以下、チルベント及び金型装置の実施形態について説明する。本実施形態では、固定型と可動型とを有するダイカスト装置として金型装置を具体化している。本実施形態のダイカスト装置は、アルミニウム製の鋳造製品を製造する際に使用される。
図1に示すように、ダイカスト装置10は、金型として固定型11及び可動型12を備える。可動型12は、固定型11に対して接近及び離間する方向に移動可能に設けられている。固定型11と可動型12とが一体的に組み合わせられて型閉め状態となることにより、固定型11と可動型12との間に、溶湯が注入されて製品が鋳造されるキャビティ13が形成される。なお、図1には、型閉め状態にあるダイカスト装置10を示している。以下では、特に説明がない場合、型閉め状態のダイカスト装置10の構成をいう。
固定型11は、鋼製のブロック体よりなり、ダイカスト装置10の取付部(図示略)に取り付けられている。固定型11において可動型12側を向く部分には、固定型11側に凹んだ収容凹部14が形成されている。固定型11には、キャビティ13にアルミニウムの溶湯を注入するための湯口15が設けられており、湯口15にスリーブ16が接続されている。型閉め状態においてスリーブ16から溶湯が押し出されると、溶湯が湯口15を通じてキャビティ13へ導かれる。
可動型12は、鋼製のブロック体よりなり、ダイカスト装置10の取付部(図示略)に取り付けられている。この取付部の駆動により、可動型12は、固定型11に対して接近及び離間する方向(以下、「型開閉方向」という。)に移動可能である。可動型12が固定型11から離間する側へ移動することにより、ダイカスト装置10が型開き状態となる。また、型開き状態において、可動型12が固定型11に接近する側へ移動することにより、ダイカスト装置10が型閉め状態となる。
可動型12には、キャビティ13にアルミニウムの溶湯を注入するための湯道17が形成されている。湯道17には湯口15から溶湯が導かれ、その導かれた溶湯が湯道17よりキャビティ13に注入される。
可動型12において固定型11を向いた面には、固定型11側に凸となる隆起部18が形成されている。可動型12における隆起部18の周辺部分と、固定型11における収容凹部14の周辺部分とが当接することにより、隆起部18と収容凹部14とが隙間19を隔てて対向するように形成されている。この隙間19(すなわち、キャビティ13)にスリーブ16からの溶湯が注入されて、溶湯が固化することにより成形品が製造される。
可動型12には、キャビティ13で溶湯が固化して成形された製品をダイカスト装置10から取り出すための押出し機構28が設けられている。押出し機構28は、押出板26と、押出しピン27とを備える。押出板26は、可動型12において固定型11側とは反対側に配置されており、押出しピン27が複数取り付けられている。各押出しピン27は、押出板26から固定型11側へ向けて延びている。押出板26は、図示しない駆動装置に連結されており、駆動装置の駆動により固定型11及び可動型12の並び方向、すなわち型開閉方向と同方向に移動可能になっている。型開き状態において押出しピン27が固定型11に向かう方向に移動されると、押出しピン27が隆起部18の周縁に向けて突き出され、成形品が押し出される。これにより、ダイカスト装置10から製品が取り出される。
可動型12において固定型11を向いた面には、キャビティ13から外部に向けて延びる溝部(図示略)が形成されている。溝部は、キャビティ13から可動型12の外縁部に向けて直線状に延びている。この溝部により、型閉め状態において可動型12と固定型11との間に、外部に連通される隙間21が形成される。ダイカスト装置10では、キャビティ13内のガスが隙間21を通って、ダイカスト装置10の外縁部に設けられた開口部から外部に排出される。
ダイカスト装置10には、隙間21からのガスの出口部分に、溶湯噴出(フラッシュ)を抑制しつつガス抜きを行うためのガス抜き装置としてチルベント50が配置されている。以下、チルベント50の構成について図1〜図4を用いて説明する。
