JP2020063784A - 動力伝達シャフト - Google Patents
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Abstract
【課題】所望の機械的強度を具備した動力伝達シャフトを低コストに提供可能とする。
【解決手段】大径部2および小径部3と、大径部2と小径部3を接続するテーパ部4とを備えた動力伝達シャフト1において、小径部3およびテーパ部4は、焼入れ組織を有する焼入れ部7を有すると共に、大径部2は、厚さ方向の全域で焼入れ組織がない未焼入れ部6を有し、かつ、未焼入れ部6の最大外径、最大せん断応力および降伏点をそれぞれDa、τaおよびTaとし、焼入れ部7の最小外径、最大せん断応力および降伏点をそれぞれDb、τbおよびTbとしたとき、Da>Db、および2.3<[(Ta/τa)/(Tb/τb)]の関係式を満たす。
【選択図】図2
【解決手段】大径部2および小径部3と、大径部2と小径部3を接続するテーパ部4とを備えた動力伝達シャフト1において、小径部3およびテーパ部4は、焼入れ組織を有する焼入れ部7を有すると共に、大径部2は、厚さ方向の全域で焼入れ組織がない未焼入れ部6を有し、かつ、未焼入れ部6の最大外径、最大せん断応力および降伏点をそれぞれDa、τaおよびTaとし、焼入れ部7の最小外径、最大せん断応力および降伏点をそれぞれDb、τbおよびTbとしたとき、Da>Db、および2.3<[(Ta/τa)/(Tb/τb)]の関係式を満たす。
【選択図】図2
Description
本発明は、自動車や各種産業機械の動力伝達装置に組み込まれる動力伝達シャフトに関する。
自動車の動力伝達装置として使用されるドライブシャフトやプロペラシャフトは、2つの等速自在継手、およびこれらをトルク伝達可能に連結する動力伝達シャフト(「中間シャフト」とも称される)を備える。動力伝達シャフトとしては、中実の鋼製軸(棒鋼)を加工して得られる中実タイプと、中空の鋼製軸(鋼管)を加工して得られる中空タイプとがある。量産仕様のドライブシャフト等においては、自動車の軽量化、操縦性向上およびNVH特性向上等といった機能面での必要性から中空タイプの動力伝達シャフトが重用される一方、例えばドライブシャフトの試作対応等、特に納期が重視される局面においては中実タイプの動力伝達シャフトが重用される。
動力伝達シャフトは、通常、大径部およびその軸方向両側に設けられた小径部と、大径部と小径部を接続するテーパ部と、小径部の自由端側の外周面に形成された動力伝達用の連結要素(例えばスプライン)とを備えており、少なくとも外径側表層部には熱処理(焼入れ硬化処理)により形成された硬化層が設けられている(例えば、特許文献1)。このような動力伝達シャフトは、例えば、径一定の鋼製軸に機械加工や塑性加工を施すことで大径部、小径部およびテーパ部を有するシャフト素材を得た後、このシャフト素材を完成品形状に仕上げてから、完成品形状のシャフト素材に焼入れ硬化処理を施すことによって完成する。
ところで、自動車の操縦性は、動力伝達シャフトの捩れ強度によって左右され、動力伝達シャフトの捩れ強度が高まるほど自動車の操縦性が向上する。動力伝達シャフトの捩れ強度を高めるには、表面硬化層の厚さを大きくする(外周表面からの焼入れ深さを深くする)のが有効である。
シャフト素材を焼入れする際のシャフト素材の加熱方法としては、中実タイプ/中空タイプの別を問わず、エネルギー効率が高く、しかも熱処理装置のコンパクト化(省スペース化)に有利な高周波誘導加熱が重用される。高周波誘導加熱としては、加熱(焼入れ)対象のシャフト素材と、該シャフト素材よりも短寸の加熱コイルとをシャフト素材の軸方向に相対移動させながら加熱コイルに通電することにより、シャフト素材の軸方向各部を順次加熱・焼入れする移動式、あるいは、シャフト素材よりも長寸の加熱コイルの内周(対向領域)にシャフト素材を配置した状態で加熱コイルに通電することにより、シャフト全体をまとめて焼入れする定置式(特許文献2)が採用される。
