JP2020088078A - 強磁性積層膜およびその製造方法ならびに電磁誘導性電子部品 - Google Patents

強磁性積層膜およびその製造方法ならびに電磁誘導性電子部品 Download PDF

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Abstract

【課題】ナノグラニュラー構造を有する強磁性薄膜が奏する高透磁率化の増進を図る強磁性薄膜を提供する。【解決手段】強磁性積層膜は、異なる厚さ範囲に含まれる厚さを有する第1強磁性層211、212と、第2強磁性層221、222と、を含んでいる複数の強磁性層が絶縁層30を介して積層されている構造を有する。強磁性層が、一般式L1-a-bMaFbにより表わされる組成を有し、かつ、Lで表わされる平均粒径1〜20nmの磁性粒子がMのフッ化物からなる絶縁性マトリックスに均一に分布したナノグラニュラー構造を有している。Lは、Fe、CoおよびNiから選択される1種以上の元素(但しNiの単独は除く)である。MはLi、Mg、Al、Ca、Sr、Ba、GdおよびYから選択される1種以上の元素である。Fはフッ素である。絶縁層30が、一般式McFd(1≦c≦2、1≦d≦3)により表わされる組成を有している。【選択図】図1

Description

本発明は、強磁性層が中間に絶縁層を挟むように積層された構造を有する強磁性積層膜に関し、その特性が、磁性層の組成を変えずとも、一層あたりの磁性層の厚みを変化させるだけで制御できることを特徴とする。
一層あたりの磁性層の厚みが異なる積層膜を、一つの膜中に連続して形成し、それぞれの磁性層総厚の比や積層順序で、複素透磁率μ(=μ’−jμ”)の重畳および透磁率比を制御でき、磁性損失項μ”が大きくなる周波数および帯域幅を制御できることを特徴とする。
各積層膜の一層あたりの磁性層の厚みや、膜組成を変えると、さらに大幅に磁性損失項μ”が大きくなる周波数および帯域幅を制御できることを特徴とする。
第5世代移動体通信がSHF帯(3〜30GHz)を用いるにあたり、それに適したインダクタ用材料や電磁ノイズ抑制材料が産業界で求められている。例えば、大面積膜の高周波でのノイズ抑制効果は、渦電流損失が支配的であると言われているが、空気の透磁率以上の透磁率μを有する磁性膜の、周波数fの電磁波の表皮深さdは、当該磁性膜の比抵抗ρを用いて関係式(1)により表わされる。関係式(1)から明らかなように、比透磁率μが高くなるほど表皮深さdは小さくなる。
d=(ρ/πfμ)1/2 ‥(1)。
厚さtを有する磁性膜に磁束密度Bの磁界が印加された際の渦電流損失Peは、関係式(2)により表わされる。磁性膜の比抵抗ρは、通常は金属膜より高いが、関係式(2)から明らかなように、比抵抗ρが大きくなるほど、渦電流損失Peは小さくなる。
e=(πtfB)2/6ρ ‥(2)。
表皮深さdと渦電流損失Pには、比抵抗ρに関してトレードオフの関係があるが、いずれも周波数fが高くなると、dは薄く、Pは大きくなり、損失としては厳しい条件となる。さらには、膜厚tが表皮深さdを超える場合、渦電流損失Peの影響が顕著になる。インダクタ用に低損失に用いるためには、tはdの3分の1以下が理想とされている。一方、電気的なノイズ抑制効果には、透磁率μによる磁性損失の効果も加わる。このため、比抵抗ρが金属より高いが、透磁率μが高い磁性膜の渦電流損失によるノイズ抑制効果は、一般的には金属よりも高く、周波数選択性があるとされる。また、磁性損失そのものによるノイズ抑制効果も重畳して加味される。
渦電流損失も磁性損失も、複素透磁率μの周波数特性に依存する。ここで、膜面内に一軸異方性があり、その磁化困難方向の高周波透磁率の計算結果が図8Aおよび図8Bに示されている。図8Aに示されている計算結果によれば、異方性の分散が小さく、複素透磁率の虚部(損失)μ”(破線)が最大となる自然共鳴周波数を中心に急峻に立ち上がっている。図8Bに示されている計算結果によれば、異方性の分散が大きく、複素透磁率の虚部μ”が最大となる自然共鳴周波数を中心になだらかに変化している。複素透磁率の実部μ’(実線)を用いたインダクタなどの電磁誘導部品、特定周波数のノイズを吸収するためのフィルタは、いずれも透磁率虚部μ”の立ち上がりが鋭く、対象外の周波数帯での損失が高くないほうがよい。
ただし、ノイズ抑制材料として考えた場合は、図8Aの場合、帯域が非常に狭くなるので、一つの材料で、ある程度の周波数範囲の電磁ノイズを除去したいような場合には不向きであるが、図8Bのような材料特性にすると、μ”の立ち上がりが緩慢なため、抑制したいノイズ成分、例えば信号の高次高調波を3次、5次、7次と減衰させたい場合にも、μ”の「裾野」が、主信号の1次成分まで減衰させてしまうようなケースも生じる。
つまり、ノイズ抑制材料としては、図8のように、複素透磁率の共鳴が単分散ではなく、二個以上の共鳴が重畳し、その共鳴間が緩和して繋がることで、μ”が高い値を維持する矩形的周波数特性を有していることが望ましいとされ、ノイズ抑制シートとして市販されている(例えば、先行技術文献2参照)。
ノイズ抑制材料には、磁束が磁性体を通じて過度に遠くまで伝搬しないよう、透磁率μが過度に高くないこと、比抵抗ρが過度に高いまたは低くないこと、および、自然共鳴周波数が高いほど、それに対応して効果が高周波数帯域で起きる、という特徴がある(例えば、特許文献1参照)。デバイスのインピーダンスZの内、損失になる交流抵抗R(Z=R+jX)は、複素透磁率の虚数項μ”(μ=μ’−jμ”)に、関係式(3)のように関係することにも因る。Sはデバイスの磁路断面積、Nはコイルの巻き数に相当、lはデバイスの磁路長である。
R=μ”SN/l‥(3)。
特開2017−041599号公報 特開2007−287840号公報