なお、以下のチルベント50の説明では、便宜上、ダイカスト装置10にチルベント50を取り付けた状態を基準にして上方向及び下方向を規定している。すなわち、溶湯の流れ方向が「上下方向」、溶湯の流れ方向の上流側が「下側」、溶湯の流れ方向の下流側が「上側」にそれぞれ対応している。図2及び図3中に示すFは下側を表し、Bは上側を表す。
チルベント50は、2個の金属製のブロック体を有し、これらブロック体が組み合わされてなる(図1参照)。チルベント50は、当該ブロック体として、固定ブロック51と、可動ブロック52とを備える。なお、固定ブロック51及び可動ブロック52が、それぞれ「第1ブロック」及び「第2ブロック」に相当する。
固定ブロック51は、固定型11に形成されたチルベント用の収容溝24に嵌まった状態で固定されている。可動ブロック52は、可動型12に形成されたチルベント用の収容溝25に嵌まった状態で固定されている。可動ブロック52は、固定型11に対する可動型12の移動に伴い、固定ブロック51に対して接近又は離間する方向に移動可能になっている。固定型11及び可動型12が一体的に組み合わされてキャビティ13が形成されている状態では、固定ブロック51及び可動ブロック52についても一体的に組み合わされて型閉め状態とされる(図1参照)。
型閉め状態において、固定ブロック51と可動ブロック52との間には隙間53が形成されている。隙間53は、その下端部が、可動型12と固定型11との間に形成される隙間21に繋がっている。隙間53の上端部は外部に繋がっている。隙間53の下端部は、可動型12と固定型11との間に形成される隙間21の直線部分に繋がっている。これらの隙間21、53によって、ダイカスト装置10内にキャビティ13と外部とを連通するガス抜き通路22が形成されている。
図3(a)に示すように、固定ブロック51は、ベース部材54と、銅板55とを備えている。ベース部材54は鋼製のブロック体であり、全体として断面L字形状をなしている。具体的には、ベース部材54は、台座部56と、背板部57とを有し、これらが一体に形成されている。台座部56は、所定の高さを有するブロック状をなし、固定ブロック51の下側部分を構成している。
背板部57は、厚みD1を有し、型開閉方向において可動ブロック52とは反対側の端部に配置されている。背板部57は、台座部56の上側を向いた面(以下、「上面58」という。)から上方向に延び、固定ブロック51の上側部分の一部を構成している。背板部57の可動ブロック52側を向いた面59は、台座部56の可動ブロック52側を向いた面(以下、「合わせ面61」という。)に対し、可動ブロック52に向かう方向とは反対側に長さD2だけ後退した位置に配置されている。これにより、ベース部材54には、その上下方向の途中の高さ位置から上端部に亘って、可動ブロック52に向かう方向とは反対側に凹んだ凹部49が形成されている。
銅板55は、長さD2と同一の厚み(D2)を有する純銅製であり、ベース部材54の凹部49に対応する大きさ及び形状を有している。ここで、「純銅」とは、純度が100%であるものに限らず、通常の精錬工程や製造工程において不可避的に混入される不純物を主成分(Cu)中に含有するものであってもよい。純銅としては、例えばタフピッチ銅、脱酸銅及び無酸素銅が挙げられる。
銅板55は、ベース部材54の凹部49に組み込まれている。銅板55が凹部49に組み込まれた状態では、固定ブロック51が全体として略直方体形状をなしている。ベース部材54において台座部56の上面58は、銅板55が載置される載置面となっている。これにより、ベース部材54と銅板55とは、隣接した状態で上下方向に並べて配置されており、ベース部材54により銅板55が支持されている。銅板55が上面58に載置された状態では、銅板55の可動ブロック52側を向いた面(以下、「合わせ面62」という。)と、台座部56の合わせ面61とが上下方向において連続した面となっている。
銅板55の厚み(長さD2)は、固定ブロック51の厚みD3(すなわち、背板部57の厚みと銅板55の厚みとの合計)の4分の1以上であり、好ましくは2分の1以上である。本実施形態では、固定ブロック51の厚みD3が5センチメートル、銅板55の厚み(長さD2)が3センチメートルとなっている。