定置式高周波焼入れは、移動式高周波焼入れを採用した場合に生じ得る問題、具体的には、シャフトの一端側と他端側とで加熱温度(焼入れに伴うシャフトの変形量)に差が生じ、その結果、焼入れ後のシャフトの全長寸法にバラツキが生じるという問題の発生を可及的に防止できる、という利点がある。しかしながら、定置式高周波焼入れを実施するには、焼入れ対象のシャフト素材の全長寸法に応じた数多くの加熱コイルを準備・保有する必要があることから、多大な設備投資が必要になり、動力伝達シャフトの製造コストが増大する。
上記の実情に鑑み、本発明の目的は、所望の機械的強度(特に捩れ強度)を具備した動力伝達シャフトを低コストに提供可能とすることにある。
上記の目的を達成するために創案された本発明は、中実又は中空の鋼製軸からなり、大径部およびその軸方向両側に設けられた小径部と、大径部と小径部を接続するテーパ部とを備え、小径部の自由端側の外周面に動力伝達用の連結要素が設けられた動力伝達シャフトにおいて、小径部およびテーパ部は、少なくとも外径側表層部に焼入れ組織を有する焼入れ部を有すると共に、大径部は、厚さ方向の全域で焼入れ組織がない未焼入れ部を有し、かつ、未焼入れ部の最大外径をDa、焼入れ部の最小外径をDb、未焼入れ部の最大せん断応力をτa、焼入れ部の最大せん断応力をτb、未焼入れ部の降伏点(降伏応力)をTa、焼入れ部の降伏点をTbとしたとき、Da>Db、および2.3<[(Ta/τa)/(Tb/τb)]の関係式を満たすことを特徴とする。なお、本発明でいう「動力伝達用の連結要素」としては、軸方向に延びる凸部(歯)と凹部(歯底)が周方向に交互に形成されたスプラインやセレーションを挙げることができる。
上記構成において、大径部が、厚さ方向の全域で焼入れ組織がない未焼入れ部を有するとの構成は、動力伝達シャフト(最終的に動力伝達シャフトになるシャフト素材)のうち、大径部の軸方向一部領域に対する焼入れ硬化処理を省略することで得ることができる。この場合、シャフト素材の軸方向全域に焼入れ硬化処理を施す従来構成に比べ、シャフト素材に対する総入熱量を減じることができるので、焼入れ硬化処理の実施に伴う寸法変化量を減じることができる。焼入れ後の寸法変化量を減じることができれば、焼入れ後のシャフト素材相互間で全長寸法にバラツキが生じ難くなるので、焼入れ後に実施すべきシャフト素材の測長・検査工程は、必ずしも全数に対して行う必要はなく抜き打ちで行えば足りる。そのため、動力伝達シャフトの製造工程を簡略化し、動力伝達シャフトの製造コストを減じることができる。
一方、本発明に係る動力伝達シャフトにおいては、大径部の一部が未焼入れとなっているので、何らの対策も講じなければ、動力伝達シャフトに必要とされる機械的強度(特に捩れ強度)が不足する可能性がある。この点、本発明では、未焼入れ部の最大外径(Da)を焼入れ部の最小外径(Db)よりも大きくしている(Da>Dbという関係式を満たすようにしている)ので、大径部に必要とされる機械的強度を確保することができる。さらに、本発明では、未焼入れ部の最大せん断応力をτa、焼入れ部の最大せん断応力をτb、未焼入れ部の降伏点をTa、焼入れ部の降伏点をTbとしたとき、2.3<[(Ta/τa)/(Tb/τb)]という関係式を満たすようにした。このようにすれば、未焼入れ部について焼入れ部と同等以上の強度を確保することができる。なお、上記の“2.3”という値は、焼入れ済の動力伝達シャフト(焼入れ材)で保証されている静的せん断応力(τ)を、未焼入れの動力伝達シャフト(生材)の静的せん断応力(τ’:実測値)で除すことで得られる値(=τ/τ’)が2.3程度であったことに基づく。
良好な加工性や焼入れ性を担保する観点から、動力伝達シャフトを構成する中実又は中空の鋼製軸は、炭素含有量が0.2〜0.45質量%の鋼製軸(例えば、JIS G4051に規定された機械構造用炭素鋼であるS20CやS45C等からなる軸)とするのが好ましい。この場合には、2.6<[(Ta/τa)/(Tb/τb)]<3.0の関係式を満たすようにするのが好ましい。これは、S20C〜S45Cの範囲内、要するにJIS G4051に規定されたS20C、S22C、S25C、S28C、S30C、S33C、S35C、S38C、S40C、S43CおよびS45Cでは、焼入れ材のせん断強度が生材のせん断強度の2.6〜3.0倍であったことに由来する。