図9には、基板10の上にタンデム法(後述する)により成膜された、(Co0.69Pd0.3152(Ca0.330.6748の組成を有するナノグラニュラー薄膜10の断面STEM(走査型透過電子顕微鏡)観察画像が示されている。基板10との界面付近の初期層(基板からの距離が、例えば100 nm以内にある層)のナノ構造(図2の枠R1内の拡大画像(右下段)参照)と、初期層よりも基板10から離間している主層のナノ構造とは相違している(図9の枠R2内の拡大画像(右上段)参照)。
膜組成において磁性粒子(L)が増え、強磁性になってくる領域では、グラニュールの形状は、球から回転楕円体状に変化してくる。この長手方向が結晶学的な磁化容易方向に相当する。主層においては、グラニュールの長手方向が膜厚方向から膜面内方向に傾き、さらに結晶配向が見られる(グラニュールが傾く方向が偏っている)ことから、従来の静止対向スパッタで成膜されたナノグラニュラー構造を有する強磁性膜(以下「従来膜」という。)よりも面内一軸異方性が得られやすくなり、損失が少なくなることで異方性磁界が大きくなり、高周波帯域における特性の向上が図られる。
膜組成において磁性粒子(L)が増え、強磁性になってくる領域では、グラニュールの形状は、球から回転楕円体状に変化してくる。この長手方向が結晶学的な磁化容易方向に相当する。主層においては、グラニュールの長手方向が膜厚方向から膜面内方向に傾き、さらに結晶配向が見られる(グラニュールが傾く方向が偏っている)ことから、従来の静止対向スパッタで成膜されたナノグラニュラー構造を有する強磁性膜(以下「従来膜」という。)よりも面内一軸異方性が得られやすくなり、損失が少なくなることで異方性磁界が大きくなり、高周波帯域における特性の向上が図られる。
初期層においては、グラニュールの長手方向が膜厚方向に向いており、従来膜の構造に類似しているため、従来膜と同様に、(1)軟磁性がよい(保磁力は低い傾向)、(2)異方性磁界が低く、磁界中成膜でなければそれは付与されにくい、という特徴を有すると考えられる。
よって、膜厚を薄くすれば初期層の影響が大きくなり、かつ、そもそもナノグラニュラー薄膜は比抵抗が高いために、実用的な膜厚の範囲では、厚くても渦電流損失の影響を受けていないので、(1)高透磁率化(渦電流損失の劣化回復ではない)、(2)低周波化(渦電流損失の劣化回復ではない) 、(3)低保磁力化(金属磁性膜と同じ効果)および(4)異方性分散低減(金属磁性膜と同じ効果) 、というように、一部、均質な金属磁性薄膜とは異なる効果が得られると考えられる。
そこで、ナノグラニュラー構造を有する強磁性薄膜が奏する高透磁率化等の効果の増進を図りうる強磁性薄膜等を提供することを目的とする。
本発明の強磁性積層膜は、一般式L1-a-bab(L:Fe、CoおよびNiから選択される1種以上の元素(但しNiの単独は除く)、または、Fe、CoおよびNiから選択される1種以上の強磁性元素と、PdおよびPtから選択される1種以上の貴金属元素との合金(当該合金における貴金属元素の原子比率は0.50以下である)、M:Li、Mg、Al、Ca、Sr、Ba、GdおよびYから選択される1種以上の元素、F:フッ素、0.03≦a≦0.07、0.06≦b≦0.18、0.10≦a+b≦0.24)により表わされる組成を有し、かつ、Lで表わされる平均粒径1〜20nmの磁性粒子がMのフッ化物からなる絶縁性マトリックスに均一に分布したナノグラニュラー構造を有する複数の強磁性層と、一般式Mcd(1≦c≦2、1≦d≦3)により表わされる組成を有する絶縁層と、を備えている。
本発明の強磁性積層膜は、基板の上に形成された最初の前記強磁性層を含む前記複数の強磁性層が前記絶縁層を介して積層された構造を有し、前記複数の強磁性層が、第1の厚さ範囲に含まれる厚さを有する一または複数の第1強磁性層と、前記第1の厚さ範囲の上限値よりも大きい下限値を有する第2の厚さ範囲に含まれる厚さを有する一または複数の第2強磁性層と、を含んでいることを特徴とする。
本発明の強磁性積層膜の製造方法は、前記第1強磁性層を作製する工程と、前記第2強磁性層を作製する工程と、前記絶縁層を作製する工程と、を含み、前記第1強磁性層を作製する工程および前記第2強磁性層を作製する工程のそれぞれは、Fe、NiおよびCoから選択される1種以上の元素(但しNiの単独は除く)であるLからなる、あるいは、Fe、CoおよびNiから選択される1種以上の強磁性元素と、PdおよびPtから選択される1種以上の貴金属元素と、を含む第1カソード、およびLi、Mg、Al、Ca、Sr、Ba、GdおよびYから選択される1種以上の元素であるMのフッ化物からなる第2カソードのそれぞれに対する供給電力を独立に制御することにより、前記第1カソードおよび前記第2カソードのそれぞれからスパッタ粒子を発生させる工程と、アノードを回転させることにより、前記アノードに支持された基板を、前記第1カソードおよび前記第2カソードのそれぞれから発せられるスパッタ粒子が入射する位置に周期的に通過させる工程と、を含み、前記絶縁層を作製する工程は、前記第2カソードに対する供給電力を制御することにより、前記第2カソードからスパッタ粒子を発生させる工程と、前記アノードの回転角度を制御することにより、前記基板を、前記第2カソードから発せられるスパッタ粒子が入射する位置に配置させる工程と、を含むことを特徴とする。
本発明の強磁性積層膜によれば、第1の厚さ範囲に含まれる厚さを有する一または複数の、初期層から成る、もしくは初期層を含む第1強磁性層と、第2の厚さ範囲に含まれる厚さを有する一または複数の、初期層から成る、もしくは初期層を含む第2強磁性層と、が積層されることにより、第1強磁性層の積層膜の電磁的特性および第2強磁性層の積層膜の電磁的特性とが総合された電磁的特性が奏される。ナノグラニュラー構造を有する強磁性層の厚さが初期層(グラニュールの長手方向が膜厚方向に向いている層)、特に基板の上に形成される最初の強磁性層における初期層の影響が大きくなるように調節される。