銅板55は、ベース部材54に組み込まれた状態で、ベース部材54に対しネジ63により固定されている。具体的には、ベース部材54の背板部57には、ネジ63を挿通するための挿通孔64が形成されている(図3(a)参照)。本実施形態では、複数個(本実施形態では2個)の挿通孔64が上下方向に所定間隔をあけて並べて配置されている。また、銅板55には、挿通孔64に対応する位置に固定孔65がそれぞれ形成されている。ベース部材54においては、各挿通孔64にネジ63がそれぞれ挿通され、各ネジ63が固定孔65にそれぞれねじ込まれることにより、銅板55がベース部材54と一体化されている。
ベース部材54の背板部57には、位置合わせ用のピン66が取り付けられており、銅板55には、ピン66に対応する位置に挿入孔67が形成されている(図3(a)参照)。銅板55をベース部材54に取り付ける際には、ベース部材54と銅板55とをネジ止めする前にピン66を挿入孔67に挿入しておくことにより、ベース部材54に対して銅板55を位置決め可能になっている。
また、ベース部材54(具体的には背板部57)には、固定ブロック51を固定型11に取り付けるためのネジ孔68が複数箇所(本実施形態では2箇所)に形成されている(図2(a)及び図3(a)参照)。ネジ孔68は、背板部57をその厚み方向(型開閉方向)に貫通している。ただし、銅板55にはネジ孔68は形成されていない。これらネジ孔68に対し、固定型11側に設けられた取付け部からネジ(図示略)が挿通されてねじ込まれることにより、固定型11に固定ブロック51が取り付けられている。
固定ブロック51の可動ブロック52側を向いた面(以下、「型合わせ面69」という。)は、凹凸部70を有している。具体的には、型合わせ面69は、図2(a)に示すように、外周部分69aと、外周部分69aよりも内周側の内周部分69bとを有している。外周部分69aは平坦面となっており、内周部分69bに凹凸部70が設けられている。
凹凸部70は、凸部としての山部71及び凹部としての谷部72をそれぞれ多数有し、それら山部71と谷部72とが上下方向に交互に配置されている。本実施形態では、山部71は外周部分69aの平坦面よりも突出しており、谷部72は外周部分69aの平坦面と同じ高さになっている。本実施形態では、山部71の高さが8mmである。凹凸部70は、山部71及び谷部72が交互に並べて配置されていることにより波形状をなしている。なお、凹凸部70の形状はこれに限定されず、尖鋭状や矩形状等であってもよい。
山部71及び谷部72はそれぞれ、型合わせ面69の幅方向に延び、かつ互いに平行になるように並べられている(図2(a)参照)。型合わせ面69のうち幅方向の両端部73、74は、可動ブロック52に当接される当接面となっており、この当接面の内側領域の略全体に凹凸部70が配置されている。凹凸部70により、型合わせ面69の表面積が増大されている。
凹凸部70は、図2(a)に示すように、型合わせ面69のうち、ベース部材54側の合わせ面61に形成された鋼材凹凸部76と、銅板55側の合わせ面62に形成された銅材凹凸部77とを有している。型合わせ面69には、これら鋼材凹凸部76及び銅材凹凸部77によって、上下方向に連続した波状が形成されている。ベース部材54と銅板55との境界78は、鋼材凹凸部76に複数個(本実施形態では3個)の山部71が含まれる位置に設けられている。また、図2(a)及び図3(a)に示すように、凹凸部70のうち谷部72aの位置に境界78が配置されている。
次に、可動ブロック52の構成について説明する。なお、以下の可動ブロック52の説明では、固定ブロック51と同一の構成については記載を省略し、固定ブロック51との相違点を中心に説明する。
可動ブロック52は、ベース部材81と、銅板82とを備える。ベース部材81は鋼製であり、固定ブロック51のベース部材54と同じく全体として断面L字形状をなしている。ベース部材81は、台座部83と背板部84とを有し、これらが一体に形成されている。台座部83及び背板部84の構成については、固定ブロック51のベース部材54と同じである。ベース部材81には固定ブロック51と同じく凹部86が形成されている。
銅板82は、純銅製であり、基本的には固定ブロック51の銅板55と同じである。銅板82の固定ブロック51側を向いた面(以下、「合わせ面87」という。)と、台座部83の固定ブロック51側を向いた面(以下、「合わせ面88」という。)とは、上下方向において連続した面となっている。