上記構成において、未焼入れ部の金属組織(鉄組織)が焼準相当のフェライト・パーライト組織となっていれば、未焼入れ部の金属組織が、硬度および靱性を併せ持つ組織となるので、動力伝達シャフトの耐久性を高める上で有利となる。
動力伝達シャフトを構成する中実又は中空の鋼製軸としては、例えば、浸炭鋼、中炭素鋼又は合金鋼からなる軸部材を使用することができる。
以上から、本発明によれば、低コストに製造可能でありながら、所望の機械的強度(特に捩れ強度)を具備した動力伝達シャフトを提供することができる。従って、この動力伝達シャフトを構成部品として備える動力伝達装置(ドライブシャフトやプロペラシャフト等)は、低コストで、しかも所望の動力伝達機能を長期間に亘って安定的に発揮することができて信頼性に富む、という特長を有する。
以下、本発明の実施の形態を図1〜4に基づいて説明する。
図1に、動力伝達装置の一種であるドライブシャフトの一例を示す。このドライブシャフトは、エンジンから駆動車輪に動力(回転トルク)を伝達するものであり、エンジン側(インボード側)に配置される摺動式等速自在継手10と、駆動車輪側(アウトボード側)に配置される固定式等速自在継手20と、両等速自在継手10,20をトルク伝達可能に連結する動力伝達シャフト1とを備える。なお、以下では、摺動式等速自在継手10が配置された側および固定式等速自在継手20が配置された側を、それぞれ、軸方向一方側および軸方向他方側ともいう。
図1に示す摺動式等速自在継手10はいわゆるトリポード型であり、カップ部12および軸部13を有する外側継手部材11と、カップ部12の内周に収容された内側継手部材としてのトリポード部材14と、トルク伝達部材としてのローラ16とを主要な構成として備える。トリポード部材14には径方向に延びる脚軸15が円周方向等間隔で3本設けられており、各脚軸15の外周には、ローラ16が1個ずつ回転自在に嵌合されている。なお、この摺動式等速自在継手10には、ダブルオフセット型等、他の形式の摺動式等速自在継手が用いられる場合もある。
図1に示す固定式等速自在継手20はいわゆるバーフィールド型であり、カップ部22および軸部23を有する外側継手部材21と、カップ部22の内周に収容された内側継手部材24と、カップ部22と内側継手部材24の間に配置されたトルク伝達部材としてのボール25と、カップ部22の内径面と内側継手部材24の外径面との間に配され、ボール25を円周方向等間隔に保持する保持器26とを備える。なお、この固定式等速自在継手20には、アンダーカットフリー型等、他の形式の固定式等速自在継手が用いられる場合もある。
動力伝達シャフト1の軸方向一方側および他方側の端部外周面には、それぞれ、動力伝達用の連結要素としてのスプライン(雄スプライン)5が設けられている。一端側のスプライン5は、摺動式等速自在継手10のトリポード部材14の孔部に設けられた図示外の雌スプラインに嵌合され、これによって動力伝達シャフト1と摺動式等速自在継手10のトリポード部材14とがトルク伝達可能に連結される。また他端側のスプライン5は、固定式等速自在継手20の内側継手部材24の孔部に設けられた図示外の雌スプラインに嵌合され、これによって動力伝達シャフト1と固定式等速自在継手20の内側継手部材24とがトルク伝達可能に連結される。
両等速自在継手10,20の内部にはグリース等の潤滑剤が封入されている。潤滑剤の外部漏洩や継手外部からの異物侵入を防止するため、摺動式等速自在継手10の外側継手部材11と動力伝達シャフト1との間、および固定式等速自在継手20の外側継手部材21と動力伝達シャフト1との間には、筒状のブーツ17,27がそれぞれ装着されている。