これにより、(1)高透磁率化(渦電流損失の劣化回復ではない)、(2)低周波化(渦電流損失の劣化回復ではない)、(3)低保磁力化(金属磁性膜と同じ効果)および(4)異方性分散低減(金属磁性膜と同じ効果)、というように、均質な金属磁性薄膜とは異なる効果が奏され、第1強磁性層の積層膜の電磁的特性および第2強磁性層の積層膜の電磁的特性で効果が異なるため、特に、自然共鳴周波数の異なるμ”が重畳し、共鳴間が緩和して繋がることで、高い値を維持する。
本発明の第1実施形態としての強磁性積層膜の構成説明図。 本発明の強磁性積層膜の製造方法に関する説明図。 強磁性積層膜(参考例1)の複素透磁率の周波数依存性に関する説明図。 強磁性積層膜(参考例2)の複素透磁率の周波数依存性に関する説明図。 強磁性積層膜の複素透磁率の周波数依存性の予測計算結果に関する説明図。 強磁性積層膜(実施例1)の複素透磁率の周波数依存性に関する説明図。 強磁性積層膜(実施例1)の交流抵抗(インピーダンスの実部)に相当するものの周波数依存性に関する説明図。 強磁性積層膜(参考例)の断面TEM画像。 本発明の第2実施形態としての強磁性積層膜の構成説明図。 強磁性積層膜(実施例2)の複素透磁率の周波数依存性に関する説明図。 膜面内に一軸異方性があり、その磁化困難方向の高周波透磁率の計算結果(異方性分散が小さい場合)。 膜面内に一軸異方性があり、その磁化困難方向の高周波透磁率の計算結果(異方性分散が大きい場合)。 ナノグラニュラー薄膜のナノ構造に関する説明図。 本発明の第3実施形態としての強磁性積層膜の構成説明図。 強磁性積層膜(実施例3)の複素透磁率の周波数依存性に関する説明図。 強磁性積層膜(実施例3)の交流抵抗(インピーダンスの実部)に相当するものの周波数依存性に関する説明図。
(第1実施形態)
(構成)
図1に示されている本発明の第1実施形態としての強磁性積層膜は、基板10の上に形成された最初の強磁性層としての第1強磁性層211、もう1つの第1強磁性層212ならびに2つの第2強磁性層221および222が、中間に絶縁層30を挟むように順に積層された4層構造を有している。以下、第1強磁性層211および212ならびに2つの第2強磁性層221および222を区別せずに指す場合には単に強磁性層20という。
強磁性層20は、一般式L1-a-babにより表わされる組成を有している。「L」は、Fe、CoおよびNiから選択される1種以上の元素(但しNiの単独は除く)、または、Fe、CoおよびNiから選択される1種以上の強磁性元素と、PdおよびPtから選択される1種以上の貴金属元素との合金(当該合金における貴金属元素の原子比率は0.50以下である。)である。「M」は、Li、Mg、Al、Ca、Sr、Ba、GdおよびYから選択される1種以上の元素である。「F」はフッ素である。原子比率aおよびbは、0.03≦a≦0.07、0.06≦b≦0.18、かつ、0.10≦a+b≦0.24である。
強磁性層20の成分Lのうち、Niは飽和磁化が低いので、これらの金属単独はLから除かれる。したがって、Lとしては、Co単独、Fe単独、Co−Fe、Co−Ni、Co−Ni−Feなどが用いられる。aが0.03より小さい場合および/またはbが0.06より小さい場合、強磁性層20の比抵抗ρが過度に小さく(例えば、1.0×102μΩ・cm以下に)なる。aが0.07より大きい場合および/またはbが0.18より大きい場合、強磁性層20の飽和磁化および異方性磁界が共に低下し、1000nm程度の単層膜で、GHz帯域(例えば7GHz以上)の自然共鳴周波数を得ることが困難となる。
具体的には、L−M−Fにおいて、MとFとの合計原子比率(a+b)が0.25以上の場合は、金属Lからなるグラニュールの接触が減少し、比抵抗は大きくなる(例えば、1×103μΩ・cm以上に達する)が、グラニュールの間の磁気結合が減少し、結晶磁気異方性の長距離浸透性が低下するために異方性磁界も低下する。単純に磁性体の空間占有率減少によって磁化が希釈される。さらにMとFの合計原子比率が増加して0.60を超える組成領域では、金属Lからなるグラニュール間の距離が大きくなることで磁気的に結合するグラニュールがほぼ無くなり、膜の強磁性が失われる(超常磁性)。「強磁性」とは、ナノグラニュラー膜のグラニュール密度が低下して強磁性ではなくなったことを意味する「超常磁性」を一部包含している「スペロマグネティック秩序状態」も含むが、可能な範囲で磁性金属グラニュールは高密度に充填される必要がある。
よって、強磁性層20において、MとFとの合計の原子比率(a+b)が0.24以下、言い換えればLの原子比率(1−(a+b))が0.76以上の組成範囲において、特に異方性磁界と飽和磁化が高くなる。しかし、Lの原子比率が0.90を超え、あるいはMとFとの合計原子比率が0.10になると、強磁性層20の磁気特性は向上するものの、比抵抗が著しく低下し(例えば、1.0×102μΩ・cmを下回り)、従来の金属材料と渦電流損失の観点では差が無くなる。磁化が小さい場合(例えば、3.5kGより小さい場合)に異方性磁界のみが高くなると、静的透磁率が2を下回り、デバイス応用において機能性材料(電磁界伝搬物質など)としての空気との区別が付きにくくなる。また、磁化が大きすぎる場合(例えば、21.5kGを超える場合)、強磁性層20の比抵抗ρが低くなる(例えば、1.0×102μΩ・cmを下回る)。
強磁性層20は、Lで表わされる平均粒径1〜20nmの磁性粒子(グラニュール)がMのフッ化物からなる絶縁性マトリックスに均一に分布したナノグラニュラー構造を有している。グラニュールの間隔が交換相互作用を生ずる程度に近い、または、接触していることが必要とされる。グラニュール同士が接触すると磁気的にも結合するが、相対的に割合が多いグラニュール同士が直接接触するために比抵抗が大幅に減少してしまう。そのため、マクロ的にナノグラニュラー膜を通過する電流経路が絶縁体である程度電気的に分断されている必要がある。グラニュールの間隔が1nm程度より広い場合、グラニュール間の磁気的な相互作用、および、量子効果による絶縁体を介しての電子のトンネル伝導の両方が同時に起こる。トンネル伝導による電気伝導を呈する物質の比抵抗は、金属伝導のそれよりも大きい。但し、絶縁体固有の絶縁性は大幅に損なわれることになるので、この固有の絶縁性が特に優れる材料の選択が重要となる。フッ化物絶縁体は、後述する理由により、磁気的結合を生じる1nm程度以上の距離におけるトンネル伝導、もしくは接触による金属電導の条件下においても、電流経路を制限するために、高い比抵抗を達成することができる。