なお、背板部84の厚みD1、銅板82の厚み(長さD2)、及び可動ブロック52の厚みD3は固定ブロック51と同じである。銅板82は、固定ブロック51と同じくベース部材81に対し挿通孔89及び固定孔91を介してネジ92により固定されている。これにより、銅板82がベース部材81と一体化されている。
可動ブロック52の固定ブロック51側を向いた面(以下、「型合わせ面93」という。)には、固定ブロック51に設けられた凹凸部70に対応する形状の凹凸部94が設けられている。なお、凹凸部70、94の形状によれば、固定ブロック51がオス型のブロックであり、可動ブロック52がメス型のブロックである。可動ブロック52側の凹凸部94は、固定ブロック51側の凹凸部70の谷部72及び山部71のそれぞれに対応する形状の山部95及び谷部96をそれぞれ多数有し、これら山部95と谷部96とが上下方向に交互に配置されている。
具体的には、図2(b)に示すように、型合わせ面93は、その幅方向の両方の外縁部97、98が平坦面となっている。型合わせ面93には、外縁部97、98の内周側に、外縁部97、98の平坦面に対し固定ブロック51とは反対側に凹んだ凹部99が設けられている。凹部99の外縁部97、98に対する深さは、固定ブロック51の外周部分69aに対する山部71の高さよりも長く、本実施形態では8.8mmである。
凹部99の底面79は、平坦面からなる上側部分79a及び下側部分79cと、上下方向に見て上側部分79aと下側部分79cとに挟まれた中間部分79bとを有している(図2(b)参照)。この中間部分79bに凹凸部94が配置されている。凹凸部94において、山部95及び谷部96は、それぞれ型合わせ面93の幅方向に延び、かつ互いに平行になるように並べられている。型合わせ面93の外縁部97、98は、固定ブロック51の外周部分69aに当接される当接面となっている。
凹凸部94は、型合わせ面93のうち、ベース部材81側の合わせ面88に形成された鋼材凹凸部31と、銅板82側の合わせ面87に形成された銅材凹凸部32とを有している。型合わせ面93には、これら鋼材凹凸部31及び銅材凹凸部32によって、上下方向に連続した波形状が形成されている。ベース部材81と銅板82との境界33は、凹凸部94のうち谷部96aの位置に配置されている。このため、図4に示すように、固定ブロック51側の境界78と、可動ブロック52側の境界33とは、上下方向に見て2分の1ピッチ分のずれΔLが生じている。また、固定ブロック51の銅板55と、可動ブロック52の銅板82とは、上下方向の長さが互いに異なっている。
本実施形態では、固定ブロック51及び可動ブロック52の上下方向の長さは共にL1であり、両者は同じである。これに対し、銅板55、82の長さは、固定ブロック51側はL2であるのに対し、可動ブロック52側はL3(>L2)であり、可動ブロック52の銅板82の方が固定ブロック51の銅板55よりもずれΔLだけ長くなっている(図3(b)参照)。なお、固定ブロック51の銅板55の長さを、可動ブロック52の銅板82より長くしてもよい。また、ずれΔLの大きさは、2分の1ピッチ分に限らず、2分の3ピッチ分又はそれより長くしてもよい。
図2、3の(b)及び図4に示すように、可動ブロック52には、ガス抜き通路22内の溶湯の固化物をチルベント50から取り出すための押出しピン34が設けられている。
押出しピン34(34a〜34d)は、鋼製の棒状体であり、可動ブロック52において複数箇所(本実施形態では4箇所)に設けられている(図2(b)参照)。各押出しピン34は、可動ブロック52に形成された貫通孔35にそれぞれ挿通されている。具体的には、各押出しピン34a〜34dは、上下方向に所定間隔をあけて並べて配置されている。各押出しピン34a〜34dのうち、押出しピン34a、34bは、銅板82が配置されている領域に形成された貫通孔35a、35bにそれぞれ挿通されており、押出しピン34c、34dは、ベース部材81が配置されている領域に形成された貫通孔35c、35dに挿通されている。