図2に、図1に示す動力伝達シャフト1であって、本発明の一実施形態に係る動力伝達シャフト1を抜き出して示す。この動力伝達シャフト1は、いわゆる中実タイプであり、軸方向中央部に配された大径部2と、大径部2の軸方向両側に配された小径部3,3と、大径部2と小径部3を接続するテーパ部4とを備え、スプライン5は各小径部3の自由端側の外周面に形成されている。この動力伝達シャフト1は、加工性や焼入性が良好な炭素含有量0.20〜0.45質量%の鋼材(JIS G4051に規定のS20CやS45C等)からなる中実軸(中実の鋼製軸)を用いて作製される。上記鋼材の具体例としては、浸炭鋼、中炭素鋼、合金鋼などを挙げることができる。
動力伝達シャフト1は、図3に示すシャフト素材1’に焼入れ硬化処理を施すことによって形成された硬化層(表面硬化層)を有する。本実施形態において、硬化層は、図2中に斜線ハッチングで示す部分、具体的には、大径部2のうちテーパ部4に近接した軸方向領域の外径側表層部、小径部3のうち自由端側の軸方向領域を除く軸方向領域の外径側表層部、およびテーパ部4の外径側表層部全域に形成されている。要するに、小径部3およびテーパ部4は、少なくとも外径側表層部に焼入れ組織を有する焼入れ部7を有し、大径部2は、その軸方向中央領域に厚さ方向の全域で焼入れ組織がない未焼入れ部6を有する。未焼入れ部6の最大外径Daは、焼入れ部7の最小外径Dbよりも大きく設定される(Da>Db)。詳細な図示は省略するが、未焼入れ部6の金属組織は、焼準相当のフェライト・パーライト組織(フェライトとパーライトの二相組織)とされる。これにより、未焼入れ部6の金属組織が、硬度および靱性を併せ持つ組織となるので、動力伝達シャフト1の耐久性を高める上で有利となる。一方、焼入れ部7の金属組織(焼入れ組織)は、マルテンサイト組織を主体としたものとされる。
上記の構成を有する動力伝達シャフト1は、主に、上述した中実の鋼製軸に塑性加工や機械加工を施すことにより、完成品形状のシャフト素材1’を得る素材作製工程と、シャフト素材1’に焼入れ硬化処理を施すことにより、シャフト素材1’の軸方向所定箇所に表面硬化層(焼入れ部7)を形成する焼入れ工程と、焼入れ済のシャフト素材1’に焼戻し処理を施すことにより、シャフト素材1’内部の残留応力を除去し、シャフト素材1’に靱性を付与する焼戻し工程とを経て製造される。焼入れ・焼戻しに伴って生じた形状の崩れを修整するため、焼戻し後のシャフト素材1’に対して適当な仕上げ処理が施される場合もある。
ここで、焼入れ工程のうち、シャフト素材1’の加熱方法の一例を図3(a)〜(c)に基づいて説明する。図3(a)〜(c)に示すように、シャフト素材1’に対する焼入れ硬化処理は、シャフト素材1’とシャフト素材1’よりも短寸の加熱コイル30とをシャフト素材1’の軸方向に沿って相対移動させながら(図示例では、シャフト素材1’を移動側、加熱コイル30を静止側としている)加熱コイル30に通電することにより、シャフト素材1’の要焼入れ部を狙い温度に到達するまで誘導加熱し、その後、加熱されたシャフト素材1’の要焼入れ部を図示しない適宜の冷却手段で急冷することにより行われる。
より具体的には、加熱コイル30の軸方向外側に配置されたシャフト素材1’を軸方向に連続送り又は間欠送りし、図3(a)に示すように、シャフト素材1’の要焼入れ部(ここでは軸方向一方側の焼入れ部7の形成予定部)が加熱コイル30の対向領域に位置すると、加熱コイル30に通電してシャフト素材1’を加熱する。以降、図3(b)に示すように、シャフト素材1’の焼入れ不要部(未焼入れ部6の形成予定部)が加熱コイル30と対向するまで加熱コイル30への通電を継続する。すなわち、図3(b)に示す位置までシャフト素材1’が送られると、加熱コイル30への通電を中断する。その後、シャフト素材1’の軸方向移動が進展し、図3(c)に示すように、シャフト素材1’の焼入れ不要部が加熱コイル30の対向領域を通過すると、加熱コイル30への通電を再開し、シャフト素材1’の要焼入れ部(軸方向他方側の焼入れ部7の形成予定部)を加熱する。この要焼入れ部が加熱コイル30の対向領域を通過すると、加熱コイル30への通電を停止する。
