図1は燃料電池システム10の概略構成を示す説明図である。図2は燃料電池システム10を構成する主要な機器とガス経路についての車両搭載の様子を概略的に示す説明図である。燃料電池システム10は、燃料電池100と、燃料ガス供給回路200と、エア供給回路300と、排ガス回路400と、冷却回路500と、を備える。
燃料電池100は、燃料ガスと酸素含有の酸化ガスの供給を受けて発電し、発電電力を、図示しない負荷、例えば燃料電池搭載車両の駆動モータ等に出力する。この燃料電池100は、車両20の車室30より車両前方側の搭載域40に搭載されている。搭載域40は、図示しない車両ボンネットを開けることで開放され、燃料電池100の周辺の保守点検が可能となる。
燃料ガス供給回路200は、燃料ガスタンク210と、燃料ガス供給流路220と、燃料ガス排気流路230と、燃料ガス循環流路240と、メインバルブ250と、レギュレーター260と、インジェクタ270と、気液分離器280と、還流ポンプ290と、を備える。燃料ガスタンク210は、燃料ガスを貯蔵する。本実施形態では、燃料ガスとして、水素ガスを用いている。
燃料ガス供給流路220は、車両後方側に搭載された燃料ガスタンク210から燃料電池100に掛けて配設され、燃料ガスを燃料電池100に供給する。燃料ガス供給流路220には、燃料ガスタンク210側から、メインバルブ250と、レギュレーター260と、インジェクタ270が設けられている。メインバルブ250は、燃料ガスタンク210からの燃料ガスの供給をオン・オフする。レギュレーター260は、燃料ガスの圧力を所定の圧力に減圧してインジェクタ270に供給する。インジェクタ270は、燃料ガスの圧力と量とを調整して燃料電池100を噴射する噴射装置である。本実施形態では、3つのインジェクタ270が並列に配置されている。なお、インジェクタ270の数は3に限定されず、1つのインジェクタあるいは2以上の複数のインジェクタを備える構成であってもよい。本実施形態のように複数のインジェクタ270を備えると、燃料電池100に要求される発電量に応じて燃料電池100に噴射される燃料ガスの量を調整し易くできる。
燃料ガス排気流路230は、燃料電池100からの燃料排ガスを排出する。燃料ガス循環流路240は、燃料ガス排気流路230から燃料ガス供給流路220に掛けて配設され、燃料電池100から排出される燃料排ガスを燃料ガス供給流路220に循環させる。燃料ガス循環流路240には、気液分離器280が配設されている。燃料排ガスには、反応で消費されなかった燃料ガス及び燃料電池100を通って移動してきた窒素などの不純物と、水が含まれている。気液分離器280は、図2に示すように、燃料電池100の近傍で車両前方側に配置され、燃料ガス循環流路240を通過する燃料排ガスに含まれる水分と、ガス(燃料ガスと燃料電池100を通って移動してきた窒素などの不純物)に気液分離し、分離液水を貯留する。燃料ガス循環流路240には、還流ポンプ290が設けられている。気液分離器280で分離された未消費の燃料ガスを含むガスは、還流ポンプ290によって燃料ガス供給流路220に循環され、再利用される。
エア供給回路300は、エアクリーナ310と、エア供給流路320と、エアコンプレッサ330と、インタクーラ340と、スタック入口バルブ350と、大気圧センサ375と、外気温センサ380と、エアフローメータ385と、供給ガス温度センサ390と、供給ガス圧力センサ395と、を備える。本実施形態の燃料電池100は、酸素含有の酸化ガスとして、空気を用いる。
エアクリーナ310は、空気を取り込む時に、空気中の塵埃を除去する。エアクリーナ310と、燃料電池100とは、エア供給流路320で接続されている。酸化ガス供給流路であるエア供給流路320には、エアクリーナ310側から、エアコンプレッサ330、インタクーラ340、スタック入口バルブ350、がこの順で設けられている。エアコンプレッサ330は、空気を圧縮し、エア供給流路320を通して空気を燃料電池100に供給する。一般に、気体は、圧縮されると、温度が上昇する。これは、気体を圧縮するときには、気体の圧力に対抗して圧縮するため、気体に仕事が加えられるからである。
インタクーラ340は、エアコンプレッサ330によって圧縮されて温度が上昇した空気の温度を燃料電池100の温度とほぼ同じになるように熱交換を行う。すなわち、インタクーラ340には、燃料電池100から排出された冷媒が分流されて供給されており、この冷媒の温度は、燃料電池100の温度とほぼ等しくなっている。したがって、圧縮された空気の温度は、燃料電池100の温度とほぼ等しくなる。なお、燃料電池100から排出される排ガスの温度も、燃料電池100の温度とほぼ等しい。スタック入口バルブ350は、空気の燃料電池100への供給をオン・オフするためのバルブである。大気圧センサ375は、大気圧を測定する。外気温センサ380は、取り込む前の空気の温度を取得する。エアフローメータ385は、取り込んだ空気の流量を測定する。供給ガス温度センサ390は、燃料電池100に供給される空気の温度を測定し、供給ガス圧力センサ395は、燃料電池100に供給される空気の圧力を測定する。