各貫通孔35a〜35dは、可動ブロック52において型開閉方向に延びるように形成されており、可動ブロック52を貫通している。詳しくは、図4に示すように、貫通孔35aは、ベース部材81の背板部84及び銅板82に跨って形成されている。貫通孔35aは、凹凸部94の谷部96の底面で開放され、その開放部分に面する谷部96に開口部36が形成されている。なお、貫通孔35bは貫通孔35aと同じであるため、その説明を省略する。
貫通孔35cは、図3(b)に示すように、ベース部材81の台座部83に形成されており、谷部96の底面で開放され、その開放部分に面する谷部96に開口部36が形成されている。なお、貫通孔35dは貫通孔35cと同じであるため、その説明を省略する。各押出しピン34が各貫通孔35に挿通された状態では、各押出しピン34の先端部の端面37によって開口部36が塞がれるように各押出しピン34を配置可能になっている(図4参照)。型閉め状態では、押出しピン34の端面37はキャビティ13の一部を構成している。
各押出しピン34は、各貫通孔35の内部を型開閉方向に移動可能にそれぞれ挿通されている。各押出しピン34は、その基端側が押出板26に取り付けられており、図示しない駆動装置の駆動により型開閉方向と同方向に移動可能になっている。
各貫通孔35a〜35dのうち、銅板82が配置されている領域に形成された貫通孔35a、35bには、その内周部に、鋼製のブッシュ38が取り付けられている。なお、図4には、各貫通孔35のうち貫通孔35aのみを示している。ブッシュ38は略円筒状をなし、貫通孔35a、35bの内周部の周面全体を取り囲むように配置されている。これにより、貫通孔35a、35bの内周面全体が、ブッシュ38の外周面により覆われている。なお、貫通孔35a、35bが「下流側挿通孔」に相当し、ブッシュ38が「筒体」に相当する。
チルベント50に形成されているガス抜き通路22は、ガスの流れ方向に沿って、最上流側の直線部分22aと、凹凸部70、94が形成された波状部分22bと、最下流側の直線部分22cとを有し、これら直線部分22a、波状部分22b及び直線部分22cが連続している(図4参照)。なお、図4中の黒塗り矢印はガスの流れ方向を示している。キャビティ13から排出されるガスは、まず直線部分22aを通過し、その後、波状部分22bに入り込み、最終的に直線部分22cの最下流位置に設けられた開口部から外部へ排出される。チルベント50には、固定ブロック51と可動ブロック52との型合わせ面に凹凸部70、94が設けられており、この凹凸部70、94によってガス抜き通路22の通路表面積が増大されている。これにより、キャビティ13からの高温の溶湯がガス抜き通路22に入り込んだ場合に、凹凸部70、94によって溶湯の放熱が促進されるようになっている。
次に、上述したダイカスト装置10を用いてアルミニウム製品の鋳造を行う際の作用について、図1及び図4を用いて説明する。
鋳造に際しては、まず、ダイカスト装置10を型閉め状態にしてキャビティ13を形成する。ダイカスト装置10にはチルベント50が取り付けられており、型閉め状態では、ダイカスト装置10内に、キャビティ13の下流からチルベント50の内部を通って外部へ繋がるガス抜き通路22が形成される。溶湯をスリーブ16から湯口15に押し出すと、湯道17からキャビティ13に溶湯が注入されるとともに、ガス抜き通路22を通ってキャビティ13内のガスが排出される。
溶湯は、キャビティ13での形状転写精度を高めるために、通常、高流速(例えば、30〜70m/秒程度の流速)でキャビティ13に充填される。このため、キャビティ13への溶湯の注入時には、キャビティ13内のガスに加え、キャビティ13に高速充填された溶湯が高温かつ高速でガス抜き通路22に入り込むことが想定される。特に、ガス抜き通路22のうち凹凸部70、94が形成された部分、より具体的には、凹凸部70、94における溶湯の入口部分(すなわち、波状部分22bの最上流部)では、ガス抜き通路22の形状が直線状から蛇行状に変化し、高速で流れ込む溶湯が凹凸部70、94の通路面に直接的に勢いよく衝突する。このため、ガス抜き通路22の通路面の溶損が引き起こされやすい。