グラニュール同士が磁気的に結合するためには、グラニュールの体積総量、言い換えればグラニュールの充填密度を高くする必要があるため、薄膜中の金属量が多くなる。この場合、強磁性は高まり、高い自然共鳴周波数が達成できるようになるが、相対的に絶縁体量が減少するために、比抵抗は低下してしまう。この比抵抗の低下が従来の金属系材料以下に及ばないように、以下に考察するフッ化物絶縁体をグラニュールのマトリックス材料に使用することにより解消することができる。
ナノ構造磁性体が実効的な結晶磁気異方性の低下が生じて軟磁性を生ずる機構(ランダム異方性)においては、軟磁性を示す一方で異方性磁界が低下することとなる。しかし、ナノグラニュラー材料は、一般的なナノ構造軟磁性体とは異なって一定の結晶配向を持つことができる。つまり、結晶磁気異方性の高い磁性金属をグラニュールに用いることが有効である。
フッ化物結晶を含むナノグラニュラー構造は、高い比抵抗を有している。この理由は、MgF2、CaF2等のフッ化物は、Al23等の酸化物に比べてエネルギーバンドギャップが大きいので(CaF2:12.1eV、MgF2:11.8eV、Al23:9eV、いずれも単結晶での値)、比抵抗が高くなることである。フッ化物を用いたナノグラニュラー構造膜において特長的なのは、窒化物や酸化物を用いた場合とは異なり、フッ化物が結晶構造をなすことである。結晶構造であるということは、組成も化学量論組成近くに安定したものであり、アモルファス構造の材料とは異なってバンドギャップの低下がなく、さらには材料製造時におけるグラニュールを構成する金属とフッ化物の混合が抑制されるため、従来と比較して高電気抵抗化を非常に高い次元で達成することが可能である。また、こうような絶縁体を用いれば、グラニュール同士の接触が増加して比抵抗が低下しているような領域の金属量の材料においても、従来の酸化物や窒化物をマトリックス材料とする従来のナノグラニュラー強磁性膜と比べて相対的に比抵抗は高くなる。
Coは、六方最密充填構造の結晶構造の場合、単体でも107erg/cm3台と、結晶磁気異方性定数が高い材料である。FeおよびNiも、Coよりは弱いものの105erg/cm3台の結晶異方性を有している。ただし、CoにFeやNiを固溶させてゆくと単純に異方性が弱くなるのではなく、むしろ強くなる組み合わせがあるのは周知の事実である。また、貴金属であるPtおよびPdを上記磁性金属に固溶させると、中には飛躍的に高くなった106〜107erg/cm3台の異方性が得られることも知られている。このように、異方性の高いグラニュールの金属組成を選択することで、結晶配向を有するナノグラニュラー膜の異方性磁界を高めることができる。
磁性金属グラニュールを、化学的に極めて安定なPdまたはPtの貴金属を含む合金とすることによって、磁性金属グラニュールの抗フッ化性を高め、フッ化物マトリックスとの相分離を促進することができる。磁性金属グラニュールを構成するLの元素がFと結合してしまうと、膜の飽和磁化が減少するが、Pd、Ptはこれを最小限に抑制する効果がある。さらに、Pd、Ptは異方性磁界を著しく大きくする効果を有しているために、Ni単独も使用することができる。しかしながら、Pd、Ptは非磁性金属であるため、その原子比率が50%を超えると、異方性は強くなるものの飽和磁化が減少するので、透磁率絶対値が低下することに加えて、自然共鳴周波数も高周波側に延びなくなり、磁歪定数およびコストも著しく増加するので、好ましくない。
第1強磁性層211の厚さt211および第1強磁性層212の厚さt212のそれぞれは、第1の厚さ範囲に含まれるように設計されている。第1の厚さ範囲は、例えば20〜100nm、50〜200nm、100〜200nmの厚さ範囲である。第1の厚さ範囲は、目標厚さ(例えば50nm)を基準として、膜厚制御精度の観点から不可避的な誤差範囲(例えば40〜60nm)であってもよい。
第2強磁性層221の厚さt221および第2強磁性層222の厚さt222のそれぞれは、第1の厚さ範囲の上限値よりも大きい下限値を有する第2の厚さ範囲に含まれている。第2の厚さ範囲は、例えば200〜800nm、400〜1000nm、500〜2000nmの厚さ範囲である。第2の厚さ範囲は、目標厚さ(例えば500nm)を基準として、膜厚制御精度の観点から不可避的な誤差範囲(例えば490〜510nm)であってもよい。
強磁性層20の厚さが前述の初期層と同程度に設計されることにより、初期層と同様のナノ構造(図2の枠R1内の拡大画像(右下段)参照)を有する部分の影響が(主層のナノ構造(図2の枠R2内の拡大画像(右上段)参照)よりも)大きくなる。
絶縁層30は、一般式Mcd(1≦c≦2、1≦d≦3)により表わされる組成を有している。絶縁層30の厚さt21は、2〜50nmの範囲に含まれるように設計されている。これは、絶縁層30が破れることなく、絶縁層30を介して強磁性層20を厚さ方向には交換結合させず、強磁性層20のそれぞれの端部において結合させるためである。
(強磁性積層膜の製造方法)
本発明の第1実施形態としての強磁性積層膜(図1参照)の製造方法について図2を用いて説明する。当該方法は、第1強磁性層211、絶縁層30、第1強磁性層212、絶縁層30、第2強磁性層221、絶縁層30および第2強磁性層222を、基板10の上に順に積層するように作製する工程を含んでいる。
