がベイナイトあるいはマルテンサイトを主体とする組織であり、残部がフェライトを主体とする組織であることを特徴とする、請求項1に記載の溶接性および耐震性に優れた鋼板。
- 質量%で、さらに、
Cu:0.005〜1%、
Ni:0.01〜2%、
Cr:0.01〜1%、
Mo:0.01〜1%
の1種または2種以上をさらに含有することを特徴とする、請求項1または2に記載の溶接性および耐震性に優れた鋼板。 - 質量%で、さらに、
Ca:0.0005〜0.02%、
Mg:0.0005〜0.02%、
REM:0.001〜0.1%の1種または2種以上を含有することを特徴とする、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の溶接性および耐震性に優れた鋼板。 - 質量%で、
C :0.005〜0.2%、
N :0.0001〜0.01%、
Al:0.001〜0.1%、
Si:0.01〜1%、
Mn:0.1〜2%、
P :0.02%以下、
S :0.02%以下を含有し、さらに
Ti:0.001〜0.1%、
V:0.001〜0.2%、
Nb:0.001〜0.1%の1種または2種以上を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる鋼組成を有する鋼片または鋳片を1050℃以上1350℃以下の温度域に加熱し、該温度域に20分以上保持をした後に圧延を開始し、圧延をAr3点以上900℃以下で終了した後、20秒以内に鋼板表面の平均冷却速度が0.5℃/s以上の冷却を行い、300℃以上で冷却を終了した後空冷することを特徴とする溶接性および耐震性に優れた鋼板の製造方法。 - 質量%で、
C :0.005〜0.2%、
N :0.0001〜0.01%、
Al:0.001〜0.1%、
Si:0.01〜1%、
Mn:0.1〜2%、
P :0.02%以下、
S :0.02%以下を含有し、さらに
Ti:0.001〜0.1%、
V:0.001〜0.2%、
Nb:0.001〜0.1%の1種または2種以上を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる鋼組成を有する鋼片または鋳片を1050℃以上1350℃以下の温度域に加熱し、該温度域に20分以上保持をした後に圧延を開始し、圧延をAr3点以上900℃以下で終了した後、20秒以内に鋼板表面の平均冷却速度が0.5℃/s以上の冷却を行い、500℃未満で冷却を終了した後空冷し、さらにその後に900℃未満の温度で焼き戻しを行うことを特徴とする溶接性および耐震性に優れた鋼板の製造方法。 - 質量%で、
C :0.005〜0.2%、
N :0.0001〜0.01%、
Al:0.001〜0.1%、
Si:0.01〜1%、
Mn:0.1〜2%、
P :0.02%以下、
S :0.02%以下を含有し、さらに
Ti:0.001〜0.1%、
V:0.001〜0.2%、
Nb:0.001〜0.1%の1種または2種以上を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる鋼組成を有する鋼片または鋳片を1050℃以上1350℃以下の温度域に加熱し、該温度域に20分以上保持をした後に圧延を開始し、圧延をAr3点以上900℃以下で終了した後、20秒以内に鋼板表面の平均冷却速度が0.5℃/s以上の冷却を行い、該冷却をAr3点以下500℃以上の温度域で停止し、さらに、その後、600秒以内に鋼板表面の平均冷却速度が0.5℃/s以上の冷却を行うことを特徴とする、溶接性および耐震性に優れた鋼板の製造方法。 - 質量%で、
C :0.005〜0.2%、
N :0.0001〜0.01%、
Al:0.001〜0.1%、
Si:0.01〜1%、
Mn:0.1〜2%、
P :0.02%以下、
S :0.02%以下を含有し、さらに
Ti:0.001〜0.1%、
V:0.001〜0.2%、
Nb:0.001〜0.1%の1種または2種以上を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる鋼組成を有する鋼片または鋳片を1050℃以上1350℃以下の温度域に加熱し、該温度域に20分以上保持をした後に圧延を開始し、圧延をAr3点以上900℃以下で終了した後、20秒以内に鋼板表面の平均冷却速度が0.5℃/s以上の冷却を行い、200℃以下まで冷却した後、Ac1点以上Ac3点以下まで再加熱し、その後、鋼板表面の平均冷却速度が0.1℃/s以上の冷却を行うことを特徴とする、溶接性および耐震性に優れた鋼板の製造方法。 - 質量%で、さらに、
Cu:0.005〜1%、
Ni:0.01〜2%、
Cr:0.01〜1%、
Mo:0.01〜1%
の1種または2種以上を含有することを特徴とする、請求項5ないし8のいずれか1項に記載の溶接性および耐震性に優れた鋼板の製造方法。 - 質量%で、さらに、
Ca:0.0005〜0.02%、
Mg:0.0005〜0.02%、
REM:0.001〜0.1%
の1種または2種以上を含有することを特徴とする、請求項5ないし9のいずれか1項に記載の溶接性および耐震性に優れた鋼板の製造方法。 - 加熱後の鋼片または鋳片の表面を、該表面の平均冷却速度が2℃/s以上で1050℃以下Ar3点以上の温度まで冷却し、復熱後に圧延を開始することを特徴とする、請求項5ないし10のいずれか1項に記載の溶接性および耐震性に優れた鋼板の製造方法。
- 圧延1パス当たりの平均圧下率が25%以上であることを特徴とする、請求項5ないし11のいずれか1項に記載の溶接性および耐震性に優れた鋼板の製造方法。
- 圧延最終パスの圧下率が25%以上であることを特徴とする、請求項5ないし12のいずれか1項に記載の溶接性および耐震性に優れた鋼板の製造方法。
- 圧延パス間の一部あるいは全てにおいて、鋼板の表面を、該表面の平均冷却速度が2℃/s以上の冷却を行い、復熱後に次の圧延パスを実施することを特徴とする、請求項5ないし13のいずれか1項に記載の溶接性および耐震性に優れた鋼板の製造方法。
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JP2014029019A (ja) * | 2012-07-03 | 2014-02-13 | Jfe Steel Corp | 脆性亀裂伝播停止特性に優れた大入熱溶接用鋼板の製造方法 |
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CN113718169A (zh) * | 2020-05-26 | 2021-11-30 | 宝山钢铁股份有限公司 | 一种焊接结构用高强度无缝钢管及其制造方法 |
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- 2002-11-06 JP JP2002322743A patent/JP2004162076A/ja active Pending
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