排ガス回路400は、オフガス排出管410と、調圧バルブ420と、液水排出管430と、排出弁440と、酸化ガスのバイパス管450と、サイレンサー470とを備える。酸化ガス排出管であるオフガス排出管410は、燃料電池100に接続されて車両後方に伸び、燃料電池100に接続されるオフガス上流側排出管411と、その下流側のオフガス下流側排出管412とから構成され、燃料電池100から排出される空気(酸化ガス)を燃料電池100から外部に導いて排出する。オフガス上流側排出管411は、管路上下端で他の固定機器への固定が想定されるゴム製の撓み可能な可撓管形態であり、耐熱性のエチレン−プロピレン系ゴム等を用いて成形される。オフガス下流側排出管412は、他の部材と適宜箇所で固定され、排出管自体で管路軌跡を維持できるパイプ形態であり、耐熱性の樹脂を用いて成形される。オフガス排出管410には、調圧バルブ420が設けられている。図1において、調圧バルブ420は、オフガス上流側排出管411の管路途中に示されているが、オフガス上流側排出管411がその上流端で固定される後述のマニホールド治具に設けられている。調圧バルブ420は、燃料電池100中の空気の圧力を調整する。
液水排出管430は、気液分離器280と、オフガス排出管410とを接続している。液水排出管430は、排出弁440と接続されている。本実施形態では、排出弁440と液水排出管430を気液分離器280に一体化させた気液分離ユニット280Yとして構成している。排出弁440は、図示しない制御部の制御を受けて液水排出管430の管路を開閉し、排出弁440による管路開放により、気液分離器280が貯留した分離液水を液水排出管430を経てオフガス排出管410のオフガス上流側排出管411に排出する。この分離液水排出後においても排出弁440が管路を開放している状態では、燃料電池100から排出された燃料排ガスは、液水排出管430を経てオフガス排出管410のオフガス上流側排出管411に排出される。上記した排出弁440の管路開放は、燃料排ガス中の窒素濃度が高くなる、あるいは、気液分離器280中の水の量が多くなったときには、実行される。
バイパス管450は、エア供給流路320とオフガス排出管410のオフガス上流側排出管411とを、燃料電池100をバイパスして接続して、燃料電池100を経由せずに空気(酸化ガス)をオフガス排出管410に流し込む流路である。バイパス管450には、バイパス流路調整弁455が設けられている。バイパス流路調整弁455は、その開閉や、弁の開度を調整することにより、バイパス管450に流す空気であるバイパスエアの流量を調節する。オフガス排出管410のオフガス下流側排出管412に設けられたサイレンサー470は、オフガス排出管410を通過する排ガスの排気音を低減させる。
冷却回路500は、冷媒供給流路510と、冷媒排出流路515と、ラジエータ流路520と、ウォーターポンプ525と、ラジエータ530と、冷媒バイパス流路540と、三方バルブ545と、を備える。冷媒供給流路510は、燃料電池100に冷媒を供給するための流路であり、冷媒供給流路510にはウォーターポンプ525が配置されている。冷媒排出流路515は、燃料電池100から冷媒を排出するための流路である。冷媒排出流路515には、温度センサ550が設けられており、燃料電池100から排出される冷媒の温度を測定する。温度センサ550で測定される温度は、燃料電池100の内部の温度とほぼ等しく、燃料電池100から排出される排ガスの温度とも、ほぼ等しい。冷媒排出流路515の下流部は、三方バルブ545を介して、ラジエータ流路520と、冷媒バイパス流路540と、に接続されている。ラジエータ流路520には、ラジエータ530が設けられている。ラジエータ530には、ラジエータファン535が設けられている。ラジエータファン535は、ラジエータ530に風を送り、ラジエータ530からの放熱を促進する。ラジエータ流路520の下流部と、冷媒バイパス流路540の下流部とは、冷媒供給流路510に接続されている。冷媒供給流路510と、冷媒排出流路515とは、インタクーラ340に接続されている。