(1)強磁性層20を作製する工程は、(1−1)チャンバ40に配置された第1カソード41および第2カソード42のそれぞれに対する供給電力を独立に制御することにより、第1カソード41および第2カソード42のそれぞれからスパッタ粒子を発生させる工程と、(1−2)アノード44を回転させることにより、アノード44に支持された基板10を、第1カソード41および第2カソード42のそれぞれから発せられるスパッタ粒子が入射する位置に周期的に通過させる工程と、を含んでいる。
基板10としては、例えば、約0.15mm厚のカバーガラス、約0.2mm厚のショット社製D263(ショット社の商品名)ガラス、約0.3mm厚のコーニング社製イーグルXG(コーニング社の商品名)ガラス、0.5mm厚で表面を熱酸化したSiウエハ、0.5mm厚の石英ガラス、もしくは同様に約0.5mm厚のMgOとサファイアなどが用いられる。
第1カソード41は、Fe、NiおよびCoから選択される1種以上の元素(但しNiの単独は除く)であるLからなる。そのほか、第1カソード41は、Fe、CoおよびNiから選択される1種以上の強磁性元素と、PdおよびPtから選択される1種以上の貴金属元素と、を含んでいてもよい。第2カソード42は、Li、Mg、Al、Ca、Sr、Ba、GdおよびYから選択される1種以上の元素であるMのフッ化物からなる。
(2)絶縁層30を作製する工程は、(2−1)第2カソード42に対する供給電力を制御することにより、第2カソード42からスパッタ粒子を発生させる工程と、(2−2)アノード44の回転角度を制御することにより、基板10を、第2カソード42から発せられるスパッタ粒子が入射する位置に配置させる工程と、を含んでいる。
図2では、第1カソード41および第2カソード42が下向きに保持され、アノード44が上向きに保持されることで、カソード41、42およびアノード44が対向配置されている。そのほか、第1カソード41および第2カソード42が上向きに保持され、アノード44が下向きに保持されることで、カソード41、42およびアノード44が対向配置されていてもよい。第1カソード41および第2カソード42が横向きに保持され、アノード44が横向きに保持されることで、カソード41、42およびアノード44が対向配置されていてもよい。カソード41、42およびアノード44が非対向配置されていてもよい。
第1カソード41および第2カソード42のそれぞれを構成する物質がスパッタされ、部分的にフリーラジカル化したスパッタ粒子が各カソード41、42から飛び出す。負の電荷を有するスパッタ粒子がアノード44に電気的に吸引され、第1強磁性層211、絶縁層30、第1強磁性層212、絶縁層30、第2強磁性層221、絶縁層30および第2強磁性層222が、基板10の上に順に積層するように作製される。
第1カソード41および第2カソード42に投入される電力は、各カソード41、42の物質が層の組成に対応するように、第1電力供給装置410および第2電力供給装置420のそれぞれにより独立して制御される。第1カソード41および第2カソード42から同時にスパッタされたスパッタ粒子がアノード44に支持された基板10に到達し、所望の組成の層が作製される。基板10が周期的に第1カソードおよび第2カソードの近傍位置を通過することにより所望の組成をもつ膜が成膜される。スパッタ粒子の入射角を制御するために、膜構造に由来する磁気異方性が保たれる範囲で、カソード41、42または基板10に任意の角度を付け、カソード41、42およびアノード44の対向配置の関係が制御されてもよい。同様に非対向配置の場合も、基板10がスパッタ粒子と接触する位置を周期的に通過することにより所望の組成をもつ膜が形成される。
アノード44は、例えば1〜200rpmの範囲に含まれる回転数で一定もしくは変速回転で回転駆動され、基板10の面内にこの回転数に応じた周速(回転力)が加えられることにより、スパッタリング中に磁界が印加されなくても、強磁性層20において一軸配向が起こる。アノード44の回転によって異方性が付与される方向に100〜500Oeの範囲の磁界が基板10に印加する場合もあり、強磁性層20の異方性はさらに強化される。
スパッタガスとしては、例えば純Arガスが用いられる。基板10の雰囲気を構成するArガス圧力は1〜20mTorrの圧力範囲に制御される。第1電力供給装置410および第2電力供給装置420のそれぞれによるスパッタ電力は10〜1000Wに制御される。層の厚さは成膜時間の長短により調節される。基板10は間接水冷あるいは100〜800℃の温度範囲に含まれる所定温度に制御される。また、基板ホルダーに一対の永久磁石を配置し、基板10に100〜500Oeの静磁界が印加されてもよい。
前記工程(1)または前記工程(1)および前記(2)は、静磁場中あるいは無磁場中で実行される。基板10は、ヒータ(図示略)により100〜800℃の温度範囲に含まれる所定温度で加熱されてもよい。第1強磁性層11および第2強磁性層12のそれぞれは作製中および作製後のうち少なくとも一方において、例えば静磁界中および回転磁界中、あるいは無磁場中で、100〜800℃の温度範囲に含まれる所定温度で、例えば5分〜5時間の時間範囲に含まれる所定時間にわたって保持されることで熱処理される。このような各強磁性層20の作製工程および熱処理工程のいずれによっても、各強磁性層20に膜面内一軸異方性が付与される。300Oe〜10kOeの静磁界中もしくは回転磁界における熱処理によって、各強磁性層20における異方性磁界の制御が可能である。熱処理温度が100℃より低温である場合、各層作製時の発熱との差がほとんどなくなるので効果はなく、熱処理温度が800℃の上限は、あくまでも、基板や装置の耐熱を考慮してのものである。
基板10の近傍に電磁石や永久磁石を配置するなど、成膜中に静磁界が印加されることによって磁気異方性を誘導し、さらには、基板10を回転させることで一軸異方性を強化することにより、所望の磁気特性の薄膜が得られる。