以上で説明したように、本発明に係る動力伝達シャフト1においては、大径部2が、その厚さ方向の全域で焼入れ組織がない未焼入れ部6を有する。係る構成は、上述したように、最終的に動力伝達シャフト1になるシャフト素材1’のうち、大径部2の軸方向所定領域の加熱を省略(中断)することで得られる。この場合、シャフト素材1’の全域に焼入れ硬化処理を施す場合に比べ、シャフト素材1’に対する総入熱量を減じることができるので、焼入れ硬化処理の実施に伴う寸法変化量(シャフト素材1’の全長寸法の変化量)を減じることができる。このように寸法変化量を減じることができれば、焼入れ後のシャフト素材1’相互間で全長寸法にバラツキが生じ難くなるので、熱処理後に実施すべきシャフト素材1’の測長検査は、必ずしも全数に対して行う必要はなく、抜き打ちで行えば足りる。そのため、動力伝達シャフト1の製造工程を簡略化し、動力伝達シャフト1の製造コストを減じることができる。
また、焼入れ硬化処理の実施に伴うシャフト素材1’の寸法変化量を抑えることができれば、シャフト素材1’に焼入れ硬化処理を施す際の方法として、図3(a)〜(c)を参照して説明した、いわゆる移動式高周波焼入れを採用することができる。移動式高周波焼入れであれば、特許文献2に開示された定置式高周波焼入れを採用する場合のように、シャフト素材1’の全長寸法に応じた加熱コイルを準備・保有する必要がなく、シャフト素材1’の全長寸法が異なる場合でも加熱コイル30を共用することができるので設備投資を抑制することができる。
特に、以上で説明したように、大径部2に焼入れ組織を有さない未焼入れ部6を設ける場合において、移動式高周波焼入れを採用して焼入れ部7(硬化層)を形成するようにすれば、焼入れ工程の途中段階でシャフト素材1’の加熱が一時的に中断される[図3(b)参照]。そのため、図3(c)に示す焼入れ工程の最終段階で大径部2の軸方向他方側に設けられたテーパ部4、さらには小径部3を加熱する際に、これらが比較的高温に予加熱された状態で加熱が開始されるのを回避することができる。これにより、軸方向他方側のテーパ部4および小径部3が過剰に加熱されるのを可及的に防止することができるので、焼入れ硬化処理の実施に伴うシャフト素材1’の寸法変化量を抑制する上で一層有利となる。なお、移動式高周波焼入れは、定置式高周波焼入れよりもシャフト素材1’一本当たりの焼入れに要する時間(サイクルタイム)が長くなる可能性があるが、上述したようにシャフト素材1’の一部を加熱しない場合には、その分だけサイクルタイムを減じることができる。
一方、動力伝達シャフト1においては、大径部2の一部が未焼入れとなっているので、何らの対策も講じなければ、大径部2、ひいては動力伝達シャフト1に必要とされる機械的強度(特に捩れ強度)が不足する可能性がある。このような懸念事項に対しては、未焼入れ部6の最大外径Daを焼入れ部7の最小外径Dbよりも大きくした(Da>Dbの関係式を満たすようにした)ので、所望の機械的強度を確保することができる。
さらに、本発明では、未焼入れ部6の最大せん断応力をτa、焼入れ部7の最大せん断応力をτb、未焼入れ部6の降伏点をTa、焼入れ部7の降伏点をTbとしたとき、2.3<[(Ta/τa)/(Tb/τb)]の関係式を満たすようにした。このようにすれば、未焼入れ部7について焼入れ部6と同等以上の機械的強度を確保することができる。
ここで、断面円形の中実軸の最大せん断応力τは、この中実軸に作用するトルク(捩りモーメント)をT、軸径をdとしたとき、
τ=16*T/(π*d3)
という計算式によって導出される。この計算式を移項すると、
T/τ=(π*d3)/16
という計算式が成立する。
従って、上記のとおり、未焼入れ部6の最大せん断応力をτa、未焼入れ部6の降伏点をTaとし、未焼入れ部6の最大外径をDa(図2参照)とすると、
Ta/τa=(π*Da3)/16
という計算式が成立し、また、焼入れ部7の最大せん断応力をτb、焼入れ部7の降伏点をTbとし、焼入れ部7の最小外径をDb(図2参照)とすると、
Tb/τb=(π*Db3)/16
という計算式が成立する。
そして、本発明者らの検証によれば、(Tb/τb)に対する(Ta/τa)の比[=(Ta/τa)/(Tb/τb)]が2.3よりも大きければ、未焼入れ部6について焼入れ部7と同等以上の機械的強度を確保することができることが判明した。
τ=16*T/(π*d3)