図3は図1におけるオフガス上流側排出管411の管配設領域411Eの機器位置関係を3次元的に概略視して示す説明図である。図4はオフガス上流側排出管411の管路構成の概略を管路に沿って断面視して示す説明図である。なお、図3においては、オフガス上流側排出管411の周辺機器の位置関係を示すことを主眼とし、個々の機器の外形については概略的な図示に留めた。また、図4では、オフガス上流側排出管411への管路接続の様子とオフガス上流側排出管411の管路肉厚の推移を示している。
図3に示すように、オフガス上流側排出管411は、管路上下端に拡径した管接続体411a、411bを備え、管路のほぼ中間にバイパス管接続体411cを備え、バイパス管接続体411cより流路下流側に分岐配管411dを備える。管接続体411aには、燃料電池100の側の固定機器である空気のオフガス排出マニホールド102が挿入され、管接続体411bには、固定機器であるオフガス下流側排出管412(図1参照)が挿入される。オフガス排出マニホールド102は、本発明における酸化ガス排出マニホールドに該当する。オフガス上流側排出管411は、図示しない管結束バンドにより、液密・気密に管路上下端でオフガス排出マニホールド102とオフガス下流側排出管412に固定される。オフガス上流側排出管411は、オフガス排出マニホールド102に接続される管路最上流から燃料電池100の周辺に配管される電池周辺管路域に亘る配管であって、既述したようにゴム製の撓み可能な可撓管である。よって、オフガス上流側排出管411は、管路上下端の管接続体411a,411bの固定対象であるオフガス排出マニホールド102とオフガス下流側排出管412に至る間において、支障なく組み込み装着される。
バイパス管接続体411cは、可撓管形態のオフガス上流側排出管411の管路途中から突出した分岐管体であって、図中の矢印で示す空気の流れ方向Fとなす角θは、鋭角とされている。このバイパス管接続体411cには、バイパス管450が挿入され、オフガス上流側排出管411は、図示しない管結束バンドにより、液密・気密にバイパス管接続体411cでバイパス管450に固定される。こうして固定されたバイパス管450は、オフガス上流側排出管411を流れる空気の流れ方向の下流に向かって鋭角にオフガス上流側排出管411に接続されることになる。
オフガス上流側排出管411は、図3と図4に示すように、バイパス管接続体411cから下流側の管路域を大きな肉厚の厚肉管路域411fとしている。この厚肉管路域411fは、バイパス管接続体411cに接続されたバイパス管450をその中心線Cに沿ってオフガス上流側排出管411の内壁に投影したバイパス管投影部位411pを含む管路とこの投影部位より下流側の管路の管路域である。そして、厚肉管路域411fの管路肉厚は、バイパス管投影部位411pより上流の管路の肉厚より大きくされている。本実施形態では、バイパス管投影部位411pより上流の管路の肉厚を、既存のオフガス上流側排出管と同じ3.5mmとし、厚肉管路域411fの管路肉厚を5.0mmとした。この場合、厚肉管路域411fにおける厚肉化の程度は、オフガス上流側排出管411の長さや排出管自体の管路径、或いはバイパス管450の接続位置やオフガス上流側排出管411とバイパス管450の管路径比、バイパス管450からオフガス上流側排出管411に流れ込む空気の最大想定流量等に応じて種々、規定できる。例えば、バイパス管投影部位411pより上流側の管路肉厚を1.5〜3.5mmとした場合には、厚肉管路域411fの管路肉厚を上流側の管路肉厚より厚肉の3.0〜6.0mm程度とでき、この際には、上記したように管路長や管路径等を考慮すればよい。そして、厚肉に規定した厚肉管路域411fにおいて、撓み可能であれば管路上下端の管接続体411a,411bでの固定部材との接続・固定に支障は起きない。
この他、オフガス上流側排出管411は、上記した接続体に加え、管接続体411bの側の管路域と、分岐配管411dが分岐した管路域に、管路補強用のリブ411eを備える。分岐配管411dは、オフガス上流側排出管411の側方に配設された気液分離器280に向けて突出して形成され、液水排出管430が挿入して接続される。液水排出管430の接続後、分岐配管411dは、図示しない管結束バンドにより、液密・気密に液水排出管430に固定される。こうして分岐配管411dに接続された液水排出管430は、気液分離器280が気液分離した分離液水を、排出弁440(図1参照)により、分岐配管411dを経てオフガス排出管410、詳しくはオフガス上流側排出管411に排出する。
以上説明したように、燃料電池システム10を搭載した本実施形態の車両20では、オフガス排出管410を燃料電池100の側で構成するオフガス上流側排出管411を、燃料電池100のオフガス排出マニホールド102から燃料電池周辺に掛けての管路域において撓み可能な可撓管形態とする。これにより、本実施形態の車両20によれば、燃料電池回りでのオフガス上流側排出管411の配管の自由度や配管作業の簡便化を確保できる。