(強磁性積層膜の評価)
(実施例1)
第1実施形態にしたがって実施例1の強磁性積層膜が作製された。実施例1では、強磁性層20が(Co0.84Pd0.160.82−(Ca0.330.670.18で表わされる組成を有している。絶縁層30がCaF2で表わされる組成を有している。第1強磁性層211の厚さt211および212の厚さt212は50nmに設計され、第2強磁性層221の厚さt221および222の厚さt222は500nmに設計され、絶縁層30の厚さは10nmに設計された。
実施例1の強磁性積層膜の複素透磁率の周波数依存性を予測するため、基板10の上に厚さ500nmの2つの強磁性層20(第1強磁性層221および222に相当する。)が絶縁層30を介して積層された2層構造の参考例1の強磁性積層膜、および、基板10の上に厚さ50nmの2つの強磁性層20(第2強磁性層211および212に相当する。)が絶縁層30を介して積層された2層構造の参考例2の強磁性積層膜が作製された。
図3Aには、参考例1の強磁性積層膜のみの複素透磁率の周波数依存性の測定結果が示されている。図3Bには、参考例2の強磁性積層膜のみの複素透磁率の周波数依存性の測定結果が示されている。図3Cには、参考例1および参考例2のそれぞれの強磁性積層膜の複素透磁率の周波数依存性の測定結果の合成結果として、複素透磁率(実部)μ’の周波数依存性の予測計算結果が一点鎖線で示され、複素透磁率(虚部)μ”の周波数依存性の予測計算結果が二点鎖線で示されている。
図3Aから、参考例1の強磁性積層膜の複素透磁率(虚部)μ”がf=7.5GHz付近でピークを示すことがわかる。図3Bから、参考例2の強磁性積層膜の複素透磁率(虚部)μ”がf=2.5GHz付近でピークを示すことがわかる。図3Cから、当該合成結果としての複素透磁率(虚部)μ”がf=2.5GHzおよび7.5GHz付近でやや弱いピークを示すものの、参考例1および参考例2と比較してf=2.5GHz〜7.5GHzの周波数帯域における変化率が小さいことがわかる。
図4Aには、実施例1の強磁性積層膜の複素透磁率の周波数依存性の測定結果が、実部μ’は「●」、虚部μ”は「△」で示されている。図4Aには、複素透磁率(実部)μ’の周波数依存性の予測計算結果が一点鎖線で示され、複素透磁率(虚部)μ”の周波数依存性の予測計算結果が二点鎖線で示されている。
図4Aから、実施例1の強磁性積層膜の複素透磁率(虚部)μ”が周波数f=3.5GHz付近でピークを有していることがわかる。複素透磁率(虚部)μ”がf=2.5GHz付近ではなくf=3.5GHz付近にピークを有しているのは、第1強磁性層211の厚さt211および212の厚さt212がその設計値(50nm)よりも厚く(約60nm)なったことに由来すると推察される。f=7.5GHz付近での複素透磁率(虚部)μ”のピークが弱いのは、表面粗さが小さい基板10の表面に形成された最初の強磁性層である第1強磁性層211における初期成長層のナノ構造が、表面粗さが大きい絶縁層30の表面に形成された第2強磁性層221および222における初期成長層のナノ構造よりも規則的であるため、前者の複素透磁率の周波数依存性のほうが支配的になったためであると推察される。すなわち、第2強磁性層221および222における初期成長層のナノ構造が、絶縁層30の表面粗さの大きさに由来して不規則的になり、の複素透磁率の周波数依存性の寄与率が小さくなったためであると推察される。
図4Bには、複素透磁率(虚部)μ”に角周波数ω(2πf)を乗じ、交流抵抗(インピーダンスの実部)と周波数特性形状が同じになるものω・μ”に変換した結果が示されている。図4Bから、f=3.5〜7.5GHzの周波数帯域で複素透磁率(虚部)μ”が減少している一方で、周波数fが増加していることに応じて、ω・μ”の均一化が図られている。
図5には、参考例の強磁性積層膜の断面TEM(透過電子顕微鏡)画像が示されている。参考例の強磁性積層膜は、基板10の上に200nmの厚さを有する5つのナノグラニュラー薄膜からなる強磁性層20が絶縁層30を介して積層されている5層構造を有する。強磁性層20は、基板10の上にタンデム法(図2参照)により成膜された。強磁性層20は、実施例1と同じく(Co0.84Pd0.1682−(Ca0.330.6718の組成を有している。絶縁層30は、CaF2で表わされる組成を有し、その厚さは10nmに設計された。
最初の強磁性層20が基板10との界面から厚み方向に100nmの範囲200では、長細いナノ粒子が厚み方向に揃って柱状であるのに対し、それよりも基板10の界面から離れた範囲では、ナノ粒子が斜めに傾いていることがわかる。CaF2単相は、通常濡れ性が悪く、ガラス基板に単層膜を成膜すると、表面粗さが著しく悪いが、フッ化物を含むナノグラニュラー層の上に順次成膜していくため濡れ性が改善され、中間絶縁層として機能していることを示唆している。ちなみに、中間層を介して膜内で上下膜が交換結合している場合には、斜め磁化や垂直磁化になり、角形性が悪化する。
(第2実施形態)
(構成)
図6に示されている本発明の第2実施形態としての強磁性積層膜は、基板10の上に形成された最初の強磁性層としての第2強磁性層221、もう1つの第2強磁性層222ならびに2つの第1強磁性層211および212が、中間に絶縁層30を挟むように順に積層された4層構造を有している。これ以外の構成は本発明の第1実施形態としての強磁性積層膜(図1参照)と同様であるため、さらなる説明を省略する。
(強磁性積層膜の製造方法)
本発明の第2実施形態としての強磁性積層膜(図6参照)の製造方法は、、第2強磁性層221、絶縁層30、第2強磁性層222、絶縁層30、第1強磁性層211、絶縁層30および第1強磁性層212を、基板10の上に順に積層するように作製する工程を含んでいる。
(1)強磁性層20を作製する工程および(2)絶縁層30を作製する工程のそれぞれは、第1実施形態と同様であるため、さらなる説明を省略する。