という計算式によって導出される。この計算式を移項すると、
T/τ=(π*d3)/16
という計算式が成立する。
従って、上記のとおり、未焼入れ部6の最大せん断応力をτa、未焼入れ部6の降伏点をTaとし、未焼入れ部6の最大外径をDa(図2参照)とすると、
Ta/τa=(π*Da3)/16
という計算式が成立し、また、焼入れ部7の最大せん断応力をτb、焼入れ部7の降伏点をTbとし、焼入れ部7の最小外径をDb(図2参照)とすると、
Tb/τb=(π*Db3)/16
という計算式が成立する。
そして、本発明者らの検証によれば、(Tb/τb)に対する(Ta/τa)の比[=(Ta/τa)/(Tb/τb)]が2.3よりも大きければ、未焼入れ部6について焼入れ部7と同等以上の機械的強度を確保することができることが判明した。
なお、上記の比[=(Ta/τa)/(Tb/τb)]は2.6よりも大きく、3.0よりも小さく設定するのが好ましい。すなわち、2.6<[(Ta/τa)/(Tb/τb)]<3.0の関係式を満たすようにするのが好ましい。このようにすれば、大径部2の大径化に起因した動力伝達シャフト1の重量化・高コスト化を可及的に防止しつつ、大径部2の機械的強度を大幅に高めることができる。
従って、以上で説明した本発明の第1実施形態に係る動力伝達シャフト(中実タイプの動力伝達シャフト)1は、必要とされる機械的強度(特に捩れ強度)を具備するものでありながら、低コストに製造可能である、という特長を有する。従って、この動力伝達シャフト1を構成部品として備える図1に示すドライブシャフトは、低コストで、しかも所望の動力伝達機能を長期間に亘って安定的に発揮することができて信頼性に富む、という特長を有する。
以上、本発明の第1実施形態に係る動力伝達シャフト1について説明を行ったが、本発明は、中空タイプの動力伝達シャフトにも適用可能であり、その具体的な実施形態を図4に示す。
図4に示す中空タイプの動力伝達シャフト31は、図2に示す中実タイプの動力伝達シャフト1の代替品として使用することが可能なものであって、図2に示す動力伝達シャフト1と同様に、軸方向中央部に配された大径部32と、大径部32の軸方向両側に配された小径部33,33と、大径部32と小径部33を接続するテーパ部34とを備え、スプライン(雄スプライン)35は各小径部33の自由端側の外周面に形成されている。この動力伝達シャフト31は、炭素含有量が0.20〜0.45質量%の鋼材、例えば、浸炭鋼、中炭素鋼又は合金鋼で形成された鋼製軸(中空の鋼製軸)を用いて作製される。
動力伝達シャフト31は、大径部32、小径部33およびテーパ部34を有する中空のシャフト素材(図示省略)に焼入れ硬化処理を施すことによって形成された硬化層を有する。本実施形態において、硬化層は、図4中に斜線ハッチングで示す部分、具体的には、大径部32のうちテーパ部34に近接した軸方向領域の厚さ方向全域、小径部33のうち自由端側の軸方向領域を除く軸方向領域の厚さ方向全域、およびテーパ部34の厚さ方向全域に形成されている。要するに、小径部33およびテーパ部34は、焼入れ組織を有する焼入れ部37を有し、大径部32は、その軸方向中央領域に厚さ方向の全域で焼入れ組織がない未焼入れ部36を有する。詳細な図示は省略するが、未焼入れ部36の金属組織は、焼準相当のフェライト・パーライト組織(フェライトとパーライトの二相組織)とされ、焼入れ部37の金属組織は、マルテンサイト組織を主体としたものとされる。
上記の構成を有する動力伝達シャフト31は、第1実施形態に係る動力伝達シャフト1と同様の理由により、低コストに製造することができる。その一方、動力伝達シャフト31においても、未焼入れ部36の最大外径Daは、焼入れ部37の最小外径Dbよりも大きく設定した(Da>Db)ので、所望の機械的強度を確保することができる。さらに、動力伝達シャフト31においても、未焼入れ部36の最大せん断応力をτa、焼入れ部37の最大せん断応力をτb、未焼入れ部36の降伏点をTa、焼入れ部37の降伏点をTbとしたとき、
2.3<[(Ta/τa)/(Tb/τb)]