ここで、チルベント50においては、型合わせ面69、93に設けた凹凸部70、94のうち溶湯の入口部分が、高硬度材料である鋼により形成されている。このため、波状部分22bの通路面の強度が高く、高温かつ高速で波状部分22bに入り込んだ溶湯によってガス抜き通路22の溶損が進行するのを抑制することができる。また、凹凸部70、94のうち鋼により形成された部分(鋼材凹凸部76、31)の下流側には、高熱伝導率材料である純銅により形成された銅板55が配置されている。このため、鋼材凹凸部76、31を通過することによってある程度温度及び流速が低下された溶湯は、続く銅板55との接触により急速に冷却され、固化される。これにより、ガス抜き通路22から外部へ溶湯が噴出することが抑制される。また、溶湯が銅板55に接触する際には、鋼材凹凸部76、31との接触によって溶湯の温度及び流速の低下が促されているため、銅板55(銅材凹凸部77、32)の溶損を抑制しつつ、溶湯の冷却を促進させることができる。
キャビティ13に溶湯を注入してから所定の冷却期間が経過すると、キャビティ13に導入された溶湯が固化して成形品となる。その後、可動型12を固定型11に対して離間させ、ダイカスト装置10を型開き状態にする。この際、成形品は、可動型12に付着したまま固定型11から離間する方向へ移動する。その後、押出板26を固定型11側へ移動させることにより、可動型12及び可動ブロック52に取り付けた各押出しピン27、34がそれぞれ成形品に向けて突き出される。これにより、各押出しピン27、34によって成形品が可動型12から固定型11に向けて押し出され、成形品(ランナー及びオーバーフローが付いた状態の製品)が金型から取り出される。
以上詳述した本実施形態の構成によれば、以下の優れた効果が得られる。
ガス抜き通路22に設けた凹凸部70、94のうち最上流部に、高硬度材料である鋼製の部材(ベース部材54、81)を配置し、最上流部よりも下流側に、比較的安価な高熱伝導率材料である純銅製の部材(銅板55)を配置した。この構成によれば、凹凸部70、94のうち、キャビティ13からの溶湯が直接的に勢いよく突き当たる入口部分については、高硬度である鋼製の部材を配置することによって、高温の溶湯の温度低下を促しつつ、ガス抜き通路22の溶損を抑制することができる。また、凹凸部70、94の入口部分よりも下流側に、鋼よりも高熱伝導性である純銅からなる部材を更に配置することによって、鉄鋼形成部分を通過してある程度温度が低下し且つ流速が低下した溶湯を、今度は純銅製の部材により急速に冷却することができる。よって、上記構成によれば、安価な材料を用いながら、溶損を抑制でき、かつ冷却性能に優れたチルベント50とすることができる。
可動ブロック52の銅板82とベース部材81とに跨って形成された貫通孔35aの内周部にブッシュ38を配置した。純銅は比較的安価な高熱伝導率材料である一方、機械的強度が十分に高くないというデメリットがある。そのため、銅板82に設けた貫通孔35aのガス抜き通路側の開口部36が、ガス抜き通路22を流れる溶湯によって溶損が進行しやすいことが懸念される。また、押出しピン34aが繰り返し使用されることにより、貫通孔35aの内周面の損傷や劣化が促進されることも懸念される。これに対し、貫通孔35aの内周面にブッシュ38を配置していることから、凹凸部94の一部を純銅により形成した場合にも、その銅形成部分の損傷や劣化を抑制でき、耐久性を確保できる。
ベース部材54、81と銅板55、82との境界78、33が凹凸部70、94の谷部72a、96aに位置するように固定ブロック51及び可動ブロック52を形成した。境界78、33を山部71、95に配置した場合、比較的脆弱な構造部分に境界78、33が配置されることによって境界部分の強度が低くなり、耐久性が低下するおそれがある。この点、上記構成によれば、溶湯の流れ方向に凹凸部70、94を異なる材料で形成した場合にも、凹凸部70、94の強度低下を抑制することができる。
固定ブロック51及び可動ブロック52を、鋼製のベース部材54、81の凹部49、86に銅板55、82を組み込み一体化することにより構成した。この構成によれば、銅板55、82の一方の板面(合わせ面62、87)を溶湯に接触させるようにしつつ、銅板55、82の他方の板面側に鋼製のベース部材54、81を配置することができる。これにより、銅板55、82によって溶湯の冷却を促進させつつ、固定ブロック51及び可動ブロック52の強度を十分に確保できる。