(強磁性積層膜の評価)
(実施例2)
第2実施形態にしたがって実施例2の強磁性積層膜が作製された。実施例2では、強磁性層20が実施例1と同じく(Co0.84Pd0.160.82−(Ca0.330.670.18で表わされる組成を有している。絶縁層30がCaF2で表わされる組成を有している。第1強磁性層211の厚さt211および212の厚さt212は50nmに設計され、第2強磁性層221の厚さt221および222の厚さt222は500nmに設計され、絶縁層30の厚さは10nmに設計された。
図7には、実施例2の強磁性積層膜の複素透磁率の周波数依存性の測定結果が、実部μ’は「●」、虚部μ”は「△」で示されている。図7には、複素透磁率(実部)μ’の周波数依存性の予測計算結果が一点鎖線で示され、複素透磁率(虚部)μ”の周波数依存性の予測計算結果が二点鎖線で示されている(図3C参照)。
図7から、実施例2の強磁性積層膜の複素透磁率(虚部)μ”が周波数f=3.5GHz付近から7.5GHzにかけて略一定であることがわかる。これは、表面粗さが小さい基板10の表面に形成された最初の強磁性層である第2強磁性層221における初期成長層のナノ構造が、表面粗さが大きい絶縁層30の表面に形成された第1強磁性層211および212における初期成長層のナノ構造よりも規則的であるため、前者の複素透磁率の周波数依存性のほうが支配的になったためであると推察される。すなわち、第1強磁性層211および212における初期成長層のナノ構造が、絶縁層30の表面粗さの大きさに由来して不規則的になり、の複素透磁率の周波数依存性の寄与率が小さくなったためであると推察される。
(本発明のその他の実施形態)
前記実施形態では、2つの異なる(重複しない)厚さ範囲のそれぞれに含まれる厚さを有する第1強磁性層群(第1強磁性層211および212)および第2強磁性層群(第2強磁性層221および222)が積層されることにより強磁性積層膜が構成されていたが、他の実施形態として3つ以上の異なる(重複しない)厚さ範囲のそれぞれに含まれる厚さを有する第1〜第n強磁性層群(3≦n)が積層されることにより強磁性積層膜が構成されていてもよい。
前記実施形態では、絶縁層を介して積層された各強磁性層群を構成する強磁性層の数は「2」であったが、他の実施形態として各強磁性層群を構成する強磁性層の数は「1」であってもよく「3以上」であってもよい。前記実施形態では、絶縁層を介して積層された各強磁性層群を構成する強磁性層の数は同じであったが、他の実施形態として一の強磁性層群を構成する強磁性層の数と他の強磁性層群を構成する強磁性層の数とが相違していてもよい。
一の強磁性層群を構成する複数の強磁性層の間に、他の強磁性層群を構成する一または複数の強磁性層が介装されるように、当該一の強磁性層群および当該他の強磁性層群を含む複数の強磁性層が絶縁層を介して積層されることにより強磁性積層膜が構成されていてもよい。
(実施例3)
図10の第3実施形態にしたがって、実施例3の強磁性積層膜が作製された。実施例3では、強磁性層20が実施例1と同じく(Co0.84Pd0.160.82−(Ca0.330.670.18で表わされる組成を有している。絶縁層30がCaF2で表わされる組成を有している。第1強磁性層211の厚さt211および212の厚さt212は50nmに設計され、第2強磁性層221の厚さt221および222の厚さt222は500nmに設計され、絶縁層30の厚さは10nmに設計された。
図11Aには、実施例3の強磁性積層膜の複素透磁率の周波数依存性の測定結果が、実部μ’は「●」、虚部μ”は「△」で示されている。図11Aには、複素透磁率(実部)μ’の周波数依存性の予測計算結果が一点鎖線で示され、複素透磁率(虚部)μ”の周波数依存性の予測計算結果が二点鎖線で示されている(図3C参照)。
図11Aから、実施例1の強磁性積層膜の複素透磁率(虚部)μ”が周波数f=5.2GHz付近から10.9GHzにかけて、略一定とまでは言い難いが、高い値を保っている。これは、表面粗さが小さい基板10の表面に形成された最初の強磁性層である第1強磁性層211における初期成長層のナノ構造が、表面粗さが大きい絶縁層30の表面に形成された第2強磁性層211、212、および第1強磁性層212における初期成長層のナノ構造よりも規則的であるため、第1強磁性層211の複素透磁率の周波数依存性のほうが支配的になったためであると推察される。また、第1強磁性層211および212層は、積層構造を成していないため、第1強磁性層については、60nm単層の特性が二層分重畳しているだけである。また、積層構造を成す第2強磁性層211および212は、それぞれの第一強磁性層とも磁気的な結合を成す。図11Aの複素透磁率には、基板10と接する第1強磁性層211単独における初期成長層のナノ構造の寄与度が高いが、透磁率の大きさは、212と積層構造を成した時よりも小さく、自然共鳴周波数も高い。これと、なんらか、211および222によって事前共鳴周波数が高められた第2強磁性層211および212からなる積層構造の複素透磁率、および絶縁層30の上に成膜され、211よりも寄与度が低い212による複素透磁率が重畳した、複雑な構成となっているものの、実施例1および2と同様の効果が得られていると推察される。
図11Bには、複素透磁率(虚部)μ”に角周波数ω(2πf)を乗じ、交流抵抗(インピーダンスの実部)と周波数特性形状が同じになるものω・μ”に変換した結果が示されている。図11Bから、f=6.0〜12.0GHzの周波数帯域で複素透磁率(虚部)μ”が減少している一方で、周波数fが増加していることに応じて、ω・μ”の均一化が図られている。図4ABと比べて、μ”が高くなる周波数帯域が高周波化しているので、より高い周波数帯域でω・μ”も高い値を保つことがわかる。