という関係式を満たすようにした。このようにすれば、未焼入れ部36について焼入れ部37と同等以上の機械的強度を確保することができる。
2.3<[(Ta/τa)/(Tb/τb)]
という関係式を満たすようにした。このようにすれば、未焼入れ部36について焼入れ部37と同等以上の機械的強度を確保することができる。
ここで、断面円形の中空軸の最大せん断応力τ’は、この中実軸に作用する最大トルク(捩りモーメント)をT’、軸外径をd1、軸内径をd2としたとき、
τ’=16*T’*d1/(π*(d14−d24))
という計算式によって導出される。この計算式を移項すると、
T’/τ’=(π*(d14−d24))/16*d1
という計算式が成立する。
従って、上記のとおり、未焼入れ部36の最大せん断応力をτa、未焼入れ部36の降伏点をTaとし、未焼入れ部36の最大外径をDa(図4参照)、未焼入れ部36の最大内径をda(図4参照)とすると、
Ta/τa=(π*(Da4−da4))/16*Da
という計算式が成立する。
また、焼入れ部37の最大せん断応力をτb、焼入れ部37の降伏点をTbとし、焼入れ部37の最小外径をDb(図4参照)、焼入れ部37の最小内径をdbとすると、
Tb/τb=(π*(Db4−db4))/16*Db
という計算式が成立する。
そして、本発明者らが検証したところ、(Tb/τb)に対する(Ta/τa)の比[=(Ta/τa)/(Tb/τb)]が2.3よりも大きければ、未焼入れ部36について焼入れ部37と同等以上の機械的強度を確保することができることが判明した。
τ’=16*T’*d1/(π*(d14−d24))
という計算式によって導出される。この計算式を移項すると、
T’/τ’=(π*(d14−d24))/16*d1
という計算式が成立する。
従って、上記のとおり、未焼入れ部36の最大せん断応力をτa、未焼入れ部36の降伏点をTaとし、未焼入れ部36の最大外径をDa(図4参照)、未焼入れ部36の最大内径をda(図4参照)とすると、
Ta/τa=(π*(Da4−da4))/16*Da
という計算式が成立する。
また、焼入れ部37の最大せん断応力をτb、焼入れ部37の降伏点をTbとし、焼入れ部37の最小外径をDb(図4参照)、焼入れ部37の最小内径をdbとすると、
Tb/τb=(π*(Db4−db4))/16*Db
という計算式が成立する。
そして、本発明者らが検証したところ、(Tb/τb)に対する(Ta/τa)の比[=(Ta/τa)/(Tb/τb)]が2.3よりも大きければ、未焼入れ部36について焼入れ部37と同等以上の機械的強度を確保することができることが判明した。
なお、中空タイプの動力伝達シャフト31においても、中実タイプの動力伝達シャフト1と同様に、上記の比[=(Ta/τa)/(Tb/τb)]を2.6よりも大きく、3.0よりも小さく設定するのが好ましい。すなわち、2.6<[(Ta/τa)/(Tb/τb)]<3.0の関係式を満たすようにするのが好ましい。このようにすれば、大径部32の大径化に起因した動力伝達シャフト31の重量化・高コスト化を可及的に防止しつつ、大径部32の機械的強度を大幅に高めることができる。
以上で説明した実施形態では、いわゆる移動式高周波焼入れによって焼入れ部7,37を形成するようにしたが、焼入れ部7,37は、いわゆる定置式高周波焼入れによって形成することも可能である。特に、動力伝達シャフト1,31(シャフト素材)の全長寸法が異なる場合であっても、小径部3およびテーパ部4の軸方向寸法を合算した値(シャフト素材の自由端と、テーパ部4と大径部2の境界部との軸方向離間距離)が略同一であれば、共通の加熱コイルを用いてシャフト素材を加熱する(シャフト素材に焼入れ硬化処理を施す)ことができる。
従って、本発明のように、大径部2,32に未焼入れ部6,36を設け、焼入れ部(硬化層)7,37を軸方向で分離して設けるようにすれば、軸方向で連続した硬化層を設ける従来構成において、移動式高周波焼入れを採用する場合に生じる問題、および定置式高周波焼入れを採用する場合に生じる問題を解消することができる。そのため、本発明によれば、焼入れ方法の選択自由度が向上する、という作用効果も併せて享受することができる。