これに加え、本実施形態の車両20では、燃料電池100の運転に伴ってエア供給流路320からバイパス管450を経て空気がオフガス排出管410のオフガス上流側排出管411に流れ込む際、この空気は、図4に示すように、オフガス上流側排出管411を流れるガス流れ方向Fの下流に向かって鋭角に流れ込み、バイパス管接続体411cの突出箇所におけるバイパス管投影部位411pを含む管路に衝突する。この空気衝突に伴い衝撃音が発生し得るが、バイパス管投影部位411pを含む管路とこのバイパス管投影部位411pより下流側の管路の管路域は、バイパス管投影部位411pより上流の管路より管路肉厚が大きい厚肉管路域411fである。よって、本実施形態の車両20によれば、バイパス管450から合流した空気が流れるオフガス上流側排出管411の厚肉管路域411fから排出管外部への衝撃音の漏洩を起き難くできる。また、本実施形態の車両20では、バイパス管450を経たオフガス上流側排出管411への空気の流れ込みを、オフガス上流側排出管411を流れるガス流れ方向Fの下流に向かって鋭角に起こすことから、衝撃音自体もある程度、低減できると共に、バイパス管投影部位411pからその下流に空気が流れる際の気流音も小さくできる。この結果、本実施形態の車両20によれば、燃料電池100への空気供給に伴ってオフガス排出管410で発生する音を、車両運転者や同乗者にノイズとして認識され難くすることができる。
図5はオフガス上流側排出管411における発生音の測定結果を示すグラフである。この音測定は、次の状況で、行った。まず、図3に示すオフガス排出マニホールド102への接続側の管接続体411aから管路最下流の管接続体411bまでの管路肉厚が3.5mmで均一の比較例品のオフガス上流側排出管411を組み込んだ車両と、管接続体411aからバイパス管投影部位411pまでの管路肉厚が3.5mmで、厚肉管路域411fの管路肉厚が5.0mmの実施形態品のオフガス上流側排出管411を組み込んだ車両とを準備した。そして、それぞれの車両を運転終了状況とし、燃料電池100を発電運転させることなく、運転停止時の規定量の空気をエアコンプレッサ330でエア供給流路320に送り出す。送り出された空気の内、燃料電池100における空気流路の掃気に必要な流量の空気が燃料電池100を流れた後にオフガス上流側排出管411に排出される。これと同時に、掃気に必要な量を超える余剰空気がバイパス管450を経てオフガス上流側排出管411に流れ込む。この状況において、集音マイクを図2に示す車室30の前方の搭載域40にセットし、オフガス上流側排出管411から漏洩する音を、比較例品のオフガス上流側排出管411を組み込んだ車両と、実施形態品のオフガス上流側排出管411を組み込んだ車両とにおいて、個別に測定した。
図5に示すように、700Hzを超える周波数の音がいずれの車両においても70dBを超える音量で測定されたが、実施形態品のオフガス上流側排出管411を組み込んだ車両では、オフガス上流側排出管411から漏洩する音の音量低下が見られた。このことからも、実施形態品のオフガス上流側排出管411を組み込んだ本実施形態の車両20によれば、燃料電池100への空気供給に伴ってオフガス排出管410で発生する音を、車両運転者や同乗者にノイズとして認識され難くすることができると言える。
本実施形態の車両20は、燃料電池100を車室30より車両前方側の搭載域40に搭載したので、燃料電池100への空気供給に伴ってオフガス排出管410で発生する音は、車室30の車両運転者や同乗者に感知されやすい。しかしながら、既述したように、オフガス排出管410で発生する音をノイズとして認識され難くできるので、車両運転者や同乗者に、車両始動時や運転停止時において違和感を与え難くできる。
本発明は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
本実施形態の車両20では、燃料電池100を車室30より車両前方側の搭載域40に搭載したが、これに限らない。例えば、車両ボディー構造上、車室30の下方領域や車室30より車両後方側に燃料電池100を搭載しても、オフガス排出管410で発生する音をノイズとして認識され難くできる。
本実施形態の車両20では、燃料電池システム10において、バイパス管接続体411cをオフガス排出管410の管路のほぼ中間に設けたが、管接続体411aの側の管路上流域や管接続体411bの側の管路下流域に設けてもよい。また、分岐配管411dをバイパス管接続体411cの上流側に設けてもよい。