本発明の強磁性積層膜は、電子機器の電磁誘導性電子デバイスに使用される、膜面内に一軸磁気異方性を有する超高周波磁性薄膜に関するものである。近年、電子機器における情報処理・伝送の高速化が急速に進展しており、それらの動作周波数が、従来の高周波帯域(1GHz以下)から、例えば無線LAN規格の2.4GHz帯のように、準マイクロ波(〜3GHz)にまで高まっている。
今後は、通信速度を高めるためにさらに高いSHF帯(3GHz〜)で、例えば、第5世代移動体通信システムに準じる5.2GHz規格、さらには28GHz規格の無線LANなどが主流となってくるであろう。また、近年の電子機器は多機能化および小型化されているので、内部容積の大部分を占める電子デバイス、例えばインダクタ、カプラ、バラン、ノイズフィルター等の電磁誘導性高周波磁気デバイスの小型化および集積化への要求が強い。
このためには、従来の空芯磁気デバイスに磁性体を導入し、磁気回路のリラクタンスを低下させることや、磁界を磁性体内に留め、時には吸収させることが非常に有効である。以上のためには、低くとも1GHz以上まで透磁率μ’が一定を保つ磁性材料、言い換えれば、透磁率μ”による自然共鳴周波数が3GHz以上と極めて高い材料が望まれ、これがノイズ抑制の効果ももたらす。さらには、最近の電子デバイスの動向として、薄膜デバイス化、および半導体ICとの一体化への検討が活発であり、磁性体は薄膜材料としての期待が持たれる。
磁性体の高周波特性を、積層膜の膜厚制御のみで、あたかも組成制御を行ったかのような範囲にまで変化させることが出来る技術は、低コスト化に寄与し、工業的な利点が大きい。
10‥基板、20‥強磁性層、211、212‥第1強磁性層、221、222‥第2強磁性層、30‥絶縁層、41‥第1カソード、42‥第2カソード、44‥アノード。

Claims (7)

  1. 一般式L1-a-bab(L:Fe、CoおよびNiから選択される1種以上の元素(但しNiの単独は除く)、または、Fe、CoおよびNiから選択される1種以上の強磁性元素と、PdおよびPtから選択される1種以上の貴金属元素との合金(当該合金における貴金属元素の原子比率は0.50以下である)、M:Li、Mg、Al、Ca、Sr、Ba、GdおよびYから選択される1種以上の元素、F:フッ素、0.03≦a≦0.07、0.06≦b≦0.18、0.10≦a+b≦0.24)により表わされる組成を有し、かつ、Lで表わされる平均粒径1〜20nmの磁性粒子がMのフッ化物からなる絶縁性マトリックスに均一に分布したナノグラニュラー構造を有する複数の強磁性層と、
    一般式Mcd(1≦c≦2、1≦d≦3)により表わされる組成を有する絶縁層と、を備え、
    基板の上に形成された最初の前記強磁性層を含む前記複数の強磁性層が前記絶縁層を介して積層された構造を有し、
    前記複数の強磁性層が、第1の厚さ範囲に含まれる厚さを有する一または複数の第1強磁性層と、前記第1の厚さ範囲の上限値よりも大きい下限値を有する第2の厚さ範囲に含まれる厚さを有する一または複数の第2強磁性層と、を含んでいることを特徴とする強磁性積層膜。
  2. 請求項1記載の強磁性積層膜において、
    前記複数の第1強磁性層が前記絶縁層を介して順に積層され、代替的または付加的に、前記複数の第2強磁性層が前記絶縁層を介して順に積層されていることを特徴とする強磁性積層膜。
  3. 請求項1または2記載の強磁性積層膜において、
    前記第1強磁性層により前記最初の強磁性層が構成されていることを特徴とする強磁性積層膜。
  4. 請求項1または2記載の強磁性積層膜において、
    前記第2強磁性層により前記最初の強磁性層が構成されていることを特徴とする強磁性積層膜。
  5. 請求項1〜4のうちいずれか1項に記載の強磁性積層膜において、
    前記第1の厚さ範囲が20〜200nmの範囲に含まれ、前記第2の厚さ範囲が250〜2000nmの範囲に含まれていることを特徴とする強磁性積層膜。
  6. 請求項1〜5のうちいずれか1項に記載の強磁性積層膜を備えていることを特徴とする電磁誘導性電子部品。
  7. 基板の上に形成された最初の前記強磁性層を含む前記複数の強磁性層が前記絶縁層を介して積層された構造を有し、前記複数の強磁性層が、第1の厚さ範囲に含まれる厚さを有する一または複数の第1強磁性層と、前記第1の厚さ範囲の上限値よりも大きい下限値を有する第2の厚さ範囲に含まれる厚さを有する一または複数の第2強磁性層と、を含んでいる強磁性積層膜を製造する方法であって、
    前記第1強磁性層を作製する工程と、前記第2強磁性層を作製する工程と、前記絶縁層を作製する工程と、を含み、
    前記第1強磁性層を作製する工程および前記第2強磁性層を作製する工程のそれぞれは、
    Fe、NiおよびCoから選択される1種以上の元素(但しNiの単独は除く)であるLからなる、あるいは、Fe、CoおよびNiから選択される1種以上の強磁性元素と、PdおよびPtから選択される1種以上の貴金属元素と、を含む第1カソード、およびLi、Mg、Al、Ca、Sr、Ba、GdおよびYから選択される1種以上の元素であるMのフッ化物からなる第2カソードのそれぞれに対する供給電力を独立に制御することにより、前記第1カソードおよび前記第2カソードのそれぞれからスパッタ粒子を発生させる工程と、
    アノードを回転させることにより、前記アノードに支持された基板を、前記第1カソードおよび前記第2カソードのそれぞれから発せられるスパッタ粒子が入射する位置に周期的に通過させる工程と、を含み、
    前記絶縁層を作製する工程は、
    前記第2カソードに対する供給電力を制御することにより、前記第2カソードからスパッタ粒子を発生させる工程と、
    前記アノードの回転角度を制御することにより、前記基板を、前記第2カソードから発せられるスパッタ粒子が入射する位置に配置させる工程と、を含むことを特徴とする強磁性積層膜の製造方法。
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