また、固定型11及び可動型12へのチルベント50の取付けは、銅板55、82ではなく、ベース部材54、81(具体的には、背板部57、84)を利用して行うことができるため、チルベント50のメンテナンス時や交換時に銅板55、82と取付け具(ネジ等)とが干渉するのを避けることができる。これにより、チルベント50の製品寿命を長くできる。
また、固定ブロック51及び可動ブロック52の製造時には、ベース部材54、81の凹部49、86に銅板55、82を組み込み一体化すればよいため、2つの部材によって固定ブロック51及び可動ブロック52を構成する場合にも構造が複雑にならず、製造工程の複雑化を避けることができる。また、製造コストの低減を図ることができる点において好適である。
本発明は上記実施形態に限らず、例えば次のように実施されてもよい。
・上記実施形態では、ベース部材54、81と銅板55、82とを組み合わせることにより固定ブロック51、可動ブロック52をそれぞれ形成したが、固定ブロック51及び可動ブロック52は鉄鋼形成部分と銅形成部分とをそれぞれ有していればよく、上記実施形態の構成に限定されない。例えば図5(a)〜(d)に示すような構成を採用してもよい。なお、図5には、便宜上、可動ブロック52のみを示したが、固定ブロック51についても同様である。
図5(a)に示す例では、可動ブロック52は、鋼製のベース部材81と銅板82とを備える点は上記実施形態と同じである。ただし、図5(a)に示す可動ブロック52のベース部材81は、台座部83及び背板部84に加え、背板部84の上端部から固定ブロック51側に向かって延びる天板部85を更に備える点で上記実施形態と相違する。この場合、固定ブロック51側から見て上下方向の中間位置に銅板82が嵌め込まれており、銅板82はその下部で台座部83に当接し、上部で天板部85に当接している。銅板82は、ベース部材81に対し型合わせ面93とは反対側の面からネジ等により固定されている。図5(a)に示す可動ブロック52においても、凹凸部94のうち溶湯の入口部分については鋼製のベース部材81により構成され、入口部分の下流側には銅板82が配置されている。この構成によれば、優れた機械的強度及び冷却性能を実現しつつ、純銅の使用量を減らすことができ、低コスト化を図ることができる点で好適である。
図5(a)において、ベース部材81は、背板部84の幅方向の両端部から固定ブロック51側に向かってそれぞれ延びる側板部を更に備えていてもよい。この場合、ベース部材81は、型合わせ面93において、外周部全域に対して内周部が凹んだ凹部を有する。この凹部に銅板82を嵌め込むことにより、固定ブロック51側から見て銅板82の外周全体が鋼製のベース部材81により囲まれるようにしてもよい。
図5(a)の実施形態において、図5(b)に示すように、ベース部材81(詳しくは台座部83)と銅板82との境界33(すなわち、流れ方向の下流側の境界)だけでなく、ベース部材81の天板部85と銅板82との境界39(すなわち、流れ方向の上流側の境界)についても、その境界39が凹凸部94の谷部96の位置に配置されるようにベース部材81及び銅板82を構成してもよい。この構成によれば、万が一、銅板82が溶損した場合には、銅板82をベース部材81から取り外し、銅板82の上下を反転してベース部材81に再び嵌め込み可能であり、銅板82を再利用することができる。
図5(c)に示す例では、可動ブロック52は、鋼製のベース部材が2つの部材によって構成されている点で上記実施形態と異なる。具体的には、図5(c)に示すように、可動ブロック52は、鋼製の背板81aと、鋼製の台座81bと、銅板82とを備える。背板81aは、その板面を型開閉方向に向けた状態で配置されている。台座81bは、背板81aの板面のうち固定ブロック51側の面に当接された状態で背板81aに並べて配置されている。銅板82は、その板面を型開閉方向に向けた状態で配置され、固定ブロック51とは反対側の板面を背板81aの板面に当接させた状態で、台座81bの上面に載置されている。台座81b及び銅板82は、ネジ等により背板81aに固定されている。この図5(c)の可動ブロック52によれば、各部材の形状を複雑にしなくて済み、各部材を製造しやすい点で好適である。