以上では、ドライブシャフトを構成する動力伝達シャフトに本発明を適用した場合について説明したが、本発明は、プロペラシャフト等、その他の動力伝達装置を構成する動力伝達シャフトにも好ましく適用することができる。
1 (中実タイプの)動力伝達シャフト
2 大径部
3 小径部
4 テーパ部
5 スプライン(動力伝達用の連結要素)
6 未焼入れ部
7 焼入れ部
10 摺動式等速自在継手
20 固定式等速自在継手
30 加熱コイル
31 (中空タイプの)動力伝達シャフト
32 大径部
33 小径部
34 テーパ部
35 スプライン(動力伝達用の連結要素)
36 未焼入れ部
37 焼入れ部
2 大径部
3 小径部
4 テーパ部
5 スプライン(動力伝達用の連結要素)
6 未焼入れ部
7 焼入れ部
10 摺動式等速自在継手
20 固定式等速自在継手
30 加熱コイル
31 (中空タイプの)動力伝達シャフト
32 大径部
33 小径部
34 テーパ部
35 スプライン(動力伝達用の連結要素)
36 未焼入れ部
37 焼入れ部
Claims (4)
- 中実又は中空の鋼製軸からなり、大径部およびその軸方向両側に設けられた小径部と、前記大径部と前記小径部を接続するテーパ部とを備え、前記小径部の自由端側の外周面に動力伝達用の連結要素が形成された動力伝達シャフトにおいて、
前記小径部および前記テーパ部は、少なくとも外径側表層部に焼入れ組織を有する焼入れ部を有すると共に、前記大径部は、厚さ方向の全域で焼入れ組織がない未焼入れ部を有し、かつ、
前記未焼入れ部の最大外径をDa、前記焼入れ部の最小外径をDb、前記未焼入れ部の最大せん断応力をτa、前記焼入れ部の最大せん断応力をτb、前記未焼入れ部の降伏点をTa、前記焼入れ部の降伏点をTb、としたとき、Da>Db、および2.3<[(Ta/τa)/(Tb/τb)]の関係式を満たすことを特徴とする動力伝達シャフト。 - 前記鋼製軸は、炭素含有量が0.2〜0.45質量%の鋼製軸であり、
2.6<[(Ta/τa)/(Tb/τb)]<3.0の関係式を満たす請求項1に記載の動力伝達シャフト。 - 前記未焼入れ部の金属組織が、焼準相当のフェライト・パーライト組織である請求項1又は2に記載の動力伝達シャフト。
- 前記鋼製軸が、浸炭鋼、中炭素鋼又は合金鋼からなる請求項1〜3の何れか一項に記載の動力伝達シャフト。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2018195813A JP2020063784A (ja) | 2018-10-17 | 2018-10-17 | 動力伝達シャフト |
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JP2018195813A JP2020063784A (ja) | 2018-10-17 | 2018-10-17 | 動力伝達シャフト |
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JP (1) | JP2020063784A (ja) |
Cited By (1)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
WO2022059385A1 (ja) * | 2020-09-17 | 2022-03-24 | 日立Astemo株式会社 | スタブシャフト、動力伝達軸およびスタブシャフトの製造方法 |
-
2018
- 2018-10-17 JP JP2018195813A patent/JP2020063784A/ja active Pending
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WO2022059385A1 (ja) * | 2020-09-17 | 2022-03-24 | 日立Astemo株式会社 | スタブシャフト、動力伝達軸およびスタブシャフトの製造方法 |
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