図5(d)に示す例では、可動ブロック52のベース部材81は、台座部83と背板部84とを有する。この実施形態の可動ブロック52は、背板部84の板面のうち銅板82に接する側の面に、銅板82側に向けて突出する突出部81cが設けられている。突出部81cは、上下方向の異なる位置に複数(本実施形態では2個)設けられている。また、銅板82には、背板部84側の板面において、突出部81cに対応する位置に挿通孔(図示略)がそれぞれ形成されている。これら挿通孔に対し突出部81cがそれぞれ挿通されることにより、ベース部材81に銅板82を固定できるようになっている。すなわち、図5(d)の可動ブロック52では、突出部81cを固定ピンとして利用する。これにより、ベース部材81に銅板82を固定する際にネジ等の取付け具を使用しなくて済み、外観がより良好なチルベント50を得ることができる。
・上記実施形態のチルベント50において、銅板55、82を配置した部分のうち、ガス抜き通路22を構成しない部分、より具体的には、固定ブロック51及び可動ブロック52における幅方向の両端部を鋼製の部材により構成してもよい。具体的には、可動ブロック52について、型合わせ面93の外縁部97、98が鉄鋼材料により形成されるようにベース部材81の形状を設計する。また、固定ブロック51については、外縁部97、98に当接される部分が鉄鋼材料により形成されるようにベース部材54の形状を設計する。この場合、より硬度の高い鉄鋼製の部材によって銅板55、82の周囲を補強することができ、チルベント50の強度をより高くできる点で好適である。
・チルベント50に冷却機構が設けられ、冷却機構によって溶湯の冷却を更に促進させる構成のチルベント50に本発明を適用してもよい。冷却機構としては、例えば、可動ブロック52の内部に流体通路を形成し、その流体通路内に流体(例えば冷却水)を循環させる構成を採用する。この場合、銅板55、82に加え、冷却機構により更に溶湯の冷却を促進させることができ、溶湯噴出の抑制をより一層図ることができる点で好適である。流体通路は、銅板82に形成してもよいし、ベース部材81に形成してもよい。銅板82に流体通路を形成した場合、溶湯の冷却促進効果をより高めることができる。
・上記実施形態では、ベース部材54、81と銅板55、82との境界78、33が凹凸部70、94の谷部72、96に位置するように構成したが、境界78、33の位置はこれに限らず、山部71、95に位置するようにしてもよい。また、境界78、33のうちいずれか一方を谷部に配置し、他方を山部に配置してもよい。ただし、チルベント50の凹凸部70、94の強度を十分に高くできる点で、境界78、33の両方を谷部72、96に配置することが好ましい。
・チルベント50の大きさ及び形状は、チルベント50を取り付けるダイカスト装置10に設けられたチルベント用の収容溝24、25の大きさ及び形状に合わせて設定することができる。したがって、チルベント50の上下方向の長さと幅方向の長さとの比や、厚み等は、上記実施形態において示した図1〜図3のものに限定されない。例えば、チルベント50の上下方向の長さと幅方向の長さとの比を変更し、図2に示すチルベント50よりも幅広又は幅狭としてもよい。
・上記実施形態では、金型やチルベント50のベース部材54、81等を形成する鉄鋼として鋼を用いたが、ダクタイル鋳鉄等といったその他の鉄鋼を用いてもよい。
・上記実施形態では、固定ブロック51をオス型とし、可動ブロック52をメス型としたが、それとは逆に、固定ブロック51をメス型とし、可動ブロック52をオス型としてもよい。また、可動型12に押出し機構28が設けられ、可動ブロック52に押出しピン34及び貫通孔35が設けられている構成について説明したが、固定型11に押出し機構28が設けられている場合もある。その場合には、固定ブロック51に押出しピン34及び貫通孔35を設けるとよい。
・上記実施形態では、アルミニウム製の製品を製造するダイカスト装置10に適用する場合について説明したが、アルミニウム以外の金属(例えば亜鉛、マグネシウム、鉛、錫、これらの合金等)を鋳造用金属とするダイカスト装置に本発明を適用してもよい。